ページ番号1007526 更新日 平成30年6月13日
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概要
・2017年の世界のLNG取引は、2.9億トンに達し、2016年と比べて26.2百万トン、9.9%の増加となった。供給面では米国、豪州、ロシア等から約25百万トン相当の液化設備が新たに稼動を開始した。需要面では、大気環境改善のため中国での急速な天然ガス転換により需要が拡大(前年比+11.6百万トン)し韓国を超え、世界第二位のLNG輸入国となった。
・2017年のスポット・短期(4年以下の契約)は78百万トン(2016年75百万トン)・全体の27%(2016年28%)となり数量は増加、比率は若干低下した。契約から3か月以内に引き渡しとなるスポット取引は59百万トンと全体の20%に達し、2016年(47百万トン、全体の18%)からも数量・比率ともに増加しており、LNG市場の流動性が高まる傾向となっている。
・日本の2017年LNG輸入量は83.5百万トンと、2016年とほぼ同水準(0.18百万トン、0.2%の増加)となった。再エネの増加、原子力発電の稼働増といった電力向けLNG需要を引き下げる要因はあったものの、2016年初の暖冬に対し2017年初の低気温で冬場の需要期の使用量が増加したことが増加要因として寄与した。なお、震災前の2010年の約70百万トンからは、14百万tの増加、原子力発電所がすべて停止し、過去最大の輸入量となった2014年(89.2百万トン)からは約5.7百万トンの減少となっている。
・日本向のLNGは依然、長期契約・石油価格連動による価格決定方式が大半を占める。2017年の日本着LNG価格の平均は8.1$/MMBtuとなり、2016年平均の7.0$/MMBtuから約1$/MMBtuの上昇となった。2017年末からは油価上昇傾向が続いており、直近の2018年4月のJLC(全日本着平均LNG輸入価格)は9.6$/MMBtuとなっている
・スポットLNG価格は2017年8月頃まで概ね5$/MMBtu台での推移となった。2017年9月以降は、中国の大気汚染対策の一環としての急速な天然ガス推進、北東アジアの低気温、英領北海・オーストリアでのパイプラインの供給支障等により価格が上昇し、2018年1月には、11$/MMBtu台にまで高騰した。その後冬季需要が一段落するものの、油価高騰、欧州での低在庫もあり、2018年4月の日本向けスポットLNG価格(経済産業省公表、契約ベース)は9.1$/MMBtuと、JLCに比べれば優位性があるものの、非需要期としては2014年以来の水準となっている。
・2017年には、豪州・米国・ロシア・マレーシアから、4プロジェクト・5トレインの合計25百万トンの液化能力が増加、2018年以降に稼働を開始する液化プロジェクトは92百万トンに達する。
・需要の確保を前提に最終投資決定に移行可能なプロジェクトも約2.5億トンを超え、2030年頃までの世界の需要増にも対応は可能と考えられるが、2014年以降続く低油価・低ガス価とその長期化、また、長期の需要見通しの不確実性から、最終投資決定を経て建設段階に移行したのは、2016年にはインドネシアTangguh(拡張、3.8百万トン)、米国Elba Island(2.5百万トン)の2件のみ、2017年には、BPが全量を引取るモザンビークCoral FLNG(3.4百万トン)1件、2018年は米国Corpus Christi LNG(Train3 4.5百万トン)の1件に留まる。
・カタールは、現在77百万トンの液化能力を持つが、新たに23.4百万トン(7.8百万トン×3系列。さらに将来1系列の拡張も想定)を追加、2023年末までの稼働開始を目指す。
・米国は、Sabine Pass LNGプロジェクトは第4系列まで商業運転を開始、さらに、日本企業(住友商事、東京ガス、関西電力)が関与するCove Point LNGプロジェクト(液化能力525万トン/年)も2018年4月に商業運転を開始した。ロシアYamal LNGプロジェクトは2017年12月に初出荷を行い、7月以降は北極海航路を通じたアジア向け供給も開始する見込み。
・2017年に新規稼働開始した再ガス化基地は5基地(中国2基地、マレーシア、マルタ、パキスタン)合計11.5百万トン相当で、そのうち2つ(マルタ・パキスタン)がFSRUによる導入となった。
・2017年のLNG輸入量(純輸入量)はアジアが2.1億トン(73%)となり、欧州46百万トン(16%)他の地域が続く。国別にみると、日本が引き続き最大の輸入国であるが、中国政府が大気環境改善に向け、急速な天然ガス転換を進めたことで、39百万トン(前年比11.6百万トン、42%増)となり、韓国を上回り、世界第2位LNG輸入国となった。
・米国等で建設段階にある大規模プロジェクトが順調に稼働すれば、2020年代初め頃には一旦需給が緩和(2000~3000万トンの供給余力)するものの、想定外の供給支障、建設遅延が生じれば、需給がひっ迫する可能性もある水準となっている。中国・新興国を中心に需要も増加しつつあり、FIDから稼働開始までの約5年のリードタイムを勘案すると、2022年以降の潜在的な需給逼迫の懸念も現実的になりつつある。また、年間を通じた需給のバランスはとれていても、想定外の供給支障、冬場の需要期にはスポット価格の高騰が懸念される。
・カタールは、2023年末までに2,340万トン(さらに、1系列780万トン拡張)の拡張計画があるが、2020年代後半の需要増に対しては、カタール以外の最終投資決定、供給増は必須となる。
・これまでLNG市場の中長期的な発展を支えてきた伝統的な買主は、自国内の自由化、他燃料との競合、原発の見通し等将来の需要の不確実性から、より柔軟性が高く、短期の契約も必要となり、また、新興国を中心に見込まれる新たな買主は、規模、信用力ともに、これまでの、欧州・アジアの買主と同様の役割を果たすことは難しい。一方で、新規プロジェクトの立ち上げには、一定量の需要確保は必要であり、複数の供給減、供給先を有するポートフォリオプレーヤーや、発電等需要開拓まで含めた新興国需要への取り組みがより重要になると考えられる。
1.LNGの取引量実績と推移(2017年)
(1) 世界のLNG取引
国際LNG 輸入者協会(International Group of LNG Importers: GIIGNL )によると、2017年の世界のLNG取引は2.898億トンに達し、2016年と比べて26.2百万トン、9.9%の増加となった。
供給面では米国、豪州、ロシア等から約25百万トン相当の液化設備が新たに稼動を開始した。需要面では、大気環境改善のため中国での急速な天然ガス転換により需要が拡大(前年比+11.6百万トン)し冬場の需要期を前に、9月以降、スポット価格の高騰が続いた。
LNG取引における、スポット・短期割合(4年以下の契約)は78百万トン(全体の27%)に達した。特に、韓国(9.0百万トン、前年比4.0百万トン・83.4%増)、中国(9.0百万トン、前年比3.3百万トン・55.5%増)が大幅に増加した。2016年の75百万トン(LNG取引全体の28%)とくらべると、数量は増加したものの割合は若干ではあるが低下した。なお、契約から3か月以内に引き渡しとなるスポット取引は59百万トンと全体の20%に達し、2016年(47百万トン、全体の18%)からも数量・比率ともに増加しており、LNG市場の流動性が高まる傾向となっている。
(2) 日本のLNG取引
日本の2017年LNG輸入量は83.5百万トンと、2016年とほぼ同水準(0.18百万トン、0.2%の増加)となった[1]。再エネの増加、原子力発電の稼働増といった電力向けLNG需要を引き下げる要因はあったものの、2016年初の暖冬に対し2017年初の低気温で冬場の需要期の使用量が増加したことが、若干の増加要因として寄与した。
なお、震災前の2010年の約70百万トンからは、14百万トンの増加、原子力発電所がすべて停止し、過去最大の輸入量となった2014年(89.2百万トン)からは約5.7百万トンの減少となっている。
日本向けのLNG輸出は、豪州が、新規プロジェクトの稼働開始(2017年3月Gorgon Train3、2017年10月Wheatstone)により27百万トンで前年比3.3百万と大幅に増加したのに対し、カタールからの供給は10.1百万トンで前年比2.0百万トン減少した。また、米国からのLNG輸入(アラスカ州)は、2015年を最後に止まっていたが、2017年2月に米国シェールガス由来のLNG(米ルイジアナ州 Sabine Pass LNG)が初めて日本に到着後、2017年は合計0.95百万トンが輸入された。
4年以下の短期・スポットによる取引は、2017年には12百万トン(日本の全輸入量の15%)となり、引き続き世界最大ではあるものの、豪州からの長期契約に基づく取引の増加等により、2016年の15百万トン(日本の全輸入量の18%)からは減少した。短期・スポットの取引のうちカタールが2016年2.9百万トンから2017年1.2百万トンに大きく減少したが、米国は、2017年の取引量の全量(0.95百万トン)が短期・スポット取引であり、2016年は輸入がなかったこともあり大きく増加した。
[1]貿易統計によると、2017年度(2017年4月~3月)の輸入量は83.9百万トンと、2016年度(2016年4-3月)の84.8百万トンから約0.9百万トンの減少となっている。暦年(1-12月)との違いは、2017年1月~3月期の低気温時の冬季需要が大きかったこと等が要因。
<公正取引員会 LNG取引実態に関する調査>2017年6月、公正取引委員会は、40年ぶりとなる独占禁止法第40条に基づく調査[1]の結果、「液化天然ガスの取引実態に関する調査報告書」を公表し、仕向け地制限、(仕向け地変更に伴う)利益配分条項、Take or Pay 条項についての方向性が示された。同調査では、国内事業者を販売先とする液化天然ガスの取引が対象ではあるものの、強制力を伴う調査に基づく取引実態が示されている。
ⅰ)スポット契約の割合・推移日本向けには、現在、長期契約が8割、中期契約及び短期契約の合計が1割、スポット契約が1割となっている。直近では、震災以降、短期・スポット契約の割合が増加していたが、原発の一部再稼働、新規LNGプロジェクトの稼働開始(長期契約)等によりスポット契約の割合が若干減少している。
[1] 独占禁止法第40条に基づき液化天然ガスの取引慣行、契約条件の詳細について、国内事業者を販売先とする液化天然ガスの取引等の調査。書面調査として国内需要者14社に対する報告命令、国外需要者6社(回答数4社)、国内外供給者32社(回答数24社)に対し報告依頼を実施。国内外需要者・供給者から31社から、聴取調査を実施。
ⅱ) 価格決定方式
期間契約における、価格決定方式としては、従来石油価格連動のLNG契約が大勢を占めていたが、米国産LNGの輸出開始により、米国天然ガス価格に連動した価格決定方式も増加傾向にある。ただし、2020年代中盤以降も、石油価格連動方式が、7割超を占めることとなる。
2.天然ガス・LNGの価格動向
(1) 日本着LNG価格(全日本着平均LNG輸入価格)
日本向のLNGは依然として長期契約・石油価格連動による価格決定方式が大半を占め、JCC(全日本平均原油輸入価格)を指標とし、原油価格のレベルに応じた一定の調整要素を加味した上で算出される。これは、WTI・ブレント原油価格から約4~5ヶ月、JCC(全日本平均原油輸入価格)と比較して約3~4ヶ月のタイムラグを経て、日本向け輸入価格に反映されることとなる。
指標となる原油価格は、供給過剰により2016年2月に2003年以来の最安値水準(2016/2/11 WTI原油終値 26.21$/bbl)を付けた。その後、2016年11月OPECの減産合意により価格は50$/bbl台に上昇した。OPEC諸国の減産遵守、非OPECのロシアの減産協力、米シェールオイルの増産により、2017年は比較的需給のバランスが取れ、年間を通じ、50ドル前後(WTI 終値42.53~60.42$/bbl)で安定して推移した。協調減産についても、2017年5月及び11月に延長が合意され、2018年12月までは協調減産は継続する予定となっている。
2017年の日本着LNG価格は原油価格にタイムラグを経て8ドル前後(7.5~8.6$/MMBtu)で推移した。平均価格は8.1$/MMBtuと2016年平均の7.0$/MMBtuから約1$/MMBtuの上昇となった。
なお、2017年末からは油価上昇傾向が続いており、直近の2018年4月のJLC(全日本着平均LNG輸入価格)は9.6$/MMBtuとなっている。今後も、トランプ政権が主張するイランとの核合意の見直しと合意からの離脱表明、ベネズエラの混乱、イスラエルの首都認定、シリアにおけるアサド政権と反政府勢力の対立構造等地政学的な要因からの油価上昇懸念もあり、現在の70$/bblを超える水準で原油価格が推移すれば、今後数ヶ月は日本着LNG価格の上昇傾向が続く可能性がある。
米HH価格は2$/MMBtu台で安定して推移しており、油価上昇により米国の国内原油生産・随伴ガスの生産増も見込まれ、相対的に安値水準で推移する米シェールガス由来のLNGの優位性が高まるものと考えられる。
一方で、日本の最終需要家が長期契約を締結する米国産LNGは約1,000万トン程度にとどまり、現在、稼働を開始したものは、Cove Point LNG(液化能力525万トンのうち、東京ガス140万t、関西電力80万トンの契約)に留まる。キャメロン・フリーポート等より複数トレインを有する大型のプロジェクトはハリケーンの影響もあり当初計画よりも稼働時期を後ろ倒ししている。長期契約に基づく米国カーゴの日本向け輸入数量の増加、アジアの需給を反映した価格指標の導入・LNG市場流動性の向上により、油価連動方式の割合は相対的には低下すると考えられるが、当面(少なくとも、2020年ころまでは)は日本向けLNG価格が、原油価格に影響を受ける市場構造は大きくは変わらないものと考えられる。
(2)米国天然ガス価格の推移
米国の天然ガス価格(HH価格)は北米域内の需要(気温要因、暖房需要、産業用需要、電力需要、天然ガス・石炭火力との価格競争力)、供給(掘削装置稼働数、パイプライン、シェールオイル随伴ガス生産)、在庫状況、輸出(LNG、メキシコ向パイプライン)等の影響により変動する。
2000年代後半以降のシェール革命により、米国の天然ガス生産(Dry Gas)は増加を続け、米HH価格は2008年平均8.85$/MMBtuから2010年代に入り概ね3$/MMBtu前後で推移してきている。多くの国・地域では、天然ガス火力は環境優位性があるものの経済性では石炭火力に劣後するため、政策的な位置付が天然ガスの導入を後押しすることとなるが、北米では、老朽化した低効率な石炭火力発電所に対して天然ガス火力が、経済的にも優位性がある状況が生じ、域内価格の変化に応じて天然ガス火力向けの需要も変化している。
2015年9月には天然ガス生産量が日量747億立方フィート(約770Bcm/年、LNG換算約5.7億トン/年)と当時としては1997年1月以降の同国月間天然ガス生産統計開始後の最高水準に到達した。しかしながら、原油価格の低迷、域内の供給過剰感からHH価格も2016年3月には1.49$/MMBtu(2016/3/4)に下落したこともあり、石油・天然ガスの掘削装置稼働数が減少し、生産量も前年同月を下回る水準で推移した。その後、発電用途としての石炭に対する価格優位性による需要増等もあり、2016年11月末にはHH価格は3$/MMBtuまで上昇した。この価格の上昇を受け、掘削装置稼働数も2016年8月末の81基を底に増加に転じ、天然ガス生産量も若干遅れて2017年2月以降は、増加に転じている。
2017年は、国内の需要については、冬季(1月から4月)総じて平年よりも温暖で暖房用需要が旺盛ではなく、また、夏季も低気温で空調用発電部門向けの天然ガス需要が低下した。また、2016年と比較して天然ガス価格の上昇による発電部門での天然ガス需要の低下等で、国内需要は前年同月を下回る傾向が2017年9月まで続いた。一方で、メキシコへのパイプラインによる輸出やSabine Pass LNG出荷基地からのLNG輸出増により2016年前半に見られたような供給過剰にはならず、米国での天然ガス価格は年間を通じて2$/MMBtu台後半から3$/MMBtu前半の狭い範囲での推移となった。
2017年末から2018年初の冬場の需要期においては、低気温による暖房用、空調用天然ガス需要が旺盛で、また、Sabine Pass LNGも第3・第4トレインの本格稼働、メキシコ向けパイプラインでの輸出も堅調に推移した。価格は3.63$/MMBtu(2018年1月29日)まで一旦は上昇したが、今後、米国での生産増が想定され、気温も平年並みに推移する見込みであったことから、2月から5月までは、概ね2ドル台後半で推移している。
(3)欧州天然ガス価格
欧州・英国における天然ガス価格は、「ハブ」における市場価格連動での価格決定方式と、石油製品価格連動(約3割程度に減少[1])によるものがある。需要については気温、電力(再エネ・石炭との競合、原子力・水力稼働状況)等の要因での変動が生じる。供給については地下貯蔵、域内の生産、パイプラインを通じた天然ガス輸入、LNGといった複数の供給源を有し、欧州以外の市場にも需給・価格で相互に影響を及ぼすこととなる。
2016年の英国天然ガス価格は、潤沢な在庫、暖房用需要の低迷等により、2016年8月後半には4$/MMBtuを下回るなど低位で推移したが、冬場の需要期を前に、仏原子力発電所で蒸気発生器底部での鋼材の強度不足懸念のための停止・点検作業の実施、英国での地下貯蔵設備の点検、オランダ政府が地震への懸念からフローニンゲンガス田での生産量の制限等により、需給の逼迫懸念が生じ、2016年11月には6$/MMBtu台に達した。
2017年に入り、1月の欧州全域での低気温により7$/MMBtu台にまで高騰したものの、2017年2月中旬以降は平年を上回る気温推移となり冬季需要が一段落し、2017年3月以降、8月下旬まで、概ね5$/MMBtu前後での推移となった。2017年6月には、サウジアラビア・エジプト他からのカタールとの国交断交の発表があり、スエズ運河を通峡する欧州向けLNG輸送への影響も懸念されたが、結果として、LNG輸出・輸送路にも影響はなく、断交発表前後でもNPB価格への影響も生じていない。
2017年9月に入り、冬場の需要期を前にして、原油価格の上昇(油価連動方式による欧州天然ガス価格への影響が懸念)、仏EDF原子力発電所の停止(運河の堤防決壊時の安全対策懸念に伴う指摘、改修工事により、9月末から12月上旬まで停止)、中国の急速な天然ガス転換に伴うLNG需要の増加等により、9月中旬に6$/MMBtuを超え、11月上旬に7$/MMBtu台、12月には8$/MMBtuを超える水準にまで上昇した。これは、前年同月と比べて約1$/MMBtu~1.5$/MMBtu上回る高値水準となった。
さらに、2017年12月11日には英領北海から英国陸上に輸送するFortiesパイプラインの停止(小規模な亀裂が発見され、修繕後、2017年12月末までに復旧)、12月12日にはオーストラリアBaumgartenガスハブでの爆発事故(ロシアからオーストリア経由でのイタリア向供給がゼロとなり、イタリアでは非常事態宣言が出される。12月15日には解除)等もあり、NBP価格8.8$/MMBtu(17/12/12)まで上昇したが、短期間で供給懸念は解消し12月下旬には、7$/MMBtu台に下落した。2018年1月下旬には一旦は7$/MMBtuを下回るものの、引き続き冬季需要が多く、在庫も過去5年実績からみても最低水準で推移しており、2018年5月まで7$/MMBtu前後での取引となっている。
[1] International Gas Union, “WHOLESALE GAS PRICE SURVEY 2017 EDITION”,2017年5月
(4)スポットLNG価格動向
LNGの契約形態としては、期間契約(契約期間中、所定の算定方法で算出された価格で、継続的な売買が行われる)ものと、スポット契約(合意した価格で、単発・カーゴ単位での取引が行われる)ものに大別され、スポット契約では、各種統計により異なるものの契約から3か月以内(長くとも、1年以内)での引き渡しが行われるものが多くを占める。
基本的には、需給に応じて価格が決まり、原発稼働状況・気温要因による追加需要、LNG生産好調時や新規プロジェクトの試運転段階でのカーゴ販売、供給支障時の代替カーゴ確保等に用いられるほか、複数の供給源を組み合わせて買主に販売(ポートフォリオ供給)を行う売主による調整・最適化のための活用も多くみられる。
2011年の震災以降の需給逼迫時には、特に北東アジアでの需要増がスポットLNG価格を引き上げたが、2014年以降の原油価格の下落、2016年以降の仕向け地制限のない北米新規プロジェクト等の稼働増により、価格の低下とともに、市場の流動性も高まってきている。突発要因による短期間での需要増により、特定の地域での価格急騰は特に冬場で生じる傾向にあるが、一定のタイムラグはあるものの、欧州天然ガス・LNG価格、北東LNG価格は概ね連動してきている(再ガス化費用・輸送費用差を含めれば、特定の地域が長期間高価格にならないような調整が進む)といえる。
スポットLNG価格は、九州電力川内原子力発電所の2015年末の再稼動や2016年初の北東アジアでの暖冬等により2016年初から低迷し、日本向けスポットLNG価格(経済産業省公表、契約ベース)は2016年5月に4.1$/MMBtuと2014年4月の公表開始以来最安水準となった。その後、2016年夏までは5$/MMBtu台で推移したが、2016年9月以降は、韓国南部での地震に伴う原子力発電所の停止点検による追加需要や、冬場の需要期を前に11月末からの豪州Gorgonプロジェクトの約1ヶ月の設備トラブル等で価格が急騰し、2017年1月には、一時的に9$/MMBtu台後半に達した。1月中旬以降は、欧州での低気温によるLNG需要が急増し、北東アジアのスポット価格を欧州着LNGスポット価格が上回る状況が2月中旬まで続いた。
その後、欧州・アジアともに冬季需要も一段落し、日本でも関西電力高浜原子力発電3号機(2017年5月)・4号機(2017年6月)の再稼働もあり、2017年4月の日本向けスポットLNG価格(経済産業省公表)契約ベースは5.7 $/MMBtuまで低下し、2017年8月まで同様の水準で推移した。
2017年6月5日のサウジアラビア・UAE・エジプなど6か国からのカタールに対する外交・経済関係断交の発表がなされ、LNGの供給に関する懸念が高まったものの、LNG輸出に関して大きな支障は発生しなかった。また、カタールからUAEへのパイプラインガス供給(18Bcm/年、LNG換算約13百万トン/年)も継続し、また、欧州向けにはエジプトが管理するスエズ運河の通峡に関しての懸念・混乱はあったもののスポット価格への影響は生じていない。
2017年9月以降は、原油価格の上昇、中国政府による大気汚染対策の一環としての、天然ガス化推進により、スポットLNG需要が増加、北東アジアの低気温もあり、暖房用、発電用の天然ガス需要が増加した。スポットLNG価格は9月中旬には7$/MMBtuを超え、10月上旬に8$/MMBtu、11月上旬に9$/MMBtu、12月上旬には10$/MMBtu、12月下旬には11$/MMBtuを超え、2018年1月半ばには同11ドル台後半に達し、2014年11月初旬以来(この時は同12ドル台半ば程度)の高水準にまで上昇した。その後、2018年1月下旬からは、極端な天然ガス転換を行っていた中国も低気温対応のために石炭使用制限の緩和がなされたものの、米Sabine Pass(LNGタンク2基の修繕、低気温による給水トラブルによる一時生産減)、カタール(一部プラントの修繕での停止)等、追加供給も限定的であったことに加えて、2018年2月26日にパプアニューギニアで発生した地震(4月中旬まで出荷停止)の影響もあり、3月中旬まで8$/MMBtu台後半、4月中旬まで7$/MMBtu台半となっており、2017年の同時期と比較しても約2$/MMBtu程度高値で推移している。2016年末から2017年初の価格上昇は供給支障に気温要因が重なり、急激な価格上昇と、その後短期間で価格が低下したのに対し、2017年から2018年にかけては、新規プロジェクトの稼働開始・稼働増を中国の需要増が吸収し2017年10月頃からは前年同月を1~2$/MMBtu上回る水準での推移となっている。直近に公表された、2018年4月の日本向けスポットLNG価格(経済産業省公表、契約ベース)は9.1$/MMBtuとなっており、石油価格連動のJLCに比べれば優位性があるものの、非需要期としては2014年以来の水準となっている。
2018年下期以降は、油価の上昇、米国・豪州・ロシア(Yamal)等建設段階のプロジェクトが多数稼動を開始する見通しがあるものの、これまでのところ、商業運転を開始したのは、米Cove Point LNG(液化能力525万トン/年)のみであり、総じて若干の遅れとなっており、春から夏にかけての非需要期であっても供給過剰には至っていない。中国等の需要は引き続き堅調で、特に、LNG需要の約50%超を占める北東アジア(日・中・韓)において、気温要因のもよるものの冬季需要が発生する傾向は続くものと考えられる。米、豪の新規プロジェクトが本格稼働する2020年頃かけて、需給年間の供給力には余裕が出てくるものの冬季の需要期の価格高騰が引き続き懸念される。
3.需給動向 (天然ガス)
(1)埋蔵量・需給動向
IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)は2017年11月、2040年までの将来シナリオ、エネルギー需給に関する年次レポートWorld Energy Outlook 2017(WEO2017)を公表した。レポートの中心的なシナリオである「新政策シナリオ」(New Policies Scenarios)においては、パリ協定に基づいて各国が提出した貢献(Nationally determined contribution:NDC)に基づく温暖化対策等を含む、各国が将来導入を検討する政策を盛り込んだものとなる。同シナリオにおいて、天然ガス需要は2040年に向け約45%の増加となるが、需要増のうち、中東(2016年477Bcm→2040年795Bcm)、中国(2016年 210Bcm→2040年610Bcm)の伸びが顕著となる。供給については、欧州(英国・蘭・ノルウエー等)での生産減(2016年285Bcm→2040年236Bcm)に対し、シェールガス等により北米(2016年960Bcm→2040年1,338Bcm)、中国(2016年137Bcm→2040年336Bcm)や、中東でも豊富な埋蔵量を背景にイラン(2016年190Bcm→2040年338Bcm)での増加が見込まれている。
また、資源量の合計は、796Tcmとなり、このうち、在来型が432Tcm、シェール・炭層メタン等非在来型の資源量が365Tcmとなっている。2040年時点では、生産量のうち非在来型(シェールガス・炭層メタン等)は、1,654Bcm/年と、全生産量のうち約30%を占める見込みとなっている。
(2) 価格見通し・価格前提
1.IEA
2017年11月に発表されたIEAのWEO2017においては、油価とともにLNG価格の将来見通しが引き下げられた。特に、米国は埋蔵量、追加生産の柔軟性から、HH価格がLNGの価格を決める指標となることが指摘されている。油価連動方式も残るが、アジア向け価格と米国価格の差は5$/MMBtu(液化コストと輸送費用に相当)また、日本着の天然ガス(LNG価格)は、油価(2016年41$/bbl→2040年111$/bbl)にくらべて、緩やかな上昇(7.0$/MMBtu→10.6$/MMBtu)を想定している。
なお、上記価格についてはForecast(市場レポートでは今後の市場がどのように変化するのかについて各国の政策や外部環境などを基にアナリストが分析した予測値)ではなく、シナリオに含まれる政策が実行されたときの、Projection(予測、計画、案に近い)ものであることにも留意する必要がある。
2.米EIA
2018年2月に公表された、米エネルギー省情報局(EIA)のAnnual Energy Outlook(AEO)では、米国天然ガス価格(HH価格)は低コストで開発できる資源量が豊富にあること等により前年見通しより大幅に引き下げられ、2030年4.26$/MMBtu(2017年予測は5.0$/MMBtu)、2040年4.50$/MMBtu(2017年予測は5.07$/MMBtu)となった。米EIAからは日本着価格の想定は示されていないが、仮に液化に必要な燃料費・域内パイプライン費用等をHH価格の115%、液化コストを3$/MMBtu、パナマ運河を経由した日本までの輸送費を2$/MMBtuと想定すると2030年9.9$/MMBtu、2040年10.2$/MMBtuとIEAの想定を下回る。
4.需給動向(LNG)
(1) 供給
2017年には、豪州・米国・ロシア・マレーシアから、4プロジェクト・5トレインの合計25百万トンの液化能力が増加した。
これら新規プロジェクトに加え、2016年に稼働を開始したプロジェクト(合計3,590万トン/年)の稼働増(ランプアップ)も含め、豪州(+10.7百万トン)、米国(+9.6百万トン)からの供給が大幅に増加した。
また、既存プラントの稼働増によりアンゴラ(+2.8百万トン)・ナイジェリア(+2.6百万トン)からの供給が増加する一方、最大供給国のカタール(液化能力77百万トン/年)が一部設備のメンテナンス等により2016年より2.1百万トン減少、2015年に停止したイエメン(液化能力6.9百万トン)については依然稼働が停止している。
また、2018年以降に、稼働を開始する液化プロジェクトは、88百万トンとなっており、既に稼働を開始した、米Cove Point LNGを始め、今後、順次稼働を開始する。ただし、大型のプロジェクトを中心に総じて稼働が少しずつ遅延しており、稼働後も液化能力どおりの生産になるまでには数カ月単位での時間を要することもふまえるとこれらのプロジェクトからの大幅な供給増は2020年以降となる可能性もある。
なお、上記建設中のLNGプロジェクトに加え、計画段階のLNGプロジェクトも多数存在する。米国、東アフリカ(モザンビーク)、ロシア(サハリン拡張)等、需要の確保を前提に最終投資決定に移行可能なプロジェクトも約2.5億トンを超え、2030年頃までの世界の需要増にも対応は可能と考えられる。
なお、今後の供給増、取引(航路)を考える上でも重要となるカタール、米国(パナマ運河経由での北東アジア向け供給)、ロシア(北極海航路)についての最新状況は以下のとおり。
1.カタールからのLNG供給拡張
カタールとイランの領海には世界最大となるガス田があり、北側はイラン領域でサウスパースと呼ばれ、南側はカタールの領海にありノース・フィールドと呼ばれている。埋蔵量は、カタール側で900tcf、イラン側の500tcfを合わせて、1400tcfに達するとの見方がある。2017年4月にはノース・フィールドガス田開発モラトリアムの解除(2bcf/d、LNG換算1,500万トン/年)を表明、さらに、2017年6月にはこれを4bcf/d(LNG換算3,000万トン/年)に変更し、さらなる拡張方針を明らかにした。
その後、カタール石油(Qatar Petroleum :QP)は、ノース・フィールドの拡張プロジェクトについて、2018年3月に陸上設備の基本設計(FEED)を千代田化工建設、2018年5月に沖合設備(6つの洋上プラットフォーム、ジャケット・関連設備、陸上へのパイプライン)の詳細設計・建設承認を米マクダモット(MacDermott)と行うことを明らかにした。2018年中にEPCI(Engineering, Procurement, Construction and Installation)契約を行い、2019年には掘削開始、2023年末までに、LNG生産開始を目指す。同プロジェクトでは、カタールの北部沖合のノース・フィールドガス田の南部から、4.6bcf/d(LNG換算約 3500万トン/年)の天然ガスを原料ガスに、LNGについては合計23.4百万トンの液化設備を増設(7.8百万トン×3系列。さらに、将来1系列拡張を想定)するとともに、エタン3000トン/日、コンデンセート18.5万b/日、LPG8,500トン/日、ヘリウム12トン/日の生産を予定しており、合計すると、原油換算で100万b/日の追加となる。
2.米国産LNG
2016年2月の米国Sabine Pass LNG基地からのLNG初出荷、2016年6月の拡張パナマ運河の開通により、「シェールガス革命」の影響が北米域内に留まらず、いよいよ国際的な天然ガス・LNG市場に及ぶこととなった。日本向けにも2016年12月にSabine Pass基地を出港したLNG船「Oak Sprit」号が、パナマ運河を通行し太平洋・津軽海峡を経由して約1ヶ月の航海の後、2017年1月に中部電力上越火力発電所に到着し、初の北米本土からのLNG輸入となった。Sabine Pass LNGは、第4トレインまで商業運転を開始しており、2017年夏季のメンテナンス、ハリケーンの影響もあったが、総じて安定した操業・輸出を継続。これまでの輸出実績は、アジア向け41%、中南米向け34%。特に、冬季の需要期アジア向け輸出が増加した。欧州向けには、2017年1月の厳冬期に増加したものの、その後減少した。輸送コストや再ガス化コストも含め、経済性をみながら、柔軟に供給がなされている。
米ドミニオン社が推進する、コーブ・ポイントLNG輸出プロジェクト(生産能力525万トン/年)が、2018年3月1日 初カーゴ(試運転カーゴ)出荷、2018年4月9日 商業運転開始。ST Cove Point (住友商事と東京ガス共同事業会社)と印GAILが20年間の液化加工契約(各230万トン/年)を締結。ST Cove Point社は、東京ガスグループに年間140万トン、関西電力グループに年間80万トンを輸出予定。米国本土48州のLNG輸出プロジェクトとしては、米シェニエールサビーン・パスLNGプロジェクトに続く2件目。日本企業が液化加工委託・引取として関与するLNGプロジェクトとしては1件目となる。
なお、米国本土48州における稼動済・建設中のLNG液化プロジェクトのうち、最終需要家が想定されているのはこのうち約半数であり、アジア買主は、約2,500万トン、日本買主は約1,000万トンとなっている。しかしながら欧州・南米と比べて北米メキシコ湾からの輸送距離が長くなるアジア買主については、仕向地制限が課せられない北米産LNGの特徴もふまえ、引渡し場所・形態(FOB/DES)・需給にあわせた最適化のための検討が進んでいる。また、日本よりさらに輸送距離が長くなるインドGailはSabine Pass LNG基地からのカーゴに関して、2017年3月にスイスのトレーダーGunvorとSWAP取引[1]を締結するとともに、国内ガス導管網の遅れによる国内需要の低迷もあり、FOBでのスポットベースでの販売も行っている。インドネシア・PertaminaもCorpus Christi LNG からの引取量に関して、Shell、Total[2]とのSwap取引を予定している。
また、現在、拡張パナマ運河は、開通後に運用を習熟までの間、LNG船は1日1隻、片方向だけの予約枠となっている。仮に、1隻7万トンのLNGを輸送する場合、年間約1300万トン程度が上限となる。パナマ運河側も、2018年下期以降、予約枠の拡大等運用が緩和・改定に前向きとされており、流動性の高い、需要に応じて柔軟に仕向け地を調整するような柔軟な取引に際してのボトルネック解消に向け、改善が期待される。
3.北極海航路とYamal LNG
2017年12月、ロシアYamal LNGが生産を開始し、12月8日、Christophe de Margerie号によりSabetta LNG基地から初出荷となった。当初、第一船は、11月に出航し、北極海航路により中国CNPC向けの供給と報道されていたが、プロジェクトが約1カ月遅れ冬季に入り、結果的に欧州向(英国Isle of Grainで積み替えられ、最終的には米国Everett)に供給された。
北極海航路を通じたアジア向けLNG供給は、2012年に冬を前にした最後の期間でもある、11月7日にノルウェースノービット(Snohvit)LNG基地を出港したOb River号が、九州電力戸畑LNG基地向の輸送が行われている。今後、海氷の状況にもよるが、7月~11月には、砕氷船の支援により、北極海航路によるアジア向けLNG供給が行われる。冬季については、欧州での積替え後スエズ運河を通じた輸送が必要で、需給に応じた柔軟な供給には、地域を超えたSwap取引等による最適化がより重要となる場面も生じてくるだろう。
(2) 需要
1.世界のLNG需要動向
2017年に新規稼働開始した再ガス化基地は5基地(中国2基地、マレーシア、マルタ、パキスタン)合計11.5百万トン相当で、そのうち2つ(マルタ・パキスタン)がFSRUによる導入となった。また、上記11.5百万トンのほかにもシンガポール・タイでのLNG受け入れ基地拡張があり、新規・拡張の合計20百万トンの再ガス化能力の増加となった。
現在、24基地(FSRU15・陸上9)が建設・計画中で、そのうち5基地は中国となっている。また、8基地が拡張を進めており、これらの再ガス化能力合計は103.5百万トン、このうち、54.1百万トンがアジアに位置している。
2017年のLNG輸入量(純輸入量)は、地域別に見ると、アジア2億1,118万トン(73%)、欧州46百万トン(16%)、北米・中南米1,680万トン(6%)となっている。国別にみると、日本が引き続き最大の輸入国であるが、中国政府が大気環境改善に向け、急速な天然ガス転換を進めたことで、39百万トン(前年比11.6百万トン、42%増)となり、韓国を上回り、世界第二位のLNG輸入国となった。韓国は、LNG火力発電需要増のため38百万トン(前年比3.6百万トン、10.6%増)となったほか、高気温による夏季の発電需要により欧州南部(仏・スペイン・トルコ)でのLNG輸入が増加している。また、エジプトは、Zohrガス田の生産開始により輸入量が13百万トンの減少となり、中東エリア全体でみても、15.9百万トン(前年比▲1.5百万トン、▲9.1%)と唯一減少したエリアとなった。
新興国では、新規FSRUの稼働が進んだパキスタンが1.7百万トンの増加となったが、LNG価格の上昇により、インドでの輸入量は、19.2百万トン(前年比0.3百万トン、0.2%増)にとどまった。
2.日本のLNG需要動向
日本の2017年LNG輸入量は83.5百万トンで、2016年とほぼ同水準(0.18百万トン、0.2%の増加)となった。なお、日本向けの原油輸入における中東依存度は、依然87%となる一方、LNGの中東依存度は約21%となった。豪州からの長期契約増加、カタールからの短期・スポット取引の減少により2016年の23.6%から減少している。
なお、LNGの需給に直接的に影響する原子力発電所の稼働については、2017年には、関西電力高浜4号機が新たに再稼働した。2017年の原子力発電の発電量は、305億kWh(発電端)であり、2016年の182億kWhから124億kWh増加したものの、東日本大震災前の2010年の2,924億kWhと比較すると10.4%の水準に留まっている。今後、2018年末までに大飯3号機・4号機、玄海3号機・4号機を含め、合計9基の再稼働が見込まれている。100万kWクラスの原子力発電所が年間を通じて稼動すれば、約80~100万トン/年のLNG火力の稼動減要因[1]となり、不確実性は残るものの、順次再稼動が進めば、今後LNGのスポット市場のさらなる緩和要因ともなる。
なお、2015年7月経済産業省 長期エネルギー需給見通しによれば、2030年の天然ガス需要は約6,300万トンと長期的には減少する見通しである。しかしながら、想定した原発の再稼動、省エネの進展、再生可能エネルギーの増加等の進展度合によっては、LNGが補完的な役割を果たすことも考えられる。
[1] 原子力発電所年間稼働時間6000~8000時間/年。LNG火力の発電効率50%(HHV)、発電量60億~80億kWhの場合、燃料用LNG約80万トン/年~100万トン/年と想定
北米・豪州における新規LNGプロジェクト開始は若干遅れているものの、日本のLNG長期契約の合計は、2020年代前半まで概ね需要を上回る数量を確保している。一方、既存の長期契約の終了も続き、カタールとは、2017年時点では約900万トン/年の長期契約を有するが、2021年から2022年までに約700万トン相当が長期契約の期限を迎える。
JERAは、事業計画等でも約4000万トン(長期(既契約)3500万トン、短期/スポット契約500万トン、2016年7月時点)の燃料調達のうち、2030年時点で残る長期契約(既契約1500万トン/年)以外を弾力性に優れた、短期/スポット契約と、経済性・安定性に優れた長期契約を組み合わせて調達するとしている。直近でも、2017年10月のマレーシアLNG社とのLNG売買に関する基本合意においても、年間最大250万トンで2018年4月から3年間の中期の契約となった。また、英Centrica向(英国Isle of Grain向)LNG売買契約、EDF Trading(欧州LNG基地向け)のLNGの販売・LNGポートフォリオの最適化のための基本合意等、不確実性に対処するための方策を進めている。
2016年4月に始まった電力市場の全面自由化、2017年4月に開始されたガス市場の全面自由化は、世界最大のLNGの買い手である日本の電力・ガス企業の調達行動にも大きな変化を及ぼしている。
また、原発の再稼動・再生可能エネルギーの動向にも左右される需要見通しの不確実性が高まっており、一定数量は短期・スポットにより競争市場で確保しながら、安価な天然ガス調達と、柔軟かつ多様なLNG調達の選択肢(調達先・調達期間・価格フォーミュラ)の両立は、より難しい課題となってきている。
3.中国の天然ガス・LNG需要
ⅰ)2017年天然ガス・LNG需要
中国は2017年に液化天然ガス(LNG)の輸入について韓国を超え、日本に次ぐ世界第2位のLNG輸入国となった。特に、冬場の需要期を前に中国のLNG需要の急増により、北東アジアのLNG市場がタイト化し、スポットLNG価格は、2017年9月以降上昇(前年同月から1.5~2$/MMBtu程度高値で推移)する要因となった。
2017年の天然ガス消費(生産+純輸入)は前年同期比15%増(30Bcm増)の237Bcm(LNG換算約1億7300万トン)となり、消費の6割を国産ガスが、4割を輸入が占める。国内の天然ガス生産は8%増(10Bcm増)の147Bcm(LNG換算約1億800万トン)であり、このうちシェールガスの生産は前年比14%増の9Bcm(生産の6%)であった。また、天然ガスの輸入量は93Bcm(LNG換算約6800万トン)で前年比27%増(20Bcm増)と大幅に増加した。パイプラインを通じトルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタン、ミャンマーから天然ガスを輸入するとともに、LNGの形でオーストラリア、カタール、インドネシア、マレーシア、パプアニューギニアから行う他、輸入している。輸入LNGは輸入の56%、消費の22%を、輸入パイプラインは輸入の44%、消費の17%を占めた。輸入の8割はこれらの国と締結している期間20年前後の長期売買契約によるものである。
中国の天然ガス需要急増の要因として世界経済が比較的好調であったことや、5年に一度の共産党大会開催にあたり、インフラ投資などの景気刺激策が需要を喚起したことがあげられるが、しかし最大の要因は大気汚染改善への対応で石炭から天然ガスへの転換政策が急速に進められたことにある。
2013年7月に国務院は「大気汚染防止に関する10条の措置」を発表し、各地方政府幹部に対する目標責任制度を導入した。目標最終年である2017年8月には、大気汚染が深刻かつ人口の多い北部主要都市への梃入れのため、環境保護部は北京、天津市および河北、山西、山東、河南省などの26都市(通称“2+26都市”)に対し、「2017年秋冬季(17年10月~2018年3月)の大気汚染改善行動計画」を公表、対象地域におけるPM2.5濃度ならびに石炭から天然ガスへの転換世帯数、石炭消費削減、石炭ボイラー淘汰数について数値目標を設定、開示し、各地方政府に遂行を求めた。
2017年10-11月の時点では対象28都市中河北省邯鄲(Gandan)市、山西省晋城(Jincheng)市、山東省済寧(Jinin)市など7都市が目標を達成できていなかったが、2018年1月8日付で環境保護部が公表した2017年10-12月の状況では対象28都市全てが目標を超過達成していた。目標未達による処罰を恐れた地方政府幹部が天然ガスの確保が不十分なままも急速な石炭から天然ガスへの転換を先行させた結果、天然ガスの不足が深刻化したと思われる。
大気環境の目標を達成する一方で、2017年末から2018年初頭にかけて中国の北部を中心に深刻な天然ガス不足が生じた。北京などの北部は11月から3月にかけて冬季の集中暖房需要期にあたり、天然ガスの不足が起きることは珍しくはないが、目標未達による処罰を恐れた地方政府幹部が天然ガスの確保が不十分なままも急速な石炭から天然ガスへの転換を先行させた結果、天然ガス需給がひっ迫、国内LNG卸価格が高騰した。
国内LNG卸価格とは全国の国産LNG液化プラントおよびLNG受入基地の卸価格平均を指す。
中国には国産ガスを液化した”国産LNG”(新疆から上海や広東など需要地のサテライトステーションなど需要地までLNGローリーで輸送されたりする)と日本と同様にLNG船で輸入する輸入LNGがある。国内LNG卸価格はもっとも高騰した12月には前年の2倍上昇し、20ドル/MMBtuを超えた。同じ時期のLNG輸入価格は前年同期比1~2割の上昇(8ドル/MMBtu前後)にとどまっていた。天然ガスの不足に対し政府はピーク調整(産業向けの供給を制限し家庭向けの供給を優先)を行っていたが、国産LNGについて価格吊上げや不当販売が横行していた模様である。また、天然ガスの供給制限や価格急騰を受け、操業停止に追い込まれる企業が出るなど、経済活動にも影響が生じた。例えば独BASFは12月に重慶市の40万トン/年の化学プラント(MDI:ポリウレタンの原料)で水素製造に必要な合成ガスの天然ガス供給不足によりフォースマジュール(不可抗力)を宣言した。中国に進出している日本企業も北部・南部に限らず供給の削減や、前年より消費が超過した分について割増請求をされるなどの影響が出た模様である。
2017年12月には、中国政府は「北部の冬季クリーン暖房化計画(2017~2021年)」(以下、「クリーン暖房化計画」)を公表した。中国北部(暖房面積206億m2)では、冬季の暖房の83%が石炭燃焼によるもので、約4億トン/年の石炭が消費されており、特に農村部において粗悪な粉状の“散焼煤”が使用されている。クリーン暖房化計画では、2021年までに、天然ガス、地熱、バイオ、ソーラー、工場排熱 、超低排出 クリーンコールによるCHP(Combined Heat and Power)、ボイラー等による暖房といったクリーン暖房比率を70%に引き上げ、“散焼煤” 1.5億トンを代替する。代替の主体は、クリーンコールによる代替であり、天然ガスへの一部にしかすぎないが、それでも、2021年までに同計画だけでも天然ガスは2021年までに23Bcm(LNG換算約1,680万トン、年平均420万トン)の追加需要が見込まれる。
ⅱ) 今後の見通し
中国政府は13次五か年計画(2016~2020年)において石炭ボイラーから天然ガスへの転換や交通輸送分野における石油から天然ガスの燃料転換を進め、2020年までに天然ガスの1次エネルギー消費に占める比率を現在の6%から8.3%~10%(261~315Bcm、LNG換算1.9~2.3億トン)に高める目標を設定している。また、2017年8月に公表された「エネルギー生産・消費革命戦略」では2030年のエネルギー消費を42億toeに抑制し、天然ガスの比率を15%以上、再生可能エネルギーの比率を20%以上に高める目標が設定されている。同戦略に基づき2030年の消費構成を石油換算42億toeとした場合、天然ガスの消費は568Bcm(LNG換算4.1億トン)を上回ることとなる。
ただし、IEAやCNPCなどは2030年の中国の天然ガス需要について425~480Bcm(LNG換算3.1~3.5億トン)と政策目標に比べ控えめな見通しを示している。
政府は中期的な需要増に対し国産ガスの供給増加、天然ガス・LNGの輸入増加ならびにインフラの整備(幹線パイプライン・LNG受入基地の新増設、南北地域間輸送網の連携、地下貯蔵設備、都市ガス配管網の整備など)を進めている。
国産ガスの供給についてシェールガスや炭層ガス(CBM)など非在来型の供給が伸び、2030年には190~270Bcm(LNG換算1.4~2億トン)に達すると見られるが、IEAやCNPCの需要見通しに対して不足する155~290Bcm(LNG換算1.1~2.1億トン)を中国国外から調達する必要がある。
現在のLNG長期契約量は約4,200万トン(58Bcm)に対し、長期契約に基づき、2017年は31百万トン(42Bcm)が輸入された。一方、締結済みの輸入パイプラインガスの長期契約量は128Bcm(LNG換算約9400万t)[1]となっているが、2017年の輸入量は41Bcmに留まる。トルクメニスタンをはじめ中央アジアからの輸入は上流のガス田の開発の遅れ等もあり伸び悩んでおり、中長期的に契約量を下回る懸念があるが、ロシアからの輸入は東シベリアの開発が進めば上振れする可能性もある。
IEAの2030年需要見通し(480Bcm)、国産ガス生産量見通し(260Bcm)、パイプライン既契約(128Bcm)、LNG長期契約(58Bcm)を前提にすれば、35Bcm(LNG換算 26百万トン)の追加調達・供給が必要となる。
しかしながら、中国のエネルギー需要見通し、天然ガス需要見通しは政策により大きく変動する上、国産ガスの生産量や輸入パイプラインガスの供給量にも左右される。これらの変動を補うために、国際取引市場からのLNG調達が行われれば、同じ北東アジアでのエネルギー輸入を行う日本(韓国、台湾)等にとっての影響も大きく、自国の需給と同様に注視していく必要がある。
[1] トルクメニスタン65Bcm/年、ウズベキスタン10Bcm/年、カザフスタン10Bcm/年、ミャンマー5Bcm/年、ロシア38Bcm/年
5.世界のLNG需給バランス、まとめ
2014年以降続く低油価・低ガス価とその長期化、また、長期の需要見通しの不確実性から、最終投資決定を経て建設段階に移行したのは、2016年にはインドネシアTangguh(拡張、3.8百万トン)、米国Elba Island(2.5百万トン)の2件のみ、2017年には、BPが全量を引取るモザンビークCoral FLNG(3.4百万トン)、2018年は米国Corpus Christi LNG(Train3 4.5百万トン)の1件に留まる。
米国等で建設段階にある大規模プロジェクトが順調に稼働すれば、2020年代初め頃には一旦需給が緩和(2000~3000万トンの供給余力)となるが、想定外の供給支障、建設遅延が生じれば、簡単に需給がひっ迫する可能性もある水準である。中国・新興国を中心に需要も増加しつつあり、需要の確保を前提にFIDに移行できる計画段階のプロジェクトは多くあっても、FIDから稼働開始までの約5年のリードタイムを勘案すると、2022年以降の潜在的な需給逼迫の懸念も現実的になりつつある。
また、年間を通じた需給のバランスはとれていても、想定外の供給支障、冬場の需要期にはスポット価格の高騰が懸念される。
プロジェクトの開始までに多額の初期投資が必要なLNGプロジェクトの実現には、約8割~9割に相当する数量の引取を前提とした長期契約が前提となってきた。長期契約がなくとも、スポット市場での販売し最終的には欧州市場での受け入れも可能であるが、NBP先物ガス価格[1]を前提すると、積地FOB約4~5$/MMBtuを下回るコストで事業性が見込めるのは、コンデンセート・LPGによる収入も見込めるカタールに限られる。カタールは、2023年末までに2,340万t(さらに、1系列780万トン拡張)超の拡張計画があるが、2020年代後半の需要増に対しては、カタール以外の供給増は必須となる。
これまでLNG市場の中長期的な発展を支えてきた伝統的な買主は、自国内の自由化、他燃料との競合、原発の見通し等将来の需要の不確実性から、より柔軟性が高く、短期の契約も必要となり、また、新興国を中心に見込まれる新たな買主は、規模、信用力ともに、これまでの、欧州・アジアの買主と同様の役割を果たすことは難しい。一方で、新規プロジェクトの立ち上げには、一定量の需要の確保は必要であり、複数の供給減、供給先を有するポートフォリオプレーヤーや、発電等需要開拓まで含めた新興国需要への取り組みがより重要になると考えられる。
[1] 2025年までの先物価格5~7$/MMBtu(季節により変動)から、再ガス化費用(仮に0.75$/MMBtu)、輸送費(米国・カタール等からの約1$/MMBtu)を差し引いて、積地出航時点での価格想定。
以上
(この報告は2018年5月25日時点のものです)