ページ番号1007493 更新日 平成30年11月26日
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概要
1.米国では、製油所での春場のメンテナンス作業が峠を越えつつあることで、稼働が上昇するとともに、原油精製処理量が増加傾向となったうえ、WTIがブレント等他の原油に対し価格が割安となった時期があったこともあり、輸出が増加したことから、同国の原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する水準は維持されている。他方、製油所での稼働上昇で製品の生産活動は活発化しつつあると考えられるものの、冬用ガソリンの処分が進んでいると見られることや、生産や輸入といった供給が国内外向けの出荷に追い付いていないと思われることから、ガソリンや留出油の在庫は減少傾向となったが、両製品とも平年幅上限を上回る量となっている。
2.2018年3月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加した他、欧州でも製油所が春場のメンテナンス作業時期に突入しつつあることに伴い原油精製処理量が減少したことから、原油在庫は増加した。他方、日本においては、原油精製処理量は安定して推移しており、原油在庫も比較的限られた範囲内での増減を示す中、3月末時点では前月末比で増加している。この結果、OECD諸国全体としての原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国ではガソリンや留出油在庫が減少したことが影響し、製品全体でも在庫は減少となった。また、欧州においても、暖房向けの中間留分需要が増加したと見られることから当該製品を中心として石油製品在庫が減少した。他方、日本においては暖房向けの石油製品需要が低下したと見られることもあり、当該製品を中心として石油製品在庫が増加した。ただ、米国及び欧州での在庫減少が、日本での増加を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となったが、量としては平年幅上限付近に位置している。
3.2018年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場は、3月下旬はイランに対する米国の制裁再発動の可能性を巡る市場の懸念が増大したこともあり、原油価格は上昇傾向となった。ただ、その後は米国及び中国との間での貿易戦争に伴う両国等の経済成長減速と石油需要鈍化に対する市場の不安感の増大により、4月上旬半ば頃にかけ原油価格は下落傾向となった。しかしながら、それ以降4月中旬にかけては、中国が貿易政策に関し融和的な方針を表明したことに加え、米国がシリアに対し軍事行動を実施する方針である旨示唆したことで、中東情勢の不安定化と当該地域からの石油供給途絶に対する懸念が市場で増大したことから、原油価格は上昇、4月13日にはWTIの終値が2014年12月以来の高水準に到達している。
4.今後、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近するとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まりつつあることから、原油相場はこの面で下支えされやすい一方で、地政学的リスク要因面での展開によっては、中東地域等からの石油供給途絶懸念が市場で高まることにより、原油相場に上方圧力を加える可能性がある。また、OPEC産油国等の減産継続に対する市場の期待も根強いことから、この面で原油相場の下落が抑制されるものと見られる。他方、米国企業業績、米国石油生産量等が原油相場に対し攪乱要因として作用するものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2018年1月の米国ガソリン需要(確定値)は日量874万バレルと前年同月比で2.8%程度の増加となった(図1参照)が、速報値(前年同月比で4.3%程度増加の日量886万バレル)からは下方修正されている。同月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量80万バレルと推定されるところ、確定値では同107万バレルへと上方修正されたことで、この部分が速報値から確定値に移行する段階で国内需要から輸出に繰り入れられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。加えて、2017年12月の米国のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.594ドルと前月の価格(同2.678ドル)から下落したにもかかわらず同月のガソリン需要が前年同月比で0.9%程度減少したことに対する反動が2018年1月に発生している可能性もある。また、2018年3月の同国ガソリン需要(速報値)は日量936万バレル、前年同月比で0.2%程度の減少となった。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.709ドルと前年同月比で0.272ドル(約11.2%)割高になったうえ、前月比でも0.004ドルと若干ながらも上昇したことが当該需要を抑制した一因となったものと考えられる。他方、米国では、製油所での春場のメンテナンス作業が峠を越え始めたことから、原油精製処理量が増加傾向となったこと(図2参照)により、石油製品の生産活動も活発化しつつあることに併せ、ガソリン生産も進んだと見られる(最終製品の生産量は図3参照)。しかしながら、夏場のガソリン需要期にはまだ早く当該需要が旺盛であったわけではなかったものの、輸出が活発に行われた(米国での環境規制の関係で販売期間終了が接近しつつある冬用ガソリンの処分がなされたことが影響している可能性がある)ことから、3月上旬から4月上旬にかけ、ガソリン在庫は減少したが、平年幅上限を超過する水準は維持されている(図4参照)。
2018年1月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量439万バレルと前年同月比で16.2%程度の大幅増加となった他、速報値である日量415万バレル(前年同月比9.8%程度の増加)から相当程度上方修正されている(図5参照)。同月の米国の鉱工業生産が前年同月比で2.9%程度伸びるなど経済が比較的堅調であったことから、同国の物流活動が同4.8%程度拡大したうえ、1月は米国北東部で気温がしばしば平年を下回った他、前年同月比でも気温が相対的に低かったことから、暖房向け需要が増加したことに加え、2017年12月も物流活動が前年同月で6.7%の増加と活発であったうえ、気温も前年同月比で相対的に低かったにもかかわらず、留出油需要が前年同月比で2.7%程度減少していたことから、その反動が2018年1月に現れたと見られることが、当該製品需要の大幅増加の一因となっているものと考えられる。また、2018年3月の留出油需要(速報値)は日量401万バレルと、前年同月比で3.4%程度の減少となっている。2018年3月については、同国の株式相場が伸び悩み気味となったこともあり、景況感についても市場の事前予想を下回る指標がしばしば発表されるなど、米国経済成長の伸びが鈍化しつつあるように見受けられることが、同国の物流活動に影響している可能性があるうえ、3月は同国北東部で平年を下回る気温となる場面がしばしば見られたものの、前年に比べれば相対的に温暖であったことから、暖房向け需要が減少したと見られることが、留出油需要を抑制したものと考えられる。他方、春場の製油所でのメンテナンス作業は峠を越えつつあることから、留出油生産は上向きつつある(図6参照)ものの、国内需要及び輸出(2月下旬以降3月にかけ欧州ではしばしば気温が平年を相当程度下回ったことから、欧州方面に暖房用の留出油輸出が活発に行われたと見られることが影響している可能性がある)を賄うにはなお不十分であることから、留出油在庫は減少傾向となったが、2018年4月上旬時点では平年幅上限を超過する量となっている(図7参照)。
2018年1月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で6.3%程度増加の日量2,046万バレルとなった(図8参照)。留出油需要が前年同月比で大幅に増加したことに加え、ガソリンやその他石油製品(2017年2月27日にOccidental ChemicalとMexichemがテキサス州イングルサイド(Ingleside)に年産54.4万トンのエチレン製造装置を操業開始したことに加え、9月21日にはDow DuPontが米国テキサス州フリーポートで年産150万トンのエチレン製造施設の操業を開始したこともあり、原料となるエタンの需要が増加しているものと見られる)の需要が増加したことが寄与しているものと考えられる。ただ、ガソリン及びその他の石油製品の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたことにより、当該需要は速報値(日量2,080万バレル、前年同月比8.1%程度の増加)からは下方修正されている。また、2018年3月の米国石油需要(速報値)は、日量2,085万バレルと前年同月比で4.0%程度の増加となった。プロパン/プロピレンの需要(石油化学部門向け原料として使用されているものと見られる)が堅調であったうえ、その他の石油製品の需要が増加していることが全体の需要増加を牽引している格好となっている。ただ、その他石油製品の需要は日量406万バレルと2017年2月~2018年1月の当該需要(確定値)である同315~382万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正される結果、同国の石油需要(確定値)に影響を及ぼすこともありうる。また、米国国内では製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加した一方で原油輸入量が増減したこともあり、3月上旬から4月上旬にかけ原油在庫水準は上下に変動しながらも全体としては減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図9参照)。そして、原油、ガソリン、及び留出油の在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、または原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2018年3月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加した他、欧州でも製油所が春場のメンテナンス作業時期に突入しつつあることに伴い原油精製処理量が減少したことから、原油在庫は増加した。他方、日本においては、春場の製油所のメンテナンス作業の活発化までにはなお時間がある中、原油精製処理量は安定して推移しており、その結果、原油在庫も比較的限られた範囲内で増減していたが、3月末時点の在庫量は前月末比では増加している。この結果、OECD諸国全体としての原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国ではガソリンや留出油在庫が減少したことが影響し、石油製品全体としても在庫は減少となった。また、欧州においても、気温がしばしば平年を下回って低下したことで暖房向けの中間留分需要が増加したと見られることから当該在庫を中心として石油製品在庫が減少した。他方、日本においては灯油等暖房向け石油製品需要が冬場の暖房シーズン終了の接近に伴い低下したと見られることもあり、当該製品在庫を中心として石油製品在庫は増加した。しかしながら、米国及び欧州での石油製品在庫減少が、日本での増加を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は減少となったが、量としては平年幅上限付近に位置している(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方石油製品在庫が平年幅上限付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過している(図14参照)。なお、2018年3月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は60.7日と2017年2月末の推定在庫日数(60.4日)から増加している。
3月14日に1,400万バレル台後半の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、3月21日は1,400万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、3月27日には1,500万バレル台後半の水準へと上昇、当該統計史上の最高記録を更新した(それまでの最高記録は2016年3月2日の1,500万バレル台半ば程度の量であった)。ただ、4月4日は1,400万バレル台半ば付近に位置する量、4月11日は1,300万バレル台後半の量へと減少している。北半球の石油消費国におけるガソリン需要期にはまだ早い一方で、欧州や米国での留出油在庫低下(2017年8月下旬に米国メキシコ湾岸地域にハリケーン「ハービー」が来襲したことに伴う当該地域での製油所の稼働停止とその後の秋場の製油所メンテナンス、さらには北半球での厳冬に伴う旺盛な留出油需要の発生が影響している)により、例えば暖房油と原油の価格差が拡大したことから、欧州での製油所の稼働が高水準を維持した結果、中間留分とともにガソリンの生産も活発化したことで、当該地域でガソリン在庫が増加したことにより、当該地域のガソリン価格がアジア市場でのガソリン価格に比べ総じて割安となったことから、欧州方面からガソリンがアジア市場へと流入したことが、3月下旬にかけてのシンガポールでのガソリン在庫増加の背景にあると考えられる。しかしながら、その後はアジア地域の製油所が春場のメンテナンス作業時期に差し掛かり始めたこともあり、これらの国において製油所メンテナンス作業期間中の国内市場への製品供給低下に備え国外からのガソリン輸入が実施される一方で国外への輸出が手控えられ始めたことが、シンガポールでの軽質留分在庫を抑制する一因となっていると考えられる。そして、シンガポール市場のガソリン価格は軽質留分在庫が増加した3月末頃までは下方圧力が加わった結果、ガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は縮小する方向に向かったが、それ以降4月上旬半ば頃までは軽質留分在庫が減少傾向に転じたこともありガソリン価格に上方圧力が加わった結果、価格差は拡大した。しかしながら、4月上旬半ば頃から中旬にかけては、欧州でのガソリン在庫増加の情報(4月6日には欧州沖合のタンカーに貯蔵されるガソリン量が300万バレル超(40万トン超)にまで増加している旨伝えられる)に加え、原油価格の上昇にガソリン価格のそれが追い付かなかった結果、価格差は再び縮小している。
他方、アジア諸国の石油化学会社におけるナフサ分解装置のメンテナンス作業実施に加え、台湾石化服務有限公司(Formosa Petrochemical)がナフサ分解装置での不具合(3月19日に発生)に伴い当該装置を7~10日間程度停止させる旨3月20日に発表したことにより、ナフサ需要が低下するとの観測が市場で発生したことが、ナフサ価格に下方圧力を加えたことから、アジア市場でのナフサ価格はドバイ原油のそれを下回ったうえ、3月中旬から下旬にかけては、その度合いが拡大する傾向を示した。しかしながら、冬場の暖房需要期が終了しつつある中で、石油化学部門でナフサと競合するLPGの価格競争力が相対的に強まったことにより、ナフサからLPGへと原料転換が進んだものの、石油化学部門向けのLPG消費も分解施設での利用能力上限に接近しつつあったことから、ナフサからLPGへの燃料転換もこれ以上進みにくくなるのではないかとの見方が市場で発生したことが、ナフサ価格を下支えしたうえ、3月末には夏場のガソリン需要期到来が市場で意識された結果、ガソリンに混入するナフサ需要が増加することに伴い、欧州方面からアジア市場へのナフサ流入量が低下するのではないかとの観測が市場で発生した結果、ナフサ価格のドバイ原油のそれを下回る度合いは4月上旬半ば頃に向け縮小し始めた。それでも、4月上旬半ば頃以降は欧州沖合でのガソリン在庫増加の情報に加え、原油価格の上昇にナフサ価格が追い付かなかったことから、ナフサ価格のドバイ原油を下回る度合いは再び拡大している。
3月14日には900万バレル弱の量であったシンガポールの中間留分在庫は、3月21日には1,000万バレル台後半の水準へと回復したものの、3月27日には900万バレル台後半の量へと減少した。ただ、当該在庫は4月4日には1,100万バレル台半ば程度の量へと増加、4月11日には1,100万バレル台前半の水準へと若干低下したものの、3月14日の量を相当程度上回っている。アジア諸国での春場の製油所メンテナンス作業シーズン突入とともに、製油所メンテナンス作業期間中の国内市場への製品供給低下に備え当該諸国の国外向け製品輸出が手控えられるとともに国外市場からの製品調達が行われていると見られるものの、冬場の暖房シーズンが終わりに接近しつつあったことで、欧州での暖房用需要対応のためのシンガポール等アジア諸国からの軽油輸出や一部アジア諸国での灯油需要は峠を越していると見られることから、中間留分在庫が増加傾向を示しているものと考えられる。そして、3月下旬にかけては冬場の暖房用石油製品需要期の終わりが市場で意識されたこともあり、アジア市場での軽油やジェット燃料価格と、ドバイ原油価格との差(この場合軽油やジェット燃料価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小する傾向を見せたが、3月28日にはシンガポールでの中間留分在庫が減少した旨示されたこともあり、当該製品価格が上昇した結果、価格差も拡大した。それでも、4月上旬半ば頃以降は、在庫増加を示す統計が発表されたうえ、原油価格の上昇程製品価格が上昇しなかったことから、アジア市場での軽油やジェット燃料とドバイ原油との価格差は縮小する傾向を示した。
3月14日には2,300万バレル台後半の量であったシンガポールの重油在庫は、3月21日には2,400万バレル台前半の水準へと増加したものの、3月27日には2,100万バレル台後半の量、4月4日及び4月11日には1,900万バレル台後半の水準へと減少した。韓国で1月12日に新古里(Shin Kori)原子力発電所3号機(発電能力140万kW)が3ヶ月間のメンテナンス作業に突入したうえ、同国の大気汚染低減のために3月1日から6月にかけ稼働30年超の石炭火力発電所5基(発電能力合計232万kW)が操業を停止した(3月27日に同国産業通商資源部(省)が発表した)ことから、同国での石油火力発電所の稼働上昇と燃料としての重油の需要が増加しているうえ、アジア諸国の製油所が春場のメンテナンス作業シーズンに突入しつつあることから、重油の生産が低下するとの観測が重油価格を下支えしたものの、3月中旬から下旬にかけては、重油在庫の増加傾向に加え、冬場の暖房シーズンの終了が接近しつつあったことから、暖房のための発電向け重油需要の低下が市場関係者の視野に入ってきたことが、重油価格に下方圧力を加えた結果、重油と原油の価格差(この場合重油の価格が原油のそれを下回っている)は拡大する傾向が見られた。また、3月27日以降はシンガポールでの重油在庫が減少している旨明らかになっていることもあり、重油価格が上昇した結果、価格差は縮小したが、4月中旬には、原油価格の上昇に重油価格のそれが追い付かなかったこともあり、重油と原油との価格差は再び拡大している。
2.2018年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場等の状況
2018年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場は、3月下旬はイランに対する米国の制裁再発動の可能性を巡る市場の懸念が増大したこともあり、原油価格は上昇傾向となった。ただ、その後は米国の原油在庫や原油生産量の増加に関する情報、米国の中国に対する関税賦課の方針の表明と中国による報復関税賦課の方針の発表による、米中間での貿易戦争発生に伴う両国等の経済成長減速と石油需要鈍化に対する市場の不安感の増大が原油相場に下方圧力を加えた結果、4月上旬半ば頃にかけ原油価格は下落傾向となった。しかしながら、それ以降4月中旬にかけては、中国が貿易政策に関し融和的な方針を表明したことに加え、米国がシリアに対し軍事行動を実施する旨示唆したことにより、中東情勢の不安定化と当該地域からの石油供給途絶に対する懸念が市場で増大したことから、原油価格は上昇、4月13日にはWTIの終値で1バレル当たり67.39ドルと2014年12月以来の高値となっている(図15参照)。
米国フェイスブックの5,000万人分の利用者情報が流出した可能性がある旨3月17日に報じられたことで、3月19日には、同社の株価が急落したことをきっかけとして、ハイテク株を中心として米国株式相場が下落したことから、この日(3月19日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.28ドル下落し、終値は62.06ドルとなった。しかしながら、3月19日にサウジアラビアのジュベイル外相が、2015年7月14日のウラン濃縮問題を巡るイランと西側諸国等との合意につき「欠陥がある」旨指摘したこともあり、3月20日に実施される予定の同国のムハンマド皇太子と米国のトランプ大統領の会談により、両国のイランに対する強硬な姿勢に弾みがつくのではないかとの観測が市場で発生したことから、3月20日の原油価格の終値は1バレル当たり63.40ドルと前日終値比で1.34ドル上昇した(なお、NYMEXの2018年4月渡しWTI原油先物契約取引はこの日を以て終了したが、2018年5月渡し契約のこの日の終値は1バレル当たり63.54ドル(前日終値比1.41ドル上昇)であった)。3月21日も、前日に実施された同国のムハンマド皇太子と米国のトランプ大統領の会談により、両国のイランに対する強硬な姿勢に弾みがつくのではないかとの観測が市場で発生した流れを引き継いだことに加え、3月21日に開催されたOPEC-非OPEC閣僚監視委員会(JMMC:OPEC-non-OPEC Joint Ministerial Monitoring Committee)で、OPEC及び一部非OPEC産油国による2月の遵守率が138%と2017年1月の減産実施以降の最高水準に到達した旨明らかになったことで、この先の石油需給引き締まり期待が市場で増大したこと、3月21日に米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(3月16日の週分)で、原油在庫が前週比で262万バレルの減少と市場の事前予想(同260~325万バレル程度の増加)に反し減少していた旨判明したこと、3月20~21日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)の際、2018年は従来通り3回の金利引き上げを予想している旨の見解が委員会出席者により示されたことで、金利引き上げ回数の増加を期待していた市場関係者が失望したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.77ドル上昇し、終値は65.17ドルとなった。3月22日は、これまでの原油価格上昇に対し、利益確定の動きが市場で発生したことに加え、3月22日に米国のトランプ大統領が中国に対し最大500億ドルの関税を課する措置を実施する方針である旨発表したことで、中国の報復措置実施に伴う、同国で事業を展開する米国企業の業績への影響に対する懸念が市場で増大したことにより、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり64.30ドルと前日終値比で0.87ドル下落した。ただ、OPEC産油国やロシア他一部の非OPEC産油国は、世界の石油在庫を望ましい水準にまで減少させるために2019年も減産協力を継続する必要があろう旨サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が発言したと3月22日夕方に伝えられたことで、この先の世界石油需給の引き締まりに対する期待が市場で増大したことに加え、3月22日夜に、米国のトランプ大統領が国家安全保障担当大統領補佐官であるマクマスター氏を解任したうえ、イランに対して強硬な意見を持つとされる元国連大使のボルトン氏を後任として充当する旨明らかにしたことで、米国がイランとの核合意を放棄しイランに対し制裁を再発動させるのではないかとの観測が市場で増大したことから、3月23日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.58ドル上昇し、終値は65.88ドルとなった。
3月26日には、前取引日の原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.55ドルと前日終値比で0.33ドル下落した。3月27日も、3月23日の原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生した流れを引き継いだうえ、3月28日にEIAから発表される予定である同国石油統計(3月23日の週分)で、原油在庫が増加しているとの観測が市場で発生したこと、前日(3月26日)の株式相場大幅上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したこともあり、3月27日の米国株式相場が下落したこと、前日に米ドルが下落したことに対する利益確定の動きが市場で発生したこともあり、3月27日に米ドルが上昇したことから、この日の原油価格も前日終値比で1バレル当たり0.30ドル下落し、終値は65.25ドルとなった。さらに、3月28日には、この日EIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で164万バレルの増加と、市場の事前予想(前週比29万バレル程度の減少~100万バレル程度の増加)に反して、もしくは上回って増加していた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり64.38ドルと前日終値比で0.87ドル下落した。この結果原油価格は3月26~29日の3日間で併せて1バレル当たり1.50ドルの下落となった。しかしながら、イラクのルアイビ石油相が、現在減産に参加する一部の産油国は減産の3ヶ月間の延長を希望している一方、他の一部は6ヶ月間の延長を希望しており、2018年末までに市場の状況を評価し、方針を決定する旨3月28日に明らかにしたことで、この先のOPEC産油国等による減産延長の可能性と世界石油需給の引き締まりに対する期待が市場で増大した流れを3月29日の市場が引き継いだうえ、米国のグッドフライデーの休日(3月30日)に伴う連休を控えて持ち高調整が市場で発生したこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日(3月29日)の原油価格の終値は1バレル当たり64.94ドルと前日終値比で0.56ドル上昇した。なお、3月30日には、米国グッドフライデーの休日に伴い原油先物市場は休場となった。
ただ、2018年1月の米国原油生産量(確定値)が日量996.4万バレルと2017年12月の同995.8万バレルから増加している旨3月30日にEIAが発表したことに加え、軟調なドバイ原油価格を反映し、サウジアラビアが、5月のアジア向け原油販売価格を全ての油種につき引き下げる見込みである旨4月2日に報じられたこと、3月のロシアの原油生産量が4,639万トン(推定日量1,097万バレル)と2月の4,184万トン(同1,095万バレル)から増加した旨4月2日に発表されたロシアエネルギー省のデータで判明したこと、4月1日に中国国務院が米国産の豚肉やワイン等計128品目に対し最大25%の関税を賦課する旨発表、4月2日に施行したことで、米国経済への影響に対する懸念が市場で増大したこともあり、4月2日の米国株式相場が下落したことから、この日(4月2日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.93ドル下落し、終値は63.01ドルとなった。ただ、4月3日には、前日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、ロシアのノバク エネルギー相が、OPEC及び一部非OPEC産油国の減産協力が2018年末に失効する際に、OPEC及び一部非OPEC産油国による協力機構を設立するかもしれない旨4月3日に発言したことで、この先の世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、2018年3月のOPEC14加盟国の原油生産量が日量3,204万バレルと前月から日量17万バレル減少した旨4月3日に報じられたことから、この日(4月3日)の原油価格の終値は1バレル当たり63.51ドルと前日終値比で0.50ドル上昇した。しかしながら、4月4日には、前日(4月3日)に米国通商代表部(USTR)が通商法301条に基づく貿易制裁(中国による知的財産権侵害に対するもの)対象案(約1,300品目、総額500億ドル相当、25%の関税賦課)を発表したことに対し、4月4日に中国政府が米国産品(106品目、総額500億ドル相当)に対し25%の報復関税を課する旨表明したことで、米国と中国との間での貿易戦争が両国の経済と石油需要に影響を及ぼすのではないかとの懸念が市場で発生したことに加え、4月4日にEIAから発表された同国石油統計(3月30日の週分)で同国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で367万バレルの増加と2016年12月2日(この時は同378万バレルの増加)以来の大幅増加となっている旨明らかになったことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.14ドル下落し、終値は63.37ドルとなった。ただ、4月3日に発表された米国の対中国関税賦課方針の発表に対し4月4日にクドロー国家経済会議(NEC)委員長が、交渉によって両国の貿易問題は回避される可能性がある旨示唆したことで、米国と中国との間での貿易関係の悪化と両国の経済及び石油需要への影響に対する市場の懸念が後退した流れを4月5日の市場が引き継いだうえ、4月5日に、サウジアラムコが5月のアジア向けアラビアン・ライト原油販売価格を引き上げた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.54ドルと前日終値比で0.17ドル上昇した。それでも、米国のトランプ大統領が中国に対する1,000億ドルの追加関税の実施につきUSTRに検討するよう指示した旨4月5日夜に発表したことで、米国と中国との間での貿易戦争が両国の経済と石油需要に影響を及ぼすのではないかとの懸念が市場で増大したうえ、4月6日に米国のムニューシン財務長官も米国と中国との間で貿易戦争に発展する可能性がある旨発言したことに加え、4月6日に、パウエル米国連邦準備制度理事会(FRB)議長が、物価上昇が今後数ヶ月間で加速する可能性が高いとの見通しから金利を引き上げていくべきである旨示唆したことから、米国株式相場が下落したことにより、4月6日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.48ドル下落し、終値は62.06ドルとなった。
4月9日には、この日の朝にシリア中部のホムスにミサイルが着弾(4月9日にロシア国防省はイスラエルが実施したと主張)したことに加え、4月6~7日にシリアのアサド政権軍が反体制派が支配するダマスカス近郊の東グータ地区ドゥーマで化学兵器を用いた攻撃を実施した可能性があることに対し、米国のトランプ大統領が48時間以内に行動を決断する旨4月9日に表明した(後述)ことから、米国によるシリアへの軍事攻撃に伴う中東情勢の複雑化に対する市場の懸念が増大したうえ、4月6日に米国株式相場が下落したことに対し値頃感から株式を買い戻す動きが市場で発生したことにより4月7日には米国株式相場が一時上昇したこと、4月9日に発表された欧州中央銀行(ECB)年次報告書において、2018年はユーロ圏諸国景気は堅調な回復を維持する旨ドラギECB総裁が認識していることが明らかになったことで、ユーロが上昇した反面米ドルが下落したことにより、この日(4月9日)の原油価格の終値は1バレル当たり63.42ドルと前週末終値比で1.36ドル上昇した。4月10日も、米国のトランプ大統領が48時間以内にシリアに対し行動を決断する旨4月9日に表明したことにより中東情勢の複雑化に対する市場の懸念が増大した流れを引き継いだうえ、4月10日に行われた中国の習近平主席の演説で、習主席が、同国の金融及び自動車産業の対外開放を促進する他、自動車の輸入関税の引き下げを実施する意向である旨明らかにしたことで、米国及び中国間での貿易を巡る紛争の激化による、世界経済及び石油需要への影響に対する懸念が市場で後退したこと、そしてそのようなこともあり、4月10日の米国株式相場が上昇したこと、4月9日に発表されたECB年次報告書によりユーロが上昇した反面米ドルが下落したことした流れを引き継いだうえ、米国株式相場が上昇したことにより投資家のリスク許容度が拡大したことで、4月10日に米ドルが下落したことから、この日(4月10日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.09ドル上昇し、終値は65.51ドルとなった。4月11日には、この日の朝に米国のトランプ大統領がシリアにミサイルが飛来する旨発言し、近日中に軍事攻撃を実施することを示唆したことで、中東地域の不安定化による同地域産油国からの石油供給途絶に対する懸念が市場で増大したことに加え、4月11日にイエメンのフーシ派武装勢力によりリヤドのサウジアラビア国防省等に向け発射された弾道ミサイル及び同国南西部にあるサウジアラムコのジーザーン(Jizan)製油所(建設中とされる)やアブハの空港を標的として飛来した無人機をサウジアラビア軍が迎撃した(後述)ことで、サウジアラビアからの原油供給に対する不安感が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.82ドルと前日終値比で1.31ドル上昇した。4月12日も、4月11日朝に米国のトランプ大統領がシリアにミサイルが飛来する旨発言したことに伴う中東産油国からの石油供給途絶懸念が市場で増大した流れを引き継いだうえ、4月12日にOPEC事務局から発表された「月刊オイル・マーケット・レポート」で、OPECがOECD諸国の2月末の石油在庫の対5年平均での余剰が4,300万バレルと、2017年1月末から2.94億バレル縮小したうえ、2月のOPEC産油国の原油生産量が日量3,196万バレルと前月比で日量20万バレル減少した旨明らかしたことで、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.25ドル上昇し、終値は67.07ドルとなった。4月13日も、4月11日朝に米国のトランプ大統領がシリアにミサイルが飛来する旨発言したことに伴い中東産油国からの石油供給途絶懸念が市場で増大した流れを引き継いだうえ、4月13日に国際エネルギー機関(IEA)事務局から発表された「オイル・マーケット・レポート」で、IEAがOECD諸国石油在庫はここ1~2ヶ月程度で過去5年平均、もしくは平均以下に到達するであろう旨指摘したことで、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.39ドルと前日終値比で0.32ドル上昇、2014年12月1日(この時は同69.00ドル)以来の高水準な価格に到達した。また、原油価格は4月9~13日の5日間で併せて1バレル当たり5.33ドル上昇した。
3.今後の見通し等
イエメンでは、ハディ暫定大統領を支援している連合軍を主導するサウジアラビアと、同暫定大統領と対立し事実上の内戦状態となっているフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)との間で、極秘裏に和平に向けた協議を行っていると3月15日に伝えられた。しかしながら、3月25日夜にイエメンのフーシ派武装勢力が、弾道ミサイル7発をサウジアラビアのリヤド等に向け発射、ミサイルは全て迎撃したとされるが、リヤドではミサイルの残骸の落下でエジプト人2名が死亡したと報じられる。フーシ派武装勢力は、サウジアラビアが主導する有志連合軍が空爆を停止しなければ、サウジアラビアに向けた弾道ミサイルの発射を継続する旨3月26日に表明している。3月31日にも、フーシ派武装勢力はサウジアラビア南部のナジュランに向け弾道ミサイルを発射、サウジアラビアは迎撃した旨報じられるが、残骸が住宅街に落下した結果、インド人1名が負傷したと伝えられる。また、4月2日には、サウジアラビアが主導する連合軍がイエメン西部のホデイダ港のフーシ派武装勢力に対し空爆を実施したが、4月3日には、ホデイダ沖合の紅海において、サウジアラビアの石油タンカーがフーシ派武装勢力により攻撃された旨報じられる(タンカーの被害は限定的で、航行に支障はないとされる)。また、4月4日夜には、イエメンのフーシ派武装勢力がサウジアラビアのジーザーンの原油貯蔵タンクに向けミサイルを発射したが、サウジアラビアが迎撃したと同国主導の有志連合軍が発表した。さらに、4月11日には、フーシ派武装勢力がサウジアラビアのリヤドのサウジアラビア国防省等に向け弾道ミサイルを発射した旨明らかにした(サウジアラビアは迎撃)。また、同武装勢力は、ドローンによる攻撃をサウジアラビア南西部のジーザーンで建設中とされるサウジアラムコの製油所(原油精製処理能力日量40万バレル)とアブハの空港で実施しようとしたが、サウジアラビア軍がドローンを破壊したと同日伝えられる。なお、ジーザーンの製油所は無事である旨同日明らかにされている。
サウジアラビアのムハンマド皇太子はイランが核兵器開発を実施するのであれば、サウジアラビアも同様のことを実施する旨発言したと3月15日に伝えられる。他方、3月16日には、米国国務省のフック政策企画局長は、2015年7月14日に到達した西側諸国等とイランとの間での核合意の見直しを英国、ドイツ及びフランスとともに進めている旨明らかにしている。他方、3月19日にはサウジアラビアのジュベイル外相は、イランの核合意につき「欠陥がある」旨発言しており、翌20日にはサウジアラビアのムハンマド皇太子と米国のトランプ大統領が会談しているが、米国とサウジアラビア両国でイランに対する強硬な姿勢が強まるのではないとの見方が市場で発生している。さらに、3月23日に、米国財務省は、イランの情報関連企業1社及び個人10人につき、2013年頃以降米国等にサイバー攻撃を行ったとして、制裁を実施する旨発表した(イランは米国の制裁を批判した旨3月24日に報じられる)。4月9日には、イランのロウハニ大統領は、米国が西側諸国等とイランとの間での核合意を破棄するのであれば、イランは1週間以内に対抗措置を講ずる旨表明した。他方、4月11日には、米国のムニューシン財務長官は米国議会下院歳出委員会の公聴会でイランに対する制裁解除の更新を行わないとしても、イランとの核合意から米国が直ちに離脱するわけではない旨明らかにした。
トルコのエルドアン大統領は、3月18日に、シリア北西部のアフリンを掌握した(1月20日にクルド人勢力掃討作戦を開始)旨発表(これに対しては3月19日に米国務省のナウアート報道官が深い懸念を表している他、シリア外務省も同日トルコの行動は違法であり即刻撤収すべきである旨批判している)、3月19日には、クルド人勢力掃討をさらに進めるべく、シリア北部(アイナルアラブ島)や北東部(カミシュリ等)でも作戦を展開する旨表明した。
他方、米国のトランプ大統領は3月29日にシリアに駐留している米軍関係者を撤退する方針である旨表明したが、4月5日に米国国防省関係者は大統領から撤退日程等についての具体的な指示を受けておらず、従来通り任務を遂行している旨明らかにしている。また、シリアのダマスカス近郊の東グータ地区において、最後までアサド政権軍に対して抵抗していた反体制派勢力であるイスラム軍がアサド政権軍と合意し(4月1日と伝えられる)、4月2日に撤退を開始した旨報じられたが、イスラム軍の一部が撤退を拒否したことから、4月6~7日にアサド政権軍は東グータ地区ドゥーマへの空爆を再開した。この結果、イスラム軍は全面的に撤退することで合意したと4月8日に伝えられる。ただ、4月7日の空爆の際、アサド政権軍が化学兵器を使用した疑惑が浮上(世界保健機関(WHO)は43名が化学兵器により死亡したとの推定を4月11日に発表)、欧米諸国が国連安全保障理事会の開催を要求し、4月9~10日に当該理事会は開催されたが、化学兵器の使用の実態につき使用者の特定を含めた調査を実施するための新規の機関の設立(化学兵器禁止機関(OPCW)は4月10日に東グータ地区ドゥーマにおける化学兵器使用状況に関する調査を実施する旨表明した(4月14日夕方にシリアに入り4月15日に現地調査を開始する旨4月15日に報じられた)が、OPCWは使用者を特定する権限は有していない他、かつてアサド政権による化学兵器使用をしばしば認定した国連とOPCWによる合同調査団については、2017年11月17日に開催された国連安全保障理事会で活動期限延長につきロシアが拒否権を発動したため活動を終了した)を目指す米国による決議案につき、ロシアが拒否権を行使したため、否決された。また、4月9日未明にはシリア中部のホムス近郊の軍事基地にミサイルが着弾しシリア軍事関係者等14名が死亡した旨報じられる。同日ロシア国防省は、これはイスラエル軍によるものであると主張している。そして、同日トランプ大統領はシリアでのアサド政権軍による化学兵器使用疑惑に対し48時間以内に決断する旨表明したが、これは軍事行動を含むものとされた(2017年4月7日午前3時45分(現地時間)に実施された米国によるシリア中部ホムスの空軍基地に対する巡航ミサイル攻撃(59発が発射されたとされる)よりも大規模なものになる可能性があると4月10日に報じられる)。シリアの空爆については、米国のみならずフランスも連携した行動を発表する旨4月10日にマクロン大統領が表明している(4月12日には、アサド政権軍が化学兵器を使用した証拠がある旨マクロン大統領が明らかにした)。また、4月10日には、サウジアラビアのムハンマド皇太子が、米国がシリアに対して軍事行動を実施する場合には、サウジアラビアも合流する可能性がある旨表明している。他方、英国ではメイ首相が議会の承認を得ずに軍事行動に合流する意向である旨4月11日に報じられた(議会の承認を得ずに軍事行動への参加を行うことは可能だが、過去イラクやリビアへの軍事行動実施の際には議会に対して承認を求めていた)。4月11日にトランプ大統領は米国からシリアにミサイルが発射される旨ロシア等に対して警告を発したが、4月9日のトランプ大統領の表明から48時間経過後も、トランプ大統領は具体的な空爆日程を含め決断せず、4月12日にトランプ大統領は、シリアに対する軍事行動の実施時期については特定しない旨明らかにした他、同日トランプ大統領は国家安全保障関係者と協議したものの最終的な決断には至らなかった(情報を収集・分析しているとホワイトハウスが明らかにした旨4月12日に伝えられる)。他方、アサド政権軍やロシアは4月12日までに米国等による攻撃を避けるために主要な軍事拠点から関係者を退避させる措置を実施したと4月12日に伝えられる。そして、4月13日午後9時(米国東部時間)に、トランプ大統領がシリアに対し限定的な軍事攻撃を実施する旨指示したと発表、4月14日未明(現地時間)にシリアのダマスカス及びホムスの化学兵器関連施設3ヶ所に対しミサイルを発射した(105発であったと4月14日に報じられる)。そして、4月13日に米国のダンフォード統合参謀本部議長は軍事行動(1時間程度とされる)は終了したと発言した他、トランプ大統領も同日シリア情勢に長期間関与する意向はない旨改めて表明したが、マティス国防省長官はアサド政権の対応次第では追加の軍事行動を実施する可能性がある旨示唆したと4月13日に報じられる。また、4月15日には、ヘイリー国連大使が、シリアの化学兵器の使用防止、イスラム国(IS)の壊滅、イランの影響力抑制、といった目標を達成するまでは、シリアからの撤収は行わない他、今般の化学兵器使用疑惑に関連するロシア企業等に対し4月16日にも制裁を科する旨発表する予定である旨明らかにした。米国等の軍事行動に対し、ロシアのプーチン大統領はイランのロウハニ大統領と電話会談後、当該行動はシリア問題の政治的解決の可能性を低下させるものであり、このような行動の継続は国際関係を混乱させる旨の声明を4月15日に発表している。他方、4月14日には、アサド政権軍が東グータ地区を完全に制圧した旨伝えられる。
他方、3月30日には、パレスチナ自治区のガザでイスラエル建国(1948年5月14日)の際に住居を追われたパレスチナ難民の帰還を求めるデモ隊とイスラエル軍との間での衝突が発生し5名が死亡したと同日伝えられる。3月31日には、イランのザリフ外相がこれを批判している。
ベネズエラについては、3月19日に、米国のトランプ大統領が、ベネズエラ政府が2月20日に販売を開始した仮想通貨「ペトロ」について、米国内での、もしくは米国人による取引の購入を禁止する大統領令を発効させるとともに、マドゥロ政権下のベネズエラ政府幹部4名に対し米国制裁の対象とした。他方、3月22日にマドゥロ大統領が6月4日に自国通貨ボリバルを1000分の1の額面に変更する旨発表した。また、同国では経済が混乱しているとされるが、Chevronは同国の操業は平常通り行われている旨3月26日に同社幹部が明らかにしている。
全体としては、今後当面中東情勢が注目されるところであろう。シリアについては、前述の通り、4月14日未明に米国、英国そしてフランスが化学兵器関連施設に対してミサイル攻撃を実施した。規模は2017年4月に実施した攻撃に比べ大きいものとなったが、トランプ大統領の攻撃可能性示唆から実際の攻撃まで時間を要したこともあり、死者は出ていないとされている。しかしながら、アサド政権や、アサド政権を支援するロシアは化学兵器の使用を否定している他、今回の米国等による攻撃が国連安全保障理事会での承認を得ずに実施されたことに対して反発しており、今後シリア、ロシア、そしてアサド政権を支援するイランと、化学兵器使用を主張する米国、英国及びフランス、そして米国の同盟とされるサウジアラビアやイスラエルといった諸国との間での対立が激化する方向に向かうとともに、中東産油国からの石油供給が脅かされるとの観測が市場で強まる結果、原油相場が下支えされ、また、この先の関係者による発言や、関係国による行動等によっては原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。
他方、5月12日とされる米国によるイラン制裁解除延長の判断期限に向け、米国のトランプ政権がイランと西側諸国等との核合意からの離脱を表明するかどうかも、その後の制裁再発動とイランからの原油供給の低下に対する懸念を市場で発生させうる(もしくは制裁を科されたイランが報復措置として、世界の石油需要の約2割(日量1,850万バレル)が通行するとされるホルムズ海峡を封鎖するのではないかといった懸念も市場で増大する)ことから、期限を控えてのこの面での米国やイラン等の関係者の発言や行動によっては(そして、米国では2018年3月13日にトランプ大統領がティラーソン国務長官を解任、後任に米国とイランとの核合意に反対していたポンペオCIA長官を任命する方針である旨明らかにした他、トランプ大統領はマクマスター補佐官も解任し後任にボルトン氏を充当する方針である旨表明するなど、対イラン強硬路線を推進しつつあるように見受けられる)、そのような懸念が市場で増減することを通じ、原油相場にその影響が及ぶものと考えられる。さらに、イエメンに関しても、フーシ派武装勢力によりサウジアラビアに向け弾道ミサイルがここのところ度々発射されている。これまでのところミサイルはサウジアラビアによって迎撃されているが、例えばリヤドのような都市のみならず、サウジアラビア東部にある油田や出荷施設、もしくは製油所等がしばしばミサイルの標的として狙われるようだと、同国からの石油供給への影響に対する不安感が市場で高まることにより、原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性がある。
他方、ベネズエラについても5月20日に実施される予定である大統領選挙に向け、国内や石油産業が混乱する、もしくは米国によるベネズエラ石油産業等に対する新規制裁発動の動きがあるようだと、同国からの石油供給に対し憂慮する向きが市場で強まる結果、原油相場が押し上げられるといった展開も想定される。
経済面では、米国株式相場の動向が原油市場関係者の意識するところとなる状態が続くであろう。中国の習近平主席による関税引き下げや自国経済の対外開放を示唆する演説により、両国の貿易戦争と経済減速及び石油需要鈍化に対する市場の懸念は後退しつつあることから、この面では米国株式相場を引き下げる要因とならなくなってきている。ただ、4月に入り米国主要企業の2018年1~3月期業績等が発表され始めており、これは当面継続する予定であることから、これら業績(もしくは業績見通し)の内容等によって株式相場が変動するとともに、米国等の石油需要に対する市場の見方が変化することを通じ原油相場にその影響が織り込まれる可能性がある。また、5月1~2日には米国連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される予定である。3月20~21日の前回委員会において、金利の引き上げが決定したこともあり、1.50~1.75%の政策金利が据え置きとなる可能性が4月13日時点で99.5%と極めて高く、この面では、米国株式相場や米ドルへの影響は限定的であり、従って原油相場も、FOMCの結果によって大きく変動する可能性はそれほど高くはないものと考えられるが、FOMCに際しての米国の金融当局関係者の発言等によっては、この先の米国の金利引き上げ速度等金融政策に対する市場の見方が左右される結果、株式相場や米ドルの変化とともに原油相場が影響を受けるといった展開も考えられる。また、欧州の経済指標類や当該地域での金融政策に対する関係者の発言、もしくは中国の経済指標類等(原油輸入統計等を含む)によっては、ユーロとともに米ドルが変動することを通じ、もしくは中国等での経済と石油需要に対する観測を市場で発生させることにより、原油価格が上昇もしくは下落する場面が見られることもありうる。さらに、4月17日には国際通貨基金(IMF)から世界経済見通し(WEO:World Economic Outlook)が発表される予定である。当該見通しにおける世界経済成長の見通しの修正具合によっては、石油需要に対する市場の認識を変化させることにより、それが原油相場に織り込まれるといった展開もありうる。
米国では、春場のメンテナンス作業が終了に向かうとともに製油所の稼働が上昇、原油精製処理量を増大させるとともに製油所の原油購入が活発化する。また、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2018年は5月26日の戦没将兵追悼記念日(メモリアルデー)に伴う連休(5月24~26日)から9月3日の労働祭(レイバーデー)に伴う連休(9月1~3日)までである)を市場が意識し始めるとともに、季節的な需給の引き締まり感が強まってくる。このようなことから、この面ではガソリン相場とともに原油相場に上方圧力を加えやすくなると考えられる。そのような中で、6月22日に開催が予定されているOPEC総会(もしくはOPEC産油国及び一部非OPEC産油国による閣僚級会合)に向けた減産方針の調整に対する関係者の発言や、JMMC等での協議内容等によっては、OPEC産油国等の減産継続方針と石油需給引き締まり感が市場で増減することにより、原油相場が変動するといった場面が見られることも考えられるが、2月14日にはサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が石油市場は若干供給不足になっても構わないと受け取れるような発言を行ったと伝えられる他、同国のムハンマド皇太子も2018~19年は原油価格が上昇すると考えており、サウジアラムコの株式公開にとって適切な時期を見極めようとしている旨発言したと4月10日に報じられるなど、最近のサウジアラビアの石油産業関係者は石油需給の一層の引き締まりによる原油価格のさらなる上昇を容認しているように見受けられる部分があるため、この面では少なくとも短期的には、OPEC及び一部非OPEC産油国による減産措置継続に対する期待を市場で高める状態とすることにより、原油価格の下落を抑制する反面上昇させやすい状況が続くものと考えられる。他方、米国でのシェールオイル生産を含めた原油生産量及び生産見通し、米国石油坑井掘削稼働数の推移が原油相場に影響を及ぼすこともありうるが、米国原油生産量の相当程度の増加にはある程度の期間を要することから、少なくとも短期的にはOPEC及び一部非OPEC産油国の減産継続と石油需給引き締まり期待が米国原油生産増加観測を相殺して余りある状態となる可能性があるものと考えられる。
全体としては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近するとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まりつつあることから、原油相場はこの面で下支えされやすい一方で、地政学的リスク要因面での展開によっては、中東地域等からの石油供給途絶懸念が市場で高まることにより、原油相場に上方圧力を加える可能性がある。また、OPEC産油国等の減産継続に対する市場の期待も根強いことから、この面で原油相場の下落が抑制されるものと見られる。他方、米国企業業績、米国石油生産量及び見通し、掘削装置の稼働数に関する統計等が原油相場に攪乱要因的に作用するものと考えられる。
4.長期石油市場等に対する市場関係者の考え方
2017年11月から2018年2月にかけ、主な市場関係者により、2040年等にかけての世界長期エネルギー展望の類が発表された。そこで、ここでは、それらを総合することにより、石油を含むエネルギー市場についての関係者間での長期的展望に対する認識に関する大きな流れにつき触れることとしたい。ここで考慮する長期エネルギー展望資料類はIEA(WEO2017: World Energy Outlook 2017(2017年11月14日発表))、OPEC(WOO2017: World Oil Outlook 2017(2016年11月7日発表))、ExxonMobil(The Outlook for Energy: A View to 2040 (2018年2月2日発表))、BP(BP Energy Outlook(2018年2月20日発表))といった、各機関発表のものとし、原則これら機関による展望類(そして、これら機関が中心的な議論を行っている、いわゆる「標準ケース」)につき考察を加えるとともに、適宜前回発表された同様の展望類と比較する。また、必ずしも世界のエネルギーの包括的な展望となっているわけではないものの、一部地域の一部エネルギー資源を巡る情勢につき展望している機関も存在する。例えばそれはEIA(AEO 2018: Annual Energy Outlook 2018(2018年2月6日発表))やShell(Shell LNG Outlook 2018(2018年2月26日発表))であるが、これら報告における議論内容についても部分的ながら考慮する。なお、機関によっては、必ずしも統計数値が明示されていない場合があるので、その場合は当方で推定することとした。予測期間であるが、特に明記しない限り、2040年までの期間とする。さらに、「前回」の見通しは、IEAがWEO2016(World Energy Outlook 2016)(2016年11月16日発表))、OPECがWOO2016(World Oil Outlook 2016(2016年11月8日発表))、ExxonMobilが2017 Outlook for Energy: A View to 2040 (2016年12月16日発表)、BPがBP Energy Outlook(2017年1月25日発表)、EIAがAEO2017(AEO 2017: Annual Energy Outlook 2017(2017年1月5日発表))を指す。
まず、世界の一次エネルギー需要の2040年までの伸び率であるが、IEAが年率1.0%の増加、OPECが同1.2%の増加、ExxonMobilが0.9%の増加、BPが1.3%の増加となっている(図16参照)。このように世界の一次エネルギー増加率は年率0.9~1.3%の範囲内となっている。そして、石油、天然ガス及び石炭を合計した化石燃料の一次エネルギーに占める割合は2015年もしくは2016年時点で81~85%であるが、2040年は74~75%と低下はするものの引き続き相当程度を占めると見られている。
このうち、石炭需要の伸び率については、IEA(2040年までの伸び率年率0.1%)、OPEC(同0.4%)及びBP(0.0%)が前回見通し(IEA:年率0.2%、OPEC:同0.6%、BP:同0.2%)から相当程度下方修正している他、ExxonMobilは前回見通しとほぼ同様の伸び率であるが、年率0.1%の減少となっており、少なくとも長期的には石炭需要成長は鈍化するとの見方が強まっていることが示されている(図17参照)。また、一次エネルギーに占める割合も2015~2016年が25~28%の割合であるのに対し、2040年は20~23%に低下すると認識されている。背景としては、地球環境問題や大気汚染等の公害問題対策により、石炭から他のエネルギー源(天然ガス及び再生可能エネルギー等)への転換が進むことが挙げられる。そして、重工業中心からサービス業中心の産業構造へと移行しており、相対的に環境問題に敏感なOECD諸国では石炭需要が減少傾向となると考えられているが、中国においても、環境問題や産業構造の変化により、石炭需要が継続的に減少傾向となるか、中期的には増加しても長期的には減少に転じるといった見通しがなされている。但し中国の場合、中国政府による政策の効果浸透発揮や産業構造の転換までには時間を要することから、石炭需要が減少傾向となるとの見通しにおいても、中期的には減少傾向は限られた程度のとどまるものになると見られている。他方、インドを含む南アジアや東南アジア諸国等では、石炭資源が豊富に賦存する国を抱えており、また、現時点では電力が供給されていない住民に対して、今後電力供給が行われていく過程で、当該需要が増加していくことや経済が発展していくことに伴い重工業等が発達することを背景として、石炭需要が比較的堅調に増加すると予想されている。
風力及び太陽光等の再生可能エネルギー(水力及びバイオエネルギーを除く)の伸び率については、それぞれ、IEAが年率7.2%、OPECが同6.9%、ExxonMobilが4.6%となっている(図18参照)。地球環境問題等に対処する各国政府の政策の実施により、一次エネルギー源の中では、最も高い増加率となっている。また、前回見通し(IEA:年率6.9%、OPEC:同6.6%、ExxonMobil:同4.0%)から上方修正されている(なお、BPは今回の展望では再生可能エネルギーにバイオ燃料が含まれているのに対し前回のそれには含まれていないと推察されることから、比較対象から除外した)。再生可能エネルギーのコスト低減が当初予想以上に進展していることが、需要見通しの上方修正に寄与していると考えられる。部門としては発電部門が大半であるが、熱供給等においても再生可能エネルギーが利用される旨指摘する機関もある。ただ、現時点では、導入が極めて低水準であることもあり、伸び率は高いものの、2040年時点においても、一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合は限定的なものにとどまる(IEA:6%、OPEC:5%、ExxonMobil:5%)。また、足元の需要の絶対量が少ないこともあり、中期的には相対的に高い伸び率になるものの、導入が進むにつれて需要の絶対量が拡大することもあり、伸び率は鈍化すると考えられている。
石油需要の伸び率については、IEAが年率0.4%、OPECが同0.6%、ExxonMobilが0.5%、またEIAが0.6%となっており、これは前回見通し(IEA:年率0.4%、OPEC:同0.7%、ExxonMobil:同0.7%、BP:0.7%、EIA:1.0%)と同水準か、もしくは下方修正されている(図19参照)。また、IEA、OPEC、ExxonMobil、BPは現時点から2040年にかけての各機関の予測期間において前半部分はそれなりに需要が堅調に増加する反面、後半部分は伸びが鈍化する(図20参照)。これについては、前半部分は中国、インド、その他アジア諸国の石油需要が旺盛であるものの、後半部分はインドやその他アジア諸国(中国を除く)においては、経済発展に伴う中産階級の増大と自動車保有台数の増加が影響し、石油需要は伸び続けるものの、中国では石油需要の増加ペースが鈍化することが影響していると指摘されている。また、OECD諸国の石油需要も2040年に至るまで総じて減少傾向となると見られている。OECD諸国の石油需要の減少傾向や中国の石油需要の伸びの鈍化は、乗用車部門での燃費効率の改善や電気自動車の導入、また、特に中国では産業構造の変化が、背景にあると考えられている。なお、電気自動車(機関によってはプラグ・イン・ハイブリッド型自動車やハイブリッド型自動車を含む)の導入については、2040年(因みにこの時点で世界の乗用車保有台数は約20億台と2016年(約11億台)かほぼ倍増すると推定されている)において、IEAによれば、世界中でほぼ2.8億台に到達することにより、日量250万バレルの石油需要が置き換えられるとされる他、OPECは3.0億台、ExxonMobilは推定1.6億台、BPは3.2億台、それぞれ電気自動車が普及すると見ており、このため、電気自動車の普及による世界石油需要(2040年に至るまで日量1億バレル程度)への影響は限定的なものになると見られている。また、今後電気自動車の普及が加速するといった展開も否定できないが、例えばExxonMobilは2040年に保有されるほぼ全ての自動車が電気自動車になるには2025年に年間1.1億台程度の電気自動車を販売し始め、2040年にはそれが1.4億台にまで増加するなど、2016年の電気自動車販売台数の100倍超の販売台数が必要となる他、それなりの長期間を要する旨指摘している。
他方、トラックやバスといった、いわゆる商用車部門における石油需要については、燃費効率の改善政策を推進している国が現時点で米国、日本、中国、インド等限られているうえ、出来るだけ安価な燃料で安定した出力を持つ既存のエンジンを利用者が好む傾向があること、特にアジアの非OECD諸国で経済が発展するとともに物流活動が活発化すると見られることから、軽油等の石油需要は2040年に至るまで堅調に増加していくと見られている。OPECは2040年時点の商用車保有台数(約4.6億台だが、これは2016年の約2.2億台のおよそ倍となっている)のうち、電気自動車(ハイブリッド型含む)は3,100万台にとどまると予想している。また、ジェット燃料についても、非OECD諸国での経済発展により、航空機での往来が活発化する一方で、石油以外のエネルギー源への代替もコストや安全性への懸念の問題から、そう急速には転換が進まないと見られていることから、当該需要も伸びると考えられている。さらに、非OECD諸国の経済発展に伴うプラスチック等石油化学製品の需要増加に伴い、エタン、プロパン、ブタン、ナフサ等の石油化学用原料向け石油製品も、他の原料では大幅な置き換えが困難である側面があることから、需要が増加していくと展望されている。
他方、石油供給であるが、石油資源は2040年にかけての需要を賄うには十分な水準存在すると認識されている(ExxnMobilは残存資源量は現在の需要水準の150年分程度を賄うことができる旨明らかにしている)が、十分な量の石油供給を確保するには十分な規模の投資が必要となると指摘されている。また、中期的には米国でのシェールオイル生産を中心として、非OPEC産油国の生産量が伸びていくと予想されている。そして、2040年の世界のシェールオイル生産量(但し大半は米国での生産と見られている)はIEAで日量920万バレル、OPECで同794万バレル、ExxonMobilで推定1,520万バレルとなっているが、これは前回(IEA:日量680万バレル、OPEC:同601万バレル、ExxonMobil:推定1,420万バレル)から相当程度上方修正されており(図21参照)、これは最近の地質構造の理解の進展や水圧破砕の効率化等を通じたコスト削減努力を反映しているとの指摘もある。ただ、それでも、いずれより開発・生産効率が悪くコストが相対的に高いシェール鉱床での開発・生産に移行していく結果、シェール生産は2040年の手前で頭打ちとなり減退を開始すると考える機関もある。例えば、IEAは2035年に日量950万バレルで、OPECは2030年に同922万バレルで、それぞれ生産が頭打ちとなると認識している。ただ、ExxonMobilは2040年に至るまで、シェールオイル生産は増加し続けると予想しているようである。そして、大半の機関は、世界石油供給に占めるOPEC産油国の占有率について、中期的には伸び悩むものの、長期的には上昇していく(図22参照)と見ているが、それはつまり、長期的にはOPEC産油国の市場及び価格支配力の増大とともに原油価格が上昇しやすくなる、ということを示唆している。
天然ガス需要の伸び率については、IEAが年率1.6%、OPECが同1.8%、ExxonMobilが1.3%、またBPが1.6%となっており、他の化石燃料に比べると伸びが際立っているが、前回見通し(IEA:年率1.5%、OPEC:同2.1%、ExxonMobil:同1.5%、BP:1.6%)と比べると、機関によって上方修正、下方修正、そして据え置きと、判断が分かれている(図23参照)。下方修正しているOPECは、最近の経済成長の鈍化、石炭との競合、再生可能エネルギーの普及を見通しに反映させた旨示唆しているが、他の機関も、政府の環境政策により、天然ガス需要が左右されると考えている。つまり、環境政策の推進度合いが弱い場合には、石炭から天然ガスの転換が進まない結果、天然ガス需要が伸び悩む反面、環境背策が極めて強力に推進される場合には、再生可能エネルギーの普及が急速に進むことから、やはり天然ガス需要が抑制されることになる。また、天然ガス需要は非OECD諸国の経済発展に伴い、これらの諸国の産業部門や発電部門、そして民生部門を中心に増加していくものと予想されている。
他方、天然ガス供給面においては、2040年にかけての需要の伸びを賄うには十分な資源が存在すると考えられている。そして、今後の供給の伸びの中心は北米、アフリカ、旧ソ連、中東、アジアになると見られているが、北米、アフリカ、旧ソ連、中東は需要が供給を下回る結果、天然ガスが輸出されるが、アジアについては、需要が供給を上回る結果、天然ガスの輸入が増加すると見られている。そして、天然ガス輸入地域と天然ガス輸出地域が遠隔である場合が多くなることから、今後LNGによる貿易がさらに活発化していくと考えられている(図24参照)。LNGの主な輸入地域としてはアジアの他、域内の天然ガス生産が低下する欧州が想定される一方で、LNGの主な輸出地域としては、米国、カタール、豪州、ロシア、アフリカ等になると見られている。そしてLNG取引が活発化するにつれ、柔軟で流動性のあるLNG市場が発展する結果、世界の天然ガス市場がより統合する方向に向かう旨示唆する向きも見られる。
以上
(この報告は2018年4月16日時点のものです)