ページ番号1007574 更新日 平成30年8月20日
原油市場他:市場の事前予想を下回るOPEC総会等での決定、及び米国のイラン産原油輸入停止圧力等により、上昇する原油価格
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概要
- 米国では、夏場のドライブシーズンの到来に伴うガソリン需要期突入により、製油所での原油精製処理が進むとともにガソリン生産活動が活発化した一方、小売価格の上昇により当該製品需要が抑制気味となったことから、ガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅を超過する状態は維持されている。他方、留出油は製油所での生産の増加とともに在庫水準も上昇傾向となり量としても平年並みとなっている。また、原油精製処理が進んだことにより、原油在庫は減少傾向となったが、平年幅を超過する水準は継続している。
- 2018年6月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国で減少となった他、欧州でも製油所での原油精製処理が進んだことにより在庫は減少となった。また、日本でも製油所が春場のメンテナンス作業実施に向け稼働を低下させたことに併せ原油在庫を削減する動きが発生したものと見られ、在庫は減少した。この結果OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は続いている。石油製品については、欧米諸国では製油所の稼働上昇とともに石油製品生産活動が活発化したことから、在庫は増加した。他方、日本では、製油所での稼働が低下するとともに石油製品生産活動が不活発となったことから、石油製品在庫は全般的に減少した。しかしながら、欧米諸国での石油製品在庫の増加が、日本での当該在庫の減少を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は増加となり、量としては平年並みとなっている。
- 2018年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場においては、6月中旬は、OPEC総会等に向けた市場の観測等により原油相場は比較的限られた範囲内で推移した。しかしながら、6月22日のOPEC総会で具体的な増産数値設定で合意せず、予想される増産規模が当初見込みよりも小さいとの認識が市場で発生したことや、その後米国がイラン原油輸入国に対し輸入の完全停止を要求している旨明らかになったことや、カナダでのオイルサンド改質装置の操業停止、リビア情勢の複雑化等により、原油価格は以降上昇傾向となった。
- 今後は、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めることや、米国及び中国間での貿易戦争、もしくはガソリン小売価格の上昇による石油需要の伸びの鈍化観測が、原油価格に下方圧力を加えてくる、といった展開も否定はできないものの、例えばイランがホルムズ海峡封鎖を警告したり、イエメンからサウジアラビアに向けミサイルが発射されたり、米国メキシコ湾等にハリケーン等が来襲したりするといった場合を含め原油供給減少に対する懸念が市場で高まりやすい他、そのような減産に対する増産対応を通じたOPEC産油国等の余剰生産能力の低下に伴う、世界の石油供給に対する余裕の低下に対する市場での不安感が原油相場に上方圧力を加える可能性がある。このため当面は少なくとも原油相場は下落しにくく、地政学的リスク要因等面での展開次第では上昇する場面が見られやすいものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPEC産油国等が減産遵守率引き下げで合意
(1)協議内容等
OPEC産油国は2018年6月22日にオーストリアのウィーンで通常総会を開催し、2018年末まで実施する予定である減産措置につき、2018年7月1日から現行の減産実施期限(つまり2018年末)までの期間において、現状152%(6月22日OPEC事務局発表、なお、6月12日に発表されたOPEC月報におけるデータに従えば、OPEC産油国の減産遵守率は162%となる、表1参照)とされるOPEC産油国減産遵守率を100%に引き下げるべく努力していくことで合意した。また翌6月23日にはOPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚級会合が同じくオーストリアのウィーンで開催され、前日に開催されたOPEC総会と同様、2018年7月1日から現行の減産実施期限までの期間において、現状147%とされるOPEC及び非OPEC産油国減産遵守率を100%とするべく自主的に努力していくことで合意した。また、閣僚級会合では、OPEC及び一部OPEC産油国による共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee、サウジアラビア、クウェート、アルジェリア、ベネズエラ、ロシア、オマーンが委員)が全体の遵守状況を監視し、OPEC及び一部OPEC産油国閣僚級会合に報告していくことでも合意した。次回のOPEC総会(通常総会)は2018年12月3日に、OPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚級会合は、翌12月4日に、それぞれオーストリアのウィーンで開催される予定である。なお、今次OPEC総会ではコンゴがOPECに加盟することが承認された(即時発効)。
(2)今回の会合の背景等
2017年1月1日より実施されていたOPEC産油国による減産については、2017年10月以降遵守率は100%を恒常的に超過、2018年2~4月は160~170%程度、5月においても152%となるなど、高水準で推移していた。他方、減産に合意した非OPEC産油国の遵守率については、上下に変動していたが、その中でもロシアは2017年5月以降90%前後かそれ以上の遵守率に到達していると推定されるなどしており、また、OPEC産油国と一部非OPEC産油国を合計した減産遵守状況も減産目標を超過するなど良好であった。このようなこともあり、例えばOECD諸国の石油在庫余剰幅(実際の石油在庫が過去5年平均水準を上回る量)は、2016年12月には3億バレル程度あったが、2018年6月にはマイナス5,000万バレル程度と推定されるなど、当該余剰はほぼ一掃されており、石油需給均衡は達成されている格好となっている。しかしながら、サウジアラビアは、同国国営石油会社サウジアラムコの株式公開(IPO)や経済構造改革(Vision 2030)実施のための資金需要から、4月18日には、原油価格(中東地域から相対的に市場が接近している欧州地域の代表的原油であるブレントの価格を想定しているものと思われる)で1バレル当たり80ドルを希望するうえ、100ドルでさえあってもいい、といったような同国政府関係筋の情報が伝えられるなど、原油価格上昇を容認する姿勢が示唆された。また、4月17日には、OPEC産油国等は、2018年末までは減産を実施、さらに可能であれば2019年まで減産を継続することを、6月22日の総会で検討するであろう旨、クウェートのラシディ石油相が明らかにしているが、これはサウジアラビアの原油価格上昇容認姿勢と軌を一にするものであった。他方、米国のトランプ大統領は、4月20日に「OPECがまたやっているようだ。(中略)原油価格は人為的に高い!これは良くないし容認できない!」旨表明した。このようなトランプ氏の表明に対し、同日サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相は、エネルギー利用効率改善もあり現状の原油価格水準(4月20日時点で、ブレントで1バレル当たり74.06ドル、WTIで同68.38ドルの終値)では世界経済への影響はないと考えている旨明らかにしている他、同日UAEのマズルーイ エネルギー産業相(2018年OPEC議長)も原油価格は人為的に高いわけではない旨示唆した。しかしながら、米国がイラン核合意離脱を発表した5月8日の前日に米国政府関係者がサウジアラビアに対し供給途絶が発生した場合には価格を安定化させてほしい旨要請したとされる(当該内容は6月7日に報じられる)。このような米国側からの圧力もあり、サウジアラビアは方針を転換、減産緩和を検討し始めたと見られ、5月25日には、関係筋から、OPEC産油国が日量最大100万バレルの増産を行う可能性がある旨伝えられ始めた。また、同日OPECのバルキンド事務局長が増産の検討はトランプ大統領の発言によるものであると明らかにしている。トランプ大統領がサウジアラビアをはじめとするOPEC産油国に対し増産圧力を加えたのは、米国のイラン核合意離脱と対イラン制裁再発動に伴う、イランからの原油供給減少による世界石油需給引き締まり懸念から、原油相場に上方圧力が加わったうえ、米国のガソリン小売価格が上昇してきたことが背景にあると見られ、全米平均のガソリン小売価格は3月後半以降上昇傾向を示しており、5月下旬には消費者心理に大きく影響を与える水準とされる1ガロン当たり3ドルを超過したことから、米国国民の不満の高まりと政権支持率への影響の可能性をトランプ大統領が考慮したことによるものと考えられる。また、ロシアは、国営石油会社のみならず民間石油会社を抱えていることが、減産遵守過程を複雑にしていた(つまり、減産しないで済むのであれば、それに越したことはない)ことに加え、原油価格上昇が過熱すれば、米国のシェールオイル開発・生産が加速してしまう結果、原油価格が乱高下してしまい制御が難しくなる可能性があることを懸念していた旨2017年11月29日に伝えられ(また、原油価格上昇に伴うルーブル上昇の自国経済への悪影響についても不安視していたと見る向きもある)、サウジアラビア等による減産措置緩和の動きに同調したものと考えられる。ただ、ロシアのノバク エネルギー相は、OPEC総会、及びOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合において2018年第三四半期に日量150万バレルの増産を提案する予定である旨明らかにしたと6月19日に伝えられるなど、サウジアラビアとロシアとの間では減産緩和規模に関する考え方に相違がある旨示唆された。サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相は、重要なのは石油需給を均衡させることであり、石油市場に対し調整し過ぎるつもりはない旨5月24日に明らかにするなど、相対的に慎重な姿勢も示していた。因みに2018年第三四半期はOPEC産油国が5月の原油生産水準を維持すれば、石油需給は若干ながら需要が供給を上回るものの概ね均衡すると見られる(後述)。イランやベネズエラ等が減産に向かうと言っても、2018年第三四半期に突然日量150万バレル減少するとは考えづらかったことから、ノバク氏の発言で原油価格は急落する場面も見られた。他方、当該減産緩和措置は、元はと言えば、米国のイラン核合意離脱と対イラン制裁再発動に伴うイランからの原油の事実上の禁輸措置による市場での石油需給引き締まり感から生ずる原油価格の上昇が一因となっており、米国の圧力により、サウジアラビア(中東地域でイランと覇権争いをしており、敵対関係にある)を始めとする他のOPEC加盟国の増産によりイラン原油禁輸に伴う同国の原油供給の減少を相殺させる結果、イランとしては、原油価格が上昇しない一方原油供給が減少することで原油収入が減少することが予想される反面、サウジアラビア等他の産油国は原油価格は上昇しないものの増産することを通じて原油収入の落ち込みをある程度相殺できることが期待されるなど、特に生産余力のあるサウジアラビア(及びサウジアラビアと同盟を組む中東湾岸産油国)に相対的に利する展開となる可能性があると見られた。このような背景もあり、イランはOPEC産油国等による増産に反対する旨、同国のアルデビリOPEC理事が6月19日に明らかにしていた。また、マドゥロ大統領による反体制派弾圧に対し、2017年8月25日に米国がベネズエラの新規発行債券の取引を禁止するとの制裁を発動したベネズエラや、イラク、アルジェリアが減産措置の緩和に反対していると6月19日に伝えられた。そのような中、米国のトランプ大統領は6月13日に再び「原油価格は高すぎる。OPECがまたやっている。良くない!」旨表明したこともあり、ファリハ氏はサウジアラムコのIPO(当初は2018年に実施を予定)につき、「2019年に実施できればいいが、実施時期は重要ではない」旨6月21日に明らかにした。また、サウジアラビアは、あくまで日量100万バレルといった具体的な増産幅を声明に盛り込むことにより、市場心理への影響を通じ原油価格の沈静化を図ろうとしていたように見受けられ、6月21日に開催されたJMMCでは「名目的に」日量100万バレル増産することをOPEC総会に進言することで合意した。当該増産量は減産に参加するOPEC及び一部非OPEC産油国間で比例配分方式により割り当てられると6月22日伝えられたが、同日ファリハ氏は減産参加国の中には増産が不可能な国もあることから、実際の増産量は名目的数値よりも小規模なものになる旨6月22日に明らかにしていた(この場合、増産が可能な国はサウジアラビア、UAE、クウェート、ロシア、オマーン(イラクも一部増産余力がある可能性もある)で、日量60万バレル程度になる推定される)。それでも、今回のJMMCに特別に出席し協議していたイランのザンギャネ石油相は中途退席、その際周辺にいた記者に対し「OPEC総会では合意できないと思う。」旨言い残していったとされ、イランはあくまで日量100万バレルといった具体的な(それも相当規模の)増産数値を声明に盛り込むことに対しては、たとえそれが名目的なものであっても、原油価格を大幅に下落させる恐れがあるとして難色を示していたものと見られる。このようなことから、原油価格の沈静化を目指すサウジアラビアをはじめとするOPEC及び一部非OPEC産油国と、原油価格の大幅な下落を懸念するイランとの間で合意に至るかどうかは微妙なところであったが、6月22日に開催されたOPEC総会では最終的には両者間での妥協として、声明には具体的な増産数値は盛り込まず、現在減産目標を超過している実際の減産量を7月1日以降既存の減産期限である12月31日まで減産目標の水準に戻すべく努力していくことで合意した。イラン側としては、減産目標自体は従来の合意に則ったものであることから、これを完全に遵守することに関しては、異論はなかったものと見られる。他方、サウジアラビア等にとっては、現在減産目標を上回っている減産量を目標の水準にまで戻すことで、事実上増産を確保できる。今回のOPEC総会等の合意を巡っては以上のような背景があったと考えられる。なお、ファリハ氏はOPEC総会終了後、記者団に対し「名目上日量100万バレルの増産で合意した」旨表明したが、これは、いわゆる報道による「見出し効果」により、市場心理への影響を通じ原油価格沈静化を狙ったものと考えられ、実際総会後複数の報道機関から「OPEC総会で日量100万バレルの増産で合意」した旨報じられている。
(3)原油価格の動き等
今回のOPEC総会等を巡っては、当初OPEC及び一部非OPEC産油国間で、7月1日から日量100~150万バレル程度増産する方向で検討しているといった情報等が5月25日以降しばしば発信されていた。このため、市場では、将来的には、米国制裁によるイランの減産、及びベネズエラでの国内経済混乱等に伴う減産が見込まれていたものの、両国併せて日量100万バレル超減産するにはそれなりの時間を要すると見られることから、短期的にこれらの国が日量100万バレル超減産すると予想する向きは弱く、従って、例えばOPEC産油国等が7月1日から日量100~150万バレル増産すれば、短期的にせよ世界石油需給が相当程度緩和するとの見方が市場で広がったことから、5月21日にWTIの終値で1バレル当たり72.24ドルと2014年11月26日(この時は同73.69ドル)以来の高水準に到達した原油価格は下落、6月初頭以降65ドル前後で推移していた。しかしながら、OPEC総会等では、減産目標を超過する状態を100%減産目標遵守にまで戻す旨声明に記載されたが、2018年5月現在のOPEC産油国減産遵守率である152%(6月22日OPEC総会時声明に記載)に基づけば、OPEC産油国による実質的な増産量は日量60万バレル程度、OPEC月報等をもとにしたデータであるOPEC産油国減産遵守率162%に基づけば、増産量は日量70万バレル超程度となる。そして、OPEC及び一部非OPEC産油国の減産遵守率は、閣僚級会合開催後の声明に基づけば147%となることから、実質的な増産量は日量80万バレル程度となるが、OPEC月報やIEA等のデータに基づけば、減産遵守率は130%弱程度となることから、実質的な増産量は日量50万バレル程度となる。このようなことから、当初日量100~150万バレルの増産による世界石油需給緩和を期待して原油先物契約を売却していた市場関係者は、OPEC総会の声明等により示唆される実質的な増産量が、当初見込まれていたよりも小規模なものにとどまる旨認識したことから、思ったほど世界石油需給は緩和しないとの観測が市場で生じた結果、原油先物契約の買い戻しが市場で発生、6月22日の原油価格の終値はWTIで1バレル当たり68.58ドルと前日終値比で3.04ドル上昇した。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2018年4月の米国ガソリン需要(確定値)は日量919万バレルと前年同月比で0.7%程度の減少となった(図1参照)他、速報値(前年同月比で1.5%程度増加の日量939万バレル)から下方修正されている。同月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量77万バレルと推定されるところ、確定値では同89万バレルへと上方修正されたことで、この部分が速報値から確定値に移行する段階で国内需要から輸出に繰り入れられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。また、同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.873ドルと前年同月比で0.345ドル(約13.6%)割高になったうえ、前月比でも0.164ドル(約6.1%)上昇していることから、同国での自動車運転距離数が抑制された(2018年4月の全米自動車運転距離数は前年同月比で0.2%の減少となっている)ことが、ガソリン需要に影響を及ぼしているものと思われる。他方、2018年6月の同国ガソリン需要(速報値)は日量967万バレル、前年同月比で1.0%程度の減少となった。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.970ドルと前月(同2.987ドル)比で同水準であったうえ前年同月比で0.51ドル(約20.7%)割高になったことがガソリン需要に影響しているものと思われる。また、米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入により原油精製処理量は増加傾向となり(図2参照)、6月22日の週には日量1,782万バレルと1982年後半以降の統計史上最高水準に到達した(それまでの最高水準は2017年8月25日の週の同1,773万バレルであった)こともあり、ガソリン生産活動も旺盛に行われた(最終製品の生産量は図3参照)一方で、ガソリン需要が伸び悩み気味となったことから、6月上旬から7月上旬にかけ、同国のガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する水準も維持されている(図4参照)。
2018年4月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量415万バレルと前年同月比で9.6%程度の増加となったが、速報値である日量421万バレル(同11.0%程度の増加)からは下方修正されている(図5参照)。同月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量138万バレルと推定されるところ、確定値では同146万バレルへと上方修正されたことで、この部分が速報値から確定値に移行する段階で国内需要から輸出に繰り入れられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。ただ、2018年4月の米国の鉱工業生産が前年同月比で3.6%程度伸びるなど経済が堅調であり同国の物流活動も同7.5%程度拡大しているうえ、3月の同国鉱工業生産が前年同月比で3.6%程度増加したにもかかわらず同月の留出油需要が同0.4%程度の伸びにとどまった反動が4月に現れている側面があるものと考えられる。また、2018年6月の留出油需要(速報値)は日量398万バレルと、前年同月比で0.3%程度の増加となっている。6月の同国非農業部門雇用者数が前月比で21.3万人の増加と市場の事前予想を上回った(後述)他、景況感も概して良好であったところからすると、物流活動もそれなりに堅調であったと見られることから、当該需要は速報値から確定値に移行する段階で上方修正されるか、反動で7月以降の需要が堅調なものとなって現れる可能性があるものと考えられる。他方、春場の製油所でのメンテナンス作業の終了に伴い稼働が上昇するとともに留出油生産が活発化している(図6参照)ことから、輸出がそれなりに旺盛であった(2017年8月下旬に米国メキシコ湾岸地域にハリケーン「ハービー」が来襲したことに伴う当該地域での製油所の稼働停止とその後の秋場の製油所メンテナンス、さらには北半球の多くの地域での厳冬に伴う旺盛な留出油需要の発生により、大西洋圏で留出油需給が引き締まったままとなっていると見られることが米国で生産された留出油に対する国外からの引き合いを堅調するとともに輸出を活発化させている一因であるものと見られる)ものの、6月上旬から7月上旬にかけ留出油在庫水準は増加した結果、2018年7月上旬時点では平年幅下方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2018年4月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で5.2%程度増加の日量2,057万バレルとなった(図8参照)。留出油需要が前年同月比で相当程度増加したことが石油製品全体の需要の伸びを牽引している。ただ、ガソリン及び留出油等の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたことにより、当該需要は速報値(日量2,085万バレル、前年同月比6.6%程度の増加)から下方修正されている。2018年6月の米国石油需要(速報値)は、日量2,083万バレルと前年同月比で1.7%程度の増加となった。その他の石油製品が需要の伸びを牽引している一方で、ガソリン等他の石油製品は小幅の増加にとどまるか、減少している。ただ、その他石油製品の需要は日量438万バレルと2017年5月~2018年4月の当該需要(確定値)である同331~382万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正されることが同国の石油需要(確定値)に影響を及ぼすこともありうる。また、製油所の稼働上昇とともに原油精製処理が進んでいる他、米国のイラン核合意からの離脱の動きの影響で、中東に相対的に市場が近い欧州地域の代表的原油価格指標であるブレント原油等の価格に上方圧力が加わったこと等により、相対的にWTI原油価格が割安となった影響で、米国外への原油輸出が活発に行われた(6月22日の週には同国からの原油輸出が日量300万バレルと1991年前半以降の週間統計史上最高水準に到達した)ことから、6月上旬から7月上旬にかけ原油在庫は減少傾向となった結果、7月6日時点の同国原油在庫は4.05億バレルと2015年2月20日(この時は4.00億バレル)以来の低水準となったが、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図9参照)。そして、留出油在庫が平年幅の下方付近に位置する量となっているものの、原油及びガソリンの在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、または原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2018年6月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国で減少となった他、欧州でも製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理が進んだことにより、原油在庫は減少となった。さらに、日本でも製油所が春場のメンテナンス作業実施に向け稼働を低下させたことに併せ原油在庫を削減する動きが発生したものと見られ、当該在庫は減少した。この結果OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。他方、石油製品については、米国では製油所での稼働上昇に伴い石油製品の生産が旺盛になったこと一方で、冬場の暖房シーズンではなくなったことからプロパン需要が低下したことが影響し、製品在庫は増加した。また欧州でも製油所の稼働が上昇するとともに石油製品の生産活動が活発化したことから、石油製品在庫は増加した。他方、日本では、製油所がメンテナンス作業実施のために稼働が低下するとともに石油製品生産活動が不活発となったことから、石油製品在庫は全般的に減少した。しかしながら、欧米諸国での石油製品在庫の増加が、日本での当該在庫の減少を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は増加となり、量としては平年並みとなっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置している(図14参照)。なお、2018年6月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は58.9日と5月末の推定在庫日数(59.4日)から減少している。
6月13日に1,200万バレル台後半の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、6月20日は1,200万バレル強のへと減少、6月27日には1,200万バレル台前半の量へと若干ながら回復したものの、7月4日は再び1,200万バレル強の水準へと低下した。このように当該在庫は限られた範囲内で7月初めまで推移していたが、7月11日は1,300万バレル台半ば程度の量へと増加した。アジア地域では製油所での春場の製油所メンテナンスシーズンが峠を越えつつあるとともに石油製品が回復しつつあることが、シンガポールでの軽質留分在庫を押し上げている一因であるものと見られる。また、ラマダン(断食月、2018年は5月15日から6月14日)が終了したことにより、ガソリン需要(多くの家族等が集うための自動車での移動向けガソリン需要)が低下したことに加え、中国での製油所メンテナンス作業終了に伴う同国からのガソリン供給のさらなる増加の観測が市場で発生していることがガソリン価格に下方圧力を加えたことから、アジア市場でのガソリンとドバイ原油の価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は概して縮小傾向を示している。
他方、ナフサについても、米国でのガソリン需要が必ずしも旺盛というわけではないことから、欧州で米国輸出向けにガソリンに混入しているナフサの在庫が比較的潤沢にあったこともあり、6月末にかけアジア地域でのナフサ価格に下方圧力が加わったことにより、当該地域でのナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油のそれを下回っている)は拡大する傾向が見られた。しかしながら、その後はアジア諸国の石油化学会社におけるナフサ分解装置のメンテナンス作業終了に伴うナフサ需要の増加が市場の視野に入りつつあることに加え、米国のイラン核合意離脱と対イラン制裁再発動に伴い、イランからのコンデンセート(ナフサが主要な成分の一つとされる)の供給が減少することにより代替のナフサの需要が伸びるのではないかとの観測が市場で発生したことが、ナフサ価格に上方圧力を加えたことから、当該地域でのナフサとドバイ原油の価格差は、7月上旬以降は縮小しつつある。
6月13日には900万バレル強の量であったシンガポールの中間留分在庫は、6月20日も900万バレル強の水準ながら微増、そして、6月27日には900万バレル前半、7月4日には900万バレル台半ば、7月11日には900万バレル台後半の量へと、一貫して増加傾向となっている。アジア地域での製油所のメンテナンス作業が峠を越えつつあるとともに稼働を上昇、中間留分の生産が増加しつつある他、インドで雨季(モンスーン)に入りつつあることもあり、軽油需要が抑制されている(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前に燃料として使用されていた軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天に伴い道路や建設工事の進捗が鈍化することにより、物流や製造業での軽油の利用が減速することによる)ことから、同国から軽油が輸出されつつあることが、シンガポールでの在庫にも影響しているものと見られる。このように、在庫が回復し始めていることに加え、今後さらに日本や中国での製油所メンテナンス作業終了とともに両国からの軽油の輸出が増加するとの観測が市場で広がりつつあることもあり、例えば、アジア市場での軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は縮小してきている。
6月13日には2,000万バレル強の量であったシンガポールの重油在庫は、6月20日には1,900万バレル台後半、6月27日には、1,800万バレル台後半、7月4日には1,700 万バレル半ば程度、7月11日には1,700万バレル強程度の、それぞれ水準へと、継続して減少している。中東地域で夏場の冷房シーズン突入とともに発電所での重油需要増加に加え、米国のイラン核合意離脱とイランに対する制裁の再発動による影響で、イランから重油を購入する動きが鈍化している(企業によるイランの相手側当事者に対する物品や役務の供与、または融資もしくは信用の供与については、米国財務省外国資産管理局(OFAC:Office of Foreign Asset Control)による除外の承認がなされなければ、米国における金融取引や資産の凍結等を行うといった制裁の対象となる可能性があることを考慮した流れと見られる)他、経済混乱等により製油所での石油製品生産活動が低下していると見られるベネズエラからも、シンガポール向けの重油輸出量が低下していることが、シンガポールでの重油在庫の減少を招いているものと考えられる。そしてこのようなシンガポールでの重油在庫の減少傾向に加え、原油価格の下落に重油価格のそれが追い付かなかったこともあり、重油とドバイ原油との価格差(この場合重油価格はドバイ原油のそれを下回っている)は縮小する傾向が見られる。
3. 2018年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場等の状況
2018年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場においては、6月中旬は、米国の中国に対する追加関税賦課の方針表明が原油相場に下方圧力を加えた一方で、リビアの石油ターミナルの操業停止や米国原油在庫の減少が上方圧力を加える中、OPEC総会及び、OPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚級会合を控え、増産が決定されるかどうか、そして決定されるとすればどの程度の規模のものになるか、ということに関する観測で、原油相場は比較的限られた範囲内で推移した。しかしながら、6月22~23日のOPEC総会等では具体的な増産数値設定で合意せず、予想される増産規模が当初見込みよりも小さくなるとの観測が市場で発生したことや、その後米国がイラン原油輸入国に対して輸入の完全停止を要求している旨明らかになったことに加え、カナダでのオイルサンド改質装置の停止、リビア情勢の複雑化、米国原油在庫減少等により、原油価格は以降上昇傾向となり、6月29日にはWTIの終値で1バレル当たり74.15ドルと2014年11月24日(この時は同75.78ドル)以来の高水準に到達する場面も見られた(図15参照)。
イランのアルデビリOPEC理事が、同国のみならずイラク及びベネズエラがOPEC及び一部非OPEC産油国の減産措置緩和方策に反対している旨明らかにしたと6月17日に報じられたことで、6月22日に開催される予定であるOPEC総会で当該方策が決定するかどうかにつき疑問視する見方が6月18日の市場で増大したことに加え、OPEC加盟国は今後数ヶ月間日量30~60万バレルの増産での合意で妥協するべく協議を行っていると関係筋が明らかにした旨6月18日に報じられたことで、以前検討されていると伝えられた日量100万バレル程度の増産よりも規模が縮小する旨示唆されたことから、世界石油需給緩和感が市場で後退したこと、6月17日にリビアのRas Lanuf石油ターミナル(原油出荷能力日量22万バレルであったが、5月の出荷量は同11万バレル)の近隣において敵対する武装勢力(同国東部トブルクを拠点とする暫定政府を支援するハフタル将軍率いるリビア国民軍(LNA: Libyan National Army)と2011年のカダフィ大佐追放運動の際に両ターミナルの支配権を獲得したベンガジ防衛旅団(BDB: Benghazi Defense Brigades))間での戦闘が実施される過程で同石油ターミナルの原油貯蔵タンクが炎上、同国国営石油会社NOCも当該タンクの損傷で同ターミナルの原油貯蔵能力が95万バレルから55万バレルへと減少した旨6月18日に明らかにしたことで、同国からの原油供給に支障が発生する可能性に対する不安感が市場で増大したことにより、6月18日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.79ドル上昇し、終値は65.85ドルとなった。ただ、6月18日夜に米国のトランプ大統領が、中国の知的財産権侵害を理由に、同国通商代表部(USTR)に対し、2,000億ドル相当分の中国からの輸入品に対する10%追加関税賦課を検討するよう指示したことに対し、6月19日に中国商務省が報復措置を講ずる旨表明したことで、米国及び中国間での貿易戦争の激化から両国経済及び石油需要等が影響を受けるのではないかとの観測が6月19日の市場で発生したことに加え、ロシアのノバク エネルギー相が、6月22~23日に開催が予定されているOPEC総会、及びOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合において、日量150万バレルの増産を提案する予定である旨改めて明らかにした(ノバク氏は6月16日にもOPEC産油国に対し2018年第三四半期に日量150万バレルの増産を提案する旨発言していた)と6月19日に伝えられたことで、世界石油需給の緩和感を市場が意識したことから、6月19日の原油価格の終値は1バレル当たり65.07ドルと前日終値比で0.78ドル下落した。6月20日には、リビアのRas Lanuf及びEs Sider石油ターミナル(原油出荷能力日量32万バレル)近隣で発生した武装勢力間の衝突により、両石油ターミナルが操業を停止した結果、同国の原油生産が日量45万バレル減少した旨、NOCのサナラ会長が同日明らかにしたことで、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、6月20日に米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(6月15日の週分)で原油在庫が前週比で591万バレルの減少と市場の事前予想(同190~370万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことで、この日(6月20日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.15ドル上昇し、終値は66.22ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの7月渡し原油先物契約は取引を終了したが、8月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり65.71ドル(前日終値比0.81ドル上昇)であった)。6月21日には、6月22日に開催される予定であるOPEC総会及び6月23日に開催される予定であるOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚会合を控えた持ち高調整が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.54ドルと前日終値比で0.68ドル下落した。果たして、6月22日に開催されたOPEC総会においては、現在152%となっているOPEC産油国減産遵守率を100%に戻す旨合意されたものの、これは以前伝えられていた日量100万バレルの増産規模を下回ると解釈されることから、世界石油需給の緩和感が市場で後退したことに加え、6月22日に米国大手石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で862基と前週比で1基減少(石油水平坑井掘削装置稼働数は807基と前週比で変わらず)となっている旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.04ドル上昇し、終値は68.58ドルとなった。
ただ、6月23日には、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、原油価格の沈静化のために、実質日量100万バレル程度の増産を実施し、石油市場安定化のためには必要なことはどのようなことでも実施する旨発言した他、6月25日にサウジアラムコのナセルCEOも、サウジアラムコは日量200万バレルの余剰生産能力を保有しており、供給途絶の場合にも需要を満たすことができる旨明らかにしたことで、6月22日に開催されたOPEC総会、及び6月23日に開催されたOPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚級会合での合意に対し当初見込まれた日量100万バレル程度の増産がなされないのではないかとの市場の観測が後退したことに加え、6月24日に、米国政府高官が、中国資本が25%以上を出資する企業が、重要な産業技術を保有する企業を買収することを制限する旨の規制を検討している旨明らかにしたと同日報じられたことから、米国及び中国間での貿易戦争激化と両国等の経済及び石油需要への影響に対する懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、6月25日の原油価格の終値は1バレル当たり68.08ドルと前週末終値比で0.50ドル下落した。しかしながら、6月20日夜にカナダ アルバータ州のSyncrudeのオイルサンド改質装置(原油生産能力日量35万バレル)が停電により操業を停止したことに対し、当該停止は少なくとも7月まで継続する旨同社が明らかにしたと6月22日午後遅くに報じられたことで、カナダから米国への原油供給減少と石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを6月26日の原油市場が引き継いだことに加え、LNAを指導するハフタル将軍が同国東部に位置する石油ターミナルの支配権を暫定政府に引き渡した(後述)旨6月25日に発表した一方で、国連が支援する西部のリビア統合政府が同日そのような行為は違法である旨表明したことから、同国の原油輸出への影響に対し市場での懸念が増大した流れを6月26日の市場が引き継いだこと、6月26日に米国国務省高官が、イラン原油を輸入する国に対し当該輸入を11月4日までに停止するように求め、適用除外は設けない方針である旨明らかにしたことで、イランの原油供給減少に伴う世界石油需給の引き締まり感が市場で増大したことから、6月26日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.45ドル上昇し、終値は70.53ドルとなった。また、6月27日も、この日EIAから発表された米国石油統計(6月22日の週分)で原油在庫が前週比で989万バレルの減少と2016年9月2日の週(この時は同1,451万バレルの減少)以来の大幅な減少となっていた他、市場の事前予想(同230~300万バレル程度の減少)を上回っていた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.76ドルと前日終値比で2.23ドル上昇した。さらに、6月28日も、6月27日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で989万バレルの減少と2016年9月2日の週以来の大幅な減少となっていた他市場の事前予想を上回っていた旨判明した流れを引き継いだうえ、クッシングの原油在庫が6月26日までの1週間で310万バレル減少した旨米国石油関連情報サービス企業Genscapeが明らかにしたと6月28日に報じられたことで、NYMEX原油先物契約受け渡し地点での石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日(6月28日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.69ドル上昇し、終値は73.45ドルとなった。そして、6月29日も、この日リビア西部のトリポリを拠点とするNOCが、LNAの妨害行為により、東部のZueitina(原油出荷能力日量7万バレル)及びHariga(同11万バレル)両石油ターミナルでの原油出荷につき不可抗力条項の適用を宣言したことから、世界石油需給のさらなる引き締まり感を市場が意識したことに加え、6月29日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で858基と前週比で4基減少(石油水平坑井掘削装置稼働数は806基と前週比で1基減少)となっている旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり74.15ドルと前日終値比で0.70ドル上昇した。この結果原油価格は6月26~29日の4日間で併せて1バレル当たり6.07ドルの上昇となった。
また、6月30日には、サウジアラビアのサルマン国王と米国のトランプ大統領が、石油市場の安定を保持し、産油国は供給不足を相殺する努力をすることが重要である旨で意見が一致したと国営サウジ通信が伝えた一方で、ホワイトハウス側も同日サウジアラビア側は必要な場合には増産する他、同国は日量200万バレルの余剰生産能力がある旨明らかにしたことで、足元の石油供給増加観測が市場で増大したことに加え、6月のOPEC産油国の原油生産量が5月に比べ日量32万バレル増加していたと推定される旨7月2日にロイター通信が伝えた他、6月のロシアの原油生産量が日量1,106万バレルと5月の同1,097万バレルから増加していた旨同国エネルギー省が7月2日に明らかにしたことで、足元の世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、7月2日の原油価格の終値は1バレル当たり73.94ドルと前週末終値比で0.21ドル下落した。他方、7月2日にイランのロウハニ大統領が、イラン産原油輸出が危機に晒されれば、中東地域全体の原油供給もまたそうなる旨発言したと7月3日に報じられたことで、イランがホルムズ海峡の封鎖を含め石油を武器として使用するのではないかとの観測が7月3日の市場で発生したことに加え、7月4日の米国独立記念日(インディペンデンス・デー)に伴う休日を控え、持ち高調整が市場で発生したことから、7月3日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.20ドル上昇し、終値は74.14ドルとなった。7月4日は、米国独立記念日の休日に伴いNYMEXでは通常取引は実施されなかったが、7月5日には、この日の報道で、サウジアラビアがアジア及び欧州向けの大部分の油種の8月販売価格を引き下げたうえ、同国がOPEC事務局に対し6月の原油生産量が日量1,050万バレルであると通知、それが5月比で同50万バレルの増産である旨示唆されたことから、足元の世界石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、この日EIAから発表された同国石油統計(6月29日の週分)で、原油在庫が前週比で125万バレルの増加と市場の事前予想(同350~500万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.94ドルと前日終値比で1.20ドル下落した。7月6日には、この日米国労働省から発表された6月の同国非農業部門雇用者数が前月比で21.3万人の増加と市場の事前予想(同19.5万人程度の増加)を上回ったことで、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.86ドル上昇し、終値は73.80ドルとなった。
7月9日には、最近のリビアでの石油ターミナルの閉鎖により7月9日現在同国の原油生産量が日量52.7万バレルと直近の高水準である2月の同128万バレルから半減したうえ、依然生産量は日々減少を続けている旨NOCのサナラ会長が7月9日に明らかにしたことで、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことが、原油相場に上方圧力を加えた一方で、カナダのSyncrude オイルサンド改質装置(6月20日夜より停止中)を操業するSuncor Energyが、当初予想(7月一杯停止の予定)よりも早く7月後半にも当該装置の一部(原油生産能力日量15万バレル相当)が操業を開始する旨7月9日に明らかにしたことから、カナダからの原油供給が増加するとの観測が市場で発生したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.85ドルと前週末終値比で0.05ドルの上昇にとどまった。7月10日には、リビアの原油生産量が減少していることで世界石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことに加え、ノルウェーの沖合石油・天然ガス掘削装置関連労働者が賃金提案を不服として7月10日よりストライキに突入した結果、ShellのKnarr油田(原油生産量日量2.3万バレル、NGL生産量同0.35万バレル)の生産が停止した他、ストライキが拡大する様相を呈していることから、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、7月11日にEIAから発表される予定である同国石油統計(7月6日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、米国飲料・食品大手ペプシコが7月10日朝に発表した2018年4~6月期業績が市場の事前予想を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、7月10日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.26ドル上昇し、終値は74.11ドルとなった。ただ、7月10日午後遅くに米国商務省が中国からの2,000億ドル(約22.2兆円)相当の輸入製品に対し10%の追加関税を賦課する方針である旨発表した一方で、中国商務省も報復措置を実施する旨7月11日に表明したことで、世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことに加え、LNAが、東部に位置するEs Sider、Ras Lanuf、Hariga、及びZueitinaの各石油ターミナルの支配権を同国西部トリポリを拠点とするNOCに譲渡したことから、これら4石油ターミナルの操業を開始する旨7月11日にNOCが発表したことで、同国からの原油供給増加に対する観測が市場で発生したこと、7月11日に米国労働省から発表された6月の同国卸売物価指数(PPI)が前年同月比で3.4%の上昇と2011年11月(この時は同3.7%上昇)以来の大幅上昇となったうえ、市場の事前予想(同3.1~3.2%程度の上昇)を上回ったことで、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.38ドルと前日終値比で3.73ドル下落した。また、7月12日は、リビア東部の4石油ターミナルの操業を開始する旨7月11日にNOCが発表したことで、同国からの原油供給増加に対する観測が市場で発生した流れを引き継いだことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、7月12日にIEAから発表された「オイル・マーケット・レポート」で、一部諸国の原油供給削減を代替するための中東産油国やロシアからの原油生産の大幅増加は、世界の余剰原油生産能力を限界まで減少させるかもしれない、という意味で大きな問題となるであろう旨IEAが警告したことが、原油相場に上方圧力を加えたことで、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.33ドルと前日終値比で0.05ドルの下落にとどまった。7月13日には、米国のムニューシン財務長官が、イランと取引を行うフランス企業に対し米国の制裁を免除しない旨示唆したと、フランスのメール経済・財務相が明らかにした旨同日報じられたことで、イランを巡る情勢に関し悲観的な見方が市場で増大したうえ、7月13日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で863基と前週比で変わらず(石油水平坑井掘削装置稼働数は812基と同変わらず)となっている旨判明したことで、米国のこの先の原油生産が伸び悩むのではないかとの観測が市場で発生したことで、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.68ドル上昇し、終値は71.01ドルとなっている。
4. 今後の見通し等
イランが支援しているとされるイエメンのフーシ派武装勢力はサウジアラビア南西部のアジールにあるサウジアラムコの石油関連施設に向けミサイルを発射した、とイエメンのフーシ派メディアが6月19日に報道した(他方サウジアラビア国営テレビはサウジアラビア空軍がフーシ派武装勢力から発射された、アジールのカミス ムシャイトの町へのミサイルを迎撃したと同日報じられる)。また、6月24日、7月3日、及び7月10日にもフーシ派武装勢がサウジアラビアに向けミサイルを発射した(もしくは発射したと伝えられる)。他方、サウジアラビアが主導する有志連合軍は6月25日にイエメンの首都であるサナアを空爆した結果、9名が死亡したと同日伝えられる。
イランに関しては、インド最大手の銀行が米国の対イラン制裁猶予期限である11月4日を以て原油代金支払いの処理を中止する旨表明したことを受け、イランからの原油輸入が減少する可能性がある旨IOC(Indian Oil)が6月15日に明らかにしている。他方、6月26日には、米国国務省高官が、イランの原油を輸入する世界各国に対し11月4日までに当該輸入を停止すべきとし、例外は認めない意向である旨明らかにしたが、6月28日にはインドの石油・天然ガス省が国内石油会社にイラン産原油の引き取りを削減するとともに代替手段を模索するように要請したと6月28日に伝えられる(6月27日には、米国のヘイリー国連大使がインドのモディ首相と会談、その際インドがイラン産原油の調達を低減することが肝要である旨表明していた)。また、韓国はイランからの原油及びコンデンセートの輸入を7月の到着分から完全に停止する旨7月6日に報じられる。しかしながら、中国とトルコは米国によるイランからの原油輸入の全面停止要請には従わない旨6月27日に中国外務省及び同日トルコのゼイベクジ経済相が表明した。これに対して、米国国務省幹部は、制裁実施猶予期限(11月4日)までにイランからの原油輸入量を可能な限り削減するために、各国個別に対応し協力していく姿勢である旨6月28日に明らかにしている。他方、6月30日には、サウジアラビアがイランとベネズエラでの減産を相殺すべく最大日量200万バレルの原油を増産することで、米国のトランプ大統領がサウジアラビアのサルマン国王との間で合意した旨トランプ氏がツイートした。ただ、サウジアラビア側からは、サルマン国王とトランプ大統領は、石油市場の安定を保持し、産油国は供給不足を相殺する努力をすることが重要である旨意見が一致した旨6月30日に伝えられ、また、同日ホワイトハウス側からも、サウジアラビア側は必要な場合には増産する他、同国は日量200万バレルの余剰生産能力がある旨明らかにするなど、両者の会談内容は微妙に調整されている。これに対し、イランのザンギャネ石油相は、サウジアラビアが米国の要請により増産するのであれば、それはOPEC総会での決定から逸脱するものであるとして警告している。他方、トランプ大統領は7月1日に、欧州企業に対しイランと取引を継続するのであれば制裁を科することになる旨明らかにしている。また、イランのロウハニ大統領はイラン産原油輸出が危機に晒されれば、中東地域全体の原油供給もまたそうなる旨7月2日に発言したと7月3日に報じられた他、7月4日には、イラン革命防衛隊の部隊を指導するソレイマニ司令官が、必要であればロウハニ大統領の発言を実行に移す用意がある旨発言したと7月4日に報じられる他、同日同じく革命防衛隊のコーサリ司令官が、米国がイラン産原油輸出を禁止すれば、イランはホルムズ海峡を通過する如何なる原油の出荷を認めない旨発言したと伝えられる。これに対し、7月5日に米国のアーバン海軍報道官は、そのような事態になった場合には、米国海軍は当該海峡における船舶の航行及び貿易の自由を確保する準備ができている旨示唆している。他方、欧州連合(EU)は、欧州投資銀行の対イラン投資案件に対する投資実施を可能にすることを7月4日に承認した。8月初めに当該投資は可能となる。ただ、7月6日にイランと西側諸国等(米国を含む核合意当事国5ヶ国)はウィーンで外相間での協議を開催、核合意を維持するべく調整していくことで意見は一致したものの、米国の核合意離脱への対策を打ち出すまでには至らなかった。また、イランのザリフ外相は、欧州側から提案された対策には不十分な面がある旨明らかにしている。他方、7月10日に米国のポンペオ国務長官が、米国のイラン制裁再発動に伴うイラン原油輸入停止措置の適用について、一部輸入国を除外するべく検討を行う方針である旨明らかにした。
リビアでは、Ras Lanuf石油ターミナル付近で敵対する武装勢力(LNAとBDB)間での戦闘が発生する中で、当該石油ターミナルの原油貯蔵タンクが炎上、それまで95万バレルであった原油貯蔵能力が55万バレルに減少したとNOCが6月18日に明らかにしている。また、6月19日にはサナラNOC会長が同国の原油生産量が日量40万バレル、6月20日には同45万バレル、それぞれ減少している旨発表している。そして、6月21日には、LNAがRas Lanuf及びEs Siderの両石油ターミナルの支配権をBDBから奪還した旨明らかにしている。しかしながら、6月25日には、ハフタル将軍が東部に位置する石油ターミナル(上記両石油ターミナルに加え、Zueitina及びHariga両石油ターミナルの計4石油ターミナル)の支配権を東部のトブルクを拠点とする暫定政府に譲渡した旨発表した。これに対し、西部のトリポリを拠点とするNOCや国連が支援する統合政府は6月25日に当該譲渡を違法なものとして反発している。他方、同国東部に位置するZueitina石油ターミナルはトリポリを拠点とするNOCと契約したタンカーの寄港を認めなかった旨6月28日に明らかになっている。このような石油ターミナルでの操業上の混乱により、7月9日には、同国の原油生産量が日量52.7万バレルとなった(2月は日量128万バレルに到達していたとされる)他、原油生産量は日々減少しつつある旨同日サナラ会長が警告している。ただ、LNAは4石油ターミナルの支配権につき同国西部トリポリを拠点とするNOCに譲渡したことから、NOCは、これら4石油ターミナルの操業を開始する旨7月11日に発表している。また、2018年2月23日に警備兵が自分達の給与等の要求を押し通すべく事務所を占拠して以来停止していた同国西部のEl Feel油田(原油生産量日量7万バレル)についても、当該交渉が終結(警備兵は以前の職務に無条件で復帰)したことに伴い、油田の操業が再開する旨NOCが7月12日に発表している。しかしながら、同国西部に位置するSharara油田(これまで日量20~30万バレル程度の原油を生産していたとされる)では、7月14日早朝に従業員2名が誘拐されたことに伴い他の従業員が避難したことで原油生産が低下しつつある(同日時点で少なくとも日量16万バレル減少したと推定される)と伝えられる。
ナイジェリアでは、5月17日にShellが宣言した同国Bonny Light原油の出荷に関し、依然不可抗力条項は発行中である旨明らかにしたと7月5日に伝えられたが、7月13日には当該不可抗力条項を解除した。
ベネズエラについては、6~7月の中国による同国からの原油輸入が減少すると6月15日に報じられるが、ベネズエラは減少分につき8~9月到着分の原油出荷増加で相殺するとしている。また、7月3日には、ベネズエラのセルパ経済・財務相が、中国国家開発銀行からベネズエラ原油生産回復に向け2.5億ドルの資金供給を受ける旨表明した。
地政学的リスク要因面では、イラン情勢がまず市場関係者の注目されるところとなろう。5月8日に発表された米国のイラン核合意離脱と対イラン制裁再発動により、米国はイラン原油輸入各国に対しイランからの原油輸入を完全停止するように要請していると伝えられる。これについては、中国やトルコ等イランとの関係が比較的緊密な輸入国による反発を受けており、米国は各国の事情を考慮しつつ個別に対応していく旨明らかにしている。しかし米国と相対的に関係が緊密な欧州やアジア諸国等は、イランからの原油及びコンデンセート輸入を相当程度削減する可能性があるものと考えられる。既に韓国が7月以降のイランからの原油輸入を停止する旨明らかになっている他、インドも国内の精製企業に対しイランからの原油輸入を削減するよう指示していると伝えられる。米国はイランに対し「最高レベルの制裁を科す」意向である旨表明しているところからすると、米国は小規模のイラン原油輸入削減では輸入国を拠点とする金融機関の米国での活動制限を免除しないものと見られ、その結果、少なくとも2011年末にオバマ政権(及びEU)が科した制裁時と同等の日量80~100万バレル程度のイランの原油供給減少を招く可能性がある。また、イランからの原油(及びコンデンセート)輸出が全面停止する(因みに2017年時点ではイランの原油輸出量は日量213万バレル、コンデンセートを含めれば同250万バレル程度となる)といった展開も排除できないことから、この面で石油市場での供給途絶懸念が高まる結果、原油相場に上方圧力を加えることもありうる。さらに、ホルムズ海峡封鎖や核合意からの離脱の可能性に対するイラン政府関係者等の発言によっても、中東情勢不安定化を含め石油供給低下と需給引き締まり感が市場で高まることにより、原油相場を押し上げる場面が見られることもありうる。
他方、ベネズエラにおいても、中国が同国に対し資金供給を実施する旨報じられるが、同国の原油生産及び輸送体制を劇的に完全させるには額が小規模(2.5億ドル)であることもあり、同国の政治・経済状況や原油生産状況が直ちに好転するとは考えにくく、むしろ悪化する方向に向かう可能性が高いことから、同国の原油供給が引き続き低下、2018年1~6月の6ヶ月間で同国の原油生産量が日量31万バレル減少していることからすると、今後6ヶ月程度においてもこの水準程度は供給が減少する可能性があり、また、油田や港湾での人材や資金等の不足により操業上の支障が発生するようであれば、減産ペースが加速することも想定されるため、今後も同国の原油生産及び港湾等のインフラの操業状況、そしてマドゥロ政権を巡る情勢等を含め動向を注視する必要がある他、少なくとも市場の同国原油供給低下に対する不安感は継続すると見られることから、この面で原油相場は少なくとも下支えされ、展開次第では原油価格に上方圧力を加えることもありうる。
リビアにおいては、東部に位置する4ヶ所の石油ターミナルが操業する方向になったことにより、生産回復の展望も開けつつあるが、同国は過去にも警備兵による石油ターミナルの封鎖や地方部族による石油ターミナル向けパイプラインでの原油輸送の停止措置実施がしばしば行われており、安定的な原油供給が常時実施できているとは言い切れない(7月14日にはSharara油田での原油生産が減少している旨報告される)。そして、市場でも、リビアに関しては、少なくとも当面は石油供給に関する信頼が回復できない状態が続くものと考えられることから、この面では石油需給緩和感の醸成は限定的なものになると考えられる。また、それ以外にもイエメンからサウジアラビアへのミサイルの発射等を含め、その他の地政学的リスク要因も原油相場を振幅させる可能性があるものと思われる。
米国等の経済指標類の面では、米国及び中国等米国外諸国との貿易戦争の成り行きが市場の注目を集めることになろう。米国及び中国、もしくは米国及び他の諸国との間での関税賦課合戦が激化するようであると、物品の輸入コストが上昇する結果、消費者の実質的な購買力が低下し、経済が減速、ひいては石油需要の伸びの鈍化に繋がるとの懸念が市場で発生しやすくなる。この面から石油需給の相対的な緩和観測が市場で発生し原油相場に下方圧力を加える可能性がある。また、原油価格の上昇に伴い、全米平均ガソリン小売価格も1ガロン当たり3ドルを覗う状況となっており、この面でもガソリン需要を抑制する方向で作用しているようである。しかしながら、貿易戦争、そしてガソリン小売価格が石油需要に相当程度影響するには、それなりの期間を要する(例えば、経済減速と雇用削減を通じた自動車通勤の減少や、ガソリン価格上昇の負担を抑制するための燃費の良い自動車への買い替えには、時間を要したりする)ことから、この面での石油需要への影響は少なくとも短期的には比較的緩やかなものにとどまると考えられる他、市場心理面でもそのように認識される結果、貿易戦争の激化やガソリン小売価格の上昇の原油価格への影響は、特に短期的には、限定的な程度のものになると考えられる。また、米国では7月に入り、主要企業から2018年4~6月期業績が発表され始めているが、この発表はもう暫く続く予定である。これらの企業による業績によっては、米国での株式相場が影響を受けるとともに原油価格にそれが反映される場面が見られうる。また、7月31日~8月1日に米国連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される予定である。7月14日時点では確率97.5%で金利は1.75~2.00%の現行水準で据え置きになると予想されているが、FOMC開催の際に示される米国及び国際経済に対する見解、金融政策についての方針等に関する当局関係者による発言により、米ドルが変動することを通じて、原油価格が振幅するといった展開はありうる。また欧州でも7月26日に欧州中央銀行(ECB)理事会を開催する予定であり、その際のドラギECB総裁をはじめとする金融当局関係者による欧州経済に対する認識及び金融緩和政策に関する発言もまたユーロとともに米ドルに影響を与える結果、原油価格が反応するといった場面が見られる可能性もある。さらに、中国の経済指標類(同国の原油輸入統計を含む)や貿易等の経済政策等によっても、同国経済と石油需要に関する観測を市場で喚起する結果、原油相場に圧力が加わるといった展開が見られることもありうる。また、7月16日には、国際通貨基金(IMF)が世界経済見通しの改訂版を発表する予定である。ここで原油価格の上昇による世界経済見通しの下方修正が明らかになるようだと、石油需要の伸びの減速懸念が市場で広がることにより、原油相場を抑制する方向で作用する可能性がある。
米国では、9月4日の労働祭(レイバーデー)に伴う連休(9月2~4日)まで、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が最終消費段階では継続する。しかしながら、製油所の段階では7月後半以降は秋場の石油不需要期が徐々に視野に入ってくることもあり、メンテナンス作業実施等に向け稼働を引き下げるとともに原油精製処理量を減少させ始める。それに従い原油の購入も不活発になってくると考えられる他、市場でもそのような観測が強まってくる。このためこの面では、原油相場に下方圧力を加えてくると見られる。そしてこのような中で、米国の石油坑井掘削装置稼働数、米国やOPEC産油国等の原油生産量が、市場から注目されるであろう。
また、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設(当該地域では2017年は日量175万バレルの原油を生産した)や原油等を積載したタンカーの航行に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入港湾施設や製油所の活動に支障が発生したり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業が停止すること等により米国の原油輸入に影響を与えたりする(2017年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した)。7月2日に発表されたコロラド州立大学の発表(改訂)によると、2018年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりもやや不活発な暴風雨の発生予想へと下方修正されている(表2参照)。それでも、そのような予想に反し当該地域で暴風雨が活発に発生し、それが米国メキシコ湾沖合の油田地帯、もしくはメキシコ湾岸の石油関連インフラ等の操業を脅かす結果、原油価格に影響が及ばないとも限らないので、今後もハリケーンシーズン全体の暴風雨等発生見通しの改定に加え、ハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等には留意する必要があろう。
また、世界石油需給は、米国のシェールオイルの増産に加え、イランやベネズエラがこの先減産しないと仮定しても、少なくとも2018年後半は若干ながら需要が供給を上回ると見られる(表3参照)。このため、イランやベネズエラの石油供給がこの先減少すると見られる中で、足元の石油需給逼迫感を抑制するには、他のOPEC産油国(及びロシア等減産に協力する非OPEC産油国)が増産するか、米国のシェールオイル等の原油増産ペースがさらに上振れする必要があると考えられる。
米国のトランプ大統領による増産圧力により、サウジアラビアを含むOPEC産油国等が短期間に増産すれば、足元の石油需給の緩和感が市場で醸成されることから、原油相場に下方圧力を加える場面が見られる可能性はあろう。しかしながら、その場合2018年6月現在日量324万バレル存在するOPEC産油国の余剰生産能力が減少することになる(イランは米国制裁により減産せざるを得なくなる結果、その分だけ余剰生産能力が増加するであろうが、削減されたイランの原油供給が短期的に再び世界石油市場に出回ることはほぼ不可能であることから利用可能な余剰生産能力としては取り扱うことはできない)。中期的(概ね半年~9ヶ月間程度を想定)には、米国が「史上最高レベルの制裁を科する」旨表明しているイランが前回の米国等による制裁実施時と同様規模の日量80~100万バレル程度の減産、国内経済が混乱するベネズエラが日量30万バレル程度の減産となることが、それぞれ予想される(但し、状況によっては、これらの水準を上回る減産となることも排除できない)。またカナダでもSyncrudeのオイルサンド改質装置が操業を停止中である(7月後半には日量15万バレル程度の原油生産再開、そし8月前半には日量10万バレル程度の原油生産がさらに回復するが、操業が完全に正常に戻るのは9月になると7月9日に伝えられる)。そして、そのような減産に対し、サウジアラビア等が増産で対応した場合には、その分だけOPEC産油国で利用可能な余剰生産能力が低下することになる。イランとベネズエラで予想される減産分のみを考慮し(従って減産量としてはかなり保守的に見積もることになる)、ロシアに日量30万バレルほど増産余地(減産相当分)があることを差し引いても、実質的に利用可能なOPEC産油国余剰生産能力は日量80~100万バレル減少する結果、残存余剰生産能力は日量220~240万バレル程度となり、当該余剰生産能力の世界石油需要に占める割合は、2.2~2.4%程度となると見込まれる。原油価格が2008年前半に1バレル当たり150ドル近くまで上昇した際のOPEC産油国余剰生産能力の世界石油需要に占める割合は2.6~2.7%程度であった(図16参照、なお2016年は余剰生産能力比率が低いが、この時はイランの制裁が解除されたことや、ナイジェリア(2016年8月29日に武装勢力が停戦を宣言)等、地政学的リスクが低減した一方で、OPEC産油国が米国のシェールオイル増産に対抗すべく原油生産を増加させつつあったことや、OECD諸国石油在庫が高水準であった(OECD諸国余剰石油在庫量(過去5年平均の超過量)は3~4億バレル程度に到達)ことから、石油需給逼迫感は強まらなかった)が、サウジアラビア等の増産がイラン等の減産を相殺する結果、この先OPEC産油国余剰生産能力が原油価格史上最高水準時を下回るといった展開となることも排除できない。産油国の中には、イランやベネズエラのみならず、リビアやナイジェリアといった政情が不安定であるが故に市場での石油供給途絶懸念が発生しやすい地域がなお存在する他、ノルウェーでの油田従業員ストライキ等もこれらの国の原油生産へ影響する可能性がある。
さらに、米国では、シェールオイルを含む原油は増産しつつあるものの、特に最近の増産中心地であるテキサス州等のパーミアン盆地では、原油生産の増加にメキシコ湾岸(そして海外)に向けた原油輸送インフラ整備が追い付いていないことから、この面で原油生産増加ペースが鈍化する可能性が指摘される他、さらなる原油生産増加ペースの上振れには、坑井掘削、水圧破砕、生産関連装置の据え付け、周辺のパイプラインへの繋ぎ込み等の作業が必要となるため、実際に増産が上振れするまでには概ね半年かそれ以上の期間を要することになることから、米国のシェールオイル等原油生産増産ペースの上振れは、イラン等の減産、そしてその相殺のための他のOPEC産油国等による増産に伴う余剰生産能力の低減に対する市場の石油需給引き締まり感を後退させるには時間が足りない可能性がある。このようなことから、OPEC産油国等による余剰生産能力が減少することにより、世界の石油供給余力の低下(もしくは石油供給不足の可能性)に対する不安感を市場で増大させやすいことから、原油相場は少なくとも当面上振れしやすいものと考えられる。
全体としては、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めることや、米国及び中国間での貿易戦争、もしくはガソリン小売価格の上昇による石油需要の伸びの鈍化観測が、原油価格に下方圧力を加えてくる、といった展開も否定はできないものの、例えばイランがホルムズ海峡封鎖を警告したり、イエメンからサウジアラビアに向けミサイルが発射されたり、米国メキシコ湾等にハリケーン等が来襲したりするといった場合を含め原油供給減少に対する懸念が市場で高まりやすい他、そのような減産に対する増産対応を通じたOPEC産油国等の余剰生産能力の低下に伴う、世界の石油供給に対する余裕の低下に対する市場での不安感が原油相場に上方圧力を加える可能性がある。このため当面は少なくとも原油相場は下落しにくく、地政学的リスク要因等面での展開次第では上昇する場面が見られやすいものと考えられる。
以上
(この報告は2018年7月17日時点のものです)