ページ番号1007407 更新日 平成30年4月10日
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概要
- 2016年時点での世界全体の電気自動車(Electric Vehicle:EV)の保有台数は約200万台 (12.6億台の約0.16%)、また、2016年1年間での登録台数は75万台(9,498万台の約0.8%)に達した。中国は保有台数(65万台)・新規登録台数(34万台)ともに世界第一位
※内燃機関(Internal Combustion Engine:ICE)を持たないバッテリー式電動車(Battery Electric Vehicle:BEV)と、内燃機関を有し外部電源から充電した電力で走行するプラグインハイブリッド車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle:PHEV)の合計。 - 2017年に入り、各国政府(英・仏・中国)や自動車メーカー(トヨタ・ボルボ等)から、従来型の内燃機関車を段階的な廃止、EVの販売、EV車種の拡充等に関する発表が相次いでいる。
- IEAは、2040年時点のEV保有台数が2.8億台(全体の15%)に達し、これにより、電力需要が2%増、石油需要2.4%(2.5mb/d)減少すると見通している。しかしながら、保有自動車(ストック)の大半を占める内燃機関自動車(ICE)の燃費向上、新興国の自動車保有台数の増加による需要増の影響がより大きい。
- EVの大量普及が期待されるようになったのは、①蓄電池の技術革新(2016年273ドル/kWhに低コスト化)、②地球温暖化対策、大気汚染対策、次世代産業の育成(中国等)のための政府支援、③再生可能エネルギー大量導入に際し、負荷変動を吸収するための、「蓄電池」としてのEVへの期待等が要因として挙げられる。
- 一方で、EVの大量普及による課題としては、①リチウムイオンバッテリーの正極材材料であるLi、Coの資源制約、価格高騰懸念、②EV製造段階におけるCO2排出も含めた温室効果ガス削減、③長距離輸送でのEV利用、④車両重量増によるPM対策、⑤充電インフラ・系統安定化のための方策等 への対処が必要。
- 大気環境改善につながる、天然ガス自動車の普及は、2016年時点でEVの10倍超の約2,400万を超えた。先進国での普及が進むEVと異なり、新興国・産ガス国が中心に普及が進んでいる。特に、長距離輸送に際しては、電池コスト・航続距離・充電時間・スタンド等でも優位性のある、天然ガス自動車の活用も現時的な方策と成り得る。
1.EVの普及に向けた政策動向と、エネルギー需給への影響
自動車産業を取り巻く外部環境が大きく変わりつつある。CO2削減、燃費規制、排気ガス規制、安全性向上といった自動車そのものに係る対応だけでなく、自動運転、ライドシェア・カーシェア、蓄電池による再生可能エネルギーの負荷変動吸収への期待といった、多部門とも相互に連携し、社会全体に幅広い影響を与えるような可能性が出てきている。特に、電気自動車(Electric Vehicle:EV)はその変革の中心にあり、今後、爆発的な普及拡大が期待されている。
本章では、EVの導入に関する現状、政策、そして、今後の、移動・輸送をとりまく環境変化について、確認していきたい。
(1)EV導入実績、各国政策
電気自動車(Electric Vehicle:EV)の定義は各国・各メーカー・調査機関等により様々であるが、国際エネルギー機関(International Energy Agency:IEA)では、内燃機関(Internal Combustion Engine:ICE)を持たないバッテリー式電動車(Battery Electric Vehicle:BEV)と、内燃機関を有するが、外部電源から充電した電力で走行するプラグインハイブリッド車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle:PHEV)をEVとして、その普及状況・見通し等を整理している。
2016年時点での世界全体のEVの保有台数は約200万台[1](乗用車+トラック・バスの普及台数 約12.6億台[2]の約0.16%)に達し、2016年1年間での登録台数は75万台(乗用車+トラック・バス生産台数9,498万台の約0.8%)となっている。
特に、中国は保有台数(65万台)・新規登録台数(34万台)ともに世界第一位であり、第二位には、は、米国(保有台数56万台、新規登録台数16万台)が続いている。なお、ノルウェー(保有台数13万台、新車登録台数5万台)は凍結防止のため、車庫に電源設備を有していたといった背景もあり、新車販売の約4割をEVが占め、新車登録台数でも米国に次ぐEV先進国となっている。
2017年に入り、各国政府や自動車メーカーから、従来型の内燃機関車を段階的な廃止、EVの販売、EV車種の拡充等に関する発表が相次いでいる。
気候変動対策・大気汚染対策のため導入を促進するだけでなく、中国のように完成車・部品・素材・電池・制御等、自国内での生産、産業育成、中長期的な成長分野として取り組みも進んでいる。
[1] IEA World EV outlook 2017
[2] 一般社団法人 日本自動車工業会。2015年末の世界各国の四輪車保有台数
図 1 電気自動車(BEV+PHEV)の国別普及実績推移
(出所:IEA World EV outlook 2017)
表1 主要国、主要自動車メーカーのEV普及策
国 |
EV普及政策 |
---|---|
中国 |
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フランス |
|
英国 |
|
オランダ |
|
ノルウェー |
|
企業 |
EV化方針 |
トヨタ (2017年12月) |
|
ボルボ (2017年7月) |
|
仏ルノー・日産・三菱 |
|
(2)EVの導入見通し、燃料需給への影響
IEA、BP、BNEF(Bloomberg New Energy Finance)を始め、各国の調査機関が将来の、EV化の進展及びその燃料需要への影響予測についてとりまとめを行っている。シナリオにより差はあるものの、昨今のバッテリー技術革新(価格低下、エネルギー密度向上)や、充電インフラの整備、政府の支援(燃費規制含む)が普及拡大の鍵であり、これらが進めば、2020年代後半から販売数が増大を始め、乗用車の新車販売の中で大きな地位を占める予測している。
しかしながら、EV導入増による燃料需要代替は、IEAの新政策シナリオにおいて、石油需要全体の約2.4%(2040年の石油需要104.9mb/dのうち、2.5mb/dがEVで代替)、電力需要全体の2%程度(2040年EV2.8億台保有)としており、EV単体では需給に与える影響は限定的であるといえる。むしろ、燃料需要への影響については保有自動車(ストック)の大半を占める内燃機関自動車(ICE)の燃費向上、新興国の自動車保有台数の増加による需要増がより大きな要因となる。
なお、現行想定される政策を盛り込んだメインシナリオ以外にも、技術革新・EV導入がより進むケースも想定されている。この場合、EVの普及台数としては、3倍増のう約10億台程度となるが、それでも、石油需要の約1割(9.2mb/d)程度を代替するに留まる。
表 2 EV普及見通しと、燃料需給への影響
調査機関 |
普及見通し・シナリオ前提 |
---|---|
IEA WEO 2017 |
(新政策シナリオ)
(持続可能な開発シナリオ)
|
BP |
-走行量増大(自動車保有台数増)で23mb/d増 -燃料効率改善で17mb/d減 -天然ガス自動車への燃料転換で0.2mb/d減 -EVへの転換(1億台のEVのうち、3/4がBEV、1/4がPHEV)で1.2mb/d減 |
Bloomberg
Electric Vehicle Outlook 2017 (2017.7) |
|
(3)輸送部門の高度化による燃料需要への影響
EVの導入、自動運転、カーシェア、ライドシェアといった輸送部門の高度化による影響を表 3に示す。また、これらは、相互に関係しながら燃料需要減の効果をもたらすとともに、コスト低減や自動運転等によるアクセス性の向上は、走行距離(需要)の増大をもたらす可能性もある。
BPは、Energy Outlook 2017において、2035年の乗用車保有台数18億台のうち、EVが1億台(BEV0.75億台、PEHV0.25億台)をベースケースととし、自動運転、ライドシェア、カーシェアといった「デジタル革命進展」シナリオ、電動化がさらに進展(ベースケースに加えて、BEVが2億台増を想定)する、「デジタル革命+EV化進展」シナリオを示している。
「デジタル革命進展」シナリオでは、自動運転等により、石油需要の抑制が見込まれるものの、自動車移動のコスト低減やアクセスの良化に伴う走行距離の増により相殺される(燃料需要 約23mb/dは変化なし)としている。
また、「デジタル革命+EV化進展」シナリオでは、デジタル革命の成果が全て電動車に集約されると仮定。その結果、各要素による減要因が燃料減に集約され(石油需要は、23mb/dから15.6mb/dまで減少)、走行距離の増は石油ではなく電力量増に反映されるとしている。
あくまでシナリオの「前提」ではあるものの、デジタル革命だけでは燃料需要への影響は少なく、電動化進展状況に大きく左右されることなっている。ただ、実現していない、デジタル化進展・利便性の向上による需要増等の効果を予測するのは困難でもあり、具現化の時期、影響量も、相当程度幅を持ってみる必要があると考えられる。
表3 輸送部門の高度化による燃料使用量への影響
|
燃料需要への影響 |
1億台導入時燃料需要増減 |
---|---|---|
2035年ベースケース |
|
|
EV化 |
|
1.4mb/d減 |
自動運転 |
※ ICE車での導入により、燃料需要減 |
0.35mb/d減 (ICE車) |
カーシェア |
※ ICE車への導入では燃料需要へは影響しない。 |
1.4mb/d減 |
ライドプール(同乗・相乗り) |
|
1.4mb/d減
|
(出典:BP Energy Outlook 2017の前提をもとに、JOGMEC作成)
図 2 デジタル革命進展オプション
(出典:BP Energy Outlook 2017)
図 3 デジタル革命+電動革命進展オプション
(出典:BP Energy Outlook 2017)
2.EV普及の課題
EVは、これまで何度も普及拡大への期待があったものの、充電スタンド、航続距離(利便性)、価格等が、従来の内燃機関(Internal Combustion Engine:ICE)を有する自動車に劣後し、限定的な導入に留まってきた。しかし、近年、蓄電池の技術進展・低コスト化により、用途によっては従来のICE車と同水準に到達しつつあり、環境問題への対処、産業育成の観点からの政策的な支援もあり、普及拡大のための障壁の解消、将来の大幅な普及拡大につながる可能性が出てきている。
一方、個人の所有する乗用車については、自由主義経済においては消費者主導で選択されることとなり、性能・利便性が劣る製品が政策的な意義、支援、規制的措置だけでは、大幅な普及拡大は難しい。また、大量導入による資源制約、電力インフラ、輸送部門のEV化等課題も残っており、以下、EVこれまでの改善の動向と今後の課題について、確認していきたい。
(1)蓄電池
① 電池材料の供給
EV車の大量導入に際し、電池(リチウムイオンバッテリー)材料としてのリチウム、コバルト、ニッケル等を安定的に確保することが課題となる。
リチウムイオンバッテリーの主要部材は、正極材、負極材(黒鉛等)、電解液(LiPF6、有機溶媒)、正極と負極を絶縁するためのセパレーター(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等で構成される。
現在、性能、コスト等で主流となっている、三元系リチウムイオンバッテリーの正極材として用いられる、リチウム、コバルト、ニッケル主要3原料の総コストは現状のスポット価格ベースで約30ドル/kWh[1]程度であり、2016年の電池パックコスト272ドル/kWhの約12%程度となる。
今後、需給逼迫による価格の高騰も懸念され、電池コストを、100ドル/kWh以下の大幅削減目指すに際しては、原材料価格の占める割合も上昇するため、使用量の低減、原料資源の確保、原材料価格の安定化が必要となる。
表4 リチウムイオン蓄電池 正極材の種類と特徴
正極材 |
組成 |
特徴 |
コバルト系(LCO) |
LiCoO |
|
マンガン系(LMO) |
LiMnO |
|
ニッケル系 (LNO、LNCA) |
LiNiO2、 LiNiCoAlO2 |
|
三元系(NCM) |
LiNiCoMnO2 |
|
リン酸鉄系(LFP) |
LiFePO4 |
|
(出所:USGS Mineral Commodity Summaries 2017)
Li(リチウム)
リチウムの生産は、南米等塩湖(かん水)から生産されるもの、また、豪州等の鉱石由来のものに分けられる。かん水によるものは生産コスト低いが、適地も少なく、1~2年の天日干し期間が必要であり急な増産も困難であるのに対し、豪州等鉱石由来のものは、生産に要する期間短いものの、鉱石を焙焼後に硫酸に浸しリチウムを取り出す工程等でコスト高となる。なお、埋蔵量は豊富にあるものの、降水量により出荷が左右され、また、需要増に合わせて開発、供給できるかが課題。
なお、三元系リチウムイオンバッテリーに用いられる炭酸リチウム世界需要20万t(2015年)は、EV約800万台(40kWh/台、約25kg/台)[2]に相当すると想定される。
炭酸リチウム:
ニッケル系以外のリチウムイオンバッテリーの正極材、リチウムイオンバッテリー電解質(LiPF6)、窯業添加(耐熱・HDD ガラス添加剤)、連続鋳造用フラックス、コンクリート補修材、医薬品等に用いられる。リチウム純分が99.0%程度の工業品グレードと、99.5%以上のバッテリーグレードの二種がある。通常、LIB 正極材にはバッテリーグレード品が使用され、耐熱・HDD ガラス添加剤、コンクリート補修材向けでは工業品グレードが利用されている。輸入した炭酸リチウムの一部は、国内で高純度炭酸リチウムに精製され、LIB 電解質、医薬品、表面弾性波フィルター向けに使用される。
水酸化リチウム:
ニッケル系のLIB 正極材、グリース等に用いられる。鉱石又は炭酸リチウムから生産されるが、国内での生産は行われておらず、国内で使用される水酸化リチウムは全量が輸入品となる。
[1]工業レアメタル Annual review 2017等に基づき、主流の三元系NCM111のエネルギー密度0.58kWh/kg、Li(炭酸リチウム換算0.67kg/kWh、10ドル/kg)、Ni(0.36kg/kWh、10ドル/kg)、Co(0.36kg/kWh、50ドル/kg)、Mn(0.33kg/kWh、5ドル/kg)を前提に試算。なお、エネルルギー密度の向上、Co使用量の低減も進んでおりあくまで目安。
[2]工業レアメタル Annual review 2017等に基づき、主流の三元系NCM111のエネルギー密度0.58kWh/kg、Li(炭酸リチウム換算0.67kg/kWh×40kWh/台=約25kg/台、Co 0.36kg/kWh×40kWh/台= 15kg/台。Ni 0.36kg/kWh×40kWh/台= 15kg/台 として試算。
表 5 リチウム生産量、埋蔵量
(出所:USGS Mineral Commodity Summaries 2017)
図4 炭酸リチウム価格推移
(出所:通関統計)
(出所:JOGMEC、鉱物資源マテリアルフロー2016)
Co(コバルト)
Coは、銅、ニッケルの副産物で、供給量は主産物の生産動向に依存する。最大供給国のDRコンゴでは、特に小規模採掘における児童労働も問題視されており、法令遵守等の観点から大手企業が関与する増産も容易ではない。
2015年の世界需要12万トンは、EV約800万台(40kWh、15kg/台)に相当する。現状のEV生産台数には対応可能であるが、銅・ニッケルの副産物であるため、急な増産は困難であり、また、需給逼迫時には、価格の急騰懸念もある。同じ正極材料であるLi、Niと比べても、EVの生産増に伴う影響も最も大きく、今後の使用量の低減、安定的な確保が課題となっている。
表6 コバルト生産量、埋蔵量
(出所:USGS Mineral Commodity Summaries 2017)
図5 コバルト価格推移
(出所:LME)
Ni(ニッケル)
ニッケルの主な用途はステンレス鋼・特殊鋼への添加剤であり、資源量も豪州、ブラジル等を中心に豊富である。ニッケルの国際相場は、中国等を始めとするステンレス需要の鈍化により2014年前半から、下落傾向が続いている。
2016年の世界2,250千tは、EV約1.5億台(40kWh/台、Ni:15kg/台前提)に相当しする。市況による価格変動には留意が必要で、また、蓄電池向けの増産、他用途からの転用には設備投資が必要で、短期的には対応が難しい。
表7 ニッケル生産量、埋蔵量
(出所:USGS Mineral Commodity Summaries 2017)
図 6 ニッケル価格推移
(出所:LME)
② 電池コスト動向
電気自動車の蓄電池コストについては、2016年のセル+電池パックコストは、273ドル/kWhとなり、直近6年間で約1/4となる大幅なコストダウンが進んでいる。
同様のコストダウンについては、半導体の集積率が18ヶ月で2倍となるとしたムーアの法則が知られるが、過去の経験則を公式化したものであり、電池についても同様のコストダウン傾向が必ずしも将来にわたって見通せるというわけではない点に留意が必要である。また、半導体のように設備投資が大きく、シリコンウエハーの大口径化、大量生産、集積度の向上により大幅なコストダウンの可能な製造工程と違い、電池製造に際しては、設備稼働率の向上による一定の低減効果はあるものの生産量の大幅拡大による材料資源価格の高騰も、コスト低減の制約となる可能性がある。
また、米DOEによる、電池における外部調達部品のコスト内訳は図 8のとおり、多岐にわたる調達部品の総合的なコストダウンが必要となる。
図7 バッテリーコスト(セル+電池パック)推移
(出典:BNEF https://about.bnef.com/blog/lithium-ion-battery-costs-squeezed-margins-new-business-models/)
図8 車載用蓄電池材料、外部調達部品 コスト内訳
(出所:米DOE "the BatPaccost model, at Argonne National Lab",2017年10月)
③ エネルギー密度の向上、次世代電池動向
EVの航続距離を伸ばすためには電池容量(kWh)を増やす必要があるがこれは、車両重量増、燃費(電費)とのトレードオフとなるため、電池のエネルギー密度の向上のための技術開発が進んでいる。現在、電池パックのエネルギー密度は、約10kg/kWh(100Wh/kg)程度といわれ、2017年型日産リーフの車両重量1.5tに占める40kWhの電池パック重量は303kg[1]と、車両重量の約20%程度を占める。初期型の24kWh、294kgからは大幅に向上しているものの、今後さらなる高密度化がEVの普及拡大の鍵となる。
トヨタは、2017年12月、“次世代電池として性能向上が期待される全固体電池を、2020年代前半での実用化を目指し開発を進める”方針を明らかにした。
電池は、正極と負極の間にイオンの通り道となる電解質が満たされており、全固体電池は、電解質として従来の液体の代わりに固体材料を用いるものである。これにより、液漏れの防止による安全性の向上、セルの設計自由度が大きく増しモジュールの体積の減少、大電流による充電時間の短縮、高温や低温での出力低下も少ないといった長所がある。
日本政府も、次世代車載用蓄電池の実用化に向けた基盤技術開発として、平成30年度概算要求額 48.0億円(32.7億円)を計上し、2020年代後半には、2.5kg/kWh(400Wh/kg)と、現行の4倍のエネルギー密度を目指すとしている。
エネルギー密度向上による、重量低減は、燃費向上、積載容量の増加にも直結する。これら技術革新の進展次第で、都市近郊での利用が前提となっていたEVの大幅拡大の可能性が左右されることとなる。
[1] https://www.nissan-global.com/JP/ENVIRONMENT/A_RECYCLE/BATTERY/PDF/leaf_ze1_manual.pdf、https://www.nissan-global.com/JP/ENVIRONMENT/A_RECYCLE/BATTERY/PDF/nissan_leaf_manual.pdf
(出所:経済産業省http://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2018/pr/en/sangi_taka_22.pdf)
(2)電池製造段階を含めたCO2削減効果
EVは走行時の化石燃料の燃焼に伴うCO2の排出はないものの、EVに給電する電力のCO2排出係数次第で、CO2削減の効果が大きく左右されることとなる。加えて、リチウムイオンバッテリーの製造段階(採掘・精製・製造・組立)で、150~200kg-CO2/kWh程度のCO2を排出しているとも試算され[1]、これらを含めた削減効果を評価していく必要がある。
仮に、1台あたり、40kWhの蓄電池を搭載した場合を仮定すると、天然ガス火力発電からEVに給電する場合、約7万km以上の走行した場合にCO2削減効果が生じる。また、石炭火力の排出係数を前提にすれば、約20万kmの走行が必要となり、バッテリーの劣化により、交換が必要であれば、CO2削減効果はさらに限定的となる。
[1] IVL Swedish Environmental Research Institute 2017
図9 蓄電池製造段階のCO2排出を含めた、EV―内燃機関車CO2排出量比較
(出所:電気事業低炭素社会協議会(日本の排出係数)、2015年資源エネルギー庁長期エネルギー需給見通し前提(天然ガス火力はGTCC、石炭火力はUSC前提、送電端)。内燃機関車燃費15km/l、EV電費7km/kWh、EV電池積載量40kWh/台。バッテリー製造段階CO2排出係数は、175kg-CO2と想定し、JOGMEC試算。)
(出所:IVL Swedish Environmental Research Institute 2017 ."The Life Cycle Energy Consumption and Greenhouse Gas Emissions from Lithium-Ion Batteries" 。バッテリーの製造段階でのCO2排出量150-200kg-CO2/kWhの中央値175kg-CO2/kWh)
なお、現在、加速度的に導入が進む再生可能エネルギーによる発電も、普及当初は製造段階のCO2排出量に対する懸念等もあったが、ライフサイクルを通じたCO2排出原単位は、電力中央研究所の調査によれば、住宅用太陽光(0.038kg-CO2/kWh)、風力(0.025kg-CO2/kWh)、地熱(0.013kg-CO2/kWh)、水力(0.011kg-CO2/kWh)[1]等となっており、火力発電等とくらべてもCO2排出削減効果は極めて大きいといえる。今後、EVの大量導入による、気候変動対策に際しては、再エネ起源の電源の有効活用がより重要となろう。
[1] http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/leaflet/Y06.pdf
(3)トラック(長距離・重量輸送)におけるEV化
石油燃料の多くは輸送に用いられるが、EV導入の主なターゲットとする乗用車向け需要は、全体の約2割程度に留まる。現時点の電池のエネルギー密度・コストを勘案すると、航空・船舶部門では液体燃料を電動化するのは現実的ではなく、また、貨物部門においても、長距離輸送については電動化よりも、LNG燃料の活用等が当面の解決策として考えられる。
図10 燃料別エネルギー需要見通し
(出所:BP Energy Outlook 2017)
図11 用途別石油需要推移見通し
(出所:BP Energy Outlook 2017)
表8 輸送部門、用途別代替燃料
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乗用車 |
貨物自動車等 |
船舶 |
航空機 |
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燃料種 |
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|
代替燃料
|
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(CNG/LNG)
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EV化 |
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(特に外航船) |
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なお、米テスラは、2017年11月、電動セミトレーラー “Tesla Semi”を発表した。航続距離、コンセプトを発表。バッテリー容量は公表されていないが、航続距離、電費から約600kWh(航続距離473kmモデル)/1,000kWh(航続距離805kmモデル)となり、現状の電池のエネルギー密度(10kg/kWh程度)を前提とすれば、電池だけでそれぞれ、約6t/10tとなる。
日本企業でも、三菱ふそう、いすゞ自動車が、2017年11月の東京モータショーにおいて、小型電気トラックを出品している。航続距離は、約100kmで、都市部内での利用を想定している。
電池のエネルギー密度・コストによっては、今後より普及が進む可能性があるものの、輸送部門においては、当面は、特定の地域内での輸送、市内移動(バス等)での導入が先行するものと考えられる。電池容量だけでなく、1,000kWhといった大容量の充電を可能とするような充電インフラ、系統対策も併せて必要となる。
表9 Tesla Semi 仕様
モデル |
Tesla Semi |
---|---|
航続距離 |
300mileもしくは、500mile(473kmもしくは、805km) |
加速(80,000ポンド=36t積載時) |
0km/hから、97km/hに要する時間、20秒 |
電力消費 |
2kWh/mile以下(0.8km/kWh以上) |
価格 |
15万ドル(300mile・473km)、18万ドル(500mile・805km) |
製造開始 |
2019年予定 |
(出所:Tesla Website https://www.tesla.com/semi)
表10 三菱ふそう eCanter 諸元
モデル |
Tesla Semi |
---|---|
航続距離 |
100km以上 |
バッテリー |
リチウムイオン電池(6個) バッテリー容量:13.8kWh/個 (合計 82.8kWh) |
充電時間 |
1.3時間(直流急速充電時)/9時間(交流230V) |
最大積載量 |
3,600kg |
車両総重量 |
7,500kg ※車両総重量=車両重量+乗車定員×55kg+最大積載量 |
価格 |
未公表 |
製造開始 |
2017年 |
(出所:三菱ふそう Website)
(4)大気汚染対策
東京都内の窒素酸化物(NOX )の4割、粒子状物質(PM)約4分の1が自動車(建設機械等を含む。)から排出となっており、自動車からの排出量のうち、窒素酸化物の約9割、粒子状物質のほとんどがディーゼル車によるものである。
しかしながら、大気汚染対策は、自動車からの排出削減だけに留まらず、EVによる車両重量増が悪影響を及ぼす可能性もある自動車のタイヤ、ブレーキ摩擦によるPM排出の低減、工場・民生からの排出も含めた総合的な対策も重要となる。
これまでに、厳しい排出基準の適用により日本においては、都市の大気環境については大きな課題にはなっていないが、新興国では、自動車保有台数の増加、都市におけるエネルギー需要における大気環境の悪化は深刻さを増している。大気汚染対策としてのEV化も解決策の一つではあるものの、乗用車(ガソリン車)向けのEV化では効果は限定的であり、ディーゼル機関のトラック等における対策、EVだけに限らず、天然ガス・LNG・LPG等も含めた対策も現実的な対策として効果的であろう。
図12 都内のPM排出量(二次生成粒子は含まない)
(出所:東京都環境白書2017)
図13 都内のNOx排出量
(出所:東京都環境白書2017)
(5)系統対策
IEAは、2.8億台のEV導入により、2040年時点で電力需要の約2%程度の増加と試算している。また、仮に、BEV化100%(輸送用除く)となった場合でも現状の電力需要量と比べ、日、米、中は大凡1割増、EUは2割増であり、EV導入への移行期間も勘案すれば電力量(kWh)への影響は限定的といえよう。
一方、配電網、充電インフラの整備、充電に際しての不可平準化といった点では、大きな影響が考えられる。風力・太陽光といった再生可能エネルギーは、EVにおける蓄電池と同様に、近年、大幅なコストダウンが進んでいる。政策的な支援もあり、日照条件に恵まれた地域(国)での売電価格は、1c/kWh台を示すなど、天然ガス・石炭火力等とくらべても競争力のある価格水準での導入が可能となりつつある。しかしながら、需要に応じた発電ができないこれら自然電源の大量導入に際し、火力・水力発電が担ってきた負荷変動を吸収する等系統運用の改善が課題となってくる。蓄電池として、一般家庭の電力使用量(約10kWh/日)の数日分の蓄電池を搭載するEV(約30~100kWh/台)への期待は大きく、相乗効果としての普及が進む可能性があり、これらを前提としたインフラ再整備が必要となる。
3.天然ガス自動車、LNGトラック
大気汚染対策、温室効果ガスの削減のためには、EVだけでなく輸送用燃料としての天然ガス利用による改善効果も大きく、圧縮天然ガス(Compressed Natural Gas:CNG)車、LNG燃料トラック・船舶等で、既に実用化・商業化されている。特に、EVによる長距離輸送で課題になる電池コスト・航続距離・充電スタンド・充電時間等については、現時点では天然ガス車(Natural Gas Vehicle:NGV)に優位性があるといえる。EVの電池コスト・重量等の技術革新の動向が見えるまで、大気汚染対策の現実的な解決策としての普及促進が見込まれている。
(1)普及状況、短期見通し
NGVの保有台数は、2016年時点で約2,400万台以上とEVの10倍超の普及状況となっている。NGVの普及拡大を目指す業界団体である、NGV Globalによると、世界のNGV保有台数は、2024年までに3,000万台を超える見通しとなっている。
IEAも、WEO2017新政策シナリオにおいて、輸送部門の天然ガス需要を、2016年の約50Bcm(天然ガス需要3,635Bcmの約1.4%)から、2040年には約250Bcm(天然ガス需要5,304Bcmの約4.7%)への増加を見込み、このうち、天然ガス自動車需要は約185Bcm、原油換算では、約2.9mb/dに相当する。2040年に、EVが約2.8億台、原油換算約2.5mb/dの石油需想定するのとほぼ同等の見通しといえる。
図14 天然ガス自動車保有台数推移
(出所:NGV Global (旧 International Association for Natural Gas Vehicles: IANGV)
(2)各種天然ガス自動車
天然ガスを燃料とする自動車としては、燃料の貯蔵方式により、主に、圧縮天然ガス(CNG)、LNG、また、研究段階ではあるもののガス容器内の吸着材に吸着・数MPaで貯蔵する吸着天然ガス(ANG:Adsorbed Natural Gas)に分けられる。
CNG車は、天然ガスを気体のまま、高圧(20MPa)でガス容器に貯蔵する車両で、現在使用されている天然ガス自動車のほとんどがこのタイプであるといえる。なお、圧縮天然ガスだけを燃料にする天然ガス専焼車に加え、圧縮天然ガスとガソリンのどちらでも走行できるバイフューエル車、圧縮天然ガスに軽油を混合させるデュアルフューエル車等も欧州等で導入されている。燃料の供給については、ガソリンスタンドと同様に、小型車であれば数分で天然ガスを充填可能で、日本でも、既に、2017年3月末時点で46,316台[1]が普及している。
液化天然ガス自動車(LNG自動車)は、天然ガスを液体状態(-162℃)で、超低温容器に貯蔵する。現時点では、ボイルオフガス(BOG)の発生により数日間しかタンク内のLNGを維持できないこともあり、稼働率・利用率が高い事業用のトラックで、中国、米国等長距離移動を必要とされる地域での導入が中心となっている。
特に、中国では、LNG車の導入が急速に進んでおり、2016年末までにLNG車の導入台数は、26万台と推計されている。初期投資は、従来型のトラックにくらべて1~1.5万ドル程度高くなるものの、LNG価格が軽油価格よりも安価であり、追加投資額は1~2年程度で回収できる環境となってきている。また、LNGの充填所は約2,700箇所を有し、沿岸地域ではLNG受入れ基地からの輸入LNG、内陸部では、天然ガスからLNGプラントで液化、供給される。
日本ではCNG車よりもより長距離の走行が可能であることから、技術開発・実証試験が進むものの、LNG車・充填スタンドの商業運用はなされていない。
[1] 日本ガス協会 天然ガス自動車の 普及に向けて 2017~2018年度版
(3)EVとの比較、普及拡大の可能性
EV、NGVともに、ガソリン・軽油といった既存の輸送用燃料需要を代替するものであるが、普及状況の上位の国は多く異なる。EVの普及国は、中国を除きすべてOECD国であるのに対し、NGVの普及上位国は、イタリアを除きすべて新興国・産ガス国となっている。
現時点では、経済成長に伴い、自動車普及台数が増加段階にある新興国にとってEVの初期コスト負担は困難であり、また、EV導入の目的としては、特に先進国において間接的な経済被害の防止ためのCO2排出削減も重要であるが、新興国においては、直接的な環境被害を防止するための大気環境改善が、より喫緊の課題となろう。
今後、各国政府にとっても、EVの技術革新・コストダウンが進展する中で、EV・燃料電池車・圧縮天然ガス・LNG燃料等から、どの燃料供給インフラを整備すべきかも課題となる。
NGVの燃料補給インフラが既に確立している国でEVが市場を席巻するには、まだしばらく時間がかかる。小型車にとって、EVが地球温暖化対策、大気環境改善の有効な解決策とはなる時代近づきつつあるものの、大量導入による系統への影響等インフラの整備も課題と解決策が見えている段階ではない。また、トラックのような大型車両・長距離輸送を完全にEVに代替するには、単なる政策的な支援だけでなくまだ見ぬ技術革新が前提となり、より実現可能な選択肢としての、CNG・LNG活用の必要性もあると考えられる。
表11 EV保有台数・充填所(2016年)
順位 |
国名 |
EV保有台数(千台) |
公共充電所 |
|||
---|---|---|---|---|---|---|
合計 |
BEV |
PHEV |
低速 |
高速 |
||
1 |
China |
648,770 |
483,190 |
165,580 |
52,778 |
88,476 |
2 |
United States |
563,710 |
297,060 |
266,650 |
35,089 |
5,384 |
3 |
Japan |
151,250 |
86,390 |
64,860 |
17,260 |
5,990 |
4 |
Norway |
133,260 |
98,880 |
34,380 |
7,105 |
1,052 |
5 |
Netherlands |
112,010 |
13,110 |
98,900 |
26,088 |
701 |
6 |
Others |
87,480 |
52,410 |
35,070 |
24,658 |
2,498 |
7 |
United Kingdom |
86,420 |
31,460 |
54,960 |
10,736 |
1,523 |
8 |
France |
84,000 |
66,970 |
17,030 |
14,612 |
1,231 |
9 |
Germany |
72,730 |
40,920 |
31,810 |
16,550 |
1,403 |
10 |
Sweden |
29,330 |
8,030 |
21,290 |
2,215 |
523 |
|
その他 |
45,260 |
30,480 |
14,790 |
5,303 |
1,090 |
|
Total |
2,014,220 |
1,208,900 |
805,320 |
212,394 |
109,871 |
(出所:IEA Global EV Outlook 2017)
表12 天然ガス自動車普及台数(2017年)
順位 |
国 |
保有台数 |
充填所 |
---|---|---|---|
1 |
China |
5,000,000 |
7,950 |
2 |
Iran |
4,000,000 |
2,380 |
3 |
Pakistan |
3,000,000 |
3,416 |
4 |
Argentina |
2,295,000 |
2,014 |
5 |
India |
3,045,268 |
1,233 |
6 |
Brazil |
1,781,102 |
1,805 |
7 |
Italy |
1,001,614 |
959 |
8 |
Colombia |
556,548 |
790 |
9 |
Thailand |
474,486 |
502 |
10 |
Uzbekistan |
450,000 |
213 |
25 |
Japan |
42,590 |
314 |
|
その他 |
2,805,909 |
7,507 |
|
合計 |
24,452,517 |
29,083 |
(出所:NGV Global (旧 International Association for Natural Gas Vehicles: IANGV))
4.まとめ
EVは、これまで何度も普及拡大への期待があったものの、航続距離(利便性)、価格、充電スタンド等で、従来型の内燃機関を有する自動車に劣後し、限定的な導入に留まってきた。しかしながら、将来の普及拡大が期待されるようになってきたのは、主に以下の要因・状況変化によるものいえる。
・蓄電池の技術革新:
-
- 電池の低コスト化(6年で、1/4に低減)、エネルギー密度の向上により、航続距離を伸ばすために積載容量を増やした場合の、車両価格の低下、車両重量の低減、燃費が向上。
・地球温暖化対策、大気汚染対策
-
- EVは走行時に、燃焼に伴う、CO2排出、NOx、PM排出がない。
- 2016年11月パリ協定発効による気候変動対策のための取り組み強化、新興国都市部の深刻な大気汚染の改善。
- 次世代産業の育成(中国等)
- 再生可能エネルギー大量導入に際し、負荷変動を吸収するための、「蓄電池」としてのEVへの期待。
一方で、EVの大量普及に際し、電力需要(kWh)増、ガソリン需要減といった影響は限定的であるものの、以下課題への対処が必要である。
・蓄電池の資源制約
-
- リチウムイオンバッテリーの正極材材料であるLi、Coの資源制約、価格高騰懸念
- 使用量の低減、エネルギー密度の向上、次世代型電池(全固体電池)
・環境性
-
- EV製造段階におけるCO2排出も含めた温室効果ガス削減
- 大気汚染対策のため、民生・産業部門、重量増によるタイヤ・ブレーキ摩擦、トラック輸送におけるEV化等も含めた複合的な対策が必要。
・長距離輸送でのEV利用
-
- 電池コスト、エネルギー密度、充電インフラ・時間
- 天然ガス自動車(CNG)、LNGトラック、水素燃料自動車等様々な代替手段の政策的奈支援。
・系統安定化のための方策
出所:環境省“諸外国における車体課税のグリーン化の動向” 2017年7月。日本2020:122g-CO2/kmは約20km/lに相当。(https://www.env.go.jp/policy/tax/misc_jokyo/attach/trend.pdf)
しかしながら、移動、輸送という観点で考えると、車両重量1.5トンの車で60kg前後の人の移動を担うのは、効率的といえるだろうか。単に移動するだけであれば電動バイク等も効率的な移動手段となりうるし、同乗が可能であれば、追加的な燃料消費も少なく、極めて効率的な移動も可能となる。
また、輸送部門のEV化は乗用車にくらべて難しいともいわれ燃費(g-CO2/km)では乗用車に劣るが、輸送量あたりのCO2排出は圧倒的に効率的であるといえる。
表 積載量、燃費、輸送量あたりのCO2排出量比較。
車両重量 |
乗員・積載量 |
総重量 |
燃費(電費) |
燃費 (g-CO2/km) |
輸送量あたりのCO2排出 (g-CO2/km・kg) |
|
---|---|---|---|---|---|---|
電動トラック |
3,900 |
3,600 |
7,500 |
1.2km/kWh |
416.7 |
0.1 |
内燃機関車 |
1,000 |
60 |
1,060 |
20km/l |
116.5 |
1.9 |
EV |
1,500 |
60 |
1,560 |
7km/kWh |
71.4 |
1.2 |
電動バイク |
60 |
60 |
120 |
40km/kWh |
12.5 |
0.2 |
EV(同乗) |
0 |
60 |
60 |
5%燃費低下 |
3.6 |
0.1 |
※燃費、重量等は各種情報よりJOGMEC想定。系統排出係数は、0.5kg-CO2/kWhを想定。輸送量あたりのCO2排出量は、車両種類毎に、乗員・積載量1kgの移動(輸送)に必要なCO2排出量を試算。
また、移動手段としての、車両の稼働率向上も大きな可能性がある。年間走行距離が、5000kmであれば稼働率数%に過ぎない。情報化革命により、効率的な資産の活用が可能であれば、高効率な車は、車両価格が高価であっても、稼働率の向上・耐用年数の長期化の効果が得られる可能性がある。
現在、燃費基準は、車両1台あたりの移動距離に応じた燃料・CO2排出量で評価され、km/l、g-CO2/kmといった目標への目標達成を目指した改善が進むが、車「単体」の個人所有を前提としたものよりも、「高効率」な車両を、社会全体で保有「カーシェア」し、必要な移動時に「ライドシェア」、蓄電地としての負荷平準化を「電池シェア」することで、より効率的な社会の実現が可能かもしれない。
テスラは、先進的な電気自動車を開発し、高価ではあるが一定の消費者の支持を得た。しかしながら、一人が移動するのに、加速に優れ、長距離移動が可能とするような大きな電池(100kWh)を搭載した2t超の車は万人にとって合理的だろうか。場合によっては、電動バイク(電動自転車)が必要なときに使ええれば十分かもれないし、むしろ、高価な車は所有しないが、必要に応じて移動手段が確保でき、自動運転により快適な輸送空間において運転以外の作業ができれば、日常的な移動にはそれを選択したい、消費者も多いのではないか。
現時点では、自動運転(運転支援→完全自動運転)、ビックデータの活用による不稼動資産の効率活用、EV電池コスト大幅低減(273ドル/kWh→100kWh)、再エネ大量導入・EV蓄電池活用(再エネ数%→安価な自然エネを無尽蔵に使える世界) といった、現実的な技術課題の解決が必要であり、実現の時期、影響を見通すのは困難であるかもしれない。なお、社会インフラの整備も必要となり、実現には数十年単位を要する可能性もある。特に化石燃料資源の多くを輸入に頼る日本においては、その移行段階で生じる様々な変化・不確実性にも対処できるよう、エネルギーの3E(Energy Security, Economic Efficiency, Environment)+S(Safety)のバランスを損なわないよう、戦略的なエネルギー確保が必要となるし、産業構造の変化に対応した新たな競争力確保も重要となろう。
しかしながら、これら社会変革も必ずしも夢物語ではなくなっており、また、今想定していない形で、実現する可能性のほうが高いかもしれない。2015年に国連で採択された“持続可能な開発のための 2030アジェンダ”[1]では、貧困、紛争、人権侵害、食糧安全保障、気候変動等様々な角度から、持続可能な開発目標を掲げている。気候変動対策を考えても、既存技術の延長では技術的・政治的にも達成は難しく、安定した経済成長のもとでの革新的な技術開発、社会全体の効率化による、真に持続可能な開発・発展を期待したい。
[1] http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
以上
(この報告は2018年1月26日時点のものです)