ページ番号1007475 更新日 平成30年4月10日
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はじめに
JOGMECは、2013年より北米シェールガス・オイル開発プロジェクトに参加する本邦企業との共同研究を通して、「坑井デザインの最適化」や「坑井間隔の最適化」などに資する知見の蓄積・技術の向上を図っています。
本稿では、近年日進月歩で発展しているシェール開発のモニタリング技術に焦点を当て、その中でも特に、最先端モニタリング技術として注目されているDistributed Acoustic Sensing (以下、DAS)を使用した水圧破砕モニタリングやマイクロサイスミック(以下、MS)解析技術について、ジオフォンを用いた従来のMS解析技術との比較も交えて紹介します。
シェール開発を取り巻く環境
2014年以降、油価下落の煽りをうけ、北米シェールガス・オイル開発プロジェクト運営において、以前にも増してコスト削減の要求が強まっています。シェール開発において、水平坑井における仕上げ作業(水圧破砕等の作業)は、多大なコストがかかり、プロジェクト全体の経済性に与える影響が大きいです。この為、後述するMSや隣接坑井との圧力干渉の程度などのモニタリング技術、及び生産挙動結果を踏まえ、生産性の改善エリアを把握した上で、水圧破砕のデザイン(水圧破砕ステージ間隔、圧入する流体やプロパントの量など)の最適化を追求し、コスト削減及びプロジェクトの価値向上を目指しています。
Distributed Acoustic Sensing (DAS)とは
DAS (Distributed Acoustic Sensing:分布型音響センシング)は光ファイバーセンサーの一種です。光ファイバーが通信の伝送媒体として登場した当初は、曲げや振動などの外的負荷により伝送特性が変化するという現象が問題となりましたが、この現象を積極的に利用し、音やひずみなどを検知するものが光ファイバーセンサーになります。光ファイバーセンサーはセンサー自体への電源供給の必要が無く、耐環境性が高いため、長期モニタリングや高温高圧などの過酷な環境での利用が期待されています。
図1 Distributed Acoustic Sensing (DAS)のサンプル(出所:JOGMEC)
DASの設置方法
光ファイバーの坑井内への設置方法として、次の3つが挙げられます。
(1)ケーシングの外側に設置しセメントで固める方法(常設)
(2)チュービングの外側に設置する方法(常設)
(3)一時的にチュービング内に設置する方法
(1)の方法はファイバー付近のノイズが抑えられるなど、最も高品質なデータが得られる反面、最も費用がかかります。
図2 光ファイバーの設置方法(出所:JOGMEC)
(左)ケーシングの外側に設置しセメントで固める方法
(中央)チュービングの外側に設置する方法
(右)一時的にチュービング内に設置する方法
DASによる水圧破砕モニタリング
DASを用いたモニタリング技術では、水圧破砕時の各クラスター[1]への流体やプロパントの圧入量の違いをリアルタイムで連続収録できます。DASの収録データをリアルタイムで解析すると、各クラスターに流体やプロパントが均等に圧入できているか、もしくは不均等に圧入されてしまっているかを把握し、クラスターの数や間隔の良否を評価することができます。図3は、実際に水圧破際時に取得された各クラスターへの圧入量の違いの時間経過を示しています。横軸は時間、縦軸は各クラスター(この図では10個のクラスター)になり、色調が暖色であると、振動が強く、流体・プロパントの圧入量が多いことを示しています。水圧破砕開始時は10個全てのクラスターにほぼ均等に圧入されていますが、時間が経つにつれいくつかのクラスターへの圧入が止まっていることが分かります。鉱区の開発効率を勘案すると、各クラスターに対して均等に流体やプロパントを圧入できている状態が好ましいと考えられますが、この図のケースでは流体とプロパントの圧入量は不均等になっています。(ただし、DASの収録データからは、坑井極近傍の圧入状態のみ把握でき、坑井から離れたシェール層内全体においてもき裂が不均質に発生していると結論付けることはできないことに注意しなければなりません。)
[1] クラスターは、ケースドホール仕上げにおける水圧破砕時の穿孔群を示す。
図3 水圧破砕時におけるDASの結果の例
(出所:JOGMEC(Isao K. et al, 2018 Geoconvention 2018))
DASによるMS解析技術
次に、通常のジオフォンを受振器として用いる従来のMS解析技術との比較を通じて、DASを用いたMS解析技術の特徴を紹介します。
まず、MS解析技術の歴史を振り返ります。2008 年頃より坑井内にジオフォンを連結したMS解析技術が利用され始めました。この技術を用い、水圧破砕に起因する音の発生位置を特定することで、き裂の空間的広がりを把握することができるようになりましたが、ジオフォン設置位置の制約により高精度に音の発生位置を解析できる範囲が限定されるという課題がありました。
このような課題を克服するため、2010年頃から地表にジオフォンを多点で設置してMS解析を行う技術が登場し、これによってエネルギーの大きな音源については水平方向に広い範囲で高精度の解析が可能となりました(震源位置からの距離が遠いため、地表に設置したジオフォンではエネルギーの小さい音源は感知できません)。また、深度方向の解析可能範囲については引き続き課題があるのが現状です(地表に受信点を増やしても深度方向の解像度は高くなりません)。
これに対して、DASを用いた場合は坑井に設置した光ファイバーそのものがセンサーになりますので、センサー設置位置の制約が無くなります。また、坑井長が6000mの坑井を考えると、センサー間隔が10mの場合、600個のセンサーが坑内に設置されていることと同じであり、通常のジオフォン(センサー数は通常数10個程度)と比較すると、センサー数が劇的に増えていることが分かります。図4は、通常の坑井内型ジオフォンアレイによるMS波形とDASで取得されたMSの波形を比較した図です。この例では、通常の坑井内型ジオフォンアレイは12個に対して(左図)、右図のDASセンサーの場合は約600個のセンサーとなり、センサーの数及び分布範囲が大幅に増加しています(横軸はセンサー数、縦軸は時間)。
図4 通常の坑井内型ジオフォンアレイによるMS波形データ(左)
DASで取得されたMSの波形データ(右) (出所:JOGMEC (TRC Week 2016,2017))
DASの長所と短所
DASの長所は、坑井に常設した場合、他のモニタリング技術のようなデータの欠損が無くなる事です。また、上記に示したような水圧破際時の音だけでなく生産時に発生する音を検知し、仕上げ区間内の生産量の違いを評価できます。
DASの短所は設置費用が高い点です。常設で設置し、光ファイバーケーブルが破損してしまった場合、修復することはできません。ケーシングの外側に設置する場合、設置後の穿孔作業中に破損することを防ぐため、穿孔角度に注意しなければならないといった配慮も必要となります。
DASのもう一つの短所は、受振器としての感度がジオフォンと比較すると低い点です。また、DASの測定方位は、3成分(水平2方向と上下1方向)のジオフォンとは違い、1成分(ファイバーの軸方向)のみとなるため、1本の光ファイバーケーブルでは音の発生位置を特定することはできません。
DASの今後について
DASの登場は、シェール業界での「ゲーム・チェンジャー」となる可能性を秘めていますが、現時点では、まだまだ発展段階だと感じています。ただし、光ファイバーセンサーの技術向上は著しく、現在もセンサー感度を向上させる技術開発が進められています。今後数年以内には現状の短所を克服できる可能性があるため、引き続き技術動向を注視すべき将来性の高い技術と考えています。
以上
(この報告は2018年3月22日時点のものです)