ページ番号1007432 更新日 平成30年4月10日
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概要
- 米国エネルギー情報局は昨年11月の米国における原油生産が1970年以来の日量1千万バレルを超える高水準となったと発表した。2016年12月のOPEC・非OPEC主要産油国による協調減産合意以降の油価の回復によるシェールオイルの増産が主な要因であったとされ、当面はトランプ政権による法人税減税やインフラ投資促進策といった追い風によりこの傾向が継続するとの見通しが多い。
- シェールオイル生産の主な担い手である米国の中堅中小独立系上流開発会社が最近の油価上昇にどのように対応してきたのかを2017年第3四半期までの決算報告書を元に検討したところ、パーミアンを中心に生産する企業では、相対的に大規模で自己資本比率の高い企業が油価低下局面から増産基調を維持している。また昨年後半以降の油価上昇局面ではヘッジ取引を増やしながら生産を拡大している企業もある。
- イーグルフォードを中心に生産する企業については、油価の下落に応じて生産量が減少したが、2017年第1~2四半期ころからヘッジ取引が徐々に増え生産も拡大している。バッケンの企業では2017年第3四半期決算時点では未だヘッジ取引は低調である。これらの企業では営業キャッシュフローの範囲内で投資が行われてきたが、2017年第4四半期から2018年初にかけて上昇した油価の水準でヘッジ取引を行い増産ペースが速まることが考えられる。
- 昨年前半までの比較的早い段階からヘッジ取引を拡大していた企業の中には最近の油価の上昇による利益機会を逸しているものがある。また埋蔵量担保融資に対する金融機関のスタンスが2011~14年の高油価期と比べると慎重になっている。今後のシェールオイルの生産動向を検討する上で、ヘッジ取引や財務動向にも注目しておきたい。
(各社/機関・決算書、ホームページ、報道等)
1.はじめに
米国エネルギー情報局(EIA)の統計によれば昨年11月の米国における原油生産は1,004万b/dとなり1970年以来の高水準となっている[1]。テキサス州389万b/d、ノースダコタ州118万b/dなどシェールオイルの生産増が主要な増加要因であるとされている。
2014年後半以降、月間平均の油価(WTI)はバレル当り100ドル超の水準から2016年2月に30ドル近くまで低下したのち、同年12月のOPEC・非OPEC主要産油国による協調減産合意等を経て1月末時点では65ドル近くまで回復している。
油価上昇に加え、当面はトランプ政権による法人税減税やインフラ投資促進策といった追い風を受けてシェールオイルの増産が継続するとの見通しが増えている。シェールオイル生産の主な担い手である中堅中小の独立系上流開発会社が最近の油価上昇にどのように対応してきたかを2017年第3四半期までの決算報告書を元に検討した。
[1] U.S. Energy Information Administration Web site “Today In Energy” 2018.2.1 (https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=34772
出典 : EIA HP (Drilling Productivity Report他)
2.ヘッジ取引の動向
(1)パーミアンを中心に生産する企業
最近ではエクソン・モービルやシェブロンなどメジャー企業による積極的な投資が進んでいることが注目されているが、パーミアンにおけるシェールオイル生産の主要な担い手は中堅中小の独立系上流開発企業であり、堅調に生産を拡大している。これらの企業の中から四半期ベースの決算書にヘッジ取引の状況が開示されている5社(Pioneer Natural Resources、Concho Resources、Cimarex Energy、Apache Corporation、Approach Resources)をサンプルとして、米国証券取引委員会に登録された上場企業の決算書(Form 10-K、10-Q)に基づき2014~16年末並びに2017年第1~3四半期末時点のヘッジ取引を集計した[1]。
PioneerとConchoは2014年後半に油価が下落する以前から積極的にヘッジ取引を行い油価下落局面においても生産増加ペースを維持してきた。2014年後半以降の油価下落局面においても(約定された)平均価格よりも高い水準でヘッジ取引を行っていたことで採算を確保しており、一貫して生産を拡大している。
[1] 主なヘッジ取引の形態として、市場価格(WTI油価)と予め定めた価格と交換するスワップ取引と一定の幅の中で交換するカラー取引がある。拙稿「シェールオイル企業の投資・生産動向に関する財務面からの考察」(石油・天然ガス資源情報 2017.4.20)pp 7-9参照。
(以下、すべての図表は各社Form 10-K、10-Qに基づきJOGMEC作成)
Cimarexは2014年以降の油価低下局面においても着実に生産を増やしてきたが、ヘッジ取引を増やしたのは油価が下落し始めた2015年以降であり、2016年以降ヘッジ取引を拡大するとともに生産を増やしている。
Apacheは2014年以降ヘッジ取引を停止していたが、2017年第2四半期以降積極的にヘッジを行うようになっている。
Approachも油価が低迷していた2015~16年にヘッジ取引を減らしていたが、2017年央以降、ヘッジ取引を再開している。
(2)イーグルフォードを中心に生産する企業
イーグルフォードを主な生産地とする企業としてDevon Energy、Marathon Oil、Carrizo Oil & Gas、Chesapeake Energyを対象として生産とヘッジ取引の状況を調べたところ、2014年後半の油価下落後、2016年以降の比較的早い段階でヘッジ取引を再開していることが確認された。
Devon Energyは2015年に一旦ヘッジ取引を中止したが2016年末にはバレル当り50ドル以上でヘッジ取引を行っており、2017年第1四半期以降も生産量の大部分をスワップ取引とカラー取引によりカバーしている。
Marathon Oilは2014年末にはヘッジ取引を中止していたが2015年末から徐々にヘッジ取引を拡大している。2015年末のヘッジ取引の加重平均価格は57ドル、2016年以降も50ドルを上回る比較的高い水準でヘッジ取引を行うことに成功している。
Carrizo Oil & Gasは2014年92ドル・2015年57ドルと比較的高い価格でヘッジ取引を行っていた。2016年以降も生産を増やしているが、ヘッジ取引も加重平均価格50ドル以上で徐々にボリュームを増やしている。
Chesapeakeも油価の下落を受けて2015年末時点ではヘッジ取引を減らしたが2016年末には再びヘッジ取引を増やしている。生産量は2017年第3四半期まで僅かずつではあるが減少を続けているのに対し、ヘッジ取引は2017年第1四半期以降積極姿勢に転じている。ヘッジ取引の加重平均価格は2016年末時点では50ドルを下回ったが(44ドル/バレル)、2017年第1~3四半期には50ドルを若干上回る水準でヘッジ取引を行っている。ヘッジ取引の量が増えているが、足許65ドル近くまで上昇している油価からどのような影響を受けるのか注目される。
(3)バッケンを中心に生産する企業
バッケンを主な生産地とする企業としてContinental ResourcesとEOG Resourcesの生産とヘッジ取引の状況を示す。いずれも相対的に大規模な生産者であるということもあるが、ヘッジ取引は抑え気味になっている。本格的に増産に転じるに際してはヘッジ取引も増加すると見られる。
Continental Resourcesは2013年末までは積極的にヘッジ取引を行っていたが2014年以降は停止している。生産量は2015年には14万b/dを上回っていたが2017年第1四半期には12万b/dを若干下回った。第2四半期から徐々に生産を拡大しているが、ヘッジ取引を再開するまでには至っていない。
EOG Resourcesも2014年後半以降の油価下落を受けてヘッジ取引を大きく減らしたが生産量は徐々に増やしている。2016年末から2017年第1四半期には生産量の10%程度を約50ドルでヘッジしたが第2・3四半期にはヘッジ取引を行っていない。
ブレークイーブンコストの高い企業は2017年第3四半期時点の油価(約50ドル)では生産を拡大するのに充分な採算が確保できていなかったと見られるが、足許65ドル近くまで油価が上昇している状況を踏まえると、ヘッジ取引を拡大し増産に転じるタイミングが注目される。
(4)その他の企業
その他の地域の状況を見るため、以下にコロラド州(Denver-Julesburg Basin)を中心とするナイオブララのBonanza Creek EnergyとBill Barett Corporationの状況を示した。いずれも比較的に小規模な企業であるが、ヘッジ取引の状況はそれぞれである。
Bonanza Creekの生産は2015年の16.7千b/dから2017年第2四半期には5.3千b/dまで減少したが、2017年第3四半期には4千b/dを約47ドルでヘッジし8.2千b/dまで生産を拡大した。2017年第3四半期に生産を拡大しているが、合わせてヘッジ取引も再開している。
Bill Barrettは油価下落後も一定のヘッジ取引を継続して行い、最も低くなった2016年末でも平均のヘッジ価格は57ドルを上回っていた。生産量も油価下落後最低水準となった2017年第1四半期でも9.2千b/dで2015年の75%程度。2017年第3四半期には13千b/dと油価下落前の水準を上回っている。
3.財務動向
シェールオイル生産の担い手である中堅中小の独立系上流開発企業の中でも、積極的にヘッジ取引を行い増産しているものもあれば増産に慎重な企業もある。これら企業について2014~17年の四半期決算報告書から、売上高・当期純利益、長期借入金・純資産・有形固定資産、資本的支出・営業キャッシュフローに着目して財務動向を検討した。
(1)パーミアン
Pioneer Natural Resources、Concho Resources、Cimarex Energyといった2014年以降の油価下落局面においても増産基調を維持してきた企業の財務内容を見てみると、借入金を抑えつつ(大宗はシェール開発用の土地である)有形固定資産の増加分を増資等により調達してきた。
資本的支出(有形固定資産の追加取得)が営業キャッシュフローを上回る投資を行う際には増資の他、非中核資産の売却などで対応している。いずれの企業にとっても2015~16年の低油価状況下で利益を上げることは困難であったが、資本的支出の他営業費の削減等により借入金の増加等による財務内容の悪化を防いでいた(2017年第1四半期以降、PioneerやConchoでは2014年央の油価下落以前の水準に近いところまで資本的支出を増やしている)。
2014年後半以降生産を減らしてきたApache CorporationやApproach Resourcesでは2015年第3四半期から2016年にかけて純資産に対する借入の割合が増えている。油価下落にともなって大規模な損失を計上したことで純資産が減少し、新規の設備投資(資本的支出)を大きく減らした。油価の回復を受けて昨年第2四半期から生産は増え始めているが、未だ金融機関からの借入を増やしてまで設備投資を拡大し増産するまでには至っていない。
(2)イーグルフォード
パーミアンの一部企業が2014年後半以降の油価低下局面においても増資や借入圧縮等により財務の健全性を維持しヘッジ取引を行いつつ増産を継続していたのと比べるとイーグルフォードの企業では2015~16年にかけて続いた当期純損失により自己資本が大きく毀損した。パーミアンの企業がこの間も非中核資産の売却や増資により有形固定資産の積み増しを継続したのと比べるとイーグルフォードでは純資産並びに有形固定資産が減少している。
Carrizo Oil & GasとChesapeake Energyも2015~16年にかけての純損失により自己資本を減らしており、パーミアンの企業のように増資による財務内容の改善が進んでいない。資本的支出を増やすには調達力の強化が必要であろう。
(3)バッケン
Continental Resourcesは2014年第3四半期をピークに売上が減少し2015年から2016年第3四半期まで当期赤字を計上した。元々借入依存度は高かったが資本的支出を押さえる以外に特段のと対応はおこなっていない。油価の上昇に伴って営業キャッシュフローが増加すればその範囲内で設備投資を増額することはできても現状の財務状況が変わらない限り本格的な増産に転じることは難しい。
EOG ResourcesはContinental Resourcesと比べて借入依存度が低く、油価の上昇に伴って徐々に資本的支出を増やしてきているが、今後一段と油価が上昇すれば外部資金を活用して増産ペースを速めると考えられる。
(4)その他
Bill Barrettは2017年第3四半期にヘッジ取引を行い増産しているが、2014年第4四半期以来3年間に亘り当期純損失を計上している。増産ペースを上げるには油価下落後に毀損した自己資本を補う必要がある。
Bonanza Creekは2016年第2四半期にチャプター11適用による債務リストラを行っており、2017年第3四半期にはヘッジ取引を再開し増産しているが、大幅な生産増加は見込み難い。
4.まとめ
(1)ヘッジ取引について
1月末時点で65ドル近くまで回復してきた油価の水準が維持されれば、従来増産に慎重だった企業もヘッジ取引を増やし増産ピッチを上げてくることが予想される。今後発表される2017年第4四半期の決算或いは2018年第1四半期の決算でヘッジ取引の増加が確認できれば2018年もシェールオイルの増産が続くという見通しの裏付けになるだろう。
他方、これまでコスト競争力で優位にあるとされてきたパーミアンの企業の中には昨年前半の未だ上昇する前の段階で2018年分までヘッジ取引を行っている企業が散見される。これらの企業は今後油価が一段と上昇してもその恩恵を受けることができないのに対し、これまで増産に慎重であったイーグルフォードやバッケンなどを中心とする企業は2017年第4四半期から2018年初にかけて上昇した油価の水準でヘッジ取引を行い増産ペースが速まることも考えられる。
(2)財務動向について
油価の上昇やヘッジ取引の拡大によりシェールオイルが増産するといっても営業キャッシュフロー範囲内の資本的支出では油価上昇分相当の増産に留まる。2011年から2014年のシェールオイル増産には金融機関や資本市場からの資金流入という事情があったが、金融機関の埋蔵量担保貸出に対する基準は厳格化されており、プライベートエクイティ等の投資家も従来よりも投資利回りを重視するようになっている。
米国では連邦準備銀行の量的緩和の出口を巡る議論が進んでおり、2011~15年のような金融機関からの借入(リザーブベーストレンディング等)や2016~17年のプライベートエクイティによる増資による資金調達に多くを期待することは難しい。技術革新により大幅な効率化やコスト削減の可能性はあるものの、財務面から見る限りは自己資本が厚い或いは資本市場からの増資の恩恵を受けやすいパーミアンの一部企業以外では油価上昇に伴うキャッシュフローの増加分以上の設備投資増加により生産を拡大する余地は限られていると考えられる。
以上
(この報告は2018年2月15日時点のものです)