ページ番号1007496 更新日 平成30年4月18日

ロシア:ヤマルLNGの出荷開始と北極圏の新規石油・ガス事業

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レポートID 1007496
作成日 2018-04-18 00:00:00 +0900
更新日 2018-04-18 14:21:02 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG
著者 本村 真澄
著者直接入力
年度
Vol
No
ページ数 15
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア
2018/04/18 本村 真澄
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概要

・2017年12月5日、8年の歳月を掛けて進められて来たYamal LNG事業においてLNGの生産が開始となり、8日には初めて第1船の出荷セレモニーが輸出港Sabettaで挙行された。

・この第1船はスポットベースで英国Isle of Grainに輸出され、2018年1月に米国東海岸を寒波が襲いガス価格が高騰すると、このLNGは再度船積みされボストンのEverretに送られた。

・ロシアと対立的な国の市場にロシアのLNGが輸送されたことを「アイロニー」として見る向きもあるが、LNG市場の自由な取引実態を示しており、ロシアもこの機能の獲得を政策としている。

・Arctic LNG-2ではLinde(独)技術で2022-23年頃から1,980万t/年が生産される見込み。

・ロシアは2020年代末にLNGの生産量を1億6,300万tとする計画で、LNGによるガス事業の拡充を目指す。

・ロシアの北極政策では、油価が回復しない状況では本格的開発投資を控え、評価作業等を進める。

・中国の北極政策が1月に発表され、世界の北極政策に「関与」して行く姿勢が強調されている。

 

1.ヤマルLNGの始動

(1)ヤマルLNGの第1船出荷セレモニー

Yamal LNG事業は2017年12月5日、LNGの生産を開始した。そして12月8日、サベッタ(Sabetta)のLNG基地から第1船タンカー”Christophe de Margerie”号(写真1)にLNGを積み込む式典が挙行された。これにはサウジアラビアのKhalid al-Falihエネルギー産業鉱物資源相も主賓で招かれた。臨席したプーチン大統領は「このプロジェクトによりロシアはエネルギー大国の位置づけを固めた。これは北極圏と北極海航路の発展に不可欠の事業である」と祝辞を寄せた。プーチン大統領は、式典の後の会議で、2040年までに世界のガス需要が40%増加し、その内LNGの増加が70%に上るとの推計に触れ、北極圏開発の重要性を強調した[1]

当初、第1船は11月出航で、その引き取り先は中国石油天然気集団公司(CNPC)と報道されていたが、事業開始はひと月遅れとなり、北極海航路を利用して東に向かうのは不可能となっていた。

[1] 日経, 2017/12/11, 14

photo1

写真1 第1船の砕氷タンカー Cristophe de Margerie
(出典:Novatek)(Bulbous bow球状船首がない)

figure1

図1 Yamal LNG第1カーゴの軌跡(JOGMEC作成)

(2)第1カーゴ(Christophe de Margerie積荷)の動静(図1)

Yamal LNGの第1カーゴは実際には12月9日に、ベルギーのZeebruggeへ向けて出港したが、このLNGはスポットものであり[1]、LNGの所有者であるNovatek傘下のNovatek Gas & PowerがLNGをマレーシアのPetronasに売却した。11日、北海のForties油田のパイプライン故障で英国のガス生産量が2,000万m3/日減少した。翌12日には、オーストリアのBaumgartenハブで爆発事故があり、英国NBPでガス価格が$400/1,000m3($11.3/MMBtu)を超える事態となった。その後$300/1,000m3($8.5/MMBtu)まで鎮静化したが、14日にはPetronasが当該LNGを英国に差し向けることとし[2]、同社のターミナルのある英国Isle of Grainに12月28日到着した。

 しかし、売却はこれだけでは終わらなかった。LNGは荷下ろしされて間もなく、フランスのEngieに転売され、Isle of Grainから同社の所有するLNGタンカーGaselysに荷積みされ、米国東海岸のボストン近郊Everett再ガス化ターミナルに向い、途中Uターンしてスペインのジブラルタルに近いAlgecirasへ向かう場面もあったが、再度Uターンして1月25日にEverettに入港した。Engieが最終的な買主となった理由は、同社がEverettターミナルで年間690万㎥分の再ガス化を予約していたためである。

このような状況が生じたのは、折しも米国東海岸に襲来した大寒波と大雪による。この状況の中で、12月28日から1月5日までにガス価格は2.1倍に高騰して$6.4/MMBtuと、米国としては異常な高値になった。1月8日時点でニューヨーク州のガス価格は$12.65/MMBtuに、ニューイングランド州では$20.25/MMBtuとなり、LNGにとっては更に非常に魅力的な価格となった。1月1日から5日までに、地下貯蔵施設からは2017年同期の2倍になる95億㎥という史上最多のガスが引き上げられ、在庫総量は2009年以来最低の水準まで減少した。途中、スペインに向かったのは、東海岸でのガス価格高騰が一段落したことを受けてのものと思われる。冬季は契約されていないLNGを見つけることは難しいため、地理的に奇妙な取引が頻繁に行われることがあるという。

更に1月に入り、Novatekは入札を通じて、Yamal LNGから初となるガスコンデンセート・カーゴを出荷した。カーゴの重量は1万8,000トン、落札者はスイスのVitolである。Yamal LNGは、ピーク時には年間100万トン超のコンデンセートを生産する計画である[3]

[1] 4月1日以降は長期契約が始動。それまでの17ロットがスポットベースで取引(Vedomosti, 2017/12/27)
[2] Vedomosti, 2017/12/15
[3] Reuters, 2018/1/29

(3)英米のロシア産LNGの緊急輸入は「アイロニー」か?

ウクライナ問題に端を発する米国とEUの対露経済制裁の一環として、2014年3月にNovatek社も対象となっている。そのNovatekのLNGが、ガス不足を理由にたまたま高値の状況にあった英国へ、次いで米国へと転売された。欧州で、そして米国において、ガス供給体制が意外にも脆弱であることが露呈した。ここへ緊急輸送されたのが、制裁対象のNovatek社のLNGであったということで、 “cargo of irony”といった事態を揶揄する報道がなされた[1]
しかし、オックスフォード・エネルギー研究所のロシア・エネルギー専門家James Henderson研究員は、ロシアのヤマル産ガスの米国向け輸出が今後のトレンドになることはなく、今回のケースはガス市場のグローバル化の一例にすぎないと指摘した上で、「これはアイロニーと見るべきでなく、通常の取引であり、LNGは需要のある所どこへでも運ばれるということだ。LNGの意義もそこにある」とコメントしている[2]。ロシアのNovakエネルギー相は、「分子レベルでは、ロシアのメタンガスが米国に行ったとは言えるが、一旦売られたLNGは荷主のものである」とコメントした。
本件がアイロニーでないとする見解には説得力がある。そもそも、ロシアがLNG事業の拡大を志向している理由もそこにある。これまでロシアが展開して来たパイプライン供給で見られる固定的な供給体制は、ウクライナ問題に見るように通過国の意向が介入したり、トルコ向けBlue Streamで嘗て発生したような「ホールドアップ問題」(Take or Pay条項発動直前に、消費国側が供給国側に一方的な価格引き下げ要求を突き付けるといった非対称な事態)に晒されたりした。自由な供給体制を何よりも求めたのがロシアであった。今回の事態は、新規の発展事業としてのLNGが功を奏した事例と言って良い。
しかしながら、アイロニー的な一面は依然否定しきれないとも言える。米やEUの対露制裁の理由は、表向きは2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を占領して、「力によって現状変更を行った」点にある。しかしそのための手段としての制裁において、ウクライナとはおよそ関係のない北極海、大水深、シェール技術の移転の禁止を行っているということは、その最終的な目的が、ロシア・エネルギー産業の発展を阻止することにあると言える。Novatekも制裁対象企業となった。今回のような事態は、このような圧力が不明確な状況になったことを意味する。更に、ロシアが本格的にLNG戦略を採用するところとなり、米欧が牽制して来たロシアによる「パイプライン・ガス輸送の地政学」が、ロシア自身の力により換骨奪胎され、より高い自由度を得た形となった。
 同時に、米国の国内問題としても「アイロニー」も見て取れる。

1. “Jones Act”の存在
Jones Actは1920年代に成立した法律で、米国内の地点間の物品の輸送を行う船舶は、1)米国船籍で、2)米国人配乗、3)米国人所有、4)米国内建造でなければならない、というものである。東海岸でガス不足が起こっても、たとえば2016年2月からはルイジアナ州Sabine Passから、LNGの輸出が開始されて米国はLNG輸出国になっており、このLNGをボストンに回せばいいではないか、という議論が起こりそうである。しかし、Jones Actに規定により、ボストンへLNGを緊急輸送できる米国内建造のLNG船はなかった模様で、このような柔軟な対応は法的に不可となる。

2. 環境団体の活動の結果としてのエネルギーインフラ不整備の問題
ボストンの西方に延びる、アパラチア山脈の西麓にはMarcellas shale gasが豊富にある。これをボストン向けパイプラインを建設して供給する計画が一旦は持ち上がったものの、環境団体がガスの利用拡大が地球温暖化に繋がるとして反対運動を展開し、断念された。この結果、ボストンはLNG依存率が高くなり、ガス供給体制は脆弱化した。東海岸はガス価格のvolatilityが高い状態になっている。

[1] IOD, 2018/1/30
[2] Neftegaz, 2018/1/10

(4)Novatek社のYamal LNGの特徴

Yamal LNGの供給元となっているYuzhno Tambeiガス田は推定埋蔵量が44兆cfと十分な規模がある。このガス価格の安さが事業の経済性を引き揚げている。また、寒冷地でのLNG生産は、

冷却装置のスペックを抑えられるというメリットがあり、カタールのような熱帯地域のLNGに比較してより簡略で、コストも安い。

 しかし、本プロジェクトの最大の特徴は、言うまでもなく北極海航路により、夏季アジア市場にもアクセスできる点である(図2)。欧州でのLNG生産であれば、通常は夏季は電力需要が少なくLNG生産減となるが(図3)、アジア市場を確保することにより通年フル生産が可能となった。これが経済性を押し上げている。更に、パイプラインによるガス輸出ではガス価格の30%の輸出税がかかるが、LNG輸出ではこれが免除されている。サベッタ港は国の施設であり、プロジェクトのコストに含まれない。Yamal LNGにはこのような優遇策が用意されている。

また、Gazpromの固定的パイプラインによる販売戦略では、パイプライン通過国による抜取り等の影響を受け易いのに比較して、NovatekのLNG戦略では市場アクセスの自由度が高く、発展的な図を描き易いと言える。

2009年にこの計画が発表された時は、まずロシアの独立系第1位の会社とはいえNovatekという名に馴染みがなく、多くの人が計画に懐疑的であった。それが、ほぼ予定通りに進捗し、$270億という総額もコストオーバーランすることなく、完遂できそうである。同社の工程管理に関しては高い評価が寄せられた。これも、この事業の強みと言えるであろう。

figure2

図2 ヤマルLNGの夏季ルート(北極海航路)と冬季ルート(出典:Novatek)

従来、Yamal LNGの生産量は3トレーンで1,650万t/年と言われてきたが、最近、独自技術による第4トレーンを設置する動きがある。この生産能力は90万~95万t/年と言われる。Novatekは、2017年3月16日に新たに「北極の滝(Arctic Cascade)」というLNG技術の特許登録申請を行っていたが、この程、2018年2月16日にロシア特許庁(Rospatent)が承認した[1]

Yamal LNGで使用されている米国APCI(Air Products & Chenicals Inc.)のC3MRという冷却装置の技術は、外界温度が-34℃~+45℃の範囲での操業を想定しているが、Novatekの操業する北極圏では外気温度の上限が+10℃と見込まれる。但し、外気温度が+5℃以上になるとNovatekの技術の適用効率が低下するという弱点がある。電力消費量はAPCIの20%減となる。

[1] Vedomosti, 2018/3/20

figure3

図3 欧州の通常のLNGの年間生産量カーブ(夏は通常、需要が落ち込む)(JOGMEC作成)

(5)Arctic LNG-2の概要

Novatekは、北極圏でのLNGの第2弾として、Arctic LNG-2の検討を進めている。これは、ヤマル半島の東隣のギダン半島Salmanov(Utrennye)ガス田等を供給源とするもので(図4)、生産量としては660万トン×3トレーンの1,980万トン/年を計画している[1]。稼働開始時期は、LNGの供給過剰状態の収束する2022~2023年を目指している。関心を有する企業として、中国のCNPC、仏のTotal、サウジアラビアの Saudi Aramco等が名乗りを挙げている。

FEEDはNovaengineering LNG Consortium(Technip(34.9%), Linde(15%), Nipigas(50.1%))が実施中である。2018年中にも最終投資決定がなされる予定となっている。Arctic LNG-2では、Linde社のMixed Fluid Cascade(MFC)方式が採用される。Yamal LNGでは米国APCIの技術を使用していたが、契約は制裁が課される遥か以前であり、対象とはならなかった。しかし、Arctic LNG-2はこれからの案件であるため、米国の制裁に抵触する可能性が高い。米国による2014年7月の制裁リストには、LNG関連資機材が見られる。これに対して、同じく2014年7月EUの課した制裁では、本文中に天然ガス技術は対象としない旨明記してある。このため、ドイツ企業であるLinde社の技術を採用することになったものと思われる。

[1] IOD, 2018/2/01

figure4

図4 Yamal半島の主要ガス田とLNG計画(JOGMEC作成)

プラントのスタディを実施しているSaipem(伊)とNipigaz(露)によれば、プラントはオビ湾の海底にGBS(Gravity based Structure)により着底させる方式で設置される。これは、地表に置いた場合の永久凍土から来る不等沈下等のトラブルを避けるためのもので、これにより建設コストの削減が可能になる[1]

なお、Arctic LNG-2では3番目のトレーンに、Novatekの独自技術であるArctic Cascade液化方式が用いられる予定である。

[1] IOD, 2017/8/22

 

2.ロシアの北極に関する政策

(1)ロシア政府及び各企業の対応

Novakエネルギー相は、北極海での海洋油田開発は油価$70-$100/bblが採算レベルと述べており[1]、更に米・EUからの制裁で大水深、北極海(およびシェール)技術の提供が禁止されている現状では、油価と技術の双方の制約から、いくつかの例外的な案件を除いてロシアは北極海での開発を進められないでいる。ロシア北極圏におけるいくつかの動きを以下に記す。

 Rosneftは、2014年9月にExxonMobilとともにPobeda油田を発見したカラ海のEast Prinovozemelsky(EPNZ)-1鉱区及び2鉱区において、ExxonMobilが撤退した後、独自の評価作業を実施して掘削対象構造を選定した。掘削が計画されているのは、East Prinovozemelsky-1鉱区のヴィクロフスキー(Vikulovsky)構造、およびEast Prinovozemelsky-2鉱区のラゴジンスキー(Ragozinsky)構造である[2]。掘削が行われるのは2019年以降と思われる。Pobeda油田の開発のような大規模投資は、現状では困難であるが、このような地道な評価作業は、今後も着実に進められて行くものと思われる。

 一方、EPNZの3鉱区の南では、ソ連時代の末期にGazpormがRusanovとLenigradという2つの巨大ガス田を発見している。当時ソ連は、海洋開発技術も氷海技術も極めて不十分であったが、掘削技術は保有していた。恐らくは、当面ガス田開発のことは考えず、国土の資源基盤を調査する目的で試掘したものと思われる。

今般、Gazpromは2018年に、カラ海のルサノフスキー(Rusanovsky)第6探査井を掘削する計画である。坑井の深度は2,400m、掘削地点の水深は68mである。このために、Gazprom傘下のガスプロム地質調査(Gazprom Geologorazvedka)社は、半潜水型掘削装置「南海(Nanhai)8」の2018年の賃借契約を、「中海油田服務(China Oilfield Services Limited, COSL)」と結んだ。契約金額は5,682万4,000ドルである[3]。掘削は、2018年の夏のシーズンに行われる。これは、ガス田の評価を行うというよりも、恐らくはPobeda油田のように、ガス層下位にある油層を狙うプレイであろう。GazpromもRosneft-ExxonMobilの成果に触発されて、北極海開発に名乗りを挙げようとしている

Gazprom Neftはヤマル半島南東部のNovy Port油田の開発を今後も推進し、2021年にプラトーの17万バレル/日に達する見通しである(図4)。これは、低コストの陸域油田開発であることに加え、北極圏航路で砕氷船を先導させ、石油をMurmansk等へ出荷するもので、長距離パイプラインの建設を必要としない。これは、現状の油価でも対応可能である。

[1] Prime, 2017/3/22
[2] Interfax, 2018/2/01
[3] Interfax, 2018/2/13

figure5

図5 カラ海の発見油・ガス田(JOGMEC作成)

(2)北極海の航行に関するロシアの法律

2017年12月30日、プーチン大統領は「ロシア国旗を掲げた船舶に対し、北極海の水域で石油製品とガスを輸送できる排他的な権限を与える法律」に署名した。この法律はまた、商船の航海に関するロシアの法典に変更を加え、水先案内人の先導、衛生や検疫を含む他の管理に関しても船舶が持つ義務を規定している。同法はロシアの内海と領海における環境保護や、ロシア領内で生産された石油、天然ガス、ガスコンデンセート、石炭の海上輸送についても定めている[1]

Yamal LNGで使用される砕氷タンカーに対しては契約済みであり、通常「祖父条項」が適用されるものと思われるが、新規事業であるArctic LNG-2は影響を受ける可能性がある。

これは前述の米国のJones Actより軽度であるが、将来的にはロシアで建造された船舶に限定する案も浮上している。但し、ロシア自体の造船能力に限界があるため、当面はそこまで強化される恐れはないと見られている。

なお、ロシア側の対応は国連海洋法条約第234条「氷に覆われた水域」に法的な根拠がある[2]。 

[1] Kommersant, 2017/12/30
[2]国連海洋法条約第234条氷に覆われた水域
「沿岸国は、自国の排他的経済水域の範囲内における氷に覆われた水域(略)において、船舶からの海洋汚染の防止、軽減及び規制のための無差別の法令を制定し及び執行する権利を有する。この法令は、航行並びに入手可能な最良の科学的証拠に基づく海洋環境の保護及び保全に妥当な考慮を払ったものとする。」

(3)ロシアのLNG政策

Novakエネルギー相は、2035年までにLNGの生産量8,300万トン(世界の15%)を目指すと発言している。Novak発言は、2035年とあまりに迂遠な目標で、しかも随分と控え目な印象である。

一方、NovatekのKhramov副CEOは、Yamal とGydan両半島で1.2億トン/年のLNG生産が可能と述べた[1]

その後、ロシア政府は2020年代にLNGの生産量を1億6,300万トンとする計画、との報道があった[2]。一気に2倍になった。この辺りが最新の目標と思われる。これを、天然ガス量に換算すると2,282億m3(14億m3gas=100万tLNG)となる。ロシアの2017年のガス生産量は6,905億m3であり、この約1/3に当たる量をLNGに振り向けることになる。

現状、稼働中と計画に上っているLNG事業を図6に示した。これを合計すると8,020万tとなる。2020年代末までに、1億6,300万tとするためには、LNG事業案が更に出揃う必要がある。

ヤマル半島の北部、サハリン-3のキリン鉱区、バレンツ海のShtokmanガス田等に関して、精力的な取り組みがなされるものと思われる。

[1] IOD, 2018/1/25
[2] IOD, 2018/2/0

figure6

図6 ロシアの主なLNG計画(JOGMEC作成)

図7は、2009年11月に策定された『2030年に向けてのロシアのエネルギー戦略』の内のガスの地域別生産量見通しである。戦略策定時は、ヤマル半島のBovanenkovガス田が3,000億m3まで生産量を拡大することが前提であった。現状、ヤマルLNG(1,740万tLNG=231億m3gas)などが加わり拡大する方向である。Arctic LNG-2が加われば、Yamal LNGと併せて約500億m3のガス生産となり、Yamal半島の比重が大きくなりすぎる懸念がある。他地域からのLNG計画をいかに取り込むかが焦点となる。

figure7

図7『2030年に向けてのロシアのエネルギー戦略』の内、天然ガス生産計画(JOGMEC作成)

 

3.中国の北極政策

(1)Yamal LNGにおける中国の影響

中国はYamal LNG事業の権益として、CNPCが20%、Silk Road Fundが9.9%、合計で

29.9%を保有している。国としてはロシアに次ぐ。残りはフランスTotalの20%である。また、LNGの長期供給契約では、CNPC向け300万tの他に、他のトレーダーの契約の中に中国向けの振り替えがある可能性がある(表1)。但し、Gazporm Marketing & TradingはYamal LNGと290万tの長期契約を行った直後、250万tのLNGをインドのGailに供給する契約を結んでおり、Yamal LNGがインドに向かうものと思われる。

CNPCは次いで、Arctic LNG-2に対しても強い関心を表明している。

figure8

表1 ヤマルLNGの長期契約先

(2)北極政策の経緯

中国の北極政策の経緯を下にまとめた。2000年代に入る頃から、砕氷船を保有し、スヴァールバル諸島(ノルウェー領)に基地を建設するなど、科学調査を基本に積極的に活動を展開している。

1925年のスバールヴァル条約を締結した時点では中華民国であったが、これを中国が強調する理由は、同条約がすべての条約加盟国に対してスバールヴァル諸島での自由な経済活動を謳ったもので(資源の現状はロシアとノルウェーのみが石炭開発を遂行)、北極沿岸国であるノルウェーの主権がある程度制限されている点に着目したものと思われる。

現在、北極海の開発は、国連海洋法条約を前提に、大陸棚における沿岸国の資源主権を前提に進められている。中国は、スヴァールバル条約を持ち出すことで、行く行くは国連海洋法以外の前提を模索することも考えられる。

中国の北極との関り
1925年:スバールヴァル条約に加盟
1999年:砕氷船「雪龍」をウクライナから購入
2004年:スバールヴァル諸島に「中国北極黄河ステーション」を建設、ここを拠点に科学調査
2005年:氷の減少で「北極海航路」が開通
2009年:日韓と共に北極評議会オブザーバー
2013年6月:CNPCがヤマルLNGに20%参加
2015年:シルクロード基金が同じく9.9%参加
2016年:中露が北極問題研究センター設立
2018年1月26日:中国の「北極政策白書」を発表

(3)中国の「北極政策白書」

2018年1月26日に、中国は包括的な「北極政策白書」を発表した[1]。その主要な要点は以下の通り極めて総花的で、特に「氷上のシルクロード」建設といった言い回しは報道機関からは大きく取り上げられたが、実際に中国がどの程度の投資を行う計画があるのかは不明である。石油・ガス開発なども取り上げられているが、Yamal LNGにCNPCが参加したのは白書発表の5年前、同じくシルクロード基金が参加したのは3年前である。即ち、中国においては、政策が打ち出されてから民間が出て行くのではなく、先に企業が先行的に経済性を検討して投資を決め、それの成果を見極めたところで、国がこれを政策として纏め上げるという傾向がある。

「北極政策白書」の主な内容
・中国の資金、技術、市場が北極航路の開拓や沿岸国の発展に重要な役割
・中国は関係国と「氷上のシルクロード」を建設し、北極地域の持続可能な発展を促進
・北極の環境、気象、生態などの科学調査を強化。北極の環境を保護し気候変動に対応
・北極航路の開発利用、石油や天然ガスの開発、漁業資源の保護利用に関与
・自然を生かした観光開発を促進
・国連憲章や国連海洋法条約を堅持しながら、北極統治メカニズムの整備を提唱

 むしろ、全体の印象は北極利用に積極的に「関与」するというところに力点が感じられる。「国連海洋法条約を堅持しながら北極統治メカニズムを整備」との下りは、前述のスバールヴァル条約加盟を強調するのと共通の考えであろう。

 中国も北極における秩序形成に参画して行こうとしている様である。

[1] 各紙, 2018/1/27

以上

(この報告は2018年4月13日時点のものです)

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