ページ番号1007437 更新日 平成30年4月10日
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概要
近年のコンピューター能力や通信環境の向上、クラウドシステムによるデータ保存量の増大ほかにより、大規模データの利用環境が整備されるに伴い、産業界ではそのデータの利用(デジタル技術適用)の動きが始まっている。石油産業にとって、デジタル技術には、破壊的創造性による産業の持続性の確保、経済面と環境面の両立、デジタル革命(センサー社会、サイバーセキュリティ)への取り組みという付加価値が期待されよう。
本資料で取り上げた各種情報のレビューからは、地質評価技術の高度化、採掘現場作業の効率化、石油・天然ガスの究極回収量の向上、石油精製・石油化学プラントの保全業務における効果的な人の補完ほかが、石油産業におけるデジタル技術適用の事例となっていることが読み取れた。
(世界石油工学者協会SPE、石油学会ほか)
1.はじめに
近年、石油開発をめぐる環境の変化には、2010年からの油価80~110ドル/バレルの高値変動から2014年半ばから現状50ドル/バレル近辺への下落、イージーオイル(在来型油田)の減退、中国・インド需要市場の急成長から新常態への移行、技術者の人材入れ替え、低炭素化、油価下落下での資源ナショナリズムの行方などが挙げられる。
今後の原油需要に応えるには氷海や大水深(水深300メートル以深)での石油開発に加え、非在来型の油やガスの起源や生産技術を理解した上で、技術力・投資・人的資源の投入が必須となろう。日本国内でもメタンハイドレートやシェールオイルといった非在来型資源への注目が高まっている。
このような背景の中、報告者は、米国テキサス州・サンアントニオのダウンタウンに位置するヘンリーゴンザレス・コンベンションセンター(写真1)にて2017年10月9日から10月11日にかけて開催された2017年SPE(Society of Petroleum Engineers:世界石油工学者協会、会員数16万人)の年次総会(Annual Technical Conference and Exhibition:ATCE)に参加し、最新の石油工学に係る情報を収集した。石油工学とは、石油・天然ガスの掘削、油層管理、生産に関する技術の総称で、SPEはその技術者集団である。
写真1 ヘンリーゴンザレス・コンベンションセンターの外観
(出所:報告者撮影)
本資料では、2017年のSPE年次総会にて得られた情報を皮切りに、石油学会への参加を通じて得られた情報をレビューし、当面の可採埋蔵量の積み増しをコントロールすることになると予想されるデジタル技術適用の動きをまとめたい。また、石油精製や石油化学へのデジタル技術の適用も考えたい。国際エネルギー機関IEAが2017年11月14日に発表したWorld Energy Outlook 2017によると、「世界の多くのエネルギーシステムにとって、未来は電化とデジタル化にあり、これが新たな機会をもたらすが、政策担当者が対処すべきリスクも存在する」、としている。
原油価格は2014年下期以降急落し、米国の指標であるWTI(West Texas Intermediate)は一時30ドル/バレルを割り込んだが、2016年12月のOPEC・非OPECによる生産調整合意に伴い、50ドル/バレル台後半まで上昇した。過去3年半の油価下落は、石油採掘業界にリストラと投資減をもたらした。
現在業界に居る人たちとこれからの若者で業界を支えるには、各自が持つ知見を若者と共有・伝授すること、若者が石油開発に夢や強い関心を持つべく草の根の啓蒙活動を精力的に行うことが極めて重要である。2020年までに新規生産能力として必要とされる日量4,500万バレルを積み増しさせるには、世論と透明性のある対話やCSR行動等を通じて社会的受容性を高め、原油や天然ガスという人類にとってかけがえのないエネルギー源を供給してきた業界への理解と支援を得る必要があろう。そのためには、油やガスの起源や生産技術(図1)を理解し、技術力・投資・人的資源の投入が必須となる。SPEは世の中に対して、事実に基づき、中立で高度な石油工学の知見を伝える使命がある。「負のイメージを良きものに変えるには時間がかかる。しかし、一旦得た良きイメージを失うのは簡単だ。」ということを肝に銘じる必要があろう。
図1 油とガスの起源と生産技術
(出所:奥井明彦(2012)ほかに基づき作成)
本資料では技術力の投入として、デジタル技術に注目したい。
2.データによる解決法は石油産業にとって有効か?
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物事の解決には、決定論的な解決法とデータによる解決法があろう。前者には、現在の物理現象の理解に基づく「数値モデル」があり、データはその検証に使われる。後者では、例えば、自動運転車、グーグルの機械翻訳、空港のセキュリティ・システムが注目されている。子供の言葉覚え、ベストプラクティス(個人の実体験のみならず、パターンやトレンドに基づくもの)も決定論的なものではなかろう。データによる解決法は、ITコンポーネント、エンジニアリングや地球科学的コンポーネントから構成されると考える。
データによる解決法は石油産業にとって有効か? その使用には、統計専門家の助けが必要か? 非専門家の活用は解決結果が有益なものとならない可能性がある。有益なものにするには、石油産業の専門家が、データによる解決法を習得するのが早道であろう。
例えば石油採掘という上流分野では、問題の一部記述を犠牲にして、解析解(坑井テスト)と数値解(貯留層シミュレーター)を用い、問題を解決してきた。データは要点への貢献としてのアセットであった。
一方、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することを「パラダイム・シフト」と定義すると、その経緯は以下のように整理されると考える。
データ主体・探査型のe-サイエンス(現在): 理論・実験・シミュレーションの統合。計測された、もしくはシミュレーターから作られたデータ。コンピューター内に情報と知識が保存。科学者はデータ管理ツールや統計処理によりデータベースやファイルを分析。観察/学習/模倣/コントロールを通じて、物理現象をモデル化する。
例えば、石油採掘で近年注目を集める非在来型のシェール資源の中の流動データはハードデータ(計測)とソフトデータ(解釈/推定/推測)に分けられる。ソフトデータには未知な部分が多いため、「データ主体・探査型のe-サイエンス」的なアプローチをとることも有効と考えられる。
その手法として、「データマイニング」と「機械学習」が注目されている。
データマイニング:ビックデータを分析して知識を取り出す。データ変換により、埋もれた情報を発掘 → (人による分析では時間がかかる)意味あるパターンの発掘。AIの技術とツールを活用することにより、データを選択・予備処理・転送し、データマイニングからパターンを抽出し、それを解釈・評価することで、知識を導く(図2)。モデルには、パターンや知識が蓄積される。
図2 データマイニングのイメージ
(出所:各種資料に基づき作成)
機械学習:画像・音声・文章などのデータの分類方法をコンピューターに学ばせ、分類精度を高めるAIの技術。入力したデータをうまく分類できるように、処理に必要な数式をコンピューター自身が、後から変形・調整する。例として、画像検索、音声認識、センサーのデータを使った工場やインフラの異常検知、自動運転車が挙げられる。
石油産業にとって、データによる解決法を考える上で、参考となる用語を表1にまとめた。
表1 石油産業にとって、データによる解決法を考える上で、参考となる用語
パターン認識: 統計、AI、データベースの重なり部分をデータマイニングすることで、パターンが認識出来る。複雑さが増すと、正確な記述は意味をなくし、意味ある記述は正確さを欠くからである。
従来のコンピューティング(定量、正確、形式) 対 AI(定量、あいまい、略式)
AI: ファジー理論、ニューロコンピューター、蓋然論、発生アルゴリズム、カオス、ラフなセット。記述と予測の両方のデータマイニングで、鍵となる役割を演じる。(生物の)動きを模倣して、複雑で非線形のダイナミックな問題を解く。 |
出所:各種資料に基づき作成
3.石油産業におけるデジタル技術適用の事例レビュー
以下に、2017年のSPE年次総会にて得られた情報を皮切りに、石油学会への参加を通じて得られた情報をレビューし、石油採掘産業および石油精製や石油化学へのデジタル技術適用の現状を考えたい。
3-1.2017年SPEの年次総会での事例
(出所:SPE-ATCE2017 Conference Program、2017年10月)
油価下落と採掘コスト上昇の中、油価50ドル/バレルを意識し2022年を目途にした供給にどう立ち向かうのかが、石油採掘産業の関心事であろう。「技術セッション12 Driving sustainable value from digital energy revolution」にて得られた情報を基に、石油採掘産業に付加価値をもたらしつつあるデジタル技術適用の動きを探った。
技術セッション12 Driving sustainable value from digital energy revolution
- ■SPE 187300: Identifying Cost-effective Waterflooding Optimization Opportunities in Mature Reservoirs From Data Driven Analytics。Frontender社の発表。
水を油層に圧入することによって、本来油層が持っている排油エネルギーを強化する手法である水攻法のパフォーマンス評価において、日々のモニタリングに対して巨大で複雑な数値モデルの適用は必ずしも有用とは言えない。しかしながら、数値モデルの代替としてデータに基づく解析モデルは、圧入井の配置や短期の生産シナリオを素早く的確に分析できるだろう。解析モデルは水攻法データのヒストリーマッチングや油層管理予測を素早くできるため、生産井からの水付き低減や操業コスト低下に繋がりやすい。油層内で面方向及び縦方向の掃攻率を改善するには油層に圧入された水の分布予測が重要である。解析モデルとして、Capacitance Resistanceモデル(CRM)、数値的ストリームライン、Normal Equationアルゴリズム(NEA)を利用した。CRMとNEAにて、データのヒストリーマッチングを行い、油回収率が最大になるような圧入・生産シナリオ(圧入量と生産量の割り当て)に基づく予測を行ったところ、CRMの方が良好な結果を得た。
- ■SPE 187222: Creating Value by Implementing an Integrated Production Surveillance and Optimization (IPSO) System – An Operator’s Perspective。Anadarko社とiLink Systems社の発表。
統合的な生産監視・最適化システムがもたらす付加価値 -オペレーターとしてのAnadarko社の見通し
大水深開発におけるデジタルオイルフィールドとは? iLink Systems社の開発したIPSOシステムは、各種データの取得・操作・予備的分析・見える化・貯蔵を行い、坑井・施設稼働時において、オペレーターが行う作業の効率・信頼性向上、貯留層挙動の早期理解へと繋げられることが付加価値となる。
- ■SPE 187217: Applying Data Management and Visualization to OPEX Reduction and Improved Asset Integrity Programs。Murphy E&P社の発表。
油ガス田からの生産量が減退する中で操業条件の拡大を考える時に、ペーパーレスに伴うビッグデータの管理と見える化(デジタルオイルフィールド)が、意思決定・コストコントロール・生産予測・施設の健全性・陸上の非在来型資産の管理にもたらす効果についての発表。現場作業者を操業費削減と現場作業の最適化に専念させるような仕組み作りを目指す。「ビッグデータの見える化」を請け負う業者のQuality Controlが大事。遠隔の陸上フィールドでの作業(パイプラインのピギング、陰極防食、容器/タンク点検、坑井への薬剤圧入)からのデータ伝送にモバイル機器(アプリ、ダッシュボード)を使用した。例えば、坑井への薬剤圧入レートの単位は、ppmより現場作業者に馴染みがある「ガロン/日 1ガロン=3.785リットル」に直すのが望ましいとしている。薬剤の使用量はタンクの外面に取り付けられたゲージの変化から把握するため、変動が激しい日々のデータよりも1週間以上のデータをまとめて分析する方が、無駄が少ない。データ量の少ない箇所を特定し、データ量及びデータ分析を増やすことで、現場作業に付加価値をもたらすと結論付けた。
- ■SPE 187379: A Meta-Data Framework for Transparency in Rate of Penetration Calculations。テキサス大オースチン校、Cavanaugh Consulting社、Baker Hughes社、Apache社の発表。
掘進率に関するメタデータのフレームワークについての発表。掘削作業時において、異なる人や電子データ記録器間のデータ交換は頻繁に行われるが、センサーから得られたデータを用いた計算は殆ど記録されていない。掘進率の計算データ記録のためのメタデータ・フレームワークの紹介している。WITS0、WITSML、OPC/UAといったデータ変換プロトコルを想定した。電子データ記録器のベンダーへのインタビューを通じて、データ交換の仕組み(データ形式上の違い)を理解し、センサーから得られたデータをどのように掘進率の計算に用いているかを説明した。メタデータ・フレームワークには、幾つかの掘進率計算アルゴリズムのみならず変換データが格納されている。データ伝送の周波数の違いが掘進率計算結果に影響を与える。メタデータ・フレームワークの解析により、計算アルゴリズムの違いがもたらす計算結果の違いを物理的に解釈でき、掘削サービスコントラクターと事業者間の認識のあいまいさを縮めることができた。開発された「メタデータのフレームワーク」は掘進率のみならず、掘削深度、掘削ビットの深度、ビット荷重にも適用できるとしている。
- ■SPE 187375: Improving Governance of Integrated Reservoir and Information Management Leveraging Business Process Management and Workflow Automation。ADNOCとFrontender社の発表。
油層管理、石油開発技術情報管理、地上作業管理の統合が、ADNOCグループのビジネスフローのテコ入れ(Business Process Management:BPM)にどう結び付いたか(効果・効率)の戦略・方法・技術についての発表。ビジネスフローに調和性をもたせる土台作り(Workflow Orchestration Platform)が大事であり、それらはビジネスプロセスモデル、ビジネスルール、人の流れ、プロセス挙動のモニタリングの集合体である。データ・システム・プロセス/処理・人の相互作用に注目した。
BPMの効果として、次の6点を挙げている。
- 基準となるワークフローの定義と展開(Standard Operating Procedures: SOPの順守、技術データの質の改善15%~40%。)
- 入口情報とワークフローから得られた結果の保存(問題定義から結果レビューまでの時間が20%削減。)
- ベストプラクティスに結びつく知識獲得とその普及(1日のプロセス評価をKPI[重要業績指標]でその日のうちに実施。以前までは数週間かかっていた。)
- 協働という作業環境(webサイトの活用による作業時間の短縮。)
- ワークフロー評価統計の獲得とレポーティング(今まで見過ごされてきた課題やデータの欠損に気づくようになった。)
- SOPや基準に基づくビジネスプロセス文書(ワークフローの開発に伴う文書の更新が容易になる。新人エンジニアが技術ワークフローを実践する時間が20%~30%削減。)
- ■SPE 187270: A New Approach To Harness Data for Measuring Invisible Lost Time in Drilling Operations。ヒューストン大とHalliburton社の発表。
掘削作業における目に見えない(目立たない)ロスタイム(Invisible Lost Time:ILT)を抑制する新しいアプローチ。掘削作業の一部には、最大の効率で実施されていないものがあるためにILTは生じる。従来、坑内環境と作業者を想定した作業を考える上で作業の取りかかりに要する時間(Threshold Time)は、作業に寄与しない時間(Non-productive Time: NPT)の計算に使われる。NPTが計算されると、残りの時間が各掘削作業に振り分けられる。ILT はNPT に含まれることも作業時間(Productive Time)に含まれることもある。NPT は機器の効率まで考慮していない掘削日報でのダウンタイムである。ILTの原因は掘進率、ビット荷重、トルク、流量といった掘削パラメーターに掘削作業毎(Rotary drilling, Sliding, In slip, Tripping-in, Tripping-out)に関連付けられる。ILTを考慮することで、NPTからILTを減じて掘削に割ける時間が最大化でき、坑井の掘削計画がより洗練されたものになることが期待されるとしている。
- ■SPE 187390: Artificial Lift Applications for the Internet of Things。Encline Artificial Lift Technologies社の発表。
IT関係者が近年盛んに取り上げるInternet of Things(IoT)だが、井戸元での人工採油法へのIoTの適用は有効なのか(Wi-Fiのサーモスタットと同じような形態で使えるのか、人工採油法のデータをクラウド環境につなげる必要はあるのか)、IoTは作業時間の短縮や作業効率の向上に寄与するのかを考えた。実際の井戸元での4件の適用事例(ポンプのストローク最適化/SPE181228、ガスリフトのコンプレッサー設計2件/SPE181773、3段のガスリフトのコンプレッサー設計)を調べることで、その答えを探した。人工採油法へのIoTの適用では、クラウド環境までは必要ないが、エンジニアリングや作業者のノウハウはIoTと組み合わせることで、作業者が行う計算や統計処理の手助けとなり、作業効率の向上に資する重要業績指標KPIの同定がしやすくなり、作業時間の短縮や作業効率の向上に寄与することを確認した。通常のSCADAシステムとIoTで用いるセンサー間のデータ伝送はうまくいった。
3-2.国内上流分野でのデジタル技術の検討事例
(出所:石油学会 京都大会 第46回石油・石油化学討論会 講演要旨集、2016年11月)
原油の分子モデルであるデジタルオイルは、実験で通常得られる密度や粘度などの巨視的な物性に加えて、界面張力や分子の会合エネルギーのような微視的な物性予測に有用であるかどうかの検討が始まっている。
- デジタルオイルの石油開発工学への応用: 深田地質研、東京大、京都大、JX石油開発ほかの発表。
デジタルオイルを知ることで、ケロジェン孔隙内でのメタンの吸着現象、原油と地層水間の界面張力の推定、アスファルテン障害回避のためのインヒビターの選定の把握を、実験から、「原油を構成する分子の分子構造とその割合が分かるモデル」へ移行しようとする試みの紹介。まず原油をヘプタン抽出でアスファルテン・マルテン成分へと分ける。マルテン成分は蒸留分析で軽質油と重質油に分ける。軽質油はガスクロマトグラフィで成分の同定定量を行い、アスファルテン成分と重質油は1H-NMR測定・13C-NMR測定で分子構造情報を得る。最後にQuantitative Molecular Representation (QMR)にて代表分子モデルを作成する。デジタルオイルを用いた分子動力学(MD)の計算ができるようになる。デジタルオイルは、実験で通常得られる密度や粘度などの巨視的な物性に加えて、界面張力や分子の会合エネルギーのような微視的な物性予測に有用だとする。
- 分子動力学を用いた分子スケールにおけるアスファルトとシリカの固着特性(道路の舗装関連): 深田地質研、東京大、京都大の発表。
- ケロジェンのミクロ孔内部での吸着現象の定量式: JAPEX、東京大、京都大、JOGMECほかの発表。
- ナノ孔隙中におけるシェールガスの滑り流についてのMDシミュレーション: 京都大、東京大、JOGMECほかの発表。
- 炭酸塩岩と酸性原油の相互作用(吸着現象に対する陽イオンの寄与)に関するMD計算: 京都大、東京大、深田地質研の発表。
3-3.国内下流分野でのデジタル技術の検討事例
(出所:石油学会 鳥取大会 第47回石油・石油化学討論会 講演要旨集、2017年11月)
石油精製・石油化学プラントの保全業務における人材不足、作業者の技量低下を補う対策の一つとしてIoTの導入が検討されている。IoT等を活用したデータ共有、データを活用した予測モデル・データベースの構築が出発点となろう。
高精度分画法やフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析を用いたペトロリオミクス(石油や石油製品に含まれる全ての分子構造を解明し、それを基に石油性状や精製反応挙動を理解しようとする考え方)の研究が進んでいる。プラント・オーナー、システム・インテグレーター、機器サプライヤー間でのプラントのビッグデータ共有のための基盤技術と国際基準の整備が進められている。現場のリアルデータを確保するためのセンサーや収集システム、AIの開発・実装技術やデータサイエンティストを育成し、最終的には「工場の無人稼働」を目指そうとしている。
- ニューラルネットワーク手法による配管の腐食予測: アクセンチュア社の発表。
- ソフトセンサー・AIを活用したガス組成予測: 三井化学の発表。
- ビッグデータ解析を活用した熱交換器の汚れ予測: 三井化学の発表。
- プラント装置産業の保守・保全に関するICTの技術活用: 富士通の発表。
ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)による効果的な人の補完を目指す。世界の工場がインターネットを介して繋がり、機械と人が連動して動くことで製造現場が最適化される。安全・安心な操業を実現するために遠隔操作も活用し、人の知の再利用性を高め、組織の知的活動の生産性を高めることで、「現場の業務に深く傾倒し、技能を発揮し知識を発見し続けるプロフェッショナルたる人」を支える「人間力への活用」の仕組みをICTにより構築する。
3-4.Repsolとマイクロソフトの戦略的提携
(出所:http://yourindustrynews.com/news_item.php?newsID=146835)
Repsolにとってデジタル技術の適用は、2014年半ばから続く「低油価サバイバルモード」からの脱却を目指す戦略に欠かせないものとの位置づけである。
マイクロソフト社のAzureというクラウド・プラットフォームを利用することによって、今までよりも安価でデータ共有でき、データの高速処理かつデータを活用した予測モデル・データベースの構築が容易になる。予測モデルやデータベースそのものは、Repsol社が提供する。大量のデータ処理・貯蔵が安価にできれば、操業コストの低減や作業者の技量低下を補うという付加価値の創出に繋がるという狙いだ。3年後に効果を期待する。Repsol社の従業員はマイクロソフト社が提供する「Office 365:月払いや年払いで提供されるクラウド型のOffice」上でデータ処理・貯蔵を行うことができる。データ処理・貯蔵にはマイクロソフト社の有するクラウド・コンピューティング、人工知能、IoT、Mixed Reality(複合現実感:Virtual Reality/人工現実感やAugmented Reality/拡張現実感を含む広い範囲、完全にリアルなもの以外の部分)の各技術を駆使する。Repsol社はマイクロソフト社が開発中の技術(βバージョン)も試行・評価できる。そのために両社は共同作業チーム(Digital Projects Coordination Team)を組成する。同チームはRepsol社の経験、人材管理、運用ほかをモデルに組み込む。対象は石油精製・石油化学プラントの保全を想定している。
3-5.Statoilにとってデジタル技術の適用
(出所:https://www.statoil.com/en/how-and-why/digitalisation-in-our-dna.html)
Statoilも北海での重質油、バレンツ海での油ガス田開発にGoogleのアルゴリズム活用など活発に動いている。2020年までに、digitalization(IT/デジタル技術の適用)に1.2億~2.4億ドルを追加的に投資予定である。200億個のデバイスは2020年までにオンラインで繋がる。世界のデータ量は2025年までに現在の40倍となる。世界のAIへの投資は年350億ドルにも達しよう。
温室効果ガスの排出を低減した上での油ガス田開発(例えばCCS:二酸化炭素回収貯留の併用)や再エネがこれからの投資対象となる。Statoilは過去50年に亘る厳環境の北海での石油開発の実績がある。
Statoilにとってデジタル技術の適用は、2014年半ばから続く「低油価サバイバルモード」からの脱却を目指す戦略に欠かせないものである。生産増や生産効率向上により、毎年税引き前で12億ドル程度の経済効果が期待される。安全、安心、持続性、生産性や経済性向上に繋がるものだ。デジタル技術の適用推進役として、Digital Centre of Excellenceを設立した。Statoilによって、油・ガス・再エネ資産よりも重要な資源は人的資源である。Digital Centre of ExcellenceはStatoilの中でデータ解析、機械学習、人工知能といったデジタル技術の適用において推進役を担う。Digital Centre of Excellenceの長は、その成果をStatoilのCOO(最高操業責任者)に報告する。Digital Centre of Excellenceが取り扱うデータ量は28ペタバイト(ノルウェー国立図書館蔵書の3倍)にもなり、データ解析や機械学習で有用な経営判断材料に変える。クラウド・コンピューティング(大量データの貯蔵・処理・外部関係者との共有)、および探鉱開発の判断ツールとしての機械学習を活用する。
デジタル技術の適用例として、掘削コントロールの自動化、風力発電の蓄電、掘削作業のデータ解析、陸上基地Bergenからの無人Valemonプラットフォームの遠隔操作開始(ノルウェー初 2017年11月)、米国・ノルウェー大陸棚の油ガス田の統合オペレーションセンターが挙げられる。
デジタル技術の適用分野は次の6つ: ①安全・安心・持続性開発へのデータ分析・整理、②地下のデータ解析、③坑井・貯留層データのリアルタイム分析、④将来のフィールド開発へのスマートデザインやコンセプト選択、⑤データに基づく操業、⑥プロセスのデジタル化(機械的なマニュアル入力やデータチェックを減らす)。
①の具体例として、人の介入が難しいエリアへのロボット(ドローン、自動掘削、油ガス田の遠隔操業)導入、ドローンによる洋上風力発電の羽根検査がある。⑥の具体例としては、センサーデータを活用した機器のメンテナンス時期予測が挙げられよう。
4.まとめ
石油産業でデジタル技術の適用が進む背景としては、供給者側にとっての原油・天然ガス価格の低迷に伴う投資・操業コストの低減要請、環境規制の強化、熟練技術者の減少、データ供給技術の進歩(利用可能なデータの増大)、データ利用に係るインフラの整備(モバイル、クラウド、AI/ビッグデータのハンドリング)、サイバーセキュリティへの対応ほかが挙げられよう。石油産業にとって、デジタル技術には、破壊的創造性による産業の持続性の確保、経済面と環境面の両立、デジタル革命(センサー社会、サイバーセキュリティ)への取り組みという付加価値が期待されよう。
石油上流分野では、新規油田開発よりも既発見油田からの回収率向上や生産効率向上を目指した技術(インテリジェントウェル、EOR/IOR、水平坑井、多段階の水圧破砕)の適用や非在来型資源(タイトオイル、シェールガス)の開発に軸足を移している。油価の長期的な動きを十分意識しつつ、開発資材コストの高騰と、改良・開発されたデジタル技術の適用の度合いが、当面の可採埋蔵量の積み増しをコントロールすることになると見る。下流分野では、人材不足、作業者の技量低下を補う対策の一つとして、IoT・ビッグデータ活用による設備管理業務の革新に焦点が当たっている。
本稿で取り上げた各種資料のレビューからは、地質評価技術の高度化、採掘現場作業の最適化・効率化、究極回収量の向上、石油精製・石油化学プラントの保全業務ほかが、石油産業におけるデジタル技術適用の事例となっていることが読み取れた。大規模情報の収集や処理の一部にデジタル技術を適用することで、リスク削減と生産性向上を念頭に置き、情報に富んだ操業上の判断を、人間がスムーズにできる時代も近いのかもしれない。
<参考資料>
JOGMEC石油・天然ガスレビュー2017年9月号(Vol.51 No.5) 「石油天然ガス上流業界におけるビッグデータ等利用の取り組み紹介」、佐藤大地
以上
(この報告は2018年2月26日時点のものです)