ページ番号1007794 更新日 令和1年6月17日
原油市場他:経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化観測が地政学的リスク要因に伴う供給への懸念を相殺して余りあった結果、下落傾向を示す原油価格
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概要
- 米国では、製油所での原油精製処理活動が装置不具合等でもたついた一方国内原油生産は比較的好調であったこともあり原油在庫は増加傾向となった他平年幅上限を超過する状態は続いている。他方、製油所での精製活動の伸び悩みにより製品生産活動は必ずしも活発化しているとは言い切れないものの、ガソリンについては高水準の小売価格、留出油については米国と中国との貿易紛争等の影響に加え中西部での長雨に伴う農作物作付け作業遅延による農機具向け軽油需要不振により、それぞれ需要が低迷したこともあり、両製品在庫は増加傾向となったうえ、ガソリン在庫は平年幅上限を超過しており、留出油は平年幅上方に位置する量となっている。
- 2019年5月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国で増加した他、欧州や日本でも製油所でのメンテナンス作業実施で原油精製処理活動が不活発になったこともあり両地域の原油在庫が増加したことから、OECD諸国全体の原油在庫も増加、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国ではガソリン、留出油、プロパン/プロピレン、及びその他の石油製品在庫等が牽引し、石油製品全体の在庫も増加した。また、日本においても、暖房用需要が低下した灯油に加え、ナフサ等の在庫が増加した結果、石油製品在庫は増加した。このため、製油所の稼働低下で石油製品生産活動が不活発となった欧州での石油製品在庫減少を相殺して余りある状態となったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、量としては平年幅上方付近に位置している。
- 2019年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場では、米国と中国の貿易紛争激化に伴う世界経済成長見通しの下方修正、米国のメキシコに対する関税賦課の方針表明、中国経済が減速しつつあることを示唆する経済指標類、米国株式相場の下落、及び米国の原油等の在庫増加などにより、原油価格は下落傾向となり、6月12日にはWTIで1月14日以来の低水準の終値に到達する場面も見られた。
- 今後も、米国等での夏場のガソリン需要の盛り上がりに対する季節的な需給の引き締まり感が市場に居座ることで原油相場は下支えされるものと見られるものの、米国とイランとの間での対立に対する市場の懸念が極度に高まっているとは言い切れない一方で、米国と中国等との貿易紛争等により世界経済が減速しつつあることでガソリン等石油需要の伸びが弱いことや、この先も石油需要の伸びが鈍化するとの懸念が市場で強まる可能性があることから、原油相場に下方圧力を加わりやすいものと考えられる。このような中、OPEC産油国等は石油市場及び原油価格安定のために、必要な措置(つまり減産)を実施する旨表明し実際に実施することで、原油価格の下支えを図るものと考えられる。従って、原油価格は当面持続的な上昇傾向及び下落傾向を創出することなく、比較的限られた範囲内で変動する可能性があるものと考えられる。
(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2019年3月の米国ガソリン需要(確定値)は日量917万バレルと前年同月比で2.9%程度の減少となり(図1参照)、速報値(前年同月比で2.0%程度減少の日量926万バレル)から下方修正されている。3月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.594ドルと前年同月比では0.115ドル(約4.2%)下落しているものの、前月(同2.393ドル)からは0.201ドル(約8.4%)上昇したことにより、ガソリン小売価格の割高感が市場で意識されたことが、ガソリン需要抑制の背景にあるものと考えられる。また、2月の米国自動車運転距離数が前年同月比で0.5%の減少となったにもかかわらず、同月のガソリン需要が同1.7%程度増加したことへの反動が3月に現れている側面もあるものと考えられる(因みに3月の米国自動車運転距離数は前年同月比で0.3%の小幅増加となっている)。5月の同国ガソリン需要(速報値)は日量940万バレル、前年同月比で1.5%程度の減少となった。同月の全米ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.946ドルと前年同月比では0.041ドル(約1.4%)下落しているものの、前月(同2.881ドル)からは0.065ドル(約2.3%)上昇した他、同国の消費者のガソリン価格に対する不満が顕在化する水準である1ガロン当たり3ドルに接近していることに加え、4月のガソリン小売価格が1ガロン当たり2.881ドルと前月比及び前年同月比で上昇したにもかかわらずガソリン需要が速報値であれ前年同月比で3.4%程度増加した反動が発生したと見られることが、5月のガソリン需要に影響している可能性がある。他方、5月下旬にかけ米国の一部製油所でメンテナンス作業が実施されていたことに加え、装置での不具合の発生や中西部の大雨による河川の水位上昇に伴う予防的措置として近隣の製油所が操業を停止したこともあり、原油精製処理量は増加傾向となったものの、その程度が抑制気味に推移した(図2参照)ことで、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来を控え米国の製油所でのガソリン製造は必ずしも旺盛には行われなかった(最終製品の生産量は図3参照)にもかかわらず、ガソリン需要が低調であったことで相殺されて余りあった結果、5月上旬から6月上旬にかけての米国のガソリン在庫は増加傾向を示し、平年幅上限を超過する状態となっている(図4参照)。
2019年3月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量416万バレルと前年同月比で0.3%程度の減少となり、速報値である日量421万バレル(同1.0%程度の増加)から下方修正された(図5参照)。3月の米国の鉱工業生産が前年同月比で2.2%の増加、そして同月の同国の物流活動が前年同月比で1.4%の増加に、それぞれとどまっている(因みに2018年3月~2019年2月の同国の物流活動の前年同月比での伸びは2.0~8.8%であった)ことから、この面で留出油需要が抑制されたことに加え、2月の米国の鉱工業生産増加率が前年同月比2.7%と2018年9月の同5.4%から鈍化する傾向が続いている他同国の物流活動も同2.0%の拡大にとどまっているにもかかわらず、同月の留出油需要が前年同月比で9.3%増加した反動が3月に発生したと見られることが影響している可能性がある。また、5月の留出油需要(速報値)は日量390万バレルと前年同月比で8.6%程度の減少となった。同月は米国中西部における大雨により穀物の作付け作業が遅延したことから、作付け作業のために使用される農機具向けの軽油需要が不振であったことに加え、米国と中国の貿易紛争の影響で経済活動が減速しつつある(因みに5月の同国鉱工業生産は前年同月比で2.0%の伸びであった)ことが、物流部門等における軽油需要を抑制する格好で作用している可能性がある。ただ、このように米国での留出油需要は比較的伸び悩み気味であったうえ、製油所での稼働が鈍いペースながらも上昇するとともに留出油生産も増加した(図6参照)ことから、5月上旬から6月上旬にかけ留出油在庫は増加傾向となった他、6月上旬時点では平年幅の上方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2019年3月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で1.8%程度減少の日量2,020万バレルとなった(図8参照)。ガソリン需要が前年同月比で減少したことが石油需要全体の伸びに影響している格好となっている。また、その他の石油製品の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正された(速報値の日量402万バレルが確定値では同368万バレルとなった)ことにより、当該需要は速報値(日量2,058万バレル、前年同月比0.0%程度の増加)から下方修正されている。また、5月の米国石油需要(速報値)は、日量2,007万バレルと前年同月比で1.4%程度の減少となった。ガソリン、留出油、プロパン/プロピレン(米国と中国の貿易紛争に伴う経済減速で石油化学部門向け需要が影響を受け始めている可能性がある)の需要低下が石油需要全体の減少に寄与している。また、5月のその他石油製品の需要は日量405万バレルと前年同月比で同33万バレルの増加となっているが、過去の実績(2018年4月~2019年3月の1年間で日量346~426万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要(確定値)が調整されることもありうる。また、OPEC産油国等による自主的及び非自主的な減産等に伴い米国の原油輸入量が低迷している他、製油所での稼働は上昇しつつあるものの、メンテナンス作業の実施や不具合等の発生の影響で原油精製処理活動が伸び悩み気味で推移したことに加え、米国国内の原油生産量が比較的堅調に推移したこともあり、5月上旬から6月上旬にかけ原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を超過する状態は続いている(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過している一方で、留出油在庫が平年幅上方付近に位置する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2019年5月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国で増加した他、欧州でも製油所でのメンテナンス作業が再び活発化したうえ製油所での装置の不具合発生により稼働が低下したことに伴い原油精製処理が進まなくなったことに加え、ロシアからドルジバ(Druzhba)パイプライン(原油輸送能力日量130万バレル)を経由して輸出されてくる原油が有機塩素化合物で汚染された(そのまま使用すると製油所の装置を傷めると言われており、これによってドルジバパイプラインは4月25日以降操業を停止、5月2日には部分的操業を開始したと伝えられるが、完全な操業回復までにはなお時間を要すると見られる)ことから、当該原油が貯蔵タンクに貯蔵されたままとなっていること等もあり、原油在庫は増加している。また、日本でも製油所のメンテナンス作業実施に伴い原油精製処理活動が不活発になったこともあり、原油在庫が増加した。結果としてOECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。(図12参照)。また、石油製品については、米国では、ガソリンや留出油に加え、暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加や冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要減少によるその他の石油製品在庫の増加等もあり、同国の石油製品全体の在庫も増加した。また、日本においては、暖房用の需要が低下した灯油(及び品質が類似するジェット燃料)に加え、ナフサ(石油化学部門におけるナフサ分解装置のメンテナンス作業で稼働が低下していることが影響している可能性がある)等の在庫が増加した結果、同国の石油製品在庫は増加した。このため、製油所の稼働が低下し石油製品生産活動が不活発になった欧州での石油製品在庫減少を相殺して余りある状態となったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、量としては平年幅上方付近に位置している(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する水準となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を上回る状態になっている(図14参照)。なお、2019年5月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.2日と4月末の推定在庫日数(60.3日)から増加している。
5月15日に1,100万バレル台前半程度であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、5月22日には1,100万バレル半ば近辺の量へと増加した。5月29日には1,100万バレル台前半程度の量へと減少したものの、6月5日には1,100万バレル台半ば程度、6月12日には1,200万バレル台前半程度へと増加している。アジア諸国において春場の製油所メンテナンス作業実施時期に突入したことがシンガポールへのガソリン等軽質留分輸出を鈍化させる方向で作用したものの、一部製油所では稼働を再開しつつあることに加え、中国政府が2019年第二回目のガソリン輸出枠を909万トン(推定7,681万バレル)と第一回目の枠である444万トン程度(再配分後)(推定3,752万バレル)を相当程度上回る規模で国営4石油会社に付与した(5月上旬以降報じられる)ことが、同国からのガソリン輸出を促進させる方向で作用していると見られることで、シンガポールでの当該在庫が増加しているものと考えられる。他方、インドネシア等のイスラム諸国では、ラマダン(概ね5月5日~6月4日)突入に伴いガソリンの購入意欲が低下したと言われている他、米国でのガソリン需要低迷により欧州から米国へのガソリン輸出が鈍化しつつあること(即ちこれは、欧州方面からアジア方面へのガソリン流入が相対的に活発化する可能性があることを意味する)、及び前述の通り中国からのガソリン輸出が増加するとの観測が市場で発生していることが、アジア地域でのガソリン価格に下方圧力を加えた結果、5月中旬から6月中旬にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は縮小する傾向を示している。
ナフサについても、日本や韓国等のアジア諸国での石油化学会社のナフサ分解装置でメンテナンス作業が実施されたり不具合が発生したりしていることや、冬場の暖房シーズンが終了したことに伴い暖房向けに利用されていた液化石油ガス(LPG)の需要が減少するとともに価格に割安感が強まったことが、石油化学産業において原料としてLPGと競合するナフサの価格に下方圧力を加えたうえ、米国でのガソリン需要の減速により、ガソリンに混入するためのナフサの需要が鈍化する結果、欧州方面からアジア方面にナフサが流入するとの観測が市場で発生したこと、中国でのナフサ需要が不振であること(米国と中国の貿易紛争に伴う中国経済減速でプラスチックの需要が低迷していることが示唆される)が、アジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加えた結果、5月中旬から6月中旬にかけてのナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサの価格がドバイ原油のそれを下回っている)は拡大する傾向が認められる。
5月15日には900万バレル台前半であったシンガポールの中間留分在庫は、5月22日及び5月29日には1,100万バレル台後半の量へと増加した。6月5日には1,100万バレル強、そして6月12日には1,000万バレル台の水準へと減少したものの、5月15日の水準は上回っている。アジア諸国で春場の製油所メンテナンス作業実施時期に突入したことで、シンガポールへの中間留分供給が低迷する反面シンガポールからアジア諸国各国への中間留分輸出が促進されたと見られるものの、地域の一部製油所では稼働を再開しつつあることに加え、中国の軽油に対する第二回目の輸出枠918万トン(推定6,845万バレル)が付与されたことに伴い同国から軽油が輸出され始めていると見られることで相殺されて余りあったことが、シンガポールでの中間留分在庫増加傾向創出の一因となっているものと考えられる。そしてこのような需給の緩和感が市場で発生したことが、例えばアジア市場での軽油価格に下方圧力を加えたものの、原油価格の下落に軽油価格のそれが追い付かなかった場面が見られたこともあり、当該製品価格とドバイ原油価格との差は上下に変動しつつもどちらかというと縮小する傾向を示している。
5月15日には2,300万バレル台後半の量であったシンガポールの重油在庫は、5月22日には2,200万バレル台半ば近辺、5月29日には2,200万バレル弱の量へと減少した。しかしながら、6月5日に2,200バレル台前半、6月12日には2,300万バレル台後半の量へと回復した結果、5月15日時点とほぼ同水準となっている。アジア地域での製油所のメンテナンス作業実施等により、製油所での重油生産が抑制された一方で、中東の製油所がメンテナンス作業を終了し、稼働を上昇していることもあり、6月に入って中東方面からアジア方面への重油の流れが増大していると見られることが、当該在庫回復の背景にあるものと考えられる。他方、欧米諸国でガソリンや軽油等の石油製品需要が伸び悩むとともに製油所での精製利幅が低迷しつつあることから、今後それら地域の製油所で稼働が低下するとともに重油の供給が不活発になるとの観測が市場で発生していることに加え、原油価格の下落に重油価格のそれが追い付かなかったこともあり、5月中旬から6月中旬にかけての重油とドバイ原油との価格差(この場合重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する傾向が見られる。
2.2019年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場等の状況
2019年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場では、米国と中国の貿易紛争激化と世界経済成長見通しの下方修正、米国のメキシコに対する関税賦課の方針表明、中国経済が減速しつつあることを示唆する経済指標類、米国株式相場の下落、及び米国の原油等の在庫増加などにより、5月20日のWTIの終値である1バレル当たり63.10ドルから下落傾向となり6月12日には同51.14ドルと1月14日(この時は同50.51ドル)以来の低水準に到達した(図15参照)。
5月19日のOPEC及び一部非OPEC閣僚監視委員会(JMMC:Joint Ministerial Monitoring Committee)開催の際、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、生産量を管理することにより石油在庫を「緩やかに」減少させていくことを希望すると発言した他、UAEのマズルーイ エネルギー相も減産措置の緩和は正しい方向ではない旨表明したことで、2019年末にかけての減産継続に対する観測が5月20日の市場で増大したことに加え、5月19日に米国のトランプ大統領が、イランが戦闘したいのなら、それはイランの公式な終わりになるであろう旨発言するとともに、二度と米国を脅してはならない旨警告したことで、米国とイランとの間での対立の激化に対する不安感が5月20日の市場で増大したこと、5月19日にイラクの駐バグダッド米国大使館近くにロケット弾が着弾したことから、中東地域の政情不安と同地域からの石油供給への影響に対する懸念が5月20日の市場で増大したことから、この日(5月20日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.34ドル上昇し、終値は63.10ドルとなった。しかしながら、5月21日には、米国と中国との貿易紛争による中国の経済減速に伴い、2019年の世界経済成長見通しを2019年3月6日の前回見通し時に発表された3.3%から今般3.2%に下方修正した旨5月21日に経済協力開発機構(OECD)が明らかにしたことで、この先の石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり62.99ドルと前日終値比で0.11ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの2019年5月渡し原油先物契約は取引を終了したが、6月渡し原油先物価格のこの日の終値は1バレル当たり63.13ドル(前日終値比0.08ドルの下落)であった)。5月22日には、この日米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(5月17日の週分)で原油在庫が前週比で474万バレルの増加、またガソリン在庫が同372万バレルの増加と、市場の事前予想(原油同60~200万バレル程度の減少、ガソリン同82万バレル程度の減少~同100万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って増加していた旨判明したことに加え、米国のトランプ政権が中国の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)他5社に対し米国からの部品輸出を事実上制限する措置を検討している旨5月22日に報じられたことから、米国と中国の間での貿易紛争が激化するのではないかとの懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.57ドル下落し、終値は61.42ドルとなった。5月23日も、米国が貿易協議を再開することを希望するのであれば、誠意を示し誤った行動を是正すべきである旨5月23日に中国商務省が明らかにしたことから、米国と中国の間での貿易協議に関する悲観的な見方が市場で増大したことで、米国株式相場が下落したこともあり、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.91ドルと前日終値比で3.51ドル下落した。この結果原油価格は5月21~23日の3日間で併せて1バレル当たり5.19ドルの下落となった。ただ、5月24日には、この日米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で797基と前週比で5基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は751基と同8基減少)となっている旨判明したことに加え、米国と中国との貿易紛争は速やかに終結する旨5月23日午後遅く(米国東部時間)にトランプ大統領が表明したことで、米国株式相場が上昇したこともあり、この日の原油価格の終値は1バレル当たり58.63ドルと前日終値比で0.72ドル上昇した。
5月27日は、米国戦没将兵追悼記念日(メモリアルデー)の休日に伴いこの日の終値は計上されなかったが、サウジアラビア南部の都市ジーザーンの空港に飛来した、イエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)による爆薬を積載したドローンによる攻撃をサウジアラビア側が撃墜した旨5月26日に報じられた他、バブエルマンデブ海峡でフーシ派武装勢力による35回のテロ攻撃をサウジアラビア主導の有志連合軍が防止した旨同軍が5月27日に発表したことで、中東地域における政情と同地域からの石油供給に対する不安が5月28日の市場で増大したことに加え、米国中西部各所で大雨が続いたことに伴う洪水や河川の増水等により、複数のパイプラインの操業が停止していることもあり、オクラホマ州クッシングの原油貯蔵集積地点への原油流入が低下するのではないかとの観測が同じく5月28日の市場で発生したことから、この日(5月28日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.51ドル上昇し、終値は59.14ドルとなった。ただ、5月29日には、中国が米国との貿易紛争における対抗手段としてレアアースを利用する用意がある旨5月29日に共産党機関紙である人民日報が報じたことで、米国と中国との間での貿易紛争激化による両国等の経済減速懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり58.81ドルと前日終値比で0.33ドル下落した。また、5月30日には、この日EIAから発表された米国石油統計(5月24日の週分)で原油在庫が前週比で28万バレルの減少と市場の事前予想(同86~140万バレル程度の減少)ほど減少していなかったことに加え、ガソリン在庫が同220万バレルの増加と市場の事前予想(同53~80万バレル程度の減少)に反し増加していた旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.22ドル下落し、終値は56.59ドルとなった。5月31日には、メキシコによる米国への不法移民流入対策が不十分であるとして、6月10日を以て米国の輸入するメキシコ製品全品に5%の関税を賦課したうえ、流入が継続すれば段階的に関税率を引き上げ10月1日には25%とする旨、5月31日に米国のトランプ大統領が発表したことで、米国及びメキシコ等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことに加え、5月31日に中国国家統計局から発表された5月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.4と市場の事前予想(49.9)を下回ったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.50ドルと前日終値比で3.09ドル下落した。この結果原油価格は5月29~31日の3日間で併せて1バレル当たり5.64ドルの下落となった。
また、6月2日には、中国の王受文商務省次官が、米国と中国との貿易紛争に関する協議に際し、米国が中国に最大限の圧力を加えても中国側から譲歩を引き出すことは困難である旨表明したことから、当該問題の長期化による両国等の経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が6月3日の市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.25ドルと前週末終値比で0.25ドル下落した。ただ、サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、OPEC及び一部OPEC産油国間で石油市場安定のための対応を継続するとの意見の一致が形成されつつある旨発言したと6月3日午後遅く(米国東部時間)に報じられたことで、OPEC産油国等による減産措置の2019年末までの延長に対する期待が6月4日の市場で増大したことに加え、米国の景気拡大のために同国連邦準備制度理事会(FRB)は適切に行動する旨6月4日にパウエルFRB議長が発言したことで、この先の米国金融当局による金利引き下げへの期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日(6月4日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.23ドル上昇し終値は53.48ドルとなった。それでも、6月5日には、この日EIAから発表された米国石油統計(5月31日の週分)で原油在庫が前週比で677万バレル、ガソリンが同321万バレル、留出油が同457万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(原油同85~200万バレル程度の減少、ガソリン21~63万バレル程度の増加、留出油同108万バレル程度の減少~50万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って増加していた旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり51.68ドルと前日終値比で1.80ドル下落した。6月6日には、米国政府は不法移民流入によるメキシコへの関税賦課に関しメキシコ側との交渉が継続していることを理由に発動を延期することを検討している旨6月6日にブルームバーグ通信が報じたこともあり、両国等の経済成長減速に対する市場の懸念が後退したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.91ドル上昇し、終値は52.59ドルとなった。6月7日も、この日サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が、2019年初から6月30日の期限で実施している減産措置を延長することに関しOPEC産油国間で合意に接近しつつある旨発言したことで、この先の石油需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、6月7日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で789基と前週比で11基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は748基と同5基減少)となっている旨判明したこと、6月7日に、米国のトランプ大統領がメキシコに対する不法移民流入に伴う関税賦課問題に関しメキシコとの間で合意に至る可能性がある旨発言した他、同日米国労働省から発表された5月の同国非農業部門雇用者数が前月比で7.5万人の増加と市場の事前予想(同17.5~18.5万人の増加)を下回ったことで、米国金融当局による金利引き下げに対する期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.99ドルと前日終値比で1.40ドル上昇した。この結果原油価格は6月6~7日の2日間で併せて1バレル当たり2.31ドルの上昇となった。
6月10日には、OPEC産油国間での減産措置の延長につき未だ合意していないのはロシアだけである旨サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相が発言したとこの日報じられたことで、当該合意の延長に関する不透明感を市場が意識したことに加え、6月28~29日に開催される予定である20ヶ国・地域(G20)首脳会議の際に、中国の習近平国家主席が会談を実施し米国との貿易紛争に関し合意できない場合には、直ちに3,250億ドル相当の中国製品に対し関税を課する旨の方策を実施する方針である旨6月10日に米国のトランプ大統領が明らかにしたことで、両国等の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり53.26ドルと前週末終値比で0.73ドル下落した。また、6月11日には、6月12日にEIAから発表される予定である米国石油統計(6月7日の週分)を控え市場が様子見となったことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.01ドルの上昇にとどまり、終値は53.27ドルとなった。しかしながら、6月12日には、この日EIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が前週比で221万バレルの増加と市場の事前予想(同100万バレル程度減少~8万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って増加していた旨判明したことに加え、米国と中国との貿易協議に関し米国は既に合意した内容よりも劣る条件で合意するつもりは全くない旨6月12日に米国のトランプ大統領が示唆したことで、両国間での貿易紛争が長期化することに対する不安感が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり51.14ドルと前日終値比で2.13ドル下落、1月14日(この時は同50.51ドル)以来の低水準に到達した。しかしながら、6月13日には、この日ホルムズ海峡に近いオマーン湾でメタノール及びナフサを積載したタンカー2隻(日本の海運会社「国華産業」が運航するパナマ船籍の「Kokuka Courageous」でメタノール2.5万トンを積載しサウジアラビアからシンガポールへ航行中、及びノルウェー海運会社「フロントライン(Frontline)」の所有するマーシャル諸島船籍の「Front Altair」でナフサ7.5万トンを積載しUAEから台湾へ航行中)が攻撃を受け、両船とも火災が発生したことで、中東産油国からの原油供給の支障に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.14ドル上昇し、終値は52.28ドルとなった。6月14日も、6月13日にオマーン湾でタンカー2隻が攻撃を受け炎上したことで、中東産油国からの原油供給の支障に対する懸念が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、6月14日にBaker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で788基と前週比で1基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は745基と同3基減少)となっている旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり52.51ドルと前日終値比で0.23ドル上昇した。この結果原油価格は6月13~14日の2日間で併せて1バレル当たり1.37ドルの上昇となった。
3.原油市場における注目点等
5月20日には、サウジアラビア西部のジッダとメッカに向かいつつあった弾道ミサイル2発(イエメンのフーシ派武装勢力が発射したと見られる)をサウジアラビア軍が迎撃した。また、フーシ派武装勢力はサウジアラビア南部のナジュランに向け爆発物を積載した無人機を飛来させたが迎撃したとサウジアラビア主導の有志連合軍が5月23日に発表した。さらに、6月12日には、イエメンのフーシ派武装勢力がサウジアラビア南部のアブハにある国際空港をミサイルで攻撃し、26名が負傷した。
米国等の利害を害するのであればイランに対し容赦ない実力行使を行うという明確なメッセージを示すべく米国が中東に空母群を派遣したこと(5月5日にボルトン大統領補佐官が発表)に伴う中東での緊張の高まりに対し、5月15日にトランプ大統領はシャナハン国防長官代行にイランとの戦争回避の意向を伝えイランの指導者と直接協議する場を設ける方向を模索している、と5月16日に報じられる。これに対しイラン軍関係者は、このような米国の対応方法(=圧力を強めつつ協議の場を設ける)を不誠実であるとして批判している。また、5月19日にトランプ大統領は「イランが戦争したいのであれば、それは公式にイランの終わりになるであろう。二度と米国を脅すな。」と発言している。5月20日には、イランが同国中部ナタンズにあるウラン濃縮施設における低濃縮ウランの生産を同日以降それ以前の4倍に増強する方針であり、既にIAEAに通告してある旨同国原子力庁報道官が表明した。これにより数週間後には核合意で定められている濃縮ウラン貯蔵量の制限を超過する旨明らかにしている。5月24日に米国のトランプ大統領は、大半を防衛目的とする軍事関係者1,500人を中東に派遣する(既に600人は派遣済で駐留期間延長で対応)旨発表した。また、5月24日には、米国のポンペオ国務長官が、緊急を要するとしてサウジアラビア、UAE及びヨルダンに対し議会の承認を得ずに軍事関連機器約81億ドルを売却する旨発表している。他方、5月27日に米国のトランプ大統領は、自分が求めているのはイランの体制転換ではなく核廃棄であり、イランとは合意できると思っている旨明らかにした。これに対しトランプ政権の発言内容に変化が見られることは良い兆候だとしながらも、イランへの敵対行動を米国が実際に転換することをイラン側は望んでいる旨イラン関係筋が5月27日に明らかにしている。また、イランのロウハニ政権は、米国によるイラン原油輸出の事実上禁止に対する制裁を解除すれば、米国との間で協議を行う用意がある旨米国に伝えるようオマーン、クウェート及びカタールに要請したと5月29日に報じられる。もっとも、イランの最高指導者のハメネイ師は米国と交渉するつもりはない旨同日表明している。他方、国際原子力機関(IAEA)は5月31日にイランの核合意履行状況に関する報告書を取り纏めたが、その中で5月20日時点では濃縮ウランの国内貯蔵量が171.1キログラム(核合意で定められた上限300キログラム)、重水125.2トン(同130トン))であることから、イランは核合意を遵守していると結論付けている。また、6月2日に米国のポンペオ国務長官はイランに対して前提条件を設定せずに協議する用意がある旨表明した。もっとも、ポンペオ氏はイランが正常な国として機能する方針である旨表明することが必要であるとも述べている。これに対し6月2日にイランのロウハニ大統領は米国こそが正常な国となるべきである旨表明している。また6月3日には再度ポンペオ国務長官が米国はイランと協議する用意がある旨表明したが、イランに対し核及びミサイル開発活動の停止、そしてテロ活動支援の停止を要求する旨併せて明らかにしている。これに対しイランのハメネイ師は、米国側の提案に騙されない旨表明している。そして、6月7日には、米国財務省がイランの最大手石油化学会社ペルシャン・ガルフ石油化学工業(PGPIC)及びその関係会社等を対象とした制裁(米国での保有資産を凍結する他、制裁対象会社と取引をした場合には米国による制裁の対象となりうる)を発動する(イラン革命防衛隊(IRGC)に対し同社グループが資金を供給していると判断されることが理由)旨発表した。
ナイジェリアではTrans Forcadosパイプライン(原油輸送能力日量24万バレル)が5月19日に発生した火災で操業を停止、5月21日時点でも操業を停止したままとなっているが、出荷に関し不可抗力条項は適用されていない旨、同パイプラインを通じて輸送される原油を出荷しているShellが5月21日に明らかにしている。他方地域住民は火災はパイプライン老朽化によるものであり鎮火していない旨5月21日に伝えられる。
5月17日にノルウェー外務省は、ベネズエラに関し、マドゥロ大統領派勢力と、対抗するグアイド国会議長派勢力との間での和平に関する手続きが開始された旨発表した。しかしながら、5月20日には、反マドゥロ派勢力が大勢を占める国会議員選挙を当初予定されていた2020年遅くから前倒して実施する意向である旨マドゥロ大統領が表明した。5月25日にはマドゥロ大統領派勢力とグアイド国会議長派勢力との間でのベネズエラの政治的混乱収拾に向けた協議(但しノルウェー政府を通じた間接的なものとされる)の予備的段階がノルウェーのオスロで開催、同日ノルウェー外務省は協議を継続する旨の声明を発表したが、5月26日にグアイド国会議長は、当該協議は失敗するであろうとしてマドゥロ大統領退任に向け抗議活動を継続する意向である旨明らかにしている。もっとも、その後5月27日の週において両者は直接対話した旨5月29日にノルウェー外務省は発表しており、合意はなかったとされるが、両者とも今後も協議を継続していることを希望している旨5月29日に伝えられる。
このように、地政学的リスク要因面での今後の注目点としては、イラン、ベネズエラ、リビア及びナイジェリア等が挙げられよう。米国とイランは双方とも対話の実施を模索し始めているが、イランは米国による原油輸出の事実上の禁止措置停止を対話の前提条件としていることに対し、米国はウラン濃縮活動の無期限停止、弾道ミサイル開発、及び周辺諸国への介入の停止等をイランに要求するなど議論のすれ違いが見られることから、両国関係の改善までにはなお紆余曲折を経る可能性がある。また、米国はイランの最大手石油化学会社に対して制裁を発動している一方で、5月8日にイランは2015年7月14日に到達した核合意の履行を一部停止した他60日以内にイランの石油及び金融部門の活動を米国の制裁から防御するための方策に関し欧州等他の核合意参加諸国(離脱した米国を除く)との交渉で進展がなければ、高濃縮ウラン製造活動を再開する旨警告したが、その期限が7月6日前後に到来する。このため、これらを含め米国等とイランとの対立を巡る情勢がさらに複雑化するようであれば、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。もっとも、例えばイランと他の核合意参加5ヶ国との間で何らかの合意に至る結果イランの高濃縮ウラン製造活動再開が回避できたり、米国とイランとの対話開始のための第三者の仲介を通じた模索が継続したりする、といった展開等になれば、原油価格への上方圧力は限定的となることも否定できない。ベネズエラについては、同国経済や原油生産関連インフラ稼働状況が直ちに好転する結果、原油供給が急速に増加に転じるといった展開は考えにくいものの、マドゥロ大統領派勢力とグアイド国会議長派勢力との間で、初期段階ではあるが、ノルウェーの仲介により和平協議に入っていることもあり、グアイド国会議長によるマドゥロ大統領退陣のための大規模デモ活動等の活発化と同国の混乱増大の可能性も以前に比べれば低下している結果、この面では原油相場を上振れさせにくいものと考えられる。リビアにおいても、東部トブルクを拠点とする政府(暫定議会)を支援する軍と西部トリポリ(首都)を拠点とする国連が支援する政府(統合政府)の軍との間での、トリポリを巡る攻防は継続しているものと見られるが、5月の同国の原油生産量は前月比でほぼ同水準(OPEC事務局によれば、4月は日量118万バレル、5月は同117万バレル)となっており、首都での戦闘状態が同国各地の油田の操業に影響を与えていないことが窺われる。またナイジェリアについても、さらなる原油パイプラインの大規模火災発生の情報は聞こえてこない。従って、リビアやナイジェリアにおいても、今後政情不安が増大することにより、原油供給が脅かされるような事態に陥れば、石油供給途絶懸念が市場で増大するとともに原油相場に上方圧力を加えるといった展開はありうるものの、このままの状況が継続すれば、原油相場に対しては中立的に作用していくものと考えられる。
経済面では、米国を巡る通商問題に伴う世界経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化に対する不安感が原油相場に影響を及ぼすものと考えられる。米国と中国との間では、5月10日(米国)及び6月1日(中国)にそれぞれ関税の引き上げが行われている。さらに、米国は華為技術(ファーウェイ テクノロジーズ)に対し部品の供給を事実上制限する方策を実施している他、他の中国テクノロジー企業に対しても同様の方策を実施する方向で検討している旨伝えられる。これに対し中国は自国で生産され米国にも輸出されているレアアースの輸出制限を検討していると5月28日に報じられる他、米国との貿易紛争解決のための協議再開の目途が立たないのは、全面的に米国側に責任がある旨示唆するなど、両国の当該問題を巡る対立は長期化する様相を呈している。6月28日~29に開催される予定である20ヶ国・地域(G20)首脳会議に際し、米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席が会談することにより協議再開にこぎつければ、両国の貿易問題に関する対立と世界経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退する結果原油価格が持ち直すといった展開もありうるが、貿易紛争に関し、中国による合意内容遵守の確認とともに段階的に関税を低減することを希望する米国と、関税の即時撤廃及び中国の主権と尊厳を合意に反映させることを希望する中国との関係は既に相当程度複雑化していることから、仮に貿易問題に関する協議を再開するとしても、全面解決までには、なお紆余曲折を経る可能性があり、その間は関税等の規制が発効したままとなることから、両国、そして世界の経済成長を圧迫するとともに、石油需要の伸びが鈍化するとの観測が根強く市場に残ることになるため、この面で原油相場に下方圧力を加え続けるものと考えられる。また、両国首脳会談が実施されなければ、米国は直ちに3,250億ドル相当の中国製品に対する関税を発動する旨トランプ大統領は明らかにしている。そしてその場合には、両国の通商関係のさらなる悪化と世界経済成長の減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大する結果、原油相場が押し下げられる場面が見られることもありうる。また、5月31日には、トランプ大統領が、公平かつ合理的にインドが自国市場を開放していると米国が確信を持つことができないとして、6月5日を以てインドに対し一般特恵関税制度の対象外とする旨表明した。このようなことも、インドとともに米国の経済成長にとって足枷となるため、両国等の経済成長と石油需要の伸びの鈍化懸念を市場で発生させる可能性がある。そしてこのように、米国は通商関係等において不満を持つ貿易相手国に対しては、関税賦課等の手法で圧力を加える方策を実施することから、そのような認識が市場で醸成される故に、自由貿易体制の後退を通じ世界経済成長に対する悲観的な見方とともに石油需要の伸びの低減に対する観測を市場で強める結果、原油相場が下落する場面が見られうるものと考えられる。また、そのような事象が米国、欧州及び中国との景況感等経済指標類に織り込まれることも想定され、実際そのような経済指標類で経済が減速していることが示唆されれば、これも原油相場を下落させる要因となりうる。他方、6月18~19日には、米国連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される予定である。6月14日時点では政策金利を2.25~2.50%で据え置きとする確率が76.7%あるとされる(残り23.3%は2.00~2.25%へと金利引き下げ)が、実際のFOMCでの決定事項及び、会合前後に示される米国金融当局者の同国経済及び金融政策に対する認識等によっては、7月30~31日に開催される予定の次のFOMCでの金利引き下げ期待が市場で増減する結果、米ドルが変動するとともに原油相場にその影響が及ぶ可能性もある。また、7月に入ると米国主要企業等の2019年4~6月等の業績が発表される予定であるので、それら業績もしくは2019年の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場に影響を及ぼすこともありうる。
米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しており、製油所の稼働も上昇、原油精製処理が進むとともに製油所等による原油購入が活発化、季節的に石油需給が引き締まりやすい時期となっている。そして7月半ば頃までは同国でのガソリン需要の盛り上がりが継続するとともに(米国のガソリン需要のピークは7月4日の独立記念日(インディペンデンス・デー)とされる)、季節的な石油需給の引き締まり感が持続する結果、少なくとも原油価格はこの面では下支えされやすいものと考えられる。もっとも、2019年は、ガソリン価格の上昇(5月時点では1ガロン当たり2.946ドルと消費者によるガソリン割高感が顕在化する同3ドルに接近していた)に加え、米国と中国の貿易紛争の米国経済への影響等もあり、ガソリンの需要が抑制されている結果、ガソリン需要期に突入しているにもかかわらず同国のガソリン在庫が増加傾向となっているなどしていることから、この面でガソリン先物価格に下方圧力が加わることを通じ、その影響が原油相場にも及ぶ可能性も否定できない。
また、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり(当該地域では2018年は日量174万バレルの原油を生産した)、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障が発生したり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業が停止すること等により米国での原油輸入に影響を与えたりする(2018年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量59万バレル程度の原油を輸入した)。5月23日発表の国立海洋大気局(NOAA)国立ハリケーンセンター及び6月4日時点のコロラド州立大学の予想によると、2019年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは概ね平年並みの暴風雨の発生が予想されている(表1参照)。それでも、このような予報に反し暴風雨の活動が活発化する可能性もあることから、この先のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等に留意すべきであろう。
OPEC産油国は6月25日に総会、6月26日に一部非OPEC産油国との閣僚級会合を開催する予定である(7月3日にOPEC総会、7月4日にOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合を、それぞれ開催するよう変更するとの情報もあるが、OPEC加盟国等の間では日程変更につき合意に到達していないものと6月12日に報じられる)。現水準の原油価格はサウジアラビアの財政収支均衡価格である1バレル当たり70ドル台半ば相当(WTI価格に換算)に届いていないうえ、4月23日に到達した2019年初来高値の終値であるWTIで1バレル当たり66.30ドルからも下落してきている。これは、イランと米国の間で対話の機会を模索し始めるなど、両国による大規模軍事衝突、そしてそれに伴う中東地域からの石油供給上の支障の発生の確率が相対的に低下しているとの認識が市場で発生していることに加え、米国でシェールオイルを含む原油生産の増加ペースが上振れしており、また、米国と中国との貿易紛争が長期化する様相を呈していることもあり、引き上げられた関税が両国のみならず世界の経済成長及び石油需要の伸びに影響を与える結果、石油需給の緩和感が市場で醸成されていることが背景にあるものと考えられる。そして、これらの要因はいずれも直ちに市場での石油需給引き締まり感を強める方向に転換するとは考えにくい。加えて、2019年後半は夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了に向かいつつあることにより季節的な石油需給の緩和感が市場で強まりやすいことに加え、2019年後半以降に米国内陸部でパイプライン網が整備されることにより、米国でのシェールオイル等の石油生産が上振れする結果、さらに石油需給の緩和感が市場で増大するとともに原油価格に下方圧力を加えるといった展開となる可能性がより高まる。このようなことから、サウジアラビアをはじめとするOPEC産油国は、むしろさらなる原油価格下落を抑制するために、少なくとも現状の減産体制は維持する可能性がある他、OPEC総会開催時に向け原油価格がさらに下落する兆候を見せるようであれば、減産体制を強化するといった選択肢も視野に入る可能性があるものと考えられる。加えて、今後の世界経済と石油需要の伸び、及び地政学的リスク要因面での不透明感の増大に鑑み、世界石油市場を緊密に監視するとともに、状況が急変した際には迅速に行動するといった姿勢を総会等で表明することもありうる。このようなことから、OPEC総会等の結果に市場が失望することにより、原油相場が下落するといった展開となる可能性は否定できないものの、そうなった場合にはサウジアラビアをはじめとしたOPEC産油国等から原油相場支持のための石油市場安定化に向けた発言や行動がなされるものと見られ、その結果、原油価格の下落が持続する可能性はそう高くはないものと考えられる。
全体としては、今後も、米国等での夏場のガソリン需要の盛り上がりに対する季節的な需給の引き締まり感が市場に居座ることで原油相場は下支えされるものと見られるものの、米国とイランとの間での対立に対する市場の懸念が極度に高まっているとは言い切れない一方で、米国と中国等との貿易紛争等により世界経済が減速しつつあることでガソリン等石油需要の伸びが弱いことや、この先も石油需要の伸びが鈍化するとの懸念が市場で強まる可能性があることから、原油相場に下方圧力を加わりやすいものと考えられる。このような中、OPEC産油国等は石油市場及び原油価格安定のために、必要な措置(つまり減産)を実施する旨表明し実際に実施することで、原油価格の下支えを図るものと考えられる。従って、原油価格は当面持続的な上昇傾向及び下落傾向を創出することなく、比較的限られた範囲内で変動する可能性があるものと考えられる。
4.長期石油市場等に対する市場関係者の考え方
2017年9月から2018年2月にかけ、主な市場関係者により、2040年等にかけての世界長期エネルギー展望の類が発表された。そこで、ここでは、それらを総合することにより、石油を含むエネルギー市場についての関係者間での長期的展望に対する認識に関する大きな流れにつき触れることとしたい。ここで考慮する長期エネルギー展望資料類はIEA(WEO2018: World Energy Outlook 2018(2018年11月14日発表))、OPEC(WOO2018: World Oil Outlook 2018(2018年9月23日発表))、及びBP(BP Energy Outlook(2019年2月14日発表))といった、各機関発表のものとし、原則これら機関による展望類(そして、これら機関が中心的な議論を行っている、いわゆる「標準ケース」)につき考察を加えるとともに、適宜前回発表された同様の展望類と比較する。また、必ずしも世界のエネルギーの包括的な展望となっているわけではないものの、一部地域の一部エネルギー資源を巡る情勢につき展望している機関も存在する。例えばそれはEIA(AEO 2019: Annual Energy Outlook 2019(2019年1月24日発表))等であるが、これら報告における議論内容についても部分的ながら考慮する。なお、機関によっては、必ずしも統計数値が明示されていない場合があるので、その場合は当方で推定することとした。予測期間であるが、特に明記しない限り、2040年までの期間とする。さらに、「前回」の見通しは、IEA(WEO2017: World Energy Outlook 2017(2017年11月14日発表))、OPEC(WOO2017: World Oil Outlook 2017(2017年11月7日発表))、BP(BP Energy Outlook(2018年2月20日発表))、EIA(AEO2018: Annual Energy Outlook 2018(2018年2月6日発表))を指す。
まず、世界の一次エネルギー需要の2040年までの伸び率であるが、IEAが年率1.0%の増加、OPECが同1.2%の増加、BPが1.3%の増加と見ている(図16参照)。このように世界の一次エネルギー需要増加率は年率1.0~1.3%の範囲内となっている。そして、石油、天然ガス及び石炭を合計した化石燃料の一次エネルギーに占める割合は2015年もしくは2017年時点で81~85%であるが、2040年は73~75%と低下はするものの引き続き相当程度を占めると認識されている。他方、WEO2018をIEA World Energy Outlook 2008(WEO 2008)(2008年11月12日発表)と比較した場合、2030年の世界一次エネルギー需要はWEO2008が170億石油換算トンと見込まれていたのに対しWEO2018は162億石油換算トンと若干ながら下方修正されている(図17参照)。これはエネルギー利用の効率化が進みつつあることが背景にあるものと考えられる。
このうち、石炭需要の伸び率については、IEA(2040年までの伸び率年率0.1%)、OPEC(同0.2%)及びBP(同マイナス0.1%)と前回見通し(IEA:2040年までの伸び率年率0.2%、OPEC:同0.4%、BP:同0.0%)から下方修正されている(図18参照)。また、OPECは、2030年から2040年にかけ石炭需要は減少に転じると見ている他、BPも2020年以降石炭需要は減少していくと認識している。このように、長期的には石炭需要は限られた規模の増加にとどまるか、むしろ減少していくと見られている。そして、一次エネルギーに占める割合も2015及び2017年が27~29%の割合であるのに対し、2040年は20~22%に低下すると考えられている。インドや東南アジアでは経済成長を達成するべく比較的安価な石炭の利用が発電部門等で促進されることで、需要が伸びていくと見られるものの、中国等の大口石炭需要国における地球環境問題や都市圏での大気汚染等の公害問題対策(また、米国では石炭に比べ天然ガスが割安になること)で、発電、産業及び民生部門で石炭から他のエネルギー源(天然ガス及び再生可能エネルギー等)への転換が進むことにより、需要が減少していくものと考えられている。また、WEO2008では2030年の世界石炭需要は49億石油換算トンと見積もられていたが、WEO2018では38億石油換算トンと大幅に下方修正されており(図19参照)、2008年に比べ世界は石炭から石炭以外のエネルギーへと移行するとの展望が強くなっていることが示唆される。
風力及び太陽光等の再生可能エネルギー(水力を除くがIEA及びOPECはバイオエネルギーが除かれているのに対しBPはバイオエネルギーを含む)の伸び率については、それぞれ、IEAが年率7.1%、OPECが同7.4%、BPが7.1%となっている(図20参照)。地球環境問題等に対処する各国政府の政策の実施により、一次エネルギー源の中では、最も高い増加率となっている。また、前回見通し(IEA:年率7.0%、OPEC:同6.8%、BP:同7.0%)から上方修正されている。再生可能エネルギーのコスト低減が当初予想以上に進展していることが、需要見通しの上方修正に寄与していると考えられる。ただ、現時点では、導入が極めて低水準であることもあり、伸び率は高いものの、2040年時点においても、一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合は限定的なものにとどまる(IEA:7%、OPEC:6%、なお、BPは15%であるがバイオエネルギーを含んでいるところからすると、その要素を取り除けばIEAやOPECと同様の水準であるものと推測される)。また、足元の需要の絶対量が少ないこともあり、中期的には相対的に高い伸び率になるものの、導入が進むにつれて需要の絶対量が拡大することもあり、伸び率は鈍化すると考えられている。また、WEO2008では2030年の世界再生可能エネルギー需要は4億石油換算トンとの見通しであったが、WEO2018では7億石油換算トンと大幅に上方修正されている(図21参照)など、発電部門においてのエネルギー源が石炭から少なくとも一部は再生可能エネルギーへと転換されていくことが窺われる。
石油需要の伸び率については、IEAが年率0.4%、OPECが同0.6%、BPが0.3%となっており、これは前回見通し(IEA(年率0.4%)、OPEC(同0.6%)、BP(同0.5%))と同水準か下方修正となっている(図22参照)。また、中期的(現在から2020年、もしくは2025年にかけて)には、中国及びインド等の発展途上国が牽引する結果、石油需要は堅調に増加するものの、長期的(2025年以降)には、伸びは鈍化するといずれの機関も見込んでいる。また、中国では2030年には石油需要がほぼ頭打ちとなるが米国が自動車の燃費効率の改善進展により石油需要減少期に突入することもあり2035年前後には中国は世界最大の石油消費国となるとIEAは見ている。中期的にはアジア諸国で経済発展とともに中産階級が増加、それに伴い自動車の購入と運転が活発化することにより、燃料としてのガソリン需要が増加することが示唆されるものの、長期的には、中国をはじめとして電気自動車の普及に加え、燃費効率改善が進むことから、ガソリン需要は長期的には世界全体規模でも伸びが鈍化すると見られており、IEAでは2017年から2040年にかけ日量30万バレル程度、年率0.1%程度で減少、OPECも同期間に日量230万バレル、年率0.4%程度の増加になると見ている。OPECのガソリン需要見通しでは、バイオ燃料等が含まれているが、他方BPはバイオ燃料等の利用が2017年から2040年にかけ日量140万バレル増加する一方で、石油由来のガソリン需要は日量40万バレルの増加にとどまると説明している。このためOPECにより描かれているシナリオでも石油由来のガソリン需要は2040年にかけ微増にとどまる可能性があることが窺われる。なお、電気自動車(乗用車、機関によってはプラグ・イン・ハイブリッド型自動車やハイブリッド型自動車を含む)の導入については、2040年(因みにこの時点で世界の乗用車保有台数は約20億台と2017年(約11億台)からほぼ倍増すると推定されている)に、それぞれの機関とも3.0億台程度に到達すると認識しており、IEAは電気自動車の導入により日量330万バレル程度の石油需要が置き換えられる旨示唆している。
また、トラックによる貨物輸送やバスによる旅客輸送に関しては、中国、インド等をはじめとして今後も活発化すると見られているものの、燃費効率の改善や欧州でのディーゼルエンジン排出ガスに関する不正事件後当該地域でのディーゼル車の利用が減速していくとの指摘(OPEC)もあり、軽油需要は発展途上国を中心として、2017年から2040年にかけ年率0.4%で増加するとIEA(当該期間の需要増加量日量280万バレル)及びOPEC(同290万バレル)は見ている。ただ、BPは軽油についてもガソリン同様バイオ燃料等の利用が促進される(2017年から2040年にかけ日量60万バレルの増加)一方で石油由来の軽油利用は減少する(同80万バレルの減少)となると見込んでおり、バイオ燃料を含むとされるOPECの見通しにおける石油由来の軽油需要も微増にとどまる可能性が暗示される。他方、非OECD諸国での1人当たり所得の増大に伴う航空機利用活発化の一方で、当該部門では石油以外のエネルギー源への代替(電気化等)や燃費効率の改善がより緩やかに進むため、ジェット燃料/灯油は2017年から2040年にかけIEAで日量300万バレル(年率1.5%)の増加、OPECで同250万バレル(同1.3%)の増加と予想されている。また、BPも2017年から2040年にかけジェット燃料/灯油需要は日量260万バレルの増加となる一方で、バイオ燃料等の利用増加は同20万バレルの増加にとどまることから、石油由来のジェット燃料/灯油はそれなりに需要が増加する可能性がある。そして、非OECD諸国の人口増加や経済発展に伴うプラスチック等石油化学製品の需要増加に伴い、エタン、プロパン、ブタン、ナフサ等の石油製品は、石油化学部門において、他の原料では大幅な置き換えが困難である側面があることから、2017年から2040年にかけ年率1.1~2.1%で需要が増加していくとIEA(2017年から2040年にかけナフサが日量350万バレルの増加、エタン/LPGが同390万バレルの増加)やOPEC(同ナフサが日量220万バレルの増加、エタン/LPG同330万バレルの増加)は展望している。また、重油については、船舶部門では国際海事機関(IMO)による船舶燃料硫黄含有分規制(2020年1月1日を以てそれまでの3.5%から0.5%へと引き下げ)が一時的に船舶燃料の主流である高硫黄重油の需要に負の影響を与えるものの長期的には船舶への硫黄除去装置(Scrubber)の設置が進むことに加えアジア諸国を中心として重油を燃料とする船舶による国際貿易が活発化することにより、この部門での重油の需要は回復するとOPECは考えている。もっとも発電等他の部門では天然ガスや再生可能エネルギーへの転換が進むことが当該部門での重油需要の伸びを抑制することから、重油需要全体では2017年から2040年にかけて、IEAが日量40万バレル(年率0.4%程度)の減少、OPECが同30万バレル(同0.2%程度)の増加にとどまると見ている。これについては、BPも同期間で日量30万バレルの減少となるものと考えている。
石油供給であるが、中期的には非OPEC産油国の生産量が伸びていくと予想されている。この非OPEC産油国の石油生産の中心は米国産のシェールオイルであるが、IEAが2025年前後に日量920万バレルで、OPECが2025年前後に同922万バレルで、BPが2030年前後に同1,030万バレルで、そして、EIAが2030年に同1,022万バレルで、それぞれ最大となった後、2040年にかけ減退していく(2040年の米国シェールオイル生産量はIEAが日量740万バレル、OPECが同720万バレル、BPが同844万バレル、EIAが同946万バレルである)(図23参照)。それに従って、非OPEC産油国の石油供給も2025~2030年にかけ頭打ちとなり、その後2040年にかけ減少していく。他方中期的には非OPEC産油国石油供給の増加もあり、OPEC産油国石油供給は伸び悩むが、非OPEC産油国石油供給がピークに到達した後は、堅調に増加していく。そして、OPEC産油国石油供給の世界に占める割合は、2017年が43%(IEA)、40%(OPEC)及び41%(BP)であるが、その割合は中期的には低下傾向となり、2025年で底となる(IEAが40%、OPECが37%、及びBPが36%)。その後はOPEC産油国の石油供給増加に伴い割合は上昇傾向となり2040年時点ではIEAが45%、OPECが44%及びBPが41%と、足元の世界石油供給に占めるOPEC産油国の割合と同水準かそれを超過すると見られている(図24参照)。もっとも、米国のシェールオイル生産の最高水準は前回(IEAが2025年で日量830万バレル、OPECが2030年で同826万バレル、BPが2030年に同956万バレル、EIAが2040年で同814万バレル)から相当程度上方修正されており、その結果世界石油供給に占めるOPEC産油国の割合も前回見通し時の底となる水準(IEAが2025年に41%、OPECが2025年に35%、BPは2016年の40%から2040年にかけ一貫して上昇傾向)から下方修正されている。しかしながら、いずれにしても、中期的にはOPEC産油国の市場支配力が低下、即ち原油価格にはより上方圧力が加わりにくくなるものの、長期的にはOPEC産油国の市場支配力が上昇するとともに、原油価格に上方圧力が加わりやすくなることを示唆している。
天然ガス需要の伸び率については、IEAが年率1.6%、OPECが同1.7%、及びBPが同1.7%となっており、他の化石燃料に比べると伸びが際立っているが、前回見通し(IEA:年率1.6%、OPEC:同1.8%、BP:同1.6%)と比べると、機関によって上方修正、下方修正、そして据え置きと、判断が分かれている(図25参照)。IEAやBPは、中国での大気環境改善のため石炭から天然ガスへの転換促進政策により、天然ガス消費が促進される旨指摘している。また地域的にはアジア地域をはじめとして非OECD諸国を中心に、部門としては発電部門と産業部門において天然ガス需要が顕著に伸びていくと考えられている。
他方、天然ガス供給面においては、中期的(概ね2025年まで)には米国のシェールガスに加え中国、ロシア及び豪州等での天然ガスの生産が堅調に伸びていくとIEAやBPは予想している(図26参照)。しかしながら、2025年から2040年にかけては、米国でのシェールガスの生産が鈍化する反面、中東やアフリカ等で天然ガス生産が加速すると両機関は考えている。また、中国等アジアでの天然ガス需要が伸びていくことに伴い、天然ガス輸入が増加するが、LNGによる輸送が主流となる結果、2025年には地域間天然ガス貿易は2025年にはLNGがパイプラインを追い越し、2040年には天然ガス貿易の60%弱がLNG、40%強がパイプラインによりなされるとIEAは見込んでいる(因みに2017年はLNGが40%強、パイプラインが60%弱である)。そして現時点での大口LNG輸出国はカタール及び豪州であるが、2040年に向けては、これら諸国に加え、米国、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国、ロシア等でLNG輸出が促進されるとIEAは考えている。
以上
(この報告は2019年6月17日時点のものです)