欧州委員会(EC)、安定的なガス供給を確保するため「長期契約」を重視する姿勢に転換
レポートID | 1003053 |
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作成日 | 2003-01-31 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-03-05 19:32:42 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガス資源情報 1 |
分野 | 市場天然ガス・LNG |
著者 | |
著者直接入力 | 小田 路子 |
年度 | 2002 |
Vol | 0 |
No | 0 |
ページ数 | |
抽出データ | <更新日:2003/1/31> <企画調査部:小田 路子> 欧州委員会(EC),安定的なガス供給を確保するため「長期契約」を重視する姿勢に転換 (2002 Gas Matters11月号, Platts 9/12, Petroleum Economist 9月号, パリ事務所, EC他) 1. 欧州委員会ECは,エネルギー安全保障等に関する指令(案)を採択。長期的なガスの安定供給のため「長期契約」を重要視し,開発投資の促進を維持していく方針を明らかにした。ECは,これまで,「長期契約」はガス市場の自由化・統合化にとって阻害要因であるとして排除を呼びかけてきたが,方針を転換した。 2. ガス田開発の資金調達が容易になるため,EU周辺諸国のガス開発プロジェクトには朗報。 1.自由市場への移行を前に,エネルギー安全保障政策を新たに策定 欧州委員会(EC:European Commission)は, EU域外からのガス輸入量が確実に増加する見通しであることから,ガスの安定供給に向けた域内ガス市場のEU共通ルール作りと,緊急時におけるEU対処策を規定した石油・ガスの安定供給に関する指令(案)をまとめた。ECは,2007年の完全自由化を目指して段階的にガス自由化に取り組んでおり,この指令は,統合された巨大なガス自由市場の完成を前に,新たな市場環境に適応したエネルギー安全保障政策を定めることが狙いである。 この指令(案)の中では,上流事業への開発投資を促すことの重要性にも言及しており,ECは,「EU域内の競争市場に発展させ,一方で長期的な安定供給を確保するために『長期Take-or-Pay契約』は重要である」ことを明確に述べている。今回のこの方針は,欧州ガス需要側と産ガス諸国とのガスの長期購入契約の締結を促進させて,難しかった資金調達が容易になるとの期待が出てくることから, 停滞していたEU周辺のガス開発プロジェクトの進展に明るい兆しを与える。 この指令(案)は,昨年9月にECから発表されたもので,2000年に出された「欧州域内のエネルギー安全保障に関するグリーンペーパー」を基に作成された。大別して「石油の安定供給に向けた指令(案)」と「ガスの安定供給に向けた指令(案)」から成る。 - 1 - .指令(案)の内容 2 Global Disclaimer(免責事項)本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 Cは,これまで,「長期契約Take-or-Pay条項」や「仕向け地条項」を撤廃するよう,欧州企業や産ガス諸国に政治的な働きかけをしており,アルジェリアやロシアなどは,そうしたECの考えに対して,「長期契約」による将来的な売り先が確保できない限り,LNGやガス開発プロジェクトのファイナンスが付かずプロジェクトは立ち上がらないと反論して,両者は対立していた。 しかしながら, 今回のEC指令の方針では,Stockmanガス田のような巨大開発プロジェクトでもファイナンスを保証できるよう長期契約を認め,その一方で,そうした長期契約が域内の競争性を阻害しないような環境を整備していくことを明記している。条文では,「長期的なエネルギー安全保障を強化するため,ガスの長期契約(1年以上)の新規契約を注意深く監視していくことで十分な長期契約量を確保していくこと」を規定し,EC は将来の需要量を満たすだけのガス開発投資を促進していく方針。さらに,「それでも投資促進が不十分な場合には,ECは各国に対し,EU域外からのガスの長期契約を必要最低レベルの契約量(シェア)を確保するよう要請したり,あるいは域内市場の流動性や価格の透明化をはかるための措置を要請したりする」と明記されている。 これまで、ガスの専門家は,このままでは大型ガス田開発の立ち上げが遅延,あるいは立ち上げ 1)ガスの長期契約について ( に至らないと忠告していたし、また,Shellなど国際展開する域内企業からも,ロシアやアルジェリアなどの周辺諸国に膨大なガス埋蔵量があるものの,売り先が確保できずに開発が進まないと不満が出ていた。ECはそうした業界やガス関係者からの圧力もあって,短期的な視点だけでなく,長期的視野を含めたエネルギー安全保障政策を示したものと推測される。 (2)EUとしての備蓄について このEU指令では,このほかに,加盟国に対して「ガスの安定供給のあり方を規定する基本方針」の作成を義務づけている。これは,従来の独占市場体制と違い,自由市場では,短期的にも,長期- 2 - Global Disclaimer(免責事項)本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 的にも,安定供給を行う責任を有す独占参加者が必ずしも存在するわけではないため,EU 全体の 共通ルールを規定するだけでなく,各国でも,市場参加者に最低の供給責任を負わせることや緊急時の国としてのセーフティーネットなどを盛り込んだ,新たなセキュリティ政策の作成を義務づけている。その政策手段の一つとして,緊急時に備えたガス備蓄の設置を検討するよう指示している。さらに,石油備蓄に関しては,現行の90日分の義務量から120日分に増強し,そのうち40日分以上を国家保有にすることを指示している。 一方で,EC は,エネルギー安全保障の観点から自らの権限拡大を明示している。指令(案)では,域内のガス・石油市場や各国の備蓄レベルをモニターしたり,産ガス諸国とのガス購入の契約状況をモニターしたり,あるいは緊急時に被害状況を把握したりする機関をEC内に設置することを規定し,さらに緊急時には,EC が,供給ショート時や価格ボラティリティの高まりによって経済的なダメージをもたらす危険が大きい場合に,石油やガスの備蓄放出・融通を行う最終権限を有することを規定している。 .今後の展開 3ECは,「今回提出された指令(案)はたたき台であり,今後,加盟国との個別交渉やEU議会での審議によって更に改善される」と述べる。すでに、今回出された指令(案)についてイギリス,ドイツを始めEU加盟国の多くは,備蓄体制の強化の必要性やIEA枠組みとの2重体制について,さらには、EC権限の強大化に対して疑問視している。また,業界からも,長期契約を「1年以上」と規定した根拠や,EU域内からのガスとEU域外からのガス調達を区別している理由,あるいはコストミニマムな自由市場への移行と並行して,追加コストが必要となる備蓄増強や管理システム構築が要求される矛盾などが指摘されている。この指令(案)は、今後、欧州連合理事会とEU議会に上程されるものの立法化に向けた調整に難航が予想される。最終的には,大きな修正を加えられるか,あるいは可決せずに破棄される可能性も十分にあるとの見方もあり,今後の展開が注目される。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 3 - 参考1.ガス・石油の供給に関する指令(案)の目的 (1) 自由市場への環境変化を踏まえて,エネルギー安全保障の共通ルールを整備すること。 (2) 安定供給のためのセーフガードを構築することで,マーケット機能を強化すること。 (3) 長期的な安全供給を確保すること。 (4) 加盟国間の結束強化を図ること。 参考2.天然ガス供給に関するEU指令(案)条文要旨 (1) EUが示す枠組みの中で,加盟国各国は,“天然ガスの安全供給についての基本方針”を規定する。 (2) 加盟国は,必要最低限のガス(領外も可)備蓄を整備することを検討する。 (3-1)新規のガス長期契約(定義:1年間以上の契約)の状況,市場の流動性,ないしガス価格の透明性について,ECは注意深くモニターする。 (3-2)不十分な場合には,ECは,加盟国に対して,EU以外からのガス供給量について最低必要量の長期契約を要請する。あるいは,市場の流動化やガス価格の透明化のための措置を義務付ける。 (4)ガス供給の危機において,ECは,ガス貯蔵の放出,パイプライン輸送能力の提供,需要削減などについて最終権限を有す。 (5)ECは,2004年内に,内外のエネルギー市場や加盟国の備蓄状況をモニターし,また緊急時の状況把握およびその対処をモニターする機関としてEuropean Observation System(EOS)を設置する。 考3.石油の備蓄強化に向けた指令(案)条文要旨 参(1)石油備蓄の義務量を現行の消費量90日分から,徐々に積み増しし120日分に引き上げる。また,そのうち少なくとも40日分(3分の1)は,国家によって所有されること。これらは,2007年1月までに行うこと。(現在,大半を民間企業所有) (2) 消費量の7%以上の大規模な供給ショートが生じた場合,あるいはショートする懸念によって価格が高騰している場合,ECが石油備蓄の放出を決定する最終権限をもつ。 (3) 上記ガス項目の(5)に同じ。 (指令(案)全文 http://europa.eu.int/eur-lex/pri/en/lip/latest/doc/2002/com2002_0488en01.doc) ガスのみ http://www.gte.be/download/seconddirective/eucommission/directive_gas_en.pdf - 4 - Global Disclaimer(免責事項)本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 |
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