ページ番号1007784 更新日 令和1年5月24日

シェール開発で石油・ガス輸出国に返り咲くアルゼンチン 沖合鉱区入札も活況を呈す

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レポートID 1007784
作成日 2019-05-24 00:00:00 +0900
更新日 2019-05-24 16:31:24 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 非在来型探鉱開発
著者 舩木 弥和子
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年度
Vol
No
ページ数 10
抽出データ
地域1 中南米
国1 アルゼンチン
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,アルゼンチン
2019/05/24 舩木 弥和子
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概要

  1. Vaca Muertaシェールの生産量は、シェールガスが31MMm3/d、シェールオイルが7.8万b/dとまだ少ないものの、急増を始めた。生産増を受け、チリやブラジルへのパイプラインガス輸出が再開され、間もなくLNG輸出も開始される。ただし、アルゼンチンの経済状況悪化から、非在来型ガスに対する補助金が削減されたり、ガス価格が凍結されたりしている。多くの石油会社はシェールオイル開発を優先することで対応している。経済状況悪化により、経済開放政策を推し進めてきたMauricio Macri大統領の10月27日の大統領選挙での再選が危ぶまれており、経済の行方とともに大統領選挙の結果が注目される。
  2. 4月16日には、Western Malvinas Basin、Austral Marina Basin、Northern Argentine Basinの38鉱区を対象に30年ぶりに沖合鉱区入札が実施された。18鉱区にメジャーズ等13社が応札、活況を呈した。

1.進展するシェール開発

1.1 生産量はまだ少ないが急激に増加中

2017年1月に連邦政府が石油会社、Neuquén州政府、労働組合と、Neuquén Basinで生産され国内市場に供給される非在来型ガスの井戸元価格を国際市場価格より高く設定、インフラを整備、投資額を増やすこと等に合意したことやコスト削減が進みつつあることなどから、石油会社がVaca Muertaシェールへ積極的に投資を行うようになった。

アルゼンチンのエネルギー省が2018年8月に発表した「アルゼンチンのエネルギーの過去・現在・未来(Pasado, presente y futuro de la energía en Argentina)」によると、2017年6月からの1年間で、アルゼンチンの天然ガス生産量は8.2%増加したのに対し、シェールガス生産量は162%増加し20MMm3/dに、石油生産量は5%増加したのに対し、シェールオイル生産量は54%増加し4.8万b/dになった。さらにその後、シェールガス生産量は2019年2月に31MMm3/d、シェールオイル生産量は2018年12月に7.8万b/dまで増加した。量的にはまだ少ないが、シェールガス、シェールオイル生産量が急激に増加し始めたということができよう。

図1.シェールガス生産量、図2.シェールオイル生産量

1.2 パイプラインガス輸出再開、LNG輸出も開始へ

このように生産量が急激に増加したことで、問題も発生するようになった。天然ガス生産量の急増で、ガスパイプラインの輸送能力が不足するようになったのだ。これには、新規ガスパイプラインの建設遅延も影響を与えていると言われている。また、生産量が増加したことで、ボリビアからのパイプラインガスの輸入やLNG輸入を削減せざるを得なくなり、2019年2月にアルゼンチンはボリビアからのガス輸入契約量を20~40%程度削減することでボリビアと合意した。

また、アルゼンチンは南半球の南側に位置していることから、冬には寒さが厳しく、暖房用にガスを多く必要とするが、夏はそれほどガスを必要とせず、天然ガスの国内需要に季節差がある。需要期である冬には国内で生産されるガスでは需要を満たせないものの、不需要期である夏には一部のシェール井の生産を停止せざるを得ないという事態も起きるようになっている。

そこで、アルゼンチンは不需要期を中心に、国内向けのパイプラインで輸送できないガスをチリやブラジルへパイプライン輸出するようになった。アルゼンチンは1990年代末から2000年代にかけチリ、ウルグアイ、ブラジルにガスを輸出しており、これらの国とアルゼンチンを結ぶパイプラインが存在している。このパイプラインを利用し、すでに、YPF、Total、Pluspetrol、Pan American Energy等がチリへの輸出を、Wintershallがブラジルへのガス輸出を再開している。

図3.アルゼンチンの主要な天然ガスパイプライン

さらに、LNG輸出も開始される運びとなった。YPFは2018年11月21日、ExmarとFLNGを10年間傭船する契約を締結した。このFLNGはもともと、Pacific Exploration & Productionがコロンビア沖のカリブ海で推進していたCaribbean FLNG プロジェクト向けに使用される予定だったものだったが、Caribbean FLNGプロジェクトが2016年3月に頓挫したため、宙に浮いていたものをアルゼンチンで利用することになった。Tango FLNGと名付けられ、液化能力は50万トン/年で、最大年間8カーゴの出荷が可能、YPFの投資額は2,000万ドルとされている。Tango FLNG は2019年2月に、Bahia Blanca港に到着、2019年第2~3四半期の稼働開始を計画している。

YPFはこの他にも、より規模の大きい液化プラントを陸上に建設することを検討している。ところが、アルゼンチンの経済状況が悪化してきたため、アルゼンチンに液化プラントを建設することは難しいのではないかとの見方がなされるようになってきた。そこで、チリに液化プラントを建設し、ガスをチリまで運び液化、LNG輸出を行うことも検討されている。

一方で、ボリビア産ガスをアルゼンチンで液化する計画も浮上している。ボリビアはアルゼンチンとブラジルにガスを輸出してきた。2013~2015年頃は、ボリビアの生産量55~60MMm3/dのうち、30MMm3/dをブラジルに、15MMm3/dをアルゼンチンに輸出し、残りを国内で消費していた。ところが、その後、ブラジルではプレソルトの石油生産量増加に伴い、ガス生産量も増加し、ボリビアからブラジルへのガス輸出量が減少することになった。Petrobrasは2019年末に現在の契約が終了すれば、契約量を半減させたいとしている。アルゼンチンでもシェール生産量が増加し、ボリビアからアルゼンチンへのガス輸出も減少しつつある。そこで、ボリビアはガスの輸出先を模索しており、アルゼンチンやペルーまでガスを輸送し、そこで液化して、LNGを輸出することを検討している。4月には、ボリビア国営YPFBがアルゼンチンの液化プラント建設に投資を行い、そこでボリビア産ガスを液化することで両国大統領が合意しており、ボリビアの投資を得て、アルゼンチン国内に液化プラントが建設される可能性も残されている。

さらに、シェールオイルに関しても2019年中には輸出が開始される見通しである。

1.3 経済状況悪化により新たな課題発生

2018年4月下旬以降、アルゼンチンの経済状況が悪化している。政府は国際通貨基金(IMF)から560億ドルの融資枠を獲得、経済破綻を回避した。

しかし、政策金利は60%となっており、アルゼンチン国内での資金調達は非常に高くつく状況となっている。(参考「アルゼンチン:経済状況悪化によるVaca Muertaシェール開発への影響」)

さらに、2018年末からは、連邦政府が非在来型ガスに対する補助金削減を検討するようになった。これまではプロジェクト承認時に石油会社が生産できると申請した数量に関係なく、生産した全量につき補助金の対象とされていたが、申請した数量についてのみ補助金が支払われることとなった。また、新規プロジェクトは補助金の対象とされないこととなった。補助金の支払いが滞ることもあるという。

そして、2019年4月17日には、新経済パッケージが発表され、インフレ抑制のため、2019年末まで電気料金や公共交通料金と共に天然ガスの価格が凍結されることとなった。

さらに、4月24日には、国債相場が急落、25日には、外国為替市場でペソが過去最安値を更新し、デフォルト懸念が広がった。

アルゼンチンでは、2019年10月27日に大統領選挙が実施される。この選挙にCristina Elisabet Fernández de Kirchner前大統領が出馬するとの見方が広まり、世論調査ではFernández前大統領がMauricio Macri大統領を上回り、経済開放政策を推し進めてきたMacri大統領の再選が危ぶまれる状況となった。Fernández前大統領は、就任期間中にガス価格を低く抑えていたことがあるため、選出されることになれば、シェール開発に影響が生じる可能性があると懸念された。しかし、5月18日、Fernández前大統領は、大統領候補にはAlberto Angel Fernández元首相をたて、自らは副大統領候補として出る意向を示した。いずれにせよ、次期大統領に誰が選出されるかは、経済状況とともにVaca Muertaシェール開発に影響を与えると考えられ、その行方が注目される。

1.4 石油会社はシェールオイル開発を優先

このように経済状況が悪化し、非在来型ガスに対する補助金が削減されたり、ガス価格が凍結されたりする状況で、石油会社はどのような対応をとっているのだろうか。

これまでに、アルゼンチンの経済状況悪化を理由に、Vaca Muertaシェールから撤退した企業は米国のRetamco Operatingのみである。同社は、1983 年にTexas州で創業した企業で、2017年末にRetama ArgentinaよりVaca Muertaシェール、Parva Negra Oeste 鉱区を開発するライセンスを取得、パートナーをみつけ10億ドルを投じ、同鉱区の開発を行うとしていた。しかし、パートナーが見つけられず、同鉱区を手放すこととなった[1]

また、2018年11月に実施されたNeuquen州のVaca Muertaシェールを対象とする入札には札が入らなかった。Neuquen州の州営石油会社Gas y Petroleo del Neuquenによると、このような事態は初めてのことであったという。

しかし、メジャーズをはじめ多くの石油会社は、Vaca Muertaシェール開発を継続する意向を示している。Vaca Muertaシェールプレイに13鉱区を保有し、原油1,200 b/d、ガス148,000 m3/dを生産する中堅企業Medanitoも、経済状況悪化からデフォルト寸前となったが、8,000万ドルのシンジケートローンを確保、開発を継続するとしている[2]

そして、これらの企業は、非在来型ガスに対する補助金が削減されるなどガスに関する政策が頻繁に変更されることを嫌い、また、ガス輸送にはボトルネックが発生しているのに対し石油はパイプラインの輸送能力に余力があることから、シェールオイル開発を優先する方針をとるようになっている。

YPFは、2019年の投資額を当初予定の40~50億ドルから35~40億ドルに引き下げ(ただし2018年の投資額33億ドルよりは増額)、シェールオイルに注力するとした。同社は、ChevronとLoma Campana鉱区で開発を進めている。同鉱区はアルゼンチンで最初にシェールが確認された鉱区で、開発が最も進んでおり、2019年には開発の第2フェーズに入った。YPFとChevronは、同鉱区の生産量を2019年末に5.9万boe/d、2023年に12万boe/dとする計画であるという。YPFはまた、2018年末に、Petronasと組みLa Amarga Chica鉱区のフルスケール開発を開始、生産量を2019年に2万boe/dに倍増させ、2022年には6万boe/dに増加させる計画である。一方、YPFは、Rincon del Mangrullo等主にシェールガスを生産する鉱区の開発は遅らせるとしている。

Shellは、2018年にBuenos Aires製油所(精製能力113,000b/d)、サービス・ステーション645か所等アルゼンチンの下流資産をRaizenに売却したが、その際に今後、アルゼンチンではVaca Muertaシェール、特にシェールオイル中心に上流に注力するとした。2018年12月に、Cruz de Lorena、Sierras Blancas、Coiron Amarga Sur Oeste鉱区のフルスケール開発を開始、5年間に30億ドルを投じ、304坑を掘削、生産量を2021年までに4万boe/d、2020年代中頃までに7万boe/dに増加させる計画である。

Wintershallは、2019年の投資額6億ドルに変化はないものの、シェールガスからシェールオイルにシフトすることを明らかにした。

中小規模の企業の中にも、積極的にVaca Muertaシェールの開発を進める企業が現れてきている。例えば、メキシコのVista Oil & Gas は、CEOのMiguel Galuccio氏(YPFの元CEO)の下、メジャーズではなく中小規模の企業であるからできること、機敏、ダイナミック、画期的な動きをとりたいとしている。Bajada del Palo鉱区では、パイロットフェーズを実施せず、いきなりフルスケールの開発に着手した。そして、最初のdrilling pad(4坑)から6,500boe/dを生産、Neuquen Basinでのこれまでの全ての記録を破った。同社は、これまでにVaca Muertaシェールに1億ドルを投じており、2019年に3億ドル、2019~22年に20億ドルを投じて、150坑以上を掘削する計画であるとしている。

このように、メジャーズから中小企業まで、さまざまなタイプの企業が引き続き活発にVaca Muertaシェールの開発を進めているが、活動の中心がシェールガスからシェールオイルに移ってきていることが、2018年末以降の特徴ということができよう。


[1] LatAmOil 2019/1/8

[2] LatAmOil 2019/2/5

図4.Neuquén州主要鉱区図

表1.Vaca Muertaシェール主要鉱区の最近の開発状況

2.活況を呈する沖合鉱区入札

アルゼンチン政府は、2019年4月16日に30年ぶりとなる沖合鉱区入札を実施、5月16日に正式付与が行われた。対象はWestern Malvinas Basin、Austral Marina Basin、Northern Argentine Basinの38鉱区で、15社が入札資格を取得、18鉱区に13社が応札した。ExxonMobil、Shell、Total等メジャーズやEquinor等IOCが落札、落札額は合計で7.18億ドルとなった。アルゼンチンがこのように高い技術力と十分な資金を持つ企業を誘致するのに成功した背景には、未探鉱エリアを広く公開したり、契約期間の最初の4年間は掘削義務を設けなかったり等、政府が石油会社が参入しやすい条件を設定したことがあると評価を得ている。ただし、アルゼンチンには沖合の経験があるサービス会社がない、3D地震探鉱がほぼ未実施、港湾の浚渫作業が必要、Vaca Muertaシェールよりコスト高になるのではないか等課題も多くあるとされている。

表2.沖合鉱区入札結果

図5.沖合鉱区入札対象鉱区図

以上

(この報告は2019年5月23日時点のものです)

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