サウジアラビア/クウェート:外資導入プロジェクトの進展を目指す動き、サウジは Gas Initiative の枠組みを見直しへ
レポートID | 1003100 |
---|---|
作成日 | 2003-06-27 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-02-16 10:50:18 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガス資源情報 1 |
分野 | 探鉱開発 |
著者 | 猪原 渉 |
著者直接入力 | |
年度 | 2003 |
Vol | 0 |
No | 0 |
ページ数 | |
抽出データ | <更新日:2003/6/27> 企画調査部:猪原 渉 サウジアラビア/クウェート:外資導入プロジェクトの進展を目指す動き,サウジはGas Initiativeの枠組みを見直しへ (2003 MEES 6/9,6/23,PIW 6/16,IOD 6/12,Platts 6/5,6/6,Arab Oil & Gas 6/16他) 1. イラク周辺国(クウェート,サウジ)の外資導入プロジェクトを巡る動き。 ① KPCが北部油田開発(Project Kuwait)のOSA(操業サービス契約)案をIOCに提示。② サウジはGas Initiativeコアベンチャー1の交渉打ち切りをExxonMobilに通告。 <⇒サウジの真意は,交渉の枠組み見直しによるプロジェクトの推進にある。> 2. 両国は,イラクの本格的石油開発が始まるまでに,自国プロジェクトの立ち上げを目論むが,政府と議会の対立(クウェート),利益率を巡るIOCとの対立(サウジ)といった問題点は未解決であり,今後の見通しは不透明。 1. はじめに 戦後イラク復興の鍵を握る同国石油上流部門の開発動向に注目が集まっているが,周辺産油国においても,膠着状態にある外資導入プロジェクトの推進へ向けた動きを加速しようとしている。クウェートでは6月上旬に,北部油田開発プロジェクト(’Project Kuwait’)の事前審査合格企業に対し,クウェート側の契約書の案文が国営石油会社から提示された。また,サウジアラビアでは,Naimi石油鉱物資源相が 6 月 5 日,天然ガス開発プロジェクト(’Gas Initiative’)の交渉先であるExxonMobilなどの石油会社に対し,交渉の打ち切りを通告した。これは,サウジの外資導入プロジェクトの全面中止を意味するものではなく,膠着状況を打開し,プロジェクトの早期実現を図るため,サウジ政府が,現在の交渉の枠組み(契約範囲,企業等)に見切りをつけ,契約範囲の細分化など新たな枠組みへの切り替えを決定したものと考えられる。 サウジとクウェートにとって,フセイン政権の崩壊により,イラクは安全保障上の脅威ではなくなった。しかし,産油国の立場からは,今後イラクの石油開発が本格化した場合,特に米英石油企業の関心がイラクに集中し自国が投資対象から外されることへの警戒心がある。ただし,現実には,イラクの石油生産能力は,現時点で約80万b/dとイラク戦争前(約250万b/d)の3分の1程度にとどまり,輸出も6月22日にCeyhan(トルコ)から在庫原油がようやく初出荷されたばかりであるなGlobal Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 1 - ヌ,石油産業の復興は全体に遅れ気味である。さらに,生産能力を最大600万b/dに引き上げるための既発見未開発油田を対象とする本格的石油開発が開始されるのは,2~5年後になるとの見方が有力であり(動向2003年5月号記事「イラク:新規上流開発の開始は数年先か?」参照),サウジ,クウェート両国は,イラク石油開発が本格化する前に,IOC各社との契約を急ぎ,自国の開発プロジェクトを軌道に乗せておきたいとの思惑がある。 しかしながら,両プロジェクトとも,交渉が停滞してきた要因である議会の反対(Project Kuwaitの場合),上流プロジェクトの経済性(IRR)を巡るIOCとの見解相違(Gas Initiativeの場合)という問題が解決したわけではなく,今後,政府側の意向通り交渉がスムーズに進むかどうかは不透明である。 2. クウェート:Project Kuwaitの契約書草案をIOCに提示 (1)KPCがOSAのドラフトを石油会社に提示 Kuwait Petroleum Corporation(KPC)は6月9日,北部油田開発プロジェクト(Project Kuwait)で事前審査に合格した国際石油会社(IOC)に対し,操業サービス契約(OSA)のドラフト及び油田開発計画を提示した。8月18日までにクウェート側提示書類に対する検討結果を提出するよう求めている。Project Kuwaitは,実施を目指す政府とこれに強く反対する議会の対立が続き,最近3年ほどは実質的な進展がほとんど見られなかったが,今回,久しぶりにプロジェクトの進展を図る動きが表面化した。 クウェート政府/KPCは一貫してプロジェクトの推進方針を堅持し,IOCとの接触を保ってきた。OSAドラフトは,3月までに最高石油評議会(SPC)と内閣の承認を得た正式文書であるが,イラク戦争の影響で,プロジェクト対象油田のひとつであるRatqa油田の操業が一時停止されるなどの事態に至ったため,IOCへの提示は先送りされていた。 今回IOCに提示されたOSAドラフトの具体的内容は明らかになっていないが,2001年時点での情報に基づくOSAの契約内容について,本稿文末の【別添資料】にて紹介しているので,参照されたい。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 2 - i2)これまでの経緯:プロジェクトの実施を巡り政府と議会が鋭く対立 1998年7月に発表されたProject Kuwaitは,IOCの参加を得て北部4油田(Raudhatain,Sabriyah,Ratqa,Abdali)の生産能力を現行(当時)の40~45万b/dから約90万b/dに増強するというものである(第2フェーズとして,西部2油田(Minagish,Umm Gudair)の能力増強計画があるが,当面は,北部4油田がプロジェクトの開発対象となる)。(【図-1】【表-1】参照) 政府/KPCはこれまで,契約条件の検討やIOC各社との初期段階の交渉などを実施し,2000年9月には,事前審査をクリアーした24社をショートリストするなどの準備作業を続けてきた(24社のうち,ExxonMobil, ChevronTexaco, Conoco,Phillips, RD/Shell, Total, BP, ENI の8社(当時)はオペレーター候補)。 【図-1】クウェート油田位置図 出所:Oil & Gas International Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 3 - 茁c名 発見年 可採埋蔵量 (百万bbl) 現状生産量 目標生産量 (b/d,1998年) (b/d,2005年) 225,000 95,000 515,000250,000 3,000 30,000 45,000 33,000 120,000401,000 915,000 90,000 100,000 210,000 250,000190,000 460,000591,000 1,375,000Raudhatain Sabriyah 1955 1958 5,100 4,300Bahra (*) - Ratqa Abdali 1977 1990 459小 計 9,859Minagish Umm Gudair 小 計 合 計 1959 1962 3,300 3,200 6,50016,359 北 部 西部 (*)99年9月:対象から除外 出所:APS,MEES 【表-1】Project Kuwait対象油田の生産計画(当初発表) しかし,上記のような政府側の動きに対し,クウェート国民議会では,契約手続きの透明性の確保や契約に対する議会の事前承認を求め,プロジェクト実施に反対する意見が多数を占めている。特に2000年4月に提出されたProject Kuwait関連法案に対しては,2001年1月から開催された財務・石油委員会と法務委員会において,議会承認なしにIOCとの契約締結が可能になる点が憲法違反の疑いがあるとして,その修正がない限り委員会(あるいは議会)の承認は得られないと結論付けられた。その後,議会ではProject Kuwaitについての議論はほとんど行われないまま3年が経過している。 (3)Project Kuwaitの今後の見通し:7月実施の議会選挙の結果が鍵,具体的動きは10月以降か 政府/KPCサイドがこの時期にプロジェクトの実施に向けて動き出した背景には,①フセイン政権の崩壊で,イラクに隣接するクウェートの地政学的リスクが軽減され,外資にとっての投資環境が改善された,②イラクで本格的な石油開発が始まると,IOC(特に米国石油企業)の関心がイラクに向かう可能性があることから,それまでに交渉・契約を完了させるため早急に具体的な検討を進める必要がある,との判断がある。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 4 - オかし,Project Kuwaitを巡る議会と政府の対立という国内問題は一向に解消しておらず,すぐにプロジェクトが動き出すという見通しは立っていない。議会と政府の対立は,エネルギー問題に限らず税制改革などの重要法案の審議でも同様に見られる。また,サバーハ首長家による重要閣僚の独占に対する批判が表面化するなど,両者の対立は大変根深いものであるといえよう。 さらに,議会内部でもイスラム派とリベラル・世俗派の対立が深まっており,互いに相手派閥の大臣を不正疑惑で批判しあっている。本来の法案審議はなおざりにされたままであり,クウェートの立法機関は機能不全に陥っている。 また,1996年以後の7年間で,実に4名の人物が石油大臣(または代行)のポストに就いており,石油行政の「顔」が定まらないという問題がある。特に,Subaih石油相が油田設備事故の責任を取って辞任した昨年2月からは,1年以上にわたり,Ahmad情報相が石油相代行を兼務するという変則的体制が続いている。(Ahmad 氏の手腕に対する評価は高いものの)現状では石油行政が十分機能する体制にあるとは言い難い。 したがって,Project Kuwaitの今後の見通しは依然不透明といわざるを得ないが,これからの行方を決める重要なファクターとして,7月に行われる国民議会選挙の結果(議員構成)及びその後の組閣に注目しておく必要がある。外資導入賛成派議員あるいは親首長家議員が増えるのか,指導力のある人物が専任石油相に指名されるかどうか,といった点がポイントになってこよう。また,新体制のもと,仮に,議会と政府で合意が形成されProject Kuwaitが動き出すとしても,そのタイミングは,早くても,通常の国会夏期休会明けの時期である10月以降になると考えられる。 3.サウジアラビア:Gas Initiativeの交渉打ち切り通告が意味するもの (1)ExxonMobilに対し交渉打ち切りを通告 Naimi石油鉱物資源相は6月5日,天然ガス開発プロジェクト(’Gas Initiative’)-に関し,コア ベンチャー1(CV1,南Ghawar地域開発プロジェクト)のリーダー会社であるExxonMobilに書簡を送り,10日後の6月15日をもって交渉を打ち切る旨,通告した。 同じくExxonMobilをリーダー会社とするコアベンチャー2(CV2,紅海地域開発プロジェクト)は,収益性の確保が困難との見通しから,昨年秋以降,交渉が中断している。 一方,もっとも契約締結の可能性が高いといわれていたコアベンチャー3(CV3,Shaybah地域開Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 5 - ュプロジェクト)については,リーダー会社RD/Shellに対しExxonMobil向けと同様の「最後通牒」が送付される見通しであると一部報道で伝えられたが,MEES(2003/6/23)によれば,CV3は依然交渉が続いている模様である。ただし,契約対象範囲は「探鉱に限定」されており,随伴ガス開発,パイプライン,発電プラント,淡水化プラント等は除外された。コンソーシアム(RD/Shell等)と石油省の代表者が近く交渉を実施すると伝えられている。 今後は,CV3 の探鉱分野(現コンソーシアムとの交渉を実施)を除き,プロジェクトを上流・下流別に分け,個別分野別に,現在の7社以外の石油会社や各分野(石化,発電,淡水化等)の専門会社を加えた国際入札が実施される可能性が高い。 【図-2】Gas Initiative対象範囲図 CV2CV1CV3出所:Oil & Gas International Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 6 - y表-2】Gas Initiativeの概要 プロジェクト名 コアベンチャー1 (南 Ghawar 地域開発プロジェクト)<CV1> 参加企業 (*):リーダー ExxonMobil(*)RD/Shell BP ConocoPhillips (旧Phillips)コアベンチャー2 (紅海地域開発プロジェクト)<CV2> ExxonMobil(*)Occidental Marathon コアベンチャー3 (Shaybah地域開発 プロジェクト)<CV3> RD/Shell(*) TotalFinaElf ConocoPhillips (旧Conoco) シェア投資額 概要 35% 25% 25% 15% 60% 20% 20% 40% 30% 30% 約150億ドル ・ 新たなガス探鉱の実施→Rub al Khali砂漠北部一角約100千km2 約50億ドル 約50億ドル ・ 南Ghawar地域(Haradhガス田等)でのガス開発 ・ ガス処理設備,発電プラント,石油化学プラント ・ Midyan(陸上),Barqan(海上)等の既発見未開発ガス田開発 ・ パイプライン,発電プラント,淡水化プラント ・ 新たなガス探鉱の実施→Rub al Khaliの一角約90千km2 ・ Kidanサワー・ガス田開発・ Shaybah油田随伴ガス開発・ パイプライン,発電プラント,淡水化プラント (2)これまでの経緯:交渉責任者が推進派のSaud外相から慎重派のNaimi大臣に交代 Gas Initiativeは,3つのコアベンチャーの投資総額が250億ドルに上る巨大プロジェクトである。いずれのコアベンチャーも,対象範囲が,ガス上流(探鉱,開発),中流(パイプライン),下流(石油化学,発電プラント,海水淡水化プラント)と極めて多岐に亘っている点が特徴である。(【図-2】【表―2】参照) 1998年に,Abdulla皇太子が訪米時に,米国石油企業に対して天然ガス上流部門への投資要請を行い,その後,欧米のIOC各社との交渉が進められた。2001年6月,サウジは,同プロジェクトへの参加企業として選定されたIOC8社と「初期契約」(Preparatory Agreement)を締結した。当初,2001年12月までに「実施契約」(Implementation Agreement)締結を目指し交渉が進められたが,現在まで合意に至らず,結局,上述の通り,Naimi石油相による交渉打ち切り通告という事態となった。 Naimi石油相は,4月末の内閣改造で再任され,5月初旬には,プロジェクトの交渉責任者の立場を閣僚委員会委員長のSaud外相(王子)から引き継いだ。Naimi氏は元Saudi Aramco社長で,外Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 7 - 相J放に対して慎重な立場をとってきたといわれる。交渉責任者が,Abdulla 皇太子に指名された外資導入推進派のSaud外相から,慎重派のNaimi氏に変更になった時点で,交渉の難航が予想された。IOCサイドからは,Gas Initiativeの交渉が難航する元凶はNaimi氏であるとして,各種報道を通して,内閣改造での退任待望論や,交渉責任者としての権限を疑問視するなどの見方が流れていた。 (3)交渉打ち切りに至った理由(IOC側) 以下の事項について,ExxonMobilなどのIOC側は最後まで譲歩しなかった。 ① 埋蔵量評価とSaudi Aramco保有鉱区へのアクセス IOCに割り当てられる鉱区のガス埋蔵量がサウジ側評価を大きく下回っている。特に,CV1の埋蔵量について,サウジは30tcfと評価していたのに対し,IOC側評価は5-7tcf程度であった。これを不満とするExxonMobilは,Saudi Aramcoリザーブエリア(SARA)を対象に加えることを要求したが,サウジ側は拒否。 ② プロジェクトの経済性 プロジェクト利益率(IRR)について,サウジ側提案はIOCの基準を満足させなかった。サウジ側は,上流,中流,石化,発電,淡水化事業毎に一定のIRR基準の設定(凡そ8-10%)を提案したのに対し,IOC側は,CV全体及び個別プロジェクトに対するIRR 15-20%を保証するよう要求した。交渉における最大の争点であったが,結局,合意に至らなかった(IOD 2003/6/6)。 利益率の面でサウジ提案を受け入れなかったことに関し,あるIOCの財務関係者(匿名)は「交渉の打ち切りで新規参入機会が遠のいたことは残念だが,採算性の低いプロジェクトに参加しなかったことは,企業にとってはむしろポジティブなこと」と評価している(PIW 2003/6/16)。交渉が不調に終わった理由は,一言でいえば,経済性評価に関する見解の相違であり,IOC は最後まで経済性を重視する姿勢を貫いたといえる。 <補足説明> Gas Initiativeの経済性について Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 8 - ップロジェクトの生産ガス(及び電気,水)はすべて国内消費用であり,ガス(及び電気,水)のサウジ側への引渡し価格によって,プロジェクトの利益率が決定する。一方,ガス,電気,水の国内販売価格はすべて政府の統制下にあり,国内産業の育成及び公共料金の国民負担抑制を図る観点から,企業向け,個人向けとも非常に安価に設定されている(たとえば,ガス販売価格は$0.75/百万Btu)。サウジ政府は今後も現状の国内向け価格のレベルを維持する方針である。Gas Initiativeの交渉において,IOCが要求するIRR(15~20%)の保証をサウジ側が認めなかった背景には,ガス(及び電気,水)の引き取り価格と販売価格との逆ざやが拡大し,政府が負担しなければならなくなる巨額の差額補填の問題がある。なお,収益性確保の面でガスと同様に重要なNGLについては,IOCが自由に輸出価格を設定し販売することが認められる方向で交渉が進んでいたといわれる。 (4)サウジ側の真意 交渉打ち切りを通告したサウジ側の真意については,以下の通り整理されよう。 ① Gas Initiativeは事実上中止する意向なのか? 一部では,Naimi石油相及びSaudi Aramcoに代表される開放反対派が政治的勝利を収め,サウジの外資導入プロジェクトは実質的に中止に追い込まれたとする見方も出された。しかし,このような見方はむしろ少数派であろう。事実上の最高権力者であるAbdulla皇太子自ら推進してきたGas Initiativeが簡単に立ち消えになるとは考えられず,サウジ政府の狙いはあくまでプロジェクトの早期実現にあるといえる。サウジとしては,膠着状況の打開を図るため,現在の交渉の枠組み(契約範囲,企業等)に見切りをつけ,契約範囲の細分化など新たな枠組みへの切り替えを決定したものと思われる。サウジが契約を急ぐ理由としては,クウェートと同様,新生イラクへの対抗であり,イラクで本格的な石油開発が始まる前に外国企業との交渉・契約を完了させたいとの意向があると考えられる。 ② 産油国の立場での経済性重視貫く サウジは,交渉において,プロジェクト利益率(IRR)に対し強気な姿勢を崩さなかった。あくまで産油国の立場での経済性を重視し,IOC側の要求レート(15-20%)を認めなかった(上述の<補足説明>参照)。 ③ 米国企業の囲い込み? Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 9 - .11テロ事件以降,米国では,保守勢力やマスコミを中心に,サウジを「テロリストの温床」「テロ資金供給源」などとする厳しい批判が行われてきた。サウジは,米サ関係改善の一助とするため,有力米国企業である ExxonMobil との契約を重視していたとみられる。しかし,ExxonMobilは,サウジにおいて,Yanbuの石油精製合弁事業を中心に50億ドル以上の大規模投資を行ってきた企業であり,既にサウジ政府との良好な関係を構築している。このことから,サウジは最終的に,Gas InitiativeでのExxonMobilとの契約締結が必ずしも大きなインパクトにはならず,逆に交渉を打ち切っても政治的影響は小さいとの判断に至ったものと考えられる(今後,上流に範囲を限定して,ExxonMobilと契約する可能性は十分残っている)。 ④ サウジ「改革」の象徴的案件 米国の保守派は,イラク戦争を主導しフセイン政権を打倒した米国の真の目的は,イラクのみならず中東地域全体の「民主化」の実現にあると主張する。サウジ政府も,サウド家による王制の維持が前提条件となるが,漸進的な「民主化」及び「改革」の必要性には理解を示している。Abdulla皇太子主導のGas Initiativeプロジェクトは,1976年以降石油ガス部門の国有化政策を堅持してきたサウジが,上流部門(ガスのみではあるが)の外資への開放に踏み切るという,いわば経済における「改革」の象徴的案件である。国内外に対しサウジの「改革」姿勢を印象付けるために,何としても契約を締結することが必要であり,サウジ政府は,展望の開けない現状の交渉枠組みでの決着を断念し,新たな枠組みへの変更を選択するに至った。 (5)今後の見通し 今後のサウジの対応については,各コアベンチャーを上流・下流別に分け,個別分野別に現在の7 社以外の石油会社や各分野の専門会社を加えた国際入札を実施するとの見方が有力である。ロシアのGazpromが入札に参加するとの見通しも伝えられている。また,ガス関連設備についてはSaudi Aramco,発電プラントはSaudi Electricity Co.(SEC),淡水化プラントはSaudi Arabia’s Saline Water Conversion Corp.(SWCC)の各国営企業が発注者となって,近く国際入札が実施される見込みである(IOD 2003/6/12)。 今後,サウジ側の思惑通り,契約範囲の見直しにより契約交渉が順調に進むかどうかは,現時点でははっきりしない。プロジェクトの中核を成す上流分野の利益率(IRR)を巡るサウジとIOCの対Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 10 - ァは依然解決しておらず,この点で両者が契約締結に向けてどこまで歩み寄れるかが,今後の焦点になってこよう。 【参考資料】 ・「サウジGas Initiativeプロジェクトの概要と今後のスケジュール」(「動向」2001/8/7) ・「見方が分かれるGas Initiativeの今後の交渉見通し」(「動向」2002/10/4) ・「石油相代行がプロジェクト・クウェートの具体的推進方針を明らかに」(「動向」2003/1/31) 【別添資料】 Project Kuwaitの操業サービス契約(OSA)の内容 今回IOCに提示されたOSAのドラフトの内容は明らかになっていないが,中東事務所倉澤前副所長レポート(石油/天然ガスレビュー2001年11月「中東の本格外資導入に乗れない日本石油業界」)において,2001年時点の情報に基づくOSAの概要が以下のとおり報告されている。 クウェート側が導入しようとしている操業サービス契約(Operating Service Agreement)の内容は,イラン・バイバック契約で問題とされている契約期間,コスト削減や追加埋蔵量確保に対するインセンティブ条項等が改善され,より魅力的な契約(Incentivized Buy-back Contract)となっている。憲法の制約から,油田,生産原油に対するいかなる所有権も,クウェート政府にあり,IOCはコントラクターないしはサービスプロバイダーの位置付けとなるが,契約期間を20年とし,クウェート側が戦略的マネジメントを,またIOC側が操業マネジメントを担当する形を取ることで,IOCが操業へ関与できる期間を長く取っている点が特徴である。そして,IOCは,すべての開発費並びに操業に必要な費用を負担するが,それに対して,金利,利益を上乗せした額を種々のサービス料として回収(生産物の取り分ではなく,現金支払い)できる仕組みである。また,コスト削減や生産目標を上回る実績に対するインセンティブが設定され,IOCの生産性向上を促している点も特徴である。なお,サインボーナスはなく,ファームアウトは想定されていない。このため,はじめに結成されたコンソシアムが最後まで事業を遂行することになる。具体的な利益率がいくらになるかは,明らかにされていないが,MEESによれば,IOCの税引き後の利益は,税引き前総収入の10.8~18%程度が確保される見通しである。なお,クウェートの求めに応じて,一定量の生産原油の引き取りが IOC側に義務付けられている。 - 11 - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 約内容 契 |
地域1 | 中東 |
国1 | サウジアラビア |
地域2 | 中東 |
国2 | クウェート |
地域3 | |
国3 | |
地域4 | |
国4 | |
地域5 | |
国5 | |
地域6 | |
国6 | |
地域7 | |
国7 | |
地域8 | |
国8 | |
地域9 | |
国9 | |
地域10 | |
国10 | 国・地域 | 中東,サウジアラビア中東,クウェート |
Global Disclaimer(免責事項)
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
PDFダウンロード398.8KB
本レポートはPDFファイルでのご提供となります。
上記リンクより閲覧・ダウンロードができます。
アンケートの送信
送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。