ページ番号1007782 更新日 令和1年5月20日
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概要
- 米国では、製油所での原油精製処理活動は活発化したものの、ガソリンについては出荷増加で相殺されたことから、当該製品在庫は若干ながら減少となり、平年幅上限付近に位置する量となっている。また、留出油についても、欧州等に向けた輸出が活発化したことから、当該製品在庫も若干ながら減少し、平年幅上方付近に位置する量となっている。他方、米国国内原油生産が堅調であった他、価格面でブレントがWTIを上回る度合いが低下したこともあり、輸出が抑制された結果、同国の原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を超過する状態は継続している。
- 2019年4月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、欧州では製油所のメンテナンス作業が一服したこともあり稼働上昇とともに原油精製処理量が増加したことで在庫は減少となったが、米国で増加した他、日本でも安定した原油精製処理活動の中、米国による制裁適用除外更新時期を控えイランからの輸入が減少したものの他の諸国からの輸入の増加で相殺されて余りあったと推定される結果、原油在庫は増加した。結果としてOECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。また、石油製品については、欧州では春場に入りガソリン需要が増加したことや留出油のアフリカ方面への輸出が堅調であったと見られることから、在庫は減少した。しかしながら、日本ではナフサの輸入量が増加したと見られることで当該製品在庫が増加したこともあり、石油製品全体の在庫も増加した他、米国においては、暖房シーズン終了によるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加やその他の石油製品在庫の増加等もあり、同国の石油製品全体の在庫も増加した。結果としてOECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、量としては平年幅上限付近に位置している。
- 2019年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場では、4月中旬には、世界経済成長面での下振れリスク懸念の増大等による下方圧力と、リビアでの政情混乱等による上方圧力に挟まれ、原油相場は比較的限られた範囲で推移した。しかしながら、4月下旬に米国がイラン産原油輸入禁止制裁の適用除外措置を終了させる旨発表したこと等により原油相場は上昇、4月23日には原油価格(WTI)は1バレル当たり66.30ドルの終値と2018年10月29日以来の高値に到達した。それでもその後は米国が中国製品に対する関税引き上げ方針を表明したこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は1バレル当たり60ドル台前半の領域で推移しつつも下落傾向となった。
- 今後は米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入による季節的な石油需給引き締まり感が市場で強まる中、地政学的リスク要因の石油供給に対する懸念が原油相場を少なくとも下支え、情勢の変化等によっては上方圧力を加える一方で、米国及び中国の貿易協議の進捗状況等によっては原油相場に下方圧力を加えるものと考えられる。そのような中で、OPEC産油国等の減産方針などに関する関係者の発言等により、原油相場は変動していくものと思われる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2019年2月の米国ガソリン需要(確定値)は日量896万バレルと前年同月比で1.7%程度増加しており(図1参照)、速報値(前年同月比で0.7%程度増加の日量887万バレル)から上方修正されている。2月の全米ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.393ドルと前年同月比では0.312ドル(約11.5%)下落した他、前月(同2.338ドル)とほぼ同水準となったことから、ガソリン需要が刺激されている側面もあるが、同月の米国自動車運転距離数が前年同月比で0.4%の減少となっているところからすると、1月の自動車運転距離数が前年同月比で1.8%増加したにもかかわらずガソリン需要が前年同月比で0.0%の伸びにとどまった反動が2月に現れている側面もあるものと考えられる(また、2月のガソリン需要が比較的堅調であった反動が3月の当該需要(確定値)に現れる可能性もある)。4月の同国ガソリン需要(速報値)は日量950万バレル、前年同月比で3.4%程度の増加となった。同月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.881ドルと前年同月比で0.008ドル(約0.3%)の上昇にとどまっているものの、前月(同2.594ドル)からは0.287ドル(約11.1%)上昇しており、この面で、同国のガソリン需要に負の影響を与えているものと考えられることからすると、この増加は3月の当該製品需要の前年同月比での2.0%の減少(速報値)の反動を反映している可能性がある他、4月の需要も速報値から確定値に移行する段階で下方修正されるといった展開等となることがありうる。他方、米国の一部製油所では春場のメンテナンス作業が終了するとともに稼働を上昇、原油精製処理量を増加させているものの、夏場のドライブシーズンに向けガソリン需要も増加したことで相殺された結果、4月上旬から5月中旬にかけての米国のガソリン在庫は若干ながら減少した他、平年幅上限付近に位置する量となっている(図4参照)。
2019年2月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量433万バレルと前年同月比で9.1%程度の増加となり、速報値である日量405万バレル(同2.3%程度の増加)から上方修正された(図5参照)。2月は米国の暖房用石油製品需要の中心地である北東部は前年同月に比べ寒冷であったことから、暖房向けの留出油需要が増加したと見られることが、当該需要を押し上げた側面はあると見られるものの、2月の米国の鉱工業生産増加率が前年同月比2.8%と2018年9月の同5.4%から鈍化する傾向が続いている他同国の物流活動も同2.0%の拡大にとどまっていることからすると、1月の物流活動が前年同月比で5.4%増加したにもかかわらず同月の留出油需要が抑制されたこと(前年同月比で0.9%程度の減少)の反動で当該需要が増加を示している他、3月の需要(速報値では同1.0%程度の増加)が確定値発表時に下方修正される等の展開となる可能性もある。また、4月の留出油需要(速報値)は日量381万バレルと前年同月比で8.4%程度の減少となった。4月は米国の北東部が前年同月比で温暖となったことから暖房用の留出油需要が抑制されたと見られる他、同月の鉱工業生産が前年同月比で0.9%の伸びにとどまっているところからすると、物流活動も鈍化していると予想され(因みに2019年3月の同国物流活動は前年同月比で1.3%の増加にとどまっている)、それが当該需要に織り込まれている可能性がある。他方、米国の製油所での稼働が上昇するとともに留出油生産活動も活発化した(図6参照)ものの、欧州等での夏場のドライブシーズンに向けた軽油需要期(欧州ではディーゼル車が相当程度浸透している)が視野に入りつつあることから、当該地域向けの輸出が活発化しつつあることで相殺された結果、4月上旬から5月上旬にかけ留出油在庫は若干ながら減少となり、5月上旬時点では平年幅の上方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2019年2月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で2.9%程度増加の日量2,019万バレルとなった(図8参照)。ガソリン及び留出油の需要が前年同月比で拡大したことが石油需要全体の伸びに影響している格好となっている。ただ、その他の石油製品の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正された(速報値の日量398万バレルが確定値では同351万バレルとなった)ことにより、当該需要は速報値(日量2,045万バレル、前年同月比4.2%程度の増加)から下方修正されている。また、4月の米国石油需要(速報値)は、日量2,023万バレルと前年同月から1.4%程度の増加となった。ガソリン及びその他の石油製品需要の拡大が石油需要全体の増加を牽引している。ただ、4月のその他石油製品の需要は日量421万バレルと前年同月比で75万バレルの増加となっているが、過去の実績(2018年3月~2019年2月の1年間で日量346~426万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。また、製油所での稼働が上昇したことに伴い原油精製処理活動が活発化していることに加え、原油輸入量も1月28日に発動した米国のベネズエラに対する制裁やサウジアラビアの減産措置等もあり、両国を中心として原油輸入量は低迷したままとなった一方で、米国国内原油生産が増加基調にある(4月26日の週の原油生産量は日量1,230万バレルと1983年1月以降の同国週間原油生産統計史上最高水準に到達した)うえ、米国からの原油輸出が3月に比べ落ち着いたこと(米国への原油輸入量の減少もありブレント原油価格がWTIのそれを上回る度合いが縮小していることが影響していると見る向きもある)で相殺されて余りあったことから、4月上旬から5月上旬にかけ原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を超過する状態は続いている(図9参照)。そして、ガソリン在庫が平年幅上限付近、留出油在庫が平年幅上方付近に、それぞれ位置する量となっている一方で、原油在庫が平年幅上限を上回っていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2019年4月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、欧州では製油所での春場のメンテナンス作業実施が一服したこともあり稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加したことにより減少となったが、米国で増加した他、日本では製油所での原油精製処理量が概ね安定していた一方で米国によるイラン原油輸入禁止の制裁適用除外更新時期を控えイランからの輸入が減少したものの、イラク、クウェート及びロシア等の諸国からの輸入の増加で相殺されて余りあったと推定されることから、原油在庫は増加した。結果としてOECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。(図12参照)。また、石油製品については、欧州では春場に入りガソリン需要が増加したことや留出油のアフリカ方面への輸出が堅調であったと見られることから、在庫は減少した(もっとも前年同月の水準は上回っている)。しかしながら、日本ではナフサの輸入量が増加したと見られる(欧州ではShellのMoerdijkナフサ分解装置(エチレン生産量年産91万トン)が4月20~21日にメンテナンス作業を開始した(終了時期未定)他複数のナフサ分解装置がメンテナンス作業を実施しつつあったことに加え、中東諸国での製油所の春場のメンテナンス作業実施も峠を越えつつもあることもあり、中東方面からのナフサの流入が増加した可能性がある)ことで、当該製品在庫が増加したこともあり、石油製品全体の在庫が増加した他、米国においてはガソリンや留出油等在庫は減少したものの、暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加や冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要減少によるその他の石油製品在庫の増加等もあり、同国の石油製品全体の在庫も増加した。結果としてOECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、量としては平年幅上限付近に位置している(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年幅上限付近に位置する水準となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を上回る状態になっている(図14参照)。なお、2019年4月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は59.9日と3月末の推定在庫日数(59.8日)から微増となっている。
4月10日に1,400万バレル台後半の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、4月17日には1,500万バレル弱の量にまで増加したものの、4月24日には1,400万バレル台半ば程度、5月1日には1,300万バレル台半ば程度、5月8日には1,200万バレル台前半程度、そして5月15日は1,100万バレル台前半と程度の量へと減少している。春場の製油所メンテナンス作業実施時期に突入しつつあることに伴い中国等アジア諸国各国からシンガポールへのガソリン等軽質留分輸出が鈍化する一方で、シンガポールからアジア諸国各国へ軽質留分輸出が促進されていると見られるうえ、中国石油会社のガソリン輸出が中国政府により与えられた輸出枠に到達しつつあることにより低下していると見られることが、シンガポールでの当該在庫減少に寄与しているものと考えられる。他方、米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来が視野に入りつつあることから、この面では米国のみならず欧州やアジアでのガソリン価格に上方圧力を加えているものの、原油価格の上昇にガソリン価格のそれが追い付かなかった場面が見られたうえ、米国と中国の貿易紛争に伴う両国の経済減速及びガソリン需要の伸びの鈍化の懸念が市場で発生したことに加え、中国政府が2019年第二回目のガソリン輸出枠909万トン(推定7,681万バレル)と第一回目の枠である444万トン程度(再配分後)(推定3,752万バレル)を相当程度上回る輸出枠を国営4石油会社に付与したと5月上旬以降報じられることもあり、中国からのガソリン輸出が増加するとの観測が市場で発生したことが当該製品価格に下方圧力を加えたこともあり、4月中旬から5月中旬にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は縮小する傾向を示している。
ナフサについても、アジア諸国の製油所が春場のメンテナンス作業実施時期に突入しつつあったことにより地域市場での供給が低下するとの観測が発生したことに加え、米国によるイラン産原油輸出の事実上の完全停止措置の実施で、ナフサを製造できるイラン産コンデンセートの供給が停止することにより、ナフサ需給の引き締まり感が市場で強まったことが、ナフサ価格を下支えしたものの、原油価格の上昇にナフサ価格のそれが追い付かない場面が見られたことに加え、日本や韓国を含むアジア諸国における石油化学部門でのナフサ分解装置がメンテナンス作業実施により操業を停止しつつあることでナフサ需要が低下する一方、欧州でもナフサ分解装置がメンテナンス作業実施により操業を停止しつつある(前述)ことに伴い欧州方面からナフサが流入してきつつあることにより、当該製品需給が緩和するとの見方が市場で発生したことがナフサ価格に下方圧力を加えたことから、4月中旬から5月中旬にかけてのナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサの価格がドバイ原油のそれを下回っている)は拡大する傾向が認められる。
4月10日には1,100万バレル台前半の水準であったシンガポールの中間留分在庫は、4月17日には1,000万バレル台後半、4月24日には900万バレル台前半の、それぞれ水準へと減少、5月1日には1,000万バレル台後半の量へと回復したものの、5月8日には900万バレル台半ば程度の量、そして5月15日には900万バレル台前半の量へと再び減少している。中国をはじめとするアジア諸国で春場の製油所メンテナンス作業実施時期に突入しつつあることから、中国や韓国を含むアジア各国からシンガポールへの中間留分供給が低迷する反面シンガポールからアジア諸国各国への中間留分輸出が促進されていると見られることに加え、中国では軽油の輸出が政府により与えられた輸出枠に接近しつつあること、そして夏場のドライブシーズンに伴う欧州における軽油需要期到来を控え、アジア方面から欧州に向け軽油が流出しつつあると見られることが、シンガポール原油在庫を減少させる方向で作用しているものと考えられる。そして、原油価格の上昇にアジア地域での軽油価格のそれが追い付かなかったことから、両者の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれを上回っている)は縮小する場面が見られたものの、シンガポールでの中間留分在庫減少に伴う当該製品の需給の引き締まり感が市場で発生したこと等で相殺されたことから、当該製品価格とドバイ原油価格との差は上下に変動しつつも比較的限られた範囲内で推移している(なお、5月上旬以降報じられるところの、中国の軽油に対する第二回目の輸出枠は918万トン(推定6,845万バレル)と第一回目の輸出枠である870万トン(推定6,490万バレル)から拡大はしているものの、ガソリンに比べると拡大の度合いは相当程度緩やかなものとなっている)。
4月10日には2,100万バレル台後半の量であったシンガポールの重油在庫は、4月17日には2,300万バレル台後半程度、4月24日には2,400万バレル台前半程度の量へと増加した。5月1日には2,300万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、5月8日には2,600万バレル台半ば程度と2017年3月22日以来の高水準に到達した。そして、5月15日には2,300万バレル台後半の量へと減少したが、それでも4月10日の水準を相当程度上回っている。米国と中国との間での貿易紛争の影響で、中国を中心としてアジア諸国の貨物用船舶往来が減速していることが船舶用重油需要に影響していると見られる他、冬場の暖房のための電力向け発電用重油需要期も終了したことが、シンガポールでの重油在庫増加傾向の背景にあるものと考えられる。そしてこのような需給の緩和感に加え、1月28日に米国がベネズエラに対して科した制裁の影響で、欧米諸国では受け入れられなかったベネズエラ産重油がシンガポールに流入してくる可能性があるとの観測が市場で発生したことがシンガポールでの重油価格に下方圧力を加えたうえ、原油価格の上昇に重油価格のそれが追い付かなかった場面が見られた結果、4月中旬から5月中旬にかけての重油とドバイ原油との価格差(この場合重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大する傾向が見られる。
2.2019年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場等の状況
2019年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場では、4月中旬には米国石油坑井掘削装置稼働数の増加や同国原油生産増加見通し、世界経済成長面での下振れリスク懸念の増大等による下方圧力と、リビアでの政情混乱やイランからの原油輸出低下の情報等による上方圧力に挟まれ、原油相場は比較的限られた範囲で推移した。しかしながら、4月下旬には米国がイラン産原油輸入禁止の制裁適用除外措置を終了させる旨発表したうえ、湾岸OPEC産油国が当該除外措置終了に対する増産に慎重な姿勢を示していると報じられたこと等により原油相場は上昇、4月23日にはWTIで1バレル当たり66.30ドルの終値と2018年10月29日以来の高値に到達した。それでもその後は米国のトランプ大統領がサウジアラビア等と原油増産につき協議し全員合意している旨表明したことや、米国原油在庫が増加したこと、米国が中国製品に対する関税引き上げ方針を表明したこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格はWTIで1バレル当たり60ドル台前半の領域で推移しつつも下落傾向となった。(図15参照)。
4月12日に米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で833基と前週比で2基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は783基と同1基増加)となっている旨判明した流れが4月15日の市場に引き継がれたうえ、4月13日に開催された国際通貨基金(IMF)国際通貨金融委員会(IMFC: International Monetary and Financial Committee)で、世界経済は2018年10月に想定していたよりも減速しており、リスクは依然として下方に偏っている旨の声明が発表されたことにより、この先の経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が4月15日の市場で増大したこと、4月15日に米国エネルギー省(EIA)から発表された「掘削生産性報告(DPR:Drilling Productivity Report)」で2019年5月の同国主要7シェール地域での原油生産量が前月比で日量8万バレル増加する見込みである旨指摘されたこと、4月15日に発表された米国大手金融機関ゴールドマン・サックスの2019年1~3月期決算で主要業務の収入が減少していた旨判明したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日(4月15日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.49ドル下落し、終値は63.40ドルとなった。ただ、4月16日には、この日時点でもリビアのトリポリ周辺で、国連により支援される西部トリポリ拠点の政府(統合政府)の軍と同国東部トブルクを拠点とする政府(暫定議会)を支援するハフタル将軍指導の軍との間での衝突が継続していることで、同国からの原油供給減少への懸念が増大したことに加え、4月のこれまでのイランからの原油輸出量が日量100万バレルを割り込み年初来最低水準となっている旨4月16日に報じられたことにより、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり64.05ドルと前日終値比で0.65ドル上昇した。4月17日には、この日EIAから発表された米国石油統計(4月12日の週分)でガソリン在庫が前週比で117万バレルの減少と市場の事前予想(同210~250万バレル程度の減少)ほど減少していない旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.29ドル下落し、終値は63.76ドルとなった。しかしながら、4月18日には、2月のサウジアラビアの原油輸出量が日量697.7万バレルと1月の同725.4万バレルから減少していた旨同日JODI(Joint Organizations Data Initiative)が発表したことで、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、4月18日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で825基と前週比で8基の減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は778基と同5基減少)となっていた旨判明したことで、この先の米国の原油生産の伸びの鈍化に対する懸念が市場で発生したこと、4月18日に発表された米国複合企業ハネウェル・インターナショナルの2019年1~3月期業績が市場の事前予想を上回るなど、良好な企業決算の発表が行われたことに加え、同日米国商務省から発表された3月の同国小売売上高が前月比で1.6%の増加と2017年9月(この時は同2.0%増加)以来の大幅な伸びとなった他市場の事前予想(同0.9~1.0%程度の増加)を上回ったうえ、同じく同日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(4月13日の週分)が19.2万件と1969年9月6日の週(この時は18.2万件)以来の低水準となった他市場の事前予想(20.5万件)を下回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日(4月18日)の原油価格の終値は1バレル当たり64.00ドルと前日終値比で0.24ドル上昇した。なお4月19日は、米国のグッドフライデーの休日に伴い米国原油先物市場は休場となった。
4月22日には、この日米国のポンペオ国務長官が、8ヶ国・地域に対するイラン産原油輸入禁止措置の適用除外につき5月1日を以て終了させる旨表明したことで、石油需給の引き締まり感が市場で増大したことに加え、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC: Iran Revolutionary Guard Corps)が同国の原油輸出が不可能となった場合にはホルムズ海峡を封鎖する旨表明したと同日報じられたことで、中東湾岸地域産油国からの原油供給途絶懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.70ドルと前週末終値比で1.70ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2019年5月渡し原油先物契約は取引を終了したが、6月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり65.55ドル(前日終値比1.48ドルの上昇)であった)。4月23日も、湾岸OPEC産油国は米国のイラン原油輸入禁止措置の適用除外の終了に伴い増産する用意はあるものの、実際の市場への影響と顧客からの需要を見極める必要があることから、6月までに増産がなされる可能性は低い旨関係筋が明らかにしたことで、足元での石油需給引き締まり感が市場で増大したことから、この日の原油価格も前日終値比で1バレル当たり0.60ドル上昇し、終値は66.30ドルとなった。この結果原油価格は4月22~23日の2日間で併せて1バレル当たり2.30ドル上昇した他、4月23日の終値は2018年10月29日(この時は同67.04ドル)以来の高水準に到達した。ただ、4月24日には、この日EIAから発表された米国石油統計(4月19日の週分)で、原油在庫が前週比で548万バレルの増加と市場の事前予想(同100~130万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.41ドル下落し、終値は65.89ドルとなった。4月25日も、4月24日にEIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が市場の事前予想を上回って増加している旨判明した流れを引き継いだうえ、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.21ドルと前日終値比で0.68ドル下落した。また、4月26日も、この日米国のトランプ大統領がサウジアラビア他と原油増産につき協議し、全員合意している旨表明したことで、この先の石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.91ドル下落し、終値は63.30ドルとなった。この結果原油価格は4月24~26日の3日間で併せて1バレル当たり3.00ドル下落した。
しかしながら、4月26日に米国のトランプ大統領がサウジアラビア他と原油増産につき協議し、全員合意している旨表明したことに対し、サウジアラビア及びOPEC側ではそのような事実はない旨明らかにしたと4月29日に報じられたこともあり、トランプ氏が言及したところのOPEC産油国等の増産に対し疑問視する見方が市場で発生したことから、この日(4月29日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.20ドル上昇し、終値は63.50ドルとなった。また、4月30日には、この日ベネズエラのグアイド国会議長が、マドゥロ政権転覆の最終段階に入ったとして軍に決起するよう、そして国民に蜂起するよう呼び掛けたことで、同国情勢が混乱し、石油供給に支障が発生するのではないかとの懸念が市場で発生したことに加え、4月30日にサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、米国のイランに対する原油輸出の事実上の完全停止措置に対し、直ちに代替に動くことなく、OPECと一部非OPEC産油国による減産措置体制を維持する他、当該体制を2019年末まで延長する可能性がある旨示唆したことで、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、4月30日にEIAから発表された2月の米国原油生産量が日量1,168.3万バレルと前月比で同18.7万バレル減少したうえ、2ヶ月連続前月比で減少となっている旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.91ドルと前日終値比で0.41ドル上昇した。この結果原油価格は4月29~30日の2日間で併せて1バレル当たり0.61ドルの上昇となった。ただ、5月1日には、この日EIAから発表された米国石油統計(4月26日の週分)で、原油在庫が前週比で993万バレル増加の4.71億バレルと2017年9月22日(この時は4.71億バレル)以来の高水準に到達したうえ、市場の事前予想(同140~175万バレル程度の増加)を上回って増加していた他、ガソリン在庫も同92万バレルの増加と市場の事前予想(同100~110万バレル程度の減少)に反し増加していたことに加え、米国原油生産量が日量1,230万バレルと1983年1月以降の同国週間統計史上最高水準に到達した旨判明したこと、5月1日に米国供給管理協会(ISM)から発表された4月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が52.8と前月の55.3から低下、2016年10月(この時は51.7)以来の低水準となった他、市場の事前予想(55.0)を下回ったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.60ドルと前日終値比で0.31ドル下落した。5月2日も、5月1日にEIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が2017年9月22日以来の高水準に到達したうえ、市場の事前予想を上回って増加していた他、ガソリン在庫も市場の事前予想に反し増加していたことに加え、米国原油生産量が同国週間統計史上最高水準に到達した旨判明した流れを引き継いだうえ、米国オクラホマ州クッシングでの原油在庫が4月26~30日で195万バレル増加していたと米国石油情報サービス会社Genscapeが報告した旨5月2日に報じられたことで米国原油先物契約受け渡し地点での石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.79ドル下落し、終値は61.81ドルとなった。この結果原油価格は5月1~2日の2日間で併せて1バレル当たり2.10ドル下落した。5月3日には、この日米国労働省から発表された4月の同国雇用統計で非農業部門雇用者数が前月比で26.3万人の増加と市場の事前予想(18.5~19.0万人)を上回った他、失業率が3.6%と1969年12月(この時は3.5%)以来の低水準となったことで、石油需要の伸びの加速に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.13ドル上昇し、終値は61.94ドルとなった。
また、5月5日には、米国のボルトン大統領補佐官が、イランが米国及びその同盟国の利害を害すれば容赦ない実力行使を行うとの明確なメッセージを発信すべく、中東地域に空母群と爆撃部隊を派遣する旨明らかにしたことで、米国とイランとの対立に対する懸念が市場で増大したことから、5月6日の原油価格の終値は1バレル当たり62.25ドルと前週末終値比で0.31ドル上昇した。ただ、5月5日に米国のトランプ大統領が、米国と中国との貿易協議に関する進捗が遅いとして、5月10日に2,000億ドル相当の中国製品に対する関税を現行の10%から25%に引き上げるとともに、現在関税を賦課されていないほぼ全てに当たる3,250億ドル相当分の中国製品に対し速やかに25%の関税を賦課する方針である旨表明した一方で、中国側も5月10日の米国の関税引き上げに対し直後に報復措置を講じるべく準備している旨5月7日に報じられたことで、米国及び中国等の経済成長の減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が5月7日の市場で増大したことに加え、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが中国、インド及び日本といったアジア諸国に対し6月の原油出荷を増加させる旨ブルームバーグ通信が5月7日に報じたことで、石油需給緩和感を市場が意識したこと、5月7日にEIAから発表された「短期エネルギー展望(STEO)」で、EIAが2019年の米国原油生産量を日量1,245万バレル、2020年のそれを同1,338万バレルと、4月9日発表時の同1,239万バレル(2019年)、同1,310万バレル(2020年)から上方修正したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.85ドル下落し、終値は61.40ドルとなった。5月8日には、この日EIAから発表された米国石油統計(5月3日の週分)で原油在庫が前週比で396万バレルの減少と市場の事前予想(同220万バレル程度の減少~190万バレル程度の増加)に反し、もしくは上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり62.12ドルと前日終値比で0.72ドル上昇した。しかしながら、米国が2,000億ドル相当の中国製品に対して適用する関税率を5月10日に10%から25%に引き上げる旨5月8日に官報に掲載した他、5月8日夜(現地時間)に中国商務省も米国製品に対し報復関税を賦課する意向である旨表明したことに加え、5月9日にトランプ大統領が中国は(貿易紛争に関する協議に関し)約束を破った旨発言したことにより、米国と中国の貿易協議に関する悲観的な見方が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.42ドル下落し、終値は61.70ドルとなった。ただ、米国が5月10日午前0時1分を以て2,000億ドル相当分の中国製品に対する関税率を10%から25%に引き上げた一方で、中国商務省も米国に対し報復措置を講じる意向である旨同日表明したものの、5月9日に開始された貿易問題に関する交渉は10日も続き、今後も協議を継続していく旨同日トランプ大統領が明らかにしたことから、当該問題に関する動向に対し市場が様子見となったこともあり、この日(5月10日)の原油価格の終値は1バレル当たり61.66ドルと前日終値比で0.04ドルの下落にとどまった。
5月13日は、米国製品2,493品目に6月1日より25%の関税を課する他、その他の製品に関しても5~20%の関税を賦課する意向である旨5月13日に中国財務省が発表したことで、米国及び中国等の経済成長の減速と石油需要の鈍化に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.62ドル下落し、終値は61.04ドルとなった。しかしながら、UAEのフジャイラ沖合で4隻の商船が攻撃の標的となった旨5月12日にUAE外務省が発表した他、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相も、5月12日に当該沖合でサウジアラビアの原油タンカー2隻が攻撃の標的となった旨明らかにしたと5月13日に報じられたことで、中東地域からの石油供給に対する懸念が増大した流れを5月14日の市場が引き継いだことに加え、サウジアラビアの東西パイプライン(同国東部ラスタヌラ~西部ヤンブー、原油輸送能力日量490万バレルだが、2016年時点の輸送量は同190万バレルと伝えられる)の2ヶ所の送出基地が、爆発物を積載したドローンにより攻撃された結果、うち1ヶ所で出火した(その後鎮火)ことにより、防御的措置として当該パイプラインの操業を停止(5月15日には操業再開)した旨5月14日にサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が発表(同日イエメンのフーシ派武装勢力が犯行声明を発表)したことで、中東地域からの石油供給の安定性に対する不安感が市場で増大したこと、5月15日にEIAから発表される予定である米国石油統計(5月10日の週分)で原油在庫が減少しているとの観測が市場で発生したこと、5月14日にOPEC事務局から発表された月刊オイル・マーケット・レポートでOPEC事務局が2019年の世界石油需要見通しを日量9,994万バレルと前月から日量2万バレル上方修正したうえ、同年の非OPEC産油国石油供給見通しを同3万バレル下方修正したことから、OPEC産油国が減産を継続すれば、世界石油需給が引き締まるとの懸念が市場で発生したこと、5月14日に米国のトランプ大統領が適当な時期に中国と取引する旨表明したことで、米国と中国との間での貿易紛争に関する悲観的な見方が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.78ドルとは前日終値比で0.74ドル上昇した。また、5月15日も、サウジアラビアの東西パイプラインの2ヶ所の送出基地が、爆発物を積載したドローンにより攻撃された旨5月14日にサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が発表したことで、中東地域からの石油供給の安定性に対する不安感が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、5月15日に米国国務省がイラクに駐在する、緊急業務に携わらない職員に対し、イランが支援する部隊による攻撃の脅威が高まっているとして退避するよう指示したことで、中東地域情勢の不安定化と当該地域からの石油供給に対する懸念が市場で増大したこと、5月15日にEIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が前週比で112万バレルの減少と市場の事前予想(同30万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことで、米国ガソリン先物価格が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.24ドル上昇し、終値は62.02ドルとなった。さらに、5月14日に行われたサウジアラビアの東西パイプライン攻撃はイランの指示によるものである旨サウジアラビアのハリド国防副大臣(ムハンマド皇太子兼国防相の実弟)が5月16日に表明した他、同日サウジアラビアが主導する有志連合軍がイエメンの首都サヌアでサウジアラビア等が支援するハディ暫定大統領と対立するフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)の軍事拠点を空爆したことで、サウジアラビア及びイランを含む中東情勢の不安定化と当該地域からの石油供給への懸念が市場で増大したこと、5月15日にEIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が市場の事前予想を上回って減少している旨判明した流れを引き継いだことで米国ガソリン先物価格が続伸したこと、5月16日朝に発表された米国小売大手ウォルマートの2019年2~4月期業績が市場の事前予想を上回ったうえ、同日米国商務省から発表された4月の同国新築住宅着工件数が年率123.5万戸と前月比で5.7%増加した他市場の事前予想(同120.5~120.9万戸)を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日(5月16日)の原油価格の終値は1バレル当たり62.87ドルと前日終値比で0.85ドル上昇した。この結果原油価格は5月14~16日の3日間で併せて1バレル当たり1.83ドル上昇した。しかしながら、5月17日には、米国が誠意を伴った行動を示さない限り、中国は貿易紛争解決のための協議を再開する意向はない旨、5月17日に中国国営報道機関が示唆したことで、米国及び中国等の経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.11ドル下落し、終値は62.76ドルとなっている。
3.原油市場における注目点等
イエメン西部の港湾都市ホテイダでは、ハディ暫定政権とフーシ派武装勢力が双方の部隊を撤収させることで合意したと国連のグリフィス事務総長特使(イエメン担当)が4月15日に明らかにした。5月11日には、フーシ派勢力がホテイダからの撤収を開始したと報じられる(5月14日には国連もフーシ派勢力が当該都市から撤収し支配権を港湾の治安当局に明け渡したことを確認)。
米国は4月15日を以てイランのイスラム革命防衛隊(IRGC)を正式にテロ組織に指定する旨発表した。これによりイランと取引を行う欧州連合(EU)等の法人や個人を制裁対象とすること等が容易になるとされる(但し、例外規定を設定し、米国外の企業等がIRGCと接触した場合にむやみに制裁に直面しないようにした旨4月21日に報じられる)。また、4月22日に米国のポンペオ国務長官が5月2日午前0時(米国東部時間)以降イラン産原油輸入国に対する同国産原油輸入禁止制裁適用除外措置を付与しない旨発表、これ以降イラン産原油を輸入した輸入国は制裁に直面する可能性がある旨警告している。これに対しイランは、全ての選択肢を採用する可能性がある(つまり、ホルムズ海峡封鎖も選択肢のうちの一つ)旨同国政府高官が明らかにした(これに対し米国トランプ政権高官はホルムズ海峡封鎖は受け入れられない旨明らかにした)と4月22日に報じられる(そして、IRGCのタングシリ海軍司令官もホルムズ海峡封鎖の可能性につき言及したと4月22日に伝えられるが、イランのザリフ外相は4月24日にホルムズ海峡封鎖方針を否定している)。5月5日には、ボルトン米国大統領補佐官が、イランに対し米国やその同盟国の利益を害することになれば、容赦なく実力行使を行うとの明快なメッセージを発信するために、原子力空母エイブラハム・リンカーンを含む空母群と爆撃部隊(B52戦略爆撃機を含む)を中東に派遣する方針である旨発表した(イラク等中東地域に駐留している米軍に対し軍事的な脅威が差し迫っていることに対応するものであると5月6日にシャナハン米国国防長官代行が明らかにしている他、イランが短距離弾道ミサイルを船舶に積載し移動させている旨米国政府幹部が示唆したと5月8日にCNNが伝えている)。これに対し、5月8日にイランのロウハニ大統領は直ちに核合意からの離脱は行わないものの、核合意事項の一部の行動を停止するとともに、重水及び濃縮ウランの海外への出荷を中止する旨明らかにした(5月15日に正式に中止した旨報じられる)。そして今後60日間で核合意に参加する他の当事国との間で石油や金融部門における米国のイランに対する制裁からイランを防御する体制を構築できなければ、高濃縮ウランの製造を再開する旨の事実上の最後通告を表明した。なお、2019年2月19日付国際原子力機関(IAEA)報告書では、イランでの重水貯蔵量(上限130トン)が124.8トン(2018年11月12日付報告書時点では122.8トン)となっており、2018年11月12日付報告書以降1トンの重水を海外に出荷していることから、海外への出荷を停止しても、直ちに上限を超過する可能性は低い。また、濃縮ウランの貯蔵量(上限300㎏)も当該報告書発表時点においては163.8㎏(2018年11月12日付報告書時点では149.4㎏)である(国外への出荷は米国の制裁もあり行われていないと伝えられる)ので、これも直ちに上限を超過する可能性は低い。他方、5月9日に英国、フランス及びドイツ及びEUのモゲリーニ外交安全保障上級代表はイランに対し核合意を遵守するよう要求するとともに、イランからの最後通告は如何なる内容のものであっても受け入れられない旨表明した。また、5月8日に米国のトランプ大統領は、イランの鉄、鋼鉄、アルミニウム及び銅に関し90日の猶予後はイランとの取引を禁止する旨の制裁を内容とする大統領令に署名した。そして、中東を担当する米国中央軍の要請に基づき地対空迎撃ミサイル「パトリオット」と海兵隊を擁する輸送揚陸艦「アーリントン」を中東に配備することにつき、米国国防省のシャナハン長官代行が許可した旨同省が5月10日に明らかにした。このような動きに対し5月12日にイランIRGCのハジザデ司令官は、このような動きを行う米国軍は「標的」である旨表明した。他方、5月12日にはUAE外務省がオマーン湾で4隻の商船が破壊攻撃の対象となった旨明らかにしたうえ、5月13日にはサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相がそのうちの2隻である同国のタンカー(うち1隻はサウジアラビアのラスタヌラで原油を積み込んで米国に向かう途中)が攻撃により船体が破損した旨発表した。米国政府関係者はイランが攻撃を実施した可能性はあるものの、確たる証拠は見出せていない旨明らかにしていると5月13日に報じられる。これに対し、5月13日にイラン外務省は遺憾の意を表明するとともに、イランにその責を負わせる可能性を牽制している。ただ、5月13日に米国のトランプ大統領は、米国に対しイランが攻撃を加えれば、イランは「多大な苦痛」に遭遇する旨警告しているものの、5月16日には同大統領もイランとの戦争は望まない旨明らかにしている(5月14日には米国のポンペオ国務長官及びイランの最高指導者ハメネイ師双方とも戦争は望まない旨表明している)。他方、イランが支援する武装勢力等による脅威が高まっているとして、米国国務省は5月15日に緊急業務に従事していない駐イラク米国大使館(バグダッド)及び領事館(エルビル)職員は国外に退去するよう指示した。5月5日にはイランのザマニニア石油省次官は、イランはできる限りの方法で「グレー市場」において原油を販売する方針である旨明らかにした他、5月7日には、EUに対し近いうちに原油販売契約を締結することになるであろうとザリフ外相も明らかにしている。しかしながら、5月2日の米国によるイラン産原油輸入禁止免除措置の終了を受け、中国の大手国営石油会社2社は、5月積みのイラン産原油の購入を見合わせた旨関係筋が明らかにしたと5月10日に報じられる。なお、4月26日にトランプ大統領は「ガソリン価格は下落しつつある。OPECに電話して価格を下げるべきだと言った。」と記者に対し発言した後、「サウジアラビア他と増産につき話をした。皆同意している。」とツイートした。しかしながら、サウジアラビア高官やOPECのバルキンド事務局長はトランプと価格低減に関し話をしていない、と4月26日に報じられる。
リビアでは、東西両政府の対立が激化していると見られ、4月4日にトブルクを拠点とする東部政府(暫定議会)を支援するリビア国民軍(LNA: Libyan National Army)の指導者であるハフタル将軍が軍に対し国連が支援する統合政府が拠点とするトリポリに進軍するよう(テロリスト掃討が目的とされる)指示した(4月3日に軍が指示を受けたとする情報もある)後、軍はトリポリに向け進軍、既にトリポリ近郊で統合政府の軍と戦闘状態となっている。そしてその過程で4月14日時点で121人が死亡したと同日報じられる(4月17日時点では189人が死亡したと4月18日に報じられている他、国連のサラメ特使はハフタル将軍は統合政府のシラージュ首相の身柄の確保を目指しており、これは同将軍によるクーデター行為であるとして非難している旨4月18日に伝えられる)。また4月13日にはリビア国営石油会社NOCのサナラ会長が、東西両政府の対立が激化することにより、同国の原油生産が完全に停止する恐れがある旨示唆したと報じられる。4月15日に米国のトランプ大統領はハフタル将軍と電話で会談した(4月19日ホワイトハウス発表)が、その場でトランプ氏は、ハフタル氏がリビアでのテロリスト一掃と同国の石油資源の安全確保に対し重要な役割を果たしている旨表明した(4月24日にはトランプ大統領は、ハフタル将軍に対しLNAの進軍を支持する旨表明していたと報じられるが、トランプ大統領が4月9日にエジプトのシシ大統領と会談した際に、エジプトからLNA支持を要請されたと伝えられる)。これは4月7日に米国のポンペオ国務長官が行ったハフタル将軍の部隊進軍を批判する旨の表明と矛盾していると指摘される。その後、LNAは統合政府の軍の防衛によりトリポリに突入できておらず、むしろ南方に押し返されている旨4月21日に報じられる。しかしながら、5月5日に、ハフタル将軍は、5月6日に開始されるラマダンは聖戦の月であることで、トリポリを掌握するために一層戦闘を激化させるよう軍に指示、5月5日に国連使節団が声明で5月6日午前4時(現地時間)からの停戦を要請したものの、ハフタル将軍はそれを拒否しているものと見受けられる。
ベネズエラでは、4月30日に、マドゥロ大統領と対立するグアイド国会議長が一部の軍関係者を味方につけたうえで、「自由作戦」と名付けた作戦を展開、軍にマドゥロ大統領退陣のための決起を促すとともに、ベネズエラ国民に対し反政府デモに合流するよう呼び掛けた。同国内では反政府デモ隊と治安部隊との間で衝突が発生し、5月2日時点で4名が死亡したと報じられるが、軍の大部分はマドゥロ大統領を支援するなど、同大統領退陣への動きは大きくは進展していない。
このように、地政学的リスク要因面では複数の要因が存在する。イランに関しては、米国のイラン産原油輸入国(8ヶ国・地域)に対する原油輸入に伴う制裁の適用除外が終了した一方、60日間で米国の対イラン制裁の影響軽減のための方策を核合意に参加するイラン以外の5ヶ国が確保できなければ、核開発活動を再開させる旨イランが表明した。他方、米国は中東に空母群及び爆撃部隊の派遣を表明、そして地対空ミサイルや輸送揚陸艦を配備する方向に動きつつある他、イランの鉄、鉄鋼、アルミニウム、銅に対する制裁の実施を新たに発表、そのような中で、オマーン湾ではサウジアラビアのタンカーを含む船舶が攻撃を受け一部が破損する事件が発生した他、サウジアラビアではパイプラインがドローンで攻撃されるなど、米国及びイラン、そして中東地域を巡る情勢は複雑化する方向に向かいつつある。このような状況もあり、中東からの石油供給途絶懸念は当面市場で根強く継続すると見られ、この面では原油価格を下支えするものと考えられる。そして、さらなる展開がイランを巡る情勢等で見られるようであれば、それに従って原油相場が上下に変動する可能性がある(米国が対イラン制裁を強化する可能性はあっても、直ちに緩和する可能性は低いと考えられることから、原油相場の側面では上振れリスクを伴うと考えられよう)。また、3月時点で日量130万バレル程度(コンデンセート込みで同170万バレル程度)と推定される(但し別途複数の推定値が散見される)イラン産原油輸出量につき、制裁適用除外期間終了後実際に輸出が皆無となるのか、それともある程度の量が輸出されるのか、ということが今後明らかになれば、足元の石油需給の引き締まり感、及び世界の石油供給における余裕(つまり、OPEC産油国余剰生産能力及びロシアの増産余地)に関する市場の心理が原油価格に反映されるようになるものと考えられる。
ベネズエラについても、経済が混乱しているうえに、大規模な停電が発生していることもあり、原油生産・出荷関連装置の操業に支障が生じている。4月の同国の原油生産量は日量76.8万バレルと前月比で同2.8万バレル増加しているものの、低迷していることに変わりはない(同国の2017年の原油生産量は日量191.1万バレルであった)。そのような中で、マドゥロ大統領と対立するグアイド国会議長は一部軍関係者を自分の側に引き入れたうえで、抗議活動を実施したものの、マドゥロ大統領の退陣を促すほどの勢いにはなっていない。また、ロシアがマドゥロ大統領の支援を表明しており、グアイド国会議長を支援する米国と対立したままとなっており、米国の対ベネズエラ制裁も直ちに緩和する目途が立ってないところからすると、当面同国の原油生産は低迷すると見られる他、さらなる国内混乱(市民による暴動、米国及びロシア等の介入、大規模停電等)が発生することにより、さらに原油生産及び輸出量が減少傾向を示すようであれば、原油相場に上方圧力を加えることもありうる。
リビアについても、西部トリポリ拠点の統合政府(国連及び西側政府支援)と東部トブルク拠点の東側政府(暫定議会)(UAE及びエジプトが支援している他、トランプ大統領も支援している可能性がある)との対立が高まりつつある。東部政府を支援するハフタル将軍が率いる軍がトリポリへの進軍を続けている他、同軍がSharara油田に攻撃を加えていると4月29日にNOCが明らかにしていることに加え、同国中部のEs Sider石油ターミナル(原油出荷能力日量32万バレル)でも兵士が侵入し、滑走路が掌握された旨NOCが明らかにしたと4月30日報じられており(これについては、LNAは否定し、同ターミナルでの操業は平常通りであると主張している)、事実上の内戦状態は収まる気配を見せていない。また、トリポリ自体には原油生産・出荷関連施設は存在しないものの、そう遠くないところにZawiya(原油出荷能力日量23万バレル)及びMellitah(同16万バレル)の各石油ターミナル、及び同国南西部のSharara油田(原油生産量通常時日量31.5万バレル)及びEl Feel油田(同7.5万バレル)からのパイプラインがある。このため、ハフタル将軍が指導する軍の空爆等によりこれら石油ターミナル及びパイプラインの操業に支障が生ずるようだと、その分だけ、同国の生産に影響が及ぶ他、内戦の激化により政府機能とともにNOCの機能が麻痺する結果、地域の武装勢力の抗議行動や、イスラム国(IS)系テロ組織等による活動の活発化を抑制することができなくなることにより、同国に点在するその他の原油生産・出荷関連施設での操業に支障を来す結果、同国からの原油生産量が低下するとともに、石油需給の引き締まり感が市場で発生、原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性も存在する。
加えて、ナイジェリアでもBonny Light原油を輸送するパイプラインであるNembe Creek Trunk Line(NCTL)(原油輸送能力日量15万バレル)が4月21日に火災によって操業を停止したこともあり、当該原油の輸出に関し不可抗力条項の適用を宣言した旨輸出者であるShellが4月25日に明らかにしたが、同パイプラインは操業を再開した旨操業者のAiteoが5月3日に発表した。しかしながら、5月5日にNembe地域の抗議活動によりパイプイラン関連施設が封鎖されたことにより操業が短時間停止した他、5月6日にもパイプラインの2ヶ所で原油流出を検知したことにより、操業が停止している。また、Amenam原油の輸出(通常輸出量日量10万バレル程度)についても不可抗力条項の適用を宣言した旨4月29日に伝えられる。このように、同国では油田で火災が発生したり、抗議行動が発生することによりパイプラインの操業に支障が生じたりする事例が散見されており、今後もそのような状況が継続するようだと、同国からの原油供給に対する不安感が市場で増大する結果、原油価格にそれが織り込まれることもありうる。
経済面では米国と中国の貿易協議の行方が市場関係者の間での注目点になろう。米国と中国との貿易協議に関する合意文書は5月3日の週半ばの時点でおよそ90%の部分で合意に到達していたとされるが、5月3日夜の時点で中国側はそれまでの合意を覆した(米国側関係者によれば、従来の合意事項の殆どの部分が白紙撤回される格好となっているとされる)ことにより、両国の関係が悪化、トランプ大統領は5月5日に中国からの2,000億ドル相当の輸入品に対し従来の10%の関税を5月10日(午前0時1分)を以て25%に引き上げる他、早い時期に現在関税の賦課されていない3,250億ドル相当の輸入品に対し25%の関税を賦課する意向を表明した(ただ、5月6日にライトハイザー通商代表部(USTR)代表は免除措置を設置する可能性があることを示唆している)。5月9日に、トランプ大統領は、中国の習近平国家主席から素晴らしい書簡を受領した旨表明した他、貿易問題に関する合意はなお可能である旨明らかにしており、5月9日には劉鶴副首相が訪米し、5月10日までの予定で米国の相手方(ムニューシン財務長官及びライトハイザーUSTR代表等)と協議を開始したが、5月9日夜になっても貿易問題に関する内容面での合意に至らず、5月10日には米国の関税引き上げが実施された。米国と中国間での貿易問題を巡る協議は5月10日に終了、今後も協議を継続することになったものの、この日も貿易問題に関する内容面での合意には至らなかった。そして5月13日に中国財務省は6月1日よりLNG、石油化学製品、及び農産品等の米国製品2,493品目(600億ドル相当とされる)につき25%の関税を、その他1,078品目につき20%の関税を賦課する旨の事実上の報復措置を発表した(原油及び大型航空機は関税賦課範囲外とされる)。これに対し5月13日夕方(米国東部時間)には、米国USTRが約3,000億ドル相当の携帯電話、ノートパソコン及び消費財を含む中国製品3,850品目に対しさらなる関税の賦課を検討、6月17日に公聴会を開催するとともに、その後1週間にわたりコメントを受け付ける方針である旨明らかにした。他方、5月13日にトランプ大統領は、6月28~29日に開催される予定である20ヶ国・地域首脳会議(G20)(於大阪)開催時に中国の習近平国家主席と会談する予定である意向を表明した。このように米国と中国との貿易紛争を巡る状況は複雑化する様相を呈している。今後も両国は交渉を続けていくと見られる(5月17日現在具体的な協議日程は決定していないとされる)が、中国側は米国に対し追加関税の即時撤廃や合意文書における自国の主権と尊厳等を望んでいるとされ、合意内容を中国が遵守していることを確認等しつつ段階的に関税措置を緩和していく方針とされる米国との間では依然考え方に隔たりがあると見られる他、中国側は原則に関する部分では決して譲歩しない旨明らかにしている(5月10日に劉鶴副首相がそのように発言している)こともあり、今後の交渉過程も紆余曲折を経る可能性がある。また、そのような協議を実施している間も、既に賦課が決定されている関税は賦課されることから、これらが米国及び中国等において経済成長の足枷となる他、今後短期間で合意に至るかどうか市場が確信を持ちきれない(5月10日朝にトランプ大統領は(合意を)急ぐ必要はない旨発言している)こともあり、両国の経済成長の減速とその他諸国経済への波及、そして石油需要の伸びの鈍化懸念の市場での増大が原油相場に下方圧力を加えるリスクが存在する。そして、そのような中で、米国、中国及び欧州等の経済指標類、米国金融当局関係者等の米国経済や金融政策に関する発言等によって、各国・地域の経済成長見通しに対する市場の認識が変化することにより、それが原油相場に織り込まれるものと思われる。
米国では5月25~27日の連休(5月27日が戦没者追悼記念日(メモリアルデー)の休日)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入する。このため、ガソリン需要が盛り上がることに伴い、当該製品生産のため製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量も増加、その結果、原油の購入が活発化するなど、季節的な需給の引き締まり感が市場で強まる結果、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。他方、米国の原油生産量は増加傾向が続いている他、生産見通しも上方修正がなされている。そして、今後も米国の石油坑井掘削装置の稼働数や原油生産量実績及び見通し等により、米国、そして世界石油需給に対する観測が市場で変化することにより、原油相場にその影響が織り込まれるといった場面が見られうる。
大西洋圏では間もなくハリケーン等の暴風雨シーズンに突入する(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり(当該地域では2018年は日量174万バレルの原油を生産した)、また、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障が発生したり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業が停止すること等により米国での原油輸入に影響を与えたりする(2018年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量59万バレル程度の原油を輸入した)。4月4日時点でのコロラド州立大学の予想によると、2019年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは概ね平年並みの暴風雨の発生が予想されている(表1参照)。それでも、このような予報に反し暴風雨の活動が活発化する可能性もあることから、この先のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等に留意すべきであろう。
OPEC産油国は6月25日に総会、6月26日に一部非OPEC産油国との閣僚級会合を開催する予定であるが、5月19日にはOPEC及び一部非OPEC産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)を開催される予定であり、ここで総会に向け何らかの勧告が取り纏められるようであれば、それに基づきOPEC産油国等生産方針及び石油需給に関する観測が市場で発生することにより、原油相場が左右される場面が見られることもありうる。もっとも、現水準の原油価格はサウジアラビアの財政収支均衡価格である1バレル当たり80ドル相当(WTI価格に換算)に届いていないこともあり、サウジアラビアとしてはできる限り原油価格は高値安定の状態を維持したい(そして少なくとも2018年第四四半期に見られたような原油価格急落の事態は可能な限り回避したい)と考えているように見受けられる。加えて、5月以降のイラン産原油の実際の輸出状況やこれまでイラン産原油を輸入していた諸国等のイラン産原油代替等のためのサウジアラビア産原油需要の状況に関し、現時点では十分な情報が得られていない状況にある。また、米国と中国との貿易協議は直ちに決着する可能性がそれほど高くないどころか、関税賦課合戦が長期化する可能性があり、それが両国等の経済成長にとって障害となることにより、石油需要の伸びが鈍化するとの観測が市場で発生しやすくなることに加え、2019年後半以降に米国内陸部でパイプライン網が整備されるとともに、昨今の原油価格の回復により、米国でのシェールオイル等の石油生産が上振れする結果、石油需給の緩和感が市場で醸成されるとともに原油価格に下方圧力を加えるといった展開も否定できない。このように、イラン産原油輸入に関する米国の制裁適用除外措置の終了に伴いイランからの原油輸出が減少しても、世界石油需給見通しにはなお強い不透明感が漂っていることから、5月19日に開催される予定であるJMMCでは、減産に参加するOPEC及び一部非OPEC産油国による減産遵守率を確認するとともに、今後の石油需給状況を十分に監視すべきという、いわゆる「様子見」の姿勢が示されるものと見られ、OPEC総会等に対する原油生産方針に関するより具体的な勧告は、OPEC総会直前に改めてJMMCを開催し、その場で取り纏められる可能性があるものと考えられる。
全体としては、今後米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入による季節的な石油需給引き締まり感が市場で強まる中、イラン、リビア、ベネズエラ及びナイジェリア等に関連する地政学的リスク要因の石油供給に対する懸念が原油相場を少なくとも下支え、情勢等の変化によっては上方圧力を加える一方で、米国及び中国の貿易協議の進捗状況や関税賦課方針等によっては原油相場に下方圧力を加えるものと考えられる。そのような中で、OPEC産油国等の減産方針などに関する関係者の発言や情報、米国経済指標類、米国原油在庫の統計等により、原油相場が変動していくものと思われる。
4.世界天然ガス市場動向
米国では、2018年11月には100万Btu当たり4ドル台に到達していた天然ガス価格が2月以降同2ドル台後半にまで下落したこともあり、全米の天然ガス水平坑井掘削装置稼働数が減少傾向を示している(図16参照)。シェールガス開発・生産の効率が向上している(限られた掘削装置稼働数で複数の坑井を短期間で掘削する、もしくは坑井掘削距離を伸ばす、水圧破砕をより高密度で実施する等により、生産を拡大すること)と見られることがシェールガスの生産を下支えしているものの、例えば、シェールオイルによる随伴天然ガス資源ではなく非随伴の天然ガス資源が中心となっているマーセラス(Marcellus)盆地とウティカ(Utica)盆地を併せたアパラチア地域でのシェールガス生産は2018年12月~2019年3月においては日量288億立方フィート程度で伸び悩み気味となっている(もっとも当該地域での生産は2019年4~6月は多少なりとも増加するとの推定もある)。他方、シェールオイルについても2018年第四四半期の原油価格急落を反映して掘削装置の稼働数は減少傾向を示しているが、原油価格は天然ガス価格に比べ相対的に高水準であることから、開発・生産効率の向上と相俟って、例えば、パーミアン(Permian)盆地では2018年12月には日量325万バレルであったシェールオイルの生産量が2019年3月には同347万バレルへと月平均2.2%の増加を示している(また、2019年4~6月の当該地域原油生産量も伸びるものと見込まれている)。そして、それに伴って随伴される当該地域のシェールガス生産も2018年12月の日量85億立方フィートが3月には同91億立方フィートと月平均2.6%増加している。そしてこのパーミアン盆地でのシェールガス生産増加が一因となり、全米のシェールガス生産量は増加傾向が維持されるとともに、天然ガス生産量も2019年4月には日量892億立方フィートと1997年1月以降の同国月間統計史上最高水準に到達している(図17参照)。そして現時点では米国天然ガス生産量の増加ペースは2020年にかけ鈍化していくと見られているが、これまでも同国の天然ガス生産見通しは度々上方修正されてきたところからすると、この先の同国天然ガス生産も当初見込みよりも上振れする可能性がある。そして、このような考え方が米国天然ガス市場関係者の間で広がっていることが、米国天然ガス価格に下方圧力を加える一因となっている。
他方、Nueva Eraパイプライン(米国テキサス州Webb郡~メキシコMonterrey、天然ガス輸送能力日量5.0億立方フィート、2018年7月2日に操業を開始したと共同操業者であるHoward Energy Partnersが発表)及びEl Encino-Topolobampoパイプライン(メキシコChihuahua~Topolobampo、天然ガス輸送能力日量6.7億立方フィート)(操業者であるTransCanadaが2018年7月16日に操業開始を発表)が操業を開始したこともあり、最新データによれば2018年7月以降米国から天然ガス輸出量が大幅に増加している(図18参照)。加えて、2018年4月9日にCove Point LNG(メリーランド州、操業者:Dominion Energy Cove Point LNG、天然ガス液化能力年産525万トン)、及び2018年11月15日にCorpus Christi LNG第一液化装置(テキサス州、操業者:Cheniere Energy、天然ガス液化能力年産450万トン)が操業を開始したこともあり、LNG輸出も活発化した(図19参照)。また、米国では2019年2~3月は概ね前年よりも寒冷であった(図20参照)ことから、暖房のための天然ガス及び電力利用が堅調であったこともあり、民生及び発電向けを中心として天然ガス需要が伸びた(図21参照)。このように、米国国内の天然ガス生産量は比較的好調であったものの、メキシコ向けパイプラインの天然ガス輸出、及び国外へのLNG輸出が活発に行われた他、国内での需要も堅調であったことから、結果的に同国の天然ガス需給は相対的に引き締まり気味に推移、2月8日時点では1.89兆立方フィートと平年水準(過去5年平均値)を15.0%下回っていた同国天然ガス地下貯蔵量(在庫)は、以降平年水準を下回る率が拡大傾向を示し、3月22日時点では33.2%に到達した(図22参照)。しかしながら、3月下旬以降はしばしば平年を上回る程度に気温が上昇するとともに前年比でも温暖な状況なったことにより、暖房向け天然ガス及び電力利用が鈍化してきたうえ、冷房向けの発電利用を促進するには気温は十分上昇してなかったこともあり、民生及び発電向けを中心として天然ガス需要は鈍化した。このため、米国の天然ガス地下貯蔵量は3月29日以降増加に転じるとともに、その増加ペースも平年を上回るようになり、5月10日時点では1.65兆立方フィートとなるとともに、平年水準を下回る率も14.7%と縮小しつつある(また、当該貯蔵量は2月以降前年同期を下回っていたが、4月19日以降は上回る状態に転じている)。そして、2月半ば頃から3月中旬にかけては相対的に天然ガス需給に引き締まり感が発生したことが、米国の天然ガス価格に上方圧力を加えたことから、当該期間の同国の天然ガス価格は上下に変動しながらもどちらかと言うと上昇傾向となり、2月半ばには100万Btu当たり2ドル台半ば程度であった同国天然ガス先物価格は3月中旬には同2.9ドルに接近する場面も見られた(図23参照)。しかしながら、その後は、冬場の暖房シーズンに伴う天然ガス需要期が終了に向かいつつあった他、同国天然ガス生産の増加見込みによる需給緩和感を市場が意識したことが天然ガス価格に下方圧力を加えた結果、5月にかけ同国の天然ガス価格は下落傾向となり、5月に入ってからは同国の天然ガス先物価格は100万Btu当たり2ドル台半ば程度に到達する場面も見られている。
英国においては、2019年2月から4月前半にかけ一部の期間を除き総じて気温が平年を超過するとともに前年よりも温暖となっている(図24参照)うえ、冬場の暖房シーズンに伴う天然ガス需要期が終了に向かいつつあったことで、暖房向けの天然ガス利用が抑制された他、気温が温暖であったことに加え、風力発電がしばしば堅調であったことが、発電部門での天然ガス利用に負の影響を与えたことから、同国での天然ガス需要は軟調に推移したものと見られる。他方、英国国内での天然ガス生産やノルウェーから英国へ流入する天然ガス供給は、大きな支障もなく推移した他、ロシアから欧州に向けパイプラインで輸送される天然ガスの供給も安定的であったと伝えられる。他方、アジア諸国でのLNG需給緩和(後述)もあり、米国に加え、ロシア(Yamal LNGから出荷されたもの)及びカタールからのLNGがアジアに向かう代わりに欧州に流入した(2018年9月24日に米国が2,000億ドル相当の中国製品に対し10%の関税を賦課したことへの報復として、同日中国が米国産LNGを含む600億ドル相当の米国製品に対し10%の関税を加えたことから、中国の当該LNG購入意欲が低下していることも影響しているものと考えられる)。このため、2019年3~4月の欧州でのLNG輸入量は史上最高水準に到達したものと推定される(図25参照)。このようなことに加え、欧州の主要部分でも2019年2月以降しばしば気温が平年を超過したうえ、前年よりも総じて温暖であったこともあり、欧州の天然ガス需要も抑制されたと見られることから、当該地域の天然ガス需給が緩和、天然ガス地下貯蔵量は前年を上回る状況となっている(図26参照)。このようなことが、欧州、そして英国の天然ガス価格に下方圧力を加えた結果、例えば2月初頭には100万Btu当たり推定6ドル台半ば程度であった英国の天然ガス先物価格は下落傾向となり、5月に入って以降は同推定4ドル台前半を中心とする領域で推移した他、欧州のスポットLNG価格がアジアのそれを下回る場面も見られている。
アジアにおいては、日本、中国及び韓国等で暖冬であったことから、暖房のための天然ガス利用や電力利用が総じて不振であったことに加え、日本の東北地方では気温上昇に伴う融雪により例年よりも早く水資源が潤沢になったことや、冬場の暖房シーズンに伴う天然ガス需要期が終わりに接近しつつあったことが、民生用及び発電用天然ガス需要に影響を及ぼしたことに加え、米国と中国との貿易紛争に伴う関税賦課合戦により中国経済が減速しつつあると言われており(2019年2月4~10日の春節(旧正月)の休日を過ぎても工場での操業等の経済活動が不活発であるとの指摘もある)、産業用及び発電用天然ガス需要が抑制されているものと考えられる。一方で、供給面では夏場を迎えていた豪州では、気温が最高で摂氏40度に到達したり、サイクロンが発生し同国の天然ガス液化施設に接近したりしたこともあり、天然ガス液化施設の操業が低下したことから、同国からのLNG供給が抑制されたものと見られるものの、他のLNG供給施設での操業は概ね順調であったことや、前述の通り需要が旺盛ではなかったことから、天然ガス需給は緩和気味に推移したうえ、冬場の暖房用天然ガス需要期の終了が接近するにつれ、天然ガス需給の緩和感が一層強まった結果、アジアでのスポットLNG価格には下方圧力が加わり、2月初頭には100万Btu当たり6ドル台後半であった当該価格は下落傾向となり4月には同4ドル台前半となった他、一時は英国の天然ガス先物価格や欧州のスポットLNG価格を下回る場面も見られた(このように、通常欧州での価格を上回るアジアでのスポットLNG価格がその差を縮小したり、欧州での価格を下回ったりしたことが、欧州を含む大西洋圏からアジアへのLNGの流入を抑制している格好になっている)。しかしながら、原油価格が上昇してきたことに伴いこの先長期契約LNG価格(主要部分は原油価格連動型である)が上昇していくとの観測が市場で発生したことや、夏場の冷房のための発電部門向け天然ガス需要充足のための調達活動が発生していることが、アジアでのスポットLNG価格に上方圧力を加えた結果、当該価格は反発、5月中旬時点では100万Btu当たり5ドル台半ば程度に到達している。
以上
(この報告は2019年5月20日時点のものです)