ページ番号1007536 更新日 平成30年5月31日

東地中海ガス田開発 交錯する期待と課題(その2)

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レポートID 1007536
作成日 2018-05-31 00:00:00 +0900
更新日 2018-05-31 16:37:04 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場基礎情報
著者 加藤 望
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ページ数 19
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地域1 グローバル
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国・地域 グローバル
2018/05/31 加藤 望
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~ 東地中海ガス田開発の各国の状況 ~

 

概要

「その1」では、東地中海ガス田開発の歴史と欧州との関係を中心に大まかに述べた。「その2」では、エジプトとイスラエルにおける開発状況を中心に展望し、更にガスの発見はあったものの未だ生産が始まっていないキプロス、また初めてのオフショア鉱区入札が終わったばかりのレバノンについて触れる。

また、「その2」の執筆に当たり、キプロス部分は古山調査員、レバノンは芦原調査員が担当したことを申し添える。

 

1.エジプト

エジプトについては長いエネルギー開発の歴史もあり、MENA(中東・北アフリカ:Middle East & North Africa)における影響力も大きい。

(1)政治状況

2011年の政変「アラブの春」以降の事象を追ってみる。

1. ムバラク大統領の辞任に至った2011年1月の政変「アラブの春」以降,政治の表舞台に躍り出たムスリム同胞団は、支配の強化を試みるが、悪化する経済・治安状況のなか、イスラム勢力とリベラル・世俗勢力間の亀裂が深まり、国論が二極化し、エジプト軍が2013年7月の軍事クーデターを引き起こした。ムルシー大統領はクーデターによりその職を剥奪された。

2. 暫定政権を経た後、2014年5月の大統領選挙の結果,前国防相El-Sisiが当選した。

3. El-Sisi 大統領は、2018年3月の大統領選挙(投票率41%、獲得投票97%)の結果、二期目の当選を果たしたが、対立候補の逮捕等2017年秋頃から民主的選挙を妨害する行為が目立った。従って、投票しなければ約3,000円の罰金を科すとし、国民を投票に向かわせようとしたが、獲得投票率97%であったものの投票率は41%と低調であった。憲法上4年間の任期は二期までとなっており、大統領本人も三期目はないと明言するも、側近らによる憲法改正をして任期の延長を図る動きがある。

(2)経済状況

(外務省各国基礎データより)

1. エジプトの経済は、エネルギー、スエズ運河からの収入、出稼ぎ外貨送金、観光業に頼ってきたが、観光はアラブの春以降の混乱とテロにより観光客に犠牲者が出たこともあり低迷してきた。漸く、軍と警察を観光地に重点的に配備することにより観光客の足は戻りつつある。

2. 一方、IMFと120億ドル3年間の借入契約を2016年に締結した。

(3)エネルギー情勢

1. 陸上油田の商業生産は、1910年から始まり、1975年に純輸出国となった。ピークは1996年の93万バレル/日(bbl/d)であったが、2010年に原油の純輸入国になり、2016年の原油生産量は69.1万bbl/dであった。

2. 天然ガスは表1のとおり2015年に純輸入国に転じ、LNGを2015年260万トン輸入、2016年は750万トン(Qatar, Nigeria等から)輸入した。なお、エジプトはムスリム同胞団を支援しているとしてQatar制裁に賛同したことから、Qatarからの輸入は2017年6月の断交後キャンセルしている。この不足分を埋めたのは、ロシアRosneft、フランスEngieとオマーン OTI (Oman Trading International) からの輸入である。

3. 2011年以降の政治的な混乱で、エジプトの外国石油企業(IOCs)への支払いが滞っている。返済は米ドル60%、エジプトポンド40%の比率で行われてきた。以下、未払い額の推移である。
2013年 63億ドル
2014年10月 49億ドル
2016年9月 36億ドル
2017年末予測 28億ドル
2019年までに 完済予定

4.エネルギー監督省庁は、石油省(Ministry of Oil)であり、その傘下にEGPC (Egypt General Petroleum Corporation)、EGAS(Egyptian Gas Holding Company)他4社の国営企業を抱える。

(4)エジプトの天然ガス生産量と消費量の推移(2005年~2016年)

表1は、エジプトにおける天然ガスの生産量と消費量の推移である。明らかに、2013年から生産の減退が顕著となり、2015年を境に天然ガスの消費が生産を上回り輸入国に転じたことが見て取れる。ただし、2015年においてもエジプトの生産量は世界で17番目である。

表1エジプトにおける天然ガスの生産量と消費量の推移

(5)エジプトの主要オフショア・ガス田

2015年以降に開発・生産が開始された主なオフショア・ガス田は以下のとおりである。

 

表2 2015年以降開発された主要オフショア・ガス田

注:ZohrのEni権益持分のうち10%は、2018年3 月にAbu DhabiのMubadala Petroleumへ$934 millionで売却することが発表された。同年3月にEniはAbu Dhabi、 ADNOCのオフショアUmm Shaif /Nasr の権益10%およびLower Zakumの権益5%を取得し計$875 millionのサインボーナスを支払うことになっている。金額的にはほぼ同額であり、スワップ取引を行った可能性は否定できない。

(6)メジャーズのスピーディな開発とエジプトの厚みのあるサポート

表2で分かるように、EniのZohrの発見から生産開始までの期間が2年4ヶ月と短く、非常に早く開発が進んだことが窺える。また、BPのAtollも7ヶ月前倒しで2018年2月に生産開始に漕ぎ着けた。理由は以下のとおり考えられる。

1. メジャーズは、低油価の時代にプロジェクトの開発プロセスを見直し早期開発を追求。
2. Zohrは水深1500m, Atollは920mの大水深であり高度な技術力が求められる。
  *上記①と② よりエジプト政府はオフショア開発についてはオペレーターにメジャーを起用する傾向がある。
3. エジプト企業(コントラクター、ベンダー)の上流開発に対する経験と高い技術力。これに加えてエジプトのインフラが整備されている。スエズ・デルタ、ナイル・デルタ及び内陸でのパイプラインネットワーク、LNG液化プラント等が備わっている。
4. 2017年の石油・ガス法の改正によって政府承認手続き及び期間が大幅に簡略化し短縮された。
5. 上流開発企業にとって魅力的な契約条件、即ち生産分与契約(Product  Sharing Contract)における政府取分65%(大水深は50%)は2005年版が基本であり、当初より上流開発企業が満足できる取分が設定されている。国内EGAS向けのガス販売も比較的高い買い取り価格で設定されているようだ。Zohrの場合、$4.00~$5.88/mmBtuの範囲内で売買契約が締結されたと報道されているが、2016年2月のFID(最終投資決定:Final Investment Decision)直前の売買契約の締結は2015年の12月であり、現在は$5.88に近い価格で取引されているようである(出所 IHS Markit)。これが正しいとすれば上流開発企業にとっては許容される範囲であろう。
6. 低油価時代に、キャンセルされた製造に半年から1年以上要する長納期品である坑口装置(Wellhead)やケーシング(Casing)が、EniもしくはEgypt国内で余っており、Eniはこれらを使用することが出来たと言われている。

(7)エジプトにおける外国E&P企業石油・ガス権益保有数

エジプトの国内油田の生産は1910年まで遡ることができる。現在、主要な外国の上流開発企業の参入状況は以下の表のとおりである。日系企業はINPEXと双日の2社が各1鉱区ずつの権益をマイナーな比率で保有している。

表3 エジプトにおける主な外国上流開発(E&P)企業の石油・ガス権益保有フィールド数

(8)2018年Licensing Round

2018年1月28日に国営エジプトガス公社(EGAS)は、2018年のライセンス・ラウンドを発表。対象はオフショアが6鉱区、オンショアが3鉱区となっている。提出期限は6月末である。

一方、国営石油公社(EGPC)は、スエズ湾の北部と中部地域を対象とした、入札を実施する方針であるが、詳細はまだ公表されていない。

(9)Zohrと西ナイル・デルタ(WND:West Nile Delta)の生産見通しを加味した生産量予測 (Bcfd: billion cubic feet per day)

エジプト政府にコンサルタントを行っている、Gaffeny, Cline & AssociatesがZohrおよび西ナイル・今後の生産見通しを加味した生産量予測を公表している(表4)。これによるとZohr級のガス田をもってしても生産のピークは2019年~20年である。ただし、今後数年以内に4Tcfの埋蔵量クラスの中型ガス田が2箇所発見されるとの前提が付されている。生産のピーク時の2021年には7 Bcfd(billioin cubic feet per day)に達するが、ピークを維持できる期間は短く2024年~25年と予想している。ただし、6 Bcfd程度の生産量は2030年ごろまでは維持できる。

表4 エジプトの今後の生産量予測

(10)2017年~2030年にかけてのエジプトのガス供給・需要予測

上の表4の Mid Base + Big Developmentのケース(上記表4の黄色の破線)を採用した場合の2030年までの需給予測を同じくGaffeny社が公表している。これによると2025年以降は需要が供給を上回り再度天然ガスの輸入国に転じる予測である。生産の減少と同時に需要増は、産業発展もさることながらエジプトの場合は人口増によるところが大きいと思われる。

表5 今後のエジプトのガス供給予測2017年~2030年

(11)エジプトのLNG液化基地

エジプトには、LNGの液化基地がSEGASともELNGと二ヶ所ある。地名からDamiettaともIdkuとも呼ばれる場合もある。スペイン資本のSEGASは2013 年から原料ガスの受け入れが止まり操業停止が続いている。一方のELNGは、Shellの鉱区から得られたガスの液化を少量ながら行ない輸出しているが、エジプト全体としてはガスの輸入国になって以来、LNGの輸出は止まった状態といっても差し支えないだろう。

次表は、各LNG液化基地の概要である。このうちSEGASは2012年から原料のガスの供給が止まっており、再開するためには200-300百万ドルの修繕費が掛かるものと見積もられており、かつ早くても2022年の再開となる。

表6 エジプトのLNG液化基地

(12)エジプトガス輸出を巡る紛争

エジプトは、2011年のアラブの春の動乱以降ガスの輸出に絡み20件の国際的な紛争を抱えている。ガス取引に直接関係するのは以下のとおりである。

1. EastMed Pipeline(エジプトに輸出余力があった時代にエジプトからイスラエルへのシナイ半島およびパレスチナ・ガザ地区沖を経由する輸出用パイプライン)に係るイスラエル電力公社とエジプト政府の係争。
2011年以降15回に亘りシナイ半島のオンショアパイプラインが爆破され、2012年に送ガスが停止したのに加え、輸出用ガスが払底。2012年に突然エジプト側が2005年に締結した20年間のガス供給契約を一方的にキャンセルしたもの。カイロ仲裁では、被申立人のエジプト側が約10億ドルをイスラエルの申立人に支払う裁定が出された。申立人は他にも幾つか仲裁を求めて提訴しているとのことであるが、損害額の算定額が分かれており、エジプト側は最終的な損害金はカイロ仲裁の約10億ドルを基にイスラエル側と話を進めているようである。

2. エジプトDamietta LNG液化基地に関するオーナー(Union Fenosa Gas:スペインUnion Fenosa GasとEniのJV)とエジプト政府との2億7000万ドルの係争。

両係争は、2011年のアラブの春以降の政治の不安定さおよび生産量の減少より輸出向けガスがなくなり、ガスの供給義務を負うエジプト政府(国営企業含む)が契約違反として仲裁に申し立てられたものである。いずれも仲裁判断が下され、それに沿う形で処理が進んでいる。但し、エジプト政府が納得できない裁定部分も残されているようであり、更に解決まで時間を要する懸念は残されている。

 

2.イスラエル

イスラエルの経済およびエネルギー資源開発状況は次のとおりである。

(1)経済状況

(外務省各国基礎データより)

1. 2000年9月に発生した第2次インティファーダや米国経済の減速の影響により経済は停滞していたが,03年以降は自国通貨の対ドル・レート低位安定等を背景とした競争力の向上やイラク戦争終結によるビジネス環境の改善等により,ハイテク・情報通信分野を中心に輸出が好調となり,07年には建国以来初の4年連続の5%超の成長を記録。その後,米国の金融不安等に端を発する世界経済減速の影響等により,経済成長率は一時的に落ち込んだが,09年下半期にはいち早く成長路線に復帰。その後も引き続きプラス成長で推移している(10年5.0%,11年4.6%,12年3.4%,13年3.3%,14年2.6%,15年2.5%,16年4.0%)。

2. 高度な技術力を背景としたハイテク・情報通信分野及びダイヤモンド産業を中心に経済成長を続けており,基本的には輸出を志向する産業構造となっている。

(2)イスラエルのガス生産量と消費量

イスラエルのガスは現在Tamarガス田でほぼ自給体制である。少量(2015年2.82Bcf)をLNGでTrinidad & Tobagoから輸入している。そのため浮体式貯蔵・再ガス化設備(FSRU)を一隻確保している。

表7 イスラエルのガス生産量および消費量

(3)TamarおよびLeviathan ガス田

イスラエル沖合鉱区の多くは米国独立系の Noble Energy が保有している。1998 年に進出し、2004 年に は Mari-B ガス田の生産を開始している。2009 年には Tamar ガス田と Dalit ガス田を発見したが、Tamar ガス田は 2009 年に発見されたガス田としては世界一の大きさである。2010 年中に生産井 の掘削を開始し、2013年に生産を開始した。続いて、Leviathanガス田を2010年に発見した。これは推定埋蔵量22Tcfと大型のガス田である。

次表および図は、イスラエルの主要ガス田を示している。

表8 イスラエルの主要オフショア・ガス田

(4)イスラエルのガス消費量予測

イスラエルは、Tamarガス田からの供給だけで暫くは需要を満たす。ただし、2028年頃を境に国内需要の伸びに供給が追いつかなくなることより、TaninおよびKarishのガス田の開発に乗り出しており、これらは国内向けと考えられる。Leviathanガス田は、主に輸出用であり生産開始は2019年を予定している。一部ヨルダンおよびエジプト向けに売買契約が締結されているが、両国向けは合計10年間の輸出量は4.5Tcf程度と考えられ残余のガスをどうするのかという課題が残されており、(その3)で検討する。

以下の表は、2040年までのイスラエルにおけるガス需要の伸びを示すものである。

表9 イスラエルのガス消費量予測

(5)イスラエルガスの輸出

イスラエルの内閣は2013年にイスラエルの埋蔵ガスの40%を輸出することを承認した。現在評価されている40tcfの埋蔵量のうち、16tcf程度が輸出可能となっている。

 

3.キプロス

キプロスの経済およびエネルギー資源開発状況は次のとおりである。

(1)キプロス共和国の経済状況

(外務省各国基礎データより)

観光業、海運業、金融業が盛ん。ギリシャの債務危機に際し、金融・財政は大打撃を受けた。欧州安定メカニズム(ESM)およびIMFより73億ユーロの支援を受ける。現在の両機関の監督下に置かれる。

(2)政治状況について

キプロスは、1960年に英国より「キプロス共和国」として独立。その後ギリシャ系住民(南部地域)とトルコ系住民(北部地域)の間の対立が続いていた。1974年、ギリシャ系住民がクーデターを企図した際、トルコ軍がトルコ系住民の保護を名目に侵攻し、キプロスの北部37%を占領した。以降、キプロスは北部のトルコ軍支配地域(トルコ系、人口約32万人)と南部のキプロス共和国政府支配地域(ギリシャ系)とに分断されている。北部は「北キプロス・トルコ共和国」として1983年に独立を宣言し、トルコのみがこれを承認している。

現在、キプロス共和国は、北部のトルコ支配地域とは完全に独立した国家運営がなされている。2004年にはEUに加盟[1]しており、定期的な選挙が行われ、連立政権による安定的な政治運営がなされている[2]。北キプロスとの関係については、2008年の南北首脳会談以降、国連仲介のもと断続的に南北再統一に向けた交渉が続けられているもののいまだ合意に至っていない。

現在トルコはキプロス共和国の天然ガス資源開発に対し敵対的立場を取っており、南北での共同開発または得られたガスの50%の取分を主張している。また、外国企業による掘削活動への抗議とともに掘削船の航行妨害などをおこなっている(後述)。

キプロス共和国と他周辺国の関係については、シリア内戦等中東問題に地理的な影響を受けうる立場であるものの、キプロスは伝統的にエジプト、イスラエルやレバノンといった近隣諸国との緊密な友好関係構築を主眼に外交活動を展開しており、直接の影響を受ける可能性は少ないとみられる。

[1] 我が国外務省によれば、1974年以降分断状況が続いている北部のトルコ軍支配地域の扱いにつき,EUは,キプロス共和国をしてキプロス島全体を代表する政府と見なすが,北キプロス地域についてはキプロス共和国の実効的支配が及んでいないため,キプロスが再統一されるまで同地域へのEU法体系の適用は延期されるとの解釈をとっている。

[2] ただし2012年、2013年の欧州経済危機後、主力政党の支持率低下。2016年にはより小さな党派(DISY)に票が流れるなど、若干の変化が生じている。

(3)エネルギー資源開発について

IEAによれば、キプロス共和国のエネルギー需要(最終エネルギー消費)は91%が石油(2015年)、残り再生可能エネルギーとなっている。国内では石油・天然ガス生産は行われておらず、エネルギー純輸入国である。政府は現在、2011年に発見されたAphroditeガス田の開発を進めており、実現すれば、天然ガスを主力燃料としたい意向を表明している。IEAの同じ2015年の統計によればキプロス共和国の天然ガスの国内需要は年間1-2Bcm(35~70Bcf)程度と見込まれることから、Aphrodite(4.54Tcf)のみでもキプロス国内需要の60年から120年分程度を賄える計算になる。今後新規ガス田の発見が続けば、生産されるガスの大半は輸出に向かう見込みであり、現在輸出方法の検討が行われている。2018年2月には、エジプトへの海底パイプラインを通じたガス輸送について仮合意書が結ばれており、同時にギリシャ、イタリア、イスラエルとの間で、欧州へのガスパイプライン建設計画も検討されている(East Mediterranean パイプライン計画、詳細は「その3」参照)。

以下、ガス田開発の状況を概観する。キプロス共和国では、2011年のAphroditeの発見により同国排他的経済水域(EEZ)における資源有望性が確認されたことで、資源開発が開始された。その後2015年、隣国エジプトでZohrガス田が発見され、開発が進展したことから、キプロスEEZにおいても大規模ガス田発見の期待が高まり、Total、Eniなどが参入している。

2014年下半期以降の低油価期では一時掘削活動が控えられたものの、油価回復の兆しが見えた2016年に開催された第三次ラウンドでは、Total、Eni、ExxonMobilといったIOCsが応札し、再び注目が集まった。第3次ラウンドで公開された3鉱区のうち、Zohrの北西Block 10にはEni/Total、ExxonMobil/Qatar Petroleum(QP)、Statoilの三者が入札してTotal/Eniが落札、Block  6はEni/Totalのコンソーシアム、Block 8はEniがそれぞれ落札している。なお、Block 10の権益は現在ExxonMobil./QPが保有している。

 同国における2018年4月現在掘削済みの鉱区は、Block 12、Block 11、Block 6となっている。一番古いものが2011年Block12で掘削されたAphroditeである。Aphroditeの権益比率は米Noble Energyが35%でオペレーター、BG(Shell)が35%、イスラエルのDelek Drillingが30%となっている。Aphroditeは、可採埋蔵量が4.5Tcf と評価され、中規模ガス田という位置づけであり、かつどこの陸上からも離岸距離がありパイプラインの敷設コストが掛かることより、ファイナンスの組成に苦労してきた。イスラエルとのユニタイゼーション手続き[1]の検討等により開発が遅れており、生産開始は2020年頃の見込みである。

2017年7月にはTotalがBlock11(オペレーターTotal 100%)のOnesiphoros West 1を掘削。Onesiphoros Westは、Zohrの北に位置し、掘削以前から大規模な埋蔵量が期待されていた。しかし同年9月時点では推定埋蔵量500Bcfにとどまり、単独での開発では「商業性なし」と評価された。ただし、地質構造的にはエジプトZohrと類似という評価がなされていた。

その後2018年2月にはBlock 6(権益比率はオペレーターEni 50%、Total 50%)のCalypso 1で掘削を行い、ガスの埋蔵を確認。現在評価作業中であるが、EniはZohr類似構造の発見であると発表している。埋蔵量は推測の域は出ないが3.5Tcf -8Tcfとみられている。

なお、EniはCalypso 1の掘削後、Block 3の掘削を予定していたがトルコ海軍により、同海域に移動中のSaipem12000ドリルシップの航行が妨害され、掘削を断念した。Eniによれば、トルコ海軍は「目的地周辺海域において「軍事演習」を実施する」という通知とともに、航行停止を命令したとのことである。トルコは本件につき、キプロス共和国による炭化水素資源の開発が、同国南部ギリシャ系支配地域のみの便益に資する「一方的(”unilateral“)」なものであり、トルコ系住民の権利を無視するものであるとして抗議声明を発出している。キプロス共和国の資源開発に係る主権についてはEUが公式に承認[2]しており、同国EEZ内資源の開発・生産に大きな影響を及ぼすことはないと考えられるものの、今後も争いが継続する可能性は残る。なお、現在Eniは、2018から2019年にかけてBlocks 3、8の掘削の再開を発表、またExxonMobil/QPは2018年下半期中にBlock 10の掘削を行う旨発表しており、同海域における探鉱活動は今後も継続される見込みである。

[1] Aphroditeは近接するイスラエルのYishai鉱区まで貯留層が延長しているとみられることから、キプロス共和国政府とイスラエル政府の間でユニタイゼーションにつき議論が交わされているものの、貯留層の賦存割合につき合意がなされておらず、交渉は難航している。

[2] 欧州委員会は、2018年4月、トルコのEU加盟についてのレポート(「Turkey 2018 Report[SWD(2018)153 final])において、トルコが他国の主権を侵害する行動を継続する限り、EU加盟は認められない旨声明を発表している。

図6 キプロス沖鉱区図

表10 キプロス掘削済み鉱区

4.レバノン

レバノンの経済、エネルギー資源開発状況は次のとおりである。

(1)経済状況

観光業、不動産、外国からの送金等。主要輸出品は金、ダイヤモンドであるが大幅な輸入超過。経済的な自立を高めることが課題だが複雑な政治情勢がそれを困難にしている。

(2)エネルギー資源開発について

レバノンでは1940~50年代に陸上探鉱が行われたものの発見は無く、内戦が続く中で1990年代までに全ての探鉱活動が終了した。その後、政府は同国海洋部門への関心を高めようと努め、2008年に海洋鉱区入札を予定し一連の地震探査を委託したものの、国内政治状況は行き詰まり、排他的経済水域(EZZ)境界も未定義で法整備が必要とされる中で、入札の実施は実らなかった。

2010年にイスラエル沖でLeviathanガス田が発見され、レバノン沖合でも探鉱活動が加速した。広範にわたり2D、3D seismicが行われ、10鉱区が設定された。また、2010年にはレバノン沖の油・ガス田開発および掘削を認める法案が可決された。2011年入札開始を目指すものの、複雑な政治情勢(注1)と官僚主義によって進捗が遅れた。その後、2013年に入札が開始され、当時、日本企業を含む46社が事前認定(Pre-Qualification)を通過したものの、政治情勢不安の中で間もなく事前認定自体が撤回され、2014年8月に入札も無期限停止となった。

イスラム教シーア派とスンニ派の主要勢力の対立による2年以上の大統領不在の時期を経て、2016年10月31日にMichel Aoun氏がレバノン議会により大統領に選出された。翌2017年1月、「新石油税法」および「海洋鉱区を設定し、新たな生産分与契約(PSA)を確立する」という海洋石油資源に関する2つの法案が承認され、初の海洋鉱区入札の再開が発表された。2017年2月および3月にさらに6社が事前認定を取得した。2017年9月、レバノン議会が石油事業からの歳入税制を承認した。それに伴い、Pre-Qualification通過企業に対して新法令を理解するのに十分な時間を与えるために、入札期限が2017年9月15日から10月12日に延期された。Abi Khalilエネルギー・水資源相が入札の終了を発表、2013年に比べ今回各社の関心は低く、唯一Total/Eni/Novatekのコンソーシアムが、入札に出された5鉱区のうちBlock 4とBlock 9の2鉱区へ参加し、他に入札はなかった。

2017年12月、Total(オペレーター、権益比率40%)/Eni(同40%)/Novatek(同20%)のコンソーシアムへ2鉱区が授与され、翌2018年2月にExploration Production Agreementsが締結された。なお、コンソーシアムが獲得した2鉱区のうちBlock 9はイスラエルが主張するEEZ境界を180km2侵犯しているとイスラエルよりクレームを受けているエリアである。コンソーシアムは「係争海域問題の解決如何にかかわらず、問題とならない紛争海域の北25km地点から掘削を進める。」と宣言しているものの、今後紛争境界線を跨ぐ発見となった場合には、遂行困難となる可能性がある。

注:レバノンには18の宗派が存在し、各宗派に政治権力配分がなされている。また、各宗教・宗派もそれぞれ一体ではなく、各宗教・宗派内でも複数の党派がそれぞれの政治的立場や利害を巡り確執や同盟関係を複雑に展開する政治構造がある。宗教・宗派間の争いによりほぼすべての意思決定が遅れ、同国での事業実施を不確かなものにしている。

表11 レバノン鉱区入札までの経緯

図7 レバノン沖鉱区図

<参考>エジプト、イスラエル、キプロスおよびレバノン各国の人口等基本情報

 

以上

(この報告は2018年5月30日時点のものです)

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