ページ番号1007594 更新日 平成30年8月27日
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概要
- 2018年6月7日に実施された第4次PS入札ラウンドでは、プレソルトエリアの4鉱区を対象に入札が行われ、メジャーズやEquinor等が3鉱区を落札した。これまでプレソルトエリアに鉱区を保有していなかったChevronが同エリアに初参入を果たし、ExxonMobilは今回の鉱区取得でブラジルの25鉱区に権益を保有することになった。Petrobrasは落札された3鉱区全てでオペレーターを務める。
- 9月28日にはプレソルトエリアの4鉱区を対象に第5次PS入札ラウンドが実施される。その後は、2019年5月に第16次ライセンスラウンドと第6次PS入札ラウンド、2020年に第17次ライセンスラウンド、2021年に第18次ライセンスラウンドが実施される予定である。返還されたり、過去の入札で落札されなかったりした鉱区を対象とする入札も新たに実施される。
- Petrobrasの石油生産量は、メンテナンスと油田権益売却により、2018年に入り減少傾向にある。しかし、同社は4月にSantos BasinプレソルトのBuzios油田の最初のFPSO P-74、6月にCampos Basin、Tartaruga Verde油田のFPSO Cidade de Campos dos Goytacazesの生産を開始、この2基を併せて2018年中に6基のFPSOの生産を開始する計画だ。ExxonMobilは2017年以降、プレソルト等で油田発見を狙える有望鉱区を相次いで取得しており、2018年下半期にはこれらの鉱区で地震探鉱を実施、2019年に複数の探鉱井を掘削する計画だ。Equinorは、Roncador油田やCarcará油田等生産増に結び付く権益の取得を図っている。BG買収によりPetrobrasに次ぐブラジル第2位の石油生産企業となったShellは、2019年に掘削を実施すべく、準備を進めている。
- 政府は、外資を呼び込み、探鉱・開発を促進しようと、国内調達比率の緩和や外資参入が認められていなかった"Transfer of Rights"エリアについての方針変更を進めている。
- メジャーを中心とするIOC(International Oil Company:国際石油企業)参入とPetrobrasの復調で、ブラジルにおける探鉱・開発は活発化し、石油生産量は増加に向かうとの見方がなされているものの、Petrobras CEOの突然の辞任や先行きが見通せない大統領選挙等懸念事項もあり、今後の動向が注目される。
(Platts Oilgram News、International Oil Daily、Business News Americas他)
1.第4次PS入札ラウンドの結果
ブラジル国家石油庁 (Agencia Nacional do Petroleo, Gas Natural e Biocombustiveis:ANP)は、2018 年6月7日、プレソルト開発法で定められたプレソルトエリア内の4鉱区を対象に、第4次Production Sharing(PS)入札ラウンドの入札を実施した。
プレソルト開発法の改正により、Petrobrasはプレソルトエリア内の新規鉱区でオペレーターを務め権益の最低30%を保有する義務を免除され、探鉱・開発に参加するか否かを事前に選択することが可能になった。Petrobrasは、今回の入札では、Uirapuru、Três Marias、Dois Irmãosの3鉱区でオペレーターを務めることを入札前に表明していた。
Petrobrasを含む16社がPQを取得、このうち11社がコンソーシアムを組み、3鉱区に札を入れた。サインボーナスはあらかじめ定められており、合計で31.5億レアル(8億ドル)となった。
石油会社の関心が最も高かったSantos BasinのUirapuru鉱区には、今回の入札で札を入れた11社全てが4組のコンソーシアムを組んで入札、Petrobras/Equinor(旧Statoil)/Petrogal/ExxonMobilのコンソーシアムが落札した。
Santos BasinのTrês Marias鉱区には、Petrobras/Chevron/ShellのコンソーシアムとPetrobras/Total /BPのコンソーシアムが入札、前者が落札した。
Campos BasinのDois Irmãos鉱区にはPetrobras/Equinor/BPのコンソーシアムのみが入札した。
同じくCampos BasinのItaimbezinho鉱区には、関心を示す企業があると伝えられていたが、札が入らなかった。
企業別では、ExxonMobilが今回の鉱区取得でブラジルの25鉱区に権益を保有することになった。また、これまでプレソルトエリアの鉱区を保有していなかったChevronがプレソルトエリアに初めて参入することとなった。Equinorはすでに権益を保有する鉱区に隣接する2鉱区、Uirapuru鉱区(南西のCarcara油田の権益保有)とDois Irmãos鉱区(隣接するプレソルトエリア外の4鉱区の権益保有)を落札し、既存鉱区とのシナジーが期待でき、また、強力なパートナーと組むことができ、満足しているとした。
ANPは、今回落札された鉱区からの連邦政府、州政府、地方自治体への税、ロイヤルティ等の収入は100億ドルとなるとし、今回の入札は成功であったとしている。
Basin | 鉱区 | コンソーシアム(権益保有比率) *オペレーター 各鉱区の最上段が落札コンソーシアム |
政府引取 利益原油 |
---|---|---|---|
Santos | Uirapuru | Petrobras* (30%)、Petrogal (14%)、Statoil (28%)、ExxonMobil (28%) | 75.49% |
Petrobras* (45%)、Total (20%)、BP (35%) | 72.45% | ||
Petrobras* (30%)、QPI (20%)、Chevron (20%)、Shell (30%) | 72.05% | ||
Petrobras* (30%)、CNODC (30%)、CNOOC (40%) | 68.15% | ||
Três Marias | Petrobras* (30%)、Chevron (30%)、Shell (40%) | 49.95% | |
Petrobras* (40%)、Total (30%)、BP (30%) | 18% | ||
Campos | Dois Irmãos | Petrobras* (45%)、Statoil (25%)、BP(30%) | 16.43% |
Itaimbezinho | ― | ― |
(ANP websiteを基に作成)
2.今後の入札の計画
(1)第5次PS入札ラウンド
ANPは、2018年9月28日にSantos Basin のSaturno鉱区、Tita鉱区、Pau-Brazil鉱区、Campos BasinのSudoeste de Tartaruga Verde鉱区を対象に第5次PS入札ラウンドを実施する計画だ。
PS入札ラウンドは、通常、プレソルトエリア内の鉱区を対象とするが、Saturno鉱区とTita鉱区はプレソルトエリアの内外にまたがった鉱区となっている。両鉱区のプレソルトエリア外の部分は、3月に行われた第15次ライセンスラウンドで対象とされたS-M-645鉱区とS-M-534鉱区であった。そして、この2鉱区は、第15次ライセンスラウンドで公開された鉱区の中でIOCの関心が最も高いとみられていた鉱区であった。しかし、構造がプレソルトエリア内に広がっている可能性があり、プレソルトエリアの鉱区と一緒に入札にかけたほうが政府の歳入が増加するとTCU(連邦会計検査院)が判断し、入札前日に第15次ライセンスラウンドの対象鉱区から外されたという経緯がある。ANPは、Saturno鉱区とTita鉱区の原始埋蔵量を120億bblとしている。なお、Petrobrasは事前に両鉱区の探鉱・開発に参加する意思を表明していない。
Sudoeste de Tartaruga Verde鉱区は第2次PS入札ラウンド(2017年10月実施)で、Pau Brazil鉱区は第3次PS入札ラウンド(同じく2017年10月実施)で公開されたものの、札が入らなかった鉱区である。
Sudoeste de Tartaruga Verde鉱区は、Petrobrasが権益の100%を保有するTartaruga Verde鉱区の南西に位置しており、同鉱区とユニタイゼーションを行い開発・生産を行うことが可能である。Petrobrasは第2次PS入札ラウンドでは入札を見送ったものの、今回はSudoeste de Tartaruga Verde鉱区の権益30%以上を保有しオペレーターを務めることを表明している。これは、第2次PS入札ラウンドで公開された際よりもSudoeste de Tartaruga Verde鉱区の面積が広げられたこと、サインボーナスが1億レアルから7,000万レアル(1,780万ドル)に減額されたこと、政府引取利益原油の最低比率が12.98%から10.01%に引き下げられたことが原因とされている[1]。
Pau-Brazil鉱区は、2008年にPetrobrasが発見したJupiterガス田に近接するが、同ガス田で生産されるガスが二酸化炭素を多く含むことから、第3次PS入札ラウンドで敬遠されたとの見方をする向きもあった。
[1] Upstream2017/6/15
(2)Open Acreageプロセスに基づく入札
ブラジルは、石油・ガスの埋蔵量、生産量を増やすとともに、堆積盆地に対する知識を増やし、探鉱投資を分散させること等を目的に、返還された成熟油田や過去の入札で落札されなかったり、返還されたりした探鉱鉱区を対象として、継続的に入札を受け付けるシステム(Open Acreage)を導入する。7月20日に入札規則や契約最終案が発表された。それによると、特定の鉱区で探鉱・開発を行うことを希望する企業は、その鉱区への関心を表明し、財務力を証明する。その鉱区で探鉱・開発を行うことを希望する他企業があった場合、その企業は90日以内に入札へ参加する意思を表明し入札資格を取得、その後、入札が実施される。7月20日以降、企業は鉱区への関心を表明できることとなった。対象鉱区は当初、探鉱鉱区が14堆積盆地の884鉱区、成熟油田が14エリアとされていたが、実際には、8堆積盆地の148の探鉱鉱区(総面積147,221,609 平方キロメートル)と成熟油田14エリアが公開された。探鉱鉱区のうち 89鉱区は陸上Paraná、Parnaiba、Recôncavo Basin、59鉱区は沖合Campos、Ceará、Potiguar、Santos、Sergipe-Alagoas Basinに位置している。除外された鉱区、エリアは環境面についてスタディ、評価を行い、公聴会で議論、承認された後に公開される予定である。
Basin | 鉱区数他 | ロイヤルティ | |
---|---|---|---|
陸上 | Paraná | 23鉱区 | 5% |
Parnaiba | ガス18鉱区 | 7.5% | |
Recôncavo | 成熟エリア48鉱区 | 7.5% | |
沖合 | Campos | 浅海20鉱区 | 10% |
Ceará | フロンティア11鉱区 | 7.5% | |
Potiguar | 6鉱区 | 10% | |
Santos | 浅海5鉱区、深海3鉱区 | 10% | |
Sergipe-Alagoas | 深海14鉱区 | 10% |
(各種資料を基に作成)
(3)2019年以降の入札計画
国家エネルギー政策委員会 (National Council for Energy Policy:CNPE)は、2019年5月に第16次ライセンスラウンド、2020年に第17次ライセンスラウンド、2021年に第18次ライセンスラウンドを実施することを計画している。それぞれの入札で対象とされるBasinは表3のとおりである。第16次ライセンスラウンドについては陸上鉱区を除外し、沖合のみを対象とする。
PS入札ラウンドに関しては、2019年5月に第6次PS入札ラウンドをAram、Bumerangue、Lula Southの南西、Jupiterの南西を対象に実施し、2020年、2021年には実施する計画はないという。
時期 | ライセンスラウンド | Basin |
---|---|---|
2019年5月 | 第16次 | Campos、Santos、Camamu-Almada、Jacuipe、Pernambuco-Paraiba |
2020年 | 第17次 | Campos、Santos、Foz do Amazonas、Para-Maranhao、Potiguar |
2021年 | 第18次 | Espirito Santo、Ceara、Pelotas |
(各種資料を基に作成)
3.石油会社別探鉱・開発状況
(1)Petrobras
Petrobrasは、2017年12月に発表した5か年計画“Business and Management Plan 2018-2022(BMP 2018-2022)”で、2018年はブラジル国内で表4に示した7基の生産設備からの生産を開始する予定と表明していた。
Petrobrasは、BMP2018-2022で、2022年までに114億ドルを投じ、Santos BasinプレソルトのBuzios油田の開発を行うとしている。4月26日には、最初のFPSO P-74を用いて同油田の生産を開始した。FPSO P-74は生産能力が石油15万b/d、ガス6MMm3/dで、Rio de Janeiro 沖合約 200 キロメートル、水深2,000メートルの海域に設置された。FPSO P-74に続き、2018年10~12月に同油田のFPSO P-75、P-76、2019年にP-77が生産を開始、2021年までにこれら5基のFPSOから75万b/dを生産する計画で、Buzios油田はLula油田に次ぐブラジル第2位の生産量を誇る油田となる見通しである。Buzios油田で生産される原油はAPI比重28.4°で、中国向けに多く輸出されているLula油田で生産される原油と性状が類似している。なお、Buzios油田は可採埋蔵量31億bbl、“Transfer of Rights” (TOR)エリア(2010年に政府が420億ドル相当のPetrobras株式と交換に同社に付与したSantos Basinプレソルトの7鉱区、Petrobrasはこれらの鉱区で50億boeを生産できる)で初の石油生産開始となる。
Basin | 油田 | 生産設備 | 状況 |
---|---|---|---|
Campos | Tartarugas Verde e Mestica | Cidade de Campos dos Goytacazes | 2018年6月生産開始 |
Santos | Buzios | Buzios1 P-74 | 2018年4月生産開始 |
Buzios2 P-75 | 2018年10~12月生産開始予定 | ||
Buzios3 P-76 | 2018年10~12月生産開始予定 | ||
Lula Norte | P-67 | 2018年10~12月生産開始予定 | |
Berbigao | P-68 | 2019年生産開始予定 | |
Lula Extremo Sul | P-69 | 2018年10~12月生産開始予定 |
(各種資料を基に作成)
また、Petrobrasは、6月22日に、Campos Basin、Tartaruga Verde油田のFPSO Cidade de Campos dos Goytacazes(生産能力:石油15万b/d、ガス3.5MMm3/d、水深 765メートル)の生産も開始したと発表した。Tartaruga Verde油田はRio de Janeiro 沖合127キロメートル、水深700~1,300メートルの海域に位置しており、生産される原油はAPI 比重が27º となっている。PetrobrasはTartaruga Verde油田の権益100%とTartaruga Mestiça油田の権益69.35%を保有しており、このFPSO Cidade de Campos dos Goytacazesを用いて両油田の生産を行う。
Petrobrasが7月に明らかにしたところによると、Buzios油田、Tartaruga Verde油田に加え、Lula油田のFPSO P-67、P-69についても2018年中に生産開始の予定であるが、Berbigao油田のFPSO P-68については、生産開始時期を1年先送りし2019年とするという。
なお、2018年に入り、Petrobrasの石油生産量が減少傾向にある。8月に発表されたPetrobrasの第2四半期決算では、原油価格の上昇やディーゼルやガソリンの市場シェア拡大により純利益が100億7,200万レアル(26億9,000万ドル)となり、負債総額も2015年末の4,930億レアルから2,840億レアルまで圧縮することに成功した。業績が好調であったにもかかわらず、石油生産量が減退したことから、探鉱・開発部門への投資が不足しているのではないかとの見方もなされた。しかし、Petrobrasの発表によると、生産量が減少した主な原因は、生産量の多いLula油田等のFPSOのメンテナンスが続いていることと油田の権益売却であると説明している。
月 | 石油生産量増減の原因 |
---|---|
1月 | Campos Basin、Parque das BaleiasのFPSO Capixabaのメンテナンス TotalへSantos Basin、BM-S-9A block、Lapa油田の権益35%売却 |
2月 | Campos Basin、Marlim油田のプラットフォームP-18及びP-20、Santos Basin、Lula油田のFPSO Cidade de Angra dos Reisで操業上の問題発生 |
3月 | FPSO Cidade de Angra dos Reisのメンテナンス |
4月 | FPSO Cidade de Angra dos Reisのメンテナンス終了 Búzios 油田のFPSO P-74生産開始 |
5月 | Lula油田のFPSO Cidade de Saquaremaのメンテナンス |
6月 | Lula油田のFPSO Cidade de Paratyのメンテナンス EquinorへのRoncador油田の権益25%売却 |
(Petrobras websiteを基に作成)
(2)ExxonMobil
ExxonMobilは、2000年代初めにはすでにブラジルで探鉱を行っていたが、油田発見に恵まれず、その多くの鉱区から撤退してしまった。2013年5月に実施された第11次ライセンラウンドでは、OGX と組みPOT-M-475鉱区とCE-M-603鉱区を落札し、同社がブラジルに保有する鉱区は2鉱区となった。その後、ExxonMobilは2017年以降に実施された第14次ライセンスラウンド、第15次ライセンスラウンド、第2次PS入札ラウンド、第4次PS入札ラウンドで、プレソルト等で油田発見を狙える有望鉱区を相次いで落札した。さらに、入札で獲得した鉱区の周辺鉱区も取得し、現在では、ブラジルの25鉱区に権益を保有している。
ExxonMobilは、2018年下半期にはこれらの鉱区で地震探鉱を実施、2019年にSergipe-Alagoas BasinやSantos Basinで複数の探鉱井を掘削する計画だ。
(3)Eqinor
Equinorは、ブラジル沖合においては、Campos、Santos Basin等でバランスよく探鉱・生産を行っているものの、生産量は4万b/d弱と伸び悩んでおり、2017年以降、生産増に繋がる鉱区の取得に努めてきた。第2次PS入札ラウンドではSantos BasinのNorte de Carcará鉱区の権益40%をExxonMobil、Galp Energiaと取得、第15次ライセンスラウンドでは有望と目されるCamposBasinの6鉱区に札を入れ、4鉱区を落札した。
Equinorは、2017年12月に、Campos Basinに位置するRoncador油田の権益25%をPetrobrasより取得すると発表、2018年6月に取引が完了した。Equinorは20億ドルに加え、回収率向上のための費用5.5億ドルを支払う。同油田は原始埋蔵量が100億bbl、残存可採埋蔵量が10億boeで、かつてはブラジル最大の油田であったが、2018年6月の石油生産量は20.5万b/dで、ブラジルで3番目に生産量が多い油田となっている。
Norte de Carcará鉱区の南に位置するBM-S-8鉱区は、Statoilが2016年11月にPetrobras より25億ドルで権益の66%を取得、2017年7月にQueiroz Galvão Exploração e Produção's (QGEP) より3.79億ドルで権益の10%を取得した鉱区だ。第2次PS入札ラウンド終了後、ExxonMobil がBM-S-8 鉱区にファームインし、同鉱区の権益保有比率はStatoil36.5%、ExxonMobil36.5%、Galp Energia17%、ブラジル独立系企業Barra Energia10%となっていた。2018年7月、EquinorはBarra Energiaより同鉱区の権益の10%を3.79億ドルで取得、このうち3.5%をExxonMobil、3%をGalp Energiaに売却。これによりBM-S-8及びCarcara North鉱区の権益保有比率はEquinorとExxon Mobil がそれぞれ40%、Galp Energiaが20%となった。オペレーターのEquinorは両鉱区のユニタイゼーションを実施、Carcará油田(可採埋蔵量20億boe)を開発する計画で、2023~2024年に生産が開始される予定となっている。Equinorは、Carcará油田は油価がバレル当たりUS$40でも経済性が十分見込めるとしている。なお、Equinorは4月より、BM-S-8鉱区のCarcará油田に近い海域で、Seadrill West Saturn drillshipを用いて、Guanxuma井を掘削したところ(掘削長6,600m)、可採埋蔵量7~13億boeの油田を発見したという。
(4)Shell
Shellは、BG買収により、プレソルトですでに油田が発見され、生産が開始されているBM-S-11鉱区(Lula-Iracema油田)の権益の25%、BM-S-9鉱区(Sapinhoá油田)の権益30%を取得した。Shellのブラジル国内の生産量は32~33万b/dとなっており、Petrobrasに次ぐブラジル第2位の石油生産企業となっている。
Shell は、第2次、第3次PS入札ラウンドで落札したSantos BasinのSul de Gato do Mato鉱区とAlto de Cabo Frio Oeste 鉱区で2019年に掘削を実施する計画で、パートナーと坑井数を検討中である。
4.制度変更
ブラジル政府は、プレソルト開発法の改正や頻繁な入札の実施により、外資の呼び込みを図っている。ブラジルでの探鉱・開発の最大の課題とされていた国内調達比率の緩和や法律により外資参入が阻まれていたTORエリアについての方針変更も進みつつある。
(1)国内調達比率緩和
2018年4月10日、ANPは、第7次~第13次ライセンスラウンド、第1次、第2次PS入札ラウンドで付与された鉱区およびTORエリアの契約について、国内調達比率を緩和することを承認した。国内調達比率は、陸上のプロジェクトは50%、沖合のプロジェクトは探鉱が18%、坑井掘削・仕上げが25%、集油、パイプラインが40%、生産設備が40%となる。石油会社は120日以内にANPと連絡を取り、契約の国内調達比率に関する箇所を修正することができる。7月には、ANPがEnevaからのParnaíba Basin陸上11鉱区に関する国内調達比率緩和申請を、国内調達比率に関する規則が変更されて以来初めて承認した。他の石油会社も高い国内調達比率を新たな低い比率に変更する手続きをとる模様で、これにより石油会社はコスト削減が可能となり、探鉱・開発が進展するとみられている。
(2)Transfer of Rightsエリアの鉱区公開
下院は6月20日、PetrobrasにTORエリアの権益の70%までの売却を認める法案を、217対57で可決した。現状、Petrobrasは同エリア7鉱区の権益を売却することを禁じられ、単独で探鉱・開発を行わなくてはならないとされている。そのためにTORエリアの探鉱・開発は進まず、これまで生産開始に至ったのは、先述したBuzios油田のみとなっている。今後、TORエリアの鉱区が公開されて、外資が参入すれば、探鉱・開発が進展するとみられている。同法案は今後、上院での審議、投票、大統領の承認を経て成立することとなる。
なお、2017年にANPが発表したところによると、同エリアの可採埋蔵量は当初推定したよりも60~150億boe多い可能性がある。2010年に政府がPetrobrasに生産を認めた50億boeを上回る部分について、政府は11月29日に入札を実施することを計画しているが、同法案の成立状況によっては、入札が12月以降にずれ込む可能性がある。
終わりに
ブラジルでは、政府のインフレ抑制政策の下、Petrobrasが国際市場価格で購入したガソリン、ディーゼルを国内では低価格で販売、その逆ザヤをPetrobrasが負担し、これによりPetrobrasの負債が増大した。Temer政権下でPetrobrasは石油製品の価格を国際石油市場の価格や為替の変動にあわせ自ら調整できるようになり、2016年10月からは月ごとに価格を変更、2017年7月からは日々価格を更新するようになった。ところが、2018年に入り、国際市場で石油価格が上昇、ブラジル国内の石油製品の価格も上昇したため、これに抗議し5月21日にトラック運転手による全国規模のストライキが発生、石油労働者組合等もこれに加わり、経済活動や燃料供給に影響が生じるようになった。政府はディーゼルの価格を15日間にわたり10%引き下げ、その後60日間は13%引き下げ、その後は月ごとに価格を調整することを約束し[2] 、ストライキは収束した。このような状況を受け、6月1日にPetrobrasのParente CEOが辞任し、その後任としてIvan Monteiro氏が2019年3月までPetrobrasのCEOを務めることとなった。Parente氏の辞任に関しては、石油製品価格が高騰したことから、国際石油市場に連動した価格とする方針をとっていたParente氏を咎める向きもあり、その責任をとって辞任したとの見方や、Temer政権による石油製品価格介入をParente氏が認められず辞任したとの見方がある。汚職問題や多額の負債を抱えたPetrobrasの立て直しに貢献したParente氏が突然、Petrobrasを去ったことは、同社にとって大きな打撃であり、ブラジル全体の探鉱・開発に影響を与える可能性があると懸念されている。なお、Monteiro氏はBanco do Brasilに勤務後、2015年2月にPetrobrasのCFOに就任、Petrobrasの資産売却の立案者であり、同社の財務健全化にも力を尽くしてきた人物である。
また、ブラジルは10月に大統領選挙を控えている(第1回投票7日、得票率首位の候補者が過半数を獲得できなかった場合の決選投票28日)。世論調査で支持率トップを走っていたLula元大統領が、汚職により控訴審で有罪判決を受け逮捕、拘留されてしまい、大統領選挙の行方は不透明な状況となっている。新政権の政策次第では、石油産業の行方を左右することもあり、結果が注目される。
メジャーを中心とするIOCの参入が続き、Petrobrasも復調の傾向にあり、ブラジルにおける探鉱・開発は活発化し、石油生産量は増加に向かうとの見方がなされているものの、このように懸念事項が浮上してきており、今後の動向が注目される。
[2] LatAmOil, 2018/7/10
以上
(この報告は2018年8月20日時点のものです)