ページ番号1007553 更新日 平成30年6月25日
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概要
1.米国では、原油輸出量や輸入量が増減しつつも、製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理が進みつつあったことから、原油在庫水準も上下に変動しながらも、低下傾向となったが、平年を上回る状態は維持されている。また、製油所での石油製品生産活動は活発化したものの、季節的な需要の盛り上がりや堅調な輸出もあり、ガソリン及び留出油在庫は減少傾向となった他、ガソリンは平年幅上限を超過する水準、留出油在庫は平年幅下方に位置する量となっている。
2.2018年5月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加となった他、欧州でも製油所の稼働低下とともに原油精製処理量が減少したこと、また、日本でも製油所で春場のメンテナンス作業実施に向け稼働が低下しつつあったことから、両地域で原油在庫は増加した。この結果OECD諸国全体としても原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。他方、石油製品については、米国では製油所の稼働上昇に伴い石油製品の生産が活発化したこと等により石油製品全体の在庫は増加した。また、日本でも、暖房用需要が低下した灯油の在庫が増加したこと等から石油製品全体の在庫も増加した。他方、欧州では製油所の稼働低下と石油製品生産活動の減速により石油製品在庫は減少したが、米国及び日本での在庫増加により相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は増加となり、量としては平年幅上方付近に位置している。
3.2018年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場においては、5月中旬から下旬にかけては、ベネズエラ大統領選挙での現職再選に伴う米国の対ベネズエラ追加制裁の発動等により、原油価格はWTIの終値で1バレル当たり72ドルを超過、3年半ぶりの高水準にまで上昇した。ただ、その後はOPEC産油国等による減産措置の緩和に関する情報が伝えられたこと、及び主要7ヶ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で米国と他の諸国との対立が鮮明になったことにより世界経済と石油需要に関する懸念が市場で広がったこと等から、原油価格は1バレル当たり65ドル近辺へと下落した。
4.今後も、米国等での夏場のガソリン需要の盛り上がりに対する季節的な需給の引き締まり感が市場に居座ることで原油相場は下支えされるものと見られる。また、OPEC総会及びOPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚会合では、明確な減産緩和(増産)方策が決定するかどうかは微妙なところであるが、当該方策が決定した場合には、足元の石油需給緩和感から原油価格に下方圧力が加わりうるものの、実際の増産で実質的に利用可能な余剰生産能力が減少することから、原油相場の下落は持続せず、ある時点で下げ止まる可能性がある。反面、当該方策の実施が見送られた場合には、足元での石油需給の引き締まり感から原油相場が上昇するといった場面が見られる可能性があるが、米国の圧力によりサウジアラビア等が暗黙裡に増産を開始することが原油相場の上昇を鈍化させるといった展開はありうる。そして、減産措置緩和方針の決定の有無にかかわらず、イラン及びベネズエラ等が減産に向かうことによる石油需給引き締まり観測、もしくは利用可能な余剰生産能力の低下から、原油価格は当面下支え、場合によっては上振れしやすいものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2018年3月の米国ガソリン需要(確定値)は日量945万バレルと前年同月比で1.0%程度の増加となった(図1参照)他、速報値(前年同月比で0.2%程度減少の日量934万バレル)から上方修正されている。前月(2018年2月)のガソリン需要が前年同月比で1.9%程度減少していた反動が3月の当該需要の伸びとなって現れている可能性が考えられる。ただ、ガソリン小売価格は2016年2月には1ガロン(約3.8リットル)当たり1.9ドル弱であったものが以降上昇基調で推移しており、2018年3月には1ガロン当たり2.7ドルに到達している。それに従い全米自動車運転距離数の伸びも鈍化しつつあり(図2参照)、併せてガソリン需要の伸びを鈍化させる方向で作用している側面があるものと考えられる。他方、2018年5月の同国ガソリン需要(速報値)は日量950万バレル、前年同月比で0.9%程度の減少となった。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.987ドルと前年同月比で0.484ドル(約19.3%)割高になったうえ、前月比でも0.114ドル(約4.0%)上昇していることが、ガソリン需要に影響しているものと思われる。また、米国では、製油所での春場のメンテナンス作業は峠を越えるとともに、一部の製油所で発生していた装置の不具合も修復されたと見られることもあり、原油精製処理量は増加傾向となった(図3参照)ことからガソリン生産活動も活発化してきている(最終製品の生産量は図4参照)ことから、5月26~28日の連休(5月28日が戦没者将兵追悼記念日(メモリアルデー)に伴う休日)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入するとともに当該製品の出荷も旺盛となったものの、5月上旬から6月上旬にかけ、同国のガソリン在庫は増減しながらも若干ながら増加傾向となり、平年幅上限を超過する水準も維持されている(図5参照)。
2018年3月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量417万バレルと前年同月比で0.4%程度の増加となったが、速報値である日量401万バレル(同3.4%程度の減少)からは上方修正されている(図6参照)。2018年3月は前年同月に比べ若干温暖であったことから、この面で暖房向け留出油需要が抑制された面はあるものの、同月の米国の鉱工業生産が前年同月比で3.6%程度伸びるなど経済が堅調であり同国の物流活動も同8.0%程度拡大している割には、当該需要は抑制されているように見受けられることから、4月以降にその反動で留出油需要(確定値)が伸びている旨判明する可能性はある(因みに速報値ではあるが、2018年4月の留出油需要は前年同月比で11.0%程度の増加となっている)。また、2018年5月の留出油需要(速報値)は日量396万バレルと、前年同月比で0.3%程度の減少となっている。5月の同国非農業部門雇用者数が前月比で22.3万人増加した他、景況感も総じて良好であったところからすると、物流活動もそれなりに堅調であったと見られるものの、4月の当該需要が速報値ではあるものの前年同月比で11.0%程度増加していた反動が、5月の需要に影響している可能性があるものと考えられる。他方、春場の製油所でのメンテナンス作業等は峠を越えるとともに留出油生産が活発化しつつある(図7参照)ものの、輸出がそれなりに旺盛であった(2017年8月下旬に米国メキシコ湾岸地域にハリケーン「ハービー」が来襲したことに伴う当該地域での製油所の稼働停止とその後の秋場の製油所メンテナンス、さらには北半球での厳冬に伴う旺盛な留出油需要の発生により、大西洋圏で留出油需給が引き締まっていると見られることが米国で生産された留出油に対する国外からの引き合いを堅調にしている一因であるものと見られる)ことから、5月上旬から6月上旬にかけ留出油在庫水準は上下に変動しながらも減少傾向となり、2018年6月上旬時点では平年幅下方付近に位置する量となっている(図8参照)。
2018年3月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で2.6%程度増加の日量2,057万バレルとなった(図9参照)。その他石油製品の需要が増加した(2017年2月27日にOccidental ChemicalとMexichemがテキサス州イングルサイド(Ingleside)に年産54.4万トンのエチレン製造装置を操業開始したことに加え、9月21日にはDow DuPontが米国テキサス州フリーポートで年産150万トンのエチレン製造施設の操業を開始したこともあり、原料となるエタンの需要が増加しているものと見られる)ことが需要の伸びを牽引している。ただ、その他の石油製品等の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたことにより、当該需要は速報値(日量2,085万バレル、前年同月比4.0%程度の増加)から下方修正されている。2018年5月の米国石油需要(速報値)は、日量2,017万バレルと前年同月比で0.7%程度の増加となったが、その他の石油製品が需要の伸びを牽引する一方で、ガソリン及び留出油需要が石油需要の伸びを抑制する格好で作用している。ただ、その他石油製品の需要は日量377万バレルと2017年2月~2018年1月の当該需要(確定値)である同331~382万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正される結果、同国の石油需要(確定値)に影響を及ぼすこともありうる。また、米国国内原油生産の伸びが継続している他、製油所の稼働上昇と原油精製処理活動の進展に併せ同国への原油輸入が活発化したものの、米国のイラン核合意からの離脱の動きの影響で、中東に相対的に市場が近い欧州のブレント原油等の価格に上方圧力が加わったこと等により、相対的にWTI原油価格が割安となった影響で、米国外への原油輸出が高水準を維持したことから、5月上旬から6月上旬にかけ原油在庫は増減を繰り返しつつも全体としては減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図10参照)。そして、留出油在庫が平年幅の下方付近に位置する量となっているものの、原油及びガソリンの在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、または原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図11及び12参照)。
2018年5月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国で増加となった(在庫は増減を繰り返していたが5月末時点では前月末比で増加となっていた)他、欧州では4月に一旦上昇した地域の製油所の稼働が製油所メンテナンス作業の再度の活発化に伴い低下、そして原油精製処理量も前月比で減少したことにより、当該地域の原油在庫は増加した。また、日本でも製油所が春場のメンテナンス作業実施に向け稼働を低下させつつあることもあり、原油在庫は増加した。この結果OECD諸国全体として原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図13参照)。他方、石油製品については、米国では製油所での稼働上昇に伴い石油製品の生産が活発化した一方で、暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加や冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要減少によるその他の石油製品在庫の増加等もあり、石油製品全体の在庫も増加した。また、日本では、暖房用需要が低下した灯油の在庫が増加したことに加え夏場の空調向け電力供給のための発電所用需要にはまだ早い重油やガソリン(小売価格上昇により需要が影響を受け始めていると見る向きもある)の在庫水準が上昇したことから、石油製品全体の在庫も増加した。他方、欧州では製油所の稼働低下と石油製品生産活動の減速により石油製品在庫は減少したが、米国及び日本での在庫の増加により相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は増加となり、量としては平年幅上方付近に位置している(図14参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置している(図15参照)。なお、2018年5月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は59.5日と4月末の推定在庫日数(59.3日)から増加している。
5月9日に1,300万バレル台前半の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、5月16日は1,400万バレル台半ば程度の量へと増加、5月23日には1,300万バレル台後半の量へと減少したものの、5月30日は1,400万バレル台半ば付近に位置する量へと回復した。しかしながら、6月6日は1,400万バレル程度、6月13日には1,200万バレル台前半の量へと減少し、5月9日の水準を下回る状態となっている。アジア地域の製油所は春場のメンテナンス作業時期が峠を越え始めていることに伴い供給は増加していると見られるものの、欧州での製油所のメンテナンス作業に伴うガソリン供給の低下もあり、欧州地域でのガソリン価格がアジア地域のそれよりも割高になったことから、欧州方面からアジアへのガソリンの流入が低下したと見られることに加え、インドネシア等のイスラム諸国で、ラマダン(断食月、2018年は5月15日から6月14日)に伴い多くの家族等が集うことから自動車での移動向けガソリン需要が堅調であったことが、シンガポールでの軽質留分在庫を伸び悩ませる一因となっていると考えられる。他方、ドバイ原油価格の下落によりガソリンとドバイ原油の価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)が拡大する場面が見られたものの、ラマダンの終了が接近するにつれガソリン需要の低下が市場で意識され始めたことに加え、欧米諸国でのガソリン在庫が増加傾向を示したことに伴う世界的な当該製品需給の相対的緩和感が市場で醸成されたことが、ガソリン価格に下方圧力を加えたことから、全体としてはシンガポール市場でのガソリンとドバイ原油との価格差は縮小する傾向を示している。
他方、アジア諸国の石油化学会社におけるナフサ分解装置のメンテナンス作業終了に伴うナフサ需要の増加が市場の視野に入りつつあることに加え、米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近しつつあることで、米国へガソリンを輸出する欧州諸国でガソリンを製造する際のナフサ混入量が増加する結果、欧州方面からアジア諸国に向かうナフサの輸出量が減少するとの見方が市場で発生したことがナフサ価格に上方圧力を加えたことから、シンガポール市場でのナフサ価格は5月中旬後半から下旬前半頃にかけてはドバイ原油価格を上回る場面が見られた。しかしながら、その後は欧米諸国でガソリン在庫が増加傾向となったこともありガソリンに混入するためのナフサ需要が抑制されるとの観測が市場で広がってきたことから、ナフサ価格は原油のそれを下回ったうえ、その度合いは拡大してきている。
5月9日には700万バレル台前半の量であったシンガポールの中間留分在庫は、5月16日も700万バレル台前半の水準であり、5月23日には800万バレル台前半の量へと回復したものの、5月30日には再び700万バレル前半の水準へと減少した。ただ、6月6日には700万バレル台後半の水準、6月13日には900万バレル強の量へと増加し、5月9日の在庫量を上回る状態となっている。アジア地域での一部の製油所での春場のメンテナンス作業が終了してきていることにより、当該製品の生産が回復しつつあることが、シンガポールでの中間留分在庫を押し上げる一因となっていると考えられる。そして、5月中旬から下旬にかけては、中間留分在庫の減少に加え、ドバイ原油価格の下落もあり、例えばアジア市場での軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)が拡大する場面も見られたが、それ以降6月中旬にかけてはシンガポールでの中間留分在庫が増加傾向を示した他、この先メンテナンス作業を終了したアジア地域の製油所での稼働上昇に伴う中間留分生産増加観測が市場で発生していることに加え、5月1日から8月16日にかけ中国沖合等で禁漁措置が実施されていることに伴い漁船向け軽油需要が抑制されつつあること、インドで雨季(モンスーン)の到来により軽油需要が抑制されること(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前に燃料として使用されていた軽油から、水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天に伴い道路や建設工事の進捗が鈍化することにより、物流や製造業での軽油の利用が減速することによる)こともあり、軽油とドバイ原油との価格差は縮小してきている。
5月9日には1,900万バレル台後半の量であったシンガポールの重油在庫は、5月16日には1,800万バレル台後半、5月23日には、1,800万バレル台前半の量へと減少していたが、5月30日には2,100 万バレル台強の量へと増加した。また、6月6日には1,900万バレル強半ば程度の水準へと減少したものの、6月13日には2,000万バレル強の量へ回復している。アジア諸国の製油所の中にはメンテナンス作業を終了するとともに稼働を上昇、重油の生産を再開しているところがあると見られることが、当該在庫増加傾向の背景にあると見られる。しかしながら、中東地域での気温上昇と空調向け電力需要増加のための発電所からの重油等の調達が活発化していることに加え、アジア地域でも夏場の空調のための発電向け重油需要の増加が視野に入りつつあることが、アジア市場の重油価格に上方圧力を加えていることから、重油とドバイ原油との価格差(この場合重油価格はドバイ原油のそれを下回っている)は上下に変動しながらも、どちらかというと縮小する傾向が見られる。
2.2018年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場等の状況
2018年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場においては、5月中旬から下旬にかけては、米国の駐イスラエル大使館移転に伴うパレスチナ人とイスラエル軍との衝突、ベネズエラ大統領選挙での現職再選に伴う米国の対ベネズエラ追加制裁の発動等により、原油価格はWTIの終値で1バレル当たり72ドルを超過、3年半ぶりの高水準にまで上昇した。しかしながら、その後はOPEC産油国等により実施されている減産措置の緩和に関する情報が伝えられたこと、米国の原油生産が増加を示したこと、米ドルが上昇したこと、及び主要7ヶ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で米国と他の諸国との対立が鮮明になったことにより世界経済と石油需要に関する懸念が市場で広がったこと等により、原油価格は1バレル当たり65ドル近辺へと下落した(図16参照)。
5月14日には、この日の米国の駐イスラエル大使館のエルサレム移転に際し、抗議行動を行ったパレスチナ人に対しイスラエル軍が発砲したことで、少なくとも55名が死亡した旨報じられたことにより、中東情勢の不安定化と当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、5月14日にOPEC事務局から発表された月刊オイル・マーケット・レポートで3月末のOCED諸国石油在庫の過去5年平均に対する余剰が900万バレル程度と4月12日発表時点の2月末の余剰である4,300万バレル程度から縮小した旨判明したことで、世界の石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.26ドル上昇し、終値は70.96ドルとなった。5月15日も、前日にOPEC事務局から発表された月刊オイル・マーケット・レポートでOCED諸国の石油在庫が縮小した旨判明したことで世界の石油需給の引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.31ドルと前日終値比で0.35ドル上昇した。5月16日は、この日米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(5月11日の週分)で、原油及びガソリン在庫が前週比で140万バレル及び379万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油同76~230万バレル程度の減少、ガソリン同140~200万バレル程度の減少)を一部上回っていた旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.18ドル上昇し、終値は71.49ドルとなった。この結果原油価格は5月14~16日の3日間で併せて1バレル当たり0.79ドル上昇した。ただ、5月17日は、この日がナイジェリアの原油パイプラインNembe Creek Trunk Lineが原油流出により操業を停止するとともにShell がBonny Light原油の出荷につき不可抗力条項の適用を宣言した(後述)ことで、石油需給の引き締まり感を市場が意識したことが原油相場に上方圧力を加えた反面、イタリアの一部政党が欧州中央銀行(ECB)に対し債務の減免を要請する可能性があるとの観測が市場で発生した流れを引き継いだ(前日(5月16日)に当該政党が債務減免を要請する方針である旨報じられていた)ことでユーロが下落したうえ、5月17日にフィラデルフィア連邦準備銀行から発表された5月のフィラデルフィア地区製造業景況感指数(ゼロが当該部門拡大と縮小の分岐点)が34.4と市場の事前予想(21.0)を上回ったことで、同国金融当局者が金利引き上げを加速するのではないかとの観測が市場で増大したことにより、米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.49ドルと前日終値比で変わらずであった。そして、5月18日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.21ドル下落し、終値は71.28ドルとなった。
しかしながら、米国のムニューシン財務長官が、中国に対する関税賦課等を含む中国との貿易戦争を一旦保留とする旨5月20日に明らかにしたことで、中国で活動する米国企業と米国経済及び石油需要への影響に対する懸念が5月21日の市場で後退したことに加え、5月20日に実施されたベネズエラ大統領選挙で現職のマドゥロ氏が再選されたことを受け、5月21日に米国のトランプ大統領がベネズエラの債権取引を禁止する大統領令に署名したことで、ベネズエラ経済の一層の減速と同国の原油生産のさらなる減少に対する懸念が5月21日の市場で発生したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.96ドル上昇し、終値は72.24ドルとなった(この価格は2014年11月26日(この時は同73.69ドル)以来の高水準であった)。ただ、5月22日には、この日米国のトランプ大統領が、米国と中国との間での貿易に関する協議に関し、それほど満足していない旨発言したことから、両国間の貿易関係と経済及び石油需要に対する懸念が市場で再燃したこともあり、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.13ドルと前日終値比で0.11ドル下落した(なお、NYMEXの2018年6月渡しWTI原油先物契約取引はこの日を以て終了したが、7月渡し契約のこの日の終値は1バレル当たり72.20ドル(前日終値比0.15ドルの下落)であった)。また、イラン及びベネズエラからの石油供給低下の可能性と原油価格上昇に対する米国からの懸念を背景としてOPEC産油国等が早ければ6月にも原油供給削減の緩和を決定する可能性がある旨5月22日午後遅くに報じられたことで、石油需給引き締まり感が5月23日の市場で後退したことに加え、5月23日にEIAから発表された同国石油統計(5月18日の週分)で原油及びガソリン在庫が前週比でそれぞれ578万バレル及び188万バレルの増加と、市場の事前予想(原油同160~200万バレル程度、ガソリン同62~143万バレル程度の、それぞれ減少)に反し増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.29ドル下落し、終値は71.84ドルとなった。5月24日も、5月26~28日の米国戦没将兵追悼記念日(メモリアルデー)の連休を前にして、持ち高調整が市場で発生したことに加え、OPEC及び一部非OPEC産油国が6月に石油市場が均衡していると判断されれば、緩やかに減産を緩和する可能性がある旨ロシアのノバク エネルギー相が発言したと5月24日に報じられたことで、この先の石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.71ドルと前日終値比で1.13ドル下落した。5月25日も、OPEC及び一部非OPEC産油国が日量100万バレル程度増産するとサウジアラビアとロシアが協議している旨関係筋が明らかにしたと5月25日に報じられたことから、世界石油需給引き締まり感が市場で後退したことに加え、5月25日に米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で859基と前週比で15基増加(石油水平坑井掘削装置稼働数は797基と同10基増加)となっている旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.83ドル下落し、終値は67.88ドルとなった。この結果原油価格は5月22~25日の4日間で併せて1バレル当たり4.36ドル下落した。
5月28日には、米国戦没将兵追悼記念日(メモリアルデー)の休日に伴いニューヨーク原油先物市場では通常取引は実施されなかったが、OPEC及び一部非OPEC産油国が日量100万バレル程度増産する旨サウジアラビアとロシアが協議している旨関係筋が明らかにしたと5月25日に報じられたことから、世界石油需給引き締まり感が市場で後退した流れを5月29日の市場が引き継いだうえ、イタリアで組閣が難航するとともに議会が今後数日以内に解散され早ければ7月29日にも再選挙が実施されることもありうる旨同国のマッタレッラ大統領が示唆したと5月29日に報じられたことにより、同国及び欧州経済混乱の可能性に対する不透明性が増大したこともあり、米国株式相場が下落するとともに、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、5月29日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.15ドル下落し、終値は66.73ドルとなった。5月30日には、原油価格の下落はロシアの金融部門に悪影響を及ぼす可能性がある旨の懸念を同国中央銀行が5月30日に示唆したことで、OPEC及び一部非OPEC産油国による減産措置緩和方針に対する市場の観測が後退したことに加え、5月30日にイタリアの大衆迎合主義政党「五つ星運動」が経済相就任を要請していたユーロ離脱を主張するパオロ・サボーナ氏の就任を断念する意向を示したことで、イタリア及び欧州の経済混乱に対する懸念が市場で低下したうえ、5月30日にドイツ連邦統計庁から発表された4月の同国小売売上高が前月比で2.3%の増加と市場の事前予想(同0.5~0.7%程度の増加)を上回ったことで、ユーロが上昇した反面米ドルが下落したことにより、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.21ドルと前日終値比で1.48ドル上昇した。5月31日には、この日EIAから発表された3月の同国原油生産量(確定値)が日量1,047.4万バレルと前月比で同21.5万バレル増加した他、1920年1月以降の同国月間原油生産統計史上最高記録を更新した旨判明したことで、石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.17ドル下落し終値は67.04ドルとなった。6月1日には、この日米国Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で861基と前週比で2基増加(石油水平坑井掘削装置稼働数は798基と同1基増加)となっている旨判明したことに加え、6月1日に米国労働省から発表された5月の同国非農業部門雇用者数が前月比で22.3万人の増加と市場の事前予想(同18.8~19.0万人程度の増加)を上回っていたうえ、同日米国供給管理協会(ISM)から発表された5月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が58.7と市場の事前予想(58.1~58.2)を上回ったことで、今後同国金融当局が金利の引き上げを加速するのではないかとの観測が市場で発生したことで、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.81ドルと前日終値比で1.23ドル下落した。この結果原油価格は5月31日~6月1日の2日間で併せて1バレル当たり2.40ドル下落した。
また、5月31日~6月2日に開催された主要7ヶ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で、6月1日に欧州連合(EU)、カナダ及びメキシコに対し鉄鋼及びアルミニウムにそれぞれ25%、10%の追加関税賦課を発動した米国と、他の6ヶ国との対立が鮮明になった旨6月2日に明らかになったこともあり、世界貿易と経済の先行き、及び石油需要に関する懸念が6月4日の市場で発生したことに加え、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が5月29日から6月1日にかけ21万バレル強増加した旨石油情報サービス企業Genscapeが報告したと6月4日に報じられたことで、NYMEXのWTI原油先物受渡地点での原油需給緩和感を市場が意識したことにより、6月4日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.06ドル下落し、終値は64.75ドルとなった。ただ、6月5日には、6月6日にEIAから発表される予定である米国石油統計(6月1日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.52ドルと前日終値比で0.77ドル上昇した。それでも、6月6日には、この日EIAから発表された米国石油統計で原油、ガソリン、及び留出油在庫が前週比でそれぞれ、207万バレル、460万バレル、217万バレルの増加と、市場の事前予想(原油同130~210万バレル程度の減少、ガソリン同60万バレル程度の減少~59万バレル程度の増加、留出油同70~78万バレル程度の増加)に反し、もしくは上回って増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.79ドル下落し、終値は64.73ドルとなった。ただ、6月6日午後遅くに、イラクのルアイビ石油相が、6月22日に開催される予定であるOPEC総会では増産は議題となっていない旨発言したと伝えられたうえ、6月7日にアルジェリアのギトゥニ エネルギー相が重要なのは石油市場の安定性を確保するために需給を均衡させることである旨発言したことで、OPEC産油国等による増産を通じた石油需給の緩和に対する観測が市場で後退したことから、6月7日の原油価格の終値は1バレル当たり65.95ドルと前日終値比で1.22ドル上昇した。6月8日には、この日中国税関総署から発表された5月の同国原油輸入量が3,904.7万トン(日量推定922万バレル)と4月の3,946.1万トン(同963万バレル)から減少していた旨判明したことで、同国石油需要の伸びの鈍化観測が市場で発生したことに加え、米国大手金融機関J.P.モルガンが6月8日付レポートで2018年のWTI原油価格予想を1バレル当たり3ドル下方修正し62.20ドルとした旨明らかにしたこと、6月8日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で862基と前週比で1基増加(石油水平坑井掘削装置稼働数は804基と同6基増加)となっている旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.21ドル下落し、終値は65.74ドルとなった。
6月11日には、この日イラクのルアイビ石油相が、産油国は増産圧力に影響されるべきではなく、一部の産油国単独による生産方針の決定はOPEC及び一部非OPEC産油国の減産合意を逸脱するとともに、減産合意の崩壊につながる可能性がある旨警告したことで、6月22日に開催が予定されているOPEC総会で減産措置の緩和が決定されるかどうかにつき懐疑的な見方が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.10ドルと前週末終値比で0.36ドル上昇した。6月12日も、6月11日にイラクのルアイビ石油相が産油国は増産圧力に影響されるべきではない旨警告したことで、OPEC総会で減産方針の緩和が決定されるかどうかにつき懐疑的な見方が市場で発生した流れを引き継いだことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.26ドル上昇し、終値は66.36ドルとなった。6月13日には、この日EIAから発表された同国石油統計(6月8日の週分)で、原油在庫が前週比で414万バレルの減少と市場の事前予想(同125~270万バレル程度の減少)を上回って減少していた他、ガソリン及び留出油在庫がそれぞれ同227万バレル、同210万バレルの減少と、市場の事前予想(ガソリン同20~100万バレル程度の増加、留出油同0~50万バレル程度の増加)に反し減少している旨判明したことで、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.64ドルと前日終値比で0.28ドル上昇した。6月14日も、リビアで武装勢力間での衝突が発生したことにより、同国中部のEs Sider及びRas Lanuf両石油ターミナルの操業が停止、原油の出荷に関し同国国営石油会社NOCが不可抗力条項の適用を宣言するとともに、同国の原油生産量が日量24万バレル減少した旨NOCが明らかにしたと6月14日に報じられたこと(後述)で、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.25ドル上昇し、終値は66.89ドルとなった。この結果原油価格は6月11~14日の4日間で併せて1バレル当たり1.15ドル上昇した。しかしながら、6月15日には、中国が米国の知的財産権を侵害しているとして、500億ドル相当の中国からの輸入製品に対し関税を賦課する内容の制裁を発動する旨この日米国のトランプ大統領が発表したことで、米国と中国との貿易戦争の深刻化と世界経済及び石油需要への懸念が市場で増大したことから、6月15日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.83ドル下落し、終値は65.06ドルとなっている。
3.今後の見通し等
イエメンでは、6月9日に同国のフーシ派武装勢力から敵対する(後述)サウジアラビアのジーザーン(Jizan)に向けミサイルが発射された結果、サウジアラビアの民間人3名が犠牲になった。これに対しサウジアラビア側は報復措置を実施する旨示唆したと6月10日に伝えられる。そして6月13日には、サウジアラビアが主導する連合軍が、フーシ派武装勢力が支配するイエメン西部の都市ホテイダに対して奪還のための作戦を開始した。これにより両者が衝突、双方併せて39名が死亡したと6月14日に伝えられる。
イランでは、5月8日のトランプ大統領のイラン核合意離脱表明とイランに対する制裁再発動もあり、核合意を主導したロウハニ大統領に対して保守強硬派による批判が高まりつつある旨5月13日に報じられる。他方、5月13日にはイランのザリフ外相が中国の王毅外相と会談、その際ザリフ外相と王毅外相は核合意を継続するため努力していくことで意見が一致した。ただ、同日米国のボルトン大統領補佐官は、欧州企業がイランと取引を継続するのであれば、そのような欧州企業に対し米国が制裁を発動することもありうる旨警告している。また、5月12日には、米国のトランプ大統領がフランスのマクロン大統領と電話で会談したが、その際イランとの間で改めて包括的な合意に到達しなければならない旨トランプ大統領が表明したと、5月13日にホワイトハウスが示唆した。5月14日にはイランのザリフ外相がロシアのラブロフ外相と会談し、核合意を継続するべく努力していく旨で意見が一致した。そのような中、5月15日には、イランと英国、フランス、ドイツ、及びEUの外相間での核合意に関する協議が実施され、お互い核合意にとどまることで意見が一致するとともに、欧州企業に対する米国の制裁の影響を緩和するための方策等の具体案につき検討していくと伝えられる(このため、イランの弾道ミサイル開発抑制やシリア問題に関しては当面議論に入ることを延期する旨5月16日に伝えられる)。他方、EUは5月18日に、欧州企業がイランで実施する事業に対し米国による制裁から保護するための体制(ブロッキング・スタチュート:欧州企業の米国の制裁遵守を防止する法令)の発効に向け作業を開始した旨発表した。そのような中、5月21日にはポンペオ国務長官がイランに対する新戦略を発表した(後述)。ポンペオ長官は、同新戦略中に示された12項目(後述)をイランが受け入れなければ「史上最強」の制裁を実施する旨表明した。これに対し、同日ロウハニ大統領はイランは受入不可能として当該戦略を批判、EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表も同日既存の核合意を存続させる旨示唆したが、イスラエルのネタニヤフ首相は同日当該戦略に支持の意を表している。また、国際原子力機関(IAEA)が取りまとめたイランのウラン濃縮活動制限に関する報告書において、イランは核合意を遵守していると判断するものの、イランに対し核施設の査察範囲の拡大等を実施するよう推奨する旨IAEAが認識していると5月25日までに報じられる。他方、5月28日には、インドのスワラジ外相は、国連により科されている制裁には従うが、米国による制裁は遵守しない旨明らかにしている(しかしながら、インドの石油会社であるRelianceはイランからの原油調達(2017年は日量7万バレル程度)を10~11月には停止することを検討している旨5月30日に伝えられる他、同国石油会社のNayara Energy(旧Essar Oil)もイランからの原油輸入を6月には削減し始め、また従来のイランからの原油引き取り量(2017年は同14万バレル程度)を40~50%削減する方針である旨6月11日に報じられる)。そのような中、5月28日には、イスラエルのネタニヤフ首相は、翌週にドイツ、フランス(場合によっては英国も)を歴訪し、イラン核問題につき協議する旨明らかにしている。そして、6月4日には、ハメネイ師は、イランと米国を除く西側諸国等との間でのウラン濃縮活動を巡る合意が維持できなくなった場合に備え、ウラン濃縮活動を拡大する用意をするように関係機関に指示した旨明らかにした。また、6月5日にはサレヒ副大統領兼原子力庁長官が当該活動拡大のための作業を開始した旨発言している(当該作業は当面核合意により定められる内容を逸脱しないとされる)。イランはIAEAに書簡を発出し、当該内容を実施する旨伝えたと6月5日に報じられる(いつ始めるか等の詳細については別途連絡する旨同日伝えられる)。これに関し米国のポンペオ国務長官は6月6日に米国はイランの核兵器開発活動再開を受け入れない旨示唆した。他方、英国、フランス及びドイツは米国の国務長官及び財務長官に宛て対イラン制裁につき欧州企業への適用を免除するよう書簡を発出した旨6月6日に報じられる。それでも、欧州の石油会社はイランからの原油の引き取りを停止する方向で準備を進めつつある旨、6月6日に伝えられる。また、6月6日には、米国の国務省及び財務省関係者が世界各国を訪問し、それら諸国がイランでの事業から撤収するように非公式ではあるが要請する動きが見られることが明らかにされている。6月9日にはイランのロウハニ大統領がロシアのプーチン大統領と会談したが、その際ロウハニ師は米国のイラン核合意離脱に際し引き続き協力していく旨合意した。また、6月12日にはロウハニ大統領はフランスのマクロン大統領とも電話で協議、米国のイラン核合意離脱によるイランへの影響を軽減する方策を速やかに提案するよう促している。
リビアでは、5月29日に、国連が支援する統合政府のシラージュ暫定首相と東部の暫定政府を支援する軍事組織(リビア国民軍(Libyan National Army))を指揮するハフタル将軍が会談し、12月10日に同国で選挙を実施する旨合意したと発表した。他方、リビア国民軍と敵対するベンガジ防衛旅団(Benghazi Defense Brigades)がRas Lanuf南方で衝突したことにより、衝突地点の近隣に位置するEs Sider(原油出荷能力日量32万バレルだが、5月の出荷量は同30万バレル)及びRas Lanuf(同22万バレルだが5月の出荷量は同11万バレル)両石油ターミナルの従業員が避難するとともに操業が停止、出荷に関しNOCが不可抗力条項の適用を宣言するとともに、同国の原油生産量が日量24万バレル減少した他、ターミナルの操業停止が継続すれば原油生産量の停止が日量40万バレルにまで拡大する可能性がある旨NOCが明らかしたと6月14日に報じられる。
ベネズエラでは5月20日に大統領選挙が実施され、現職のマドゥロ大統領が再選された。これを受け5月21日には、米国のトランプ大統領が当該大統領選挙につき「公正なものではなかった」として、ベネズエラの債権取引を禁止する大統領令に署名した。これに対しベネズエラのアレアサ外相は5月21日に当該制裁は国際法に反するものであるとして反発、5月22日にはマドゥロ大統領は駐カラカス米国大使館のロビンソン代理大使他計2名に対し国外退去を命令した。5月23日には主要7ヶ国(G7)首脳が今回のベネズエラ大統領選挙につき民主主義に照らし合わせて妥当な過程を経ていなかった旨非難する声明を発表した。EUは5月28日に外相理事会を開催したが、ベネズエラに対し追加制裁(既に1月18日にベネズエラ政府高官7人に制裁を実施することでEUは合意していた)を実施する方向で検討を行う方針につき合意した他、5月20日に実施された大統領選挙をやり直すよう要請することでも意見が一致した。他方、ベネズエラ国内での港湾での操業上の混乱(後述)から、タンカー間での原油の受渡し方法を受け入れなければ、原油の出荷はできないと宣言する旨検討していると6月5日に報じられる。そして、6月7日時点では80隻以上のタンカーが同国からの原油の引き取りのために待機しており、供給は1ヶ月程度遅延しているとされる。また、同社は販売先向けの原油を確保するために、最大で日量5.7万バレルの原油輸入を実施することもありうる旨6月13日に伝えられる。
地政学的リスク要因面では、当面イラン及びベネズエラ情勢が市場の注目されるところとなろう。米国のイラン核合意離脱と同国への制裁再発動後、米国以外の合意参加国とイランとの間での核合意維持の努力は継続しているものの、同国からの原油供給が事実上減少する方向に向かう可能性は高いものと見られる(後述)。ベネズエラにおいては、国内経済混乱により原油生産が減少しつつある他、5月6日にConocoPhillipsがカリブ海諸島でベネズエラ国営石油会社PDVSAが保有する水深の深い出荷施設の接収措置を進めた他、部品類や人材不足で大型タンカーを接岸できる港湾を中心に出荷施設の稼働が低下した結果、原油輸出に支障が発生していると伝えられる(前述)。PDVSA側はタンカー(PDVSAの保有する港湾で積載された原油を輸送する中小型タンカーが中心と見られる)からタンカー(国外向け大型タンカーが中心と見られる)へと原油を移し替えることで、この局面を乗り越える意向を示しているが、原油の積替費用(資機材や人材に関するもの他)の負担等解決すべき問題も抱えているとされる。このため、同国からの原油の出荷が円滑に回復するかどうか不透明な部分もある。また、そもそも輸出に回す原油が不足しているという報道もあり(日量150万バレルの輸出契約に対し6月は同69万バレルしか輸出量原油を確保できない旨PDVSAが8社の顧客に通知したと6月5日遅くに明らかになっている)、2017年の同国の原油供給(生産日量197万バレル、輸出推定同150万バレル、国内需要同47万バレル)という状況から推定すると、6月の同国の原油生産量は既に日量116万バレルにまで減少しているか、早晩低下する可能性がある(因みに5月の原油生産量は同136万バレルであった、図17参照)。ベネズエラの経済状況が好転しているようには見えないところからすると、原油生産の減少はこのまま継続する可能性があるうえ、港湾インフラの操業混乱が継続するようだと世界石油市場へのベネズエラ産原油供給がなお一層低下することになり、その結果石油需給の引き締まり感が市場で強まる結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。
また、ナイジェリアでもTrans Ramosパイプライン(原油輸送能力日量10万バレル程度)が4月24日に4ヶ所で原油流出を発見後操業が停止(操業者であるShell (SPDC:The Shell Petroleum Development Company of Nigeria Limited))が5月25日に明らかにしている)、また、Trans Forcadosパイプライン(原油輸送量日量20~25万バレル)が5月7日の原油流出発見により操業を停止(5月23日に操業を再開)、さらに、Nembe Creek Trunk Line(原油輸送能力日量15万バレル、輸出向けのBonny Light原油を輸送)が5月17日に原油流出で操業を停止、同日Bonny Light原油の出荷を担当するShellは当該出荷に関し不可抗力条項の適用を宣言、当該パイプラインは5月23日に操業を再開したものの不可抗力条項の適用は解除されず、6月8日には再び操業を停止する(改修作業を実施するためとされ、6月11日現在操業は停止中と伝えられる)など、最近同国ではパイプラインからの原油流出が頻繁に発生しており、7月の原油輸出量が日量143万バレルと年初来最低水準となる旨6月11日に明らかになっている(因みに2016年の同国の原油輸出量は日量174万バレル、2018年6月のそれは同180万バレルであった)。このようなパイプラインからの原油流出が今後も継続するようであれば、ナイジェリアの原油生産量が低迷する結果、石油需給の引き締まり感が市場で高まり、原油相場に影響する場面が見られる可能性がある。
他方、世界経済面では、3月1日の米国の鉄鋼及びアルミニウムに対する関税賦課の方針発表に端を発する米国と他の諸国間での貿易戦争と各国経済(そして石油需要)への影響に関する市場の懸念から、今後も株式相場とともに原油相場が変動する場面が見られることもありうる。さらに、米国の金融関係者による同国経済や政策金利に対する見解、欧州の経済指標類や金融当局者による地域経済と金融政策に関する発言、中国の経済指標類(同国の原油輸入統計を含む)や貿易等の経済政策等によっても、これら地域経済(もしくは世界経済)と石油需要動向に関する観測を市場で喚起する他、米ドルが変動する結果、原油相場に圧力が加わるといった展開が見られるといったこともありうるもある。また、米国では、7月に入り主要米国企業の2018年4~6月期業績等が発表され始めるが、その内容によっては、米国経済に対する見方が市場で変化するとともに、それが株式相場に反映されることを通じ原油相場にその影響が織り込まれる可能性がある。
米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しており、製油所の稼働も上昇、原油精製処理が進むとともに製油所等による原油購入が活発化、季節的に石油需給が引き締まりやすい時期となっている。そして7月半ば頃までは同国でのガソリン需要の盛り上がりが継続するとともに(米国のガソリン需要のピークは7月4日の独立記念日(インディペンデンス・デー)とされる)、季節的な石油需給の引き締まり感が持続する結果、少なくとも原油価格はこの面では当分下支えされやすいものと考えられる。
また、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設(当該地域では2017年は日量175万バレルの原油を生産した)や原油等を積載したタンカーの航行に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入港湾施設や製油所の活動に支障が発生したり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業が停止すること等により米国の原油輸入に影響を与えたりする(2017年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した)。5月24日に発表された米国海洋大気庁(NOAA: National Oceanic and Atmospheric Administration)及び5月31日に発表されたコロラド州立大学の予想によると、2018年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年並みから平年よりも活発な暴風雨の発生が予想されている(表1参照)。既に5月下旬には亜熱帯性低気圧の「アルベルト(Alberto)」が米国メキシコ湾東部を北上、5月28日午後にはフロリダ州西部に上陸した。これに伴い米国メキシコ湾沖合の油田では、ShellやChevronが油田の操業を停止し従業員を避難させたと伝えられる。今後もハリケーンの進路等によっては、米国メキシコ湾沖合等で操業する油田、米国等の港湾施設、及び製油所の操業が脅かされ、その結果、原油相場が影響を受ける場面が見られることもありうることから、ハリケーンシーズン全体の暴風雨等発生見通しの改定に加え、ハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等には留意する必要があろう。
OPEC産油国は6月22日に総会を、そして一部非OPEC産油国との閣僚級会合を6月23日に開催する予定である。4月20日に米国のトランプ大統領が原油価格は人為的に高く良くないことで受け入れられない旨表明して以降、5月25日には関係筋から、OPEC産油国が日量最大100万バレルの増産を行う可能性がある旨伝えられ始め、また5月25日にはOPECのバルキンド事務局長が増産の検討はトランプ大統領の発言によるものであると明らかにして以降、米国からOPEC産油国に対して増産圧力が加わるとの観測が市場で増大するとともに、原油相場の上昇を抑制している格好となっている。しかしながら、サウジアラビアは自国の国営石油会社サウジアラムコの株式上場(IPO)を控えているため、むやみに増産することにより原油価格を急落させる(そして、サウジアラムコの資産価値を減少させる)ことに対しては消極的であると見られ、世界石油需給の均衡を確保する(つまり供給不足のみならず供給過剰も回避する)べく、また原油価格動向を考慮に入れつつ、慎重に原油供給を調整していくものと考えられる。ただ、イランやベネズエラ(及びイラク等)はサウジアラビア等による減産措置緩和方針に反対していると6月13日に伝えられる。イランは米国による制裁の再発動により、原油供給を減少させられる方向にある。しかしながら、米国がイラン核合意離脱を発表した5月8日の前日に米国政府関係者はサウジアラビアに対し供給途絶が発生した場合には価格を安定化させるよう要請した旨6月7日に報じられる他、イランの供給減をサウジアラビアによる供給増により相殺させることで、サウジアラビアは原油相場は安定する一方で供給が増加することにより収入が増加、イランは原油価格が安定する一方で供給が減少することにより収入が減少するといった展開となる可能性があることが、イランが当該方策に反対する背景にあるものと見られる。そして、OPEC総会では、生産方針の決定等については、全会一致を原則としていることから、サウジアラビアの推進する減産措置緩和方針に対し、イラン等が反対に回ることにより、増産に対する加盟国の総意を得られない結果、「世界石油需給の均衡とエネルギー部門に対する適切な投資を実施できるよう石油市場の安定を確保することが重要である旨確認した」、もしくは「世界の石油供給不足に対処すべく増産する用意がある」等、比較的控えめな類の表現で暗示的に増産を実施する旨の表明にとどめるような声明を発表するか、もしくは長時間議論をした挙句、結局合意に至らない、といった展開となることすら想定される。ただ、合意に至らない場合でも、米国の原油価格上昇鎮静化への圧力から、サウジアラビア(及びロシア)は暗黙裡に増産することはありうる。そしてOPEC総会等で増産が決定されたり、サウジアラビア等により暗黙裡に増産が実施されたりした場合、足元の石油需給の緩和感が市場で醸成されることから、原油相場が下落する可能性はあるが、そのような増産が行われた場合でも、サウジアラビア等により当該増産は不必要な供給過剰を招かないよう慎重に実施され、かつそのような増産分の原油が消費国に到着するまでには数ヶ月を要すると見られることにより、イランやベネズエラの原油供給減少可能性に対する不安感や夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来に伴う季節的な需給の引き締まり感が市場で残りうる。また、サウジアラビア等が増産した場合には現在日量342万バレル存在する余剰生産能力が減少することになる(イランは制裁により減産せざるを得なくなる結果、その分だけ余剰生産能力が増加するであろうが、削減されたイランの原油供給が短期的に再び世界石油市場に出回ることはほぼ不可能であることから利用可能な余剰生産能力としては取り扱うことはできない)。産油国の中には、イランやベネズエラのみならず、前述の通りリビアやナイジェリアといった政情が不安定であるが故に市場での石油供給途絶懸念が発生しやすい地域がなお存在することからすると、余剰生産力の減少は、世界の石油供給余力の低下(もしくは石油供給不足の可能性)に対する不安感を市場で増大させる結果、原油相場に上方圧力を加えやすい。このようなことから、OPEC総会等で増産が決定されても、原油相場は下落傾向を続けにくく、むしろ価格は下げ止まり、その後は原油相場が反発するといった展開になることも否定できないものと思われる。また、リビアやナイジェリア等の諸国で政情不安等から石油供給途絶懸念が市場で強まった際には原油相場を一層上昇させやすくなる。他方、OPEC総会等で増産が見送りとなった場合には、イラン及びベネズエラの原油生産減少に対する石油需給引き締まりに対する不安感から原油相場が上昇するといった場面が見られる可能性がある。しかしながら、原油価格が上昇すれば、米国によるOPEC産油国に対する増産圧力の増大する結果、サウジアラビア等は暗黙裡にでも増産に動かざるを得ないとの観測が市場で意識されやすくなることから、原油相場の上昇が鈍化するといった展開となることも考えられる。それでも、イランやベネズエラ等からの減産に対しサウジアラビア等が増産することによる余剰生産能力の減少に対する石油市場の懸念から原油相場が上振れしやすいものと考えられる。また、そのような中、米国の石油坑井掘削装置の稼働数や原油生産量実績及び見通し等を通じ、米国、そして世界石油需給に対する観測が市場で変化することにより、原油相場にその影響が織り込まれるといった場面も見られうる。
全体としては、今後も、米国等での夏場のガソリン需要の盛り上がりに対する季節的な需給の引き締まり感が市場に居座ることで原油相場は下支えされるものと見られる。また、OPEC総会及びOPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚会合では、明確な減産緩和(増産)方策が決定するかどうかは微妙なところであるが、当該方策が決定した場合には、足元の石油需給緩和感から原油価格に下方圧力が加わりうるものの、実際の増産で実質的に利用可能な余剰生産能力が減少することから、原油相場の下落は持続せず、むしろある時点で下げ止まるといった展開となる可能性がある。反面、当該方策の実施が見送られた場合には、足元での石油需給の引き締まり感から原油相場が上昇するといった場面が見られる可能性があるが、この場合、米国の圧力によりサウジアラビア等が暗黙裡に増産を開始することが原油相場の上昇を鈍化させるといった展開はありうる。そして、減産措置緩和方針の決定の有無にかかわらず、イラン及びベネズエラ等の減産による石油需給引き締まり観測、もしくは利用可能な余剰生産能力の低下から、原油価格は当面上振れしやすいものと考えられる。
4.イラン制裁を巡る石油市場の動き等
現在世界石油市場において、市場から最も注目される要素の一つとして挙げられるのが米国のイラン核合意離脱を巡る情勢である。ここでは、当該情勢が石油市場に示唆するところにつき、核合意の歴史的背景とともに考察していくこととする。
第二次大戦後の世界列強間での核軍備に対する脅威の増大の中で、1953年12月8日に、米国のアイゼンハワー大統領が「平和のための原子力」に関する演説を通じ、事実上のIAEAの設立を提案したことで、IAEAは1957年7月29日に設立された。続いて1968年7月1日には核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)に62ヶ国が調印、1970年3月5日に発効した。これにより1967年1月1日以前に核兵器等の核爆発装置を製造しかつ爆発させた、米国、ロシア、英国、フランス、及び中国の5ヶ国の「核兵器国」以外の国は、原子力の平和利用と軍事技術への転用を防止するために、IAEAが査察等を実施し、原子力が平和利用に限定されている、という認定を獲得する手続きを受け入れる義務を負うこととなった。イランは1958年5月16日にIAEAに加盟、1968年7月1日にNPTに署名(1970年2月11日批准)、1974年5月15日にはIAEAと査察等受け入れのための包括的保障措置協定(CSA : Comprehensive Safeguards Agreement)を締結した。同国では1975年5月1日に同国南西部にあるブシェールで原子力発電所の建設を開始した。しかしながら、1979年2月にイスラム革命が発生、1979年4月1日にイラン・イスラム共和国が建国され、ホメイニ師が最高指導者に就任した。その際原子力発電を反イスラム的なものであると判断したホメイニ師の指示によりブシェール原子力発電所建設と同国の核開発活動は中断したうえ、1984年3月24日には当時の戦争(1980年9月22日~1988年8月20日のイラン・イラク戦争)相手であったイラクが同発電所を爆撃した。なお、ホメイニ師死去(1989年6月3日)後の1995年1月8日にイランはロシアとブシェール原子力発電所建設のための協定に調印、同発電所は2011年9月4日に稼働を開始している。他方、1987年10月26日には米国のレーガン大統領(当時)が、イランがペルシャ湾において米国や湾岸諸国の船舶に対し攻撃を加えていること等を受け、イランからの原油の全面輸入禁止を含む制裁の実施を発表している。1990年8月2日のイラクのクウェート侵攻とそれに伴う湾岸戦争(1991年1月17日~2月28日)の際、ブッシュ(父)政権(当時)下の米国は1991年7~11月に限定量ながらイランから原油を輸入した(湾岸戦争拡大による石油供給不足の可能性に備えたものであったとされる)ものの、基本的には今日までイランからの原油輸入は殆どなされていない。他方、2002年8月14日にはイランの反体制派である国民抵抗評議会(NRC: National Resistance Council)が、イラン政府はIAEAに申請することなく2ヶ所の核施設を建設している旨明らかにした。また、2003年2月21日からIAEAがイラン中部ナタンツにある原子力関連施設で査察を実施したが、ウランを濃縮するための複数の遠心分離機が発見された旨明らかにしたと2月22日に報じられた他、同年8月26日にはIAEAが採取したサンプルから高濃度の濃縮ウランが検出された旨明らかになったことから、同国が核兵器開発に必要なウラン濃縮活動を実施していたのではないかとの疑惑が広がったことを受け、11月10日にはイランは国際的な信頼性を取り戻るために同日ウラン濃縮活動を停止する旨表明した。しかしながら、2006年2月6日にはアフマディネジャド政権(当時)下でイランはウラン濃縮活動を実施する旨表明、同年2月13日には同国中部にあるナタンツの核関連施設でウラン濃縮活動を開始した旨明らかになった。さらに2009年9月25日には、イランがIAEAに対し未申告でウラン濃縮施設を新たに建設している旨明らかした他、2010年2月7日にはアフマディネジャド大統領は、20%の濃縮ウラン製造作業を開始するよう指示した。このような一連のイランのウラン濃縮活動の動きに対し、国連安全保障理事会は、2006年12月23日にイランのウラン濃縮活動停止を求め、ウラン濃縮活動関連物資や技術の輸出禁止、活動に関与する個人や団体の金融資産凍結といった制裁決議を採択した。制裁は、2007年3月24日には、イランからの武器輸出の禁止と個人及び団体の金融資産凍結拡大、2008年3月3日には、核及びミサイル開発に関与するイラン政府機関幹部や技術者の渡航禁止、2010年6月9日には、イランによる核弾頭が搭載可能な弾道ミサイル発射等の禁止、イランへの戦車を含む大型兵器の販売禁止、及びイランの個人及び団体の金融資産凍結範囲のさらになる拡大、へと強化された。イランはこれらの制裁決議に反発しつつ、自国のウラン濃縮活動を進めていった。
そして、2011年11月8日には、IAEAが、イランのウラン濃縮等の核開発活動に軍事的利用の意図が見られるとする報告書をまとめたことで、ウラン濃縮問題に伴う西側諸国との対立が一層激化、2011年12月31日には米国のオバマ大統領(当時)がイランに対し新たな制裁(2012会計年度国防授権法)に署名、EUも2012年1月23日に開催された外相理事会で対イラン制裁の実施を決定した。これに対しイランの国会議員であるコーサリ氏が原油輸出が不可能となるのであれば、ホルムズ海峡を封鎖する旨2012年1月24日に報じられる。米国の制裁は180日以内(つまり2012年6月28日が期限)に、イランから「相当程度」の原油引き取りの削減を実施しなければ、イランと原油取引を行う諸国を本拠地とする金融機関に対し米国での新規口座開設を禁止したり、既存口座の制限を課したりする、といった内容のものであった。そしてこの「相当程度」については、具体的な数値は明示されておらず、これは大統領の意向次第といったところであった。そして、イランからの原油輸入を20%削減したトルコや、原油輸入を20%削減する方針を示唆したインドが、米国からの制裁を免除されたこともあり、後日「相当程度」の削減は少なくとも「20%程度」の削減と解釈されるようになった。他方、EUによる制裁はイランからの原油購入につき新規契約は即時禁止、既存契約も2012年7月1日には禁止するといった内容であった。このようなこともあり、まずEU諸国によるイランからの原油輸入は2012年中頃までには皆無となった(図18参照)。他方、EU諸国以外の国もどれくらいの割合イラン産原油輸入を削減すれば、米国からの制裁を免除されるかにつき、半ば手探りの状態となったこともあり、2012年中頃には20~100%の削減となった。勿論イランの原油輸入は月によって変動があるものの、欧米諸国による制裁によりイランの原油輸出は2011年の日量254万バレルが2012年には同210万バレル、2013年には同122万バレルと大幅に減少した。そしてそれに従って、同国の原油生産量は2011年の日量362万バレルが2012年後半には同270~280万バレル程度、2013年前半には同270万バレル弱へと減少した(図19参照)。また、前述の通り、この過程で西側諸国による制裁措置に対するイランの姿勢が硬化、対抗措置として原油を武器として使用することも否定しない旨イラン政府関係者が発言したこともあり、イランが面するホルムズ海峡(2011年で日量1,700万バレル、2016年で日量1,850万バレルと世界需要の約2割の石油が通行するとされる)が封鎖され、中東湾岸諸国の石油輸出や余剰原油生産能力の利用可能性が影響を受けるのではないか、との懸念が市場で増大したことにより、2012年3月1日にはブレント原油で1バレル当たり128.40ドルに到達する場面も見られた。
しかしながら、実際にはホルムズ海峡が封鎖されたことはなく、また、イランと西側諸国等とのウラン濃縮活動を巡る交渉は一進一退といった状況で、大きな進展が見られない代わりに西側諸国による軍事介入といった事態も差し迫らないなど状況は大きく悪化するというわけでもなかった。むしろ2013年8月3日に保守穏健派であるロウハニ師が大統領に就任、強硬だったアフマディネジャド前大統領と異なり、西側諸国等に対し対話路線を推進した結果、2015年7月14日にはイランと西側諸国等6ヶ国との間でイランの核開発制限とイランに対する制裁の解除につき合意、そして実際イランが核開発制限を実施している旨確認した後2016年1月16日に欧米諸国等はイランに対する制裁を解除した。
しかしながら、2017年1月20日に就任した米国のトランプ大統領は、イラン核合意につき、①イランの核開発制限に期間が設けられている(ウラン濃縮のために稼働する遠心分離機を10年間に渡り5,060基に制限(合意前は約19,000基)、濃縮ウランは15年間に渡り3.67%以下の濃度のものを300㎏の保有に制限等)、②弾道ミサイル開発が制限されてない、といった核合意上の欠陥を指摘した他、③イランが中東諸国への関与を強めつつあること、等を懸念、これらのいわゆる欠陥が修正されなければ核合意から離脱する意向である旨2018年1月12日に表明した。そして、その後も欠陥が修正されたとは判断されなかったと見られ、同年5月8日には核合意から離脱するとともに、イランに対し制裁を再発動する旨表明した。今回は2012年時のように欧州ではイランからの原油輸入制限に関する制裁は発動されていない。しかしながら、米国で発動される制裁内容は2011年末にオバマ前大統領によって発動されたものと同様である。即ち180日以内(つまり2018年11月4日が期限)に、イランから「相当程度」の原油引き取りの削減を実施しなければ、イランと原油取引を行う諸国を本拠地とする金融機関に対し米国での新規口座開設を禁止したり、既存口座に対する制限を課したりする、といったものであり、これは、あらゆる国に適用されうるものである。また、今回も制裁免除を受けるには「相当程度」の原油取引の削減が必要とされる。そして今回トランプ大統領は「最大規模の経済制裁」を科する旨表明していることから、今回の「相当規模」は2011年末の制裁時に適用されたとされる、少なくとも「20%」の削減を超過することも予想される。
他方、米国によるイラン核合意離脱により、離脱決定日(2018年5月8日)以前に締結した、イランと西側諸国等の企業間の契約等において、2018年8月6日もしくは11月4日の猶予期限(対象となる物品もしくは役務等の内容による)以降に実施した、西側諸国等企業によるイランの相手側当事者に対する物品や役務の供与、または融資もしくは信用の供与については、米国財務省外国資産管理局(OFAC:Office of Foreign Asset Control)による除外の承認がなされなければ、米国における金融取引や資産の凍結等を行うといった制裁の対象となる可能性があり、当該制裁を免除するかどうかについては、個々の事例(ケース・バイ・ケース)によって判断すると米国財務省は明らかにしている。
米国を除く核合意参加国5ヶ国は当該合意にとどまる他、イランに対しても合意にとどまるよう説得しているが、5月25日に開催された、イランと欧米諸国等の核合意を巡る次官級協議(米国は欠席)では、イランが5月末までに、イランに対する貿易保護等の経済対策を提示するよう西側諸国等に対し要望している他、イランは数週間以内に核合意にとどまるかどうかを判断する意向を示した旨同日伝えられる(なお、5月23日にはイランの最高指導者ハメネイ師が、イランで生産される原油の輸出及びイランとの貿易にかかる代金の銀行での処理を確保すること、イランの弾道ミサイル開発と中東地域への関与を認めること等を欧州側に求め、これに欧州側が対処できない場合には、ウラン濃縮活動を再開する旨明らかにしている)。他方、米国のポンペオ国務長官は5月21日にイランに対する新戦略を発表、この中でイランに対し米国の要求(※参照)を行った。これはトランプ大統領がイラン核合意の欠陥として主張した項目(前述)をより具体化したものであり、従来の路線を強化こそすれ後退しているわけではなく、イランがそのような戦略を受け入れなければ(そして、前述の通り5月23日にハメネイ師が表明した核合意維持のための条件を考慮すると、イランとしては、ポンペオ長官の要求は受け入れられないことが示唆される)、制裁が一層厳しくなる旨ポンペオ長官は示唆しており、さらに、同長官は当該新戦略への欧州等同盟国の支持を希望する旨表明したことから、多くの企業が米国で事業を実施する欧州諸国等も、イランとの原油取引を継続するようだと、今後米国からさらなる制裁を当該欧州諸国等の企業に科されないとも限らないため、イランからの原油取引がますます縮小する、といった展開となることも否定できない。
そして、2011年の制裁発動時同様、「相当程度」の具体的な削減割合の数値が少なくとも当面明示されないことにより、イラン原油輸入を行う諸国は再び手探りで輸入削減を実施する結果、2012年会計年度国防授権法発動時に日量100万バレル程度減少したイランの原油生産量が、今回も同程度減少するといった展開となる他、トランプ大統領が「最大規模の経済制裁」を実施する旨、そしてポンペオ長官が「史上最強の制裁を実施する」旨表明しているところからすると、今回の制裁発動によるイランの原油生産減少規模は、前回のそれを超過するといった展開も排除できない。
※ポンペオ国務長官による対イラン新戦略におけるイランに対する要求(仮訳)
1. イランはIAEAに対し核プログラムにつきこれまでの軍事的側面の全てを宣言し、永久に、そして立証できる方法でそのような作業を廃止しなければならない。
2. イランはウラン濃縮を停止しプルトニウムの再処理を決して追求しない。これには重水炉の閉鎖を含む。
3. イランはIAEAに対しイラン全土及び全ての現場への無条件のアクセスを提供しなければならない。
4. イランは弾道ミサイルの増設を終了し、さらなる核搭載可能なミサイル施設の稼働もしくは開発を停止しなければならない。
5. イランは、偽りの罪で拘留されている、米国市民、もしくはその友好国または同盟国の市民を解放しなければならない。
6. イランは、レバノンのヒズボラ、ハマス、そしてパレスチナのイスラム聖戦機構を含む中東のテロリスト集団への支援を終了しなければならない。
7. イランはイラク政府の主権を尊重し、シーア派武装勢力の非武装化、動員解除、再構築を実施できるようにしなければならない。
8. イランはフーシ派武装勢力に対する軍事的支援を終了させ、イエメンの平和裏による政治的解決に向け作業しなければならない。
9. イランはシリア全土からイラン指導下にある全ての部隊を撤収させなければならない。
10. イランはアフガニスタン及びその周辺地域のタリバンと他のテロリストへの支持を終了させアルカイダの上級幹部を匿うことを停止しなければならない。
11. イランは同国革命防衛隊コッズ部隊の世界中のテロリストや軍事的提携先への支援を終了させなければならない。
12. イランは、その多くが米国の同盟である近隣諸国に対する脅迫行為を終了させなければならない。これはイスラエル破壊への脅威、サウジアラビアやUAEへのミサイル発射を明らかに含む。また、国際海上輸送への脅威及び破壊的なサイバー攻撃を含む。
また、米国から制裁対象となり米国での事業遂行上の制約を受ける可能性を排除すべく、欧州企業等のなかにはイランでの事業からの撤退を検討する動きも発生している。これに対し、イランは米国からの制裁を科されることにより同国経済が影響を受けるうえに、ウラン濃縮制限しなければならないといった状況に価値を見出せない、ということになれば、イランも核合意から離脱するとともに、無制限のウラン濃縮活動を再開(また、従来通り弾道ミサイル開発及び中東諸国等への関与は継続すると見られる)、そして、その結果米国も報復措置を示唆、もしくは実際に措置を講じ、それに対してイランはホルムズ海峡封鎖等石油を武器として使用する旨主張する他、イスラエル対イラン(イスラエル領であるゴラン高原及びシリアのイラン革命防衛隊の拠点に対しての両国軍のミサイル発射)、サウジアラビア対イラン(イエメンでのハディ暫定大統領を支援するサウジアラビアが主導する有志連合軍とハディ暫定大統領と対立するフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされるが、イランは公式には支援を否定している)との間での、有志連合軍によるフーシ派武装勢力への空爆、及びフーシ派武装勢力によるサウジアラビアのリヤドや南西部のジーザーン等に向けたミサイル発射、もしくはフーシ派武装勢力による紅海上のサウジアラビア船籍タンカー等への攻撃)といった対立の激化の伴い、中東地域の不安定化とともに当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大する可能性がある。それは例えば、イエメンから発射したミサイルがサウジアラビアの油田地帯もしくは原油出荷関連施設に飛来する、もしくはイランまたはイスラエルがさらにミサイルの標的範囲を拡大するとともに、そのミサイルが両国の間に位置するトルコ、イラク、クウェート、サウジアラビア等の油田、原油パイプライン、製油所及び港湾等の石油関連施設に飛来することを含む。このような石油供給途絶懸念が市場で増大すると原油を速やかに、かつ潤沢に確保しておこうとする心理が市場で強まることにより、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。このようなことから、当面イラン核合意を巡る情勢については注目を継続していく必要があろう。
以上
(この報告は2018年6月18日時点のものです)