ページ番号1007591 更新日 平成30年8月29日
原油市場他:米国と中国等の貿易戦争による経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の不安から下振れする原油価格
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概要
- 米国では、製油所の稼働上昇とともに石油製品生産活動が活発化したことにより、留出油在庫は増加傾向となった反面、夏場のドライブシーズン到来により季節的にガソリン需要が盛り上がったことから、ガソリン在庫は減少傾向となった。他方、製油所での原油精製処理が進んだ反面カナダのオイルサンド改質装置で不具合が発生したことによるクッシングの原油在庫減少等が一因となり、ブレントとWTIの原油価格差が縮小したことで、米国からの原油輸出が落ち着いたことから、同国の原油在庫は増加しつつある。
- 2018年7月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国で減少となった他、欧州や日本でも製油所の稼働上昇とともに原油精製処理が進んだことにより、原油在庫は減少となった。この結果OECD諸国全体としても原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。他方、石油製品については、米国では製油所での稼働上昇に伴い石油製品の生産が旺盛になった一方で、不需要期となっているプロパンやブタンの在庫、そして留出油の在庫が増加したこともあり、製品在庫水準は上昇した。また、欧州や日本でも製油所の石油製品生産活動活発化もあり、欧州では中間留分、日本では灯油を中心として、石油製品在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体として石油製品在庫は増加、量としては平年並みとなっている。
- 2018年7月中旬から8月中旬にかけての原油市場においては、サウジアラビアの原油供給減少の情報、英領北海の油田労働者によるストライキ、イランのペルシャ湾での軍事演習等が原油相場に上方圧力を加えた反面、中国の経済減速、米国と中国やトルコとの関税賦課合戦、ロシア原油生産増加の情報、米国原油在庫の増加等が原油相場に下方圧力を加えた結果、7月中旬にはWTIで1バレル当たり68ドル程度であった原油相場は、8月中旬にかけ70ドル台へと上昇する場面も見られたが、その後65ドル台へと下落している。
- 現在のところ、イランやベネズエラの原油生産量は減少してはいるものの、その幅は限定的な規模にとどまっている。加えて、米国及び中国等の貿易戦争等により、石油需要に対する懸念が市場で漂っている他、夏場のガソリン需要期も残りわずかとなりつつある。このような足元での石油需給緩和感を示唆する要因が石油市場関係者の継続的な原油購入を行いにくくさせている。このような流れは今しばらく続く可能性があることを考慮すると、原油相場は短期的には上昇しにくく、要因次第では下落する場面が見られるといった展開も考えられよう。ただ、イランからの原油供給の大幅低下を示す統計類、または石油消費国によるイラン産原油輸入の大幅減少、もしくはイラン産原油の流通量の相当程度の低減を示すタンカーデータ等が明らかになれば、石油供給の引き締まり感が市場で広がる結果、原油相場が持ち直す可能性があるものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2018年5月の米国ガソリン需要(確定値)は日量955万バレルと前年同月比で0.4%程度の減少となった(図1参照)が、速報値(前年同月比で0.9%程度減少の日量950万バレル)から若干ながら上方修正されている。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.987ドルと同国消費者のガソリン消費行動により影響を及ぼし始める1ガロン当たり3ドルに接近、前年同月比で0.484ドル(約19.3%)割高になったうえ、前月比でも0.114ドル(約4.0%)上昇していることが、ガソリン需要を抑制する格好となっているものと思われる。他方、2018年7月の同国ガソリン需要(速報値)は日量965万バレル、前年同月比で0.8%程度の増加となっている。ただ、同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.928ドルと前月(同2.970ドル)からは多少下落しているものの、依然1ガロン当たり3ドルからそう離れていない水準で推移している他、前年同月比でも0.514ドル(約21.3%)割高になっているため、当該需要は速報値から確定値に移行する段階で下方修正されるか、前後の月(つまり6月もしくは8月)のガソリン需要に反動が表れることもありうる。また、製油所の原油精製処理量は日量1,700万バレル台を維持している他、8月10日の週には日量1,798万バレルと、1982年後半以降の統計史上最高水準に到達した(図2参照、これまでの最高記録は6月22日の同1,782万バレルであった)ことに伴いガソリン生産活動も活発化していると見られる(最終製品の生産量は図3参照)ものの、夏場のドライブシーズンに伴い季節的にガソリン需要が盛り上がっていることから、7月上旬から8月上旬にかけ、同国のガソリン在庫は若干ながら減少傾向を示しているが、平年幅上限を超過する水準は維持されている(図4参照)。
2018年5月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量427万バレルと前年同月比で7.7%程度の増加となり、速報値である日量396万バレル(同0.3%程度の減少)から上方修正されている(図5参照)。2018年5月の米国の鉱工業生産が前年同月比で3.0%程度伸びるなど経済が底堅く成長していることを示唆しており同国の物流活動も同7.6%程度拡大していることが、堅調な留出油需要に繋がっているものと考えられる。ただ、4月の当該需要(日量415万バレル、前年同月比で9.6%の増加)に引き続き、5月についても相当程度高水準の伸び率になっていることから、6月以降にその反動が発生するといった展開も排除できないものと考えられる。また、2018年7月の留出油需要(速報値)は日量395万バレルと、前年同月比で6.6%程度の増加となっている。米国は7月6日(米国東部時間)に中国からの340億ドル相当の輸入品に対し25%の関税を賦課する制裁を発動しているものの、米国経済及び物流活動への影響は多少時間差をおいて現れるものと考えられることから、7月においては留出油需要はなお比較的好調な米国経済(7月の米国鉱工業生産は前年同月比で4.2%増加している)及び物流活動(6月は前年同月比で8.2%の伸びとなっている)の流れを反映しているものと見られる。他方、米国での製油所での原油精製処理量が高水準を維持していることに伴い留出油生産活動も活発な状態を維持している(図6参照)一方で、季節的に暖房用の留出油需要は発生していないことから、7月上旬から8月上旬にかけ留出油在庫水準は上昇傾向となった結果、2018年8月上旬時点では平年並みの量となっている(図7参照)。
2018年5月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で1.6%程度増加の日量2,036万バレルとなった(図8参照)。留出油需要が前年同月比で相当程度増加したことが石油製品全体の需要の伸びを牽引している。また、ガソリン及び留出油等の需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正されたことにより、当該需要は速報値(日量2,017万バレル、前年同月比0.6%程度の増加)から上方修正されている。他方、2018年7月の米国石油需要(速報値)は、日量2,094万バレルと前年同月比で4.6%程度の増加となった。留出油及びその他の石油製品が需要の伸びを牽引している。ただ、その他石油製品の需要は日量419万バレルと2017年6月~2018年5月の当該需要(確定値)である同331~382万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正されることが同国の石油需要(確定値)に影響を及ぼすこともありうる。また、6月には米国の製油所での原油精製処理量が週間統計史上最高水準(当時)に到達するなど原油精製処理が進んだことに加え、6月に米国の原油輸出が旺盛であった(6月22日の週には日量300万バレルと1991年前半の同国週間統計史上最高水準に到達した)他、6月20日夜にカナダのアルバータ州にあるSyncrudeのオイルサンド改質装置(原油生産能力日量35万バレル)が停電により操業を停止、修理が必要となった(完全な操業回復は9月(上旬から半ば頃とされる)になるものとSyncrudeの58.7%の権益を保有しているSuncorは7月9日に明らかにしている)ことから、カナダからパイプラインを経由してクッシングに流入する原油量が低下したこともあり、米国オクラホマ州クッシング(NYMEX原油先物契約の受け渡し地点)で原油在庫が減少したことがWTI原油価格に上方圧力を加えた反面、6月22日に開催されたOPEC総会及び翌23日に開催されたOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合で、サウジアラビア等の中東湾岸産油国やロシアによる事実上の増産が決定したことにより、中東地域等に比較的市場が近接している欧州での石油需給緩和感が市場で広がったことがブレント原油に下方圧力を加えたことで、WTIとブレントの原油価格差が縮小したことや、米国と中国との貿易戦争激化もあり中国の米国からの原油調達が削減されているとされている(但し8月17日現在中国は米国から輸入される原油については関税賦課対象外としている)ことから、米国からの原油輸出量が減少したことが影響し、7月上旬から8月上旬にかけ原油在庫は増加傾向となった結果、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図9参照)。そして、留出油在庫が平年並みの量となっている一方で、原油及びガソリンの在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、または原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2018年7月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国で減少となった(7月上旬から8月上旬にかけては増加傾向となっている(前述)が、6月下旬から7月上旬にかけては製油所の稼働が高止まった一方で原油輸入が低下したこともあり、当該在庫は大幅に減少していた)。また、欧州でも製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理が進んだことにより、原油在庫は減少となった。さらに、日本でも製油所が春場のメンテナンス作業を終了させつつあるとともに、原油精製処理が進み始めたことから、当該在庫は減少した。この結果OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。他方、石油製品については、米国では製油所での稼働上昇に伴い石油製品の生産が旺盛となった一方で、冬場の暖房シーズンではないことに伴うプロパン需要の低下による当該在庫増加や冬用ガソリン利用終了に伴う当該製品混入用ブタン需要の減少によるその他の石油製品在庫の増加、さらには留出油在庫水準の増加等もあり、製品全体の在庫水準も上昇した。また、欧州でも製油所の稼働が上昇するとともに石油製品の生産活動が活発化したこともあり、中間留分を中心として石油製品在庫が増加した。さらに、日本でも、製油所でのメンテナンス作業が終了に向かいつつあったことから、石油製品生産活動が活発化した結果、不需要期である灯油を中心として石油製品在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体として石油製品在庫は増加となり、量としては平年並みとなっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置している(図14参照)。なお、2018年7月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は59.0日と6月末の推定在庫日数(59.1日)から若干ながら減少している。
7月11日に1,300万バレル台半ばの量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、7月18日は1,300万バレル台後半、7月25日には1,400万バレル台後半、8月1日は再び1,500万バレル台前半の量へと増加した。その後8月7日は1,400万バレル台後半の量、8月15日は1,400万バレル台前半度の量へと減少しているが、7月11日の水準は上回っている。アジア地域の製油所が春場のメンテナンス作業シーズンを終了するとともに稼働を上昇、石油製品生産活動が旺盛となってきていることが、当該在庫を押し上げている背景にあると思われる。このようにシンガポール市場での軽質留分在庫水準が切り上がっていることがガソリン価格を抑制する方向で作用しているものの、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来によるガソリン在庫の減少により、欧州方面から米国へのガソリン輸出が活発化するとともにアジア方面へのガソリンの流入が行われにくくなるとの観測が市場で発生したことに加え、日本でも夏休み到来に伴いガソリン需要期に突入しつつあったことが、当該製品価格を下支えしたことから、アジア市場でのガソリンとドバイ原油の価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は7月中旬から8月中旬まで概ね限られた範囲内で推移した。しかしながら、その後、インドのRelianceが操業するJamnagar輸出用製油所(原油精製処理能力日量58万バレル)のガソリン製造用流動式接触分解装置(同22万バレル)で8月14日に不具合が発生し稼働を停止した(操業再開までに2週間程度を要すると同社は明らかにしている)ことで、ガソリン輸出に関し不可抗力条項の適用が宣言されたとの情報が8月15日に流れたことがアジア市場でのガソリン価格に上方圧力を加えた結果、当該製品とドバイ原油との価格差は拡大している。
他方、ナフサについても、米国でのガソリン在庫の減少に伴い、欧州で米国輸出向けにガソリンに混入しているナフサの需要が増加するとともに、ナフサの価格が上昇、欧州方面からアジア市場へのナフサの流れが低下するとの観測が市場で発生したうえ、アジア市場の石油化学部門で原料としてナフサと競合している液化石油ガス(LPG)につき、冬場の暖房シーズンに伴う暖房向けLPG需要期到来が市場の視野に入りつつあることに加え、それまで米国から輸入を行っていた中国が、両国間での貿易戦争の影響で中東諸国からのLPG調達を活発化させたことによる混乱で、アジア市場でのLPG価格が上昇したことにより、石油化学産業においてLPGの代わりにナフサを調達しようとする動きが市場で発生した結果、ナフサ需要が持ち直したこと、米国の制裁再発動にもないアジア諸国等のイランからのコンデンセート(ナフサが主要な成分の一つとされる)の調達が減少することにより代替のナフサの需要が伸びるのではないかとの観測が市場で発生したことが、ナフサ価格に上方圧力を加えたことから、7月中旬時点ではドバイ原油価格を下回っていたナフサ価格は、7月中旬以降下回る度合いを縮小し、7月下旬にはドバイ原油価格を上回るようになった。それでも、原油価格の変動にナフサ価格のそれが追い付かなかったり、9月以降アジア地域での石油化学産業におけるナフサ分解装置のメンテナンス作用実施に伴うナフサ需要の低下が視野に入りつつあること、欧州でのナフサ在庫が増加し始めたことから、欧州方面からアジア市場にナフサが流入するのではないかとの観測が市場で発生したことが、ナフサ価格に下方圧力を加えたりしたこともあり、8月上旬以降はナフサと原油価格はドバイ原油のそれを上回ったり下回ったりするなどしている。
7月11日には900万バレル台後半の量であったシンガポールの中間留分在庫は、7月18日も900万バレル台後半の水準ながら若干増加したうえ、7月25日には1,100万バレル弱に量にまで拡大したが、8月1日に1,000万バレル弱、8月7日には900万バレル強、8月15日も900万バレル強の、それぞれ量へと減少している。アジア地域での製油所でメンテナンス作業が終了しつつあることに伴い稼働が上昇、中間留分の生産活発化とともに中国等からシンガポール市場へと輸出が旺盛になってきてたことに加え、インドで雨季(モンスーン)に入りつつあったこともあり、軽油需要が抑制された(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前に燃料として使用されていた軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天に伴い道路や建設工事の進捗が鈍化することにより、物流や製造業での軽油の利用が減速すること等による)ことから、同国からの軽油輸出が活発化したと見られることで、シンガポールでの在庫も7月下旬には増加したと見られる。しかしながら、シンガポールで在庫が増加した反面、欧米での留出油在庫が低水準であった(2017年8月下旬に米国メキシコ湾岸地域にハリケーン「ハービー」が来襲したことに伴う当該地域での製油所の稼働停止とその後の秋場の製油所メンテナンス、さらには北半球での厳冬に伴う旺盛な留出油需要の発生が一因となっているものと考えられる)ことにより、例えば欧州の軽油価格がアジア市場のそれに比べて相対的に強含んだことから、欧州方面に留出油が流出していることが、シンガポールの中間留分在庫の減少に影響しているものと考えられる。そして、アジア市場での軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は、原油価格が大幅に下落した7月中旬後半には製品価格の下落がそれに追いつかなかったことから一時拡大する場面も見られたものの、8月上旬にかけては原油価格が持ち直したことに加え、シンガポールでの中間留分在庫の増加に伴う需給緩和感から、価格差は縮小傾向を示した。しかしながら、それ以降は、シンガポールの中間留分在庫が減少傾向を示し始めたことに加え、中国の製油所が軽油輸出枠消化により輸出余力がなくなることから9月の輸出を低減させているとの情報が流れたこともあり、価格差は拡大してきている。
7月11日には1,700万バレル強の量であったシンガポールの重油在庫は、7月18日には1,900万バレル台半ば程度の量にまで増加したものの、7月25日には、1,600万バレル台前半、8月1日には1,400 万バレル台後半、さらに8月7日には1,400万バレル台前半の、それぞれ量へと減少した。8月15日には1,500万バレル台前半の水準へと回復しているが、それでも7月11日の水準は下回っている。中東地域に加え日本や韓国等のアジア諸国で夏場の冷房シーズン突入とともに発電所での重油需要が増加しているうえ、米国のイラン核合意離脱とイランに対する制裁の再発動による影響で、イランから重油を購入する動きが鈍化していること(企業によるイランの相手側当事者に対する物品や役務の供与、または融資もしくは信用の供与については、米国財務省外国資産管理局(OFAC:Office of Foreign Asset Control)による除外の承認がなされなければ、米国における金融取引や資産の凍結等制裁対象となる可能性があることを考慮した流れと見られる)等が、シンガポールでの重油在庫の減少を招いているものと考えられる。そして、シンガポールでの重油在庫が全般的には減少傾向になっていることに加え、原油価格の下落に重油価格のそれが追い付かなかった場面が見られたこと、船舶用重油に不純物が混入する例が発見されたことから船舶航行に問題のない重油の調達が活発化したこともあり、重油とドバイ原油との価格差(この場合重油価格はドバイ原油のそれを下回っている)は概ね縮小する傾向が見られる。
2.2018年7月中旬から8月中旬にかけての原油市場等の状況
2018年7月中旬から8月中旬にかけての原油市場においては、サウジアラビアの原油生産もしくは供給減少の情報、英領北海の油田従業員によるストライキ、イランのペルシャ湾での軍事演習等が原油相場に上方圧力を加えた反面、中国の経済減速、米国と中国やトルコとの関税賦課合戦、ロシア原油生産増加の情報、米国原油在庫の増加等が原油相場に下方圧力を加えた結果、7月中旬にはWTIで1バレル当たり68ドル程度であった原油相場は、8月中旬にかけ70ドル台へと回復する場面も見られたが、その後65ドル台へと下落している(図15参照)。
11月の中間選挙を前にして米国でのガソリン価格抑制に対する政治的圧力が高まっていることによりトランプ政権が500~3,000万バレル程度、もしくはそれ以上の戦略石油備蓄放出を検討している旨7月13日午後に報じられたことで、世界石油需給緩和感を7月16日の市場が意識したことに加え、7月16日に中国国家統計局から発表された2018年4~6月期の同国国内総生産(GDP)が前年同期比で6.7%の増加と前期(同年1~3月期)の同6.8%の増加から鈍化している旨判明したこと、サウジアラビアがアジアの一部顧客に対し契約数量以上に原油を販売している旨7月16日に明らかになったこと、米国のムニューシン財務長官が、イランの原油輸入国の当該輸入削減に関し、米国による制裁を免除する場合がありうる旨明らかにしたと7月16日に報じられたことで、イランからの原油供給減少による、世界石油需給引き締まり懸念が市場で後退したことから、この日(7月16日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.95ドル下落し、終値は68.06ドルとなった。7月17日には、翌18日に米国エネルギー省(EIA)から発表される予定である同国石油統計(7月13日の週分)で原油在庫が前週比で減少しているとの観測が市場で発生したことが原油相場に上方圧力を加えた反面、7月の最初の2週間でロシアの原油生産量がOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合で定めた減産目標を日量27.3万バレル超過した旨7月17日に報じられたことで、世界石油需給の緩和感を市場が意識したことが原油相場に下方圧力を加えたことから、この日(7月17日)の原油価格の終値は1バレル当たり68.08ドルと前日終値比で0.02ドルの上昇にとどまった。7月18日には、この日EIAから発表された同国石油統計でガソリン在庫が前週比で317万バレルの減少と市場の事前予想(同4~100万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことで、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.68ドル上昇し、終値は68.76ドルとなった。7月19日には、サウジアラビアのアーマ(Adeeb Al-Aama)OPEC理事が、サウジアラビアの8月の原油輸出が7月に比べ日量10万バレル減少(7月は前月比で変わらず)である旨明らかにしたうえで、サウジアラビアとその同盟国が石油市場を相当程度供給過剰にするのではないかとの市場の懸念には根拠がないとして否定する旨7月19日に発言したことで、当該石油需給緩和感が市場で後退したことに加え、7月19日に米国のトランプ大統領が米ドルが上昇することは米国にとって不利である旨示唆したことで米ドルが一時下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.46ドルと前日終値比で0.70ドル上昇した。7月20日には、サウジアラビアの8月の原油輸出が7月に比べ日量10万バレル減少したうえ、サウジアラビア等が石油市場を相当程度供給過剰にするのではないかとの市場の懸念は根拠がないと同国が否定したことで、当該石油需給緩和感が市場で後退した流れを引き継いだうえ、7月20日に米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で858基と前週比で5基減少(石油水平坑井掘削装置稼働数は805基と前週比7基減少)となっている旨判明したこと、7月20日に米国のトランプ大統領が金融当局の金利引き上げ方針が同国経済にとって好ましくない旨批判したことで米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.00ドル上昇し、終値は70.46ドルとなった。
ただ、7月21~22日に開催された20ヶ国財務相・中央銀行総裁会議で、貿易上の緊張と地政学的リスク要因により、短中期的には世界経済の下振れリスクが増大している旨の声明が発表されたことで、世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が7月23日の市場で増大したことに加え、クッシングの原油在庫が7月20日までの4日間で増加した旨米国石油情報サービス会社Genscapeが明らかにしたと7月23日に報じられたことで、NYMEX原油先物契約の受け渡し地点での石油需給緩和感を市場が意識したことから、7月23日の原油価格の終値は1バレル当たり67.89ドルと前週末終値比で2.57ドル下落した。7月24日には、7月25日にEIAから発表される予定である同国石油統計(7月20日の週分)で原油在庫が前週比で減少しているとの観測が市場で発生したことで、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.63ドル上昇し、終値は68.52ドルとなった。果たして7月25日には、この日EIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で615万バレルの減少と市場の事前予想(同230~260万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことで、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.30ドルと前日終値比で0.78ドル上昇した。また、7月25日午後遅くに米国のトランプ大統領と欧州連合(EU)のユンケル委員長が会談後、自動車を除く工業製品の関税、非関税障壁及び補助金の撤廃を含め両地域間での貿易促進策について取り組んでいく旨両者が発表したことで、両地域での経済減速及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が7月26日の市場で後退したことに加え、7月26日未明にサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、サウジアラビアの原油タンカー2隻がバブ・エル・マンデブ海峡沖でイエメンのフーシ派武装勢力から攻撃を受けた結果、うち1隻に軽微な被害が発生したことにより、紅海経由での全ての石油出荷を停止した旨発表したことで、世界の原油等の海上輸送に支障が発生するのではないかとの懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.31ドル上昇し、終値は69.61ドルとなった。7月27日には、この日Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で861基と前週比で3基増加(石油水平坑井掘削装置稼働数は802基と前週比3基減少)となっている旨判明したことに加え、7月26日夕方に発表された米国大手半導体製造会社インテル及び7月27日朝に発表された米国短文投稿システム会社ツイッターの2018年4~6月期業績発表に際し、両社の将来業績に対する懸念が市場で増大したことをきっかけとして、7月27日の米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.69ドルと前日終値比で0.92ドル下落した。
7月30日には、8月1日にEIAから発表される予定である同国石油統計(7月27日の週分)で原油在庫が前週比で減少しているとの観測が市場で発生したことに加え、英領北海のAlwyn、Elgin、及びDunbar油田(オペレータ:Total、原油生産量合計日量7万バレル程度)において、労働者が労働条件の改定計画に反対し、7月30日正午(現地時間)から12時間のストライキに突入した他、今後も複数回のストライキ実施を予定していることで、英国での原油生産量の減少に対する懸念が市場で発生したこと、米国をはじめとする各国・地域の中央銀行の政策決定会議をこの週に控え、持ち高調整が発生したことにより、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.44ドル上昇し、終値は70.13ドルとなった。ただ、7月30日午後に米国のトランプ大統領がイランのロウハニ大統領に対し、イラン側が希望するのであれば、米国は無条件で会談する用意がある旨示唆したことで、米国とイランとの対立に対する市場の懸念が後退したことに加え、7月31日にイエメンのフーシ派武装勢力が、和平への努力を支持するため、紅海での攻撃を2週間停止する用意がある旨表明したことで、バブ・エル・マンデブ海峡を巡る石油輸送への支障に対する懸念が市場で低下したこと、米国及び中国が貿易戦争の拡大を回避すべく協議を再開することを模索している旨7月31日に報じられたことで、米国経済減速に対する市場の不安感が緩和したことに加え、7月31日に米国非営利民間調査機関コンファレンスボードから発表された7月の同国消費者信頼感指数(1985年=100)が127.4と市場の事前予想(126.0)を上回ったことで、米ドルが上昇したことにより、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.76ドルと前日終値比で1.37ドル下落した。また、7月のロシアの原油生産量が日量153万トン(推定日量1,122万バレル)となり減産目標を日量26.9万バレル超過した旨7月31日午後に報じられたことから、足元の石油需給緩和感を8月1日の市場が意識したことに加え、米国のトランプ大統領が2,000億ドル相当の中国からの輸入品に対して賦課する予定の関税(7月10日に米国商務省が発表していた)の率を10%から25%へと引き上げることを検討している旨7月31日午後遅くに報じられたことで、米国及び中国間での貿易戦争激化による両国等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が8月1日の市場で増大したこと、8月1日にEIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で380万バレルの増加と市場の事前予想(同240~300万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことから、8月1日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.10ドル下落し、終値は67.66ドルとなった。この結果原油価格は7月31日~8月1日の2日間で併せて1バレル当たり2.47ドル下落した。しかしながら、イランがペルシャ湾で大規模軍事演習を実施する旨8月1日午後に報じられたことで、ホルムズ海峡封鎖に伴う石油供給途絶の可能性に対する市場の懸念が増大したことに加え、クッシングの原油在庫が7月27日以降110万バレル減少した旨Genscapeが明らかにしたと8月2日に伝えられたことから、NYMEX原油先物契約受渡地点での石油需給の引き締まり感を市場が意識したことにより、8月2日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.30ドル上昇し、終値は68.96ドルとなった。8月3日には、中国が600億ドル相当の米国製品に対し5~25%の輸入関税を賦課する方針である旨同日同国国務院が発表したことから、米国と中国間での貿易戦争の激化に伴う両国等の経済減速と石油需要の鈍化に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.49ドルと前日終値比で0.47ドル下落した。
また、サウジアラビアの7月の原油生産量が日量1,029万バレルであった旨関係筋が明らかにしたと8月3日に報じられ、それが6月の同1,049万バレルから減産となっている旨示唆されたことから、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識した流れを8月6日の市場が引き継いだことに加え、英領北海のAlwyn、Elgin、及びDunbar油田において、8月6日に24時間のストライキに突入したことで、英国での原油生産量の減少に対する懸念が市場で発生したことから、この日(8月6日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.52ドル上昇し、終値は69.01ドルとなった。8月7日も、この日米国が対イラン制裁の一部を再発動したことから、11月5日に予定されるイラン産原油に対する制裁再発動に対する市場の懸念が増大したことに加え、8月8日にEIAから発表される予定である同国石油統計(8月3日の週分)で原油在庫が前週比で減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.17ドルと前日終値比で0.16ドル上昇した。この結果原油価格は8月6~7日の2日間で併せて1バレル当たり0.68ドルの上昇となった。ただ、8月8日には、この日中国税関総署から発表された7月の中国原油輸入量が3,602万トン(推定日量851万バレル)と2018年初来3番目の低水準となっている旨判明したことで、同国の石油需要の伸びの鈍化に関する不安感が市場で発生したうえ、8月7日夕方に米国が160億ドル相当の中国製品に対する25%の関税賦課を8月23日より実施する旨発表したことに対し、8月8日に中国商務省が160億ドル相当の米国からの輸入品に対して25%の関税賦課を8月23日に実施する旨発表したことで、米国及び中国間での貿易戦争の激化により、両国等の経済減速と石油需要伸びの鈍化に対する市場の懸念が増大したこと、8月8日にEIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で135万バレルの減少と市場の事前予想(同300~370万バレル程度の減少)ほど減少していなかった旨判明した他、ガソリン在庫が同290万バレルの増加と市場の事前予想(同170~190万バレル程度の減少)に反して増加している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.94ドルと前日終値比で2.23ドル下落した。8月9日も、米国及び中国間での貿易戦争の激化により両国等の経済減速と石油需要伸びの鈍化に対する市場の懸念が増大した流れを引き継いだことで、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.13ドル下落し終値は66.81ドルとなった。この結果原油価格は8月8~9日の2日間で併せて1バレル当たり2.36ドル下落した。しかしながら、8月10日には、この日国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートで、IEAが2018~19年の世界石油需要を上方修正したうえ、現在の落ち着いた石油市場は長続きせず、米国の対イラン石油制裁が発動されれば世界の石油供給維持のために余剰生産能力が低下する結果、石油市場は今日ほど安定しなくなる可能性がある旨警告したことで、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.82ドル上昇し、終値は67.63ドルとなった。
8月13日には、クッシングの原油在庫が8月10日までの1週間で170万バレル増加した旨Genscapeが明らかにしたと8月13日に伝えられたことに加え、8月13日にOPEC事務局から発表された月刊オイル・マーケット・レポートでOPEC加盟15ヶ国の7月の原油生産量が前月比で日量4.1万バレル増加し同3,232万バレルとなった他、2019年の対OPEC原油需要量が日量3,205万バレルと前月比で同13万バレル減少している旨判明したこと、8月13日にEIAから発表された「掘削生産性報告」(Drilling Productivity Report)で、同国主要7シェール地域の9月の原油生産量が前月比で日量9.3万バレル増加する見通しである旨明らかになったこと、8月10日に米国がトルコに対し鉄鋼とアルミニウムの輸入関税を2倍に引き上げ、それぞれ50%、20%としたこともあり、トルコリラが急落したことに伴い、トルコと金融面での関係の深い欧州諸国の金融機関等の業績に対する懸念が市場で増大したこともありユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.20ドルと前週末終値比で0.43ドル下落した。また、8月14日も、トルコ経済に対する懸念からユーロが下落した反面米ドルが上昇した流れを引き継いだことで、この日の原油価格も前日終値比で1バレル当たり0.16ドル下落し、終値は67.04ドルとなった。8月15日も、この日EIAから発表された同国石油統計(8月10日の週分)で原油在庫が前週比で681万バレルの増加と2017年3月3日の週(この時は同821万バレルの増加)以来の大幅増加となっていた他、市場の事前予想(前週比170~250万バレル程度の減少)に反し増加していた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.01ドルと前日終値比で2.03ドル下落した。この結果原油価格は8月13~15日の3日間で併せて1バレル当たり2.62ドルの下落となった。ただ、8月16日には、前日までの原油価格下落に対し値頃感から原油先物契約を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、中国商務省の王受文次官が8月下旬に米国からの招請により同国を訪問し、マルパス米国財務省次官と貿易関係に関し事務レベル協議を行う旨中国商務省が8月16日に発表したことで、米国と中国との間での貿易戦争が沈静化し経済が成長することにより石油需要が増加することに対する期待感が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.46ドルと前日終値比で0.45ドル上昇した。8月17日も、これまで米ドルが上昇したことに対する利益確定の動きが市場で発生したうえ、8月17日に発表された8月のミシガン大学消費者信頼感指数(1966年=100)(速報値)が95.3と前月の97.9から低下、2017年9月(この時は95.1)以来の低水準となった他、市場の事前予想(98.0)を下回ったことに加え、米国及び中国間での貿易戦争による対立打開のため、11月に米国のトランプ大統領と中国の習近平主席との間で会談を実施する方向で作業手順を取りまとめるべく努力している旨、8月17日に報じられたことから、世界経済減速に対する市場の懸念が後退するとともに、投資家のリスク許容度が回復したことにより、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.45ドル上昇し、終値は65.91ドルとなった。この結果原油価格は8月16~17日の2日間で併せて1バレル当たり0.90ドル上昇している。
3.今後の見通し等
イエメンでは、7月25日に、フーシ派武装勢力がバブ・エル・マンデブ海峡でサウジアラビアのタンカーに対し攻撃を行った結果、タンカーが軽微な被害を受けたと報じられる(前述)。また、7月26日未明にはサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が紅海経由での石油の全ての出荷を安全上の理由で見合わせている旨表明している。ただ、7月31日に、フーシ派武装勢力は和平努力を支持するため紅海での攻撃を2週間停止する旨発表した。また、船舶の保安措置を講じたことにより、タンカーによる出荷を再開する旨8月4日にサウジアラビアは明らかにしている。他方、7月18日には、フーシ派武装勢力がサウジアラビアのリヤドにあるサウジアラムコの製油所に対しドローンで攻撃を実施したとフーシ派武装勢力系メディアが明らかにした。サウジアラムコ側は、フーシ派武装勢力が発表するよりも前の同日夕方早くに製油所(原油精製処理能力日量12.8万バレル)の貯蔵タンクで小規模火災が発生した(操業上の事故としている)が鎮圧している旨明らかにしている。他方、8月2日夜にイエメン西部ホテイダ(フーシ派武装勢力が支配している地域)の病院に対し空爆が実施された結果、少なくとも28人が死亡した旨同日報じられる(サウジアラビア側は当該空爆の実施を否定している)。また、8月8日には、フーシ派武装勢力がサウジアラビア南部のジザンに弾道ミサイルを発射した結果、サウジアラビアの市民1名が死亡したが、その報復措置として8月9日にはサウジアラビアを主導とする連合軍がイエメン北部サアダ州で空爆を実施した結果51人が死亡した。
イラクでは、7月8日に同国南部バスラ油田地帯のイマーム・サディク地区(West Qurna1及び2油田の近隣)で、雇用問題(油田操業に従事する労働者の多くが非イラク人であること)に加え、電力及び水道等の基本サービスの不足に抗議するデモ活動が発生したが、警察がデモ活動を行う集団を解散させるべく発砲、1名が死亡したと伝えられる。なお、本事件は油田の操業には影響がないとされる。その後もデモ行動は拡大し、バスラ地域の各所で実施されている(タイヤを燃やしたり道路を封鎖したりしている)と伝えられる(これについてもデモ活動実施場所近隣のWest Qurna 1及び2油田、そしてRumaila油田の操業には影響を与えていないと伝えられるが、デモ隊はWest Qurna 2油田関連施設に突入しようとした、とルアイビ石油相は7月12日に発言している)。アバディ首相は7月13日にバスラに向かったが、デモ活動は以降も継続し、7月15日までに3名が死亡したとされる。
イランに関しては、フランスの米国に対する制裁免除の要請に対し、米国のムニューシン財務長官は当該要請を承認しない旨示唆したと、フランスのルメール経済・財務相が明らかにした旨7月13日に伝えられる。7月16日にはEU外相理事会が開催され、EU企業に対し米国の制裁に従わないように命令する措置を実施する旨承認した。他方、ムニューシン財務長官はイラン産原油の輸入削減に時間を要する国に対しては米国による制裁を免除する場合がありうる旨表明したと7月16日に報じられる。また、7月16日にはイランのザリフ外相が、同国が国際司法裁判所に米国のイラン核合意離脱と制裁再発動につき提訴した旨表明した。7月21日には、イランの最高指導者ハメネイ師が、7月2日に行われたロウハニ大統領の発言で、原油輸出が全面的に停止した場合には、ホルムズ海峡を封鎖する可能性がある旨示唆したことに対し、それを支持する旨表明した。また、7月22日には、ロウハニ大統領は、米国がイラン原油輸出を全面的に停止させれば、ホルムズ海峡を封鎖することもありうる旨改めて示唆した(但し和解の可能性に関し含みを残す格好となっている)。他方、7月22日に、米国のポンペオ国務長官は、イランに対し最大限の圧力を加える必要がある旨主張した他、同日夜遅くに、トランプ大統領も、イランに対し、米国を脅迫すれば歴史上殆ど類を見ないような悪い結果を招く旨警告している。これに対し7月23日に、イラン外務省はポンペオ氏の発言は内政干渉であるとして非難している。また、インド石油会社HPCLは、イランからの原油輸入に対する保険の付保が不可能となったことを理由として、当該原油輸入を7月に入って停止したと7月27日に伝えられる。他方、米国のトランプ政権は対イラン包囲網を構築すべく、ペルシャ湾岸諸国、エジプト、ヨルダンといったアラブ諸国との間での同盟関係(仮称「中東戦略同盟」(MESA:Middle East Strategic Alliance))の確立を検討していると7月27日に報じられる。ただ、米国のマティス国防長官は、米国はイランの体制移行を希望しているわけではない旨7月27日に明らかにしている。7月30日には、トランプ大統領が、イランのロウハニ大統領が会談を希望するのであれば、米国は前提条件を設けずに必ず応ずる用意がある旨示唆した。しかし、同日イラン外務省は核合意から離脱した米国は信頼できず、またイラン大統領顧問であるアブタレビ氏も、米国に核合意に戻るよう示唆したと7月31日に伝えられる。また、8月2日にはイランがホルムズ海峡付近での大規模軍事演習を開始したと同日米国国防当局関係者による情報として報じられる(8月5日には、イラン革命防衛隊が軍事演習実施を認めており、8月2日には短距離対艦ミサイルの発射試験を実施したと8月10日に米国政府高官が明らかにしている)。8月3日には、中国が米国によるイラン産原油輸入停止要請を拒否する(しかしイラン産原油輸入を増加させない旨米国と合意した)旨報じられる。このような中、8月4日には、米国のトランプ大統領が、イランのロウハニ大統領に対し改めて会談実施の提案を行ったが、8月6日には、ロウハニ大統領が、会談を実施する前に制裁の実施を撤回するべきだとして、トランプ氏の提案を拒否した。そして、トランプ大統領は8月6日にイラン制裁再発動に関する大統領令に署名、8月7日(米国東部時間)に、米国の対イラン制裁の一部が再発動し、貴金属、自動車産業、及びイラン製絨毯等に関する取引に対し制限が開始された。また、8月13日には、ハメネイ師が、米国とは戦争しなければ、交渉もしない旨明らかにしている。
リビアでは、7月14日午前6時30分に同国最大の油田であるとされるSharara油田に不明の集団が侵入し、2名が連れ去られたことにより、防護措置として同油田の原油生産量(通常日量30万バレル程度とされる)が同16万バレル程度減少した旨NOCが明らかにしている。さらに、7月17日には、当該油田の原油生産量が日量12.5万バレル程度にまで減少したことから、当該原油を出荷するZawiya石油ターミナル(原油出荷能力日量23万バレル)での出荷に関し同日NOCは不可抗力条項の適用を宣言した(後述)。
ベネズエラ政府は、自国通貨を10万分の1にするデノミを8月20日に実施する旨7月25日に発表した。他方、8月4日のマドゥロ大統領演説中に、爆薬を搭載したドローンが爆発した(マドゥロ大統領に影響はなかった)。同国政府は大統領暗殺未遂事件として捜査を実施、6人の容疑者を拘束した旨8月5日にレベロル内務・法務相が発表した他、8月8日には同国の最高裁判所が反体制派で現在コロンビアに滞在しているボルヘス前国会議長を逮捕するよう命じている。
地政学的リスク要因面では、まず市場ではイラン情勢が注目されるであろう。米国での原油生産の増加上振れが短期的には困難である中、イランの原油生産が減少すれば、その穴埋めは他のOPEC産油国及びロシアによりなされなければならず、従ってその分だけ、OPEC(及びロシアの)余剰原油生産能力が減少することになるため、このような世界石油供給体制の余裕の低下に対し市場の懸念は既に高まっているものと見られ、この結果、原油相場は下支えされているものと考えられる。ただ、それでも原油価格に上方圧力を加え続けることにより継続的に相場を上昇させるに至るまでには、なお多少なりとも時間を要するもしれない。背景としては、米国によるイラン制裁再発動に向け、韓国のようにイラン産原油輸入を削減する動きを見せている(2018年7月の同国のイランからの原油輸入量は日量19万バレルと前年同月比で44%減少している)国もあるものの、中国は米国の要求に対し、イランからの原油輸入を増加させるわけではないものの、削減もしない方針であると8月3日に伝えられる。また、例えば2018年6月のインドのイランからの原油輸入は日量69万バレルと前年同期比で48%増加、日本も2018年6月はイランから日量15万バレル程度の原油を輸入したが、これは前年同月比で10%の増加となるなど、5月8日の米国の対イラン制裁再発動の方針発表以降180日間の猶予期間(従って11月4日が期限)を控え、かえって原油輸入を活発化させていると見受けられる国も見られるなど、現時点ではイラン産原油の受け入れが明確に減少方向に向かっているとは言い難く、それを反映しイランでの原油生産量も米国による対イラン制裁再発動前の2018年4月の日量382万バレルから2018年7月の同375万バレルへと日量7万バレルの減少にとどまるなど、イランからの原油供給が世界石油市場から顕著に排除されている格好とはなっていない。そして、6月22日に開催されたOPEC総会、及び6月23日に開催されたOPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚級会合での事実上の増産方針決定による、一部産油国の増産観測と相俟って、短期的には石油需給の相対的な緩和感が市場で醸成されていることが、原油相場の上昇を抑制している格好となっている。今後もOPEC月報等でイランでの原油生産もしくは出荷が相当程度減少しているとの情報が明らかになる等するまでは、石油需給の引き締まり感が市場で強まらず、従って原油相場が上振れしない可能性がある。ただ、そうは言っても、11月4日以降イランからの原油供給はかなりな確率で削減される方向であることから、将来的な石油需給引き締まり観測は根強く市場に存在することにより、原油相場が下支えされる結果、下落が継続するといった展開もまた発生しにくいものと考えられる。
また、現在は停止されているとされる、イエメンにおけるフーシ派武装勢力によるバブ・エル・マンデブ海峡でのサウジアラビアのタンカー攻撃が再開されたり、サウジアラビアの製油所等石油生産・出荷関連施設への攻撃が頻繁に実施されたりするようだと、サウジアラビアからの原油輸出もしくは余剰生産能力の利用可能性につき市場での懸念が高まることにより、原油相場に影響が及ぶといったことが起こりうる。
ベネズエラについては、2017年第四四半期に見られた前月比で日量10万バレル程度の減少に比べれば、現在減少幅は小幅なものにとどまっているが、それでも2018年7月は前月比で日量4万バレルの減少となるなど、依然減少し続けており、同国の情勢は悪化しこそすれ、直ちに好転する可能性は高くないこともあり、少なくとも同国の原油生産減産傾向は当面は継続する他、同国情勢がさらに悪化すれば(そしてその可能性もそれなりにあるものと考えられる)同国の原油生産減少ペースが加速する結果、イランとともに石油需給の引き締まり感の増大や世界石油供給の余裕の低下に対する懸念が市場で高まることを通じ、原油相場が上振れする場面が見られることもありうる。
リビアについては、Sharara油田の原油生産量が回復しつつあることに伴い同国の原油生産量も日量100万バレル超にまで増加していると8月14日に伝えられるが、同国では最近でも不安定な政治情勢が石油生産及び出荷関連施設の操業に影響を及ぼす場面がしばしば見られていることもあり、原油生産が安定な状況に入ったかどうか判断するにはなお時期尚早であるものと思われる。加えて、油田から原油出荷ターミナルまで原油を輸送するパイプラインの破損事故が度々発生するナイジェリアでも、原油生産が不安定になる可能性がある。このようなことから、これら諸国の状況等についてもこの先留意する必要があろう。
経済面では、米国、欧州、そして中国経済指標類が市場から注目を集める場面が見られる可能性がある。最近中国では市場の事前予想を下回ったり前期比で経済が減速していることを示唆したりするような指標類の発表が目立つようになってきているように見受けられており、今後もこのような指標類の発表が継続するようだと、同国経済及び石油需要に関する懸念が市場で発生することを通じ、原油相場にそれが織り込まれる可能性があるので、注意する必要があろう。また、米国と中国をはじめとする諸国との間の貿易戦争も原油相場に影響を与えるものと考えられる。8月16日には中国商務省の王受文次官が米国の招請により8月下旬(8月22~23日に実施される旨8月16日に報じられる)に米国を訪問し、マルパス財務省次官と貿易問題に関し協議を行う予定であるが、現時点では事務レベルでの協議ということもあり、米国と中国との貿易関係が直ちに改善に向かうとは考えにくいことから、両国の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が相当程度後退するまでにはなお時間を要するとともに、その過程が紆余曲折を経る場合もありうることから、今後も協議の成り行きによっては、米国及び中国の経済、そして石油需要への影響に関する不安感が市場で強まることを通じ、原油価格に影響を及ぼす可能性は残っているものと考えられる。加えて、貿易戦争は米国及び中国との間のみならず、最近では米国とトルコとの間でも発生しており(元を辿れば、2016年7月15日に発生したエルドアン政権に対するクーデーター未遂事件に際し、反体制派を支援したとしてトルコ治安当局に拘束されている米国人のブランソン牧師の解放を要求している米国と、トルコとの間で対立が高まっていることが背景にある)、トルコリラが大幅に下落するとともに、トルコと金融面での関係が緊密な欧州の金融市場への不安からユーロが下落する反面米ドルが上昇しやすい状況となっている。8月15日にはトルコ政府が自動車等の米国からの輸入に関して関税を課する旨発表した他、8月16日現在トルコはブランソン牧師を解放しておらず、また、トルコはカタール首長から150億ドルの資金供給支援を受けることで合意した一方で、8月15日には米国政府がトルコに対して追加制裁の実施を検討していると伝えられているなど、両国関係は複雑化しつつある。このようなことから、トルコリラ(及びユーロ)が下落、それが他の発展途上国通貨へと波及、金融市場が混乱するとともに、市場参加者のリスク回避等の動きが発生する結果、この面で当面原油相場に下方圧力が加わるといった場面が見られることもありうる。また、8月23~25日には、米国ワイオミング州のジャクソンホールでカンザスシティー連邦準備銀行主催の経済シンポジウムが開催される予定であるが、当該シンポジウムにおけるパウエル米国連邦準備制度理事会(FRB)議長他金融当局関係者の発言等によっては、米国での金利政策や欧州での金融政策に関する観測等を市場で発生させる結果、米ドルや株式相場が変動すること等を通じ、原油価格にその影響が織り込まれる場面が見られる可能性もある。
米国では、9月1~3日の労働祭(レイバーデー)の休日(9月3日)に伴う連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期は終了する。そしてそれ以降の秋場の石油不需要期とメンテナンス作業の実施を視野に入れつつ、製油所は稼働を低下、原油精製処理量を減少させるとともに、原油購入を不活発にしてくる。このようなことから、これからの時期は季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなる。このため、夏場のドライブシーズン最後の行楽時期である連休直前を中心として、ガソリン需要が一時的に盛り上がることで原油相場が浮揚する場合もありうるが、全体としては、この面では原油相場に下方圧力を加えやすくなるものと考えられる。
大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入しており(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)、特に8月後半以降10月前半迄は1年で最もハリケーン等が発生しやすい時期となる。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設(当該地域では2017年は日量175万バレルの原油を生産した)や原油等を積載したタンカーの航行に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入港湾施設や製油所の活動に支障が発生したり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じ操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業が停止すること等により米国の原油輸入に影響を与えたりする(2017年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した)。7月31日に発表されたコロラド州立大学の発表(改訂版)によると、2018年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりもやや不活発な暴風雨の発生予想へと下方修正されている(表1参照)。それでも、そのような予想に反し当該地域で暴風雨が活発に発生し、それが米国メキシコ湾沖合の油田地帯、もしくはメキシコ湾岸の石油関連インフラ等の操業を脅かす結果、原油価格に影響が及ばないとも限らないので、今後もハリケーンシーズン全体の暴風雨等発生見通しの更新に加え、ハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等には注意する必要があろう。
全体としては、現在のところイランやベネズエラの原油生産量は減少してはいるものの、その幅はかなり限定的なものにとどまっている。加えて、米国及び中国等の貿易戦争などにより、石油需要に対する懸念が市場で漂っている他、夏場のガソリン需要期も残りわずかとなりつつある。このように足元での石油需給緩和感を示唆する要因がそれなりに発生していることが石油市場関係者の活発な原油購入を継続させにくくしている。このような流れは今しばらく続く可能性があることを考慮すると、原油相場は短期的には上昇しにくく、要因次第では下落する場面が見られるといった展開も考えられよう。但し、少し先を見据えれば、イラン等の原油供給の相当程度の減少と石油需給引き締まりに対する観測は市場で根強く存在しているので、原油価格がいつまでも下落し続けるという可能性はそれほど高くなく、下落していてもある時点で下げ止まる確率の方が高いものと見られるとともに、イランからの原油供給の大幅低下を示す統計類、ないしは石油消費国によるイラン産原油輸入の大幅低下、もしくはタンカーデータに基づくイラン産原油の流通量の相当程度の減少を示唆する情報が出てくれば、石油供給の引き締まり感が市場で広がる結果、原油相場が持ち直すものと考えられる。
4.世界天然ガス市場動向
米国では、夏場の気温が軒並み平年を超過している(図16参照)こともあり、2018年は前年同期比で冷房需要が増加している。このため、空調のための発電向け天然ガス需要が旺盛となり、同国の天然ガス需要の伸びを牽引する格好となっている(図17参照)。ただ、7月後半以降は気温が概ね平年並み水準に接近しつつあることもあり、発電部門での天然ガス需要の伸びも抑制されつつあるように見受けられる。また、米国からの天然ガスパイプラインが整備されつつあるメキシコに向けパイプラインを経由した天然ガス輸出が高止まっている(図18参照)。さらに、米国ではSabine Pass(テキサス州、液化能力年産1,800万トン)の天然ガス液化装置が稼働中であることに加えCove Point(メリーランド州、同525万トン)での液化装置の操業が開始された(2018年4月16日に商業ベースでのLNG積載タンカーの第一船が出航したと伝えられる)こともあり、米国からのLNG輸出量は増加している(図19参照)。このようなことから、米国の天然ガスは、国内で消費されたり、もしくは国外に輸出されたりするなど、総じて需要は堅調である。他方、最近では米国の天然ガス坑井掘削装置稼働数は伸び悩んでいるように見受けられる(図20参照)。しかしながら、米国では、掘削装置1基当たりの生産量が増加傾向を示す(図21参照)など、限られた資機材で天然ガス生産を伸ばす工夫がなされつつあることが示唆される。このようなこともあり、米国の天然ガス生産は増加傾向を示している他、2019年に向けても増加していくと見られている(図22参照)。ただ、例年概ね4~10月は米国では暖房向け需要がなくなることから天然ガス貯蔵量が増加基調となるものの、米国内外の需要が根強いことから、供給が需要を上回る度合いはそれほど強いものではなく、かなりの時期において同国の天然ガス貯蔵量の増加幅が過去5年平均のそれを下回るなど低調であった結果、例えば3月30日時点では同国の天然ガス貯蔵量は過去5年平均を20%程度下回っていた(米国では2017~18年が厳冬であったことから、暖房用の天然ガス需要が旺盛であったことに加え、パイプラインやLNGによる天然ガス輸出も堅調であったことが影響している)ものが、8月10日時点の同国天然ガス貯蔵量についても過去5年平均を20%程度下回るなど、過去5年平均を下回る度合いは殆ど縮小していない(図23参照)。また、2018年10月末(同国での天然ガス在庫充填期間の終了と見られる時期)においては、天然ガス貯蔵量は3.3兆立方フィートと2005年10月末(この時点は3.2兆立方フィート)以来の低水準の状態で冬場の暖房需要期に突入すると現時点では市場で見られている。このため、2018~19年の米国が厳冬になるとの予報が発表されたり、秋場に気温が平年を下回る程度に程度にまで低下したりするようだと、冬場に天然ガス貯蔵量が大幅に減少するのではないかとの観測が市場で発生する結果需給の引き締まり感が強まるとともに、天然ガス価格に上方圧力が加わる可能性があるといったリスクを内包している。それでも、現在のところ、米国の天然ガス生産が堅調に増加していくとの観測が市場で根強いことに加え、太平洋でのエル・ニーニョ現象が秋以降に発生する確率が高まっている旨の指摘(2018年8月6日に米国海洋大気庁(NOAA)気象予報センターが発表している)から、この冬が暖冬となる結果暖房向け天然ガス需要の伸びが鈍化するのではないかとの観測が市場で発生していること等が、同国の天然ガス価格を抑制しており、5月中旬から8月中旬にかけ、天然ガス価格は100万Btu当たり概ね2.7~3.0ドルの範囲の中にとどまりつつ、気温に関する予報に伴う発電向け天然ガス需要観測等を要因として、変動する格好となっている(図24参照)。
他方、欧州大陸市場においては、原油価格の変動が、依然色濃く残っている石油製品連動型天然ガス価格に影響を与えているが、それが英国市場の天然ガス価格にも反映されている(英国市場は天然ガス需給バランスが天然ガス価格を決定する方式が主流であるが、欧州大陸とはパイプラインで結ばれていることから、間接的には欧州大陸の天然ガス需給や価格の影響を受けることになる)、そのような中で、欧州地域のLNG受入状況(欧州に比べて原油価格との連動がより緊密な結果アジア諸国におけるLNG購入価格が欧州での天然ガス価格に比べて相対的に高水準であることにより、LNGがアジア市場に向かいやすくなっていることから、欧州地域へのLNG流入が抑制されており、これが英国を含む欧州市場での天然ガス価格に影響を及ぼす場面が見られる)、気温、もしくは気温に関する予報、風力発電状況、もしくは風力発電量に関する予測(英国では、総発電量に占める石炭火力発電の割合が低下する反面、風力発電の割合が増加してきている(図25参照)ため、風力発電量が増加したり、もしくは増加するとの予報が明らかになったりするようだと、天然ガス火力発電向けの天然ガス需要が低下するとの観測が市場で発生する結果、天然ガス価格に下方圧力を加える一方で、風力発電量が減少したり、もしくは減少するとの予報が明らかになったりするようだと、発電向け天然ガス需要が増加するとの観測が市場で発生する結果、天然ガス価格に上方圧力を加える)等の要因が天然ガス価格に影響を与えているが、総じて穏やかな気候が天然ガス需要を抑制している他、ロシアからのパイプライン経由での天然ガス輸入が堅調に行われていると言われており、結果として欧州地域での天然ガス貯蔵量は2018年4月1日時点では前年同期比で33%程度減少していたが、比較的順調に増加した結果、8月16日時点では同4%程度の減少へと減少幅が大幅に縮小してきている(図26参照)などしていることで、市場での天然ガス需給の引き締まり感が相対的に後退してきていることが、英国の天然ガス価格の上昇を抑制する方向で作用している。このため、英国での天然ガス価格は5月中旬から8月中旬にかけ100万Btu当たり概ね推定6.8~8.0ドル程度の範囲で推移していた。それでも、8月中旬に入ってからは、ノルウェー等での天然ガス供給関連施設におけるメンテナンス作業の実施が接近しつつあることや、英領・ノルウェー領北海石油・ガス生産関連施設における労働者によるストライキ等の要因により、天然ガス価格が100Btu当たり推定8ドルを突破するなどの場面も見られている。
アジア地域においては、夏場の気温上昇(図27参照、5月25日には気象庁が6~8月は全国的に気温が高くなる旨の予報を発表していた)による空調稼働のための発電用天然ガスの調達が中国、韓国、台湾、日本及びポートフォリオLNG取扱者により活発化したうえ、原油価格が上昇傾向となったこと、マレーシアLNG(LNG生産能力年産2,400万トン)での出荷が急減したと旨6月5日に報じられたこと(その後正常操業に向け徐々に出荷を回復している旨6月15日に伝えられる)等もあり、5月中旬には100万Btu当たり8ドル台半ば程度であった当該地域のLNGスポット価格は上昇傾向となり、6月中旬には同11ドル台半ば程度に到達した。しかしながら、その後夏場の発電向け需要のためのLNG購入が一巡した(図28参照)他、原油価格が下落傾向となったことから、7月中旬から下旬にかけてLNGスポット価格は同9ドル台後半へと落ち着いた。ただ、日本を含めアジア地域では熱波が続いており、空調向け発電用天然ガス需要が根強いことから、冬場の暖房需要期も視野に入れつつ減少する在庫の充填のためのLNG調達が発生していることもあり、8月に入ってからは同10ドル台前半から後半程度へと反発する場面も見られている。
以上
(この報告は2018年8月20日時点のものです)