ページ番号1007585 更新日 平成30年7月25日
カナダ:オイルサンドプロジェクトをめぐる最近の状況と生産見通し~パイプライン輸送能力不足でオイルサンドプロジェクトに影響~
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概要
- 2017年3月をピークに、IOCがオイルサンドプロジェクトをカナダ企業に売却する動きがみられた。オイルサンドプロジェクトを取得したカナダ企業は、長年にわたりオイルサンド事業に携わり、技術、知見、経験を積みあげてきた企業で、オイルサンド事業を継続し、生産量を拡大させていく方針を示していた。ところが、2017年末ごろより、カナダ西部で生産される石油を他地域に輸送するパイプラインの輸送能力の不足が問題とされるようになった。パイプライン輸送能力不足によりWTIとWCSの価格差が拡大したため、オイルサンド操業に従事する企業はメンテナンスを前倒しする等により、オイルサンド生産量を削減している。オイルサンドの生産拡大を抑制する方針を示す企業も現れるようになった。また、2018年に入ってからは、環境面の配慮からオイルサンドプロジェクト等への新規融資を停止するとする金融機関も出現するようになった。
- カナダ西部から原油を輸送するパイプラインとして現在検討されているのは、TransCanadaのKeystoneXLパイプライン、Kinder Morgan のTrans Mountainパイプライン拡張、EnbridgeのLine 3修繕・拡張である。KeystoneXLパイプラインは、Nebraska州の規制当局NPSCにより建設が承認されたが、ルートが変更され、新ルートの土地所有者等がNPSCの決定に異議を申し立て、Nebraska州最高裁判所で審理が行われている。Trans Mountainパイプライン拡張プロジェクトについては、事業を継続するため、連邦政府がTrans Mountainパイプラインプロジェクトを買収することとなったが、連邦裁判所には同拡張プロジェクト関連の複数の審理請求が提出されており、判決が出るまでは、事態の進展は困難との見方もある。Line3パイプライン修繕・拡張計画については、Minnesota州公共事業委員会がこれを承認、2019年後半の運用開始を目指している。
- パイプラインの輸送能力不足、WTI とWCSの価格差拡大等の理由から、カナダ西部で生産される原油の鉄道輸送量が増加しており、2018年4月は193,468 b/dと過去最高水準に達した。IEAによると、カナダからの鉄道による原油輸出量は、2017年後半の15万b/dから2018年には25万b/d、2019年には39万b/dに増加する可能性があるという。
- 各種機関が発表したオイルサンド生産見通しでは、生産量の伸び幅に関しては見通しが異なるものの、オイルサンド地層内回収法プロジェクトがカナダの石油生産増をけん引するという点は共通している。
1.オイルサンドプロジェクトをめぐる最近の状況
(1)2017年までのカナダ企業の動き
2017年3月をピークに、IOC(国際石油企業)がオイルサンドプロジェクトをカナダ企業に売却する動きが多くみられた。2014年半ば以降の原油価格下落を受けて、各社とも人員削減やコスト削減、収益性向上に注力、ポートフォリオを再構築し、投資対象となる事業を選択、集中するようになる中で、比較的短期間で投資回収が可能で、収益が上がることが期待できる事業が中核事業とされ、資源量は大きいものの、コスト高のオイルサンドプロジェクトをIOCは手放すこととしたと考えられる。また、二酸化炭素を多く排出するオイルサンドの開発、生産には反対を表明する環境保護団体等もあり、IOCの株主からも二酸化炭素の排出量を削減するとともに、二酸化炭素排出量の多いプロジェクトを売却するようにとのプレッシャーを受けるようになったことも要因と思料される。
オイルサンドプロジェクトを取得したカナダ企業は、長年にわたりオイルサンド事業に携わり、オイルサンドを長期戦略の中核事業とし、技術、知見、経験を積みあげてきた企業である。オイルサンド資産の売却、買収が活性化することで、プロジェクトの統合、大規模化が進み、これらの企業は、多数のプロジェクトの中でより効率的なロケーションに集中して生産が可能となり、合理化、コスト削減を図るとともに、技術革新を進めることができると考えたと思われる。事実、これらの企業は一様に、オイルサンド事業を継続し、生産量を拡大させていく方針を示していた。
例えば、Total等からオイルサンドプロジェクトの権益を取得したSuncor Energyは2017年11月に、2018年の資本支出を7.5億カナダドル削減し45~50億カナダドルとするものの、生産量を10%増加させ74~78万boe/dとする計画を発表した。資本支出の75%はオイルサンドのアップグレーディング操業と製油所のメンテナンスに充て、残りは上流事業に充てるとしている。
そして、2017年11月にExxonMobilがオペレーターを務め、Suncor Energyが21%の権益を保有するHebron重質油プロジェクトの生産を開始、2018年1月にはFort Hillsプロジェクト(露天掘り、生産能力194,000 b/d)の生産を開始した。Suncor EnergyのCEO Steve Williams氏によると、Fort Hillsプロジェクトは油価低迷下で計画、建設された最後の巨大オイルサンドプロジェクトである。開発費は170億カナダドル(132億ドル)で、2017年9月に試験操業を行い、1年後には生産能力の90%で操業できる予定である。権益保有比率はSuncor Energy53.06%、Teck 20.89%、Total 26.05%となっている。
Suncor Energyはこの他に、2017年3月にはAER (Alberta Energy Regulator:Alberta州エネルギー規制庁)よりMeadow Creek Eastプロジェクト開発の承認を得、2017年10月にはMeadow Creek West プロジェクトの開発を申請した。Meadow Creek WestプロジェクトはFort McMurrayの南30キロメートルに位置している。Suncor Energyは2022年初に建設を開始、4年をかけて建設を行い、2026年に生産を開始、SAGD法により40,000 b/dを生産する計画だ。生産期間は40年が予定されている。オペレーターのSuncor Energyは同プロジェクトの権益の75%を保有、残りの25%をNexen Energy が保有している。さらに、2018年3月にはFort McMurrayの北東25キロメートル に位置するLewisプロジェクト(生産能力4万b/d×4ステージ、地層内回収プロジェクト、生産期間25~40年)の建設を申請した。建設を2024年に、生産を2027年に開始する計画である。Suncor Energyはこれらのプロジェクトを同一の設計で地層内回収法プロジェクトを実施する戦略の一環として進めており、Lewis、Meadow Creek等10件のプロジェクトで同社のビチューメン生産量を36万b/d増加させる計画である。
さらに、Suncor Energyは2018年1月にFort Hills の権益2.26%をTortalより取得、2月にSyncrudeオイルサンドプロジェクトの権益5%をMocal Energyより取得する等、すでに権益を保有するプロジェクトの権益拡大にも努めている。
一方、Cenovus Energyは、ConocoPhillipsが保有していたオイルサンド資産を買収(資産買収完了2017年5月)したことで債務が増加したことの責任をとってCEOのBrian Ferguson氏が10月に退任することを表明、2017年末までに非中核資産40~50億カナダドルを売却する計画を6月に発表した。9月にはPelican Lake重質油プロジェクトを9億7,500万カナダドルで、Alberta州Suffieldの原油・天然ガス資産をInternational Petroleumに5億1,200万カナダドルで、10月にAlberta州南東部Palliser地区の石油・ガス資産をTorxen EnergyとSchlumbergerに13億カナダドルで売却することで合意に達した。11月にCEOに就任したPourbaix氏は、投資家の信頼を取り戻すために、Alberta州Deep Basin等の非中核事業資産の売却による債務削減に専念すると表明した。
しかし、Cenovus Energyにとってオイルサンドは「中核的資産」に位置付けられており、生産量を拡大させる方針で、2018年は、社員4,200人の約15%にあたる500~700人の社員を削減するなどコスト削減を進めながらも、オイルサンドプロジェクトを中心に15億~17億ドルを投じ、オイルサンド生産量を36.4~38.2万b/dに、同社の総生産量を48.3~51万b/dにすることを目指すとした。
2018年第1四半期は、債務が膨らむ中、損失を最小限に食い止めようと、石油生産量の80%についてヘッジを利用したものの、9億1,400万カナダドルの損失を計上した。しかし、生産量は前年同期に比べほぼ倍増させている。
(2)2018年に入ってからの新たな動き
このように、カナダ企業はコスト削減に注力しながら、オイルサンドプロジェクトを操業、生産増を目指してきた。しかし、2017年末ごろより、パイプラインの輸送能力の不足や新たなパイプラインの敷設や拡張計画の遅れが問題とされるようになった。特に、2018年に入ってからはWTI(West Texas Intermediate)とWCS(West Canada Select)の価格差が拡大することとなったが、その一因は輸送手段が十分でないことにあると考えられる。
カナダ西部堆積盆地で石油を生産する企業は通常、夏に生産施設のメンテナンスを実施する。そのため、カナダ西部の石油生産量は夏季に25~30万b/d減少するのが一般的である。パイプライン輸送能力不足により生じているWTIとWCSの価格差拡大を上手く利用し、損失を最小限に抑えるために、これらの企業は2018年はメンテナンスを前倒しして実施、予定していなかった作業も併せて実施することを計画した。そのため、Alberta、Saskatchewan 州のオイルサンド、重質油生産量は第2~3四半期にかけて50~60万b/d減少する可能性があるとみられるようになった。
Canadian Natural Resourcesは、オイルサンドの生産を抑制する方針を発表(2018年3月)、第1四半期のAlberta州の重質油生産量を前年同期比16,800 b/d削減した。同社は資産を管理し、長期の商業的な価値を維持するという戦略に沿った動きであると説明した。
Cenovus Energyも市場へのアクセスが十分に行えないこと、価格のディスカウント幅が大きいこと等から2月よりChristina LakeとFoster Creekの生産量を削減した。Cenovus Energyの第1四半期の生産削減量は7万~8万b/dとされている[1]。Cenovus Energyは、生産量を削減したが、2018年のオイルサンドの生産量を36.4~38.2万b/dとする計画に変更はないとした。さらに、Cenovusは、4月には、Foster CreekプロジェクトのフェーズHと Narrows Lakeプロジェクトの開発を輸送のボトルネックが解消するまで延期すると発表、オイルサンドの生産拡大を抑制する方針を示した。Foster CreekフェーズHは生産能力が4万b/dで、当初2017年に生産開始予定であったが保留とされているプロジェクト、Narrows Lakeは生産能力13万b/dで、こちらも保留とされていた。なお、建設中のChristina LakeフェーズGは2019年下半期に生産開始予定であるとした。
Suncor Energyも、他国と比べて競争力がないため、今後数年はカナダ向けの支出を切り詰めていくことになるだろうとしている。
この他、Imperial Oilも、第1四半期はパイプラインの輸送能力不足でKearlオイルサンドプロジェクトの生産量を1.2万b/d削減した。そして、Imperial Oilがオイルサンド生産量を削減したことで、AERより承認が得られても同社がAspenオイルサンド・プロジェクト(生産能力15万b/d)の開発を中止するのではないかとみる向きもある。
Husky Energyも第1四半期はカナダ西部の重質油生産量を5,000b/d削減した。同社は、Keystoneパイプラインで6.5万b/dを輸送可能だが、生産量を削減しスペアキャパシティを第3者にサブリースして利益を上げたという。
また、2018年に入ってからは、オイルサンドプロジェクト等への融資を停止するとする金融機関が現れるようになった。
HSBCは4月20日、低炭素経済への転換を促進する計画の一環として、2019年末までに石炭火力発電所への融資から撤退すると発表した。加えて、北極海の新規油・ガス田プロジェクトや新規オイルサンドプロジェクトへの融資も停止する方針を示した。同行は従来よりクリーンエネルギーや低炭素技術の支援を強化する方針を示していた。
5月には、Royal Bank of Scotland (RBS)がオイルサンド、北極圏の石油プロジェクト、新規石炭火力発電所、燃料炭事業への直接の融資は行わないとした。また、収益の40%以上を燃料炭から得ている企業や石炭火力発電の割合が40%以上の電力会社に対しても融資を行わないとした。
今後の金融機関の動静にも注意が必要である。
なお、6月20日に、Syncrudeオイルサンドプロジェクトの操業が停止した。原因は電力供給が停止されたためと伝えられている。同プロジェクトの生産能力は36万b/dであるが,2018年の平均生産量は24.5万b/dとなっている。同プロジェクトの操業停止で、パイプライン輸送の混雑状況が緩和し、WCSの価格が一時的に上昇する可能性もあるとみられている。同プロジェクトの58.7%を保有するSuncor Energyによると、7月下旬には一部稼働する可能性があるものの、8月は生産能力の60~70%で操業、フル操業に戻るのは9月となる見通しであるという。
[1]Platts Oilgram News 20180507
2.パイプライン建設、拡張等の計画
カナダ西部から原油を輸送するパイプラインにはEnbridgeのMainline パイプライン、Kinder MorganのTrans Mountainパイプライン、Enbridge のExpress-Platteパイプライン、TransCanadaのKeystone パイプライン等があり、これらの輸送能力は合計で402万b/dとなっている。一方、カナダ西部の原油生産量は2017年で396.3万b/dとなっており、米国のBakkenシェールで生産される原油等も同じパイプラインで輸送していることや、パイプラインの操業が停止する時期もあることから、パイプラインの輸送能力不足が伝えられている。
これを補うため、カナダ西部から原油を輸送するパイプラインとして現在検討されているものは、TransCanadaのKeystoneXLパイプライン、Kinder Morgan のTrans Mountainパイプライン拡張、EnbridgeのLine 3修繕・拡張の計画となっている。
KeystoneXLパイプラインは、108.5億カナダドル(80億ドル)を投じAlberta州HardistyとNebraska州Steel City間全長526キロメートルに口径36インチ、輸送能力83万b/dのパイプを敷設する計画だ。米国との国境をまたぐパイプラインであるため、米国政府の承認が必要とされる。2015年11月、Obama大統領(当時)が同パイプラインの建設計画を却下する方針を表明したものの、Trump大統領は同パイプラインの建設を推進するとし、2017年3月24日、同パイプラインの建設計画を承認した。11月20日には、Nebraska州の規制当局Nebraska Public Service Commission(NPSC) が同パイプライン建設に関する評決を行い、賛成3、反対2で建設を承認した。ただし、承認された建設ルートはTransCanadaの提案より北東のルートで、このルート変更により、TransCanadaは2億ドルの追加費用が必要となるという。一方、新ルートの土地所有者等がNPSCの決定に異議を申し立てており、Nebraska州最高裁判所で審理が行われている。
Trans Mountainパイプライン拡張(TMX)プロジェクトは、74億カナダドルを投じ、Alberta州EdmontonとBritish Columbia州Burnaby間を結ぶTrans Mountainパイプライン(全長1,150キロメートル、口径24~36インチ、輸送能力35万b/d)に全長994キロメートル、口径36インチの新たなパイプラインを並走させるとともに、既存のパイプラインの輸送能力を拡張することで、輸送能力を89万b/dまで増強する計画だ。2017年5月30日に最終投資決定がなされ、2019年末完成を目指して、2017年9月から建設が開始される計画であった。しかし、British Columbia州政府(2017年7月に発足したHorgan首相率いるNDP(New Democratic Party)政権)、環境保護団体、先住民の反対を受けプロジェクトは遅延、2018年4月8日、Kinder MorganはTMX工事について、「本質的でない活動と関連する支出」を全面的に停止すると発表した。さらに、5月31日までに事業に関わる全ての利害関係者と工事継続について合意に達することができなければ、「このプロジェクトを進めるシナリオを考えるのは困難となる」と事実上中止とする旨を発表した。Kinder Morganが定めた期限の直前、5月29日に、連邦政府はKinder MorganよりTrans Mountainパイプライン及び拡張プロジェクトを45億カナダドル(35億ドル)で買収することで合意したと発表した。Kinder Morgan の株主の承認を得て、8月に取引が終了する予定となっている。連邦政府は、長期間同プロジェクトを保有するつもりはなく、適切な時期に新たな事業主に売却する計画であるという。連邦政府とKinder Morganは、Kinder Morganが7月22日までに購入を希望する第三者を探すことに助力することでも合意しているが、引き続きBritish Columbia州が同拡張プロジェクトに対して厳しい対応をとることが想定されるため新たな事業主を探すことができない可能性があるとみる向きもある。なお、連邦裁判所にはBritish Columbia州政府等によりTMX関連の複数の審理請求が提出されており、連邦裁判所の判決が出されるまでは、事態の進展は困難との見方もある。
Line3パイプラインは、Mainline パイプラインを構成するパイプラインで、1968年にAlberta州EdmontonとWisconsin州Superior間に敷設された。輸送能力は当初76万b/dであったが、老朽化のため2008年以降39万b/dまで落ちており、パイプの修繕・拡張を行うことで、当初の輸送能力まで戻すことが計画されている。カナダ側では2016年に連邦政府の承認を得、2017年にはAlberta州、Saskatchewan州等でLine 3修繕・拡張工事の40%が完成している。米国側ではMPUC(Minnesota Public Utilities Commission:Minnesota州公共事業委員会)が、2018年6月28日、同パイプライン修繕・拡張計画を承認し、Enbridgeは2019年後半に運用を開始することを目指している。
EnbridgeのLine3パイプライン修繕・拡張計画が承認されたことで、カナダ西部の輸送能力拡大に道筋がついたとの見方もあるが、業界関係者はオイルサンド事業への投資を増加させるにはさらなる輸送能力増強が必要との見方をしている。
なお、Alberta州BruderheimからBritish Columbia州Kitimatに原油を輸送することを想定しEnbridgeが計画していたNorthern Gatewayパイプラインについては、2016年7月に連邦裁判所が、先住民団体との十分な協議を怠ったとの理由で同パイプラインの建設許可を取り消し、連邦政府も11月29日、同パイプラインの建設を承認せず、同プロジェクトの申請を退けるようNEB(National Energy Board:国家エネルギー委員会)に命じた。
また、Alberta州Hardisty~New Brunswick州Saint John間、全長3,000キロメートルのMainline天然ガスパイプラインを石油パイプラインに転用するとともに、MontrealからNew Brunswick州まで1,400キロメートルのパイプラインを追加で敷設するというEnergy Eastパイプライン計画については、2017年10月、事業主であるTransCanadaがNEBに対して、事業環境が変化したことを理由に計画を中止すると伝えた。
3.原油の鉄道輸送量増加
パイプライン計画が思うように進まない中、カナダ西部で生産される原油の鉄道輸送量が増加している。NEBによると、2018年4月のAlberta 州、Saskatchewan州から米国及びカナダ東海岸への原油の鉄道輸送量は193,468 b/dと過去最高水準に達した。また、IEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)は、カナダからの鉄道による原油の輸出量は、2017年後半の15万b/dから2018年には25万b/d、2019年には39万b/dに増加する可能性があるとしている。IEAは、オイルサンドの生産量が伸びる中で、生産者が生産のピーク時に貯蔵施設を活用しなければ、2019年には鉄道輸送量が59万b/dとなる可能性もあるとみている。
原油の鉄道輸送量が増加している背景には、カナダ西部で生産される原油を輸送するパイプラインの輸送能力が不足していることがあると考えられる。また、パイプラインの輸送能力不足により、WTI とWCSの価格差が拡大しており、原油をパイプラインではなく鉄道で輸送しても利益が上がるようになったことも理由と考えられる。さらに、ベネズエラやメキシコの原油生産量減少で、品質の近いカナダ原油への需要が増加していることも要因の一つとなっていると思われる。
鉄道会社は、このような状況から車両と人員の追加が必要であるとし、3月に原油の鉄道輸送運賃の値上げを実施した。また、鉄道会社は、足下で鉄道輸送のニーズが急増しているが、パイプラインの建設や拡張が進めば原油の鉄道輸送量が急減するのではないかと懸念、石油会社と3年以上の長期契約やtake or pay契約を締結することを希望しており、生産企業やターミナルオペレーターと協議を行っているという。
4.オイルサンド生産見通し
NEB、IEA、CERI (Canadian Energy Research Institute:カナダエネルギー研究所)、CAPP(Canadian Association of Petroleum Producers:カナダ石油生産者協会)が、2017年10月以降に発表したオイルサンド生産見通しを以下に紹介する。生産量の伸び幅に関しては各種機関で見通しが異なるが、オイルサンド地層内回収法プロジェクトがカナダの石油生産増をけん引するという点は共通している。
(1)NEB
NEBは2017年10月26日、”Canada's Energy Future 2017”を発表した。
この中でNEBは、2016~2040年の経済成長率を年率1.72~1.74%、人口増加率を年率0.76%、インフレ率を年率1.93%、為替レートを1カナダドル=0.82~0.84ドルと想定、2022~2040年の炭素税を50ドル/トンとする「基本ケース」、炭素税を徐々に引き上げ2040年までに140ドル/トンとする「高炭素価格ケース」、炭素税は「高炭素価格ケース」と同じとしつつ、革新的な技術の活用が進む「技術進歩ケース」の3つの長期シナリオを策定している。石油(Brent)価格については、2027年までに80ドル/bblとなり、以降2040年までこれが維持されると想定している。
NEBは、カナダの石油生産量を2016年の400万b/dから、2040年には「基本ケース」で630万b/d(2016年比59%増)、「高炭素価格ケース」で570万b/d(2016年比43%増)まで増加するとしている。
そして、2016年から2040年までの石油生産量の増加の大部分をオイルサンドが占めるとみており、オイルサンド生産量は2016年の250万b/dから2040年には「基本ケース」で450万b/d(2016年比77%増)まで増加するとしている。オイルサンド生産量は2018~2021年には年に12.2万b/dずつ増加し、その後は生産の伸びが鈍化するとしている。露天掘りプロジェクトは、現在建設中のものが完成し生産を開始すると、その後は生産能力の追加はなく、2024年以降生産量は170万b/dで横ばいとなるとしている。一方、地層内回収法の生産量は「基本ケース」では2016年の140万b/dから2040年には290万b/dに倍増するとみている。
カナダの化石燃料消費(熱量ベース)については2019年まで増加し、「基本ケース」では、以降2040年までほぼ同程度の消費量が維持され、2040年時点での消費は、2016年比4.3%増、2005年比9%増となるとしている。「高炭素価格ケース」での化石燃料消費は、2040年時点で、2016年比4%減、2005年と同程度、「技術進歩ケース」での化石燃料消費は、2040年時点で、2015年比7.4%減となるとみている。2016年に発表した“Canada's Energy Future 2016“でNEBは、カナダの化石燃料消費は2040年に向けて一貫して上昇すると予測していた。
(2)IEA
IEAは2018年3月5日に発表した“Oil 2018 Analysis and Forecasts to 2023”で、カナダの石油生産量は、2017年の480万b/dから2023年には560万b/dに増加するとしている。IEAも、この生産量増加分の多くを原油価格が下落する前に建設が始まったオイルサンドプロジェクトが担うとしており、オイルサンド生産量は2017年の270万b/dから2023年には340万b/dに増加するとしている。2018年以降は、Fort Hills (生産能力19.5 万b/d)、Horizon フェーズ3(同8万b/d)、Christina LakeフェーズG(同5万b/d)、Kirby North(同4万b/d)が生産を開始する。しかし、IOCがカナダ企業にオイルサンド資産を相次いで売却、カナダ企業がオイルサンドの生産拡大を担うようになり、効率改善やコスト削減が進んでいるにもかかわらず、新規プロジェクトの開発はほとんど承認されなくなっているとしている。さらに、カナダ西部から石油を輸送する新たなパイプラインの建設の遅れ等からも、オイルサンドプロジェクトの開発が遅れているとしている。
(3)CERI
CERIは2018年5月に"Canadian Oil Sands Supply Costs and Development Projects(2018-2038)"を発表した。
CERIは、ビチューメンの供給コストを、SAGD法を用いた新規のプロジェクトが44.70カナダドル/bbl、拡張プロジェクトが28.66カナダドル/bblとした。希釈、輸送を加味し調整した米国CushingでのWTI換算の供給コストはSAGD法新規プロジェクトが60.17ドル/bbl、拡張プロジェクトが51.59ドル/bblとなり、報告書発表時点のWTI価格(66ドル/bbl)では経済性があるとしている。
CERIは、ビチューメン生産量についてHigh case、Reference case、Low caseの3つのシナリオを示している。大規模な森林火災の結果、2016年に250.5万b/dに減少したビチューメン生産量は、2017年には277.9万b/dに回復。その後、High caseシナリオでは、2025年に397.7万b/d、2030年に497.7万b/d、2035年に673.5万b/d、2038年に748.5万b/dと大きく生産量を伸ばすとしている。一方、Low caseシナリオでは、2025年に312.9万b/d、2030年に336.7万b/d、2035年に392.8万b/d、2038年に399万b/dと緩やかな伸びを示すとしている。Reference caseシナリオでは、2020年323.9万b/d、2025年352.8万b/dと後述するCAPPのオイルサンド生産見通しに近い数字となっているが、次第に乖離し、2030年には409万b/d、2035年には514.3万b/d、2038年には546.5万b/dと生産を伸ばす見通しとしている。
今回のCERIの見通しを、原油価格が下落を始めた2014年7月発表の“Canadian Oil Sands Supply Costs and Development Projects(2014-2048)”、前回の“Canadian Oil Sands Supply Costs and Development Projects(2016-2036)”と比較すると、2020年のLow caseを除いて生産見通しは前回の見通しから引き下げられている。パイプライン輸送能力不足や価格等オイルサンド事業の投資環境の悪化を反映したものと考えられる。
(4)CAPP
CAPPは、2018年6月に“Crude Oil Forecast, Markets and Transportation”を発表した。
CAPPはこの中で、東部の原油生産量は減少するものの、オイルサンドを中心に西部のそれが増加するため、カナダの原油生産量は増加を続け、2017年の419万b/dから2035年には560万b/dになるとしている。
オイルサンド生産量は2017年の264.6万b/dから2035年には419万b/dに増加し、オイルサンド生産量がカナダの原油生産量に占める割合は、2017年の63%から2035年には75%に増加する見通しであるとしている。2020年までは現在建設中のオイルサンドプロジェクトが生産を開始することから、平均年率7%の割合で生産量が増加する。しかし、オイルサンドへの投資は2014年の340億カナダドルから4年連続で減少し、2018年は120億カナダドル(93億ドル)となる見通しで、このうち60億カナダドルはメンテナンスに用いられ、増産にはつながらないことから、オイルサンド生産の伸びは鈍化、2021年以降は平均で年率わずか2%の割合で生産が伸びるとみている。
CAPPは、オイルサンド生産の内訳を、2015年は露天掘りが114万b/d、地層内回収法が151万b/d、2035年は露天掘りが173万b/d、地層内回収法が246万b/dとしており、オイルサンドの生産増は露天掘りよりも地層内回収法によるところが大きいとしている。
CAPPは、2015年、2016年発表の“Crude Oil Forecast, Markets and Transportation”では、各生産見通しを前年の見通しより引き下げていたが、2017年以降は前年よりも生産見通しを引き上げている。
終わりに
2014年半ば以降の原油価格低迷を受け、ほとんどの新規オイルサンドプロジェクトは延期、保留されたが、生産中、建設中のプロジェクトは生産、建設が継続された。2016年5月のAlberta 州大規模火災やIOCによるカナダ企業へのオイルサンド資産売却によっても、その状況に大きな変化は見られなかった。しかし、パイプラインの輸送能力不足とそれに伴うWTIとWCSの価格差拡大により、生産中のオイルサンドプロジェクトに影響が生じている。OPECの議長を務めるアラブ首長国連邦(UAE)のSuhail bin Mohammed Faraj Faris Al Mazroueiエネルギー相もAlberta州を訪問した際に、「カナダは石油・ガス輸送インフラへの投資を促進すべきだ。十分なインフラがなければ投資は米国に移ってしまう。急いで行動するように」と語った。EnbridgeのLine3パイプライン修繕・拡張計画が承認され、2019年後半以降、カナダ西部から原油を輸送するパイプラインの輸送能力が増強される見通しが立ったとの見方もあるが、オイルサンドプロジェクトへの投資増にはさらなる輸送能力拡張が必要と見る向きもあり、動向が注目される。
以上
(この報告は2018年7月20日時点のものです)