ページ番号1007564 更新日 令和1年8月20日

ミャンマーにおける天然ガス生産減少と上流開発投資の誘致に関する課題

レポート属性
レポートID 1007564
作成日 2018-06-28 00:00:00 +0900
更新日 2019-08-20 12:01:11 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG
著者 加藤 望
著者直接入力
年度
Vol
No
ページ数 14
抽出データ
地域1 アジア
国1 ミャンマー
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アジア,ミャンマー
2018/06/28 加藤 望
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概要

本レポートでは、ミャンマーのガス田の生産と開発に関わる最近の事例を二つ取り上げる。

1. 最初は、ミャンマーにおける天然ガスの生産が減少していることについて述べる。沖合の主力天然ガス田4ヵ所の内3ヵ所で生産量が予想よりも大きく減少している。
報道によれば、ミャンマー沖合の天然ガス田のうち、アンダマン海のイェタグン(Yetagun)での生産量がもっとも大幅に減少し、2018年の1月から2月にかけての一日あたりの生産量は、2014年10月時点と比較すると55%、2017年6月と比較しても20%の減少となった。南部沖のゾウティカ(Zawtika)も2014年10月比で12.5%の生産減少となっている。
西部ラカイン州チャウピュー沖のシュエ(Shwe)では、一日あたりの生産量が、17年6月比で約9%減。アンダマン海沖合のヤダナ(Yadana)のみは17年6月から同水準の生産量を維持している。

2. 次に、オフショアの探鉱開発から撤退する外国企業が出てきていることについて触れる。原因として本文中に挙げているが、Fiscal Termsと呼ばれる商務条件が含まれるPSC契約(生産分与契約)において政府取分が高く、石油・ガス開発企業との間でバランスを欠いていると指摘されている。これが同国への外国からの上流開発への投資が進まないことにつながっているのではないかと危惧されており、ミャンマー政府もPSC契約内容の見直す方向である。

本レポートでは、第1章でミャンマーのオフショア・ガス田の現状を分析すると共に、第2章~第4章では外国開発企業のオフショア鉱区からの撤退と上流分野における投資の阻害要因の分析および今後のミャンマー政府の対応方針について述べる。

(METI報告書、Upstream誌他)

1.天然ガス生産の現状と開発の方向性について

(1)天然ガス生産量の減少

ミャンマーでは、沖合の天然ガス田4カ所のうち、アンダマン海のイェタグン(Yetagun)での生産量が2018年1月から2月にかけて一日の生産量が2014年比で約55%と大幅に減少していることが分かった。同ガス田で産出されたガスは、タイに輸出されている。

最も減少幅が大きかったYetagunでは、タイへの輸出向けに1日当たり2億立方フィート(約570万立方メートル)を生産しているが、17年6月比で20%、14年10月比で約55%減少している。南部沖のゾウティカ(Zawtika)でも17年6月比で約9%、14年10月比では約12.5%減少し、輸出向けに同2億立方フィート、国内向けに1億立方フィートの計3億立方フィート/日の生産量にとどまっている。

西部ラカイン州チャウピュー沖のシュエ(Shwe)では、生産量が、17年6月比で約9%減の5億立方フィート/日(輸出向け4億立方フィート、国内向け1億立方フィート)である。アンダマン海沖合のヤダナ(Yadana)の生産量は6億5,000万立方フィート/日(輸出向け4億5,000万立方フィート、国内向け2億立方フィート)と、17年6月時点と比較し同水準の生産量を維持している。(イレブン電子版(ヤンゴン)2018年2月14日)

表1 2017年までのミャンマーのガス生産推移

(2)ミャンマーのオフショア・ガス田の開発の推移と現状

陸上鉱区は、1989年まで国営石油会社MOGE(Myanmar Oil and Gas Enterprise) が独占していたが、オフショア浅海の鉱区は1970年代より外国E&P企業に解放され、MOGEと外国資源開発企業によって開発が行われてきた。1999年のYadanaガス田の生産開始、2000年のYetagunガス田の生産開始で、天然ガスの生産の中心はそれまでの陸上から浅海鉱区に移っている。

表2 主要オフショア・ガス田

下表は、主要ガス田ごとの生産量を2010年以降示したものである。

表3 ガス田ごとの生産推移

Shweで採掘されたガスのうち約8割が中国に輸出され、Yetagunでは全量が、またYadanaとZawtikaでは8割の天然ガスがタイに輸出されている。以下の表は、2017年までのタイと中国のミャンマーから天然ガスのパイプラインによる輸入量の推移を示す。2017年までの段階では両国とも輸入量の大きな落ち込みは見られない。減少が著しくなったのは2018年に入ってからである。

表4 タイと中国のミャンマーからの天然ガス輸出量と輸入額の推移

(3)現在のガス田開発状況

浅海ガス田の生産量が上記(1)のとおり減退してきたことから、今後の開発の中心は、現在進めている浅海での開発から大水深へ移行すると捉えられている。ただし、ミャンマーの大水深はまったくのフロンティア開発であり、地層や地質データが乏しく開発に伴うリスクが大きいと考えられている。そういう中で以下のガス田は有望視されており、今後開発が進むものと期待されている。

表5 有望オフショア・ガス田

以下、ミャンマー・オフショア・ガス田鉱区図と輸出パイプラインを示す。

図1 ミャンマー・オフショア・ガス田鉱区図と輸出パイプライン

2.外国開発企業のミャンマーからの撤退と進出について

前回2013年の入札ラウンドにおいて、オフショア大水深エリアのほとんどが入札対象に選ばれ、入札の結果IOCsやアジアのNOCs等が開発権を取得した。その後、Shellが2018年2月にA-4およびWoodsideがオペレーターであるA-7 を残し、3鉱区を放棄(Relinquishment)、またStatoil(現Equinor)も取得した鉱区AD-10を放棄し、事務所を閉鎖しミャンマーから撤退した。また、インドOil IndiaやReliance等も鉱区を放棄している。これまで放棄された鉱区数は9つである。一方、Woodside、PetronasやPTTEPは、2018年に試掘井掘削の準備をしており、WoodsideとPTTEPは掘削リグの手配を済ませている。末尾資料編<資料1>の鉱区一覧表を参照願いたい。

放棄した理由としては、次の三つの要素が考えられる。
(1)大水深フロンティア開発のリスクとミャンマーの大水深ガス田開発の対費用効果。メジャー等大手資源開発企業は、原油価格が低迷した2014年以降資産の見直しを行い、ミャンマーの大水深の魅力が乏しいと判断した可能性がある。
(2)次章で述べるとおり、ミャンマーのPSC(生産分与契約:Product Sharing Contract)の商務条件(Fiscal Terms)や税制が、政府側に一方的に有利であり、反対に開発企業側に不利であることに嫌気がさした。Fiscal Termsの詳細については次章で述べることにする。
(3)Fiscal Terms上規定されているサインボーナスの額は高いが、支払い時期は試掘開始から30日以内であり、PSC締結時ではなく調査期間中2D や3D など地震探査のスタディ結果を見て、次の試掘に進むかどうかを判断できる時間がある。有望でなければサインボーナスを支払うことなく撤退できる仕組みになっていることも要因の一つであろう。

 

3. ミャンマーのオフショア探鉱開発のFiscal Terms 上の問題点

前述のように撤退する外国開発企業もあるが、一方開発に踏み込んでいくWoodsideやPTTEPのような企業もある。その差は、石油・ガス田開発成功の見込み(Prospect)の違いもあるだろうが、PTTEPの場合は自国タイのガス不足解消を狙っての活動もあるだろう。
外国企業に向けて更なる上流開発投資を呼び込んでいくという観点からすると、ミャンマー政府と外国開発企業との間で締結されるPSC(生産分与契約:Product Sharing Contract)のFiscal Terms(契約商務条件)の見直しが必要となる。

PSCの基本的な内容は以下のとおりである。
(1)政府取分は、生産量に応じてオフショアの場合60%から90%と高い比率である。例として下表でオフショア・ガス田の政府とContractorの取分を示す。

表6 オフショア・ガス田のPSC契約における政府取分とContractor取分

(2)サインボーナス、生産ボーナス等について
サインボーナスは2012年までの旧PSCでUS$ 6-7mmであったが、2013年以降はUS$15mm~$30mmと高額になった。ただし、支払い時期はPSC締結時ではなく試掘井掘削開始から30日以内である。従って、幾つかの探鉱開発会社では、2D や3D震探の結果が良くなければCapital Gain課税も高額なため売却よりも鉱区放棄という行動を取ったようだ。

(3)PSC期間
・スタディ期間(6-12ヶ月)
・探鉱期間 3年(基本)+2年(一回目延長)+1年(二回目延長)の計6年まで
・生産期間 20年間

(4)政府参加率について
MOGE(Myanmar Oil & Gas Enterprise:国営石油・ガス公社)の参加率は、オフショアでは20%。ただし、規模により25%まで増加。MOGEはサインボーナスと生産ボーナスの15%を負担する。

(5)エリア・レンタルフィー
初期探鉱段階では1平方キロメートルあたりUS$3、探鉱期間を延長した場合はUS$8/km2となる。また、生産段階ではUS$100/km2、更に生産延長のときはUS$200/km2となる。

(6)税金関係
1.法人税
法人税は25%。生産開始から5年間のTax Holiday期間あり。
2.Royalty
Royaltyは、onshore、shallow-waterおよびdeep-waterでは2012年以降従来の10%から12.5%に引き上げられた。Royaltyの対象は政府取分も含めた売り上げに対して課せられる。
3.Special Goods Tax
Special Goods Tax一種の消費税が2016年1月から導入され税率は8%である。輸入時に課税されるばかりではなく輸出時にも課税される。
4.Capital Gain Tax
利益の40%~50%と高額。

(7) その他
1.PSCの対象には、パイプライン他付設する設備は含まれない。従い、生産ガスの輸送に伴うパイプライン使用料に対しては、その利益に対してのみ課税されるだけであり、政府取分およびRoyalty等の概念が入ってこない。従い、プロジェクト全体から見ると必ずしも、PSCのFiscal Termsのみで収益性の判断はできない。個々のプロジェクトによって判断されるべきだろう。
2.他国のPSCではStudy終了時および探鉱終了時とか通常行われる鉱区エリアの縮小(Relinquishment)は、ミャンマーの場合はPSCに記載があっても行われてこなかった。

ミャンマーにおける損益分岐はオフショア浅海で1tcfと言われているが、そのような規模のガス田の発見は容易ではない。
以下、単純比較は難しいが参考までに2017年にミャンマーと同様の総収入配分方式に改定したインドネシアにおけるPSCを対比してみた。比較のためのベースは、以下のとおりとした。
1.オフショア・ガス開発
2.水深は、600ft超 900ft未満
3.生産量 300mmcfd超 600mmcfd未満 (20年同じ生産量を維持できるとした場合、可採埋蔵量は約2.2tcf)

表7 Fiscal Terms比較(ミャンマーとインドネシア)

4.Fiscal Terms 改定の動き加速

ミャンマー政府は現在法改正を進めている。法改正の目的は、既存の油田からの二次・三次回収に関わる契約に関することといわれている。ただし、年内に予定されている、オンショアとオフショアの鉱区入札ラウンド前には、新規探鉱開発へ外国からの投資を呼び込むため、既存のオペレーターおよびミャンマー企業からも、現行Fiscal Termsの改定を望む声が出ている。特に、政府取分の基本80%および税金に対する改正の要求が多い。

 更に、Yetagun ガス田のオペレーターであるペトロナスのミャンマー代表は、Yetagun ガス田は、高温高圧かつ高Co2 含有率のガス田であり、その開発はチャレンジングであると述べ、また大水深の震探データの不足は否めないが、開発会社は3-5tcfの中・大型の資源量を有するガス田の発見を目標としていると付け加えた。[1] 大型のガス田発見を目標にしないと、現行のFiscal Termsでは利益の確保が難しいと考えているようである。

このような声に応えるために、ミャンマー電力・エネルギー省は、年内に見込まれる海上の石油・ガス鉱区開発の入札に先立ち、生産分与契約を見直していると明らかにした。9割以上になることもあるとされる、政府の取り分の縮小が焦点となる。[2]

同省の担当者は、「(入札が)魅力的になるように調整する」意向を示した。
厳しい条件が投資の低迷につながっているとみられており、同省が見直しを行った上で、関連する省庁とも調整すると説明。見直しは今後の契約が対象になるが、既存の契約にも柔軟に対応すると述べている。

[1] Upstream誌2018年4月5日号
[2] フロンティア・ミャンマー(電子版 2018年5月31日)およびUpstream誌2018年6月8日号

 

資料編

<資料1>ミャンマーのオフショア鉱区1

<資料1>ミャンマーのオフショア鉱区2

<資料2>ミャンマーのガス需給予測

<資料3> ガス供給予測(~2030)ガス田別

<資料4> 発電設備の容量と発電量ならびに発電量推移

以上

(この報告は2018年6月28日時点のものです)

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