ロシア:カスピ海の天然ガスは欧州へ-EUに翻弄された「Nabucco計画」
| レポートID | 1004387 |
|---|---|
| 作成日 | 2013-09-19 01:00:00 +0900 |
| 更新日 | 2018-03-05 19:32:42 +0900 |
| 公開フラグ | 1 |
| 媒体 | 石油・天然ガス資源情報 1 |
| 分野 | 天然ガス・LNG |
| 著者 | 本村 真澄 |
| 著者直接入力 | |
| 年度 | 2013 |
| Vol | 0 |
| No | 0 |
| ページ数 | |
| 抽出データ | 更新日:2013/9/19 調査部:本村眞澄 公開可 ・2013年6月26日、アゼルバイジャン領カスピ海のShah Denizガス田のオペレーターであるBP及びSocarが、自らの生産ガスをギリシャから先の欧州へ輸送するパイプライン計画としてTrans Adriatic Pipeline(TAP)を選択し、対抗馬であったNabucco Westを退けた ・TAPが勝った理由として経済性での優位が指摘されており、EUの政治力は影響を与えていない。 ・EUの第3エネルギーパッケージでは、天然ガスの生産者と輸送者は別個の事業体でなければならないという"unbundling"を大きな政策的な柱として来た。Shah-Denizガス田に25.5%の権益を保有する Statoilは、TAPパイプラインにおいても42.5%を保有しており、これは系列会社にパイプラインを作らせるという動きである。EUが主張するunbundlingに対し、欧州の大企業側はチェーンビジネスにより得られる大きな利益と実務上の安心感を選択した。 ・今回の最大のポイントは、EUが長らく推奨してきたNabucco構想が、欧州の企業によって公然と却下された点で、EUにとっては打撃になったと思われる。 ・ロシア・イタリアが進めてきたSouth Stream計画は、バルカン半島においてNabuccoと戦う前に、Nabucco計画自体が消滅し不戦勝となり、当面は、バルカン半島域へのガス供給を想定した唯一の計画となった。一方、同計画は既にイタリアルートは放棄しており、今回決定したTAPと競合することはない。即ち、South StreamとTAPで南欧部を分け合うという形が整えられた。 シア: カスピ海の天然ガスは欧州へ-EUに翻弄された「Nabucco計画」 ロ.2013年のSouth Corridorの動向 (1)2013年6月のSouth Corridorに関する決定 12013年6月26日、アゼルバイジャン領カスピ海のShah Denizガス田1のオペレーターであるBP及びSocar(State Oil Company of Azerbaijan、アゼルバイジャン国営石油)が、自らの生産ガスをギリシャから先の欧州へ輸送する「南回廊(South Corridor)」パイプライン計画としてTrans Adriatic Pipeline(TAP)を選択し、対抗馬であったNabucco Westを退けた2。パイプライン容量はともに100億m3/年である(図1参照)。 1 Shah Deniz Consortiumのパートナーは以下の通り。BP(25.5%),Statoil (25.5%), SOCAR (10%), Total S.A. (10%), and LUKoil (10%), NIOC (10%), and TPAO (9%). 2 IOD,PON, 2013/6/27 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 1 ? abucco Westが欧州中央部にあたるオーストリアのBaumgartenハブに直結することから戦略的な優位性があると言われていたが、BPとSocarは最終的にガス販売価格が高く、距離が短いために採算性に優れるTAPを選んだと報道されている3。別の報道では、TAPがNabucco側より高いガス購入価格を提示したという4。 TAPのルートは、トルコ国境Kipoiからギリシャ、アルバニアを経て、アドリア海を渡り南イタリアのSan Focaに入る。TAPに参加を検討していたベルギーのFluxysは2017年にはTransitgas Pipelineを逆走させてイタリアから北西ヨーロッパに輸出する構想を有しており、アゼルバイジャンのガス市場は更に欧州の北半まで拡大して行く可能性がある。この場合には4,000万m3/日(146億m3/年)まで通ガス量を引き上げる必要があり、追加ソースガスをどうするかといのが今後の検討事項である5。 図1 TAP, Nabucco West, ITGIのSouth CorridorとSouth Stream関連パイプライン図、 3 日経, 2013/6/28 4 日経産業, 2013/6/28 5 Argus FSUEnergy、2013/6/27 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 2 ? APコンソーシアムを構成する企業の内、Statoil(ノルウェー42.5%)は上流業者であるとともにガス業者であり、AXPO(スイス42.5%)及びE.ON(独15%)も大規模なガス輸入業者で、実務上の懸念はない。一方、Nabucco Westを推進するNabuccoコンソーシアムは、オーストリアのOMV以外の各国のメンバーは小規模で、ガス販売を考えると事業遂行能力で見劣りがしていたと言われている(表1参照)。 更に、StatoilはShah Denizガス田権益の25.5%を保有しており、ガス田の操業権は同じ25.5%を保有するBPが持つが、マーケティング部門ではStatoilが責任を有している。自社の参加するTAP計画を選択するのは当然と思われる。筆者が国際シンポジウム等で様々の専門家から話を聞いたところでは、TAPの優位、Nabuccoの苦戦は以前から公然と語られていた。 欧州委員会(EC)は第3エネルギーパッケージで謳われている生産と輸送の分離(unbundling)の考えに則り、2004年の計画発足以来、長らくNabucco計画を支持して来たが、BPやStatoilと言った欧州企業がこのような「指導」を無視した状況となった。EUによる9年間にわたるNabuccoに対する異様ともいえる支持キャンペーンは、同じ欧州企業から素気無く袖にされた。EUのバローゾ委員長は歓迎のコメントを発表した。 2)Shah Denizコンソーシアムの参加 2012年10月にShah Denizガス田の最終投資決定(FID)がなされた。Shah Denizガス田からの生産量は160億m3/年で既存のSouth Caucasus Pipeline(SCP)経由でトルコ領からTANAP6に入り、トルコ内で60億km3消費した後、残り100億m3/年が「南回廊(South Corridor)」に入り欧州に輸出される構想であった(後述)。 (2012年の時点で、「南回廊」の候補として、ITGIが退けられ、Nabucco WestとTrans Adriatic Pipeline(TAP)の2候補が残っていた。2012年8月には、Shah Denizコンソーシアムは、TAPが選考された場合にはTAPに50%参加するというオプションを獲得した。2013年1月10日、Shah Denizのパートナーは、Nabucco Westを選択した際にその50%を取得することでも合意した。即ち、どちらを選択してもコンソーシアムが50%参加するオプションを手にしていた7。これも、EUの掲げるunbundlingを公然と無視する姿勢である。 6 TANAPではSocar 80%, TPAO/Botas 20%であるが、主要なShah Denizコンソーシアムメンバーを受け入れ、Socar 51%, BP 12%, Statoil 12%, Total 5%とする予定である。 7 PON, 2013/1/11, NC, 1/17 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 3 ? Q.南回廊(South Corridor)パイプラインの経緯 (1)欧州の天然ガス需要予測と南回廊(South Corridor)パイプライン ECの予測によれば、欧州の域内ガス生産は2002 年に53%であったものが2030 年には19%まで減少する(図2)。英領北海の天然ガスの生産量は、既に減少に転じている。このような流れを受けて、EU は複数のソースから供給するTENs(Trans- European Networks)計画を立ち上げており、「南回廊パイプライン」もその計画の一部として検討された。 図2 欧州員会(EC)の予測する増加する欧州のガス輸入(Nord Streamウェブサイトから)8 南回廊(South Corridor)パイプラインとは、EUのエネルギー安全保障強化に資するべく、EUへのエネルギー供給ルートとソースの分散化と拡充を目指す優先的な政策で、Nabucco, ITGI(Interconnector Turkey-Greece-Italy), TAP(Trans Adriatic Pipeline)の3件が対象であった。天然ガス・ソースとしては、基本的にカスピ海を想定し、当初輸送容量を310億m3/年と大きく設定されたNabuccoの場合は更にイラン、イラク、中央アジアまでを想定している。これは、欧州の天然ガス輸入におけるロシア依存度を低下させたいとするEUおよび米国の考え方に則ったものである。 これに対抗して2007年に、ロシアとイタリアはSouth Streamを提唱した。ルートは同様に南欧を通るものの、ソースがロシア産のガスであることから南回廊パイプラインには含まれず、むしろ南回廊パイプ 8 Nord Streamウェブサイトから(2009年6月所見) http://www.nord-stream.com/fileadmin/Dokumente/Images/Gas_for_Europe/growing_need_for_gas_in_europe_eng.jpg Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 4 ? 宴Cンに対抗する計画であった。 ドイツを中心とした欧州北部の天然ガス市場は、LNG以外はNord Stream計画が先行し、パイプライン競争のない中でロシアが単独で押さえた形になったが、イタリア、オーストリアを中心とした欧州中南部の市場を巡っては、パイプライン計画同士の競争が出現していた。 パイプライン 工事開始 操業開始 事業者/パートナー 供給ガス田 埋蔵量 積出し地点 目的地/ 陸揚げ地点 総延長 容量 口径 圧力 総費用 現況 Nabucco Interconnector Turkey-Greece- Italy(ITGI) 2013年 2017年 OMV(Austria) MOL(Hungary) RWE(Germany) Botas( Turkey) Transgaz(Romania) BEH*(Bulgaria)各16.6% Shah Deniz II Turkey Austria 3,300km 32”~45” 15~8MPa 31Bm3、18Bm3 to Baumgarten 56” Eur79億($110億) 海底:Eur3.5億 陸上:Eur6億 Azerbaijan-Italyガス供給MOU。 停止状態 2009年7月政府間合意。2013年6月、落選。 ? 2016-2017 Edison(50%), Depa、Botas EGL Shah Deniz II( 8-12Bm3) Turkey 陸上:875km ギリシャ;590km ギリシャ~トルコ;285km 海底:210km 6.48-12Bm3 TAP-Trans Adriatic Pipeline ? 2015 Statoil(42.5%) EGL(42.5%) E.On(15%) TANAP-Trans Anatolian Pipeline 2014 2018 SOCAR(80%) Botas(15%) TPAO(5%) Shah Deniz II 詳細未定: アゼルバイジャン~ギリシャ 16Bm3 将来60Bm3 $100億 2011.12.26発足 2012.6.26 政府間合意 Deniz Shah II(8-12Bm3) Turkey, Kipoi 南イタリアSan Foca ギリシャ・アルバニア・アドリア海横断:520km 海底:115km 20Bm3 48”(1,219mm) Eur15億 2008年2月JV設立。2013年6月、Shah Denizガスの輸送にTAPを選択 South Stream 2012.12 2015 Gazprom (50%)ENI(伊20%)、EdF(仏)15% Wintershall (独)15% West Siberia 北Italy 南Italy 伊北部まで1,300km ギリシャ990km(黒海 902km) 63Bm3 Eur155億($218億) 2012年11月に投資決定2012年12月、工事開始。 表1 「南回廊」パイプラインとSouth Streamの諸元比較 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 5 ? i2)ナブッコ(Nabucco)パイプライン計画9 a)計画の概要 ナブッコ(Nabucco)パイプラインは、EU の主張する天然ガス供給ソースの分散化(diversification)の為に、ロシア産ガスへの過度の依存を改めるべく、中央アジア・カスピ海・中東のガスを欧州市場へ輸送しようという、EUの政策を強く反映したもので、当初の計画では総工費79億ドル、総延長3,300km、パイプ径56”、輸送能力310億m3、というものであった。2004年6月、オーストリアのOMV、ハンガリーのMOL、ルーマニアのTransgas、ブルガリアのBulgargaz、トルコのBotasの間でコンソーシアムNabucco Gas Pipeline International GmbHが設立され、2008年2月にはドイツの電力・ガス大手のRWEが参加した。その後、2012年にRWEは撤退した。 輸送能力の310 億m3 はEU の需要の8%を賄う10。ガスのソースは、アゼルバイジャン160 億m3/年、その他、イラン、トルクメニスタン等を想定しており、その他将来的にはイラク、エジプトも考えられている。但し、EUはロシアとイランからのガスは回避するべく強力に働きかけ続けて来た(後述)。 しかし、天然ガス供給ソースの見通しが立たないために計画はあと倒しにされ続けた。 b)政府間合意の動きと供給ソースの変化 2009 年7 月13 日、長らく待たれていたNabuccoパイプラインに関する政府間合意書(Intergovernmental Agreement:IGA)がトルコのアンカラにおいて、5カ国の間で調印された11。これは、同年1月に起きたウクライナとロシアのガス紛争を教訓として、ガスソースのロシア離れの必要性が強調され、Nabuccoパイプラインの早期実現が強く主張されて実現したものである(後 9 ナブッコ(Nabucco)パイプラインの名称は、ベルディのオペラ『ナブッコ』に由来する。これは旧約聖書『ダニエル書』の記述をオペラ化したもので、「ナブッコ」とはいわゆるバビロン補囚でユダヤ民族をバビロンの地に連れ去った新バビロニア王国のネブカドネザル(二世)のイタリア語「ナブッコドノゾル」を縮めた通り名である。2004年、パイプライン・プロジェクトのコンソーシアムをウィーンで発足させた際に、晩餐会の後オペラ見物があり、当日掛かっていた演目がベルディの『ナブッコ』であったことからプロジェクト名がナブッコと名付けられたと、筆者はNabuccoコンソーシアムのメンバーから直接に聞いた。史実と異なり、『ナブッコ』では権勢を極めたナブッコが神の怒りに触れて雷に打たれ失脚するが、その後ユダヤ教に改宗して復位するというもので、ナブッコ関係者が自らの対ロシア戦略を重ね合わせたものであろう。 10 FT, 2006/3/15 11 Reuters, 2009/7/13、ドイツからはRWEが参加しているが、ドイツ政府は関与しておらず調印はしていない。但し、全面的なサポートを表明した。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 6 ? q)。トルコは、Nabuccoパイプラインを通過するガスに関して、この時15%を自国用に優先的に取得出来るよう要求し、このため交渉が難航していたが、トルコが要求を取り下げたことから、一転して交渉妥結となった12。 この合意書では、通ガス容量の50%がコンソーシアムの6社に、残りの50%が第3者のシッパーに割り当てられるとされた。トルコのErdogan首相、ブルガリアのStanishev首相(当時)、米国のMornigstarユーラシア・エネルギー担当公使はそれぞれ、ナブッコパイプラインにロシアのガスが入る可能性に言及した13。Morningstar公使は「パイプラインの送ガス容量の50%は、天然ガス供給者に公開されており、競争により一定の通ガス能力を確保することができる。そこにはロシアも参加できる」と述べた。これまで天然ガス供給国としてまずアゼルバイジャン、次いでイラク、エジプト、トルクメニスタンなどが挙げられていたが、「パイプライン・アクセスの平等」を標榜することによりロシアも加えられるようにしたというもので、EUが当初標榜していた「ロシア・イラン忌避」というNabuccoパイプラインの事業目的はこの時点で放棄された。 Nabuccoコンソーシアムのウェブサイトに掲載された供給ソースを図3に示す。ここでは、コンソーシアムはイランやロシアのガスを供給ソースとして図示している。コンソーシアムの考えは明快で、天然ガスの最大の供給者はロシアを置いて他になく、これに加えてアゼルバイジャンその他の供給国のガスを上乗せしてパイプで運ぶというのが実現性の高い計画である、という主張である。この図は、政府間合意書が交わされる以前から掲げられており、政治性を標榜するEUに対するコンソーシアム側の異議申し立てとも見られる。NabuccoのMitschek社長は先行してロシア産ガスの輸送の可能性に言及しており14、日本の新聞のインタビューに対しても同様の発言を行っていた15。事業体であるNabuccoのコンソーシアムそのものは、EUの唱道する「政治」とは一線を画した姿勢を示していたと言える。 一方、EUを始め西側からの意見として、イラクのAkkasガス田からのガスを併せるか、或いはトルクメニスタンからのカスピ海横断パイプラインを引けばパイプライン容量を満たせるのではないか、といった見解が寄せられたが、それぞれのガス田の持つ開発計画・スケジュールを無視した乱暴な議論であった。各ガス田の所有者は、それぞれ自らの利益の極大化を独自に目指すもの 12 このため、関係国の間ではNabucco計画の最大の障壁はトルコであると言われていた。 13 Reuters, 2009/7/12、Itar-Tass, 7/13 14 Herald Tribune, 2008/2/07 15 日経新聞, 2009/8/09 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 7 ? ナあり、ナブッコ・パイプラインの成立を目指すために、各ガス田がガスをパイプラインのスケジュールに合わせて供出するというのは本末転倒である。これらの所有者にナブッコを利用してガスを出して貰うためには、それ相応の魅力的な条件を提示しなくてはならないが、そのことはパイプライン自身の経済性を損なう要因となる。 2009年7月の政府間合意はあくまで政府レベルであって、当然ながら天然ガスソースの不足を抱えたままの状況ではプロジェクトの成立は困難と見なされ、計画は行き詰まった。 図3 ナブッコのwebsiteに掲載されているナブッコ・パイプラインへの供給ガスの図。ロシアも早い段階から供給国の一つに数えられている16 2011年5月に入り、Nabuccoコンソーシアムは、Shah Denizガス田の160億m3/年の本格開発による生産が当初の2014年から2017年となることを受けて、稼働開始を2017年、このための建設開始を2013年と先送りした。建設費は79億ユーロ($117億)から 140億ユーロまで上昇した17。 2011年9月30日に、ドイツのガス配送企業BayerngasがNabuccoに参加するとの報道がなされた18。これは、Nabucco計画が依然として健在であることをアピールすることにより、BPの率い 16 Nabuccoコンソーシアムのwebsiteから(2009年7月所見)http://www.nabucco-pipeline.com/company/markets-sources-for-nabucco/markets-sources-for-nabucco.html 17 IOD, 2011/5/09 18 Argus FSUEnergy, 2011/10/07 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 8 ? 餞hah Denizコンソーシアム自らがパイプラインを建設しようとするSEEP計画の動きに対してEU側が対抗策を巡らしたものと思われる(後述)。 しかし2011年12月26日に、トルコとアゼルバイジャン両国政府がShah Denizガス田のガスを、グルジアからトルコ領内を輸送するTrans-Anatolian gas Pipeline(TANAP)計画を発表したことから、Nabucco計画はトルコ内での事業の可能性がなくなり、トルコから先のバルカン半島からオーストリアまでにおいてのみ運営されるNabucco-Westへと規模の縮小を余儀なくされた。そして、前述の通り、2013年6月には対象から外されることになり、一連の活動は終了したが、Nabuccoという事業体は別途の黒海からのガスパイプライン計画に関与して行く方針である19。 3) ITGI(Interconnector-Turkey- Greece-Italy) トルコからギリシャ経由でイタリアまでを結ぶITGI (Interconnector Turkey- Greece-Italy)ガス・パイプライン計画が2005 年11 月4 日にギリシャ、イタリア、トルコ首相の間で合意し、3カ国の協力協定は2007年7月にローマで調印された(図4)。これはカスピ海と中東のガスを年間100 億m3 の量でイタリアに送るもので、計画発表時の総工費9.5 億ユーロ(約13 億ドル)と、南回廊の中で最も安価とされた。当初は2015 年の稼働開始を目指していた。 (全体は、トルコ-ギリシャ間のITG(Interconector Turky-Greece)区間と、ギリシャ-イタリア間のIGI(Interconnector Greece-Italy)からなり、枝線としてギリシャ-ブルガリア間のIGB(Interconnector Greece-Bulgaria)からなる(図4)。 トルコの西部のKaracabeyからギリシャのAlexandroupolis経由でKomotiniに至るITG(Interconnector Turkey-Greece)は、先行的に2007年11月18日に稼働開始し、アゼルバイジャン沖合のShah Denizガス田からの天然ガスがギリシャに入った 。能力は当初年間70億m3であった。総延長は296km、稼働当初のギリシャの国営ガス企業DEPAによる輸入量は年間7.5億m3であった。建設はDEPAとトルコの国営ガス企業Botasが当たった。建設費はギリシャ区間は1.18億ユーロ、トルコ区間は1.65億ユーロを要し、EUは技術スタディ費の50%、建設費の29%をファイナンスした。ギリシャ政府も同じく建設費の29%をファイナンスした。現状では、このITG区間のみが存在している。 19 Argus FSUEnergy, 2013/7/04 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 9 ? GI(Interconnector Greece-Italy)の600kmに及ぶギリシャ陸上区間は”IGI Onshore”と呼ばれ、ギリシャのDEPAの子会社Defsaが建設する計画であった。予算は全体の2/3を占める。この区間の口径は42”、耐圧は8MPa、輸送能力は年間150億m3とされた。 I海上区間は特に”IGI Poseidon”と呼ばれ、ギリシャ西岸(Stavrolimenas)からイタリア(Otranto)間の全長207km のアドリア海横断海底パイプラインとなる。最大水深は1,380mである。口径は32”、耐圧は15MPa、輸送能力は年間100億m3である。建設はイタリアのEdison とギリシャのDEPA とのJV Poseidon が事業体となる。予算は全体の1/3を占める。建設費用はEdisonが80%、DEPAが20%を負担するというもの。 IGB(Interconnector-Greece-Bulgaria)は、ITGIの本線からギリシャのKomotiniで枝分かれし、ブルガリアのStara Zagoraに至る170kmの支線パイプラインである。容量は30~50億m3、開発主体はIGI Poseidon社とBulgarian Energy Holdingが50:50で出資するICGB EAD社である。 本事業には、EUの南回廊プロジェクトとして、本線部分に1億ユーロ、IGB区間には4,000万ユーロのファイナンスが付くことになっていた。 2011年1月に、ECのBarroso委員長がアゼルバイジャンを訪問し、Ilham Aliyev大統領との間で、Shah Deniz-2のガスを南回廊を利用して欧州へ運ぶという内容の共同宣言が採択された。その後の2月、EUは乱立気味であった南回廊を整理するべく、Nabucco計画とITGI計画とを統合するこ図4 ITGIパイプラインのルート20 20 Edison社website (2011年8月12日所見) Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 10 ? ニとし、表面的にITGI計画は姿を消すこととなった21。この時点でも、EUのNabuccoを推す意欲は依然強いものがあった。 4)TAP (Trans Adriatic Pipeline) TAPも基本的にはトルコからイタリアに至る天然ガス・パイプラインであるが、特徴はその高い経済性志向である。ルートはアルバニアを経由し、海底区間を短く取っており、南回廊パイプラインの中では、イタリアまでの最短距離となる。海底区間の水深も最も浅く、コスト削減に寄与している(図5)。 (TAPのアイデア自体は、スイスのエネルギー大手EGLが2003年に発表し、2006年3月からEGLによる本格的な技術、経済性、環境評価に係わる商業スタディ(feasibility study)が開始された。2007年3月には基本エンジニアリング作業、2008年にはFEED(Front End Engineering Design)が実施された。この年、ノルウェーのStatoilが参加し、事業会社Trans Adriatic Pipleine AGが設立された。更に、2010 年にドイツのE.On Ruhrgas が参加して、EGL(42.5%)、Statoil(42.5%)、E.On Ruhrgas(15%)という体制が出来上がったが、いずれも天然ガスの目的地でない国の企業である。これは、国策に拠らない純粋の投資であることを示している。 本パイプラインは、EU全体、そして特にバルカン半島でのロシアへの過大な依存を減らし、エネルギー調達の分散化に資することを目的としつつも、あくまで商業プロジェクトであることを強調し、公的な支出に頼らない姿勢を標榜している。 パイプラインの総延長は520kmで南回廊の中では最も短く、且つアドリア海の海底区間も115kmと最も短い。ルートは既にトルコからのパイプラインの来ているKomotini(即ちITGの終点)を起点とし、最短距離を取るためにアルバニアに入り、アドリア海を渡りイタリアのSan Focaで陸揚げされる。最大水深は820mでITGIの1,380mよりも遥かに浅い。 パイプの口径は48”(1,219mm)、輸送容量は当初年間100億m3、追って200億m3に引き上げる。特徴としては、アルバニアに地下貯蔵設備を建設し、冬季の需要期など必要に応じて85億m3を逆送できることで、欧州南東部での安定的なガス供給に資することが挙げられる。総工費は15億ユーロで、ITGIの9.5億ユーロを上回るが、算定時期或いは前提の違い等は不明である。ルートを考える限り、TAPの方がよりコスト的に有利に見える。 http://www.edison.it/en/company/gas-infrastructures/itgi.shtml 21 Novinite, “EU goes for merging Nabucco, ITGI gas pipelines-Report”, 2011/2/18 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 11 ? 2011年9月24日、Shah Denizコンソーシアムはこれまで提案されて来たNabucco, ITGI, TAP等の南回廊プロジェクトに替わり、自らトルコからオーストリアのBaumgartenに至る総延長800kmのSEEP(SouthEast Eurpoe Pipeline)計画を提案した。途中の通過国はブルガリア、ルーマニア、ハンガリーである。これは、既往のパイプラインインフラをできる限り使用して、全体のコスト削減を図ろうとするものであった。ロシアからブルガリア経由でトルコに入るパイプラインガス140億m3の内、80億m3分が2011年に契約満了となることから、このラインの逆走利用がこのアイデアの基本にある23。 5)SEEP(SouthEast Eurpoe Pipeline) (図5 TAPのルート22 一方、時機を同じくして、Shah Denizコンソーシアムは、既に名乗りを上げている「南回廊」のNabucco, ITGI, TAPの3計画に対して、その事業内容の詳細の提案を求めた。この期限は、2011年10月1日で、3計画が揃って応募した。Shah Denizコンソーシアムは年末までに落札者を決め、2012年に最終投資決定(FID)、2017年に年間160億m3で輸送開始、60億m3をトルコへ、100億m3を欧州市場へ送るというものである。これには、Shah Denizグループ自身による欧州向け輸出SEEPも第4の候補として競う。事業の判断基準は、①経済性、②事業実現性、③資金調達実現性、④設計、⑤事業連携可能性と透明性、⑥安全性・効率的運用性、⑦規模(scalability)、⑧戦略 22 TAP社 websiteより(2011年8月12日所見) http://www.trans-adriatic-pipeline.com/why-tap/the-missing-link/ 23 Argus FSUEnergy, 2011/9/30, Shah Deniz may pipe gas to Europe itself. Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 12 ? I有用性である。即ち、BPとしてはこれらを競わせて、コストの圧縮が図れれば、自らが建設するのでも(SEEP)、他の事業者(South Corridor)に任せても、どちらでも良いというのがその意図である。この時点で、早くもTAPが、経済性で自信があると表明した24。 BPのような欧州企業がEUの提唱するunbundlingに公然と対抗したのは、これが最初である。カスピ海の上流事業者自ら生産ガスの輸送を手掛けようというもので、アゼルバイジャンの石油では、既にBPが中心となってAzeri-Chirag-Guneshli油田の原油をBaku-Tbilisi-Ceyhan(BTC)パイプラインで地中海へ運んでいる。天然ガスの場合は欧州市場まで目指すことになり、第3次エネルギパッケージ(後述)によりEUがこのようなチェーンビジネスを許さないとの姿勢をとったことから、「南回廊」の計画が乱立するという複雑な状況となった。BPとしては、むしろ生産から輸送までを一貫して操業することによりチェーンビジネスとしての利益を重視し、EU のunundlingという政策を退けたものである。 6)TANAP(Trans-Anatolian gas pipeline) ( しかし、上記のような動きは、アゼルバイジャン、トルコ両国政府により覆された。2011年11月17日にイスタンブールで開催された第3回黒海エネルギー経済フォーラムにおいて、トルコ国内を通過するTANAP(Trans-Anatolian gas pipeline)計画が両国政府により発表され、同年12月26日にはこれに関する覚書が調印され、更に2012年6月26日には両国の正式な政府間合意(Intergavernment Agreement)が交わされた。これは、あくまでトルコ区間における計画であり、ギリシャから先は「南回廊」へと連結する。 容量は年間160億m3で、将来600億m3まで増量もあり得る。権益はアゼルバイジャンのSocar(80%)、トルコのBotas(15%)、TPAO(5%)である。工事開始は2014年、稼働開始は2018年、総事業費は$70億を見込む。しかし、2013年のコスト見直しで$100億へと引き上げられた25。 TANAPとしては、主要なSEEP計画を標榜したShah Denizコンソーシアムメンバーを受け入れ、最終的にSocar (51%), Botas(15%), TPAO(5%), BP(12%), Statoil(12%), Total(5%)となる予定である26。最終投資決定は2013年10月頃となる。 24 IOD, 2011/10/04 25 Argus FSUEnergy、2013/1/17 26 Nefte Compass, 2013/1/17 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 13 ? i7)最終決着 2012年8月、Shah Denizコンソーシアム(BP, Statoil, Total, Socar)は、Trans Adriatic Pipeline(TAP)が選考された場合に50%を取得するオプション獲得し、更に翌2013年1月10日、Nabucco Westを選択した際にその50%を取得することで合意した。これで、2013年6月の最終ルート決定においていずれかが選択された場合でも、確実に上流側コンソーシアムが参加できることとなった27。 この後、6月26日にTAPが選ばれた状況は、冒頭に記した通りである。 7月30日に、Shah DenizコンソーシアムはTAPへの参加オプションを行使した。新株主は、 BP(20%), Socar(20%), Statoil(20%), Fluxys(16%), Total(10%), E.On(9%), Axpo(5%)である。当初、Shah Denizコンソーシアムには50%の参加オプションがあるとされていたが、結果的に60%となり、更にFluxysが16%取得した。ベルギーのFluxysの参加はフランス以北への参入を視野に入れてのものと言われる。TAPのKjetil Tungland社長は、本件が「上流部門と輸送部門の融合」とその意義を述べた。これは、特段論評されていないが、EUの言うunbundlingを真っ向から否定する発言である28。 Shah Denizガス田の生産量は現状年間90億m3、第2フェーズで年間250億m3。この増量分160億m3の内、トルコに60億m3供給し、欧州に100億m3輸出する。トルコへは2018年、欧州へは2019年供給開始である。 Shah Denizコンソーシアムは、TANAP-TAPパイプラインシステム経由でのアゼルバイジャン産ガスの欧州への輸出に関する最初の契約を9月に締結することを計画している。ガスプロムのSouth StreamとTANAP-TAPは、2018年よりバルカン諸国と南欧のガス市場を分かち合うことになる。 Nabuccoパイプライン計画に対抗して、2007年6月、ガスプロムとイタリアのENIは、サウス・ストリー.サウス・ストリーム計画29 (1)サウス・ストリーム計画の概要 3 27 Nefte Compass, 2013/1/17 28 PON, 2013/7/31 29 参加企業は露Gazprom(50%), 伊ENI(20%), 仏EdF(15%), 独Wintershall(15%) Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 14 ? ?(South Stream)パイプラインの建設で合意した30。これは、ロシアから黒海海底を西方に900km延びてブルガリアのブルガス(Burgas)に到るもので(図1)、ブルガリアからは南方へ、ギリシャ経由でイタリアに到る1,000kmのラインと、西方へ1,300km延びてオーストリアに到るという計画である。通ガス能力は当初年間300億m3、その後630億m3まで引き上げられた。これは、ウクライナは勿論、トルコをも迂回するルートでもある。オーストリアに向かうラインは、正にNabuccoと競合する。ブルガリア政府とは、ロシアは2008年1月に合意しており31、続いてセルビアが参加32、更にハンガリーとも次々と合意した33。その後、セルビアでは2008年5月の議会選挙を経て、改めて国内400kmのパイプラインの通過を承認した34。 2009年8月、プーチン首相のアンカラ訪問で、ロシア側はSamsung-Ceyhan石油パイプラインへの協力の見返りに、South Streamの黒海での敷設権につき了解を得た(但し、トルコは正式な承認を与えたものではなく、今後の動向の中で、適切な時期にカードを切るために認可権を温存していると言われている)。 2010年4月の段階での政府間合意は、Austria, Bulgaria, Croatia, Greece, Hungary, Serbia, Sloveniaの7カ国となり、全通過国がひと通り網羅された。但し、通過ルートは再三にわたって変更されており、2009年5月のベルルスコーニ首相の訪露時には、通ガス量も当初の300億m3/年から唐突に630億m3/年に引き上げられるなど、計画が十分に詰まっているとは言い難かった。 2010年3月9日、ENIのScaroni CEOがSouth StreamとNabuccoの統合を提案した。これに対して、3月15日、ロシアのShmatkoエネルギー相(当時)がScaorini提案を正式に拒否する一方、ロシア・ガス協会Valery Yazev会長は統合案を合理的と評価するなどロシア側の評価も分かれていた35。このような対応が出て来ること自体、South Streamの計画が十分詰められていないことの証である。最終目的地も当初はオーストリアのバウムガルテン(Baumgarten)であったが、2011年暮れにスロベニアから直接イタリアに入り、Baumgartenへは枝線で供給することとした(図1)。2011年の段階で、South Streamの最終投資決定(FID)は2012年とされ、2015年から150-200億m3で供給開始、2019-2020年に630億m3に増量する。総事業費は155億ユーロ($218億)。 30 Interfax, 2007/6/25, FT, 6/26, IOD, 6/28 31 IOD, 2008/1/22 32 共同、2008/1/25 33 IOD, 2008/2/01 34 IOD, 2008/9/10 35 Kommersant,2010/3/16 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 15 ? 2011年に入り、Nabucco計画が殆ど進展しない中で、ロシア政府はEUとSouth Streamに関して精力的に会合を開いた。 2011年2月24日、ブリュッセルでEU首脳とPutin首相・Shmatkoエネ相(いずれも当時)が、2011年3月に効力を発するEU法「第3エネルギーパッケージ」(後述)に関して、それぞれのエネルギー政策の違いに関して話し合った。論点は、①エネルギー輸送インフラに対するオープンアクセス、②資源供給者と輸送インフラ所有者の分離(unbundling)、の2点である。Gazpromは、South Streamに関しても、EUの推すNabuccoと同等のTen-E(The trans-European Network)ステータスを要求した。これが受け入れられると、EUからのソフトローンと早期計画認可の路が開ける。Putin首相は、EU法がロシアによるガス供給に悪影響があり新規ガス・パイプラインの建設を阻害するものとし、更に第3者がパイプラインにアクセスできると中間業者が介入し欧州市場末端でのガス価格は上昇すると述べ、EUの考え方を批判した37。 次いで5月25日には、Shmatkoエネ相が欧州委員会(EC)でSouth Stream計画を説明した。EUエネルギーコミッショナーのOettingerは、EU域内に入るパイプラインはEUエネルギー市場規則に従う必要があるとの立場から、以下の3点を指摘した。①South Streamは無条件でEU域内のすべてのshipperにパイプラインの輸送容量を登録分配(book)すること、②shipperに課されるタリフは関係国の規制に委ねられるべきこと、③緊急時にはパイプラインの逆走が技術的に実施可能であること38。更に、OettingerはGazpromによる独占状態に懸念を示し、パイプラインの運営にロシアで第2位のガス生産量を持つNovatekのような独立系ガス企業が参加することが望ましいとした39。 他に黒海海底建設費100億ユーロ.である36。 2)サウストリームに関する政治的環境整備 (このブリュッセルにおける会合に関してWorld Gas Intelligence紙は、EC側がSouth Streamに関して、初めて計画に邪魔立てしないとの反応を見せた、と評した40。OettingerはEUにとって最優先事項ではないが、特にロシアが供給路を広げることに価値を見出すとし、Gazpromがロシア 36 IOD, 2011/5/27 37 IOD, 2011/2/25 38 PON, 2011/5/27 39 IOD, 2011/5/27 40 WGI, 2011/6/01 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 16 ? ナ活動する独立系ガス会社のアクセスを認めるならば、ルート及び供給ソースの分散化(diverisificaion)にあたり、EUの分散化努力に資すると見なせるとした。これはEU側の大きな変化である。 (3)South Streamのパートナーの現状 South Streamの各パートナーとの関係を巡っては、必ずしも順調ではなく、対立や懐柔が展開されている。一方で、一部の建設関係の下請け会社とは具体的な契約がなされる段階まで来ている。 a)ブルガリア ブルガリアでは、2009年7月5日に実施された議会選挙の結果、中道右派が圧勝して、ソフィア市長のBoyko Borisovが首相に就任した。同市長は就任前、経済エネルギー相に書簡を送り、South Stream建設に拘わる契約等の見直しを求めたとされ、一方で13日にはNabuccoの政府間合意に調印し、更に翌日にはギリシャのDEPA、イタリアのEdison と、Interconnector-Turkey-Greece-Italy(ITGI)パイプラインへの参加で合意するなど、ロシア離れの動きを明確にしていた。 一方、ルーマニアは2010年2月にSouth Streamへの関心を表明した。即ち、黒海からの上陸地点(landfall)をブルガリアからルーマニアへと移すという案である。GazpromとルーマニアのRomgazはこの前年、容量60億m3の地下貯蔵設備と配送に関する50:50のJVを作るMOUを結ぶなど関係を深めていた41。しかしながら2010年7月16日にブルガリア, ロシア両国政府はSouth Streamパイプラインの建設に関する政府間契約に調印した。これは黒海経由のルートをルーマニアから元のブルガリアに引き戻すことを狙った行動と思われる。 そして2010年9月13日、GazpromのMiller社長とブルガリアのBulgarian Energy Holding(BEH)のMaya Histova社長は、50:50のJV South Stream Bulgariaの設立で調印した。 2011年6月には、Gazprom ExportとBulgargazが天然ガス供給の長期契約を結んだ。中間業者2社(OvergasとWIEE、ともにGazpromが50%保有)を排除し、また2012年末までの間、ガス価格を5~7%引き下げる。これはパイプライン合意の為にGazprom側がより良い条件を提示した事例と思われる42。 b)クロアチア 41 IOD, 2010/2/19 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 17 ? 010年3月2日、クロアチアがSouth Streamに参加し、50:50のJVをGazpromと設立した。それまでの天然ガス輸入量は年間12億m3、これを将来的に27億m3まで引き上げることになる見通しである43。 しかし同年12月に、クロアチアの国営エネルギー企業INAはイタリアのENIと2011年から3年間7.5億m3/年の天然ガスを買う契約を締結した。これは価格と柔軟性の点でロシア産ガスよりもメリットがあると言われている。Gazpromはこれまでの年間12億m3/yの契約を2010年限りで失うことになった。クロアチアへは従来スロベニア経由のパイプラインでガスを入れていたが、ハンガリーからのパイプラインが稼働開始になり、これを用いる。Kommersant紙によれば、Gazpromからイタリアへのガス輸出は2010年1-9月で48%減、一方イタリア自体のガス輸入は9%増で、当時天然ガス価格政策を巡ってGazpromとENIの不協和音があったと報道されている44。 c)建設関係の合意 2010年3月、セルビアのDodik首相はモスクワを訪問し、セルビア区間のSouth Streamから、ボスニア=ヘルツェゴヴィナへ480kmの支線を建設する計画で合意した。輸送量15億m3/年、これは最も大規模な支線建設の計画である45。 同年6月7日、モスクワにてGazpromとギリシャのgrid operatorであるDesfaがSouth Streamのギリシャ区間の建設を担当する50:50のJV South Stream Greeceを設立した。ギリシャ区間の総工費はEur10億($12.4億)である46。 South Streamのその後の動き 4) 2011年3月21日、ドイツのBASF-WintershallとGazpromは、Putin首相の同席の下、20億ユーロ ($28.4.億)を投じてSouth Streamの15%の権益を取得するMOUを締結した。現状ENIの50%からEdFが15%を受けた47。一方、E.On Ruhrgasは参加を検討中と報じられた。 (2011年暮れ、Gazpromは新規ルートとしてAustriaを外し、通過国をBulgaria, Serbia, Hungary, Slovenia, Italyとした。支線はBulgariaからGreeceに向かうが南イタリア向けの支線は取り下げら 42 IOD, 2010/11/16 43 IOD, 2010/3/03 44 WGI,2010/12/22 45 IOD, 2010/3/10 46 IOD, 2010/6/08 47 PON, 2011/3/23 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 18 ? 黷?48。2013年に起工、2015年末に第1期150億m3を実現したい考えである。これは、北支線が北イタリア経由でイタリア市場に入ることから、南支線を維持する必要が低下しており、TAP、ITGIとの競合を避ける意味からも見送ったものと思われる。 2012年11月14日、South Streamの黒海海底部分への投資決定がなされた。翌11月15日、ブルガリアとの投資決定を受けて、GazpromがSouth Stream全体の投資決定がなされた。通ガス能力は年間630億m3、イタリア北部までの総延長は2,380km、総工費Eur160億である。着工は12月7日予定とされた49。 但し、South Stream Consortiumは、パイプライン建設は2014年まで「ない」と発言していいる。12月7日の着工式はあくまで”symbolic start”で、Putinの指示である2013年建設開始を1年早めて達成したに過ぎない。実施の工事は2014年に開始し、ロシア領黒海Russkaya(Anapaの10km南)から32“(813mm)径のパイプラインを地上2.5km走らせて後、黒海に入り900kmを経て、BulagriaのVarnaで陸揚げさせる。2018年までに海底下のパイプを4本走らせる計画である50。2,000m級となる黒海海底での海底パイプライン敷設技術は、2002年のBlue Streamの建設において実証されている。 今回のBPを中心としたコンソーシアムの動きは、産業の側から見ると、これまで施行されて来たEUのエネルギー政策とはかなり距離を置いた行動であるように見える。このことは、現状ではEUの公式コメントにおいても、報道機関の論評にも表れていない。この状況をどう考えるべきか、EUのエネルギーパッケージを確認しながら、検討して見たい。 1)第1次エネルギー・パッケージ 欧州共同体 (EU) は1992年末の域内市場(internal market)の統合以来、「エネルギー政策においては、自由化が競争市場を創出し、産業の効率化とコスト・販売価格の低廉化を促し、需要を増大させる」という基本的考え方に基づき、電力及びガスにつき競争市場の促進を打ち出した。 この方針を受けて、EUは1998年に「ガス指令 (1998 EU Gas Directive)」を発布した。これ (.EUの天然ガス政策 4 48 Argus FSUE, 2011/12/16 49 日経、2012/11/16夕 50 Argus FSUE, 2012/11/29 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 19 ? ヘ、前年の「電力指令 (1997 EU Electricity Directive)」に続くもので、2004年までに産業部門を完全自由化するようEU加盟各国に義務付けたものである。このなかで、従来のガス契約の主流であったTake or Pay条項の付いた長期購入契約や、第3者への転売を禁止した仕向地条項 (Destination Clause) については、競争を阻害し、自由化の目的に反することから、排除されることとなった。特に仕向け地条項は、供給の過剰地と過疎地を均すための域内でのガスの融通を阻害する措置と見なされた。 Gazpromは、①ガスの末端販売価格が低下してその結果輸出価格が押さえられ収益性を圧迫して来る可能性があること、②ガスの長期販売契約が生産者側にとって投資資金確保の唯一の方策であったのが新規プロジェクトに関して深刻な資金調達問題に直面する恐れのあること、等により欧州ガス市場における自由化の推進について疑問を呈した。Gazpromとアライアンスを組むなどして、新規ガス田開発を志向していたR/D Shellも、欧州周辺に膨大なガス埋蔵量がありながら市場が確保できないために大型の開発が進展しないなどの批判を生産者の立場から表明した。 (2)第2次エネルギー・パッケージ 2003年、欧州委員会 (European Commission, EC) は、今後EU域外からのガス輸入が確実に増加する見通しであることから、ガスの安定供給に向けた域内ガス市場の共通ルールの策定と、緊急時における対応策を規定した「石油・ガスの安定供給に関する指令 」を公表した。これが第2次エネルギー・パッケージと言われるものである。この主な内容は、①小売市場の全面自由化、②生産者と輸送者の分離(unbundling)(2003/54/EC)、③輸送手段への第3者アクセス(EC No. 1775/0225)、である。 一方、欧州委員会はEU域内での競争市場を発展させる一方で、長期的な安定供給を確保するために、Take-or-Pay条項付き長期購入契約がガス市場の自由化・統合化にとって阻害要因であるとして、排除を呼びかけて来たが、今回、従来の姿勢を変更して、これを認めることとした。 この政策の特徴は、天然ガスの生産・輸送・販売に係るバリューチェーンを解体して、競争原理を導入することにある。特に、電力・ガスは送電網・パイプライン網というネットワーク・インフラに依存しているため自然独占状態にあるので、これを分離(unbundle)することにより競争と参入を促し、市場を活性化させようとするものである。これらは、上流側に有利なValue Chainを解体し、EU市場について下流側において有利となる競争を導入することが目的である。 スポット市場の拡大は、供給ルートの多様化をもたらすと同時に、エネルギー安全保障にとってGlobal Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 20 ? ナも重要な長期の需給バランスについては不確実性を生みだすことになるとの批判がある51 。競争状態の促進は市場を有する下流側には有利であるが、域外から長距離パイプラインによって(即ち巨大投資によって)ガスを供給する上流側にとっては、長期契約による安定供給が保障されることが条件となる。この点がEUとロシアとのエネルギー投資政策の乖離点となっている。 (3)第3エネルギー・パッケージ 2009年7月13日には、「第3次域内エネルギー市場法令パッケージ」が採択された。これは、現行の第2次エネルギー・パッケージが徹底しないことを踏まえ、規則を改正するもので、加盟国には2012年3月3日までに国内法として整備することが求められた。但し、第2パッケージにおけるunbundlingは生産と輸送に関して「法人分離」を求めていたのに対して、第3パッケージでは、①所有権の分離(第9 条)、②ISO (Independent System Operator、第14 条)、③ITO(Independent Transmission Operator、第17~23条)の3モデルの内、どれかを選択することが求められる。 所有権の分離を謳った第3次EUガス指令(Directive2009/73)52の第9条「輸送系及び輸送系事業者の分離(unbundling)」では以下の通り規定されている。 第1項(b)「直接または間接に生産と供給を行う主体が、直接または間接に輸送系をコントロールまたは権限を有してはならない、その逆も同様」 但し、独仏からの強硬な要請があり、選択肢として「輸送事業のみの独立管理」が付加され、妥協案が図られた。この内ISOは、垂直統合型ガス事業者からシステム運用機能を完全に分離するというものである。これに対してITOは、分離までは求められないが、組織のガバナンス、開発投資計画などに強い独立性が求められ、組織の中に監査機関を置く必要がある。これらは、資本の完全な分離までのは要求せず、輸送事業部門の独立をもってunbundlingが達成されたと見なすものである。 TAPに参加するBP, Statoil, Totalらの上流事業者が、ISOやITOといった形態をとって、unbundlingとしているかに関しては、今のところ報道がない。EUもこれらの企業に抗議した様子はないことから、明確なガス指令の違反はないものと考えられるが、実体論からunbundlingが達成されたと見なすのは困難と思われる。 51蓮見雄(2009), EU・ロシアのエネルギー協力とノーザン・ダイメンション、p.236.蓮見雄編、「拡大するEUとバルト経済圏の胎動」昭和堂。 52 http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2009:211:0094:0136:EN:PDF Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 21 ? S)EUの政策の中でのNabuccoパイプライン計画の位置づけ ノルドストリームは、計画発表時の2005年は、報道も多かったが、その後は極控えめで、沿岸国との間の環境問題など微妙な問題もあることから、専門誌によるローキーな扱いに終始したと言える。しかし、ナブッコ・パイプラインに関しては、EUの主導という政治的なもので、話題も多く、終始注目を集める存在であった。 ナブッコ計画に関しては、2009年のロシア=ウクライナのガス紛争の終結後、ロシア回避のパイプラインの切り札として、EU各国が示し合わせたかの様に活発に動き出した経緯がある。但し、EUが総力を挙げて取り組んだとは言えず、特に独、仏、伊はこれに批判的とも言える動きを見せている。以下、2009年前半の動きについて時系列に列挙する。 008年12月31日:2009年の天然ガス価格交渉で、ロシアが$250/1,000m3、ウクライナが$235/1,000m3を主張。(モスクワ・カーネギーセンター所長のドミートリー・トレーニンによればティモシェンコ首相が正式合意に向けてモスクワへ出発するその時に、ユーシェンコ大統領がウクライナ代表団を引き揚げさせ、ロシアとの協議が決裂したという53)。 2009年1月1日~19日:第2次ロシア=ウクライナガス紛争。Q1を$360で合意。 1月23日:ナブッコ・コンソーシアムのメンバーであるオーストリア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、トルコの各国代表はブリュッセルのECで「ウクライナ後」の話し合い。 1月27日:ハンガリーのブダペストで、”Nabucco Summit”が開催され、ハンガリーのGyurcsany首相、EU議長のTopolanekチェコ首相、アゼルバイジャンのAlyev大統領らが参加し、計画実現を目指す宣言を採択。Gyurcsany首相は、「Nabuccoは純粋にビジネス案件ではなく、欧州にとってエネルギー安全保障の問題である」と、同パイプラインが政治的な意味合いがあるとした。この会議で、欧州投資銀行(EIB)に対して25%の融資要請がなされたが、EIBは「更に情報が必要だ」と慎重な姿勢を堅持した54。 3月17日:EU閣僚レベル会議において、独仏伊の反対により37.5億Eur ($4.9B)のEU Grantからナブッコ計画が対象から除外。 3月19, 20日:ブリュッセルのEU首脳会議で、EU東方地域の政治的安定とエネルギー安定供給に関する「宣言」採択。15億Eurを欧州のInterconnector Projectに拠出。内ナブッコに2億Eur拠出。2日前の独等による反対論が覆される。 3月23日:ブリュッセルでのInternational Gas Donor Summit において、EUはウクライナへの ( 2 53 ドミートリー・トレーニン『ロシア新戦略』河東哲夫、湯浅剛、小泉悠訳、作品社、2012年、p.271参照 54 International Oil Daily, 2009/1/28 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 22 ? pイプライン改修資金$26億を融資を決定。EBRD, EIB, WB等から調達。ロシア側は激怒して退席。プーチン首相はこのEUの対応を、「熟慮されておらず素人考え(ill-considered and unprofessional)」と酷評55。 3月27日:ガスプロムとアゼルバイジャンのSOCARは、2010年1月からのガス供給につき合意書を交わす誓約書を締結。Baku-Dagestan間200km(口径1,220mm)のパイプラインの検査実施。これはナブッコ以外への供給の可能性を示すもの。 4月17日:アゼルバイジャンのAliyev大統領は、ロシアへのガス輸出の可能性示唆。 4月24日:ブルガリアのソフィアでナブッコ討議。ナブッコ・コンソーシアムのMitschek代表は6月政府間合意締結を示唆56。プーチン首相は欠席。同会議において、ロシアを含めた解決が売り主側にとって有利であることが徐々に明らかになった旨を発言57。 5月8日:プラハにおいてEUとウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、グルジア、アゼルバイジャン、アルメニアの旧ソ連6ヶ国で「東方パートナーシップ」発足。エネルギー分野での協力強化等の宣言。EUから17ヶ国出席。英、仏、西、伊首脳は欠席。アゼルバイジャン、トルコ、グルジア、エジプトは「ナブッコ支援宣言」に署名。一方、トルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタンは参加するも宣言には署名せず58。 5月17日: クルド領内にあるKhor Mor(3.3兆cf)、Chemchemal(2.8兆cf)両ガス田を所有するPearl Petroleumの株式10%をオーストリアのOMVが$3.5億で取得。一方ハンガリーのMOLは自社株3%をPearl Petroleumの親会社であるUAEのCrescent Petroleumと アブダビのDana Gasに各々3%割り当てることでPearl Petroleum 社株を10%取得。$80億でガス田開発し、2014年からNabuccoを通じて欧州へ輸出するとした59。但し、Shahristaniイラク石油相は、中央政府の承認なしの輸出を認めない方針60。 5月20日:Shahristaniイラク石油相とアラブ・ガスパイプライン(Egypt→Syria)を延長して中東・欧州への供給計画を公表61。ナブッコと新たな調整必要。 7月13日:ナブッコ・パイプラインに関するオーストリア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリ 55 IOD, 2009/3/23 56 IOD, 2009/4/27 57 PON, 2009/4/27 58 IOD, PON, 2009/5/11 59 日経, 2009/5/18、IOD, 5/19 60 日経, 2009/5/19 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 23 ? ヲち、2009年1月のロシア=ウクライナのガス紛争が勃発して僅か7か月で、それまで停滞していた政府間合意に関する議論が一気に決着した。紛争が与えた心理的な影響はかなり大きいものであった。 2009年1月のロシア=ウクライナ・ガス紛争は不可解な事柄が多く、未だにその理由に関して論争がある。当時のユーシェンコ大統領が、反ロシア的な立場から、ナブッコ・パイプラインの実 現を強く望み、これへの実現手段としてガス紛争を起こした可能性は、依然として否定できない。Nabuccoが成立すれば、ロシアは南欧市場の確保という点で大きな失点となることは確実であり、 直接ウクライナの利益にはならないまでも、相対的にウクライナのロシアに対する発言力が増すと考えられる。ただ、反ロシアという姿勢だけで2009年1月のガス紛争とそれに続く一連のNaubcco挙げ活動の動機を説明するには、議論の飛躍があるように思われる。 2009年3月23日のEUからウクライナへのパイプライン改修資金$26億を融資件は、Nabucco絡みではないが、当方の推測の材料として加えたものである。ロシア側は激怒して退席したし、プーチン首相はこのEU の対応を、「熟慮されておらず素人考え(ill-considered and unprofessional)」と酷評した。Nabuccoは結局はウクライナ迂回のパイプラインの一つであり、ウクライナを通過するガス量が減少こそすれ、増加することはない。このタイミングでウクライナのパイプラインをEUが$26億もかけて改修するという案は、論理的にも理解しがたく、プーチンの怒りには根拠がある。 ウクライナがガス紛争を起こし、ロシアの天然ガス供給者としての不安定性を喧伝し、これを梃子にEUが一気にNabuccoを推進する、ということであればEUはある時点でウクライナに褒美を与えなくてはならない。真相は依然として不明であるが、この時期EUから出た援助として、上記のパイプライン改修費$26億の融資があり、EUとウクライナの間に何等かの取引があって、この融資がウクライナに対する褒美に当たるという推測が成り立つかもしれない。 (了) ア、トルコ5か国の政府間合意が調印される。 61 Reuters, 2009/5/20 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 24 ? |
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