ページ番号1007605 更新日 平成30年9月18日
原油市場他:イランからの原油供給減少の情報等により、WTIでしばしば1バレル当たり70ドル超へと上昇する場面が見られる原油価格
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概要
- 米国では、製油所での原油精製処理活動が高水準を維持したこともあり、原油在庫は減少傾向となったが、平年幅を超過する状態は維持されている。他方、製油所での石油製品生産活動活発化に伴い、ガソリン及び留出油在庫は増加傾向となった結果、ガソリン在庫は平年幅を超過、留出油在庫は平年並みとなっている。
- 2018年8月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では減少となった。また、欧州でも製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理が進んだことにより、原油在庫は減少した。他方、日本では8月後半を中心として原油輸入が活発化したと見られることから当該在庫は増加した。ただ、欧米諸国での原油在庫の減少が日本での増加を相殺して余りある状況であったことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。他方、石油製品については、欧米諸国及び日本で製油所の稼働が高水準であったこともあり石油製品の生産が旺盛となったことから当該在庫は増加となり、量としては平年並みとなっている。
- 2018年8月中旬から9月中旬にかけての原油市場においては、熱帯性低気圧「ゴードン(Gordon)」の米国メキシコ湾地域来襲の予報と石油産業への影響に対する市場での不安感の増大やイランからの原油輸出量減少の情報等が原油価格に上方圧力を加えた結果、原油価格は上昇傾向となり、8月20日には1バレル当たり60ドル台半ば程度であったWTIは、8月末には70ドルを突破した。その後、「ゴードン」の進路が米国メキシコ湾地域の石油産業の中心地域を直撃しなかったこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、WTIは、9月中旬にかけ再び60ドル台後半へと下落したものの、ハリケーン「フローレンス(Florence)」が米国南東部に向かったことで、避難住民によるガソリン需要増加観測や石油製品輸送インフラへの影響に対する市場の懸念等もあり、9月中旬には再び70ドルを超過する場面も見られている。
- 今後も、イランやベネズエラからの原油供給の減少が継続するとの懸念が市場で根強いことから、この面では当面原油相場が下支えされる他、両国の原油供給に関する情報等によっては、原油相場が上昇する場面が見られる可能性がある。また、リビア等それ以外の産油国においても、政情不安に関する情報等によっては、原油相場に影響が及ぶ場合がありうる。他方、夏場のガソリン需要期終了に伴う季節的な需給緩和感や米国及び中国等の経済情勢に伴う需要の伸びの鈍化懸念によっては、原油相場に下方圧力を加えることもありうるが、それらは一時的なものであるか、実際に影響が及ぶまでに時間を要することもあり、それらよりも地政学的リスク要因による石油供給低下のほうが早期に、かつ大きく市場に影響しやすいことから、この面では需要に関する心理的な不安感から原油相場が下落したとしてもその程度は限定的なものにとどまる反面、供給の側面からは原油相場が下支えされるか要因次第では価格が上振れする展開となる可能性が相当程度あるものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2018年6月の米国ガソリン需要(確定値)は日量980万バレルと前年同月比で0.3%程度の増加となった(図1参照)。これは速報値(前年同月比で1.0%程度減少の日量967万バレル)からは上方修正されているものの、それでも前年同月比で微増の水準にとどまっている。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.970ドルと前月(同2.987ドル)からは若干下落したものの、同国消費者のガソリン消費行動に、より大きな影響を及ぼし始める1ガロン当たり3ドルに接近した水準のままとなっていた他、前年同月比では0.51ドル(約20.7%)割高となっていたことが、ガソリン需要を抑制する格好となっているものと思われる(因みに2017年の平均米国自動車運転距離数は前年比で1.2%程度増加していたが、2018年6月の当該距離数は前年同月比で0.3%の伸びにとどまっている)。また、2018年8月の同国ガソリン需要(速報値)は日量963万バレル、前年同月比で1.3%程度の減少となっている。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.914ドルと前月(同2.928ドル)からは若干下落したものの、依然1ガロン当たり3ドルからそう離れていない水準で引き続き推移している他、前年同月比でも0.42ドル(約16.8%)割高になっていたことが、需要の伸びに反映されているものと見られる。他方、製油所の原油精製処理量は8月10日の週に日量1,798万バレルと1982年後半以降の統計史上最高水準に到達したが、8月中旬から9月上旬にかけても日量1,700万バレル台後半を維持した(図2参照)ことに伴い活発なガソリン生産活動が継続しているものと見られる(最終製品の生産量は図3参照)こともあり、8月上旬から9月上旬にかけ、同国のガソリン在庫は増加傾向となった結果、平年幅上限を超過する水準は維持されている(図4参照)。
2018年6月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量395万バレルと前年同月比で0.3%程度の減少となったうえ、速報値である日量398万バレル(同0.4%程度の増加)から下方修正されている(図5参照)。2018年6月の米国の鉱工業生産が前年同月比で3.5%程度伸びるなど経済が底堅く成長していることを示唆しており、同国の物流活動も同8.1%程度拡大していることから、この面では米国の留出油需要を旺盛にする方向で作用しているものと考えられる。しかしながら、同国では4月(日量415万バレル、前年同月比10.4%増加)及び5月(日量427万バレル、同8.0%増加)と相当程度高水準な留出油需要が継続したことから、その反動が6月の需要減少に現れている側面があるものと見られる。また、2018年8月の留出油需要(速報値)は日量415万バレルと、前年同月比で3.6%程度の増加となっている。米国は7月6日(米国東部時間)に中国からの340億ドル相当の輸入品に対し、また8月23日(同)には同じく中国からの160億ドル相当の輸入品に対し、それぞれ25%の関税を賦課する制裁を発動しているものの、米国経済及び物流活動への影響は多少時間差をおいて現れるものと考えられることから、8月においては留出油需要はなお比較的好調な米国経済(8月の米国鉱工業生産は前年同月比で4.9%増加している)及び物流活動(7月は前年同月比で4.8%の伸びと6月ほどではないにせよ堅調に増加している)の流れを反映しているものと見られる。他方、米国での製油所での原油精製処理量が高水準となっていることに伴い留出油生産活動も活発な状態を維持している(図6参照)ことから、8月上旬から9月上旬にかけ留出油在庫水準は上昇傾向となった結果、2018年9月上旬時点では平年並みの量となっている(図7参照)。
2018年6月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で0.7%程度増加の日量2,071万バレルとなった(図8参照)。エタンを含むその他の石油製品が石油需要を牽引している格好となっている(2017年9月21日にDow DuPontが米国テキサス州フリーポートで年産150万トンのエチレン製造施設の操業を開始したこともあり、原料となるエタンの需要が増加しているものと見られる)。ただ、その他の石油製品に加え、留出油需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたことにより、当該需要は速報値(日量2,083万バレル、前年同月比1.3%程度の増加)から下方修正されている。他方、2018年8月の米国石油需要(速報値)は、日量2,132万バレルと前年同月比で5.3%程度の増加となった。留出油、ジェット燃料(2018年7月の個人可処分所得が前年同月比で5.3%程度伸びていることに加え同国鉱工業生産も増加するなど米国経済が堅調であったことから航空機利用が活発化していることが背景にあると見られる)及びその他の石油製品が需要の伸びに影響している。ただ、その他石油製品の需要は日量447万バレルと2017年7月~2018年6月の当該需要(確定値)である同334~402万バレルと比較しても高い部類に入る。2018年7月26日にはExxonMobilがテキサス州ベイタウンで年産150万トンのエチレン製造装置の操業を開始していることから、それに伴いエタン需要が増加していると見られるものの、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正されることを通じ同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。また、8月中旬から9月上旬にかけ米国の原油精製処理活動が活発化に行われ続けたことから、当該期間中原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図9参照)。そして、留出油在庫が平年並みの量となっている一方で、原油及びガソリンの在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、または原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2018年8月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では原油精製処理活動が高水準を維持したこともあり減少となった。また、欧州でも製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理が進んだことにより、原油在庫は減少となった。他方、日本では製油所の原油精製処理活動は比較的高水準で維持されたものの、8月後半を中心として原油輸入が拡大したことと見られることから当該在庫は増加した。ただ、欧米諸国での原油在庫の減少が日本での増加を相殺して余りある状況であったことから、OECD諸国全体として原油在庫は減少となった。それでも、当該在庫は平年幅上限を超過する状態を継続している(図12参照)。他方、石油製品については、米国では製油所での稼働上昇に伴い石油製品の生産が旺盛となったことから全般的に石油製品在庫は増加した。また、欧州でも製油所の稼働が上昇するとともに石油製品の生産活動が活発化したこともあり、中間留分を中心として石油製品在庫が増加した。さらに、日本でも、製油所での稼働が高水準を維持したことに伴い石油製品が活発に生産された結果、不需要期である灯油をはじめとして石油製品在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体として石油製品在庫は増加となり、量としては平年並みとなっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置している(図14参照)。なお、2018年8月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は60.1日と7月末の推定在庫日数(59.0日)から増加している。
8月15日に1,400万バレル台前半の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、8月22日は1,300万バレル台後半、8月29日には1,300万バレル台前半、9月5日は1,300万バレル強、9月12日は1,100万バレル台前半の、それぞれ量へと減少傾向を示している。8月は欧米諸国に加え、アジア諸国でも夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入したこともあり、シンガポールへの軽質留分輸入が抑制された反面、シンガポールからの輸出が旺盛になったことが、シンガポールでの軽質留分在庫の減少傾向発生の背景にあるものと考えられる。それでも8月22日以降当該在庫は前年同期を上回っていることから、必ずしも当該製品需給に関し逼迫感が広がっているわけではなかったことに加え、夏場のドライブシーズンが峠を越えつつあることや米国等でガソリン在庫が増加しつつあることが、アジア市場でのガソリン価格を抑制した他、原油価格の上昇にガソリン価格のそれが追い付かなった結果、例えばシンガポール市場でのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は縮小傾向を示している。
他方、ナフサについても、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が市場関係者の視野に入り始めていることもあり、ガソリンに混入するナフサの需要が低下するとともに、欧州や中東方面等からアジア市場に向けナフサの流入が増加であろうことに加え、アジア諸国での石油化学産業におけるナフサ分解装置が秋場のメンテナンス作業の実施に伴いナフサの受け入れを減少させる結果、ナフサ需給が緩和するとの観測が市場で広がってきていることが、ナフサ価格に下方圧力を加えた結果、7月下旬から8月中旬までしばしばドバイ原油価格を上回っていたナフサ価格は、再び継続的にドバイ原油価格を下回ったうえ、その差はどちらかというと拡大する様相を呈している。
8月15日には900万バレル強の量であったシンガポールの中間留分在庫は、8月22日には800万バレル台後半の水準へと低下したが、8月29日には1,000万バレル台前半、9月5日に1,100万バレル台前半の陵へと増加した。しかしながら9月12日には900万バレル台前半の量へと減少している。アジア地域での製油所の稼働が夏場のガソリン需要期突入に伴い上昇するとともに中間留分の生産が増加していることもあり、中国等からシンガポール市場への輸出が旺盛になってきていることに加え、インドにおいても、モンスーンシーズン突入に伴い軽油需要が抑制された(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前に燃料として使用されていた軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天に伴い道路や建設工事の進捗が鈍化することにより、物流や製造業での軽油の利用が減速すること等による)ことから、同国からの軽油輸出が活発化したと見られることが、中間留分在庫を増加させた一因と見られるが、8月17日を以て中国南東沿岸部での漁業活動禁止が解除される(当初は8月15日に解除される予定であったが、台風の接近により2日延期されたとされる)など、当該部門向けの軽油需要が増加していると思われる他、モンスーンの到来により洪水が発生したインドにおいて、復旧活動に関連する軽油の需要が増加している見られること等が、9月中旬のシンガポールでの中間留分在庫の減少に影響している可能性がある。これらの需要面での要因に加え、冬場の暖房シーズンに向け軽油や灯油の需要が増加するとの観測が市場で広がる一方、日本等アジア諸国で秋場の製油所のメンテナンス作業実施に伴い石油製品の生産が低下することにより、各国の軽油等の輸出が低下すると予想されていることから、暖房用石油製品需給の引き締まり感が市場で発生、中間留分価格に上方圧力を加えたことが、在庫の増加傾向による当該価格への下方圧力に対抗する格好となり、例えばアジア市場での軽油とドバイ原油価格との差は比較的限られた範囲内で上下に変動している。
8月15日には1,500万バレル台前半の量であったシンガポールの重油在庫は、8月22日には1,400万バレル台前半の量にまで減少したものの、8月29日には、1,600万バレル台後半の量にまで回復した。そして、9月5日には1,600 万バレル強程度、そして9月12日には1,600万バレル弱程度の量へと減少しているが、それでも8月15日の水準は上回っている。春場以降、シンガポールでの重油在庫は減少傾向となったが、その過程でアジア市場での重油価格が欧州市場に比べ相対的に割高になったことに加え、中東地域での夏場の空調用発電部門向け重油需要が峠を越えつつあることから、シンガポール市場に重油が流入し始めていると見られることや、アジア地域の夏場の空調のための発電部門向け重油需要が低下しつつあることが、当該製品在庫を下支えする背景にあるものと考えられる。そして中東地域での発電部門向け重油需要の低下とともにアジア市場への重油の流入は今しばらく継続するとの観測が根強いうえ、日本等東アジア地域でも気温が低下するとともに発電部門向け重油需要が鈍化するとの見方が市場で発生していることが、重油価格に下方圧力を加えている結果、重油とドバイ原油との価格差(この場合重油価格はドバイ原油のそれを下回っている)は拡大する傾向が見られる。
2.2018年8月中旬から9月中旬にかけての原油市場等の状況
2018年8月中旬から9月中旬にかけての原油市場においては、英領北海での油田労働者によるストライキ実施に伴う原油生産減少懸念に加え、米国原油在庫及び石油坑井掘削装置稼働数の減少、熱帯性低気圧「ゴードン(Gordon)」の米国メキシコ湾地域来襲の予報と石油産業への影響に対する市場の不安感の増大、イランからの原油輸出量減少の情報、米ドルの下落等が上方圧力を加えた結果、原油価格は上昇傾向となり、8月20日には1バレル当たり60ドル台半ば程度であったWTIは、8月末には70ドルを突破した。その後、「ゴードン」の進路が米国メキシコ湾地域の石油産業の中心地域を直撃しなかったことに加え、米国ガソリン及び留出油在庫が増加したこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、WTIは、9月中旬にかけ再び60ドル台後半へと下落したものの、ハリケーン「フローレンス(Florence)」が米国南東部に向かったことで、避難住民によるガソリン需要増加観測や石油製品輸送インフラへの影響に対する市場の懸念の増大、及び米国原油生産見通しの下方修正等の要因もあり、9月中旬には再び70ドルを超過する場面も見られている(図15参照)。
8月22~23日に開催される予定の米国及び中国との貿易関係に関する協議に対し、問題解決に向けた期待感が8月17日の市場で発生した(米国及び中国間での貿易戦争による対立打開のため、11月に米国のトランプ大統領と中国の習近平主席との間で会談を実施する方向で作業手順を取りまとめるべく努力している旨8月17日に報じられたことによる)流れを8月20日の市場が引き継いだこと、英領北海Alwyn、Elgin、及びDunbar油田(操業者:Total、合計で日量7万バレル程度を生産)で8月20日午前6時から24時間の予定でストライキを実施したことで、当該地域からの原油供給が低減するのではないかとの懸念が市場で発生したこと、8月20日に、イランのザンギャネ石油相が、Totalのサウスパースガス田開発事業正式撤退を発表したことで、イラン核合意維持に対する悲観的な見方と石油供給途絶可能性に対する懸念が市場で増大したこと、8月22日に米国エネルギー省(EIA)から発表される予定である同国石油統計(8月17日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、8月20日に、トランプ大統領が米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の金利引き上げ継続方針に不満を表明したこともあり、米ドルが下落したことから、8月20日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.52ドル上昇し、終値は66.43ドルとなった。8月21日も、8月22日にEIAから発表される予定である同国石油統計で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生した流れを引き継いだことに加え、8月20日に、トランプ大統領がパウエルFRB議長の金利引き上げ継続方針に不満を表明した流れを引き継ぎ、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.35ドルと前日終値比で0.92ドル上昇した。この結果原油価格は8月20~21日の2日間で併せて1バレル当たり1.44ドルの上昇となった。(なお、この日を以てNYMEXの9月渡し原油先物契約は取引を終了したが、10月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり65.84ドル(前日終値比0.42ドル上昇)であった)。8月22日には、この日EIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で584万バレルの減少と市場の事前予想(同150~340万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことに加え、8月21日午後に、トランプ大統領の個人的顧問弁護士だったコーエン氏の弁護士が、トランプ氏がコーエン氏に選挙資金の使用に関する違法行為を指示した旨明らかにしたこともあり、11月に実施される中間選挙を含め米国政治経済情勢に対する不透明感が市場で増大した他、8月22日に公表された米国公開市場委員会(FOMC)議事録(7月31日~8月1日開催分)で、米国と他の諸国との貿易戦争が米国経済に悪影響を及ぼす可能性がある旨示唆されたこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.86ドルと前日終値比で0.51ドル上昇した。8月23日には、8月22日にEIAから発表された同国石油統計で原油在庫が市場の事前予想を上回って減少している旨判明した流れを引き継いだことが原油価格に上方圧力を加えた反面、これまでの米ドルが下落したことに伴う利益確定の動きが発生したことにより米ドルが上昇したことが原油価格に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.03ドルの下落にとどまり、終値は67.83ドルとなった。8月24日には、Totalと同社が操業する英領北海Alwyn、Elgin、Dunbar油田の労働者との間での給与等に対する交渉が決裂した旨8月23日夜(現地時間)に明らかになったことから、労働組合側が9月1日に当該油田においてストライキを実施する見込みとなったことにより、石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、2018年8月前半のイランの原油輸出量が7月比で日量70万バレル程度減少した旨米国大手金融機関Jefferiesが8月24日に明らかにしたことで、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、8月24日に米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で860基と前週比で9基減少(石油水平坑井掘削装置稼働数は803基と前週比8基減少)となっている旨判明したこと、中国石油会社Unipecが米国からの原油輸入(8月より停止中)を10月に再開する旨8月24日に報じられたことで、貿易戦争に伴う米国及び中国との間での対立の緩和に対する期待が市場で発生したこと、8月24日の米国カンザスシティ連邦準備銀行主催の経済シンポジウム(於ワイオミング州ジャクソンホール)で、パウエルFRB議長が、米国の物価上昇率が2%を超過する兆しは見えない旨指摘したことで、同国金融当局による金利引き上げ政策が加速するとの市場の観測が後退したことにより、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.72ドルと前日終値比で0.89ドル上昇した。
8月27日には、この日トランプ大統領がメキシコとの間で北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しに関し合意した旨発表したことから、両国間の貿易戦争激化に伴う経済減速に対する市場の懸念が後退したことで、米国株式相場が上昇したことに加え、8月24日の米国カンザスシティ連邦準備銀行主催の経済シンポジウムでのパウエルFRB議長の発言で同国金融当局の金利引き上げ政策加速に対する市場の観測が後退した流れを引き継いだうえ、8月27日にトランプ大統領とメキシコとの間でのNAFTA見直し合意発表で投資家のリスク許容度が拡大したことにより、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.15ドル上昇し、終値は68.87ドルとなった。8月28日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.53ドルと前日終値比で0.34ドル下落した。8月29日には、この日EIAから発表された同国石油統計(8月24日の週分)で原油在庫が前週比257万バレルの減少と市場の事前予想(同69~149万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.98ドル上昇し、終値は69.51ドルとなった。8月30日には、8月29日にEIAから発表された同国石油統計で原油在庫が市場の事前予想を上回って減少している旨判明した流れを引き継いだことから、この日(8月30日)の原油価格の終値は1バレル当たり70.25ドルと前日終値比で0.74ドル上昇した。この結果原油価格は8月30~31日の2日間で併せて1バレル当たり1.72ドル上昇した。ただ、8月31日には、トランプ大統領が2,000億ドル相当の中国からの輸入品に対する関税賦課につき翌週の公聴会終了後速やかに発動する意向である旨8月30日午後に報じられた他、米国への対応を修正しなければ世界貿易機構(WTO)から脱退することなるであろう旨トランプ大統領が発言したと同日午後に伝えられたことで、米国と中国他との間での貿易戦争激化と両国等の経済成長及び石油需要に対する懸念が市場で増大したことに加え、欧州委員会(EC)で通商問題を担当するマルムストローム委員が米国が自動車関税を撤廃するのであれば欧州連合(EU)諸国も同様の措置を実施する旨8月30日に発言したことに対し、トランプ大統領がそれでは十分ではない旨表明したと8月30日夕方にブルームバーグ通信が報じたことでユーロが下落した他、8月31日に米国とカナダとの間でのNAFTA改定を巡る交渉が合意に至ることなく終了したことにより、米国と他の諸国との貿易関係の悪化に対する懸念が市場で再燃するとともに、投資家のリスク許容度が縮小したこともあり、米ドルが上昇したこと、8月のサウジアラビアの原油生産量が前月比で増加した旨8月31日にロイター通信が報じたことで、石油需給の緩和感を市場が意識したこと、8月31日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で862基と前週比で2基増加(石油水平坑井掘削装置稼働数は802基と前週比1基減少)となっている旨判明したこと、8月の米国原油生産量が日量1,067万バレルと1920年1月以降の月間統計史上最高水準に到達した旨EIAが8月31日に明らかにしたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.45ドル下落し、終値は1バレル当たり69.80ドルとなった。
9月3日は、米国労働祭(レイバー・デー)の休日に伴いNYMEX原油先物契約に関する通常取引は実施されなかったが、9月4日には、米国メキシコ湾地域に熱帯性低気圧「ゴードン」が来襲しつつあることで、沖合地域の石油生産関連施設、湾岸地域の石油輸入関連施設及び精製施設の操業が影響を受けることに伴う石油供給途絶懸念が市場で発生したことが原油相場に上昇圧力を加えた反面、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が8月24~31日に75.4万バレル増加した旨米国石油関連情報サービス会社Genscapeが報告したと9月4日に報じられたことに加え、9月4日に米国供給管理協会(ISM)から発表された8月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大及び縮小の分岐点)が61.3と7月の58.1から上昇、2004年5月(この時は61.4)以来の高水準となった他、市場の事前予想(57.6~57.7)を上回ったことで、米ドルが上昇したことが、原油価格に下方圧力を加えた結果、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.87ドルと前週末終値比で0.07ドルの上昇にとどまった。 しかしながら、9月5日には、熱帯性低気圧「ゴードン」が勢力を強めることなく当初予想よりも東寄りの進路を辿ったことにより、米国メキシコ湾沖合地域の石油生産関連施設、湾岸地域の石油輸入関連施設及び精製施設の操業への影響が軽微なものにとどまる見通しとなったことで、石油供給途絶に対する市場の懸念が後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.15ドル下落し、終値は68.72ドルとなった。9月6日も、この日EIAから発表された同国石油統計(8月31日の週分)でガソリン在庫が前週比で185万バレルの増加と市場の事前予想(同81~150万バレル程度の減少)に反し増加していた他、留出油在庫が前週比で312万バレルの増加と市場の事前予想(同0~74万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことで、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.77ドルと前日終値比で0.95ドル下落した。この結果原油価格は9月5~6日の日間で併せて1バレル当たり2.10ドル下落した。9月7日は、9月6日にEIAから発表された同国石油統計でガソリン及び留出油在庫が市場の事前予想に反し、もしくは市場の事前予想上回って増加している旨判明した流れを引き継いだことに加え、9月7日にトランプ大統領がさらに2,670億ドル相当の中国からの輸入品(これは事実上中国からの輸入品全品を意味する)に対し関税を賦課する用意がある旨発言したこともあり、米国株式相場が下落したこと、9月7日に米国労働省から発表された8月の同国非農業部門雇用者数が前月比で20.1万人の増加と市場の事前予想(同19.0~19.1万人程度の増加)を上回ったうえ、平均時給が前年同月比で2.9%の上昇と、2009年6月(この時は同2.9%の上昇)以来の大幅な上昇となったことから、米国金融当局による金利引き上げ方針の継続に対する市場の観測が強まったことで、米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、イラク南部の油田が集中するバスラ地区で、公共サービス改善を求めたデモ隊が暴徒化し、9月7日にバスラのイラン領事館を放火した旨報じられたことで、同国からの原油供給への影響に対する懸念が市場で発生したことに加え、9月7日Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で860基と前週比で2基減少(石油水平坑井掘削装置稼働数は801基と前週比1基減少)となっている旨判明したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.02ドルの下落にとどまり、終値は67.75ドルとなった。
9月10日も、9月7日にトランプ大統領が中国からの輸入品に対しさらに関税を賦課する用意がある旨発言したこともあり、米国及び中国等の経済減速と石油需要の鈍化に対する懸念が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、9月12日にEIAから発表される予定である同国石油統計(9月7日の週分)で米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日(9月10日)の原油価格の終値は1バレル当たり67.54ドルと前週末終値比で0.21ドル下落した。しかしながら、9月11日には、8月の韓国のイランからの原油輸入が皆無であった旨9月9日に報じられたことで、イランの世界石油市場への原油供給減少に伴う石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことに加え、ハリケーン「フローレンス」が米国南東部に向かいつつあることにより、当該地域住民の自動車による避難のためのガソリン需要増加観測が市場で発生したうえ、当該地域に敷設されている製品パイプラインの操業への影響に対する懸念が増大したことから、米国ガソリン先物価格が上昇したこと、9月11日にEIAから発表された「短期エネルギー展望(STEO:Short-term Energy Outlook)」でEIAが2019年の米国原油生産量を日量1,150万バレルと8月7日発表時点の同1,170万バレルから下方修正したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.71ドル上昇し、終値は69.25ドルとなった。また、9月12日も、ハリケーン「フローレンス」が米国南東部に向かいつつあることで、米国ガソリン先物価格の上昇が継続した他、9月12日にロシアのノバク エネルギー相が、世界の石油市場は地政学的リスク要因で非常に壊れやすい旨指摘したものの、9月23日に開催される予定であるOPEC産油国閣僚監視委員会(於アルジェ)までは増産するかどうかを決定する意向はない旨示唆したことで、石油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、9月12日にEIAから発表された同国石油統計(9月7日の週分)で原油在庫が前週比で530万バレルの減少と市場の事前予想(同81~270万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.37ドルと前日終値比で1.12ドル上昇した。この結果原油価格は9月11~12日の2日間で併せて1バレル当たり2.83ドルの上昇となった。ただ、9月13日には、この日国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートで、IEAが石油市場の一部で需要鈍化の兆候が見られる他、2019年に向け貿易戦争等により石油需要面でのリスクが存在する旨指摘したことに加え、9月13日にトランプ大統領が米国と中国との間での貿易戦争を収拾させる圧力は感じていない旨発言したことで、世界経済減速と石油需要の鈍化に対する市場の懸念が再燃したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.59ドルと前日終値比で1.78ドル下落した。ただ、9月14日には、前日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.40ドル上昇し、終値は68.99ドルとなっている。
3.今後の見通し等
イラクでは、原油生産の中心地である南部バスラ地域で、水道サービス等の公共サービスや雇用状況の改善を求めたデモ隊が暴徒化した結果、イランの在バスラ総領事館が放火されたり、油田施設に突入し従業員を一時人質にしたりしている。また、9月7日には、バグダッドの官庁や在外公館地区でも抗議行動が発生し3発のロケット弾が着弾するなどしている他、9月8日も在バスラ米国総領事館に近い空港にロケット弾が飛来している。
米国は、8月16日にイラン・アクション・グループを国務省内に新設し同省のフック政策企画局長を責任者にする旨同日ポンペオ国務長官が発表した。他方、欧州企業は米国制裁再発動に備え、イランでの事業を縮小しつつある。8月20日にはザンギャネ石油相がTotalのサウスパースガス田での正式な事業撤退を発表した。そのような中、中国の王毅外相は米国による制裁再発動にかかわらずイランとのザリフ外相との間で両国の協力関係を維持することを確認したが、中国(珠海振戎、中国石油化工)はイランから輸出される原油につき、中国タンカーではなくイラン国営タンカー会社(NITC)のタンカーを利用している旨8月20日に報じられる。また、同日(8月20日)米国エネルギー省がイランへの制裁再発動に伴うイランからの原油供給制限の実施(11月5日)に先立ち、1,100万バレルの原油を10月1日~11月30日に放出する旨発表した。ただ、米国のボルトン大統領補佐官はイランの体制変更を望んでいるわけではないと8月22日に明らかにしている。これに対し、イランの保守強硬派要人のハタミ師は、米国がイランを攻撃すれば、米国及びその同盟国であるイスラエルに対し反撃する旨8月22日に表明している。さらに、一部のOPEC加盟国はOPEC総会等で合意した方針ではなく、米国の方針に基づき行動している旨ザンギャネ石油相が非難していると8月24日に報じられる。他方、8月23日にECがイランに1,800万ユーロ分の支援を実施する旨合意したことに対し、8月24日に米国国務省のフック氏は、そのような支援はイランの従来の行動を維持させることになり、欧州に対しても殺人のための資金を供与することを意味するとして批判した。また、8月25日にイランのザリフ外相は、欧州に対し原油輸出及び金融機関との取引を維持することを要望している旨表明している他、ロウハニ大統領も8月27日に電話会談でフランスのマクロン大統領に対し、核合意を維持すべく欧州の金融や石油に関する取引を継続したり、保険や輸送等のサービスを確保したりするための行動を速やかに実施するよう要請した(マクロン大統領は、核合意におけるイランの核開発制限の期限、弾道ミサイル開発、周辺諸国への関与に関し、改めて協議する必要がある旨説明したとされる)。また、同日(8月27日)イランの革命防衛隊高官が同国はホルムズ海峡を全面的に支配しており、米国の対イラン制裁再発動の際には当該海峡を封鎖する旨示唆したが、これに対し米国のポンペオ国務長官は、ホルムズ海峡は国際水路(つまり、イランの支配下にあるわけではない)であり自由な船舶の航行を確保すると反論している。また、8月30日には国際原子力機関(IAEA)がイランの核開発活動に関する報告書を取りまとめたが、その中では、イランは核合意を遵守し続けている旨指摘されている。他方、イランの最高指導者ハメネイ師は、9月2日にイランは他国と戦争する意思はない旨表明したが、防衛体制を整備するよう革命防衛隊に指示している。
リビアでは、8月26日夜(現地時間)に、トリポリにおいて、敵対する武装勢力間で衝突が発生して以降、戦闘が激化した結果、9月2日には、国連の支援する統合政府はトリポリに対し非常事態を宣言したが、9月4日には、国連が武装勢力間で停戦合意した旨明らかにしている(9月4日までに50名が死亡したと同日伝えられる)。しかしながら、9月10日に武装勢力(イスラム国(IS)と関係していると見る向きもある)がトリポリの国営石油会社NOC本部を襲撃した結果、従業員2名が死亡した(サナラ会長は避難していて無事であった)が、本部や石油ターミナルでの操業は平常通りである旨9月13日までに判明している。
シリアにおいては、反体制派が支配する同国北西部のイドリブ県において、反体制派一掃のためにアサド政権が総攻撃を実施するとの見方が発生していたが、これに対し9月3日に米国のトランプ大統領は、当該攻撃を実施しないよう警告した。そのような中、9月4日にはイドリブ県でロシアが空爆を実施したと伝えられる。9月7日には、イドリブ県へのアサド政権軍による攻撃実施に対し、ロシア、イラン、及びトルコの首脳が会談したが、攻撃を支持するロシア及びイランと攻撃に反対するトルコとの間で議論は平行線を辿った。この後9月8~9日にアサド政権とロシアの軍隊はイドリブ県で空爆を実施しているが、これに対し米国のボルトン大統領補佐官は9月10日に、シリア側が攻撃に際し化学兵器を使用すれば、米国は英国やフランスとともに以前(現地時間2017年4月7日未明及び2018年4月14日未明)よりも強力な措置を講ずる旨表明している。
地政学的リスク要因面では、まずイランを巡る状況が市場関係者の注目するところとなるであろう。これまで、石油市場では、米国及び中国等他の諸国間での貿易戦争、そして発展途上国通貨下落と経済混乱の兆しによる、世界各国の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が発生する中、6月22~23日に開催されたOPEC総会、及びOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合で、事実上の増産が決定され、なおかつサウジアラビアやロシアといった、これまで減産を実施していた産油国が増産に転じる姿勢を明らかにした他、実際に増産に動いている(8月のサウジアラビアの原油生産量は日量1,042万バレルと5月比で同39万バレル増加、ロシアの原油生産量は1,121万バレルと5月比で24万バレル増加)一方で、2018年5月に日量270万バレル程度であったイランからの原油輸出量(コンデンセート含む、推定、以下同様)が、6月は同261万バレルと減少ペースが比較的緩やかに推移しているように見受けられたこともあり、短期的には石油需給の緩和感が市場で醸成されたことが、原油相場の上昇を抑制する格好となっていた。しかしながら、8月16日には7月のイランからの原油輸出量が日量232万バレルに、また、8月22日には、8月前半のイランの原油輸出量が7月に比べ日量60万バレル程度減少した旨明らかになるなど、イランの原油輸出が減少しつつあることが明確になってきている(但し9月2日には、8月全体の輸出量が日量206万バレルと、同月前半ほどペースは加速していないとの情報も流れるなど、イランの原油輸出量に関する情報は錯綜気味である)。このようなこともあり、11月4日のイランからの原油輸入猶予期限に向け、イランの原油輸出がさらに減少するとの観測も市場で発生しやくなってきており、この面でこの先原油相場が下支えされる他、例えば9月前半、もしくは9月全体のイランからの原油供給の相当程度の低下を示す統計類、ないしは石油消費国によるイラン産原油輸入量の低下、もしくはタンカーデータに基づくイラン産原油輸出量の減少を示唆する情報がさらに明らかになるようであれば、原油相場になお一層上方圧力が加わるものと考えられる。
また、ベネズエラによる資産国有化に伴う20億ドルの仲裁金の支払いを巡り、同国国営石油会社PDVSAのカリブ海諸国等での資産を差し押さえていた米国大手石油会社ConocoPhillipsは、8月20日に、PDVSAから当該仲裁金の支払いを受けること(頭金約5億ドル、残りを4年半で支払い)でPDVSAと合意した。他方、ベネズエラの原油生産量は5月の日量136万バレルが8月は同124万バレルと減少ペースがやや鈍化しているように見受けられる。しかしながら、同国経済は好転しているわけでもなく、今後も同国の原油生産が減少していくと見られることから、この面では原油相場を押し上げる場面が見られることはあっても、押し下げる要因とはなりにくい。さらに、超重質油の流動性向上のために混合するナフサをベネズエラに輸送するギリシャ船籍タンカーが同国ホセ(Jose)石油ターミナルの埠頭に衝突した(8月25~26日辺りに発生したものと見られる)結果、同石油ターミナルからの原油輸出能力が低下しているとされる。PDVSAは近隣のプエルト・ラ・クルツ(Puerto La Cruz)港に石油輸送船舶の振替を行う意向であると8月31日に伝えられるが、その際に隘路が発生するようだと、ベネズエラの超重質原油希釈用ナフサの輸入、そして原油輸出が制約を受けることにより、石油需給の引き締まり感が市場で発生することから、原油相場に上方圧力を加えるといった展開も想定される。
さらに、リビアにおいても、トリポリで武装勢力間での戦闘が発生している。9月4日には国連が停戦を宣言、9月9日には武装勢力間で停戦を維持する旨合意したと国連リビア支援ミッション(UNSMIL)が明らかにしているが、同国中部石油ターミナルにおける敵対する武装勢力による戦闘(6月14日に報じられる)、7月14日の同国南西部のSharara油田での従業員誘拐と操業停止など、同国の情勢は不安定な状況が続いていることにより、同国の原油生産が増加しても、市場の不安感を即座に払拭するには不十分であるものと見られることから、当面この面では原油価格に下方圧力が加わりにくく、また国内情勢不安定化した場合には、石油供給途絶懸念が市場で発生することにより、原油相場が上昇する場面が見られることも想定される。
また、イラクにおいても原油生産の中心地である南部バスラ地域で住民が抗議行動を行っている。現時点では油田での生産には影響を与えていないようだが、今後の展開によっては原油相場を振幅させる可能性もある。
このように、地政学的リスク要因面では、この先少なくとも原油相場を下支えする他、石油供給途絶懸念を市場で増大させるような事象が発生した場合には、原油相場に上方圧力を加えるといったことが起こりうるものと考えられる。
米国では、9月25~26日にFOMCが開催される予定である。9月16日時点においては、政策金利(現状1.75~2.00%)を2.00~2.25%へと引き上げるとの確率が94.4%であると市場では見られている。また、12月18~19日に予定されているFOMCでは、さらに金利が2.25~2.50%へと引き上げられる確率が75.9%あると予想されるなど、金利引き上げが継続していくとの観測が市場で根強い。加えて、9月7日にトランプ大統領が事実上中国からの輸入品全てに対し即時関税を賦課する用意がある旨表明するなど、米国と中国との間での貿易戦争(関税賦課合戦)は、激化する方向に向かう可能性がある他、米国はカナダとの間でもNAFTAを巡る再交渉を継続しており、こちらの方も予断を許す状況にはない。他方、トルコやアルゼンチン、そして南アフリカでも経済が混乱し始めており、通貨が下落している。このように米国での金利引き上げ観測に加え、世界経済の各所で経済に対する不透明要因が現出し始めていることもあり、金融市場関係者間でリスク許容度の縮小(いわゆる「リスク・オフ」)が発生する結果、米ドルが上昇する状況が続きやすいと見られることから、この面では原油相場に下方圧力を加えてくるものと考えられる。また、欧州や中国等での経済指標類の内容等によっても、米ドルや中国経済及び石油需要に対する観測を市場で発生させる結果、原油相場に影響が及ぶこともありうる。また、10月に入ると主要米国企業の2018年7~9月期業績等が発表され始めるが、その内容によっては、米国経済に対する見方が市場で変化するとともに、それが株式相場や米ドルに反映されることを通じ原油相場にその影響が織り込まれる可能性がある。
米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了した。ただ、冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房用石油製品需要期が市場の視野に入り始めるのは10月中旬頃以降となる。このため、当面はガソリン需要が低下する反面、暖房用のLPGや留出油需要が盛り上がらないこともあり、製油所の秋場のメンテナンス作業の実施と相俟って稼働及び原油精製処理活動が低下する結果、原油の購入が不活発になってくる。そして、このような季節的な需給の緩和感が市場で醸成されることにより、原油価格の上昇が抑制される可能性がある。他方、米国では、現時点でのシェールオイル生産の中心地であるパーミアン盆地(テキサス州西部からニューメキシコ州にかけての地域に賦存)での原油生産量(2018年9月見通しで日量342万バレル)に対し、当該地域から地域外へと原油を流出させるパイプライン等の能力(日量350~360万バレル程度とされる)が追いつかなくなりつつある(主要原油パイプラインによるさらなる能力増強は早くても2019年半ば頃と言われている)ことから、販売量の伸びの鈍化懸念の下、当該地域でのシェールオイル開発活動が減速するとともに、石油坑井掘削装置稼働数が伸び悩むといった展開が発生しうる。この面では原油相場に上方圧力を加えることも予想される。
大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入しており(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)、特に8月後半以降10月前半迄は1年で最もハリケーン等が発生しやすい時期となる。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設(当該地域では2017年は日量175万バレルの原油を生産した)や原油等を積載したタンカーの航行に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入港湾施設や製油所の活動に支障が発生したり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じ操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業が停止すること等により米国の原油輸入に影響を与えたりする(2017年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した)。またハリケーン等の暴風雨が米国北東部に向かうこともありうるが、当該地域は人口密集地帯を抱えており、暴風雨の到来により、住民が自動車による外出を控える結果、ガソリンの需要が抑制されるといった展開となることもありうる。7月31日に発表されたコロラド州立大学の予想(改訂版)では、2018年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりもやや不活発な暴風雨の発生となる旨以前の予想から下方修正されている(表1参照)。それでも、例えば、9月上旬には熱帯性低気圧「ゴードン」が米国メキシコ湾地域に来襲している。「ゴードン」は当初見込みよりも進路が東向きに逸れたため、沖合の油田操業(そして原油生産)への影響は限定的であったが、それでも、原油相場に影響を及ぼす場面が見られた。また、9月中旬にはハリケーン「フローレンス」が米国南東部に来襲した。この際には、ハリケーンから避難する住民が自動車を使用することでガソリン需要が盛り上がるとの観測が市場で発生したり、米国メキシコ湾岸から北東部へと石油製品を輸送するパイプラインの操業が影響を受けるとの懸念が市場で強まったりしたことにより、ガソリン価格が上昇するとともに原油価格に上方圧力が加わる場面が見られた。今後も暴風雨発生に反し当該地域で暴風雨が活発に発生し、それが米国メキシコ湾沖合の油田地帯、もしくはメキシコ湾岸等の石油関連インフラ等の操業を脅かしたり、米国のガソリン消費地に暴風雨がもたらされることにより石油需要が抑制されたりする結果、原油価格に影響が及ばないとも限らないので、今後もハリケーン等の実際の発生状況やその進路、勢力、そしてその予報等には注意する必要があろう。
今後もイランやベネズエラからの原油供給の減少が継続するとの懸念が市場で根強いことから、この面では当面原油相場が下支えされる他、両国の原油供給に関する情報等によっては、原油相場が上昇する場面が見られる可能性がある。また、リビア等それ以外の産油国においても、政情不安に関する情報によっては、原油相場に影響が及ぶ場合がありうる。他方、夏場のガソリン需要期終了に伴う季節的な需給緩和感や米国及び中国をはじめとする経済情勢によっては、原油相場に下方圧力を加えることもありうるが、それらは一時的なものである(季節的な需給緩和感)か、実際に影響が及ぶまでに時間を要する(経済減速と石油需要の伸びの鈍化)こともあり、地政学的リスク要因による石油供給の影響のほうが需要面での影響に比べ早期に、かつ大きく市場に現れやすいことから、この面では需要に関する心理的な側面から原油相場が下落したとしてもその程度は限定的なものにとどまる反面、供給面では原油相場が下支えされるか要因によっては上振れするといった展開となる可能性が相当程度あるものと考えられる。
4.2019年に向けた世界石油市場に対する関係者の見方等
IEAは2018年6月13日に、OPECは7月11日に、それぞれ初めて2019年の世界石油需給見通しの詳細を発表した。ここでは、既に1月9日に2019年見通しの詳細を発表しているEIAを含め2019年の世界石油需要及び供給見通し等の特徴などにつき述べることとしたい(なお、データは原則、IEAが9月13日、EIAが9月11日、OPECが9月12日に、それぞれ発表したもの(つまり最新のもの)に基づくものとする)。
まず、需要面であるが、2019年の世界石油需要は、前年比で日量141~147万バレル程度の増加を見込む(IEAが同147万バレル(前年比1.5%)、EIAも同147万バレル(同1.5%)、OPECが同141万バレル(同1.4%))の、それぞれ増加)(図16参照)。世界的に堅調な経済成長とともに、石油化学産業の発展が石油需要の成長を支持すると見られている。また、世界石油需要の伸びの中心は非OECD諸国である(図17及び18参照)。OECD諸国での石油需要の伸びの中心は米国であり、ガソリン、ジェット燃料及びNGLの需要が伸びるが、増加規模は限定されると認識されている。NGL需要の増加の大部分は石油化学部門でのエタン利用の増加である。米国では新規のエチレン生産装置が建設中で2018年後半から2019年にかけ稼働を開始することから、2019年にかけ当該需要が拡大すると考えられている。また、個人可処分所得の増加と雇用水準の上昇で、2019年は自動車運転距離数が適度に拡大(つまりそれはガソリン需要増加と解釈できる)すると予想されている。さらに、可処分所得の増加に伴う航空旅行の機会増大がジェット燃料消費の拡大に貢献するとの見方もある。
中国の石油需要増加はガソリンとジェット燃料が先導すると見られている。また中国の石油化学部門での消費の増加も予想されているが、これは稼働する石油化学プラント数が増加することによりプロパン需要が拡大することによる。インドでは金融財政政策の変更に伴う経済混乱(2016年11月8日に発表された紙幣交換を実施する際の新紙幣供給不足)もあり、2017年は経済成長と石油需要の伸びが抑制されたが、その影響がなくなる2018及び2019年は経済が回復することもあり石油需要は堅調な伸びに戻る。さらに中東もサウジアラビアが原油の直接燃焼を発電所で実施することが需要拡大に寄与すると示唆している。また、中東では経済が成長することもあり、特にサウジアラビアで、石油化学用原料と建機稼働のための燃料に加えガソリン、自動車用軽油を中心として石油需要が増加すると予想されている。他方、中南米ではブラジルでの石油需要増加が寄与すると考えられている(背景には経済成長(同国国営石油会社Petrobrasの汚職問題の影響もあり同国の2017年の経済成長率は1.0%にとどまったのに対し2018~19年は2.3~2.5%程度の成長に回復する見込み)があるものと見られる)。
ただ、IEAのように発展途上国における対米ドルでの自国通貨価値下落による石油輸入価格の上昇や、貿易戦争の激化に伴い、経済成長上のリスクが顕在化すれば、石油需要に影響する恐れがある旨示唆する機関もある。
次に非OPEC産油国による石油供給であるが、2019年は、前年比で日量184~215万バレル程度の増加になると見込まれている(IEAが同184万バレル(前年比3.1%)、EIAが同199万バレル(同3.3%)、OPECが同215万バレル(同3.6%)の、それぞれ増加)(図19参照)。これは増加量で見ても増加率で見ても、IEA及びEIAが2018年よりも伸びが鈍化と見ている一方で、OPECは伸びが加速することを示している(2018年は、IEAが同201万バレル(前年比3.5%)、EIAが同231万バレル(同4.0%)、OPECが同202万バレル(同3.5%)の、それぞれ増加)。そしてその伸びに影響を与えている主要構成要素は米国である。2019年の米国の石油生産量は前年比で日量123~138万バレルの増加と予想されているが、IEAが同123万バレル(前年比8.2%)、EIAが同125万バレル(同7.1%)の伸びと見ているのに対し、OPECが同138バレル(同8.6%)他の2機関に比べ米国の石油供給が伸びると見込んでおり、これが非OPEC産油国の石油供給の伸びの相違に反映されているものと考えられる(図20参照)。
米国での主な増産地域はパーミアン盆地に加え、バッケン、イーグル・フォード、米国メキシコ湾等である。パーミアン盆地は良好な地質と技術的・操業的な改善で最も経済的な原油生産地域になるとされる。しかし、2019年は2018年の伸びに比べると鈍化すると考えられており、その背景には当該地域でのパイプラインの能力上の制約から、地域の原油生産者の井戸元価格が2019年第三四半期にかけ抑制されることにより、生産を鈍化させる方向で作用すると認識されていることがある。パーミアン盆地での輸送等インフラ能力は2019年半ば頃までは大きく改善される可能性は低いと見られる。加えて、労働力不足、道路渋滞、水処理上の制約も生産拡大ペースの減速に寄与するものと考えられている。それでも、当該地域での原油生産の増加が、2019年の米国での原油生産増加を牽引すると予想されている。これは、当該地域での生産者の多くが50ドル台半ばの価格水準で採算を確保できる旨明らかにしていることもあり、生産された原油を、より高コストの方法で米国メキシコ湾岸地域に輸送するといった方策を採用しうることが一因であるとされる。他方、一部の生産者は、石油資産に対する投資をパーミアン盆地からバッケン等他の地域に移行させるかもしれないとしている。
米国メキシコ湾では2018年には10の新規プロジェクトが生産を開始し、2019年もさらに7の新規プロジェクトが生産を開始すると予想されており、これらの油田での増産や新規生産開始が当該地域での原油生産増加に寄与するものと考えられている。この中には、既に2018年2月5日に生産開始を発表したStampedeプロジェクト、2018年5月31日に生産が開始されたKaikias油田(第一期)があるが、さらにBig FootプロジェクトやAppomatoxプロジェクトでも生産が開始されると見込まれており、もし実現すれば、2019年は米国メキシコ湾の生産量は史上最高水準に到達すると見られている。
他方、アラスカの生産は維持されるものと考えられている。2017年11月に1H Newsプロジェクトで原油の生産を開始し、また2018年遅くにはGreater Moose’s Tooth 1プロジェクトが生産を開始する予定であることで、近年の当該地域の原油生産減少傾向を抑制すると見られている。
そして、シェールオイル等の供給増加により、2018年6月及び8月は米国の原油生産量がロシアのそれを超過しており(既に2018年2月にサウジアラビアの原油生産量を超過している)、2018年の残りの期間、及び2019年に向け世界最大の原油産出国となる状態が継続するであろう旨EIAは指摘している。
天然ガス処理施設におけるNGLの生産量は、米国での天然ガス生産と処理施設能力の拡大に沿って増加すると見られる。ただ2017年から2019年にかけてのNGL生産の増加の半分超はエタンの生産増加であり、これは米国内外の石油化学工場での原料としてのエタン需要の拡大による天然ガスからのエタン回収率の上昇による。
カナダでは、オイルサンドが供給増加に貢献する。Fort Hillsプロジェクトが2018年遅くに生産を開始、2019年にはさらに生産が増加する予定である。また、在来型油田ではHebron油田の生産が2019年に増産する見込みであり、これも同国での石油供給拡大に寄与すると考えられる。しかしながら、カナダでは新規プロジェクトが減速することや、輸送能力上の問題が発生すると見られることもあり、生産増加ペースは鈍化するとIEAやEIAは見込んでいる(図21参照)。
ブラジルでは、既に2018年5月にAtlanta重質油田とBuzios油田のP-74FPSO施設で生産開始した他、Tartaruga Verde et Mestica油田は6月末に生産を開始した。また2018年には、Berbigao(Lula)油田のP-67(但し2019年1月に遅延する可能性がある)及びP-69、及びBuzio油田のP-75及び76が生産を開始する予定である。2019年にはBerbigao(Lula)油田のP-68、Buzio油田のP-77、Atapu油田のP-70で生産が開始される予定であり、これら油田の生産増加がカンポス盆地での生産減退を相殺して余りある状態であると見られている(図22参照)。
ロシアでは、西シベリアを中心とする地域のTagulskoye(2018年11月生産開始予定)、やRusskoye(2018年12月生産開始予定)、Srednebotoubinskoye(同)、Messoyakhinskoye(2019年生産開始予定)、及びUvat油田群(同)といった油田で、2019年に生産が開始、もしくは増加すると見られる他、東シベリアのYurubcheno-Tokhomskoyeも早ければ2019年に生産が開始される可能性があり、これらにより、少なくとの同国の石油生産は増加すると予想されている。但しOPECはこれらの増産が既存の老朽化油田による減産により相殺されることから、2019年の石油供給増加量を保守的に見込んでいるようである(図23参照)。
このように、2019年は米国、カナダ、ブラジル等での増産が、他の一部非OPEC産油国(新規プロジェクトが欠如していたり既存油田での生産量が減少したりしている、エジプト、インドネシア、ノルウェー、メキシコ、及び中国等を含む)の減産を相殺すると予想されている。
他方、OPEC産油国のNGL石油供給はイランとカタールが伸びを牽引すると見られている。ただ、OPEC産油国では、今後18ヶ月間原油生産能力に関する新規の増加は殆どないとIEAは見ており、日量24万バレル程度の生産能力増加は2015年以来停止している中立地帯の油田の操業が再開されることに伴うものである他、イラク及びUAEで若干ながら能力が増強されることによる。他方、ベネズエラの原油生産量は減少が継続すると予想されているが、これはPDVSAとベネズエラ政府の財務状況がより危機に瀕するためと見られている。
そして、世界石油需要から非OPEC産油国石油供給とOPEC産油国のNGL供給等を差し引いた、いわゆる対OPEC原油需要等(「Call on OPEC」、但しこれには在庫変動も含まれる)は、2019年については、IEAが日量3,190万バレル、EIAが日量3,212万バレル、OPECが同3,205万バレルになると予想しており、これはいずれも2018年に比べると減少している(IEAが前年比で日量44万バレル、EIAが同66万バレル、OPECが同85万バレルの、それぞれ減少)(図24参照)。非OPEC産油国による石油供給等の伸びが世界石油需要のそれを超過していることが、対OPEC原油需要等を低下させる一因となっている。これに対し2018年8月現在のOPEC産油国原油生産量はIEAで日量3,263万バレル、EIAで同3,256万バレル、OPECで3,232万バレルとなっている。従って、OPEC産油国が現状の原油生産量を維持するのであれば、2019年の世界石油需給は概ね均衡状態近辺で推移するものと考えられる。しかしながら、OPEC産油国の中でも、イランやベネズエラの原油供給は今後減少することが予想される。このため、サウジアラビア等の中東湾岸産油国がイラン等の供給減少を穴埋めしなければならず、その分だけOPEC産油国の余剰生産能力は減少するものと考えられる(OPEC産油国の原油生産能力は2019年においては殆ど増強されないため)。また、世界にはイランやベネズエラ以外にも、リビア等他の産油国でも政情不安定により原油生産に影響を及ぼすリスクを抱えている。さらに、その他の産油国でも油田労働者のストライキや油田関連施設が故障してしまうことにより、原油生産上の支障が発生することも否定できない。このようなことから、2019年においては、世界石油需給の引き締まり感が市場で増大するか、もしくは余剰生産能力の減少に伴う世界石油供給上の余裕のなさを市場が感じる度合いが強まるかすることにより、原油相場に上方圧力を加えるといった展開となることが排除できないものと考えられる。これに対し、米国のシェールオイルの増産がどこまで上振れされるか、といったことが、当面の市場での注目点となるものと考えられる。
以上
(この報告は2018年9月18日時点のものです)