ページ番号1007642 更新日 平成30年11月26日
原油市場他: 米国のイラン制裁発動の際のイラン産原油禁輸の一部免除に加え、OPEC産油国等の減産に対するトランプ大統領の牽制等で、1バレル当たり55ドル程度にまで下落するWTI
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概要
- 米国では、秋場の製油所のメンテナンス作業時期に突入したこともあり、ガソリンの生産活動が不活発になったことに加え、メキシコ等への輸出が旺盛になったことから、ガソリン在庫は減少傾向となった。また、留出油についても、製油所での生産活動が低迷した一方で、需要が堅調であったことから、在庫は減少傾向になった。他方、製油所での原油精製処理が進まなかった一方で国内の原油生産活動は拡大基調であったこともあり、米国での原油在庫は増加傾向となり、平年幅を超過する状態が続いている。
- 2018年10月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減については、原油については、米国で増加となった他、欧州や日本でも秋場のメンテナンス作業等により製油所の稼働が低下するとともに原油の精製処理活動が不活発となったこともあり、在庫は増加した。その結果、OECD諸国全体としても原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態が継続している。他方、石油製品については、米国では製油所での稼働低下に伴い石油製品の生産が低迷したこともあり、ガソリンや留出油在庫、及びその他の石油製品の在庫水準が低下したことで、石油製品全体の在庫も減少した。また、欧州でも、製油所の稼働が抑制されたことから、石油製品生産活動が鈍化した一方、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期到来が視野に入りつつあり、軽油等の出荷が旺盛となっていると見られることから、中間留分を中心として石油製品在庫は減少した。また、日本でも、製油所の稼働が低下し石油製品生産活動が減速している中で、軽油需要が堅調であったことに伴う当該製品在庫水準の低下等により、石油製品在庫は減少した。この結果、OECD諸国全体として石油製品在庫は減少となり、量としては平年並みとなっている。
- 2018年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場においては、米国が一部のイラン産原油輸入国に対し輸入を部分的に認める一方で制裁を免除する旨決定したことに伴う市場での石油需給緩和感の醸成、さらには米国のトランプ大統領によるOPEC産油国の減産方針を牽制する発言等により、10月3日にはWTIで1バレル当たり76.41ドルと2014年11月21日以来の高水準に到達した原油価格は下落傾向となり、11月中旬には55ドルを割り込む場面も見られた。
- 今後は、米国を含めた北半球での冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期の到来による、市場での季節的な石油需給引き締まり感の強まりの中、OPEC産油国の事実上の減産方針決定に対する期待が原油価格を下支えする反面、WTI原油価格が1バレル当たり60ドル超の段階で示されたトランプ大統領のOPEC産油国の減産方針に対する牽制姿勢が原油価格の大幅な上昇を抑制する方向で作用するものと考えられる。このような中で、米国原油生産、米国株式相場、米ドル等の状況、実際のOPEC総会等での原油生産方針の決定等が原油相場を変動させていくものと見られる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2018年8月の米国ガソリン需要(確定値)は日量975万バレルと前年同月比で0.0%程度の減少となった(図1参照)が、速報値(前年同月比で1.25%程度減少の日量963万バレル)からは上方修正されている。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.914ドルと前年同月比で0.420ドル(約16.8%)割高となっていることが当該需要を抑制しているものと考えられる。ただ、2017年8月は米国メキシコ湾岸地域を中心としてハリケーン「ハービー(Harvey)」が来襲したことにより、悪天候がもたらされたことや道路インフラ等に被害が及んだこと等により、住民による自動車での外出が手控えられたことから、ガソリン需要が落ち込んだことへの反動で、2018年8月は減少幅が抑制されたものと見られる(このため、同国の自動車運転距離数は2018年1~7月は前年同月比で0.2%の減少~0.8%の増加となっていたのに対し、8月は同1.2%の伸びとなっていた)。2018年10月の同国ガソリン需要(速報値)は日量920万バレル、前年同月比で1.7%程度の減少となっている。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.943ドルと前月(同2.915ドル)から上昇している他、依然1ガロン当たり3ドルからそう離れていない水準で引き続き推移していることに加え、前年同月比でも0.322ドル(約12.2%)割高になっていることが、需要の伸びに反映されているものと見られる。他方、秋場の石油不需要期の中、製油所のメンテナンス作業実施や装置の不具合発生等により、原油精製処理量は日量1,600万バレル台で推移しており(図2参照)、夏場の日量1,700万バレルから落ち込んだままとなっていることから、ガソリン生産活動も影響を受けたと見られる(最終製品の生産量は図3参照)一方で、従来からメキシコの製油所の稼働低迷(同国の製油所は軽質低硫黄原油を処理するのに適している一方で、同国で生産される原油は重質高硫黄であることが一因とされる)に加え、10月前半には、同国のミナティトラン(Minatitlan)製油所(原油精製処理能力日量28.5万バレル)が操業を停止した(10月9日午前2時に発生した火災が影響している可能性がある)ことから、同国がガソリン輸入を活発化させたことに伴い米国のガソリン輸出も旺盛となったこともあり、10月上旬から11月上旬にかけ、同国のガソリン在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する水準は維持されている(図4参照)。
2018年8月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量417万バレルと前年同月比で4.2%程度の増加となったうえ、速報値である日量415万バレル(同3.6%程度の増加)から上方修正されている(図5参照)。2018年8月の米国の鉱工業生産が前年同月比で5.4%程度伸びるなど経済が底堅く成長していることを示唆しており、同月の同国の物流活動も同4.7%程度拡大していることに加え、2017年8月はハリケーン「ハービー」が米国メキシコ湾岸地域に来襲したことにより、当該地域を中心として経済活動に負の影響を及ぼしたことが、軽油需要を抑制したと見られ、その反動から2018年8月はそれなりに留出油需要が増加を示しているものと考えられる。また、2018年10月の留出油需要(速報値)は日量419万バレルと、前年同月比で4.6%程度の増加となっている。10月の鉱工業生産は前年同月比で4.1%増加している旨判明しており、それに伴い物流活動もそれなりに活発であったと推定されることに加え、10月は後半を中心として気温が平年を下回り、また前年同期よりも寒冷になったことから暖房用石油製品需要が発生したと見られることが、当該需要を押し上げたものと考えられる。また、2018年9月はハリケーン「フローレンス(Florence)」が米国南東部に上陸したことに伴い同国の経済活動に影響を与えたと指摘されることもあり、留出油需要の伸びが抑制された反動が10月に発生している可能性もある。そしてこのように需要が堅調であった一方で、米国での製油所での原油精製処理活動の不活発化に伴い留出油生産も併せて低迷したこと(図6参照)から、10月上旬から11月上旬にかけ留出油在庫は低下傾向となった結果、2018年11月上旬時点では平年幅下限に位置する量となっている(図7参照)。
2018年8月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で5.2%程度増加の日量2,130万バレルとなった(図8参照)。留出油需要及びその他の石油製品の増加が石油需要の伸びを牽引している格好となっている。ただ、その他の石油製品が速報値(日量447万バレル)から確定値に移行する段階で下方修正された(確定値では同426万バレル)ことにより、当該需要は速報値(日量2,133万バレル、前年同月比5.3%程度の増加)から若干ながら下方修正されている。その他の石油製品の需要については、特にエタンの需要が前年同月比で34.4%(日量39万バレル)程度と大幅に伸びているが、これは、2018年7月26日にExxonMobilがテキサス州ベイタウン(Baytown)で年産150万トンのエチレン製造装置の操業を開始していることに伴いエタン需要が増加していることが一因となっている可能性がある。他方、2018年10月の米国石油需要(速報値)は、日量2,061万バレルと前年同月比で3.1%程度の増加となった。留出油、プロパン/プロピレン及びその他の石油製品の需要増加が石油製品全体の需要の伸びに寄与している格好となっている。10月は気温が平年を下回り、また前年同期よりも寒冷になったことからプロパン/プロピレンの需要が喚起されたと見られることに加え、その他石油製品の需要の増加はExxonMobilのエチレン製造装置の操業開始が影響している可能性がある。また、秋場の石油不需要期と製油所のメンテナンス作業シーズン到来により、米国の原油精製処理活動が不活発となったことに加え、ハリケーン「マイケル(Michael)」の米国メキシコ湾来襲で当該地域の原油生産が影響を受ける場面も見られたものの同国のシェールオイルを中心とする原油生産が拡大したこともあり、原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図9参照)。そして、留出油在庫が平年幅下限に位置する量となっている一方で、原油及びガソリンの在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、または原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2018年10月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減については、原油については、米国で増加となった他、欧州や日本でも秋場のメンテナンス作業等により製油所の稼働が低下するとともに原油の精製処理活動が不活発となったこともあり、在庫は増加した。その結果、OECD諸国全体としても原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態が継続している(図12参照)。他方、石油製品については、米国では製油所での稼働低下に伴い石油製品の生産が低迷したこともあり、ガソリンや留出油の在庫が減少した。加えて、その他の石油製品の在庫も減少しているが、これは、冬用ガソリン需要の盛り上がりが視野に入り始めたことにより当該ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあると見られることや、新たにエタン分解装置が操業を開始した(前述)石油化学産業向けのエタン需要が堅調であると見られることにより、ブタンやエタンの在庫が減少していることが影響しているものと思われる。また、欧州でも、製油所の稼働が抑制されていることから、石油製品生産活動が鈍化している一方、冬場の暖房シーズン到来とともに暖房用石油製品(この場合軽油(暖房油)が中心)需要期到来が視野に入りつつあり、当該製品の出荷が旺盛となっていると見られることから、中間留分を中心として石油製品在庫は減少している。また、日本でも、製油所の稼働が低下し石油製品生産活動が減速している中で、軽油需要が堅調であった(インターネット通販を通じ購入された物品の輸送が活発化したことが背景にあるとの指摘がある)ことに伴う当該製品在庫の減少に加え、一時増加していたナフサ在庫(9月末前後に製油所の稼働が低下することに備え在庫積み増しを行った可能性が考えられる)が減少を示したことが灯油他の製品在庫増加を相殺して余りあったことから、全体として石油製品在庫は減少した。この結果、OECD諸国全体として石油製品在庫は減少となり、量としては平年並みとなっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する量となっている(図14参照)。なお、2018年10月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は60.9日と9月末の推定在庫日数(59.9日)から増加している。
10月10日に1,000万バレル強の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、10月17日は1,100万バレル台前半、10月24日及び10月31日には1,200万バレル台前半の量へと増加した。そして、11月7日は1,200万バレル強の量へと低下したものの、11月14日には1,300万バレル弱の水準へと増加しており、この量は前年同期を20%強上回っている。ガソリン小売価格上昇により米国でのガソリン需要が伸び悩み気味となったこともあり、同国では6月下旬以降ガソリンの在庫が前年同期を上回るようになった(例えば2018年9月21日の米国ガソリン在庫は前年同期を1,800万バレル(約8.5%)上回っている)。このようなことから、大西洋圏においてガソリン需給の緩和感が意識されるようになった結果、ガソリン精製利幅が圧迫されるようになった。このため、欧州方面から、相対的にガソリン価格が高かった(つまり精製利幅が確保しやすい)アジア市場へとガソリンが流入しつつあることが、シンガポールでの軽質留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。加えて、冬場の暖房需要期を控え需給に引き締まり感が発生している中間留分の生産を活発化させるべくアジアに加え欧州等の製油所が秋場のメンテナンス作業終了後稼働を上昇させる結果、併せて軽質留分の生産も増加、アジア市場へと流入してくる一方流出しにくくすることにより、当該製品の需給を緩和させるのではないかとの見方が市場で広がってきていることから、例えば、ガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格が原油のそれを上回っている)は、縮小傾向を示した。
ナフサについても、欧州において米国輸出向けガソリン製造過程で混入するナフサの需要が、ガソリン精製利幅縮小により影響を受けたことに伴い、欧州方面からアジア諸国へ堅調にナフサが輸出された他、冬場を前にしてLPGの価格が必ずしも割高にはなっていない(米国でのシェールガス生産の活発化に伴いLPGの供給が増加していることが一因であると見られる)ことが、アジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加えた結果、ナフサとドバイ原油との価格差(この場合ナフサ価格が原油のそれを下回っている)は拡大する傾向を示した。
10月10日には1,000万バレル強の量であったシンガポールの中間留分在庫は、10月17日には900万バレル台前半程度、10月24日には800万バレル台半ば程度の量へと減少したが、10月31日には900万バレル台半ば程度、そして11月7日には1,000万バレル台前半の量へと増加した。それでも、11月14日には900万バレル台後半の水準へと低下、10月10日の量を下回っている。インドにおいて、モンスーン(雨季)シーズンが終了しつつあることにより軽油需要の増加が見込まれる(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーンシーズン時に使用されていた水力発電由来の電力から軽油へと切り替わることに加え、雨天となる日が減少することに伴い道路工事及び建設工事が活発化することにより物流や製造業での軽油の利用が加速すること等による)ことにより、同国からの軽油輸出が鈍化しつつあることに加え、アジア地域の製油所での秋場のメンテナンス作業シーズン突入に伴う中間留分を含む石油製品生産活動の不活発化が、シンガポールでの中間留分在庫の減少傾向に影響しているものと考えられる。このようなことに加え、北半球の冬場の暖房シーズンに向けた軽油や灯油の需要拡大や、年末の休暇時期の行楽のための航空機向けジェット燃料需要増加の見方が市場で広がったことが、アジア市場での中間留分価格に上方圧力を加えた他、特に11月中旬には原油価格の下落に中間留分価格のそれが追いつかなかった場面が見られた一方で、この先アジア地域の製油所が秋場のメンテナンス作業を終了することにより、中間留分を含む石油製品生産活動が活発化するとの観測が市場で広がりつつあることが中間留分価格に下方圧力を加えた結果、例えばアジア市場での軽油とドバイ原油価格との差は拡大及び縮小を繰り返しながら、概ね一定の範囲内で推移した。
10月10日には1,800万バレル台後半の量であったシンガポールの重油在庫は、10月17日には1,700万バレル台後半の量へと減少したものの、10月24日には1,800万台前半の量へと回復した。しかしながら、10月31日には1,500万バレル台半ば程度の量へと大幅に減少している。そして、11月7日には1,600万バレル強の量へと増加したものの、11月14日には1,500万バレル台後半の量へと再び減少した。米国の対イラン制裁発動(11月5日発動)を控え、イランからの重油の購入が手控えられたことに加え、サウジアラビアもイラン制裁発動によるイランからの原油供給減少の代替のために世界市場への自国産原油供給を増強したことにより、自国の発電所で従来燃料として使用していた原油に代えて重油を利用するようになったこと等もあり、アジア地域向け重油供給が低下したうえ、大西洋圏でも、ロシアで製油所施設の高度化により重油の生産が減少しつつある他、ベネズエラでも自国の製油所の稼働低下から重油の生産が不振となっていることもあり、欧州方面からも重油がアジア市場に流入しにくくなってきていることが、シンガポールでの重油在庫を減少させているものと考えられる。このような在庫減少に伴う市場での引き締まり感の発生に加え、原油価格の下落に重油のそれが追いつかなかったことから、従来ドバイ原油価格を下回っていた重油価格はその差を縮小したうえ、重油価格が原油のそれを上回る場面も見られるようになっている。
2.2018年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場等の状況
2018年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場においては、米国株式相場の下落、米国原油生産及び原油在庫、そして米国石油坑井掘削装置稼働数の増加に加え、米国が一部イラン産原油輸入国に対し当該原油輸入を部分的に認める一方で制裁を免除する旨決定したことに伴う市場での石油需給緩和感の醸成、さらには米国のトランプ大統領によるOPEC産油国の減産方針を牽制する発言等により、10月3日にはWTIで1バレル当たり76.41ドルと2014年11月21日以来の高水準に到達した原油価格は下落傾向となり、11月中旬には55ドルを割り込む場面も見られた(図15参照)。
10月2日にトルコ イスタンブールのサウジアラビア総領事館に訪問した後行方不明となっているサウジアラビア人記者のジャマル・カショギ氏に関し、サウジアラビア政府が同記者の殺害に関係しているのであれば、厳罰に処する旨米国のトランプ大統領が発言したと10月13日に報じられたことに対し、サウジアラビア政府は、本件で同国に措置が講じられれば、それを上回る規模の報復を実施する旨10月14日に表明したことで、サウジアラビアが石油を武器として使う結果、世界石油需給が引き締まるのではないかとの懸念が10月15日の市場で発生したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.44ドル上昇し、終値は71.78ドルとなった。10月16日も、行方不明となっているサウジアラビア人記者のジャマル・カショギ氏に関連し、サウジアラビアが石油を武器として使う結果、世界石油需給が引き締まるのではないかとの懸念が市場で発生した流れを引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.92ドルと前日終値比で0.14ドル上昇した。この結果原油価格は10月15~16日の2日間で併せて1バレル当たり0.58ドルの上昇となった。10月17日には、この日EIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で649万バレルの増加と市場の事前予想(同188~250万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことで、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.75ドルと前日終値比で2.17ドル下落した。10月18日も、10月17日にEIAから発表された同国石油統計で原油在庫が市場の事前予想を上回って増加している旨判明した流れを引き継いだことで、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.10ドル下落し、終値は68.65ドルとなった。この結果原油価格は10月17~18日の2日間で併せて1バレル当たり3.27ドル下落した。10月19日には、カショギ氏行方不明事件に関し、調査の結果によってはサウジアラビアに対して制裁を科する可能性もある旨米国のトランプ大統領10月19日に示唆したことで、米国とサウジアラビアとの対立激化に対する懸念が市場で増大したことに加え、9月の中国原油精製処理量が5,134万トン(推定日量1,249万バレル)と8月の5,031万トン(同1,185万バレル)から増加、史上最高水準に到達した旨中国国家統計局が10月19日に示唆したことにより、同国の堅調な石油需要を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.47ドル上昇し、終値は69.12ドルとなった。
10月22日には、NYMEX11月渡し原油先物契約取引終了を控え、持ち高調整が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.17ドルと前週末終値比で0.05ドルの上昇にとどまった(なお、この日を以てNYMEXの11月渡し原油先物契約は取引を終了したが、12月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり70.32ドル(前日終値比0.08ドル上昇)であった)。ただ、10月23日には、米国の対イラン制裁に伴う供給不足を代替するためにOPEC産油国及び一部非OPEC産油国はできる限り増産する意向である旨10月23日にサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が示唆したことで、足元の石油需給引き締まり感が市場で後退したことに加え、10月23日に発表された米国複合企業スリーエムの2018年7~9月期の業績が市場の事前予想を下回った他、スリーエムが10~12月期の業績見通しを下方修正したうえ、米国建機大手キャタピラーが2018年1~3月期及び4~6月期業績発表時には上方修正していた年間(2018年12月期)業績見通しをこの日行われた7~9月期業績発表時には据え置いたことに加え、イタリアの2019年度予算案が欧州連合(EU)欧州委員会(EC)の財政規律を大幅に逸脱している(後述)として、3週間以内に修正案を提示するよう要求、提示されない場合には処分することもありうる旨10月23日に報じられたことで、同国経済に対する懸念が市場で発生したこともあり、米国株式相場が下落したことにより、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.74ドル下落し、終値は66.43ドルとなった。しかしながら、10月24日には、この日EIAから発表された同国石油統計(10月19日の週分)でガソリン在庫が前週比で483万バレルの減少と市場の事前予想(同150~190万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことで、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.82ドルと前日終値比で0.39ドル上昇した。10月25日も、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、最近増加してきた原油在庫を削減するため介入しなければならない可能性がある旨発言したと10月25日に報じられたことで、石油需給の引き締まりの可能性を市場が意識したことに加え、10月24日夕方に発表された米国ソフトウェア製造大手マイクロソフトの2018年7~9月期業績が市場の事前予想を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.51ドル上昇し、終値は67.33ドルとなった。10月26日も、イラクが同国北部キルクーク油田で生産される日量3万バレルの原油のイランへの輸出につき、米国の対イラン制裁発動を控え停止する旨この日(10月26日)報じられたことにより、イランと米国との対立の先鋭化に対する懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.59ドルと前日終値比で0.26ドル上昇した。この結果原油価格は10月24~26日の3日間で併せて1バレル当たり1.16ドルの上昇となった。
10月29日には、ロシアにとって原油生産を凍結したり削減したりする理由はない旨10月27日に同国のノバク エネルギー相が発言したことで、足元の石油需給引き締まり感が市場で後退したことに加え、11月30日~12月1日の20ヶ国・地域首脳会議(G20)開催の際に行われる予定である、米国のトランプ大統領と中国の習近平主席との間での貿易協議が決裂した場合のために、現時点で追加関税が賦課されていない中国からの全ての輸入品目に対し追加関税賦課の対象とする旨発表することを米国側が検討している旨10月29日に報じられたことで、両国等の経済成長に対する不安感が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したこと(併せて同国の石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で強まったこと)、10月29日に米国商務省から発表された9月の同国個人消費支出が前月比で0.4%の増加と7ヶ月連続で増加となった旨判明したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.04ドルと前週末終値比で0.55ドル下落した。また10月30日も、中国からの全ての輸入品目に対し追加関税賦課対象とする旨発表することを米国側が検討している旨10月29日に報じられたことで、両国等の経済成長と石油需要に対する懸念が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、10月30日にEIAから発表される予定である米国石油統計(10月26日の週分)で原油在庫が前週比で増加しているとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格も前日終値比で1バレル当たり0.86ドル下落し、終値は66.18ドルとなった。さらに、10月31日には、2018年8月の米国原油生産が前月比で日量41.6万バレル増加の同1,134.6万バレルと1920年1月以降の月間統計史上最高記録を更新したことで、石油需給の緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.31ドルと前日終値比で0.87ドル下落した。加えて、11月1日には、米国の対イラン制裁発動に際しインド及び韓国がイラン産原油輸入を可能とするような除外措置の大枠で合意した旨11月1日に報じられたことで、イラン産原油輸出の大幅減少に伴う世界石油需給の引き締まりに対する市場の懸念が後退したうえ、10月31日~11月1日にロイター通信及びブルームバーグ通信が発表した、10月のOPEC産油国原油生産量(推定)が9月に比べ日量39~43万バレル程度増加している旨判明したことから、足元の世界石油需給の緩和感が市場で醸成されたことにより、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.62ドル下落し、終値は63.69ドルとなった。そして、11月2日には、この日米国のポンペオ国務長官が、8ヶ国(具体名は11月5日に発表する予定)に対し、イラン産原油輸入を認める形で、11月5日に発動する予定の米国の対イラン制裁適用を一時的に除外する旨表明したことで、世界石油需給引き締まり感が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.14ドルと前日終値比で0.55ドル下落した。この結果原油価格は10月29日~11月2日の5日間で併せて1バレル当たり4.45ドルの下落となった。
11月5日には、この日米国の対イラン制裁が完全発動に至ったことで、両国の対立が先鋭化するのではないかとの懸念が原油相場に上方圧力を加えた反面、同日米国のポンペオ国務長官が、中国、インド、ギリシャ、イタリア、台湾、日本、トルコ、韓国の8ヶ国につき、イランの原油輸入をある程度の規模認めつつ、最長180日間制裁を免除する旨発表したことで、イランからの原油輸出の完全停止に伴う世界石油需給引き締まり懸念が市場で後退したことが原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.10ドルと前週末終値比で0.04ドルの下落にとどまった。ただ、11月6日には、11月5日に米国のポンペオ国務長官が一部諸国に対しイランの原油輸入をある程度の規模認めつつ最長180日間制裁を免除する旨発表したことで、イランからの原油輸出の完全停止に伴う世界石油需給引き締まり懸念が市場で後退した流れを引き継いだことに加え、11月7日にEIAから発表される予定である同国石油統計(11月2日の週分)で原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、11月6日にEIAが発表した短期エネルギー展望(STEO:Short-term Energy Outlook)で2018年の米国の原油生産量につき10月時点での見通しである日量1,074万バレルから今般同1,090万バレルへ、2019年のそれを同1,176万バレルから同1,206万バレルへと、それぞれ上方修正したことで、世界石油需給の引き締まり感が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.89ドル下落し、終値は62.21ドルとなった。11月7日も、この日EIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で578万バレルの増加と市場の事前予想(同190~240万バレル程度の増加)を上回った他、ガソリン在庫が同185万バレルの増加と市場の事前予想(同170~230万バレル程度の減少)に反し増加していたことに加え、同国本土48州の原油生産量が前週比で日量40万バレル増加していた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.67ドルと前日終値比で0.54ドル下落した。11月8日も、11月7日にEIAから発表された同国石油統計で原油在庫が市場の事前予想を上回って増加したうえ、ガソリン在庫が市場の事前予想に反し増加していた他、同国本土48州の原油生産量が前週比で増加していた旨判明した流れを引き継いだことに加え、11月8日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で漸進的な金利引き上げが望ましい旨の見解が発信されたことで、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.00ドル下落し、終値は60.67ドルとなった。11月9日も、この日米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で886基と前週比で12基増加(石油水平坑井掘削装置稼働数は822基と前週比6基増加)となっている旨判明したことに加え、同じくこの日中国国家統計局が発表した10月の同国生産者物価指数(PPI:Producer Price Index)が前年同月比で3.3%上昇と9月の同3.6%上昇から鈍化したうえ、同日米国労働省から発表された9月のPPIが前月比で0.6%の上昇と市場の事前予想(同0.2%上昇)を上回ったことで米国金融当局による金利引き上げ観測が市場で強まったこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.19ドルと前日終値比で0.48ドル下落した。この結果原油価格は11月6~9日の5日間で併せて1バレル当たり2.91ドルの下落となった。
11月12日には、この日米国のトランプ大統領が「サウジアラビアとOPEC産油国は減産しないことを望む。供給に基づけば原油価格はもっとずっと低下するはずである」旨表明したことで、OPEC産油国等による原油生産削減に対する市場の期待が低下したことに加え、米国光学製品大手ルメンタム・ホールディングズが顧客から自社の光学部品の納入削減を要請されている旨明らかにした他2018年10~12月期の業績見通しを下方修正したことで、同社及び同社の有力納入先である米国アップルの業績に対する懸念が市場で発生した他、マレーシア政府系投資会社の債券発行の際の巨額不正事件に関連し、マレーシア政府が債券発行引き受け会社であるゴールドマン・サックスに対し引受手数料を全額返還するよう要求する旨表明したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.93ドルと前週末終値比で0.26ドル下落した。11月13日には、11月12日に米国のトランプ大統領がOPEC産油国等による減産方針を牽制したことで、OPEC産油国等による原油生産削減に対する市場の期待が低下した流れを引き継いだうえ、11月13日にOPEC事務局から発表された月刊オイル・マーケット・レポートで2019年の世界石油需要を前月のレポートから日量7万バレル下方修正した他同年の非OPEC産油国石油供給量を日量20万バレル上方修正したことで、世界石油需給緩和感が市場で強まったことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり4.24ドル下落し、終値は55.69ドルとなった他、同日午後の時間外取引では一時1バレル当たり54.75ドルまで下落する場面も見られた。この結果原油価格は11月12~13日の2日間で併せて1バレル当たり4.50ドル下落した。ただ、11月14日には、2019年にOPEC及び一部非OPEC産油国が最大日量140万バレルの減産を実施することを検討している旨ロイター通信が同日報じたことで、世界石油需給の緩和感が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり56.25ドルと前日終値比で0.56ドル上昇した。また、11月15日も、OPEC及び一部非OPEC産油国による減産検討の報道により、世界石油需給緩和感が市場で後退した流れを引き継いだことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.21ドル上昇し、終値は56.46ドルとなった。この結果原油価格は11月14~15日の2日間で併せて1バレル当たり0.77ドル上昇した。しかしながら、11月16日には、OPEC及び一部非OPEC産油国による減産検討の報道により、世界石油需給緩和感が後退した流れを引き継いだことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、11月16日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で888基と前週比で2基増加(石油水平坑井掘削装置稼働数は825基と前週比3基増加)となっている旨判明したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で変わらずの1バレル当たり56.46ドルの終値となっている。
3.今後の見通し等
地政学的リスク面では、当面イラン、ベネズエラ、リビア等の原油供給を巡る動向が挙げられよう。
米国は11月5日に対イラン制裁を完全発動した(11月5日発動分は海運、造船、石油、金融、保険、及びエネルギー部門に対するもの)。これにより700以上の個人、法人、航空機、船舶等に対し制裁を科することになった。ただ、原油輸入に関しては中国、インド、韓国、トルコ、日本、イタリア、ギリシャ、台湾に対し、ある程度のイラン産原油を輸入することを認めつつ、制裁を最長180日間免除する旨同日ポンペオ国務長官が明らかした(なお、11月2日にポンペオ長官は2ヶ国及び地域は将来的にイラン産原油の完全輸入停止を実施、残りの6ヶ国及び地域は輸入を大幅に削減する旨説明している)。また、同長官は、既に世界の20超の国及び地域から日量100万バレルの原油輸入が削減されており、今回の措置については、世界石油需給状況や各国個別の状況を斟酌した結果と述べている。輸入許可数量については公式に発表されていない(11月5日韓国外交部はどの程度の削減率になるかについては米国及び韓国間での取り決めに基づき明らかにしない旨表明している)。ただ、諸情報を総合すると、中国が日量36万バレル(但し、中国国営石油会社がイランで事業を実施している油田での保有権益相当分の生産は対象外となっていると伝えられており、これを併せると同56万バレル程度になるものと推定される)、インドが同30万バレル、韓国同20万バレル、トルコ同6万バレル程度となる(なお、トルコのエルドアン大統領は11月6日に米国の対イラン制裁には従わない旨表明している)。このため、当初見込み(イランからの原油輸入の完全停止)よりは、イラン産原油はそれなりの量世界市場に流入することになると見られることから、イラン産原油の完全禁輸を見込んで増産に動いていたOPEC産油国等が再度減産を実施しなければ、石油需給の緩和感が市場で広がることにより、原油相場に下方圧力を加えるものと考えられる。そして、今後はイラン産原油がどの程度の量世界市場に供給されているかについての情報等により、石油需給の引き締まり感もしくは緩和感が市場で醸成されることにより、原油相場が変動する可能性がある(なお、11月9日には、インドが米国によるイラン産原油の輸入認可量につき検討中である旨インド外務省が明らかにしている他、韓国はイランからの原油購入再開に向け協議を実施する意向であると11月10日に伝えられる)。また、11月5日にトランプ大統領は原油価格の急騰を望まないことから、石油部門での対イラン制裁は漸進的に進めていく旨表明している。ただ、11月9日には、国際銀行間通信協会(Swift)がイランの一部金融機関に対し事実上の送金手続き等の業務につき週末を以て停止する旨表明した。そして、10月28日及び11月11日にはイランがそれぞれ28万バレル及び70万バレルの原油を国内のエネルギー取引所を通じ同国の民間企業に販売した旨報じられる。他方、11月5日には、米国国務省は、アラク、ブシェール、フォルドゥの既存の原子力関連施設については事業の継続を認める旨明らかにしている(これについては、特段期限は設けられていない)。
10月24日に、リビア国営石油会社(NOC)のサナラ会長は、現時点での原油生産量は日量125~127万バレルで推移しており、同130万バレルに到達することもありうる旨明らかにしている。他方、11月12~13日には、イタリアのパレルモ(シチリア島)で、リビアの和平協議が行われ、当初12月10日に実施が予定されていたリビアでの大統領及び議会議員選挙を2019年春まで延期することで合意した。依然同国では西部トリポリを拠点とする政府(制憲議会)、東部トブルクを拠点とする政府(暫定議会)、国連が支援する統合政府の各政府が存在しており、特に統合政府と暫定議会との間での対立が解消されているわけではないこともあり、今後も政情不安が増大するとともに、同国の原油生産量に影響が及ぶ(その場合短期間に日量数十万バレルの減産といった事態が起こりうる)といった展開も排除できないことから、今後の同国の政治情勢等の動向につき注視していく必要があろう。
また、ベネズエラの原油生産量は継続的に減少しつつある中で、米国のトランプ大統領はベネズエラが保有する金の米国人との取引を制限すること等を内容とする制裁を科する旨の大統領令に署名したと11月1日に伝えられおり、今後も同国の原油生産が短期的に好転するという見込みはそれほど大きくないものと考えられる
他方、米国では、以前に比べて株式相場が不安定である。株式相場の上昇もしくは下落が限定的な規模であれば、原油相場はそのような変動に対抗することができようが、株式相場が相当程度振幅した場合、投資家のリスク許容度の拡大もしくは縮小が発生する結果、原油相場もその影響を免れられない場面が見られることもありうる。また、米国と中国との貿易戦争に関しては、米国のトランプ大統領が11月1日に中国の習近平主席と電話で会談し、貿易協議は順調であることを示唆、11月30日~12月1日にブエノスアイレスで開催が予定されるG20の際に会談する意向を表明していることから、この面では両国間の対立度合いの低下とともに、両国を含む世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で後退する余地があるものの、両国関係はなお紆余曲折を経るといった展開も否定できない(4月10日には習近平主席が自国の通商政策につき融和的な方針を示したものの、その後米国との関係が悪化し、両国間での関税賦課合戦に突入したように)ことから、両国首脳会談の成り行きを含めなお緊密に監視する必要があろう。また、既に10月の中国の小売売上高が前年同月比で8.6%の増加と市場の事前予想(同9.1~9.2%程度の増加)を相当程度下回るなど、同国経済が減速する兆候が顕在化しているように見受けられる部分もあり、この面で同国の経済及び石油需要に対する不安感から、原油相場の上昇が抑制される、といった展開もありうるため、今後発表される予定である同国の経済指標類についても注目していくことが肝要であると思われる。さらに、米国金融当局による金利引き上げ予想も市場に根強いものがある(12月18~19日に予定されているFOMCでは、2.25~2.50%への利上げ(現行2.00~2.25%)の確率が65.4%(11月17日現在)である)ことから、米ドルが上昇しやすい素地が見られる。また、ユーロ圏の2018年7~9月期のGDPが前期比で年率0.6%の成長(10月30日EU統計局(ユーロスタット)発表)と4~6月期の同1.8%の成長から相当程度鈍化している他、イタリアの2019年度予算案につき10月23日にECがEU財政規律から大幅に逸脱していること(EUによる財政規律では対GDPでの政府債務残高比率が60%以内とされているのに対し、イタリアのそれは130%超)につき3週間以内(期限は11月13日)の修正を要求したものの、11月13日にイタリアはECの要求を拒否する旨表明している。このため、今後両者の対立が激化することにより、ECのイタリアに対する罰金の賦課へと事態が進んでしまう可能性も含め、イタリア、そして欧州地域経済に対する懸念が市場で増大する結果、ユーロが下落する反面、米ドルが上昇することもありうる。そしてこのような米ドル上昇が原油相場に下方圧力を加えてくる可能性があるので、今後も経済指標類を含め欧州諸国等の動向には注意が必要であろう。
北半球では11月に入り、冬場の暖房シーズンに突入した。これに併せ、米国を中心として暖房用石油製品需要が増加、製油所も秋場のメンテナンス作業を終了し稼働を上昇、原油精製処理量を増加させるとともに、原油の購入を活発化させて来るとの観測が市場で増大しつつある。このような市場での季節的な需給引き締まり感の醸成が原油相場を支持するものと考えられる。また、特に暖房油消費の中心地である米国北東部での気温や気温予報に関しても市場関係者は敏感になっているものと見られる。そして、米国北東部での足元の気温が低下したり、気温が低下するとの予報が発表されたりするようだと、需給の引き締まり感が市場で強まる結果、暖房油価格が上昇、それに引きずられて原油価格が上昇する可能性もある。加えて、米国での原油在庫及び原油生産量、石油坑井掘削装置稼働数の動向等によっても、原油相場が変動する場面が見られることがありうる。
OPEC産油国は12月6日に総会を、そして12月7日には一部非OPEC産油国との閣僚級会合を開催する予定である(10月1日に当初の12月3日(OPEC総会)及び12月4日(閣僚級会合)から開催日を変更したと伝えられる)。11月5日に米国による対イラン制裁が完全に発動された一方で、米国は一部イラン産原油輸入国に対し部分的に輸入を許可する旨発表しており、当初見込みよりもOPEC産油国等で生産される原油の世界石油市場への供給が増加する方向となっている。そして、このままでは2019年の世界石油需給が緩和する(=供給過剰感が強まる)可能性があることから、OPEC総会等では、2019年に向けた減産方針が協議される可能性がある。ただ、減産目標自体を変更することについては、再びどの産油国に対しどの程度の減産目標を設定するかにつき、イランを含め議論が紛糾することも否定できない。また、11月12日には米国のトランプ大統領がOPEC産油国の減産及び原油価格の上昇を牽制する発言を行っており、市場関係者の心理に原油価格の大幅な先高観を醸成させるような大きな影響を及ぼす決定はOPEC産油国等としては困難になってきている。他方、10月時点ではサウジアラビアの原油生産量が日量57万バレル、UEAが同29万バレル、クウェートが同6万バレル程度、それぞれ減産目標を上回っている他、10月のロシアの原油生産量も日量1,141万バレルと減産目標(推定同1,093万バレル)を同48万バレル超過していると見られることから、減産目標を遵守するだけで同140万バレル程度の原油供給を市場から排除することが可能である。このようなことから、次回OPEC総会等では従来の減産目標を半年間もしくは1年間延長するとともに、減産遵守を徹底することにより、事実上の減産を見込む形とすることで、出来る限り米国のトランプ大統領への心理的な刺激を回避しつつ、事実上の減産を実施する方策が模索される可能性があるものと考えられる。そしてこのようにOPEC総会等での事実上の減産方針の決定に対する市場の期待から原油価格が支持される可能性がある。また、実際にOPEC産油国等により事実上の減産方針が決定されれば(そしてその可能性はそれなりにある)、原油価格に上方圧力が加わるといった展開もありうる。ただ、トランプ大統領のOPEC産油国等の減産方針に対する牽制はWTIで1バレル当たり60ドル超の段階でなされていることから、10月初旬に見られたWTIで1バレル当たり75ドル程度の水準にまで原油価格が上昇し続ける可能性もそれほど高くないものと考えられる。そして、これからOPEC総会等の開催日に向け、世界石油需給、もしくはOPEC産油国等の原油生産方針に関してOPEC産油国等関係者が行う発言などによっては、原油相場が変動することもありうる。なお、10月23日にはサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、石油市場の監視と安定化促進のためにOPEC及び一部非OEPC産油国による協力関係を拡大する意向を示していたこともあり、当該事項に関しOPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚級会合で合意する可能性もある。
また、12月末にかけ、米国メキシコ湾岸の主要製油所に通じるヒューストン運河(Houston Ship Channel)等において濃霧の影響で原油輸送タンカーの航行にしばしば支障が生じることにより当該製油所での原油在庫の積み上げに影響が及ぶことがありうる他、年末の課税対策から精製業者等が原油在庫等を相当程度減少させる可能性がある(米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の在庫保有を敬遠することに伴い在庫が減少に向かいやすくなるとされる)。このようなことから、年末にかけて発表される米国石油統計でメキシコ湾岸地域での原油在庫等が相当程度の減少傾向を示す場面が発生することにより、これが市場で石油需給の引き締まりの兆候と受け取られ、原油価格に上方圧力が加えられる、といった展開も予想される。ただ、このような在庫減少が見られた場合、1月以降は製油所等での原油等の受入が再開されることから、反動で相当程度の在庫増加が見られる可能性もあり、これにより原油相場を押し下げる場面が見られることもありうる。
全体としては、米国を含めた北半球での冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期の到来による季節的な石油需給引き締まり感増大の中、OPEC産油国の事実上の減産方針決定に対する期待が原油価格を下支えする他、実際にOPEC総会等で事実上の減産が決定すれば、原油価格に上方圧力が加わる可能性がある反面、WTI原油価格が1バレル当たり60ドル超の段階で示されたトランプ大統領のOPEC産油国等の減産方針及び原油価格上昇に対する牽制が原油価格の大幅な上昇を抑制すると考えられる。そのような中で米国北東部等での気温もしくは気温予報、米国の原油在庫、原油生産量、及び石油坑井掘削装置稼働数、株式相場、及び米ドルの動向等によって原油相場が変動することになろう。また、イラン産原油がどの程度輸出されており、それによって世界石油需給がどの程度緩和するかといった市場の観測、もしくはOPEC産油国等によるOPEC総会等を控えた発言等も原油相場に影響を与える場面が見られうる。
4.世界天然ガス市場動向
米国では、8~9月の気温は前年を若干上回る一方で、10月は気温が前年を若干下回る状態になっており(図16参照)、この面では、夏場の空調向け発電用天然ガス需要及び秋及び冬場の暖房用もしくは暖房向け発電用天然ガス需要がそれなりに刺激されているものと考えられる。加えて、同国では石炭火力発電所が老朽等で閉鎖が進む一方で、天然ガス火力発電能力の拡張が進んでいることが一因となって、同部門での天然ガス消費量が伸びているものと考えられる。さらに、2000年代半ば頃の石炭価格の高騰により、米国等では炭鉱の開発が進んだが、その後石炭供給が過剰となったこともあり、業界の再編が進んだ他、中国でも炭鉱の過剰能力の削減が進んだと見られることもあり、2016年後半以降、石炭価格が上昇傾向となったことで、発電部門における天然ガスコストが相対的に石炭コストを恒常的に下回るなど、天然ガスの割安感が強まったことも、発電用燃料を天然ガスに向かわせているものと考えられる。このようなことから、米国での天然ガス需要は発電部門を中心に前年を上回る状況となった(図17参照)。
他方、米国テキサス州ウェブ(Webb)郡からメキシコのモンテレー(Monterrey)への天然ガスパイプライン(Nueva Era Pipeline、輸送能力日量5.0億立方フィート)が操業を開始したこと(操業者であるHoward Energy Partnersが7月2日に発表)に加え、エル・エンシノ(El Encino)からトポロバンポ(Topolobampo)へと天然ガスを輸送するパイプライン(Topolobampo Pipeline、輸送能力日量6.7億立方フィート)が操業を開始したこと(操業者であるTransCanadaが7月16日に発表)もあり、米国からメキシコ方面への天然ガス輸出量が増加した(図18参照)他、サビンパス(Sabine Pass)天然ガス液化施設(米国ルイジアナ州、液化能力年間1,800万トン、日量約23億立方フィート)に加え、2018年4月にはコーブポイント(Cove Point)天然ガス液化施設(米国メリーランド州、液化能力年間525万トン、日量約7億立方フィート)(4月16日に第一船が出航したと報じられる)が操業を開始したこともあり、LNG輸出も日量30億立方フィート弱程度と堅調に推移した(図19参照、なお9月は日量29億立方フィート、10月は同29.8億立方フィートの輸出を行っていると推定される)。ただ、米国からのLNG輸出先の構成には変化も見られる。中国は2017年後半に大気汚染対策のために石炭から天然ガスへの転換政策を推進した(2013年9月12日に発表された中国政府による「大気汚染防止行動計画」の実施期限が2017年末であった)こともあり、米国から中国に向けたLNG輸出が活発化したものの、2018年に入りその流れは一段落したことに加え、2018年3月1日(この日、米国のトランプ大統領が自国の安全保障上問題になっているとして、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を、それぞれ課する措置を実施する方針である旨表明している)以降の米国と中国との間での貿易戦争(関税賦課合戦)の影響(実際9月24日には中国は米国産LNGに10%の関税を課した)もあり、米国から中国へのLNG輸出量は低下していった。反面、メキシコでは国内天然ガス生産量が減少傾向となる中、Nueva Eraパイプライン(前述)等の天然ガスパイプラインの完成が1年超遅延したこともあり、LNGに対する需要が増加したこと、ブラジルでも降雨量が減少したことに伴い天然ガス火力発電所の稼働が上昇したことによりLNG需要が増加したと見られること、そしてアルゼンチンでもLNG需要が増加した(軽油等から環境面で有利な天然ガスを発電部門でより多く利用するために同国政府が発電部門での天然ガス価格を100万Btu当たり5.20ドルから4.20ドルへと引き下げたこともあり、同国の天然ガス及びLNG需要が刺激された可能性がある)ことから、米国からこれら諸国へのLNG輸出が中国へのそれを置換する格好となっている。
他方、米国の天然ガス価格が概ね3ドル近辺で推移していたこともあり、坑井掘削装置の稼働数は2018年に入って以降、概ね200基弱の水準で安定的に推移している(図20参照)。しかしながら、米国のシェールガス及び天然ガス生産量はかなり顕著な増加傾向を示すとともに統計史上最高水準に到達しており(図21及び22参照)、掘削長の拡大を含む掘削及び仕上げ技術により生産性が向上していることが窺われる。そしてこのような生産の増加傾向とこの先の供給増加予想、そして市場での国内天然ガス貯蔵量の増加への期待により、国内天然ガス需要や輸出が旺盛であったにもかかわらず、8月中旬から11月初頭にかけ天然ガス価格は100万Btu当たり3ドル前半が天井となっていた。しかしながら、2018年4月20日時点では2018年平年(過去5平均)を29.1%下回っていた同国天然ガス貯蔵量は、その後平年値を下回る割合を縮小させてきたものの、11月9日時点においても依然平年値を15.6%下回っていた他、貯蔵量全体としても3.25兆立方フィートとこの時期としては2003年以来の低水準となった(図23参照)。さらに、米国ではコーパスクリスティ(Corpus Christi)第一液化施設(天然ガス液化能力年産450万トン)が11月14日に試運転を開始した他、メキシコでも2018年末までにさらに複数の天然ガスパイプラインが操業を開始すると言われており同国への輸出が一層伸びる可能性がある。このため、冬場の暖房シーズンに伴う天然ガス需要期に突入する中で、天然ガス需給引き締まり感が市場で広がってきたうえ、気温が低下することに伴い天然ガス需要が増加するとの観測が市場で強まってきたことが、同国の天然ガス価格を押し上げる格好となり、9月14日には100万Btu当たり2.767ドルであった天然ガス価格は11月14日には同4.837ドルと2ドル超上昇、終値ベースでは2014年2月26日(この時は同4.855ドル)以来の高水準に到達した他、一時同4.929ドルにまで上昇する場面も見られている(図24参照)。
英国では、8月20日午前5時からTotalの操業する英領北海Alwayn、Elgin及びDunbar油・ガス田で24時間ストライキが実施されたことに加え、ノルウェーの一部天然ガス関連施設におけるメンテナンス作業実施やノルウェー領及び英領北海における一部ガス田等での予期せぬ生産停止に伴う天然ガス供給の減少、さらにそのような中で気温が平年を下回って低下し始めたこと(図25参照)や、原油価格が上昇し始めた(英国の天然ガス価格は基本的には天然ガス需給により決定されるが、英国と欧州大陸間はパイプラインで天然ガスが流通しているため、石油製品価格に連動する価格体系の残る欧州大陸での天然ガス価格の影響を受けやすい)ことから、8月20日には100万Btu当たり推定8ドル強であった天然ガス価格は上昇傾向となり、9月25日には同10.2ドルを超過する水準に到達した。しかしながら、その後10月中旬にかけては気温が上昇したうえ、風力発電が堅調であったこともあり、発電及び暖房向け天然ガス需要が抑制されたことに加え、原油価格が下落傾向となったことが、英国の天然ガス価格に下方圧力を加えた結果、当該価格は下落傾向となり、10月下旬~11月上旬は100万Btu当たり推定で概ね8ドル台後半の範囲内にとどまった。それでも、11月中旬には気温が低下するとの予報や風力発電量の低下予想により天然ガス需要増加の見方が市場で発生したことから、同国での天然ガス価格は100万Btu当たり推定で概ね9ドル台前半へと変動領域を切り上げている。
アジア地域では、夏場の気温が平年を超過して上昇したこと(図26参照)もあり、空調のための発電部門向け天然ガス需要が旺盛であったうえ、マレーシアLNG(同2,570万トン)(技術的な問題で減産中と6月5日に報じられる)等でLNG生産が能力を下回っていると伝えられる中、8月17日にはロシアのサハリン2プロジェクトで第一液化装置(液化能力年産480万トン)が予定外に操業を停止した(9月10日に再開したと伝えられる)ことから供給の低下懸念が市場で発生したことや、欧州地域での天然ガス価格が上昇傾向となったことから8月上旬には100万Btu当たり10ドル台前半であったスポットLNG価格は9月上旬には100万Btu当たり11ドル台後半にまで上昇した。しかしながら、その後は夏場の空調のための発電部門向け天然ガス需要が減少してきたこと、足元の気温が穏やかなことにより、暖房及び冷房どちらに向けた天然ガス需要も抑制されたうえ、9月26日及び10月24日に日本の気象庁から発表された向こう3ヶ月間の予報では広い範囲で暖冬となる旨明らかになったこと、中国が前年(大気汚染防止のために中国の複数の企業が秋場以降LNG調達に奔走していた)に比べ冬場の暖房用のLNG調達を前倒ししていた他、日本でも12月末まで天然ガス供給手当てが概ね完了しているとの見方が市場で発生したこと、日本の伊方原子力発電所3号機(発電能力89万KW)が10月27日に再稼働したことにより、発電部門向けLNG需要が低下するとの観測が市場で強まったこと、豪州イクシスLNGプロジェクト(天然ガス液化能力年産890万トン)がLNG生産を開始したこと(10月23日発表)、原油価格が下落してきたこともありこの先のLNGスポット価格水準の低下予想からLNGの買い控えが発生したと見られること等が、アジア地域のLNGスポット価格に下方圧力を加えた結果、10月下旬には100万Btu当たり10ドル台前半程度の水準にまで下落した。但し11月に入り、冬場に向けた需要家の購入活発化の兆候が見られることからアジア地域でのLNGスポット価格は若干ながら反発、11月中旬時点では同10ドル台半ば程度となっている。
以上
(この報告は2018年11月19日時点のものです)