ページ番号1007617 更新日 平成30年10月3日
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概要
石油や天然ガスの開発・生産では、対象となる原油や天然ガスに付随して様々な副産物が生産されます。例えば、天然ガスの場合は、二酸化炭素(CO2)や硫化水素(H2S)といった酸性ガスが、原油の場合は、地層水(これを「随伴水」という。)が、地域や場所等によってその量は異なるものの概ね同時に生産されます。また、生産した原油を一次貯蔵する原油タンク底には原油スラッジが堆積し、タンクの開放点検等に合わせて排出され、産業廃棄物として処分されています。このような副産物は、現状ほとんどが有効利用の道がないことからほぼ全量が処分されていますが、その処分費用は相当なものとなることから、これら副産物の効率的な処理・処分や有効利用等が求められています。
そこで、JOGMECでは、環境対策グランドデザインを定め、原油や天然ガスの井戸からの生産から商品として出荷するまでの工程で生じる副産物を抽出し、その課題解決を図るべく取組を行っております。ここでは、その取組の現状についてご紹介します。
1.環境対策グランドデザイン
石油や天然ガスは、井戸から生産された後、パイプラインを経由して各生産施設へ送られ、セパレーターで原油、天然ガス、随伴水に分離されます。分離された原油や天然ガスは生産施設内で含有する副産物を除去し、タンク等に一時的に貯蔵後、もしくは直接需要地に出荷されます。随伴水は水処理を経て再度地下圧入もしくは海洋等に排出します。
これまで、分離された副産物のうち、二酸化炭素は大気放散、硫化水素は重質な原油や原油とともに生産された随伴ガスとともに焼却(フレア)されていました。また、原油スラッジについては全量を産業廃棄物として処分し、随伴水や生産施設で使用した洗浄水等は深い深度の井戸に地下圧入されていました。しかしながら、近年、産油国や産ガス国でも環境規制が強化されてきており、これらも規制対象となりつつあります。特に、二酸化炭素は温室効果ガス(GHG: Green House Gas)の一つであることから、その対応が世界的に求められているところです。
そこで、JOGMECでは、図1に示す環境対策グランドデザインを定め、原油や天然ガスの生産から出荷までの工程で生じる副産物の有効利用や適切な管理方法を確立すべく、各過程で生じている課題を抽出し、その課題解決に向けた技術開発を行っています。

環境対策グランドデザインを大別すると、ガス対策、水対策及び廃棄物対策に分けられることから、個々について以下に述べることにします。
2.水対策
図1に示すとおりセパレーターで分離された随伴水は、そのほとんどが地下圧入処分されています(一部は海洋投棄や処理を行って石油の増進回収等に利用されている場合もあります)。しかし、随伴水は年々増加の傾向にあるのに加えて、環境規制が厳格化されてきていることなどから、随伴水を適切に処理して再利用または有効利用することが求められています。ところが、随伴水には地層由来のさまざまな化学成分や人工的に加えられた添加剤(例えば、防食剤、エマルジョンブレーカー等)が含まれており、簡単に処理できるものではありません。事実、随伴水から油分や浮遊物質を除去するだけでも既存の水処理装置の場合は、何段階にもわたって処理が必要とされています(図2)。また、油分や浮遊物質を除去した一見透明な処理水にも、水溶性有機物や重金属等が溶解しているため、再利用に向けてさらなる高度処理が求められています。さらに、地域によって違いはあるものの高濃度の塩分が含まれているため(海水塩分濃度レベルから飽和塩分濃度レベルまで)処理を困難にしています。
このような背景から、JOGMECでは、平成27年度より技術ソリューション事業として、セラミック膜を使用した随伴水処理技術の開発に国際石油開発帝石株式会社、千代田化工建設株式会社、メタウォーター株式会社とともに取り組み、これまで何段にもわたって処理を行っていた油分と浮遊物質の除去をセラミック膜随伴水処理システムだけで処理できる技術を確立しました(図2)。また、本技術開発では、セラミック膜で処理した水は、海水の淡水化等で使用されている逆浸透膜(RO膜)を使用して含有する有機物や塩分の除去を経て、河川放流基準を満足していることを確認した後、近隣の河川に放流しました。

このように、随伴水の再利用に向けて一筋の道は開けましたが、未だ課題も残されています。図1の水対策に示すように、セラミック膜やRO膜により濃縮された水の処理・処分、RO膜といった脱塩装置の負荷を低減するための水溶性有機物処理、さらに、RO膜は海水塩分濃度レベル(約35,000㎎/L)程度までは使用できますが、これ以上の塩分濃度となると処理が困難となり他の技術、例えば電気透析や蒸発法等の技術が必要となります(これらは装置コストも運転コストも高額)。
そこで、濃縮水に関しては、含有される有価金属類(リチウム、マグネシウム等)の回収に着目しています。これらが効率良く回収できると、環境負荷低減はもとより、有価物として販売が可能となり、その収益によって高度水処理技術の導入が促進される可能性があります。また、水溶性有機物は、RO膜や蒸発装置内の蒸発管などを閉塞(バイオファウリング)すると言われています。このため、水溶性有機物を完全分解もしくは、RO膜等に影響を与えないレベルまで分解するべく、熊本大学とナノ秒パルス放電プラズマによる促進酸化法の研究開発を行っています。また、海水塩分濃度以上の随伴水の脱塩に向けて、新たな脱塩技術について調査を行っています。
3.ガス対策
井戸から生産された天然ガスは、パイプラインを経由して生産施設に送られ、不純物として含有する二酸化炭素や硫化水素等を除去した後、パイプライン等で需要地に送られます。この二酸化炭素や硫化水素を除去する技術には、アミンという吸収液を用いた吸収法が一般的に使用されています。しかし、吸収液の単位体積当たりの吸収量には限界があるため、酸性ガス濃度が高いガスに対しては吸収液量を増やす必要があり、その分大量の熱エネルギーが必要となることから、運転コストに問題が発生します。近年、これら不純物の除去に膜が使用されつつあります。JOGMECもゼオライト膜を使用した二酸化炭素の分離技術の開発に民間企業とともに着手し、現在、実証試験段階にあります。
一方で、分離された二酸化炭素は大気放散、硫化水素はフレアリングや地下圧入処分などを行っていますが、二酸化炭素は温室効果ガスの一種であり対応が求められています。 特に、二酸化炭素の削減対策の一つとして、原油の増進回収(EOR: Enhanced Oil Recovery)への適用が挙げられています。二酸化炭素は水に比べてEORに効果的な場合があることから、図1に示すように二酸化炭素分離膜で効率良く分離された二酸化炭素を原油の増進回収(CO2-EOR)に利用することによって、二酸化炭素の排出を削減することが可能となります。JOGMECにおいても二酸化炭素の膜分離とCO2-EORに関する研究開発を進めております。
別のアプローチとして、生産施設内のバルブや配管、さらにはパイプライン等からのメタンの漏洩が近年大きな問題となっています。メタンも二酸化炭素同様に温室効果ガスの一つで、その地球温暖化係数は二酸化炭素の21倍から25倍(CCAC: Climate Clean Air Coalitionでは、20年で84倍)とされており、地球温暖化に与える影響は甚大です。このため、これらGHG排出削減に向けて、政府、資源開発企業や金融機関等は様々な対応を求められています。特に、資源開発業界には情報開示の要請がされてきております[i]。このため、生産施設やパイプライン等からのメタンや二酸化炭素の迅速かつ正確な漏洩量を把握するため、漏洩ガス等検知技術の開発にむけて検討を開始しました。
[i] JOGMEC動向調査, 平成29年度「資源開発業界及び国際金融機関支援機関等における気候変動対応の方針等の調査」調査報告書, 平成30年2月, PwCアドバイザリー合同会社
4.廃棄物対策
最後に、生産施設からはその生産活動に伴って多種多様の廃棄物が排出されています。その一つに、原油タンク底に堆積した原油スラッジがあります。原油スラッジは、原油を一時貯蔵するタンク底に堆積し経年でその量が増加するため原油の貯蔵量が制限されるようになることから、タンクの開放点検等に合わせてタンク外に排出されます。排出された原油スラッジは、全量を産業廃棄物として処分していますが、原油スラッジには有効な原油分が含まれていること、産業廃棄物費用も大きな負担となることから、原油スラッジの廃棄量を削減し、且つ含まれる原油分を回収するべく、コスモ石油株式会社及びアブダビ石油株式会社とともに原油スラッジ削減技術の開発を行っています(図3)。これまでに、原油スラッジを50%以上削減し、含まれる原油分を回収し再原油化するための技術確立の見通しを得ました。現在、大型実証試験に向けて準備を行っています。

原油スラッジ以外では、随伴水に微量含まれることがある自然起源の放射性物質(これを「NORM」という。)や天然ガスには水銀が含まれている場合があります。これらは、通常の産業廃棄物として処分できないため特別な管理が必要となります。特に、水銀は、水俣条約発効(2017年8月)によって、その適正管理はもとより国を超えた移動は特別な場合を除いてできなくなっています。このため、各国では、その処理を含め、厳格な管理が求められています。この他にも、使用済み触媒、生産施設内キャンプやプラットフォーム居住地等からの一般廃棄物、下水汚泥、残飯などの処分も課題となっています。そこで、JOGMECでは、これら廃棄物の削減、再利用及び再資源化並びに適性管理に向けて廃棄物管理に関する調査に着手しました。
まとめ
このように、環境対策をグランドデザインとして体系づけることによって、個々の課題解決の重要性や必要性が一目でわかるようになりました。JOGMECとしては、これら環境対策技術開発を進めるとともに、単なる技術開発で終わるのではなく、コスト削減や増産、販売益増加といった「Add Value」を得ることが重要であると認識しています。しかし、まだまだ課題は山積しており、これらの深堀を行いグランドデザインに落とし込み、環境負荷低減に努めたいと思います。
以上
(この報告は2018年9月18日時点のものです)