ページ番号1007775 更新日 令和1年5月15日
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
概要
- ケニアでは、1950年代にBritish Petroleum(BP)とShellによりLamu堆積盆で探鉱が開始された。2012年には、第三紀リフト堆積盆のSouth Lokichar亜堆積盆[1]において商業規模の油田が初めて発見され(条件付資源量(2C)約5.6億バレル)、現在Ngamia、Amosing、Twiga油田においてTullow Oil、Total、Africa Oilのコンソーシアムにより原油生産に向けたプロジェクトが進んでいる。
- 上流開発と、South LokicharからLamu港へ至る全長821キロメートルの原油輸出パイプライン建設を一体として進めている。
- コストの問題及び地元住民からの反対によりパイプライン建設が遅延しており、これにより計画にも遅れが生じているが、2022年の生産開始(プラトー生産量6~8万b/d)を目指している。
(AfrOil、Upstream、各社HP他)
[1] 第三紀リフト(Tertiary Rift)堆積盆等と区別するため、本稿ではSouth Lokicharを「亜」堆積盆と表記する。詳しくは本文で述べる。
1.油田探鉱開発及び石油産業の現況
1-1. ケニアの石油需給と埋蔵量
ケニアでは2012年に英Tullow Oil(以下Tullow)により商業規模の油田が発見され(後述)、原油の条件付資源量(2C)は約5.6億バレル(Tullow)とされている。現在同社が中心となって原油生産プロジェクトを進めているが、本格的な商業生産には至っていない。そのため、石油消費(2016年11.4万b/d(EIA))の全量を、主に中東やインドからの輸入に依存しているのが現状となっている。同国では、Mombasa港から輸入した石油製品を、石油製品パイプラインで国内に供給し、残りをトラックでウガンダ等の周辺国に輸送しており、この点から、東アフリカにおける石油供給の中継地としても重要な役割を担っている。
1-2. 油田探鉱開発の現況[2]
ケニアの堆積盆はその発達時期により大きく以下の4つの堆積盆に分けられる。なお、本稿で取り上げるSouth Lokichar亜堆積盆は第三紀リフト[3](Tertiary Rift) 堆積盆に含まれる。
- Mandera 堆積盆(二畳紀~三畳紀およびジュラ紀~白亜紀)
- Lamu 堆積盆(ジュラ紀~第三紀)
- Anza 堆積盆(白亜紀~第三紀)
- 第三紀リフト(Tertiary Rift) 堆積盆(第三紀)
(図1参照)
[2] 本項では、「平成28年度 産油・産ガス国開発支援協力事業ケニア共和国の油田開発現状及び課題の調査」 (一般財団法人 石油開発情報センター)p.54-56、70-73、82を参照した。
[3] 大地溝とも呼ばれ、ほぼ平行に発達する正断層群によって形成された狭長な地形的凹地帯をいう。
第三紀リフト堆積盆はさらに6つの亜堆積盆(Lotikipi、Turkana、South Lokichar、Suguta-Magadi trough、 South Kerio trough、Nyanza trough)に分けられる。いずれも南北方向にトレンド(方位角)を持つ断層に囲まれている。
同国における石油開発の歴史は古く、1950年代にBritish Petroleum(BP)とShellによりLamu堆積盆で探鉱が開始されたことに端を発する。この時、両社に対してLamu堆積盆の沿岸付近のブロックL4(図1参照)が付与され、2次元地震探査が実施された。その結果に基づいて1960年に同鉱区内に試掘井2坑が掘削された。その後1992年にShellがSouth Lokichar亜堆積盆にて試掘2坑を実施し、原油が確認された。これらを含め1992年までにケニア全土でLamu堆積盆を中心として32坑の試掘井が掘削され、そのうち19坑で油ガス徴を確認したが、商業発見には至らなかった。
同国における石油開発の歴史は古く、1950年代にBritish Petroleum(BP)とShellによりLamu堆積盆で探鉱が開始されたことに端を発する。この時、両社に対してLamu堆積盆の沿岸付近のブロックL4(図1参照)が付与され、2次元地震探査が実施された。その結果に基づいて1960年に同鉱区内に試掘井2坑が掘削された。その後1992年にShellがSouth Lokichar亜堆積盆にて試掘2坑を実施し、原油が確認された。これらを含め1992年までにケニア全土でLamu堆積盆を中心として32坑の試掘井が掘削され、そのうち19坑で油ガス徴を確認したが、商業発見には至らなかった。
ケニアの第三紀リフト堆積盆はウガンダのアルバートリフト堆積盆と類似しており、以前から探鉱ポテンシャルの高い地域として注目されていたが、2006年にウガンダ(アルバートリフト堆積盆)で初めて商業量の油田が発見されると、ケニア西部の第三紀リフト堆積盆にも改めて注目が集まることとなった。
第三紀リフト堆積盆のブロック10BBは、2007年にTurkana Drilling Consortium (Kenya)が権益を取得したが、2009年にAfrica Oilの子会社Africa Oil Kenya B.V.がTurkana Drilling Consortium (Kenya)を買収し、同ブロックの100%権益を取得した。
同じくブロック13Tは、2008年にPlatform Resources Inc.が権益を取得したが、2010年にAfrica OilがPlatform Resourcesを買収し、Africa Oil Kenya B.V.に100%の権益を譲渡した。
2010年時点では両ブロックの権益はすべてAfrica Oil Kenya B.Vが保有していたが、2011年にTullow(Tullow Kenya B.V)が両ブロックにファームインし、50%を取得しオペレーターとなった(図2)。
その後、2012年3月ブロック10BBの試掘井Ngamia 1/1Aよりケニア初の商業規模のNgamia油田が発見された。さらに、2014年にかけて同じ10BB鉱区でAmosing油田、西に隣接する13T鉱区でTwiga油田が発見され(ケニア全体で条件付資源量(2C)約5.6億バレル)(図3)、これまで、Amosingには5坑、Ngamiaには9坑、Twigaには3坑の試探掘井が掘削されている。
なお、ブロック10BB、13Tともに、2016年にMaersk OilがファームインしAfrica Oilの保有する50%の権益のうち25%を取得したが、2017年にTotalがMaersk Oilを買収したことで、Totalが25%を保有することとなった。これにより、ブロック10BB、13Tの現在の権益割合はTullow 50%、Africa Oil 25%、Total 25%となっている。
1-3.原油生産プロジェクト
South Lokichar亜堆積盆ではNgamia、Amosing、Twiga油田においてTullow、Africa Oil、Totalが原油生産プロジェクトを進めており、プラトー生産量6〜8万b/d、油田開発費(capex)は約18億ドルとされている(Tullow推計)。現在、豪WorleyParsonsによりFEEDが進行中であり、FIDは2019年後半、初出荷は2022年を見込んでいる。
同国におけるSouth Lokichar油田開発プロジェクトの全体像としては、上流開発と原油輸出パイプライン建設(後述)を一体として進め、最終的にはパイプラインによる輸出を目指すものである。現在はEarly Oil Pilot Scheme(以下、EOPS。後述)として、生産された原油(2,000 b/d程度)をTurkanaからインド洋のMombasa港までトラック輸送しているが、South LokicharからLamu港へのパイプライン完成後は、これを通じて輸送することを想定している。
同国産原油は軽質(API 32〜38度)・低硫黄(0.5%未満)であることから、精製業者から多くの需要が期待されているとされる(2018年11月6日Tullow CEO発言)。現在、中国のChinaoil やUnipecの他、インドやインドネシアの企業が購入に興味を示している。なお、東アフリカ共同体(East African Community)域内で唯一操業中の Kenya Petroleum Refineries (KPR)のMombasa製油所(精製処理能力7万b/d)は老朽化で効率が低下し、閉鎖や貯蔵ターミナルへの転換が検討中であるとされており、ケニア国内で精製処理する予定はない。
2.原油輸出パイプライン「Lokichar-Lamu Crude Oil Pipeline (LLCOP)」
ケニア政府は当初パイプライン建設について、隣国であるウガンダとの間で、同国Hoima(アルバートリフト堆積盆の油田)からケニアSouth Lokichar亜堆積盆の油田を経由してLamu港まで向かうルート(Hoima-Lokichar-Lamuパイプライン、全長1,500 キロメートル)を検討していたが、ウガンダ政府は2016年4月に方針を転換した。コストの問題[4]及びソマリアの影響による地政学リスクの懸念[5]を理由に、ウガンダ政府はケニアではなくタンザニア経由のルートを選択したのである。このため2017年10月にケニア政府は、自国内で権益を保有するTullow、Africa Oil、Maersk Oilと同国独自のパイプライン建設計画について共同開発契約(joint development agreement)を締結し、ファイナンスに関する取り決めを行なったほか、TurkanaのSouth Lokichar亜堆積盆からLamu港(全長821 キロメートル)(図4)にルートを決定した(通称「Lokichar-Lamu Crude Oil Pipeline(LLCOP)」)。なお、2017年にMaersk OilはTotalにより買収されたため、現在の共同開発企業はTullow、Africa Oil、Totalとなっている。ケニア政府はその後2018年5月に、LLCOPのFEEDはWood Groupと、また、環境影響評価(Environmental and Social Impact Assessment、以下ESIA)についてはGolder Associates社と契約を締結した。
パイプラインの建設については上述の3社と共同開発契約を締結したものの操業主体はまだ定まっておらず、上流開発のFIDまでには定めたいとしている。ケニア石油資源省Andrew Kamau大臣によると、同国はKenya Pipeline Companyを通じてLLCOPの20%の権益を獲得したいとしている報道もある[6]。
Tullowは2019年第2四半期にESIAを完了させて、上流開発とともに2019年後半にFIDを見込んでいる。その後2年間にわたって建設を行い、2021〜2022年の完成予定とされている。なお、ケニア政府の発表によれば、Lamu港における出荷用港湾設備の整備はほぼ完了しており、港湾設備は2019年中の稼動が見込まれている。
Tullowの推計によると、LLCOPの建設コスト(capex)は11億ドルとされている。ファイナンスの確保がパイプライン建設プロジェクトの課題の一つとなっており、そのコスト負担の大きさから、Tullowが権益の一部をFID前後で他の企業にファームアウトする可能性も取り沙汰されている。また、プロジェクトの遅延に伴って建設コストの超過が生じる恐れがあり、長期的に見ると、さらにコストが高くなる可能性も大きいという。特にLokichar原油はワックス分に富むためパイプラインを80℃まで加熱する必要があり、ウガンダのパイプライン建設[7]同様、このことがLLCOPのコストを押し上げる要因となっている。また、同組織によると、LLCOPの輸送価格(タリフ)は1バレル当たり12.5ドル以上になる見込みで、これは必ずしも安価とは言えない。
[4] ウガンダとケニアを結ぶパイプラインは総工費約40億ドルと見積もられていたのに対し、タンザニアルートでは約35~40億ドルと見積もられており、わずかにコストが低い。
[5] ケニアには隣接国ソマリアから、飢えとソマリア南部を中心に活動するイスラム勢力アル・シャバブの支配から逃れるため大量の難民が流入。2011年10月、アル・シャバブを掃討するため、ケニア軍がソマリア領内に侵攻した。以来、アル・シャバブによるケニアへのテロ攻撃が増加している。
[6] AfrOil 2018/12/4「Kenya looking to acquire 20% stake in Turkana pipeline」
[7] 「ウガンダにおける油田開発と原油輸出パイプライン及び製油所建設計画―東アフリカ最大の未開発石油資源保有国のゆくえ―」(古川 ゆかり、石油・天然ガス資源情報 2019年2月15日付)参照。
3.Early Oil Pilot Scheme (EOPS)
現在、Tullowがケニア政府の支援を受けて、Ngamia、Amosing油田から生産された原油の早期収益化(monetization)を図るEOPSが実施されている。Mombasa港までトラックにより輸送し(2,000b/d)、Changamweの貯蔵施設に貯油後、既存の桟橋より2019年第3四半期に出荷する計画となっている。
本格的な原油生産に向けて当初2016年を目処にFIDが行われる見通しであったが、収益分配の問題で地元住民から抗議が起こり、後退していた。その後2018年5月19日、Turkana郡地方政府及び油田付近の地域住民との間で原油生産収益の分配条項(「revenue-sharing deal」)が締結されたことで、油田開発に道が開かれた。この合意では、原油販売収入の75%は国家に、20%は郡政府に、5%は地域住民に配分されることになっている。
2018年6月3日にトラック輸送によるEOPSが開始され、それぞれ150バレルの原油タンクを搭載したトラック4台がMombasa港を目指してSouth Lokicharを出発した。その後、トラックにより初出荷された原油は、2018年6月7日に同港に到着した(これまでに、7万バレル以上の輸送が確認されている[8])。
しかし、6月27日にはTurkana郡とBaringo郡の境でTurkanaの地元住民により道路が封鎖され、Mombasa港に向かう原油輸送トラックが停止させられるというトラブルが発生した。Turkana地域では牛の窃盗や盗賊などの被害が日常的に続いているが、政府はそれらには措置を講じず原油輸送トラックのための安全対策を重視していたことから地域住民の不満が募り、この騒動に発展したと言われている。地元住民は治安と雇用の改善を要求した。また、Turkana地域にTullowが提供した水道施設からの水の供給が6月後半頃から滞ったため、このことに対する不満も要因の一つであったという。住民たちは、さらに6月末にかけてTullowのNgamia 油田の8油井及び貯蔵庫一帯を破壊するまで抗議がエスカレートしたが、その後、7月11日に政府がTurkana郡及びBaringo郡境界地域の治安改善を行う旨宣言したことで一連の騒動は収束し、8月22日にトラックによるEOPSが再開された。
なお、輸送を停止した50日強の期間により40億シリング(約4,000万ドル)の損失を被ったとケニア政府は発表している。また、地元住民の不満への対策として、ケニア政府は、地元住民とプロジェクト実行側との調整や地元の雇用創出のための委員会を設置するなど、善後策も取られている。
[8] AfrOil 2019/2/19 「Kenya plans SWF for oil earnings」
4.油田開発を巡る課題
4-1. 地元住民との関係維持
油田開発プロジェクトエリア(Turkana郡)は住民の多くが牧畜を営んでいる地域で、貧困層が多く、また、教育レベルが低い若年人口が割合の多くを占めている。上述のように、収益分配に関する地元住民らの抗議により油田開発が遅延したほか、地元住民の不満により道路が封鎖されEOPSが中断されるなど、地元住民の動向は油田開発プロジェクトに大きな影響を与えている。
原油輸出パイプライン建設計画においても例外ではなく、油田が位置するTurkana郡及びパイプラインの終点となるLamu郡の地域住民は、パイプライン建設にあたり生活援助に関する追加要求も出しており、応じられない場合は建設に同意できないとしている。これに応じてパイプラン建設コスト(Tullow推計11億ドル)には地元住民への土地補償や雇用・健康に関する補償が含まれており、CSRの一環とされている。引き続き、地元住民との摩擦を減ずることがパイプライン建設のためには非常に重要であり、今後の動向が注目される。
4-2. 隣接国の影響による地政学リスク
2011年10月、アル・シャバブ掃討を目的としたソマリア侵攻以来、ケニアが同グループによるテロの脅威に晒されてきたことは、前述のとおりである。
2013年9月には、ケニアの首都ナイロビにある大型商業施設に同グループが侵入。店内で銃を乱射し、少なくとも67人が死亡するという事件が発生した(ケニアショッピングモール事件)。また2015年4月には、銃で武装した同グループが同国北東州ガリッサ郡のガリッサ大学に押し入り、148人を殺害、79人以上を負傷させた(ガリッサ大学襲撃事件)。さらに今年に入り、2019年1月にナイロビの高級ホテルが銃撃を受け、14人が死亡し複数の負傷者が出るという事件が発生した。アル・シャバブが犯行声明を出していることから、警察は「テロの可能性がある」と発表した。
ソマリアのほか、エチオピア、南スーダンといった他の隣接国との国境沿いにおいてもまた、畜牛の窃盗や宗教上の衝突が発生し、South Lokichar 及びTurkana亜堆積盆における原油開発プロジェクトの懸念材料となっている。
4-3. 石油法改正
ケニア政府は、1986年に石油法(Kenya Petroleum (Exploration and Production Act, 1986 Cap 308)を制定し、これに基づきIOC(International Oil Company:国際石油企業)にライセンスを付与し、操業の監督を行うという形で探鉱活動を促進してきた。ライセンス契約はモデルPSC(Production Sharing Contract)と石油法を基礎としており、IOCと交渉の上決定される。
本石油法は2010年の憲法改正[9]に伴い見直しが進められ、2015年に新石油法案が国会に上程され[10]、2019年3月12日、ついにUhuru Kenyatta大統領により署名が行なわれた。同法は、上流開発方針や石油収入の配分について定める他、上流開発事業の監督機関であるUpstream Petroleum Regulatory Authority(UPRA)の設立を規定している。UPRAは、石油製品の輸出入、精製、輸送、貯蔵について規制する役割を負うことになる。
また、新石油法発効後、旧来のモデルPSCは新モデルPSCに改訂され、以後は新石油法及び新モデルPSCが新たな法的枠組みになるとされている。この新モデルPSCでは、ローカルコンテンツの強化(現地の雇用と教育のほか、ケニアの製品とサービスを優先する旨や技術移転等が追加)、キャピタル・ゲイン税(PSC利権の移転による譲渡益に対する課税)の復活、コントラクターの利益配分に対する法人所得税課税(旧来は、コントラクターの利益配分に係わる法人所得税は政府の利益から支払われていたが、新モデルPSCでは、透明性と説明責任の観点から、コントラクターの利益配分に対して課税される)等が含まれており、こうしたローカルコンテンツの強化や財政条件の厳格化は新規投資へのハードルとして認識されることになりそうだ。
[9] 2010年8月4日、ケニアにおいて大統領権限の制限等を盛り込んだ改正憲法案についての国民投票が行われた。
[10] 当初は2016年成立の見込みであったが、原油生産収益の分配についてTurkana郡から同意が得られず、法案成立が延期された。議会による原案では、「石油収入のうち5%を地域住民に配分する」としていたが、同地域はこれに反対し、10%の配分を主張していた。最終的に、「石油収入の75%を国家に、20%を郡政府に、5%を地域住民に配分する」という結論にて石油生産収益の分配条項(「revenue- sharing deal」)が締結された。これにより油田開発が進展したことは前述のとおりである。新石油法においても上記配分が盛り込まれている。
5.まとめ
ケニアでは今後自国での原油生産が実現すれば、South Lokichar亜堆積盆において生産された6〜8万b/d(プラトー生産量)の原油が全長821キロメートルのパイプラインにより輸出されることになり、東アフリカにおける新たな原油輸出国の誕生が期待されている。
国内の製油所では老朽化により精製処理できないため輸出する必要があるが、油田が内陸にあるため出荷用港湾設備まで距離が長いことに加え、原油中のワックス分が高く、生産、処理、輸送のそれぞれの過程で加熱を要する。さらに、地元住民への補償がコストを押し上げる要因となっている。
こうしたコストの問題及び地元住民への対応からパイプライン建設が遅延しており、これにより原油生産プロジェクトも予定より大幅に遅れている。さらに、ローカルコンテンツの強化や財政条件の厳格化を伴う石油法の改正が行なわれたことから、投資にどのような影響があるのか注視する必要があろう。
新興産油国となるケニアは、上流開発からパイプライン建設に至るまで課題は多いが、政府と事業者、そして地元住民の協調の下で、今後プロジェクトが進展することを期待したい。
<主な参考資料>
- AfrOil
- Upstream
- International Oil Daily (Energy Intelligence)
- 「平成28年度 産油・産ガス国開発支援協力事業ケニア共和国の油田開発現状及び課題の調査」(一般財団法人 石油開発情報センター)
- 「東アフリカ陸上(ウガンダ、ケニア、南スーダン)における石油開発と輸出パイプライン構想」(竹原 美佳、石油・天然ガス資源情報 2013年7月25日付)
- 「【短報】産油国への転身が期待されるケニアとウガンダ:最新動向」(増野 伊登、石油・天然ガス資源情報 2015年6月18日付)
- Tullow Oil HP
以上
(この報告は2019年5月14日時点のものです)