ページ番号1007459 更新日 平成30年4月10日
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概要
- 米国では、製油所での春場のメンテナンス作業シーズン突入に伴い原油精製処理量が減少した影響で、原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態が続いている。他方、ガソリンについては製油所での製品生産活動が不活発となった他、冬用ガソリンの処分が行われていると見られることから、当該在庫は減少しているが、平年幅上限を上回っている。また、留出油についても気温の低下に伴う堅調な需要に加え製油所での生産活動低下により、在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する量となっている。
- 2018年2月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加した他、欧州でも製油所のメンテナンス作業時期に突入しつつあることで原油精製処理活動が鈍化したこともあり、原油在庫は若干ながら増加した。他方、日本では2月に入り製油所の稼働が上向いたこともあり、原油精製処理が進んだことから、原油在庫が減少した。結果として、欧米諸国での原油在庫の増加が日本での在庫減少で相殺されて余りあったことで、OECD諸国全体としての原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では製油所がメンテナンス作業時期突入により石油製品生産活動が不活発となっているところに北東部等の地域における気温の低下により暖房向け燃料需要が堅調となったと見られることから、留出油やプロパン/プロピレンの在庫が減少したことに加え、冬用ガソリンに混入されるブタンを含めたその他石油製品在庫が減少した結果、同国では石油製品全体の在庫は減少した。また、欧州においても、気温が低下したことで暖房向けの中間留分需要が増加したと見られることから当該在庫を中心として石油製品在庫が減少した。さらに、日本においても気温が低下したことに伴い暖房向けに灯油等の需要が増加した他、年度末を控え重機類向けの軽油需要が増加したと見られることから、これら製品の在庫が減少したことにより石油製品全体の在庫水準が低下した結果、OECD諸国全体としての石油製品在庫は減少となったが、量としては平年並みとなっている。
- 2018年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場は、OPEC及び一部非OPEC産油国による協力関係継続の意向と石油需給引き締まりに対する市場の期待の増大や、リビアでの油田操業の停止等が原油相場に上方圧力を加えた反面、米国のシェールオイル生産増加見通し等が原油相場に下方圧力を加えた。そのような中で、米国国務長官解任に伴う米国の政治・経済・外交情勢を巡る不透明感に加え、米国株式相場や米ドルの変動等の影響を受けつつ、原油相場はWTIで1バレル当たり60ドル台前半を中心とする比較的限られた範囲で推移した。
- 今後は、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来による季節的な需給の引き締まり感が原油相場に上方圧力を加える反面、米国原油生産増加もしくは増加見通しが原油相場の上昇を抑制すると見られる。また、米国株式相場や米ドル、地政学的リスク要因、OPEC産油国等による減産状況もしくは減産方針を巡る展開によっては、原油価格が上振れ、もしくは下振れする可能性があるものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA 他)
1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2017年12月の米国ガソリン需要(確定値)は日量920万バレルと前年同月比で0.9%程度の減少となった(図1参照)が、速報値(前年同月比で1.7%程度減少の日量913万バレル)からは若干ながら上方修正されている。同月の米国のガソリン小売価格は1ガロン当たり2.594ドルと前年同月(同2.366ドル)に比べ、0.228ドル(約9.6%)割高になっているものの、前月の価格(2.678ドル)からは下落していることから、ガソリン需要は増加してもよさそうなところであるが、12月は気温が平年をしばしば下回ったことから、自動車による外出が控えられたことがガソリン需要を抑制した可能性がある(同月の米国自動車運転距離数は前年同月比で0.7%の増加と11月の同1.1%の増加から伸びが減速している)。他方、2018年2月の同国ガソリン需要(速報値)は日量904万バレル、前年同月比で0.6%程度の増加となった。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.705ドルと前年同月比で0.289ドル(約12.0%)割高になったうえ、前月比でも0.034ドル上昇したことが当該需要を抑制したと面も否定できないが、1月のガソリン需要(速報値)が前年同月比で4.3%増加したことへの反動が2月の当該需要の伸びに影響している部分もあると考えられる。他方、米国では、一部製油所が春場のメンテナンス作業に突入したことにより、原油精製処理量は減少傾向となった一方で、暖房油と原油の価格差が縮小したとはいえ、精製利幅は比較的高水準となっていた(8月下旬にハリケーン「ハービー」が米国メキシコ湾岸地域に来襲した結果当該地域の製油所の稼働が停止したことに加え、その後の秋場の製油所メンテナンス作業シーズン突入により石油製品生産活動が低下、さらには米国で厳しい寒波が来襲したことにより暖房用需要が盛り上がったことが影響していると見られる)ことから、原油精製処理量の減少の度合いは2017年の同時期と比べ緩やかに進んだ(図2参照)こともあり、ガソリンの生産量の落ち込みも比較的限定的であった(最終製品の生産量は図3参照)一方で、ガソリンは季節的に不需要期にあったことから、同国のガソリン在庫は2月上旬から3月初頭にかけ増加傾向となったものの、その後減少した(米国での環境規制の関係で販売期間終了が接近しつつある冬用ガソリンの処分がなされたことが影響している可能性がある)ことから、2月上旬から3月上旬にかけ、ガソリン在庫は減少したが、平年幅上限を超過する水準は維持されている(図4参照)。
2017年12月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量393万バレルと前年同月比で2.7%程度の減少となった他、速報値である日量402万バレル(前年同月比0.7%程度の減少)から相当程度下方修正されている(図5参照)。同月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量123万バレルと推定されるところ、確定値では同142万バレルへと上方修正されたことで、この部分が速報値から確定値に移行する段階で国内需要から輸出に繰り入れられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。ただ、同月の米国の鉱工業生産は前年同月比で3.5%程度伸びているなど経済が比較的堅調であったことから、同国の物流活動が陸上を中心として同6.1%程度(推定)拡大したうえ、12月は米国北東部で気温がしばしば平年を下回ったことにより、暖房向け需要が増加したため、これらの要因を考慮すれば、当該製品需要は増加しても不思議ではない状態であるが、11月の当該製品需要が前年同月比で5.8%程度増加している(また速報値ながら1月の需要が同9.8%増加している)ところからすれば、これらの堅調な伸びのはざまで一時的に需要(出荷)が落ち込んでいる可能性があるものと考えられる。また、2018年2月の留出油需要(速報値)は日量418万バレルと、前年同月比で3.3%程度の増加となっている。2018年2月の同国鉱工業生産指数が前年同月比で4.4%の増加となっていたこともあり、物流活動も活発化していると見られることに加え、同月の米国北東部での気温は平年を上回る状態であったが、それでも前年同月に比べれば気温は低めであったことが、当該需要の増加に寄与していると考えられる。他方、春場のメンテナンス作業シーズン突入に伴い製油所での操業水準が低下するとともに、留出油生産も不活発になったこと(図6参照)から、留出油在庫は減少傾向となったが、2018年3月上旬時点では平年幅上限を超過する量となっている(図7参照)。
2017年12月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で0.5%程度増加の日量2,058万バレルとなった(図8参照)。ジェット燃料(米国経済が比較的好調であることから、消費者による航空機の利用が活発化していることもあり、ジェット燃料の需要は2017年3月以降前年同月比で増加が続いている)、重油(米国鉱工業生産が増加していることを背景として産業部門での需要が伸びているものと見られる)、その他石油製品(2017年2月27日にOccidental ChemicalとMexichemがテキサス州イングルサイド(Ingleside)に年産54.4万トンのエチレン分解装置を操業開始したことに加え、9月21日にはDow DuPontが米国テキサス州フリーポートで年産150万トンのエチレン分解施設の操業を開始したこともあり、原料となるエタンの需要が増加しているものと見られる)の需要が増加したことが寄与しているものと考えられる。ただ、留出油、プロパン/プロピレン、ジェット燃料、及びその他の石油製品の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたことにより、当該需要は速報値(日量2,058万バレル、前年同月比3.0%程度の増加)から下方修正されている。また、2018年2月の米国石油需要(速報値)は、日量2,028万バレルと前年同月比で3.3%程度の増加となった。ジェット燃料やその他の石油製品の需要が増加したことに加え、前年に比べ気温が低下していることから暖房向けのLPG及び留出油の需要が堅調であったことが全体の需要増加を牽引しているものと考えられる。ただ、その他石油製品の需要は日量370万バレルと2017年1月~12月の当該需要(確定値)である同315~382万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正される結果、同国の石油需要(確定値)に影響を及ぼすこともありうる。他方、米国国内では製油所の稼働が低下したこともあり、2月上旬から3月上旬にかけ原油在庫水準は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態も維持されている(図9参照)。また、原油、ガソリン、及び留出油の在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2018年2月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加した他、欧州でも製油所のメンテナンス作業時期に突入しつつあることに伴い原油精製処理活動が鈍化したことから、原油在庫は若干ながら増加した。他方、日本では2月に入り製油所の稼働が上向いた(全国的に気温が低下したことから灯油需要が盛り上がったことが影響している可能性がある)こともあり、原油精製処理が進んだことから、原油在庫が減少した。結果として、欧米諸国での原油在庫の増加が日本での在庫減少で相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体としての原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国では製油所がメンテナンス作業時期突入により石油製品生産活動が不活発となっているところに北東部等の地域における気温の低下により暖房向け燃料需要等が堅調となったと見られることから、暖房に利用される留出油やプロパン/プロピレンの在庫が減少したことに加え、冬用ガソリンに混入されるブタンを含めたその他石油製品在庫が減少した結果、同国では石油製品全体の在庫が減少した。また、欧州においても、気温が低下したことで暖房向けの中間留分需要が増加したと見られることから当該在庫を中心として石油製品在庫が減少した。また、日本においても気温が低下したことに伴い暖房向けに灯油等の需要が増加した他、年度末を控え重機類向けの軽油需要が増加したと見られることから、これら製品の在庫が減少したことにより石油製品全体の在庫が減少した結果、OECD諸国全体としての石油製品在庫は減少となり、量としては平年並みとなっている。(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回っている一方石油製品在庫が平年並みの量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過している(図14参照)。なお、2018年2月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は60.2日と2017年1月末の推定在庫日数(60.3日)から若干ながら減少している。
2月13日に1,400万バレル強の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、2月21日は1,300万バレル台前半、2月28日には1,300万バレル強の水準へと減少した。しかしながら、3月7日は1,400万バレル台半ば付近に位置する量、3月14日は1,400万バレル台後半の量へと増加している。季節的にガソリン需要が旺盛でない中、アジアの製油所で春場のメンテナンス作業時期突入に伴う製品生産活動の不活発化を控え、在庫積み増しが行われていることが、シンガポールでの根強い軽質留分在庫の背景にあるものと考えられる。そして、シンガポールでのガソリン在庫の積み上がりがガソリン価格に下方圧力を加えた結果、アジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は2月中旬から3月中旬にかけ低下する傾向が見られた。
他方、冬場の暖房シーズンも残り少なくなってきたこともあり、暖房向けLPGの需要減少が視野に入ってきたことで、当該製品価格が低下したことから、石油化学部門でナフサと競合するLPGの価格競争力が相対的に強まったことにより、ナフサからLPGへと原料転換が進んだことがナフサ需要を抑制させる結果となった他、3月にはアジア地域の石油化学会社のナフサ分解装置がメンテナンス作業に突入し始めることに伴いナフサ需要が低下するとの観測が市場で発生したことが、ナフサ価格に下方圧力を加えた結果、2月下旬にかけナフサ価格はドバイ原油のそれを下回り続けた。しかしながら、1月に入りアジア地域のナフサ価格が下落してきたことにより、欧州地域とアジア地域でのナフサの価格差が縮小したことや、中東地域での製油所のメンテナンス作業実施に伴いナフサ供給量が低下したこともあり、3月は欧州諸国方面からのアジア地域へのナフサの流入量が減少するとの観測が市場で発生したうえ、石油化学部門向けのLPG消費も分解施設での利用能力上限に接近しつつあることから、ナフサからLPGへの燃料転換もこれ以上進みにくくなるのではないかとの見方が市場で発生したことが、ナフサ価格を下支えした結果、3月に入ってからは当該製品価格は原油のそれを上回る場面も見られるようになっている。
2月13日には700万バレル台後半の量であったシンガポールの中間留分在庫は、2月21日には900万バレル強の水準へと回復したものの、2月28日には900万バレル弱の量へと減少した。3月7日には900万バレル台前半の量へと増加したものの、3月14日には900万バレル弱の水準へと低下しており、また前年同期の在庫水準も相当程度下回っている。欧州での気温低下により暖房用を中心として軽油の需要が増加したこともあり、欧州の軽油価格がアジアのそれに比べ相対的に強くなったことを反映し、アジア市場等から欧州地域方面へと軽油が流出したことに加え、日本や韓国で気温が低下したことから暖房用の灯油需要が堅調であったことが、シンガポールでの中間留分在庫を抑制したものと考えられる。このようなことが、アジア地域での中間留分価格を下支えした結果、例えば、軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格が原油のそれを上回っている)は比較的維持される格好となっている他、中国での旧正月(春節:2018年は2月16日)に伴う休暇期間終了による同国での航空機での移動の沈静化に伴いジェット燃料需要が低下したと見られる一方で、暖房用の灯油需要は根強かったこともあり、アジア市場でのジェット燃料価格とドバイ原油との価格差(この場合ジェット燃料価格が原油のそれを上回っている)は縮小したものの、その程度は限定的なものにとどまっている。
2月13日には2,200万バレル台後半の量であったシンガポールの重油在庫は、2月21日には2,100万バレル半ば程度の水準へと低下したが、2月28日には2,200万バレル台半ば程度の量へと回復した。3月7日には2,200万バレル強の水準へと若干減少したが、3月14日には2,300万バレル台後半の量へと増加するなど、当該在庫は2月中旬から3月中旬に至るまで増減を繰り返しながらも、増加傾向となった。冬場の暖房向け発電用重油需要は堅調なままとなっているものの、欧州方面等(欧州諸国等でも製油所が秋場のメンテナンス作業を終了したことに伴い操業を再開するとともに製品生産が回復してきていた)からシンガポールに向け重油が輸出されていることにより、在庫が増加傾向となっているものと考えられる。ただ、冬場の暖房シーズンの終了が視野に入りつつあることが重油価格に下方圧力を加えていると見られる一方で、韓国では1月12日に新古里(Shin Kori)原子力発電所3号機(発電能力140万kW)が3ヶ月間のメンテナンス作業に突入したうえ、同国の大気汚染低減のために3月1日から6月にかけ稼働30年超の石炭火力発電所5基(発電能力合計232万kW)の操業を停止した(2月28日に同国産業通商資源部(省)が発表した)ことから、同国での石油火力発電所の稼働上昇と燃料としての重油の需要が増加していることが、アジア市場の重油価格を下支えしたことから、重油と原油の価格差(この場合重油の価格が原油のそれを下回っている)は2月中旬から3月中旬にかけ概ね範囲内での変動となっている。
2.2018年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場等の状況
2018年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場は、OPEC及び一部非OPEC産油国による協力関係継続の意向と石油需給引き締まりに対する市場の期待の増大や、リビアでの油田操業の停止等が原油相場に上方圧力を加えた反面、米国のシェールオイル生産増加見通し等が原油相場に下方圧力を加えた。そのような中で、米国国務長官解任に伴う米国の政治・経済・外交情勢を巡る不透明感に加え、米国株式相場や米ドルの変動等の影響を受けつつ、原油相場はWTIで1バレル当たり60ドル台前半を中心とする比較的限られた範囲で推移した(図15参照)。
2月19日は、米国ワシントン大統領誕生記念日(President's Day)に伴う休日のため、米国原油先物市場では通常の取引は実施されなかったが、2月20日には、アラブ首長国連邦(UAE)のマズルーイ エネルギー相が、市場への大きな衝撃を回避するために、減産を実施しているOPEC及び一部非OPEC産油国の協力につき、現在の実施期限である2018年末を越えて長期的に減産を継続させるべく、6月22日に開催が予定される次回OPEC総会で協議すると示唆した旨2月20日に報じられたことで、この先の世界石油需給引き締まりに対する期待が市場で増大したことに加え、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が2月16日の週に前週比で210万バレル減少したと、米国石油情報サービス会社Genscapeが明らかにした旨2月20日に伝えられたことで米国原油先物契約受け渡し地点での石油需給引き締まり感を市場が意識したことにより、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.22ドル上昇し、終値は61.90ドルとなった (なお、NYMEXの2018年3月渡しWTI原油先物契約取引はこの日を以て終了したが、2018年4月渡し契約のこの日の終値は1バレル当たり61.79ドル(前日終値比0.24ドル上昇)であった)。2月21日には、2月22日に米国エネルギー省(EIA)から発表される予定である同国石油統計(2月16日の週分)で、原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、2月21日に発表された米国連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(1月30~31日開催分)において、同国経済に勢いがあることから、さらなる金融引き締め策の余地が拡大した旨の認識が示されていたことで、今後金融当局が金利引き上げを加速するのではないかとの観測が市場で増大したことにより、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.68ドルと前日終値比で0.22ドル下落した。2月22日には、この日EIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が前週比で162万バレルの減少と市場の事前予想(同180~290万バレル程度の増加)に反し減少している他、クッシングの原油在庫が9週連続で減少した結果当該在庫量が3,000万バレルと2014年12月19日(この時は2,880万バレル)以来の低水準に到達した旨判明したことに加え、これまで米ドルが上昇したことに対し利益確定の動きが市場で発生したことにより、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.09ドル上昇し、終値は62.77ドルとなった。2月23日も、2月22日にEIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が市場の事前予想に反し減少している他、クッシングの原油在庫が9週連続で減少した旨判明した流れを引き継いだことに加え、2月23日に、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、石油市場は明らかに再均衡しつつあり、在庫の減少は2018年中継続すると考える旨発言したことで、この先の石油需給引き締まりに対する期待が市場で増大したこと、2月23日にリビアのEl Feel油田(原油生産量日量7万バレル)において、警備兵が、給与面での改善に関し同国国営石油会社NOCとの交渉が決裂したことで、現場から退去したことにより、治安面での不安から従業員も避難したことに伴い同油田の操業が停止したことで、同国からの原油供給減少懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.55ドルと前日終値比で0.78ドル上昇した。この結果原油価格は2月22~23日の2日間で併せて1バレル当たり1.87ドルの上昇となった。
また、2月24日には、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、同国の1~3月の原油生産量が生産目標を大幅に下回る旨発言したことで、世界石油需給の引き締まり感を2月26日の市場が意識したことに加え、2月23日までに、複数の米国金融当局関係者が、同国の緩やかな金利引き上げを支持している旨示唆したことで、この先の同国の金利引き上げペースの加速による米国株式相場への影響に対する市場の懸念が後退したことにより、2月26日の米国株式相場が上昇したことから、この日(2月26日)の原油価格の終値は1バレル当たり63.91ドルと前週末終値比で0.36ドル上昇した。しかしながら、2月27日には、2月28日にEIAから発表される予定である米国石油統計(2月23日の週分)で、原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、2月27日に国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が、米国のシェールオイルの生産が大幅に増加し、遅くとも2019年にはロシアを抜いて世界最大の産油国になるであろう旨発言したことで、この先の石油需給緩和感を市場が意識したこと、2月27日に実施されたパウエル米国連邦準備制度理事会(FRB)新議長の米国議会下院金融サービス委員会での証言において、パウエル氏が米国経済の堅調さに自信を深めつつあり、一段の緩やかな金利引き上げが妥当である旨示唆したことから、同国金融当局による金利引き上げ加速に対する観測が市場で増大したことにより、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.90ドル下落し、終値は63.01ドルとなった。2月28日には、この日中国国家統計局から発表された2月の同国製造業購買担当者指数(PMI、50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が50.3と1月の51.3から低下、2016年7月(この時は49.9)以来の低水準となった他、市場の事前予想(51.1~51.2)を下回ったことに加え、2月28日にEIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が前週比で302万バレルの増加と市場の事前予想(同210~300万バレル程度の増加)を上回って増加していた他、ガソリン在庫が同248万バレルの増加と市場の事前予想(同20万バレル程度の減少~60万バレル程度の増加)に反して、もしくは上回って増加していた旨判明したこと、2月27日に実施されたパウエルFRB新議長の議会証言により、同国金融当局による金利引き上げ加速に伴う株式市場への影響に対する懸念が市場で増大した流れを引き継いだことにより米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.64ドルと前日終値比で1.37ドル下落した。3月1日も、2月28日にEIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が市場の事前予想を上回って増加していた他、ガソリン在庫が市場の事前予想に反して、もしくは事前予想を上回って増加していた旨判明した流れを引き継いだうえ、3月1日に米国のトランプ大統領が自国の安全保障上問題になっているとして、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を、それぞれ課する措置を実施する方針である旨表明したことで、貿易相手国との摩擦が強まる結果、米国企業の業績が悪化する可能性が高まることに対する懸念が市場で発生したことにより、米国株式相場が下落したことから、この日(3月1日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.65ドル下落し、終値は60.99ドルとなった。この結果原油価格は2月27日~3月1日の3日間で併せて1バレル当たり2.92ドル下落した。ただ、3月2日は、3月1日に米国のトランプ大統領が、鉄鋼及びアルミニウムに関税を課する措置を実施する方針である旨表明したが、後日トランプ政権から政策の再調整が実施される結果、当初懸念されたほど米国企業等への影響はないのではないかとの観測が市場で発生したことにより、米国の一部株式市場で価格が上昇したこともあり、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.25ドルと前日終値比で0.26ドル上昇した。
3月5日には、3月7日にEIAから発表される予定である米国石油統計(3月2日の週分)でクッシングの在庫が11週連続で減少しているとの観測が市場で発生したうえ、3月5日に米国のトランプ大統領が、北米自由貿易協定(NAFTA)での交渉状況によっては、鉄鋼及びアルミニウムに対する関税賦課の方針を再検討する可能性がある旨示唆したことで、関税賦課に伴う貿易摩擦の米国企業への影響に対する懸念が市場で後退したことにより、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.32ドル上昇し、終値は62.57ドルとなった。ただ、3月6日には、北朝鮮が同国の非核化に向け米国と協議する用意がある旨3月6日に韓国大統領府が発表したことで、投資家のリスク許容度が拡大したことにより米ドルが下落したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、3月7日にEIAから発表される予定である米国石油統計で、原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことが、原油相場に下方圧力を加えた結果、この日の原油価格の終値は1バレル当たり62.60ドルと前日終値比で0.03ドルの上昇にとどまった。そして、3月7日には、この日EIAから発表された米国石油統計で、原油生産量が前週比で増加した結果1983年以降の同国週間統計史上最高記録を更新している旨判明したことに加え、3月6日夕方に米国で税制改革に中心的な役割を果たし、トランプ大統領の最高経済顧問であったコーン国家経済会議(NEC)委員長が辞任を表明したことで、米国経済の先行きに関する不透明感が市場で増大したことにより、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.45ドル下落し、終値は61.15ドルとなった。また、3月8日も、この日中国税関総署から発表された2月の同国原油輸入が3,226万トン(推定日量843万バレル)と1月の4,064万トン(同960万バレル)から減少している旨判明したうえ、クッシングでの原油在庫が3月6日までの1週間で29万バレル超増加したとGenscapeが報告した旨3月8日に報じられたことで、WTIの受け渡し地点での石油需給緩和感が市場で醸成されたことに加え、3月8日に開催された欧州中央銀行(ECB)理事会の際、2018年9月末までの資産購入につき、必要であれば延長する方針である旨表明したことで、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は60.12ドルと前日終値比で1.03ドル下落した。この結果原油価格は3月7~8日の2日間で併せて1バレル当たり2.48ドル下落した。しかしながら、3月9日には、この日米国労働省から発表された2月の同国非農業部門雇用者数が前月比で31.3万人と市場の事前予想(同20.0~20.5万人の増加)を上回ったことで、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.92ドル上昇し、終値は62.04ドルとなった。
3月12日には、この日EIAから発表された掘削生産性報告(DPR:Drilling Productivity Report)で、EIAが4月の同国主要7シェール地域における原油生産量につき前月比で日量13.1万バレル増加すると予想したことで、世界石油需給の緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.36ドルと前週末終値比で0.68ドル下落した。また、3月13日も、3月14日にEIAから発表される予定である米国石油統計(3月9日の週分)で、原油在庫及び原油生産量が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加え、この日(3月13日)米国のトランプ大統領がティラーソン国務長官を解任したことで、他国との貿易関係への影響に関する懸念が市場で発生したことにより、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.65ドル下落し、終値は60.71ドルとなった。この結果原油価格は3月12~13日の2日間で併せて1バレル当たり1.33ドル下落した。ただ、3月13日に米国のトランプ大統領がティラーソン国務長官を解任したことで、イラン制裁解除の終了とイランからの原油供給の低下に対する市場の懸念が発生した流れを3月14日の市場が引き継いだうえ、3月14日に中国国家統計局から発表された2018年1~2月の中国鉱工業生産が前年同期比で7.2%の増加と市場の事前予想(同6.1~6.2%程度の増加)を上回ったこと、3月14日にEIAから発表された米国石油統計で、ガソリン及び留出油在庫が前週比で627万バレル、436万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(ガソリン同120~130万バレル程度、留出油同140~150万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.96ドルと前日終値比で0.25ドル上昇した。3月15日には、この日IEAから発表された「オイル・マーケット・レポート」で、IEAが2018年の世界石油需要見通しを上方修正した他、ベネズエラの原油生産の減少が加速すれば、世界石油需給バランスが明らかな供給不足に振れる可能性がある旨警告したことで、この先の石油需給引き締まりに対する懸念が市場で発生したことに加え、同じく同日米国財務省が、2016年の大統領選挙の際にサイバー攻撃等を実施したとして、ロシアの19個人及び5団体を米国企業との取引禁止等の制裁対象とする旨発表したことで、米国及びロシア間の関係が悪化することにより、石油供給に影響が及ぶのではないかとの不安感が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.23ドル上昇し、終値は61.19ドルとなった。さらに、3月16日には、この日FRBから発表された2月の米国鉱工業生産が前月比で1.1%の増加と市場の事前予想(同0.3~0.4%の増加)を上回った他、同じく同日に発表された3月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)(1966年=100)が102.0と市場の事前予想(99.3)を上回ったことにより、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.15ドル上昇し、終値は62.34ドルとなった。この結果原油価格は3月14~16日の3日間で併せて1バレル当たり1.63ドル上昇した。
3.今後の見通し等
イラクでは、2月18日夜に北部キルクーク郊外で、イスラム国(IS)による攻撃があり、少なくとも27名のシーア派民兵が死亡したうえ、3月11日にも、イラク北部でISによるテロ攻撃が連続して発生した結果、軍事関係者等少なくとも25名が死亡した。他方、3月8日にトルコのチャブシオール外相が、5月にもイラク中央政府と協力し、イラク北部に存在するクルド人武装勢力の掃討作戦を実施する旨発表した。
イランに関しては、3月13日に、米国のトランプ大統領がイラン核合意を遵守する意向を示していたとされるティラーソン国務長官を解任した。他方、3月16日には、米国務省のフック政策企画局長が、イランとの核合意の再検討を英国、ドイツ、フランスと進めている旨明らかにした他、当該欧州3ヶ国は、イランでの弾道ミサイル開発等に関与した者に対する制裁発動を協議するために3月19日に外相会合を開催する旨3月16日に報じられる。
リビアでは、2月23日に、El Feel油田でNOCとの給与面での待遇改善等に関する交渉が決裂したことに伴い警備隊が油田現場から退去したことで、治安面での懸念から職員も避難したことにより、油田の操業が停止した。2月23日にNOCは油田操業に関し不可抗力条項の適用を宣言、3月7日には、警備兵が当該施設での操業再開に合意したが、3月17日時点においても不可抗力条項の適用が解除されたという情報はないようである。また、3月4日にEl Sharara油田(原油生産量日量30万バレル)の原油流出に抗議し地元勢力が当該油田から石油ターミナルへと原油を輸送するパイプラインのバルブを閉めたことに伴い、油田での生産も停止したが、3月5日には操業を再開した。さらに、3月12日には、同国でのZawiya石油ターミナルでストライキが開始されたことにより、当該ターミナルでの操業に支障が発生したが、3月13日にはストライキは終了し操業は正常化したと報じられる。
シリアでは、ロシアの支援を受けるアサド政権によるダマスカス近郊の東グータ地区に対する空爆が2月18日夜以降実施された。2月24日には、国連安全保障理事会で人道支援を実施するために30日間にわたるシリア全土停戦決議(スウェーデンとクウェートが調整を主導)を全会一致で採択したが、本決議ではテロ組織に対する攻撃は停戦の範囲外になっていた。そして、採択後もアサド政権によると見られる空爆は継続したが、プーチン大統領は2月27日以降午前9時~午後2時の時間帯において停戦を実施するよう指示した旨2月26日にロシアのショイグ国防相が明らかにしている。しかしながら、アサド政権軍による東グータ地区に対する軍事作戦は継続、死者は1,400人を上回った他、政権軍は当該地区の80%超を掌握したと3月18日に伝えられる。このような中、米国のマティス国防長官が3月11日に、また、ヘイリー国連大使が3月12日に、アサド政権による化学兵器を使用した攻撃の疑いに鑑み、必要であれば、アサド政権に対し軍事行動を実施する旨表明している。これに対し、ロシアのゲラシモフ参謀総長は米国がシリアを攻撃する際、必要であれば、ロシアは対抗措置を実施する旨発言したと3月13日に報じられている。他方、シリア北部のアフリンでは、1月21日以降トルコがクルド人勢力掃討のための越境軍事行動を実施、中心部を制圧した旨3月18日にトルコのエルドアン大統領が発表した。他方、トルコ、ロシア、イランはシリア和平問題に関しエルドアン大統領、プーチン大統領、ロウハニ大統領による会議を4月4日にトルコのイスタンブールで開催する旨3月15日にトルコ外務省が発表した。
ベネズエラでは、2月20日に仮想通貨ペトロが発行されたが、同日マドゥロ大統領は7.35億ドル分の申請があった旨明らかにした。他方、米国はベネズエラのマドゥロ政権に対し制裁を追加して実施することを検討している旨2月28日に政府関係者が明らかにしている。この中には、軍により経営される石油サービス企業CAMIMPEGを制裁対象として追加することや国営石油会社PDVSAの石油タンカー及び積載される石油等に対する保険付保に対する制限等が検討されているとされる。また、3月1日には大統領選挙の実施日を4月22日から5月20日へと延期した(反体制派勢力と協議する姿勢を示す「演出」であるとの指摘もある)。そして、3月9日には米国格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが、ベネズエラの債券発行体格付けを「Caa3」から2段階引き下げ最低等級である「C」とした。また、3月12日には、同国の物価上昇率が2018年2月末までの1年間で6,147%に到達した旨ベネズエラ国会が明らかにしている。
他方、2月23日には、米国国務省のナウアート報道官が駐イスラエル米国大使館所在地のテルアビブからエルサレムへの移転を5月に実施する旨発表した(ペンス副大統領は1月22日に2019年末までに移転を実施すると表明していた)。パレスチナ自治政府は容認できない旨示唆した一方でイスラエル側は歓迎の意を表する旨2月24日に伝えられる。
地政学的リスク要因面では、依然としてそれぞれの国や地域でそれなりの動きが見られるが、当面はイランのウラン濃縮問題を巡る西側諸国等との合意に対する米国等の対応が市場の注目するところとなろう。イラン核合意支持を示唆していたティラーソン国務長官をトランプ大統領が解任したうえ、後任にポンペオ米国中央情報局(CIA)長官を指名したが、同氏はかつてイランの核合意に反対の意向を示していたこともあり、5月12日が期限とされる、トランプ大統領による次回のイラン制裁解除延長の判断を巡る動きが原油相場に影響を与える可能性がある。米国がイランの核合意を破棄するとともに制裁が再発動される場合、これが、イランとの相当程度の原油等の取引を行う国の企業に対する、米国での活動の制限、といった類のものとなれば、そのような米国での企業活動に対する制裁を回避するために、欧州及びアジア各国はイランからの原油輸入を削減する結果、イランからの石油供給が低減するとともに石油需給引き締まり感が市場で強まることから、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、米国の制裁再発動に対し、イランが報復措置を実施するとの観測が市場で発生するが、過去イランは西側諸国等との対立の際、石油を武器として利用する旨示唆したことがあり、その場合、例えばホルムズ海峡の封鎖が選択肢としてなりうることから、大量の石油供給が途絶する(ホルムズ海峡は2016年時点で日量1,850万バレルの石油往来があると推定されており、この量は世界の石油需要の約2割を占める)との不安感が市場で強まる結果、原油相場が下支えされる他、米国もしくはイラン等の関係者による発言や行動等によっては、原油相場が上昇する場面が見られることもありうる。従って、今後米国トランプ政権、ポンペオ新国務長官、イランの最高指導者ハメネイ師、ロウハニ大統領、ザリフ外相等の当事者の発言等に注視する必要があろう。
また、シリア情勢についても、国連安全保障理事会での停戦決議が事実上崩壊している東グータ地区に対するアサド政権の攻撃と化学兵器使用への疑惑に対し、米国は必要であれば攻撃を加える旨表明しているのに対し、ロシアはそのような攻撃に対し必要であれば対抗措置を行う旨表明しており、両国が衝突する可能性も否定できない。このようなことから、さらなる中東情勢の不安定化に伴う石油供給途絶懸念の市場での増大から、原油相場が支持される他、展開次第では原油相場に上方圧力が加わる可能性もある。この他、マドゥロ政権下で経済混乱が続くベネズエラについても、5月20日に実施される予定である大統領選挙に向け情勢がさらに混迷したり、米国による追加制裁により同国からの原油輸出等に支障が生じたりするようだと、その影響が原油相場に織り込まれる可能性があるので、注意が必要であろう。
2月27日に、FRBのパウエル新議長は、米国の景気の強さに自信を深めつつあることから、今後なお一段の緩やかな金利引き上げを視野に入れ始めている。また、3月1日にはトランプ大統領は、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%、それぞれ輸入関税を課する方針である旨表明、3月8日には同内容での関税課税を実施に移した(15日以内に発効する)。また3月13日にはトランプ大統領はティラーソン国務長官を解任、後任にポンペオCIA長官を指名した。このため、米国金融当局者による金利引き上げ加速観測が市場で増大することにより、米ドルが上昇する他、金利上昇に伴う経済減速観測に加え、関税引き上げ等に伴い外交や貿易関係等同国経済を巡る不透明性が増大する結果、株式相場が伸び悩むことになることを通じ、原油相場に下方圧力を加えてくる可能性がある。特に最近では、原油価格は、石油需給ファンダメンタルズのみならず、米国の株式相場等の影響を受けやすくなっているように見受けられる(後述)。このため、米国経済指標類や金融関係者の発言、そして、4月に入って発表される始める主要米国企業の2018年1~3月期業績等によっては、米国経済に対する観測を市場で発生させるとともに株式相場が変動することを通じ原油相場にその影響が織り込まれる可能性がある。また、欧州の経済指標類や当該地域での金融方針に対する関係者の発言、もしくは中国の経済指標類等によっては、ユーロとともに米ドルが変動することを通じ、もしくは中国等での経済と石油需要に対する観測を市場で発生させることにより、原油価格が上昇もしくは下落する場面が見られることもありうる。
米国では、春場の製油所メンテナンス作業が峠を越え始めるとともに、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2018年は5月26日(メモリアル・デーに伴う連休初日)~9月3日(レイバー・デーに伴う連休最終日)である)到来を控え、製油所が稼働を上昇させるとともに原油精製処理量を増加、それに向け原油の購入を活発化させていくと見られることから、季節的な需給の引き締まり感が市場で醸成されると考えられる。このため、この面で原油相場には上方圧力が加わりやすくなってくるものと考えられる。他方、米国での石油坑井掘削装置稼働数の推移やシェールオイルを含めた原油生産量、もしくは生産見通し、米国全体及びクッシングの原油在庫状況等が原油相場に影響すると見られる。このうち原油生産量は最近増加が加速する兆候が認められる他、原油生産見通しもしばしば上方修正されていることから、この面では原油相場の上昇を抑制する方向で作用する可能性がある。さらに、OPEC産油国及び一部非OPEC産油国による減産遵守率及び減産方針に関する関係者の発言によっては、減産延長と石油需給引き締まりに対する市場の期待が増減することにより、原油価格のその影響が及ぶこともありうる。
全体としては、この先夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来による季節的な需給の引き締まり感が原油相場に上方圧力を加える反面、米国原油生産増加もしくは増加見通しが原油相場の上昇を抑制すると見られる。これだけであれば、原油価格は比較的限られた範囲内での変動ということになりそうだが、米国株式相場や米ドル、地政学的リスク要因、OPEC産油国等による減産状況もしくは減産方針における展開などによっては、原油価格が上振れ、もしくは下振れするものと考えられる。
4.原油価格と指標類の関係についての一考察
財の価格は財の需給によって決定されるという考え方からすると、原油価格の変動が石油需給の影響を受けるのは、至極当然と言える。ただ、近年では、必ずしも直接的な石油需給バランスではない要素(しかし間接的には石油需給に関連している部分もある)が原油価格に影響しているように見受けられる。ここでは、最近原油価格に影響を与えていると考えられる、株式相場、米ドル為替レート等につき、原油価格に影響を与える状況等につき考察を加えるとともに、石油需給バランスが原油価格に与える影響における特徴に関しても、併せて考察を加えることとしたい。
株式相場では、多少の例外はあるが、米国市場の状況が欧州及びアジアの各市場に影響することが多い。従って、米国市場と原油価格との関係につき考察することとする。原油市場では、株式相場が上昇することは経済が成長する兆候と見られる。経済が成長するということは、雇用が増加することにより、雇用されたより多くの人々が自動車を用いて通勤をするようになることから、自動車向けのガソリン需要が増加する(また通勤のみならず、行楽のための自動車利用の活発化もある他、欧州の場合はディーゼル車がそれなりに浸透しているので、軽油の需要が増加する)。また、雇用された人々に給与が支払われることで、消費者の購買力が強まることにより、商店等での物品購入が増加することで、商店等での物品在庫が減少するとともに、在庫を補充するために、当該物品の輸送が活発化するが、その際、トラック等向けの軽油需要が増加する他、航空輸送用のジェット燃料や船舶輸送のための重油の需要が増加する(また、出張や余暇としての航空機往来の活発化に伴うジェット燃料の需要増加等もありうる)。また、企業の製造活動の活発化や事業拡大に伴う新規の工場建設等に伴う製造業や物流部門等での軽油(トラックや建機等)及び重油(工場や船舶等)といった石油需要が増加する他、プラスチックの需要が増加することに伴い原料としてのエタンやナフサ等の需要が増加する。従って株式相場が上昇することは石油需要が増加することに繋がる。そこで、例えば、非OPEC産油国の石油供給が伸び悩むようだと、OPEC産油国の全世界に占める石油供給の割合が上昇する。OPEC産油国は石油市場及び原油価格の安定を標榜しているが、OPEC産油国は石油生産国の集団であることから、彼らにとっての原油価格の安定は、原油価格の「高値安定」になりがちであるため、世界石油供給に占めるOPEC産油国のシェアが上昇すると、原油価格が上昇するとの観測が市場で発生しやすくなる。そしてそれに伴い原油価格の先高観が市場で形成されることから、実際に原油価格が上昇するといった展開となりやすい。
2008年のリーマンショック以降米国では金利の引き下げに加え量的緩和措置が実施されたこともあり、株式相場が上昇し始め、それに伴い原油価格も上昇したが、これは株式相場の原油価格の関係を示すいい例であろう(図16参照)。株式相場と原油価格の関係は2013年初頭まで基本的に継続しているが、その中でも、2011年以降一時的に株式相場と原油相場の関係が乖離している部分が見受けられる。ここはリビアでのカダフィ大佐追放のための住民の蜂起と国内の混乱に加え、イランのウラン濃縮問題を巡る西側諸国等との対立の高まりとイランに対する制裁発動に伴い、同国に隣接するホルムズ海峡をイランが封鎖することにより、石油供給が大幅に減少するのではないかとの懸念が市場で増大したことが原油相場に上方圧力を加えたこと(いわゆる「地政学的リスクプレミアム」)によるものと考えられる。ただ、リビアについては、国内での混乱により2011年8月に同国の原油生産は完全に停止したが、カダフィ大佐追放運動も同月終了、その後同国の原油生産量は回復に向かった他、イランの問題に関しても、結局ホルムズ海峡は封鎖されなかったことで、石油供給途絶懸念が市場で後退するとともに、再び原油価格は株式相場と連動するようになった。
しかしながら、2013年以降米国でのシェールオイル生産が当初の予想を大幅に上回って増加しているとの認識が市場で強まり始めた。米国株式相場は2013年以降も上昇を続けたうえ、石油需要は伸び続けていたが、米国を中心とする非OPEC産油国の石油供給が増加した結果、OPEC産油国の石油供給のシェアが伸び悩んだことにより、OPEC産油国も原油価格を高値誘導しにくくなるとの観測が市場で発生したため、原油価格が株式相場に連動して上昇しなくなった。もっとも、ウラン濃縮問題を巡るイランと西側諸国等との関係の先行きが不透明であった他、ウクライナ(政府と親ロシア派勢力との対立)、イラク(IS問題)、リビア(警備兵等による石油ターミナルの封鎖)等地政学的リスク問題が存在していたことで、原油相場は2014年前半までは下落しなかったわけであるが、それでも、ここで原油相場と株式相場の連動性は途絶えている。
しかしながら、2017年後半になり、原油価格と株式相場の関係は復活している(図17参照)。きっかけは、9月27日に発表された米国トランプ政権による減税措置である。これにより、米国企業の業績が改善するとともに、企業の配当が増加する可能性が増大したり、経済が活性化したりするとの観測が市場で発生、それにより株式相場の上昇ペースが加速するとともに、併せて石油需要が増加するとともに石油需給が相対的に引き締まるのではないかとの観測が市場で増大したことで、再び原油価格と株式相場との繋がりが強まった。また、株式相場の上昇による投資家の資産価値の増加とリスク許容度の増大により、投資家の資金の一部が原油を含めた商品にも流入したと見られることも、株式相場と原油価格の連動性を強める結果となっていると考えられる。そして、その後も米国でのパウエルFRB新議長による金利引き上げ加速の示唆などにより、経済減速懸念が市場で発生したこともあり、米国株式相場は2018年1月26日に市場最高値に到達して以降伸び悩んでいるが、原油価格も2018年1月26日に直近の高値に到達して以降伸び悩む傾向が見られる。このように、原油相場と株式相場との相関関係は強まったり弱まったりしており、常に一貫して相関が高いわけではないものの、相関が高くほぼ連動する場面も見受けられる。
他方、米ドル為替レートは株式相場と関連している場合がある。株式相場が上昇すると、投資家の保有する資産価値が増加することにより、米国預金等から他国のリスク資産への投資が積極化するために、投資家が米ドルを売却し他国通貨を購入して投資しようとすることから、米ドルが下落しやすくなる。他方、米ドルが下落すると米国での輸出志向型産業の競争力が強まる結果、業績が向上するとの見方が広がることから、米国での株式相場が上昇する、といった展開となる場合もある。また、このような場合、同様にリスク資産と見なされる原油を含めた商品市場に投資すべく資金が流入することで、原油相場が上昇しやすくなる。反対に、米ドルが上昇する場合には、米国の金利が上昇する局面である場合もあり、米国内外株式や原油のようなリスク資産から、米ドル預金等のような、より高い金利を得られる上により安全な資産に資金が向かう結果、原油相場が下落するうえ株式相場が下落するといった場面が見られることもある(また、金利引き上げに伴う経済減速観測から株式相場が下落するといったこともありうる)。一方株式相場とは必ずしも相関しない米ドル為替レートの変動がある。これは、米国の金利の変動(もしくは変動見通し)により、資金供給量が増減するとの観測から、米ドルが変動する、といったもので、例えば米ドルが下落するということは、資金供給量が増加するとの市場の考え方を示しており、従ってインフレ局面が近いとの観測のもと、インフレに対して耐性のある実物資産である原油の購入が進む結果、原油価格が上昇する場面が見られるといったことが挙げられる。また、金融市場が超緩和状態であると、資金調達コストが極めて低水準となることから、投資家がそのような低コストの資金を調達したうえで、原油市場のようなリスク資産を保有するといった行動をとることがあり、この場合も原油相場を上昇させる。反対に、金利が上昇する局面、もしくは金利が上昇するとの観測が市場で強まる場面では、資金調達コストが増大する、もしくは増大することが予想されるが、そのようなコストを上回るような収益を原油市場で得なければならなくなることから、リスク回避の動きが市場で発生する結果、原油価格に下方圧力が加わりやすくなる。さらに、原油価格は米ドル建てであるので、米ドルが下落する場合には、ドル建て価格となっている原油を、米ドルが自国通貨となっていない諸国が購入する場合、相対的に割安になることから、原油購入が促進される反面、米ドルが上昇する場合には、米ドルを自国通貨としていない諸国が原油を購入する場合には、相対的に割高になることから、購入が手控えられる結果、原油価格に下方圧力が加わりやすい、といった側面もある。
そして、過去の原油価格と米ドル為替レート(この場合は対ユーロ為替レート)との相関を見てみると、株式相場と米ドル為替レートと原油相場が連動して動いている場面が見られる場合もあるが、株式相場と原油価格が相関していないときでも、米ドルと原油価格が相関している場合があることが判明する。例えば、2007年後半から2008年7月末にかけては、米国でのサブプライムローン問題の顕在化もあり、株式相場は下落傾向となったが、併せて金利が下落した一方で、資金供給量増大観測に伴い、米ドルが下落するとともに、インフレ懸念の増大から原油相場が上昇しており、ここに米ドルと原油価格の相関が認められる(図18参照)。ただ、2008年8月以降2014年5月末までは米国で量的緩和が実施されたことで、米ドルに下方圧力が加わったものの、欧州等でも一部諸国で債務問題が発生したことにより、ユーロに下方圧力が加わったこともあり、米ドルが上下に変動した結果、この時期は原油価格と米ドル為替レートの相関はほぼ見られなくなった(図19参照)。それでも、2014年後半には、米国金融当局による金融引き締め策の実施に対する観測が市場で広がってきたことにより、米ドルが上昇するとともに、原油価格が下落した他、2017年後半以降は、株式相場の上昇に伴う投資家のリスク許容度拡大により、米ドルが下落するとともに原油価格が上昇している(図20参照)。このように、米ドルと原油相場も、その他の要因の原油相場に与える影響等により、相関が強い場合と弱い場合が見られる。
次に足元の石油需給と原油価格との関係である。価格は需要と供給のバランスにより決定されることから、石油需給が引き締まれば(もしくは需給引き締まり感が市場で強まれば)原油価格は上昇する。反対に石油需給が緩和すれば(もしくは需給緩和感が市場で強まれば)原油価格は下落する。石油需給バランスは在庫によって示される。つまり在庫が増加すれば、需要が弱いか供給が強い(もしくはその両方)を示していることから、石油需給が緩和状態にある一方で、在庫が減少すれば、需要が強いか供給が弱いか(もしくはその両方)を示しているから、石油需給が引き締まっている状態にあると考えられる。そこで、石油在庫と原油価格の関係を考察することとする。なお、石油在庫は統計的にも捕捉可能な最も広い範囲であるOECD諸国の石油在庫とし、また足元の需要を反映するために、石油在庫量ではなく石油在庫日数(足元の石油在庫量を直後3ヶ月間の石油需要で除したもの)とする。また、後述の通り、この分析は1995年から2018年までのかなり長期に渡る時間軸で以て行うため、原油価格は実質ベース(2016年ブレント価格)とする。このような考え方に基づき、2009年以降の毎月の平均原油価格と石油在庫日数の組み合わせを図示化してみると。石油在庫日数が増加すると原油価格が下落する傾向が示される(図21参照)。
しかしながら、これは過去常に同様の関係であったわけではない。例えば1995年以降の原油価格(2016年ブレント価格)とOECD石油在庫日数との関係を図示化すると、時期によって関係に差異が見られる。1995年から2003年にかけては、確かに石油在庫日数が増加すると原油価格が下落するといった関係はそれなりに存在していたが、その時点での石油在庫日数は現在のそれ(55~65日程度)よりも相当程度低水準(50~60日程度)であった(図22参照)。つまり、当時の石油在庫日数に基づくと、現在の原油価格は割高である、ということになる。また、2004年から2008年にかけてはOECD石油在庫水準が増加する一方で原油価格も上昇するようにも見受けられるなど、需給バランスと原油価格の関係から言えば直感的ではない(図23参照)。この時期は中国を含めた世界の石油需要の堅調な増加と非OPEC産油国の石油供給の伸び悩みにより石油需給の引き締まり展望(もしくは供給不足懸念)が、足元の石油在庫に対する意識を超越した結果、在庫が増加した(つまり石油需給が緩和に向かっていた)にもかかわらず原油価格が上昇するという現象を招いたと考えられる。
もちろん、それ以外の要素も考慮しなければならない。例えば石油開発コストである。世界の石油開発コストは一様ではなく、諸説あるものの、中東・北アフリカの石油開発コストは1バレル当たり10~25ドル程度であると言われている。他方、深海やオイルサンド等の超重質油、シェールオイルは開発コストが相対的に高水準であると言われている。カナダのオイルサンドは石油開発コストが50~90ドル程度、シェールオイルは50ドル前後と見られており、従って原油価格が50ドルを割り込んでしまうようだと、開発プロジェクトの進捗、及び当該資源の供給に大きな影響を及ぼすことにより、非OPEC産油国の石油生産が伸び悩むことから、石油需給引き締まり感が市場で発生する結果、原油価格を少なくとも下支えすることになろう。しかしながら、足元の石油在庫水準はかつての傾向から相当程度上回っているところからすると、一時的にせよ原油価格が下落することにより、石油生産が伸び悩むことを通じて在庫の調整がある程度進んでも不思議ではない状態にあるとも言えよう。
以上
(この報告は2018年3月19日時点のものです)