ページ番号1007586 更新日 平成30年7月26日
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概要
中国のエネルギー調達への影響
・米国から中国へのエネルギー輸入は、2017年に米中首脳が貿易不均衡是正に合意して以降増加。しかし8月以降は中国が米国から輸入するエネルギー・製品に追加関税が賦課される可能性がある。
・仮に、エネルギー・製品に関税が付加された場合、原油は中東、欧州(北海)などへの代替が可能と見込まれる。中国政府はイランからの原油輸入を継続すると示唆しているが先行きは不透明。さらにベネズエラの出荷減に伴う代替原油の調達も必要となる。代替できたとしても、調達の不安定性とコスト増等、中国の輸入企業にとって負担は避けられない。
・ただし、中国は米国から輸入するLNGを8月の追加関税の候補から除外している。石炭から天然ガスへの転換が急務で需要増加が見込まれる中国にとって、仕向け先を柔軟に変更できる米国LNGは季節需要調整の観点からも有効であることが主たる理由と思われる。また、米国にとっても拡大が見込まれる中国のLNG市場に食い込むことは、LNG液化プロジェクト立ち上げの観点から有意義である。ただし米中貿易摩擦が長期化、エスカレートすると2017年11月の首脳会談時に合意したアラスカLNGなど新規のガス・LNGプロジェクト交渉に影響が及ぶ可能性がある。
世界の石油市場への影響
・米中貿易摩擦により、米WTI価格原油に下方圧力がかかることで世界の石油貿易の流れに一定の変化が生じると見られる。
・石油需要や探鉱開発投資に与える影響は短期的には大きくないと思われる。
・米中貿易摩擦の長期化やエスカレートすることへの懸念は企業活動に影響を与え、中長期的には世界経済の混乱や需要抑制につながる可能性がある。
1.米中貿易摩擦悪化、双方が追加関税を発動
2018年7月6日、米国税関・国境警備局(CBP)は中国の知的財産権侵害を理由に7月6日午前0時(北京時間6日正午)から自動車、情報通信機器、ロボット等818品目、約340億ドル(3兆7600億円)の中国製品に25%の追加関税を賦課すると発表した。一方、中国は同日付で、米国の農産品(大豆、牛肉、鶏肉他)や自動車など545品目を対象に同規模(約340億ドル、25%)の追加関税を課すことを発表した。
米国による追加関税リストは(1)7月6日に25%の関税の即日適用が実施された「1次リスト」、(2)1次リストと同時に公表されたが段階的に発動する「2次リスト」、(3)4日後の7月10日に公表された2,000億ドル相当の「追加関税リスト」の三段階に大別することができる(表1)。
このうち(2)の「2次リスト」には半導体、化学製品、鉄道車両など160億ドル相当が含まれており、これらに25%の追加関税を課すかどうかについて、米国政府は7月末までに公聴会などで意見聴取を行って、8月以降に発動するかどうかを決定することとなっている。
また米国は2,000億ドル相当の追加関税リストについては、必要な手続きを経て9月以降発動する可能性がある。一方、中国も「2次リスト」を発表しており、その対象品目には原油、LPG(プロパン・ブタン)、天然ガス、石炭などのエネルギーおよび関連製品が含まれる(表2)。ただしLNGは追加関税リストから除外されている(後述)。
参考:追加関税発動を巡る主な経緯
追加関税発動を巡る主な経緯は次の通りである(表3)。追加関税発動の約1年前の2017年8月18日、米通商代表部(USTR)は1974年通商法301条(以下、301条)に基づき中国政府の技術移転や知財権、イノベーションに関する中国政府の行為、政策、慣行について調査を開始した。翌2018年3月22日、トランプ大統領は301条に基づき中国からの輸入品に追加関税を賦課する大統領令に署名した。また米国は中国の過剰生産の影響で海外から安い鉄鋼製品が大量に輸入され、アメリカの鉄鋼業に打撃をあたえ安全保障上の脅威になっているとして3月23日に1962年通商拡大法232条(国防条項)に基づき中国など各国から輸入される鉄鋼製品に25%、アルミニウムに10%の追加関税を課した。中国国務院税関税則委員会は4月2日から米国の豚肉や果物、ワインなど7種類128品目についてについて関税譲許義務を中止し、現行の適用関税税率に加えて関税を追加徴収(果物とワインなどの追加関税率は15%、豚肉とその製品は25%)すると発表した。4月3日にUSTRは中国からの輸入品(2018年の輸入額<推計>で約500億ドル相当)に一律25%の追加関税を賦課する約1,300品目のリストを公表した。品目リストには半導体、農業機械、機械・産業用ロボット、医療用品・医療機器、航空・宇宙機器など幅広い製品が記載されている。。4月4日に国務院関税税則委員会は米国原産の大豆、自動車、化学工業品など14種類106品目の商品に25%の追加関税を賦課することを決定した。
5月3日に米中は貿易協議を開始し、6月中旬まで断続的に協議が行われた。6月14日にはポンペオ米国務長官と北京で会談した王毅国務委員兼外相が「両国の経済・貿易問題について建設的方法で意見の相違を処理することで合意した」と述べ、米中貿易摩擦が解決に向かっていると強調していた。しかし6月15日にUSTRは中国からの輸入する製品(500億ドル相当)に対し25%の追加関税を賦課する(このうち自動車、情報通信機器、ロボット等約340億ドルについては7月6日に発動する。半導体、化学製品、鉄道車両等約160億ドルについては段階的に発動する)と発表した。6月16日に中国国務院税関税則委員会は「中華人民共和国対外貿易法」および「中華人民共和国輸出入関税条例」などの法律・法規と国際法の基本原則に従い、米国から輸入する製品(500億ドル相当)に25%の追加関税を賦課する(このうち農産物、自動車など340億ドルについては7月6日に発動する。化学工業品、医療設備、エネルギーおよび関連製品など160億ドルの実施時期は別途発表する)と発表した。6月18日にトランプ大統領は2,000億ドル相当の中国から輸入する製品に10%の追加関税を賦課することを検討するよう指示し、7月10日にUSTRがリストを公表した。米中間貿易収支について中国から米国への輸出は約5,000億ドル、米国から中国への輸出は約1,300億ドルで米国の対中貿易赤字は約3,700億ドルである。米国から中国への輸出額約1,300億ドルの全てに中国が追加関税を賦課しても2,500億ドルには届かない。中国外交部報道官は7月11日の定例記者会見において必要な対抗措置を取り、自らの正当な合法的権益を守ると表明した。
2.中国のエネルギー調達への影響
(1)米中貿易不均衡是正に向けた「100日計画」合意と中国の米国からのエネルギー輸入増加
知的財産権を巡る交渉とは別に、米中両国は貿易不均衡是正について交渉してきたが、2017年には米国からのLNG輸出促進や中国による米国のエネルギー関連プロジェクトへの巨額の投資について合意していた。米国エネルギー省EIAによると2017年の対中エネルギー輸出は86億ドルで2016年の26億ドルに比べ大幅に増加した(2018年は第1四半期のみで32億ドル)。米国のエネルギー輸出を後押ししたのはWTI原油がBrentに対し割安であったことや豪州のサイクロンにより石炭の供給がひっ迫し、価格が高止まりして、米国の石炭輸出が増加したことなど市況の影響もあるが、LNGを含む米国からのエネルギー輸入増加にはエネルギーを貿易不均衡是正に活用しようとする中国政府による一定の配慮が働いていた可能性は高いと筆者は見ている。
1.米中貿易不均衡是正に向けた「100日計画」とLNG輸出促進合意(2017年4月、5月)
まず、米中両国は2017年4月の首脳会談において貿易不均衡の是正に向けた「100日計画」に合意した。翌5月に両国政府は「100日計画」における具体策を公表し、農業、金融、投資、エネルギー分野等に関する10項目で合意したが、その第4項が米国から中国向けのLNG輸出促進である。米国は中国を貿易パートナーとして中国による米国産LNGの輸入を歓迎、またLNG輸出に関連して中国をその他の非FTA国と同等の条件で扱う、中国企業がLNG輸出関連企業と長期契約を含む全ての形態の契約をいつでも交渉することを可能とする基本方針に合意した。
2.米中首脳会談時エネルギー関連合意(2017年11月)
2017年11月9日、トランプ大統領は習近平国家主席と首脳会談を行った。両首脳はエネルギー、制造業、農業、航空、電気、自動車などの分野のビジネス契約と双方向の投資取り決めの調印に立ち会った。トランプ氏の訪中期間に両国が調印したビジネス契約と双方向投資取り決めの総額は2,500億ドル(28兆円)を超えた。エネルギー分野の合意額は中国国家能源投資公司[1](China Energy Investment Corp)によるウェストバージニア州のシェールガス、電力、化学プロジェクト(事業費837億ドル)への投資覚書やSINOPEC、国家ファンド中国投資(CIC)傘下の中投海外、中国銀行(Bank of China)によるアラスカLNG(事業費430億ドル)の液化プラント、パイプライン等付帯設備の建設についてのJoint Development Agreement、PetroChinaによるCheniere EnergyのLNG購入(覚書)や中国燃気(China Gas)によるDelfin LNGとのLNG購入(合意)など、判明しているだけで合意の5割超(約1,700億ドル相当)に達した(表4)。今回の契約には投資が含まれ、米国製品の購入も複数年にまたがる内容が多いため、すぐに貿易赤字が減るかは不透明だ。ただ、貿易赤字に匹敵する商談をまとめたことで、中国政府が貿易赤字を減らす意思を米側に伝えたと報じられた。
[1]石炭大手神華(Shenhua)、発電大手国電(Guodian)集団によるJV
(2)中国の原油調達への影響:「2次リスト」における追加関税対象
中国は石油消費量について公表していない。国家統計局による原油生産と石油の純輸入を合わせた2017年の石油の見かけ消費は前年比5%増(56万b/d増)の1,166万b/dである。消費の6割を輸入している。2017年の原油の輸入量は前年比10%増の838万b/dである。米国からの原油輸入は15万b/d(輸入の1.8%)で比率は高くない。しかし2017年以降米国からの原油輸入は急拡大した(図1)。主にMars Blend(28.8°API、硫黄分1.8%)やSouthern Green CanyonなどのMedium sour原油を輸入している。2017年は米国からの原油輸入15万b/dのうち11万b/d SINOPECが行っており、同社が中国で最も多く米国原油を輸入している事業者である。この他地方製油所も米国から原油を調達している。政府からSINOPECに対し貿易不均衡是正の圧力があったか検証することは難しいが、2017年はWTIがBrentに対し最大で7ドル/bbl程度割安であり、SINOPECはWTIが割安であったことを輸入増加の理由にあげている。
今後、「2次リスト」が発動され、米国からの原油輸入に25%の追加関税が賦課される場合、米国からの原油輸入は縮小に向かうと見込まれる。例えば、SINOPEC幹部は現在の価格水準で約20ドル/bbl上乗せとなり経済的に見合わないと述べ、8月積みの米国原油の輸入を削減し、イラクなどからの調達を増やそうとしている。また、独立系精製業者の地方製油所についてもすでに輸入を抑制している。中国が輸入している米国原油を代替しうるのは中東(イラク、サウジアラビア、UAE)や西アフリカの原油と言われており、これらに置き換えるものと思われる。一方中国は米国原油の他にベネズエラ原油(2017年に中国は46万b/dを輸入)の国外への出荷が減少しているため、これの代替原油を調達しなければならない。例えば、6月初めにPDVSAは顧客に対して原油供給義務を果たせないと通告するような状況に至っており、国外への出荷量は150万b/dから70万b/dへと半減していると報じられている。また中国政府(外交部)はイランからの原油輸入(2017年に62万b/dを輸入)継続を示唆しているがこちらも不透明な状況にある。中国は"技術的な問題"として2018年4月以降、原油やLNGの国別輸入統計を公表していないがこれには米国との貿易摩擦や対イラン制裁問題が影響している可能性がある。原油の代替調達は可能と思われるが、調達の不確実性に加え、代替調達によるコスト増など原油を輸入する企業側の負担増は避けられないそうもない状況である。
参考:米国から中国への原油輸出(EIA)
米国から見た中国への原油輸出はどうか。エネルギー省EIAによると、同国の2017年の原油輸出は前年比約2倍の111.8万b/dである。このうち中国への輸出は22.4万b/d(輸出の20%)である(図2)。前年の2万b/d(輸出の4%)から急拡大した。2018年6月18日に米石油ガス業界団体のAPIやAXPC*を含む産業団体は米議会に対し書簡を出状、貿易政策への懸念と関税引き上げの経済や雇用への影響の精査を求めている。この書簡とは別にShellとChevronが商務省に対し海洋掘削関連鉄鋼製品に対する追加関税(25%)の適用除外申請を行っていたが、米国内で調達できないことを理由に適用除外(Waiver)が認められた。
(3)中国のLNG調達への影響:「2次リスト」追加関税対象から除外
2017年の天然ガス見かけ消費(生産+純輸入)は前年同期比15 %増の237BCM(LNG換算約1億7300万トン)である。消費の6割を国産ガスが、4割が輸入(輸入パイプライン、輸入LNGが各2割)である。2017年のLNGの輸入量は3,800万トンでそのうち米国からのLNG輸入は151万トンと輸入LNGの4%を占めるに過ぎず、原油と同様に輸入に占める比率は高くないが、2016年の20万トンから急拡大した(図3)。
中国が米国のシェール由来のLNGの輸入を開始したのは2016年9月だが、2017年時点ではポートフォリオ、スポットによる輸入が主なものであり、長期売買契約(SPA)によるものは2018年2月にCNPCがCheniereと締結した120万トン/年のみである。2017年はLNGの需要が急増したことに加え、前述の通り2017年5月に米中政府は前月の首脳合意を受け、米国から中国向けのLNG輸出促進で合意したことも輸入増加に寄与していると思われる。
中国はLNGを追加関税対象から除外した理由についてだが、相対契約が中心のLNGは原油に比べ代替がききにくいためであると思われる。また天然ガス需要増加が見込まれる一方で季節感の需要差が課題の中国において柔軟性に優れた米国のLNGは有効な供給源であると思われる。現在の油価水準では価格面の優位性もある。
参考:米国から中国へのLNG輸出(EIA)
EIAによると米国の2017年のLNG輸出は1.9Bcfd(GIIGNLによると2017年の米国のLNG輸出は1,224万トン)である。このうち中国への輸出は15%でメキシコ、韓国に次ぐ3位である(図4)。前述の2018年2月にCNPCがCheniereと締結したLNG売買契約はCheniereがテキサス州で進めるCorpus Christi 第3トレイン(450万トン/年)のFIDを後押ししたとされる。米国においても成長が見込まれる中国のLNG市場は新規LNG液化プロジェクト立ち上げに重要と見られているようだ。この他米中の間でAlaska LNG、Delfin LNG(ルイジアナ州沖FLNG)など複数の合意・交渉中案件が存在する。
参考:中国の天然ガス需要増加
中国政府は13次五か年計画(2016~2020年)において石炭ボイラーから天然ガスへの転換や交通輸送分野における石油から天然ガスの燃料転換を進め、2020年までに天然ガスの1次エネルギー消費に占める比率を現在の6%から8.3%~10%(261~315BCM、LNG換算1.9~2.3億トン)に高める目標を設定している。また、2017年8月に公表された「エネルギー生産・消費革命戦略」では2030年のエネルギー消費を42億toeに抑制し、天然ガスの比率を15%以上、再生可能エネルギーの比率を20%以上に高める目標が設定されている。同戦略に基づき2030年の消費構成を石油換算42億toeとした場合、天然ガスの消費は568BCM(LNG換算4.1億トン)を上回ることとなる。ただし、IEAやCNPCなどは2030年の中国の天然ガス需要について425~480Bcm(LNG換算3.1~3.5億トン)と中国政府の目標に比べ控えめな見通しを示している。
中国政府は中期的な需要増に対し国産ガスの供給増加、天然ガス・LNGの輸入増加で対応する方針である。国産ガスの供給についてシェールガスや炭層ガス(CBM)など非在来型の供給が伸び、2030年には190~270Bcm(LNG換算1.4~2億トン)に達すると見られるが、IEAやCNPCの需要見通しに対して不足する155~290Bcm(LNG換算1.1~2.1億トン)を中国国外から調達する必要がある。締結済みの輸入パイプラインガスの長期契約量は128 BCM(LNG換算約9400万トン)ある。ロシアからの輸入は東シベリアの開発が進めば上振れする可能性があるが、トルクメニスタンをはじめ中央アジアからの輸入は伸び悩んでおり、中長期的に契約量を下回る懸念がある。国産ガスの開発やパイプラインの輸入が伸び悩んだ場合、不足分は輸入LNGで補うこととなる。インフラの制約等で2030年時点の輸入は最大8500万トン程度と見られる。現在のLNG長期契約量は約4200万トン(58 BCM)であり、今後2030年の需要に向けて現在の2倍程度の追加契約が必要となるかもしれない。
とにかく中国のエネルギー需要見通し、天然ガス需要見通しは政策により大きく変動(中国のエネルギー需要の1%変動はLNG需要約3000~4000万トンに相当)する上、国産ガスの生産量や輸入パイプラインガスの供給量にも左右される。これらの変動を補うために、国際取引市場からのLNG調達が行われれば、同じ北東アジアでのエネルギー輸入を行う日本(韓国、台湾)にとっての影響は大きい。
(4)交渉中の新規ガス(LNG)プロジェクトへの影響
今後も中国がLNGを関税リストに載せることはないとの見方が大勢を占める一方で米中貿易摩擦の悪化は2017年11月の米中首脳会談時に新たに合意したガス開発・LNGプロジェクトの交渉に影響を及ぼす可能性がある。
中国国家能源投資公司の幹部は2018年6月に予定していたウェストバージニア州への訪問を中止した。同州シェールガス開発、化学プロジェクト交渉は滞る可能性がある。アラスカLNGの交渉は継続している模様である。SINOPECのプレスリリースによると、5月25日にSINOPEC載厚良総経理はADGCのPresident Keith Meyer氏およびアラスカ州Bill Walker知事と面談を行っている。またアラスカ州知事はアラスカLNGの推進に意欲的であり、7月6日の対中追加関税発動を受けてワシントンに飛びロビー活動を行った模様である。アラスカLNGはアラスカ州ガス開発公社Alaska Gasline Development Corporation(ADGC)が進めているプロジェクトで、生産能力は最大2,000万トン/年(液化トレイン3基、FERCの承認判断は2020年3月の見込み)である。前述(2-(1)-②)の通り、2017年11月にSINOPEC、国家ファンド中国投資(CIC)傘下の中投海外、中国銀行(Bank of China)はADGCと液化プラント、パイプライン等付帯設備の建設についてのJoint Development Agreementを締結しており、中国側は事業費430億ドルの75%についてファイナンスを行うとしている。これが実現した場合、一帯一路(Belt & Road)の米本土上陸第1号となる。しかし今後米中貿易摩擦が悪化した場合、米国内においてエネルギー安全保障上の懸念が生じるかもしれない。
(5)中国のエネルギー調達への影響:LPG(「2次リスト」追加関税対象)
中国のLPG消費は過去5年で倍増した。2017年の消費は約5,500万トンで、輸入は1,845万トンと消費の3割を占める。またプロパンの輸入量が1,335万トン、ブタンが490万トン、ミックスガスが19万トンであり、輸入の7割はプロパンが占める。プロパンは石化の原料を製造するPDH(Propane Dehydrogenation)プラント向けの輸入が伸びている。主な輸入相手先はUAEやカタールなどで中東からの輸入が6割を超える。2017年の米国からの輸入はプロパンが337万トン(輸入の25%)、ブタンが19万トン(輸入の4%)であった。
LPGに対し追加関税が発動された場合、2018年3月の価格水準で130ドル/トン上乗せとなる。米国からの輸入は縮小し、中東からの代替調達に向かう見通しである。既契約分については日本や韓国など北東アジアのLPG輸入国が輸入する中東LPGとのスワップで対応する、あるいは契約をキャンセルすることで対応すると見られている。事業者は追加コストを負担することになり、原油と同様代替は効くが事業者の負担は小さくないと見られる。米国から中国へのプロパン輸出について、中国は米国の2017年のプロパン輸出の14%を占め、日本(輸出の23%)、メキシコ(同15%)に次いで3位に位置している
(6)中国のエネルギー調達への影響:石炭(「2次リスト」追加関税対象)
中国の2017年の石炭消費は38.6億トン(石油換算18.9億トン)、輸入は2.7億トン(石油換算1.3億トン)で輸入比率は6%と原油や天然ガスに比べ高くない。輸入の4割はインドネシアが、3割を豪州が占める。2017年の米国からの石炭輸入は317万トン(輸入の4%)である。原料炭が284万トン(輸入の4%)、一般炭が33万トン(輸入の0.3%)であり、米国からの石炭輸入の9割を原料炭が占める(図5)。政府から事業者に貿易不均衡是正の圧力があったか検証することは難しいが、2017年は豪州のサイクロンで市況がタイト化したこと、価格が高騰したことで米国の石炭輸出が増加したことが輸入増加の要因とされる。今後25%の追加関税が賦課される場合、米国からの石炭輸入は縮小に向かい、中国は主に国内炭増産で対応するものと見られる。また米国にとり石炭輸出に占める中国の比率は3%で高くはない。
(7)エタノール混合ガソリン普及促進計画への影響
米国から輸入するエネルギー関連製品への追加関税が発動された場合、米国からのエタノール輸入縮小で、それに立脚した中国のエタノール混合ガソリン普及促進計画に影響が生じる可能性がある。
2017年9月、中国政府(国家発展改革委員会や国家能源局など)はエタノール10%混合ガソリン(E10)の生産と利用を促すガイドラインを発表した。環境への対応、石油輸入の低減、農作物の有効利用などが目的とされる。北京・天津・河北省、山東省などの汚染重点対策地域で先行的に導入し、2020年に全国に展開する計画。全国に展開すると中国の現在の年間需要の4分の1に相当する4,500万トンのトウモロコシが必要とされる。中国国内のトウモロコシの在庫は近年売却が進み2019年に底をつく、全国展開には米国からエタノールあるいは原料のトウモロコシを輸入することになると見られていた。実際に2018年に中国の米国からのエタノール輸入が急増した。2018年2月のエタノール輸入の9割以上(約19万立方メートル)が米国からの輸入であったという。国内農作物の有効利用という観点から輸入エタノールには30%の関税が適用されていたが、2018年4月に米国からのエタノール輸入に15%の追加関税が課せられ、7月6日から25%の追加関税が課せられた。自動車用燃料エタノール生産工場の拡張計画を見直す国内企業も出てきた模様である。
3.米中貿易摩擦による世界の石油市場への影響
米中貿易摩擦による世界の石油市場への影響についてWTI価格原油に下方圧力がかかることで世界の石油貿易の流れに変化が生じると見られている。中国の米国からの原油輸入は大きくないが、玉突き状態で貿易の流れが変わる。それにより原油タンカー市況にも影響が生じると思われる。一方、石油需要や探鉱開発投資に与える影響は短期的には大きくないと思われる。ただし米中貿易摩擦の長期化やエスカレートすることへの懸念は企業活動に影響を与え、中長期的には世界経済の混乱や需要抑制につながる可能性がある。
以上
(この報告は2018年7月25日時点のものです)