ページ番号1007606 更新日 平成30年9月19日

アルゼンチン:経済状況悪化によるVacaMuertaシェール開発への影響

レポート属性
レポートID 1007606
作成日 2018-09-19 00:00:00 +0900
更新日 2018-09-19 11:56:26 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 非在来型探鉱開発
著者 舩木 弥和子
著者直接入力
年度 2018
Vol
No
ページ数 8
抽出データ
地域1 中南米
国1 アルゼンチン
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,アルゼンチン
2018/09/19 舩木 弥和子
Global Disclaimer(免責事項)

このwebサイトに掲載されている情報は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

※Copyright (C) Japan Oil, Gas and Metals National Corporation All Rights Reserved.

PDFダウンロード751.0KB ( 8ページ )

概要

  1. エネルギー省は「アルゼンチンのエネルギーの過去・現在・未来」を発表、その中で、Vaca Muertaシェール層の開発を進めることで、2023年までにアルゼンチンの石油生産量を100万b/d、天然ガス生産量を238MMm3/dに倍増させ、石油50万b/d、天然ガス100MMm3/dを輸出するとした。Vaca Muertaシェールでは現在30社以上が探鉱・開発中で、コスト削減も進んでおり、エネルギー省は、同シェールの損益分岐点は石油が40~50ドル/bbl、ガスが3.50ドル/MMBtu以下になるとみている。
  2. VacaMuertaシェールの開発は、コストが高いことが問題とされ、進展が遅く、生産量もまだ少ないが、連邦政府が石油会社、Neuquén州政府、労働組合と、非在来型ガスの井戸元価格を高く設定することなどで合意したこともあり、石油会社はVacaMuertaシェールへの投資を進めるようになってきた。
  3. 2018年4月下旬以降、アルゼンチンの経済状況が悪化している。しかし、これまでのところ、アルゼンチンの経済危機により、Vaca Muertaシェールの石油・ガス生産増加のペースが鈍るような兆候は表れていない。しかし、中央銀行が政策金利を引き上げたことで資金調達は難しくなり、現在の為替レートでは資機材の輸入コストが増大していると考えられ、石油会社が投資ペースを遅らせるのではないかとの懸念は高まっている。さらに、経済活動が停滞し、Macri政権の支持率が低下、2019年10月の大統領選挙でMacri大統領が敗れ、政権が交代、石油・ガス関連の政策が変わり、Vaca Muertaシェール探鉱・開発の行方にも大きな影響を与える可能性もありうる。

1.政府の石油・ガス生産見通し

アルゼンチンのエネルギー省は2018年8月に「アルゼンチンのエネルギーの過去・現在・未来(Pasado, presente y futuro de la energía en Argentina)」と題するレポートを発表した。この中で、エネルギー省は、非在来型資源の大規模かつ責任ある開発と再生可能エネルギーの導入によって、豊富でクリーンで手頃な価格のエネルギーをアルゼンチンに提供し、さらにアルゼンチンを「世界にエネルギーを供給する国」に変化させ、中小企業、産業、運輸の発展のために競争力のあるコストを実現するとのビジョンを示している。そして、今後5年間で石油、天然ガス生産量を現在の48.8万b/d、132MMm3/dから倍増させ、それぞれ100万b/d、238MMm3/dとし、石油50万b/d、天然ガス100MMm3/dを輸出することなどを中期目標に掲げている。さらに、同レポートによると、2030年にはアルゼンチンの石油生産量は150万b/dに、天然ガス生産量は400MMm3/dに増加する見通しである。エネルギー省は2017年12月時点では、2030年までに石油生産量が75万b/d、ガス生産量が200MMm3/dに増加するとの見通しを発表していた。

図1.アルゼンチンの石油生産見通し

図2.アルゼンチンの天然ガス生産見通し

2017年6月と2018年6月の生産量を比較してみると、アルゼンチン全体の石油生産量は5%しか増加していないのに対し、シェールオイル生産量は54%増加し4.8万b/dとなっている。天然ガスについても同期間にアルゼンチン全体の生産量は8.2%の増加となっているのに対し、シェールガス生産量は162%増加し20MMm3/dとなっている。エネルギー省は、今後も引き続きVacaMuertaシェールからの生産が、アルゼンチン全体の生産を牽引するとの見方を示している。

そして、Vaca Muertaシェールと米国のシェール層を比較、Vaca Muertaシェールは有機物の含有率TOCが3~10%、層厚が30~450m、地層圧力が4,500~9,500psiで、TOC3~5%、層厚30~100m、地層圧力4,500~8,500psiのEagle Fordに類似しているとしている。

表1.Vaca Muertaシェールと米国のシェール層の比較

Vaca Muertaシェールでは現在30社以上が探鉱・開発中である。2017年には14鉱区がパイロットフェーズ、Loma Campana、El Orejano、Aguada Pichena Este、Fortin de Pierdaの4鉱区が一歩進んだフルスケールの開発段階であったが、2018年末までには25鉱区がパイロットフェーズ、上記4鉱区にLa Amarga Chicaを加えた5鉱区が開発段階となる見通しであるとエネルギー省は見ている。

Loma Campana鉱区でシェールオイルを生産するコストは、2015年には開発コストが26.9ドル/boe、Opexが16.4ドル/boeであったが、削減が進み、2018年上半期にはそれぞれ11.9ドル/boe、6.9ドル/boeとなっている。El Orejano鉱区でシェールガスを生産するコストも、2016年には開発コストが2.3ドル/MMBtu、Opexが2.1ドル/MMBtuであったが、2018年上半期には0.9ドル/MMBtu、0.8ドル/MMBtuと下がってきている。このようにコスト削減が進められていることにより、エネルギー省は、Vaca Muertaシェールの損益分岐点は石油が40~50ドル/bbl、ガスが3.50ドル/MMBtu以下になるとみている。

図3.Vaca Muertaシェールの開発コスト、OPEX

そして、生産量が増加する結果、アルゼンチンは、2019年には原油輸入、2023年にはLNG輸入、2027年にはボリビアからのパイプラインガス輸入を停止し、前述した通り2023年には石油50万b/d、ガス100MMm3/d、2030年には石油89.5万b/d、ガス170MMm3/dを輸出できる見通しであるとしている。パイプラインによるチリ向けのガス輸出量は2019年に10MMm3/d、2022年には30MMm3/d、ブラジル向けのガス輸出量は2019年に3MMm3/d、2022年に9MMm3/d、2025年には30MMm3/dに達する見通しであるという。また、LNG輸出は2023年に40MMm3/d、2024年に80MMm3/d、2025年に120MMm3/dとなる見通しとしている。

同レポートは、パイプライン敷設や拡張への投資額は、2017年に約8億ドル、2018年に約6億ドル、2019年に約10億ドル、2020年に約8.5億ドル、2021年に約7.5億ドル、2022年約3億ドルとなるとしている。その結果、Vaca Muerta~Rosario間に2022年までに送ガス能力最大35MMm3/dのパイプラインが敷設され、VacaMuerta~Buenos Aires、Neuba間のパイプラインの送ガス能力が45MMm3/dに倍増されるとしている。

このエネルギー省のレポートについては、生産や輸出に関する見通しが楽観的であるとの見方をする向きが多い。ただし、それはVacaMuertaシェールの規模や質についての問題ではなく、パイプライン、処理プラント、道路等インフラ建設のボトルネックやリグ、サービス会社の不足によるものであるとみられている。

2.VacaMuertaシェールの主な鉱区の状況

VacaMuertaシェールの開発は、これまでコストが高いことが問題とされ、進展が遅く、生産量も2018年6月のシェールオイル生産量が4.8万b/d、シェールガス生産量が20MMm3/dとまだ少ない。しかし、2017年1月に連邦政府が石油会社、Neuquén州政府、労働組合と、Neuquén Basinで生産され国内市場に供給される非在来型ガスの井戸元価格を国際市場価格より高く設定、インフラを整備、投資額を増やすことに合意したことやコスト削減が進みつつあることなどから、石油会社はVacaMuertaシェールへの投資を行うようになってきた。表2に示す通り、YPFを筆頭に、Shell、Total等メジャーズを含むIOCがVacaMuertaシェールで開発を進める方針を示している。

図4.Neuquén州主要鉱区図

表2.VacaMuertaシェール主な鉱区の状況

鉱区

企業

開発状況、計画

ピーク生産

Loma Campana YPF 50%
Chevron 50%
2013年よりフルスケールの開発を実施。
生産量を2018年上半期の4.3万boe/dから
2024年には10万boe/dに引き上げる計画
9万b/d
El Orejano YPF 50%
Dow 50%
2016年よりフルスケールの開発を実施 6MMm3/d
Aguada Pichana Este Total 40%
Wintershall 22.5%
YPF 22.5%
Pan American Energy 15%
在来型Aguada Pichana、
Aguada Pichana Norteガス田が1996年より生産中。
2014年からシェールガスのパイロットプロジェクト実施、
2017年からフルスケールの開発
29MMm3/d
Fortin de Piedra Tecpetrol 100% 2016年よりパイロットプロジェクト、
2017年よりフルスケールの開発実施中
20MMm3/d
La Amarga Chica YPF 50%
Petronas 50%
2015年よりパイロットプロジェクト実施中。
2018年中にフルスケール開発に移行
6.5万b/d
Bandurria Sur YPF 100% 2017年にSchlumbergerがYPFから鉱区権益49%を
3.9億ドルで取得することでMOU締結。
2015年よりパイロットプロジェクト実施。
YPFはLa Amarga Chica鉱区の次に同鉱区を
フルスケール開発に移行する計画
6.5万b/d
Cruz de Lorena-Sierras Blancas Shel l 50%
O&GDevelopment 40%
GyP Neuquen 10%
2015年よりパイロットプロジェクト実施。
2019年にフルスケールの開発に移行する計画
10万b/d
Bajada de Palo Vista Oil & Gas 100% 2018年よりパイロットプロジェクト実施 7万b/d
Aguada Pichana Oeste Pan American Energy 45%
YPF 30%
Total 25%
2018年にパイロットプロジェクト開始 18MMm3/d
La Calera YPF 50%
Pluspetrol 50%
2018年8月末にパイロットプロジェクト開始 8MMm3/d
Bajada de Anelo Shell 50%
YPF 50%
2018年にパイロットプロジェクトを開始 5MMm3/d

出所:各種資料を基に作成
ピーク生産はPasado, presente y futuro de la energía en Argentinaによる

3.経済状況悪化によるVacaMuertaシェール開発への影響

2015年12月に成立したMacri政権は、外貨取引規制の緩和を実施、国際金融市場への復帰を果たし、輸出入規制や補助金交付などの貧困層へのバラマキ政策を取りやめ、経済開放、財政再建を推し進めてきた。2017年の同国の実質GDP成長率は2.9%となり、同政権の経済政策に対する評価は高かった。石油・ガスに関しても、前述した通り、連邦政府は2017年1月に石油会社やNeuquén州政府、労働組合と、Neuquén Basinで生産され、国内市場に供給される非在来型ガスの井戸元価格を国際市場価格より高く設定、インフラを整備、投資額を増やすことに合意、VacaMuertaシェール開発をバックアップしていた。

ところが、2018年4月24日に米国の長期金利が3%台を付けて以来、アルゼンチンから資金が流出、アルゼンチン通貨ペソが急激に下落することとなった[1]。政府は通貨防衛のためドル売り、アルゼンチンペソ買いを続けた。外貨準備高は2018年1月の567億ドルから、4月には508億ドル、5月には447億ドルと減少した。インフレも進んでおり、民間エコノミストの予想では、2018年のインフレ率は40.3%となっている[2]。このような状況を阻止するため、アルゼンチンは5月8日にIMFへ借款を要請、6月7日に3年間にわたり500億ドルを借り受ける合意を取り付けた。しかし、ドル買い、ペソ売りの流れを逆転させることはできず、6月20日、IMFからの150億ドルの融資実行、8月29日にはIMFに500億ドルの融資を前倒しするよう要請した。また、アルゼンチン中央銀行は利上げを実施、27.25%であった政策金利を4月27日に30.25%、5月3日に33.25%に、5月4日に40%、8月13日に45%、8月30日に60%とした。

9月3日にはMacri大統領が、2019年に財政均衡を達成するための緊急財政再建策を発表した。財政均衡が発展への唯一の道とし、市場から新たに資金を調達することなく予算を60億ドル切り詰め、2020年にGDPの1%相当(52億ドル)の財政黒字を実現するという内容だ。2019~20年には、原材料とサービスは輸出1ドルに対して4ペソ、その他は3ペソの輸出税が課される。天然ガスや石油製品も輸出税の対象とされ、輸出税によって政府は財政赤字を1.1%減らし、2018年に680億ドル、2019年に2,800億ドルの税収増を見込む。それにより国債発行を減らし、国際市場への依存度を下げるとしている。財政均衡回復のため19ある省を10にまで減らすことを決定、エネルギー省は経済・エネルギー省に再編されることとなった[3]

アルゼンチンの経済危機により、Vaca Muertaシェールの石油・ガス生産増加のペースが鈍るような兆候は今のところ表れていない。アルゼンチンの2018年1~7月の天然ガス生産量は対前年同期比4.9%増、うちシェールガスは150%増、タイトガスは8.5%増、原油生産量も1.9%増、うちシェールオイルは34.1%増、タイトオイルは44%増となっている[4]。石油会社も、上記の通り、アルゼンチン、特にVaca Muertaシェールの増産を進めようとしている。政府はVaca Muertaシェールの石油・ガス生産量が増加し、その結果、石油・ガス輸出量が増加、貿易黒字を生み、経済が回復することを期待している。

しかし、経済状況の悪化により、石油会社が投資計画を維持することを思いとどまるのではないかとの懸念は高まっている。中央銀行が政策金利を60%に引き上げたことで、国内で資金調達を行うことは非常に厳しくなり、石油会社は資金不足から十分な投資が行えなくなって、生産量が減少する可能性がある。また、現在の為替レートでは資機材の輸入コストが増大し、シェール開発に必要な資機材の輸入に影響を及ぼすこともありうる。さらに、財政引き締めやインフレ対策により、インフラ投資が削減され、雇用状況が悪化、経済活動が停滞し、Macri政権の支持率が低下、2019年10月の大統領選挙でMacri大統領が敗れ、政権が交代、石油・ガス関連の政策が変わり、Vaca Muertaシェール探鉱・開発の行方にも大きな影響を与える可能性もありうる。経済状況の行方とともに、VacaMuertaシェールの開発状況を注視していく必要があろう。

 

[1] 2018年4月末には1ドル=約20ペソであった対ドル相場は、6月末には約29ペソ、8月末には約39ペソとなっている。

[2] JETRO website https://www.jetro.go.jp/world/cs_america/ar/basic_03.html

[3] 中南米経済速報, 20180910

[4] LatAmOil, 20180911

以上

(この報告は2018年9月14日時点のものです)

アンケートにご協力ください
1.このレポートをどのような目的でご覧になりましたか?
2.このレポートは参考になりましたか?
3.ご意見・ご感想をお書きください。 (200文字程度)
下記にご同意ください
{{ message }}
  • {{ error.name }} {{ error.value }}
ご質問などはこちらから

アンケートの送信

送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。