ページ番号1007680 更新日 平成31年2月4日

原油市場他:米国株式相場下落等により1年半ぶりの低水準にまで下落したものの、その後経済に対する楽観的な見通しの発生、及びOPEC産油国等の原油供給削減情報等で持ち直す原油価格

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レポートID 1007680
作成日 2019-01-15 00:00:00 +0900
更新日 2019-02-04 09:27:13 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2018
Vol
No
ページ数 27
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
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国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2019/01/15 野神 隆之
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概要

  1. 米国の製油所では稼働上昇とともに留出油生産が高水準で推移したが、需要も堅調であったことから、2018年12月下旬初頭頃にかけ在庫は減少したものの、年末に気温が平年を上回る場面がしばしば見られたこともあり、在庫は増加に転じ、平年幅上限付近に位置する量となっている。他方、製油所の稼働上昇によりガソリン生産も活発化した一方で、季節的には需要期ではなかったこともあり、ガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する量は維持されている。また、製油所での原油精製処理が進んだ一方国内原油生産も高水準で推移したこと等もあり、原油在庫は微減となったものの比較的限られた範囲内で変動したうえ、平年幅上限を超過する状態は継続している。
  2. 2018年12月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減については、欧州及び日本では原油在庫は増加したが、これは2018年後半のOPEC産油国等の原油供給増加が影響している可能性がある。そしてこの増加が米国での原油在庫の微減を相殺して余りあったことから、OECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅を超過する状態は続いている。石油製品については、米国ではガソリンや留出油在庫の増加をプロパン/プロピレン及びその他石油製品在庫の低下で相殺したことから全体として石油製品在庫は若干の増加にとどまった他、欧州でも在庫は微増となった。ただ、日本では、ガソリン小売価格の下落等による需要増加に伴い当該製品在庫が減少した他、冬場の気温の低下による需要増加で灯油在庫が減少したこともあり、石油製品全体の在庫は減少した。この結果欧米諸国の在庫増加を日本の減少で相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は減少となり、量としては平年並みに位置している。
  3. 2018年12月中旬から2019年1月中旬にかけての原油市場では、米国金融当局の金利引き上げの決定、そして米国及び中国の貿易紛争の行方に関する悲観的な見方の発生に伴う米国株式相場の下落等により、原油価格は下落、12月24日にはWTIで1バレル当たり42.53ドルと約1年半ぶりの低水準に到達した。しかしその後は米国及び中国との間での貿易紛争に対する楽観的な見方の発生、そして米国金融当局の金利引き上げに対する柔軟な姿勢の表明による、米国株式相場の上昇に加え、OPEC産油国等による減産の兆候を示唆する情報が原油価格に上方圧力を加えた結果、1月上旬末以降原油価格は1バレル当たり50ドル台前半にまで回復している。
  4. サウジアラビアが相当程度原油輸出を削減する方針である旨伝えられる他、原油価格が大きく下落すれば米国シェールオイル等の開発・生産活動が鈍化することから、原油価格の大幅な低水準は持続しにくいものと考えられる。他方、イランを含むOPEC産油国等の原油供給状況によっては、原油価格が上昇する可能性がある。もっとも、冬場の暖房シーズンに伴う石油需要期が峠を越え始めつつある中で、米国の原油生産増加観測が根強いことが、原油相場に下方圧力を加えうると見られる他、原油価格が大幅に上昇れば、米国のトランプ大統領による価格上昇牽制姿勢を市場が意識し始めることから、そのような価格も持続する可能性はそれほど高くないものと考えられる。

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2018年10月の米国ガソリン需要(確定値)は日量927万バレルと前年同月比で0.9%程度の減少となった(図1参照)が、速報値(前年同月比で1.7%程度減少の日量920万バレル)からは上方修正されている。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.943ドルと前年同月比で0.322ドル(約12.3%)割高となった他、前月比でも0.028ドル(約1.0%)上昇したため、当該需要を抑制する方向で作用したものと考えられる。他方、2018年12月の同国ガソリン需要(速報推定値)は日量903万バレル、前年同月比で2.3%程度の減少となっている。12月に入ってからは米国株式相場の下落傾向が加速しつつあったことから、同国の経済見通しが暗くなり始めたことをガソリン需要が織り込んだ他、12月前半は人口密集地である米国北東部で気温が低下したことから、住民の乗用車利用による外出が手控えられたことがガソリン需要に影響を及ぼした可能性が考えられるが、12月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.457ドルと前年同月比で0.137ドル(約5.3%)下回ったうえ、前月(同2.736ドル)から0.279ドル(約10.2%)下落、消費者にとってガソリン小売価格の割高感が広がる1ガロン当たり3ドルから相当程度離れた他、12月後半は米国北東部では相対的に気温が上昇してきたこと等を考慮すると、当該需要は速報値から確定値に移行する際に上方修正されるか、もしくは2019年1月のガソリン需要が反動で伸びを見せるといった展開もありうる。このような中、米国の製油所は2018年12月中旬から2019年1月上旬にかけ日量1,700万バレル台前半という高水準の稼働を維持したこと(図2参照)から、同国のガソリン製造活動も活発化した(最終製品生産量は図3参照)ものと考えられる。他方、米国からのガソリン輸出は11月下旬から12月上旬にかけ増加を見せた(10月前半にメキシコのミナティトラン(Minatitlan)製油所(原油精製処理能力日量28.5万バレル)が操業を停止した(10月9日午前2時に発生した火災が影響している可能性がある)ことから同国が積極的なガソリン輸入を実施したと見られることが一因であると推察される)がそれ以降は落ち着いてきた(ミナティトラン製油所等の修理完了に伴い12月には完全に操業が回復する旨メキシコ国営石油会社Pemexのトレビノ(Trevino)最高経営責任者が11月13日に表明していた)こともあり、2018年12月上旬から2019年1月上旬にかけ、同国のガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する水準は維持されている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2006~18年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~19年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~19年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~19年)

2018年10月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量438万バレルと前年同月比で9.2%程度の増加となったうえ、速報値である日量419万バレル(同4.6%程度の増加)から上方修正されている(図5参照)。2018年10月の米国の鉱工業生産は前年同月比で3.8%程度伸びおり、同月の同国の物流活動も同7.3%拡大していることに加え、10月は中旬以降米国の暖房油需要の中心地である北東部で気温が平年を割り込む程度に低下した他、前年同月に比べても寒冷となったことから、暖房向け需要が喚起されたと見られることが留出油需要増加の背景にあるものと考えられる。また、2018年12月の留出油需要(速報推定値)は日量408万バレルと、前年同月比で2.6%程度の増加となった。11月の鉱工業生産が前年同月比で3.8%増加するとともに11月の物流活動も同6.7%の拡大となっていたにもかかわらず、11月の留出油需要が速報値ながら前年同月比で0.3%程度の減少となったことへの反動が12月に発生していると見られるうえ、11月の中旬や下旬、及び12月前半は米国北東部でしばしば気温が平年を下回ったうえ、前年同期よりも冷え込んだことから暖房向け留出油需要が旺盛となったと見られることが、12月の留出油需要に影響したものと考えられる。もっとも、12月後半は米国北東部の気温がしばしば平年を超過して上昇したことに加え年末の休暇シーズンに伴い物流活動が鈍化したと見られることもあり、留出油需要が抑制された一方で、高水準の稼働が維持する米国の製油所で留出油生産活動が旺盛に行われ続けた(図6参照)ことから、2018年12月上旬から2019年1月上旬にかけ留出油在庫は増加傾向となった(特に2019年1月4日の週は前週比で1,061万バレルの増加と2015年1月2日の週(この時は同1,121万バレルの増加)以来の大幅な増加を示した)結果、2019年1月上旬時点では平年幅上限付近に位置する量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2006~18年)

図6 米国留出油生産量(2009~19年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~19年)

2018年10月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で3.9%程度増加の日量2,077万バレルとなった(図8参照)。留出油、プロパン/プロピレン、及びその他の石油製品の需要増加が石油需要の伸びを牽引している格好となっている。またガソリン及び留出油の需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正されたことにより、当該需要は速報値(日量2,061万バレル、前年同月比3.1%程度の増加)から上方修正されている。プロパン/プロピレンについては米国北部の気温が平年を下回って低下気味となったことから暖房向け需要が発生したと見られる他、その他の石油製品の需要については、特にエタンの需要が前年同月比で12.1%(日量15万バレル)程度伸びているが、これは、2018年7月26日にExxonMobilがテキサス州ベイタウン(Baytown)で年産150万トンのエチレン製造装置の操業を開始していることに伴いエタン需要が増加していることが一因となっている可能性がある。他方、2018年12月の米国石油需要(速報推定値)は、日量2,079万バレルと前年同月比で2.3%程度の増加となった。プロパン/プロピレン、留出油、及びその他の石油製品の需要増加が石油製品全体の需要の伸びに寄与している格好となっている。プロパン/プロピレンは米国北部で11月から12月前半にかけしばしば気温が平年を下回るほどに冷え込んだことから暖房用需要が刺激されたことが需要増加の一因となっているものと推察される。また、その他石油製品の需要の増加はExxonMobilのエチレン製造装置の操業開始に伴うエタン需要増加が一因となっている可能性がある。ただ、その他石油製品の需要は日量410万バレルと2017年11月~2018年10月の当該需要(確定値)である同346~426万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正されることを通じ同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。また、冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房用石油製品需要期に突入したことにより製油所が高水準の稼働と原油精製処理活動を継続した一方で、国内原油生産量、輸入量、及び輸出量が概ね一定の領域内に収まっていたことから、2018年12月上旬から2019年1月上旬にかけ原油在庫は比較的限られた範囲で変動したうえ若干の減少となったが、平年幅上限を超過する状態は維持されている(図9参照)。そして、留出油在庫が平年幅上限付近に位置する量となっている一方で、原油及びガソリンの在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、または原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2006~18年)

図9 米国原油在庫推移(2003~19年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~19年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~19年)

2018年12月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、製油所での高水準の原油精製処理の影響もあり米国では若干ながら減少となった。他方、欧州で及び日本では製油所の原油精製処理活動が概ね維持される中原油在庫は増加しているが、これは2018年後半におけるOPEC産油国等の原油供給増加が影響している可能性がある。そして、米国での原油在庫減少を欧州及び日本での原油在庫増加で相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として当該在庫は増加となり、平年幅を超過する状態は継続している(図12参照)。また、石油製品については、米国ではガソリンや留出油の在庫は増加したものの、冬場の暖房向け需要が増加していると推察されることによりプロパン/プロピレン在庫が減少した他、冬用ガソリン需要期に突入しつつあったことにより当該ガソリンに混入するブタンの需要が増加してきていると思われることや、新たにエタン分解装置が操業を開始した(前述)石油化学産業向けのエタン需要が堅調であったと見られることにより、それらの製品在庫が減少していると考えられることが一因となり、ブタンやエタンを含むその他石油製品の在庫水準が低下したことで相殺されたことから、同国の石油製品在庫は全体としては若干の増加となった。欧州でも、製油所の稼働上昇とともに石油製品生産活動が活発化していることで、不需要期であるガソリン在庫は若干増加した一方で、他の製品は需給が概ね均衡していたと見られ在庫も前月末とほぼ同水準であったとから、石油製品全体の在庫は微増となった。ただ、日本においては、年末年始の休日がまとまった形となっていたことに加え、ガソリン小売価格が下落してきたことで需要が刺激された結果、ガソリン在庫が減少した他、冬場の暖房シーズン到来に伴う気温の低下で灯油需要が増加した結果灯油在庫が減少したこともあり、日本での石油製品全体の在庫水準は低下した。この結果、欧米諸国の石油製品在庫増加を日本での減少で相殺して余りある状況となったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は減少となり、量としては平年並みの水準に位置している(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年並みの量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する量となっている(図14参照)。なお、2018年12月末時点でのOECD諸国推定石油在庫日数は60.3日と11月末の推定在庫日数(59.8日)から増加している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~18年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~18年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~18年)

12月12日に1,300万バレル台後半程度の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、12月19日は1,200万バレル台半ば程度の量にまで減少したものの、12月26日には1,400万バレル台後半程度の量へと回復したうえ、1月2日には1,600万バレル強の量と週間在庫統計史上最高水準にまで増加した。1月9日には1,500万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、12月12日の水準は上回っている。米国でのガソリン需要の伸び悩みから同国のガソリン在庫が継続的に前年同期を上回るなど、大西洋圏でのガソリン需給が緩和気味となった結果、米国へのガソリン輸出に係る利幅が圧迫されるようになった。このため、従来は米国にガソリンを輸出していた欧州方面から、相対的にガソリン価格が高かった(つまり利幅が確保しやすい)アジア市場へとガソリンが流入するようになってきていることに加え、中国が概ね2018年11~12月の期間につき204万トン(推定1,724万バレル)のガソリン輸出枠を設定したこと(2018年10月26日及び11月27日等に報じられる)で同国からアジア市場に当該製品が輸出されている(また、10月1~7日の中国国慶節の休日に伴うガソリン需要の盛り上がり後同国ガソリン需要が伸び悩んだ(経済減速が影響を及ぼしていると見られる他12月に入ってからは気温の低下で乗用車を利用した外出が手控えられていると見る向きもある)結果当該製品需給が緩和しているとことがガソリン輸出を促進させているとの指摘もある)ことが、シンガポールでの軽質留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。そして、このような在庫の増加が、アジア市場でのガソリン価格を抑制したことに加え、1月に入ってからはドバイ原油価格の上昇にガソリン価格のそれが追い付かなかったこともあり、ガソリンとドバイ原油との価格差(従来はガソリン価格が原油のそれを大部分の場合上回っていた)は総じて低迷した他、一時はドバイ原油価格がガソリン価格を上回る場面も見られた。

ナフサについては、12月後半のドバイ原油価格の下落にナフサのそれが追いつかなかったこともあり、一時両者の価格差(この場合ナフサの価格がドバイ原油のそれを下回っている)は縮小する場面も見られたが、欧州において米国輸出向けガソリン製造過程で混入するナフサの需要が米国でのガソリン需要伸び悩みの影響を受けたこともあり、当該製品需給が緩和していた欧州方面からシンガポールへとナフサが相当程度流入し続けたことが、ナフサ価格に下方圧力を加えたうえ、2019年1月に入ってからは原油価格が持ち直したことにナフサ価格が追い付かなかったことから、両者の価格差は再び拡大を示している。

12月12日には1,100万バレル弱の量であったシンガポールの中間留分在庫は、12月19日も1,100万バレル強とほぼ同水準であった。そして、12月26日には1,100万バレル台半ば程度の量へと増加したものの、1月2日及び1月9日には1,100万バレル台前半の量へ減少している。このようにシンガポールの中間留分在庫は概ね限られた範囲で変動したが、前年同期は上回る状態となっている。米国でガソリンに比べ留出油需要の伸びが相対的に堅調であったことで、世界的に軽油の精製利幅が比較的確保しやすかったこともあり、アジアの製油所でも可能な限り留出油を含む中間留分の生産に傾注していたと見られることが、当該在庫水準を下支えしているものと見られる。また、12月後半にドバイ原油価格が下落したことから、アジア市場での軽油とドバイ原油価格との差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大する場面が見られたが、中国が概ね2018年11~12月の期間につき189万トン(推定1,410万バレル)の留出油輸出枠を設定したこと(2018年10月26日及び11月27日等に報じられる)に伴い、同国からアジア諸国方面へ当該製品が輸出されていることによると見られる(中国での留出油石油需給が緩和していることが背景にあると見る向きもある)。ただ、欧米諸国での冬場の暖房シーズン突入に伴う暖房油需要の盛り上がりに伴いシンガポールから欧米諸国方面へと当該製品が輸出されたことが、シンガポールでの中間留分在庫の増加を抑制したものと考えられる。このように中間留分在庫が比較的限られた範囲内で推移したことから、軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は12月中には維持されていたが、2019年1月に入ってからはドバイ原油価格が持ち直しつつあることから、軽油とドバイ原油の価格差は縮小している。

12月12日には1,900万バレル半ば程度の量であったシンガポールの重油在庫は、12月19日には2,000万バレル台後半程度の量へと増加したが、12月26日には2,000万バレル台前半、そして、1月2日には2,000万バレル強、1月9日には1,900万バレル弱の量へと減少している。米国の対イラン制裁発動(11月5日)を控え、イランからの重油の供給が低下しつつあったこともあり、アジア市場での重油価格が欧州市場のそれに比べて割高となったことで、欧州方面から重油が流入したものの、その結果在庫が増加したことによりシンガポールでの重油価格に割安感が発生したことから、かえって輸出が増加したと見られることが一因となり在庫が減少したものと思われる。そして、12月後半にはドバイ原油価格の下落に重油のそれが追いつかなかったこともあり、重油価格はドバイ原油価格のそれを超過したうえ、その幅が拡大する場面も見られたが、2018年末以降はドバイ原油価格が上昇したことに重油価格のそれが追い付かなったこともあり、重油価格はドバイ原油のそれを下回る状態となっている。

2.2018年12月中旬から2019年1月中旬にかけての原油市場等の状況

2018年12月中旬から2019年1月中旬にかけての原油市場では、米国金融当局の金利引き上げの決定、米国の一部政府機関の閉鎖、そして米国及び中国の貿易紛争に関する悲観的な見方の発生に伴う、米国株式相場の下落により、原油価格は下落傾向となり、12月24日にはWTIで1バレル当たり42.53ドルと約1年半ぶりの低水準に到達した。しかしその後は米国及び中国との間での貿易紛争に関する両国間協議実施に伴う当該問題に対する楽観的な見方の発生、そして米国金融当局の金利引き上げに対する柔軟な姿勢の表明による、米国株式相場の上昇に加え、OPEC産油国等による減産を示唆する情報等が原油相場に上方圧力を加えた結果、1月上旬末以降原油価格は1バレル当たり50ドル台前半にまで回復している(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~19年)

12月17日には、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が12月11日から14日にかけ100万バレル超増加した旨米国石油関連情報サービス会社Genscapeが報告したと12月17日に報じられたことで、WTI原油先物契約受渡地点での石油需給の緩和感を市場が意識したことに加え、12月17日に米国エネルギー省(EIA)から発表された「掘削生産性報告(DPR:Drilling Productivity Report)」で2018年12月及び2019年1月の同国主要7シェール鉱床の原油生産量がそれぞれ前月比で日量12万バレル、同13万バレル増加するとの見通しが明らかにされたこと、12月17日に全米ホームビルダー協会(NAHB)及び米国大手金融機関ウェルズ・ファーゴが発表した12月の住宅市場指数(50が同市場景況感の良し悪しの分岐点)が56と11月の60から低下した他、市場の事前予想(60~61)を下回ったこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日(12月17日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.32ドル下落し、終値は49.88ドルとなった。12月18日も、12月17日に発表されたDPRで2018年12月及び2019年1月の米国主要7シェール鉱床の原油生産量が増加するとの見通しが明らかになった流れを引き継いだことに加え、12月18日に行われた中国の習近平国家主席の演説の中で景気刺激策や米国との貿易紛争に関し直接的な発言がなされなかったことから、同国経済と石油需要の先行きに対する懸念が市場で増大したこと、12月18日にロシアのノバク エネルギー相が12月のこれまでの同国の原油生産量が日量1,142万バレルと旧ソ連崩壊以降の最高水準に到達している旨示唆したことで、世界石油需給の緩和感を市場が意識したことから、この日(12月18日)の原油価格の終値は1バレル当たり46.24ドルと前日終値比で3.64ドル下落した。この結果原油価格は12月17~18日の2日間で併せて1バレル当たり4.96ドルの下落となった。12月19日には、これまでの原油価格下落に対し、値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、12月19日にサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、2019年4月に開催される次回総会等の会合においてOPECと一部非OPEC産油国による減産合意が延長されることに自信を持っている旨発言したことで、世界石油需給の引き締まりに対する期待が市場で発生したこと、12月19日にEIAから発表された同国石油統計(12月14日の週分)で留出油在庫が前週比で424万バレルの減少の1.20億バレルとこの時期としては2013年(この時は1.16億バレル)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(同90万バレル程度の減少~57万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり47.20ドルと前日終値比で0.96ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2019年1月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり48.17ドル(前日終値比1.57ドルの上昇)であった)。しかしながら、12月18~19日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利をそれ以前の2.00~2.25%から2.25~2.50%へと引き上げる旨決定されたことに対し市場関係者が失望した流れを12月20日の市場が引き継いだうえ、12月19日に米国議会上院が可決した2019年2月8日までの支出を可能とするつなぎ予算案に対し、メキシコとの国境の壁建設に対する50億ドルの予算措置がなされていないことから、トランプ大統領は署名するつもりはない旨表明したと12月20日伝えられたことで、12月22日午前0時にも米国の一部政府機関が閉鎖される可能性が高まったこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日(12月20日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.32ドル下落し、終値は45.88ドルとなった。また、12月21日も、12月18~19日に開催されたFOMCで政策金利引き上げが決定されたうえ、12月21日に米国のトランプ大統領が、米国議会上院民主党がメキシコとの国境に壁を建設する予算措置を受け入れなければ、非常に長期に渡る政府機関の閉鎖を招く旨示唆したこと、12月21日に米国のナバロ大統領補佐官(通商担当)が、中国が経済政策を根本的に変更するのでなければ、90日の期間で米国及び中国との間での貿易紛争に関する協議が合意に至るのは困難である旨示唆したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日(12月21日)の原油価格の終値は1バレル当たり45.59ドルと前日終値比で0.29ドル下落した。この結果原油価格は12月20~21日の2日間で併せて1バレル当たり1.61ドルの下落となった。

そして、米国のトランプ大統領と議会上院との間で、米国とメキシコとの国境の壁建設のための予算措置で合意できなかったことから、12月22日午前0時を以て一部政府機能が停止し始めた他、12月21日に同国のマルバニー行政管理予算局長が、当該閉鎖は年明けまで継続する可能性がある旨明らかにしたこともあり、12月24日に米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり42.53ドルと前日終値比で3.06ドル下落したが、この終値は2017年6月21日(この時は同42.53ドル)以来の低水準のものであった。12月25日には、米国のクリスマスによる休日に伴い原油先物市場は休場となったが、12月26日には、これまでの原油価格の下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、12月25日にロシアのノバク エネルギー相が、原油価格は2019年前半には安定する旨発言したしたことで、この先の石油需給引き締まりに対する市場の期待が増大したこと、2018年11月1日~12月24日(歳末商戦期間)の米国小売売上が全米小売業協会の事前予想(前年同期比4.3~4.8%の増加)を上回る前年同期比5.1%の増加であった旨米国クレジットカード大手マスターカードが12月26日に発表したことに加え、同日米国のハセット大統領経済諮問委員会委員長が、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の地位は100%安全である旨明らかにした(12月18~19日に開催されたFOMCで金利引き上げが決定された後、トランプ大統領はパウエル議長の解任を検討していると12月21日に報じられていた)こともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日(12月26日)の原油価格の終値は1バレル当たり46.22ドルと前週末終値比で3.69ドル上昇した。ただ、12月27日には、米国のトランプ大統領が、同国の安全保障を大きく脅かす可能性のある国外市場(主に中国が想定されているとされる)からの通信機器購入を規制するよう商務省に指示する旨の大統領令を早ければ2019年1月に発令すべく検討していると12月27日に報じられたことで、米国株式相場が一時下落したことから、この日(12月27日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.61ドル下落し、終値は44.61ドルとなった。12月28日には、年末を控えた持ち高調整が発生したことで、米国株式相場が一時上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり45.33ドルと前日終値比で0.72ドル上昇した。

12月31日には、米国のトランプ大統領が中国の習近平主席と電話会談を実施、その中で行った貿易問題に関する協議が順調に進捗している旨12月29日に明らかにしたことで、米国及び中国の貿易紛争解決に対する期待が市場で増大したことから米国株式相場が上昇した他投資家のリスク許容度拡大で米ドルが下落したことが原油価格に上方圧力を加えたものの、12月31日に中国国家統計局から発表された12月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.4と2016年2月(この時は49.0)以来の低水準となった他、市場の事前予想(49.9~50.0)を下回ったことで、同国経済に対する懸念が市場で増大したうえ、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が12月28日までの1週間で120万バレル増加したと予想される旨の調査結果をブルームバーグ通信が12月31日に明らかにしたことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.08ドルの上昇にとどまり、終値は45.41ドルとなった。2019年1月1日には、米国の新年の休日に伴い原油先物市場は休場となったが、1月2日には、2018年12月のOPEC産油国原油生産量が前月比で日量53万バレル減少し日量3,260万バレルになったと推定される旨1月2日にブルームバーグ通信が報じたことで、1月1日のOPEC及び一部非OPEC産油国による減産開始を前にして既に原油供給水準が低下していることにより、世界石油需給がより早期に引き締まるとの観測が市場で発生したことから、この日(1月2日)の原油価格の終値は1バレル当たり46.54ドルと前日終値比で1.13ドル上昇した。1月3日も、2018年12月のOPEC産油国原油生産量が前月比で減少したと推定される旨1月2報じられたことで世界石油需給の引き締まり観測が市場で発生した流れを引き継いだことに加え、サウジアラムコが2019年2月分のアジア及び米国向けの大部分の種類の原油販売価格を引き上げた旨1月3日に報じられたことで、世界石油需給引き締めと原油価格の回復に向けサウジアラビアが本腰を入れているとの観測が市場で発生したことから、この日(1月3日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.55ドル上昇し、終値は47.09ドルとなった。また、1月4日も、この日中国商務省が1月7~8日に北京において米国との間で貿易問題に関する次官級協議を開催する旨発表したことで、当該問題による両国等の経済減速に対する市場の懸念が後退したことに加え、1月4日に米国労働省から発表された2018年12月の同国非農業部門雇用者数が前月比で31.2万人の増加と市場の事前予想(同17.7~18.4万人増加)を上回ったうえ、同日パウエルFRBが金融政策につき柔軟に対応する旨示唆したことで、同国金融当局の硬直的な金利引き上げ政策による経済成長鈍化に対する懸念が市場で後退したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり47.96ドルと前日終値比で0.87ドル上昇した。この結果原油価格は1月2~4日の3日間で併せて1バレル当たり2.55ドルの上昇となった。

1月7日には、サウジアラビアが1月末までに原油輸出量を日量710万バレルにまで減少させる(2018年10月の原油輸出量は同770万バレルとされる)予定である旨1月7日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じたことで、OPEC産油国等による減産に伴う世界石油需給引き締まり観測が市場で強まったことに加え、1月4日にパウエルFRB議長が金融政策につき柔軟に対応する旨示唆したことを市場が意識する流れを引き継いだことで、米国株式相場が上昇するとともに米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり48.52ドルと前週末終値比で0.56ドル上昇した。1月8日には、1月7~8日の予定で開催されていた米国及び中国との間での貿易問題に関する協議が順調に進捗し、1月9日も交渉を継続する旨、米国交渉団の1人である米国エネルギー省のウィンバーグ氏が1月8日に明らかにした他、同日トランプ大統領も中国との交渉は非常に順調に進展している旨表明したことで、当該交渉に対する楽観的な見方が市場で広がったことに加え、1月9日にEIAから発表される予定である同国石油統計(1月4日の週分)で原油在庫が減少しているとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.26ドル上昇し、終値は49.78ドルとなった。 また、1月9日も、米国と中国との間での貿易問題を巡る次官級協議終了後、中国が米国産農産物及びエネルギー等の購入を拡大すると約束した旨1月9日に米国通商代表部が声明を発表したことで、当該協議が進展したことにより、両国間で貿易問題解決に向けた期待感が市場で増大したうえ、1月9日にサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、同国の2月の原油輸出量が日量710万バレルと1月の同720万バレルから減少する予定である旨明らかにしたことで、OPEC産油国等の減産による世界石油需給引き締まり感を市場がより強く意識したことに加え、1月9日に米国シカゴ連邦準備銀行のエバンズ総裁等が経済を巡るリスクを検討するために2019年前半は金利引き上げに関して様子見とする余地がある旨示唆した他、同日発表されたFOMC議事録(12月18~19日開催分)で、多くの委員がさらなる金融引き締め政策に関して慎重である姿勢を示していた旨明らかになったことで、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり52.16ドルと前日終値比で2.38ドル上昇した。1月10日も、米国の物価が安定していることもあり、FRBは辛抱強い(つまり金利引き上げを踏みとどまる)金融政策を実施することができる旨同日パウエルFRB議長が発言したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.23ドル上昇し、終値は52.59ドルとなった。この結果原油価格は1月7~10日の4日間で併せて1バレル当たり4.63ドル上昇した。1月11日には、2019年の中国国内総生産(GDP)増加率目標を6.0~6.5%と2018年のそれ(6.5%前後)から引き下げることを中国政府が検討している旨1月11日にロイター通信が報じたことで、同国石油需要の伸びの減速に対する不安感が市場で増大したことに加え、これまでの上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことで、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.00ドル下落し、終値は51.59ドルとなっている。

3.今後の見通し等

12月18日には、イエメン西部の港湾都市ホテイダを巡るハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力間での停戦が発効し、概ね遵守されていると国連のグリフィス事務総長特使は同日明らかにしている。また、イエメンで戦闘していた両勢力が捕虜名簿(約8,000人ずつ)を交換した旨、12月19日に赤十字国際委員会が明らかにした。12月21日には、イエメンのハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力との間での和平合意を国連安全保障理事会が承認するとともに、英国が取り纏めた国連主導の停戦監視団の先遣隊の派遣を趣旨とする停戦監視決議を採択した。しかしながら、2019年1月10日には、フーシ派武装勢力が同国南部のハディ暫定大統領派勢力の保有する軍事拠点をドローンで攻撃した結果、少なくとも4名が死亡した。これに対しハディ暫定大統領派勢力のイリヤーニ情報相は当該攻撃を非難する旨表明したと1月10日に伝えられる。

2019年1月3日に、米国のポンペオ国務長官は、イランが核兵器を搭載できる大陸間弾道ミサイルと同等のミサイルの発射を数ヶ月以内に実施する方針(1月5日には、イラン宇宙機関関係者が、2基の衛星打ち上げのための発射準備が整った旨明らかにしている他、1月10日には今後数週間以内に当該ロケットを打ち上げる旨ロウハニ大統領が発表している)であり、これは当該ミサイルの発射を禁止した国連安全保障理事会決議から逸脱しているとして非難した。これに対し、イランのザリフ外相は当該決議から逸脱していない旨1月3日に反論している。他方、フランスのパリ郊外でのイラン反体制派への攻撃未遂事件(イラン反体制派の会合において爆弾攻撃を計画していた2名をベルギー当局が2018年6月30日に拘束)及びデンマークでのイラン反体制派組織構成員暗殺計画(イラン情報当局が反体制派組織構成員の暗殺を計画していたとして、2018年10月21日にイラン系ノルウェー人を逮捕した旨10月30日にデンマーク治安当局が発表)等に対し、1月8日に欧州連合(EU)はイラン情報省職員1名の他イラン政府高官1名に対しEU域内での資産凍結を内容とする制裁を科すことで合意した旨発表、1月9日には当該制裁を発動した。

リビアでは、同国最大の油田であるSharara油田(原油生産量日量31.5万バレル)が12月8日に武装勢力により占拠されたことにより、当該油田で生産される原油の輸出に関し12月10日に不可抗力条項の適用を宣言した他、同油田からの原油生産に関しても不可抗力条項の適用が宣言されたと12月18日に伝えられる。12月24日には同国国営石油会社NOCのサナラ会長と同国統合政府のシラージュ首相が、当該油田関連施設において緩衝地帯を設けることにより、許可のない人の立ち入り禁止を徹底する等安全をより確保する方策を講ずることで合意した。この安全確保策が有効に機能すれば、油田操業を再開する用意がある旨サナラ会長は明らかにしている。他方、12月25日にはリビアの首都トリポリの同国外務省で自爆テロが発生し少なくとも2名が死亡している(同日ISが犯行声明を発表している)。

12月13日には、ベネズエラ国営石油会社PDVSAと中国国営石油会社CNPCの合弁で運営するSinovensaの操業する油田での原油生産量が過去7ヶ月間で倍増し日量13万バレルに到達した旨Sinobensaが発表した。他方、ExxonMobilがガイアナ沖で石油開発に関する調査を実施していたところ、ベネズエラ海軍の軍艦により事実上妨害されたとして、12月22日にガイアナ外務省はベネズエラの行為を批判する旨の声明を発表しているが、ベネズエラは12月23日に調査船がベネズエラ領海内に侵入していたと反論している。12月26日にはExxonMobilは当該鉱区での探鉱・開発作業への影響はない旨表明しているが、当該調査作業自体は再開していない旨1月10日にガイアナのグリーニッジ外相が明らかにしている。他方、1月8日に米国財務省は、ベネズエラ政府の元高官等7名の個人と政権系報道機関等23団体に対し、大規模な汚職事件に関係していたとして、制裁対象とした旨発表したが、1月10日にはベネズエラのマドゥロ大統領の2期目(任期6年)の就任式が実施されている。

地政学的リスク要因面では、当面イラン、リビア及びベネズエラ等の状況が重要なものとして挙げられよう。イランについては、11月5日に発動された同国に対する事実上の原油輸出制限(事実上の原油輸出認可量等具体的な内容については非公表となっている)実施以降、同国産原油を輸入する諸国が実際にタンカーや保険等の体制を整えることを通じ、どの程度輸入することができるか、ということが市場の注目するところとなろう。イラン産原油を輸送するタンカー等追跡データに基づくイランからの原油輸出量が制裁発表前のそれ(コンデンセートを含め日量250万バレル程度)に比べ、それほど制限されていない(中国やインドについては、制裁前のイランからの原油輸入水準の半分かそれ以上の輸入を認められていると伝えられるところからすると、例えば制裁前の輸出量の半分程度かそれ以上の量を輸出出来ている)ということであれば、市場でのイラン原油供給低下懸念はひとまず抑制されるものと考えられる。しかしながら、イラン産原油輸出が事実上大幅に制限されている旨示唆されるようなデータ(つまり制裁前の輸出量の半分未満)が明らかになるようだと、世界石油需給引き締まり感が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力を加えるものと思われる。因みに2019年の1月のイランの原油輸出は減少する見込みである(同月の原油輸出量は日量90万バレル程度と見る向きもある)と1月10日に伝えられているところからすると、今後市場関係者の石油需給引き締まり観測が強まることにより、原油相場は少なくとも下支えされるか、他の要因と組み合わされば原油相場が上昇するといった場面が見られやすいものと考えられる。リビアについては、NOCがSharara油田につき現地の武装勢力等が施設を占拠したことを理由に原油生産につき不可抗力条項の適用を宣言したと12月18日に伝えられる。その後同油田においては、安全対策を講じることで12月24日にNOCのサナラ会長と統合政府のシラージュ首相が合意したが、現時点(1月12日)では同油田が操業を再開するとともに不可抗力条項の適用が解除されたとの情報は入っていない。また、同油田のみならず、他の油田及び石油ターミナル等の施設において依然武装勢力等が当該施設を占拠する結果それら施設の操業に支障が生ずるとともに同国の原油生産が低下する(石油ターミナルが占拠され操業を停止すれば出荷が滞るため、パイプラインでターミナルに繋がる油田での原油生産を継続すれば、やがてターミナルでの原油貯蔵施設が満杯になるため、油田での原油生産もいずれ停止せざるを得なくなる)といった可能性も残っている。このようなことから、Sharara油田での操業再開の目途が立てば、一時的に原油相場に下方圧力が加わる可能性はあるものの、少なくとも同国政情が安定するまでにはなお時間を要する他、その過程が紆余曲折を経るといった展開も考えられることから、少なくともこの面では継続的に原油相場に下方圧力を加えると考えにくく、むしろ武装勢力等の活動により油田の操業等が脅かされるようだと原油相場が上昇する場面が見られることも否定できない。また、ベネズエラにおいても、以前ほどのペースではない(Sinovensaの増産が多少なりとも寄与している可能性がある)にせよ原油生産量は徐々に減少しつつあることから、この面では、原油相場の下落を抑制する方向で作用しうるものであると考えられる。

2019年1月7~9日(当初は1月7~8日であったが1日延長)には、米国及び中国との間で貿易紛争に対する次官級協議が開催された。また当該協議に先立ち、12月29日には米国のトランプ大統領が中国の習近平主席と電話会談を実施、貿易問題に関する交渉は順調に進んでいる旨同日トランプ氏は明らかにしている。また、12月18~19日には米国連邦公開市場委員会が開催され、金利がそれまでの2.00~2.25%から2.25~2.50%へと引き上げられたうえ、2019年においても2回の金利引き上げを想定する旨示唆されたが、1月4日にFRBのパウエル議長は、今後の金利政策については柔軟に対応していく旨表明した。このようなことから、米国及び中国との間での貿易問題を巡る対立の激化、及び米国の金利引き上げ継続に伴う、米国をはじめとする諸国の経済減速と株式相場下落、そして石油需要の伸びの鈍化に対する市場での懸念増大による原油相場の下落はひとまず落ち着いている。ただ、1月9日の協議終了後発表された両国の貿易協議に関する声明には中国が米国製製品等の購入拡大を行う旨約束したということ以外具体的詳細内容が明らかになっていないところからすると、両国が課す関税の完全な撤廃を含めた問題の解決に向けては、なおそれなりの時間を要する他議論が複雑化する場面が見られる可能性もある。そして関税撤廃が決定し実行されるまでは既存の関税は課され続けることにより、この面では引き続き両国経済成長に対し足枷となることから、2019年1月に入り多少持ち直した米国等の株式相場の回復とともに、石油需要に対する市場の懸念の後退が継続するかどうかについては、なお微妙なところであり、既に米国では景況感等一部経済指標類が市場の事前予想を下回るなど、同国の経済成長が減速する兆候を見せていることと併せると、米国等の株式相場に伴う原油価格については、なおある程度回復することはありえても、力強くかつ持続的な上昇傾向の形成は短期的にはそれほど大きな期待はできないものと考えられる。また、2019年1月に入り主要米国企業の2018年10~12月期業績等が発表され始めているが、この動きは今暫く継続することから、今後発表される企業業績や今後の業績見通しの内容が米国経済に対する市場の見方を左右するとともに、それが株式相場に反映されることを通じ原油相場にその影響が織り込まれる可能性があるが、それら業績や業績見通しは2018年後半の米国及び中国の貿易紛争を部分的にせよ反映したものになると見られることから、良好なものはならない可能性があり、それらによって米国株式相場が下落するとともに原油相場もその影響を被るといった展開となりうることも想定される。

他方、英国のEU離脱に関する移行措置合意期限である3月29日を控え、1月15日には、英国政府がEUと合意した離脱措置案につき決議する方針である旨英国下院議会が1月7日に明らかにしたと同日報じられる。この決議が同国議会可決されれば、とりあえず英国の移行措置なしのEU離脱による、英国及びEU諸国の経済混乱は回避されることから、株式相場が持ち直すとともに、ユーロ及び英ポンドが上昇する反面米ドルが下落、その結果原油相場には多少なりとも上方圧力が加わるものと考えられるが、英国のEU離脱を巡っては英国内で複数の意見が対立しており、仮に否決された場合には移行措置なしの離脱と英国及びEU諸国での経済混乱の発生がより現実味を帯びるため、株式相場が下落するとともに、ユーロ及びポンドが下落する反面米ドルが上昇、そして原油相場に下方圧力を加えるといった展開となることも予想されるため、英国等の動向についても注意する必要があろう。

中国でも製造業を中心に景況感等の指標類で同国経済が減速しつつあることを示唆しており(米国及び中国の貿易紛争の影響が一因と見られる)、懸案となっている米国と中国間の貿易問題が直ちに全て解決するとは考えにくいことから、今後発表されるPMI等の内容によっては、中国経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する不安感が市場で増大する結果、原油相場に下方圧力を加えるといった場面が見られる可能性もある。

米国では1月後半以降も最終消費段階では冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期はなお続く(暖房シーズンは概ね11月1日から翌年3月31日までである)ものの、製油所の段階では、既にある程度暖房用石油製品の生産が終了しつつあり、むしろ間もなく春場のメンテナンス作業時期に突入することで、その時期に向け稼働を引き下げ始めるとともに、原油の購入を不活発にしてくる。このため、原油に対する需要がこの先低下するとの観測を含め、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなることから、この面で原油相場に下方圧力が加わる可能性がある。ただ、暖房用石油製品需要の中心地である米国北東部において平年を割り込む気温が継続したり、また平年を割り込む気温の予報が発表されたりすると、一時的であれ、市場での暖房油需給の引き締まり感の醸成から、暖房油価格、そして原油価格が上昇する場面が見られることもありうる。また、米国のシェールオイルを含む原油生産状況及びその見通し、そして同国での石油坑井掘削装置稼働数等についても、市場が注目するものと考えられる。米国のシェールオイル等の開発・生産にとって採算を確保できるような原油価格はWTIで1バレル当たり50ドル前後とされていることから、それを大きく下回るようだと、時間差はあってもいずれ同国の石油坑井掘削装置稼働数や原油生産に影響を及ぼし始めるとの認識が市場に存在するうえ、1月7日にはサウジアラビアが2019年2月には原油輸出量を日量710万バレルとする(2018年10月は同770万バレル)など、OPEC産油国の減産目標(日量80万バレルの減産)の大半の量に相当する同60万バレル程度の供給削減を予定していると報じられていることと併せ、例えばWTIで1バレル当たり45ドルを割り込むような展開となったとしても、石油需給の引き締まり観測が市場で再認識される結果、原油価格はそのような領域での水準を持続しにくく、むしろ反発しやすくなるものと考えられる。

全体としては、サウジアラビアが原油輸出量を削減する姿勢を示している旨伝えられる他、仮に原油価格が大きく下落してしまえば、米国のシェールオイルを含む石油開発・生産活動が鈍化することから、原油価格が大幅に下落する可能性はそれほど高くはないものと考えられる他、仮に下落したとしても、大幅に低下した水準(概ねWTIで1バレル当たり45ドルを割り込む水準)は持続しにくいものと考えられる。他方、原油価格を上昇させる潜在性のある要因としては、イランの原油輸出状況や、リビア、ベネズエラ、及びサウジアラビアを含むOPEC産油国等による原油供給に関する情報となるであろう。もっとも、冬場の暖房シーズンに伴う石油需要期が峠を越え始めつつある中で、米国の原油生産増加観測が根強いことから、この面では原油相場で下方圧力を加えうると見られる他、原油価格が大幅に上昇(概ねWTIで60ドル超の水準)した段階では、米国のトランプ大統領によるOPEC減産と原油価格上昇への牽制の発言を市場が意識することから、大幅に上昇した価格水準もまた持続する可能性はそれほど高くないものと考えられる。そのような中で、米国株式相場(米国及び中国の貿易紛争の成り行きを含む)、米国及び中国等の経済指標類、米ドル為替レート、米国石油統計、米国石油坑井掘削装置稼働数、米国北東部等の気温等によって、原油価格が左右される場面が見られるものと考えられる。

4.過去1年間程度の世界の留出油の流れに関する考察

世界の石油製品需給は過去1年余りの期間大きな特徴が見られた。例えば、米国、欧州、及びシンガポールの留出油(軽油及び暖房油)もしくは中間留分在庫(うち大半は留出油と推測される)の在庫は平年並み水準(ここでは市場関係者が平年並み水準として認識している過去5年平均をもとに議論することとする)を軒並み下回ったうえ、前年同期を下回る状態となるなど、需給が引き締まり気味となった(シンガポールにおいては12月に入って以降は過去5年平均及び前年同期を上回るなど、在庫は回復する傾向を見せているが、これについては後述)。このような世界的な留出油需給の引き締まりはどのような要因によってもたらされたのか等につき、ここで考察することとしたい。

概ね2017年の1~8月においては、米国、欧州、及びシンガポールにおいては留出油(もしくは中間留分)在庫は平年水準を超過しており、また前年同期ではほぼ同水準か若干低い程度であった。変化が見られ始めたのは2017年8月下旬以降である(図16及び17参照)。この時期にハリケーン「ハービー(Harvey)」が米国メキシコ湾岸地域に来襲した。もっともこれはメキシコ湾沖合の油田地帯はかすめるようにして通過したことから、同国の原油生産に対する影響は限定的であった(図18参照)。しかしながら、メキシコ湾岸地域の石油精製の中心地域(コーパス・クリスティ、ヒューストン、ポート・アーサー等)をほぼ直撃する格好となったことから、これらの地域に位置する製油所が冠水等で操業を停止、その規模は最大で日量327万バレルと同国の原油精製処理能力(当時日量1,832万バレル)の18%弱を占めるに至った(この数字は完全に操業を停止した製油所の精製能力であり、ハリケーンの来襲に伴う部分的な製油所での操業削減は含まれていない)。そしてハリケーン来襲に伴う製油所の操業停止に加えその他の製油所での操業不具合もあり、2017年8月25日には日量1,773万バレル(そしてこれは1982年後半以降の週間統計史上最高水準)であった原油精製処理量も9月1日には同1,447万バレルと325万バレル減少、そして9月8日には1,408万バレルと8月25日の水準に比べ365万バレルの減少、即ちこの分だけ石油製品の生産に支障が発生することになった。そして、2018年9月は米国の製油所でガソリン生産が前月比で日量39.8万バレル減少するとともに留出油の生産も同48.4万バレルの減少となった。

図16 米国留出油在庫(2016~19年)

図17 欧州中間留分在庫(2016~18年)

図18 ハリケーン「バービー」来襲時の製油所及びメキシコ湾沖合油田生産停止状況(2017年)

ハリケーン「ハービー」の米国の製油所の操業への影響は10月上旬頃まで続いたため、この間はガソリン及び留出油を含む石油製品生産に影響が発生し続けた。その後これらの製油所での石油製品生産は回復したが、他方で、米国メキシコ湾岸でハリケーンの影響を受けなかった製油所が秋場のメンテナンス作業を実施したことから、その分だけ製油所での稼働が低下するとともに石油製品生産も制限されることになった。そのうえ、秋場は米国では中西部を中心として穀物等農産物の収穫シーズンであり、そのための農機具向け軽油需要が盛り上がる時期でもあった。また、欧州でも秋場の製油所のメンテナンス作業が実施されたことにより石油製品生産活動が抑制され、当該地域での軽油を含む中間留分需給の引き締まり感が市場で発生した結果、例えば米国と欧州との間での軽油価格差(この場合通常欧州の軽油価格が米国のそれを上回っている)が2017年8~10月に多少なりとも拡大したこと(図19参照)もあり、同年10~12月においては、米国からの留出油輸出がそれなりに堅調となった(図20参照)。このため、ハリケーン「ハービー」による米国メキシコ湾岸地域での製油所での操業停止等による石油製品供給への影響を解消できないままとなった。さらに、2017年11月~2018年1月頃には米国の暖房用石油製品(主に軽油及び暖房油である)需要の中心地である北東部ではしばしば気温が平年を割り込むほど冷え込んだことから、当該地域での暖房用石油需要も盛り上がることとなった。このようなこともあり、米国での留出油在庫は2017年末にかけ減少傾向になったうえ、平年水準も大きく下回ることとなった。ただ、米国の留出油在庫低迷により国外に向けた留出油の輸出余力が低下するとともに、欧米間での軽油価格差が縮小したこともあり、2018年1~3月にかけては当該製品輸出量が低迷した(但し米国からメキシコへの留出油輸出は比較的維持されており、これはメキシコでそれなりの程度の経済成長が達成された一方で、精製部門への投資不足で製油所の老朽化が進んだ結果、留出油の生産が低下したことが一因であるものと考えられる)。また、在庫水準低迷により、かえって軽油価格が上昇するとともに米国での軽油精製利幅が拡大、同国での軽油生産活動が活発化したことから、2018年においては、一時同国の留出油在庫が増加するとともに平年並みの水準近くにまで回復する場面も見られたが、春場の穀物等作付け時期到来伴う農機具向け軽油需要、そして、秋場の収穫時期に伴う軽油需要、さらには経済が比較的堅調なことによる物流向け等の軽油需要(2017年9月27日に米国のトランプ大統領は法人税の減税(35%から21%へ)を発表した(実施は2018年1月1日)こともあり、企業業績が向上するとともに株式相場も上昇、物流活動等が活発化するとともに、軽油の需要が堅調な伸びを示した)、製油所の春場及び秋場のメンテナンス作業時期突入に伴う留出油等の石油製品生産活動の鈍化等の影響を受け、留出油在庫は平年幅(過去5年幅)下限付近の水準にまで減少するといった場面もしばしば見られている。

図19 欧米経由価格差(2017~18年)(欧州価格―米国価格)

図20 米国留出油輸出量(2017~18年)

欧州では前述の通り米国から留出油を輸入していたが、ハリケーン「ハービー」による製油所の稼働低下と軽油等石油製品生産活動への支障により、米国から欧州への留出油の輸出が抑制された結果、留出油を含む中間留分在庫が減少し始めた。この結果、例えば欧州での軽油価格が米国のそれを上回る程度が拡大したことから、多少なりとも、米国から欧州への留出油の輸出は拡大した。しかしながら、米国でのハリケーン「ハービー」の製油所の操業に対する影響が10月上旬頃まで継続したうえ、その後米国の他の製油所が秋場のメンテナンス作業に突入し、稼働と石油製品生産活動が低迷したこと、欧州でも製油所が秋場のメンテナンス作業に突入したこともあり、稼働が低下するとともに石油製品生産活動が低下したこと、加えて、2017~18年の冬場に入り米国北東部でしばしば気温が平年を割り込むほど冷え込んだことから、同国の留出油需要が堅調に推移したこともあり、欧州の軽油価格の米国のそれを上回る幅が縮小したことから、それが米国から欧州方面への留出油輸出を抑制する格好となった。このようなことに加え、欧州でも2017~2018年の冬場においては一部地域で気温が平年を下回るなど冷え込んだことから、留出油等の暖房用石油製品需要が刺激された結果、欧州での留出油を含む中間留分在庫が減少、平年水準を割り込んだ状態となった。そして中間留分在庫水準低迷により、例えば欧州での軽油価格が米国のそれを上回る程度が拡大したこともあり、欧州の米国からの留出油輸入は2018年4月以降多少持ち直したものの、それによる欧州での中間留分需給引き締まり感が後退したことが、かえって軽油価格を相対的に抑制するようになった結果、それまで欧州地域への流入が比較的活発化していたロシア、中東、及びインドを含むアジア諸国からの留出油の流入が減速することにより、相殺される格好となった(図21参照)。その結果、欧州での留出油を含む中間留分在庫はそれほど回復しない状態となっている。

図21 欧州の留出油輸入(2017~18年)

このように、欧米諸国での留出油需給の逼迫感の強まりにより、欧州での軽油価格がアジアでのそれを相当程度上回ったことから、インド方面から欧州方面に留出油が流出した分だけ、例えばシンガポールでの中間留分在庫の増加を抑制した結果、同国での当該在庫も2018年初以降11月までほぼ恒常的に平年水準を割り込む状態となった。このように2017年のハリケーン「ハービー」をきっかけとして、複数の要因が重なった結果、2018年の大半の期間は世界的な留出油需給の引き締まり感が市場で発生していたということができそうである。現在でも欧米諸国は引き続き留出油もしくは留出油を含む中間留分需給は引き締まったままと見受けられるが、シンガポールにおいては、2018年12月には中間留分在庫が平年水準を超過するようになってきていることから、アジア地域においては多少なりとも当該需給の引き締まり感は後退してきているようであるが、これは中国が概ね2018年11~12月の期間につき留出油輸出枠を設定したこと(前述)に伴い、同国からアジア諸国方面へ当該製品が輸出されていることによると見られるが、その背景として中国での留出油石油需給の緩和の度合いが拡大していることによると見る向きもある。

以上

(この報告は2019年1月15日時点のものです)

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