ページ番号1007802 更新日 令和1年7月5日
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概要
- メンテナンスや新規浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)の生産開始の遅れ等で2018年のブラジルの石油生産量は2017年の274万b/dから270万b/dに減少した。2019年初も同様の状況が続いたが、生産開始が遅れていたFPSOが生産を開始、2019年後半はメンテナンスが減少する見通しで、生産増が見込まれる。中期の石油生産見通しについても、IEAが2024年のブラジルの石油生産量を387万b/dとしたり、Bento Costa Albuquerque鉱業・エネルギー相が今後10年でブラジルの石油生産量を550万b/dに倍増させるとしたりする等生産増が見込まれる。沖合プレソルトの生産が開始されてから10年が経過し、プレソルトの石油生産量は150万b/dを超えた。今後もプレソルトがブラジルの石油生産増の中核を担うと考えられる。
- ブラジル国家石油庁(ANP)は、2019年10月10日に5堆積盆地の36鉱区を対象に第16次ライセンスラウンドを、11月7日にSantos Basin、Campos Basinのプレソルト5鉱区を対象に第6次PS入札ラウンドを、11月6日にSantos Basin の4鉱区を対象にTransfer of Rights 払い下げPS入札ラウンドを実施する。政府はその後、2020年に第17次ライセンスラウンドと第7次PS入札ラウンド、2021年に第18次ライセンスラウンドと第8次PS入札ラウンドを実施する計画だ。さらに、2021年以降には、排他的経済水域200海里を超えたエリアの鉱区の入札を実施することも検討している。
- Petrobrasは、2019~2023年の5年間の投資額を当初計画よりも25%多い1,050億ドルとし、うち900億ドルを探鉱・生産部門に投じると発表、主要な石油会社も、生産性が高く低コストで生産が可能なプレソルトを中核エリアの一つとしている。したがって、今後、プレソルトの開発、増産に牽引され、ブラジルの石油生産量増加に拍車がかかる可能性がある。ただし、2017年以降、ブラジルがあまりにも頻繁にプレソルトの有望鉱区の入札を行っているため、保有資産バランスを考慮した場合、石油会社にとってプレソルトへのエクスポージャーが増えすぎることにより、特定資産への依存が高まりすぎる恐れがあることから、これ以上積極的な入札は難しくなるのではないかと危惧する向きもある。
(Platts Oilgram News、International Oil Daily、Business News Americas他)
1. 2019年以降は石油生産量増加の見通し
IEAは、ブラジルの石油生産量は2017年の274万b/dから2018年第4四半期には303万b/dまで増加、2018年通年の生産量も289万b/dに増加すると見る等、2018年はブラジルの石油生産量が増加すると見ていた。しかし、実際にはメンテナンスが長引いたり、新規浮体式生産貯蔵積出設備(Floating Production Storage and Offloading System:FPSO)の生産開始が遅れたりする等で2018年の同国の石油生産量は270万b/dに減少した。
2018年の生産量減少の原因の1つとされる新規FPSOの生産開始の遅れについて、Petrobrasは2017年末に発表した5か年計画「Business and Management Plan 2018-2022」で、2018年にCidade de Campos dos Goytacazes MV29、P-67、P-68、P-69、P-74、P-75、P-76の合計7基のFPSOの生産を開始するとしていた。しかし、2018年中に生産を開始できたのは、このうち4基のみで、残り3基は2019年に入ってようやく生産を開始した。
このような状況から、2019年に入っても、ブラジルの石油生産量は1月が263.1万b/d、2月が 248.9万b/dと低調に推移した。特に2月はFPSO P-43(Barracuda、Caratinga油田)の生産停止とFPSO Capixaba(Jubarte、Cachalote油田)のメンテナンスにより生産量が減少した。
しかし、2月1日にFPSO P-67、2月20日にFPSO P-76、3月19日にFPSO P-77の生産が始まり、ブラジルの石油生産量は3月に256万b/d、4月に260.4万b/dと増加に転じている。
Petrobrasによると、新規FPSOが生産能力いっぱいまで生産量を増加させるには、これまで18か月かかっていたが、経験値が増したことやプレソルトの1坑当たりの生産量が多いことから、これを約12か月に短縮できるようになった。過去1年間に導入された7基のFPSOは順調に生産を伸ばしているが、うち6基はまだランプアップ中で、今後、石油生産量はさらに増加する見通しだ。また、2019年第1四半期にはメンテナンス等による計画的な生産停止が多かったが、2019年の残りの期間はメンテナンスが減少する見通しで、この点からも生産増が見込まれる。
FPSO | オペレーター | 油田 | 生産能力 | 生産開始 | |
---|---|---|---|---|---|
石油 | ガス | ||||
P-74 | Petrobras | Búzios | 15万b/d | 7MMm3/d | 2018/4/20 |
Cidade de Campos dos Goytacazes MV29 |
Petrobras | Tartaruga Verde Tartaruga Mestiça |
15万b/d | 3.5MMm3/d | 2018/6/22 |
P-69 | Petrobras | Lula Extremo Sul | 15万b/d | 6MMm3/d | 2018/10/23 |
P-75 | Petrobras | Búzios | 15万b/d | 7MMm3/d | 2018/11/12 |
P-67 | Petrobras | Lula Norte | 15万b/d | 6MMm3/d | 2019/2/1 |
P-76 | Petrobras | Búzios | 15万b/d | 7MMm3/d | 2019/2/20 |
P-77 | Petrobras | Búzios | 15万b/d | 7MMm3/d | 2019/3/19 |
P-68 | Petrobras | Berbigao-Sururu | 15万b/d | 6MMm3/d | 2019(計画) |
各種資料を基に作成
中期の石油生産見通しについても、大幅な増加を見込むものが多くなっている。
IEAは2019年3月に発表した「Oil 2019 Analysis and forecast to 2024」で、ブラジルの新たに生産を始めるFPSOは2018年4基、2019年4基だが、2020年は1基に減少すると見ている。しかし、2021~23年には9基のFPSOが生産を開始し、その結果、ブラジルの石油生産量は2018年の270万b/dから2024年には387万b/dに117万b/d増加するとしている。生産見通し対象期間の初期は、2018年4月以降4基のFPSOが生産を始めたBúzios油田とLula油田が、その後はLibra block のMero油田、Berbigao油田、Atapu油田、Sepia油田、Itapu油田が生産増を牽引するとしている。Petrobrasは生産減退が著しいCampos Basinについても、2023年までにTartaruga Verde油田やMarlim油田などに新たに生産システム4基を導入し、生産減退食い止めにあたるとIEAは見ている。
また、Bento Costa Albuquerque鉱業・エネルギー相が今後10年でブラジルの石油生産量を550万b/dに倍増させる方針を明らかにしたり[1]、ブラジル国家石油庁(National Agency of Petroleum, Natural Gas and Biofuels:ANP)がプレソルトの開発により2027年までに石油生産量を550万b/dに増加させる見込みを発表する(いずれも2019年6月)等、ブラジル政府も大幅な生産増を見込む発表を行っている。
2019年6月でブラジル沖合のプレソルトで生産が開始されてから10年が経過した。プレソルトの生産井1坑当たりの平均生産量は2.5~2.7万b/d、ブラジルで生産量の多い坑井30坑は全てプレソルトの坑井となっており、プレソルトの石油生産量は150万b/dを超えている。プレソルトで最も生産量の多いLula油田の2019年4月の石油生産量は87.3万b/dで、2019年中には100万b/dを上回る見通しとなっており、今後もLula油田等プレソルトがブラジルの石油生産増の中核を担うと考えられる。
[1] 日本経済新聞, 2019/6/18
2. 2019年中に3度の入札を計画
ANPは、2019年10月10日に5堆積盆地の36鉱区(総面積29,300km2)を対象に第16次ライセンスラウンドを実施する(契約形態:コンセッション契約)。対象鉱区の内訳はCampos Basin13鉱区、Camamu-Almada Basin4鉱区、Jacuípe Basin3鉱区、Pernambuco-Paraíba Basin5鉱区、Santos Basin11鉱区となっている。Campos BasinとSantos Basinの一部の鉱区はプレソルトエリアに隣接する鉱区となっており、第14次、第15次ライセンスラウンドのようにメジャーを中心に多くの国際石油会社IOC(International Oil Company)や国営石油会社NOC(National Oil Companey)が興味を示すのではないかとみられている。
ANPは、また、Santos Basin、Campos Basinのプレソルト5鉱区を対象に第6次PS入札ラウンドを11月7日に実施する(契約形態:PS契約)。Petrobrasは1月に、このうちAram、Norte de Brava、Sudoeste de Sagitarioの3鉱区について優先権を行使、オペレーターとなり、権益30%以上を保有することをエネルギー政策委員会(National Council for Energy Policy: CNPE)に申請、CNPEは2月にこれを承認した。
盆地 | 鉱区 | サインボーナス | 政府引取利益原油 最低比率 |
水深 | 面積 | その他 |
---|---|---|---|---|---|---|
Santos | Aram | 50.5億レアル | 24.53% | 1,800m | 4,476km2 | Carcaráに近接 |
Bumerangue | 5.5億レアル | 26.88% | 2,300m | 1,119km2 | 過去に掘削が行われたことはない | |
Cruzeiro do Sul | 11.5億レアル | 22.87% | 2,200m | 1,860km2 | Lula、Júpiterに近接 | |
Sudoeste de Sagitário | 5億レアル | 26.09% | 1,850m | 1,036km2 | Norte de Carcará、 Sagitário、Uirapuruに近接 |
|
Campos | Norte de Brava | 6億レアル | 36.98% | 200~800m | 148km2 | Marlim Leste、Marlim、Viola、 Voador、Moreia、Albacoraに近接 |
各種資料を基に作成
政府は2010年に、Santos BasinのTransfer of Rightsエリアでプレソルトから50億bbl相当の原油・天然ガスを生産する権利をPetrobrasに付与した。当時の原油価格に基づいて、Petrobrasは同社株式425億ドル相当を政府に譲渡した。両者は、開発移行時に原油価格、開発コスト、生産量等を勘案し契約(譲渡額)を見直すことについて合意していたが、Petrobrasは政府が最大300億ドルを払い戻すべきだと主張、一方、政府の一部にはPetrobras側が支払いを行うべきだとの意見もあり、協議が続けられていた。2019年4月、政府はPetrobras に90.58億ドルを支払うことを提案、5月にPetrobras取締役会がこの提案を受け入れると発表した。一方で、Petrobrasが探鉱を進めた結果、同エリアの確認埋蔵量が50億boeを上回ることが判明した。そこで、政府とPetrobrasの合意を受けて、ANPは、Transfer of Rightsエリアの確認埋蔵量50億boeを上回る量を生産する権利を入札にかける。このTransfer of Rights 払い下げPS入札ラウンドは当初、2019年10月28日に実施予定と発表されていたが、6月中旬に11月6日に日程が変更された。対象鉱区は4鉱区で、サインボーナスは合計で1,065億レアル(271億ドル)とされている。PetrobrasはこのうちBúzios鉱区及びItapu鉱区の権益30%を保有し、オペレーターを務めることを選択した。
鉱区 | サインボーナス | 政府引取利益原油 最低比率 |
---|---|---|
Búzios | 681.94億レアル(173億ドル) | 23.24% |
Sépia | 228.59億レアル(58億ドル) | 27.88% |
Atapu | 137.42億レアル(35億ドル) | 26.23% |
Itapu | 17.66億レアル(4.49億ドル) | 18.15% |
各種資料を基に作成
政府はその後、2020年に第17次ライセンスラウンドと第7次PS入札ラウンド、2021年に第18次ライセンスラウンドと第8次PS入札ラウンドを実施する予定だ。第17次ライセンスラウンドでは、Pará-Maranhão、Pelotas、Potiguar、Campos、Santos Basin、第18次ライセンスラウンドでは、Ceará、Pelotas、Espírito Santo Basinの鉱区が対象とされる。また、第7次PS入札ラウンドでは、Santos Basin のAgata鉱区とEsmeralda鉱区、Campos BasinのAgua-Marinha鉱区が、第8次PS入札ラウンドでは、Santos BasinのAmetista鉱区、Jade鉱区、Tupinamba鉱区、Campos BasinのTurmalina鉱区が対象とされる。
なお、ブラジルのプレソルトは排他的経済水域(EEZ)200海里(約370km)を超えて広がっている。そこで、ANPは、海底の地形や地質が一定条件を満たせば、EEZの範囲を最大350海里(約648km)まで延ばせる規則に基づいて、2020年に200海里を超えたエリアを含む鉱区の入札を実施することを計画していた。しかし、CNPEは同エリアの鉱区公開について2020年に協議を行う予定で、鉱区公開は2021年以降となる見通しであると発表した。同エリアの原始埋蔵量は200~300億bblとされている。
終わりに
PetrobrasのRoberto Castello Branco CEOは2019年6月、2019~2023年の5年間の投資額を当初計画よりも25%多い1,050億ドルとすると発表、うち900億ドルは探鉱・生産部門に投じるとした。ExxonMobil、Shell、Equinor等IOCも、ブラジル沖合のプレソルトのプロジェクトの損益分岐点を40ドル/bbl、あるいは、それ以下と見ており、このように生産性が高く低コストで生産が可能なプレソルトを中核エリアの一つとしている。したがって、今後、プレソルトの開発、増産に牽引され、ブラジルの石油生産量増加にさらに拍車がかかる可能性がある。
ただし、2017年以降、ブラジルがあまりにも頻繁にプレソルトの有望鉱区の入札を行っているため、保有資産バランスを考慮した場合、石油会社にとってプレソルトへのエクスポージャーが増えすぎることにより、特定資産への依存が高まりすぎる恐れがあることから、これ以上積極的な入札は難しくなるのではないかと危惧する向きもある。
以上
(この報告は2019年7月3日時点のものです)