ページ番号1007723 更新日 平成31年3月14日
原油市場他: 米国の対ベネズエラ制裁に伴う原油供給減少懸念等による上方圧力と、経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念等による下方圧力に、挟まれる原油価格
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
概要
- 米国では、製油所での春場のメンテナンス作業時期に突入しつつあったことから、稼働が低下するとともに原油精製処理量が減少した一方、国内原油生産が維持されたことから、原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過したままとなっている。他方、ガソリンは不需要期であったこともあり在庫は増加傾向となり平年幅上限を上回る状態は継続している。留出油については同国北東部での気温が低下したことで暖房向け需要が堅調となったこともあり留出油在庫は減少傾向となったものの平年幅上限付近に位置する量となっている。
- 2019年1月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、日本では減少した。他方、製油所での原油精製処理活動低下もあり米国では原油在庫は増加した他、冬場の暖房シーズン到来に伴い暖房油需要が季節的に盛り上がる中当該製品生産に伴う精製利幅が堅調に推移したこともあり、原油精製処理活動の活発化を見込んで旺盛に原油輸入が行われたと見られることから、欧州でも在庫は増加した。従ってOECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅を超過する状態は継続している。石油製品については、米国ではガソリン在庫の増加が冬場の暖房向け需要増加に伴うプロパン/プロピレン在庫の減少で相殺されたことから、石油製品在庫全体としては若干の増加にとどまった他、欧州でも在庫は微増となった。ただ、日本では、冬場の暖房シーズン到来で灯油等の在庫が減少したこともあり、石油製品全体の在庫水準は低下した。この結果、欧米での在庫増加を日本での減少で相殺して余りあったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は減少となり、平年並みの量となっている。
- 2019年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場では、米国がベネズエラに対し原油輸出制限等を内容とする制裁を発動したことによるベネズエラからの原油供給減少懸念が市場で増大したことに加え、サウジアラビアが積極的な原油供給の削減方針を表明したこと、米国に寒波が来襲したことに伴い暖房油価格が上昇したこと等が、原油価格に上方圧力を加えた反面、国際通貨基金(IMF)等による世界経済成長見通しの下方修正等が、原油価格に下方圧力を加えた中で、米国経済指標類、米国及び中国との間での貿易協議に関する動向等が原油相場を変動させた結果、WTIは1バレル当たり概ね50ドル台前半を中心とする領域で推移した。
- 短期的には、冬場後半の季節的な石油需給の緩和感に加え、米国のトランプ大統領の原油価格上昇を牽制する発言、そして経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が原油相場の上昇を抑制する反面、ベネズエラ等の地政学的リスク要因に加えOPEC産油国等の減産に伴う石油需給の引き締まり観測が原油価格の下落を抑制するものと考えられる。そのような中で、米国及び中国との間での貿易問題を巡る交渉の進捗状況、米国の足元の原油生産状況等が原油相場を左右していくものと考えられる。それでも、3月に入ると夏場のガソリン需要期到来による石油需給引き締まり観測が市場で発生することで、相対的に原油価格に上方圧力が加わりやすくなるものと思われる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2018年11月の米国ガソリン需要(確定値)は日量924万バレルと前年同月比で1.4%程度の増加となっており(図1参照)、速報値(前年同月比で0.0%程度減少の日量911万バレル)からは上方修正されている。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.736ドルと前年同月比では0.058ドル(約2.2%)割高となったものの、前月比では0.207ドル(約7.0%)下落したため、当該需要が刺激されたものと考えられる。また、2019年1月の同国ガソリン需要(速報値)は日量899万バレル、前年同月比で2.8%程度の増加となっている。2018年12月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.457ドルと前年同月を0.137ドル(約5.3%)下回ったうえ、前月(同2.736ドル)から0.279ドル(約10.2%)下落、消費者にとってガソリン小売価格の割高感が広がる1ガロン当たり3ドルから相当程度離れた他、12月後半は米国北東部で気温が上昇してきたにもかかわらず、同月のガソリン需要(速報値)が前年同月比で2.4%程度の減少となったことへの反動が、2019年1月に現れている側面があるものと見られる。他方、2019年1月に入り米国の製油所では冬場の暖房用石油製品生産活動が峠を越え始め、一部の製油所で春場のメンテナンス作業を開始したことから、稼働が低下するとともに原油の精製処理量も減少傾向となった(図2参照)。このため、同国のガソリン製造活動も鈍化した(最終製品生産量は図3参照)ものの、ガソリンの需要も低迷していた(例年1月は季節的にガソリン需要が抑制気味である)ことから、ガソリン在庫は1月上旬から2月上旬にかけては、概して増加傾向となり、2019年1月19日には2.60億バレルと1990年1月以降の同国週間ガソリン在庫統計史上最高水準に到達した他、平年幅上限を超過する状態も維持されている(図4参照)。
2018年11月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量426万バレルと前年同月比で2.5%程度の増加となったうえ、速報値である日量415万バレル(同0.3%程度の減少)から上方修正されている(図5参照)。2018年11月の米国の鉱工業生産が前年同月比で4.5%程度伸びており、同月の同国の物流活動も同5.4%拡大していることに加え、11月は中旬及び下旬において気温がほぼ継続的に平年を下回ったうえ、前年同月に比べても寒冷となったことから、暖房向け需要が喚起されたと見られることが留出油需要増加の背景にあるものと考えられる。また、2019年1月の留出油需要(速報値)は日量433万バレルと、前年同月比で1.4%程度の減少となった。1月の鉱工業生産が前年同月比で3.8%増加した他、同月の同国非農業部門雇用者数が前月比で30.4万人の増加と2018年2月以来の大幅な伸びを記録するなどしたものの、2018年10~12月の株式相場の大幅下落等による景況感の悪化もあり、2018年12月の米国小売売上高は前年同月比で2.3%の伸びにとどまり(因みに2018年1~11月の小売売上高は前年同月比で3.9~6.6%の伸びであった)他、同国の物流活動も前年同月比で1.4%の増加にとどまった(因みに2018年1~11月の物流活動は前年同月比で5.2~8.9%の伸びであった)ため、消費者の購買意欲の低下により物流向け軽油需要が2019年1月にかけ影響を受けたことが、同月の米国北東部の気温がしばしば平年を下回るなど冷え込んだ(特に1月最終週は極渦(Polar Vortex)の到来に伴う寒波来襲により米国北東部は大きく冷え込んだ)ことにより旺盛となった暖房用需要に対抗した結果、留出油需要が伸び悩んだものと見られる。他方、米国の製油所の稼働が低下するとともに留出油生産活動が鈍化してきた(図6参照)ことから、2019年1月上旬から2月上旬にかけ留出油在庫は減少傾向となったが、2月上旬時点では平年幅上限付近に位置する量となっている(図7参照)。
2018年11月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で2.9%程度増加の日量2,089万バレルとなった(図8参照)。ガソリン、留出油、プロパン/プロピレン、及びその他の石油製品の需要増加が石油需要の伸びを牽引している格好となっている。ただ、その他の石油製品の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正された(速報値は日量441万バレルであったが確定値は同398万バレル)ことにより、当該需要は速報値(日量2,115万バレル、前年同月比4.2%程度の増加)から下方修正されている。プロパン/プロピレンについては米国北部の気温が平年を下回って低下気味となった他前年同月よりも冷え込んだことから暖房向け需要が発生したと見られる他、その他の石油製品の需要については、特にエタンの需要が前年同月比で9.4%(日量13万バレル)程度伸びているが、これは、2018年7月26日にExxonMobilがテキサス州ベイタウン(Baytown)で年産150万トンのエチレン製造装置の操業を開始していることに伴いエタン需要が増加していることが一因となっている可能性がある。他方、2019年1月の米国石油需要(速報値)は、日量2,110万バレルと前年同月から3.1%程度増加した。ガソリン及びその他の石油製品の需要増加が石油製品全体の需要の伸びに寄与している格好となっている。その他石油製品の需要の増加はExxonMobilのエチレン製造装置の操業開始に伴うエタン需要増加が一因となっている可能性があるが、当該需要は日量411万バレルと2017年12月~2018年11月の当該需要(確定値)である同346~426万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正されることを通じ同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。また、製油所での稼働が低下するとともに、原油精製処理量が減少し始めたことから、2019年1月上旬から2月上旬にかけ原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、留出油在庫が平年幅上限付近に位置する量となっている一方で、原油及びガソリンの在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2019年1月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、日本では製油所での原油精製処理量の増加に伴い原油在庫が減少している。他方、製油所の稼働低下による原油精製処理量減少により米国では原油在庫が増加した他、大西洋圏での冬場の暖房シーズン到来に伴い暖房油(軽油)の需要が季節的に盛り上がる中、2017年後半以降継続する欧州での低水準の留出油在庫により当該製品の精製利幅が堅調に推移したこともあり、欧州では原油精製処理の活発化を見込んで旺盛に原油輸入が行われたと見られることから原油在庫は増加した。結果としてOECD諸国全体では、日本の原油在庫減少を欧米での在庫増加で相殺して余りあったことから、当該在庫は増加となり、平年幅を超過する状態は継続している (図12参照)。また、石油製品については、米国ではガソリン在庫の増加が、季節的な冬場の暖房向け需要増加によるプロパン/プロピレン在庫の減少で相殺されたことから、同国の石油製品在庫は全体としては若干の増加にとどまった。また、欧州では、概ねどの石油製品も微増もしくは微減といった範囲にとどまった結果製品全体の在庫は微増となった。ただ、日本においては、冬場の暖房シーズン到来に伴い暖房用石油製品需要が増加した結果灯油等の在庫が減少したこともあり、日本での石油製品全体の在庫水準も低下した。この結果、欧米の石油製品在庫増加を日本の減少で相殺して余りある状況となったことから、OECD諸国全体として石油製品在庫は減少となり、量としては平年並みの水準に位置している(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年並みの量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。なお、2019年1月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は59.7日と2018年12月末の推定在庫日数(59.6日)から微増となっている。
1月9日に1,500万バレル台半ば程度の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、1月16日は1,500万バレル台前半の量にまで減少した。しかしながら、1月23日及び1月30日には1,500万バレル台後半、2月6日には1,600万バレル台強の量へと増加したうえ、2月13日には1,600万バレル半ば程度と同統計史上最高の水準に到達した。そして、当該在庫量は継続的に前年を超過しているうえ、過去5年平均も上回っている。中国が概ね2018年11~12月の期間につき204万トン(推定1,724万バレル)のガソリン輸出枠を設定したこと(2018年10月26日及び11月27日等に報じられる)で同国からアジア市場に輸出された当該製品(同国ガソリン需要が伸び悩んだ(経済減速が影響を及ぼしていると見られる他12月に入ってからは気温の低下で乗用車を利用した外出が手控えられていたと見る向きもある)結果当該製品需給が緩和していることがガソリン輸出を促進させているとの指摘もある)が2019年1月に入りシンガポールに輸入されたことが在庫増加の背景にあると見られる。ただ、その結果、このような在庫の増加が、アジア市場でのガソリン価格を抑制したことうえ、特に2月に入ってからはドバイ原油価格の上昇にガソリン価格のそれが追い付かなかったことから、1月中旬から2月中旬にかけてはドバイ原油価格がガソリン価格を上回る状態が続いた(従来はガソリン価格が原油のそれを大部分の場合上回っていた)。
ナフサについても、大西洋圏でのガソリンの需給緩和に伴い、ガソリン製造の際に混入されるナフサの需要が低下したことから、ナフサの需給も緩和、余剰となったナフサがアジア諸国方面に流入してきたことが、ナフサ価格を抑制した結果、1月中旬から下旬前半頃にかけ当該製品価格とドバイ原油価格の差(この場合ナフサの価格がドバイ原油のそれを下回っている)は拡大する傾向が見られた。そして、その後は、2019年1月に入り視界の低下や強風等でトルコのボスポラス海峡を通過する船舶の航行にしばしば支障が発生した結果ロシアから出荷されるナフサのアジアでの到着が遅延するとの観測が市場で発生した他アジア諸国での製油所の春場のメンテナンス作業実施により石油製品生産が鈍化するとの見方が市場で増大したことが一因となりナフサとドバイ原油価格との差が縮小する場面が見られたものの、原油価格の上昇にナフサのそれが追い付かなかった場面が見られたこともあり、2月に入ってからも総じて価格差は拡大したままの状態となっている。
1月9日には1,100万バレル台前半の量であったシンガポールの中間留分在庫は、1月16日には1,200万バレル台半ば程度の量へと増加、1月23日も1,200万バレル台半ば程度の量であったが、1月30日には1,100万バレル台後半の量、2月6日及び13日には1,100万バレル台半ば程度の量へ減少している。このようにシンガポールの中間留分在庫は概ね限られた範囲で変動した。中国が概ね2018年11~12月の期間につき189万トン(推定1,410万バレル)の留出油輸出枠を設定したこと(2018年10月26日及び11月27日等に報じられる)に伴い、同国からアジア諸国方面へ輸出された当該製品(中国での留出油石油需給が緩和していることが背景にあると見る向きもあるが、これは、同国経済の減速が関係している可能性がある)が2019年1月に入りシンガポールに流入してきていることに加え、韓国からも留出油が流入した(国内経済減速に伴い軽油需要が抑制されつつあることが同国の当該製品輸出に影響している可能性がある)ことが、シンガポールでの在庫を増加させた一方で、欧州での気温低下による暖房用留出油需要の増加に伴う当該地域での需給の相対的な引き締まり感の発生でアジアからアフリカや欧州方面に留出油が流出していると見られることがシンガポールでの留出油在庫を抑制している格好となっていることが背景にあるものと考えられる。そして1月上旬から中旬にかけシンガポールでの中間留分在庫が増加を示したことに加え、原油価格の上昇に製品価格のそれが追い付かなった場面が見られたことから、例えばアジア市場での軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は1月上旬から下旬にかけ縮小傾向を示したが、その後はシンガポールでの中間留分在庫が減少したことに加え、アジア諸国での製油所の春場のメンテナンス作業実施に伴いこれら諸国の国外への輸出が減少するとともに国外からの輸入が活発化する結果需給が引き締まるとの観測が市場で発生したこともあり、当該価格差は持ち直してきている。
1月9日には1,900万バレル弱の量であったシンガポールの重油在庫は、1月16日には1,800万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、1月23日には1,900万バレル台後半、1月30日には2,000万バレル台前半の量へと増加した。また、2月6日には1,900万バレル台前半の量と減少したものの、2月13日には2,300万バレルの量と相当程度増加している。12月の欧州方面等からの重油の流入に伴うシンガポールでの在庫増加観測が、かえってシンガポールの重油価格が欧州のそれを上回る度合いを縮小した結果、その後シンガポールへの重油の流入減少観測が増大、再びシンガポールの重油価格が欧州のそれを上回る度合いが拡大したことから、欧州方面から重油がシンガポールに再度流入するようになったことが背景にあるものと考えられる。そしてこのように在庫が増加傾向となったことに加え、アジア諸国での気温が総じて高めに推移したことから、暖房用電力需要が低迷したうえ、発電所においてLNGが燃料としてより利用されるようになってきていること、さらには中国での船舶用燃料消費が伸び悩んでいること(同国の経済減速が影響している可能性がある)が、当該部門での重油需要を一層抑制することになったことから、重油とドバイ原油の価格差(この場合重油価格はドバイ原油のそれを下回っている)は、1月中旬から下旬頃にかけては上下に変動しながらもどちらかと言うと拡大する傾向が見られた。しかしながら、その後は重油とドバイ原油の価格差は縮小する場面が見られているが、これは、製油所での春場のメンテナンス作業実施による石油製品生産活動の鈍化に伴う重油需給の引き締まり感が市場で意識され始めたことに加え、米国のベネズエラからの原油輸出に対する制裁に伴い、ベネズエラ産原油(重質高硫黄原油が主流である)及び重油需給の引き締まりに対する見方が市場で強まっていることが反映されている可能性がある。
2.2019年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場等の状況
2019年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場では、米国がベネズエラに対し原油輸出制限等を内容とする制裁を発動したことによる同国からの原油供給減少懸念が市場で増大したことに加え、サウジアラビアが積極的な原油供給の削減方針を表明したこと、米国への寒波来襲に伴う暖房油価格の上昇等が、原油価格に上方圧力を加えた反面、国際通貨基金(IMF)等による世界経済成長見通しの下方修正、米国原油生産増加見通し等が、原油価格に下方圧力を加えた中で、米国経済指標類、石油坑井掘削装置稼働数、そして米国及び中国との間での貿易協議に関する動向等が原油相場を変動させた結果、WTIは1バレル当たり概ね50ドル台前半を中心とする領域で推移した(図15参照)。
1月14日には、この日中国税関総署から発表された2018年12月の同国貿易統計で輸出が前年同月比で4.4%の減少と2016年12月(この時は同6.2%の減少)以来の大幅な減少率となったうえ市場の事前予想(同2.0~3.0%程度の増加)に反し減少していた他、輸入が同7.6%の減少と2016年7月(この時は同12.6%の減少)以来の大幅な減少率となったうえ市場の事前予想(同4.5~5.0%程度の増加)に反し減少していたことで、同国の経済成長に関する懸念が増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.08ドル下落し、終値は50.51ドルとなった。1月15日には、1月16日に米国エネルギー省(EIA)から発表される予定である同国石油統計(1月11日の週分)で原油在庫が減少しているとの観測が市場で発生したことに加え、1月15日に中国財務省が大規模な減税を実施する旨発表したことで同国経済成長に対する懸念が後退したこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり52.11ドルと前日終値比で1.60ドル上昇した。1月16日には、この日EIAから発表された米国石油統計で1月11日の週の米国のサウジアラビアからの原油輸入量が前週比で日量32万バレル減少している旨判明したうえ、同日ロシアのソロキン(Sorokin)エネルギー副大臣が4月には同国は減産目標に到達する旨発言したことで世界石油需給の引き締まり観測が市場で増大したことに加え、1月16日に発表された米国大手金融機関バンク・オブ・アメリカ及びゴールドマン・サックスの2018年10~12月期業績が市場の事前予想を上回ったうえ同日英国議会下院でのメイ内閣不信任案が否決されたことで英国のEU離脱を巡る政治的混乱に対する懸念が後退したこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日(1月16日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.20ドル上昇し、終値は52.31ドルとなった。この結果原油価格は1月15~16日の2日間で併せて1バレル当たり1.80ドル上昇した。ただ、1月17日には、1月16日にEIAから発表された同国石油統計で1月11日の週の米国原油生産量が日量1,190万バレルと前週比で日量20万バレル増加し1983年1月以降の同国週間統計史上最高水準に到達したことでOPEC産油国等による減産効果が米国の原油生産増加で相殺されるとの懸念が市場で増大した流れを1月17日も引き継いだことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.24ドル下落し、終値は52.07ドルとなった。1月18日には、この日OPEC事務局が2019年1月1日からの減産措置に参加するOPEC及び一部非OPEC産油国の個別の減産枠等の情報を発表したことでOPEC産油国等の減産遵守に向けた意欲に対する市場の期待が増大したことに加え、1月7~9日に開催された米国及び中国との間での貿易紛争に関する次官級協議で中国が今後6年間米国製製品の購入を年間1兆ドルへと大幅に拡大する旨提案していたと1月18日にブルームバーグ通信が報じたことで、米国及び中国との間での貿易紛争解決に対する楽観的な見方が市場で増大したこと、1月18日に米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で852基と前週比で21基の減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は793基と同21基の減少)となっている旨判明したことで、この先の同国原油生産増加ペースの鈍化に対する懸念が市場で増大したことから、この日(1月18日)の原油価格の終値は1バレル当たり53.80ドルと前日終値比で1.73ドル上昇した。
1月21日は、米国キング牧師誕生記念日に伴う休日により通常取引は行われなかったが、この日国際通貨基金(IMF)が発表した「世界経済見通し(WEO:World Economic Outlook)」で、2019年の世界経済成長率を3.5%と2018年10月9日に発表された前回見通し(3.7%)から下方修正されたことで、世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する不安感が市場で発生したことに加え、1月22日に発表された米国医薬品製造会社ジョンソン・エンド・ジョンソンの2019年業績見通しが市場の事前予想を下回ったうえ、米国電動工具製造会社スタンレー・ブラック・アンド・デッカーの2018年通期業績が市場の事前予想を下回ったこと、また、1月22日に全米不動産業協会(NAR)から発表された2018年12月の同国中古住宅販売件数が年率499万戸と前月の同533万戸から減少したうえ市場の事前予想(同524万戸)を下回ったことに加え、1月30~31日に予定されている中国の劉鶴副首相の訪米を前に中国側が提案していた次官級事前予備会議の開催を米国側が拒否した旨1月22日にフィナンシャル・タイムズ紙が報じたことから米国及び中国の貿易紛争を巡る協議の先行きと両国の経済情勢に対し悲観的な見方が市場で広がったこともあり1月22日の米国株式相場が下落したこと、1月22日にEIAから発表された「掘削生産性報告(DPR:Drilling Productivity Report)」で、2月の米国主要7シェール地域の原油生産量が前月比で日量6.3万バレル増加するとの見通しをEIAが明らかにしたことで米国原油供給増加に伴う世界石油需給の緩和感を市場が意識したことから、この日(1月22日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.23ドル下落し、終値は52.57ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2019年2月渡し原油先物契約は取引を終了したが、3月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり53.01ドル(前日終値比1.57ドルの上昇)であった)。1月23日の原油価格の終値は1バレル当たり52.62ドルと前日終値比で0.05ドル上昇したが、2019年3月渡し同士では前日終値比0.39ドルの下落であった。これは米国大統領経済諮問委員会(CEA)のハセット委員長が3月末まで米国の一部政府機関の閉鎖が継続した場合には2019年第一四半期の米国経済成長率がゼロとなる可能性がある旨の見解を披露したことで同国石油需要の伸びの鈍化への懸念が市場で増大したことに加え、1月23日にフランスのルドリアン外相が米国の制裁を回避する格好での欧州諸国のイランからの輸入システムを近いうちに始動させる旨明らかにしたことでイランから欧州諸国への原油輸出が増加するのではないかとの観測が市場で発生したことによる。ただ、1月23日に米国のトランプ大統領がベネズエラのマドゥロ大統領に反対するグアイド国会議長を暫定大統領として承認した旨表明したことを受け同日マドゥロ大統領が米国に対して断交を宣言するとともに72時間以内にベネズエラ国内に駐在する米国の外交官に退去命令を発令したことに対し同日米国のポンペオ国務長官が同氏の断交宣言と外交官退去命令を認めない旨示唆したことに加え、米国が石油供給面でベネズエラに対し制裁を科する可能性がある旨1月23日に報じられたことで、両国の対立の激化と石油市場への影響に対する市場の懸念の増大の流れが1月24日の市場に引き継がれたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.51ドル上昇し、終値は53.13ドルとなった。1月25日も、1月23日に米国のトランプ大統領がベネズエラのマドゥロ大統領に反対するグアイド国会議長を暫定大統領として承認した旨表明したうえ、米国が石油供給面でベネズエラに対し制裁を科する可能性がある旨1月23日に報じられたことで、両国の対立の激化と石油市場への影響に対する市場の懸念増大の流れを引き継いだうえ、1月25日に米国のトランプ大統領が、米国のメキシコ国境の壁建設のための支出を含まない2月15日までの暫定予算で議会と合意したことにより一部政府機関の閉鎖が一時的に解除されたことで米国経済混乱に対する市場の懸念が後退したことから、この日(1月25日)の原油価格の終値は1バレル当たり53.69ドルと前日終値比で0.56ドル上昇した。この結果原油価格は1月24~25日の2日間で併せて1バレル当たり1.07ドル上昇した。
ただ、1月25日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で862基と前週比で10基の増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で800基と同7基の増加)となっている旨判明したことでこの先の米国原油生産増加観測が市場で増大した流れを1月28日に引き継いだことに加え、ベネズエラのマドゥロ大統領が1月23日に行った米国との断交宣言に関し、1月26日にベネズエラ政府が30日間の猶予を設定する旨表明したことで、ベネズエラと米国との対立の激化に対する市場の不安感が後退したこと、1月28日に中国国家統計局から発表された2018年12月の同国工業利益が前年同月比で1.9%の減少と2018年11月(この時は同1.8%の減少)に続き前年割れとなったことで、同国経済に関する懸念が市場で増大したこと、1月28日に発表された米国大手建機製造会社キャタピラーの2018年10~12月期業績が市場の事前予想を下回ったことに加え、同日同国半導体製造会社エヌビディア(Nvidia)が2018年11月~2019年1月期売上高見通しを下方修正したこともあり、米国株式相場が下落したことで、この日(1月28日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.70ドル下落し、終値は51.99ドルとなった。しかしながら、1月28日午後に米国政府がベネズエラ国営石油会社PDVSAに対し米国での同社保有資産の凍結を行う等の制裁を実施する旨発表したことで、ベネズエラから米国への原油輸出が削減されることに伴う石油需給引き締まり感が1月29日の市場で増大したことに加え、1月29日に米国のムニューシン財務長官が、米国及び中国間での貿易紛争に関し中国側が十分な譲歩を行うのであれば米国としては関税撤廃を検討する可能性がある旨示唆したことで当該問題伴う米国及び中国等の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したこと、米国北部に厳しい寒波が来襲しつつあることで、暖房用石油製品需要増加観測が市場で発生したことで、暖房油価格が上昇したことから、この日(1月29日)の原油価格の終値は1バレル当たり53.31ドルと前日終値比で1.32ドル上昇した。1月30日も、1月28日午後に米国政府の対PDVSA制裁によりベネズエラから米国への原油輸出が削減されることに伴う石油需給引き締まり感が市場で増大した流れを引き継いだうえ、1月30日にEIAから発表された米国石油統計(1月25日の週分)で原油在庫が前週比で92万バレルの増加と市場の事前予想(同310~320万バレル程度の増加)を下回って増加していたうえ、米国のサウジアラビアからの原油輸入量が前週から半減の日量44万バレルと2010年6月以降の同国週間統計史上2番目に低い水準(最も低かったのは2017年10月27日の週の同42万バレル)であった他、ガソリン在庫が前週比で224万バレルの減少と市場の事前予想(同190~280万バレル程度の増加)に反し減少していた旨判明したことで、石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日(1月30日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.92ドル上昇し、終値は54.23ドルとなった。この結果原油価格は1月29~30日の2日間で併せて1バレル当たり2.24ドル上昇した。1月31日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、1月31日にEIAから発表された2018年11月の米国原油生産量(確定値)が日量1,190万バレルと前月比で日量35万バレルの増加と前月(同1,156万バレルと日量9万バレルの増加)から伸びが加速している旨判明したことで、この日(1月31日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.44ドル下落し、終値は53.79ドルとなった。しかしながら、PDVSAからの原油及び石油製品の購入につき米国金融システム及び米国商品ブローカーが関与した取引は4月28日にまでに終了しなければならない旨2月1日未明に米国財務省が明らかにしたことで、この先のベネズエラからの石油供給の減少と世界石油需要の引き締まり懸念が2月1日の市場で増大したことに加え、2月1日に米国労働省から発表された2019年1月の米国非農業部門雇用者数が前月比で30.4万人の増加と2018年2月(この時は同33万人の増加)以来の大幅な増加となっていた他市場の事前予想(同16.5万人の増加)を上回ったことで同国経済と石油需要に対する市場の不安感が後退したこと、2月1日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で847基と前週比で15基の減少(石油水平坑井掘削装置稼働数は791基と同9基減少)となっていた他、2018年5月18日(この時は844基)以来の低水準となっていた旨判明したことで、この日(2月1日)の原油価格の終値は1バレル当たり55.26ドルと前日終値比で1.47ドル上昇した。
2月4日には、2月1日の原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、2月4日に米国商務省から発表された2018年11月の同国製造業受注が前月比で0.6%の減少と市場の事前予想(0.2~0.3%程度の増加)に反し減少している旨判明したこと、2月1日の週において米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で94万バレル程度増加した旨米国石油関連情報サービス会社Genscapeが報告した旨2月4日に報じられたことで、米国原油先物契約の引き渡し地点での原油需給緩和感を市場が意識したこと、2月1日に米国労働省から発表された2019年1月の米国非農業部門雇用者数が前月比で30.4万人の増加を示していたこともあり同国経済に対する市場の不安感が後退した流れを引き継いだことで米ドルが上昇したことから、この日(2月4日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.70ドル下落し、終値は54.56ドルとなった。また、2月5日も、2月6日にEIAから発表される予定である米国石油統計(2月1日の週分)で原油在庫が増加しているとの観測が市場で発生したことに加え、2月5日に米国供給管理協会(ISM)から発表された2019年1月の同国非製造業部門景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が56.7と前月の58.0(改定値)から低下、2018年7月(この時は56.7)以来の低水準となった他市場の事前予想(57.1~57.2)を下回ったことから、この日(2月5日)の原油価格の終値は1バレル当たり53.66ドルと前日終値比で0.90ドル下落した。この結果原油価格は2月4~5日の2日間で併せて1バレル当たり1.60ドルの下落となった。2月6日には、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で126万バレルの増加、ガソリン在庫が同51万バレルの増加、留出油在庫が同226万バレルの減少と、市場の事前予想(原油前週比185~370万バレル程度の増加、ガソリン同150~170万バレル程度の増加、留出油同200万バレル程度の減少~170万バレル程度の増加)を下回って増加していたか、事前予想を上回って、もしくは事前予想に反し減少していた旨判明したことから、この日(2月6日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.35ドル上昇し、終値は54.01ドルとなった。しかしながら、2月7日には、3月1日の米国及び中国との間での貿易問題交渉の期限までに米国のトランプ大統領が中国の習近平国家主席と会談する可能性は低い旨この日報じられた他、同日米国のトランプ大統領もそのような会談を行う予定はない旨明らかにしたことで、当該問題が解決しないことにより米国が中国に対し食料品等2,000億ドル相当の物品に対する関税を10%から25%に引き上げる結果、米国及び中国の経済が減速するのではないかとの懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことに加え、2月7日に欧州委員会(EC)がユーロ圏経済成長見通しを2018年11月8日に発表した2019年1.9%、2020年1.7%から2019年1.3%、2020年1.6%へと下方修正したこともあり、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日(2月7日)の原油価格の終値は1バレル当たり52.61ドルと前日終値比で1.40ドル下落した。2月8日には、リビア東部のトブルクを拠点とする政府(暫定議会)を支援する軍組織(LNA:Libyan National Army)が2月6日に掌握を主張した同国南西部のSharara油田(原油生産能力日量31.5万バレル)の周辺において、2月7日深夜零時以降LNAの許可なく飛来した航空機を敵機標的とみなす旨の声明を発表したと2月8日に報じられたことで、リビア国営石油会社NOCによる同油田への職員等の往来のための航空便の飛来が事実上困難となる結果同油田の操業に支障が発生するのではないかとの懸念が市場で発生した他NOCも治安が確保できるまで同油田の正常操業を見合わせる旨2月8日に明らかにしたことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、2月8日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で854基と前週比で7基増加(石油水平坑井掘削装置稼働数は794基と同3基増加)していた旨判明したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.08ドルの上昇にとどまり、終値は52.72ドルとなった。
2月11日には、この日中国南シナ海で同国が領有を主張する島の近辺海域を米国の艦船2隻が通過したとして同日中国外務省が非難したこともあり、この週に実施される予定であった米国及び中国との貿易協議の成り行きを懸念する見方が市場で発生したことに加え、2月7日にECがユーロ圏経済成長見通しを下方修正した流れを引き継ぎ、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日(2月11日)の原油価格の終値は1バレル当たり52.41ドルと前週末終値比で0.31ドル下落した。2月12日には、この日発表されたOPEC月刊オイル・マーケット・レポートで2019年1月のOPEC産油国の原油生産量が日量3,081万バレルと前月比で日量80万バレル程度減少している旨判明したことに加え、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が3月の原油生産量を日量980万バレル、輸出を同690万バレルと2018年10月の水準(原油生産量同1,064万バレル、輸出量同770万バレル)から大幅に低下させる意向である旨明らかにしたと2月12日にフィナンシャル・タイムズが報じたこと、2月12日に米国のトランプ大統領が合意に接近していると認められるのであれば、3月1日の2,000億ドル相当の中国製品に対する輸入関税の10%から25%への引き上げを延期する可能性がある旨表明したことで、両国の経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が後退したことで、この日(2月12日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.69ドル上昇し、終値は53.10ドルとなった。2月13日も、この日EIAから発表された米国石油統計(2月8日の週分)で米国のサウジアラビアからの原油輸入が日量42万バレル、ベネズエラのそれが同12万バレルと低迷している(因みに2018年11月の米国のサウジアラビアからの原油輸入は日量100万バレル、ベネズエラからのそれは同51万バレルであった)旨判明したことに加え、2月13日に米国労働省から発表された2019年1月の同国消費者物価指数(CPI)が前月比で変わらずとなり市場の事前予想(同0.1%の上昇)を下回ったことから同国金融当局が金利引き上げを踏み止まるとの観測が市場で増大した他、同日米国のトランプ大統領が米国及び中国の貿易問題協議は非常に順調に進捗している旨明らかにしたことにより、当該問題に関する楽観的な見方が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日(2月13日)の原油価格の終値は1バレル当たり53.95ドルと前日終値比で0.85ドル上昇した。2月14日には、この日中国税関総署から発表された2019年1月の同国輸出額(米ドル建)が前年同月比で9.1%の増加と市場の事前予想(同3.2~3.3%の減少)に反し増加していた他、同月の輸入額(ドル建)が前年同月比で1.5%の減少と市場の事前予想(同10.0~10.2%の減少)ほど落ち込んでいない旨明らかになったうえ、同月の中国の原油輸入量が4,260万トン(推定日量1,006万バレル)と前年同期比で4.8%増加している旨判明したことで、同国経済と石油需要に関する悲観的な見方が市場で後退したことに加え、2月14日にロシアのノバク エネルギー相が同国が2018年10月比で日量8~9万バレルの減産を実施している旨発言したことで、2月4日に同相が明らかにした2019年1月の減産量(2018年10月比で同4.7万バレルの減産)から減産幅が拡大している旨示唆されたことで、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、2月14日に米国商務省から発表された2018年12月の同国小売売上高が前月比で1.2%の減少と2009年9月(この時は同2.4%の減少)以来の大幅減少となった他、市場の事前予想(同0.1~0.2%の増加)を下回ったことで、米ドルが下落したことから、この日(2月14日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.63ドル上昇し、終値は54.53ドルとなった。2月15日も、サウジアラムコが世界有数の沖合巨大油田であるサファニア(Safaniyah)油田(原油生産能力日量120~150万バレルと伝えられる)が2週間前に船舶の錨により電力ケーブルが切断されたことで操業を停止した旨2月15日に報じられた(修理は3月初頭までには完了すると伝えられる)ことから、同国の原油供給に関する懸念が市場で増大したことに加え、2月15日の米国及び中国の貿易問題を巡る協議終了後に中国の習近平国家主席が2月18日の週に米国のワシントンで協議を継続する旨明らかにしたと報じられたことで、当該問題を巡る懸念が市場で後退したことから、この日(2月15日)の原油価格の終値は1バレル当たり55.59ドルと前日終値比で1.18ドル上昇した。この結果原油価格は2月12~15日の4日間で併せて1バレル当たり3.18ドルの上昇となっている。
3.今後の見通し等
2019年1月21日には、シリア北東部のハサカ県で自動車を使用した自爆テロが発生し、クルド人勢力の軍事関係者5名が死亡した(同日イスラム国(IS)が犯行声明を発表している)。他方、米軍は2019年4月末にはシリアから完全撤退作業を完了(3月中旬までには大部分の撤退作業を完了)すべく準備している旨2月7日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じている他、2月9日には、シリアでのISでの攻撃拠点を消滅させるための最終作戦を開始した旨クルド人勢力を中心とした「シリア民主軍(SDF)」が発表した。しかしながら、米国のボーテル中央軍司令官は、依然としてイラクやシリアに数万人程度のISの勢力が残っている旨明らかにしたと2月11日に報じられる。
また、1月13日にはイスラエルのネタニヤフ首相が(過去36時間の間に)シリアのダマスカス空港でイランが武器を保管している倉庫を攻撃した旨表明した。1月20日にはシリアからイスラエル領のゴラン高原に向けミサイルが発射された旨伝えられる。1月20日夜から1月21日未明にかけてはイスラエル軍が、シリア国内のイラン革命防衛隊「コッズ部隊」の軍事施設等を空爆した旨発表した。また、2月11日には、イスラエルが同国とシリアとの国境のシリア側にある同国南西部のクネイトラ県において攻撃を実施した旨報じられる。2月12日にはイスラエルのネタニヤフ首相が連日同国はシリア国内のイラン勢力に対する作戦を実施している旨表明している。
1月15日にはイランからロケット1基が発射された(イランは気象観測及び農業用と説明しているが、1月3日には米国のポンペオ国務長官が当該ミサイルにつき弾道ミサイルと同様の技術を使用していることから国連安全保障理事会決議違反であると非難していた)。1月31日に英国、フランス及びドイツの外相はイランとの貿易を実施する際に必要な決済を実施する特別目的事業体(SPV)である貿易取引支援機関(Instex)を設立した旨発表した(同日米国国務省はこのSPVにつき制裁条件に抵触した場合には制裁を科する旨警告している)。ただ、2月4日には欧州連合(EU)がイランの弾道ミサイル開発活動継続を非常に懸念している旨の声明も発表している。2月13~14日には、ポーランドのワルシャワで中東安全保障問題を巡る閣僚級協議が実施された。米国からはペンス副大統領やポンペオ国務長官が出席したが、ドイツ、フランス及びEUは外相(もしくは外相級幹部)の派遣を見合わせた他、英国からはハント外相が出席したが途中で帰国した。この席で米国は中東での新規の協力体制につき検討する旨表明、イラン包囲体制の構築に対する協力を要請した他、イランと決済を行う体制を構築した欧州を米国の対イラン制裁に違反しているとして非難した。
ベネズエラでは、1月10日にマドゥロ大統領の2期目の就任式が実施された。また、1月21日には同国最高裁判所が国会議長他の指導者を無効なものとの判断を示した。しかしながら、1月23日には、グアイド国会議長が暫定大統領を宣言し、米国のトランプ大統領がそれを承認、これに対しマドゥロ大統領は1月23日に米国との国交の断絶を宣言、72時間以内にベネズエラ駐在の外交官の国外退去を要求した。米国のポンペオ国務長官は、マドゥロ大統領の断交要求につき同氏はそのような権限を保持しないものとして拒否した。グアイド国会議長を暫定大統領と認識することについては、この時点でブラジル、コロンビア、アルゼンチン、コスタリカ、ペルー、パラグアイ、チリ等の中南米諸国の他、カナダ、英国、ドイツも承認している旨1月23日に報道される。他方、EUは態度を保留した旨1月24日に伝えられる他、メキシコやボリビアは承認しない旨表明していると1月23日に報じられる。また、ロシア、トルコ、中国はマドゥロ大統領を支持する旨表明したと1月24日に伝えられる。さらに、1月24日にロシアのプーチン大統領は米国の動きを国際法違反であるとして批判している。他方、1月25日に米国のポンペオ国務長官はベネズエラ問題担当責任者にエイブラムス氏を任命した。1月26日には英国、フランス、ドイツ、及びスペインが8日以内にマドゥロ大統領が大統領選実施を決定しなければグアイド暫定大統領を承認する旨表明した。そのような中、1月26日に駐米ベネズエラ大使館のシルバ武官がマドゥロ大統領から離反しグアイド暫定大統領を支持する旨表明した。また、1月23日に米国との国交断絶を宣言し72時間以内にベネズエラに滞在する外交官に国外退去を要求したベネズエラ政府は30日間の猶予期間を設定、即時国交断絶を取り下げた。
1月28日午後には米国政府はPDVSAに対し制裁を科する旨発表した(米国石油会社のベネズエラへの石油製品輸出の禁止、4月28日を以て米国石油会社のベネズエラ産原油輸入を停止する(PDVSAの米国子会社であるCitgoは7月28日)とともに禁止開始時期前でも、原油購入代金支払いはマドゥロ政権関係者が引き出すことができない米国政府の指定する口座とすること、7月28日を以てベネズエラでの石油開発事業を停止すること等を示唆した他、PDVSAの米国内での資産凍結と米国人との取引を禁止することがその主な内容)。これにより、PDVSAは米国石油会社への原油販売代金の回収が事実上不可能となった。また、1月28日にグアイド氏は、国会において、PDVSA及びCitgoの経営陣を任命すべく手続きを始めるよう指示した他、国外にあるPDVSAの資産を管理する意向であることを表明、1月29日には米国国務省がニューヨーク連邦準備銀行の保管するベネズエラ公的資産の一部をグアイド氏が利用することにつき承認した。これに対しPDVSAはベネズエラ原油の購入者に対し、購入代金を前払いするように要求していると1月28日に伝えられる。他方、1月29日にはベネズエラのサーブ検事総長がグアイド国会議長に対する予備捜査の許可を最高裁判所に申請、同日裁判所は当該申請を許可するとともに、グアイド氏の出国禁止と資産凍結も決定した。これに対し1月29日に米国のボルトン大統領補佐官は、グアイド暫定大統領に対する捜査を非難、危害を加える旨脅かせば深刻な結果を招くと警告した。また、米国政府はPDVSAに対する制裁を科したことに伴い戦略石油備蓄(SPR)放出を検討している旨1月29日に明らかになっている。PDVSAは自国からの原油輸出に対し不可抗力条項の部分的な適用を検討している他、米国の石油会社に石油取引契約の改定を要請している(ベネズエラ産原油と石油製品や医薬品、食品他との交換取引、商社を通じた原油等の販売が提案されているとされるが制裁を免れるかどうかはこの時点では不明であった)旨1月29日に報じられる。
1月31日には欧州議会がベネズエラで適切な大統領選挙が実施されるまでグアイド国会議長を暫定大統領することを承認した。他方、2月3日に米国のトランプ大統領はベネズエラに対する軍事力の行使も選択肢である旨明らかにしている。また、2月1日には米国財務省が米国の金融システムや米国のブローカーを通じた取引は、非米国企業であっても4月28日までに終了させる旨指導することを発表した(1月31日付の指導となっている)。2月2日にはベネズエラ軍のジャネス空軍将軍がマドゥロ大統領を支持する軍隊から離反する旨表明した。他方、8日間の期限が切れたとして2月4日には欧州の英国、フランス、ドイツ、オランダ、ルクセンブルグ、ベルギー、スペイン、ポルトガル、オーストリア、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、チェコ、ポーランド、クロアチア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ハンガリーの19ヶ国が、グアイド国会議長を暫定大統領として承認した(イタリア、アイルランド、ノルウェーは承認せず)。また、同日には米州諸国を中心とする14ヶ国(アルゼンチン、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、コスタリカ、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、パナマ、パラグアイ、ペルー、ガイアナ、セントルチア)により構成される「リマ・グループ」のうちのメキシコ、ガイアナ及びセントルシアを除く11ヶ国はグアイド氏を暫定大統領として支持する他ベネズエラ軍に対し暫定大統領を支持するよう要請するとともに平和裏による政権移譲を推奨する旨表明した。他方、マドゥロ大統領はフランシスコ ローマ法王に反体制派との間の仲介を懇願した旨2月4日に伝えられる。これに対しローマ法王は2月5日にグアイド国会議長も希望するのであれば、平和裏に問題を解決すべく仲介する用意がある旨明らかにしている。
米国のトランプ政権関係者は、米国政府が直接マドゥロ政権下の軍関係者に対して離反するよう働きかけを行っている他、米国がマドゥロ大統領に対しさらなる制裁を実施すべく準備中である旨2月8日に伝えられる(2月6日にボルトン大統領補佐官はベネズエラ軍関係者がグアイド氏の政権を受け入れるのであれば制裁対象の停止を検討する旨表明している)。他方、2月11日にベネズエラのケベド石油相は同国で生産された原油をインドに輸出する反面インドから医薬品等の物品を購入すべく、現在の輸出量である日量34万バレル程度から倍増させることを希望している旨表明した。またPDVSAはベネズエラで共同事業を実施する相手方の外国石油会社に対し事業を継続することを約束するよう迫っている旨2月11日に報じられる。また、ロシアはマドゥロ大統領派勢力と野党連合派勢力との間で協議を促進すべく尽力する要因がある旨リャブコフ外務次官が2月12日に表明している他、同日ラブロフ外相が米国のポンペオ国務長官に対し米国のベネズエラへの政治介入を行わないよう発言している。2月13日には米国議会下院外交委員会のエンゲル委員長が米国はベネズエラに軍事介入を実施する意向はない旨表明したが、トランプ大統領はベネズエラに対しあらゆる選択肢につき議論している旨2月13日に明らかにしている。また、グアイド暫定大統領は2月13日に、Citgoに対し暫定的な取締役を指名した。これに対し、2月14日にはベネズエラのサーブ検事総長は、グアイド暫定大統領が指名した取締役を巡り捜査を開始した旨明らかにしている。また米国のボルトン大統領補佐官はインドを含む諸国に対しベネズエラ産原油購入を手控えるよう牽制する旨の発言を2月12日に行っている。他方2月14日にベネズエラのアレアサ外相は中国、ロシア、シリア、パレスチナ等の国連大使とともに記者会見を行い、これら諸国を含めた50ヶ国とともに行動する意向である旨表明した。
地政学的リスク要因面では、当面、ベネズエラ、リビア、イラン等が注目されるところであろう。ベネズエラについては、猶予期間はあるものの米国がベネズエラ産原油の事実上の輸入禁止と、ベネズエラへの石油製品等の輸出禁止を内容とする制裁を1月28日に発動した。もっとも現時点ではイラン産原油を輸入していた国に対する事実上の輸入制限を内容とする米国の制裁と違い米国以外の国がベネズエラ産の原油を輸入することまで厳しく制限しているわけではないこともあり、例えば中国やインド等に原油が向かう代わりに、それまでこれら諸国で受け入れられていた他国産の原油が、玉突きの格好で米国に流入するため、供給不足には陥らないとの見方もできるかもしれないが、事態はそれほど単純ではない。米国がベネズエラから輸入している原油(2017年では日量50万バレル)は大半が重質高硫黄原油であり、これをほぼ全量メキシコ湾岸地域の製油所が受け入れたうえで高度化された精製設備を利用してガソリン等の軽質製品を生産している(Citgo、Chevron、Valero、及びPBFが主要購入者)。そしてこの流入がとどまってしまうということになれば、これまでベネズエラ産原油を購入していた石油会社は重質高硫黄原油の代替供給源を確保しなければならない。重質高硫黄原油の供給源としてはまずメキシコが挙げられるが、同国は最近(2013年12月20日)まで石油探鉱・開発部門が国営石油会社Pemexによる独占体制となっていたこともあり、柔軟性を欠く経営のもとでの投資不足が影響し、同国の原油生産量は減少傾向となっている(2005年には日量333万バレルであった原油生産量は2018年には同183万バレルとほぼ半減している)ことから、米国への原油供給を拡大する余力はない。他方別の選択肢としてはカナダのオイルサンド由来の原油がある。カナダについては、2019年1月1日以降減産を実施していることもあり生産自体は多少拡大する余地はありそうであるが、カナダから米国に原油を輸送するパイプラインの能力が限られているため、パイプライン経由で調達できる原油の量的規模は限定的のものになる。代替的な調達方策として、鉄道貨車に原油を充填したうえで輸送するという方法があるが、パイプラインに比べると相当高価(距離にもよるが1バレル当たり10ドル前後、もしくはそれ以上)なものとなることから原油精製利幅を相当程度圧迫する可能性がある。他方、米国ではアラスカやメキシコ湾沖合の油田で中質高硫黄原油が生産されているが、少なくとも短期的には増産余力は大きくない。また、米国陸上で生産されるシェールオイルは概ね軽質であることから、価格が相対的に高いうえメキシコ湾岸の製油所の仕様と合致しないため、精製利幅等の経済性が影響を受けてしまう。それ以外の重質もしくは中質高硫黄原油の調達先として考えられるのは中東諸国ということになるが、米国により事実上のイラン産原油輸出制限が課されているうえ、2019年1月1日からはOPEC及び一部非OPEC産油国による減産が実施されており、特に中東湾岸産油国(サウジアラビア、クウェート、UAE)は減産を積極的に行っていることから、少なくとも短期的には調達は容易ではないとの観測が市場で発生しやすい。結果として、世界的に重質高硫黄原油需給の引き締まり感が増大することにより、当該原油価格が相対的に上昇する可能性がある(また、米国での原油需給に相対的に対し引き締まり感が強まることから、この面ではブレントに比べWTIの価格が上昇しやすくなる)。このため、特に従来から重質高硫黄原油を処理していた製油所では精製利幅等の経済性確保が困難となることで、稼働を低下させるといった措置を講ずることもありうる。その場合、米国内外の石油製品供給が減少することにより、石油製品価格が上昇することを通じ、原油価格にその影響が及ぶ可能性がある。またベネズエラは自国で生産される超重質原油の流動性を改善させるため米国(主にCitgoとされる)から日量12万バレル程度のナフサ等の希釈剤を輸入していたが、今般の米国の制裁でこの輸入が滞ると見られ、早急に代替の供給を確保しなければ、その分だけ同国産超重質原油の希釈作業が遅延することにより輸出に影響が生ずる可能性があり、これも少なくとも短期的には重質高硫黄価格にとって上方圧力を加えやすくなるものと考えられる。また、中国やインド等の石油会社がベネズエラ産原油を引き取るといった選択肢についても、かつて両国は相当量のベネズエラ産原油を引き取っていた一方で現在ではその輸入が減少していることから、同国産原油引き取りを拡大する余地はあろうが、米国からのさらなる制裁を恐れて(2月12日にボルトン大統領補佐官はベネズエラがインドとの間で物々交換により石油を取引することに対して警告する趣旨の発言をしている)取引を躊躇する結果、ベネズエラ産原油が輸出先を失うとともに、市場から同国の供給が排除されてしまうことも否定できない。このように、ベネズエラを巡っては、少なくとも短期的には大西洋圏を中心として石油市場が混乱を来すことにより、原油相場にそれが反映される事態も予想されるので注意が必要であろう。また、これとは別に、マドゥロ大統領派勢力とグアイド暫定大統領派勢力との対立がより先鋭化するとともに同国内での情勢が混乱、暴動等が発生するようだと、同国での原油生産及び出荷施設に危害が加えられる結果同国からの原油供給が途絶するのではないかとの懸念が市場で強まることにより、原油相場に上方圧力を加える可能性もある。
リビア東部トブルクを拠点とする政府(暫定議会)を支援するハフタル将軍は、同国南部に位置する油田を保護するための同将軍に忠誠を誓う部隊(LNA)の進軍を開始した旨1月15日に明らかにした。同国南西部のSharara油田(正常時の原油生産量は日量31.5万バレル)においては、武装勢力による占拠が継続している旨1月29日にNOCのサナラ会長が明らかにしていたが、2月6日にはLNAはSharara油田を掌握した。同部隊は同油田の不可抗力条項適用の解除を要求しているが、国営石油会社NOCは安全が確保できた段階で速やかに操業を再開する意向を表明しているものの、同部隊と公式に協議しているわけではなく、また、LNAによる同油田への航空便飛来制限については解除すべきである(NOCの従業員の往来に支障を来す旨示唆している)と主張している。このように同油田を巡る情勢は依然流動的である他、同国の他の油田でも、地域の部族等と、NOCを含む中央政府(国連が支援する統合政府)との間が完全に平定されているわけでもないことから、いつまた油田関連施設や石油ターミナルが封鎖されることにより、同国の原油生産が滞らないとも限らないので注意が必要であろう。
さらに、イランについては、最近ではベネズエラの陰に隠れて目立たない格好となっているが、これから5月4日の米国による制裁の部分的免除更新時期に向け、米国のトランプ大統領等関係者が何かしらの発言等をすることにより、イランからの原油供給と世界石油需給に対する観測を市場で発生させることにより、原油価格が左右される場面が見られることもありうる。
加えて、ナイジェリアでは、2月23日に大統領選挙や議会選挙が予定されている(当初の2月16日から延期される旨2月16日未明に同国選挙管理委員会が発表)。大統領選挙においては、現時点では現職のブハリ大統領と最大野党に属するアブバカル元副大統領とが互角の勝負となっている。同国南部の武装集団であるNDA(Niger Delta Avengers、2016年には同国南部のニジェール・デルタの油田地帯でテロ攻撃を実施、同国からの原油供給が低迷する一因となったが、2017年1月以降攻撃は沈静化)はアブバカル氏を支援しており、ブハリ現大統領が再選されれば、同国経済が不振に陥るとして同大統領政権の終結を希望している。このようなこともあり、大統領選挙の結果次第では同国情勢が再び不安定化し、その結果同国の原油供給等が脅かされる可能性がある旨留意する必要があろう。
経済面では、まず、米国及び中国の貿易問題と世界経済への影響が石油需要に影響を及ぼすことから、市場の注目するところとなろう。米国と中国との間では次官級及び閣僚級協議がしばしば開催されているが、米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席との会談に発展することで、関税賦課合戦が解決に向かう目途が立てば、両国を含めた世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念が後退することにより、原油相場に上方圧力を加えるといった展開も想定される。ただ、中国は米国の農産品やエネルギー等の購入を拡大する意向を示しているが、米国は中国に対し知的財産権や技術移転等より根本的な問題への対応を希望しており、このような問題に関しては、それほど進展してないとされていることから、この面で原油市場関係者における世界経済と石油需要面での楽観的な見方が広がるとともに原油相場が継続的な上昇局面に入る可能性は短期的にはそれほど高くはないものと考えられる。そして、これまでも、現時点で設定される3月1日の米国の中国からの2,000億ドル相当の物品への関税を10%から25%へと引き上げる期限を延長する旨2月12日に米国のトランプ大統領が表明していたり、協議は「非常に順調に進捗している」旨2月13日にトランプ大統領が発言したりしているが、今後も米国及び中国の関係者が協議の進捗具合や展望等につき明らかにすることにより、当該協議の解決に対する楽観的、もしくは悲観的な見方が市場で増大するとともに、米国及び中国両国をはじめとする世界経済と石油需要の伸びに関する懸念が増減することを通じ、原油相場にそれが織り込まれることもありうる。ただ、これまで賦課されてきた関税が撤廃されない限り米国及び中国は関税を課したままとなることから、両国経済には負担になる他、その影響が他の諸国に波及する結果、石油需要の伸びが鈍化するとの観測は市場で根強く残ることになり、その間は原油相場の上昇を抑制する格好で作用し続けるものと考えられる。また、その過程で発表される米国や中国の経済指標類によっても株式相場等を通じ原油相場が変動する場面が見られる可能性もある。他方、欧州においても経済指標類の中には地域経済が減速しつつあることを示すものが散見されており、今後も同様のことを示唆する経済指標類が発表されたり、また経済の減速感を示唆する金融当局者等の発言等が行われたりするようだと、ユーロが下落する反面米ドルが上昇し、それが原油相場に下方圧力を加えることもありうる。
米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は最終消費段階ではなお今暫く継続する(米国の暖房シーズンは概ね11月1日~翌年3月31日である)ものの、製油所の段階では暖房用石油製品の生産は峠と越え始めつつあることもあり、製油所の稼働がメンテナンス作業実施等により低下するとともに原油精製処理量も減少しつつあることから、製油所等の原油購入が不活発になるとともに季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることにより原油相場の上昇を抑制する格好となっており、この状態は当面続くものと見られる。ただ、前述の通り冬場の暖房用石油需要期は最終消費段階では当面続くことから、例えば米国の暖房用石油製品需要の中心地である北東部の気温が平年を割り込んで低下したり、低下するとの予報が発表されたりすれば、暖房用石油需要の増加観測と需給逼迫感が市場で意識される結果、暖房油とともに原油の価格が上昇する場面が見られることもありうる(また、早ければ3月初頭以降、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来と製油所の稼働の上昇及び原油購入の活発化が市場で意識されるとともに、ガソリン及び原油価格に上方圧力が加わるといった展開が見られる可能性も否定できない)。他方、ベネズエラ、イラン及びリビアといった地政学的リスク要因面での原油供給減少(もしくは減少懸念)とは別に、サウジアラビアをはじめとするOPEC及びロシアをはじめとする一部非OPEC産油国についても、サウジアラビア、クウェート、及びUAEといった中東湾岸産油国がそれなりに減産を実施しており、減産に参加するOPEC産油国11ヶ国(目標減産量日量80万バレル)で2019年1月時点の減産遵守率が87%、イラン、リビア、ベネズエラの減産(2018年10月の原油生産量を基準とした2019年1月時点での生産量減少)を含めると日量159万バレル相当の減産を事実上実施していることになり、これだけでOPEC及び一部非OPEC産油国の目標減産量である日量120万バレルを超過すること(見做遵守率は133%)になり、OPEC及び一部非OPEC産油国では日量168万バレル相当の減産となる(見做遵守率は140%)。特にサウジアラビアが自国の減産目標を上回る減産を実施する意向を示すなど、原油価格の下落抑制に向け積極的な姿勢が示唆されることから、今後も特に原油価格が継続的に下落する兆候が見られる時には、サウジアラビア石油産業関係者が減産に対する積極的な姿勢を示唆する発言を行ったり、実際に減産を加速させたりすることにより、原油価格の下支えに向けて動くことも考えられるため、この面では、石油市場関係者の需給緩和感の醸成を抑制する方向で作用することから、実際に原油価格が下落を継続する可能性はそれほど高くない可能性がある。また、そのような中で、米国の石油坑井掘削装置稼働数の増減や米国原油生産状況及びその見通し、そして石油在庫等が原油相場に影響を及ぼすものと考えられる。
短期的には、冬場後半の季節的な石油需給の緩和感に加え、米国のトランプ大統領の原油価格上昇を牽制する発言(最近では原油相場変動要因として明示的に指摘されることは殆どないが潜在的には市場心理に影響しているものと考えられる)が原油相場の上昇を抑制する反面、ベネズエラ、イラン及びリビア等の地政学的リスク要因に加えOPEC及び一部非OPEC産油国による減産姿勢に伴う石油需給の引き締まり観測が原油価格の下落を抑制するものと考えられる。そのような中で、米国及び中国との間での貿易問題を巡る交渉の進捗状況、米国での足元の原油生産状況及び見通し、米国石油坑井掘削装置稼働数及び米国原油在庫等が原油相場を左右していくものと考えられる。それでも、3月に入ると夏場のガソリン需要期到来による石油需給引き締まり観測が市場で発生することで、相対的に原油価格に上方圧力が加わりやすくなるものと思われる。
4.世界天然ガス市場動向
米国では、天然ガス水平掘削装置稼働数自体は2018年から2019年にかけ微増傾向といった感じとなっている(図16参照)。ただ、同国の石油水平坑井掘削装置稼働数は2018年初頭の600基台後半から同年半ばには800基程度に到達している。このため、シェールオイル生産に随伴して生産されるシェールガスの量が増加したことが、米国でのシェールガスを含む天然ガス生産量の増加に寄与している可能性もある(図17参照)。また、2018年後半から2019年2月に至るまでは石油及び天然ガス水平坑井掘削装置稼働数は概ね一定の範囲内で推移しているものの、同国の天然ガス量の増加基調は継続している。この背景には掘削効率の向上(限られた掘削装置稼働数で複数の坑井を短期間で掘削する、もしくは坑井掘削距離を伸ばす、水圧破砕をより高密度で実施する等により、生産を拡大すること)があるものと見られる。今後もこれらの方策に加え、パーミアン盆地やマーセラス盆地から天然ガスを輸送するパイプラインが整備されつつあることもあり、米国の天然ガス生産は伸び続けていくと予想される。
他方、メキシコへのパイプラインを通じた天然ガス輸出(図18参照)やLNG輸出(図19参照)も維持されているものと推定される(もっとも米国及び中国との貿易紛争による関税賦課合戦の影響もあり、米国からの中国向けのLNG輸出は低迷しており、その代わり欧州方面への輸出が活発化している)。そして、2018年11月から12月初頭にかけての冬場の暖房シーズンに伴う天然ガス需要期の初期において米国では気温がしばしば平年を割り込んで低下した(図20参照)こともあり、暖房用天然ガス需要が持続的に盛り上がる(図21参照)結果、この時点で既に平年(過去5年平均)水準どころか平年幅(過去5年幅)を割り込むほど低下していた同国の天然ガス地下貯蔵量が大幅に減少した(地下貯蔵量が平年水準を下回る度合いは2018年11月9日時点では15.6%程度であったが、12月14日には20.6%程度へと拡大した、図22参照)ことから、当該貯蔵量が危機的な低水準に到達する(つまり天然ガス供給不足が発生しやすくなる)との懸念が市場で増大したことが、同国の天然ガス価格を押し上げる格好となり、11月初頭には100万Btu当たり3.2ドル程度で推移していた天然ガス価格は、11月19日には4.7ドルへと上昇、12月上旬までは天然ガス需給逼迫懸念が後退しなかったこともあり、天然ガス価格は同4ドル台の範囲で推移した(図23参照)。
しかしながら、その後は米国での気温が平年を上回るようになったことから、米国内での暖房向け天然ガス需要が抑制されるようになった一方で、天然ガス供給が堅調に伸び続けていたことから、同国天然ガス地下貯蔵量の平年水準を下回る度合いが縮小してきた(地下貯蔵量が平年水準を下回る度合いは12月14日時点では20.6%程度であったが、2019年1月18日には11.4%程度へと縮小した)。そして、堅調な米国天然ガス生産もあり、天然ガス需給が緩和に向かうとの見方が市場で強まったことが、天然ガス価格に下方圧力を加えた結果、12月10日時点では100万Btu当たり4.5ドル程度であった天然ガス価格は1月下旬には同3ドルを割り込むようになった。1月下旬には米国の北部を中心として極渦(Polar Vortex)の張り出しに伴う寒波の到来により、多くの場所で気温が平年を大幅に下回る場面が見られた(例えばシカゴでは平年気温が摂氏マイナス4.6度(1月月間値)であるのに対し1月30日の実際の気温は摂氏マイナス27度であった))。しかしながら、既に冬場の暖房シーズンに伴う天然ガス需要期が後半に差し掛かっていたことに加え、気温が上昇する方向に向かうとの予報もしばしば発表されたこともあり、天然ガス需給逼迫懸念を市場で強められなかったことから、天然ガス価格は気温低下にもかかわらず下落傾向となり、1月29日には100万Btu当たり2.9ドル超であった天然ガス価格は2月15日現在2.6ドル程度となっている。
英国では、ノルウェーのガス田やノルウェー等からのパイプライン等天然ガス輸送システムにおいて、操業に支障が発生する場面も見られたものの、総じて供給は順調であった一方で、2018年10月前半や11月以降は気温が平年をしばしば超過して推移した(図24参照)こともあり、需給に緩和感が生じてきた(欧州の天然ガス地下貯蔵量は11月中旬には前年の水準を超過するようになった、図25参照)。その後は11月後半や12月半ば頃、そして1月後半は気温が平年を下回る場面が見られたものの、その他の時期は気温が平年を上回る場面もそれなりにあった。加えて、アジアでのLNGを含む天然ガス需給が相当程度緩和したことからアジアのスポットLNG価格が英国の天然ガス価格を下回る場面が見られるようになったこともあり、米国やロシア(Yamal LNGのものと見られる)のLNGがアジアに向かう代わりに欧州に向かってきた(図26参照)。これが欧州での天然ガス需給を一層緩和させたことが、英国での天然ガス価格に下方圧力を加えた結果、2018年11月半ば頃には100万Btu当たり推定で9ドル台半ば程度であった英国の天然ガス価格は下落傾向になり、2019年2月半ばには同6ドル程度の水準となっている。
アジア地域では、2017~18年の冬場に中国でのLNG調達に混乱が発生した(2013年9月12日に発表された中国政府による「大気汚染防止行動計画」について2017年末が実施の期限であったことにより、中国の江蘇省等一部地域の発電部門が石炭から天然ガスへの燃料転換を急速に推進したうえ、中国国家発展改革委員会が2017年9月1日付で天然ガスを輸送するパイプライン会社から各地域及び都市ガス配給事業者等への卸売価格(家計向けを除く)や輸送料金を引き下げたことで中国による天然ガス需要が刺激された一方、同国国内での天然ガス生産量がその伸びに追い付くほど生産が堅調であったわけではなかったことにより、同国のスポット市場からのLNG調達が活発化したことが背景にある)。このため、2018~19年の冬場を控え、国内市場の混乱を回避すべく、中国は早めにLNGの調達を実施した他、より多くの長期契約によるLNG調達を確保した(例えば、PetroChinaは2018年から2040年にかけカタールのQatargas 2天然ガス液化施設から年間340万トンのLNGを調達する予定であるとされる)こともあり、2018~19年の冬場の天然ガス需要期突入の際には同国によるスポットLNG調達はかえって鈍化した。また、2018~19年の冬場が中国、韓国、及び日本で温暖であったことが民生部門での暖房用天然ガス需要及び暖房用電力のための発電向け天然ガス需要を抑制することになった他、日本においては原子力発電所が再稼働したことも発電向け天然ガス需要に影響した(そして、中国では米国との貿易紛争に伴う経済減速で春節(旧正月)に伴う休暇時期の相当前の時期に工場等の操業が停止したこともありLNG需要が鈍化したとの指摘もある)。他方、豪州(Ichthys、天然ガス液化能力年間約890万トン、LNGの出荷を開始した旨2018年10月23日に操業者である国際石油開発帝石が発表)、ロシア(Yamal第三液化施設、天然ガス液化能力年間550万トン、施設試運転のためのLNGの生産を開始した旨2018年11月22日に操業者であるNovatekが発表)及び米国(Corpus Christi第一液化施設、天然ガス液化能力年間450万トン、施設試運転のためのLNG第一船が出港した旨2018年12月12日に操業者であるCheniereが発表)等の新規天然ガス液化施設が稼働を開始しつつあったことやガス田から天然ガス液化施設へと天然ガスを輸送するSabah Sarawak Gas Pipeline(SSGP)の修理作業終了(2018年1月10日に発生した地滑りに伴う天然ガス流出によるものであるが同年11月半ばまでに修理が完了し政府による操業再開の許可が得られたと見られる旨伝えられる)に伴いマレーシアLNGの操業も正常に戻ったと推測されることもあり、12月29日より実施されたロシアのサハリン2天然ガス液化施設(第一液化施設、天然ガス液化能力年間480万トン)のメンテナンス作業実施に伴う操業停止(2019年1月14日までには正常操業に復帰したと伝えられる)や、豪州Gorgon天然ガス液化装置の不具合による停止(第三液化施設、天然ガス液化能力年間520万トン、操業が停止した旨2019年1月16日に報じられるが、豪州の夏場の高温が原因となっているとも伝えられ、2月18日の週に操業を再開すると見られている)もかかわらずLNG供給は豊富に行われていた。このようなことに加え、冬場の暖房向け天然ガス需要期終了が視野に入るとともに、需要家のLNGの購入意欲も低下してきた結果、アジアでのLNG需給の緩和感が市場で醸成された他、2018年10月以降原油価格が下落傾向になったことから原油価格連動型LNG価格が下落するとの観測が市場で発生したこともあり、当該地域でのLNG価格は下落傾向となり、2018年11月半ばには100万Btu当たり10ドル台半ば程度であった北東アジア地域のスポットLNG価格は2019年2月半ばには同6ドル台前半程度の水準となっている。
以上
(この報告は2018年2月18日時点のものです)