ページ番号1007531 更新日 平成30年5月28日

中国:取引開始から間もなく3か月目を迎える上海原油先物

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レポートID 1007531
作成日 2018-05-28 00:00:00 +0900
更新日 2018-05-28 15:10:04 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場基礎情報
著者 竹原 美佳
著者直接入力
年度
Vol
No
ページ数 6
抽出データ
地域1 アジア
国1 中国
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
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地域6
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地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アジア,中国
2018/05/28 竹原 美佳
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概要

・中国上海で原油先物取引が始まってから2か月が経過した。中国は自国の需要動向を価格に反映させることを目指している。また人民元の国際化戦略につなげたい思惑があるとされる。

・現在、原油先物取引には中国国有石油企業Sinopec傘下のトレーディング会社UnipecやSinochemなど中国企業の他GlencoreやTrafiguraなど外国の大手トレーディング会社が参加している。

・取引開始から1か月で取引高はドバイ取引市場を上回り、SinopecとShellの間で上海原油先物価格に連動した中東原油供給契約が締結されるなど順調な立ち上がりを見せている。

・米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)は、為替変動リスクなどの課題を示しつつも中国の原油先物がアジアの価格指標として存在感を示す可能性を指摘するレポートを発表した。

・一方、取引の主体は国内の個人投資家で、価格は他の原油先物市場に連動しているだけであり、取引も期近に集中しており、人民元の国際化にもつながっていないという冷ややかな見方もある。

・上海原油先物は取引開始からわずか2か月で取引高は急増したが、価格指標として存在感を示すには至っていない。上海先物が価格指標となるためには中東産油国がアジア向け輸出価格をPlatts連動から上海先物に変更することが鍵となる。

 

はじめに

2018年3月26日に上海先物取引所傘下の上海国際エネルギー取引所(Shanghai International Energy Exchange;INE)は原油の先物取引を開始した。

世界の石油市場は域内の石油消費を背景に北米、欧州、アジアの三大市場が形成されている。北米市場はWTI、欧州はBrentが現物取引の価格指標(マーカー原油)である。アジアの原油市場はドバイ原油とドバイ取引所(DME)におけるオマーン先物がベンチマークである。中東産油国のアジア向け輸出価格OSP(Official Selling Price)はエネルギー関連情報配信社プラッツ(Platts)が日々発表する原油のスポット価格に基づき決定される。プラッツの原油価格は東京工業商品取引所(TOCOM)のドバイ原油の取引を反映したプラッツ・ウィンドウの価格に基づいて評価、決定される。世界最大の原油輸入国である中国は、値決めに自国の需要動向を反映させるべく、独自の価格指標構築を目指している。また、人民元建ての原油先物取引を行うことで、人民元の国際化戦略につなげたい思惑もあるとされる。

 

国際的なトレーダーの参加と取引高の急増

上海INEの原油先物取引には国有石油企業Sinopec傘下のトレーディング会社UnipecやPetroChina傘下のChina Oil、さらに国有トレーディング会社のSinochemや北方石油などの国内企業の他、国際的なトレーディング企業のGlencoreとTrafiguraが参加している。またUnipecは3月にShellとの間で上海先物原油価格に連動した中東原油の供給契約(期間1年)を締結した。

INEの初日3月26日の取引高は4万2336枚(約4234万バレル)であった。しかし1か月後の4月26日に取引高は10万9334枚に、約2か月後の5月22日には13万3112枚と初日に比べ3倍に増加した(図1)。5月22日までの平均取引高は10万枚に達している。1日20万件前後の取引が行われるBrentやWTIに比べ劣後するものの、3000~5000枚[1]のドバイ取引所(DME)を大きく上回っている。

[1] COLUMN-Shanghai crude oil futures look successful, but issues lurk: Russell (Reuters18/5/2)

図 1:上海原油先物取引高・価格

米EIAは上海の原油先物がアジアの価格指標として受け入れられる可能性を指摘

米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)は4月24日の“This week in petroleum”において、アジア太平洋の石油需要が増加し続ける中、需給を反映する中国の原油先物がアジアの価格指標として存在感を示す可能性を指摘した[1]。EIAは「アジアではベンチマークとなる取引は行われていない。ドバイ(DME)におけるオマーン先物がアジアの原油市場を代表するという見方もあるが、その取引高は2007年の取引開始以来限定的である。アジア太平洋地域の石油需要は2017年の世界の石油需要の35%以上を占め、多くの国が輸入に依存している。現地の需給に基づく価格指標は価格変動リスクをヘッジする」と指摘し、現地の需給に基づく価格指標が価格変動リスクのヘッジにつながることを利点にあげた。

一方、EIAは米ドルと人民元の為替レートは、2017年4月24日から過去1年で8%変動したと示した上で、「上海の原油先物は人民元による決済のため為替変動リスクがあると指摘した。さらにオマーン、BrentとWTIの先物取引はいずれも生産地近傍で行われているが、上海の原油先物は生産地から離れた受け渡しとなるため、変動する輸送コストの影響を受ける可能性がある」と指摘し、為替リスクと輸送コストの影響を課題にあげた。

この他EIAは上海原油先物と他のベンチマークの取引を比較し、上海先物の取引高はBrentやWTIのそれに比べると少ないがオマーンを上回っている(図1)と指摘した上で、国外投資家への税制優遇や他の商品先物取引も行われていることから、原油先物について広く受け入れられる価格指標になるかもしれないとレポートをしめくくっている。

[1] New Chinese crude oil futures contract could become Asian price benchmark (EIA18/4/24)

図 2:原油先物の取引高(WTI、Brent、オマーン、上海)

他の原油先物市場に影響を与えておらず、人民元の国際化につながっていないとの見方

大手業界紙のEnergy Intelligence社(EIG)や中国国内の報道によると、INEの原油先物は国内投機筋が取引の主体で人民元建の先物契約は、他の原油先物市場に連動しているだけであり、参加者の9割が国内のプレイヤーであり、さらに8割が個人投資家とのことである。また取引高は増えているが、期近の9月渡しに集中しており、その先の契約は極めて少ないと報じられている[1]。またEIGは人民元の国際化には貢献していないと指摘している。人民元の国際化といえば、米国のイランへの制裁再発動を受けて、中国がイランに対し原油貿易決済を人民元で行うことにつながり、人民元の利用が増え国際化につながる。さらにドルの基軸通貨体制に揺さぶりをかけるとの見方が出ているが、他の通貨との相乗効果を考慮してもそこまで影響力があるのか疑問である。

[1]中国原油期货日交易量稳至10万手 与欧美原油期货价格有九成相关性(能源網18/5/14)

 

上海先物は指標価格として存在感を示すには至っていない、鍵は中東産油国の選択にあり

上海INEの原油先物は取引開始からわずか2か月で取引高は急増したが、指標価格として存在感を示すには至っていない。日本の関係者は、上海先物が価格指標となるためには中東産油国がアジア向け輸出価格をPlatts連動から上海先物に変更するかにかかっており、それが実現されない限りは、一つの指標としての位置づけにとどまると指摘した。一方、Platts価格がTOCOMのドバイ原油価格に連動していることから、上海先物がTOCOMとの裁定取引を通じPlatts価格に間接的に影響を及ぼすといった今後の可能性についても指摘した。

参考:INE原油先物取引の概要

上海INEの原油先物はUAEのDubai原油やオマーンのOman原油などミディアム・サワー7油種のバスケットで中国勝利(Shengli)を除き中東の原油である(表1)。数量単位は1000バレル/枚で、最低取引単位は2000枚(20万バレル)、取引コードはSC(Shanghai Crude)である。取引の対象期間は2018年9月から2019年2月までの連続する各限月と2019年第1四半期から2021年第1四半期までの15種類である(表2)。決済は1バレルあたりの人民元(0.001元刻み)で行う。国外の取引者は先物保証金預託銀行に専用の人民元決済口座を開設する必要がある。外貨を保証金として直接使用することができるが、外貨保証金は為替決済後に初めて原油先物取引の決済に用いることができる。INEの原油先物は国外からの投資を呼び込むために税制優遇措置(機関投資家で中国に法人や事務所を登記していない場合は、中国国内の原油先物取引で得た所得に課税しない。また個人投資家については所得税を3年免除など)を設けている。現物の受け渡しも可能である。Sinopec傘下のSinopec Petroleum Researveなど指定貯蔵会社6社が計315万m3の貯蔵能力(払い出し可能)を有する(表3)。海外の投資家を呼び込むためBrentやWTIなどとの裁定取引を行うことを可能とするために指定貯蔵タンクは全てボンディングエリア(中国の税関の許可なしにデリバリー原油を海外に自由に輸送できる)に位置している。

表 1:上海原油先物の油種

表 2:上海原油先物の概要

表 3:指定貯蔵タンク

■主な参考資料
・「世界の石油市場と商品先物取引所」(株)東京工業品取引所市場構造研究所(石油・天然ガスレビュー2011年3月)
・新華社China OGP (2018/3/1)
・Shanghai crude oil futures look successful, but issues lurk: Russell(Reuters18/5/2)
・New Chinese crude oil futures contract could become Asian price benchmark(EIA18/4/24)
・中国原油期货日交易量稳至10万手 与欧美原油期货价格有九成相关性(18/5/14界面新聞)
・International Oil Daily (18/5/15)

以上

(この報告は2018年5月24日時点のものです)

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