ページ番号1007660 更新日 平成31年1月7日
原油市場他: 米国のトランプ大統領の発言等により1年超ぶりの低水準にまで下落、OPEC産油国等による減産決定でも反発力の弱い原油価格
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概要
- 米国では、秋場の製油所のメンテナンス作業が峠を越え、石油製品生産活動も回復しつつあるものの、メキシコ等へガソリン輸出が活発に行われたと見られることから、ガソリン在庫は減少傾向となったが平年幅上限を上回る状態は継続している。留出油については製油所での生産活動が活発化したことにより、在庫は増加傾向になり、平年幅下方付近に位置する量となっている。他方、製油所での原油精製処理は進み始めたものの、国内原油生産等が堅調であったこともあり、原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態が続いている。
- 2018年11月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減については、原油については、欧州では原油輸入が伸び悩んだと推測されることから、当該在庫は減少を示した。しかしながら、米国の在庫増加した他、日本でも原油輸入が相当程度増加したことから原油在庫水準は上昇した。この結果、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。他方、石油製品については、欧州及び日本では、秋場のメンテナンス作業を終了した製油所での石油製品生産活動の活発化により、在庫は増加となったものの、米国ではその他の石油製品の在庫が顕著に減少したことが一因となり、同国の石油製品全体の在庫も減少している。この結果、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少となり、量としては平年並みとなっている。
- 2018年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場においては、米国のトランプ大統領の原油価格下落を望む旨の発言等が相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は11月28日にはWTIの終値で1バレル当たり50.29ドルと2017年10月9日以来の低水準に到達した。その後は、米中首脳会談で米国による中国製品に対するさらなる関税の賦課がとりあえず回避されたことやOPEC総会等において減産措置を決定したこと等が原油相場に上方圧力を加えたものの、OPEC産油国等の減産による石油需給引き締め効果に対し懐疑的な見方が市場で発生したこと等が相場に下方圧力を加えたことにより、原油価格は12月中旬にかけ1バレル当たり50ドル台前半の範囲内で推移している。
- さらなる原油価格の下落が与える米国シェールオイル開発・生産活動への負の影響に対する市場の懸念、及びOPEC産油国等による事実上の減産方針決定に伴う市場の石油需給引き締まり期待が当面原油価格を下支えする他、北半球での冬場の気温低下(もしくは気温低下予報)に伴う暖房用石油製品需要増加による石油需給引き締まり観測や、リビアからの原油供給低下状況によっては、原油価格に上方圧力を加えるものと考えられるが、WTI原油価格が1バレル当たり54ドル程度の段階で示されたトランプ大統領のOPEC産油国等の減産方針及び原油価格上昇に対する牽制の発言が原油価格の大幅な上昇を抑制すると考えられる。そのような中で米国の原油在庫、原油生産量、石油坑井掘削装置稼働数、株式相場、及び米ドルの動向、そしてイランを含むOPEC産油国等の原油輸出動向等で原油相場が変動することになるものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1.OPEC総会及びOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合で、減産延長を決定
(1)協議内容等
OPEC産油国は2018年12月6日よりオーストリアのウィーンで通常総会を開催し(2018年6月22日に開催された前回総会では12月3日に開催する旨決定されたが、10月1日に12月6日開催へと延期された旨報じられた)、12月7日に2019年1月1日から6ヶ月間(つまり6月30日まで)の期間において、原油生産量を2018年10月の水準から日量80万バレル調整(事実上減産)することで合意した。なお、この原油生産調整措置は4月に見直すこととしている。合意の背景としては、減産をしなければ2019年はOPEC産油国に対して求められる石油需要以上の供給がなされるとOPEC産油国が認識していたことがある旨声明では示唆される。また、引き続きOPEC及び非OPEC閣僚監視委員会(JMMC: The OPEC-Non-OPEC Joint Ministerial Monitoring Committee、サウジアラビア、クウェート、アルジェリア、ベネズエラ、ロシア、オマーンが委員だが、今般のOPEC総会で同委員会は再編される旨示唆されている)が減産状況に対し時宜を得た監視を行い、定期的にOPEC議長に報告していくこととした。さらに、OPEC産油国と一部非OPEC産油国との協力関係を一層強化していく方針であることを確認した。次回のOPEC総会(通常総会)は2019年4月に、オーストリアのウィーンで開催される予定である。なお、今次総会では、ベネズエラのケベド(Quevedo)人民権力石油相が2019年1月1日から1年間OPEC議長を務めることも決定された。また、2019年1月1日を以てOPECを脱退する旨12月3日に表明したカタールにつき、今次総会で当該脱退を確認した。
12月7日のOPEC総会に続き、同日OPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚級会合が開催され(2018年6月23日に開催された前回会合では12月4日に開催する旨決定されたが、10月1日に12月7日開催へと延期された旨報じられた)、2019年1月1日から6ヶ月間OPEC及び一部非OPEC産油国で併せて日量120万バレルの原油生産量を調整(事実上減産)し、このうち非OPEC産油国の負担分を同40万バレルとすることを決定した(OPEC産油国同様2018年10月の原油生産水準からの減産と見られる)。また、OPEC総会時と同様、引き続きJMMCが監視を行い、閣僚級会合に報告していくこととした。さらに、これまでのOPEC産油国と一部非OPEC産油国との協力関係が成功裏に構築されていることに鑑み、この関係を継続的なものとしてさらに制度化していく方針であることを確認した(なお、12月10日にUAEのマズルーイ エネルギー産業相は、OPEC及び一部非OPEC産油国による総合協力合意書を3ヶ月末迄にサウジアラビアで調印する予定である旨明らかにしている)。次回のOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合は2019年4月に、オーストリアのウィーンで開催される予定である。
(2)今回の会合の背景等
2017年1月1日より実施されていたOPEC産油国による減産については、2018年4月20日に米国のトランプ大統領が高水準の原油価格を批判する旨表明したこと(「OPECがまたやっているようだ。(中略)原油価格は人為的に高い!」)により、前回のOPEC総会、そしてOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合では、2018年5月時点で152%(OPEC産油国)及び147%(OPEC及び一部非OPEC産油国)となっていた減産遵守率を100%に引き下げることにより、事実上の増産を決定した。そして、11月5日の米国の対イラン制裁発動とそれに伴うイランからの原油輸出の事実上の制限(6月26日には国務省がイランからの原油輸出を全面停止させる方針である旨示唆した)に対するイランからの原油供給の減少を代替すべく、サウジアラビア、UAE及びロシア等が増産を実施した。ただ、イランからの原油輸出の全面停止に対する他のOPEC産油国等による代替に伴い利用可能な余剰生産能力が低減するとの懸念等から、10月3日には原油価格はWTIで1バレル当たり76.41ドルと2014年11月21日(この時は同76.51ドル)以来の高水準に到達するなど上昇した。しかしながら、その後は、米国株式相場の下落、米国原油生産、原油在庫、及び石油坑井掘削装置稼働数の増加に加え、11月5日に米国がイラン制裁を発動する際に、イラン産原油輸出を事実上一部認める形としたことから、イラン産原油輸出が全面停止すると見込んで増産していたサウジアラビア等の産油国による供給にイランの原油供給が追加される見通しとなったことで、石油需給緩和感が市場で増大した結果、原油相場に下方圧力が加わり始めた。
そして、11月11日に開催されたJMMCでは、OPEC事務局内に設けられている共同技術委員会(JTC:Joint Technical Committee)に対し、引き続き石油市場の状況を監視するとともに、2019年に向け市場均衡のための新戦略を必要とするかもしれない生産調整の選択肢につき、日々更新されるデータをもとにしてシナリオ分析を進めるよう指示することを決定した。この場において減産の実施が協議されたとオマーンのルムヒ(Rumhi)石油相が11月11日に明らかにしている(最大日量100万バレルの減産が議論されたと見られる)。この時点で、サウジアラビアをはじめとするOPEC産油国等は世界石油市場において供給が過剰になる(一時は平年(過去5年平均)水準にあった石油在庫(図1参照)が再び平年水準を超過する)状態になるとともに原油価格にさらに下方圧力が加わることに対し財政への影響が増大するとして危機感を持つ(サウジアラビアをはじめとする中東及びアフリカ地域の主要OPEC産油国の2018年財政収支均衡原油価格はブレントで1バレル当たり47~124ドル程度(WTIで推定同38~114ドル程度、表1参照)であった)とともに、減産により石油需給の均衡を達成すべきとの考え方を持っていたと考えられる。しかしながら、11月12日(因みに前週末の原油価格(WTI)の終値は1バレル当たり60.19ドルであった)にはトランプ大統領が「サウジアラビアとOPEC産油国は減産しないことを望む。供給に基づけば原油価格はもっとずっと低下するはずである」旨表明したことから、WTIで1バレル当たり60ドル超の水準では、OPEC産油国等は減産に向けた行動が困難になるのではないかとの見方が市場で広がったこともあり、原油価格はさらに下落、11月20日にはWTIは1バレル当たり55ドルを割り込んだ。
他方、11月14日には、2019年にOPEC及び一部非OPEC産油国が最大日量140万バレルの減産を実施することを検討している旨ロイター通信により報じられた。それでも11月21日には、トランプ大統領は「ありがとうサウジアラビア、しかし(原油価格を)もっと下げよう。」と表明した結果、原油相場は反発力が欠ける展開となった(それどころか原油価格は11月29日には一時49.41ドルにまで下落する場面も見られた)。また、11月下旬時点では、イランからの原油等輸出が米国の制裁によりある程度削減され、ベネズエラの原油生産が足元のペースで減少していくと仮定すれば、2019年第一四半期は日量130万バレル程度供給が需要を上回ると推定され、この分だけ過剰供給を世界石油市場から排除しなければ、石油需給緩和感が市場で醸成される結果、短期的には原油価格がさらに下落することが予想された(表2参照)。
このようなこともあり、2019年第一四半期の供給過剰分に相当する日量130万バレル相当の減産実施が必要である旨OPEC産油国へ進言を行う機関であるOPEC経済委員会(Economic Commission Board)が進言したと11月30日に伝えられる。ただ、12月2日には、カナダのアルバータ州政府が自州からの原油等輸送パイプラインの能力不足に伴う石油供給過剰を解消するために2019年1月1日より在庫余剰が解消されるまで州内の石油会社に対し全体で日量32.5万バレルの減産、解消された後は同9.5万バレルの減産を実施するよう指示した旨発表した(同州の原油在庫が発表時点で3,500万バレルであり、これが平年水準の倍である旨明らかにされていたことからすると、日量32.5万バレルの減産の実施期間は約2ヶ月と見られる)。これによりこの分だけ非OPEC産油国の石油供給が低下すると見込まれるため2019年第一四半期に供給が需要を上回る程度は日量100万バレル強程度となると想定された(表3参照)。
このため、OPEC及び一部非OPEC産油国により日量100万バレル強程度の減産を実施すれば、当面世界石油需給は概ね均衡すると考えられた。それでも、市場関係者の間では一時「日量130万バレルの減産の必要性」の認識もある程度広がっていたこともあり、できるだけ日量100万バレルを相当程度上回る減産の実施を発表するほうが、市場関係者の心理に影響を与え原油価格を回復させる効果が大きいと見られた。このため、OPEC及び一部非OPEC産油国間では、減産幅につき、日量100万バレルを超過させるとともに、できるだけ日量130万バレルに接近させる努力がなされたものと考えられる。
他方、2018年10月時点ではサウジアラビアの原油生産量が日量57万バレル、イラクのそれが同30万バレル、UAEのそれが同29万バレル程度、それぞれ減産目標を上回っている他、10月のロシアの原油生産量も日量1,141万バレルと減産目標(推定同1,093万バレル)を同48万バレル超過している(いずれもOPEC総会時点でのデータの基づく)と見られることから、減産目標を遵守するだけで同170万バレル程度の原油供給を市場から排除することが可能であった(表4参照)。ただ、イラクはイスラム国(IS)との戦闘等もあり同国経済が疲弊しており、できるだけ原油収入を確保したい状況にあったため、減産は事実上困難であった(後述の通りイラクは日量14万バレルの減産を表明しているが、実施可能性については疑問であると思われる)ことから、実質的に相当程度の減産実施が可能であったのは、サウジアラビア、UAE、及びロシアであり、この3ヶ国で減産目標を遵守すれば日量140万バレルの原油供給を市場から排除することが可能であった。サウジアラビア及びUAEは合計で日量86万バレル程度の減産が可能であると見られたことから、日量100万バレルを相当程度超過する減産幅を確保するため、サウジアラビアをはじめとするOPEC産油国はロシアに対し少なくとも日量25~30万バレルの減産実施を要請したと見られる。しかしながら、ロシアの原油は蝋(ワックス)分が多いと言われており、冬場にむやみに油田の生産を停止させれば、原油輸送パイプイラン内にとどまった原油が冷却され凝固してしまうことにより、当該パイプラインの操業回復に支障が発生する可能性もあったため、ロシア側は日量14万バレルの減産を希望した。ロシアが日量14万バレルの減産を実施した場合、OPEC及び一部非OPEC産油国の減産規模は日量100万バレルとなり、市場関係者の心理に影響を与えるには心もとない水準になるものと見られることから、両者間での合意に至らず、ロシアのノバク エネルギー相はプーチン大統領と協議するために12月5日にOPEC産油国との協議の場であるウィーンを離れロシア(サンクト・ペテルブルグと伝えられる)に向かった。12月6日になってもロシア側からの回答は得られなかったことから、OPEC産油国としては減産幅を確定しきれなかったものと見られ、同日開催されたOPEC総会では暫定的に減産の実施で合意したものの、減産規模に関しては決定保留となり、同日午後1時(ウィーン時間)に予定されていた記者会見も開催されずじまいであった。しかしながら、12月7日に開催されたOPEC総会、そして同日OPEC総会開催後に開催されたOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合において、OPEC及び一部非OPEC産油国間で2018年10月の原油生産量から合計で日量120万バレル、うちOPEC産油国日量80万バレル、非OPEC産油国同40万バレルの、それぞれ減産が決定された。この量は前述の通り、減産幅が日量100万バレルを相当程度超過するとともに日量130万バレルにできる限り近づけることで、石油需給の引き締まり感を市場で醸成させるとともに、原油価格の持ち直しを図ったものであると考えられる。会合開催に際し、12月7日にロシアのノバク エネルギー相は、サウジアラビアのムハンマド皇太子とロシアのプーチン大統領との間での協議で減産につき合意に至った他、当該減産は減産参加国間で比例配分方式により配分される旨示唆した。そして、原油供給が不安定なイラン、リビア、ベネズエラは実質的に減産対象外とする一方で、ナイジェリアが減産に参加すること、そしてロシアは今後数ヶ月の間に日量22.8万バレルの減産を実施すること、イラクが日量14万バレルの減産を実施することが明らかになっている。加えて、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相は、自国の原油生産量につき2018年11月の日量1,110万バレルから12月には同1,070万バレル、そして2019年1月には1,020万バレルとなる見込みである旨表明したと12月7日に伝えられる。従って2019年1月の原油生産量は2018年10月比で日量43万バレル程度の減産となる旨示唆される(また、2019年の同国からの原油輸出量は日量730万バレル程度と2018年11月のそれから日量100万バレル程度減少する見込みである旨12月8日に報じられる)。
しかしながら、正式にはOPEC及び一部非OPEC産油国の個別の減産幅は明らかになっていないことや、これまでの各国の減産実績から判断すると、実質的に減産が可能なのはサウジアラビア、UAE及びロシアということになる。前述の通り、サウジアラビア及びUAEが減産目標を遵守すれば日量86万バレルの減産を達成できることから、OPEC産油国の減産分に関しては目標達成が比較的容易であるものと見られる(但し12月10日にマズルーイ氏は2019年1月の同国の原油生産量を2018年10月比で2.5%削減する旨明らかにしており、この量は日量8万バレル程度と解釈できることから、この量では両国で日量86万バレルの減産は達成できないことになる、後述)。ただ、一部非OPEC産油国に関しては、ロシアが日量22.8万バレルの減産を実施できたとして、残りの同17.2万バレルの減産の実施可能性については疑問が残る(なお、マレーシアは2019年1月1日から6ヶ月間、日量1.5万バレルの減産を実施する旨同国のアズミン経済相が表明したと12月10日に報じられるが、この減産量を加味したとしても、なお合計の減産目標との間には開きがある)。このため、「日量120万バレル」の減産といっても、サウジアラビア等が減産目標を上回る減産を実施しなければ、実際には「日量100万バレル強」の減産にとどまる可能性が排除できない。また、ロシアが「数ヶ月の間に」日量22.8万バレルの減産を実施する、ということであれば、短期的には同国の減産量がこの量を下回る結果「日量100万バレル強」の減産にも到達しない可能性もある(12月11日にはロシアのノバク エネルギー相が2019年1月の減産規模は日量5~6万バレルである旨明らかにしている)。このため、市場関係者の間で今回の決定に対しその実現性を疑問視する見方が広がりやすくなっている。
なお、米国のトランプ大統領は12月5日に、「OPECは原油を現状通り供給し続け、制限しなければいいが。世界は原油価格上昇を望んでいないし、その必要もない。」旨発言し、OPEC産油国等の行動を再度牽制したが、12月6日にロシアのノバク エネルギー相が、OPEC産油国の方針は客観的な指標により導かれるべきものであり、政治家による発言に導かれるべきではない旨表明した他、同日サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相も、減産に関し他国の許可を得る必要はない旨明らかにしている。しかしながら、特にサウジアラビアにとって見れば、米国はイランに対抗するうえで支援を受ける重要国であるところからすると、トランプ大統領の発言を全く無視することはできず、従って原油価格が大幅に上昇した場合には増産を含め原油供給量を再調整することで、価格の沈静化を図るものと考えられる。また、2019年における米国でのシェールオイル生産状況に加え、12月2日にはカナダのアルバータ州政府が2019年1月1日から当面日量32.5万バレルの減産を実施する旨発表したこと、不安定な世界経済が石油需要に影響を与える(12月1日の米中首脳会談により中国からの輸入品に対する関税の引き上げは回避されたものの、今後の交渉次第では引き上げられる可能性も残っている)ことも想定されるなど、世界石油需給の先行きに不透明感を伴うことから、減産の実施はとりあえず2019年前半の期間とし、石油需給状況に変化が生じた(もしくは変化が生じる兆候が見えた)場合、適宜調整できる余地を残したものと考えられる。
(3)原油価格の動き等
今回のOPEC総会、そしてOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合で日量120万バレルの減産が合意され、その減産幅が2019年第一四半期に石油需給を均衡させるために必要とされる減産幅であるとされる日量100万バレル強程度を上回っていたことで、市場ではこの先の石油需給の引き締まり感が意識されたことから、12月7日の原油価格(WTI)の終値は1バレル当たり52.61ドルと前日終値比で1.12ドルの上昇となった。ただ、減産幅の内訳が明らかになっていないことから、特に一部非OPEC産油国の日量40万バレルの減産幅につきロシア以外がどのように貢献するのかが不透明である他、ロシア自体も日量22.8万バレルの減産を達成するのに数ヶ月間を要すると見られることから、閣僚級会合で合意した「日量120万バレルの減産」が額面通り実施されるのか疑問視する見方も市場で発生したと見られることもあり、12月7日の原油価格の終値はこの日の取引時間中に到達した高値である1バレル当たり54.22ドルからは相当程度押し戻された水準となった。
2.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2018年9月の米国ガソリン需要(確定値)は日量912万バレルと前年同月比で2.8%程度の減少となり(図2参照)、速報値(前年同月比で1.0%程度減少の日量928万バレル)から下方修正されている。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.915ドルと前年同月比で0.154ドル(約5.6%)割高となっていることが当該需要を抑制しているものと考えられる(2018年9月の同国の自動車運転距離数は前年同月比で0.8%の低下と、年初来で最大の減少率となっている)。また、同月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量80万バレルと推定されるところ、確定値では同86万バレルへと上方修正されたことで、この部分が速報値から確定値に移行する段階で国内需要から輸出に繰り入れられたことが、当該需要の下方修正の一因になっているものと見られる。2018年11月の同国ガソリン需要(速報値)は日量911万バレル、前年同月比で0.0%程度の減少となっている。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.736ドルと前年同月比では0.058ドル(約2.2%)上回っているものの、前月(同2.943ドル)からは0.207ドル(約7.0%)下落した他、消費者にとってガソリン小売価格の割高感が広がる1ガロン当たり3ドルからそれなりに離れたこともあり、需要は前年同月比でほぼ変わらずのところまで持ち直したものと考えられる。他方、秋場の石油不需要期が終了に向かうとともに、製油所はメンテナンス作業を完了した結果、原油精製処理量が増加、11月下旬には日量1,700万バレル台に回復している(図3参照)ことから、ガソリンの生産が活発化しているものと見られる(なお、最終製品の生産量は図4参照)。しかしながら、従来からメキシコの製油所の稼働低迷(同国の製油所は軽質低硫黄原油を処理するのに適している一方で、同国で生産される原油は重質高硫黄であることが一因とされる)に加え、10月前半には、同国のミナティトラン(Minatitlan)製油所(原油精製処理能力日量28.5万バレル)が操業を停止した(10月9日午前2時に発生した火災が影響している可能性がある)ことから同国が積極的なガソリン輸入を実施したと見られることに伴い米国のガソリン輸出も旺盛となり、2018年12月7日の週には同国のガソリン輸出量が日量131万バレルと2010年6月以降の同国週間ガソリン輸出統計史上最高水準に到達している(なお、ミナティトラン製油所等は現在修理が完了し操業再開に向けた準備ができており、12月には完全に操業が回復する旨メキシコ国営石油会社Pemexのトレビノ(Trevino)最高経営責任者は表明している)こともあり、11月上旬から12月上旬にかけ、同国のガソリン在庫は増減を繰り返しつつ限られた範囲内での変動となったが、平年幅上限を超過する水準は維持されている(図5参照)。
2018年9月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量401万バレルと前年同月比で2.2%程度の増加となったうえ、速報値である日量400万バレル(同1.9%程度の増加)から上方修正されている(図6参照)。2018年9月の米国の鉱工業生産が前年同月比で5.6%程度伸びるなど経済が底堅く成長していることを示唆しており、同月の同国の物流活動も同6.8%程度拡大していることから、2018年9月はそれなりに留出油需要が増加を示しているものと考えられる。また、2018年11月の留出油需要(速報値)は日量415万バレルと、前年同月比で0.3%程度の減少となっている。米国及び中国との間の貿易紛争の影響を米国経済及び物流活動が被った結果、留出油需要にその影響が反映されている面がある可能性は否定できないものの、10月の鉱工業生産は前年同月比で3.9%の増加、11月のそれは同3.8%の増加となっている旨判明しており、併せて10月の物流活動も同7.3%の増加となっていることもあり、11月に入りその勢いが急低下しているとは考えにくい他、11月は同国の暖房用石油製品需要の中心地である北東部では中旬及び下旬を中心として気温が平年を下回ったうえ前年同月と比較しても寒冷となっていることから暖房向け留出油需要が発生したと見られることが、当該需要を押し上げたと見られるため、11月の留出油需要は確定値に移行する段階で上方修正されるか、もしくは反動で12月の当該需要増加幅が拡大することもありうる。他方、秋場のメンテナンス作業を終了しつつある米国の製油所では稼働が上昇するとともに留出油生産が活発化した(図7参照)こともあり、11月上旬から12月上旬にかけ留出油在庫は増加傾向となった結果、2018年12月上旬時点では平年幅下方付近に位置する量となっている(図8参照)。
2018年9月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で1.6%程度増加の日量1,995万バレルとなった(図9参照)。留出油需要及びその他の石油製品の増加が石油需要の伸びを牽引している格好となっている。ただ、ガソリン及びその他の石油製品が速報値(その他の石油製品については速報値で日量392万バレル)から確定値に移行する段階で下方修正された(確定値では同375万バレル)ことにより、当該需要は速報値(日量2,040万バレル、前年同月比3.9%程度の増加)から下方修正されている。その他の石油製品の需要については、特にエタンの需要が前年同月比で20.1%(日量44万バレル)程度と大幅に伸びているが、これは、2018年7月26日にExxonMobilがテキサス州ベイタウン(Baytown)で年産150万トンのエチレン製造装置の操業を開始していることに伴いエタン需要が増加していることが一因となっている可能性がある。他方、2018年11月の米国石油需要(速報値)は、日量2,115万バレルと前年同月比で4.2%程度の増加となった。プロパン/プロピレン、及びその他の石油製品の需要増加が石油製品全体の需要の伸びに寄与している格好となっている。11月は気温が平年を下回り、また前年同月よりも寒冷になったことから暖房向けのプロパン/プロピレンの需要が喚起されたと見られることに加え、その他石油製品の需要の増加はExxonMobilのエチレン製造装置の操業開始に伴うエタン需要増加が影響している可能性がある。ただ、その他石油製品の需要は日量441万バレルと2017年10月~2018年9月の当該需要(確定値)である同346~426万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正されることを通じ同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。また、冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房用石油製品需要期に突入したことにより製油所が秋場のメンテナンス作業が終了するとともに稼働を上昇、原油精製処理を進め始めたものの、原油価格が2018年10月初頭にかけ上昇傾向であったこともあり米国内での原油生産も堅調であったことや、輸入が拡大する場面が見られたこともあり、11月上旬から12月上旬にかけ原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図10参照)。そして、留出油在庫が平年幅下方付近に位置する量となっている一方で、原油及びガソリンの在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、または原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図11及び12参照)。
2018年11月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減については、原油については、欧州では製油所での秋場のメンテナンス作業が峠を越え始めたことから製油所の原油精製処理量はそれなりに増加したものの、ガソリンを中心として精製利幅が低迷したこともあり、製油所での原油精製処理量が大幅に増加するといった見方が市場で広がらなかったと見られ、原油輸入量が伸び悩んだと推察されることから、当該在庫は減少を示した。しかしながら、米国では在庫は増加した他、日本でも製油所での秋場のメンテナンス作業が峠を越え始めるとともに稼働が上昇、原油精製処理量が大幅に増加した一方で、併せて原油輸入量も相当程度増加したことから、同国での原油在庫水準は上昇した。この結果、欧州での在庫減少が米国及び日本での在庫増加で相殺されて余りある状態となったことから、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図13参照)。他方、石油製品については、欧州及び日本では、秋場のメンテナンス作業を終了した製油所での石油製品生産活動の活発化により、在庫は増加となった。ただ、米国では、その他の石油製品の在庫が顕著に減少している。これは、冬用ガソリン需要の盛り上がりが視野に入り始めたことにより当該ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあると見られることや、新たにエタン分解装置が操業を開始した石油化学産業向けのエタン需要が堅調であると見られる(前述)ことにより、ブタンやエタンの在庫が減少していることが影響しているものと思われる。これが一因となり、同国の石油製品全体の在庫も減少した。この結果、欧州及び日本での在庫増加が米国での減少で相殺されて余りある状態となったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は減少となり、量としては平年幅下方付近に位置している(図14参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年幅下方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する量となっている(図15参照)。なお、2018年11月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は59.8日と10月末の推定在庫日数(59.9日)から若干ながら減少している。
11月14日に1,300万バレル弱の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、11月21日は1,300万バレル台半ば程度、11月28日には1,400万バレル半ば程度の量へと増加傾向となった。その後12月5日には1,400万バレル弱、12月12日には1,300万バレル台後半の量へと減少したが、11月14日の水準は上回っている。ガソリン小売価格上昇により米国でのガソリン需要が伸び悩み気味となったこともあり、同国では6月下旬以降ガソリンの在庫が前年同期を上回るようになった(例えば2018年11月2日の米国ガソリン在庫は前年同期を1,848万バレル(約8.8%)上回っている)。このようなことから、大西洋圏においてガソリン需給の緩和感が意識されるようになった結果、ガソリン精製利幅が圧迫されるようになった。このため、欧州方面から、相対的にガソリン価格が高かった(つまり精製利幅が確保しやすい)アジア市場へとガソリンが流入してきていることが、シンガポールでの軽質留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。加えて、冬場の暖房需要期を控え需給に引き締まり感が発生している留出油(例えば2018年11月2日の米国留出油在庫は前年同期を271万バレル(約2.2%)下回っている)を含む中間留分の生産を活発化させるべくアジアに加え欧州等の製油所が秋場のメンテナンス作業終了後稼働を上昇させる結果、併せてガソリンの生産も増加することから当該製品の需給が緩和するのではないかとの見方が市場で広がったことが、例えば、ガソリンとドバイ原油との価格差(この場合従来はガソリン価格が原油のそれを大部分の場合上回っていた)を圧迫する格好となった。他方、11月下旬には原油価格の下落にガソリン価格のそれが追いつかなかったこともあり、両者の価格差は11月末にかけ多少なりとも拡大したものの、中国が2018年の残りの期間につき200万トン(推定約1,500万バレル)の石油製品(大半はガソリン及び留出油とされる)輸出枠を設定した(11月27日にその旨報じられた)ことに伴い、12月に入り同国からのガソリン輸出が増加しつつあることに加え、原油価格の上昇にガソリン価格のそれが追い付かなかったこともあり、12月上旬には再び価格差は縮小、ガソリン価格が原油のそれを下回る場面も見られている。
ナフサについては、欧州において米国輸出向けガソリン製造過程で混入するナフサの需要が、ガソリン精製利幅縮小により影響を受けた一方で、冬場の暖房用石油シーズンに伴う暖房用石油製品需要期突入に伴い秋場のメンテナンス作業を終了した製油所が留出油を製造すべく稼働を上昇させたことにより、併せてナフサの生産も行われたことから、ナフサ需給が緩和した欧州方面からアジア諸国へ堅調にナフサが輸出されるとの観測が市場で広がったことが、ナフサ価格に下方圧力を加えた一方で、原油価格の下落にナフサのそれが追いつかなかったこともあり、アジア市場でのナフサとドバイ原油との価格差(この場合ナフサ価格が原油のそれを下回っている)は拡大と縮小を繰り返しつつも概ね一定の範囲内で推移した。
11月14日には900万バレル台後半の量であったシンガポールの中間留分在庫は、11月21日には1,100万バレル強の水準へと回復したものの、11月28日には1,000万バレル台後半の量、12月5日には1,000万バレル台半ば程度へと減少した。ただ、12月12日には1,100万バレル弱の量に回復している。冬場の需要期を控え大西洋圏での留出油需給の引き締まり感が発生したことにより当該製品価格の割高感が感じられる場面があったこともあり、アジア地域から欧州方面にそれなりに留出油が輸出された一方で、アジア地域の製油所での秋場のメンテナンス作業シーズンが峠を越えつつあることから、製油所での稼働が上昇するとともに石油製品の生産活動が活発化してきている結果、留出油や灯油及びジェット燃料の供給が回復してきていることが、シンガポールでの中間留分在庫を比較的限られた範囲内での変動に収めていると見られる。他方、原油価格の下落に例えば軽油価格のそれが追いつかなかったこともあり、アジア市場での軽油価格とドバイ原油価格との差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)が拡大する場面も見られたが、アジア地域での気温の低下がそれほど顕著ではなかったことに加え、中国が2018年の残りの期間につき200万トン(推定約1,500万バレル)の石油製品(大半はガソリン及び留出油とされる)輸出枠を設定する旨11月27日に報じられたことが、アジア市場での軽油価格に下方圧力を加えたこと、下落しつつある軽油価格に対し価格の底を見極めるべく買い手が購入を手控えて様子見となったことが、軽油に対する下方圧力を一層強める格好となったため、12月に入って以降は当該製品とドバイ原油の価格差は縮小している。
11月14日には1,500万バレル台後半の量であったシンガポールの重油在庫は、11月21日には1,800万バレル弱、そして11月28日には1,900万バレル弱、そして、12月5日には1,900万バレル台後半の量へと増加した。12月12日には1,900万バレル台半ばの量へと若干減少しているが、11月14日の水準は上回っている。米国の対イラン制裁発動(11月5日発動)を控え、イランからの重油の供給が低下しつつあったこともあり、アジア市場での重油価格が欧州市場のそれに比べて割高となったことから、その後欧州方面から重油が流入していると見られることが重油在庫増加の背景にあるものと考えられる。しかしながら、このような在庫の増加もあり、今後は欧州方面からの重油流入が減少する他、イランからの重油輸出も引き続き低迷するとの観測が市場で発生していることに加え、原油価格の下落に重油のそれが追い付かなかった結果、重油価格がドバイ原油価格を上回る度合いは11月中旬から下旬にかけ拡大した。それでも、シンガポールの重油在庫が11月中旬以降継続的に拡大したこともあり、重油とドバイ原油の価格差は12月に入り縮小、重油価格が原油のそれを下回る場面も見られるようになっている。
3.2018年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場等の状況
2018年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場においては、米国のトランプ大統領による原油価格のさらなる下落を望む旨の発言や米国原油在庫の増加に加え、米国株式相場が下落したことが、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は11月28日にはWTIの終値で1バレル当たり50.29ドルと2017年10月9日(この時は同49.58ドル)以来の低水準に到達した。しかしながら、その後は、サウジアラビアのムハンマド皇太子とロシアのプーチン大統領の会談で2019年の減産措置の延長で合意したこと、米中首脳会談で米国による中国製品に対するさらなる関税の賦課がとりあえず回避されたこと、そしてカナダのアルバータ州政府が2019年1月1日より減産を行うよう石油会社に指示した旨発表したこと、さらにはOPEC総会等において事実上の減産措置実施で合意したこと、リビアの原油出荷に関し不可抗力条項の適用が宣言されたこと等が原油相場に上方圧力を加えたものの、中国の輸出入が不振であることに加え、米国株式相場が下落したこと、OPEC産油国等の減産による石油需給引き締め効果に対し懐疑的な見方が市場で発生したこと等により、原油価格は12月中旬にかけ1バレル当たり50ドル台前半の範囲内で推移している(図16参照)。
11月19日には、この日開催された欧州連合(EU)外相理事会で、6月30日のフランスのパリ郊外でのイラン反体制派への攻撃未遂事件及び10月30日にデンマーク治安当局により発表された同国でのイラン反体制派組織構成員暗殺計画に基づき、イランに対する経済制裁の実施を検討することで合意したことで、欧州諸国とイランとの間での対立の激化と石油供給への影響に対する懸念が市場で発生したことに加え、11月19日に国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が、サウジアラビアの余剰原油生産能力は依然低水準である旨指摘したことで、石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.30ドル上昇し、終値は56.76ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの12月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2019年1月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり57.20ドル(前日終値比0.52ドルの上昇)であった)。11月20日には、米国アップル製新型iPhoneの販売不振観測が根強いうえ、11月20日朝に発表された米国小売会社ターゲットの2018年8~10月期業績が市場の事前予想を下回ったことに加え、同じく同日明らかにされた米国百貨店コールズの通年(2019年1月期)業績予想が市場の事前予想を下回ったこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.43ドルと前日終値比で3.33ドル下落した。11月21日には、前日の価格下落による値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、11月21日に米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(11月16日の週分)でガソリン在庫が前週比で130万バレルの減少と市場の事前予想(同20万バレル程度の減少~同10万バレル程度の増加)に反し、もしくは上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.20ドル上昇し、終値は54.63ドルとなった。11月22日は米国サンクスギビングデーの休日に伴い米国等での原油先物市場は休場であったが、11月21日に米国のトランプ大統領が「ありがとうサウジアラビア、でも(原油価格を)もっと下げよう」という旨表明したことで、OPEC産油国等による減産措置の実施に対し懐疑的な見方が市場で発生したことに加え、11月22日にサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、11月の同国の原油生産量が10月の日量1,070万バレル程度を超過している旨発言したことで、過去の史上最高水準生産量である2016年11月の同1,072万バレルに接近している旨示唆されたことにより、石油需給の緩和感を市場が意識した流れを11月23日の市場が引き継いだことから、11月23日の原油価格の終値は1バレル当たり50.42ドルと前日終値比で4.21ドル下落した。
11月26日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したうえ、現在の原油価格水準は石油需給バランスからすると持続不可能であり、11月30日~12月1日に開催される予定である20ヶ国・地域首脳会議(G20)で米中貿易紛争が解決に向かい始めるか、OPEC産油国の減産措置の可能性がより明確なるかすることが原油相場にとっての転換点となりうる旨、米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが明らかにしたと11月26日に報じられたうえ、これまでの下落に対する値頃感から株式を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、11月23日の米国のブラックフライデーの支出が前年比23.6%増加の62.2億ドルであった旨米国ソフトウェア製造大手アドビ・システムズが11月24日に明らかにしたこともあり、同国歳末商戦に対する期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、11月26日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.21ドル上昇し、終値は51.63ドルとなった。11月27日には、この日米国連邦準備制度理事会(FRB)のクラリダ副議長が金利の緩やかな引き上げを継続するべきである旨発言したことで、米ドルが上昇したことに加え、11月28日にEIAから発表される予定である同国石油統計(11月23日の週分)で原油在庫が増加しているとの観測が市場で発生したことが、原油価格に下方圧力を加えたものの、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生した流れを引き継いだうえ、英領北海のBuzzard油田(操業者:Nexen、原油生産量日量15万バレル)が原油輸送パイプに腐食が発見されたことにより操業を停止、再開時期が未定である旨11月27日に報じられたことで、石油需給引き締まり感が市場で発生したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり51.56ドルと前日終値比で0.07ドルの下落にとどまった。それでも、11月28日には、この日EIAから発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で358万バレルの増加と市場の事前予想(同43~100万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.27ドル下落し、終値は50.29ドルとなった。ただ、11月29日には、ロシアはOPEC産油国との間で減産措置の協力を行う必要がある旨同国政府が認識していると同日ロイター通信が報じたことにより、OPEC及び一部非OPEC産油国による減産実施に伴う世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり51.45ドルと前日終値比で1.16ドル上昇した。そして、11月30日には、2018年9月の米国原油生産量が日量1,148万バレルと前月比で同13万バレル増加、1920年1月以降の同国月間統計史上最高水準に到達した旨11月30日にEIAが明らかにしたうえ、12月1日夜に予定される米国及び中国の首脳会談を前にして米国のトランプ大統領が良い兆しがいくつか見られる旨発言したことから、当該会談で両国が貿易関係に関し合意に到達するとの期待が市場で増大したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.52ドル下落し、終値は50.93ドルとなった。
ただ、12月1日にサウジアラビアのムハンマド皇太子とロシアのプーチン大統領が会談し、減産を継続していくことで合意したこともあり、12月6~7日に予定されているOPEC総会、そしてOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合での減産措置実施合意に対する期待が市場で増大したことに加え、同じく12月1日に実施された米中首脳会議で、今後90日間両国間で貿易問題につき協議するとともに、当面2,000億ドル相当の中国からの輸入品に対し米国が賦課する関税率を10%から25%へと引き上げる措置を見合わせる旨決定したことで、両国をはじめとする世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が後退したこと、12月2日にカナダのアルバータ州のノトリー(Notley)首相が同州での石油供給過剰感を緩和するために2019年1月1日から当面日量32.5万バレル(同州石油生産量の8.7%)の減産を実施する旨発表したことで、同州の石油輸出先である米国等での石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、12月3日の原油価格の終値は1バレル当たり52.95ドルと前週末終値比で2.02ドル上昇した。12月4日も、OPEC及び一部非OPEC産油国が日量130万バレルの減産を検討中である旨12月4日にロイター通信が報じたことで、12月6~7日に予定されているOPEC総会、そしてOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合での減産合意に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.30ドル上昇し、終値は53.25ドルとなった。この結果原油価格は12月3~4日の2日間で併せて1バレル当たり2.32ドル上昇した。12月5日には、この日開催されたJMMCで、2019年の減産実施の必要性については合意したものの、減産規模については合意できなかったことで、12月6~7日のOPEC総会、そしてOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合で過剰となっている供給を排除できるような減産で合意できるかどうかに関する楽観的な見方が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.36ドル下落し、終値は52.89ドルとなった。12月6日も、この日開催されたOPEC総会で減産を実施することで暫定的に合意したものの、具体的な減産幅についてはロシアからの返答待ちとなったうえ、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が12月7日に開催が予定されるOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合で減産につき合意に到達することに関して自信がない旨発言したと12月6日に報じられたこともあり、減産合意に伴う世界石油需給の引き締まりを期待していた市場が失望したことで、この日の原油価格の終値は1バレル当たり51.49ドルと前日終値比で1.40ドル下落した。この結果原油価格は12月5~6日の2日間で併せて1バレル当たり1.76ドルの下落となった。12月7日には、この日開催されたOPEC総会、そしてOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合で、2019年1月1日から6ヶ月間OPEC産油国で日量80万バレル、一部非OPEC産油国が同40万バレル、それぞれ減産する旨合意したことで、この先の石油需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、12月7日に米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で877基と前週比で10基減少(石油水平坑井掘削装置稼働数は820基と前週比6基減少)と、2016年5月13日の週(この時は同10基減少)以来の大幅な減少となっている旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり52.61ドルと前日終値比で1.12ドル上昇した。
しかしながら、12月8日に中国税関総署から発表された11月の同国輸出が前年同月比で5.4%の増加と市場の事前予想(同9.4~10.0%程度の増加)を下回ったことに加え、同国の輸入が同3.0%の増加と2016年10月(この時は同1.4%の減少)以来の低い伸びとなった他、市場の事前予想(同14.0~14.5%程度の増加)を下回ったことで、同国の経済成長と石油需要の伸びに対する懸念が市場で増大した他、12月7日にOPEC及び一部非OPEC産油国での減産合意による石油需給引き締め効果に対し懐疑的な見方が市場で発生したことから、週明け12月10日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.61ドル下落し、終値は51.00ドルとなった。ただ、12月9日にリビアのSharara油田(原油生産量日量31.5万バレル)が、地域部族が施設を占拠したことにより操業を停止したことに伴い、同国国営石油会社NOCが12月10日に同油田で産出される原油の輸出に関し不可抗力条項の適用を宣言したことから、同国からの原油供給低下による石油需給引き締まり感を市場が意識した流れが12月11日に引き継がれたことで、この日(12月11日)の原油価格の終値は1バレル当たり51.65ドルと前日終値比で0.65ドル上昇した。それでも、12月12日には、この日EIAから発表された同国石油統計(12月7日の週分)で原油在庫が前週比で121万バレルの減少と市場の事前予想(同260~350万バレル程度の減少)程減少していない旨明らかになったことに加え、イランのザンギャネ石油相がOPEC産油国間で深刻な政治的な意見の相違が存在している旨同国国営テレビ局で発言したと12月12日に報じられたことで、OPEC産油国等による減産方針遵守に関し懐疑的な見方が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.50ドル下落し、終値は51.15ドルとなった。12月13日には、この日IEAから発表されたオイル・マーケット・レポートで、OPEC産油国が合意した減産を完全に遵守したうえ、イラン及びベネズエラの原油生産が減少した場合には、2019年第二四半期には石油供給不足に陥る可能性がある旨示唆されたことで、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したうえ、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が12月11日までの1週間で82.2万バレル減少したと米国石油情報サービス会社Genscpateが報告した旨12月13日に報じられたことで、米国原油先物契約受渡地点での原油需給引き締まり感が市場で醸成されたことに加え、サウジアラビアが米国の顧客に対し2019年1月は原油の出荷をそれ以前から大幅に削減すると通告、2018年11月までの3ヶ月間平均の原油輸出量の40%程度減少となる日量58.2万バレル(この数量は2017年遅くの30年ぶりの低水準であるとされる)に到達する可能性がある旨12月13日にブルームバーグ通信が報じたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり52.58ドルと前日終値比で1.43ドル上昇した。ただ、12月14日には、この日中国国家統計局から発表された11月の同国小売売上高が前年同月比で8.1%の増加と2003年5月(この時は同4.3%の増加)以来の低水準の伸びとなったうえ市場の事前予想(同8.8%程度の増加)を下回ったことに加え、同じく同日中国国家統計局から発表された11月の同国鉱工業生産が前年同月比で5.4%の伸びと2016年1~2月(この時は前年同期比5.4%の増加)以来の低水準となった他市場の事前予想(同5.9%程度の増加)を下回ったこと、同じく同日英国経済情報サービス会社IHSマークイットが発表した12月の欧州総合購買担当者指数(PMI)(50が景気拡大及び縮小の分岐点)が51.3と11月の52.7から低下した他市場の事前予想(52.8)を下回ったことにより、世界経済減速懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことに加え、中国及び欧州経済に関する指標が経済活動不振を示す一方で、12月14日に米国商務省から発表された11月の同国小売売上高(自動車、ガソリン、建材及び飲食サービスを除く)が前月比で0.9%の増加と市場の事前予想(同0.4%程度の増加)を上回った他、同じく同日FRBから発表された11月の同国鉱工業生産が前月比で0.6%増加し、市場の事前予想(同0.3%程度の増加)を上回ったことで、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.38ドル下落し、終値は51.20ドルとなった。
4.今後の見通し等
2018年11月19日に、イエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)は、敵対するハディ暫定大統領派勢力を支援しているサウジアラビアやUAEに向けたミサイル発射攻撃を停止する旨発表した(サウジアラビアが主導する有志連合軍も攻撃を停止していると11月15日に報じられる)。また、12月3日には、ハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力との間で双方が拘束している捕虜を交換することで合意した。そして、国連のグリフィス イエメン担当事務総長特使の働きかけにより、12月6日から12月13日までストックホルム近郊のリンボ村でイエメン和平協議を開催、12月13日にはグテレス国連事務総長が協議に参加したが、同日グテレス国連事務総長が西部にある同国の主要港湾都市ホテイダ(国連が人道物資を搬入しているが、フーシ派武装勢力が支配しており、ハディ暫定大統領派勢力が奪還すべく激戦地域となっていた)を国連が暫定的に支配する一方で、両勢力は当該地域から軍事関係者を撤退させる他、人道物資の搬入経路を設定することで両者合意した旨発表した。なお次回の協議は2019年1月に開催される予定であるとされる。
イラクでは、停止していた北部のキルクーク油田産原油のトルコへの輸出(2017年9月26日にクルド自治区で実施された住民投票に対し、イラク中央政府が2017月10月16日に当該油田の支配権をクルド人勢力から奪還した後それまでの日量30万バレルから日量5~6万バレルへと減産状態となったことによるものと考えられる)を11月16日に輸出を再開した(イラク中央政府とクルド自治区政府との間では日量5~10万バレル程度の輸出規模で合意している)。
他方、米国は11月5日にイラン産原油輸入8ヶ国・地域に対し最長180日間輸入を一部認めるとともに制裁を免除する旨発表した。ただ、どの程度イラン産原油の輸入が認められているかについては必ずしも明らかにはなっておらず、諸情報を総合すると中国が日量36万バレル(但し、中国国営石油会社がイランで事業を実施している油田での保有権益相当分の生産は対象外となっていると伝えられており、これを併せると同56万バレル程度になるものと推定される)、インドが同30万バレル、韓国同20万バレル、トルコ同6万バレル程度となっている(なお、トルコのエルドアン大統領は11月6日に米国の対イラン制裁には従わない旨表明している)ものの、残りの4ヶ国・地域に関しては原油輸入がどれだけ認められているか、また、原油輸入が認められたとしても、取引代金決済や原油を輸送するためのタンカーに賦課する保険の準備が180日間という限られた期間で可能かどうか、といったところ等が不透明であり、これらの条件次第でイランからの原油供給が実際日量数十万バレル程度変化する結果、世界石油需給の引き締まり感もしくは緩和感が左右される可能性があるため、今後イランからの原油のタンカー船積み具合を含め実際の同国からの原油輸出状況等に関する情報には注意する必要があろう。
ベネズエラについても、最近数ヶ月間は前月比で日量1~2万バレル程度の減少と2017年10月~2018年4月に見られた同6~17万バレル程度の減少と比較すれば、減少幅が縮小している(同国国営石油会社PDVSAと中国国営石油会社CNPCの合弁であるSinovensaの原油生産量が増加していることが、同国の原油生産減少ペース鈍化に寄与している側面があるものと推測される)。それでもなお、同国の原油生産量は継続的に減少している。併せてロシアのロスネフチは、ベネズエラへの債務返済のための原油の供給(日量38万バレル程度)が滞っているとしてベネズエラのマドゥロ大統領他に抗議したと11月24日に報じられる。また、ベネズエラでは、2017年12月~2018年11月のインフレ率が130万%に到達した旨同国議会が12月10日に明らかにした他、10月9日には国際通貨基金(IMF)がベネズエラの2019年のインフレ率が1000万%に到達すると予想しており、同国の政治・経済情勢も好転する兆しが見えるわけではないことから、引き続き状況を監視することが重要であると考えられる。
また、リビアは2018年10月の原油生産量が日量112万バレル(IEAによる)と2013年6月(この時は同115万バレル)以来の高水準に到達したが、同国では依然西部トリポリを拠点とする政府(制憲議会)、東部トブルクを拠点とする政府(暫定議会)、国連が支援する統合政府の各政府が並存している他、過激派も存在するなど、政情が安定化しているとは言い難い。また、労働者による賃金を含めた労働条件改善のため、もしくは地方部族による地域開発促進のための抗議行動が発生しており、油・ガス田や石油出荷ターミナルの一部の操業に影響が及んでいる旨リビア国営石油会社(NOC)関係者が明らかにしていると11月30日に報じられていたが、実際同国最大のSharara油田において、地方の部族が抗議行動を行ったことに伴い操業を停止したと12月9日に明らかになっており、12月10日にはNOCが同油田からの原油輸出に関し不可抗力条項の適用を宣言した(前述)。また同油田の操業停止によりEl Feel油田(同日量7万バレル程度)の操業も影響を受ける可能性があると伝えられる。そして、このような原油生産の低下が長引けば、その分だけ同国の原油供給が他のOPEC産油国等の減産に加え市場から排除されることになり、石油需給の引き締まり感が市場で一層強まる結果、原油相場を下支え、もしくは押し上げるといった場面が見られる可能性もある。
米国では、12月18~19日に連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される予定であるが、現行の金利である2.00~2.25%から2.25~2.50%へと引き上げられる確率が12月14日時点で76.6%と高い状態にある。しかしながら、11月27日にはトランプ大統領がFRBの金利引き上げ方針等が米国経済に悪影響を及ぼしている旨表明しており、11月28日にはFRBのパウエル議長も米国の金利は中立の水準を若干下回る程度である旨発言するなど、金利引き上げペースの減速等金融政策の転換が近いことを示唆し始めた。このため次回FOMC開催の際に米国金融当局関係者が同国経済情勢及び今後の金利政策等に関してどのように発言するかによって、米国株式相場及び米ドルが変動することを通じ、原油相場にその影響が及ぶことも想定される。また、2019年1月に入ると主要米国企業の2018年10~12月期業績等が発表され始めるが、業績や今後の業績見通しの内容によっては、米国経済に対する見方が市場で変化するとともに、それが株式相場や米ドルに反映されることを通じ原油相場にその影響が織り込まれる可能性がある。
さらに、10月23日には欧州委員会(EC)がイタリアに対し同国の2019年度予算案がEU財政規律から大幅に逸脱していること(EUによる財政規律では対GDPでの政府債務残高比率が60%以内とされているのに対し、イタリアのそれは130%超)につき3週間以内(期限は11月13日)に修正するよう要求したものの、11月13日にイタリアはECの要求を拒否する旨表明、これに対し11月21日にECは規則に則りイタリアに対し制裁の手続きを実施することが妥当である旨判断した。そして、11月26日にイタリアは2019年予算案における財政赤字目標(GDPの2.4%だが、これは前政権がECに目標として示した率の3倍に当たる)の削減を検討する旨示唆したが、これに対し11月28日には、EC(ドムボロフスキス副委員長)は、イタリアに対し財政赤字目標の小規模の削減では不十分である旨表明している。12月12日には、イタリアは財政赤字目標を2.04%に引き下げる方針をECに提示したと伝えられるため、もしイタリアがECと予算案問題につき合意することにより、制裁を回避できるのであれば、欧州経済の先行きに対する市場の懸念が後退しユーロが上昇するとともに米ドルが下落、原油相場に上方圧力を加えやすくなるものと考えられるが、イタリアとECの交渉が不調であれば、欧州経済に対する不安感が市場で高まるとともにユーロが下落する反面米ドルが上昇し、原油相場に下方圧力を加えやすくなるものと思われるため、両者の交渉過程につき注意する必要があろう。
また、12月10日に英国のメイ首相は12月11日に予定していた同国議会下院でのEU離脱案(EUと英国政府が合意したもの)に関する採決を、否決される可能性が高いとして、延期する旨発表した。2019年3月29日にまでに離脱案につき決着しない場合、離脱案に伴う円滑な移行措置なしに英国はEUを離脱することになり、関税、通関手続き、企業活動認可手続き等を含め英国及び欧州経済活動が大きく混乱する可能性がある。英国内ではEU離脱に関し意見が複数に分裂していることから、今後も取り纏めには困難を伴うと見られ、この面で英国及び欧州経済成長に対し悲観的な見方が市場で広がるとともに英ポンド及びユーロが下落する反面米ドルが上昇することを通じ、原油価格の上昇を抑制するといった格好で作用する場面が見られる可能性がある。この他、今後発表される欧州諸国の経済指標類もユーロ及び米ドル、そして原油相場に影響を与えることがありうる。
加えて中国の経済指標類も同国の石油需要に対する観測を市場で発生させるため、原油価格にその内容が反映される可能性もある。また、米国の中国からの輸入品に対するさらなる関税の賦課に関しては12月1日の両国首脳会談を通じとりあえず当面回避されたものの、90日間の期限が付されている他、既に賦課されている関税が撤廃されているわけではない。このため、引き続き、中国(及び米国等)での経済に負担となる結果、中国経済指標類及び石油需要の伸びにその影響が現れ、原油相場にそれらが織り込まれるといった展開も排除できないものと思われる。
北半球では冬場の暖房シーズンに突入した。これに併せ、暖房用石油製品需要が増加、製油所も秋場のメンテナンス作業を終了し稼働を上昇、原油精製処理量を増加させるとともに、原油の購入を活発化させるとの観測が市場で増大しつつある。このような市場での季節的な需給引き締まり感の醸成が当面原油相場を支持するものと考えられる。併せて、米国の暖房油消費の中心地である北東部での気温や気温予報に関しても市場関係者は敏感になっているものと見られ、当該地域での足元の気温が低下したり、気温が低下するとの予報が発表されたりするようだと、需給の引き締まり感が市場で強まる結果、暖房油価格が上昇、それに引きずられて原油価格に上方圧力が加わる可能性もある。また、米国での原油在庫及び原油生産量、石油坑井掘削装置稼働数の動向等によっても、原油相場が変動する場面が見られることがありうる。
なお、12月末にかけ、米国メキシコ湾岸の主要製油所に通じるヒューストン運河(Houston Ship Channel)等において濃霧の影響で原油輸送タンカーの航行にしばしば支障が生じることにより当該製油所での原油在庫の積み上げが鈍化することがありうる他、米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の陸上在庫保有を敬遠することにより原油在庫が相当程度減少する可能性がある(もっとも、その間原油は沖合のタンカーに貯蔵されて停泊しているとも言われている)。このようなことから、年末にかけて発表される米国石油統計では特にメキシコ湾岸地域での原油在庫等が減少傾向を示す場面が発生することにより、これが市場で石油需給の引き締まりの兆候と受け取られ、原油価格に上方圧力が加えられる、といった展開となる場合もある。ただ、1月以降は製油所等での原油等の受入が再開される(沖合で停泊していた原油貯蔵タンカーが接岸し原油を陸上タンクへと流入させる)ことから、反動で相当程度の在庫増加が見られる可能性もあり、これにより原油相場を押し下げる場面が見られることも予想される。
前述の通り、OPEC及び一部非OPEC産油国は12月6~7日の一連の会合で2018年6月30日にかけ合計で日量120万バレルの事実上の減産を実施することで合意した。今後はこれら減産目標に関し、OPEC産油国等がどのようにして遵守していくか、ということに市場の注目が集まるであろう。サウジアラビアは2019年1月の原油生産量を日量1,020万バレルと2018年10月比で日量44万バレル低下させる(最新のOPEC月報データに基づく、以下同様)など、2018年10月時点で原油生産量が減産目標を上回る量である日量58万バレルのうちの相当量を削減する意向である旨示唆される。ただ、同じく減産目標を日量30万バレル超過するUAEは1月の原油生産量につき2018年10月比で2.5%削減すると12月10日に同国のマズルーイ エネルギー産業相が明らかにしており、同月の原油生産量が日量318万バレルであることに基づけば、削減量は日量8万バレルということになり、両国併せ日量52万バレル程度の減産と目標の同80万バレルにはなお相当程度の開きがある。また、一部非OPEC産油国についても、ロシアは日量22.8万バレルの減産を実施するとされているが、それでも非OPEC側の減産目標の6割弱である他、ロシアは当該減産についても完全な実施に数ヶ月間を要する意向である(1月は日量5~6万バレル減産する旨明らかになっていることについては既述した)ことから、2019年1月以降暫くの間(しかも1月後半以降は製油所の段階では冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期も峠を越え始めるとともに製油所の稼働が低下し原油の購入も不活発になる)は、サウジアラビア等が現在表明している減産をさらに強化しなければ、原油価格を持ち直すには力不足になるものと考えられる。従って、減産措置に対する毅然として姿勢をサウジアラビア等が表明するかどうか、さらには実際に1月以降に明らかになると見られるOPEC産油国等の原油輸出状況等がどのようになっているかによって、石油需給に関する市場の観測が左右されるとともに、原油価格が変動するものと考えられる。ただ、減産遵守が良好であることで、原油価格が上昇し始めたとしても、WTIで1バレル当たり54ドルの段階で米国のトランプ大統領が「(原油価格を)もっと下げよう」という旨の発言を行っているところからすると、この価格を大幅に上回るようだと、再びトランプ大統領から不満の意が表明される可能性が高まる結果、OPEC産油国としても、減産を抑制する方向で動かざるを得なくなるとの観測が市場関係者間で発生、原油を購入し続けにくくなることから、原油相場の上昇が抑制されやすくなるものと考えられる。反対に、原油価格がWTIで50ドルに接近する、もしくは50ドルを割り込むといった展開となった場合には、サウジアラビアをはじめとするOPEC産油国等が減産を強化するといった観測が市場で強まることに加え、原油価格の下落に伴い米国のシェールオイル開発・生産活動が鈍化するとの懸念が市場で発生する結果、原油相場が下支えされるものと考えられる。結果として原油価格は当面限られた範囲内で変動するものと思われる。
全体としては、さらなる原油価格下落が与える米国シェールオイル開発・生産活動への負の影響に対する市場の懸念、及びOPEC産油国等による事実上の減産方針決定に伴う市場の石油需給引き締まり期待が当面原油価格を下支えする他、北半球での冬場の気温低下(もしくは気温低下予報)に伴う暖房用石油製品需要増加による石油需給引き締まり感や、リビアからの原油供給低下状況によっては、原油価格に上方圧力を加えるものと考えられるが、WTI原油価格が1バレル当たり54ドル程度の段階で示されたトランプ大統領のOPEC産油国等の減産方針及び原油価格上昇に対する牽制の発言が原油価格の大幅な上昇を抑制すると考えられる。そのような中で米国の原油在庫、原油生産量、石油坑井掘削装置稼働数、株式相場、及び米ドルの動向、そしてイランを含むOPEC産油国等の原油輸出動向等で原油相場が変動することになるものと考えられる。
以上
(この報告は2018年12月17日時点のものです)