ページ番号1004754 更新日 平成30年2月16日

英国廃坑費問題:石油ガス資産売買時の納税記録移転認可へ

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レポートID 1004754
作成日 2017-11-30 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 基礎情報
著者 古山 恵理
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年度 2017
Vol 0
No 0
ページ数
抽出データ 英国廃坑費問題:石油ガス資産売買時の納税記録移転認可へ 更新日:2017/11/30 調査部:古山 恵理 ? 英国政府は、2018年11月以降の英国洋上石油・天然ガス資産の売買において、売り手から買い手へ、過去の納税記録を移転する制度(Transferable Tax History:TTH)を導入。買い手は、廃坑に際し発生した欠損金について、売り手から移転された納税記録を援用し、繰り戻しによる還付請求を行うことが可能となる。 ? 政府は、TTH導入により、全ての事業者の廃坑費用負担について法的な透明性を担保する意向。廃坑費用負担を理由とした参入障壁を撤廃し、成熟資産の流動性を向上、新規投資を呼び込み、残存する資源の価値最大化を狙う。 .制度概要とその背景 12017年11月22日、英国財務省は秋のバジェットレポート1において、英国洋上石油・天然ガス資産の売買の際、売り手の「納税記録」を買い手に移転する制度(Transferable Tax History:TTH)の導入を発表した。本案は今後技術的審査を経て2018年度のFinance Bill(財政法案)にて法制化され、2018年11月1日以降にOGAのライセンス移転認可を受けた案件から適用を開始する見込である。 TTH導入にあたっての背景は以下の通りである。英国法では、洋上油ガス田の廃坑に係る損失について、欠損金繰り戻しによる還付請求を認めている 2。還付対象は、油ガス田の収益に対して課税されるリングフェンス法人税(Ring Fence Corporate Tax:RFCT)、追加課税(Supprementary Charge Tax:SCT)、また特定の油ガス田に課税されていた3石油歳入税(Petroleum Revenue Tax:PRT)である。2017年11月現在、RFCTもしくはSCTの納税記録を援用して還付請求をする場合、繰り戻しの期限は2002年4月となっている。一方PRT課税対象であった油ガス田に関しては、2002年を超えて、限定なく繰り戻しが可能である。もし、廃坑費用が還付金を上回る場合、差分は将来のRFCTに対する繰越欠損金としての扱いが可能となっている。 1 1998年財政法により、財務省が作成し議会に提出することが義務付けられた法定の予算関係文書。4月の会計年度開始に先立ち、主要な経済問題を取り上げるとともに、新年度の予算見込み額を示すもの。今回はあわせて2020年4月1日より一般法人税を19%から17%へ引き下げる旨確認された。 2 この、廃坑費用に係る欠損金繰り戻しによる還付金申請のシステムは2013年、政権交代等による事業環境の不安定化を防ぐ目的で、Decommissioning Relief Deed (DRD)にて、政府と事業者の間で固定化が約束される。 3PRTは、1993年3月16日以前に承認を得た油ガス田に課税されていた税だが、2016年改革で恒久的に非課税とされた。しかし過去に納税されたPRTに対する控除申請は可能であるとされる(”not abolished”)。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 1 ? アれは事業者にとって非常に有意義な制度であるが、問題は、生産開始時点から操業してきた事業者と、生産期間の途中で資産を取得した事業者との間で、最終的な費用負担に不均衡が生じる点である。 通常、成熟油田操業者は長期間の納税記録を有するため、還付請求を通じて廃坑費用の大部分をカバーすることができる。一方、生産期間の途中で資産を取得した買い手は、現行制度では資産取得時点(資産取得後の収益発生時)から生産終了時までの期間のみの納税記録を援用して還付請求をすることになる。資産売却の対象となるのは、多くの場合”Late-life“資産であることから、資産移転から廃坑までの生産量(収益)は減退し、伴って納税額も低減する。従って、廃坑時に還付請求を行ったとしても廃坑費用をカバーしきれず、元々の事業者以上に大きな負担を負うことになる。結果として、成熟資産が売れない、という事態につながっている。 英国政府はこの状況について、本来追加投資により延長可能な成熟資産の生産寿命が短縮され、国策である「MER UK戦略:英国大陸棚に残存する資源回収率最大化4」の観点から、重大な機会逸失であるとしている。政府は今回のTTH導入で、廃坑費用に係る参入障壁を引き下げ、成熟資産への追次に、想定されるTTHの運営規則について、“An outline of Tranferable Tax History”(November 2017)で示された英国財務省の見解を紹介する。 まず、資産売買時におけるTTHの利用はあくまでオプションであり、義務ではない。ただしTTHは資産売却時点でのみ移転可能であり、一度資産売却が完了した後の追加的な移転は認められない。制度上「納税記録」とは、ある油ガス田で発生した過去の収益に対し課税された額を指す5が、具体的金額に関しては、売り手と買い手の交渉により、過去の納税範囲内で決定される6。その際、過剰な移転を.実際の運営方法 2加投資確保を狙う。 防止するため、移転額は当該資産のDecommisioning Security Agreement(DSA)7に規定される廃坑費用 4 MER UKにつき、拙稿『英領北海における石油・天然ガス上流産業の動向』(2017年9月)参照。 5 なお、石油ガス生産の収益に対して課税されるRFCT、SCTを還付対象として援用する際、その納税分が取引対象の資産における収益に対して課税されたものであることを証明することは困難ではないか、という議論があるが、財務省は、証明の必要性を退け、あくまでも、当該資産において発生した収益を基準に計算された課税分の範囲を「納税記録」として扱うという見解を示している。 6 基本的には“Last in, First out”の精神、つまり、直近の納税記録から移転対象になると考えられる。そのため必ずしもピーク生産時(納税額が最も大きい時期)の納税記録が対象になるとは限らない。 7 当該資産の権益を有する複数の事業者間で、廃坑に関するそれぞれの責任の範囲を規定する合意。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 2 ? フ売り手シェア分を上限とする。 TTHの移転を受けた買い手事業者は、資産取得時点以降の当該資産における収益を追跡(”tracked profits”)する必要がある。またTTHは、資産取得後即座に買い手の納税記録になるものではなく 8、TTHが買い手の「納税記録」とされる、つまり、「廃坑に係る欠損金繰り戻しに援用される」ためには以下の二つの要件を必要とする。第1に、対象油ガス田が完全に生産停止すること、そして第二に、廃坑により発生する欠損金が資産取得後の”tracked profits”を上回ることである(廃坑費カバーのためにTTHの必要性が証明できること)。tracked profitsと、廃坑費用の差が、(廃坑費に係る欠損繰り戻しの際に)実際に援用可能なTTHの額とされる。 また当該資産が、もう一度他事業者に売却される場合には、元々の事業者から移転されたTTHの移転が可能である。その場合は、初回の移転後に記録された「tracked profits」も併せて移転される必要があり、最終的な廃坑時の還付請求に援用される「納税記録」としては、当初の事業者から移転されたTTH、次に資産を取得した事業者の「tracked profits」、そして次の移転時から廃坑時までの「tracked profits」、すべてを合わせたものとなる(図2参照のこと)。 以上が、今回発表されたTransfereble Tax History(TTH)制度の設計概要である。 図1 廃坑コストに対する控除の仕組みー生産期間中の資産移転発生の場合 出所:JOGMEC作成 8 もしTTHが即座に買い手の納税記録として認められるのであれば、買い手の事業者は、他資産からの欠損金について、それ廃坑費用に係るものではないとしても、TTHをもって還付申請をし、欠損を相殺できることになる。成熟資産の価値最大化を目指すMERの精神に反するとされ、認められない旨規定されている。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 3 ? 図2 再度の資産移転が行われた場合。Tracked Historyの取り扱い。 出所:JOGMEC作成 3.TTH制度導入による今後の影響 ―M&A活動への影響― 英国政府が認識するように、事業者間における廃坑費用負担の不均衡は、資産価値評価にギャップを生じさせ、M&A活動の阻害要因となっている。事業者はこの点について、柔軟な取引構造を採用し、解決を図ってきた。今回のTTH導入により、事業者間の衡平が法的に担保されることで、M&A活動にプラスの影響を及ぼすと考えられる。その影響を考える意味で、現在の英国大陸棚におけるM&Aの潮流に触れて、まとめとしたい。 2014年以降、英国大陸棚ではメジャーズがノンコア資産の売却を進めており、比較的財政基盤の弱い中小企業が買い手となる状況が続いている。生産性の落ちた成熟資産売却のため、売り手側が、廃坑費用を負担してでも何とか取引を進めようとする努力がみられる。 代表的な事例としては、2017年ShellのChrysaorに対する資産売却が挙げられる。Chrysaorはプライベートエクイティ資本の新興企業であり、資産買収に当たっては廃坑費用の負担が財務上の大きな障壁として認識された。そこで、段階的支払いが規定されるとともに、売り手であるShellが廃坑費用約10億ドル分を負担することで合意された。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 4 ? アの「売り手が廃坑費用を負担する」という形式を一歩進めたもののとして、「一次的には売り手が廃坑に係る負担を負うものの、欠損金繰り戻しにより損失を補填する」仕組みを提案した例もある。それが、11月21日にBPが発表したSerica Energy社へのBruceフィールド売却事例である。BPは、Bruceフィールドの権益36%と、タイバックで開発するKeithフィールドの権益34.8%、またRhumフィールドの権益50%を売却。ただしBPはBruce権益の1%を引き続き保持する。この1%によりBPは、2018年は税引き前キャッシュフローの60%を取得、2019年は50%、2020年と2021年は40%を取得することになる。つまり、当該ガス田の収益がBPの課税対象収益として計上され続ける構造を残す。廃坑費用についてはBPが全額負担する契約であるが、BPは資産移転後も、引き続き収益に基づく納税を行うこととなるので、廃坑に係る費用は欠損金繰り戻しによる相殺が可能となる。Sericaは税引き後の廃坑費用の約30%を上限としてBPに支払うこととしたものの、生産中資産の買い手としての不利益(=納税記録の不足により還付金では廃坑費用がカバーされないという負担)はカバーされる形であり、結果としてTTHを援用した場合と同様の効果が担保される。非常に工夫された取引形態であると言えよう。 以上のように、事業者は煩雑な交渉手続きを経て、創意的な取引形態を採用することで廃坑費用負担に係る事業者間不均衡の是正に努めてきた。この努力に支えられ、2017年は歴史的な水準のM&A活動9が行われている。今回法制上TTHが認められたことで、交渉に伴う煩雑性の緩和、さらに税制上の予見可能性向上を通じ、英国大陸棚における参入障壁が引き下げられるだろう。今後M&A活動の更なる増加が期待されるところである。 以上 参考1:MER UK下の税制改革を反映した、英国石油ガス上流産業に対する現行税率 出所:JOGMEC作成 税種別 ① リングフェンス法人税 ② 追加課税(Supplementary Charge Tax:SCT) ③ 石油歳入税(Petroleum Revenue Tax:PRT) 1993年3月16日以前に承認を得た油・ガス田に課税 現行レート 30% 10% 0%(2016年1月1日以降恒常的に非課税。) 最終税率=40% 9 ただし、価額ベース。 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ? 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地域1 欧州
国1 英国
地域2
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地域4
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地域5
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地域6
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地域7
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地域8
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地域9
国9
地域10
国10
国・地域 欧州,英国
2017/11/30 古山 恵理
Global Disclaimer(免責事項)

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