ページ番号1007774 更新日 平成31年5月13日

マレーシア、ペトロナスに関する考察(前編)

レポート属性
レポートID 1007774
作成日 2019-05-13 00:00:00 +0900
更新日 2019-05-13 13:36:38 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業
著者 加藤 望
著者直接入力
年度 2019
Vol
No
ページ数 15
抽出データ
地域1 アジア
国1 マレーシア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アジア,マレーシア
2019/05/13 加藤 望
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概要

マレーシアの国営石油・ガス会社であるペトロナスは、Fortune Global 500 の2018版では総収入ベースで191位に、またPetroleum Intelligence Weekly誌の2018年世界のNOC & IOCランキング100によれば21位に位置し、世界の石油・ガス会社の中では堅実なポジションを維持している。

しかし、2018年5月のマレーシアにおける政権交代が与える影響から同社も免れない状況にある。本報告書は2部構成とし、今回の前編では、ぺトロナスを企業として捉え、その沿革、組織および2018年選挙の影響等を概観する。後編では、マレーシアでのペトロナスによる上流開発についておよびサラワク州との関係に触れる予定である。

前編は、主にペトロナスの沿革、組織および財務的な特徴に論点をおいている。

主な内容は次の通り。

  • 前ナジブ首相が関与した国営投資ファンド「1MDB」に関して、不適切な支出が行われたとして捜査対象となっており、国家債務が膨れている。
  • また、選挙戦でのポピュリズム的な公約が、政権交代と共に政権与党により実施され、国家歳入に影響を与えている(例:GST(付加価値税)の廃止)。
  • これら政治的な活動に対して、ペトロナスは積極的に関与せずに一歩下がった立場を堅持してきている。
  • しかし、100%政府保有でありかつ、首相直轄であるペトロナスは、その財務基盤は磐石と言われているものの、時の政権の方針を無視することはできない。

(ペトロナス HP、同年次報告書、Eurasia Group、Platts他)

はじめに

東南アジアのNOC(国営石油会社:National Oil Company)の中では、最も成功しており海外への進出にも熱心なペトロナス。ペトロナスのこれまでの歩みと現状について報告する。

ペトロナスについて触れる前に、マレーシアの一般情勢について概観する。

表1 マレーシアの一般情勢
面積 約33万平方キロメートル
人口 約3,200万人(2017年マレーシア統計局)
首都 クアラルンプール
民族構成 マレー系(69%)、中国系(23%)、インド系(7%)
言語 マレー語(国語)、中国語、タミール語、英語
宗教 イスラム教(61%)、仏教(20%)、儒教・道教(1%)、ヒンドゥー教(6%)、キリスト教(9%)、その他
国の成り立ち 15世紀初め          マラッカ王国成立
16世紀~17世紀   ポルトガル、オランダ東インド会社によるマラッカ支配
1824年               英蘭協約によりマレー半島及びボルネオ島西北部が英国の勢力範囲下となる。イギリスによる植民地支配。
1942年~1945年  日本軍による占領
1948年               英領マラヤ連邦形成
1957年               マラヤ連邦独立
1963年               マレーシア成立(シンガポール、サバ、サラワクを加える)
1965年               シンガポールが分離,独立。
政治体制 立憲君主制
元首:統治者会議で互選。アブドゥラ第16代国王(任期5年、バハン州スルタン)
議会:二院制    上院:70議席、任期3年。44名は国王任命、26名は州議会指名。
                      下院:222議席、任期5年。直接選挙(小選挙区制)
首相:マハティール・ビン・モハマッド(2018年5月就任、任期5年、92歳)
主要産業 電気機器等製造業、天然ゴム、パーム油、木材等の農林業及び原油、LNG、錫などの鉱業
主要経済指標 一人あたりGDP: 11,340米ドル(2017年IMF)
経済成長率: 2014年6.1%、2015年4.9%、2016年4.2%、2017年5.9% (マレーシア投資開発庁)
物価上昇率: 2014年3.1%、2015年2.1%、2016年2.1%、2017年3.7% (マレーシア投資開発庁)
失業率: 2017年3.4% (マレーシア投資開発庁)
為替レート 1米ドル=約4.14リンギ、1リンギ=約26.6円(2018年12月31日マレーシア中央銀行終値)

出所 外務省HPより

今回、ペトロナスを調査対象とし、情報の入手に着手してみると期待していたよりも情報量は少ない。一方、ペトロナスの年次報告書や四半期毎の報告書およびホームページの内容は的確で詳細に亘っている。ただし、基本的な財務情報は継続性が維持されているがその他のコスト削減、社員数などの時々により掲載され、また定性的に記述されることもあり、その年度のトピックスについて触れるに留まっている感がある。更に、リスク情報はあまり書かれていないように見える。

本報告は新聞記事、業界紙、ペトロナスの年次報告書(Annual Report)および2018年8月および11月に日本とクアラルンプールで行ったペトロナスの国内上流部門の幹部とのヒアリングによるところが大きい。また、途中在シンガポールのペトロナス・ウォッチャーとして知られるコンサルタントと面談し意見交換を行った。

1.ペトロナスの沿革

マレーシアの国営石油会社ペトロナス(Petronas: マレー語正式名称はPetroliam Nasional Berhad)は、マレーシア石油開発法に基づき1974年8月17日に設立された。当時は、1973年の第一次石油危機の直後で、植民地時代に旧宗主国を中心とする先進国資本によって開発されてきた資源を自国の所有・管理の下に置く資源ナショナリズムが高揚した時期であった。

石油開発法はペトロナスに石油に関するすべての所有、権利、権限を帰属させ、同社による石油開発を規定する法律である。従来、連邦や州に帰属していた石油関連のすべての権利・権限がペトロナスに委嘱されることになった。また、翌1975年の石油開発法修正によって、石油・石油化学製品の精製や石油化学分野における販売や流通権もまたペトロナスに帰属することになった。

現在、マレーシア国内外において100%子会社176社を抱え、50%超の株式ないし影響力を有する関連会社は52社、50%未満の関係会社は53社に上り、石油・天然ガスの探査・開発・生産、石油精製、石油製品販売、ガス供給をグループ全体で事業として展開しているグローバル企業である。Fortune Global 500 の2018年版では総収入ベースで191位に、またPetroleum Intelligence Weekly(PIW)誌による各NOCおよびIOCを石油・ガスの生産高、埋蔵量、売上高および精製能力より導き出した「2019年世界のNOC & IOCランキング100」によれば、ペトロナスは21位にランクされている。因みに、ペトロナス設立の手本になったと言われるインドネシアのプルタミナは28位にランクされている。

(沿革)

1974年 国営石油会社として設立。政府100%保有。石油開発法に基づいて石油資源保有権が与えられる。

1975年 精製・石油化学分野における製造・販売権が付与される。

1978年 探鉱・生産事業での活動拡大のため、Petronas Carigali Sdn Bhd設立。

1978年 Malaysia LNG Sdn Bhd(MLNG)設立 (ペトロナス 90%, Sarawak州5%, 三菱商事5%)。
LNG事業に参入。ビンツル(Bintulu)にLNG プラントMLNG 1(Train 1-3)の建設開始。

1982年 MLNG 1建設完了。第一船は1983年1月に日本向けに出荷。

2012年 カナダシェール企業のProgress Energyを買収。

    同年 マレーシアで最初のLNG再ガス化設備建設。

2016年 世界初のFLNG船PFLNG1 が生産開始。

2017年 カナダPacific North West (PNW)LNGプロジェクトより撤退。

2018年 Shell主導のLNG Canadaに持分権益25%にて参加。同プロジェクトは10月2日にFID。

図1 ペトロナスの沿革 出所 ペトロナス年次報告書2017より

また、マレーシアの油田は、マレー半島東側沖合と、サバ、 サラワク両州沖合に集中しているが、マレーシアの石油開発の歴史は、1911年にShellが北ボルネオ・サラワクでミリ油田を発見したことに始まる。それ以降、Shellによって、ボルネオを中心に石油探鉱・開発が進められた。一般に、「マレーシアにおけるShellの歴史は、そのままマレーシアの石油開発の歴史である」と言われている。ペトロナスの技術および経営的な基盤の多くがShell由来とも言われる。Shellはマレーシアのサラワク沖およびサバ沖に45の油・ガス田の権益を保有すると共に、マレーシア国内の上流事業の幾つかでオペレーターを務めている。また、両社が権益を有するエジプトのIdkuのLNG液化プラント、既に撤退したがイラクのマジェヌーン油田およびShellがオペレーターを務めるLNG カナダへペトロナスが2018年参入したことなど、依然としてShellとペトロナスにはある程度の関係性があることが窺える。

2.組織的特徴

ペトロナスは、1974年石油開発法によれば「会社(ペトロナス)は、時宣を得て適切と判断した指示を発する首相の管理と指示に服する」(第3条2項)となっている。一方で、第3A条ではペトロナスがビジネス上のあらゆる権限を持っていると規定している。財務省が全額出資していることから財務省傘下の一国営企業という形式的な位置づけであったが、マレーシア首相府(Prime Minister’s Office)とは密接に連絡を取り、報告と相談を行っていた。正式にマレー首相府の管轄に2018年10月に置かれた。インドネシアのプルタミナはペトロナスとの比較参考のためによく引き合いに出されるが、プルタミナはインドネシアの国営企業省の傘下であり、エネルギー鉱業資源省には従属していない。また、インドネシア大統領はエネルギー政策に口を挟むことがマスコミ報道から窺える。一方、マレーシア首相府とペトロナスとのやり取りの内容は外に漏れることはほとんどないうえに、首相がペトロナスの個々の事業などのビジネス上の判断に口だしをすることはないようだ。これは、2010年にCEOに着任したMr. Shamsul Azhar Abbas氏が標榜し実行した「国営石油会社らしさを減らし、能力主義中心のプロフェッショナル集団になる」という組織改革に取組んだことに負うものが大きい。同時に政府に対して民間会社の商業主義を教えこみ、四半期毎の決算書の公表も始めた。

マレーシアには石油省、エネルギー省という名称の監督官庁はなく、電力についてもエネルギー委員会が全体(除くサラワク州。そこでは政府が電気事業者)を監督しているという他の東南アジアには見られない特徴を有している。

 

ペトロナスのBoardメンバーは2018年10月15日付で入れ替えが行われた。Boardメンバーは首相の任命によって選任され首相府が公表している。それまで15名であったBoard メンバーは、2018 年10月末時点では計11名(内女性3名)である。2名(CEOとCFO)は執行役員を兼務しているが、9名は社外取締役である。社外取締役の内、現役の政府官僚は2名でマレーシア首相府に属している。更に2名が元政府官僚(中央銀行など)である。また、石油製品や石油化学製品等の下流部門の製品は、それらを管轄する各省の監督に属する。即ち、国内流通省(Ministry of Domestic Trade and Consumer Affairs)や通商産業省(Ministry of International Trade and Industry)の管轄に入る。なお、パイプラインは個別の運営会社に属し上流部門(Upstream)の扱いではないが、LNG液化プラントはトレインによってJ/Vにて所有されるものの、全体としては上流部門に属する。また、再生可能エネルギーは電力事業と共に電力事業者が取組んでいる。

 

以下の図は、ペトロナスの組織図である。事業部門は、大きく二つに分かれ上流部門と下流部門である。

上流部門は、更に「マレーシア国内」、「海外プロジェクト」および「LNG」に分かれる。マレーシア国内担当部署は、MPM(Malaysia Petroleum Management)と呼ばれ、国内開発と生産を所掌している。海外における探鉱開発も上流部門内で行われているが、海外における展開や投資決定がどのようになされるかという質問をペトロナス幹部に投げかけたところ、上流部門担当の上級副社長がCEOおよび他の関係副社長と協議して決定しているという回答であった。また、組織の特徴として幹部社員の異動や交代は頻繁に行われており、適時に人事の動きを追う事は容易ではない。

図2 ペトロナス組織図(Upstreamを中心として。2018年8月現在) 出所 各種情報からJOGMEC作成

3.財務実績

過去6 年間の財務状況を以下に示す。 原油価格の下落(2014年5月以降)を反映した2015年および2016年の落ち込みから2018年にかけて順調に回復していることが窺える。

表2 ペトロナスの売上高および純利益推移(2013年~2018年)
年度 売上高 税引き後純利益 通期平均為替レート
(対米ドル)
2018年(1月~12月)

RM250,976百万

(≒US$62,277百万)

 

前年同期比RMベース+12.2 %
同US$ベース+19.8%

RM55,310百万

(≒US$13,725百万)

 

前年同期比RMベース+21.5%
同US$ベース+29.7%

1RM=US$4.03
2017年(1月~12月)

RM223,622百万

(≒US$52,005百万)

 

前年比RMベース+14.6%
同US$ベース+10.6%

RM45,518百万

(≒US$10,586百万)

 

前年比RMベース+91.6%
同ドルベース+84.9%

1RM=US$4.30
2016年(1月~12月)

RM195,061百万

(≒US$47,003百万)

 

前年比RMベース-21.2%
同US$ベース-26.0%

RM23,762百万

(≒US$5,726百万)

 

前年比RMベース+13.9%
同ドルベース+7.0%

1RM=US$4.15
2015年(1月~12月)

RM247,657百万

(≒US$63,502百万)

 

前年比RMベース-24.8%
同US$ベース-36.9%

RM20,860百万

(≒US$5,349百万)

 

前年比RMベース-56.2%
同ドルベース-63.3%

1RM=US$3.90
2014年(1月~12月)

RM329,148百万

(≒US$100,657百万)

 

前年比RMベース+3.7%
同US$ベース-0.1%

RM47,613百万

(≒US$14,561百万)

 

前年比RMベース-27.4%
同ドルベース-30.1%

1RM=US$3.27
2013年(1月~12月)

RM317,314百万

(≒US$100,735百万)

RM65,586百万

(≒US$20,821百万)

1RM=US$3.15

出所 ペトロナス年次報告書およびペトロナス・グループ Financial Results Announcement

図3 過去6年間の売上高および税引後利益の推移 出所 ペトロナス年次報告書およびFinancial  Results Announcements より JOGMEC作成

次の図4は、売上高の構成を表したものである。上流部門の直接的な売上高は、LNG 22% 、原油とコンデンセート(Crude Oil & C2017ondensate)15%およびSales & Natural Gasの計48%である。ただし、これには海外権益分も含まれている。図5は上流部門を含め売上高全体に海外での売上、輸出高およびマレーシア国内の売上高を示したものである。輸出および国内売上は2013年と2014年は約57%であったが、2017年は67%と売上高の約3分の2であった。しかし、海外での売上には上流部門も下流部門も含まれており、上流部門だけの海外売上高に占める比率は不明である。

図4 2017年売上高構成比 出所 ペトロナス年次報告書2017

図5 海外、国内および輸出の各売上高と比率 出所 ペトロナス年次報告書2017

4.配当とIPOについて

4.1 2019年マレーシア予算

2018年11月2日にマレーシア政府は2019年予算を発表した。予算額は、予備費を除き3,145億5,000万リンギ(約8兆5000億円、1リンギ=27.12円@2018年12月5日現在)と2018年当初予算2,903億5,000万リンギに比べて8.3%の伸びを示した。[1]

2018年5月の総選挙でナジブ前首相からマハティール首相へ政権交代が行われ、その後、新政権によって前首相の「1MDB」というPPP(Public Private Partnership)を利用した汚職疑惑が次々と明るみに出た(ナジブ前首相の汚職疑惑の概要は末尾資料に記載)。2018年6月末時点での政府債務は従来判明していた額より3,500億リンギ増加し1兆650億リンギ(約28兆9000億円)あり、そのうち「1MDB」絡みの債務は70億リンギ(約1,900億円)である。

また、政権与党であるパカタン・ハラパン党が掲げた選挙公約のうち100日以内に実施する旨掲げた10公約の一つに物品・サービス税(GST:Goods and Service Tax、税率6%)をゼロレートにするというものがあり、実際2018年6月1日に実施された。2018年の歳入予算の約15.9%を占める440億リンギのGSTのうち6月以降分が無くなり、歳入欠陥が生じた。その後、9月1日付発効の税改正により1970年代から2015年3月までに適用されていたSST(Sales & Services Tax、税率 Sales 10%、Service 6%)が復活した。ただし、対象品目とサービスが限定されていることから歳入としては210億リンギ(通年と仮定して)しか回復しないといわれている。納税義務を有する税籍登録会社数もGSTの47万2000社からSSTでは10万社に激減している。

また、過去数年に亘って行われた所得税の過剰納付やゼロレートの実施により還付しなければならないGSTが総額で354億リンギある(約9,600億円)とされている。内訳はGST還付が194億リンギ、所得税還付が160億リンギである。


[1] Ministry of Financeおよびジェトロビジネス短信 2018年11月30日号

4.2 2019年特別配当について

他の政府債務と異なり、政府は上記の354億リンギの還付金を2019年中には返済したいとの意向がある。マレーシア政府には他の財源が無いため2019年予算にはペトロナスが300億リンギ(約8,136億円)の特別配当を拠出することが予算案に盛り込まれた。

以下の図は、ペトロナスの過去5年間の配当および税金ならびにCash Paymentで表されているRoyaltyと輸出税の総額、即ち政府に納めた額の推移である。それ以前、2009年には政府歳入の40%近くまで達したこともあるが、2017年の政府歳入に占めるペトロナスの貢献度は427億リンギでおよそ20%であった。2018年決算による普通配当は240億リンギ~260億リンギを見込んでいると予想されている。2018年の配当は50億リンギット既に仮払いとして2018年中に支払っており、差し引いた残りは2019年に支払われることになる。加えて2019年には特別配当が求められるのである。

図6 ペトロナスのマレーシア政府に対する貢献 出所 ペトロナス年次報告書2017

4.3 ペトロナスの配当性向

次の図から明らかなように2016年の配当は純利益を超え約100%超の配当を政府に支払っている。2015年以降急激に配当性向が上昇したのは前ナジブ政権の乱脈運営の影響との指摘もある。 因みに、インドネシアのプルタミナの配当性向は、税金を考慮しない配当額では一貫して30%台である。

図7 ペトロナスの配当性向 出所 ペトロナス年次報告書2017

注: 本図の配当性向の計算には、図6の配当が確定した額であるのに対し本図では翌年度分の先払いの仮配当が含まれるため単純には計算できない。

4.4 ペトロナスの格付け

特別配当の2019年国家予算への組み入れの報道を受け、格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは、11月9日付でペトロナスの格付けをA1に据え置く一方で、格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。これは特別配当に対する一つの格付け会社の評価を示すものであり、他の大手格付け会社のS&P Global Ratingは、一回限りの特別配当は格付け上サポート可能という判断によりA-の評価を維持、同じくフィッチ・レーティングスも、配当金の支払いがペトロナスに与える影響は限定的であると述べAA-変わらずとしている。[2]

 

[2] International Oil Daily 2018年11月13日付

4.5 ペトロナス上場の噂

ペトロナスを上場させるという噂は、これまで何回か出ている。2018年6月にUpstream誌にも取り上げられている。[3]また、10月5日には首相府はCFOに前PriceWaterHouseCoopers(PwC)のパートナーであったTengku Muhammad Taufik Tengku Aziz氏を指名し、10月15日付でBoard Memberに迎え入れたのもIPOの噂の信憑性に重みを増したようである。シンガポールのペトロナス・ウォッチャーによれば、政府内もしくはペトロナス内のどこかで検討は行われた、あるいは行われているであろうということである。

マレーシア・リザーブ紙2018年10月8日付記事[4]によるとペトロナスが上場した場合、17年通期決算での税引き後利益456億リンギに基づくと、企業価値は最大8,000億リンギに達するとみられている。仮に株式25%を売却すれば、2,000億リンギの資金が調達できる計算で、これは17年の国家予算(約2,803億リンギ)の7割に相当する。Saudi Aramcoの上場問題と同じく、どこの取引所で上場するのか、上場審査に耐えうる情報開示が可能かどうかとの問題はつきまとうのであるが、ペトロナスは既述のように、株主が政府だけであるのに拘らず、年次報告書を始め詳細な財務報告書を作成し監査法人のお墨付きを貰っている。これは、ペトロナスに対する国会や政権内部の批判、例えば経営の透明性が担保されていないという批判をかわすし、経営の政治からの独立性を維持するためと言われている。

特別配当(前4.2項参照)を2019年国家予算に組み入れたことにより、上場の噂はひとまず落ち着いているようだ。


[3] Upstream誌 2018年6月4日付、NNA(共同通信グループ)2018年10月9日付(マレーシア・リザーブ紙、同10月8日付)

[4] NNA Asia (共同通信グループ)2018年10月9日付マレーシア・リザーブ紙10月8日付記事引用

5.前編のおわりに

これまで見たように、ペトロナスは株式会社組織であり、Boardメンバーも極力民間出身者で多数を占めており、政府の顔色を窺いながら業務運営するのではなく自主自立的な運営を行っている。このことは意思決定の速さという利点を生んでいる。しかし、政府が100%の株式を保有している事実には変わりはなく、おそらく最大の懸念は、ペトロナスの国家歳入への貢献度の高さとそれに伴う政府の期待であろう。端的には配当性向の高さにそれが見て取れる。

ペトロナスが国営石油会社として成功した理由は、ほとんどのアジアの国営石油会社が時間と資源をナショナリズムな政府ないしは国会の対応に費やされ、悩まされていることを考えると、日常業務において独立性を保持していることによることが大きい。

政府の所有権を排除すれば、ペトロナスの信用度はマレーシアのソブリンの信用度よりも堅実だ」とS & Pグローバル格付け会社はいう。同時に政府が唯一の株主であることから、ペトロナスの信用度と貸借対照表の質に悪影響を及ぼす可能性があるという点についても述べている。[5]

ペトロナスのもう一つのイメージはクリーンなことであろう。過去、汚職や贈収賄に絡んで新聞紙上を賑わしたスキャンダルはほとんど見当たらない。ナジブ前首相が絡んだ国営投資ファンド「1DMB」が推進した二つのパイプライン計画、Multi-Product Pipeline および Trans-Sabah Gas Pipeline、は石油開発法の趣旨からするとペトロナスの承認を取って進められるべきものであるが、これにはペトロナスは関与していない。このパイプライン・プロジェクトはそもそも必要性が疑われていたうえに94億リンギの契約金額に対して進捗率は僅か13%に過ぎないのに対し、中国コントラクターに対しては88%相当が支払い済みであるというスキャンダルである。東南アジアでは、依然として汚職や賄賂が当然視され、一種の文化ともいえる慣行が根付いているが、ペトロナスでは西洋的な倫理観、規律(Discipline)と潔癖さが相当に浸透しているのか、そのようなスキャンダルは聞こえてこない。また、前述したように頻繁に幹部職員の配置転換を行って、業者との癒着を引き起こさないようにしていることが功を奏しているのかもしれない。

(後編につづく)


[5] Platts Oil Gram 2018年5月14日

(末尾資料)ナジブ前首相の汚職疑惑(2018年5月~11月各種報道記事を要約)

ナジブ前首相は2013年の前回の選挙の前に個人口座で「1MDB(ワン・マレーシア・デベロップメント・ブルハド)」の資金とみられる約7億ドル(約765億円)を受領した疑惑が15年に発覚後、不正を否定し中傷する人々に激しく反撃。司法長官を解任し、自身に逆らう4閣僚を追放。名誉毀損で訴訟を起こし、批判的なニュースのウェブサイトを閉鎖したという。2018年5月の選挙はこの疑惑とナジブ強権政治に対する民意が反映されたと言ってもよい。ナジブにとっては予想外の敗北で、首相の座を追われたことから妨害工作を指揮することも出来なくなった。マハティール首相は、新たな捜査が「できる限り早急に」決着することを求めると述べ、「米国やスイス、シンガポールと連絡を取る必要がある」と付け加えた。

 

政権交代と2018年5月の総選挙後の捜査再開は、世界中に波紋を広げそうだ。米司法省やシンガポール金融通貨庁など多数の国で調査が進行しており、米当局はスイスやシンガポールなどの不正なペーパーカンパニーや不透明な取引を通じて45億ドル余りを「1MDB」関係者が資金洗浄したとみている。2018年11月には米司法省は、ゴールドマン・サックス・グループの元行員2名を「IMDB」事件の主犯格との会合に出席していたとし、海外腐敗防止法違反で起訴した。両被告は資金洗浄ならびにマレーシアとアブダビの政府高官に賄賂を支払ったという。

以上

(この報告は2019年5月13日時点のものです)

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