ページ番号1007583 更新日 平成30年8月27日

ロシア情勢(2018年6月 モスクワ事務所)

レポート属性
レポートID 1007583
作成日 2018-07-23 00:00:00 +0900
更新日 2018-08-27 16:40:13 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 基礎情報
著者 黒須 利彦井戸 智子
著者直接入力
年度 2018
Vol
No
ページ数 15
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア
2018/07/23 黒須 利彦 井戸 智子
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1.政治・経済情勢

(1)国内

政治

・6月7日、プーチン大統領は毎年恒例の国民との直接対話を行い、4時間17分の間に65の質問に答えた(国民からは寄せられた質問は約300万件)。16回目となる今年は、形式が変わり、スタジオに観客席はなく、国内各地との中継に地方政府の知事や閣僚らが新たに参加した。国民が電話やメールで提起した問題に対し、大統領は、その場で知事らに対応策を求めた。経済については、全体的に正しい方向に進んでいるとし、「ロシアは持続可能な経済成長の軌道に乗った。緩やかな成長であるが、マイナスではなく、昨年の成長率は1.5%であった」と述べた。(Kremlin.ru,Vedomosti他、2018/06/07)

写真1、2

税制改革

・6月14日、政府は年金受給開始年齢の引き上げに関する法案を承認した。2019年より段階的に引上げを行い、男性の受給開始年齢は2028年までに現在の60歳から65歳に、女性は2034年までに現在の55歳から63歳となる。ロシアの三大世論調査機関の一つである「世論基金」によれば、これを受け、プーチン大統領の支持率は1週間で62%から54%に低下、また大統領への信頼度も75%から67%に低下した。(Vedomosti, 2018/06/14,25)

・6月14日、政府は付加価値税(VAT)の基本税率を2019年1月より現行の18%から20%に引き上げることを承認した。食品等の重要特定品に関する10%の軽減措置は据え置かれる。昨年のVATによる歳入は5兆1,000億ルーブルであり(税収の34%)、本年は5兆8,000億ルーブルを見込んでいる。第一副首相兼財務相のシルアノフ氏は、この引き上げにより年間6,000億ルーブル以上の追加歳入を得ることが出来ると説明した。VAT引き上げに関する補償政策は、以下のとおり。
(1)VATの簡易還付の対象企業の拡大(現行の対象者は、過去3年間にVAT、物品税、法人税、有用鉱物採掘税の合計で70億ルーブル納めた企業であるが、20億ルーブル以上とする)、(2)VAT還付に関する審査期間の短縮、(3)動産税の撤廃、(4)年金基金の保険税率22%の維持(22%は一時的な軽減税率であり、現行法では、2021年から税率を26%に戻すことが規定されている)。(RBC daily, 2018/06/14,16)

・6月21日、政府は石油税制について、2019年から2024年にかけて原油と石油製品の輸出関税率を現行の30%から段階的に引き下げ、最終的にゼロにすると同時に、原油の地下資源抽出税を引き上げる法案、並びに石油製品の国内価格の上昇や供給不足を防ぐために原油のマイナス物品税*を導入する法案を承認した。6月22日に下院に提出され、7月5日に第一読会が予定されている。マイナス物品税を受ける要件として、クラス5以上(ユーロ5相当)のガソリンを生産する製油所、国内向けに供給する生産物のうち10%以上がガソリンであること、エネルギー省と製油所の近代化に関する合意書を締結していること、欧米による対露制裁対象企業であること等が挙げられている。(Interfax, Vedomosti,Kommersant  2018/06/21-22)
* 物品税:連邦税として、石油製品、アルコール、たばこ等の輸出を含む売却時に課税される。

(2)対外関係

1.アラブ首長国連邦(UAE)

・6月1日、プーチン大統領は、クレムリンでUAEのムハンマド皇太子と会談を行い、両国の貿易、経済および投資分野における更なる拡大、エネルギー分野における協力の現状、並びに国際地域問題について協議した。会談後、両者は、戦略的パートナーシップ宣言に署名を行った。(Kremlin.ru, 2018/06/01)

2.オーストリア
・6月5日、プーチン大統領はウィーンを訪問し、ファン・デア・ベレン大統領およびクルツ首相らと会談を行った。大統領就任後の初外遊となったこの訪問は、ソ連からオーストリアへの天然ガス輸出開始から本年で50周年になることを記念したもの。会談後、プーチン大統領は、「オーストリアはNord Stream 2による欧州へのガス供給拡大を支持している」と述べ、オーストリアのファン・デア・ベレン大統領も、ロシア産天然ガスを米国産のLNGに置き換えるのは経済的観点から意味がないものと発言した。「一部の米国系パートナーからは、欧州がロシアのガスに依存し過ぎだとの批判もある。しかし、彼らは、米国のLNGが2~3倍高いことについては言及しない」とも述べた。また、対露制裁等外交政策の面において、オーストリアは欧州連合(EU)の方針に従い、協力をしていくが、同時にロシアとの対話は自国、並びにEUにとり重要であること、及びロシアは欧州の一部であり、欧州の平和維持及び地域・国際紛争も解決もロシア不在では達成できないと強調した。(Kremlin.ru, 2018/06/05)

3.ウクライナ
・Naftogazは、5月30日にスイスの裁判所がGazpromの資産凍結に関する決定を行ったと公表。同社CCOのヴィクトレンコ氏は、Nord Stream AGとNord Stream 2 AGのGazpromの株式の差し押さえ措置を開始したとFacebookに投稿していた。6月5日、ウクライナの国営ガス会社Naftogazは同社のTwitterにおいて、ガス輸送をしなかった損害として、GazpromにNaftogazへの25.6億ドルの支払いを命じたストックホルム仲裁裁判所の判決*を受け、オランダ国内のGazprom資産凍結が認められたと掲載した。Naftogazによれば、5月末にオランダの裁判所にGazpromがオランダ国内に持つ子会社の株式やこれらの企業の債務凍結について申し立てを行い、承認されたとのこと。Gazpromがオランダに保有する子会社7社の内、6社は差し押さえ命令に従うことを拒否しているが、差し押さえ令状に影響を与えることはないとしている。 (RBC daily, BBC, 2018/06/05)
* 2月28日、ストックホルム仲裁裁判所はGazpromに対しガスのトランジット契約に基づき合意した輸送量不足(2009年~2017年分)として、Naftogazへの46億ドルの支払いを命じた。同裁判所は、昨年12月にNaftogazに対して、Gazpromから購入したガス代金として、20億ドルの支払いを命じており、差引25.6億ドルをGazpromが支払うことになっていた。

・6月7日、NaftogazによるGazpromの資産の差し押さえに関し、裁判所の執行人の手続きに問題があったとし、Gazpromはスイス裁判所を控訴する手続きを取った。同社はオランダの裁判所に対しても同様の手続きを取る予定である。(Prime, 2018/06/07)

・スウェーデンのSvea控訴裁判所はGazpromの上訴を認め、6月13日付でストックホルム仲裁裁判所の本年2月28日の判決執行中止を命じた。Gazpromは、今回の裁定でNaftogazがGazpromの海外資産を凍結するという法的根拠を失うことになると述べ、これを参考にスイスやオランダの執行人の控訴も行っていくとした。(Interfax, 2018/06/14)

・6月19日、ロンドンの商事裁判所はNaftogazの要請に応じ、英国領内のGazpromの資産を凍結する裁定を下した。この裁定に基づき、Gazpromは通知を受けた後、48時間以内に英国領内に保有する5万ドル以上の全資産のリストをNaftogazに提示する必要がある。(Interfax, 2018/06/19)

4.米国
・6月1日付En+ グループのプレスリリースによれば、OFAC(米財務省外国資産管理室)は、米国人のEn+、ルサール、GAZグループの株式・債務の処分期限を6月6日から8月5日まで延期した。当初5月7日までの期限が設けられ、その後6月6日まで延期されていた。(Interfax, 2018/05/31)

・6月11日、OFACは2016年の米国大統領選へのサイバー攻撃に関わったとして新たに、3個人および5団体(Digital Security、ERPScan、Embedi、Divetechnoservices、Kvant Scientific Research Institute)を制裁対象として特別指定国民(SDN)リストに追加した。対象者・団体の米国内資産は凍結され、米国人及び米国企業との取引が停止される。(https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm0410(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

5.中国
・6月8~10日の日程で、中国を訪問したプーチン大統領は8日、北京にて習近平国家主席と会談を行い、9~10日には青島で開催された上海協力機構の首脳会合に出席した。プーチン大統領の中国訪問は、2000年の就任以降19回目となり、国家首脳としては最多の訪問となっている。会談後の記者会見において、プーチン氏は、「昨年の露中貿易額は870億ドルであり、今年の1~3月で更に31%増加した。このペースが続けば、過去最高の1,000億ドルに達する可能性がある」と述べた。投資に関しても政府間投資委員会が確認しているだけでも総額200億ドル強、70件以上の優先プロジェクトが実施されているとした。中でも、両国間協力の要はエネルギー分野であり、中国市場への最大のエネルギー供給者であるロシアは、昨年は5,000万トン以上の石油を供給したが、本年 1~4月にかけて、供給量はさらに26%増加していると言及した。また、原子力分野では、国営原子力会社Rosatomが田湾原発の2つの発電ユニットを受注した他、高速炉の建設にロシアが協力することを明らかにした。習国家主席は8日、プーチン大統領に中国が外国人に贈る最高勲章である友諠勲章を授与した。なお、プーチン大統領は昨年7月に、ロシア最高勲章である「聖アンドレイ勲章」を習国家主席に授与している。(Kremlin.ru, 2018/06/08)

写真3、4

6.韓国
・6月22日、プーチン大統領はクレムリンで韓国の文在寅大統領と会談した。会談後の記者会見で、プーチン大統領は、韓国はアジア太平洋地域における大事なパートナーであり、両国の関係は、多面的であり、善隣友好・互恵協力の原則に基づいていると述べた。昨年の貿易額は前年比27%増の192億ドルとなり、ロシアの当該地域における貿易相手国2位に韓国が浮上した。エネルギー分野では、昨年、ロシアから原油1,250万トン、LNG約200万トン、及び石炭2,600万トンを輸出。ロシアには韓国の大手企業150社が進出しており、北極圏の鉱床開発に参加している企業もある。韓国の造船所では、ヤマルLNGのガス輸送用のLNG砕氷船15隻を建造中であり、韓国企業のArctic LNG-2の参加についても議論をしているとした。(Kremlin.ru, 2018/06/22)

2.石油ガス産業情勢

(2)原油・石油製品輸出税

・2018年6月、原油輸出税はUSD 18.1/バレルに引き上げ、東シベリア及びカスピ海北部の油ガス田等に対しては、引き続きゼロ課税となった。

・6月の石油製品輸出税はUSD 39.5/トン、ガソリンについてはUSD 72.4/トンに設定された。

表 原油及び石油製品輸出税の推移(出所:ロシア経済発展省)

(2)原油生産・輸出量

・6月、原油、ガス・コンデンセート生産量は4,528万トン(約3億3,241万バレル、平均日量1,108万バレル)で、前年同月比0.1%増。1~6月は2億7,113万トン(約19億9,039万バレル、平均日量は1,099.7万バレル)で、前年同期比0.4%減。(Interfax, 2018/07/02)

・6月、原油輸出量は2,011.2万トン(約1億4,764万バレル)。1~6月は1億2,455.6万トン(約9億1,438万バレル)。(エネルギー省HP)

(3)天然ガス生産・輸出量

・1~6月、天然ガス生産量は3,648.3億立方メートル(約12.9TCF)で、前年同月比6.5%増。(Interfax, 2018/07/02)

・Gazpromの天然ガス生産量は6月357億立方メートル(約1.26TCF)で、前年同月比4%増。1~6月は2530億立方メートル(約8.94TCF)。(Interfax, 2018/07/02)

(4)協調減産

・6月22日、OPEC産油国は、オーストリアのウィーンで通常総会を開催し、定期会合で、現在実施している減産措置につき、2018年7月1日より現行の実施期限である2018年末までの期間において、現状152%とされるOPEC産油国減産遵守率を100%に引き下げるべく努力することで合意した。また翌23日にはOPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚級会合が開催され、前日に開催されたOPEC総会と同様、2018年7月1日より年末までの期間において、現状147%とされるOPEC及び非OPEC産油国減産遵守率を100%とするべく自主的に努力していくことで合意した。
イラン、ベネズエラ、イラクの3カ国の抵抗にも関わらず、OPEC+諸国は今年後半に日量100万バレルの増産を実施することで合意した。各国は2016年10月の減産合意に基づき、同月の生産量を基準として日産180万バレルの減産を実施するという義務を実行してきたが、現時点での義務の達成率は約150%であり、その最大の理由はベネズエラの生産不振にあるとされる。ノヴァク・エネルギー相は、23日、「ロシアに割り当てられる増産幅は、日量約20万バレルになるであろう。その結果、2018年のロシアの石油生産量は5億5,000万トン近くに達する見込みであるが、現時点で既にロシアは日量1,090万バレルという割当を上回る量の石油を生産している」と述べた。(Kommersant他, 2018/06/25)

(5)その他

・財務省は、Gazpromからの配当金が予算計画で想定されていた国際会計基準に基づく純利益の50%より少なかったため、同社に対する地下資源抽出税率を引き上げることで、再び増税を行うことを決定した。現在、Gazpromはガス輸出独占業者及び統一ガス供給システムの所有者として、地下資源抽出税の算定式において特別な係数が適用されている。2018年の係数は1.4(他の条件が同等である場合、同社は他のガス生産者よりも40%多く抽出税を支払う)を予定していたが、今回の政府決定により2.05に引き上げられる。この増税により政府は、Gazpromが利益の50%の配当金を支払った場合と同等の720億ルーブルの税収を得ることになるが、少数株主に配当金を支払わなくて済むことより、財務省は2015年からこのスキームを利用している(Gazpromは2017年の配当金として国際会計基準に基づく純利益の約27%に相当する1,900億ルーブルを支払う予定である)。(Kommersant, 2018/06/21)

・北極海航路の管理運営は、運輸省とロスアトムが共同で行う見込み。新たに策定された法案では、ロスアトムは、北極海航路のインフラのオペレーターになることが規定されているが、2keys方式の採用が想定されている。すなわち、船舶航行スケジュールの管理と輸送の安全性確保に関しては従来通りに運輸省が責任を負い、ロスアトムは港湾インフラと北極海航路海域の航行の指令とその発展に関し責任を負うことになっている。事実上、多くの主要な問題において、運輸省とロスアトムの権限が重複することになるが、それに関連し生じる対立は、今後議会が制定する諸規則に基づき解決される見込みである。(Kommersant, 2018/06/26)

3.ロシア石油ガス会社の主な動き

(1)Rosneft

・6月21日付Interfaxによれば、Rosneftの年次株主総会においてセチンCEOは、Rosneftは2018年に新たに4鉱床で生産を開始する予定であり、それらのプラトー生産量は合計約2,000万トン(日量40万バレル)になるだろうと述べた。生産が始まるのは、Srednebotuobinskoye 鉱床の第2フェーズ、Tagulskoye鉱床、Russkoye鉱床、Kuyumbinskoyeの第1フェーズとのこと。BP社と共同で開発しているSrednebotuobinskoye鉱床は2017年に120万トン(日量2.4万バレル)の石油およびコンデンセートを生産した。Tagulskoye鉱床は、Vankor油田群の一部に含まれ、2017年に開発が始まったが、全面稼働は2018年からを予定。ヤマロ・ネネツ自治管区北極圏内にあるRusskoye鉱床の全面稼働も2018年に開始する計画。クラスノヤルスク地方のエベンキ地区にあるKuyumbinskoye鉱床はインフラ整備中で、2018年に商業開発を予定。セチン氏は、「2017年、新規石油・ガスプロジェクトにより1,400万トン(日産28万バレル)の石油が生産された。2022年までに新規稼働する石油・ガスプロジェクト、あるいは稼働が予定されているプロジェクトの生産量は石油換算で8,700万トン/年(日量174万バレル)になるだろう」と語った。

・カタール投資庁(QIA)は、可能ならば、Rosneftの権益を20%以上に拡大する意向があると、Faisal Al-Suwaydiカタール財団R&D長が語った。QIAとスイスのGlencoreは2017年初めのRosneft民営化の際に同社株式の19.5%を共同で取得している。2017年秋には中国華信能源有限公司(CEFC)に株式14.16%を売却すると発表したが、今年5月4日、QIAとGlencoreはCEFCへの株式売却を取引未了のため取り止める旨を発表していた。当該株式はQIAが買い取り、持ち分は18.93%となる予定。QIAはロシア連邦反独占局にRosneftの権益拡大のための申請を行っている。(Itar-Tass, 2018/06/21)

(2)Gazprom

・6月4日付Prime紙によると、インドの国営ガス開発供給会社であるインドガス公社(GAIL)がGazpromとの契約に基づくLNG受給を開始した。GAILは、Gazprom Marketing & Trading Singaporeとの長期契約に基づく最初のカーゴが本日、ダヘジ港にあるLNGターミナルに到着したと伝えた。GAILは2012年に年間250万トンのLNGを輸入する契約をGazpromと締結した。今年1月に価格を含むガス購入条件について交渉した結果、同公社は当初予想よりも多い600万トンのLNGの供給を受けられることになった。価格はブレント原油連動となる見込みである。

・6月5日、オーストリアのウィーンにて、プーチン大統領と墺クルツ首相立会の下、Gazpromのミレル会長とOMV Gas Marketing & Trading GmbHのSeele会長が、既存のガス供給契約を2040年までに延長する協定に調印した。現行契約の期限は2028年までであった。(Gazprom Press Release, 2018/06/05)

・6月29日、Gazpromの年次株主総会でミレル会長は、Preliminary dataに基づくと今年の上半期の欧州向けガス供給量は前年同期比約6%増の1,010億立方メートルになる見込みであると述べた。年末までの供給量は史上最大の2,000億立方メートルに達する可能性がある。以前、ミレル氏は、2018年の欧州向け供給量は前年比2.4%増の1,990億立方メートルになる可能性があるとしていた。同社のメドヴェージェフ副社長は、7日、欧州向けガスの平均価格は1,000立方メートル当たり220ドルと、前年の197ドルから上昇するとの見通しを明らかにしていた。(Tass, 2018/06/07&29)

・Gazpromはベラルーシ経由でのガス輸送について、年次報告書で2018年は393.3億立方メートル、2019年は392.9立方メートルの輸送量を維持する計画であることを明らかにした。ベラルーシ経由でのガス輸送の契約期間は当初2015年~2017年までであったが、2019年まで延期されている。同ルートでの輸送コストは今年3億6,000万ドルとの算出。(Interfax, 2018/06/15)

(3)Gazprom Neft

・6月14日付プレスリリースで、Gazprom Neftは、ヤマル半島のNovoportovskoye 鉱床近傍のYuzhno-Novoportovsky及び Surovy鉱区の取得を公表した。ライセンスの期間は7年間で両鉱区の総面積は4,350平方キロメートル。同社は、ヤマロ・ネネツ自治管区において、Novoportovskoyeをインフラ施設の要にする計画。Novy Portエリアの資源基盤を大幅に拡張し、石油、コンデンセート、ガスの収益化に向けて状況を整えていく意向であり、約750億ルーブルを投資し、オビ湾からYamburgガス田まで、年間輸送量100億立方メートルのガスP/Lを建設予定であるほか、Novoportovskoye鉱床及び近隣のライセンス鉱区に5年間で総額4,000億ルーブルを投資する計画。 (Interfax, 2018/06/15) 

地図1

4.東シベリア・極東・サハリン情勢

(1)極東

・中国石油天然気集団公司(CNPC)は、アムール川に「シベリアの力」ガスP/Lにつながる2本目となるトンネルの掘削を完了した。同社の中国石油P/L事業部は、「中国~ロシアガスP/Lの東側のラインは2年も経たずに建設が完了した。次の段階として、中国国内のP/LとロシアのP/Lを結ぶパイプをトンネル内で溶接する。建設はスケジュールどおりに進む見込みだ」と語った。1本目及び2本目とも中国側からロシアに向けて深度20メートルのところをシールド工法で建設された。第1トンネルでのパイプの引き込みは夏に完工すると見込まれている。アムール川の下を通る2本のトンネルは1,130メートル長で、「シベリアの力」ガスP/Lと中国のガス輸送システムを結ぶトンネルは50メートル離れて併設されており、内径は2.44メートルである。(Interfax, 2018/06/05)

写真5、6

(2)サハリン

・6月7日付Interfax紙は、Shellの新規プロジェクト推進ディレクターBradford氏の言とし、Sakhalin-2 LNGプラント第3トレインを建設するプロジェクトのFEED段階が完了したと報じた。同氏によれば、プロジェクト用のガスの購入に関し、Sakhalin-1プロジェクトを実施している合弁企業と交渉中であるとのこと。最終投資決定のタイミングについては明かしていない。

・Gazprom Neftのパトルシェフ大陸棚開発次長は記者団に対し、今夏、Sakhalin-3 Ayashi鉱区のNeptune油田の埋蔵量を登録する予定であると語った。原始埋蔵量は石油換算で2億5,500万トン、そのうち可採埋蔵量は7,000万~8,000万トンと見積もられている。ピーク生産量は年間500万~600万トン(日量10万~12万バレル)になる見込みである。(Interfax, 2018/06/09)

5.新規LNG・P/L事業

(1)Nord Stream 2

・6月7日、スウェーデン産業改革省のダンベリ大臣は、自国領内でのNord Stream 2ガスP/Lの建設を許可したことを発表した。プロジェクトのオペレーターであるNord Stream 2 AGは、2~3か月以内にP/L建設の準備作業を開始すると述べている。(Prime, 2018/06/07)

・Nord Stream 2 AGは、ロシア建設・公共サービス省が同国内でのNord Stream 2 P/Lの建設を許可したことを発表した。許可証が発行されたことにより、近い将来、環境面を考慮しSEER(国家環境専門家審査)の結論に従って、プロジェクトが実行される予定である。Nord Stream 2 AGはさらに、ロシア領海に海底P/Lを建設するため環境当局から許認可を得る必要がある。今日までに、ドイツとフィンランド及びスウェーデンはP/Lの建設・稼働に必要な許可すべてを発行しており、デンマークの認可も現在進行中とのこと。(Interfax, 2018/6/07)

・Nord Stream 2 AGのCFOのCorcoran氏は、これまでのNord Stream 2ガスP/Lへの投資額は約45億ユーロであることを明かした。同プロジェクトの設備投資額は80億ユーロ、総費用は95億ユーロになる見込みとのこと。同社は、2018年末または2019年初頭にプロジェクトファイナンスを得るため、現在輸出信用機関と協議中であり、来年初頭には融資を受けたいと考えている。また、建設に必要なパイプのほとんどが納入されており、デンマークからの建設許可も近いうちに下りるであろうと付言した。(Prime, 2018/06/19)

・6月26日、デンマークのラスムセン首相は、ウクライナのフロイスマン首相との共同記者会見で、Nord Stream 2の建設認可に関して、最終決定をまだ下しておらず、予測は困難であると述べた。また、同プロジェクトには地政学的な波及効果があるとして、欧州各国との協議を経る必要性を指摘した。
同時期にサリバン米国務副長官もコペンハーゲン入りしており、ワシントンがNord Stream 2に反対である旨を繰り返し強調した。当初の完成予定は2019年末であったが、事業会社の持っているBornholm島の領海を迂回してEEZを通過するPlan Bでは、完成は2020年にずれ込む見込み。Gazpromのクルグロフ副社長は、デンマークの最新のコメントを受けて、「Gazpromは、当該P/Lの建設費の上昇は見込んでいない」と発言。(IOD,Prime, 2018/06/28)

(2)ロシア~北朝鮮~韓国 ガスP/L

・6月15日、Gazpromのマルケロフ副社長は、ロシアから北朝鮮を経由して韓国に至る天然ガスP/Lの建設に関する協議を韓国側との間で再開したことを明らかにした。当該計画に関する交渉は、2011年から始まった。ルートが選定され、韓国および北朝鮮とそれぞれ交渉を行っていたが、韓国・北朝鮮の関係悪化により、中断されていた。副社長は、今は状況が変わったと指摘し、実現に向けた交渉を継続していくと語った。(RIA Novosti, 2018/06/15)

(3)Yamal LNG

・6月19日付Kommersant紙は、Yamal LNGの第2・第3トレインの稼動開始時期の前倒し、及び各トレインの生産能力が設計値よりも9%高かったこともあり、NOVATEKはガス輸送用のタンカーを市場で調達する必要性が生じていると報じた。当初の計画では、LNGはプロジェクトのために特別建造される15隻のArc7のタンカーで輸送されることになっていた。しかし、第3トレインの稼動開始時期が前倒しされることになれば、それまでに建造が間に合わないタンカーが複数出てくる。このため、NOVATEKはオブスカヤ湾のサベッタ港に直接寄港することができるタンカーを追加で探す必要に迫られている。同社はすでに、ソフコムフロートが所有し長期契約に基づきGazpromにチャーターされているIce2クラス(氷の厚さ0.5メートルの海域を砕氷船のエスコートがあれば航行可能。冬場には北極海航路の航行は不可)「プスコフ」号を夏の間借り受ける。また、NOVATEKは日本郵船との間でIce2クラスの「Grace Dahlia」号を8ヶ月間チャーターすることを念頭に置いた交渉を行っているとのこと。チャーター料として日本郵船は、7万5,000ドル/日、Gazpromは10万ドル/日という数字を提示している模様。NOVATEKの広報は、「輸送コストの節約のためYamal LNGは、夏季の運行用にアイスクラスの低い運搬船を調達する可能性を検討している」と述べている。Yamal LNGでは、ベルギーのZeebruggeにおけるArc7のタンカーからのLNGの積み替えと、夏季のサベッタ港への寄港のために使用することを想定し、2019年からアイスクラスArc4のタンカー6隻をDynagaより借り受ける契約を締結している。北海の航海規則では、Arc 4、Arc 5級のタンカーはたとえ砕氷機能があっても12月~6月の間はカラ海南西部を航行することが禁じられているため、NOVATEKは許可を求めて、ロシアの海運当局と協議を行っている。許可が得られない場合は、Arc7(厚さ2.1メートルの氷海を単独航行可能)からArc4への積み替えポイントをZeebruggeから、Murmanskといった不凍港へ移動し、Arc7の航行距離を短縮できれば、LNGの出荷も可能であろうとのこと。

・Yamal LNGは、スペインのGas Natural Fenosaとの24年間の契約に基づき、LNG第1船を出荷した。年間供給量は250万トンである。(Prime, 2018/06/21)

・LNG Edgeの6月26日の報道によると、ロシアYamal LNG事業で生産されたLNGを積載した砕氷LNG船Vladimir Rusanov号(積載量17万6000立方メートル)が初めて北極海航路でアジアに向けて出発した。同船は、6月25日にSabetta港を出発。ロシア極東航路管区によると、7月6日に北極海航路の最東端であるロシア極東のデジネフ岬に到達する予定。同船の貨物は、最終的にはPetroChinaが所有する北東アジアのターミナルに輸送される可能性が高い。Yamal LNG事業のパートナーであるTotalによれば、Yamal半島から西側に向けて、欧州からスエズ運河経由でアジアへと輸送ルートは30日間かかるのに対し、北極海航路によってアジアに輸送するにかかる日数は15日間。一方で、砕氷船をもってしても、氷の厚さが障害となるため、北極海航路は冬季には運用しない。同事業では2017年末に生産を開始し、これまでに生産されたLNGは全て西ルートで欧州に輸送されていた。一部は欧州のターミナルに直接輸送され、それ以外は欧州の港湾に輸送された後、通常のLNG船に積み替えられて、ヨルダン、インド、韓国等へ輸送された。LNG Edgeによると、中国が同事業のLNGを初めて受け取ったのは6月1日で、欧州ルート経由だった。LNGはPskov号(積載量170,000立方メートル)によりベルギーのZeebrugge港まで運ばれ、そこで積み替えられた後、スエズ運河経由で中国の天津に輸送された。北極海航路を利用したテスト輸送を2017年夏に実施したことはあるが、Yamal LNG事業から実際に直接輸送したものではなかった。2017年7月から8月までの期間、Yamal LNG船Christophe de Margerie号(積載量172,000立方メートル)がノルウェーのSnohvit LNGプラントから韓国のBoryeongまでのテスト輸送を行なった。これは、エスコート船を伴わずに北極海航路を使用した初のテスト輸送となっている。(ICIS, 2018/06/27)

(4)Arctic LNG 2

・6月22日付プレスリリースで、NOVATEKと韓国ガス公社(KOGAS)は、LNG事業の共同開発にかかる覚書を交わしたと発表した。当該文書に基づき、Arctic LNG 2プロジェクトへのKOGASの参入、プロジェクトからのLNG購入、カムチャッカにおけるLNG積替えプロジェクトやその他のインフラ整備プロジェクトへの参入の可能性について検討し、スワップ取引を含むLNG取引及び輸送の最適化を協力して行うことで合意した。調印は、プーチン大統領と韓国の文在寅大統領の首脳会談の枠内で行われた。

(5)極東LNG

・6月7日、ExxonMobilとRosneftは、年間620万トン超のLNG生産プロジェクトを将来立ち上げる意向があると、ExxonMobilのマネージャーが語った。西側からの経済制裁によりロシア国内でのJVのいくつかは撤退を強いられているものの、ExxonMobilは150億ドル規模の極東LNGプロジェクトをRosneftと一緒に進めたいと考えている。RosneftとのJVであるSakhalin-1プロジェクトのGrableマネージャーによれば、プラント規模は当初の計画よりも大きなものになる可能性もある。今年初め、ExxonMobilは中国石油天然気集団公司(CNPC)のエンジニアリング部を含む数社を招き、10月までに建設契約に入札するよう呼びかけていた。ExxonMobilは最終投資決定の期限は2019年としている。(Reuters, 2018/06/07)

・6月21日、年次株主総会でRosneftのセチンCEOは、極東LNGプラントは、2025年にLNGの出荷を開始すると発表した。「我々はデ・カストリ地区でのLNGプラント建設作業に着手した。現在は、設計段階である」と同氏は述べた。Sakhalin-1プロジェクトのガスを供給源としているが、生産量拡大時には、他の生産者のガスの利用も検討している。(Interfax, 2018/06/21)

(6) ウラジオストクLNG

・Gazpromのミレル会長は年次株主総会で、「ウラジオストクに建設予定のLNGプラントは現在、設備投資評価の段階にあり、2020年に建設を開始する可能性がある」と述べた。Gazpromは2015年、炭化水素価格の世界的な下落を背景に、市場環境の改善を待つとし、当該プラント建設計画を延期した。しかし、近年、バンカー船を中心とする内燃機関用燃料に対する需要が高まっていることより、三井物産及び三菱商事と共同でLNGプラント(年間生産能力150万トン)の建設について協議している模様。Baltic LNG事業では、レニングラード州ウスチ・ルガ港にLNGプラント(年間生産能力1,000万トン)を建設する方針を発表している。Baltic LNG事業は、現時点では事業の準備段階にあるが、2018年末までに完了予定。次の段階では技術コンセプトを作成する。Gazpromは現在、同事業を実施するための合弁会社の設立について、Shellと交渉中である。世界中から多数の企業が関心を寄せているが、Sakhalin-2事業の株主などの日本企業(複)を重視したいと考えているとのこと。(Interfax, 2018/06/29)

以上

(この報告は2018年7月18日時点のものです)

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