ページ番号1007666 更新日 平成30年12月26日
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概要
- 2018年10月に実施された大統領選挙でJair Messias Bolsonaro氏が当選し、2019年1月1日より大統領に就任する。Bolsonaro氏は、外資を参入させることで探鉱・開発の促進を図ろうと努めていたTemer大統領と同様に、積極的に入札を実施し、国内調達比率の緩和や環境規制当局による掘削計画等の承認期間短縮等の探鉱・開発促進策をとるとみられている。選挙戦期間中は早期にPetrobras民営化を行うとしていたが、PetrobrasのCEOに就任予定のRoberto Castello Branco氏は、現時点ではPetrobrasの民営化を否定している。
- 2018年1~10月のブラジルの石油生産量は257.8万b/dで、2017年通年の262.2万b/dに比べ減少している。陸上及びCampos Basinのポストソルトの生産量の落ち込みが著しいこと、新規生産設備の生産開始が遅れていること、油田のメンテナンスによる生産停止期間が予定よりも長引いたことが生産減の原因とされている。一方、同期間の天然ガス生産量は112MMm3/dと、2017年通年の110MMm3/dよりも増加しており、需要減少ともあいまって、ブラジルは2017年6月にFSRU1基の稼働を停止したり、2019年末に契約期限が終了するボリビアからのガス購入契約の見直しを検討したりする等天然ガス輸入に影響が生じつつある。
- Petrobrasは2019~23年の5カ年計画「2019-2023 Business and Management Plan」で、総投資額を 841億ドル、探鉱・生産部門の投資額を688億ドルに増加させており、同社が汚職問題等から脱却し、事業の立て直しが進みつつあることを示すものと考えられる。Petrobrasは、探鉱・生産部門の投資額の70%を生産・開発に、そして、その56%をプレソルトに向けるとしており、引き続きプレソルトの開発が重視されることがうかがわれる。そして、2019年は10%、2020年以降は平均で年率5%の生産増を目指すという。Petrobras以外の企業も、ExxonMobilが、2020年からCampos Basin、Santos Basinで22坑を掘削する予定、Shellが、2025年までの7年間にCampos Basin、Santos Basinを中心にブラジルの探鉱・生産部門に140億ドルを投じる計画、Equinorが、2030年までにブラジルの石油、ガス、再生エネルギー開発に150億ドルを投じ、生産量を30~50万boe/dに引き上げる計画と、探鉱・開発を促進する計画を表明している。
- Vitol、Trafigura、GlencoreによるPetrobrasへの贈賄疑惑が浮上したり、Petrobrasの資産売却が思うように進展を見せていなかったり、2018年6月に発生したトラック運転手によるストライキ後、暫定的な措置が取られている石油製品の価格決定方法が決まっていなかったり、と懸念事項もあり、Bolsonaro新政権がどのような方向に動き出すかを確認するとともに、これらの動向も注視していく必要があろう。
(Platts Oilgram News、International Oil Daily、Business News Americas他)
1.Bolsonaro次期政権の探鉱・開発政策
Michel Temer大統領の任期満了に伴うブラジル大統領選挙の決選投票が10月28日に行われ、社会自由党(PSL)に属するJair Messias Bolsonaro(ジャイル・メシアス・ボルソナーロ)氏が55.13%の票を獲得し、労働者党(PT)所属のFernando Haddad氏を破り当選、2019年1月1日より大統領に就任することとなった。
Bolsonaro氏は、1955年3月21日São Paulo州生まれ、Agulhas Negras陸軍士官学校出身の元陸軍大尉で、1991年2月から連邦の下院議員を務めてきた。過激な発言が注目され「ブラジルのDonald Trump」と呼ばれているが、景気低迷や治安悪化、汚職蔓延の状況から高まっていた既存の政党に対する有権者の怒りや不満の声を吸い上げ、勝利を勝ち取った。Bolsonaro氏は経済政策については、Chicago大学を卒業した経済博士でブラジルの著名なヘッジファンドや投資銀行を創業したPaulo Guedes氏に委ねるとしている。Guedes氏は小さな政府を理想とし、経済自由化や規制緩和を進めるとしており、次期経済相に就任予定とされている。このGuedes氏の存在もBolsonaro氏当選に影響を及ぼしたと考えられる。
Bolsonaro氏がどのような探鉱・開発政策をとるのかは、同氏が大統領就任前の現時点ではまだ明らかではない部分も多いが、Lula元大統領以降の政権と比較しながら、Bolsonaro次期政権の探鉱・開発政策の行方を考察した。
1-1.探鉱・開発政策の背景にある基本的な考え方
PTに所属するLula元大統領(2003年~2010年)、Rousseff前大統領(2011年~2016年8月31日)は、石油産業の発展とともに、経済を発展させ、国内産業を振興し、雇用を促進することを目指していた。そして、この間、Petrobrasは政府の一機関として、石油・ガス関連の全ての分野で中心的役割を果たすことを求められていた。
Temer大統領は、2016年5月にRousseff前大統領が政府会計を不正操作したとして職務停止命令を受けたことで大統領代行を務め、2016年8月31日Rousseff前大統領の罷免が上院で議決されると正式に大統領に就任した。Temer大統領は、外資を参入させることで探鉱・開発の促進を図ろうと、後述する通り外資参入の妨げとなっていた政策の変更を行った。Petrobrasに関しても政府から独立した石油会社として活動できるように制度を変更した。
2019年1月1日就任予定のBolsonaro次期大統領は、おおむねTemer大統領の考えを引き継ぎ、同様の探鉱・開発促進策をとるのではないかと見られている。
1-2.プレソルトエリア
ブラジル沖合のプレソルトで油田が発見されたのは2006年であるが、当時のLula政権はこのプレソルトの油田の開発を進めるためにプレソルト開発法を制定した(2010年)。プレソルト開発法では、プレソルトエリア内の全ての新規鉱区で、Petrobrasが権益の最低30%以上を保有しオペレーターとなることが定められた。同法に基づき2013年10月に第1次PS入札ラウンドが実施されたが、対象鉱区はLibra鉱区の1鉱区のみで、Petrobras以外の企業がオペレーターになれないことやサインボーナスが高額だったことから応札件数は1件のみであった。
Temer政権下では、プレソルト開発法が改正され、Petrobrasは、プレソルトエリア内の入札対象鉱区の権益を取得し、オペレーターを務めるか否かを事前に選択できるようになった。そして、Petrobras以外の企業もこれらの鉱区でオペレーターとなることが可能になった。同法の改正を受けて、2017年10月から2018年9月の1年弱の間に、第2次から第5次まで4回のPS入札ラウンドが実施され、それぞれ4鉱区ずつが公開された。複数の札が入る鉱区もある一方で、第2次PS入札ラウンドのSudoeste de Tartaruga Verde鉱区、第3次PS入札ラウンドのPau-Brazil鉱区、第4次PS入札ラウンドのItaimbezinho鉱区には札が入らなかった。しかし、このうちSudoeste de Tartaruga Verde鉱区とPau-Brazil鉱区は、第5次PS入札ラウンドでサインボーナスを減額したり、鉱区面積を拡大したりして再度公開され、落札された。ExxonMobilやShell等、Petrobras以外の企業がオペレーターとなる鉱区も出現した。2017年9月に行われた第14ライセンスラウンド、2018年3月に行われた15次ライセンスラウンドではプレソルトエリアの周辺鉱区が公開され、メジャー等IOCの激戦となった鉱区も存在した。
Bolsonaro政権下では、現時点で、ANP(ブラジル国家石油庁)が2019年に第6次PS入札ラウンドと第16次ライセンスラウンド、2020年に第7次PS入札ラウンドと第17次ライセンスラウンド、2021年に第8次PS入札ラウンドと第18次ライセンスラウンドを実施する計画となっている。
ラウンド 時期 |
鉱区 | 入札件数 | 落札コンソーシアム(権益保有比率) *オペレーター |
---|---|---|---|
1 2013/10/21 |
Libra | 1 | Petrobras*(40%)、Total(20%)、Shell(20%)、CNPC(10%)、CNOOC(10%) |
2 2017/10/27 |
Norte de Carcará | 2 | Statoil*(40%)、ExxonMobil(40%)、Petrogal(20%) |
Sul de Gato do Mato | 1 | Shell*(80%)、Total(20%) | |
Entorno de Sapinhoa | 2 | Petrobras*(45%)、Shell(30%)、Repsol Sinopec(25%) | |
3 2017/10/27 |
Peroba | 3 | Petrobras*(40%)、BP(40%)、CNODC(20%) |
Alto de Cabo Frio Oeste | 1 | Shell*(55%)、CNOOC(20%)、QPI(25%) | |
Alto de Cabo Frio Central | 2 | Petrobras*(50%)、BP(50%) | |
4 2018/6/7 |
Uirapuru | 4 | Petrobras*(30%)、Petrogal(14%)、Statoil(28%)、ExxonMobil(28%) |
Três Marias | 2 | Petrobras*(30%)、Chevron(30%)、Shell(40%) | |
Dois Irmãos | 1 | Petrobras*(45%)、Statoil(25%)、BP(30%) | |
5 2018/9/28 |
Saturno | 2 | Shell*(50%)、Chevron(50%) |
Tita | 2 | ExxonMobil*(64%)、QPI(36%) | |
Pau-Brazil | 2 | BP*(50%)、CNOOC(30%)、Ecopetrol(20%) | |
Sudoeste de Tartaruga Verde | 1 | Petrobras*(100%) |
各種資料を基に作成
1-3.Transfer of Rightsエリア
Lula政権は2010年に、Santos Basinプレソルトの7鉱区(Transfer of Rights(ToR)エリア)で50億boeを生産する権利を、Petrobrasが新たに発行した株式(約425億ドル相当)と引き換えに、Petrobrasに与えた。ToRエリアの7鉱区には、Petrobrasが掘削を行いプレソルトで油田が発見されていたFranco(現在のBuzios)鉱区やPetrobrasがプレソルトで発見した構造の鉱区外への延伸部分が含まれていた。7鉱区のうち、Peroba鉱区はPetrobrasが他の6鉱区の埋蔵量の再評価を行い、その結果、これらを合わせても50億boeを生産できない場合の予備とされていた。しかし、現在、ANPによる同エリア内の可採埋蔵量の追加分は50~150億boeとされており、Peroba鉱区は2014年5月に政府に返還された。当初、PetrobasはこれらToRエリアの探鉱・開発を単独で行うこととされた。ところが、Petrobras単独では十分に開発が進まなかった。
そこで、Temer政権は、このToRエリアにも外資導入を図ろうと法律の改正を試みている。この改正法案は、2018年6月に下院を通過したが、大統領選挙を前に上院での審議が中断、大統領選挙が終わり、一旦は上院での審議が再開されたものの、審議、採決はBolsonaro政権成立後に行うほうが良いとの判断がなされ、2019年に持ち越されることになった。
Bolsonaro大統領の政権移行チームはToRエリアの入札について積極的とのこと、法改正を待って、Bolsonaro政権下で、ToRエリアの入札が実施されると考えられる。
ToRエリア | 現在の鉱区名 | 埋蔵量(百万boe) |
---|---|---|
Florim | Itapu | 467 |
Franco | Buzios | 3,058 |
Iara surround | Oeste de Atapu、Norte de Sururu、Sul de Sururu、Norte de Berbigao、Sul de Berbigao | 600 |
Tupi Northeast | Sepia | 428 |
Guará South | Sul de Sapinhoá | 319 |
Tupi South | Sul de Lula | 128 |
Peroba | Peroba | - |
各種資料を基に作成
1-4.国内調達比率
Lula政権、Rousseff政権では、国内調達比率はサインボーナス、Minimum Work Commitmentと並んで、入札時の落札者選定基準の一つとされていた。そして、石油産業の発展とともにブラジル国内の産業を振興させようとする考えの下、国内調達比率は、2003年以降30%以上に、2005年以降は沖合と陸上の両方を対象とする入札では探鉱37%以上、開発55%以上、陸上のみを対象とする入札では探鉱70~80%、開発77~85%へと、次第に上昇していき、この高い国内調達比率がブラジルの探鉱・開発の大きな障害となっていた。
そこで、Temer政権下では、入札時の落札者選定基準から国内調達比率を外した。さらに、陸上のプロジェクトの場合には50%、沖合のプロジェクトの場合には探鉱18%、坑井掘削・仕上げ25%、集油・パイプライン40%、生産設備25%へと国内調達比率を緩和した。加えて、2005年以降付与された鉱区についても、申請を行うことで緩和された国内調達比率が適用されることになった。
Bolsonaro政権で経済相を務めるとされるPaulo Guedes氏は、国内調達比率に関してはすでに国際的な競争力はあるものの、特に深海と海底の資器材については国内調達比率をさらに緩和することを検討するとしている。
1-5.Petrobras
Lula政権、Rousseff政権時には、プレソルト開発法に基づいて、また、ToRエリアという形で、IOCよりも優先的にPetrobrasにプレソルトの権益が付与された。さらに、当時、政府はインフレ抑制のため石油製品価格を据え置きしていたが、そのためにPetrobrasは国際市場価格で輸入した石油製品をブラジル国内で割引価格で販売し、その逆ザヤを負担し、負債を大きく膨らませることになった。
Temer政権下では、大きな負債を負い、汚職問題により経営状況が悪化したPetrobrasの再建が図られた。プレソルト開発法が改正され、Petrobrasはプレソルトエリア内の全ての新規鉱区でオペレーターを務める必要がなくなった。また、ブラジル国内の石油製品の価格は為替等を加味した上で国際市場価格に連動させることとなり、Petrobrasの負担はなくなった。
Bolsonaro次期大統領は選挙期間中、Petrobrasを早期に民営化するとしていた。しかし、2019年1月よりPetrobrasのCEOに就任する予定のRoberto Castello Branco氏は、Petrobrasの民営化の任務は与えられていないと、現時点ではPetrobrasの民営化を否定、非中核資産の売却を進め、石油の開発と生産に注力するとしており、引き続き同社の再建を図ると思われる。なお、Roberto Castello Branco氏は、Paulo Guedes氏と同じChicago大学の出身、2016年からPetrobrasの取締役会メンバーで、中央銀行と鉱業大手Valeの外部役員も務めている。
1-6.環境規制当局による掘削計画等の承認
Lula政権、Rousseff政権、Temer政権下では、石油会社が連邦環境規制当局IBAMAに地震探鉱や掘削の計画を提出しても、承認されるまでに数年を要する状態が続いている。特に第11次ライセンスラウンド(2013年)で付与された北東部沖合の鉱区の計画はなかなか承認されていない。例えば、TotalはFoz do Amazonas Basinの5鉱区で掘削を行うために、5回にわたり掘削計画を提出したが、IBAMAはこれを全て拒否した。Shell、BP、QGEP、Premier Oil等も同様の状況と伝えられている。また、BHPBillitonはFoz do Amazonas Basinの2鉱区で地震探鉱を行う許可が得られず、鉱区を返還したという。
Bolsonaro次期政権は、IBAMAが掘削や地震探鉱計画を承認し、許可を与えるまでの期間を短縮して数か月とすることを検討する方針である。
2.探鉱・開発・生産状況
2-1.石油生産状況
ANPによると、2018年1~10月のブラジルの石油生産量は257.8万b/dで、2017年通年の262.2万b/dに比べ減少している。増加を続けていたプレソルトの石油生産量も2018年に入ってからは140万b/d前後で推移している。2018年に石油生産量が減少した原因として、陸上及びCampos Basinのポストソルトの生産量の落ち込みが著しいこと、新規生産設備の生産開始が遅れていること、油田のメンテナンスによる生産停止期間が予定よりも長引いたことが挙げられている。なお、2018年10月には、4月と6月に生産を開始したBuzios油田のFPSO P-74、Tartaruga Verde 油田のFPSO Cidade de Campos dos Goytacazesに続いて、Petrobrasの2018年に入って3基目のFPSO、Lula油田のP-69が生産を開始したことや、いくつかの生産プラットフォームでメンテナンスが終了したことから、石油生産量はブラジル全体で261.4万b/d、うちプレソルトが147.1万b/dに増加した。
IEAは2018年にブラジルの石油生産量は26万b/d増加すると見込んでいたが、9月に2018年の伸びを3万b/dに修正した。ただし、IEAは、遅れているプロジェクトの生産開始で2019年にはブラジルの石油生産量は35万b/d増加するとみている。さらに、IEAはブラジルの石油生産量は2023年までに376万b/d、2040年までに520万b/dに達するとの見通しを発表している。
2-2.天然ガス生産状況
2018年1~10月の天然ガス生産量は112MMm3/dと、2017年通年の110MMm3/dよりも増加した。ブラジルの天然ガス生産の特徴は随伴ガスの割合が総生産量の約80%を占めていることである。このような事情から、プレソルトの石油生産量が増加し、Santos Basinにガスパイプラインが敷設されるのに伴い、プレソルトの天然ガス生産量が増加してきた。プレソルトの生産量が総生産量に占める割合は2018年10月時点で50%となっている。2012~2015年には降水量が少なく水力発電量が減少し、天然ガス消費量が増加、その結果、天然ガスの自給率は一度低下した(2015年55.4%)ものの、2017年は72%に上昇した。
ブラジルでは、天然ガス需要に対して生産量が不足しており、不足分を1999年に開始したボリビアからのパイプラインガス輸入とLNG輸入で賄っている。LNG輸入はGuanabara Bay(受入開始2008年)、Pecém(同2009年)、Bahía(同2014年)の3か所に設置されたFSRUで行われている。国内の天然ガス生産量増加、需要減少に伴い、ブラジルはGuanabara BayのFSRUを2017年6月に稼働停止した。また、2019年末に契約期限が終了するボリビアからのガス購入契約を見直すとみられている。
2-3.Petrobrasの探鉱・開発計画
Petrobrasは2018年12月5日に、2040年までの戦略計画及び2019~23年の5カ年計画「2040 Strategic Plan and 2019-2023 Business and Management Plan(BMP)」を発表した。
PetrobrasはBMP2014-2018以降、総投資額を、BMP2015-2019以降、探鉱・生産部門への投資額を削減していたが、2017年12月発表の前5カ年計画BMP2018-2022の5年間の投資額は745億ドル、探鉱・生産部門への投資額は603億ドルと、BMP2017-2021から大きな変更を行わなかった。今回の5カ年計画では、投資額を12.9%増加させ841億ドル、探鉱・生産部門の投資額を14.1%増加させ688億ドルとしており、同社が汚職問題等から脱却し、事業の立て直しが進みつつあることを示すものと考えられる。2017年11月6日に発表された2018年第3四半期決算でも、原油価格の上昇もあって、Petrobrasの純利益は17億4,900万ドル(前年同期2億400万ドル)、売上高248億7,300万ドル(同227億ドル)と良好な業績をあげた。また、2014年末には1,062億ドル超あった純負債を、2017年末に848億ドル、2018年第2四半期末に737億ドル、第3四半期末には729億ドルと圧縮した。その結果、純負債は利払い・税・償却前利益(EBITDA)の2.7倍となり、2018年末までにこれを2.5倍にするとの目標に近づいた。BMP2019-2023ではこれを2020年までに1.5倍以下とすることを目標に掲げている。また、2019~2023年の5年間に総額269億ドルに達する非中核資産の売却を計画している。
Petrobrasは、探鉱・生産部門の投資額688億ドルの70%を生産・開発に、そして、その56%をプレソルトに向けるとしており、引き続きプレソルトの開発が重視されることがうかがわれる。主要プロジェクトとしても、Buzios油田(Capex90億ドル、FPSO5基(うち2基生産中))、Mero油田(Capex35億ドル、FPSO2基)、Atapu油田(Capex27億ドル、FPSO1基)、Berbigao/Sururu油田(Capex17億ドル、FPSO1基)、Lula/Cernambi油田(Capex46億ドル、FPS9基(うち生産中8基))とSantos Basinプレソルトの油田が並んでいる。また、PetrobrasはCampos Basinにも205億ドルのCapexを投じるとしている。Campos Basinでは、2018年6月に生産を開始したTartaruga Verde 油田FPSO Cidade de Campos dos Goytacazesへの坑井のつなぎこみや、2017年末にStatoil(現在のEquinor)が権益の25%を取得したRoncador油田の生産増、成熟油田の生産減退食い止め等に力を注ぐと見られる。さらに、今回のBMP2019-2023では、新たな鉱区を21鉱区取得し、探鉱鉱区が136鉱区に増加したことから、探鉱部門への投資額をBMP2018-2022に比べ59%増加させ、108億ドルとするとしている。
探鉱・生産部門以外では精製・輸送・マーケティング部門に82億ドル、天然ガス・エネルギー部門に50億ドル、石油化学部門に3億ドル、将来への投資としてそして、風力・太陽光・バイオ燃料等に4億ドルを投資するとしている。
PetrobrasはBMP2019-2023で、2019年は10%、2020年以降は平均で年率5%の生産増を目指すとしている。これにより、2019年に同社のブラジル国内外の生産量は280万boe/d、ブラジル国内石油、NGL生産量は230万b/dに達するとしている。そのために、2018年に5基(うち4基はすでに生産中)、2019~23年に13基のFPSOの生産を開始するとしている。しかし、これら18基のFPSOは、BMP2018-2022では2018年から2022年の5年間に生産を開始する予定とされていたFPSO18基と同じものであり、BMP2018-2022に比べ7基は1年、1基は2年、生産開始時期が遅れる予定となっている。BMP2018-2022で生産開始が予定されていたFPSO18基のうち8基もBMP2017-2021に比べ生産開始時期が1年遅れる計画となっており、このような新規FPSOの生産開始の遅れは毎年更新される同社の5か年計画で恒例のこととなってしまっている。
2-4.Petrobras以外の主な企業の探鉱・開発状況
Petrobras以外の企業も、入札への積極的な参加に続いて、Campos Basin、Santos Basinを中心に活発に探鉱・開発を進める意向を示している。主な企業の最近の投資や探鉱・開発に関する計画等を以下に示す。
ExxonMobilは、2017年9月以降、ブラジル国内の権益保有鉱区数を2から26に急激に増やした。そして、2020年からCampos Basin、Santos Basinの7鉱区で22坑を掘削する予定であるとしている。さらに、Sergipe-Alagoas Basinでも2020年以降、掘削を計画している。
Shellは、ブラジル国内の生産量を42万boe/d (うち石油34万b/d)に増やしており、Petrobrasに次ぐ生産を誇っている。同社は、2025年までの7年間にブラジルの探鉱・生産部門に140億ドルを投じる計画としており、特にCampos Basin、Santos Basinには集中して投資を行う計画だ。条件次第ではあるが、ToRエリアの入札にも参加する意向を示している。
Equinorは2001年以降、ブラジルに100億ドルを投資してきたが、2030年までにブラジルの石油、ガス、再生エネルギー開発にさらに150億ドルを投じ、生産量を30~50万boe/dに引き上げる計画を示している。
CNPCはCampos BasinのMarlim、Marlim Leste、Marlim Sul、Voador油田操業への参加とComperj製油所(精製能力16.5万b/d)建設でPetrobrasと基本合意書を締結した。
おわりに
Bolsonaro新政権は、上述したように、Temer政権の政策を引き継ぎ、外資を導入し探鉱・開発を促進する政策をとると考えられる。また、Bolsonaro次期大統領はPetrobrasが発表したBMP2019-2023を見直す可能性が高いとも言われているが、PetrobrasのBranco次期CEOからは「時間があるうちにこの資源(プレソルト)を活かす必要がある」との発言が出ており、Petrobrasはプレソルトを中心に積極的に探鉱・開発を進めていくと考えられる。また、Petrobras以外の企業もCampos Basin、Santos Basinを中心に探鉱・開発を促進し、生産増を目指すと思われる。したがって、Bolsonaro新政権下では、プレソルトを中心に探鉱・開発が進展し、石油・ガス生産量の増加が見込まれる。
ただし、Vitol、Trafigura、GlencoreによるPetrobrasへの贈賄疑惑が浮上したり、Petrobrasの資産売却が思うように進展を見せていなかったり、2018年6月に発生したトラック運転手によるストライキ後、暫定的な措置が取られている石油製品の価格決定方法が決まっていなかったり、と新たな懸念事項が出現してきている。Bolsonaro新政権がどのような方向に動き出すかを確認するとともに、これらの動向にも注視していく必要があろう。
以上
(この報告は2018年12月25日時点のものです)