ページ番号1007750 更新日 平成31年3月25日
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概要
- タイとカンボジアの境界にどちらの国に資源開発権が帰属するのか画定していない水域が存在する。英文ではCambodia-Thailand Overlapping Claim Areas(OCA)と呼ばれる。
- 未確定水域の面積は、図1の通り広大である。
- 両国ともOCAに鉱区を設定しており、メジャーおよび日系上流開発企業が両国においてそれぞれ権益を保有している。
- OCAの西側には、タイの主力生産フィールドであるErawan油・ガス田が、また南側には同Bongkotガス田が隣接していることから、東南アジアでも有数の潜在的に有望視される未開発エリアである。しかし、境界画定の動きが進んでいないためOCAにおける探鉱開発活動は進んでいない。
1.現状
カンボジアとタイの領有権争いとなっている海域はPattani海盆にあり、図1に示すとおり面積26,400平方キロメートルの広大なエリアである。このエリアをカンボジアは4分割、タイは10分割して鉱区設定しており、有力な上流開発企業がそれぞれで参入している。

注: Area1-4は、カンボジアの鉱区名称、B5~13およびG9/43はタイの鉱区名称である。
図1からも分かるように、OCAの西側ではタイで生産中の主力油・ガス田であるErawanがあり、また、Bongkotガス田が南に位置し、そのままマレーシア半島北部のガス田群に連なっている。そのためOCAには潜在的に有望な油・ガス田が存在すると考えられている。カンボジア側の推定では11tcfのガスが埋蔵しているという。タイにとっては、開発に成功すればErawanとBongkotの既存のパイプラインを含む設備が利用できることになろう。
OCAについては両国とも鉱区設定しており、互いに重複している。現在の両国における権益状況を以下の表に纏めてみた。メジャーに加え日系上流開発企業が参加している。
Cambodia |
Thailand |
||
Name of Block | Participants | Name of Block | Participants |
Area 1, Blocks XXVII & XXVIII | ConocoPhillips 66.67% Operator, Idemitsu 33.33% |
B5, B6 | Idemitsu 50%, Chevron 30% Operator, MOECO 20% |
Area 2, Blocks XXIX, XXX & XXXI | ConocoPhillips 66.67% Operator, Idemitsu 33.33% |
B7, B8, B9 | Shell, 66.77% Operator, Chevron 33.33% |
Area 3, Blocks XXXII & XXXIII | Total 100% Operator | B10, B11 | Chevron 60% Operator, MOECO 40% |
Area 4, Blocks XXXIV & XXXV | BHP Group 50% Operator, INPEX 50% |
B12 | Chevron 80% Operator, MOECO 20% |
G09/43 | PTTEP 100% Operator | ||
B13 | Chevron 80% Operator, MOECO 20% |
出所 各種情報に基づきJOGMEC作成
2.これまでの交渉経緯
OCAに関する両国の交渉経緯は次の通りである。
- 1997年11月に両国により"Conditional Petroleum Agreement"(条件付石油合意書)が締結された。
- 2001年6月協定書(MOU: Memorandum of Understanding)が締結される。OCAを北緯11度線で分け、北部を両国で分割し、南部を共同開発水域とする基本合意が得られ、その後具体的な線引きの交渉が行われた。
- 2008年7月にカンボジア領内北部のタイ国境線近くにあるプレア・ビヘア寺院がユネスコの世界遺産に登録されたことを契機に、同寺院一帯の帰属を巡って両国の関係が悪化。2009年タイ側により上記MOUは一方的にキャンセルされた。
- 2011年に限定的な武力衝突が起きた。同年9月にタイ首相のインラック・シナワトラらがカンボジアを訪問し紛争解決に向かって動き始め、一旦キャンセルされたMOUをベースにOCA問題に向けた交渉を再会することに原則合意した。
- 2014年5月タイの軍政下において首相にプラユット・チャンオチャが就任。同年10月カンボジアのプノンペンを訪問、カンボジアのフンセン首相と面会。OCA問題の前進が期待されたが、その後現在に至っても変化は見られない。
3.今後の見通し
2018年にタイで行われたErawan油・ガス田(現在Chevron/三井石油開発/PTTEPが権益保有)およびBongkotガス田(同PTTEPとTotalが保有)の権益延長の入札結果により、2022年からErawanはPTTEPとMubadala 石油 のJVが、およびBongkotはPTTEPが単独で引き継ぐことになった。
入札の条件として、コントラクターはErawanにおいてはガス800mmcfdと石油14,000 bbl/dを、Bongkotにおいてはガスを700mmcfd、最低10年間は生産する義務を負った。しかし従来、両ガス田とも2020年代半ばにかけて枯渇すると言われていた。ガス生産の落ち込みが続くタイとしては、次の開発目標は、OCAの交渉妥結とそれに続く開発であるとの見方がある一方で、タイのガスの60%を生産する両ガス田の寿命が延びるのであれば、OCAの決着は先送りされる可能性があるとも考えられる。
しかし、一般財団法人エネルギー経済研究所が公表している「平成29年度国際エネルギー情勢調査」によると2050年に向けてタイの一次エネルギー需要の伸びは年1.7%であり、カンボジアの2040年に向けての伸びは年3.5%であることを考えると、一次エネルギーを輸入に頼らずに少しでも自前で賄うために、OCAの問題を早期に決着をつける必要がある。
以上
(この報告は2019年3月8日時点のものです)