ページ番号1007625 更新日 平成30年11月26日
原油市場他:イラン産原油供給減少に対し他のOPEC産油国等の増産への積極的姿勢が市場で認識されなかったことで、WTIで1バレル当たり70ドル台半ば程度に上昇する場面が見られる原油価格
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概要
- 米国では、秋場の製油所のメンテナンス作業時期に突入したこともあり、石油製品の生産活動が不活発になった。ただ、夏場のガソリン需要期も終了していたことから、ガソリン在庫は比較的限られた範囲内で推移し、平年幅を上回る状態も継続している。他方、留出油需要は秋場の穀物収穫のための農機具向け燃料需要が発生していたと見られることもあり、当該製品在庫は減少傾向となり、平年並みの水準となっている。また、製油所での原油精製処理が進まなくなったことで、原油在庫は増加傾向となり、平年幅を超過する状態が続いている。
- 2018年9月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減については、欧州や日本では、原油の調達が減少したと見られる結果、原油在庫が減少し、米国での当該在庫増加を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体での原油在庫は減少となったが、それでも平年幅上限を超過する状態は継続している。他方、石油製品については、米国では、暖房シーズンに伴う本格的なプロパン需要期にはまだ早かったことから当該在庫水準が上昇したこと等もあり石油製品在庫は増加した。また、日本でも、冬場の暖房シーズンの中心時期には入っていないことから、灯油を中心として石油製品在庫は増加した。他方、欧州では製油所の稼働低下に伴う石油製品生産活動不活発化により、製品在庫は減少傾向となったが、その程度は限定的であった。この結果、OECD諸国全体での石油製品在庫は増加となり、量としては平年並みとなっている。
- 2018年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場においては、イランからの原油等輸出量が減少しつつあることが明らかになる中で、サウジアラビア等他のOPEC産油国等が積極的な増産方針を示していないと市場が認識したことに加え、今後の原油価格上昇を予想する市場関係者が複数現れたこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は上昇傾向となり、9月中旬には1バレル当たり60ドル台後半であったWTI(終値ベース)は10月中旬には同70ドル台前半となった他、10月3日には同76.41ドルと2014年11月21日以来の高水準に到達する場面も見られた。
- 今後は、冬場の暖房用石油製品需要期接近が市場関係者の視野に入ること、米国の原油輸出を巡る対イラン制裁の発動やベネズエラの原油生産の減少見込みによる石油需給の引き締まり感が市場で増大しやすいこと、もしくはイラン等の原油供給の減少をサウジアラビア等他のOPEC産油国等の原油供給で代替することにより利用可能な余剰生産能力が低減しやすいこと等により、原油相場には上方圧力が加わる可能性があるものと考えられる。さらに、リビアでの政情の状況等によっては、原油価格はさらに上振れするといったリスクを内包している。また、原油相場を左右しうる要因としては、米国のイラン産原油輸入国に対する輸入禁止の除外措置の内容及びその発信方法等、さらには、米国の中間選挙を控えてのトランプ政権の発言及び行動や、中間選挙の結果、そして、米国株式相場の動向等が挙げられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2018年7月の米国ガソリン需要(確定値)は日量964万バレルと前年同月比で0.5%程度の増加となった(図1参照)。これは速報値(前年同月比で0.6%程度増加の日量965万バレル)からは若干ながらも下方修正されている。同月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量74万バレルと推定されるところ、確定値では同83万バレルへと上方修正されたことで、この部分が速報値から確定値に移行する段階で国内需要から輸出に繰り入れられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。また、同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.928ドルと前年同月比で0.51ドル(約21.3%)割高となっていることが当該需要を抑制しているものと考えられる(因みに2017年の平均米国自動車運転距離数は前年比で1.2%程度増加していたが、2018年7月の当該距離数は前年同月比で0.3%の伸びにとどまっている)。ただ、前月の小売価格(同2.970ドル)からはそれなりに下落したことが、当該需要を下支えした可能性がある。また、2018年9月の同国ガソリン需要(速報値)は日量928万バレル、前年同月比で1.0%程度の減少となっている。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.915ドルと前月(同2.914ドル)から若干上昇している他、依然1ガロン当たり3ドルからそう離れていない水準で引き続き推移している一方で、前年同月比でも0.154ドル(約5.6%)割高になっていることが、需要の伸びに反映されているものと見られる。他方、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことにより、秋場の石油不需要期の到来、及び製油所のメンテナンス作業シーズン突入に伴い、原油精製処理量は減少傾向となった(図2参照)ことから、ガソリン生産活動も影響を受けたと見られる(最終製品の生産量は図3参照)一方で、夏場のドライブシーズンの終了によりガソリン需要が低下したことから、9月上旬から10月上旬にかけ、同国のガソリン在庫は比較的限られた範囲内で推移したが、平年幅上限を超過する水準は維持されている(図4参照)。
2018年7月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量396万バレルと前年同月比で8.7%程度の増加となったうえ、速報値である日量395万バレル(同8.5%程度の増加)から若干ながら上方修正されている(図5参照)。2018年7月の米国の鉱工業生産が前年同月比で4.0%程度伸びるなど経済が底堅く成長していることを示唆しており、同国の物流活動も同4.9%程度拡大していることから、この面では米国の留出油需要を旺盛にする方向で作用しているものと考えられる。また、同国の経済が堅調であったにもかかわらず6月の当該需要が前年同月比で0.25%の減少となったことへの反動が7月に現れているといった側面もあるものと見られる。2018年9月の留出油需要(速報値)は日量390万バレルと、前年同月比で1.9%程度の増加となっている。9月の同国経済指標は市場の事前予想を上回るものもあれば下回るものもあり、経済が好調であるとは必ずしも言い切れない状況であると見受けられることに加え、ハリケーン「フローレンス(Florence)」が米国南東部に上陸したことに伴い同国の経済活動に影響を与えたと指摘されることもあり(そしてこれにより、9月の米国非農業部門雇用者数が前月比で13.4万人の増加と8月の同20万人増加から鈍化したことに反映されていると見る向きもある)、留出油需要に影響した可能性がある。ただ、季節的な需要(秋場の穀物収穫シーズンの到来に伴う農機具稼働向け軽油需要)の発生が当該需要を下支えしたと見られる一方で、米国での製油所での原油精製処理量が減少したことに伴い留出油生産が減少傾向となったこと(図6参照)から、9月上旬から10月上旬にかけ留出油在庫は低下傾向となった結果、2018年10月上旬時点では平年並みの量となっている(図7参照)。
2018年7月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で2.5%程度増加の日量2,062万バレルとなった(図8参照)。留出油需要の増加が石油需要の伸びを牽引している格好となっている。ただ、その他の石油製品が速報値(日量419万バレル)から確定値に移行する段階で下方修正された(確定値では同400万バレル)ことにより、当該需要は速報値(日量2,094万バレル、前年同月比4.1%程度の増加)から下方修正されている。他方、2018年9月の米国石油需要(速報値)は、日量2,040万バレルと前年同月比で3.9%程度の増加となった。留出油及びその他の石油製品の需要増加が石油製品全体の需要の伸びに影響している格好となっている。ただ、その他石油製品の需要は日量392万バレルと2017年8月~2018年7月の当該需要(確定値)である同334~402万バレルと比較しても高い部類に入る。2018年7月26日にはExxonMobilがテキサス州ベイタウンで年産150万トンのエチレン製造装置の操業を開始していることから、それに伴いエタン需要が増加していると見られるものの、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正されることを通じ同国の石油需要(確定値)にその修正が反映されることもありうる。また、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了とともに、秋場の石油不需要期と製油所のメンテナンス作業シーズン到来により、米国の原油精製処理活動が不活発となった一方で、同国のシェールオイルを中心とする原油生産は維持されたこともあり、原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図9参照)。そして、留出油在庫が平年並みの量となっている一方で、原油及びガソリンの在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、または原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2018年9月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減については、欧州や日本では、製油所の稼働が低下するとともに原油精製処理活動が不活発となったものの、原油の調達もそれ以上に減少したと見られる結果、両地域では原油在庫は減少となった。米国では原油在庫は増加となった(前述)ものの、欧州及び日本での原油在庫の減少で相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体での原油在庫は減少となった。それでも、当該在庫は平年幅上限を超過する状態を継続している(図12参照)。他方、石油製品については、米国では製油所での稼働低下に伴い石油製品の生産が減少しているものの、夏場の行楽シーズンが終了したことに伴いジェット燃料の需要が低下傾向となったことで当該製品在庫が増加した他、暖房シーズンにはまだ早いことからプロパン需要が盛り上がっていなかったことによるプロパン等在庫の増加に加え、冬用ガソリン需要が最盛期には入っていないことにより当該ガソリンに混入するブタンの在庫が増加したと見られることからその他の石油製品の在庫が増加したこと等が影響し、同国の石油製品在庫は増加した。また、日本でも、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油需要の中心時期にはまだ入っていないことから、灯油を中心として石油製品在庫は増加した。他方、欧州では製油所の稼働低下に伴う石油製品生産活動不活発化により、製品在庫は減少傾向となったが、その程度は限定的であった。この結果、OECD諸国全体として石油製品在庫は増加となり、量としては平年並みとなっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置している(図14参照)。なお、2018年9月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は59.6日と8月末の推定在庫日数(59.9日)から減少している。
9月12日に1,100万バレル台前半の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、9月19日は1,200万バレル台半ば程度の量へと増加したものの、9月26日には1,100万バレル台後半、10月3日は1,100万バレル台前半、10月10日は1,000万バレル強程度の、それぞれ量へと減少した。9月に入り夏場のガソリン需要期が終了したことが、9月中旬のシンガポールでの軽質留分在庫の増加に寄与した可能性があるが、以降はアジア地域の製油所が秋場のメンテナンス作業シーズンに突入しつつあったことから、製油所の稼働低下と石油製品生産活動の不活発化により、アジア諸国による国外市場への輸出が鈍化した反面、国外市場からの輸入が行われるようになったと見られることが、軽質留分在庫の減少傾向を創出したものと考えられる。ただ、ガソリンと原油との価格差(この場合ガソリン価格が原油価格を上回っている)は、10月1~7日の中国の国慶節に伴う休日による国内旅行の活発化による一時的なガソリン需要の増加観測から9月下旬から10月初頭にかけ拡大する場面も見られたが、世界的に秋場のガソリン不需要期が市場で意識されていることに加え、原油価格の上昇にガソリン価格のそれが追い付かなかったこともあり、両者間の価格差は上下に変動しながらも縮小する傾向を示している。
ナフサについても、アジア諸国での石油化学産業におけるナフサ分解装置の秋場のメンテナンス作業実施がこの先峠を越え始めるとの市場の見方がナフサ価格の下落を抑制する格好で作用する場面も見られたものの、足元ではナフサ分解装置のメンテナンス作業実施に伴いナフサ受入がそう活発ではなかったことに加え、秋場のガソリン不需要期の到来によりガソリンに混入するナフサの需要が低下した欧州方面等からアジアに向けナフサの輸出が活発化するとの見方が市場で発生したことや、原油価格の上昇にナフサ価格のそれが追い付かなかったこともあり、ナフサとドバイ原油との価格差(この場合ナフサ価格が原油のそれを下回っている)は拡大する傾向を示した。
9月12日には900万バレル台前半の量であったシンガポールの中間留分在庫は、9月19日には900万バレル台半ば程度、9月26日には1,000万バレル強、10月3日に1,000万バレル台後半の量へと増加した。10月10日には1,000万バレル強の量へ減少したが、それでも9月12日の水準は上回っている。インドにおいて、モンスーンシーズン突入に伴い軽油需要が抑制された(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーンシーズン到来前に燃料として使用されていた軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天に伴い道路や建設工事の進捗が鈍化することにより、物流や製造業での軽油の利用が減速すること等による)ことにより、同国からの軽油輸出が活発化したと見られることが、中間留分在庫を増加させた一因であるものと見られる。しかしながら、アジア地域の製油所での秋場のメンテナンス作業シーズン突入に伴う石油製品生産活動の不活発化による中間留分需給の引き締まり感に加え、秋場の中国での農産物収穫時期到来に伴う農機具稼働のための軽油需要増加の観測、さらには、北半球の冬場の暖房シーズンに向けた軽油や灯油の需要拡大の見方、もしくは南半球での夏場の農業用灌漑のためのポンプ稼働に伴う軽油需要上昇の予想等が市場で広がったことが、アジア市場での中間留分価格に上方圧力を加えたことから、例えばアジア市場での軽油とドバイ原油価格との差は拡大する傾向を示した。
9月12日には1,600万バレル弱程度の量であったシンガポールの重油在庫は、9月19日には1,500万バレル台前半の量にまで減少したものの、9月26日及び10月3日には、1,700万バレル台半ば程度となり、さらに10月10日には1,800万バレル台後半の量へと増加している。中東やアジア地域での夏場の空調用発電部門向け重油需要が低下してきていることで、シンガポール市場に重油が流入していると見られることが、当該製品在庫の増加に寄与しているものと考えられる他、10月上旬にMaersk Oil Tradingがシンガポールに75万バレル程度の貯蔵能力を確保し重油の充填を実施した(国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)による2020年1月1日以降の船舶用燃料硫黄の新規規制(現在の含有上限である3.5%を0.5%に引き下げ)に備えた動きである可能性がある)ことが影響していると見る向きもある。他方、原油価格の上昇に重油価格のそれが追いつかなかった結果、重油とドバイ原油との価格差(この場合重油価格はドバイ原油のそれを下回っている)は、拡大する場面も見られた。しかしながら、製油所での秋場のメンテナンス作業実施に伴い石油製品生産活動が不活発になっていることから、重油供給の低下懸念が市場で存在するうえ、11月5日の米国の対イラン制裁発動を控え、イランからの重油購入が手控えられつつあることもあり、この先の重油需給引き締まり感が市場で強まっていることが、重油価格に上方圧力を加えた結果、重油とドバイ原油との価格差は9月中旬から10月中旬にかけては全体として縮小する傾向が見られる。
2.2018年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場等の状況
2018年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場においては、イランからの原油等輸出量が減少しつつあることが明らかになる中で、サウジアラビア等他のOPEC産油国等が積極的な増産方針を示していないと市場が認識したこと、今後の原油価格上昇を予想する市場関係者が複数現れたこと、米国石油坑井掘削装置稼働数が減少を示したこと、ハリケーン「マイケル(Michael)」が米国メキシコ湾地域に来襲したことで、当該地域の石油供給低下懸念が市場で発生したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は上昇傾向となり、9月中旬には1バレル当たり60ドル台後半であったWTI(終値ベース)は10月中旬には同70ドル台前半となった他、10月3日には同76.41ドルと2014年11月21日以来の高水準に到達する場面も見られた(図15参照)。
9月17日には、米国のトランプ政権がこの日2,000億ドル相当の中国からの輸入品に対し10%の関税を賦課する旨発表すると関係筋が明らかにしたと同日報じられた他、トランプ大統領も同日の米国株式市場の通常取引終了後に中国に関する発表を行う旨明らかにしたことで、米国の中国に対する追加関税賦課実施への観測が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことが原油相場に下方圧力を加えたものの、イランからの原油輸出量が過去3ヶ月間で日量58万バレル程度減少した旨米国大手金融機関Bank of America Merrill Lynchが明らかにしたと9月17日に報じられたことで、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.91ドルと前週末終値比で0.08ドルの下落にとどまった。しかしながら、9月18日には、サウジアラビアは短期的にはブレント原油価格が1バレル当たり80ドルを超過する事態を回避できないかもしれない旨認識していると関係筋が明らかにしたと9月18日にブルームバーグ通信が報じたことから、同国が原油価格の上昇を容認していると市場で受け取られたことに加え、9月17日にシリアの地対空ミサイルがロシアの軍用機を撃墜した旨9月17日夕方(米国東部時間)に報じられたことにより、中東情勢の不安定化と石油供給への影響に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.94ドル上昇し、終値は69.85ドルとなった。また、9月19日も、この日米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(9月14日の週分)で原油在庫が前週比で206万バレル減少の3.94億バレルと5週連続で減少、2015年2月13日(この時は3.92億バレル)以来の低水準に到達したうえ、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で125万バレルの減少と2週連続で減少となった他、市場の事前予想(同80万バレル程度の減少)を上回ったことで、石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.12ドルと前日終値比で1.27ドル上昇した。この結果原油価格は9月17~18日の2日間で併せて1バレル当たり2.21ドルの上昇となった。ただ、9月20日には、この日米国のトランプ大統領が、OPEC産油国は直ちに原油価格を下げるようにするべきである旨表明したことで、OPEC産油国等が原油供給増加に動くのではないかとの観測が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.80ドルと前日終値比で0.32ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの10月渡し原油先物契約は取引を終了したが、11月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり70.32ドル(前日終値比0.45ドル下落)であった)。9月21日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.02ドル下落し、終値は70.78ドルとなったが、11月渡し同士では前日終値比で0.46ドルの上昇であった。これは、9月23日に開催される予定であるOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚監視委員会(JMMC:The Joint OPEC-non-OPEC Ministerial Monitoring Committee)を前にして、持ち高調整が市場で発生したことによる。
9月24日には、9月23日に開催されたJMMCにおいて、直ちに原油を増産する旨の決定が見送られたことから、石油需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、9月24日に大手石油取引会社のTrafiguraが、米国の対イラン制裁の実施により、ブレント原油価格は2018年第四四半期に1バレル当たり90ドル、2019年の早い時期には同100ドルに到達する可能性がある旨示唆した他、同じく大手石油取引会社のMercuriaもブレント原油価格が同100ドルに到達することが想定されうる旨示唆したこと(後述)で、原油価格の先高観が市場で醸成されたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.08ドルとは前週末終値比で1.30ドル上昇した。9月25日も、9月23日に開催されたJMMCの結果に対し石油需給の引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだうえ、9月24日に大手石油取引会社がこの先ブレント原油価格が100ドルに到達しうる旨示唆したことで、原油価格の先高観が市場で醸成された流れを引き継いだことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.20ドル上昇し、終値は72.28ドルとなった。この結果原油価格は9月24~25日の2日間で併せて1バレル当たり1.50ドル上昇した。ただ、9月26日には、この日EIAから発表された同国石油統計(9月21日の週分)で原油在庫が前週比で185万バレルの増加と市場の事前予想(同130~220万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.71ドル下落し、終値は71.57ドルとなった。それでも、9月26日夕方(米国東部時間)に、米国エネルギー省(DOE)のペリー長官が、米国はイラン制裁実施時に戦略石油備蓄(SPR)を放出する予定はない旨表明したことで、この先の石油需給引き締まりに対する不安感が市場で増大したこともあり、9月27日の原油価格の終値は1バレル当たり72.12ドルと前日終値比で0.55ドル上昇した。また、9月28日も、中国大手石油会社である中国石油化工集団公司(Sinopec)が9月のイランからの原油積み出しを半減させた旨9月28日にロイター通信が報じたことで、イランからの原油供給の減少に伴う世界石油需要の引き締まり感を市場が意識したことに加え、9月28日に米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で863基と前週比で3基減少(石油水平坑井掘削装置稼働数は806基と前週比で変わらず)となっている旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.13ドル上昇し終値は73.25ドルとなった。この結果原油価格は9月27~28日の2日間で併せて1バレル当たり1.68ドル上昇した。
10月1日も、9月28日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が減少となっている旨判明した流れを引き継いだうえ、9月30日夜(米国東部時間)に米国とカナダが北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉で合意に至ったことから、経済成長及び石油需要への影響に対する市場の懸念が後退したこと、9月のイランの原油及びコンデンセート輸出量が日量172万バレルと8月に比べ日量26万バレル程度減少した旨10月1日にブルームバーグ通信が報じたことで、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日(10月1日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.05ドル上昇し、終値は75.30ドルとなった。10月2日は、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことが、原油価格に下方圧力を加えたものの、9月30日夜に米国とカナダがNAFTA再交渉で合意に至ったことから、経済成長及び石油需要への影響に対する市場の懸念が後退した流れを引き継いだうえ、9月のイランの原油及びコンデンセート輸出量が減少した旨報じられたことで、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことが、原油価格に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.23ドルと前日終値比で0.07ドルの下落にとどまった。ただ、10月3日は、9月のイランの原油及びコンデンセート輸出量が減少した旨報じられたことで、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.18ドル上昇、終値は2014年11月21日(この時は同76.51ドル)以来の高水準である76.41ドルとなった。それでも、10月4日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したうえ、9月にサウジアラビアとロシアが原油価格沈静化のために極秘裏に原油を増産することで合意し、9月23日のJMMC開催前に米国及び他の産油国に通知していた旨10月3日にロイター通信が報じたことから、足元の石油需給の緩和感が10月3日の市場で醸成された流れを引き継いだこと、10月3日にEIAから発表された同国石油統計(9月28日の週分)で、原油在庫が前週比で798万バレルの増加と市場の事前予想(同150~276万バレル程度の増加)を上回って増加していたことで、石油需給緩和感を市場が意識した流れを引き継いだこと、9月28日から10月2日にかけ、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が170万バレル増加した旨米国石油関連情報サービス会社Genscapeが報じたことで、NYMEX米国原油先物契約受け渡し地点での石油需給の緩和感を市場が意識したこと、10月3日夕方(米国東部時間)にパウエル米国連邦準備制度理事会(FRB)議長が、講演で、金利引き上げを継続する旨示唆したことで、米国株式相場が下落したことから、この日(10月4日)の原油価格の終値は1バレル当たり74.33ドルと前日終値比で2.08ドル下落した。そして、10月5日には、この日Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で861基と前週比で2基減少(石油水平坑井掘削装置稼働数は802基と前週比で4基減少)となっている旨判明したことが原油相場に上方圧力を加えたものの、イランからの石油供給がこれまで日量70万バレル減少したのに対し、サウジアラビア他OPEC等産油国は最近日量150万バレル増産している旨サウジアラビアのサルマン皇太子が発言したと10月5日にブルームバーグ通信が報じたことから、足元の石油需給引き締まり感が後退したことに加え、インドが11月にイランから原油を900万バレル購入する旨10月5日にロイター通信が報じたことで、イランからの原油供給低減に対する市場の懸念が後退したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日(10月5日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.01ドルの上昇にとどまり、終値は74.34ドルとなった。
10月8日には、米国の対イラン制裁発動に伴うイランからの原油輸入禁止に対し例外を設けることを検討している旨米国政府幹部が発言したとロイター通信が10月5日夕方(米国東部時間)に報じたことで、世界石油需給の引き締まり感が市場で後退したことが、原油価格に下方圧力を加えたものの、10月7日に中国人民銀行が、一部の銀行の預金準備率を1%引き下げ、大手銀行を14.5%、中小銀行を12.5%とする旨発表したことで、中国の経済回復に対する期待が市場で増大したことに加え、クッシングの原油在庫が10月5日までの1週間で1.5万バレル減少したとGenscapeが報告した旨10月8日に報じられたことで、NYMEX米国原油先物取引受渡地点での石油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、ハリケーン「マイケル(Michael)」が勢力を強めつつ米国メキシコ湾沖合東部を北上しつつあり、この影響で当該地域の日量32万バレル(地域全体の生産量の約19%)の原油生産が停止している旨10月8日に同国安全・環境執行局(BSEE:Bureau of Safety and Environment Enforcement)が明らかにしたことで、米国石油需給引き締まり懸念が市場で発生したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日(10月8日)の原油価格の終値は1バレル当たり74.29ドルと前週末終値比で0.05ドルの下落にとどまった。また、10月9日には、10月第一週のイランの原油輸出量が日量110万バレル、データによっては同100万バレルと、4月の同250万バレルから大幅に減少している他、9月の同160万バレルからも低下している旨10月8日にロイター通信が報じたことから、世界石油需給の一層の引き締まり感を10月8日の市場が意識した流れを引き継いだうえ、世界石油市場は危険地帯に進入しつつある旨国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が10月9日に指摘したことで、石油需給に対する懸念が市場で増大したこと、ハリケーン「マイケル」の米国メキシコ湾沖合来襲に伴い、当該地域の原油日量67万バレル分の生産(当該地域の原油生産の39.5%)が停止している旨10月9日にBSEEが明らかにしたことで、米国石油供給減少に対する不安感が市場で増大したことにより、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.67ドル上昇し、終値は74.96ドルとなった。ただ、10月10日には、翌11日にEIAから発表される予定である米国石油統計(10月5日の週分)で、原油在庫が増加しているのではないかとの観測が市場で発生したことに加え、ハリケーン「マイケル」が強い勢力を保ったまま米国本土に上陸したことで、進路に当たる地域の石油需要が低迷するとの見方が市場で発生したこと、米国のムニューシン財務長官が、中国に対し国際貿易上の競争力強化のための人民元引き下げに関与しないよう求める旨発言したと、10月10日朝(米国東部時間)に報じられたことにより、貿易問題に関する米国の中国に対する強硬な姿勢が市場で意識されたこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.17ドルと前日終値比で1.79ドル下落した。10月11日も、この日EIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が前週比で599万バレルの増加と市場の事前予想(同161~280万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことに加え、米国及び中国の貿易問題に関する市場の懸念が引き継がれたこともあり、米国株式相場が下落したことにより、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.20ドル下落し、終値は70.97ドルとなった。この結果原油価格は10月10~11日の2日間で併せて1バレル当たり3.99ドル下落した。ただ、10月12日には、この日に発表された米国大手金融機関JPモルガン及びシティグループの2018年7~9月期業績が市場の事前予想を上回ったことに加え、これまでの下落に対し値頃感から買い戻しが入ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.37ドル上昇し、終値は71.34ドルとなっている。
3.今後の見通し等
9月19日には、米国のイラン問題担当特使であるフック氏は、イランとの間で同国の弾道ミサイル開発や中東への関与を含めた条約の交渉を検討している旨発言した(しかしながら、同時にフック氏は、イランの最高指導者ハメネイ師やロウハニ大統領等の首脳は米国の交渉を実施する意志がない旨示唆していると明らかにしている)。9月21日にワシントン・ポストはロウハニ大統領による寄稿を掲載、その中で、トランプ大統領がイランに対し制裁を科する一方で直接対話の姿勢を示唆していることに対し、彼の誠実さを確信できない旨明らかにした。また、核合意においてイランの利害が確保できるのであれば、当該合意にとどまるが、そうでなければ別途行動する旨表明した。他方、米国の対イラン制裁の影響で金融システムが機能しなくなったことにより、スウェーデンの自動車製造会社ボルボがイランでの事業を停止する旨9月24日に報じられるが、同じく9月24日には、ドイツ大手電機会社シーメンスがイランに発電技術を提供する契約につきイラン政府と協議中である旨伝えられる。また、9月24日には、米国を除く核合意署名国(イラン、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国)の外相級会談がニューヨークで開催され、核合意を維持するとともにイランからの原油等の輸出を実施するための金融システム提供のための特別目的事業体(SPV:Special Purpose Vehicle)を設立する旨合意した。ただ、9月25日には、米国のポンペオ国務長官は当該合意は非生産的であり、イランによるテロ行為支援を強化するものとして批判している。他方、トランプ大統領は9月25日午前に開催された国連安全保障理事会の冒頭、イランに対しさらなる制裁の実施を準備している旨示唆した。また、フック氏は、9月25日に、イラン制裁に際し、十分な石油供給を確保する用意がある旨表明したが、9月26日夕方には米国のペリーDOE長官が、SPRを放出する予定はない旨明らかにしている。他方、10月1日には、イランのアラグチ外務省次官は、ホルムズ海峡の封鎖の可能性について、空虚な脅しではない旨主張している。また、米国の対イラン制裁が、王制時代の1955年にイランが米国と締結した友好経済関係領事権条約に違反しているとして、イランが7月16日に行った提訴に対し、10月3日に国際司法裁判所(ICJ)は、米国に対しイランへの人道物資の供給や民間航空機の安全運航を妨害しないよう求める仮処分を下した。これに対し、10月3日にポンペオ国務長官は当該条約を破棄する方針である旨明らかにした他、同日、米国のボルトン大統領補佐官も、国際紛争解決のためのICJへの付託を定めた、外交関係に関するウィーン条約の「紛争の義務的解決に関する選択議定書」から脱退する旨表明した(因みに別途9月28日にはパレスチナ自治政府が駐イスラエル米国大使館のエルサレム移転が国際法に違反している旨米国を提訴していた)。また、米国のトランプ政権は10月4日に同国の新規の対テロ戦略を発表したが、当該戦略において、イランを世界のテロリズムの中心として位置づけ、対抗していく方針を明確にしている。
他方、10月3日に、イランのOPEC理事であるアルデビリ氏は、イランの原油供給減少をサウジアラビアとロシアが秘密裏に代替しているとして、OPEC産油国等による合意に違反している旨批判したが、10月3日には、サウジアラビアのサルマン皇太子がOPEC産油国は日量150万バレル増産しており、これはこれまでのイランの供給減少分である同70万バレルを上回る他、市場で必要とされれば、サウジアラビアはさらに日量130万バレルの増産が可能である旨発言している。これに対し、イランのザンギャネ石油相は、サウジアラビアがイラン原油供給減少の代替は不可能である旨主張したと10月8日に報じられる。
また、韓国は8月のイラン産原油の輸入量が前年同月比で85%減少した旨9月15日に発表している。さらに、9月28日には、中国のSinopecが9月のイラン産原油船積みを半減させており、これについて米国が中国側に対し強力な圧力を加えていることによるものと報じられる。インドについては、同国のスワラジ外相とイランのザリフ外相が会談の後、インドはイラン産原油の購入を継続する旨約束したと9月27日に報じられるが、インドは2018年9~10月のイランからの原油輸入を半減させる(日量36~37万バレル、因みに4~8月は日量約65.8万バレルと伝えられる)旨9月14日までに判明している他、11月のイラン産原油の購入を行う予定はない旨10月1日に伝えられる。しかしながら、インドは11月に900万バレル(日量30万バレル)の原油輸入を予定している旨10月5日に報じられた他、10月8日には同国のプラダン石油・天然ガス相もそれを示唆している。もっとも、同相は、これが米国による対イラン制裁の適用の対象外となるかどうかは定かではない旨の発言も行っている。他方、米国は対イラン制裁発動に伴うイランからの原油輸入禁止に対し例外を設けることを検討している旨米国政府幹部が発言したと10月5日夕方(米国東部時間)に報じられている。
リビアでは、8月下旬以降、トリポリ等で武装勢力間の戦闘が発生したが、9月4日の停戦合意以降もしばしば戦闘が継続した結果115人が死亡した旨9月23日に同国統合政府が公表している。ただ、10月10日にリビア国営石油会社(NOC)のサナラ会長は同国の足元の原油生産量が日量100万バレル程度である旨明らかにした(10月3日に同会長は足元の原油生産量が日量125万バレルであるとも発表している)。
ベネズエラのマドゥロ大統領は中国を訪問、会談した李克強首相は、マドゥロ大統領に対しできる限りの支援を実施する旨表明したと9月14日に報じられる。他方、9月25日に米国財務省は、ベネズエラのマドゥロ大統領夫人、副大統領、国防相、通信情報相に対し、米国での資産凍結と米国人との取引禁止を内容とした制裁を科する旨発表した。また、同国の石油関連港湾であるホセ港では、8月25~26日頃に発生した、ギリシャ船籍タンカーの埠頭への衝突に伴う損傷の修復に対し、資金不足から当初見込まれていた9月末の復旧が少なくとも1ヶ月遅延する可能性がある旨10月2日に報じられる。そして、10月8日に、ベネズエラ国会は、2017年10月1日~2018年9月30日の1年間のインフレ率が48.9万%であった旨発表した他、10月8日(米国東部時間)には国際通貨基金(IMF)が2019年の同国の物価上昇率は1,000万%に到達する旨の見通しを発表している。
このように、地政学リスク要因としては様々なものが挙げられるが、まず、石油市場から注目されるのはイランであろう。11月4日にはイランからの原油輸入に関する猶予期間が終了するとともに制裁が発動される。そして、制裁発動を控え、イランの原油輸出は既に減少しつつあることを示している。また、これまで米国によるイラン産原油の引き取り削減要請を拒否していた中国のSinopecが9月積みイラン産原油の引き取りを半減させた旨9月28日に報じられた他、10月1日にインドが11月のイラン産原油購入を皆無にするとの報道(但し10月8日にはインドのプラダン石油・天然ガス相が同国は11月に原油を輸入する予定である旨明らかにしている)等もあり、イランからの原油輸出が相当程度減少するのではないかとの懸念が市場で強まっている。他方、9月23日に開催されたJMMCでは、現状の世界石油需給見通しに関し満足の意を表明するとともに、2018年の残りの期間において、余剰生産能力を保有する諸国に石油需要を満たす努力をするよう要請したが、即時増産(9月21日時点では日量50万バレルの増産につき検討中である旨関係筋が明らかにしたと報じられていた)は見送られるなど、OPEC産油国等が増産に対し受動的な姿勢を示している印象を市場に与える結果となったことから、この先のイランからの原油供給減少に対し、サウジアラビアやロシア等のOPEC産油国等の対応が後手に回るのではないかとの懸念も市場で増大している。
米国は対イラン制裁発動に伴うイラン産原油の輸入禁止方針に対する適用除外措置の実施を検討していると10月5日に報じられた。今後、米国側から、いつから、どの国に対し、どの程度イラン産原油輸入を認めるかが明確に発信され、それに伴うイランから輸出の増加とともにOPEC産油国での利用可能な余剰生産能力が例えば日量300万バレル(2018年5月8日の米国のトランプ大統領による対イラン制裁発動発表に伴うイラン産原油供給減少をサウジアラビアが代替し始める以前のOPEC産油国余剰生産能力にほぼ等しい、因みに2018年8月時点では同213万バレルであったが、この中には事実上利用不可能なイランの余剰生産能力日量40万バレルが含まれている)と十分な水準にまで上昇することで石油需給の引き締まり感が市場で相当程度後退するのであれば、原油相場に下方圧力を加えてくるといった展開となることも想定される。しかしながら、米国側が、イラン産原油輸入の禁止といった強硬な方針を貫くか、イラン原油輸入禁止に対し適用除外措置を実施するとしても、その措置の運用方法が明確に発信されない、もしくは明確に発信されたとしても、OPEC産油国での利用可能な余剰生産能力が不十分な水準でしか増強されない程度のものにとどまれば、世界石油需給の引き締まり感が市場で有意に後退しないことにより、原油相場が下支えされるか、むしろ上昇する可能性もある。
また、米国がSPRを放出することで、石油需給が緩和するとの見方も市場にはあったようだが、9月26日夕方にはDOEのペリー長官がSPRを放出する予定はない旨発言していることも、イランの原油供給減少に対して十分な代替が行われないのではないかとの懸念を市場で増大させる格好となっており、今後も市場の石油需給引き締まり感を下支えするものと考えられる。
そして、米国の対イラン制裁実施後、イランの原油輸出の実際の減少量が判明すれば、原油相場にそれが織り込まれることになるものと見られる。
ベネズエラについても政情が好転しているは言い難いことから、この先も原油生産量が減少することが予想され、この面からも、イランと併せ世界石油需給の引き締まり感を市場で醸成させる結果、原油相場に上方圧力を加える可能性がある。
リビアについては、2018年9月の原油生産量が日量106万バレル(IEAによる)と2013年6月(この時は日量115万バレル)以来の高水準となっている。もっとも、同国では、複数の武装勢力が対立するうえ、IS等のテロ集団も活動していると言われており、容易に政情が安定化するとは考えづらいところがあるうえ、過去も同国の原油生産量は増加したかと思えば、短期間で減少に転ずる等不安定であったことから、同国の原油生産量の増加では、市場の石油需給引き締まり感を癒すには力不足となるものと考えられる。
そして、サウジアラビア等他のOPEC産油国等がイラン等の減産を代替すべく事実上の即時増産を表明したとしても、世界石油供給の余裕がなくなることにより、少なくとも原油相場は下支えされる他、ハリケーン、油田のストライキ、その他油田等資機材の故障などによる操業停止の発生等に伴い石油供給途絶懸念が市場で発生すれば、原油相場がさらに上振れするといった場面が見られることもありうる。
また、このようなこともあり、9月24日に開催されたAPPEC(S&P Platts Asia Pacific Petroleum Conference)では、大手石油取引会社Trafiguraが、米国の対イラン制裁の実施により、ブレント原油価格は2018年第四四半期に1バレル当たり90ドル、2019年の早い時期には同100ドルに到達する可能性がある旨示唆した他、同じく大手石油取引会社Mercuriaもブレント原油価格が同100ドルに到達することが想定されうる旨示唆したこと、大手金融機関のJPMorganが今後数ヶ月以内にブレント原油価格は90ドルに上昇する旨の見解を明らかにしている他、今後6ヶ月間のブレント原油価格予想を以前の60ドル台前半から85ドルへと引き上げた(トランプ政権の厳しい対イラン制裁によるとされる)。また、Bank of America Merrill Lynchは2019年のブレント原油価格を75ドルから80ドルに引き上げた(イランの原油供給減少見込みを日量50万バレルから同100万バレルへと引き上げたことに伴うものとされる)と9月24日に報じられる。このように市場関係者の間で原油価格に対する強気の見方が広がってきており、このような市場心理面からも原油相場は下支えされるか、もしくは上振れしやすいものと考えられる。
米国では、11月6日に中間選挙が実施される予定である。そして、この中間選挙を控えたトランプ政権の新たな政策などの発表等、もしくは中間選挙の結果と、それらに対する株式や外国為替市場の反応が原油相場に影響を及ぼす可能性がある。また、米国主要企業による2018年7~9月期業績等の発表が続くことから、その結果が米国株式相場を通じて原油相場に織り込まれる場面が見られるといったこと想定される。また、9月25~26日に開催された前回のFOMCで金利の引き上げが決定されたこともあり、11月7~8日に開催される予定の次回FOMCでは現行の金利である2.00~2.25%が据え置かれる確率が10月13日時点で98.0%と極めて高い状態にあり、この面では米ドル、そして原油相場への影響は限定的であると見られるが、FOMCを控えて、もしくはFOMC開催の際に行われる、パウエルFRB議長をはじめとする米国金融当局者による米国経済及び金融政策等に対する発言によっては、米ドルが変動する結果、原油相場が振幅するといった展開もありうる。また、米国と中国等の貿易戦争についても、米国のトランプ政権関係者及び中国政府関係者等の発言や新たな政策実施の表明等によって、米国及び中国等に対する経済成長及び石油需要の伸びに対する観測を市場で発生させることにより、原油相場が左右される可能性もある。それでも、金利上昇観測のもと、米国長期国債金利が上昇しつつある他、米国及び中国等の貿易戦争に対する経済減速懸念も存在することから、米国株式相場が下落する可能性も残っており、下落幅が大きい場合、その影響が原油相場に及ぶことも否定できない。ただ、中国政府がこの先減速する可能性のある同国経済に対し景気刺激策の類を実施する意志を示唆するようだと、同国の経済成長及び石油需要増加減速に対する市場の懸念が後退する結果、原油相場に上方圧力を加えることもありうる。また、欧州においても、10月25日に欧州中央銀行(ECB)の理事会が開催される予定であるので、その際の欧州金融当局関係者による、欧州経済及び金融緩和政策に対する認識等に関する発言によっては、ユーロ及び米ドルが変動する結果、原油相場もその影響を受けるといった事態も発生しうる。
米国では、この先冬場の暖房シーズン(11月1日~翌年3月31日)を控え、製油所が秋場のメンテナンス作業等を終了するとともに稼働を上昇、原油精製処理が進むとともに、原油の購入を活発化させてくる。このため季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まると考えられる。従って、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなる。そして、ここで市場が注目するのは、足元の気温状況及び冬場の気温予報であろう。現在のところ、2018年末にかけては米国の大半の地域では平年に比べ温暖になると見られているようであるが、そのような予報は変更される可能性もあり、また、秋場の後半及び冬場の前半での、厳冬予想や実際の気温の低下は、市場関係者間での暖房用石油製品需要増大観測と需給逼迫懸念を増大させ、それが原油相場に上方圧力を加えることに繋がりやすい。その意味では、米国(特に暖房用石油製品消費の中心地である北東部)での気温予報や実際の気温の状況には注意する必要があろう。また、米国石油坑井掘削装置稼働数の推移も、米国の原油生産の今後の見通しに影響することから、原油相場に影響することもありうる。
他方、大西洋圏において1年間で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期(8月後半~10月前半)は過ぎつつあることから、ハリケーン等が米国メキシコ湾沖合の石油生産関連施設や陸上の製油所等の施設に影響を及ぼすこと等に伴う石油供給途絶懸念は市場では低下していくと見られる。それでも11月末まで大西洋圏の暴風雨シーズンは続く。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設(当該地域では2017年は日量175万バレルの原油を生産した)や原油等を積載したタンカーの航行に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入港湾施設や製油所の活動に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じ操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業が停止すること等により米国の原油輸入に影響を与えたりする(2017年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量56万バレル程度の原油を輸入した)。また、ハリケーン等の暴風雨が米国北東部に向かうこともありうるが、当該地域は人口密集地帯を抱えており、暴風雨の到来により、住民が自動車による外出を控えたり、経済活動が減速したりする結果、ガソリンや軽油等の需要が抑制されるといった展開となることもありうる。7月31日に発表されたコロラド州立大学の予想(改訂版)では、2018年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりもやや不活発な暴風雨の発生となる旨以前の予想から下方修正されている(表1参照)。ただ、それでもそのような予報に反し暴風雨等が活発に発生し、それが米国メキシコ湾沖合の油田地帯、もしくはメキシコ湾岸等の石油関連インフラ等の操業を脅かしたり、米国のガソリン消費地に暴風雨がもたらされることにより石油需要が抑制されたりする結果、原油価格に影響が及ばないとも限らないので、今暫くハリケーン等の実際の発生状況やその進路、勢力、そしてその予報等には注意する必要があろう。
全体としては、冬場の暖房用石油製品需要期接近が市場関係者の視野に入ること、米国の原油輸出を巡る対イラン制裁の発動やベネズエラの原油生産の減少見込みによる石油需給の引き締まり感が市場で増大しやすいこと、もしくはイラン等の原油供給の減少をサウジアラビア等他のOPEC産油国等の原油供給で代替することにより利用可能な余剰生産能力が低減しやすいこと等により、原油相場には上方圧力が加わる可能性があるものと考えられる。さらに、リビアでの政情の状況やハリケーン等の暴風雨の米国メキシコ湾地域他への来襲具合等によっては、原油価格はさらに上振れするといったリスクを内包している。また、原油相場を左右しうる要因としては、米国のイラン産原油輸入国に対する輸入禁止の除外措置の内容(どの時期においてどれくらいの輸入量が事実上許可されるか)及びその発信方法等、さらには、米国の中間選挙を控えてのトランプ政権の発言及び行動や、中間選挙の結果、そして、米国株式相場の動向等が挙げられる。
4.中期シナリオが示唆する世界石油需給の今後の方向性
先般「2019年に向けた世界石油市場に対する関係者の見方等」(2018年9月18日付JOGMEC石油・天然ガス資源情報「原油市場他:イランからの原油供給減少の情報等により、WTIでしばしば1バレル当たり70ドル超へと上昇する場面が見られる原油価格」参照)につき説明したが、その際、2019年はイランやベネズエラを含めOPEC産油国が現状の原油生産量を維持するのであれば、いわゆる対OPEC原油需要等(「Call on OPEC」、但しこれには在庫変動も含まれる)は、2018年に比べ減少する結果、2019年の世界石油需給は概ね均衡状態近辺になるとIEA、EIA及びOPECによる2019年見通しから示唆される旨述べた。では、2019年を超えた中期的(2018年から5年後の2023年までを想定する)時間軸では、世界石油需給の方向性はどのようなものになる可能性があり、また、市場においてどのような要素に注目すべきであろうか。ここでは、2018年3月5日にIEA事務局から発表された2018年版中期オイル・マーケット・レポート(Maket Report Series Oil 2018)、2018年11月23日にOPEC事務局が発表した世界石油展望2018年版(World Oil Outlook)、さらにはEIAが2018年2月6日に発表した「年次エネルギー見通し」(Annual Energy Outlook)等をもとに、中期石油需給シナリオを作成し、2023年までの世界石油需給の方向性等につき考察することとしたい。なお、シナリオ策定に当たっては、それぞれの見通しの発表時と現時点に至るまでの石油需要及び供給状態の変化を考慮しつつ行うこととする。
まず、世界石油需要であるが、過去30年間(1988~2017年)の平均世界経済成長率は年率3.6%程度であった。これに対し2018年10月9日にIMFから発表された「世界経済見通し(World Economic Outlook)」による、2019~2023年までの世界経済成長率も概ね3.6%近辺である(図16参照)。これまでしばしばIMFの世界経済見通しは過去の平均世界経済成長率を上回っていたことから、過去に実施した中期世界石油市場分析では、IMF予測による世界経済成長率を適用するシナリオと過去30年間の世界経済成長率を将来に延長するシナリオを想定したが、今回は双方による世界経済成長率に殆ど相違は見られないため、IMFの世界経済成長率見通しに基づき石油需要シナリオを構成することとする。その結果、世界石油需要は2019~2023年にかけ年率1.3~1.4%程度、量としては年間日量136~141万バレルの増加になるものと考えられる(図17参照、もっとも、後述の米国石油供給シナリオ策定の際に用いられている、極端に高水準や低水準の原油価格の状態が発生した場合には、需要にも影響が及ぶ可能性があることに留意する必要があろう)。
また、非OPEC産油国の石油供給であるが、米国以外の産油国については、主流は在来型石油資源の探鉱・開発・生産活動に基づくものであることから、概ね長期的油田開発計画に沿った供給になるものと見られ、その結果、原油価格や資源賦存量等の潜在性によって大きく変動する可能性は低いものと考えられる。このため、米国を除く非OPEC産油国の石油供給シナリオはIEAのそれを適用することとする。なお、米国以外では主にカナダやブラジルで石油供給が増加する見込みであるが、2014年に原油価格が大幅に下落した結果、石油会社は石油探鉱・開発投資額を相当程度削減したことにより、その影響が2020年以降に現れることもあり、非OPEC石油供給の伸びは2020年以降鈍化する傾向が見られる。
他方、米国の石油供給であるが、これについては、その主力であるシェールオイルについては生産の大幅増加現象が現れてから10年足らずということもあり、資源の潜在性等につき市場及び産業関係者の知見が十分蓄積しているわけではないことから、この先の供給見通しに関し不透明性が強いため、EIAが採用している幾つかのシナリオを適用することとしたい。即ち、シェール資源上の制約が小さく、かつ原油価格が概ね中庸な場合(米国高1シナリオ)、もしくは資源上の制約が大きく、かつ原油価格が概ね中庸な場合(米国低1シナリオ)、原油価格が大幅に上昇した場合(米国高2シナリオ)及び原油価格が大幅に下落した場合(米国低2シナリオ)、そして資源制約が中庸であり、かつ価格も中庸な場合(米国中シナリオ)、の計5シナリオとなる(各シナリオに適用される原油価格(WTI)は図18参照)が、米国高1及び米国高2シナリオでは、米国の石油供給が相当程度増加するのに対し、米国中、米国低1及び米国低2シナリオでは当該石油供給に伸び悩みが見られる(図19参照)。
そして、米国を含めた非OPEC産油国の石油供給量は米国の石油生産シナリオによって大きく異なり、米国高1及び米国高2、の各シナリオは、米国中、米国低1及び米国低2の各シナリオに比べ、非OPEC産油国の石油供給は伸びが旺盛となるものの、いずれにしても、2023年に向けその増加ペースは鈍化する方向性となっている(図20参照)。
世界石油需要シナリオから、非OPEC産油国及びOPEC産油国のNGL(Natural Gas Liquids:天然ガス液)等の供給を差し引いたものが対OPEC産油国原油需要等(これには在庫増減を含む)となる(図21参照)。米国高1及び米国高2の各シナリオでは当該需要等は時間が経過しても、それほど大きな増加は見られないが、米国中、米国低1及び米国低2シナリオでは、当該需要等は時間の経過とともに相当程度増加していくことになる。他方、OPEC産油国の生産能力については、UAEは現行日量320万バレルの原油生産能力を年末までに同350万バレルに引き上げる予定である旨マズルーイ エネルギー産業相が表明したと9月25日に報じられる。ただ、2018年10月4日にサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が現状日量1,200万バレルの原油生産能力を日量1,300万バレルに引き上げる決定はまだ行っておらず、この生産能力の引き上げには200億ドルの費用と数年間の期間を要すると考えられる旨示唆している。このようなこともあり、OPEC産油国の原油生産能力が2023年にかけ大きく増加するとは考えにくいことから、ここでは、IEAによる2023年に向けたOPEC原油生産能力シナリオを採用することとする。当該シナリオでは、OPEC産油国の原油生産能力は2018年の3,546万バレルから日量75万バレル増強(その大半はイラク、UAE、イラン、リビアである)し2023年には日量3,631万バレルとなるなど、当該能力の増加は比較的緩やかに進むと見ている。
そして、OPEC産油国原油生産能力から対OPEC産油国原油需要等を差し引けば、OPEC産油国余剰生産能力が算出される(図22参照)。それをシナリオ毎に見てみると、米国低1、米国低2、米国中の各シナリオでは、当該能力が低下することにより2023年の余剰生産能力は現在よりも低水準にとどまる。他方、米国高1及び米国高2の各シナリオでは、2023年時点においても、日量400万バレル台強の余剰生産能力を確保できることになる。ただ、その場合、例えばイランに対する制裁で実際には原油生産能力を保有していても世界市場に供給ができない場合には、その分だけ利用可能な余剰原油生産能力は実質的に減少することに注意する必要があろう。
このように見てくると、2023年にかけ、OPEC産油国の余剰生産能力を日量300万バレルで維持するには、原油価格が上昇すること、もしくは米国でのシェールオイル資源上の制約が少ない旨判明する、もしくはそのような想定なしでも技術革新等を通じ、さらにはパイプライン等のインフラの整備も併せ、米国シェールオイル生産増加が継続するか、世界の石油需要の伸びが減速することが必要になろう。仮に米国中シナリオにおいて世界石油需要の伸びの減速のみで2023年時点でOPEC産油国余剰原油生産能力を日量300万バレル確保しようとした場合、世界石油需要の伸びは年率1.1%程度、つまり世界経済成長率は年率2.4%程度とIMFの見通しから相当程度減速する必要がある。従って、今回の分析では、今後少なくとも中期的に世界石油市場が安定的に推移するためには、米国のシェールオイルの増産具合(そしてどのような条件下で増産が実現するのか)が極めて重要な要素になると言えよう。
以上
(この報告は2018年10月15日時点のものです)