ページ番号1007406 更新日 平成30年4月10日
原油市場他:地政学的リスク要因に伴う石油供給途絶懸念、米国原油在庫の減少、寒波到来及び株式相場の上昇等で、3年超ぶりの高水準に到達する原油価格
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
概要
(1)米国では秋場の製油所メンテナンス作業が終了し、原油精製処理量が増加したことに加え、相対的に割安な米国産原油価格を背景として原油輸出が堅調であったことから、原油在庫は減少傾向となったものの、平年幅上限を超過する水準は続いている。他方、製油所の稼働上昇とともに石油製品生産活動が活発化したことから、ガソリンや留出油在庫は増加傾向となった結果、ガソリンは平年幅上限を超過する量、留出油は平年幅上限付近に位置する量となっている。
(2)2017年12月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国で減少した他、欧州及び日本でも製油所の秋場のメンテナンス作業が終了したことに伴い、原油精製処理が進んだ結果原油在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体としての原油在庫も減少したが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州では暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期に突入したものの、製油所の稼働回復により石油製品生産活動が高水準を維持したこともあり、製品全体の在庫は若干ながら増加した。一方米国では冬場の暖房シーズン突入によりLPG等の国内需要や輸出が活発化したと見られることで当該在庫が減少したことが影響し石油製品全体の在庫も微減となった。また、日本においても冬場の暖房シーズン突入に伴う灯油需要の増加と在庫減少の影響で石油製品全体の在庫は減少した。従ってOECD諸国全体として製品在庫は減少となったが量としては平年並みとなっている。
(3)2017年12月中旬から2018年1月中旬にかけての原油市場は、イエメンの武装勢力がサウジアラビアのリヤドに向け弾道ミサイルを発射した旨発表したことや、リビアでの原油パイプライン爆破と操業停止、イラン各地での反体制デモの発生といった地政学的リスク要因に伴う市場での石油供給途絶懸念の増大や、米国原油在庫の減少、米国北東部への寒波到来に伴う暖房油価格の上昇、米国株式相場の上昇等により、原油相場に上方圧力が加わった結果、原油価格は上昇傾向となり、1月12日にはWTIで1バレル当たり64.30ドルと2014年12月5日以来の高水準の終値に到達した。
(4)足元の需給面では、冬場の暖房シーズンに伴う石油需要期が峠を越え始めつつある中で、米国の原油生産増加観測も存在することから、この面では原油相場に下方圧力が加わりやすくなるはずである。しかしながら、堅調な株式相場を背景とした投資家のリスク許容度拡大により、原油価格が下落しても、それが原油先物契約等の買い増しの良い機会として受け取られてしまい、結果として原油価格が十分に下落しない一方、原油価格を上昇させる要因に対しては、市場は敏感に反応し、相場を押し上げるといった場面がより多く見られる可能性がある。これまで原油価格はかなり継続的に上昇基調を示してきていることから、今後一時的に下落する場面も見られるかもしれないが、それも限定的な期間及び規模にとどまり、むしろ少なくとも当面原油相場は上昇基調となりやすいものと考えられる。
1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2017年10月の米国ガソリン需要(確定値)は日量935万バレルと前年同月比で2.8%程度の増加となった(図1参照)が、速報値(前年同月比で3.0%程度増加の日量936万バレル)からは若干ながら下方修正されている。同月の米国のガソリン小売価格は1ガロン当たり2.621ドルと前年同月(同2.359ドル)に比べ、0.262ドル(約11.1%)割高になっているものの、前月の価格(2.7621ドル)からは下落、多少なりともガソリン価格に値頃感が発生したことが底堅いガソリン需要の一因であると考えられる(同月の同国の自動車運転距離数も前年同月比で1.2%の増加と前月のそれ(同0.3%の増加)からは増加幅が拡大している)。また、同月の同国からのガソリン輸出量が速報値段階では日量68万バレルと推定されるところ、確定値では同73万バレルへと上方修正されたことで、この分が速報値から確定値に移行する段階で国内需要から輸出に繰り入れられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。他方、2017年12月の同国ガソリン需要(速報値)は日量913万バレル、前年同月比で1.7%程度の減少となっている。12月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.594ドルと、前年同月比で0.228ドル(約9.6%)上昇しているものの、前月比では0.084ドル下落していることから、この面では需要は安定するはずのところであることから、当該需要は速報値から確定値に移行する段階で上方修正されるといった展開がありうるものの、12月は後半を中心として米国に寒波が来襲、気温が平年を大幅に下回った結果、住民の自動車による外出が手控えられたことが影響した可能性はある。他方、年末年始にはガソリン最終製品の生産は低下する傾向が見られる(図3参照)が、米国の製油所は秋場のメンテナンス作業を終了するとともに冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期に向け稼働を上昇、原油精製処理を進めつつある(図2参照)ことに伴い、暖房用石油製品生産に際しての連産品としてガソリンの混合基材の生産が活発化したと見られることから、当該在庫は混合基材を中心として増加傾向となったうえ、平年幅上限を超過する水準となっている(図4参照)。
2017年10月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量397万バレルと前年同月比で0.5%程度の減少となったが、速報値である日量382万バレル(前年同月比4.1%程度の減少)からは相当程度上方修正されている(図5参照)。同月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量152万バレルと推定されるところ、確定値では同147万バレルへと下方修正されたことで、この分が速報値から確定値に移行する段階で輸出から国内需要へ繰り入れられたことが、当該需要の上方修正の一因になっているものと見られる。また、同月の米国の鉱工業生産は前年同月比で2.9%程度伸びているなど経済は比較的堅調であったことから、同国の物流活動が陸上を中心として同5.3%程度拡大した割には、この月の留出油需要は前年同月比で減少となるなど、9月の需要(日量392万バレル、前年同月比で0.3%の増加)に続き、増加幅が抑制されている。これについては、10月の米国北東部の気温が前年同月に比べ温暖であったことから、暖房油需要が抑制されたことが影響している可能性が考えられる。また、2017年12月の留出油需要(速報値)は日量402万バレルと、前年同月比で0.7%程度の減少となっている。12月の景況感等の経済関連指標類は必ずしも米国の経済が減速したことを示しておらず、また8~11月に前年同月比で5%超伸びている同国の物流活動が、12月に入って急減速したとも考えにくいことから、当該需要は速報値から確定値に移行する段階で上方修正される余地があろう。また、8月下旬にハリケーン「ハービー」が米国メキシコ湾岸地域に来襲した結果当該地域の製油所の稼働が停止したことに加え、その後の秋場の製油所メンテナンス作業シーズン突入による石油製品生産活動の低下により、留出油在庫が低下したことから、暖房油価格が原油のそれを相当程度上回ったこともあり、秋場のメンテナンス作業の終了とともに製油所の稼働が大幅に上昇(2017年12月29日の週の製油所での原油精製処理量は日量1,761万バレルと同年8月25日の週に到達した同1,773万バレル(1982年後半以降の米国週間統計史上最高水準)に迫るものであった)、留出油生産が活発となった(図6参照)ことから、米国での留出油在庫は堅調に増加した結果、2018年1月上旬時点では平年幅上限付近に位置する量となっている(図7参照)。
2017年10月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で0.8%程度増加の日量1,981万バレルとなった(図8参照)。ガソリン及びジェット燃料の需要が前年同月比で増加した(米国経済が比較的好調であることから、消費者による航空機の利用が活発化していることもあり、ジェット燃料の需要は2017年3月以降前年同月比で増加が続いている)ことが石油製品需要の伸びに影響している。また、留出油需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正されたこともあり、石油製品全体の需要も速報値(日量1,979万バレル、前年同月比0.7%程度の増加)から上方修正されている。2017年12月の米国石油需要(速報値)は、日量2,058万バレルと前年同月比で3.0%程度の増加となった。ジェット燃料に加え、プロパン/プロピレン(米国での気温低下により暖房用需要が喚起されていることによるものと考えられる)、及びその他の石油製品の需要が前年同月比で増加したことが、石油需要全体を牽引している格好となっている。ただ、その他石油製品の需要は日量375万バレルと2016年11月~2017年10月の当該需要(確定値)である同315~382万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正される結果、同国の石油需要に影響を及ぼすこともありうる。他方、米国国内では製油所の稼働が上昇し、原油精製処理が進んだことに加え、ハリケーン「ハービー」の米国メキシコ湾岸来襲に伴う製油所の停止による米国産原油の余剰感発生からWTI等米国産原油価格のブレントのそれに対する割安感が増大したが、ハリケーン通過後米国の製油所の稼働が再開して以降も、中東地域における地政学的リスク要因に伴う市場での石油供給途絶懸念の増大やOPEC及び一部非OPEC産油国による減産延長に対する市場の期待感増大等から、相対的に中東地域に市場が近い欧州の指標原油であるブレント原油価格に上方圧力が加わったことにより、WTIのブレントに対する割安感が継続したこともあり、米国からの原油輸出が高水準のままとなったことから、12月中旬から1月上旬にかけ米国原油在庫は減少傾向となったが平年幅上限を超過する状態は維持されている(図9参照)。そして、原油、ガソリンの在庫がいずれも平年幅上限を超過している他、留出油在庫が平年幅上限付近に位置する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2017年12月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国で減少した他、欧州及び日本でも秋場の製油所メンテナンス作業が終了したことに伴い、原油精製処理量が増加、もしくは高水準を維持したこともあり、原油在庫は減少した。そして米国、欧州、及び日本で原油在庫が減少したことから、OECD諸国全体としての原油在庫も減少しているが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、欧州では暖房シーズン突入に伴い暖房油(軽油)等の需要が盛り上がったものの、製油所の稼働回復により石油生産活動が高水準を維持したことから、中間留分在庫は前月比で変わらずとなった他、主に米国に輸出されるガソリンも冬場の休暇シーズンに伴う需要はあるものの、夏場に比べれば限定的であることもあり、当該在庫が増加したことから、石油製品全体の在庫も若干ながら増加した。一方で、米国では、製油所の稼働上昇と石油製品生産活動の活発化に伴いガソリンや軽油在庫は増加したものの、冬場の暖房シーズン突入により、LPG等の国内需要や輸出が活発化したと見られることに伴い当該在庫が減少したことで相殺されたことから、石油製品全体の在庫も前月比で微減となった。また、日本においても冬場の暖房シーズン突入に伴う灯油需要の増加と在庫の減少の影響で、石油製品全体の在庫も減少した。結果として、欧州での石油製品在庫の増加を米国と日本の減少で相殺して余りある状態となったことから、OECD諸国全体としての石油製品在庫は減少となったが、量としては平年並みとなっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過している一方石油製品在庫が平年並みの量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を上回る状態となっている(図14参照)。なお、2017年12月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は61.1日と11月末の推定在庫日数(62.0日)から減少している。
12月13日に1,300万バレル台後半の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫量は、12月20日は1,300万バレル台後半の量を維持したものの、12月27日には1,300万バレル弱へと減少した。しかしながら、2018年1月3日には1,400万バレル弱の水準へと回復、1月10日も1,400万バレル弱の量を維持するなど、当該在庫は上下に変動しつつも概ね限られた範囲内で推移した。年末の休暇シーズン到来で自動車での移動活発化に伴うガソリン需要が発生したことに加え、2018年第一四半期に中東地域の製油所が大規模な製油所メンテナンスを予定していることから、それに備えてガソリン調達が活発化したことが、シンガポールでの当該製品在庫の積み上がりを抑制したものの、他方で、アジア地域の製油所は秋場のメンテナンス作業シーズンが終了し、稼働を上昇させるとともに、ガソリン等の石油製品生産活動を活発化させたことから、結果として軽質留分在庫が維持されたものと考えられる。ただ、米国でガソリン在庫が増加してきていることに加え、中国の2018年第一四半期の国営4石油会社によるガソリン輸出枠が推定日量61万バレルと前年同期比で約79%の大幅な増加となる旨12月28日に報じられたこともあり、アジア地域でのガソリン需給の緩和感が市場で醸成されたことがガソリン価格に下方圧力を加えたことから、アジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は縮小する傾向が見られる。
12月中は、アジア地域のナフサ需要が堅調であるとの認識が市場で根強かった(欧米やアジア諸国等の経済が落ち着きつつあることから、プラスチック等の需要が回復していると見られることが背景にあると考えられる)。一方、冬場の暖房需要期に入ったことから石油化学部門でナフサと競合するLPG価格が比較的高水準であったことで、当該部門においてナフサからLPGへと原料を転換する状況ではないことが、ナフサ需要を維持させる結果となった他、日本でも冬場の暖房シーズンに突入したことから、製油所では灯油の製造を活発化させたことによりナフサ生産が影響を受けたと伝えられる。結果として、アジア市場ではナフサの需給引き締まり感が発生したことから、ナフサとドバイ原油との価格差(この場合ナフサ価格がドバイのそれを上回っている)は拡大する傾向が見られた。しかしながら、1月に入ってからは、米国でガソリン在庫が積み上がりつつあったことから、米国にガソリン(そしてナフサはしばしばガソリンに混入される)を輸出している欧州地域からアジア地域にナフサが輸出されるのではないかとの観測が市場で発生したことに加え、アジア地域の石油化学会社のナフサ分解装置がメンテナンス作業に突入することに伴うナフサ需要の低下、さらには冬場の暖房需要期の終了接近に伴うLPG需要と価格の低下が視野に入り始めたことが、ナフサ価格に下方圧力を加えた結果、それまでドバイ原油価格を上回っていたナフサ価格はその価格差を縮小、1月中旬には原油価格を下回る場面も見られている。
12月13日には1,000万バレル台前半程度の水準であったシンガポールの中間留分在庫は、12月20日には800万バレル台半ば程度、12月27日には800万バレル弱の量へと減少した。1月3日には1,000万バレル台前半の量へと持ち直したものの、1月10日には1,000万バレル台弱の量へと再び減少している。アジア諸国における製油所での秋場のメンテナンス作業が終了し石油製品生産活動が回復してきていることが当該地域での中間留分在庫を下支えする一因となっているものと考えられる。一方で、インドではモンスーン(雨季)シーズンが終了したことに伴い、雨天時には鈍化していた道路や建設工事のための資機材の製造や輸送に際しての軽油需要が活発化したと見られることに加え、中国での石炭から天然ガスへの燃料転換政策の影響でLNG供給が不足、輸送部門でLNGを燃料としていたトラック等の走行に支障が発生、代替として軽油を燃料とするトラック等の走行が活発化した結果、軽油需要が盛り上がっていると見られることが、シンガポールの中間留分在庫水準を抑制しているものと見られる。他方、米国北東部に寒波が到来したことにより、欧米市場での暖房油価格が上昇した影響を受け、例えば、軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格が原油のそれを上回っている)には拡大する傾向が認められる。
12月13日には2,300万バレル台前半程度の量であったシンガポールの重油在庫は、12月20日には2,200万バレル台後半の量へと減少したものの、12月27日には2,500万バレル台前半の水準へと増加した。ただ、1月3日には2,200万バレル台後半の量、さらに、1月10日には1,900万バレル台後半の量へと減少している。日本や韓国で気温が低下するとともに、暖房のための発電向け重油調達が活発化してきていることが、シンガポールでの重油在庫減少の背景にあるものと考えられる。ただ、アジア地域等の製油所がメンテナンス作業を終了し操業を再開、当該製品生産活動を活発化させつつあるうえ、欧州方面(欧州諸国等でも製油所がメンテナンス作業を終了したことに伴い操業を再開するとともに製品生産が回復してきている)からシンガポールに向け重油が輸出されつつあり、1~2月にかけシンガポールへの重油の流入量が高水準になるとの観測が市場で増大してきていることから、重油と原油の価格差(この場合重油の価格が原油のそれを下回っている)はむしろ拡大する傾向にある。
2.2017年12月中旬から2018年1月中旬にかけての原油市場等の状況
2017年12月中旬から2018年1月中旬にかけての原油市場は、イエメンの武装勢力がサウジアラビアのリヤドに向け弾道ミサイルを発射した旨発表したことや、リビアでの原油パイプライン爆破と操業停止、イラン各地での反体制デモの発生といった地政学的リスク要因に伴う市場での石油供給途絶懸念の増大や、米国原油在庫の減少、米国北東部への寒波来襲による暖房油需要増加観測に伴う暖房油価格の上昇、及び米国株式相場の上昇等から、原油相場に上方圧力が加わった結果、原油価格は上昇傾向となり、1月12日にはWTIで1バレル当たり64.30ドルと2014年12月5日以来の高水準の終値に到達した(図15参照)。
12月18日には、この日ナイジェリアの石油産業労働組合PENGASSAN(Petroleum and Natural Gas Senior Staff Association of Nigeria)によるストライキが開始された(組合員の大量解雇が発生しているとして、12月18日から全国規模でストライキを実施する旨12月7日に同労組が表明していた)ものの、同日解雇された組合員に対し職場への復帰と組合加盟を認めることで双方が合意したことから、当該ストライキが中止されたことで、同国からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことに加え、12月18日に米国エネルギー省(EIA)から発表された掘削生産性報告(DPR:Drilling Productivity Report)で、2018年1月の同国主要7シェール地域における原油生産量が前月比で日量9.4万バレル増加するとの見通しをEIAが明らかにしたことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.14ドル下落し、終値は57.16ドルとなった。しかしながら、12月19日には、12月20日にEIAから発表される予定である同国石油統計(12月15日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、12月19日にイエメンのフーシ派武装勢力がサウジアラビアのリヤドの王宮に向け弾道ミサイルを発射した旨発表した(サウジアラビア側が迎撃し被害は発生しなかった旨報じられる)ことで、中東情勢を巡る地政学的リスク要因に伴う石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.46ドルと前日終値比で0.30ドル上昇した(なお、NYMEXの2018年1月渡しWTI原油先物契約取引はこの日を以て終了したが、2018年2月渡し契約のこの日の終値は1バレル当たり57.56ドル(前日終値比0.34ドル上昇)であった)。12月20日も、この日EIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で650万バレルの減少と、市場の事前予想(同315~380万バレル程度の減少)を上回って減少していた他ガソリン在庫が前週比で124万バレルの増加と市場の一部事前予想(同110~230万バレル程度の増加)ほど増加していなかった旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.63ドル上昇し、終値は58.09ドルとなった。12月21日も、12月20日にEIAから発表された同国石油統計で原油在庫が市場の事前予想を上回って減少していた他ガソリン在庫が市場の一部事前予想ほど増加していなかった旨判明した流れを引き継いだうえ、OPEC事務局がOPEC及び一部非OPEC産油国による減産合意に関する出口戦略に関して検討を開始した旨12月21日に報じられたことで、減産が漸進的に解消されることにより石油市場が突然供給過剰に陥るといった事態は回避できるとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり58.36ドルと前日終値比で0.27ドル上昇した。12月22日も、ロシアのノバク エネルギー相が、減産に参加するOPEC産油国等の間では、減産合意を終了する際にも供給過剰を回避すべきであることで意見が一致している旨発言したと12月21日夕方に報じられたことで、減産が漸進的に解消されることにより石油市場が突然供給過剰に陥る事態は回避できるとの観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.11ドル上昇し 終値は58.47ドルとなった。この結果原油価格は12月19~22日の4日間併せて1バレル当たり1.31ドル上昇した。
12月25日は、米国等でのクリスマスの休日に伴い、NYMEX等での原油先物市場が休場となったことから、原油先物価格の終値は計上されなかったが、12月26日には、この日リビアのEs Sider石油ターミナルに原油を輸送するパイプラインが武装勢力により爆破された結果、同国の原油生産量が日量7~10万バレル減少した旨同国国営石油会社NOCが同日発表したことで、同国を巡る石油供給途絶懸念が市場で発生したことに加え、サウジアラビアの関係筋が、同国の原油生産量が2023年に日量1,103万バレルである一方、原油価格は同年に1バレル当たり75ドルに到達すると想定することにより原油収入は2023年までに80%増加すると予想している旨明らかにしたことで、原油価格の先高観が市場で発生したこと、12月25~26日に米国北東部の気温が低下した他、今後2週間程度当該地域の気温が平年を割り込む水準にまで低下したままとなる旨の予報が発表されたことで、暖房用石油製品需要の増加観測が市場で発生したことにより、米国暖房油先物相場が上昇したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.50ドル上昇し、終値は59.97ドルとなった。ただ、12月27日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、12月26日に爆破により操業を停止したリビアでのパイプラインにつき、1週間程度で修理を完了できる他、同国の原油輸出に対する影響は限定的である旨12月27日にNOCが明らかにしたことで、同国を巡る石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.64ドルと前日終値比で0.33ドル下落した。 それでも、12月28日には、12月27日にEIAから発表された同国石油統計(12月22日の週分)で原油在庫が前週比で461万バレルの減少と市場の事前予想(同350~400万バレル程度の減少)を上回って減少していた旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.20ドル上昇し、終値は59.84ドルとなった。また、12月29日も、12月28日にEIAから発表された同国石油統計で原油生産量が前週比で減少していたことから、この先の石油需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、米国北東部に厳しい寒波が来襲していることにより、暖房用石油製品需要が増加するとの観測が市場で増大したことから、米国暖房油先物相場が上昇したことにより、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.42ドルと前日終値比で0.58ドル上昇した。この結果原油価格は12月28~29日の2日間で併せて1バレル当たり0.78ドル上昇した。
2018年1月1月は米国等での新年の休日に伴いNYMEX等での原油先物市場が休場となったことから、原油先物価格の終値は計上されなかったが、英領北海のFortiesパイプライン(亀裂発見で12月11日に操業を停止)につき、修理が完了したことから操業を再開した旨操業者であるIneosが12月30日に発表したことに加え、リビアのEs Sider石油ターミナルに原油を輸送するパイプライン(12月26日の武装勢力による爆破により操業停止)につき、修理が完了し、正常操業に向け原油輸送を再開した旨12月31日に報じられたことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、イランで12月28日に発生した反体制デモが各地に拡大するなど、同国情勢が混乱し始めたことから、同国からの原油供給への影響に対する懸念が市場で発生したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、1月2日の原油価格の終値は1バレル当たり60.37ドルと前週末終値比で0.05ドルの下落にとどまった。また、1月3日も、イランで12月28日に発生した反体制デモの各地への拡大による同国からの原油供給への影響に対する懸念が市場で発生した流れを引き継いだうえ、1月3日にドイツ連邦雇用庁から発表された2017年12月の失業者数が224.2万人、前月比で2.9万人の減少と市場の事前予想(同1.2~1.3万人程度の減少)を上回って減少していた旨明らかになったこと、同じく1月3日に米国供給管理協会(ISM)から発表された同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大及び縮小の分岐点)が59.7と市場の事前予想(58.1~58.2)を上回ったこと、1月4日にEIAから発表される予定である同国石油統計(12月29日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、米国北東部に厳しい寒波が来襲していることにより、暖房用石油製品需要が増加するとの観測が市場で増大した流れを引き継いだことで、米国暖房油先物相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.26ドル上昇し、終値は61.63ドルとなった。1月4日も、イランで12月28日に発生した反体制デモの各地への波及による同国からの原油供給への影響に対する懸念が市場で発生した流れを引き継いだうえ、1月4日にEIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で742万バレルの減少と市場の事前予想(同470~570万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり62.01ドルと前日終値比で0.38ドル上昇した。この結果原油価格は1月3~4日の2日間で併せて1バレル当たり1.64ドル上昇した。ただ、1月5日には、これまでの原油価格上昇に対して利益確定の動きが市場で発生したことに加え、1月4日にEIAから発表された同国石油統計で原油生産量が前週から増加している旨判明したことで石油需給の緩和感が市場で醸成されたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.57ドル下落し、終値は61.44ドルとなった。
しかしながら、1月5日に米国石油サービス企業Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で742基と前週比で5基の減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で685基と前週比で3基の減少)となっている旨判明したことで、この先米国での原油生産が伸び悩むのではないかとの観測が市場で発生した流れが1月8日の市場に引き継がれたことで、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.73ドルと前週末終値比で0.29ドル上昇した。また、1月9日には、1月10日にEIAから発表される予定である同国石油統計(1月5日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.23ドル上昇し、終値は62.96ドルとなった。さらに、1月10日には、この日EIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で495万バレルの減少と市場の事前予想(同350~390万バレル程度の減少)を上回って減少していたことに加え、米国の原油生産水準が前週比で低下していた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.57ドルと前日終値比で0.61ドル上昇した。1月11日も、1月10日にEIAから発表された同国石油統計で原油在庫が市場の事前予想を上回って減少していたことに加え、米国の原油生産水準が前週比で低下していた旨判明した流れを引き継いだうえ、1月9日までの1週間で米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が350万バレル超減少した旨米国石油情報サービス会社Genscapeが報告したと1月11日に報じられたことで、WTI受け渡し地点での原油需給引き締まり感を市場が意識したこと、1月11日に欧州中央銀行(ECB)から発表された理事会議事要旨(2017年12月14日開催分)で、2018年初めに金融政策に関する方針の再調整を実施することについて当該理事会で議論された旨明らかになったことで、ECBが金融緩和政策の縮小を推進するのではないかとの市場の観測が増大したことにより、ユーロが上昇したことに加え、1月11日に米国労働省から発表された2017年12月の同国生産者物価指数(PPI)が前月比で0.1%の低下と2016年8月(この時は同0.2%低下)以来の低下となった他、市場の事前予想(同0.2%程度の上昇)を下回ったことから、米ドルが下落したことにより、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.23ドル上昇し、終値は63.80ドルとなった。そして、1月12日には、この日発表された米国大手金融機関JPモルガン・チェース及び米国大手資産運用会社ブラック・ロックの2017年10~12月期業績が市場の事前予想を上回ったことにより、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり64.30ドルと前日終値比で0.50ドル上昇した。この結果原油価格は1月8日の週はいずれの取引日も前日終値比で上昇となり、上昇幅は5日間で併せて1バレル当たり2.86ドルとなった他、1月12日の終値は2014年12月5日(この時は同65.84ドル)以来の高水準なものとなった。
3.今後の見通し等
イエメンでは、ハディ暫定大統領と対立し、しばしば衝突、また、同暫定大統領を支援しているサウジアラビアが主導する有志連合軍からしばしば空爆等の攻撃を受けている、フーシ派武装勢力(イランが支援していると言われているが、イランは公式にはその旨明言していない)が、11月4日にサウジアラビアのキングハーリド国際空港に向け発射した弾道ミサイルに関し、12月14日に米国ヘイリー国連大使が同ミサイルはイラン製である(残骸にイラン企業のロゴがある)としてイランを非難したが、それに対し12月16日にはイランのザリフ外相がそのような主張には根拠がないと反発した。他方、12月19日には、フーシ派武装勢力がサウジアラビアのリヤドの王宮に向け弾道ミサイルを発射した旨発表、また、1月5日にも、同勢力は、サウジアラビア南部のナジュラーンにある軍事関連施設に向けて弾道ミサイルと発射した旨発表したが、いずれもサウジアラビア軍によって迎撃されたと報じられる。また、サウジアラビアにより先導される有志連合軍がフーシ派武装勢力への攻撃を継続するのであれば、イエメン沖合の紅海を封鎖する意向である旨同武装勢力が示唆したと1月9日に報じられる。
イランでは、12月28日に北東部のマシャドで市民デモが発生したが、これが1月1日にかけイラン各地に波及、当初は政府の経済政策を批判するためのものであったが、後に1979年以降継続するイスラム革命を主導するハメネイ師にも批判が向けられ、警察との衝突で21~23名の死者も発生したと伝えられる。なお、当該デモは鎮圧された旨1月7日に同国革命防衛隊が発表している。また、1月5日には、米国の要請により、当該デモに関する国連安全保障理事会緊急会合が開催されたが、米国がイランでのデモ弾圧に際しイラン政府が人権を侵害したとして批判的な姿勢を示したのに対し、ロシアやフランス等は本件を安全保障理事会で取り上げることにつき異議を唱えるなどしたため、特段の結論には至らなかった。他方、1月12日には、米国のトランプ大統領は、ウラン濃縮を巡る対イラン制裁停止を継続する旨表明したが、イランの反体制デモ弾圧に伴う人権侵害や弾道ミサイル開発に関与した14の個人や団体を制裁対象として追加するとともに、米国議会や欧州諸国に対し、イランとの合意見直しを強く要請、なされない場合には直ちに核合意を破棄する旨示唆した(次回の判断は120日後の5月と伝えられる)。これに対しイランのザリフ外相は核合意に違反しているとして米国を非難するとともに、核合意見直しを行う余地はない旨表明している。
他方、トランプ大統領が12月6日にエルサレムをイスラエルの首都と認定したことを受け、12月16日には、国連安全保障理事会において、エルサレムの取り扱いを一方的に変更することは無効であるとして、米国の行為の事実上の撤回を求める決議案が提出されたが、12月18日に米国が拒否権を発動したことにより、否決された(15ヶ国中賛成14ヶ国、反対1ヶ国)。その後、トルコとイエメンが国連緊急特別総会を開催し米国の行為の事実上の撤回を求める決議案に対し賛否を問うよう要請した結果、12月19日に国連総会は12月21日に緊急特別総会を開催する旨発表した(当該決議は法的に拘束力を持つものではないが、政治的な圧力を加えるには有効とされる)。これについて、12月20日に米国のトランプ大統領が、当該決議案に賛同する国に対しては、経済支援を縮小する旨警告した。そして、12月21日に国連緊急特別総会が開催され、エルサレムの取り扱い変更に関する米国の決定を事実上無効とし、取り下げを促す旨の決議案を賛成128、反対9、棄権35で採択した。他方、12月6日の当該認定以降に実施されたパレスチナ人による抗議デモ等の際に12名が死亡した旨パレスチナ側は12月24日に明らかにしている。さらに、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したことに抗議し、パレスチナ自治政府は駐米代表を召還する決定をした旨12月31日に発表した。
ベネズエラでは、オリノコ地域にある53億バレルのアヤクチャ鉱区の一部に賦存する原油を含む石油資源等を裏付けとする仮想通貨の発行を実施する旨ロドリゲス通信情報相が12月28日に発表した。そして、マドゥロ政権は、1月5日に1億分の仮想通貨「ペトロ」を発行する旨決定した(1ペトロはベネズエラ原油1バレル当たりの価格に相当)が、野党が中心である国会は1月9日に、「ペトロ」を違法なものであるとの決議を可決した。他方、同国の消費者物価上昇率が2017年は2,616%に達した旨ベネズエラ国会が1月8日に発表した他、1月9日には、格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が同国国債(2020年償還)の格付けをデフォルト扱いである「D」とした旨発表した。
このように地政学的リスク要因面では、様々な動きが見られるが、市場では、まず、イエメン情勢が注目される可能性がある。イエメンではサウジアラビアが支援しているハディ暫定大統領の勢力とイランが支援しているとされるフーシ派武装勢力との間での対立から両勢力が衝突を繰り返しており、またサウジアラビアが主導する有志国連合がハディ暫定大統領の勢力を支援すべくフーシ派勢力に対し空爆等の攻撃を加えていることから、フーシ派武装勢力もこれに対抗、サウジアラビアに対してミサイル攻撃を実施している。2017年11月及び12月にはイエメンからサウジアラビアの首都であるリヤドに向けてミサイルが発射されていることから、そう遠くない時期にサウジアラビア東部にある油田地帯等がミサイルの射程内に入る可能性があるため、サウジアラビアの石油供給安全保障面での市場の懸念が発生しやすい状況にある。今後さらにイエメンからの弾道ミサイル発射が実施され、そしてそれが東部油田地帯等同国の石油インフラなどを脅かすようになれば、市場での懸念が高まることを通じ、原油相場に上方圧力を加える場面が見られることも想定される。また、フーシ派武装勢力は有志連合軍が攻撃を継続するのであれば、紅海を封鎖することもありうる旨表明しており、この面でも石油市場での懸念を市場で増大させやすい状況とならしめるものと考えられる。
また、米国のトランプ大統領は1月12日にイランに対する制裁停止の延長を表明した。しかしながら、米国議会や欧州諸国に対し、イランとの間での核合意を見直さなければ、当該合意から即刻離脱する旨示唆している。このようなことから、今後米国議会や欧州諸国、そしてイラン、さらにはトランプ大統領による、当該合意(そしてその見直し)を巡る発言や行動によっては、市場において対イラン制裁再発動とイランの原油生産への影響、もしくは中東情勢の不安定化に対する懸念が市場で増大することを通じ、原油相場に上方圧力を加える場面が見られることもありうる。
また、以上に述べた事象以外にも、サウジアラビア、イラン、シリア、米国、ロシア、トルコ、イスラエル等を含め中東情勢は複雑化してきており、今後の展開も読みにくくなっている。また、外交関係等は当事国間での意思疎通等の行き違い等により時として当初想定していなかった方向に事態が進んでしまうことがある。従ってこの面でも中東情勢の不安定化と石油供給途絶に対する懸念が市場に根強く残ることを通じ、原油価格を下支えする可能性があるものと考えられる。
ベネズエラについても、同国国債の格付けが「債務不履行」扱いと認定されたこともあり、今後の同国の情勢と石油産業への資金供給、そして原油生産への影響に関し市場の不安感を増大させる結果、それが原油価格に織り込まれる可能性があるので、注意する必要があろう。
米国では、1月30~31日に予定されている連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利が現在の1.00~1.25%から1.25~1.50%へと引き上げられる可能性が高い(金利引き上げ確率は1月12日時点で98.5%となっている)。従って、この面では米ドルを上昇させるとともに原油相場に下方圧力を加えることになりやすい。しかしながら、最近では米国等で株式相場が上昇を続けていることから、投資家のリスク許容度が拡大していることもあり、例えば、米国外市場への投資等のために米国外通貨を入手すべく米ドルを売却することにより、米ドルが下落する方向に向かうこともありうる。そしてそうなった場合、インフレの発生する可能性の増大と原油市場では受け取られることなどから、インフレに対して耐性を有するとされる実物資産の一つである原油の購入が進む結果、原油相場に上方圧力が加わるといった展開も否定できない。また、株式相場が上昇を継続するようだと(そして、米国トランプ政権による減税措置等の導入に伴う企業業績の向上への期待から、株式相場が上昇を継続する可能性はあるものと思われる)、世界経済成長が加速するとともに、主要石油消費国の需要が上振れするとの観測も市場で発生しやすくなる他、石油を含めたエネルギー関連企業の業績向上期待から当該企業の株式価格が上昇することに先導され、株式相場全体が押し上げられることにより、経済成長と石油需要観測が市場で強まることを通じ、原油価格に上方圧力が加わるといった場面が見られることもありうる。さらに、米国、欧州、及び中国等の経済指標や米国主要企業等の2017年10~12月期業績の内容が直接、もしくは株式相場や米ドルの変動を通じ、原油相場に影響を及ぼす可能性もある。
米国のテキサス州やルイジアナ州では、年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の陸上在庫保有を敬遠することが一因となり、米国メキシコ湾岸地域では12月末にかけ原油在庫が相当程度減少、これにより米国全体の原油在庫も減少傾向を示したと見られる。もっとも、原油は沖合のタンカーに貯蔵されて停泊していると言われており、1月に入ると製油所等での原油等の受入が再開されるとともに、沖合で停泊していた原油貯蔵タンカーが接岸し原油を陸上タンクへと移動させることにより、原油在庫が増加する可能性もあり、これにより原油相場が押し下げられる場面が見られることもありうる。また、米国では1月後半以降も最終消費段階では冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期はなお続く(暖房シーズンは概ね11月1日から翌年3月31日までである)ものの、製油所の段階では、既にある程度暖房用石油製品の生産が進んでおり、むしろ間もなく春場のメンテナンス作業時期に突入することで、その時期に向け稼働を引き下げ始めるとともに、原油の購入を不活発にしてくる。このため、原油に対する需要がこの先低下するとの観測を含め、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなることから、この面で原油相場に下方圧力が加わる可能性がある。ただ、暖房用石油製品需要の中心地である米国北東部において平年を割り込む気温が継続したり、また平年を割り込む気温の予報が発表されたりすると、一時的であれ、市場での暖房油需給の引き締まり感の醸成から、暖房油価格、そして原油価格が上昇する場面が見られることもありうる。また、米国のシェールオイルを含む原油生産状況及びその見通し、そして同国での石油坑井掘削装置稼働数等についても、市場が注目するものと考えられる。1月10日にEIAから発表された米国週間石油統計では、1月5日の週の米国本土48州の原油生産量は前週比で日量29.3万バレルの減少と、それまでの概ねの傾向である同2万バレル以上の増加とは異なる結果となった。これについては、現時点では、米国への寒波の来襲と気温低下による同国陸上油田での機器類の凍結に伴う生産上の支障の発生によるもので一時的な現象と見る向きもあり、原油価格が上昇する中で、今後は同国の原油生産増加が継続するとの見方は市場では根強い(1月9日に発表されたEIAによる短期エネルギー展望(STEO:Short-term Energy Outlook)では、2018年の米国本土48州陸上原油生産量は日量808万バレルと前月から同25万バレル上方修正されている)。ただ、今後同国のシェールオイルを含む原油生産量の動向及び見通しに変化が生じるようであれば、非OPEC産油国石油供給の伸びの大部分を米国が担っていることから、原油相場もその影響を受ける可能性があるため、注意が必要であろう。
足元の需給面では、冬場の暖房シーズンに伴う石油需要期が峠を越え始めつつある中で、米国の原油生産増加観測が根強いことから、この面では原油相場に下方圧力が加わりやすくなるはずである。しかしながら、堅調な株式相場により投資家のリスク許容度が拡大していることから、原油価格が下落しても、それが原油先物契約等の買い増しの良い機会として市場から受け取られてしまい、結果として原油価格が十分に下落しない場面がより多く見られる一方で、原油価格を上昇させる要因に対しては、市場は敏感に反応し、原油価格を押し上げる可能性がある。原油相場を上昇させ得る要因としては、当面は、OPEC産油国の減産遵守に伴う消費国での石油在庫余剰感低下への期待、イエメンからサウジアラビアへの弾道ミサイルの発射、及びイランのウラン濃縮問題を巡る米国等の対応などを含めた地政学的リスク要因、冬場の北半球、特に米国北東部での気温もしくは気温予想と暖房油需要及び暖房油価格の動向などが挙げられよう。これらを含む要因により、原油相場を下支えされ、もしくはそれら要因の展開次第では原油価格が上昇する場面が見られることが想定される。これまで原油価格はかなり継続的に上昇基調を示してきていることから、今後原油価格は一時的に下落する場面が見られるかもしれないが、それも限定的な期間及び規模にとどまり、むしろ少なくとも当面原油相場は上昇基調となりやすいものと考えられる。
4.世界の原油の流れに関する一考察
OPEC及び一部非OPEC産油国は2017年初から減産を実施した。この結果、世界の原油輸入国における原油の流れにどのような変化が生じたか。ここでは、各産油国で生産される原油の欧米諸国、及びアジア主要原油輸入国(日本、韓国、中国、インド)への流れにつき、考察することとしたい。なお、考察する期間としては、原則2017年1~11月(アジア主要原油輸入国)、1~10月(米国)、1~9月(欧州)とする。
米国ではOPEC及び一部非OPEC産油国による減産開始後暫くは原油輸入への影響が不明確であった(図16参照)。例えば2017年4月のサウジアラビアから原油輸入量は日量115万バレルと2016年12月に比べ日量14万バレルの増加となっていた。このようなことから米国のOPEC産油国からの原油輸入量も同様の傾向を示していた。しかしながらそれ以降米国のサウジアラビアからの原油輸入量は減少傾向となり、7月以降は、それまでの日量100万バレル超の輸入量が日量50~80万バレル程度へと大幅に減少した。また、サウジアラビアのみならず、米国のクウェート及びベネズエラからの原油輸入量も減少傾向を示している。例えばベネズエラからの原油輸入量は2016年12月時点では日量72万バレルであったが、2017年10月は同51万バレルへと減少している。ベネズエラはチャベス政権時代から同国での原油生産等で得られる石油収入の相当部分を社会対策に使用してきたことで石油産業への投資が不活発となったうえ、近年ではマドゥロ政権下での経済混乱により、さらに石油産業への資金が流入しにくくなったことから、同国の原油生産は低下傾向を続けている。同国の2017年の原油生産量は日量199万バレルと推定されるが、これは前年比で日量25万バレルの減少となっている。しかしながら、欧州や主要アジア地域のベネズエラからの原油輸入は明確な傾向は見られない。同国の原油生産量の減少の影響は、米国に主に及んでいると言える。また、それに伴いOPEC産油国からの原油輸入量もそれまでの日量300万バレル超の水準が日量200万バレル台後半の水準へと低下している。他方、米国のカナダやメキシコ(同国はOPEC産油国の減産に協力する産油国のうちの一国である)等非OPEC産油国や、OPEC産油国でもイラクやアンゴラ等からの原油輸入量については明確な減少傾向は認められない。それでも結果としては、サウジアラビアをはじめとするOPEC産油国からの原油輸入量減少の影響を受け、米国の原油輸入量は減少に向かった。同国の国内原油生産量はシェールオイルを中心として増加傾向を示していたが、8月下旬にメキシコ湾岸地域に来襲したハリケーン「ハービー」に伴う同地域の製油所の操業停止等による、WTI等米国産原油価格のブレント等他の原油価格に対する割安感の増大で、米国からの原油輸出が活発化したこともあり、OPEC産油国からの原油輸入量の落ち込みを米国内原油供給で相殺しきれなかった格好となり、同国の原油在庫は減少することとなった。
欧州OECD諸国のサウジアラビアからの原油輸入量も米国同様減少傾向となっている(図17参照)。例えば2017年9月の原油輸入量は日量66万バレルと2016年12月の同93万バレルから同27万バレル減少した。また、欧州OECD諸国のアルジェリア、アンゴラ、赤道ギニア、及びガボンからの原油輸入量も多少なりとも減少している。ただ、クウェートやイラク、ベネズエラといった一部OPEC産油国からの原油輸入量には明確な減少傾向は認められない。UAEやカタールからの原油輸入は全くないかあっても限定的である。他方、一部のOPEC産油国は欧州OECD諸国への原油輸出を増加させている。例えば、ナイジェリアやリビアといった、OPEC産油国の減産対象から除外された産油国の欧州OECD諸国への原油輸出は増加している。ナイジェリアの2017年9月の原油輸入量は日量85万バレルと2016年12月比で日量39万バレル、リビアのそれは同71万バレルと同38万バレルの増加となっている。また、イランからの原油輸入もむしろ増加している。2016年1月16日にイランのウラン濃縮問題に伴う制裁解除がおこなれた当初は、欧州OECD諸国のイランからの原油輸入は限定的であった。しかしながら、イランでの原油生産が回復するとともに、欧州OECD諸国のイランからの原油輸入量は増加し始めた。例えば、2016年1月の欧州OECD諸国のイランからの原油輸入量は日量10万バレルであったが、同年12月には同80万バレル、そして2017年9月には日量83万バレルとなっている。非OPEC産油国を見てみると、2017年9月の欧州OECD諸国のロシアからの原油輸入量は日量304万バレルと2016年12月(同331万バレル)から減少している(もっとも前年同月からは日量8万バレルの減少にとどまっている)。ただ、アゼルバイジャンやカザフスタンからの原油輸入については明確な傾向は示されていない。全体として、2017年9月の欧州OECD諸国の域外からの原油輸入量は日量985万バレルと2016年12月比で日量47万バレル増加しているが、これはリビア、ナイジェリア及びイランといった一部OPEC産油国の原油供給増加が貢献していると言えよう。
主要アジア消費国(中国、インド、日本、韓国)においては、原油輸入に関する傾向が曖昧である(図18参照)。まずこれら諸国のサウジアラビア、クウェート、イラクといったOPEC産油国からの原油輸入量に関しては、明確な減少傾向は認められない。またUAEに関しては、中国、インドでは若干ながら減少傾向を示しているように見受けられるものの、日本や韓国ではその傾向ははっきりしない。他方、日本や韓国ではベネズエラからの原油輸入は殆どなされていない一方で、中国やインドはベネズエラから原油を輸入しているが、それが減少傾向を示しているわけではない(中国は融資の返済を原油で行う契約を有するほか、インドではRelianceがベネズエラ国営石油会社PDVSAから日量30~40万バレルの重質原油を15年間に渡り供給を受ける契約を2012年9月25日に締結しているなど、両国はベネズエラから事実上長期に渡る原油供給体制を構築していることが背景にあると考えられる)。また、ナイジェリアに関しては、中国、日本、韓国は殆ど輸入していないが、インドに関しては、それなりに輸入を行っており、しかもその量は若干ながら増加傾向を示している。さらに、非OPEC産油国を見てみると、ロシアに関しては、中国、インド、日本、韓国ともに明確な減少傾向は見られない。他方、インドでは、オマーンからの原油輸入が、また、韓国ではカザフスタンからの原油輸入量が増加している。また、中国、日本、韓国は最近では米国からの原油輸入を活発化させている。
このようにして見てみると、今回のOPEC産油国の減産は、地域的にみれば、欧米諸国、特に米国に対し相対的に大規模に実施されているように見受けられる。また、ロシアの原油供給の削減はアジア諸国というよりは欧州に向けて相対的に実施されているようである。サウジアラビア等の中東湾岸産油国にとってみれば、欧米諸国、特に米国では国内原油生産のみならず、カナダ、中南米、アフリカ等の産油国からの原油輸入といった、原油調達面での競合が相対的に厳しいことから、原油販売価格に下方圧力が加わりやすく、アジア向け原油販売価格に比べて割安になりやすい(図19参照)。一方で、競争相手の少ないアジア諸国にはそのような下方圧力が加わりにくいことから、相対的に収入が得られにくい欧米市場向けの原油販売を絞り込む一方で、相対的に収入が得られやすいアジア市場での原油販売を維持したものと考えられる。
以上
(この報告は2018年1月15日時点のものです)