アルゼンチン:炭化水素法改正の動向
レポートID | 1004509 |
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作成日 | 2014-11-14 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-02-16 10:50:18 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガス資源情報 1 |
分野 | エネルギー一般基礎情報 |
著者 | |
著者直接入力 | 佐藤 陽介 |
年度 | 2014 |
Vol | 0 |
No | 0 |
ページ数 | |
抽出データ | アルゼンチン:炭化水素法改正の動向 更新日:2014/11/14 ワシントン事務所:佐藤陽介 (①エネルギー一般、⑤基礎情報) ・アルゼンチンは、石油及び天然ガスの両方について、減少する国内生産量と増加する国内消費量のギャップを埋めるべく対応が必要な状況に置かれている。 ・同国には豊富な非在来型資源が賦存しているとの評価は、企業の関心を同国に向けさせるきっかけとなり、様々な大石油企業や国際的に事業を展開する国営石油会社の参入を促してきた。 ・しかし、これら非在来型資源からの生産は未だ始まったばかりであり、外国企業の資本や技術の注入を必要としている。 ・しかし、アルゼンチン特有の炭化水素開発枠組みの下では、中央政府と地方政府がそれぞれ入札の実施などの管轄を有しており、異なる契約条件や財務条件の存在は同国の炭化水素開発枠組みを複雑なものとし、また、不透明な状況に置いてきた。 ・このような中、非在来型資源開発のための投資を呼びこむために、中央政府と地方政府は数ヶ月に渡って炭化水素法改正について議論を行ってきた。 ・そして2014年10月末にアルゼンチン議会においてこれらの改革案をまとめた改正法が成立し、探鉱・開発期間の延長や中央政府と地方政府毎に異なる契約・財務条件の標準化などを内容とする新たな炭化水素開発枠組みが成立した。 ・しかし、アルゼンチンにおける炭化水素開発の進展を妨げる政府の介入主義や保護主義の内容を帯びる政策は依然として残されたままであり、これらリスクの改善は2015年の大統領選挙を待たなければならないとの指摘もある。 .はじめに:アルゼンチン概況1 1(1)石油 米国エネルギー情報局(EIA: Energy Information Administration)によれば、アルゼンチンの2013年における原油確認埋蔵量、石油生産量(うち原油・コンデンセート生産量)、石油消費量、石油純輸出入量(EIAの定義では全石油生産量マイナス消費量。値がマイナスになれば輸入していることを意味する)はそれぞれ、28億bbl(端数切り捨て、以下同様)、70万bbl/d(53万bbl/d)、75万bbl/d、▲5万bbl/d(すなわち輸入をしている)となっている。 全体の傾向は下図の通りに示される。原油確認埋蔵量は2001年にピークの30億bblに達した。その後2006年に一旦23億bblまで落ち込んだが、現在のところ盛り返してきているところである。石油供給 1 EIA, “Country Analysis Note, Argentina”, Apr 2014, http://www.eia.gov/countries/country-data.cfm?fips=AR&trk=m を参照 - 1 - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ハ合計(原油、製品を含む)や原油・コンデンセート生産量は、1998年にそれぞれピーク量の91万bbl/d、84万bbl/dに達したがその後減少し、原油確認埋蔵量とは違って下降の一途を辿っている。これに対して消費量は2001年のデフォルト後43万bbl/dまで減少したが、その後徐々に上昇を続け、2012年には73万bbl/dに達してとうとう石油供給量合計を上回ることになった。先述のとおり2013年には5万bbl/dが石油純輸入量となっており、2013 年の平均 Brent スポット価格が$106.52/bbl(2012 年ドル)(EIA/AEO2014)であることを参考にすれば、2013年において19億ドルを海外からの石油の調達に費やしたという計算になる。今後も石油消費量の増加が継続すると見られ、石油供給量を増やさなければ、更なる貿易債務を負うことが見込まれる。 【左軸:千bbl/d、右軸:10億bbl】 出典:EIA, International Energy Statisticsデータから作成 図1:アルゼンチン石油概況 (2)天然ガス 2013年の天然ガスの確認埋蔵量、生産量、消費量、純輸出入量(EIAの定義では輸出量マイナス輸入量)は同様に、11.74Tcf、1.25Tcf(3.43Bcf/d)、1.69Tcf(4.64Bcf/d)、▲0.31Tcf(▲0.85Bcf/d)(但し2012年)となっている。 全体の傾向は下図の通りに示される。天然ガス(ドライガス、以下同様)確認埋蔵量には大きな変動が見られるが、2002年にピークの27.46Tcfに達した後には再び上昇に転じることなく下降の一途を辿っている。生産量は安定的に増加して1999年には消費量を上回り、2006年にピークの4.46Bcf/dを達成したが、それ以後下降に転じてしまった。消費量はデフォルトの影響を受けて一旦減少したが、再び上昇に転じ2008年には再度生産量を上回ることになった。今後も消費量の増加が見込まれ、天然ガスは石油と異なり確認埋蔵量も減少傾向にあるために、探鉱活動及び開発活動を積極的に行って埋蔵量、生Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 2 - 0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 19801982198419861988199019921994199619982000200220042006200820102012Total Oil Supply, Thousand bbl/dCrude Oil & Lease Condensate Production, Thousand bbl/dTotal Petroleum Consumption, Thousand bbl/dCrude Oil Proved Reserve, Billion bblY量の回復を図ることが必須の課題である。 【左軸:Bcf/d、右軸:Tcf】 出典:EIA, International Energy Statisticsデータから作成 (3)非在来型資源と企業活動 図2:アルゼンチン天然ガス概況 EIAによる世界の非在来型資源のポテンシャルに関する評価報告書である『世界のシェールガス資源:米国外14地域の初期評価(World Shale Gas Resources: An Initial Assessment of 14 Regions Outside the United States』)(2011年4月発表)は、アルゼンチンのシェールガスの技術的回収可能資源を774Tcfと評価し、世界でも中国、米国に次いで世界第3位にランクインさせた2。その後、EIAは2014年6月発表の『技術的回収可能シェールオイル及びシェールガス資源:米国外41カ国における137のシェール層の評価(Technically Recoverable Shale Oil and Shale Gas Resources: An Assessment of 137 Shale Formations in 41 Counties Outside the United States)』によって、類似の調査を再び実施し、その中でアルゼンチンのシェールオイルの技術的回収可能資源を270億bbl、シェールガスのそれを802Tcfと評価し、アルゼンチンを前者において世界第4位、後者を世界第2位へと押し上げた3。技術的回収可能資源とは、現在の技術を利用して回収することができる石油及び天然ガスの量であるが、石油や天然ガスの価格、生産コストを考慮していない(そのため、現在の市場条件で利潤を産んで生産可能な経済的回収可能資源、あるいは既発見の商業開発・生産のための採取の対象となり得る地下に存在すると想定される炭化水素の量を表す確認埋蔵量などとは区別される)。従って、EIAに評価された資源量が即そのまま 2 EIA, “World Shale Gas Resources: An Initial Assessment of 14 Regions Outside the United States”, Apr 2011, http://www.eia.gov/analysis/studies/worldshalegas/archive/2011/pdf/fullreport.pdf 3 EIA, “Technically Recoverable Shale Oil and Shale Gas Resources: An Assessment of 137 Shale Formations in 41 Counties Outside the United States”, Jun 11, 2014, http://www.eia.gov/analysis/studies/worldshalegas/ Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 3 - 0.00 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00 30.00 0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00 4.50 5.00 198019831986198919921995199820012004200720102013Dry Natural Gas Production, Bcf/dDry Natural Gas Consumption, Bcf/dDry Natural Gas Proved Reserves, Tcfカ産されるということを必ずしも意味する訳ではないが、これら2種類の報告書の内容は、企業の目をアルゼンチンに向けさせるのに十分であった。 現在、アルゼンチンで最も有望なシェール層は、ネウケンベイスン(Neuquen Basin)にあるヴァカムエルタ(Vaca Muerca)シェール層であると言われている。EIAの2014年の報告書では、ヴァカムエルタのシェールガス、シェールオイルの技術的回収可能量をそれぞれ、308Tcf(上記802Tcfの38%)、162億bbl(上記270億bblの60%)と推定しており、次点のロスモレス(Los Molles)が、それぞれ275Tcf (同34%)、37億bbl(同13%)であるので、シェールガスのポテンシャルに加えて、シェールオイルのポテンシャルでは同国内において群を抜いていることがわかる。 出典:EIA, Technically Recoverable Shale Oil and Shale Gas Resources: An Assessment of 137 Shale Formations in 41 Counties Outside the United States 図3:アルゼンチンのシェールベイスン Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 4 - ow Chemical (米) Chevron (米) Wintershall (独) Petronas (マレーシア) Chevron Gazprom (露) ・Vaca Muerta(El Orejano)開発に係る50-50JV設立 ・石油化学分野での事業拡大 ・Vaca Muerta(Loma La Lata Norte、Loma Campana)における非在来型資源開発協力 ・WintershallはNeuquen州公営石油企業GyPのVaca Muerta保有ステークを50%付与されオペレーターを務める ・Vaca Muerta(Amarga Chica/Loma Campana)開発に係るJV組成を目指したスタディ ・Vaca Muerta(Loma Campana)開発の延長 ・YPFの協力の報道があったがGazpromは否定 ・Exxon Mobil は Neuquen州Parva Negra 鉱区のPetrobras保持ステーク42.5%を獲得 ・Vaca Muerta (Amarga Chica/Loma Campana)開発に係る試験プログラムの実施 ・アルゼンチン、インドその他における上流分野での協力関係を樹立 ・非在来型資源開発の協力に関するYPFとExxon Mobilの交渉が報じられる Dow:1.2億ドル YPF:0.68億ドル 双方計12.4億ドル 双方計1.09億ドル N/A 双方計16億ドル N/A N/A Petronas:4.75億ドル YPF:0.75億ドル N/A N/A 外国企業 協力内容 投資規模 表1:アルゼンチンシェールベイスン内訳 ベイスン 地層 技術的回収可能資源 シェールガス シェールオイル Neuquen San Jorge Basin Austral-Magallanes Basin Parana Basin 合計 出典:EIA資料より作成 Los Molles Vaca Muerta Aguada Bandera Pozo D-129 L. Inoceramus-Magnas Verdes Ponta Grossa (Tcf) 275 308 51 35 129 3 802 (10億bbl) 3.7 16.2 0.0 0.5 6.6 0.0 27.0 Chevronなどの大石油企業や外国企業は既にこのポテンシャルに注目し、アルゼンチン国営石油会社のYPFとシェール開発に関する協力関係を樹立している。その動きは2014年5月にYPF再国有化問2:アルゼンチン、特にVaca Muerta開発に係る協力関係の模索 表題が決着して以降さらに弾みが付いたとも言える。 時期/ ステータス 2013年3月/9月 2013年7月 2014年1月 アルゼンチン YPF YPF Neuquen州(GyP) 2014年2月 YPF YPF YPF 2014年4月 2014年7月 交渉中 2014年7月 2014年8月 Neuquen州(GyP) YPF ExxonMobil (米) Petronas 2014年9月 YPF YPF 2014年10月 交渉中 出典:各種報道資料から作成 ONGC Videsh (OVL)(印) Exxon Mobil しかしながら、YPFの非在来型資源の生産量は現在3万bbl/d原油相当といったところであり、これら の開発はまだ始まったばかりである4。EIAが2014年9月に発表した予測では、アルゼンチンの石油生産量が100万bbl/dを達成するのは2020年以降であることを示しており、うちタイトオイル生産がアルゼ 4 YPF, “YPF 3rd Quarter 2014 Earnings Webcast”, Nov 6, 2014, http://www.ypf.com/InversoresAccionistas/Documents/Presentaciones/YPF-Q3-2014-Earnings-Webcast-Presentation.pdf - 5 - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 塔`ンにおける主な石油生産を構成することになると指摘している5。非在来型資源の開発には資本の集中や水圧破砕技術などの特殊な技術が必要であり、アルゼンチンやYPFはこれらをもたらし得る外国企業の参入を促すために腐心している。このような中、アルゼンチン特有の規制枠組みを改善し、魅力的な投資環境を形成するために、政府が目指していたのが炭化水素法の改正である。 【単位:100万bbl/d】 アルゼンチンの炭化水素産業は、1990年代に自由化が進められたが、2000年代初頭の財政危機の対応として保護主義的な傾向を採るようになった。しかしその中にあっても民間投資を惹きつけるためのいくらかのインセンティブもまた提供してきた。このような変遷の中で国営石油会社のYPFの民営化や、そして再度の国営化なども経験してきたが、国内の炭化水素資源の管理のあり方に関しては、中央政府と地方(Province)政府の役割を規定した「Short Law」が重要である。 アルゼンチンの炭化水素産業の規制枠組みを確立したのは、1967年制定の炭化水素法(Law No. 17.319)である。この炭化水素法は全ての中央政府所有地における探鉱及び開発を規制するものである。自由化の流れとしては、アルゼンチンは1989年と1993年に1976年制定の外国投資法を修正し、外国 5 EIA, “International Energy Outlook 2014 Early Release”, Sep 9, 2014, http://www.eia.gov/forecasts/ieo/more_overview.cfm - 6 - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 出典:EIA, International Energy Outlook 2014 Early Release 図4:アルゼンチンとブラジルの原油・コンデンセート生産予測(2010-2040年) .アルゼンチン炭化水素開発枠組み 2(1)炭化水素開発枠組みの変遷 驪ニの100%の資産と企業の所有を認めたほか、1992年にYPFの民営化を推し進めた。 しかし2000年代初頭の財政危機をきっかけに保護主義と炭化水素産業の分権化を進める。民営化したYPFの代わりとして2004年に国営エネルギー会社のENARSA(Energia Argentina Sociedad Anomima)を設立する(Law No. 25.943)。ENARSAは、民間企業がENARSAとパートナーとなる場合には、財務条件の優遇措置を適用するなどして国内炭化水素資源の開発を促進し、それにより政府が恩恵を受けるべく設立されたものであった。 2006年のShort Lawは、その後のアルゼンチンの炭化水素産業の枠組みを形成する上で非常に重要である。Short Lawは炭化水素法を改正し、地方政府に対してその領域内に賦存している石油・天然ガス埋蔵資源に対する管轄権を認める。また、地方政府は上流分野における企業との契約の締結が認められた他、12マイルまでの沖合に賦存する地下埋蔵資源の管理も認められた。Short Lawの結果、地方政府はその領域内の炭化水素資源を管理する権能を得た訳であるが、この権能を活用して地方版炭化水素法の制定や、地方領域内の鉱区に対する公開入札の実施、地方政府自身の公営石油会社(Neuquen州のGyP(Gas y Petroleo del Neuquen)など)の設立などを行っている。この点は、同じ南米のブラジルやコロンビアなどとは大きく異なる点である。しかし、炭化水素開発に係る複数の監督機関の存在や中央政府や地方政府が設定する異なる財務条件や契約条件の設定は、アルゼンチンにおける炭化水素開発を複雑なものにする要因として作用してきた。そしてまた、複数の監督機関の存在は、ナショナルポリシーの不在をも意味することとなった。 保護主義の最新の動きとしては2012年のYPF再国有化法の成立とYPF再国有化である。アルゼンチン政府は炭化水素産業への投資不足を理由にYPFを国有化する法律を可決した。その後2013年11月にRepsolが保有するYPF株式51%の接収に対して50億ドルを補償額とすることで紛争は決着をみた(Repsol取締役会での承認は翌2014年2月、支払は5月のことである)。 アルゼンチンの保護主義の傾向の説明の続きとして2002年公共緊急事態法(Law No. 25.561)による輸出税の課税が挙げられる。これは炭化水素の輸出に対して20%の税金を課すものであるが、アルゼンチン産炭化水素を国外で販売することによって得られる利益を制限するものでもある(なお、昨今の原油価格の下降を受けて国際価格が更に減少した場合の輸出税率の低減措置が講じられている。税率は$80/bbl以下13%、$75/bbl以下11.5%、70$以下10%である)。国内エネルギー需要が増加する一方、石油・天然ガス生産は減少し、エネルギーの輸入依存は益々高まっているなかで、国内需要を満たすための苦肉の策であると言える。輸出関連の措置としては他に、輸出によって得られた外貨の全てにアルゼンチン国内に送金を求める措置(行政令1722号、2011年)、5年間の投資の後で生産物の20%までのGlobal Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 7 - 2)課税とインセンティブ (A出を輸出税の支払無しで可能とし、輸出から得られた利益をアルゼンチンへの本国送金義務から免除する措置(行政令929号、2013年)などがある。行政令1722号などは、アルゼンチンの干渉主義を端的に示すものであり、外国企業がアルゼンチンを敬遠する一因となっている。 行政令929号などはインセンティブの一環であるが、その他にもアルゼンチン特有の優遇措置としてGas Plus Programが挙げられる。これは天然ガスの一定の生産量増加目標を達した企業に対して、国内市場向け販売について割高な天然ガス価格設定を認めるものであり、現在は$7.5/MMBtuが設定されている。この制度を利用するためには、企業は国家炭化水素投資計画・戦略調整委員会(Comision de Planificacion y Coordinacion Estrategica del Plan Nacional de Inversiones Hidrocarburiferas)に対して、自社のプロジェクトを申請・登録する必要がある。委員会の承認を得た場合には、特定のフォーミュラに基づき、月ベースで政府から財務的補償を得ることができるが、設定した生産増加目標に達しなかった場合には、その不足分を補填しなければならない(ペナルティ)。このGas Plus Programに類似する制度は石油分野や中小企業向けのものなどが存在している。 先に述べたとおり、アルゼンチンでは国内炭化水素資源の管理について、中央政府、地方政府という複数の主体が存在しており、そのため同じ国内でも異なる複数の契約条件や財務条件、入札手続きが存在するというやや複雑な状況になっている。このことはまた、制度の透明性や予測可能性について不透明な状況を作り出している。アルゼンチンに参入しようとする企業にとっては、この複雑な制度の理解が最初の課題となろう。 このようななか、国内資源、特に非在来型資源の開発による生産の増加を図るため、企業の参加を促すためにより魅力的な制度を構築する必要性が生じた。炭化水素法改革はそのような動きの最たるものである。中央政府と地方政府は過去数ヶ月の間炭化水素法改正法について議論を重ねてきた。改正の方向性は、入札条件や契約条件、財務条件の標準化、探鉱・開発許可期間の延長、ロイヤルティやサインボーナスの決定権の所在の如何などであるが、議論は自ずと中央政府の権限を高めたい中央政府と現行の権限を維持したい地方政府との攻防となった。最も議論を呼んでいたのは地方政府の領域内の炭化水素資源を管理する権限の取扱いである。しかしこの点については妥協が成立し、地方政府は引続き自己の領域内における炭化水素資源の管理を行う権限を保持することが合意された。 しかし、留意したいのは炭化水素法改正に関する議論の進捗が拙速であることや、より広範な国民全体を巻き込んだ議論を経ることなく進められているとの批判があることである。アルゼンチンでは2015年に大統領選挙があり、炭化水素法の改正はこの大統領選挙後の方が望ましいとの声もある。他方で、炭Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 8 - .炭化水素法改正の動き 3(1)背景・経緯 サ水素法の改正だけでは、現状を改善するには不十分との指摘もある。以下に概観する制度内容の変更には、政府による天然ガス価格設定や輸出税の設定、収入のアルゼンチン本国への送金を課する措置などの干渉主義的政策に関しては、対応を行っていないからである。 ともあれ、改革案は法案として議会で審議され、10月初旬に上院で可決し、次いで10月30日に下院を通過し、翌31日にクリスティーナ大統領の署名によって発効することとなった。 2)改革案の内容 ( 炭化水素法の改正によって、中央政府は2006年のShort Lawに従って地方政府に譲歩した炭化水素セクターに対する規制権限を幾らか取り戻すことになった。また、契約期間が伸びたことなどを含めた契約条件等の改善は、既に開発を行っているYPFなどの企業の立場をも強化することにも繋がる。以下では変更された内容に関して、重要と思われる項目について整理する。 石油・天然ガスの生産物価値に対して12%のロイヤルティ率を課すことや、ケースバイケースによってロイヤルティ率を5%まで引き下げることは現行制度と同様である。しかし、従前では地方政府の裁量にあった扱いが統一され、さらに、ロイヤルティは地方政府が生産物に対して課すことができる唯一の賦課金(税金)とすることが取り決められた。延長時には延長ごとに3%を追加可能であり、最大18%までのロイヤルティ率を課すことできる。また、特別な種類の生産物(超重質油)や開発・採取方法(EOR:増進回収法:Enhanced Oil Recovery)毎に異なっていたものが、一つのカテゴリーに納められることになった。 3:ロイヤルティの変更 表ロイヤルティ ① まず探鉱段階(探鉱許可)では、現行制度ではオンショアとオフショアの区別であったが、新制度では、在来型と非在来型の分類を設けることになった。さらに、現行制度では3フェーズ(オンショア基本最大9Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 9 - 出典:各種資料より作成 期間 ②改正現行制度備考基本基本:石油・天然ガスの生産の量に対して12%方法:キャッシュ(例外で現物)最小:5%(ケースバイケース)契約延長時:3%ごと、上限18%まで基本:石油・天然ガス生産量に対して12%最小:5%(ケースバイケース)Neuquen州等は契約延長時に3%を追加Mendoza州はロイヤルティを入札の対象とするその他EOR、超重質油、オフショアのプロジェクトについてはロイヤルティを最大50%減額可能マージナル鉱区、基本:8%EORプロジェクト、基本:5-12%非商業段階、基本:15%・ロイヤルティの支払計算はコントラクターが月ごとに宣言する井戸元における炭化水素の価値に基づく・国家炭化水素投資計画・戦略調整委員会は、生産性、立地、プロジェクトの不利な技術的・経済的特徴を考慮に入れた上で減額を決定しなければならないN間/オフショア基本最大12年間)であったものが、2フェーズ(在来型基本最大6年間/非在来型基本最大8年間)へと短縮された。 探鉱コンセッション(開発・生産段階)では、在来型と非在来型、そしてオフショアの区別が設けられ、それぞれ、在来型25年間、非在来型35年間、オフショア30年間と現行制度よりも期間が長くなる。延長期間については現行制度と同様に10年間が認められる。採取期間が長く認められることは、政府やYPFにとっても朗報である。それは長期的生産の基礎を確保し、他方でより長い期間に渡って政府に対する支払を保証するからである。 4:分類・探鉱・開発期間の変更 表 従前は国、地方がそれぞれケースバイケースで異なる落札基準を設けていたが、変更後は最大の投資額や探鉱活動を約束する最も有利な提案を行ったものにライセンスを付与するという基本的枠組みに従って、従前通り、国、又は地方が入札を行う。 また、現行炭化水素法には定義が存在しなかった「非在来型」の定義が設けられたことに関連し、在来型資源開発のコンセッション保持者が非在来型資源開発のためのコンセッションを申請する権利が認められるようになった他、これら2件のコンセッションを1件のコンセッションに統合するユニタイゼーションの申請が認められるようになっている。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 10 - 出典:各種資料より作成 入札 ③改正現行制度備考探鉱許可在来型基本フェーズ・第1期間:最長3年間・第2期間:最長3年間・延 長:追加最長1年間基本フェーズについては従来の3期間から2期間(合計で9年間から6年間)の減少非在来型基本フェーズ・第1期間:最長4年間・第2期間:最長4年間まで・延 長:追加最長5年間新たに非在来型特定の期間を設定探鉱コンセッション在来型・基本:25年間(オンショア) 30年間(オフショア)・延長:追加最長10年間非在来型・基本:35年間 (5年間の試験期間を含む)・延長:追加最長10年間オンショア・基本:最長9年間(3フェーズ)・延長:追加最長5年間オフショア・基本:最長12年間(3フェーズ)・延長:追加最長5年間・基本:25年間・延長:追加最長10年間・改正法施行前に延長された契約は、当該延長期間失効後、再度延長を申請することが可能・政府当局は、地域内の残存リザーブと賦存炭化水素の平均価格を考慮に入れて予め定められたフォーミュラに従って「探鉱コンセッションボーナス」を要求することができる契約Cインセンティブ 現行法制下で行政令や決議によって設定されているいくつかのインセンティブが法律として盛り込まれることになっている。これらには、先述の輸出税の減免に関する行政令929号や炭化水素開発に必要な機器(アルゼンチンで製造されていないもの)の輸入に関する特別税制に関する行政令927号がある。特に行政令929号に関しては、優遇措置適用基準の最低投資額が5年間で10億ドルかそれ以上だったものが、3年間で2億5,000万ドルかそれ以上までに引き下げられている。これらのインセンティブは民間企業や国際石油企業にYPFなどと非在来型資源開発のための協力関係の構築やアルゼンチンへ キャリーモデルとは、地方公営石油会社が、開発段階において事前にコミット分の投資額を支払うことなしに事業に参加し、生産物からの収益を得られることを可能にしたシステムである。中央政府と地方政府との交渉の中で、最も論点となったものの一つであり、YPFはシェールプレイなどへの民間企業や国際企業からの積極的な投資を阻害するものとして反対していた。結果として改革案ではキャリーモデルを禁止し、保持ステーク分の投資を行った場合のみに開発段階への参加が許可されることとなった。キャリーモデルの廃止は、これまで民間企業にかかっていた財務的負担を軽減し、投資を刺激することがの参入を促すことになるとも思われる。 キャリーモデル ⑤ 炭化水素法の改正は、規制枠組みの複雑さと不透明性に対処し、特にYPFなどの重要プレーヤーを後押しする点で、一つの重要なきっかけとなるはずである。しかし、炭化水素法の問題ではないアルゼンチンの保護主義的・干渉主義的な傾向は対処されずに残されたままである。このことはまた、これらの問題が、現政権が存続する以上継続するかもしれないという可能性をも残してもいる。これらのリスクを解消し、外国企業が積極的にアルゼンチンに参入するようになるためには、炭化水素法改正に対する批判にあったように、2015年以降の新しい政権を待つ必要があるかもしれない。 また別の関心としては、アルゼンチンの豊富なシェール資源に対してどれほど早く、そして持続可能な開発が進められるのかということである。本稿では議論することができなかったが、重要な観点として、昨今の原油価格の低迷が、アルゼンチンの非在来型資源開発にどのように影響するかという問題がある。この点、アルゼンチンのような炭化水素輸入国にとっては、原油価格が安くなることは国を利することにはなるかもしれないが、この低原油価格の状況が定着した場合に資本集中型の非在来型資源開発にどのように影響するのかはまた別の観察が必要である。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 11 - 期待される。 .むすびに 4ともあれ、炭化水素法の改正は、非在来型資源をはじめとするアルゼンチンのポテンシャル(オフショアや重質油もある)を開放する上で、重要な基盤を用意したことには変わりはない。アルゼンチンにおける今後の開発の進展に期待したい。 (了) Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 - 12 - |
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