ページ番号1007535 更新日 平成30年5月31日
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~ 東地中海各国の関係、エジプトのエネルギー・ハブ化構想およびイスラエル・キプロスの余剰ガスの輸出戦略とこれらの課題 ~
概要
本動向「その3」では、東地中海各国のエネルギー分野における関係、エジプトのエネルギー・ハブ化構想の可能性およびイスラエルとキプロスにおいて生産された余剰ガスがどのように輸出されるか、即ち東地中海パイプライン構想について考察する。
1.東地中海各国の関係
(1)トルコとイスラエル(交渉停止状態)
トルコとイスラエルの関係は、2010年にイスラエルによって封鎖されていたパレスチナ自治政府のガザ地区に支援物資を届けようとしたNGOの船舶が公海上でイスラエル艦艇に撃沈されトルコの民間人10人が犠牲になった事件以来2013年まで冷え込んだ。しかし、イスラエルにはLeviathanガスの輸出先確保、またトルコには天然ガスの国内需要を賄うことおよび供給源の多様化を図る必要があった。イスラエルは2013年にトルコに対してこの事件を謝罪し、賠償金を支払い、トルコはガザ地区の封鎖を解くという外交復活の条件を取り下げた。
その後、2016年6月にイスラエルとトルコの国交は回復したが、その前の2015年からイスラエル・トルコ間のパイプライン協議は続いていた。イスラエルとトルコ南部のメルスィン港をつなぐ全長約550キロメートルに及ぶ海底パイプラインの建設プロジェクトで、輸送量が年間300億立方メートルに及ぶとされた。このうち、トルコ向けが年間100億立方メートルになる見通しで、建設費用は25~30億ドルが見込まれていた。ただし、この計画にはシナイ半島北東部およびパレスチナ・ガザ地区での和平が成立する前提条件があった。
2017年12月にイスラエルの首都をエルサレムであることを容認したトランプ大統領とそれに伴う米国大使館のテル・アビブからエルサレムへの移転に関連して、2017年12月にトルコのエルドアン大統領がイスラエルをテロリスト国家と呼び、また2018年5月大使館移転に対するガザ地区のデモ隊に多数の死者がでたため、トルコは大使を召還、再度関係は冷え込んでいる。
また、イスラエルはトルコへの途上のレバノンとシリアと国交がないため、トルコへの陸上パイプラインの敷設は現状困難である。トルコは天然ガスを100%輸入しており、ロシアへの依存度が高いため、トルコにとって天然ガス供給源の多様化を図ることは重要な課題である。両国の経済的な思惑が強いにも拘らず、かつ両国とも周辺国からも孤立しているにも拘らず、イスラエルからトルコへの直接のパイプラインは実現の見通しは立っていない。ただし、イスラエルはトルコへの天然ガス輸出の可能性はまだ捨てきっていないようである。
(2)エジプトからイスラエル・ヨルダンへ(パイプライン停止)
エジプトは、2011年までシナイ半島を横切りイスラエル(Arab PipelineとEastMed Pipeline経由)とヨルダン(Arab Pipeline経由)にガスを輸出していた。しかし2011年以降の政治的混乱の中、15度に亘ってシナイ半島の陸上パイプラインが爆発されたことおよびエジプトが自国ガス田の開発メンテナンス費用が捻出できなくなり、結果的に輸出用ガスがなくなり2012年に両国に対する輸出は停止した。このイスラエルへのガス供給停止に伴う紛争は、「その2」1.エジプト(12)に述べたとおりである。
(3)イスラエルとレバノン(境界紛争)
レバノン・イスラエル間には国交はない。また、両国間には陸上の国境線と海上のEEZ境界線が確定しておらず紛争は存在するが政治的な対話は行われていない。イスラエルとレバノンの主張が対立する860km2 のEEZ境界紛争のうちフランスTotal、イタリアEniおよびロシアNovatekの国際コンソーシアムが落札したBlock 9はその内180km2を含んでいる(「その2」4. レバノンの項参照)。TotalによるとNovatekが国際コンソーシアムに加わった背景は、ロシアを巻き込んだイスラエル対策だと述べている。
また、レバノンに拠点を置くシーア派イスラム主義のヒズボラはイスラエルの海上ガス田への攻撃を唱えており、そのためヒズボラの攻撃に対処するためイスラエルは4隻のコルベット艦をドイツから購入し2021~22年に配備予定である。
(4)イスラエルとヨルダン(パイプライン輸出開始)
1. 国交がある両国は2015年にTamarガス田からヨルダンの2企業への22億m3の輸出契約がイスラエル政府によって承認された。総額5億ドル(77Bcf、期間15年、$6.2/mmBtu)。イスラエル政府は、国内パイプラインからヨルダンに15km延伸するパイプラインを建設し、2016年開通し13mmcfdの送ガスを開始した。
2. 2016年には、Noble Energyとヨルダンの国営電力公社で450億m3のガス輸出契約が締結された。総額100億ドル(1.6Tcf、期間15年、$6.2/mmBtu)と報道されている。送ガスの時期は不明である。
3. 2017年7月に在アンマン・イスラエル大使館内で起きた、家具職人の少年と大家が警備員に射殺された事件以来イスラエル大使と職員は帰国し不在である。ヨルダンは射殺したイスラエル警備員を正式な裁判にかけない限り大使館の再開は認めないと言っている。従い、ヨルダンの国民感情はイスラエルガスの輸入には反感を持っている。
(5)イスラエル・エジプト(ガス売却契約締結)
2018年2月19日の各誌報道によれば、TamarとLeviathanのオペレーターのNoble EnergyおよびそのパートナーのDelek DrillingとエジプトのSisi大統領に近いとされるAlaa Arafa氏率いる民間企業Dolphinusは、イスラエルガスの売買契約を150億ドルで締結した。販売量は年間約70億立方メートル/年の10年契約で計640億立方メートル(約2.5tcf)である。2017年にエジプトは民間企業も石油・天然ガスを購入することが出来るように法改正を行っていた。
この販売金額には、「(その2)1. エジプト(12)」で触れたEastMedパイプラインの賠償金が含まれているというのがエジプト側の主張であるが、一方、本件紛争はまだ解決していないというエジプト高官の発言もあり実際は不明である。供給期間は10年間。ただし、供給開始時期については2030年までと触れるにとどまる。販売金額に賠償金を含む場合$6.12/mmBtu, そうでない場合は$6.56/mmBtuの単価となる。
販売量は、LNG換算年間約630万トンに匹敵し、エジプトのLNG液化設備が2設備とも完全に稼動すれば処理能力は1,220万トン/年であるから十分処理できる量である。今後、両国政府の承認が待たれる。ただし、契約ではイスラエルのTamarとLeviathanガス田からそれぞれ半分各1.25tcfほど供給するとなっており、特にLeviathanの埋蔵量22tcfからすると販売量としては少ない。またエジプトの国民感情としてヨルダンと同様、イスラエル産ガスを輸入するということについては根強い抵抗感があるのも確かである。実際、両国は国交があるにも拘らず石油省傘下のEGASのWeb Siteに掲載されている地図には、イスラエルという国の存在は、記載されていない。
(6)キプロスとトルコ
北キプロスを承認しているトルコとキプロス共和国のエネルギーを含む関係は「(その2)の3.キプロス」を参照されたい。一言で言うと、トルコの南キプロスの資源開発に対する姿勢の軟化は当分期待できないと思われる。
2.エジプトのエネルギー・ハブ化構想
2017年にSisi大統領は「エジプトを東地中海のハブ化する」と明言した。エジプトはハブとして求められる地理的に有利な地点に位置している。
(1)ハブ化にあたっての現状
更に、ハブ化への道筋として、まず過去の負債をクリアーし、自国のガス事情を安定させることである。現状を整理すると次のとおりとなる。
1. 2011年の「アラブの春」の動乱後、政情不安から海外からの投資が激減。「その2」1. エジプト(2)で述べたとおりエジプトは外国石油・ガス会社に2013年時点で63億米ドル、その後2017年末時点で28億米ドルの負債がある。
2. また、ガス不足に対応するため2015年よりLNGの輸入を開始。2015年260万トン、2016年750万トンそして2017年は617万トンを発電用に輸入した。[1]
3. Zohrの生産開始に伴い、LNGの輸入を2018年末には停止する意向。これに伴い、スエズ湾にて稼働中の二隻のFSRUのうち一隻のリース契約を解約予定。かつ早期に借金の返済を行う。
4. LNG液化基地二ヶ所、計1,220万トンの設備がほぼ遊休状態である。
5. 沿岸部および内陸のパイプライン網は整備されている。
6. Sisi大統領は、Zohr級ガス田をあと10ほど欲しいと述べる。現状では、Zohrをもってしても輸出は続かない(「(その2)1. エジプト P6表4参照」)ため、6-7年後にはLNG輸入国に再度転じる可能性が高い。近隣諸国からガスを受け入れLNG液化を請け負う等エネルギー・ハブ化構想を打ち出した。
7. イスラエル、キプロス、ヨルダンおよびイラクとの対話を開始した。
8. 2018年4月23日にエジプトとEU間でEUがエジプトの電力エネルギー、エネルギー効率化およびエネルギー・ハブ化等を支援するMoUに署名した。
[1] GIIGNL Annual Report 2018
(2)エジプトのハブ化の課題
エジプトはZohrの生産が軌道に乗っても数年間程度の輸出余力しか生じない。その後は、Zohrの生産量の多くが国内消費に向けられることになるだろう。その場合「エジプトのハブ化」という意味は、他国産のガスを受け入れ、自国で消費するのではなくLNGを液化し再輸出するためのサービス提供、即ちTolling Businessを確立させることである。このためには、まず次の条件は満たされなければならない。
1)石油会社への滞納金の完済
2)DamiettaのLNG液化設備の早期改修
3)再輸出のための関税の取り扱い、即ち輸入免税、輸出免税制度などの法制面での整備が必要となる。
また、ハブ化が成功するためには、
1)明確なハブ化への意思表示とキプロス、レバノンやイスラエルとの共存共栄
2)良好な環境の維持。既存のLNG液化設備へ接続するガス・パイプラインの建設等インフラ整備のための投資拡大
3)他国との競争に負けない
欧州市場で他国産ガス、即ちロシア産、リビア産、アルジェリア産パイプラインガスとの競争、またLNGも米国シェールガスLNG、西アフリカ産LNGとなろう。
1)パイプラインガスとLNG価格では、一般的にパイプラインガスのほうが安価である。詳細なデータは掴めていないがロシア産パイプラインガスで季節変動要因を除けばドイツ到着ベースで$5-6/mmBtuと推定されている。一方、イタリアやスペインに運ばれるアルジェリア産、またイタリアへ送り込まれるリビア産のパイプラインガス価格は不明である。
2)LNG価格競争力という観点からすると、米国産シェールガスに由来したLNG価格(欧州到着ベース)との比較となる。エジプトのLNG液化設備は年数を経過している(2005年生産開始)ため減価償却は進んでいるだろうが、一方、補修費用が嵩んでくる可能性はあるものの、Tolling Charge(液化コスト)は安めになる可能性はある(米国液化コスト$2.5-3.5/mmBtu)。イスラエル産パイプラインガスの輸出価格がエジプトでの出口で、1.(5)で見たとおり$6/mmBtuを超える場合は、これに液化Tolling Charge($2.5)、欧州までの輸送コスト($0.5)、再ガス化コスト($0.5)加えると、欧州到着では$10/mmBtuを超えてもおかしくはない。ただし、イスラエルからエジプトへの輸送方法はパイプラインとなろうが、輸送ルートが白紙の状態に近いためパイプライン使用料が不明でありこの計算には含まれていない。
他方、米国産LNGはHenry Hubでの価格が$3/mmBtuと仮定し、手数料と液化コスト($2.5~3.5)を加え、輸送コストは距離が長いため若干高めとなることを考慮すると、再ガス化を含め、$9/mmBtuと大きな差は開かないとしてもエジプトから欧州向けガス価格は米国産ガス価格を上回ることは確実だろう。
しかし、2022年とも23年ともいわれている天然ガスの需給関係の逆転、即ち需要が供給を上回ると状況が変わるかもしれないし、また、LNGという行き先(出口)が固定されていない商品の柔軟性という側面は無視できない。
加えて、更なるガス田の発見は、景色を変える可能性を持つ。4-5tcf以上のガス田が東地中海で更に2-3発見されたら、エジプトの既存LNG液化設備の拡張が視野に入ってくるだろう。
3.イスラエル、キプロスガスの輸出戦略
(1)キプロスのAphrodite ガスをエジプト液化設備へ供給
エジプトの石油大臣Tarek al-Mulla(ターレク・ア・ムッラー)は、2018年2月ロンドンでの「石油週間」においてキプロスとエジプトを結ぶガスパイプラインを建設することでキプロス政府と仮合意書を締結したと述べた。詳細は今後詰めることになる。イスラエルのLeviathanのガスがTie-inするかどうかについては現時点で言及はない。Leviathan とAphroditeは共にオペレーターはNoble Energyであるので、Tie-in実現の可能性は比較的高いと思われる。
(2)イスラエルとキプロスガスのエジプトへの輸出ルート
イスラエル・キプロスからエジプトLNG液化設備にどのようなパイプラインルートを経由するか。この場合のLNG液化設備はDamietta LNGとIdkuのELNGを使用することが条件となる。
1. Damiettaは改修が必要であり、それには数百万ドル必要とされている。早くても2022年以降の再開となる見込み。
2. ELNGは、現在少量ながら稼働中である。
3. エジプトのガスの生産量のうち輸出に回せるのは6年間程度と見込まれるが、キプロスとイスラエルのガス液化を引き受ける受託液化(Tolling)ビジネスが確立 されるのであればエジプトのハブ化、そして将来更なる中大型ガス田が2-3発見されればLNG液化設備拡張(トレイン増)の可能性はある。
イスラエル・キプロスからエジプトへのパイプラインルート輸送ルートはまだ決まっていないが、次の案が考えられている。
1. 第一案としてEMG Pipeline(EastMed Gas Pipeline:エジプト・アリシュ~イスラエル・アシュケロン)を逆方向に使用する方法。2018年2月23日にエジプトのイスマイル首相は国際仲裁に付されていたイスラエル電力公社(IEC)に対する賠償金問題について約10億ドルを支払うことで同意に至ったと発言。障害は取り除かれたと考えられる。ただし、同Pipelineは老朽化が進んでいるうえに、シナイ半島の治安については。エジプト軍はパイプラインを完璧に防御するといっているが、長距離間を守備するのは容易ではなく再度武力勢力から攻撃される可能性がある。
2. 第二案は、イスラエル-ヨルダン間で建設されるIsrael-Jordan PipelineおよびArab Pipelineを従来と逆方向に使用しヨルダンのアカバ経由で送ガスする案が浮上。同上にシナイ半島を縦断するために安全性において疑問である。
3. 第三案は、パレスチナのガザ地区沖の老朽化したEMG Pipelineに追加新設する案が考慮されている。
4. 第四案は、LeviathanからキプロスのAphrodite経由、エジプトのポートサイド向けPipelineを新設する案である。この案は安全であるが距離もありコストは掛かる。2018年4月にカイロで行われたエジプトのSameh Shoukry外相とキプロス外相Nikos Christodoulidesの会談では、キプロスガスをエジプトに売却し、Afroditeのオフショア鉱区からエジプトのLNG施設へ天然ガスのパイプラインを建設することについて議論を進めた。
このプロジェクトは、エジプトのLNG施設に最大8 bcm /年(282.4bcf)を輸送するために、既存のパイプラインとインフラストラクチャを使用する可能性がある。両国が署名する政府間協定(IGA)の条件を確定することに焦点を当てた外相間の会談であった。
現在、第四案が有力視されている。
4.東地中海パイプライン構想
最近の動き
1. 2016年にイタリア、ギリシャ、キプロスおよびイスラエルの4カ国で東地中海ガスパイプライン構想の協定が交わされた。キプロス沖のAphroditeガス田からキプロス、クレタ島を経てギリシャに上陸、その後ペロポネソス半島を北上しギリシャ西部に至るものである。EU機関であるINEA(Innovation and Networks Executive Agency)がPre-FEEDを2015年に開始、2018年3月に終了。イタリア、ギリシャ、キプロス及びイスラエルの4カ国協議が2017年12月に行われ、2018年5月にも再度協議する予定である。実現すれば、世界最長の海底パイプラインとなる。また、ギリシャ北西部から対岸のイタリアまでのパイプライン敷設まで含めると総延長距離は、2,000kmとなる。当初この案は、大水深海底パイプラインであり、クレタ島近くの海底の地形も複雑で非現実的だと思われてきたが、この数ヶ月の動きを見ているとEUの働きかけが積極的であり現実味を帯びてきている。
2. 東地中海ガスパイプライン構想は、エジプトのエネルギー・ハブ化構想と対立するものではなく、将来的なこの地域のガス田開発が進むと両立するものである。
3. エジプトのSisi大統領は2017年11月、キプロスのニコシアでギリシャ首相を含む三カ国会談を行った。その際、東地中海ガス(EastMed)パイプラインについて協議している。このプロジェクトは、2018年5月のギリシャ、キプロスとイスラエルの会議でも議論の対象となるようだ。
4. 2018年4月下旬にECのミゲル・アリアス・カニュテ委員(気候変動・エネルギー担当)はエジプトを3日間訪れた。滞在中エネルギーインフラプロジェクトの一部を見学し、エジプトのトップエネルギー関係者と戦略的エネルギーパートナーシップのための4年間の覚書(MOU)に署名した。将来のエネルギー拠点としてのエジプトへの関心は高まっているが、開発を遅らせるさまざまな法的問題に関する懸念がある。
EUは、大規模なガス資源を持つ東地中海のエジプトや他の国々と緊密なエネルギー関係を築くことに非常に関心を持っている。カイロに到着する前に、カニュテ委員は次のように述べた。「エジプトは、地中海東部と世界的な脱炭素化努力におけるクリーンなエネルギー転換の道を導くことができる。同様に、エジプトはEUと地域全体にエネルギー安全保障を提供できる重要なガスと電力のハブになっている。」
カニュテ委員は、EUがエジプトのエネルギー市場改革を支援し、持続可能なエネルギー投資を支援すると付け加えた。欧州委員会は、カイロでエジプトのエネルギープロジェクトに46億4000万ドルを提供する可能性があると述べている。
おわりに
東地中海における中大型ガス田の開発生産が順調に進めば、各生産国経済への効果が期待でき、この地域の経済の活性化につながる(ひいては欧州を悩ませている中東・北アフリカからの移民流入問題への解決策の一助にもなる)。エジプトのエネルギー・ハブ化構想が現実味を帯びてきているが、同時にLNG液化処理能力の限界が顕在化し、ギリシャやイタリアを含むEUの思惑によって東地中海パイプライン構想の実現可能性がここにきて増してきている。
今後この地域を混乱させうる懸念事項について触れておく。
1. 北キプロス・トルコ共和国を巡りトルコの妨害が引き続き懸念される。同国を承認しているのはトルコだけであり、トルコが北キプロスも南部沖ガス田に利益があると主張するも国際世論は容認しないだろうとの楽観論がある。一方、領土問題と南北統合問題が絡んでいるためトルコ側の軟化は期待できないという見方もある。
2. エジプトの社会問題。人口増加に経済が追いつかないと、今後人口の3分の2を占めるであろう30歳未満の若年層の失業対策等への不満が噴出することが考えられ、社会不安が引き起こされる。また、強権的なSisi大統領の言論統制・人権抑圧が懸念される。
3. レバノンやキプロスを含み東地中海全域で今後大型ガス田が発見された場合は、両国の出口シナリオは見直されるだろう。エジプトのハブ化構想も見直され、エジプトに頼ることなく自国のみで動く可能性は否定できない。レバノンの場合はガス田を巡ってシリア、ヒズボラがどのように絡んでくるか予測がつかない。キプロスやイスラエルで大型ガス田が発見される場合は、ギリシャへの東地中海ガスパイプライン構想が更に実現に向かうかあるいはキプロス独自もしくはイスラエルと共同でLNG液化設備を持つ選択肢も出てくるだろう。
4. 米国の対イラン制裁、シリア問題や米国のイスラエルの首都エルサレムの容認と米国大使館移転問題等を含め中東・北アフリカ情勢は依然として不安定で予測がつかないことが予測を難しくしている。
今後ともこの地域のIOCsの動きも含め開発動向は注視していく必要がある。
以上
(この報告は2018年5月30日時点のものです)