ページ番号1007633 更新日 令和6年10月22日
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概要
- 2018年5月8日、トランプ米大統領はイラン核合意(「包括的共同行動計画(JCPOA)」)が"最悪の合意である"として合意からの離脱を表明、「イランに最高レベルの経済制裁を課す」としてエネルギー、石油化学及び金融セクター等、イランの重要な経済セクターを対象とする二次制裁が再発動することとなった。イランとの金融取引や自動車関連部門を対象とする第一弾の制裁が2018年8月7日に再発動され、エネルギーセクターを対象とする第二弾の制裁が2018年11月5日に再発動する。
- 米国による厳しい姿勢の前に、石油開発企業各社はリスクを負えないとしてイラン関連の事業・取引から撤退している。一方、EU当局は、米制裁に対しEU独自の対抗措置を検討している。
- イランの石油生産量・輸出量は、2016年1月のJCPOA発効以降急速に回復し、その後も順調に伸びていた。しかし、2018年5月に米国による制裁再発動が発表された後に減少が始まり、2018年9月の時点ですでにJCPOA発効以前に近い水準まで落ち込んでいる。
- 国別のイラン産原油輸入量についても同様で、欧州、韓国を中心とした購入削減により大きく落ち込んでいる。ただし、中国、インドによる輸入が増加した時期もあり、制裁再発動の発表以降、一概に減少傾向を辿っているとは言い難い。11月5日以降のイラン原油輸出量について、各社の見通しには大きな差がある。
- イランの経済情勢、社会情勢は悪化している。ただし、イラン国内では2016年の制裁解除を受けて、国内精製能力拡大に向けた動きが進んでおり、石油製品の精製能力はほぼ自給達成レベルまで拡大している。
- 上流事業においては、積極的な外資導入による石油・ガス開発の推進を政策の基本方針として掲げるザンギャネ石油相のもと、イランでは積極的な対外開放への動きが示されていた。石油・ガス生産能力の維持・拡大を目指し、数多くの外資参入対象の開発案件・探鉱案件について、IOC各社との協議が実施していた。しかし現在、制裁懸念の高まる中で外資による積極的参入の動きは見られない。
- 対イラン制裁を巡る当事者間の対立構図は深まり、決着点が見えない状況下において、今後いつ、どのような形で決着することになるのか、引き続き注視していく必要がある。
(本稿は2018年11月2日現在の情報に基づき執筆いたしました。)
(米国CSIS、Platts Oilgram News、International Oil Daily、MEES、FT 他)
本稿は米国の核合意離脱と石油産業への影響(2018年5月23日)の続報
1.米国が核合意離脱を表明、二次制裁が再発動
(1)米国、核合意離脱を表明
2018年5月8日、トランプ米大統領は、(1)ウラン濃縮活動の制限期間が10~15年で終了すること、(2)弾道ミサイル開発やテロ組織への支援を断念することが合意に含まれていないこと、(3)法的拘束力がないことを理由に、イラン核合意(「包括的共同行動計画(JCPOA)」)が“最悪の合意である”として、合意からの離脱を表明した。トランプ氏は、「イランに最高レベルの経済制裁を課す」と主張しており、エネルギー、石油化学及び金融セクターといったイランの重要な経済セクターを対象とする制裁が再発動することとなった。JCPOAのもとでイランビジネスを行っている企業には「事業縮小期間」(wind down period)が与えられ、5月8日を起点として、90日(2018年8月6日まで)と180日(2018年11月4日まで)の事業縮小期間を設け、期間終了時に制裁はすべて再発動し発効する。
(2)再発動する二次制裁
第一弾の二次制裁として8月6日までの猶予期間を終え、翌7日に再発動したものが、「イラン政府による米ドル紙幣の購入・取得」、「金または貴金属のイランとの取引」、「グラファイト(黒鉛)、アルミ・鉄鋼等の原料または半製品、石炭、産業用プロセス統合用ソフトウェアの取引」、「イランリヤルの売買」、「イラン国外でのイラン通貨預金、口座の維持」、「イラン国債関連取引」、「イランの自動車部門」といったイランとの金融取引や自動車関連部門を対象とする制裁である。ダイムラーやグループPSA(旧プジョー・シトロエン・グループ)といった企業がイランでの事業停止を表明している。
また、11月5日には、「IRISLを含むイランの港湾、船舶輸送、造船部門」、「NIOC、NICO、NITC等を含むイランからの石油、石油製品または石油化学製品を含む石油に関連した取引全般(※1)」、「非米国金融機関と、イラン中央銀行または指定金融機関との取引(※2)」、「イラン中央銀行およびイラン金融機関に対する特殊金融サービスの提供」、「保険の引き受けや再保険」、「イランのエネルギー部門」といったエネルギーに関する分野を対象の中心とした制裁が、11月4日に猶予期間を終えて再発動する。
上記11月5日に再発動する制裁のうち、「非米国金融機関と、イラン中央銀行または指定金融機関との取引(※2)」について説明する。これは「イランから輸入する原油等の代金決済のために、イラン中央銀行等と金融取引を行った外国金融機関」に対する制裁である。制裁の除外を受けるためには、金融機関の母国がイラン原油の購入量の「相当量を削減」する必要があり、米国政府が「相当量の削減」を認定した場合、制裁対象から当該国が除外される。2012年からの前回制裁時には、米国は各国に対して約20%の原油輸入削減を求め、これを受け入れた日本などは制裁対象から除外された。今回、再制裁が発表された2018年5月の時点では、前回約20%とされていた「相当量の削減」についての定義がまだなされていなかったが、米国務省はその後6月に、「相当量の削減」として、各国に対しイラン原油輸入量をゼロにするよう求めていることを明らかにした。
なお、「非米国金融機関と、イラン中央銀行または指定金融機関との取引(※2)」で示す銀行間の取引(具体的には原油等の代金決済を指す)については、既に8月7日に発動済みの第一弾の二次制裁で「米ドルの利用」が禁じられている。米ドル以外の他国通貨での取引如何については、「もし、原油等の代金決済取引が制裁に抵触し、制裁対象となった場合、米国国内の口座などの凍結の可能性がある」が、これは、通貨の種別は問題ではなく、「決済を行う銀行が米国に口座を所持しているか否か」が問題であり、口座を所持していなければ封鎖する口座が無いため、ドル建て以外の金融取引は可能といえる。ただし、「NIOC、NICO、NITC等[1]を含むイランからの石油、石油製品または石油化学製品を含む石油に関連した取引全般(※1)」とあるように、「イラン石油に係るあらゆる取引に関わった者を制裁対象とする」旨定められており、イランからの原油輸入を継続するには原油運搬船や保険手配を含め、あらゆる過程で「米国の意向に左右されない」事業者を見つける必要がある、といった状況にある。
[1] NIOC(National Iranian Oil Company)、NICO(Naftiran Intertrade Company)、NITC(National Iranian Tanker Company、IRISL(The Islamic Republic of Iran Shipping Lines)
(3)企業の反応およびEUによる対抗措置の検討
米国による厳しい制裁を目の当たりにして、石油開発企業各社は厳しい反応を示していることがうかがえる。Total(仏)は、「米国の決済システムの利用を制限されるかもしれないリスクをとることはできない。」として、EUの計画には賛同しない旨を表明。Eni(伊)は、「イランではもう事業を行っていないうえ、トレーディングの契約も11月には切れる。国際社会の決定するルールやあらゆる制裁に完全に従う。」と発言。CEPSA(西)は10月半ばに、同社のスペインの製油所が100万バレルのイラン産原油を輸入しているが、「これが最後の輸入だ。」と強調し、「すべての企業が株主の意向を第一に考える。EUが何を考えていようが関係ない。」と述べる。こうした中でEU当局は、ブロッキング規則[2]、SPV[3]といった対抗措置を検討している。
[2] ブロッキング規則:第三国(この場合米国を指す)による経済制裁の域外適用にEU企業や個人が従うことを禁止するもので、制裁による損害はEU域内の裁判所で損害賠償訴訟が可能である。
[3] SPV:域内の企業に米国のイラン制裁を回避させるための特別目的事業体(Special Purpose Vehicle)のこと。石油を含むイランとの輸出入の決済等、EU法に基づくイランとの金融取引継続を目論む。
2.イランをめぐる最近の国際情勢
次回11月の制裁再発動を控え、各国様々な動きを見せている。9月に入ってからの動きを同月下旬、国連総会の前後を中心に以下にまとめた。(図1)

このように、各国の間で厳しいやり取りが繰り広げられているが、在米コンサルタントによれば、米政府は、「実はイランの政治体制を転換する意図はない。制裁が目的ではなく、JCPOAの代わりに『米国に有利な』合意を引き出すことがその真の目的。」、イラン側も「単に米国と対立する訳ではなく、『対話』によって圧力を止めていきたい。ICJへの提訴も対話開始を希望しているメッセージ。」との意見もある。
一方、米国とイランによる一対一の対話となると、困るのがEUを中心としたJCPOA加盟国である。ブロッキング規則やSPVなど、これまでイランとの間で進めていた成果が水泡に帰す恐れがあるためである。また、EUが米国と違ってイランとの協力枠組みを維持ししようとしている背景には、「シリアからの移民問題」を解決するのにイランからの協力が不可欠だから、という意見もあるが、その点の真偽は定かではない。
なお、11月2日時点において、米国政府が一部の国(インドおよび韓国)の企業の原油やコンデンセート輸入について、数量を削減するのであれば、制裁の適用を緩和するとの報道も見られるようになっている。
3.原油生産量、輸出量推移
(1)イランの原油生産量、輸出量推移
前回制裁時には、米国、EUによる制裁の発動により、イランの原油生産量は日量300万バレル近くまで、輸出量は日量100万バレル近くまで減少した。2016年1月のJCPOA発効により、制裁解除直後の同年3月には、生産量は日量約430万バレルまで、輸出量は日量約190万バレルまで急速に回復した。その後、生産量、輸出量共に順調に伸びていた中で、2018年5月に米国による制裁再発動が発表された。2018年9月の原油生産量は日量340万バレルである。一方、輸出量については、日量110バレル~170万バレルと出所により推計に差があり、実際の数字を計ることが困難な状況にある。
なお、イランは前回制裁時には洋上のタンカーへ5,000万バレル程度を貯蔵したとの実績を持つ。2018年9月中旬には「複数のタンカーがペルシャ湾岸に係留されたままの状態である」と複数メディアで報じられており、8月頃よりタンカーへの貯蔵を開始したものといわれている。また、NITC関係者の話として、10月から11月初めにかけて過去最大量2,000万バレル超の原油が中国大連港に向けて運搬中であるとも報じられており、これらも貯蔵に充てられるものと予想される。このような不明瞭な数字があることも、輸出量の計測を困難にしている一つの要因と言えよう。この先11月には、輸出量が日量70~80万バレルに落ち込むのではないか、との予測もある。(図2)

(2)国別輸入量推移
国別のイラン産原油輸入量は、イランの生産量、輸出量と同様に、前回制裁発動時の2012年から大幅に減少し、2016年のJCPOA発効を機に大幅に増加、2017年が最高水準であった。2018年5月の米国による制裁再発動の発表にもかかわらず、同年7月には中国、インドによる輸入が増加しており、制裁再発動の発表以降、一概に減少傾向を辿っているとは言い難い。しかしながら、全体的には、欧州、韓国を中心とした購入削減により、既に2018年8月の時点で制裁解除時の2016年の水準を既に下回り、日量200万バレルを割るというレベルまで落ち込んでいる。(図3)

次に、アジア主要各国の主な動きを個別に見ていく。輸入量の推移を見ると、韓国は減少の一途といえる。一方、中国、インドは夏にかけて一時増加し、その後減少に向かっていることが見て取れる。(図4)

【韓国】
2016年1月の核合意以降、韓国の原油・コンデンセート輸入量は大幅に伸び、特にコンデンセートについては最大顧客であった。ただし、2017年秋以降、いち早く減少傾向を示しており、今年7月にはコンデンセート輸入を停止し、9月の輸出分は原油も含めてゼロになった。なお、韓国は、現在すでにカザフスタン、米国、メキシコ、ノルウェー、ナイジェリア、ロシアといった代替先を模索しているものの、供給元が限られていることから今後継続的な代替先の確保は難しいとして、イランからのコンデンセートの購入継続を求め米国に対して免除を要請しているといわれている。
【中国】
従来の輸入量は日量約60万バレルであったが、2018年7月、8月の輸入量は共に日量70万バレルを上回り、大幅に増加した。米国制裁懸念により各国が買い控える中でも購入を継続することで、値引きを引き出していたものとされる。ただし、その後の輸入量は減少している。なお、中国はJCPOA加盟国の一つであり、合意を守るとしていることから、中国政府は米国の停止要請には応じないとのスタンスを示している。その一方で、企業側としては、11月以降も輸入継続するだろうといわれているものの、その引き取り量については「日量50万バレル程度か、またはそれ以下になるのか」と不透明であり、米中貿易問題の動向等を注視し、慎重な構えであるとされる。なお、SinopecおよびCNPCは11月の積荷を見送っている。
【インド】
従来の輸入量は日量40万バレル台で推移していた。4月から7月までの輸入量は日量70万バレル程度に増加しており、インドも中国と同様に、輸入継続により値引きを引き出していたとされる。ただし8月には輸入量は日量50万バレル以下へ減少した。「拡大を続ける国内需要を鑑み、米国の輸入停止要請には応じられない」との政府発言もあり、インド政府は制裁免除を米国政府に働きかけているものとみられる。なお、10月の報道によれば、インド国内の二社(Indian Oil、Mangalore Refinery and Petrochemicals)が、11月にイラン産原油を合計で日量30万バレル購入する見通しであるという。一方で、リライアンス・インダストリーズおよびChennai Petroleum(CPCL)は、イラン産原油の輸入停止を表明している。
11月5日の二次制裁の再発動の前後までに、米政府がいずれの国に対してどのような制裁緩和措置を認めるのか注目されるところである。
(3)イランの国内情勢
経済・社会情勢
まず経済情勢であるが、イランリヤルは暴落しており、10月現在で実勢レートは1ドルあたり約14万リヤルで推移している。(図5)失業率は13%程度で高止まり、インフレは29.6%まで進行している。[4] 直近の「2019年実質経済成長率見通し」はマイナス3.6%で、4月発表時のプラス4%から大幅に下方修正されており、資本逃避も進んでいる。
社会情勢については、7月にクルド人武装勢力による治安部隊(バスィージ)の襲撃や9月にアフワーズでの軍事パレードへの襲撃が発生する等、国境地帯での騒擾事件が増加している。また、8月下旬には議会が労働相、経済財務相の2閣僚を弾劾し、ロウハニ大統領自身も国会へ招致され、政権への圧力も高まっている。全般的に厳しい状況にあることがうかがえる。ただし、一部専門家などによると、国民不満の高まりが政権批判のデモ拡大につながる可能性はあるとされるものの、今のところは政変などにつながるような社会不安に陥るほどではなかろう、という見方が主流である。
[4] IMF World Economic Outlook (October 2018) 前回制裁時、2013年には34.7%までインフレ進行。

イラン国内のガソリン需要
前回制裁の影響により、イラン国内では製油所の改修が進まず、イランは大産油国でありながらガソリンを中心とした石油製品の輸入状態が継続しており、ガソリン自給達成は長年の悲願であった。
2016年の制裁解除を受けて、国内精製能力拡大に向けた動きが進んでおり、2017年春にはPersian Gulf Star製油所の稼働を開始し、2018年中に第3フェーズまでの稼働(精製能力日量36万バレル)を見込んでいる。これによりイランのガソリン輸入量は大幅に減少し、自給達成は間近であるとされる。加えて2018年9月には追加フェーズの計画(プラス日量12万バレル)を打ち出しており、さらなる精製能力拡大を図るとしている。なお、同製油所はサウスパースガス田からのコンデンセートを原材料とする。(図6、図7)


イラン国内の上流開発事業
2015年11月にテヘランで新契約方式IPCによる石油天然ガス探鉱開発契約の説明会が開催され、その紹介と併せて、外資参入対象となる石油・ガス関連事業(開発案件52件、探鉱案件18件)が発表された。また、今後外資から提示される提案の内容によっては、公開入札の外で交渉を行う余地ありとも示唆され、積極的な外資導入による石油・ガス開発の推進を政策の基本方針として掲げるザンギャネ石油相のもと、イランでは積極的な対外開放への動きが示されていた。(図8)

米国による再制裁発表の直前、2018年4月にNIOCウェブサイトに掲載されたレポートによれば、NIOCは2021年までに66の油ガス田での生産開始を見込んでおり、そのためには2兆ドルの上下流への投資が必要であるとしている。2016年1月のJCPOA発効、制裁解除により、西側諸国他、国外からの投資獲得や石油・ガス開発の推進を期待していたことはいうまでもない。なかでも西側企業による第一号大型案件ということで注目されていたのが、Totalコンソーシアムによるサウスパース フェーズ11開発契約[5]である。
今年5月Totalは、「制裁免除を得られない限り、撤退せざるを得ない。」と発言し、続く8月には、イランの地元メディアで、ザンギャネ石油相が、「Totalが正式に撤退したと明らかにした。」といった報道がなされた。なお、これについては、TotalおよびTotalの権益分を引き継ぐと報じられているCNPCのいずれもからも明確なコメントはなされていない。決してTotalの抜けた場所に進んで参加したい訳ではない、あくまでTotalのオペレーター保持を望んでいたのではないか、といった見解も聞かれるところである。また、イランからオマーンへのガス供給パイプラインプロジェクトが今後数か月以内に着工目前であるとされていたものの、オマーン政府による制裁免除要請を米国が拒否したと伝えられており、その後の進展はみられない模様である。
このほか、JCPOA発効以降これまでに、ロシア企業等によるMOU締結といった話も複数あったものの、その後進展の動きは聞こえてこない。2018年5月にLukoil関係者は、自社の事業について、「イランでの開発計画について語るのは時期尚早、基本的にすべて保留中であり、国内ビジネスに焦点を当てる。」と述べている。これについては、ロシア国内油田の減退も進んでおり、ロシア企業としても国内開発を優先するといった事情がある。よって、現在の状況下で積極的にイランの上流に入るというスタンスではないのではないか、といった一部意見もある。
[5] 2017年7月、NIOCは新契約方式IPCに基づく開発契約に署名。権益比率:Total(仏、50.1%)、CNPC(中、30%)、Petropars(イラン、19.9%)
4.まとめ
米国の制裁再発動により、JCPOA加盟国らは各種対抗策を模索するものの、実際に制裁の対象となるのは企業であり、その多くが撤退の意向を示している。11月の石油部門を対象とした制裁の再発動を前に、イランの生産量、輸出量はJCPOA発効以前に近い水準まで減少しており、多くの国で原油輸入削減の動きが見られる。米国は各国に対して一定水準の輸入継続を認めるか否か、それによりイランの生産量、輸出量の減少の下限はどの程度になるか、引き続き注意深く見てまいりたい。また、もし米国の要求がゼロであった場合、それでも輸入を続ける可能性があるといわれている中国、インド、ロシアといった国の動きについても同様である。
イランの国内情勢は悪化している。一方で、石油製品の精製能力はほぼ自給を達成レベルまで拡大している。それにより輸出減少分を補い、生産量減少の抑制につながるか、また、輸入に頼らずに済むことによって財政基盤を高め、制裁への耐久力強化につながるかどうか、注目すべきところである。イラン上流事業においては、積極的参入の動きは見られず、停滞の見通しといえる。
最後に、対イラン制裁を巡る当事者間の対立構図は深まり、決着点が見えない状況下において、今後いつ、どのような形で決着することになるのか、引き続き注視してまいりたい。
以上
(この報告は2018年11月2日時点のものです)