ページ番号1007800 更新日 令和1年6月28日

マレーシア、ペトロナスに関する考察(後編)

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レポートID 1007800
作成日 2019-06-28 00:00:00 +0900
更新日 2019-06-28 16:07:55 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業
著者 加藤 望
著者直接入力
年度 2019
Vol
No
ページ数 23
抽出データ
地域1 アジア
国1 マレーシア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アジア,マレーシア
2019/06/28 加藤 望
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概要

マレーシアの国営石油・ガス会社であるペトロナスは、Fortune Global 500 の2018版では総収入ベースで191位に、またPetroleum Intelligence Weekly誌の2018年世界のNOC & IOCランキング100によれば21位に位置し、世界の石油・ガス会社の中では堅実なポジションを維持している。

前編では、その生い立ちと歴史ならびに組織的な特徴および2018年のマレーシアにおける総選挙の影響を中心に、会社としての仕組みを分析した。

後編は、マレーシアの国内外におけるペトロナスの上流開発への取り組みを紹介する。

主な内容は次のとおり。

  • マレーシア全体の石油・天然ガスの探鉱開発、生産およびオフショア鉱区について
  • 国内上流開発におけるペトロナスのポジション
  • ペトロナスが主導するLNGビジネス
  • FLNGの活動
  • サバ-サラワク ガスパイプラインについて
  • 海外におけるペトロナスの積極的な上流開発とLNGビジネス
  • サラワク州のRoyaltyに関する論争
  • マレーシアにおけるPSCの特徴

(ペトロナス HP、同年次報告書、Wood Mackenzie, IHS Markit, Platts他)

1.マレーシアにおける原油および天然ガスの生産量

ペトロナスを含む、マレーシアの原油および天然ガスの生産の推移を図1~3に示す。BP統計2019によると原油とガスを併せた2018年原油換算生産量は、インドネシアが207万バレル/日であるのに対し、マレーシアは、インドネシアにほぼ匹敵する193万バレル/日である。

このうち、ペトロナスとその100%株式を所有する上流開発子会社であるPetronas Carigali(以下Carigali、チャリガリ、という)が生産する割合は、Wood Mackenzieによると半分強の51.2%を占める(P3、表1)。

図1 マレーシアの原油生産量推移(1978年~2018年)
図1 マレーシアの原油生産量推移(1978年~2018年)
出所 BP統計
図2 マレーシアの天然ガス生産量推移(1978年~2018年)
図2 マレーシアの天然ガス生産量推移(1978年~2018年)
出所 BP統計
図3 マレーシアの油・ガス合計生産量推移(1978年~2018年)
図3 マレーシアの油・ガス合計生産量推移(1978年~2018年)
出所 BP統計

ペトロナスの原油とガスの生産量については、同社Financial Report(2018 Q4)によると、2018年は国内(ペトロナスグループおよび他のオペレーター生産分)と海外(ペトロナスグループのみ)を合わせた生産量の合計2,361 thousand boed であった。一方、BP統計による2018年のマレーシア国内における油・ガスの生産量は下記のとおり1,931.11 thousand boedであるので、その差の約430 thousand boed がペトロナスグループの海外生産量と推定される。

表1 マレーシアにおける主な上流開発会社および2018年生産量

2.マレーシアのオフショア鉱区の概要

2.1 オフショア位置図

マレーシア連邦の位置を図4で眺めてみる。マレーシアは半島マレーシアとボルネオ島の西側に分かれている(インドネシアでは一般的にボルネオ島をカリマンタンと呼ぶ)。ボルネオ島には、サラワク州とサバ州がある。その二つの州の間に挟まれるようにブルネイ・ダルサラーム国(通称ブルネイ)があるがブルネイの国境はサラワク州とのみ接している。歴史的にサラワクとサバの両州ではイギリス領マラヤ時代よりアブラヤシからのパーム油の生産、天然ゴム等の大規模プランテーションが行われてきた。また、今ではその面積を著しく減じているが、原生林による木材資源が豊富であった。1957年マレーシア半島でマラヤ連邦が独立したあと1963年にマラヤ、サバ、サラワクおよびシンガポールでマレーシア連邦を結成した。後にシンガポールが1965年に分離独立し現在のマレーシア連邦の形となった。

図4 マレーシア位置図
図4 マレーシア位置図 各種資料よりJOGMEC作成

2.2 オフショア鉱区

マレーシアのオフショア鉱区は、以下の三つの地域に分けられる。オンショア鉱区も存在しているが、生産量は少ない。

  •   マレー半島沖(マレー半島の東から北東沖)
  •   サラワク沖(ボルネオ島南西沖)
  •   サバ沖(ボルネオ島北西沖)

三つの地域のそれぞれの油・ガスの産出量については明確な資料はないが、ライセンス数をみるとおよそ4:3:3の比率である。

図4からも分かるように、ボルネオとマレー半島との間には、マレーシアが管理する排他的経済水域(EEZ)がなく、インドネシアのEEZが間に存在する。このためサラワク州沖で採取された天然ガスをパイプラインでマレー半島に直接輸送することは必ずしも容易ではない(国連海洋法条約上は可能だが、インドネシアの同意が必要である)。また、距離も海底部分だけで1000キロメートルを超えることからパイプライン敷設による経済性を確保することが難しい。原油はFPSOを利用してタンカーで輸送・輸出することは容易いが、サラワク沖の天然ガスはBintuluのLNG液化基地でLNGとして出荷している。一方、マレー半島沖で生産されたガスは、パイプラインで半島のトレンガヌ州ケルテ(Kerte)に送られ半島で使用されている。しかし、それだけでは人口の多いマレー半島の需要には応えられず、後述するように現在2隻のFSRUにて輸入LNGの再ガス化を行い供給している。

図5 マレーシア半島沖鉱区図
図5 マレーシア半島沖鉱区図
出所 ペトロナス2019年鉱区入札資料より
図6 出所 ペトロナス
図6 出所 ペトロナス 2019年鉱区入札資料より

2.3 マレーシアの鉱区の特徴

  1. ポテンシャルが高いと見込まれているエリアの探鉱はだいぶ進んできており、成熟化しているといってよい。未探鉱未開発鉱区は、小型化し、遠隔地にあり大水深に位置する。したがって、探鉱と生産に要する費用が嵩むことになる。
  2. 開発可能と思われる鉱区は、ペトロナスが優先して優良鉱区を手懸けることができる仕組みとなっている。上流開発子会社はCarigaliである。入札が行われる場合には、未開発鉱区もしくは外国上流会社により放棄された鉱区、探鉱されたが開発には至らず中断となった鉱区でCarigaliが引き継がなかった鉱区が入札の対象となるのが一般的である。
  3. 有望鉱区が減ってきていると述べたが、実際には、資源量は豊富なものの二酸化炭素含有量が高いガス田が残されていることが挙げられる。特に、マレー半島沖とサラワク沖に存在するガス田はCO2 含有量が25%から高いものは70%にもなる。CO2 含有量が多いガス田の開発は採算性の観点からは難しいが、ペトロナスとしては、これらガス田を将来的に活かし生産に結び付けたいと考えており、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)およびCCUS (Carbon dioxide, Capture, Utilization and Storage)の研究をマレーシア工科大学および外国企業と共同で進めている[1]

[1] CCSおよびCCUSの用語の説明は、経済産業省資源エネルギー庁のWebsite「知っておきたいエネルギーの基礎用語」を参照願いたい。https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html
また、Cameronと多繊維膜分離技術を共同研究している。

2.4 地域別の油・ガス田の特徴

  1. マレー半島沖
    マレー半島沖は主として油田がメインであり。ガスは随伴ガスとして生産されている。原油とガスは海底パイプラインでトレンガヌ州のKertehに送られ、原油は精油所に送られ精製される。ガスは、ガス発電の燃料および石油化学プラントの原料および燃料として使用される。マレー半島沖では、CO2 濃度が高いガス田が多く見つかっているが技術やコストの問題から開発が遅れている。
  2. サラワク沖
    サラワク州沖はガス田の開発が主である。生産されたガスのほとんどは、BintuluにあるLNG液化プラントに送られ、そこでLNGとして輸出される。LNG液化プラントの概要は後述するが、9トレイン、2,930万トン/年の生産能力を持つ。陸上LNG液化プラントの原料ガスとしてサラワク沖のガスがいつまで充分な量を供給できるかが気になるところだが、ペトロナスの説明では2026年までは確保しているという。その中にはこれから開発されるガス田の生産量が含まれているようだ。マレーシア全体のガス生産量は2022年をピークとして2023年から減退が始まるという。その減退を補完するため、サバ沖で生産されたガスをBintuluまで輸送するサバ-サラワク・パイプラインが重要となってくる。サラワク沖もCO2 濃度が高い未開発のガス田が多く残されている。
  3. サバ沖
    サバ沖の特徴は、大水深(最大水深約1,800メートル、平均800メートル~1,200メートル)で油田が比較的多いということである。また、油・ガス田のサイズも比較的小型であり、海底パイプラン網も密には発達していない。原油に関しては、Kikeh油田ではFPSOにて直接輸出しているが、ガスは陸上に送られるものの、人口が少なく産業が未発達なサバ州にはガス需要はそれ程大きくない。後述するようにサバ-サラワク・パイプラインがフルに稼動していないことから、発見されても開発に着手できない油・ガス田(既発見未開発)が存在する。
図7 マレーシア 油・ガス田 全体図
図7 マレーシア 油・ガス田 全体図 出所 GlobalData Oil and Gas

2.5 マレーシアのLNG液化設備

ペトロナスのビジネスで重要な位置を占めるのがLNGの販売である。2017年のペトロナスの売り上げ中22%をLNGが占めている。ただし、一部海外のLNG液化プラント(豪州GLNG:Gladstone LNG)による売り上げが含まれている(注:エジプトELNGのLNGはこれまで原料ガスの減少により細々と運転していたがEniによるZohrガス田の発見と開発により2019年に本格的な生産再開が始まった)。

表2 ペトロナスのマレーシアにおけるLNG液化プラントの現状と計画

また、世界で初の浮体式LNG(FLNG)である、ペトロナスFLNG Satu (PFLNG Satu: Petronas Floating LNG Satu、120万トン/年)はサラワク沖最大水深80mのKanowit ガス田に据え置かれ、2017年12月に LNGの生産を開始したが、一年数ヶ月稼動しただけで2019年3月にサバ沖の水深120mのKebabangan フィールドに移動し5月より生産を再開している。この移動のためのエンジニアリング、Hook-upとCommissioningはマレーシアのSapura Energyが手懸け、水深の違いによるMooring Chainの付け替えは三井海洋開発が請け負った。これに要した費用は2億ドルといわれている。

更に、ペトロナスは、PFLNG Dua(生産能力150万トン/年)を現在韓国のSamusung Heavy Industriesで建造中であり、2020年上半期に同じくサバ沖Rotanガス田に配置の上、生産が開始される見通しである。

また、マレー半島ではガスが不足しているためにLNGを輸入して再ガス化している。そのためFSRU(Floating Storage and Regasification Unit)を二隻、半島の西側に配置している。

表3 ペトロナスの国内LNG再ガス化プラント

2.6 サバ・サラワク ガスパイプライン(SSGP)とBintulu LNG液化基地について

サバ沖で生産された天然ガスは、一部サバ州の発電所や工場、民生用で消費され、残りは、2014年に運転開始となったサバ・サラワク ガスパイプライン(SSGP)を通じてサラワク州BintuluのLNG液化プラント(生産量2,930万トン/年)に送られる。そこでLNGに液化され輸出される。

SSGPは、送ガス開始から約5年半が経過しているが、これまで3回ガス漏れとそれに伴う火災と爆発事故を起こしている。詳細な報告は公表されていないが、修理と復旧で半分弱の期間、2年以上SSGPは使用できなかったといわれている。

パイプラインは、インドとサバ州の工事業者が建設した。ルートは、直線ルート上にブルネイがあることから迂回せざるを得ず、熱帯雨林の峻険な山裾を通っている。熱帯モンスーン特有のスコール等集中豪雨により土壌が軟弱になり、土砂崩れが起きパイプランが流されたというのが前述の火災や爆発事故の直接的な原因である。一方、パイプラインは集中豪雨による土砂崩れを考慮しておらず設計段階において安全上の瑕疵があったとの指摘もある。

幸い、Bintulu向けの天然ガスはサラワク沖ガス田の開発・生産が順調であり、BintuluにおけるLNGの長期生産維持に向けた取り組みが平行して始まっている。

また、SSGPが信頼性に欠けつことから、もう一本新たにサバからBintuluに向けてガスパイプランを建設・敷設するという計画も取り沙汰されている。

SSGPの来歴

  • 2008年契約、2011年竣工(512km、36 inches、600mcf/d≒450万トンLNG/年)。建設・敷設コンソーシアムはインド企業Punj LloydとDialog E&C およびサバ州政府の企業であるPetrosab Logisticsで構成。建設資金は、14.4億ドルである。
  • 2014年1月 送ガス開始
  • 2014年6月10日 Lawasにて爆発。原因ガス漏れ
  • 2018年1月9日 ガス漏れ 復旧に1年間は要すると。2019年5月3日復旧。
  • 2019年5月8日 火災発生。2時間ほどで鎮火され爆発にはならず。ペトロナスは直ちに運転中止し、現在原因究明と復旧作業中。

2.6 Murphy Oilのマレーシアからの撤退について

ここではマレーシアの石油開発を管理する唯一の事業主体というペトロナスの観点からMurphy Oilの撤退について述べてみる。

2019年3月21日に米国アンカンソーに本拠を置く独立系中堅のMurphy Oil(Murphy)がその保有しているマレーシアの権益のすべてをタイのPTTの子会社であるPTT Exploration & Production Public Company Limited(PTTEP)に譲渡する旨を発表した。総額US$2.117 Billionの取引であり、取引は2019年6月末に完了する予定である。

同社は、オフショアに強みを持つ探鉱開発企業で、北米、南米、東南アジアおよび豪州で活動している。1999年にマレーシアに進出し、三ヶ所のオフショア鉱区の権益を取得し、ペトロナスとPSC(生産分与契約)を締結した。Murphy社は2001年にサラワク沖で最初の油田を発見。次いでサバ州沖Kikehで2002年8月に油・ガス田を発見した。この発見は同社の歴史の中でも特筆すべきものであった。同社は、開発にあたってプラットフォームとFPSOを使用した。そのときのエンジニアリングはフランスのTechnipが担当した。また、マレーシアの Malaysia Marine and Heavy Engineeringが建設を請け負った。Kikehからの生産は2007年に開始した。12万バレル相当/日の油・ガス処理能力を持つFPSOを配している。

Murphyは、2014と2015年に7つのマレーシア資産(Kikeh, Sarawak Gas Project in Blocks SK309 & SK311, Blocks K. H, P とSK314A およびPM311)の権益30%、当時86,000バレル相当/日をインドネシアのPertaminaに約20億ドルで売却した経緯がある。今回の取引は、Murphy によるとその資産を見直し、負債を圧縮し北米を強化(Eagle Ford のShaleとメキシコ湾)すると述べている[2]。より投資回収期間の短い北米シェールとメキシコ湾に資産を集中する狙いがあるとされている。ペトロナスは、Murphyが手放す権益の買収には動かなかったようだ。ペトロナスは自ら有望鉱区の新規の探鉱開発権を取得できるのであるから、20億ドル超の対価を払ってまで、民間会社保有の自国の権益資産を取得することはないと判断したのであろう。Murphyは、マレーシアの資産売却に続いて、ベトナムとブルネイでも保有している権益資産も売却し、東南アジアから撤退するものとみられている。


[2] Murphy Oil  2019年3月21日ニュースリリース

表4 Murphy Oilのマレーシアにおける主要資産

過去4年間のMurphy Oilの業績は以下のとおりである。マレーシアの生産が会社全体の生産の約30%を占めている。ただし、同国における原油、コンデンセートおよびNGL (Natural Gas Liquid)の合計を示す液分(Liquid)の生産量が落ち込んできているのが分かる。同社の資産の約30%を占めるマレーシア資産の売却に踏み切った背景には、以下に示すように同社の財務状況の厳しさもあるようだ。

表5 Murphy Oil  過去4年間の業績推移   単位:US$ million (除く生産量)

3.ペトロナスの海外展開

3.1 上流開発

ペトロナスの海外における上流開発の展開は、NOCの枠を超え始めているのではないだろうか。イージーオイルが少なく反対にマージナル油田(限界油田)の多いマレーシア国内では十分な成長が望めないために、技術力を磨いて海外のよりポテンシャルが高いエリアに進出せざるを得ない事情があった。メジャーズが保有する最先端の技術は後述するPSCに参加することによって自ら獲得する、もしくは100%所有の上流開発会社の Carigaliによって吸収されていった。特にサバ沖での大水深の油・ガス田の開発を通じ、Carigaliは技術と経験を蓄積していった。

2017年末時点におけるペトロナスの海外における上流権益は、以下の17カ国に広がっており、その上流開発契約数(ライセンス契約、PSCおよびサービス契約)は120を越える。

  • カナダ(1)、メキシコ(10)、アルゼンチン(1)、アイルランド(3)、エジプト(11)、アルジェリア(1)、チャド(1)、ガボン(1)、スーダン(3)、南スーダン(8)、イラク(3)、アゼルバイジャン(1)、トルクメニスタン(1)、ブルネイ(3)、インドネシア(20)、ミャンマー(6)およびオーストラリア(45)である。(注:カッコ内は契約数を示す)

このうち、生産中のフィールドは37ヶ所、非在来型はカナダとアルゼンチンの2ヶ所である。以下、特筆すべきフィールドを何ヶ所か取り上げる。

  1. カナダ・アルゼンチン(非在来)

    ペトロナスがオペレーターを務めたものの、Capexが嵩むこと等から経済性が得られないとの理由で2017年7月に撤退を決めたPacific NorthWest LNG Projectは、ペトロナスがオペレーターである確認埋蔵量22.3tcfという大型のNorth Montney(ブリティッシュ・コロンビア州:ペトロナス62%、Sinopec15%、Japex10%、Indian Oil 10% 、Petroleum Brunei 3%)のシェールガス田から生産されたガスを原料にすることが想定されていた。ペトロナスはPacific NorthWest LNGプロジェクトからの撤退は決めたものの、如何にNorth Montneyからのガスを効果的に販売するのかという問題を抱えていた。結局、既に組成が終わり先行していたShellがオペレーターであるLNG Canada Projectに参画し、権益を25%取得した(Shell 40%、ペトロナス25%、PetroChina 15%、三菱商事15%、Kogas 5%)。なお、LNG Canada Projectは2018年10月に最終投資決定(FID)がされた。

    また、ペトロナスはアルゼンチンの大型シェールプレイであるVaca MuertaのLa Amanga China鉱区にアルゼンチンのYPFとともに開発に参画している。

  2. メキシコ(大水深)

    ペトロナスは、自らまたはCarigaliを通じ2015年からメキシコの鉱区入札に参加し、2016年12月のラウンド1.4の結果、Salina del Istmo Basinで3鉱区を、また2018年1月のラウンド2.4ではCorillerasエリアの 鉱区10、12と14およびCuenca Salina エリアで鉱区25、26ならびに28の権益を取得した。浅海の一鉱区を除き水深は1,500メートルを超える大水深である。中でも、Petronas Carigaliが単独で権益を取得した鉱区25および26は最大水深が2,000メートル近くもあり、サバ沖の開発以上の困難を伴うオペレーションが予想される。Carigali の開発力量が試されることにもなる。

表6 ペトロナスのメキシコ鉱区入札(ラウンド1-4、2-1および2-4)の結果

  1. 豪州

    オーストラリアでは45のライセンス契約を締結しているが、アラフラ海でEniがオペレーターを務めるオフショア開発の一鉱区とSantosがオペレーターのQueensland州の陸上Coalbed Methane (CBM:炭層ガス) 開発に参加している。ただし、フラクチャリングに対する水汚染、土壌汚染等環境破壊への不安感から法規制が必要と認識されている。

  2. イラク

    イラクHalfaya油田は、イラクにおける大型油田のひとつである。2018年の推定生産量は25万バレル/日であるが、増産により2019年中には40万バレルの生産を目指しており2019年5月時点では35万バレル/日まで生産量が増加していると思われる。このサービス契約への参加企業の権益比率は、PetroChina(CNPC)45%、Carigali 22.5%、Total 22.5%、Basra Oil(イラク石油省)10%となっている。

3.2 ペトロナスの海外におけるLNGプロジェクトへの展開

ペトロナスのLNGの海外展開は以下の表のとおり、液化プラントが計画中も含めて3ヶ所、再ガス化プラントは、1ヶ所である。エジプトのELNGは、2012年頃からエジプトのガス生産が著しく落ち込んだことによりLNGの生産も僅かとなったが、Eniが発見開発した大型Zohrガス田が生産に移行したことにより2019年後半からは国内消費分を超える生産ガスはLNGとして輸出されることになっている。

表7 ペトロナスの海外におけるLNG液化プラントの現在と計画

表8 ペトロナスの海外におけるLNG再ガス化プラント

4.サラワク州が要求するRoyalty問題

サラワク州は、石油とガスの生産に伴う現行Royaltyの州政府の取り分5%を20%に引き上げよと2017年以来主張している(因みにマレーシアのPSC上、Royaltyは10%である。連邦政府が5%、油・ガス田が存在する各州(サバ州、サラワク州、クランタン州およびトレンガヌ州)が5%の取り分となっている)。

ただし、20%の解釈が政権与党とサラワク州政府の間で異なっている。2018年5月の総選挙で勝利したマハティール率いるPakatan Harapan(希望連盟)は、選挙時の公約は「利益の20%」であると主張。一方、サラワク州政府は従来の5%と同様、「生産量の20%」をRoyaltyとしてサラワク州に与えるべきとし、Pakatanの公約に違反すると主張。一方、1974年の石油開発法ですべての石油とガスの権限が与えられたペトロナスは、2018年6月にサラワク州政府の主張は石油開発法1974に違反するとして連邦裁判所に提訴したものの、連邦裁判所は、本件はまずサラワク州の地方裁判所で審議すべきとの管轄違いの理由で門前払いをしている(2018年6月22日付連邦裁判所)。

既に、サラワク州はペトロナスに代わる事業体として、州の上流開発企業“Petroleum Sarawak (Petros)”を2017年に設立しており、2018年7月1日よりサワラク州で操業する上流開発企業およびその他コントラクター、サービス企業に業者登録をするよう呼びかけている。

この問題は、サラワク州(サバ州も同様)の成り立ちという歴史的な背景を押さえないと、本質には辿りつけないため以下にサラワク州の石油開発を巡る歴史を簡単にまとめさせて頂いた。20%のRoyalty問題の解決は、マハティール首相は2019年10月までには解決できるだろうと述べているが、一方では数年掛かるのではないかともいわれている。ペトロナスは本件について連邦政府、即ち政治の問題であるとして距離を置いているが、2019年鉱区入札の対象からサラワク沖が除外されている等の影響が出始めている。

<サラワク州の石油開発を巡る歴史>

(注:本稿は、金沢大学人間社会学域経済学類 中島健二教授のご了解の下、同士の論文「マレーシアの石油権益における連邦と州の対立-連邦国家の形成の一事例」(京都大学経済学会「経済叢書第147巻、第148巻」を参考に要約した。)

サラワク州は1963年のマラヤ連邦と統合してマレーシア連邦になるまでは英国の植民地であった。英国は石油管轄権をサラワクに与え、かつ大陸棚まで延長することを認めていたが、その当時は石油開発の揺籃期であり、今日のようなサラワクが石油・ガス開発の中心地ではなかった。また、植民地時代はサラワクの取り分はRoyaltyのみであった。このため、統合の時にはサラワクはマレーシア連邦からの潤沢な財政援助を期待していた。一方、隣国のブルネイは、主力油田は海岸に位置しており1963年のマレーシア連邦統合期の前より油田の存在が明らかになっていたためマレーシア連邦の財政援助に期待する必要がなかった。また、統合後10年間に限り英国の保護領時代の権益を保障するという誘いにも魅力を感じなかったためブルネイは統合に参加せず独立を維持した。

実際、マラヤ政府とサラワクとの交渉では、石油開発の権限に対する議論はなかったようだ。

1966年までマレーシアで生産していた石油生産会社はシェルのみであった。同社はサラワクの連邦参加以前にイギリスの植民地当局によって同地域の利権を譲渡されていた。1952年に沖合鉱区を植民地時代の鉱業法(1949)によりリースされ、57年より探鉱を開始した。63年の連邦加盟の年を境に沖合油田が次々と発見されていったのは皮肉としかいいようがない。これらの新油田は沖合30kmから250kmほどであった。マレーシア連邦が大陸棚法と石油鉱業法を制定したのは1966年である。それまでは、土地および資源に関する権限は各州に帰属すると定められていたが、大陸棚法および2012年に制定された領海法(Territorial Sea Act 2012) によって3マイル(約5km)を超える大陸棚資源は連邦政府によって領有されることになった。しかし、大陸棚法の適用範囲はマレー半島に限られ、サバとサラワクのボルネオ2州には適用が見送られ、領海法もサバ州、サラワク州とも同意していない。サバとサラワクに対してはマレーシア連邦に帰属させるために大幅な自治が与えられた。かつ、サバ、サラワクともイスラム教徒は当時30%強と少数であり、マレー半島からマレー・イスラムの浸透や人の移動の自由に対する警戒から現在でも、サバ、サラワクに行くにはパスポートの提出が義務付けられている。

1974年に、これまでの石油鉱業法に代わり石油開発法が制定された。その眼目は、インドネシアのプルタミナに倣ってペトロナスを設立すること。そしてペトロナスにマレーシアの石油資源を全面的に委譲することにあった。したがって、これまで法的に未解決であったサバ、サラワク両州の石油管轄権もペトロナスに移転され、同時にそれまで石油会社に譲渡されていた石油の利権はすべて無効とされることとなった。次に、ペトロナスが石油資源の所有者であるのみならず、その開発を管理する唯一の機関となったことである。

ペトロナスと石油開発上流会社が新たに締結した生産分与契約により予想利潤が圧縮されたエッソは操業の一時停止をして抵抗し、コノコは撤退した。

この石油開発法の結果、州政府の取り分はRoyaltyの半分5%となった。連邦側取り分は、当時ペトロナスが生産量の27%、政府が36.5%となった。

サラワクとサバの両州は当然石油権限の委譲に難色を示したが、その間に力を付けたマレーシア連邦政府は、中央に反発する州政府の首相を解任し、また非常事態宣言を発して圧力をかけ続けた。

連邦体制における石油資源の主権の保障という特権的な地位がサバとサラワクを連邦へと引き付けたひとつの要因であるが、マレーシア連邦政府は発足より中央集権の拡大を目指したのである。

5.マレーシアPSCの特徴

現行のPSCの基本となっているのが1997年モデルである。そのほか限界油田を想定した別Risk Service Contract(RSC)モデルおよびEOR使用を考慮したPSCがある。

また、近年2010年以降徐々に「費用を上回る収益」という概念に基づくPSC(new PSC based on “revenue over cost” concept、R/C PSC) が登場し使用されている。R/C PSCは、他の国のPSCには類をみないペトロナスによる革新的な試みである[3]。以下、東北大学名誉教授の猿渡氏の論文から引用する。

「R/C PSCは、探鉱・開発のための作業を自社のコスト負担で請負い、コストの回収分および報酬を取り決められた割合のコスト・オイル(ガス)および利益オイル(ガス)として生産物で受け取るという点では従来のPSCと変わらないが、従来のPSCにはなかった「費用を上回る収益」という概念がコントラクターの収益性を測る指標として開発され、その概念に基づいて財務管理される。一般的には利益率はIRRとして計算されるが、「費用を上回る収益」概念に基づく財務管理では、収益性はコントラクターのR/C Indexで判断される。

コントラクターのR/C Indexは次のように定義される。交渉に合意した時点の条件および技術に基づいて、コスト、埋蔵量、原油(ガス)価格が見積もられ、それらの推定値を用いてR/C Index

が作成されるが、R/C Indexの分母はコントラクターの探鉱・開発のための投資や作業コスト、分子は契約発効日からのコントラクターの累積的コスト回収原油(ガス)+累積的利益原油(ガス)となる。」

また、2019年の鉱区入札から大水深と浅海の区分が導入され、生産期間が25年から20年に短くなった他、コスト認定の限度額が低くなったなど浅海での条件は若干厳しくなった。

このように、マレーシアのPSCはペトロナスとコントラクターの取り分がケースバイケースで可変であることから複雑であり、かつインドネシアや他の国と異なり交渉により決定される余地も残され、落札してからPSCが締結されるまで半年以上掛かることも珍しくない。通常毎年10月末に翌年の鉱区入札が発表されるが、決着はこれまで翌年秋頃であったという(ただし2019年は6月末にAwardを目指している)。ペトロナスは、何種類かのPSCおよびガスの買い取り契約のフォームを準備しており、フィールド条件ごとに使い分けているという。

次に、マレーシアのFiscal Terms の概要を別紙(マレーシア 1997年PSCモデルに基づくFiscal Terms(財務条件)概要)に示す。R/Cという概念の導入により一見しただけでは分かりにくくなっている。最終的なコントラクターの手元に残るキャッシュは標準的な油の場合で20%弱、ガスの場合で25%程度といわれており、世界的にみて条件面は上流開発コントラクターにとっては厳しい。しかしながら、ペトロナスの監督体制への信頼性、多くの油・ガス田があり探鉱の結果、生産に繋がる可能性が高いという、まったくのニューフロンティアではないため、投資的には堅実といえよう。


[3] 「国営石油会社ペトロナスの技術能力構築と競争優位-石油探鉱開発契約と市場セグメントの創出を通じた技術能力構築-」東北大学経済学部名誉教授 猿渡啓子 2017年8月31日発行 http://hdl.handle.net/10097/00123662

6.最後に

一見磐石そうにみえるペトロナスであるが、国内の上流開発に限れば、今後数年間のガス生産は増加基調であるが、その後2023年以降に減産が見込まれる。未開発ガス田は、既に述べたとおり規模が小さく、深海にあり、また高濃度の二酸化炭素を含んでおり現在のLNG価格からすると開発コストを考えると採算性がとりづらいかもしれない。また、油田も同様に開発が困難になってきており、いわゆる“イージー・オイル・ガス”の時代は去り、開発は常にチャレンジングである。一方、これまでの開発からサバ沖を除きパイプラインネットワークは発達しており、またCarigaliは大水深での経験を積んできている、更にペトロナスは、世界初のFLNGの運用にも成功し技術的には東南アジアのNOCの中では抜きん出いるといわれている。ただし、一部にはCarigaliの技術もプロジェクト・マネージメント能力も未だグローバルレベルには達していないとの指摘もある。

PSCとそれに基づく財務条件は、交渉によって決められる事項があるが、ガスはペトロナスが全量買い取りすることが決められている。BintuluでのLNG液化プラントに優先的にまわすためサラワク沖で生産されたガスの買い取り価格は、LNG販売価格で優位性を保つためにマレー半島沖のガスと比べ特に低く抑えられているようだ。しかし、今後は探鉱・開発費が嵩むことになり、採算性の問題が浮上してこよう。

ペトロナスは、PSCの規定を柔軟に変更しようと試み、交渉を通じて外国投資家の要望を取り入れ投資を惹きつけようと努力はしている痕跡は認められる。しかし、前編で眺めた国家機関としてのペトロナスの特性から判断して、ペトロナスおよび国家の取り分を大幅に減じ、コントラクターに与えることは容易ではないと推察される。今後のペトロナス、マレーシア連邦とサラワク州との問題を含め石油・ガス上流開発の舵取りに注目していきたい。

マレーシア 1997年PSCモデルに基づくFiscal Terms(財務条件)概要

別表1 Profit Sharing with Revenue over Cost (R/C) Ratio

別表2 Cost Recovery Ceiling (限度額)

別表3 Excess Cost Recovery (限度額に達しない場合の追加コスト回収)

以上

(この報告は2019年6月28日時点のものです)

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