ページ番号1007615 更新日 平成30年9月28日
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概要
- 米国は9月24日以降、中国から輸入する2,000億ドル相当の製品に10%の追加関税を賦課することを決定し、一方の中国はLNGを含む600億ドル相当の米国からの輸入製品に最大10%の追加関税を賦課することを決定した。これまでの措置により、米国が中国から輸入する製品の5割、中国が米国から輸入する製品の8割に追加関税が賦課されることになる。
- 中国は6月の時点では米国産原油を追加関税の対象としていたが、8月に対象から外した。ベネズエラ原油の供給減や地政学リスクの上昇による供給の不確実性が高まる中、米国原油を対イラン原油の交渉材料と考えていると噂されている。原油が対象から外れた一方で、中国はこれまで追加関税の対象から外していたLNGを8月に対象に加えた。
- 米原油が追加関税から除外されLNGが追加された背景として、中国は米国との貿易摩擦が長期化することを覚悟し、2017年に米国と合意したLNG輸出促進を含む「100日計画」やアラスカLNG を含む投資取り決めを白紙撤回すると決め、LNGを追加関税の対象に加えたと考えられる。また、2020年頃までは世界のLNG供給が増加(2018年以降約1億トン増加、その6割が米国産LNG)し、短期的には需給に比較的ゆとりがあることも影響している可能性がある。
- もっとも、習近平主席は国有石油企業に原油・天然ガスの探鉱強化、増産を指示しており、中国国内においてエネルギーセキュリティ意識が高まっていると見ることも可能だ。
- 中国が米LNG輸入に追加関税を課すことにより、米LNGサプライヤーや、中国の需要を取り込み、最終投資決定を目指す米LNGプロジェクトに影響が出ると見られる。米国産LNG輸入は今後落ち込む見通しで、PetroChinaはパプアニューギニアやカタールと相次いでLNG売買契約を締結している。またロシアのArctic LNG-2への参加や滞っている西シベリアからの天然ガスパイプライン輸入計画についても協議を行っていると伝えられる。
- 米中貿易摩擦の長期化は、中国のエネルギー供給源多様化戦略の後退と事業者のコスト増大につながる可能性がある。一方、米LNGのサプライヤーも市場拡大が見込まれる対中LNGマーケティングを進めることができないため、ロシア、カタール、豪州などの新規LNGプロジェクトに対し後手に回ることになるかもしれない。
- エネルギー投資にも影響が生じそうである。米国で8月13日に成立した2019年度の国防権限法(NDAA)において海外勢による対米投資を安全保障の観点から審査する米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する規定が盛り込まれた。中国側がプロジェクトの75%を融資(合意)するとしたアラスカLNGプロジェクトへの投資が白紙撤回される可能性がある。
本稿は「米中貿易摩擦の中国のエネルギー調達への影響」(2018年7月25日)の続報
1.8月以降の米中貿易摩擦を巡る主な動き
中国の米国からのエネルギー輸入は、2017年に米中首脳が貿易不均衡是正に合意して以降増加していた。しかし米中の貿易摩擦は長期化の様相を呈しており、エネルギー貿易、投資に影響が出始めている。7月以降の米中貿易摩擦、追加関税賦課を巡る主な動きは以下の通りである(表1参照)。
【追加関税第2弾】
8月7日、米国は中国から輸入する製品(160億ドル相当)に8月23日から追加関税(税率25%)を賦課すると発表し、23日に発動した。8月8日、中国商務部は8月23日から2次リスト(160億ドル相当)の米国から輸入する製品に追加関税(税率25%)を賦課すると発表し、23日に発動した。6月16日の発表時にはリストに含まれていた原油が対象リストから外れた。
【追加関税第3弾】
8月2日、米通商代表部(USTR)は追加関税第3弾の2,000億ドル相当の中国から輸入する製品への追加関税率について7月10日公表時の10%から25%に引き上げるとの方針を示した(その後米国側は9月24日からの賦課に際し追加関税率を10%に戻したが、中国との交渉に進展が見られない場合、2019年1月から追加関税率を25%に改めて引き上げるとの方針を示している)。これに対し中国商務部は8月3日にLNGや小型飛行機、鉄鉱石など5207品目(600億ドル相当)の米国から輸入する製品に追加関税を賦課する方針を表明した。なお、中国はこれまでLNGを追加関税の対象から除外していたが、8月3日の対象品目リストにLNGを追加した(当初中国側は8月3日の国務院関税税則委員会の公告において追加関税を5%、10%、20%、25%とする対象品目リスト4件を公表していた。しかし9月18日の商務部の公告において追加関税率を5%および10%としていた品目リスト1、2(1636品目)について追加関税率を5%に調整した、20~25%としていた品目リスト3、4(3571品目)については10%に調整した。LNGの追加関税率は当初の25%から10%に調整された)。
【米中貿易摩擦を巡る交渉とWTOへの提訴】
8月22日から23日にかけて商務部王受文次官が訪米し、貿易摩擦を巡りマルパス米財務次官(国際問題担当)と協議したが実質的な進展はなかった。
8月23日に中国は米国の追加関税措置について世界貿易機関(WTO)に提訴した。
米中両国は9月下旬に6月以降途絶えていた閣僚級協議を再開する方向で調整を進めていたが、今般の措置を受けて中国側は閣僚級協議を再開することは難しいとの立場を示している。米国側は進展が見られない場合、残りの中国から輸入する製品ほぼ全てに追加関税を賦課する方針を示している。
【追加関税賦課の規模】
2017年の中国から米国への輸出は約5,000億ドル、米国から中国への輸出は約1,300億ドルで、米国の対中貿易赤字は約3,700億ドルである。これまでの措置により、米国は中国から輸入する製品の5割(約2,500億ドル)、中国側は米国から輸入する製品の8割約1,100億ドルに追加関税が賦課されることになった。
(1)米原油を対イラン原油交渉材料や代替原油として追加関税の対象から除外
国家統計局による原油生産と石油の純輸入を合わせた2017年の石油の見かけ消費は前年比5%増(56万b/d増)の1,166万b/dである。消費の6割を輸入している。米国からの原油輸入は15万b/d(輸入の1.8%)で比率は高くない。中国は2018年6月の時点では米国から輸入する原油を追加関税の対象としていたが、8月8日にリストを更新し原油を対象から外した。7月の時点では中東などから代替調達を行うことは可能だが、ベネズエラ原油(2017年に中国は46万b/dを輸入)の国外への出荷減少や中東における地政学リスク上昇など調達の不確実性が高まっており、また事業者の代替調達によるコスト増など原油を輸入する企業側の負担増が避けられないと考えられていた。
また、中国は米国から輸入する原油を将来のオプションとして追加関税の対象から当面は除外した模様である。中国は米国の対イラン制裁再発動に際し、イラン原油の輸入を縮小しない姿勢を示している。またベネズエラ原油の供給縮小など供給の不確実性が高まる中、米国原油への追加関税賦課について対イラン原油購入の交渉材料や代替原油のオプションとして保持したいと考えているようだ。輸入比率6割の原油について同4割の天然ガスよりも供給セキュリティをより意識したのかもしれない。
(2)米LNGを3次追加関税リスト対象に追加、税率は10%
中国はこれまで追加関税の対象から外していたLNGを第3弾(600億ドル相当)の追加関税対象に加えた。追加関税税率は当初25%と設定されていたが、9月18日に10%%に調整された。
原油が追加関税から除外され、LNGが追加された背景として、中国は米国との貿易摩擦が長期化することを覚悟し、2017年4月の米中首脳会談で合意した米から中国向けのLNG輸出促進を含む米中貿易不均衡是正に向けた「100日計画」や11月の首脳会談で合意したアラスカLNG などを含む投資取り決めを白紙撤回すると決め、LNGを追加関税の対象に加えたと考えられる。また、2020年頃までは世界のLNG供給が増加(2018年以降約1億トン増加、その6割が米国産LNG)し、短期的には需給に比較的ゆとりがあることも影響しているかもしれない。
さらにPetroChinaは7月以降LNGの新規契約を次々に行っている。7月にパプアニューギニアと短期契約(45万トン、2018年から3年間)を、9月にはカタールと長期契約(340万トン、2018年から22年間)を締結した。これらの新規LNG供給に加え、2019年にはロシアからのパイプラインによる天然ガス輸入が始まる。9月にウラジオストクで開催された「東方経済フォーラム」では中国CNPCが露NovatekとArctic LNG-2への参加について協議を行った。
米中貿易摩擦の長期化は、中国のエネルギー供給源多様化戦略の後退と事業者のコスト増大につながるかもしれない。一方、米LNGサプライヤーも市場拡大が見込まれる対中LNGマーケティングを進めることができないことで、カタール、ロシア、豪州などの新規LNGプロジェクトに対し後手に回ることになるかもしれない。
(3)習近平主席、国有石油企業に異例の増産指示
習近平主席がセキュリティの観点から石油・天然ガス探鉱開発の強化と増産について指示し、国有石油企業3社(CNPC、SINOPEC、CNOOC)の党組織が8月に相次いで会議を開催し、その重要指示について学習、対応策について討議したと報じられた[1]。習近平主席による増産の重要指示というのは珍しく、また国有企業に収益性重視を求め、低油価期に成熟油田への投資抑制を許容していた政府方針の転換と見ることが可能である。米国との貿易摩擦による供給への影響を受けた動きであり、増産を続けている天然ガスというよりは、生産減少が著しい原油が主な対象であると思われる。習近平主席の増産指示あるいは昨今の油価上昇が影響したのか8月の原油生産は前月比0.2%増の378万b/dで、2015年10月以来久々に前月比でプラスに転じた。しかし同国の原油生産は低油価による投資削減と生産調整により2015年のピークから約1割(45万b/d程度)減少しており、また成熟化が進んでおり今後投資を増やしたとしても生産が急激に上向くことは考えにくい。天然ガスの生産は消費のスピードには追い付いていないが、ここ数年年5%以上の成長を続けており、今後も伸びしろはある。PetroChinaはPetroChinaは中国西南部四川(Sichuan)堆積盆地のシェールガス開発を進め、2020年までに生産能力10BCMの構築を目指すことを表明している。
[1] 搜狐18/8/19

2.米中貿易摩擦の中国のエネルギー調達、投資への影響
米国から中国へのエネルギー輸入は、2017年に米中首脳が貿易不均衡是正に合意して以来増加していた。追加関税第2弾が賦課された8月23日以前から中国の事業者は追加関税賦課の影響を恐れ、米国からの原油、LPG、LNGの新規調達を控え、引き取り義務のある契約分についてはスワップを行うなどエネルギー貿易にも影響が出ている。
(1)米LPGを7月以降買い控え、引き取り義務のある契約分はスワップを行っている模様
中国のLPG消費は過去5年で倍増した。2017年の消費は約5,500万トンで、輸入は1,845万トンと消費の3割を占める。またプロパンの輸入量が1,335万トン、ブタンが490万トン、ミックスガスが19万トンであり、輸入の7割はプロパンが占める。特に石化の原料を製造するPDH(Propane Dehydrogenation)プラント向けのプロパンの輸入が伸びている。主な輸入相手先はUAEやカタールなどで中東からの輸入が6割を超える。2017年の米国からの輸入はプロパンが337万トン(輸入の25%)、ブタンが19万トン(輸入の4%)であった。米国から見ると中国は2017年の米プロパン輸出の14%を占め、日本(輸出の23%)、メキシコ(同15%)に次いで3位に位置している。
中国の事業者は引き取り義務のある米LPG契約カーゴについてスワップを行っている模様である。中東産LPGと米LPGのスプレッドは2018年4月以降拡大しており、非米国産カーゴとのスワップで中国の輸入事業者はトンあたり5~10ドル余計に支払っている模様である[2]。またロイターは、船舶データに基づき中国は7月に米国からのLPG輸入を1カーゴしか行っておらず、一方日本の7月の米からのLPG輸入が前年同月比で13%増加していると報じている。このように、米国からのLPG輸入は早くも手控えられている状況である。
[2] Platts Oilgram News 2018/8/13
(2)米原油を7、8月に買い控え、8月に対象から外れたことで調達を再開
中国は石油消費の6割を輸入に頼っており、2017年の原油輸入量は前年比10%増の838万b/d(日本の2.6倍)であった。このうち米国からの原油輸入は15万b/d(輸入の1.8%)で輸入に占める比率は高くない。WTIが割安であったことや米国との貿易不均衡是正圧力を受けて2017年以降米国からの原油輸入は伸びていた。中国は“技術的な問題”との理由から、2018年4月以降原油の国別輸入統計データを公表していないため米エネルギー省EIAの輸出統計によると、全量が中国に入ってはいない可能性はあるが、米国から中国への2018年1-6月の原油輸出は前年同期比40%増(16万b/d増)の56万b/dであった(図2)。

Sinopec傘下で中国最大の原油トレーダーであるUnipecは追加関税賦課に先駆けて米国からの原油購入削減を開始した。業界紙International Oil Dairy [3]によると、中東からの調達を増やす(イラクからの8月積みについて通常5隻程度の調達を7隻に増加)と報じられている。またPlatts[4]によると中国は6月に米国から史上最高の45.5万b/d(中国の同月の原油輸入の5%に相当)を輸入後、7月から8月にかけて米国からの原油輸入を抑制していたが、9月以降再び増加に転じた模様である。このように、原油は7月まで追加関税の対象であったことで、7月から8月にかけて米原油買い控えの動きが起きたが8月に対象から外れたことで再び調達の動きがある模様である。
(3)米国からのLNG輸入は今後落ち込む可能性、PetroChinaは米以外LNGの新規調達に積極姿勢
2017年の天然ガス見かけ消費(生産+純輸入)は前年同期比15 %増の237BCM(LNG換算約1億7300万トン)である。消費の6割を国産ガスが、4割が輸入(輸入パイプライン、輸入LNGが各2割)である。2017年のLNGの輸入量は3,800万トンでそのうち米国からのLNG輸入は151万トン(米EIAの輸出統計では約210万トン)と輸入LNGの4%を占めるに過ぎず、原油と同様に輸入に占める比率は高くないが、2016年の20万トンから急拡大した(図2)。
中国が米国産LNGの輸入を開始したのは2016年9月だが、長期売買契約(SPA)は2018年2月にCNPCがCheniereと締結した年120万トンのみであり、輸入は主にポートフォリオ、スポットによる。2017年はLNGの需要が急増したことに加え、2017年5月に前月の米中首脳合意を受け米国から中国向けのLNG輸出促進で合意したことも輸入増加に寄与していたと思われる。LNGも原油と同様国別輸入統計データが2018年4月以降中国側から公表されていないため、米エネルギー省EIAの輸出統計によると、米国から中国への2018年1月から6月のLNG輸出は前年同期比3.7倍(92万トン増)の127万トンである(図3)。ただし全量が中国に向かってはいない可能性がある。7月時点で中国はLNGを追加関税対象から除外しており、その理由については、相対契約が中心のLNGは原油に比べ代替がききにくいこと、天然ガス需要増加が見込まれる一方で季節間の需要差が課題の中国において供給の柔軟性に優れた米国のLNGは有効な供給源であること、現在の油価水準では価格面の優位性があることなどではないかと考えていた。

しかし8月3日に中国政府が米LNGを第3次追加関税リストに加えたことを機に中国の業界アナリストや事業者は一斉に米LNGは中国の天然ガス供給にとり必要不可欠なものではないと言い始めた。米国のLNGは安ければ中国の天然ガス調達多様化にはつながるが、必ずしも天然ガス供給に不可欠なソースではない。ロシアと中央アジアからLNGに比べ割安なパイプラインガスが供給される他、カタールや豪州のLNGで代替ができるからである。実際にPetroChinaは新規調達に向けた契約、交渉を積極的に行っている。7月にはパプアニューギニアのOil Searchと短期契約(2018年から年45万トン、期間3年)を締結した。9月にはカタールと長期契約(2018年から年340万トン、期間22年)を締結した。中国とカタールのLNG供給契約締結は10年ぶりとなる。また9月にサンクトペテルブルグで開催された東方経済フォーラムではCNPCがNovatekとYamal LNGやArktic LNG-2への参加、中国におけるLNG下流分野における協力について意見交換を行っている。ロシア側の情報としてプーチン大統領と習近平主席が西シベリアから中国に天然ガスを供給する西ルート(アルタイパイプライン)について協議したとも報じられている。中国側の報道は確認できておらず、東ルートの交渉の詰めのためにロシア側が観測気球を上げただけかもしれないが、長年滞っていた西ルートの交渉が動き出すとしたら画期的なことである。
2017年に中国の天然ガス消費、輸入は石炭から天然ガスへの転換政策等を受けて大きく伸びたが、2018年も消費、輸入は高いレベルで推移している。国家発展改革委員会(NDRC)は2018年通年のガス需要を280BCM(前年比18%増)、国内生産156BCM、輸入124BCMと見ている。2018年1月から6月の天然ガス輸入は前年同期比35%増の57BCM(約4,200万トン)でこのうちLNG輸入量は前年同期比51%増の約2,370万トンであった。米国からのLNG輸出は7月まで月1~2隻のペースで輸入していたが、今後は落ち込むと見られる。
原油が追加関税から除外され、LNGが追加された背景に2020年頃までは世界のLNG供給が増加(2018年以降約1億トン増加)し、需給に比較的ゆとりがあることも影響しているかもしれない(表2)。
中国が米LNG輸入に追加関税を課すことについて10%では短期的な影響は小さいという楽観的な見方がある一方で、今後需給に応じて生産や販売を変えられる米LNGを販売しようとしているサプライヤーに影響が出る(米LNGの仕向地を中国以外の国向けに変更する必要が出てくる)という指摘がある。また米LNGのサプライヤーにとり市場拡大が見込まれる対中LNGマーケティングが進まないことは、ロシア、カタール、豪州などの新規LNGプロジェクトに対し後手に回ることになるかもしれない。
(4)エネルギー投資への影響
米中貿易摩擦の悪化は2017年11月の米中首脳会談時に合意したガス開発・LNGプロジェクトへの投資にも影響が生じそうである。2017年11月9日、トランプ大統領と習近平主席はエネルギー、制造業、農業、航空、電気、自動車などの分野のビジネス契約と双方向の投資取り決め(総額2,500億ドル超)の調印に立ち会った。エネルギー分野の合意額は中国国家能源投資公司 (China Energy Investment Corp、中国石炭大手神華
中国国家能源投資公司 (China Energy Investment Corp)によるウェストバージニア州のシェールガス他への投資は中国国家能源投資公司の幹部が、貿易摩擦に関する協議が滞り始めた2018年6月に予定していたウェストバージニア州への訪問を中止したことで早くも暗雲が立ち込めていた。
アラスカLNGはアラスカ州ガス開発公社Alaska Gasline Development Corporation(AGDC)が進めているプロジェクトで、生産能力は最大2,000万トン/年(液化トレイン3基、FERCの承認判断は2020年3月の見込み)である。2017年11月にSINOPEC、国家ファンド中国投資(CIC)傘下の中投海外、中国銀行(Bank of China)はAGDCと液化プラント、パイプライン等付帯設備の建設についてのJoint Development Agreementを締結しており、中国側は事業費430億ドルの75%についてファイナンスを行うことになっている。これが実現した場合、一帯一路(Belt & Road)の米本土上陸第1号となると思われた。
アラスカLNGについてはアラスカ州知事が同LNGプロジェクトの推進に意欲的であり、7月6日の対中追加関税発動を受けてワシントンに飛びロビー活動を行った模様であり、貿易摩擦の悪化にも関わらず継続すると思われた。しかし米国で8月13日に成立した2019年度の米国防権限法(NDAA)において海外勢による対米投資を安全保障の観点から審査する米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する規定が盛り込まれた。これにより、事業費の75%を中国が出資するアラスカLNGプロジェクトは審査の対象となる可能性が出てきた。ところが法案成立とほぼ同時期にアラスカLNGプロジェクトを推進するAlaska Gasline Development Corporation (AGDC)は中国側の知見不足を理由に中国企業が液化プラントやパイプラインの建設に関与しないと表明した。合意から半年以上を経てから知見不足を理由とすることは奇異な印象を受ける。ともかくSinopecの関与がないか低ければ中国銀行による融資(合意)も白紙撤回される可能性がある。このように、貿易摩擦により中国から米国へのエネルギー投資も影響が生じそうである。

3.まとめ
米中貿易摩擦は長期化の様相を呈している。中国は米国との貿易摩擦の長期化を覚悟し、米国産LNGの中国への輸出促進を含む米国との一連の合意を白紙に戻そうとしている。またセキュリティ意識の高まりから中国国有石油企業に対し石油・天然ガスの増産指示を出している。天然ガスについては輸入LNGやパイプラインの契約、交渉が相次いで行われた。短期的な影響は小さいと思われるが、米中貿易摩擦の長期化は、両国のエネルギー貿易、投資に影響が出そうである。今後も状況を注視したい。
以上
(この報告は2018年9月26日時点のものです)