ページ番号1007433 更新日 平成30年4月10日

原油市場他:3年超ぶりの高水準にまで上昇後、下落する原油価格

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レポートID 1007433
作成日 2018-02-19 00:00:00 +0900
更新日 2018-04-10 09:42:05 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
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ページ数 27
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地域1 グローバル
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国・地域 グローバル
2018/02/19 野神 隆之
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概要

  1. 米国では暖房油需要の中心地である北東部で気温がしばしば平年を下回る程度にまで低下したことから、暖房油需要は堅調に推移したが、暖房油と原油価格との差も拡大したままとなったこともあり、製油所の原油精製処理量は減少しながらもその度合いが緩やかであったことから暖房油生産が比較的根強く続いた結果、1月上旬から2月上旬にかけ当該在庫は減少したものの、その程度は限定的なものとなり、平年幅上限付近に位置する量となっている。ガソリン在庫は不需要期であったことで増加傾向となり、量としては平年幅を超過している。他方、製油所の稼働は比較的緩やかながら低下したことから、原油在庫は若干ながら増加傾向となり、平年幅を超過する水準となっている。
  2. 2018年1月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では1月前半を中心として精製処理量が比較的維持されたこともあり、若干ながら減少となったものの、欧州及び日本においては製油所での原油精製処理量減少が影響し原油在庫が増加したことで相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体の原油在庫は増加しており、また、平年幅上限を超過する状態も継続している。石油製品については、米国ではその他石油製品在庫が減少した他、冬場の暖房向け需要増加に伴いプロパン/プロピレンの在庫が減少したことで、また、日本においても暖房向け灯油需要が増加したにより当該製品在庫が減少した結果、両国における石油製品在庫は減少した。他方、アジア方面から欧州に向け軽油が流入したと見られるうえ、米国北東部での寒波襲来による暖房油精製利幅の拡大継続により、欧州製油所での米国向け暖房油生産が活発化した影響で、欧州では中間留分を中心として石油製品在庫が増加した。しかしながら、欧州での在庫増加は米国及び日本での減少により相殺されて余りある状態であったことから、OECD諸国全体としての石油製品在庫は減少となったが、量としては平年並みとなっている。
  3. 2018年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場は、1月下旬半ば頃までは米国での原油在庫の減少、米ドルの下落等から、原油価格は上昇基調となり、1月26日にはWTIで1バレル当たり66.14ドルと2014年12月4日以来の高水準の終値に到達した。しかしその後は、米国石油坑井掘削装置稼働数の増加、米国での原油生産量見通しの上方修正、米国株式相場下落、米ドルの上昇等により、原油価格は下落傾向となり、2月10日前後には終値で60ドルを割り込む場面も見られた。
  4. 株式相場の動向に原油相場の動向が大きく影響を受ける状態は当面続くものと考えられる。株式相場が回復基調となれば、投資家のリスク許容度が拡大し、経済が回復することを示唆する経済指標類や地政学的リスク要因、OPEC及び一部非OPEC産油国による減産に伴う石油在庫余剰の減少期待等を材料として原油市場に資金が流入する結果、原油価格が上昇しやすくなると考えられる。反面、株式相場が下落傾向を再開するようであれば、投資家のリスク許容度が縮小するとともに、季節的な石油需給緩和感や米国でのシェールオイル生産増加の兆候等が材料視され、原油価格が下落しやすくなるものと考えられる。

 

1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2017年11月の米国ガソリン需要(確定値)は日量914万バレルと前年同月比で1.0%程度の減少となった(図1参照)が、速報値(前年同月比で1.2%程度減少の日量912万バレル)からは若干ながら上方修正されている。同月の米国のガソリン小売価格は1ガロン当たり2.678ドルと前年同月(同2.295ドル)に比べ、0.383ドル(約16.7%)割高になったことに加え、前月の価格(2.621ドル)からも上昇していることが、ガソリン需要を抑制した一因であると考えられるが、11月の個人可処分所得は前年同月比で3.6%程度の増加となっている他、同月の米国自動車運転距離数は前年同月比で1.1%の増加と10月のそれら(個人可処分所得が同3.2%程度、自動車運転距離数が同1.2%程度の、それぞれ増加)と比べても遜色がないことから、10月の同国ガソリン需要が前年同月比で2.8%程度と堅調に増加したことへの反動で11月の需要増加率が低下したといった側面もあるものと見られる。他方、2018年1月の同国ガソリン需要(速報値)は日量886万バレル、前年同月比で4.3%程度の増加となった。1月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.671ドルと、前年同月比で0.213ドル(約8.7%)上昇しているものの、前月比では0.077ドルの上昇にとどまっていることが需要の増加に寄与しているものと考えられるが、2017年1月の当該需要(確定値)が日量850万バレルと前年同月比で1.8%の減少となっている(同月のガソリン価格が前年同月比で19.5%上昇していたことが影響した可能性がある)ことへの反動で2018年1月は需要の伸びが顕著になっているように見える部分もあるものと考えられる。他方、米国では、一部製油所が春場のメンテナンス作業に突入したことに加え、米国に襲来した寒波の影響で製油所の機器類が凍結したことを含め操業上の不具合が発生したことにより、原油精製処理量は減少傾向となったが、それでも米国北東部で気温が低下したことにより暖房油と原油との価格差が拡大した状態が続いた(8月下旬にハリケーン「ハービー」が米国メキシコ湾岸地域に来襲した結果当該地域の製油所の稼働が停止したことに加え、その後の秋場の製油所メンテナンス作業シーズン突入による石油製品生産活動の低下により、留出油在庫が減少したことが影響していると見られる)ことから、原油精製処理量の減少の度合いは2017年の同時期と比べ緩やかに進んだ(図2参照)こともあり、ガソリンの生産量の落ち込みも比較的限定的であった(最終製品の生産量は図3参照)一方で、ガソリンは季節的に不需要期にあったことから、同国のガソリン在庫は1月上旬から2月上旬にかけ増加傾向となったうえ、平年幅上限を超過する水準となっている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2006~18年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~18年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~18年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~18年)

2017年11月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量417万バレルと前年同月比で5.8%程度の増加となった他、速報値である日量396万バレル(前年同月比0.7%程度の増加)から相当程度上方修正されている(図5参照)。同月の米国の鉱工業生産は前年同月比で3.8%程度伸びているなど経済が比較的堅調であったことから、同国の物流活動が陸上を中心として同6.1%程度拡大したうえ、11月は前年同月に比べ、米国北東部で気温が相対的に低下したことにより、暖房向け需要が増加したことが、当該需要増加の背景にあるものと考えられる。また、9月及び10月は米国の物流活動が前年同月比でそれぞれ、5.7%、6.1%伸びていたにもかかわらず、留出油需要は前年同月比でそれぞれ0.3%程度の増加、0.5%程度の減少にとどまっていたことから、その反動が11月の需要の伸びとなって現れている可能性がある。また、2018年1月の留出油需要(速報値)は日量418万バレルと、前年同月比で9.8%程度の増加となっている。2018年1月の同国鉱工業生産指数は前年同月比で3.7%の増加となっていることに加え、同月は米国北東部で気温がしばしば平年を大きく割り込む程に冷え込んだことから暖房向け留出油需要が発生したことが、当該需要の増加に寄与していると考えられる。ただ、暖房油と原油価格の差が拡大したままとなったこともあり、製油所の操業は装置の不具合等により一時的に低下したものの1月末頃には回復した結果、製油所での留出油生産も概ねそれに併せて増加した(図6参照)他、同国の留出油輸入も増加する場面が見られたこともあり、留出油需要は堅調であったものの留出油在庫水準は1月上旬以降上下に変動しながらも、若干の減少にとどまった他、2018年2月上旬時点では平年幅上限付近に位置する量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2006~18年)

図6 米国の留出油生産量(2009~18年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~18年)

2017年11月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で3.2%程度増加の日量2,028万バレルとなった(図8参照)。留出油、ジェット燃料(米国経済が比較的好調であることから、消費者による航空機の利用が活発化していることもあり、ジェット燃料の需要は2017年3月以降前年同月比で増加が続いている)、重油(米国鉱工業生産が増加していることを背景として産業部門での需要が伸びているものと見られる)、その他石油製品(2017年は2月27日にOccidental ChemicalとMexichemがテキサス州イングルサイド(Ingleside)に年産54.4万トンのエチレン分解装置を操業開始したことに加え、9月21日にはDow DuPontが米国テキサス州フリーポートに年産150万トンのエチレン分解施設の操業を開始したこともあり、原料となるエタンの需要が増加しているものと見られる)の需要が増加したことが寄与しているものと考えられる。また、ガソリン、留出油、重油、及びその他の石油製品の需要が速報値から上方修正されたことにより、当該需要は速報値(日量1,977万バレル、前年同月比0.6%程度の増加)から上方修正されている。2018年1月の米国石油需要(速報値)は、日量2,080万バレルと前年同月比で8.1%程度の増加となった。ガソリン、留出油、ジェット燃料に加え、プロパン/プロピレン(米国での気温低下により暖房用需要が喚起されていることによるものと考えられる)、及びその他の石油製品の需要が前年同月比で増加したことが、石油需要全体を牽引している格好となっている。ただ、その他石油製品の需要は日量418万バレルと2016年12月~2017年11月の当該需要(確定値)である同315~382万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正される結果、同国の石油需要(確定値)に影響を及ぼすこともありうる。他方、米国国内では製油所の稼働は低下してきているものの、暖房油と原油の価格差が拡大したままとなったこともあり、その低下度合いが比較低緩やかであったことから、1月上旬から2月上旬にかけ原油在庫水準は上下に変動したものの、若干ながら増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態も維持されている(図9参照)。また、原油、ガソリンの在庫が平年幅上限を超過している他、留出油在庫が平年幅上限付近に位置する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2006~18年)

図9 米国原油在庫推移(2003~18年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~18年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~18年)

他方、米国ではパーミアン地域のシェール鉱床等で生産される原油をヒューストンに輸送するBridgeTexパイプラインの能力が2017年11月末までにそれまでの日量30万バレルから同40万バレルへと増強されたことから、パーミアン地域で生産される原油が同国オクラホマ州クッシングを迂回して米国メキシコ湾岸地域に輸送される格好となった他、12月にはクッシングからテネシー州メンフィス(同地ではValeroが製油所(原油精製処理能力日量19万バレル)を操業している)まで原油を輸送するDiamondパイプライン(原油輸送能力日量20万バレル)が操業を開始した。さらにKeystoneパイプライン(カナダ アルバータ州ハーディスティ~クッシング、イリノイ州ウッドリバー及びパトカ、原油輸送能力日量59万バレル、11月16日午前6時に米国サウスダコタ州北東部のマーシャル郡の農地で原油流出が発生し操業停止)につき、11月28日に当該パイプラインの操業を再開する旨発表されたが、原油輸送圧力が20%低下した状態での操業となったことから、その分だけ、カナダ方面からクッシングに向かう原油の流入量が減少している。これらの要因により、クッシングの原油在庫は減少を続けており、2017年4月7日には6,942万バレルと2004年4月以降の統計史上最高水準であったものが、2018年2月9日には3,267万バレルへと半減、2015年1月2日(この時は3,210万バレル)以来の低水準となっている。この結果、クッシングでの石油需給に引き締まり感が発生したことから、当該地点で受け渡しされるNYMEX原油(WTI)先物契約価格に上方圧力が加わった結、WTIのブレントに対する割安感は縮小しつつある。

2018年1月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では1月前半を中心として精製処理量が比較的維持されたこともあり若干ながら減少したものの、欧州及び日本の製油所での原油精製処理量が減少し始めたこともあり両地域での原油在庫が増加したことにより相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体としての原油在庫は増加しており、また、平年幅上限を超過する状態も継続している(図12参照)。石油製品については、米国ではガソリン在庫は増加したものの、冬用ガソリンに混入されるブタンを含めたその他石油製品在庫が減少した他、暖房向け需要等が増加したと見られることからプロパン/プロピレンの在庫が減少した結果、同国では石油製品全体の在庫は減少した。また、日本においても冬場において気温が低下したことに伴い暖房向け灯油需要が増加した結果、当該製品を中心として石油製品在庫が減少した。他方、11~12月においては大西洋圏での留出油在庫水準低下による暖房向け軽油需給の引き締まり感が市場で発生したことから欧州とアジアでの当該石油製品価格差が拡大したこともあり、アジア方面から欧州に向け軽油が流入したと見られるうえ、米国北東部への寒波襲来により暖房油と原油の価格差が拡大し続けたこともあり、欧州製油所での米国向け当該製品製造が活発化したことから、1月は欧州では暖房油を含む中間留分を中心として石油製品在庫が増加した。しかしながら、欧州での在庫増加は米国及び日本での減少により相殺されて余りある状態であったことから、OECD諸国全体としての石油製品在庫は減少となったが、量としては平年並みとなっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過している一方石油製品在庫が平年並みの量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。なお、2018年1月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は60.3日と2017年12月末の推定在庫日数(60.6日)から減少している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~18年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~18年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~18年)

1月10日に1,400万バレル弱の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、1月17日は1,300万バレル台半ば、1月24日及び31日には1,200万バレル台後半の量と減少傾向を示していたが、2月7日は1,400万バレル弱、2月13日は1,400万バレル強の量へと回復している。アジア地域での製油所での秋場のメンテナンス作業等の終了に伴う稼働上昇により、石油製品生産活動が活発化したことが、シンガポールでの在庫を押し上げる方向で作用した一方で、2018年の春場は中東地域での製油所メンテナンス作業が大規模なものになることから、それを控えて当該地域でのガソリン調達が活発化していることが、在庫を押し下げる方向で作用しているものと考えられる。そして、これらの要因によりシンガポールでの軽質留分在庫量は上下に変動しながらも比較的限られた範囲内に収まっている。しかしながら、アジア市場では、春場の製油所メンテナンス作業シーズン突入に伴うガソリン生産の不活発化が予想される中、米国ガソリン在庫が減少する場面が見られたこともあり、当該製品の需給引き締まり観測が市場で発生したことがガソリン価格に上方圧力を加えた結果、アジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大する傾向が見られる。

他方、1月後半になり冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期の終わりが視野に入り始めたこともあり、LPGの需要減少観測が市場で広がってきたことで、当該製品価格が低下したことから、石油化学部門でナフサと競合するLPGの価格競争力が相対的に回復したことにより、ナフサからLPGへと原料転換が進み始めたことがナフサ需要を抑制させる結果となった他、3月にはアジア地域の石油化学会社のナフサ分解装置がメンテナンス作業に突入し始めることに伴いナフサ需要が低下するとの観測が市場で発生したことが、ナフサ価格に下方圧力を加えた結果、2月上旬にかけナフサ価格は概ねドバイ原油のそれを下回り続けたうえ、その価格差は拡大する傾向を示した。しかしながら、2月中旬に入って発生した原油価格の下落にナフサ価格の下落が追い付かなかった結果、原油価格を下回る度合いは縮小している。

1月10日には1,000万バレル弱の水準であったシンガポールの中間留分在庫は、1月17日には1,000万バレル台前半の量へと回復したものの、1月24日には900万バレル弱の量へと減少した。その後1月31日及び2月7日には900万バレル台前半の量へと多少持ち直したものの、2月13日には700万バレル台後半の水準へと低下するなど、当該製品在庫は減少傾向を示している。欧州諸国で気温が低下したことから暖房用軽油需要が増加した結果、1月上旬頃まで欧州市場での軽油価格のアジア市場のそれに対する割高感が強まっていたこともあり、アジア市場から欧州市場方面へと軽油が流出した他、日本や韓国で冬場の気温の低下により灯油需要が盛り上がっていることが灯油在庫を押し下げる方向で作用したことに加え、アジア諸国の製油所で灯油の生産に傾注した結果ジェット燃料や軽油の生産が影響を受けたこともあり、アジア諸国等の製油所が春場のメンテナンス作業時期突入を控えている中、シンガポールに中間留分が流入しにくい状況となっていることが、在庫を減少させているものと考えられる。このようなことが、アジア地域での中間留分価格に上方圧力を加えた結果、例えば、軽油及びジェット燃料とドバイ原油との価格差(この場合軽油及びジェット燃料価格が原油のそれを上回っている)には拡大する傾向が認められる。

1月10日には1,900万バレル台後半の量であったシンガポールの重油在庫は、1月17日には2,000万バレル弱、1月24日には2,200万バレル台前半、1月31日には2,200万バレル台半ば、2月7日には2,300万バレル台後半の量へと増加したものの、2月13日には2,200万バレル後半の量へと減少した。それでも、1月10日の水準は相当程度上回っている。欧州方面(欧州諸国等でも製油所が秋場のメンテナンス作業を終了したことに伴い操業を再開するとともに製品生産が回復してきていた)からシンガポールに向け重油が輸出されつつあることが影響しているものと考えられる。しかしながら、日本や韓国で気温が低下するとともに、暖房のための発電向け等の重油調達が活発化していることが重油価格に上方圧力を加えた他、2月中旬に発生した原油価格の下落に重油価格の下落が追い付かなったことから、重油と原油の価格差(この場合重油の価格が原油のそれを下回っている)は縮小する傾向が見られる。

 

2.2018年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場等の状況

2018年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場は、1月下旬半ば頃までは米国での原油在庫の減少、米ドルの下落等から、原油価格は上昇基調となり、1月26日にはWTIで1バレル当たり66.14ドルと2014年12月4日以来の高水準の終値に到達した。しかしその後は、米国石油坑井掘削装置稼働数の増加、米国での原油生産量見通しの上方修正、米国株式相場下落、米ドルの上昇等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は下落傾向となり、2月10日前後には終値で60ドルを割り込む場面も見られた(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~18年)

1月15日は、米国キング牧師生誕記念日に伴う休日に伴い米国原油先物市場での通常取引は実施されなかったが、1月16日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生した結果、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.57ドル下落し、終値は63.73ドルとなった。 ただ、1月17日には、1月18日に米国エネルギー省(EIA)から発表される予定である同国石油統計(1月12日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、2017年12月のOPEC及び一部非OEPC産油国の減産遵守率が125%と11月の122%から上昇した旨、1月17日にクウェートのラシディ石油相が明らかにしたことで、世界石油需給の引き締まり期待が市場で増大したこと、また、ナイジェリアの武装勢力である「ニジェール・デルタ・アベンジャーズ(NDA:Niger Delta Avengers)」が数日中に同国沖合深海油田関連施設を攻撃する旨1月17日に表明したことで、同国からの石油供給途絶懸念が市場で発生したこと、さらに米国での気温低下により、製油所の操業に支障が発生してたことで、ガソリン供給面での懸念が市場で発生したことにより、米国ガソリン先物価格が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.97ドルと前日終値比で0.24ドル上昇した。1月18日には、この日EIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で686万バレルの減少と市場の事前予想(同43~350万バレル程度の減少)を上回って減少していた他、クッシングの原油在庫が前週比で418万バレルの減少と、同国原油在庫統計史上最大の減少幅を記録した旨判明したことが原油価格に上方圧力を加えた反面、1月18日にOPEC事務局から発表された「月刊オイル・マーケット・レポート」でOPEC事務局が米国を中心とした2018年の非OPEC産油国の石油供給量を日量12万バレル上方修正したことが、原油相場に下方圧力を加えたことにより、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.02ドルの下落にとどまり、終値は63.95ドルとなった。1月19日には、この日国際エネルギー機関(IEA)から発表された「オイル・マーケット・レポート」で、IEAが2018年は米国、ブラジル及びカナダでの急速な石油供給量の増加が、ベネズエラ及びメキシコでの石油供給急減を凌駕する可能性がある旨指摘したことで、この先の石油需給引き締まり観測が市場で後退したことにより、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.37ドルと前日終値比で0.58ドル下落した。

ただ、1月21日に開催されたOPEC/非OPEC産油国閣僚監視委員会(JMMC:OPEC/Non-OPEC Joint Ministerial Monitoring Committee、於オマーン・マスカット)に際し、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相とロシアのノバク エネルギー相が、OPEC及び一部非OPEC産油国による協力体制を減産終了予定時期の2018年末以降も継続する必要がある旨示唆したことで、世界石油需給引き締まりに対する期待が市場で増大したこともあり、1月22日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.12ドル上昇し、終値は63.49ドルとなった(なお、NYMEXの2018年2月渡しWTI原油先物契約取引はこの日を以て終了したが、2018年3月渡し契約のこの日の終値は1バレル当たり63.57ドル(前日終値比0.26ドル上昇)であった)。1月23日には、1月24日にEIAから発表される予定である同国石油統計(1月19日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことにより、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.98ドル上昇し、終値は64.47ドルとなった。また、1月24日も、この日EIAから発表された同国石油統計で原油在庫が10週連続で減少を示し、1982年後半以降の同国原油在庫統計史上最長の減少期間となった旨判明したことに加え、1月24日に米国のムニューシン財務長官が米ドル安は貿易等の面で良いことである旨発言したことにより、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.61ドルと、前日終値比で1.14ドル上昇した。この結果原油価格は1月22~24日の3日間で併せて1バレル当たり2.24ドルの上昇となった。ただ、1月25日には、この日米国のトランプ大統領が米ドルはどんどん強くなるであろうし最終的には強い米ドルを望んでいる旨発言したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.51ドルと前日終値比で0.10ドル下落した。しかしながら、1月25日にドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁が、ユーロ圏経済が堅調に拡大している旨発言したことにより、当該地域における金融緩和縮小策実施に対する期待が市場で増大した流れを引き継いだことから、1月26日の外国為替市場でユーロが上昇したことに加え、1月26日に日本銀行の黒田総裁が日本の物価上昇率が日銀の目標としている2%(前年同月比)に接近しつつある旨発言したことから、日銀による金融引き締め策の実施に対する期待が市場で増大したことで日本円が上昇したことにより、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.63ドル上昇し、終値は66.14ドルとなったが、この価格は2014年12月4日(この時は同66.81ドル)以来の高水準であった。

1月29日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生した他、これまでの米ドル下落に対する利益確定の動きに加え、1月30日に実施される予定である米国トランプ大統領による一般教書演説及び1月30~31日に開催される予定である米国連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、持ち高調整の動きが市場で発生したことから、米ドルが上昇したうえ、1月31日にEIAから発表される予定である同国石油統計(1月26日の週分)で原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.56ドルと前日終値比で0.58ドル下落した。1月30日も、1月31日にEIAから発表される予定である同国石油統計で原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生した流れを引き継いだことに加え、これまでの株式相場上昇に対して利益確定の動きが市場で発生したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.06ドル下落し、終値は64.50ドルとなった。1月31日には、このEIAから発表された同国石油統計でガソリン在庫が前週比で198万バレルの減少と市場の事前予想(同110~200万バレル程度の増加)に反して減少している旨判明したことに加え、2018年1月のOPEC産油国の減産が前月と同様目標を上回る状況であった旨ロイター通信が1月31日に報じたことで、この先の世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり64.73ドルと前日終値比で0.23ドル上昇した。また、2月1日も、米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが、堅調な需要増加、高水準のOPEC産油国の減産遵守、及びベネズエラの原油生産減少等により、当初見込みよりも6ヶ月早く石油需給が再均衡しつつあるとして、3ヶ月先及び6ヶ月先のブレント原油価格予想を1バレル当たり62.0ドルから、それぞれ75.0ドル及び82.5ドルに引き上げた旨明らかにしたと2月1日に報じられたことに加え、2月1日に英金融情報サービス会社IHSマークイットから発表された2018年1月のユーロ圏製造業購買担当者指数(PMI)(確定値)(50が当該部門の拡大及び縮小の分岐点)が59.6と1月24日に発表された速報値と変わらずとなったことに加え、2017年12月に到達した統計史上最高水準(60.6)に近い水準であった旨判明したことにより、ユーロが上昇した反面米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.07ドル上昇し、終値は65.80ドルとなった。この結果原油価格は1月31日~2月1日の2日間で併せて1バレル当たり1.30ドル上昇した。ただ、2月2日には、この日米国労働省から発表された同国非農業部門雇用者数が前月比で20万人の増加と市場の事前予想(同18万人の増加)を上回ったことにより、米ドルが上昇したことに加え、2月2日に発表された米国大手石油会社ExxonMobil及びChevronの2017年10~12月期業績が市場の事前予想を下回った他、同日米国ダラス連邦準備銀行のカプラン総裁が、現在米国連邦準備制度理事会(FRB)関係者によって示されている2018年の3回の金利引き上げ見通しにつき、それを超える回数が必要になるかもしれない旨示唆したことで、経済の減速に対する懸念が市場で発生したこと、2月2日に米国石油サービス企業Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で765基と前週比で6基の増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で712基と前週比で7基の増加)となっている旨判明したことで、この先米国の原油生産増加が加速するのではないかとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.45ドルと前日終値比で0.35ドル下落した。

2月5日も、2月2日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が増加となっている旨判明したことで、この先米国の原油生産増加が加速するのではないかとの観測が市場で発生した流れを引き継いだうえ、米国非農業部門雇用者数が市場の事前予想を上回って増加したことで、この先同国金融当局が金利の引き上げを加速させるのではないかとの観測が市場で発生したことにより、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.30ドル下落し、終値は64.15ドルとなった。2月6日も、米国非農業部門雇用者数の増加により、この先同国金融当局が金利の引き上げを加速させるのではないかとの観測が市場で発生した流れを引き継いだことから、米国株式相場が一時下落したことにより、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.39ドルと前日終値比で0.76ドル下落した。また、2月7日には、この日EIAから発表された同国石油統計(2月2日の週分)で、原油在庫が前週比で増加を示していた他、原油生産量が前週比で日量33万バレル増加の同1,025万バレルと、1983年以降の週間統計史上最高水準に到達したことで、同国の原油生産加速と石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、今後2年間の米国政府予算措置に関し、2月7日に同国議会上院の共和党及び民主党指導部が合意に到達したことで、2月9日に陥る可能性があった政府機関閉鎖を回避できる可能性が増大したことから、米ドルが上昇したことにより、この日(2月7日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.60ドル下落し、終値は61.79ドルとなった。さらに、2月8日も、2月7日にEIAから発表された同国石油統計に伴い同国原油生産加速と石油需給緩和感を市場が意識した流れを引き継いだうえ、イランのザマニニア石油省次官が、同国は今後3~4年間で原油生産能力を日量70万バレル増強し同470万バレルとすることを目指す旨明らかにしたことで、この先の世界石油需給緩和観測が市場で増大したこと、英国のForties Pipeline(原油輸送能力日量45万バレル)が、2月7日午前10時20分頃バルブ不具合により操業を停止したものの、2月8日に操業を再開した旨、当該パイプライン操業者であるIneosが明らかにしたことで、英領北海油田からの原油供給低下に関する市場の懸念が後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.15ドルとは前日終値比で0.64ドル下落した。そして、2月9日には、この日Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で791基と前週比で26基の増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で732基と前週比で20基の増加)となっている旨判明したことで、この先米国の原油生産増加が加速するのではないかとの観測が市場で発生したことに加え、米国農業部門雇用者数の増加により、この先同国金融当局が金利の引き上げを加速させるのではないかとの観測が市場で発生した流れを引き継いだことにより、米国株式相場が一時下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.95ドル下落し、終値は59.20ドルとなった。この結果原油価格は2月5~9日の5日間で併せて1バレル当たり6.25ドル下落した。

2月12日には、これまでの下落に対して値頃感から株式を買い戻す動きが市場で発生したことで、米国株式相場が上昇したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、2月12日にEIAから発表された「掘削生産性報告(DPR:Drilling Productivity Report)」で、2018年3月の同国主要7シェール地域における原油生産量が前月比で日量11.1万バレル増加するとの見通しをEIAが明らかにしたことが、原油相場に下方圧力を加えた結果、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.29ドルと前週末終値比で0.09ドルの上昇にとどまった。2月13日には、この日IEAから発表された「オイル・マーケット・レポート」で、2018年は米国主導による非OPEC産油国の生産の急増が世界需要の成長を上回る可能性がある旨の見解をIEAが明らかにしたことで、この先の石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.10ドル下落し、終値は59.19ドルとなった。2月14日には、この日EIAから発表された同国石油統計(2月9日の週分)で、原油在庫が前週比で184万バレルの増加と市場の事前予想(同280~310万バレル程度の増加)ほど増加していない旨判明したことに加え、2月14日にサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、OPEC産油国は早すぎる段階で減産を終了するよりも市場で供給が若干不足するような状態にしたままにするほうがいい旨発言したことから、OPEC及び一時非OPEC産油国の減産継続と世界石油需給の引き締まりに対する市場の期待が増大したこと、2月14日に米国商務省から発表された2018年1月の同国小売売上高が前月比で0.3%の減少と2017年2月(この時は同0.5%の減少)以来の大幅な減少となった他、市場の事前予想(同0.2%の増加)を下回ったこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.60ドルと前日終値比で1.41ドル上昇した。また、2月14日夕方に発表された米国IT機器製造会社シスコシステムズの2017年11月~2018年1月期業績が市場の事前予想を上回ったこともあり、2月15日の米国株式相場が上昇したことに加え、米国株式相場が上昇したことで投資家のリスク許容度が拡大したことにより米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.74ドル上昇し、終値は61.34ドルとなった。2月16日には、2月17~19日の米国ワシントン大統領誕生記念日に伴う連休を控え、持ち高調整が市場で発生したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.68ドルと前日終値比で0.34ドル上昇した。この結果原油価格は2月14日~16日の3日間で併せて1バレル当たり2.49ドル上昇した。

 

3.今後の見通し等

イエメンでは、1月16日にフーシ派武装勢力がサウジアラビア(フーシ派武装勢力と戦闘状態にあるハディ暫定大統領派の勢力を支援している)南部のジーザーン(Jizan)に向け弾道ミサイルを発射、サウジアラビア軍により迎撃されたと同日報じられている。他方、1月28日には同国南部のアデンで、ハディ暫定大統領派の勢力に協力していた同国南部独立派勢力である「南部移行評議会」(2017年に設立されたと伝えられる)とハディ暫定大統領派勢力との間で衝突が発生、1月29日時点で少なくとも15名が死亡したと報じられるなど、同国情勢は複雑化する兆候を見せている。

1月12日には、米国のトランプ大統領が、ウラン濃縮を巡るイランに対する制裁停止を継続する旨表明したが、同時にイランの反体制デモ弾圧に伴う人権侵害や弾道ミサイル開発に関与した14の団体や個人を制裁対象者として追加するとともに、米国議会や欧州諸国に対し、イランとの合意見直しを強く要請、なされない場合には直ちに核合意を破棄する旨示唆した(次回の判断は120日後の5月と伝えられる)。また、1月22日に米国のティラーソン国務長官が英国のメイ首相及びジョンソン外相と協議した結果、ウラン濃縮問題を巡るイランと西側諸国等との間での合意に関する問題点への対応策につき検討するために専門家が協議する場を設置することで合意した。ただ、一方でジョンソン外相はイランと西側諸国等との間での合意を基本的に維持することが肝要である旨の表明もしている。

シリアでは、1月20日にトルコのエルドアン大統領が、同国で活動するクルド人勢力主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)を支援する組織である民主連合党(PYD)(シリアのクルド人勢力は、トルコからの独立を目指し、エルドアン政権と対立する非合法組織であるクルド労働者党(PKK)に近いとエルドアン政権は認識している)が事実上支配するシリア北西部へのアフリンや北部マンビジュにおいてPYDを一掃するための軍事行動開始を宣言した(米国等の有志連合の支援のもと、シリアのクルド勢力支配地域における防衛体制をトルコとの境界部分を含めクルド人勢力により構築する旨1月14日に報じられたことが背景にあると指摘される)。1月21日には、トルコ軍が越境しアフリンに進攻したとトルコのユルドゥルム首相が発表した。進攻は2月16日現在でも継続しているものと見られる。一方で、1月25日にはウィーンで国連が主催するアサド政権及び反体制派間での和平協議が再開されたが、1月26日に特段の成果なく終了した。また、1月29日には、ロシア南部のソチでロシア主催の「シリア国民対話会議」が開催され(但し、シリアの反体制派の主流勢力やクルド人勢力は欠席している)、1月30日には、新憲法制定に向けた委員会の創設が提案された。今後国連が主導する和平協議において最終的に決定されるとともに、当該委員会はアサド政権と反体制派が参加するものとされている。他方、シリア北西部のイドリブ県の上空でロシア空軍機が反体制派によるミサイルにより撃ち落され(ヌスラ戦線が撃墜した旨2月3日に明らかにしている)、操縦士は脱出したものの、その後殺害された旨2月3日に報じられる。これに対しロシアはヌスラ戦線に攻撃を加えた結果、同戦線の構成員30名超が死亡したと2月3日に伝えられる。また、アサド政権軍がダマスカス郊外の東グーダ地区(反体制派が掌握)で空爆を実施した結果、2月5~7日に市民を含む130~140名が死亡したと伝えられる。さらに、2月7日には、東部デリソール郊外において、SDFの拠点に対しアサド政権軍が攻撃を加えたとして、SDFを支援する米国が主導する有志連合がアサド政権軍に対して空爆を実施するなどの反撃を加えた結果、アサド政権関係者100名以上が死亡したと報じられる。一方で、イスラエルは自国に不法に侵入したとされるイランの無人機を撃墜した他、シリアにあるイランの無人機の拠点を空爆した(この結果、アサド政権の軍事関係者6名が死亡したことが2月10日に判明している)が、その際、シリア政府軍によるミサイル攻撃によりイスラエルの戦闘機が撃墜されたと、2月10日にイスラエル軍が明らかにした。

他方、12月6日に発表した米大統領のエルサレムのイスラエル首都認定に関し、パレスチナ自治政府のアッバス議長は、当該認定は世紀の屈辱である旨表明、またトランプ氏による中東和平協議への仲介の提案を拒否したが、1月22日に米国のペンス副大統領は訪問先のエルサレムで2019年末までに駐イスラエル米国大使館をエルサレムに移転させる方針である旨明言した。

ナイジェリアではNDAが政府の和平交渉は有意義な結果に到達しなかったとして、数日中に沖合深海油田関連施設を攻撃する旨1月17日に表明している。Bonga、EA(以上操業者:Shell)、Agbami(同Chevron)、Akpo(同Total)の各油田が標的であると明らかにしており、またナイジェリア石油会社のBrittania-Uも標的にするとNDAは発言している。

ベネズエラでは、1月5日にマドゥロ政権が導入を支持した仮想通貨「ペトロ」に関し、米国財務省は同国への与信行為と見做されるため、ベネズエラの新規発行国債の購入を禁止した制裁(2017年8月25日発動)に違反する恐れがあることから、投資家に当該通貨について慎重に対応するよう1月16日に警告した。他方、1月23日にベネズエラの制憲議会は大統領選挙を2018年4月末までに繰り上げて実施する旨決定した(マドゥロ現大統領の任期は2019年1月であったので、当初は2018年末までに実施すると見られていた)。また、同国最高裁判所(マドゥロ政権派が主流)は、野党連合である「民主統一会議(MUD)」からの大統領候補者の立候補を認めないと1月25日に判断した旨1月26日に報じられる。そして、ドミニカ共和国の仲裁によりマドゥロ政権と議会の野党連合との間で実施されてきた協議に関し、2月7日にドミニカ共和国のメディナ大統領は協議を無期限に延期する旨表明した他、同日ベネズエラの選挙管理委員会が4月22日の大統領選挙実施を決定した。一方で、米国のティラーソン国務長官はベネズエラからの原油輸入及びベネズエラへの石油製品輸出の抑制措置実施を検討する旨2月4日に表明したが、2月7日に、当該方策に関する検討の最終段階に入った旨明らかにしている。

地政学的リスク要因面では、前述の通り、イエメンにおいてサウジアラビアが支援するハディ暫定大統領の勢力とイランが支援しているとされるフーシ派武装勢力との間で事実上の内戦状態となっているうえ、ハディ暫定大統領の勢力も、ハディ暫定大統領の勢力とともにフーシ派武装力に対峙してきた南部独立派勢力がハディ暫定大統領の勢力を攻撃し始めるなど分裂状態に陥っており、同国の情勢はさらに混乱し始めている。また、イランについても、トランプ政権が1月12日にイランとの核合意に関し、欧州諸国等のさらなる対応なしに制裁解除を延長するのはこれが最後である旨明言しており、核合意が破棄される可能性が相対的に高まった状態は根本的には変わっていない。シリアに関しては、トルコのシリア北部でのクルド人勢力掃討作戦の実施に加え、アサド政権軍のクルド人勢力攻撃と米国の反撃、イスラエルのシリアでの空爆実施などで、米国軍主導の有志連合及びクルド人勢力と、アサド政権、ロシア、イラン、トルコ、イスラエル等との間での関係が複雑化してきている。そして、さらに衝突等が拡大するようだと、中東全体の情勢不安定化に対する懸念が市場で増大する可能性がある。また、1月22日には米国のペンス副大統領が2019年末までに現在テルアビブにある駐イスラエル米国大使館をエルサレムに移転させる旨表明するなど、エルサレムをイスラエルの首都と表明した米国及びイスラエルと、イスラム諸国との間での対立も解消していない。ナイジェリアでは、武装勢力が沖合油田攻撃を警告しており、実際に攻撃が実施されるようだと同国での石油供給途絶懸念が市場で増大するといった事態も想定される(但し、現在までに実際に攻撃が行われたという情報はない)。ベネズエラに関しては、政治情勢が不安定化している他、米国の制裁実施もあり、石油産業への資金供給が不十分となっているように見受けられる部分もあり、原油生産は減少傾向となっている。国内情勢の混乱の沈静化と米国による制裁解除が視野に入っているわけではないところからすると、同国の原油生産量はなお減少を続ける可能性がある他、米国がベネズエラ産原油の輸入及び石油製品のベネズエラへの輸出を制限する措置の実施を検討する動きもあり、4月22日に実施される予定の大統領選挙に向け、国内情勢のさらなる混乱に伴う、同国石油産業及び外国との石油貿易への影響の発生も否定できないことから、市場での不安感が今後も当面継続すると見られる。このように、地政学的リスク要因面では、中東、アフリカ、中南米において不安要素を抱えたままとなっており、市場での石油供給途絶懸念から原油相場が下支えされやすい状態が続くほか、状況次第では懸念が増大する結果原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性もあるので、動向につき注意する必要があろう。

一方で、2009年以降概ね上昇を続けてきた米国等の株式相場は1月26日に26,616.71ドル(ダウ工業株30種平均)の史上最高水準に到達したものの、2月8日には23,860.46ドルと10%強下落した。背景には、最近の堅調な米国経済指標類等により、今後同国で金利が上昇するとの観測が市場で発生したことがあるとされる。その一方で、2月5日にパウエルFRB議長が就任したが、同氏はイエレン前FRB議長在任時に開始した金利引き上げ方針の継続を2月14日に表明するなど、金融政策面では引き締めの方向性に変更はない。このため、米国での金利上昇見通しが根強い中で、株式相場が今後回復を持続できるかどうかが注目点になると考えられる。金利引き上げに十分耐えられるほど経済は堅調であるとの認識が市場で広がってくれば、株式相場の上昇が持続するとともに、経済成長に伴う石油需要増加観測が市場で増大する他、投資家のリスク許容度の拡大により、原油市場に資金が流入、市場の心理が原油価格下落要因よりも上昇要因を織り込みやすくなる結果、原油相場に上方圧力が加わりやすくなると考えられる。しかしながら、株式相場の下落が再開されるようだと、経済成長が鈍化することに伴う石油需要増加減速の観測が市場で増大するうえ、投資家のリスク許容度縮小による原油市場からのさらなる資金の流出が発生することに加え、市場の心理が原油価格上昇要因よりも下落要因を織り込みやすくなる結果、原油相場に下方圧力が加わりやすくなると考えられる。このようなことから、今後も当面は株式相場の状況が原油相場に大きく影響すると考えられる。そして、そのような中で、米国、欧州、中国等の経済指標類等が株式相場に影響を与え、それが原油相場に織り込まれるといった展開も見られうる。

冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は最終消費段階ではなおしばらくは続く(市場関係者の認識では3月31日までとされている)。ただ、米国を中心とする製油所では、冬場の暖房シーズンの終了が視野に入りつつあるとともに、春場のメンテナンス作業時期の本格的突入を控え、原油精製処理量を減少させるとともに、原油の購入が不活発になってくるとの観測が市場で広がってくる。従ってこの面で原油相場に下方圧力が加わる場面が見られる可能性がある。しかしながら、2017年8月下旬にハリケーン「ハービー」が米国メキシコ湾岸地域に来襲したことに伴う当該地域での製油所の停止及びその後の米国等での秋場のメンテナンス作業実施に伴う製油所の稼働低下と石油製品生産活動の不活発化による、石油製品、特に留出油在庫の大幅減少に加え、2017~18年の冬において、米国の暖房用石油製品の需要地域である北東部で気温が平年を大幅に下回る場面がしばしば見られたことで、留出油需要が盛り上がったと見られることにより、2月上旬時点では依然として同国の留出油在庫は潤沢にあるとは言い切れない状況にあることから、今後米国北東部の足元の気温が大幅に低下したり、もしくは低下するとの予報が発表されたりした場合(現時点では今後2週間程度は米国北東部は概ね平年を上回る気温になるとの予報となっている)には、留出油需要に伴う石油需給の引き締まり感が市場で強まることにより、暖房油及び原油相場に上方圧力が加わる可能性も残っている。他方、2017年第四四半期を中心として原油価格が上昇したこともあり、米国でのシェールオイルの開発・生産活動の活発化が市場では予想されている。従って、2017年1月から実施されているOPEC及び一部非OPEC産油国による減産による在庫削減効果を低減させるとの市場の観測から、原油相場の上昇が抑制される可能性があり、また、今後発表される予定である米国の原油生産状況及び見通し、米国石油坑井掘削装置稼働数の状況によっては、原油相場が下落する場面が見られることも想定される。

全体としては、株式相場の動向に原油相場の動向が大きく影響を受ける状態が当面続くものと考えられる。株式相場が回復基調となれば、投資家のリスク許容度拡大もあり、経済が回復することを示唆する経済指標類や地政学的リスク要因、OPEC及び一部非OPEC産油国による減産に伴う石油在庫余剰の減少期待を材料として原油市場に資金が流入する結果、原油価格が上昇しやすくなると考えられる。反面、株式相場が下落を再開するようであれば、投資家のリスク許容度が縮小するとともに、季節的な石油需給緩和感や米国でのシェールオイル生産増加の兆候が材料視され、原油価格が下落しやすくなると考えられる。

 

4.世界天然ガス市場動向

米国では、2015年9月に天然ガス生産量が日量747億立方フィートと当時としては1997年1月以降の同国月間天然ガス生産統計史上最高水準に到達したが、原油及び天然ガス価格の低迷に伴う石油及び天然ガス坑井掘削装置稼働数の減少もあり、同国の天然ガス生産水準も低下に向かった。その後原油及び天然ガス価格が回復したことにより、石油及び天然ガス坑井掘削装置稼働数は増加に転じたものの、その度合いが比較的緩やかであった他、特に2017年11月~2018年2月については、石油坑井掘削装置稼働数は増加傾向となっているものの、天然ガス坑井掘削装置稼働数は上下変動を繰り返しており、明確な増加傾向を示していない(図16参照)。これは同国の天然ガス価格が特に2016年後半頃から概ね100万Btu当たり3ドル前後で推移していることが一因となっているものと考えられる。しかしながら、そのように掘削装置稼働数の増加は緩やかではあったものの、同国の天然ガス生産量は2017年1月以降増加に転じており、2017年9月には日量751億立方フィートと2015年9月に到達した統計史上最高水準を上回った他、その後も増加は続き、2017年12月には同780億立方フィートを超過、2018年1月は前月比で若干減少したものの、それでも同776億立方フィートとなっている(図17参照)。この背景としては、より少ない掘削装置稼働数で生産を増強できるよう、掘削活動の迅速化や坑井掘削距離の長大化、水圧破砕の多段階化を含め、開発・生産効率の改善を図ってきていることがあると言われている。今後も米国では天然ガス生産が増加していくと予想されており、2019年12月には日量839億立方フィートに到達すると見られている。

図16 米国天然ガス水平坑井掘削装置稼動数(2011~18年)

図17 米国国内天然ガス生産及び見通し(破線部分)(2009~19年)(EIA発表時期別)

他方、足元の天然ガス需給は引き締まり気味である。米国では、2017年11月より気温はしばしば平年を下回るようになった他、2018年1月にはさらに気温が低下、平年を大幅に割り込んだ(図18参照)。このようなことから、暖房向け天然ガス需要や空調のための発電向け天然ガス需要が盛り上がった(図19参照)。また、パイプライン等のインフラが整備されたことに伴いメキシコへの天然ガス輸出も引き続き堅調に推移した他、サビン・パスLNG出荷施設も2017年10月9日に第四液化装置(Train 4)(LNG生産能力年産450万トン)の建設が完了し、LNGの生産が開始されたことにより、同施設からのLNG輸出量も増加したと見られる。このように、米国では国内外市場への天然ガス出荷が活発化したことにより、軒並み平年(過去5年平均)を上回る天然ガス在庫取り崩しが行われた結果、11月10日には平年を2.6%下回る状態だった在庫量は2月9日現在平年を18.7%下回る状態へと割り込み幅を拡大している(図20参照)。このようなことから、天然ガス需給引き締まり感が市場で強まったこともあり、天然ガス価格は1月29日には100万Btu当たり3.631ドルの終値と、2017年1月2日(この時は同3.724ドル)以来の高水準の価格にまで上昇した(図21参照)。しかしながら、それ以降は、気温が平年並み、もしくは平年を上回るとの予報がしばしば発表されたことが、今後天然ガス生産量が増加するとの市場での予想と相俟って、天然ガス相場に下方圧力を加えた格好となり、天然ガス価格は下落傾向を示し、2月中旬には100万Btu当たり概ね2ドル台半ば程度となっている。

図18 米国(ニューヨーク)気温(2017~18年)

図19 米国天然ガス消費増加量(2008~17年、前年同月比)

図20 米国天然ガス貯蔵量(2017~18年)

図21 天然ガス先物価格の推移(2007~18年)

2017年8月下旬以降の原油価格の上昇傾向で、石油製品価格連動型の天然ガス価格体系の残る欧州では、天然ガス価格に上方圧力が加わった。また、9月28日に、フランスの電力会社Electricite de France(EDF)が、同国南東部ドローム県にあるトリカスタン(Tricastin)原子力発電所の原子炉(1基当たり発電能力は92万kW)4基全ての操業を停止する旨決定し(同発電所東側を流れるドンゼール-モンドラゴン運河の堤防が決壊した場合に同原子力発電所が冠水し原子炉の安全性に影響を及ぼす可能性があるとの指摘を同日同国原子力安全局から受けていた)、運河の堤防を改修する工事を実施するとともに同原子力発電所の操業を停止した(12月5日に当該原子炉の操業再開が認可された)ことから、フランスの英国からの電力輸入量が増加、その結果英国での発電部門向け天然ガス需要が増加するとの観測が市場で増大した。さらに、11月後半頃以降は気温がしばしば平年を下回り始めた(図22参照)ことで、暖房向け及び発電向け天然ガス需要の増加観測が市場で強まった。加えて、中国での石炭から天然ガスへの転換政策の推進(後述)に伴う同国での天然ガス需要急増により、相当量のLNGが中国に向かったことが欧州へのLNG流入に影響を与えたことで、天然ガス需給の引き締まり感が市場で一層強まった。また、12月11日には、英領北海で生産される原油を英国陸上のキネイル(Kinneil)に輸送するFortiesパイプライン(原油輸送能力日量45万バレル)で小規模の亀裂が発見された結果、同パイプラインが操業を完全に停止したことにより、当該パイプラインで原油を輸送している英領北海の複数の油田の操業が停止した影響で、それら油田等での天然ガスの生産量が日量14億立方フィート程度減少したと推定される他、12月12日にはノルウェーのTroll、Kvitebjorn、Visund、Valemon、Osebergの各油・ガス田もFortiesパイプラインの停止や天然ガス流出、停電等により天然ガス生産を停止、ないし制限したことにより、ノルウェーから英国への天然ガスの流入量が日量25億立方フィート減少した。さらに、12月12日午前8時45分にはオーストリアのBaumgartenガスターミナル(ウィーンの当方約50㎞に位置、ロシアからの天然ガスをオーストリア及びイタリアに輸送)で爆発が発生した結果、当該施設での天然ガス輸送が停止した。この結果、ロシアからオーストリア経由でイタリアに輸送される天然ガスの供給量はゼロとなり(供給不足分は日量38億立方フィートと伝えられる)、同日イタリアでは経済発展省が同国ガス市場に関し「非常事態状態」を宣言(12月15日に解除)、欧州での天然ガス需給逼迫感が市場で強まった。これらの要因が影響し、英国市場での天然ガス価格は、11月10日には100万Btu当たり推定7ドル台前半の終値であったものが、12月12日には同8.83ドルと2014年12月2日(この時は同8.89ドル)以来の高水準の価格に到達した(なお、英国先物市場での取引単位である1サーム(10万Btu)当たりのペンスベースでは、12月12日の終値は66.31ペンスと2014年1月24日(同66.49ペンス)以来の高水準となっている)。ただ、12月13日午前0時にはBaumgarten経由の天然ガス供給が再開されることとなったことに加え、ノルウェーのTroll、Visund、Kvitebjorn等大半のガス田は12月14日に操業再開したこと、Fortiesパイプラインも12月28日に修理を完了し操業を再開、12月30日には正常操業に復帰した旨Ineosが発表したこと(これにより、Fortiesパイプライン停止の影響で天然ガス供給を制限していたValemonガス田は12月29日以降天然ガス生産を引き上げつつある旨12月30日に伝えられる)により、欧州市場での天然ガス供給途絶懸念が後退したことから、英国の天然ガス価格に下方圧力が加わった。1月前半にかけては英国で気温低下予報が発表された他実際に気温が平年を下回る程度に低下したこと、1月8日午後3時にオランダで地震が発生した(地震の規模は2012年以来の大きさであった)ことから、地震の原因として疑われている同国Groningenガス田(現在の生産量は日量21億立方フィートであり、これも地震の発生により2012~13年の同48億立方フィートから制限されたものであるが、2021年迄にさらに同19億立方フィートに減少させる予定であった)に関し、一層の天然ガス生産削減が必要である旨同国のウィーベス(Wiebes)経済相が表明したことから、欧州域内での天然ガス需給引き締まり懸念が市場で発生したことが天然ガス価格を下支えしたものの、英国天然ガス価格は概して下落傾向となり、2月中旬には100万Btu当たり7ドル弱の水準で推移している。

図22 英国(ロンドン)気温の推移(2017~18年)

北東アジア市場では、原油価格が上昇基調となったことに加え、11月30日に関西電力大飯原子力発電所3及び4号機及び九州電力玄海原子力発電所3及び4号機の再稼働が、神戸製鋼所によるデータ改ざん問題に伴う施設調査実施の影響で、大飯原子力発電所3号機の再稼働が2018年1月から3月に、4号機が3月から5月に、玄海発電所3号機が当初予定の2018年1月から3月へ、4号機が3月から5月へ、それぞれ延期されたことから、天然ガス火力発電所の稼働上昇とLNG需要の増加観測が市場で発生したうえ、2013年9月12日に発表された中国政府による「大気汚染防止行動計画」について2017年末が実施の期限となることにより、2017年10月18日に開催された中国共産党大会を前にして同国の石炭火力発電所が閉鎖されるとともに、中国の江蘇省等一部地域の発電部門が石炭から天然ガスへの燃料転換を急速に推進したうえ、中国国家発展改革委員会が9月1日付で天然ガスを輸送するパイプライン会社から各地域及び都市ガス配給事業者等への卸売価格(家計向けを除く)や輸送料金を引き下げたことで同国の天然ガス需要が刺激された一方、同国国内での天然ガス生産量がその伸びに追いつくほど生産が堅調であったわけではなかったことにより、同国のスポット市場からのLNG調達が活発化したこと、北東アジア地域の気温が低下したことにより、当該地域各国での暖房用もしくは発電用の天然ガス、そしてLNG需要が増加したこと、12月半ばに操業を開始する予定であった米国Cove Point LNG出荷施設(LNG生産能力年産525万トン)の操業開始が2018年3月の早期までずれ込むこととなったことから、その間のLNGを別途手当てする必要性が増大したこと、豪州North West Shelf第五液化施設(Train 5)(同440万トン、11月10~19日にコンプレッサーからのオイル漏れにより操業停止)、インドネシアBontang(同2,200万トン、付随するLPG施設における問題で操業を停止したと11月23日に伝えられる)、ロシアのサハリン2(同960万トン、12月遅くに発生したガス田とLNG出荷施設とを繋ぐパイプラインでのガス流出及び気温の上昇に伴うLNG生産効率の低下により減産状態である旨2018年1月15日に伝えられたが、1月24日には、問題が解決される見通しである旨伝えられる)、マレーシアLNG(同2,930万トン、1月10日に接続するSabah Sarawak Gas Pipeline(SSGP)で降雨に伴う地滑りでガス流出が発生したことによりLNG出荷量が減少、当該施設修理作業は5~6月まで続く予定であると伝えられる)といったLNG出荷施設が操業を停止、もしくは制限したことが、LNG価格に上方圧力を加えた結果、2017年11月中旬には100万 Btu当たり9ドル台後半程度であった北東アジア地域でのLNGスポット価格は2018年1月半ばには同11ドル台半ば近くと2014年11月初旬以来(この時は同12ドル台半ば程度)の高水準にまで上昇した。その後冬場の暖房向けもしくは発電向け天然ガス需要が多少落ち着いたことから、LNG価格は下落してきたものの、今後も北東アジア地域では気温が低下することで追加の需要が発生する可能性が残っていることが、価格を下支えしている結果、2月中旬時点においても、LNGスポット価格は100万Btu当たり10ドル台半ば程度の水準となっている。

以上

(この報告は2018年2月19日時点のものです)

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