ページ番号1007764 更新日 平成31年4月15日

原油市場他:経済と石油需要に対する懸念が後退する中、OPEC産油国等の減産と地政学的リスク要因で上昇、5ヶ月ぶりの高水準に到達する原油価格

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レポートID 1007764
作成日 2019-04-15 00:00:00 +0900
更新日 2019-04-15 12:03:16 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2019
Vol
No
ページ数 29
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
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地域6
国6
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国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2019/04/15 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、製油所での不具合の発生等により稼働が低下したままとなった結果、石油製品生産活動の低迷が続いていることにより、ガソリン在庫は減少傾向となったものの、平年幅上限を超過する状況は継続している。また、留出油についても製油所での当該製品生産が抑制されていることもあり在庫は減少、平年幅上限付近に位置する量となっている。原油については、製油所での精製処理は抑制されたものの、サウジアラビアやベネズエラ等からの原油輸入が低水準となっていることや原油輸出が堅調であったこともあり、比較的限られた範囲で在庫は推移した。
  2. 2019年3月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では微減にとどまった。他方原油輸入が活発化した反面製油所の稼働が安定していたこともあり欧州や日本での在庫は増加となった。結果としてOECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。また、石油製品については、欧州では微増となったものの、米国においてはガソリンや留出油の在庫減少の影響を受け石油製品全体でも在庫は減少、日本でも灯油や軽油の在庫が減少した結果石油製品全体の在庫水準も低下した。この結果、OECD諸国全体として石油製品在庫は減少となったが、量としては平年幅上限付近に位置している。
  3. 2019年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場では、米国と中国との貿易問題を巡る協議の進展に伴い両国経済に対する障害が除去されるとの期待感が市場で増大したことに加え、米国及び中国の経済指標類が両国の経済改善を示唆したこと等により、石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退した一方、目標に到達する方向でロシアが減産を推進しつつある旨同国エネルギー相が表明したこと、3月のOPEC産油国原油生産量が前月比で減少したこと、ベネズエラでの停電が原油出荷インフラ操業に打撃を与えたこと、リビアで並存する東西両政府の対立が激化したこと、米国がイラン革命防衛隊をテロ組織に指定したこと等が原油価格に上方圧力を加えた結果、原油相場は上昇傾向となり、4月10日には2018年10月末以来の高水準に到達した。
  4. 今後、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近するとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まりつつあることから、原油相場は当面上昇しやすいうえ、地政学的リスク要因面で、イラン、ベネズエラ及びリビア情勢が混迷を深める展開となる場合には、これら地域からの石油供給途絶懸念が市場で高まることにより、原油相場に上方圧力を加える可能性がある。他方、米国でのガソリン小売価格が高騰しつつあることから、トランプ大統領は減産措置を推進するOPEC産油国に対しより強い増産圧力を加える結果、OPEC産油国の減産方針が転換し、原油価格に下方圧力を加える可能性があるが、原油価格急落を恐れるサウジアラビア等の減産措置緩和に関する意思決定がもたつくようだと、短期的には石油需給引き締まり感が市場で一層強まることにより、一時的にせよ、原油価格が上振れするといったリスクが存在するものと考えられる。

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2019年1月の米国ガソリン需要(確定値)は日量874万バレルと前年同月比で0.0%程度増加した(図1参照)が、速報値(前年同月比で2.8%程度増加の日量899万バレル)からは下方修正されている。1月の同国からのガソリン(最終製品)輸出量が速報値の段階では平均推定日量72万バレル程度と推定された一方で、同月の輸出量確定値は日量87万バレルと速報値を日量15万バレル程度上回っており、この分が速報値から確定値に移行する段階で需要から輸出に算入し直されたことが需要下方修正の一因と考えられる。また、同月の同国個人可処分所得が前年同月比で4.4%の伸びと2018年1~12月のそれである同5.0%の増加から減速していることが、1月の同国ガソリン需要を抑制しているものと見られるものの、1月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.338ドルと前年同月比で0.333ドル(約12.5%)、前月比で0.119ドル(約4.8%)、それぞれ下落しているところからすると、2月のガソリン需要(確定値)が1月の低水準のガソリン需要増加率の反動によりそれなりの伸びを示すこともありうる(因みに速報値ベースでは2月のガソリン需要は前年同月比で0.6%程度の増加となっている)。3月の同国ガソリン需要(速報値)は日量926万バレル、前年同月比で2.0%程度の減少となった。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.594ドルと前年同月比では0.115ドル(約4.2%)下落しているものの、前月(同2.393ドル)からは0.201ドル(約8.3%)上昇していることが、3月の同国ガソリン需要に影響しているものと考えられる。もっとも、3月を対象とする米国の景況感指数の中には良好な経済状態を示唆するものが見られる他、同月の米国非農業部門雇用者数も市場の事前予想を上回る増加を示しているところからすると、当該需要も速報値から確定値に移行する段階で上方修正されるといった展開となることがありうる。他方、米国の一部製油所では春場のメンテナンス作業が終了するとともに稼働を上昇、原油精製処理量を増加させていると見られる一方で、製油所の中には新たにメンテナンス作業を開始したり、装置に不具合が発生したりして操業を停止したところも出てきたうえ、3月17日には、ヒューストン近郊Deer ParkでのInternational Terminals Company(ITC)の石油化学製品貯蔵施設で火災が発生、破損した貯蔵タンクから流出した石油化学製品が3月22日に隣接するヒューストン運河(Houston Ship Channel)に流入したことから、石油化学製品除去作業のために当該運河が閉鎖、船舶の航行が停止した(3月25日に部分的に船舶航行再開)ことから、ShellのDeer Park製油所(原油精製処理量日量27.5万バレル)及びLyondell Basellのヒューストン製油所(同26.4万バレル)へのヒューストン運河経由での原油供給が不足したことにより、原油精製処理活動が削減されたこともあり、同国の原油精製処理量は4月上旬時点においても日量1,610万バレルと伸び悩み、前年同期を下回ることとなった(図2参照、因みに前年同期の製油所の原油精製処理量は日量1,702万バレルであった)。このように製油所での原油精製処理活動が低迷したことから同国のガソリン製造活動も不活発になった(最終製品生産量は図3参照)こともあり、3月中旬から4月中旬にかけての米国のガソリン在庫は減少傾向となったが、平年を上回る状態は維持されている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2006~19年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~19年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~19年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~19年)

2019年1月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量436万バレルと前年同月比で0.9%程度の減少となったが、速報値である日量433万バレル(同1.4%程度の減少)からは上方修正された(図5参照)。1月の米国の物流活動が同5.5%の拡大と12月のそれ(同3.0%の増加)から加速していることから、この面では、留出油需要を押し上げる方向で作用していると考えられるものの、1月の米国の暖房用留出油需要の中心地である北東部の気温が前年同月に比べると温暖となったうえ、2018年12月の同国需要が同国鉱工業生産及び物流活動の伸びの鈍化にもかかわらず前年同月比で1.3%増加したため、その反動が1月に発生している可能性がある。また、3月の留出油需要(速報値)は日量421万バレルと前年同月比で1.0%程度の増加となった。3月を対象月とする米国の景況感や雇用統計の中には同国経済が改善を示すものが散見されることもあり鉱工業活動や物流活動の回復により留出油需要が堅調になっていることが示唆される。他方、米国の製油所での稼働が低迷するとともに留出油生産活動が抑制された(図6参照)こともあり、3月上旬から4月上旬にかけ留出油在庫は減少傾向となったが、4月上旬時点では平年幅上限付近に位置する量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2006~19年)

図6 米国の留出油生産量(2009~19年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~19年)

2019年1月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で0.0%程度減少の日量2,045万バレルとなった(図8参照)。いずれの製品も前年同月比で比較的限られた規模での増加及び減少となったことが石油需要の伸びに影響している格好となっている。また、その他の石油製品の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正された(速報値の日量411万バレルが確定値では同372万バレルとなった)ことにより、当該需要は速報値(日量2,110万バレル、前年同月比3.1%程度の増加)から下方修正されている。3月の米国石油需要(速報値)は、日量2,058万バレルと前年同月から0.0%程度の増加となった。その他の石油製品需要の増加をガソリン及びプロパン/プロピレン需要の減少(1月末から2月初頭の厳しい寒波到来でプロパン需要が盛り上がったものの、その後寒さは限定的であったこともあり、3月は反動で需要が抑制された可能性があるものと見られる)で相殺している格好となっている。ただ、3月のその他石油製品の需要は日量402万バレルと前年同月比で33万バレルの増加となっているが、当該需要は速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。また、製油所での稼働が低下したままとなったことに伴い原油精製処理活動も低迷したものの、原油輸入量が減少した(2019年1月1日から減産を実施しているサウジアラビアからの原油輸入がほぼ半減した(2018年11月の輸入量は日量100万バレルであったが2019年4月5日までの4週間平均の輸入量は同54万バレル程度であった)他1月28日に米国が制裁実施を発表したベネズエラからの輸入(2019年1月は日量56万バレル)が3月15日~3月29日の週はゼロとなり、4月5日の週も日量14万バレルにとどまっている)反面、原油輸出が比較的堅調であった(サウジアラビアによる積極的な原油輸出削減方針の発信やロシアの目標達成に向けた減産努力継続の表明等もありブレント原油価格がWTI原油のそれをそれなりに上回る場面が見られたことが影響している可能性がある)ことで相殺されたことから、3月上旬から4月上旬にかけ原油在庫は比較的限られた範囲内での変動となり、平年幅上限を超過する状態は続いている(図9参照)。そして、留出油在庫が平年幅上限付近に位置する量となっていること一方で、原油及びガソリンの在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2006~19年)

図9 米国原油在庫推移(2003~19年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~19年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~19年)

2019年3月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国では輸出が旺盛である一方輸入が不振であったものの、製油所の稼働が低迷したうえ国内生産が高水準を維持していたことで相殺された結果、在庫は微減にとどまった。他方2月中旬を中心としてブレント価格がWTIのそれを上回る度合いが拡大したこともあり、米国産原油の欧州向け輸出が活発化したと見られる一方で、欧州の製油所の稼働は安定していたことから、結果として欧州での在庫は増加となった。また、日本においても製油所での原油精製処理量は安定していた一方で、米国によるイラン産原油輸入禁止を内容とする制裁の免除期限を5月初頭に控えイランからの原油流入が活発化したことに加え、WTIがドバイ等他の原油に比べて割安となったこともあり米国産原油等が流入してきたと見られることを反映し、在庫は増加した。結果としてOECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。(図12参照)。また、石油製品については、欧州では微増となったものの、米国においてはガソリンや留出油在庫の減少が影響し石油製品全体の在庫も減少した他、日本でも、暖房向け需要の発生していた灯油の在庫が減少した他、年度末を控え重機類向けの軽油需要が増加したと見られることから当該製品の在庫が減少した結果、石油製品全体の在庫水準も低下した。この結果、OECD諸国全体として石油製品在庫は減少となったが、量としては平年幅上限付近に位置している(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年幅上限付近に位置する水準となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を上回る状態になっている(図14参照)。なお、2019年3月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は60.4日と2月末の推定在庫日数(60.6日)から微減となっている。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~19年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~19年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)在庫推移(2005~19年)

3月13日に1,600万バレル台半ば程度の量であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、3月20日は1,600万バレル台後半の量にまで増加したものの、3月27日には1,500万バレル台後半の量へと減少している。そして、4月3日は1,500万バレル台後半の量と若干増加したものの、4月10日には1,400万バレル台後半の水準へと低下した。中国をはじめとするアジア諸国で春場の製油所メンテナンス作業実施時期に突入しつつあることから、アジア諸国各国からシンガポールへのガソリン等軽質留分輸出が鈍化する一方で、シンガポールからアジア諸国各国へ軽質留分輸出が促進されていると見られることが、シンガポールでの当該在庫減少に寄与しているものと考えられる。また、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来が視野に入りつつある米国で春場の製油所メンテナンス実施等により製油所の稼働が低迷するとともにガソリン等の生産が抑制され在庫が減少していることを背景として、堅調な米国ガソリン価格に欧州のそれが引きずられたこともあり、欧州方面からアジアへのガソリン流入量が減少するとの観測が市場で発生したことが、アジアでのガソリン価格に上方圧力を加えた結果、3月中旬から4月中旬にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は拡大する傾向が見られる。

ナフサについても、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来が視野に入りつつあることから、ガソリンに混入するナフサの需要が増加することにより、ガソリンを製造し米国に輸出している欧州方面からアジアへのナフサの流れが低下するとの見方が市場で発生したうえ、アジア諸国の製油所が春場のメンテナンス作業実施時期に突入しつつあったことで、地域市場での供給が低下するとの観測がナフサ価格を下支えしたものの、3月から4月にかけ日本や韓国を含むアジアにおける石油化学部門でのナフサ分解装置がメンテナンス作業実施により操業を停止することに伴い、ナフサの需要が低下するとの見方が市場で発生したことが、ナフサ価格を抑制する方向で作用したことから、3月中旬から4月中旬にかけてのナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサの価格がドバイ原油のそれを下回っている)は上下に変動しつつも拡大する傾向が認められる。

3月13日には1,200万バレル強の量であったシンガポールの中間留分在庫は、3月20日には1,000万バレル台後半の量へと減少したが、3月27日には1,100万バレル台後半の水準へと上昇した。また、4月3日には1,100万バレル弱の量へと若干減少したものの、4月10日には1,100万バレル台前半の水準へと上昇するなど、比較的限られた範囲内で変動しつつも減少傾向となっている。中国をはじめとするアジア諸国で春場の製油所メンテナンス作業実施時期に突入しつつあることから、中国や韓国を含むアジア各国からシンガポールへの中間留分供給が低迷する反面シンガポールからアジア諸国各国への中間留分輸出が促進されていると見られることが在庫を減少させる方向で作用している一方で、欧州とアジアとの軽油等の価格差縮小(後述)に伴うアジアから欧州方面への中間留分の流出鈍化が、当該製品在庫を限られた範囲内で変動させている背景にあるものと見られる。そして製油所でのメンテナンス作業実施に伴う製品供給低下観測が市場で発生していることが、例えばアジアでの軽油価格を下支えしているものの、冬場の暖房需要期に欧州での軽油在庫が低水準であったことから、欧州の軽油価格のアジアのそれを上回る度合いが拡大した結果、アジア方面から欧州に向け軽油が流出したものの、それがかえって欧州の軽油在庫を増加させる格好となったことで、両地域での軽油価格差が縮小した結果、アジア方面から欧州方面への軽油の流出が減速しつつあることや、アジア諸国で製油所のメンテナンス作業実施時期に突入しつつあるものの、軽油等の供給が思ったほど低下していないとの感覚が市場関係者の間で強まったことが、アジアでの軽油価格に下方圧力を加えたうえ、原油価格の上昇に軽油のそれが追い付かなかったことから、当該製品価格とドバイ原油価格との差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は上下に変動しつつもどちらかというと縮小の傾向を示している。

3月13日には2,200万バレル台前半の量であったシンガポールの重油在庫は、3月20日には2,000万バレル台半ば程度、3月27日には1,900万バレル台半ば程度の量へと減少した。ただ、4月3日及び10日には2,100万バレル台後半の水準へと上昇している。シンガポールでは2019年2月にかけ重油在庫が増加傾向となったものの、それがかえって欧州での重油価格差を縮小させることになった結果、欧州方面からの重油の流入が低下したことが最近でのシンガポールでの重油在庫の減少傾向に関係している可能性がある。しかしながら、冬場の暖房のための電力供給用発電部門向け重油需要期は気温の上昇とともに終了に向かいつつあることもあり、この先の需要の鈍化観測が市場で強まりつつあることが、重油価格に下方圧力を加えた結果、3月中旬から4月中旬にかけての重油とドバイ原油との価格差(この場合重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は上下に変動しつつも拡大する傾向が見られる。

2.2019年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場等の状況

2019年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場では、米国と中国との貿易問題を巡る協議の進展に伴い両国経済に対する障害が除去されるとの期待感が市場で増大したことに加え、米国及び中国の経済指標類が両国の経済改善を示唆したこと等により、石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退した一方、目標に到達する方向でロシアが減産を推進しつつある旨同国エネルギー相が表明したこと、3月のOPEC産油国原油生産量が前月比で減少したこと、ベネズエラでの停電が原油出荷インフラ操業に打撃を与えたこと、リビアで並存する東西両政府の対立が激化したこと、米国がイラン革命防衛隊をテロ組織に指定したこと等が原油価格に上方圧力を加えた結果、原油相場は上昇傾向となり、4月10日には2018年10月末以来の高水準に到達した(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~19年)

3月18日には、この日サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、石油在庫が減少するまでは減産方針を変更しない旨示唆したことで、OPEC及び一部非OPEC産油国による減産措置の2019年後半への延長に対する期待が市場で増大したことに加え、3月15日の米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で108万バレル減少した旨米国石油情報関連サービス会社Genscapeが報告したと3月18日に報じられたことで、米国原油先物契約受渡地点での石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.57ドル上昇し、終値は59.09ドルとなった。3月19日は、米国と中国との貿易協議において、中国の交渉姿勢が後退している旨3月19日に報じられたことで、両国間の関税賦課合戦の終息と経済成長抑制及び石油需要増加に対する障害排除に向けた期待感が市場で後退したうえ、3月20日に米国エネルギー省(EIA)から発表される予定である同国石油統計(3月15日の週分)で原油在庫が増加しているとの観測が市場で発生したことが原油価格に下方圧力を加えた反面、3月18日にサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、石油在庫が減少するまでは減産方針を変更しない旨示唆したことで、OPEC及び一部非OPEC産油国による減産措置の2019年後半への延長に対する期待が市場で増大した流れを引き継いだことが原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.03ドルと前日終値比で0.06ドルの下落にとどまった。3月20日には、この日EIAから発表された米国石油統計で、原油、ガソリン及び留出油在庫が前週比でそれぞれ959万バレル、459万バレル、413万バレルの減少と市場の事前予想(原油同31~175万バレル程度の増加、ガソリン同210~240万バレル程度の減少、留出油同110~210万バレル程度の減少)に反し、もしくは上回って減少している旨判明したことに加え、3月19~20日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で、米国連邦準備制度理事会(FRB)が2019年の金利引き上げ回数予想をゼロと、2018年12月18~19日のFOMC開催時の2019年の金利引き上げ回数予想である2回から下方修正したことで、米国の金融引き締まり観測が市場で後退するとともに米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.80ドル上昇し、終値は59.83ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2019年4月渡し原油先物契約は取引を終了したが、5月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり60.23ドル(前日終値比0.94ドルの上昇)であった)。3月21日の原油価格の終値は1バレル当たり59.98ドルと前日終値比で0.15ドル上昇したが、NYMEXの5月渡し原油先物契約同士では同0.25セントの下落であった。これは、3月21日に開催された欧州連合(EU)首脳会議で英国が提案していた6月30日までの同国のEU離脱交渉の延長案(当初の期限は3月29日)をEUが退けたことで英国のEU離脱方法を巡る不透明感が市場で増大したこともあり英ポンド及びユーロが下落したことに加え、3月21日に発表された新規失業保険申請件数(3月16日の週分)が22.1万件と前週比で0.9万件の減少となった他市場の事前予想(22.5万件)を下回ったことに加え、米国非営利民間調査機関コンファレンスボードから発表された2月の景気先行指数(2016年=100)が111.5と前月比で0.2%上昇するとともに市場の事前予想(同0.1%の上昇)を上回ったことで米ドルが上昇したことによる。3月22日には、この日英国経済関連情報サービス会社IHSマークイットから発表された、ドイツ、フランス及びユーロ圏全体の3月の総合購買担当者指数(PMI)(速報値)(50が景気拡大と縮小の分岐点)がそれぞれ51.5、48.7、及び51.3と前月(ドイツ52.8、フランス50.4、ユーロ圏51.9)から低下した他、市場の事前予想(ドイツ52.7~52.8、フランス50.7、ユーロ圏52.0)を下回ったことで、欧州地域での経済減速に対する懸念が市場で増大したこともあり、ユーロが下落した反面ドルが上昇するとともに、世界経済減速懸念から米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.01ドル下落し、終値は58.97ドルとなった。

また、3月22日に、3ヶ月物米国債利回りが10年物米国債利回りを上回るという「長短金利逆転現象」が発生したことにより米国景気後退に対する懸念が市場で増大した流れを3月25日の市場が引き継いだこともあり、同日の米国株式相場が一時下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり58.82ドルと前週末終値比で0.22ドル下落した。3月26日には、この日ロシアのノバク エネルギー相が同国の減産目標達成に関し、その方向に向かいつつある旨明らかにしたことで、3月4日に同相が表明した3月末までに日量22.8万バレルの減産を行うという目標に同国原油生産量が到達することに対する期待が市場で増大したことに加え、3月17日に発生したヒューストンでの石油化学製品貯蔵施設での火災により、流出した化学製品を堰き止めていた堰が3月22日に決壊した結果ヒューストン運河に化学製品が流出したことに伴い同運河での船舶航行が停止した結果、同運河奥にある製油所への原油の搬送に支障が発生するとの懸念が市場で増大したこと、3月25日に発生したベネズエラでの大規模停電の影響で、同国の主要原油輸出港であるホセ(Jose)港(石油出荷能力日量160万バレルとされるが、最近の出荷量はそれを大幅に下回っている)での原油出荷作業及び4ヶ所の原油改質施設の操業が停止した旨3月26日に報じられたことで、同国からの原油供給減少に対する不安感が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.12ドル上昇し、終値は59.94ドルとなった。3月27日には、この日EIAから発表された米国石油統計(3月22日の週分)で原油在庫が前週比で280万バレルの増加と市場の事前予想(同120~250万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことに加え、3月27日に欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が、ユーロ圏経済見通しに関し下振れリスクを認識しており、必要であると判断されれば金利引き上げ時期を後ろ倒しにする用意がある旨明らかにしたことで、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.41ドルと前日終値比で0.53ドル下落した。3月28日も、この日朝に米国のトランプ大統領が「OPECは原油供給を増加させることが非常に重要だ。世界市場は壊れやすいし、価格は高騰しつつある。」旨表明したことで、この先OPEC産油国等による減産方針が後退するのではないかとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.11ドル下落し、終値は59.30ドルとなった。この結果原油価格は3月27~28日の2日間で併せて1バレル当たり0.64ドル下落した。ただ、3月29日には、この日EIAから発表された2019年1月の米国原油生産量(確定値)が日量1,187万バレルと前月比で同9万バレル減少している旨判明したことに加え、3月29日に米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で816基と前週比で8基の減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は769基と同7基減少)となっている旨判明したこと、3月28~29日に北京で実施されていた米国と中国との貿易協議が建設的であった旨3月29日に米国ホワイトハウス他が表明した他、中国の新華社通信も協議で進展が見られた旨同日報じたこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.84ドル上昇し、終値は60.14ドルとなった。

また、3月31日に中国国家統計局から発表された3月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が50.5と2月の49.2から上昇した他市場の事前予想(49.5~49.6)を上回ったうえ、4月1日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された3月の中国製造業PMI(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が50.8と2月の49.9から上昇した他市場の事前予想(49.9~50.0)を上回ったことに加え、4月1日に米国供給管理協会(ISM)から発表された3月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が55.3と2月の54.2から上昇した他市場の事前予想(54.5)を上回ったこと、3月のOPEC産油国原油生産量(速報値)が前月比で日量28万バレル減少したとロイター通信が4月1日に報じたうえ同日ブルームバーグ通信も当該生産量(速報値)が前月比で同29.5万バレル減少したと報じたことで、石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、4月1日の原油価格の終値は1バレル当たり61.59ドルと前週末終値比で1.45ドル上昇した。また、4月2日も、4月3日にEIAから発表される予定である米国石油統計(3月29日の週分)で原油在庫が減少しているとの観測が市場で発生したことに加え、4月1日に米国政府高官が5月頃にイランに対し追加制裁を実施すべく検討している旨明らかにしたと同日遅くに伝えられたことで、米国及びイランとの対立の先鋭化に対する懸念が市場で増大したこと、ベネズエラの原油輸出港であるホセ港が停電のため操業を停止している旨関係者が明らかにしたと4月1日遅くに報じられたことで同国からの原油供給減少に対する不安感が市場で増大したことから、この日(4月2日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.99ドル上昇し、終値は62.58ドルとなった。この結果原油価格は4月1~2日の2日間で併せて1バレル当たりドル2.44上昇した。ただ、4月3日には、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比724万バレルの増加と市場の事前予想(同10~80万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことに加え、同国の原油生産量が日量1,220万バレルと1983年以降の同国週間統計史上最高水準に到達した旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.12ドル下落し、終値は62.46ドルとなった。4月4日も、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、4月4日にドイツ経済省から発表された2月の同国鉱工業受注が前月比で4.2%の減少と2017年1月(この時は同4.2%減少)以来の大幅な減少となった他、市場の事前予想(同0.3%の増加)に反し減少していた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり62.10ドルと前日終値比で0.36ドル下落した。この結果原油価格は4月3~4日の2日間で併せて1バレル当たり0.48ドルの下落となった。しかしながら4月5日には、リビア東部トブルクを拠点とする東部政府(暫定議会)を支援するリビア国民軍(LNA:Libyan National Army)が、統合政府(国連から支援を受ける事実上の中央政府)が拠点とする西部の首都トリポリに向け進軍するよう指示を受けた旨4月3日に報じられたうえ、4月4日にはトリポリの南方約80キロメートルに位置する都市であるガリヤン(Gharyan)を掌握した他、4月5日においてもトリポリへの進軍を続けていることから、同国が内戦状態に陥ることにより原油供給が途絶するのではないかとの懸念が市場で増大したことに加え、4月5日に米国労働省から発表された同国非農業部門雇用者数が前月比で19.6万人の増加と市場の事前予想(同17.7~18.0万人の増加)を上回ったことで、同国経済減速と石油需要伸びの鈍化懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.08ドルと前日終値比で0.98ドル上昇した。

4月8日には、リビアのLNAが、国連をはじめとする海外勢力の停戦呼びかけを無視してトリポリへの進軍を続けるとともに、4月8日にはトリポリ郊外にある空港を空爆するなど、戦闘状態が激化しつつあることから、同国からの原油供給減少に対する懸念が市場で増大したことに加え、4月8日に米国のトランプ大統領がイランの革命防衛隊(IRGC)をテロ組織に指定、イランも同日米国をテロ支援国家、中東地域を担当する米国中央軍をテロ組織に指定したことで、両国の対立先鋭化と原油供給への影響に対する不安感が市場で増大したこと、また、4月5日の米国オクラホマッシングの原油在庫が前週比で41.9万バレル減少した旨Genscapeが明らかにしたと4月8日に報じられたことから、WTI原油先物契約受渡地点での石油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、さらに、4月10日に開催予定のECB理事会を前にして持ち高調整が発生したこともありユーロが上昇した反面米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.32ドル上昇し、終値は64.40ドルとなった。しかしながら、4月9日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定が市場で発生したことに加え、4月9日にロシアのプーチン大統領が、現状の原油価格に満足している他制御不能な原油価格の上昇を支持しない旨表明した一方、OPEC産油国との協調減産の延長を希望するかどうかについては発言できる状況にない旨明らかにしたことで、OPEC及び一部非OPEC産油国の減産措置延長による石油需給引き締まり観測が市場で後退したこと、4月9日にEIAから発表された「短期エネルギー展望(STEO)」でEIAが2019年の米国原油生産量予想を日量1,239万バレルと3月12日時点での予想である同1,230万バレルから上方修正したこと、4月9日に国際通貨基金(IMF)から発表された「世界経済見通し(World Economic Outlook)」でIMFが2019年の世界経済成長率見通しを1月11日発表時点の3.5%から3.3%へと2016年以来の低水準にまで下方修正したことで、石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で発生したこと、4月9日に米国のトランプ大統領がEUによるエアバスへの補助金を不服として、当該地域からの110億ドル相当の製品に関税を賦課する旨表明したことで、世界経済成長と石油需要の伸びに対する不安感が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.98ドルと前日終値比で0.42ドル下落した。ただ、4月10日には、この日OPECから発表されたOPEC月刊オイル・マーケット・レポートで、2019年3月のOPEC産油国の原油生産量が日量3,002.2万バレルと前月比で同53.4万バレル減少した旨明らかになったことで、石油需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、4月10日にEIAから発表された米国石油統計(4月5日の週分)でガソリン在庫が前週比で771万バレルの減少と2017年9月28日(この時は同843万バレル減少)以来の大幅減少となった他、市場の事前予想(同190~215万バレル程度の減少)を上回ったことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.63ドル上昇し、終値は64.61ドルとなったが、この終値は2018年10月31日(この時は同65.31ドル)以来の高水準なものであった。しかしながら、4月10日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で703万バレル増加の4.57億バレルと2017年11月17日(この時は4.57億バレル)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(同230~280万バレル程度の減少)を上回った流れが4月11日の市場に引き継がれたことに加え、4月11日にIEAから発表されたオイル・マーケット・レポートでIEAが2019年の世界石油需要見通しにつき下振れリスクが存在する旨示唆したこと、ベネズエラやイランからの原油供給が減少し、原油価格が上昇し続けるようであれば、OPEC産油国等は7月以降増産に転ずることがありうる旨関係筋が示唆したと4月11日に報じられたことで、石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.58ドルと前日終値比で1.03ドル下落した。そして、4月12日には、この日中国税関総署から発表された3月の同国輸出総額(米ドル建て)が前年同月比で14.2%増加と2月の同20.8%減少から持ち直した他、市場の事前予想(同6.5~7.3%の増加)を上回ったことに加え、リビアNOCのサナラ会長が、同国の東西両政府間での戦闘激化により原油生産が完全に停止する恐れがあると表明した旨4月12日に報じられたことで同国からの原油供給途絶懸念が市場で増大したこと、4月12日に発表された米国大手金融機関JPモルガンの2019年1~3月期の業績が市場の事前予想を上回ったこともあり米国株式相場が上昇したこと、3月の中国輸出総額が市場の事前予想を上回ったことから投資家のリスク許容度が改善したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.31ドル上昇し、終値は63.89ドルとなっている。

3.今後の見通し等

トランプ政権内では、イラン制裁免除の期限である5月2日(当初5月4日とされたが4月2日に米国国務省イラン担当特別代表のフック氏は5月2日が期限であることを明らかにしている)以降に免除を延長することに関し、ボルトン大統領補佐官(免除を撤廃しても大して原油価格は上昇しないと主張)とポンペオ国務長官(フック氏がイラン原油の市場からの急な排除は原油価格の上昇につながると主張)で議論が分かれていると3月26日に伝えられる。他方、4月8日にトランプ大統領は、イランのIRGCをテロ組織に指定する旨表明した。(テロ組織指定は4月15日に発効するとポンペオ国務長官は4月8日に明らかにしている)。これにより、IRGCと取引する企業は不法行為を行っているものと認識されることになる(もっとも既に米国は1984年1月19日にイランをテロ国家として指定している他、IRGCは別途米国により制裁を科されている(革命防衛隊による米ドル調達を防止するための制裁措置を実施した旨2018年5月11日に米国財務省が発表した)ことから、今回の指定は象徴的な意味合いが強いと見る向きもある)。4月8日にはイランの最高安全保障委員会(国防・外交を担当)は、米国を「テロ支援国家」、中東地域を担当する米国中央軍をテロ組織と認定する旨発表した。これに伴い4月8日にイランのアラクチ外務次官はイラン周辺地域に拠点を設け活動している米軍をテロ活動と判断し対処する旨表明している。イスラエルのネタニヤフ首相とサウジアラビアは米国によるIRGCのテロ組織指定を歓迎する旨4月8日(イスラエル)及び4月9日(サウジアラビア)に報じられる。

また、1967年6月5~10日に行われた第三次中東戦争時にイスラエルが占領したゴラン高原の主権はイスラエルにある旨承認する文書に米国のトランプ大統領は3月25日に署名した。同日イスラエルのネタニヤフ首相はトランプ氏の決定を歓迎する意を表明したものの、シリアは自国領である旨反発している。また、3月26日にはイランのロウハニ大統領が当該署名を批判、サウジアラビア、バレーレーン、カタール、クウェートも署名を批判、英国、フランス、ドイツ、ベルギー、ポーランドもゴラン高原でのイスラエルの主権を否定する旨表明した(これ以外にロシア、中国、日本、及び国連のグテレス事務総長も批判していると3月26日に伝えられる)。他方、3月22日に米国のトランプ大統領はシリアでのイスラム国(IS)の拠点が3月21日夜の時点で全て消滅した旨発表した(ただ、米国国務省のシリア担当特別代表のジェフリー氏は対IS掃討作戦はまだ完了しているわけではない旨3月25日に発言している)。

リビアでは、LNAを指導するハフタル将軍(エジプト、UAE及びサウジアラビアが背後で支援しているとの指摘もある)が軍に対しトリポリへと進軍するよう指示した(4月3日に軍が指示を受けた旨の報道もある)ことにより、軍はトリポリに向け進軍を続けており、4月9日には国連のサラメ事務総長特使は当初開催を予定していたリビアでの東西両政府(統合政府と暫定議会)による和平協議を延期する方針である旨明らかにした。また4月10日朝には、「北アフリカ物理探鉱会社(Nageco: North African Geophysical Exploration Company)」の本部が空爆を受けた(壁が崩落し国際職員の住居棟が炎上)と報じられる。

米国のポンペオ国務長官は、ベネズエラに駐在していた外交官が全員ベネズエラから退避した旨3月14日に発表した。また、3月15日には米州開発銀行が、グアイド国会議長の支持する候補(ハーバード大学のハウスマン教授)をベネズエラ代表として認識する旨承認した。他方、駐ニューヨーク ベネズエラ領事館等3ヶ所の外交機関をグアイド国会議長派勢力が掌握した旨3月18日に米国国務省が明らかにしている。他方、3月19日に米国とロシアがローマで協議を行った(米国はエイブラムス特別代表(ベネズエラ問題担当)、ロシアはリャブコフ外務次官が出席)が協議は決裂した旨伝えられる。そのような中、アゼルバイジャンのシャフバゾフ エネルギー相とベネズエラのケベド石油相が3月19日に会談、その後アゼルバイジャンのエネルギー省は、ベネズエラはインドに向けた原油輸出を取りやめた旨明らかにした(他方インド(Reliance)は、米国からベネズエラへの石油製品の輸出を停止したが、欧州やインド等他の地域からベネズエラへ石油製品を輸出している旨3月20日に報じられる)。さらに、3月21日未明にベネズエラ政府情報当局がグアイド国会議長の首席補佐官マレロ氏を拘束した旨グアイド氏が3月21日に述べている(マドゥロ大統領暗殺を含む暴動先導及びテロ行為計画を行っている容疑でマレロ氏を拘束した事実を検察側は認めたと同日報じられる)。同日米国ボルトン大統領補佐官及びポンペオ国務長官は直ちに同氏を釈放するように要求する他、ボルトン氏は米国がマドゥロ政権に対してさらなる制裁を科する可能性がある旨警告している。3月23日にはカラカス近郊の空港にロシア空軍機2機(ロシアの防衛及び軍事関係者が搭乗していたと伝えられる)が着陸、3月24日に1機が離陸した。これに対し3月25日に米国のポンペオ国務長官はロシアのラブロフ外相に対しロシアのベネズエラへの介入を看過するつもりはない旨明らかにしている他3月27日にはトランプ大統領もロシア軍はベネズエラから撤収すべきであり、そのために全ての選択肢を視野に入れている旨表明している(ロシア側は3月28日にベネズエラに対し軍事協力協定に則り軍事分野での技術協力を行うために専門家を派遣したが、これはベネズエラの介入ではない旨表明)。3月29日に米国のボルトン大統領補佐官は、ロシア軍がベネズエラに派遣されていることに関し、国際平和や域内安全保障を直接脅かすものであると認識する旨警告した他、ベネズエラと取引した米国外企業に対しても米国は制裁を実施する旨対処する方向で検討をしている旨表明した。また、トランプ大統領も3月29日にベネズエラに対しさらなる制裁を実施すべく検討しているが、恐らくしかるべき時点でマドゥロ大統領を支持するロシア及び中国と協議することになるであろう旨明らかにしている。他方、ベネズエラのグアイド国議長が最高裁判所による出国禁止命令に反し出国したことから議員特権を剥奪するよう4月1日に最高裁判所は制憲議会(マドゥロ大統領が国会の機能を停止する代わりに設置した、マドゥロ大統領支持派を中心とする議会)に要請する旨表明した(これによりグアイド氏の不逮捕特権が剥奪されることになり、同氏が逮捕・拘束される可能性が発生)が、4月2日に制憲議会はグアイド氏の議員特権剥奪を満場一致で承認した。そして、ロシアは必要によってはさらなる軍事関係者派遣を行う可能性がある旨4月4日にベネズエラの外務次官が示唆している。他方、3月25日午後の早い時間にベネズエラの多くの地域で再び停電が発生した(前回は3月7日夕方に発生)。マドゥロ大統領は電力供給施設が外部から攻撃(サイバー攻撃のことを指していると見られる)を受けたようだと主張している。ロドリゲス通信情報相は電力供給は回復しつつある旨3月25日に明らかにしたものの、ホセ港は3月26日現在操業を停止している他4ヶ所の原油改質施設は3月27日午後になっても操業が再開していない旨報じられる(実際停電復旧の兆候が見えたのは3月28日であると同日伝えられる)。ホセ港は3月29日に操業を再開したものの停電で再び操業を停止した旨4月1日遅くに報じられる。また、原油改質装置2基は操業を再開した旨4月9日に伝えられる。

地政学的リスク要因面では、当面ベネズエラ、イラン及びリビアが注目を浴びるであろう。ベネズエラに関しては、1月28日に米国は同国企業のPDVSAからの原油購入を事実上停止する旨の制裁を加えており、既に米国のベネズエラからの原油輸入量はほぼゼロになっているが、米国以外の企業に対してもベネズエラとの商業的関係を差し控えなければ制裁に直面する旨圧力を強めていることから、今後米国外のベネズエラ原油輸入国でも輸入量が減少すれば、相当程度のベネズエラ産原油が事実上市場から排除されることになり、この分だけ、石油需給の引き締まり感が市場で強まることになろう。また、制裁に加え、大規模な停電がしばしば発生するとともに石油輸出インフラ等の操業に影響が及んでいることもあり、3月の同国の原油生産量は日量87万バレルと同100万バレルを割り込む程度に減少している(2016年1月は日量240万バレル、2019年2月は日量114万バレルであった)(データはIEAによる)が、マドゥロ政権によりグアイド氏が逮捕・拘束されるようであれば、国内が混乱するとともに、米国及びロシア(既に軍事関係者100名が派遣されているとされるが、場合によってはさらに増派される可能性がある)等が介入する可能性が高まることから、同国産原油供給にさらなる支障が生じる恐れが発生する結果、石油需給の一層の引き締まり感を市場が意識することにより、原油相場に上方圧力が加わることも考えられる。

他方、イランについては中国、インド、日本、韓国、台湾、トルコ、イタリア及びギリシャの8ヶ国・地域に対し180日間の同国産原油輸入禁止制裁免除を米国から賦与されている(輸入認可数量は非公表)が、この期限が5月2日に到来する予定であり、この日までに米国が制裁免除期限を延長するかどうか、また、延長するとしても、どの程度の規模となるか、ということに市場の関心が集まることになろう。制裁免除が更新されなければ、現在日量170万バレル前後と推定されるイランからの原油輸出が削減されるとともに、その分だけ石油需給が引き締まるか、それが他のOPEC産油国の増産により代替されれば、その分だけ利用可能な余剰生産能力が減少する(2019年3月現在利用可能なOPEC産油国余剰生産能力(イランを除く)は日量330万バレルであるが、イランの原油輸出が完全に停止すれば、当該余剰生産能力は推定同160万バレルとなり、世界石油需要に占める割合は1.6%になるが、これは2008年に原油価格が1バレル当たり150ドルに到達したときの割合(概ね2%台半ば)を下回る)。ベネズエラやリビアといった他に原油生産が不安定な産油国が存在することからすると、利用可能な余剰生産能力の大幅な減少は、石油市場関係者間での石油供給不足可能性に対する懸念の増大につながるため、その懸念故に原油相場には上方圧力が加わる可能性がある。また、4月8日には、米国のトランプ大統領がイランのIRGCをテロ組織に指定するとともに、イランも同日報復措置として米国政府をテロ支援国家に、米国中央軍をテロ組織に指定する旨発表するなどしており、これにより両国の対立がこの先さらに先鋭化すれば、中東地域情勢の一層の不安定化に伴い地域からの原油供給に支障が生ずるとの懸念が市場で増大することを通じて原油価格にそれが織り込まれるといった場面が見られることもありうる。

リビアについては、Sharara油田での操業上の安全が確保されたとして生産が再開されたこともあり3月の同国の原油生産量は日量110万バレルと2月から同20万バレル増加しているが、東西両政府の対立が激化する兆候が見られる他、石油サービス会社の本部が攻撃を受けるなど、同国石油産業の操業が脅かされる状態となっている。そして東西両政府の軍が衝突等することにより、事実上の内戦状態に突入すれば、石油ターミナル等の石油生産・出荷関連施設が直接被害を受ける可能性がある他、統合政府傘下の同国国営石油会社NOCの機能が麻痺する結果同国からの原油供給体制に支障が生ずるとの不安感が市場で高まる結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、これとは別にNOCに対し地域住民及び油田関連施設での従業員が待遇改善要求を行うべく当該施設封鎖を行う結果、同国産原油生産量が変動するとともに、それが原油相場に反映される可能性も残っている。

他方、3月25日に米国のトランプ大統領はゴラン高原をイスラエルの領土である旨承認したが、これが発端となり、イスラエル及び米国と、シリア及びその同盟国でありシリア国内に軍事基地を設置し軍事関係者を駐留させているイランとの対立が高まるとともに、ミサイル攻撃の応酬等が激化するようだと、中東地域全体が不安定化することに伴い地域からの石油供給に支障が発生するとの懸念が市場で増大する結果、原油相場にそれ等の要素が織り込まれる可能性がある。

経済面では、米国と中国との貿易問題に関する協議が市場の注目を受け続けるであろう。米国及び中国双方から当該協議は進展している旨しばしば発信されており、問題解決と関税撤廃に対する観測が強まっていることが、経済成長と世界石油需要の伸びの回復への期待を市場で増大させるとともに原油相場に上方圧力を加えている。そして、このような米国及び中国の政策当局関係者からの交渉進展の表明により関税撤廃への期待感が市場で継続することが原油相場を下支えする、という展開はありうる。しかしながら、両国にとって解決の困難な問題は残っているとされ、4月4日には4週間以内に当該問題は解決するとしていた米国のトランプ大統領も、4月5日には交渉がそれ以上に継続する可能性がある旨示唆しているところからすると、2018年3月23日以降賦課された関税を撤廃、もしくは税率を相当程度引き下げる段階に踏み込めるまではそれなりに時間を要する可能性がある。そして、関税が有意に引き下げらない間は、米国及び中国での経済に対し関税賦課が足枷となり続けることから、いずれ経済減速を示唆する両国等の経済指標類の発表頻度が増加し、石油需要の伸びの鈍化観測が市場で強まることにより、原油価格に下方圧力を加えるようになる可能性がある。

また、4月30日~5月1日にはFOMCが開催される予定である。当該委員会において政策金利が2.25~2.50%で据え置かれる可能性が4月12日時点で99.5%あるため、FOMCでの金利水準決定自体は原油相場にそれほど大きくない影響は与えないものと考えられる。しかしながら、3月29日にクドロー国家経済会議(NEC)委員長がFRBは即時0.5%の利下げを実施すべきだと主張している他4月5日にはトランプ大統領も利下げが望ましい旨表明するなど、FRBへの利下げ圧力の増大が取り沙汰されており、FOMC開催前後のFRB関係者からの米国経済状態に対する認識及び金融政策に対する考え方等の発信内容によっては、石油需要の伸び、もしくは米国金融当局による金利等の政策に対し市場の観測が発生する結果、原油相場が左右される可能性がある。また、今後発表される予定である米国、欧州及び中国等の経済指標類の内容によっても経済と石油需要の先行きに対する市場の見方が変化するとともに原油相場に圧力を加える場面が見られることもありうる。さらに、4月に入り米国主要企業等の2018年1~3月期業績等が発表され始めており、これは当面継続する予定であることから、業績(もしくは業績見通し)の内容等によって株式相場が変動するとともに、それが米国等の石油需要に対する市場の見方に反映されることを通じ原油相場にその影響が織り込まれるといった展開も考えられる。

米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2019年は5月27日の戦没将兵追悼記念日(メモリアルデー)に伴う連休(5月25~27日)から9月2日の労働祭(レイバーデー)に伴う連休(8月31日~9月2日)までである)が市場関係者の視野に入るとともに、製油所が春場のメンテナンス作業実施を終了し稼働を上昇、原油精製処理量を増大させるとともに原油購入を活発化させることから、季節的な石油需給の引き締まり感が強まってくる。そして、これによりガソリン相場とともに原油相場に上方圧力を加えやすくなると考えられる。他方、OPEC産油国の減産措置については、3月時点でサウジアラビアが減産目標を上回る程度に減産を実施している他、クウェート及びUAEも減産目標に到達、イラクも減産目標に接近していることもあり、OPEC産油国全体として減産遵守率が100%を超過している状態にあるなど、石油需給引き締めに対するOPEC産油国の積極的姿勢が示されており、これが原油相場に上方圧力を加える一因となっている。これに対し米国のトランプ大統領は2月25日に「原油価格が高騰しつつある。OPECよ、力を抜いて落ち着きたまえ。世界は価格上昇を受け入れられないし、壊れやすい!」と発言したうえ3月28日にも再度「OPECは原油供給を増加させることが非常に重要だ。世界市場は壊れやすいし、価格は高騰しつつある。」と発言するなど、原油価格上昇とOPEC産油国等の減産措置を事実上牽制する発言を行っている。しかしながら、2月25日のトランプ大統領の牽制に対し2月27日にサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相は、「OPEC産油国は落ち着いており、非常に緩やかで慎重な方法で減産を行っている」と反論した他、3月28日のトランプ大統領の発言に対しては特段の反応は示していない。このようなことから、サウジアラビアをはじめとするOPEC産油国はトランプ大統領の発言に配慮せず、減産を継続するとの観測を市場で増大させることにより、原油価格が上昇する格好となっている。ただ、4月8日には、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相がOPEC及び一部非OPEC産油国の減産措置につき5月(日時等は現時点で未定)に開催が予定されているOPEC及び一部非OPEC産油国共同閣僚監視委員会(JMMC)までには石油需給状況等が判明すると見られることから、減産を延長するかどうかの判断が可能となる旨明らかにしている。足元の石油在庫はなお平年を7,000~8,000万バレル超過している旨サウジアラビアは認識しているものの、石油需給は引き締まりつつあり、これ以上減産を実施する必要はないと考えているとも発言している。さらに、ベネズエラやイランからの原油供給が減少し、原油価格が上昇し続けるようであれば、OPEC産油国等は7月以降増産に転ずることがありうる旨関係筋が示唆したと4月11日に報じられている。このため、5月のJMMCでは7月以降の減産方針の変更につき何らかの表明がなされる可能性がある。もっとも、4月8日時点で全米平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり2.826ドルに到達しており、ガソリン小売価格高騰に対する消費者の不満が顕在化する同3ドルに迫りつつあることから、トランプ大統領は国民による支持の毀損を回避するべく、より強硬にOPEC産油国に対し増産するよう圧力を加えてくる(さもないと、トランプ大統領の原油価格上昇牽制発言は上辺だけのものでしかないと市場から受け取られることにより、原油価格、そしてガソリン小売価格がなお一層上昇するとともに、米国の消費者による不満が増大、それがトランプ大統領の支持率により大きく影響するといった展開となりうる)。そしてその場合OPEC産油国、特にサウジアラビアは、対イラン包囲網やイエメン内戦で米国から支援されていること、カショギ記者殺害事件に際しサウジアラビアのムハンマド皇太子関与の疑いを不問としていること等などトランプ大統領の配慮を受けているところからすると、同大統領の要望を完全に無視しきれない結果、OPEC産油国等が5月のJMMC開催以前に減産措置を緩和すべく方針を変更することもありうる。しかしながら、サウジアラビア側は国家予算手当上の理由からブレント価格で最低1バレル当たり70ドル(WTIでいうところの同60ドル前後)は必要であるとの認識を持っていると伝えられており、加えて減産措置の緩和を目立つ形で発信すれば市場心理が急激に変化するとともに原油価格の急落を招くこともありうる(これまで原油先物市場では資金運用者による買い越し残高が急増している分だけ、当該残高を取り崩す勢いも大きなものとなる結果原油価格が急落するリスクを内包している)ため、減産措置緩和に伴い想定される市場への影響に関する検討を慎重に行う結果減産措置の発信に手間取るようだと、サウジアラビアがトランプ大統領の要望を軽視していると市場に受け取られるうえ、それが他の原油価格上昇要因と重なった場合には、原油相場がなお一層上昇する場面が見られることもありうる。他方、米国原油生産量及びその見通し、石油坑井掘削装置稼働数に関する統計等も原油相場に攪乱要因的に作用するものと考えられる。

全体としては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近するとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まりつつあることから、原油相場は当面上昇しやすいうえ、地政学的リスク要因面で、イラン、ベネズエラ及びリビア等の情勢が混迷を深める展開となる場合には、これら地域からの石油供給途絶懸念が市場で高まることにより、原油相場に上方圧力を加える可能性がある。他方、米国でのガソリン小売価格が高騰しつつあることから、トランプ大統領は減産措置を推進するOPEC産油国に対しより強い増産圧力を加える結果、OPEC産油国の減産方針が転換し、原油価格に下方圧力を加える可能性はあるが、原油価格急落を恐れるサウジアラビア等の減産措置緩和に関する意思決定がもたつくようだと、短期的には石油需給引き締まり感が市場で一層強まることにより、一時的にせよ、原油価格が上振れするといったリスクを抱えているものと考えられる。

4.過去1年間程度の原油価格差の動向に関する考察

ここ1年程度の間で原油価格は異なる性状及びその背景を持つ原油の種類によって特徴的な動向が見られた。ここでは、主要な原油間の価格差を見ることにより、それぞれの原油価格の傾向とその背景につき考察を加えることとしたい。

まず、WTI(API比重42.0度、硫黄含有分0.45%)であるが、2017年8月下旬に米国メキシコ湾岸地域にハリケーン「ハービー(Harvey)」が来襲したことに伴う、冬場の暖房シーズン到来による暖房用石油製品需要期突入を控えた市場での当該製品需給引き締まり感の増大、2017年9月27日の米国のトランプ大統領による減税措置案の発表(実際2018年1月1日から法人税をそれまでの35%から21%に引き下げた)に伴う市場での企業業績改善と株式相場の上昇、2018年5月8日の米国のイラン核合意からの離脱と対イラン制裁再発動の発表、2018年6月22日に開催されたOPEC総会、そして6月23日に開催されたOPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚級会合における事実上の増産決定に基づくサウジアラビア等の増産によるイラン原油供給減少代替と世界原油供給の余裕(つまり余剰原油生産能力)の低下に対する市場の懸念等により、原油価格は2017年8月30日のWTIで1バレル当たり45.96ドルから2018年10月3日には同76.41ドルへと上昇したこともあり、米国の本土48州陸上での原油生産はシェールオイルを中心として2017年8月の日量708万バレルから2018年3月には日量960万バレル(推定)へと増加した(図16参照)。そして、原油生産の増加とともに、従来から原油輸出が認められていたカナダ以外の諸国への原油輸出が2015年12月18日に実質的に解禁された米国では原油輸出量が増加傾向となり、2015年12月には日量39万バレルであった同国の原油輸出量は2018年10月には同233万バレルへと増加した(その大部分はメキシコ湾岸地域からと見られる一方で、東部海岸や中西部地域からの原油輸出は現在でもほぼ全てカナダ向けである)。

図16 米国本土48州原油生産と輸出(2018~19年)

しかしながら、米国のシェールオイル開発・生産の中心であるパーミアン盆地(Permian Basin)では、2018年半ば以降は原油を米国メキシコ湾岸等他地域に輸送するためのパイプライン能力が限界に到達したと見られる(製油所等での原油精製処理能力に乏しいことから他地域に原油を輸送する必要があるパーミアン盆地から他地域に流出させるパイプライン輸送能力は日量350~360万バレル程度とされるが、当該地域での原油生産量は2018年8~9月には日量350~360万バレルを超過した)。このため、一部は鉄道で原油が輸送されていると推定されるものの、内陸部から米国メキシコ湾岸地域への原油輸送の隘路(ボトルネック)の発生に伴い、米国メキシコ湾岸地域からの原油輸出(そしてそれは米国原油輸出の太宗を占めるものであった)は2018年半ば前後以降日量200万バレル強の水準で伸び悩むようになった。ただ、2018年11月6日にはパーミアン盆地の位置する内陸部(テキサス州Midland/Loving)から米国オクラホマ州クッシングへと原油を輸送するSunriseパイプライン(操業者:Plains All American Pipeline、輸送能力日量32.5万バレル)が完成した(これによりパーミアン盆地の位置するテキサス州やニューメキシコ州といったメキシコ湾岸地域からオクラホマ州クッシングといった中西部地域への原油の移動が活発になっている、図17参照)ことに加え、それまで天然ガス液(NGL)を輸送していたSeminoleパイプライン(操業者:Enterprise Products Partners、ニューメキシコ州Hobbs~米国メキシコ湾岸地域、輸送能力日量28万バレル)が原油パイプイランに転換され、2019年2月6日には原油輸送を開始した(当初輸送量は日量20万バレル程度と推定される旨2月12日に伝えられる)ことにより、米国の内陸地域からメキシコ湾岸地域への原油輸送量が増加したものと推定され、これに伴い米国からの原油輸出量も2019年3月には推定同285万バレルへとSunriseパイプライン操業開始前の2018年10月から日量52万バレル増加した。それでも、クッシングから米国メキシコ湾岸地域への原油輸送パイプライン能力(Seawayパイプライン(クッシング~フリーポート、操業者Enterprise Products Partners 及びEnbridge、輸送能力日量85万バレル)及びGulf Coastパイプライン(クッシング~ヒューストン/ポート・アーサー、操業者TransCanada、同70万バレル)はこの時期増強されたわけではなかったことから、ここに隘路が形成される格好となった。そして、2018年秋場や2019年春場の製油所でのメンテナンス作業実施で原油精製処理活動が低下することによる製油所での原油受け入れ低下と併せ、クッシングでの原油在庫は2018年10月から2019年3月にかけ増加傾向となった(図18参照)。このようにWTI先物契約受渡地点での原油需給が緩和してきたことがWTI原油価格に下方圧力を加えたこともあり、例えば、米国メキシコ湾岸で生産及び出荷される(つまり内陸で生産されるWTIに比べ流動性が高く相対的に輸出が容易である)軽質低硫黄原油であるLLS(Light Louisiana Sweet、API比重38.5度、硫黄含有分0.39%)やブレント(API比重37.9度、硫黄含有分0.45%)に対しWTIが価格面で下回る程度が拡大しつつある(図19参照)。

図17 米国メキシコ湾岸から中西部へのパイプラインによる原油の流れ(2018~19年)

図18 米国クッシング原油在庫(2018~19年)

図19 対WTI原油価格差(2018~19年)

また、2019年1月28日の米国のベネズエラに対する制裁に伴いベネズエラの原油生産量が減少するとともに米国のベネズエラからの原油輸入が事実上ほぼ停止した(図20及び図21参照)。他方、カナダからのオイルサンド由来のものを含む重質高硫黄原油輸入も原油輸送パイプライン能力に制約があったことに加え、中・重質高硫黄原油を中心に生産するメキシコにおいても、国営石油会社Pemexの長年に渡る石油探鉱・開発部門での独占的で非効率的な操業体制のもと、投資不足と油田の老朽化から原油生産が減少傾向を示していたことから、米国の両国からの原油輸入量も伸び悩み気味となった。加えて、前述の通り2018年5月8日には米国のトランプ大統領がイラン核合意からの離脱を表明するとともにイランに対し制裁を再発動する旨発表、180日間の猶予の後、2018年11月5日以降は同国産原油輸入国に対し輸入を大幅に制限する(2018年6月28日には米国国務省幹部は完全な輸入の停止を企図している旨明らかにしていたが、2018年11月5日には8ヶ国・地域に対しイラン産原油(中質高硫黄原油が中心である)輸入禁止を180日間免除する旨発表、ここにおいて制裁免除となるイラン産原油輸入量は未公表とされているが、2019年3月現在日量170万バレル程度の原油が輸出されていると推定され、これは制裁発表前の輸出量である日量250万バレルの約3分の2である)ことを明らかにした。そして、2018年8月以降イラン産原油輸出量は有意に減少し始めた。さらに、2018年12月7日にはOPEC総会、そしてOPEC及び一部非OPEC産油国による閣僚級会合で2019年1月1日から減産措置を実施することが決定、そして実際にサウジアラビア等の中東湾岸産油国の原油生産は減少し始めた。この場合減産措置の中心となるサウジアラビア等中東湾岸OPEC産油国では相対的に割安になりやすい中・重質高硫黄原油の減産が優先されると言われている。このように、イラン、サウジアラビア等の中東湾岸OPEC産油国、ベネズエラ、メキシコ、カナダ等で中・重質高硫黄原油の供給が低下した、もしくは伸び悩んだことにより、軽質低硫黄原油に比べ、中・重質高硫黄原油の価格が堅調に推移する傾向が見られた。例えば、同国メキシコ湾沖合で生産される(従って内陸で生産されるWTIに比べ輸出が相対的に容易である)中質高硫黄原油であるMars(API比重28.0度、硫黄含有分1.93%)は品質ではWTIよりも劣るにもかかわらず、価格ではWTIを上回る状態となっている他、LLSに対しては割安となっているものの、2019年1月以降その差を縮小している。また、ドバイ(API比重31.0度、硫黄含有分2.04%)はブレントに対してその割安感が薄れたうえ、2018年11月以降はブレントを価格面で上回る場面も見られる(図22参照)。これはロシア産の中質高硫黄原油であるUrals(API比重30.6度、硫黄含入分1.48%)についても同様であり、2018年12月及び2019年1月においてはブレントの価格が品質において劣るUralの価格を下回る場面が見られている。さらに、ドバイとUralsを比較してみると、2018年初頭にはドバイの価格を上回っていたUralsの価格はその程度を縮小したうえ、2018年央以降はしばしばドバイの原油価格を下回る場面が見られるようになっている。そして、ドバイとMarsを比較してみても、イラン制裁発動時期が迫るつれドバイがMarsを上回る程度が拡大している。これは中東地域での中・重質高硫黄原油需給引き締まり感が他の地域に比べ強いことを反映していることによるものと思われる(もっとも2019年1月以降はベネズエラからの原油供給減少懸念からMarsがドバイを価格面で下回る程度は縮小している)。なお、2018年7~8月はWTIの価格が他の原油価格を下回る程度が縮小する場面が見られるが、これは2018年6月22~23日に開催されたOPEC総会等でOPEC産油国等による増産を決定した一方で、イラン産原油輸出がまだ有意な減少を示していたわけではなかったことから、一時的に石油需給緩和感が市場で醸成されたことによるものと考えられる。他方、米国による制裁により原油供給が制限されたイラン産原油であるIran Heavy(API比重30.7度、硫黄含有分1.8%)の価格については、制裁発動時期に向かうにつれドバイのそれを下回る度合いが拡大しているが、これは価格を引き下げることによりできるだけ販売数量を拡大しようとしているイランの努力の表れであると考えられる。

図20 サウジアラビア、クウェート、UAE及びベネズエラの原油生産量(2018~19年)

図21 米国の地域別原油輸入(速報値)(2018~19年)

図22 対ドバイ原油価格差(2018~19年)

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