ページ番号1007506 更新日 平成30年6月14日
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概要
1.米国では、製油所での春場のメンテナンス作業は概ね終了しつつあるものの、一部装置の不具合が発生したこと等もあり、原油精製処理量が伸び悩み気味となったことから、ガソリン在庫は若干ながら減少傾向になったが、平年幅上限を超過する状態が続いている。他方留出油については、出荷が旺盛であった一方で、製油所での生産がもたついたこともあり、在庫は減少傾向となった結果、平年幅下方に位置する量となっている。また、製油所での原油精製処理量が伸び悩んだこともあり、同国の原油在庫は増加、平年幅上限を上回る状態が維持されている。
2.2018年4月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、欧州で春場の製油所のメンテナンス作業が峠を越え始めたことで稼働が上昇するとともに原油精製処理が進んだこともあり在庫が減少した他、日本でも若干減少したものと推定される。しかしながら、米国で在庫が増加したことで、欧州や日本での減少を相殺して余るある状態となった結果、OECD諸国全体としての原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本では、暖房用需要が低下した灯油の在庫が増加したことに加え軽油在庫が増加したことから、石油製品全体の在庫も増加した。しかしながら、米国では留出油在庫が減少したことが影響し、また、欧州においては製油所の稼働は上昇したものの石油製品生産活動は必ずしも活発化しているとは言い切れない状態であったこと等から、両地域では石油製品在庫は減少した。結果として欧米諸国での在庫減少が日本での増加を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は減少となり、量としては平年幅上方付近に位置している。
3.2018年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場においては、ベネズエラの石油供給低下懸念、米国のイラン核合意離脱及び対イラン制裁再発動の発表による、イランからの原油供給減少に伴う市場での石油需給引き締まり観測の増大等により、原油価格は上昇傾向となり、5月10日にはWTIの終値で1バレル当たり71.36ドルと2014年11月下旬以来の高値に到達した。
4.この先米国等で夏場のガソリン需要期に突入することにより季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まることから、この面では原油相場に上方圧力が加わりやすいものと考えられる。また、イランやベネズエラ等を巡る石油供給の減少に対し他のOPEC産油国の増産等の対応が迅速に行われないのではないかとの懸念が市場で発生しやすく、加えて、米国のイラン核合意離脱後中東情勢がさらに複雑化したり、また、ベネズエラの情勢が一層不安定になったりした場合には、それぞれの地域からの石油供給途絶懸念が市場でさらに高まることにより、原油相場が押し上げられるといった場面が見られる可能性もある。他方、米国での原油生産量は増加しつつあるものの、生産見通しが上振れしているのは2019年が中心であり、2018年の上方修正の程度は限定的であることもあり、少なくとも短期的には、イランやベネズエラ等の地政学的リスク要因に伴う原油相場への上方圧力に対抗するには力不足となる可能性があるとの市場心理は根強いことから、この面でも原油相場は支持されやすいものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2018年2月の米国ガソリン需要(確定値)は日量882万バレルと前年同月比で1.9%程度の減少となった(図1参照)他、速報値(前年同月比で0.6%程度増加の日量904万バレル)から下方修正されている。同月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量72万バレルと推定されるところ、確定値では同89万バレルへと上方修正されたことで、この部分が速報値から確定値に移行する段階で国内需要から輸出に繰り入れられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。加えて、同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.705ドルと前年同月比で0.289ドル(約12.0%)、前月比で同0.034ドル(約1.3%)、それぞれ上昇していることが、当該需要抑制の一因となっていると考えられる。また、前月(2018年1月)のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.671ドルと前年同月比で0.213ドル(約8.7%)、前月比で同0.077ドル(約3.0%)、それぞれ上昇していたにもかかわらず、ガソリン需要が前年同月比で2.8%程度伸びていた反動が2月の当該需要に影響を及ぼしている可能性も考えられる。2018年4月の同国ガソリン需要(速報値)は日量939万バレル、前年同月比で1.5%程度の増加となった。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.873ドルと前年同月比で0.345ドル(約13.6%)割高になったうえ、前月比でも0.164ドル(約6.1%)上昇しているにもかかわらず需要は堅調に伸びているように見受けられることから、例えば速報値段階では国内需要であると見られていたガソリンの一部が後に輸出向けのものであった旨判明するとともに、速報値から確定値に移行する段階で需要が下方修正されるといったことや、4月の需要が伸びた反動で5月の需要が抑制されるといった展開となることもありうる。他方、米国では、製油所での春場のメンテナンス作業は峠を越えつつあるものの、一部の製油所では装置に不具合が発生したこともあり、原油精製処理量は減少傾向となった(図2参照)ことがガソリンの生産活動に影響を与えたものと見られる(最終製品の生産量は図3参照)うえ、速報値ベースながら需要も堅調であったこともあり、4月上旬から5月上旬にかけ、米国のガソリン在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する水準は維持されている(図4参照)。
2018年2月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量396万バレルと前年同月比で1.5%程度の増加となったが、速報値である日量403万バレル(同3.3%程度の増加)から下方修正されている(図5参照)。同月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量95万バレルと推定されるところ、確定値では同105万バレルへと上方修正されたことで、この部分が速報値から確定値に移行する段階で国内需要から輸出に繰り入れられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。他方、同月の米国の鉱工業生産が前年同月比で4.3%程度伸びるなど経済が堅調であったことから同国の物流活動が同5.3%程度拡大したことが当該製品需要の増加に寄与しているものと考えられる。2018年4月の留出油需要(速報値)は日量421万バレルと、前年同月比で11.0%程度の大幅増加となっている。3月の当該需要が速報値ながら前年同月比で3.4%程度の減少となったため、その反動が4月の需要に現れている可能性がある。また、4月は同国北東部で平年を下回る気温となる場面がしばしば見られた他、前年同月と比べても寒冷であったことから、暖房向け需要が増加したと見られることが、留出油需要に反映されているものと考えられる。ただ、4月の大幅増加の反動が5月の当該需要で発生する可能性も否定できない。他方、春場の製油所でのメンテナンス作業は峠を越えつつあるものの、一部製油所の装置で不具合が発生したこともあり、留出油生産は伸び悩んでいる(図6参照)ことから、旺盛に伸びたと見受けられる需要と併せ、留出油在庫は減少傾向となり、2018年5月上旬時点では平年幅下方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2018年2月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で2.4%程度増加の日量1,962万バレルとなった(図8参照)。その他石油製品の需要が増加した(2017年2月27日にOccidental ChemicalとMexichemがテキサス州イングルサイド(Ingleside)に年産54.4万トンのエチレン製造装置を操業開始したことに加え、9月21日にはDow DuPontが米国テキサス州フリーポートで年産150万トンのエチレン製造施設の操業を開始したこともあり、原料となるエタンの需要が増加しているものと見られる)ことが寄与しているものと考えられる。ただ、ガソリン、留出油、及びその他の石油製品等の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたことにより、当該需要は速報値(日量2,028万バレル、前年同月比5.9%程度の増加)から下方修正されている。2018年4月の米国石油需要(速報値)は、日量2,018万バレルと前年同月比で3.2%程度の増加となったが、留出油が需要の伸びを牽引する格好となっている。また、米国国内では一部製油所の装置において不具合が発生したことから、原油精製処理量が伸び悩み気味となったことが、米国での原油在庫と増加させる方向で作用した一方で、米国内でのパイプライン等の原油輸送能力不足から、テキサス州等の内陸部(Permian Basin等)で生産が増加しつつあるシェールオイル等の原油の一部がメキシコ湾岸に輸送されず、WTI原油先物契約の受け渡し地点であるオクラホマ州クッシングに流入した結果、当該地点での原油需給が相対的に緩和したことや、米国のイラン核合意からの離脱の動きの影響で、中東に相対的に市場が近い欧州のブレント原油等の価格に上方圧力が加わったことにより、相対的にWTI原油価格が割安となった影響で、米国外への原油輸出が高水準を維持したことが、米国での原油在庫増加を抑制した。結果として、4月上旬から5月上旬にかけ原油在庫水準は上下に変動したものの、全体として当該在庫は増加傾向となり、また、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図9参照)。そして、留出油在庫が平年幅の下方付近に位置する量となっているものの、原油及びガソリンの在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、または原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2018年4月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、欧州で春場の製油所メンテナンス作業が峠を越え始めたことで稼働が上昇するとともに原油精製処理が進んだこともあり当該在庫が減少、日本では春場の製油所のメンテナンス作業実施に向け稼働が低下しつつあることもあり、原油在庫水準は上下に変動しつつも増加傾向にあるが、4月末時点では前月末比で若干減少したものと推察される。しかしながら、米国で当該在庫が増加したことにより、欧州や日本での原油在庫減少を相殺して余るある状態となった結果、OECD諸国全体としての原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、日本では、暖房用需要が低下した灯油の在庫が増加したことに加え軽油需要が増加したと見られることで当該製品在庫が増加した(4月は例年前月比で軽油需要が低下することが多いが、これは年度初めとなる関係で重機類向けの軽油需要が落ち込むことが影響しているとの指摘もある)ことから、石油製品全体の在庫も増加した。しかしながら、米国では留出油在庫が減少したことが影響し石油製品全体としても在庫は減少となった。また、欧州においては、製油所のメンテナンス作業が峠を越えつつあることから3月よりは石油製品生産活動は改善しているものの、石油製品活動が活発化しているとは言い切れない状態であったうえ、米国での留出油在庫減少から当該製品価格が割高となったことが欧州への当該製品流入に影響したと見られることから、石油製品全体としても在庫は減少した。結果として欧米諸国での在庫減少が日本での増加を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は減少となり、量としては平年幅上方付近に位置している(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過している(図14参照)。なお、2018年4月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は60.6日と3月末の推定在庫日数(60.7日)から減少している。
4月11日に1,300万バレル台後半の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、4月18日は1,300万バレル台半ば程度の量、4月25日には1,300万バレル台前半の量、5月2日は1,200万バレル台半ば付近に位置する量へと減少した。5月9日は1,300万バレル台前半の量へと回復しているものの、依然4月11日の水準は下回っている。アジア地域の製油所が春場のメンテナンス作業時期に差し掛かり始めたこともあり、製油所メンテナンス作業期間中のアジア諸国国内市場への製品供給低下に備え国外からの輸入が実施される一方で国外への輸出が手控えられ始めたことが、シンガポールでの軽質留分在庫を減少させる一因となっていると考えられる。ただ、4月下旬においては、原油価格が上昇傾向となったことに、当該地域のガソリン価格の上昇が追い付かなかった結果、ガソリンとドバイ原油との価格差 (この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は、限定的な規模ながらも縮小する方向に向かった。それでも、4月末以降は、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が市場関係者の視野に入りつつある中で、シンガポールでの軽質留分在庫に加え米国でもガソリン在庫が減少する場面が見られたことが、ガソリン価格に上方圧力を加えたことから、ガソリンと原油との価格差は拡大している。
他方、アジア諸国の石油化学会社におけるナフサ分解装置のメンテナンス作業実施により、ナフサ需要が低下するとの観測が市場で発生したうえ、ナフサが余剰気味となっている欧州(2017年8月下旬に米国メキシコ湾岸地域にハリケーン「ハービー」が来襲したことに伴う当該地域での製油所の稼働停止とその後の秋場の製油所メンテナンス、さらには北半球での厳冬に伴う旺盛な留出油需要の発生により、欧米諸国の留出油在庫が低下したことに伴い、欧州製油所の稼働が高水準を維持した結果、中間留分とともにナフサの生産も活発化したことで、ナフサの在庫が増加したと見られる)や5月以降製油所のメンテナンス作業が終了し稼働が上昇するとともに製品の生産が活発化する予定である中東からアジア地域へのナフサの流入が増加するとの観測が、ナフサ価格に下方圧力を加えた結果、ナフサとドバイ原油との間での価格差(この場合ナフサ価格が原油のそれを下回っている)は4月中旬から下旬半ば頃までは拡大する傾向が見られた。もっとも、石油化学産業における原料としてのLPG利用が分解装置能力の限界に接近しつつあり、これ以上のLPG利用が困難となりつつある一方、4月下旬後半以降は、アジア地域でのナフサ分解装置がメンテナンス作業終了後稼働を上昇、ナフサの処理活動が活発化するとともに需要が増加するとの観測が市場で発生したことに加え、米国で夏場のドライブシーズンが接近しつつあることで、米国へガソリンを輸出する欧州諸国でガソリンを製造する際のナフサ混入量が増加する結果、欧州方面からアジア諸国に向かうナフサの出荷量が減少するとの見方が市場で発生したことから、ナフサ価格に上方圧力が加わるとともに、5月上旬以降は当該製品価格がドバイ原油価格を上回る場面も見られる。
4月11日には1,100万バレル台前半の量であったシンガポールの中間留分在庫は、4月18日には900万バレル台半ば程度の水準、4月25日には800万バレル台前半の量、5月2日には800万バレル強程度の量、そして5月9日には700万バレル台前半の水準へと減少を辿った。アジア諸国での春場の製油所メンテナンス作業シーズン突入とともに、製油所メンテナンス作業期間中の国内市場への製品供給低下に備え当該諸国の国外向け製品輸出が手控えられるとともに国外市場からの製品調達が行われていると見られることが、シンガポールでの中間留分在庫減少の背景にあるものと考えられる。そして、このような在庫減少に伴う需給の引き締まり感に加え、ジェット燃料については、アジア地域での経済が比較的安定する中で夏場の行楽シーズンに伴う航空機向け需要の増加観測も市場で発生していることにより、アジア市場での軽油やジェット燃料価格には上方圧力を加わっていることもあり、軽油やジェット燃料価格と、ドバイ原油価格との差(この場合軽油やジェット燃料価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向を示している。
4月11日には1,900万バレル台後半の量であったシンガポールの重油在庫は、4月18日には1,800万バレル台弱、4月25日及び5月2日には1,700万バレル台前半の量へと減少した。5月9日には1,900万バレル強程度の水準に回復しているが、それでも4月11日時点の量は下回っている。韓国で1月12日以降新古里(Shin Kori)原子力発電所3号機(発電能力140万kW)がメンテナンス作業に突入していた(5月10日現在稼働停止中であると伝えられる)他、同国の大気汚染低減のために3月1日から6月にかけ稼働30年超の石炭火力発電所5基(発電能力合計232万kW)が操業を停止した(2月28日に同国産業通商資源部(省)が発表した)ことから、同国での石油火力発電所の稼働上昇と燃料としての重油の需要が増加しているうえ、アジア諸国の製油所が春場のメンテナンス作業シーズンに突入しつつあることから、重油の生産が低下、国外への重油供給が低下するとともに国外からの重油調達が活発化していると見られることが、シンガポールでの重油在庫の減少傾向をもたらしている一因であると考えられる。ただ、4月中旬から下旬にかけては、一部のアジア諸国では冬場の暖房シーズンの終了に伴う暖房のための発電向け重油需要の低下が市場関係者で意識された反面、他のアジア諸国では夏場の冷房のための発電向け重油需要の増加が市場関係者の視野に入り始めたことから、この面では重油価格に下方及び上方双方の圧力を加えつつ、上昇する原油価格に重油価格の上昇が追い付かなかったこともあり、重油とドバイ原油との価格差(この場合重油価格はドバイ原油のそれを下回っている)は拡大した。それでも、4月末以降は、製油所がメンテナンス作業を実施したり夏場の発電向け重油需要が見込まれるとの観測が増大したりしている欧州及び中東方面から、シンガポール等アジア方面への重油の流入が低下するとの見方が市場で発生したことが、重油価格を押し上げた結果、重油価格の原油のそれを下回る度合いは縮小する傾向が見られる。
2.2018年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場等の状況
2018年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場においては、米国原油在庫減少、OPEC及び一部非OPEC産油国の減産延長に対する市場の期待の増大に加え、ベネズエラの石油供給低下懸念、米国のイラン核合意離脱に対する悲観的な見方の増大と実際の核合意離脱及び対イラン制裁再発動の発表に伴う、イランからの原油供給減少による石油需給引き締まり観測の増大と中東情勢が不安定化することによる当該地域からの石油供給途絶懸念の増大等により、4月中旬時点でWTIで1バレル当たり60ドル台半ば程度であった原油価格は、その後上昇傾向となり、5月10日にはWTIの終値で71.36ドルと2014年11月下旬以来の高値に到達した(図15参照)。
4月14日未明に米国、英国及びフランスがシリアのダマスカス及び中部ホムスにある、化学兵器に関連すると疑われる施設に対し105発のミサイルを発射したものの、4月14日に米国のトランプ大統領は任務完了を表明するなど、攻撃が限定的であり、シリアのアサド政権を支援するロシア側からの反撃もなかったことで、中東情勢の不安定化と石油供給途絶の可能性に対する懸念が市場で後退したことから、週明け4月16日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.17ドル下落し、終値は66.22ドルとなった。しかしながら4月16日午後遅くにクウェートのラシディ石油相が、6月22日に開催される予定のOPEC総会では、現時点で2018年末の期限となっているOPEC及び一部非OPEC産油国による減産につき再検討する旨明らかにしたことで、当該減産が2019年以降も延長されるのではないかとの期待が4月17日の市場で増大したことに加え、4月16日夕方に発表された米国動画配信会社大手ネットフリックス及び4月17日朝に発表された米医療保険会社最大手ユナイテッド・ヘルス・グループの2018年第一四半期の業績が市場の事前予想を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.52ドルと前日終値比で0.30ドル上昇した。4月18日も、この日米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(4月13日の週分)で、原油在庫が前週比107万バレルの減少、ガソリン在庫が同297万バレルの減少、及び留出油在庫が同311万バレルの減少と、市場の事前予想(原油在庫前週比140万バレル程度の減少~65万バレル程度の増加、ガソリン同190万バレル程度の減少~45万バレル程度の増加、留出油27~160万バレル程度の減少)を上回って減少している、もしくは事前予想に反し減少している旨判明したことに加え、サウジアラビアがサウジアラムコの株式公開及びVison 2030等の経済改革のための資金調達等に向け1バレル当たり80ドル、もしくは100ドルの原油価格さえ望んでいる旨関係筋が明らかにしたと4月18日にロイター通信が報じたことで、OPEC及び一部非OPEC産油国による減産継続と世界石油需給引き締まりに対する観測が市場で増大したことから、この日(4月18日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.95ドル上昇し、終値は68.47ドルとなった。この結果原油価格は4月17~18日の2日間で併せて1バレル当たり2.25ドル上昇した。ただ、4月19日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.29ドルと前日終値比で0.18ドル下落した。4月20日には、この日米国のトランプ大統領が、OPEC産油国等が人為的に原油価格を引き上げているが、これは良くないことであり、受け入れられない旨批判を行ったことが原油価格に下方圧力を加えた一方で、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、石油投資が十分な水準にまで回復していないことから、減産を継続すべきである旨発言した他、ロシアのノバク エネルギー相も、石油在庫の過去5年平均水準への回復目前になったからといって、減産を終了する理由はない旨同意したと4月20日に伝えられたことで、この先の石油需給の引き締まり観測が市場で増大したことが、原油価格に上方圧力を加えたことから、この日(4月20日)の原油価格の終値は1バレル当たり68.38ドルと前日終値比で0.09ドルの上昇にとどまった(なお、NYMEXの2018年5月渡しWTI原油先物契約取引はこの日を以て終了したが、6月渡し契約のこの日の終値は1バレル当たり68.40ドル(前日終値比0.07ドルの上昇)であった)。
また、4月19日にサウジアラビア主導の有志連合軍が実施したイエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)に対する空爆により、同武装勢力の幹部でイエメン最高政治評議会のサマド議長が殺害された旨4月23日に報じられたことで、この先のサウジアラビアとフーシ派武装勢力との間での対立の激化に伴う中東情勢不安定化と当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、米国石油関連情報サービス会社Genscapeがクッシングの原油在庫が減少した旨報告したと4月23日に報じられたことで、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.26ドル上昇し終値は68.64ドルとなった。ただ、4月24日には、この日実施された、米国のトランプ大統領とフランスのマクロン大統領との会談後の記者会見で、マクロン氏が、ウラン濃縮問題を巡るイランと西側諸国等との合意につき、さらなる内容を盛り込むべく交渉する旨表明したことで、米国が既存の合意から離脱するとともにイランに対して制裁を再発動することにより、イランからの原油供給が低下するといった可能性に対する市場の懸念が後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.70ドルと前日終値比で0.94ドル下落した。それでも、4月25日には、前日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したうえ、ベネズエラ国営石油会社PDVSAとの間での契約紛争により大手国際石油会社Chevronの2名の従業員が投獄された後、Chevronの幹部がベネズエラから退避した旨4月25日に報じられたことで、同国での原油生産への影響に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.35ドル上昇し、終値は68.05ドルとなった。また、4月26日には、フランスのマクロン大統領が、これまでの米国のトランプ大統領の発言から判断すれば彼はイランとの核合意からの離脱を決定するであろう旨発言したと4月25日夜に報じられたことで、米国の対イラン制裁再発動とイランからの原油供給減少に対する懸念が市場で増大したことに加え、4月25日夕方に発表された米国フェイスブック、米国半導体製造大手AMD及びクアルコムの2018年1~3月期業績が市場の事前予想を上回ったことにより、4月26日の米国株式相場が上昇したことから、この日(4月26日)の原油価格の終値は1バレル当たり68.19ドルと前日終値比で0.14ドル上昇した。この結果原油価格は4月25~26日の2日間で併せて1バレル当たり0.49ドル上昇した。4月27日には、この日米国のトランプ大統領とドイツのメルケル首相が会談したものの、イラン核合意に対して議論が平行線を辿ったことで、米国の当該核合意遵守の存続に関して悲観的な見方が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、4月27日に米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で825基と前週比で5基の増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は778基と前週比で10基の増加)となっていた旨判明したことで、この先の米国原油生産増加観測が市場で増大したことが、原油価格に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.09ドルの下落にとどまり、終値は68.10ドルとなった。
4月30日には、この日イスラエルのネタニヤフ首相が、2015年7月14日のイランのウラン濃縮問題を巡る西側諸国等との合意到達前に、イランは核兵器開発の研究をしていたとして、核兵器開発方針を否定しているイランは虚偽の発言をしている旨主張したことで、米国のトランプ大統領の当該核合意離脱の可能性に対する市場の懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.57ドルと前週末終値比で0.47ドル上昇した。5月1日には、5月2日にEIAから発表される予定である同国石油統計(4月27の週分)で原油在庫が増加しているとの観測が市場で発生したことに加え、5月1日に米国供給管理協会(ISM)から発表された4月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)において価格指数が79.3と2011年4月(この時は82.6)以来の高水準となっている旨判明したことにより、今後米国の金融当局者が金利引き上げペースを加速するのではないかとの観測が市場で増大したことで、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.32ドル下落し、終値は67.25ドルとなった。ただ、5月2日には、サウジアラムコが6月のアジアの顧客向け原油販売価格を引き上げた旨同日判明したことに加え、5月1~2日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)後の声明中に、金利引き上げの加速に関しての明確な言及が見られなかったことから、金利引き上げ加速を期待していた市場関係者が失望したこともあり、米ドルが一時下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.93ドルと前日終値比で0.68ドル上昇した。また、5月2日までに米国のトランプ大統領が具体的方策は不明であるもののイランとの核合意から離脱する方針を概ね決意している旨関係者が明らかにしたと5月2日夕方に報じられたことに加え、5月3日にイランのザリフ外相が、イランは西側諸国等との核合意につき再交渉するつもりはない旨表明したこと、英国Sullom Voe石油ターミナルが5月1日の点検時に小規模の不具合を検知したことに伴い操業を停止したことで、同ターミナルからの原油出荷に支障が発生する恐れがある旨5月3日に報じられたことから、石油需給の引き締まり感を市場が意識したことで、5月3日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.50ドル上昇し、終値は68.43ドルとなった。5月4日も、米国のイランに関する核合意離脱とイランからの原油供給減少に対する懸念が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、ウォーレン・バフェット氏の投資会社が2018年第一四半期に米国アップルの株式を7,500万株追加で購入した結果、アップルの第二位の株主となった旨5月3日夜に報じられたことから、アップル他IT関連株式価格が上昇したことにより、米国株式相場が堅調に推移したことから、この日(5月4日)の原油価格の終値は1バレル当たり69.72ドルと前日終値比で1.29ドル上昇した。この結果原油価格は5月2~4日の3日間で併せて1バレル当たり2.47ドル上昇した。
また、5月6日にイランのロウハニ大統領が、同国と西側諸国等との核合意に関し、イランの弾道ミサイル等の開発を制限するような再交渉には応じられない他、米国が当該合意から離脱すれば、イランとしても対抗措置を講ずる用意がある旨示唆した一方で、同日イスラエルのネタニヤフ首相が、当該合意の欠陥を修正しなければ、イランは早期に核兵器を開発することできる旨発言したことで、米国のイラン核合意離脱に伴うイランからの石油供給低下に関する懸念が市場で増大したことに加え、2007年6月26日にベネズエラのチャベス大統領が実施した米国大手石油会社ConocoPhillipsの同国保有資産国有化の補償に対する同社の国際商工会議所(ICC:International Chamber of Commerce)への提訴(2014年10月10日実施)に関し、ICCがベネズエラ国営石油会社PDVSAに対しConocoPhillipsに20.4億ドルの仲裁金を支払うよう命令した(2018年4月25日にConocoPhillipsが発表)ことに基づき、ConocoPhillipsが、PDVSAがカリブ海諸島に保有する石油輸出関連資産の接収に向け動き始めた旨5月6日に報じられたことで、ベネズエラの石油供給がさらに打撃を受けるのではないかとの懸念が市場で発生したことから、5月7日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.01ドル上昇し、終値は70.73ドルとなった。ただ、5月8日には、これまでの原油価格の上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したうえ、5月7日にイタリアのマッタレラ大統領が同国での連立政権の形成は困難である旨明らかにしたことで、同国の政治的空白の発生と経済への影響に対する市場の懸念が増大した流れを5月8日の市場が引き継いだこともあり、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日(5月8日)の原油価格の終値は1バレル当たり69.06ドルと前日終値比で1.67ドル下落した。しかしながら、5月8日午後2時(米国東部時間)に米国のトランプ大統領がイランと西側諸国等との核合意から離脱するとともにイランに対し制裁を再発動する旨発表したことで、イランからの原油供給の減少とともに世界石油需給の引き締まり観測が市場で増大した流れを5月9日の市場が引き継いだことに加え、5月9日にEIAから発表された同国石油統計(5月4日の週分)で、原油在庫が前週比で220万バレルの減少と、市場の事前予想(同72万バレル程度の減少~100万バレル程度の増加)に反し、もしくは上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.08ドル上昇し、終値は71.14ドルとなった。また、5月10日も、シリアに駐留するイランの革命防衛隊が20発のロケット弾をイスラエルが占領するゴラン高原に向け発射した旨5月10日未明にイスラエル軍が発表した他、イスラエルは報復措置としてシリアにあるイランが関与する軍事施設の多くに攻撃を行った旨5月10日にイスラエル軍が明らかにしたことで、中東情勢不安定化と当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、米国のイランに対する制裁再発動に伴う、イランからの原油供給減少の可能性に対しOPEC産油国は対応方法につき決定を急がない旨5月10日に報じられたことで、石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.36ドルと前日終値比で0.22ドル上昇した。この結果原油価格は5月9~10日の2日間で併せて1バレル当たり2.30ドル上昇した他、5月10日の終値は2014年11月26日(この時は同73.69ドル)以来の高値に到達している。ただ、5月11日には、これまでの原油価格の上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、同日Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で844基と前週比で10基増加(石油水平坑井掘削装置稼働数は792基と同8基増加)となっている旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.66ドル下落し、終値は70.70ドルとなった。
3.今後の見通し等
イエメンでは、4月19日にサウジアラビア主導の有志連合軍がイエメン西部ホテイダで実施した空爆で、フーシ派武装勢力幹部であるサレハ・サマド最高政治評議会議長が死亡した旨4月23日に同武装勢力が明らかにしている(フーシ派武装勢力幹部は必ず報復する旨表明している)。他方、フーシ派武装勢力は4月22日にサウジアラビア南部のナジュランに弾道ミサイルを発射した他、4月23日に、サウジアラビア南西部ジーザーンにあるサウジアラムコの港湾施設に向け2発の弾道ミサイルを発射したが、迎撃されたとサウジアラビア側は伝えている。5月7日には、イエメンのサヌアでのフーシ派武装勢力の拠点が空爆され、少なくとも6名が死亡したと伝えられる(サウジアラビア主導の連合軍が実施したとフーシ派勢力側は報じたと同日伝えられる)。5月9日には、フーシ派武装勢力がサウジアラビアのリヤドに向け弾道ミサイルを発射したが、迎撃された旨伝えられる。
米国のトランプ大統領が2018年1月12日のイランの制裁再開見送りの際に表明した、イランと西側諸国等との核合意に対する修正に関する要求(ウラン濃縮活動制限に対する期限、弾道ミサイル開発、中東諸国への関与に関する修正が主なものとされる)に基づき、4月16日には欧州連合(EU)が外相会議を開催、イランに対する新規の制裁(シリアでアサド政権軍とともに戦闘しているイラン軍事関係者に対する制裁)につき議論したが、イタリアが反対したため合意できなかった。4月24日にトランプ大統領はフランスのマクロン大統領と会談した。その前々日(4月22日)には米国のテレビ局の取材でイランとの核合意に関し代替案はなく、米国は核合意を遵守し続けるべきである旨明らかにしていたマクロン大統領は、会談時、トランプ大統領に対し、現在の核合意は不十分であり、2025年以降のイランの核開発の制限、イランの弾道ミサイル開発の制限、中東地域諸国に対するイランの影響力の抑制等に関し、既存の合意に加えて、追加して合意する必要がある旨提案した。トランプ氏は当該の提案に対し西側諸国側だけでも近いうちに合意する可能性がある旨明らかするなど当該提案を評価する姿勢を見せたが、それによって核合意からの離脱を踏みとどまるかどうかについては明言しなかった((5月)12日に何が起こるか判る旨明らかにしたのみであった)。他方、4月24日にイランのザリフ外相が、米国が核合意を放棄すれば、イランも合意を放棄することに加え、核拡散防止条約(NPT)からも離脱する可能性がある旨発言した他、4月25日にはロウハニ大統領が核合意につき再交渉の余地はない旨示唆した。また、ドイツのメルケル首相は4月27日にトランプ大統領と会談し、イラン核合意にとどまるよう説得を試みたが、議論は平行線を辿ったと見られる。イスラエルのネタニヤフ首相は、4月30日にテレビ演説を行い、イランは2015年7月14日に到達した核合意以前に、秘密裏に核兵器を開発しており、現在も核兵器開発能力を維持しているとして、イランが虚偽の主張をしている旨批判、トランプ大統領に核合意から離脱するように促した。同日トランプ大統領は、ネタニヤフ首相の演説に対し、イランとの核合意を巡る状況を「受け入れられないものである」旨表明したが、同日イランのアラグチ外務次官はネタニヤフ首相の演説を幼稚なものであるとして批判した他、EUもネタニヤフ首相の指摘はイランの核合意遵守から逸脱するものではない旨4月30日に明らかにしており、5月1日には国際原子力機関(IAEA)も既存の調査結果(2015年12月2日に取り纏められたイラン核疑惑に対するIAEA最終報告書)の内容である、イランは2009年以降核兵器を開発している様子は見られない旨の認識を改めて表明している。5月6日には、ロウハニ大統領が、西側諸国等との間での核合意に関し、トランプ大統領が離脱を踏みとどまるため修正すべきと考える合意の欠陥とされる条件として挙げている、弾道ミサイル等の開発につき、国家の自衛手段に関するものであり、再交渉はできない他、同日米国が当該合意から離脱すれば、イランとしては報復措置を講ずる用意がある旨改めて明らかにした。他方、5月6日には、イスラエルのネタニヤフ首相は、核合意中の欠陥とされる内容を修正しなければ、イランは極めて限られた期間内に核兵器を保有することになると警告した。そのような中、5月7日には、トランプ氏が、米国がイランとの核合意にとどまるかどうかについての判断に関する発表を5月8日の午後2時(米国東部時間)に実施する旨明らかにした。果たして5月8日にトランプ大統領は弾道ミサイルとともに核開発活動の制限に期限が設定されていることを非難する旨示唆するとともに核合意から離脱、対象によって90日間(8月6日が期限)~180日間(11月4日が期限)の猶予を以てイランに対する制裁を再発動する大統領覚書を数ヶ月以内に承認する旨発表したが、同時にイランとの間では新たな合意につき交渉する用意がある旨表明した。これに対し、同日ロウハニ大統領が当面米国以外の諸国とともに核合意にとどまるものの、核合意の存続のための欧州諸国等との協議の過程において、イラン側の国益に見合わないと判断されれば、ウラン濃縮活動につき制限のない規模で再開する可能性もある他、核拡散防止条約からも離脱することもありうる旨表明している。なお、トランプ大統領の決定に対して同日サウジアラビアやイスラエルは歓迎の意を表明している。5月9日には、トランプ大統領は、イランの核開発活動再開に対しては厳しく対処する可能性がある旨示唆している。また、5月10日には、米国財務省が革命防衛隊に送金を実施したとして、6人の個人と3法人に制裁(米国内での資産凍結と米国人との取引禁止等が内容とされる)を科する決定を下した。他方、5月11日にEUは、イラン核合意に参加する欧州諸国(英国、フランス、ドイツ、及びEU)とイランとの間で核合意継続のための協議を5月15日にブリュッセルで開催する旨発表した。
リビアでは、5月2日に首都のトリポリで、同国の選挙管理委員会本部を武装集団が攻撃、治安部隊との銃撃戦が発生し、選挙管理委員会職員12名が死亡した。イスラム国(IS)が同日犯行声明を発表したが、真偽のほどは不明とされる。
シリアでは、4月14日未明(現地時間)にダマスカス及びホムスにおける、化学兵器と関連があると思われる施設に対し米国、英国及びフランスが105発のミサイルを発射するなどの軍事行動を実施した。行動は1時間程度で終了し、トランプ大統領は4月14日(米国東部時間)に任務は完了した旨表明した他、マティス国務長官も今回の攻撃自体はこれで終了した旨明らかにしたと4月13日に報じられるが、同長官はシリアに対し再度軍事行動を実施するかどうかについては、アサド政権の対応次第との認識を示した。ただ、人的な被害は殆どなく(負傷者3名、死亡者なし)、シリアのアサド政権を支援するロシア側からの反撃もなかった。4月16日には、米国ホワイトハウスのサンダース報道官は、トランプ大統領はシリアから米国軍を撤収させることを望んでいるものの、時期は明確にはなっていない旨明らかにしているが、アラブ諸国にシリアへの軍事関係者の派遣を含め貢献するよう要望していると4月16日に伝えられる(また、サウジアラビアのジュベイル外相も4月17日に本件で米国と協議中である旨明らかにしている)。また、4月21日に、化学兵器禁止機関(OPCW)は、同国の東グータ地区ドゥーマ入りし、試料を採取した旨発表した(4月25日には、2回目の現地入りを行い試料を採取、5月4日にはOPCWは試料の採取作業を終了した旨発表した(分析には3~4週間程度かそれ以上を要するとされる))。他方、4月29日には、アサド政権軍が、同国東部デリソール県の村を支配する、クルド人が主導する「シリア民主軍(SDF)」と衝突した(シリア政府側の報道では、アサド政権が支配権を獲得した旨明らかにしているが、SDF側は同日奪還したとしている)。また、4月29日夜には、同国中部のハマ県や北部アレッポ県に存在するイラン人民兵組織の軍事施設がミサイル攻撃を受け、26名が死亡した(主にイラン人と伝えられるが、イラン側は否定している他、当該ミサイル攻撃はイスラエルが実施したとの指摘もある)。
ベネズエラでは、2007年6月26日にベネズエラのチャベス大統領が実施したConocoPhillipsの同国保有資産国有化の補償に対する同社のICCへの提訴に関し、ICCがPDVSAに対しConocoPhillipsに20.4億ドルの仲裁金を支払う命令を下した。これに基づき、ConocoPhillipsはPDVSAがカリブ諸島(キュラソー、ボナール、及びセントエウスタティウス島)に保有する石油輸出関連資産の接収に向け動き始めた旨5月6日に報じられる。5月11日には、同社は当該資産を差し押さえた旨明らかになっているが、ベネズエラ側は仲裁金を支払う意向である旨伝えられている。また、PDVSAは2020年に償還される予定である社債の保有者の一部に対しの利息分1億ドルの支払いを開始したと4月30日に伝えられる。
レバノンでは、5月6日に国民議会選挙が実施され(議席数128議席、宗教毎に議席数が設定され、キリスト教64議席、イスラム教64議席)、イランの影響力の強い「ヒズボラ」等シーア派勢力が躍進、イスラム教側議席の過半数を確保する可能性が高まっている旨5月8日に報じられる。
地政学的リスク要因面では、シリアに対する欧米諸国の軍事攻撃は限定的な規模で終了しており、この件については小康状態の様相を呈している。しかしながら、米国のイラン核合意離脱に伴うイランに対する米国の制裁再発動とイランからの原油供給の減少懸念が市場で増大しており、これは今後も市場関係者の注目するところとなろう。今般再発動される制裁の内容は以前ウラン濃縮問題を巡り米国がイランに対して実施していた制裁内容を定めた2012会計年度国防授権法(2011年12月31日オバマ大統領(当時)が署名)と同様のものとなり、石油会社は180日の猶予期間中にイランからの原油の調達量を「相当程度」引き下げることが求められている(これに違反した場合、イラン原油を引き取る国の金融機関は米国では新規の口座開設禁止や既存の口座に対する制限等の制裁を受けることになる)。ただ、「相当程度」については、明確な数値は定められておらず、これはトランプ政権の判断を待つことになる。前回の制裁時には「相当程度」は「20%程度」とされたが、「最高水準の制裁を科する」旨表明したトランプ氏はそれ以上の削減割合を求める可能性も否定できない。そしてそのような原油供給量の削減を達成すべく、石油会社は努力してイランからの原油調達を減少させることになろうが、イランは引き取られなくなった原油を他に輸出する手段が限られるため、この分だけ、イランの原油生産は減少、つまり、イラン産原油が部分的であれ、世界石油市場から排除される、ということになる。前回の対イラン制裁時には2011年時点の同国の原油生産量日量362万バレル(NGL(Natural Gas Liquids:天然ガス液)を含めると同416万バレル)が、制裁発動3ヶ月後の2012年3月には日量320万バレル(同376万バレル)、同年6月には同300万バレル(同355万バレル)、9月には268万バレル(323万バレル)と、2011年比で日量100万バレル程度減少した(その後生産量は回復し減少量は日量80万バレル程度となった)。このようなことを考慮すると、今回の制裁再発動時も早ければ3ヶ月後(つまり2018年8月)にはイランからの原油供給がそれなりの程度減少、以降も減少幅は拡大し、前回の制裁時同様日量80~100万バレル程度の減少となることもありうる。対して米国の石油生産量は、EIAによれば、2018年4月から2019年1月までの9ヶ月間に日量141万バレル増加するものの、イランの原油生産の落ち込みを補うためにはさらに日量80~100万バレル増産しなければならず、つまりそれは既存の伸びが同時期さらに57~71%拡大しなければならないということになるが、それほどまでの米国石油生産量の増加上振れが比較的短い期間内になされることに対し市場は確信を持ちきれないものと考えられる(5月8日に発表されたEIAの短期エネルギー展望(STEO:Short-Term Energy Outlook)では、2019年の石油供給量は前回展望(4月10日発表)時から日量46万バレル上方修正されたが、2018年のそれは日量2万バレルの上方修正にとどまっている)。また、サウジアラビアは5月9日に、いかなる供給不足による影響を軽減するためにOPEC内外の産油国及び消費国と協力する旨報じられるが、4月18日には同国石油産業幹部がサウジアラビアは80ドル、ないし100ドルにまで原油価格が上昇すれば満足である旨伝えられるなど、さらなる原油価格上昇が望ましいとの姿勢が垣間見えることから、石油需給の引き締まり感が市場で高まることに対して先制的に原油供給量を増加させることにより、引き締まり感を後退させるとともに原油価格を引き下げることに対しては消極的な対応となることも考えられる。5月9日にはサウジアラビアは実際にイランの原油生産量が減少することにより供給途絶が発生しているかどうか見極めることが必要であり、また供給不足が発生しても自国のみで対応するつもりはない旨明らかにしていると伝えられる他、イランの原油供給減少の市場の影響については様子を見る必要があり、増産についての決定を急がない旨OPEC産油国関係者も示唆している旨5月10日に報じられるなど、今回の米国による制裁再発動に対し慎重に対処していく姿勢が感じられる。このようなことから、この面では今後需給の引き締まり感が市場でさらに強まることを通じ、原油相場に上方圧力が加わりやすい。また、従来からイエメンではハディ暫定大統領派の勢力を支援するサウジアラビアが、対立するフーシ派武装勢力を空爆する反面、フーシ派武装勢力はサウジアラビアに対して弾道ミサイルを発射しているが、米国のイラン核合意離脱後は米国の、特にトランプ大統領と親しいサウジアラビアに対する敵対視の度合いが強まる結果、フーシ派武装勢力からサウジアラビアへの弾道ミサイル攻撃が活発化するとともに、サウジアラビアの油田や出荷、もしくは精製関連施設が狙われ、同国の石油供給が途絶するのではないかとの懸念が市場で増大する可能性がある。また、同じくトランプ大統領と親しく、イランを敵視するイスラエルとイランとの対立も高まる結果、事実上の戦闘行為が発生し、その結果、中東情勢全体が不安定化するともに、イランによるホルムズ海峡(当該海峡では2016年時点で日量1,850万バレルと世界石油需要の約2割の石油が通過している)封鎖の可能性を含め当該地域からの石油供給が影響を受けるのではないかとの懸念が市場で高まる可能性もある。既に5月8日夜にはシリアのダマスカス近郊にある軍事施設がミサイルで攻撃を受けるとともに当該基地で業務に従事していたと見られるイラン人を含め少なくとも15名が死亡したと5月9日に伝えられる(当該ミサイルはイスラエルから発射されたものと言われているがイスラエル軍は明言を避けている)他、シリアのイラン革命防衛隊の軍事拠点からイスラエルが占領するゴラン高原に向け20発のロケット弾が発射された旨5月10日未明にイスラエル軍は明らかにしている(シリアからイランがイスラエルに対し攻撃を実施したのは初めてのことであると5月10日に伝えられる)。イスラエルはミサイルを迎撃し被害は発生していないとするとともに報復措置としてシリアにあるイランが関与する軍事施設の多くに攻撃を行った旨5月10日にイスラエル軍が明らかにした(同日ネタニヤフ首相は「(イランの行為は)超えてはならない一線を越えた」と反発している他、ロシア国防相はイスラエルからシリアに対し70発のミサイルが発射された旨同日明らかにしている)。このように、中東情勢の不安定化と当該地域からの石油供給途絶懸念を市場で増大させるような事象が今後も発生するようだと、その頻度が高まれば高まるほど、原油相場への上方圧力は強まるものと考えられる。
他方、イラクでは、5月12日に連邦議会選挙(議員定数329議席)が実施される予定であるが、イスラム教シーア派、スンニ派、そしてクルド人といった宗派や民族毎の政党連合のみならず、イスラム教の同一宗派内や同一民族内でも異なる政党連合が存在していることから、選挙後の政権樹立過程が混乱する可能性がある。そしてその場合政治的空白が発生することにより、同国の治安面が影響を受ける結果、ISの残党勢力等により、同国国内の各所でテロ攻撃が発生することで、石油生産・出荷インフラの操業等が脅かされるとの懸念が市場で発生するようだと、原油相場が反応するといった展開もありうる。
さらに、ベネズエラにおいても、ConocoPhillipsがPDVSAの精製及び出荷施設等の資産の接収手続きを進めており、その分だけ、PDVSAの石油輸出に支障が生ずる可能性が高まり(日量40万バレルの石油輸出が影響を受けるとの指摘もある)、同国からの石油供給上の混乱に対する市場の懸念と相俟って、この面でも石油需給引き締まり感が市場で高まるとともに、原油相場を押し上げる場面が見られることもありうる。また、5月20日には大統領選挙の開催を控えており、マドゥロ政権によるベネズエラ国民の弾圧を良しとしない米国が大統領選挙前後に同国からの原油調達、もしくは同国への石油製品供給を制限するといったことを含め、さらなる制裁をベネズエラに対して科する可能性もある。そして、大統領選挙を控え、国内情勢がさらに混乱することにより、同国からの石油供給がさらに影響を受けるといったことも否定できない。このような米国による制裁発動の動きや国内でのさらなる混乱の兆候等が現れた場合には、同国からの石油供給の一層の落ち込みによる石油需給逼迫感が市場で増大する結果、原油相場が上昇するといった展開もありうる。
米国では、6月12~13日に次回FOMCが開催される予定であるが、現状の金利(1.50~1.75%)に対し、次回FOMCでは、1.75~2.00%に引き上げる可能性が高いと市場では見られている(5月11日時点でその確率は100%と考えられている)。このため、この面では少なくとも米ドルが下落し続けることにより、原油相場に上方圧力を加えるといった展開となる可能性はそれほど高くないものと考えられる。他方、当該FOMCを控え、もしくはFOMC後、ないしはそれ以外の機会において、同国の金融当局関係者による同国経済や金利引き上げ方針に関する発言等によっては、金利引き上げ加速に対する観測が市場で増減する結果、米ドルが変動するとともに、その影響が原油相場に織り込まれる場面が見られる可能性もある。また、米国の経済指標類によっても、今後の米国の経済情勢に対する市場の見方が変化することにより、原油相場が変動することもありうる。他方、欧州においては最近では景況感がやや悪化する兆候が見られ、金融当局関係者の認識にもそれが織り込まれつつあるように見受けられる。そして、今後も、当該地域経済に対する金融当局関係者の発言等によっては、ユーロとともに米ドルが変動、それが原油相場に影響を及ぼすといった展開となることも考えられる。さらに、中国の経済指標類(同国の原油輸入統計を含む)によっても、同国経済と石油需要動向に関する観測を市場で喚起する結果、原油相場に圧力が加わるといった展開が見られる可能性もある。
米国では、5月26~28日の連休(5月28日が戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う休日)から、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入する。このため、ガソリンの需要が盛り上がるとに伴い、ガソリンを生産するために製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量も増加、その結果、原油の購入が活発化するなど、季節的な需給の引き締まり感が市場で一層強まる結果、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。他方、米国の石油坑井掘削装置稼働数と原油生産量は増加傾向が続いている他、同国の原油生産見通しも上方修正がなされている。今後も米国の石油坑井掘削装置の稼働数や原油生産量実績及び見通し等により、米国、そして世界石油需給に対する観測が市場で変化することにより、原油相場にその影響が織り込まれるといった場面も見られうる。また、5月14日にはOPECから、5月16日にはIEAから、それぞれオイル・マーケット・レポートの類が発表される予定であるので、その内容(世界石油需要見通し、世界供給見通し、及びOECD諸国在庫等)によっては、石油需給バランスに対する観測が市場で発生することにより、原油相場が変動することもありうる。
大西洋圏では間もなくハリケーン等の暴風雨シーズンに突入する(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり(当該地域では2017年は日量175万バレルの原油を生産した)、また、湾岸地域の石油受入港湾施設や製油所の活動に支障が発生したり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業が停止すること等により米国での原油輸入に影響を与えたりする(2017年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した)。4月5日時点でのコロラド州立大学の予想によると、2018年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりも活発な暴風雨の発生が予想されている(表1参照)。2017年はハリケーン「ハービー」(Harvey)や「ネイト」(Nate)が米国メキシコ湾地域に来襲し、沖合の油・ガス田や製油所他のインフラの操業に少なからぬ支障が発生したが、そのような記憶が現時点でも相当程度市場関係者に残っているものと見られる。このため、2018年も活発な暴風雨シーズンが予想される中、ハリケーン等の暴風雨による米国メキシコ湾地域での油田や製油所等の操業への影響に対し市場が神経質になっており、そのような心理が原油相場に反映されやすいものと考えられることから、今後のハリケーンシーズンの暴風雨等発生見通しに加え、ハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等には留意する必要があろう。
全体としては、この先米国等で夏場のガソリン需要期に突入することにより季節的な需給の引き締まり感が市場で強まることから、この面では原油相場に上方圧力が加わりやすいものと考えられる。また、イランやベネズエラ等を巡る原油供給の低下の可能性に対し他のOPEC産油国等の増産等の対応が迅速に行われないのではないかとの懸念が市場で発生しやすく、また、米国のイラン核合意離脱後中東情勢がさらに複雑化したり、ベネズエラの情勢が一層不安定になったりした場合には、それぞれの地域からの石油供給途絶懸念が市場でさらに高まることにより、原油相場が押し上げられるといった場面が見られる可能性もある。他方、米国での原油生産量も増加しつつあるものの、生産見通しが上振れしているのは2019年に入ってからが中心であり、2018年は見通しの上振れ程度が限定されることもあり、少なくとも短期的には、イランやベネズエラ等の地政学的リスク要因に伴う原油相場への上方圧力に対抗するには力不足となる可能性があるとの市場心理は根強いことから、この面でも原油相場は支持されやすいものと考えられる。
4.世界天然ガス市場動向
米国では、2月中旬以降も気温が平年を割り込む場面がしばしば見られ、また前年同期比でも概ね寒冷となった(図16参照)ことで、暖房用及び暖房のための発電用天然ガス需要が前年同期比で増加した(図17参照)ことに加え、パイプライン等のインフラが整備されたことに伴うメキシコへのパイプライン経由の天然ガス輸出が堅調な状態を維持した他、2017年10月9日に第四液化装置(Train 4)(LNG生産能力年産450万トン)の建設が完了したサビン・パスLNG出荷施設を経由したLNG輸出が前年同期比で増加したこともあり、天然ガスの出荷が進んだ。通常冬場は気温の低下とともに暖房用天然ガス需要が盛り上がることもあり、米国の天然ガス在庫は減少傾向となるが、2017~18年の冬は平年(過去5年平均値)よりも在庫の取り崩しが進み、2月9日時点では平年を18.7%下回る状態であった在庫水準は4月20日には29.1%下回る状態となるなど、その幅が拡大する傾向を示した(その後過去5年平均を上回る在庫の貯蔵積み上げがあったことから5月4日時点の米国天然ガス貯蔵量は1.952兆立方フィート、過去5年平均を下回る率は26.6%へと縮小している)(図18参照)。しかしながら、米国の天然ガス先物価格は2月中旬から5月上旬にかけ若干ながら上昇傾向となったものの、終値ベースで100万Btu当たり2.5~2.8ドルの範囲で推移した他、5月11日時点で100万Btu当たり2.81ドルと前年同期(2017年5月11日の終値は同3.38ドル)を下回っている(因みに2017年2月上旬から5月上旬の同国天然ガス貯蔵量は平年を3.7~21.4%上回っていた他、2017年5月5日時点では過去5年平均を13.6%上回っていた)(図19参照)。つまり、足元需給が引き締まっているように見えるにもかかわらず、それが価格に織り込まれていないような格好となっている。
実は市場では、足元の需給の引き締まりにもかかわらず、この先需給は相対的に緩和する方向に向かうとの認識が根強い。原油価格が上昇傾向となったことで、シェールガス等の天然ガス生産に随伴して生産されるNGL(Natural Gas Liquids:天然ガス液)の販売収益が改善されつつあることもあり、米国の天然ガス掘削装置の稼働数も増加している。また、原油価格上昇とともにシェールオイル開発のための坑井掘削装置稼働数が増加傾向を示しているが、シェールオイル生産に随伴して天然ガスの生産も増加しているものと見られる。そして原油価格が上昇傾向となっていることから、この先においても、原油やNGLとともに天然ガスが増産されていくとの観測が市場で根強くなっている(図20参照)。他方、米国での暖房シーズンは概ね終了し、暖房向け、もしくは暖房のための発電向け天然ガス需要は低下することから、米国での天然ガス貯蔵量は増加ペースを加速する可能性がある。これが、市場でのこの先の天然ガス需給緩和感に繋がっている結果、同国での天然ガス価格の上昇を抑制する格好となっている。
他方、欧州でも、気温が低下するといった予報が発表されたり、また実際平年を下回る気温が発生したりした(図21参照)。このため、暖房向け、もしくは暖房のための発電向け天然ガス需要が堅調となったと見られる。加えて、アジア市場でのLNG需要が旺盛であった(アジア諸国でも厳冬となった他、中国での石炭から天然ガスへの転換政策の推進等が影響した可能性がある)ことから、英国等欧州方面へのLNG供給が制約を受けたと見られる。それを反映し、欧州の天然ガス貯蔵量は大幅に減少(図22参照)、3月30日には貯蔵率は18.0%となった(因みに前年同期は25.8%であった)他、4月13日には前年同期を0.32兆立方フィート下回る結果となった。また原油価格が上昇傾向となったことから、欧州大陸で色濃く残っている石油製品価格連動型天然ガス供給契約価格が上昇、その影響が英国の天然ガス価格にも及んだ(英国と欧州大陸とパイプラインで繋がっていることから、英国の天然ガス価格は欧州大陸の天然ガス価格体系の影響を受けやすい)ことにより、英国の天然ガス先物価格は2月16日の100万Btu当たり推定7ドル強の水準が2月23日には同推定8ドルを超過するなど上昇した。しかしながら、その後は気温が上下に変動しながらも上昇傾向となった他、冬場の暖房シーズンに伴う天然ガス需要期の終了が市場関係者の視野に入ってきたこともあり、天然ガス価格は下落傾向となり、4月上旬には、英国天然ガス先物価格は100万Btu当たり推定6ドル台後半となる場面もしばしば見られるようになった(ただ、同国では2月末から3月初めにかけては気温が零下となるなど冷え込んだことから天然ガス需要が急増したうえ、ノルウェーからのパイプライン等が不具合で操業を停止したことから同国から英国への天然ガス供給が低下したことにより、3月1日には英国の天然ガス供給を管理するNational Gridが天然ガス供給不足となる恐れがある旨警告したことから、市場での英国での天然ガス需給の引き締まり感が市場で大幅に高まるとともに天然ガス購入が殺到したことにより、同国のスポット天然ガス価格は一時100万Btu当たり48ドルを超過する水準に到達する場面も見られた)。しかしながら、ノルウェーのガス田、処理施設、及びパイプライン等においてメンテナンス作業や不具合により、同国から英国への天然ガス供給が低下したことに加え、4月下旬には気温が大幅に低下するとの予報が発表されたことから、暖房用の天然ガス需要が増加するとの観測が市場で強まった他、原油価格が上昇したこともあり、英国の天然ガス先物価格は100万Btu当たり7ドル程度へと反発している。
アジア地域では、2月26日未明に発生したパプアニューギニアでの地震により同日PNG LNGの操業が停止した(操業者:ExxonMobil、LNG生産能力は年産690万トンであるが、操業停止前は生産能力を超過する同800~850万トンの生産ペースであったと伝えられるており、また、当初最長10日間程度の操業停止の予定と伝えられたが、地震後初めてLNGを積載した船が出航したのは4月16日であった)ことから、LNG需給の引き締まり感が市場で発生したことが、2月下旬から3月上旬にかけての当該地域でのスポットLNG価格の下落を抑制したり、もしくは当該価格を上昇させたりした。しかしながら、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用、もしくは暖房のための発電用天然ガス需要期が終了に接近しつつあることを市場が意識したうえ、2月23日には、日本の気象庁から、3月は日本の広い地域で平年並みか平年を上回る気温となる見込みである旨の予報が発表されたこと、そして実際に気温が上昇したことから、暖房用、もしくは暖房向け発電用天然ガス需要減少の観測が市場で増大したり、また、需要が実際に減少したりした他、気温の上昇とともに山岳地帯で雪解けが発生した結果、水資源が豊富になったことにより水力発電が活発化したことも天然ガス火力発電向けLNG需要を抑制する格好となった。加えて、3月23日には九州電力玄海原子力発電所3号機(発電能力118kW)が、4月11日には関西電力大飯原子力発電所3号機(同118万kW)が、それぞれ再稼働した他、関西電力大飯原子力発電所4号機(同118万kW)も5月中旬に再稼働する見込みと伝えられており、原子力発電量の増加に伴い、発電向けのLNG需要が低減するとの観測が市場で発生した。また、マレーシアLNG(同2,930万トン)では出荷制限が行われていると言われていた(当該天然ガス液化施設に接続するSabah Sarawak Gas Pipeline(SSGP)が1月10日に降雨に伴う地滑りでガス流出が発生したことによる)が、LNG出荷制限は実施されなくなったと伝えられる(当初SSGPの不具合に関連した修理作業は5~6月まで続く予定であるとされたものの、2月半ばまでに大部分の修理が完了したとされる)。さらに、4月に入ってからはPNG LNGの操業再開が近いとの見方が市場で広がってきた。そしてこのような背景がアジア市場でのLNG需給緩和感の醸成に繋がった結果、2月中旬には100万Btu当たり10ドル台半ばであった当該市場のスポットLNG価格は4月上旬には同7ドル強へと下落傾向となった。それでも、それ以降は原油価格の上昇が原油価格連動型LNG価格を引き上げるとともに、相対的に割安なスポットLNG供給に市場の注目が集まったこともあり、スポットLNG価格は5月上旬には100万Btu当たり8ドル台前半程度の水準へと反発している。
以上
(この報告は2018年5月14日時点のものです)