ページ番号1007805 更新日 平成31年7月16日

原油市場他:地政学的リスク要因に加え米国と中国の貿易紛争に関する協議進展等から回復する原油価格

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レポートID 1007805
作成日 2019-07-16 00:00:00 +0900
更新日 2019-07-16 12:15:33 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
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年度 2019
Vol
No
ページ数 28
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地域1 グローバル
国1
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国・地域 グローバル
2019/07/16 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が到来したものの、製油所でのメンテナンス作業実施や装置不具合等がガソリン生産に影響したと見られることから、当該製品在庫は減少傾向となったものの、平年幅を上回る状態は継続している。留出油については国内需要が不安定であったこともあり、在庫は若干ながら増加した他平年並みの量となっている。原油については、5月初頭以降の在庫増加により、WTI原油価格がブレントのそれを下回る度合いが拡大したこともあり、かえって輸出が活発化したことが一因となり、6月初頭以降在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は続いている。
  2. 2019年6月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、欧州では、製油所での原油精製処理量が比較的低位であったこともあり、原油在庫は増加した。しかしながら米国で在庫が減少した他、日本においても原油輸入量が減少した一方一部製油所でのメンテナンス作業実施等に伴う操業停止が終了し稼働が再開するとともに原油精製処理が上向いたことで在庫が減少したことが、欧州での原油在庫増加を相殺して余りあった結果、OECD諸国全体としては原油在庫は減少した。また、石油製品については、米国ではプロパン在庫やその他の石油製品在庫の増加等もあり石油製品全体の在庫は増加した。日本においても暖房用の需要が低下した灯油の在庫が増加した結果石油製品在庫は増加した。このため、製油所の稼働が低迷したことにより石油製品生産活動が不活発になった欧州での石油製品在庫減少を相殺して余りある状態であったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、量としては平年幅上方付近に位置している。
  3. 2019年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場では、米国と中国の貿易紛争に関する協議の進展に対する期待の拡大、中東情勢の不安定化による石油供給への影響に関する懸念、米国での原油等の在庫減少、米国北東部での製油所火災と操業停止に伴うガソリン先物相場の上昇、米国メキシコ湾沖合での暴風雨帯の発生に伴う当該地域周辺の原油や石油製品生産への懸念増大等により、原油価格はWTIで6月中旬の1バレル当たり50ドル前半から6月下旬には同50ドル台後半、7月中旬には60ドル強へと変動範囲を切り上げた。
  4. 今後は、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めることや、米国と中国間での貿易戦争に伴う経済減速による石油需要の伸びの鈍化観測が、原油相場を抑制する一方で、例えば中東情勢が複雑化するといったことを含め原油供給への支障に対する懸念が原油相場を下支えする可能性がある。そしてこのような要因に挟まれることから、原油相場は当面持続的な上昇傾向及び下落傾向を創出しにくい状態となるものの、原油価格上昇要因もしくは下落要因の発生状況によっては、一時的にせよ原油価格がそれなりに幅で変動する可能性があるものと考えられる。

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

1. OPEC及び一部非OPEC産油国が日量120万バレルの減産措置を2020年3月末まで延長することで合意

(1) 協議内容等

OPEC産油国は2019年7月1日にオーストリアのウィーンで通常総会を開催し、OPEC加盟11ヶ国(原油生産の安定しないイラン、ベネズエラ及びリビアを除く)に対する減産措置(概ね2018年10月の原油生産水準から日量80万バレル減産で、2018年12月7日開催の前回OPEC総会で決定)を当初の期限であった2019年6月末から2020年3月末へと9ヶ月間延長することで合意した(表1参照)。また、同時に減産に参加するOPEC産油国に対し減産の遵守を徹底する旨呼びかけた。さらに、OPEC総会では、2016年8月1日の就任から3年の任期が経過するバルキンド事務局長につき、2019年8月1日からさらに3年間の任期で続投する旨決定した。7月2日には、OPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合が開催され、OPEC産油国と同様、減産に参加する非OPEC産油国10ヶ国についても、減産措置(概ね2018年10月の原油生産水準から日量40万バレルの減産で、2018年12月7日開催の前回OPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合で決定)を2020年3月末まで9ヶ月間延長することで合意した。また、引き続きOPEC及び非OPEC閣僚監視委員会(JMMC: The OPEC-Non-OPEC Joint Ministerial Monitoring Committee、従来から委員であったサウジアラビア、クウェート、アルジェリア、ベネズエラ、ロシア、オマーンに加え、2019年3月18日のJMMCにおいて新たにイラク、ナイジェリア、UAE、カザフスタンが委員に加わった)が減産状況に対する監視を行い、定期的にOPEC議長に報告するようOPEC総会、そしてOPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合で要請された。さらに、今次総会及び閣僚級会合ではOPEC及び一部非OPEC産油国の協力憲章(Charter of Cooperation)の草案が承認され、各国内での手続きに入るよう求められた。当該憲章は無期限での効力を有し、OPEC及び一部非OPEC産油国は実務レベル会合、閣僚級会合、及び定期的な主要会合の体制を確立し、OPEC事務局がその調整に当たるとしている。なお、次回のOPEC総会(通常総会)は2019年12月5日に、OPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合は12月6日に、ともにウィーンで開催される予定である。

表1 OPEC及び一部非OPEC産油国減産幅

(2) 今回の会合の背景及び今後の展望等

2019年5月1日を以て米国が従来のイラン産原油輸入国に対しイランからの原油輸入禁止に関する適用除外措置を終了したことで、イランの世界石油市場への原油供給はさらに減少、6月13日に発表されたOPEC事務局の「月刊オイル・マーケット・レポート」(MOMR)によれば、5月の同国の原油生産量は日量237万バレルと前月比で同23万バレル減少した。しかしながら、イランやベネズエラの原油供給低迷に加え、3月28日には米国のトランプ大統領の事実上の増産要請にもかかわらず、石油在庫は実際増加し続けているとして、4月24日には、サウジアラビアは顧客が望む場合に限り原油を供給する姿勢を示すとともに、それ以外の場合において自主的に増産を行うことには消極的であった。そしてMOMRによれば、5月のOPEC産油国の原油生産量は日量2,988万バレルと4月比で同24万バレル減少、その中で減産措置に参加するOPEC産油国の5月の原油生産量は同2,559万バレルと4月の同2,556万バレルとほぼ同水準となり、5月の減産遵守率は143%と4月の147%から微減にとどまるなど、かなり強力に減産が推進されていることが窺われた。また、減産措置に参加する一部非OPEC産油国の中での最大の産油国であるロシアについても、5月の原油生産量は日量1,111万バレル、基準生産量から31万バレルの減産と減産遵守率は134%に到達した。このため、6月30日には、5月のOPEC及び一部非OPEC産油国の減産遵守率が163%と4月の168%とほぼ同水準となった旨OPEC事務局関係筋が明らかにしたと報じられた。

このように、OPEC及び一部非OPEC産油国は減産を積極的に推進していたものの、米国と中国との貿易紛争に関する協議が一時紛糾したことに伴う両国等の経済成長の減速と石油需要の伸びの鈍化に対する市場の懸念の増大に加え、米国の堅調なシェールオイル生産、そして米国原油在庫の増加等の要因により、世界の石油需給緩和感が市場で強まった結果、4月23日(米国によるイラン原油輸入国に対する輸入禁止適用除外措置終了の発表の翌日)に1バレル当たり66.30ドルと2018年10月29日(この時は同67.04ドル)以来の高水準に到達したWTI原油価格(以下特に原油の種類について断りがない場合には同様)は下落傾向となり、6月12日には同51.14ドルと1月14日以来の低水準に到達した。しかしながら、6月18日に米国のトランプ大統領が中国の習近平国家主席と会談する意向を表明したことにより、貿易紛争に関する両国の交渉が進展するとの期待が市場で増大したこと、そして、6月29日に開催された米国と中国の首脳会談で、貿易紛争に関する協議を再開する旨合意するとともに、中国テクノロジー大手ファーウェイ・テクノロジー(華為技術)に対し米国製品の供給を部分的にせよ解除する方針を表明したことに加え、6月18~19日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で将来の金利引き下げが示唆されたこと、米国とイランとの対立の激化に伴う中東地域からの石油供給の支障の可能性に対し市場の不安感が増大したこと等もあり、6月27日には原油価格の終値は1バレル当たり59.43ドルへと回復した。従ってOPEC総会開催直前の時点で、原油価格はなお主要OPEC産油国の財政収支均衡価格を相当程度下回っていたものの、一時期の低水準からは上昇、多くのOPEC産油国が懸念を表明する1バレル当たり50ドルを割り込んでいない他、上昇傾向を示しつつあり、この面ではOPEC産油国等としては、減産規模の拡大等強力な措置を講ずる必要性は低下していた。また、OPEC総会開催時点で利用可能であったデータに基づき算出された、5月末時点でのOECD諸国石油在庫は推定で6,000万バレル強平年値(=過去5年平均値)を超過していた(つまり、その分だけ世界石油在庫は余剰となっているものと市場では認識される)(図1参照)ものの、OPEC産油国が現行の原油生産水準を2019年末まで維持すれば、2019年後半は平均で日量45万バレル程度需要が供給を上回る(6月19日に開催されたOPEC経済委員会でも減産措置を延長すれば2019年後半は需要が供給を日量50万バレル程度上回ると考えられていた旨伝えられている)(表2参照)ことから、OECD諸国の石油在庫余剰は2019年末前後までには概ね解消し在庫水準は平年値に接近するものと見込まれた。

図1 OECD諸国石油在庫(2016~20年)(OPEC総会時点)

表2 世界石油需給バランスシナリオ(2019年)(OPEC総会時点)

このような背景もあり、6月10日にはサウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相がロシア以外の減産参加国は2019年末までの減産措置延長につき合意している旨示唆したと伝えられた。他方、5月19日にはロシアのノバク エネルギー相は世界石油市場に関する不透明感が強いことから、減産措置の延長に関しては態度を保留する(決断するには時期尚早である)旨表明した(6月24日に再度同趣の発言を行っている)。もっとも、6月10日には、ノバク エネルギー相は減産措置を延長しなければ、原油価格が1バレル当たり30ドルにまで下落する可能性も否定できないとの懸念を表明した他、同日ロシアのシルアノフ財務相も減産措置が延長されなければ原油価格が同40ドルを割り込む水準にまで下落する可能性があるとの見解を示すなど、ロシア政府上層部としては、必ずしも減産措置の延長を否定するものではない旨示唆されていた。そして、実際会合直前の石油需給バランス(及びその見通し)も当初の状況から大きく変化することなく事実上減産措置延長を支持するものであったことから、最終的にロシアも他のOPEC及び一部非OPEC産油国と歩調を合わせた結果、6月29日に実施されたサウジアラビアのムハンマド皇太子とロシアのプーチン大統領との会談では減産措置の延長が合意されたものと考えられる(この時点では延長期間は6~9ヶ月間であった)。ただ、2019年末にかけて(つまり6ヶ月間)のOPEC産油国等の既存の減産措置の延長は、早い段階でしばしばOPEC産油国等から発信されていたことから、既に市場関係者の心理には粗方織り込まれる格好となっており、そのまま2019年末までの減産延長を決定しても、市場関係者の心理面で驚きがなく、かえって利益確定が発生し原油価格に下方圧力を加える可能性があった。このようなことから、今般2020年3月末まで減産延長とすることで、市場関係者間での石油需給引き締まり感を維持することにより、原油価格の下落防止を図ったものと考えらえる。

ただ、OPEC総会等開催時点での2020年の世界石油需給バランスシナリオでは、OPEC産油国が現行の原油生産を継続した場合、年間を通じ供給が需要を日量65万バレル上回る他、特に第一四半期は供給が需要を日量190万バレル超過すると予想されていた(表3参照)ことから、減産措置を2020年3月末まで延長した場合には特に2020年第一四半期において石油在庫余剰が拡大する可能性があることが示唆されている。また、6月29日の米国と中国との首脳会議により、両国間での貿易紛争に関する協議は再開する方向となったものの、既存の関税は賦課されたままであり、その結果米国及び中国等の経済成長がさらに減速するとともに、既に下方修正されつつある2019~20年の世界経済成長率見通し(図2参照)がさらに下振れするとともに石油需要見通しが下方修正される展開も想定される。他方、米国では石油坑井掘削装置の稼働数は伸び悩んでいるものの、開発・生産効率の向上や米国内陸部からメキシコ湾岸地域への原油パイプライン輸送能力増強等により、シェールオイルが牽引する格好で米国の原油生産量が今後上方修正されることも想定される。このような要因により、既にOPEC総会等開催時点においても、この先世界石油需要が下振れするとともに米国を中心とする非OPEC産油国の石油供給が上振れする結果、減産に参加するOPEC産油国等に対する石油需要が当初見込みよりも縮小することもありうる。従って、今次OPEC総会等開催時点においても、次回のOPEC総会等では2020年の減産措置につき減産幅を拡大する等方針を再検討する必要が生じる可能性もあると見られた。

表3 世界石油需給バランスシナリオ(2020年)(OPEC総会時点)

図2 2019及び2020年世界経済成長見通し

このようなこともあり、OPEC総会で2020年3月末にかけて日量80万バレルの減産措置の延長が合意された7月1日には原油価格の終値は1バレル当たり59.09ドルと前週末終値比で0.62ドル上昇したものの、OPEC及び一部非OPEC産油国閣僚級会合が開催された7月2日の原油価格は1バレル当たり56.25ドルと前日終値比2.84ドルの下落、下落幅としては5月31日(この時は同3.09ドルの下落)以来の大幅なものとなるなど、減産措置の9ヶ月間の延長は世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化等に対抗するには力不足なのではないかとの市場の認識が原油価格に織り込まれる格好となった。

さて、OPEC総会等の開催後、IEAを始めとして新たなオイル・マーケット・レポートの類が発表されたことから、最新のデータを用いてOPEC産油国等の減産措置の9ヶ月間延長と世界石油需給バランスにつき再度考察を試みることとしたい。OPEC総会時点での利用可能であった速報データを基づけば、OECD諸国の5月末の石油在庫は平年値を6,000万バレル程超過していた。一方、IEAの最新の報告(7月12日発表のOMR)によれば、5月末の石油在庫の平年値を上回る量は1,000万バレル程度と、速報データの基づく推定値よりも相当程度縮小している(図3参照)。これは米国の5月末時点の石油在庫が速報値では前月末比で5,000万バレルの増加を示していた一方で、IEAによる最新データでは3,000万バレルの増加にとどまっていた他、欧州での石油在庫が速報値に比べ前月末比での減少幅が大きかったことが影響しているものと考えられる。そしてこのような最新データを用いて2020年3月までのOECD諸国石油在庫シナリオを作成してみると、2019年中は石油在庫が平年値を下回るものの、2020年第一四半期は世界石油供給が需要を日量192万バレル上回ると見込まれることもあり、当該時期にはOECD諸国の石油在庫が増加する結果、同年3月時点では同在庫が平年値を相当程度超過すると見込まれる。また、このシナリオは現時点での石油需給見通しに基づいているが、5~7月のOMRにおいて、2019年後半の世界石油需要が下方修正されていない(図4参照)ところからすると、今後米国と中国の貿易紛争に関する協議がなお紆余曲折を経る結果、世界経済がさらに減速するとともにこの先石油需要が下方修正されるといった展開もありうる。そして、米国の原油生産量が上振れすることと併せ、世界石油需給がさらに緩和する可能性もあり、その場合には2019年後半におけるOECD諸国石油在庫の平年超を下回る程度が縮小するとともに、2020年3月時点における石油在庫の平年値を上回る程度が拡大するといった展開となることも想定される。このようなことから、いずれにしても、次回OPEC総会等では2020年1月以降の減産措置の拡大といった新たな判断をOPEC産油国他が迫られる可能性があることに変わりはないものと考えられる。

図3 OECD諸国石油在庫(2016~20年)(2019年7月16日時点)

図4 2019年四半期ごとの世界石油需要修正幅

2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2019年4月の米国ガソリン需要(確定値)は日量936万バレルと前年同月比で1.8%程度の増加となった(図5参照)が、速報値(前年同月比で3.4%程度増加の日量950万バレル)からは下方修正されている。4月のガソリン輸出量についてEIAは速報値時点では暫定的に日量60万バレル程度と見込んでいたものの、実際の輸出量は日量68万バレルと速報値を日量8万バレル上回っていたことから、この部分が確定値算出段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、下方修正の一因と見られる。また、4月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.881ドルと前年同月比では0.008ドル(約0.3%)の上昇にとどまったものの、前月からは0.287ドル(約11.1%)上昇したことから、この面でガソリン需要に負の影響を与えていると見られるものの、3月のガソリン需要が前年同月比で2.9%程度減少したことに対する反動が4月に発生した結果、ガソリン需要がそれなりの伸びたものと考えられる。さらに、前年同月(2018年4月)の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり2.873ドルと前年同月比では0.345ドル(約13.6%)上昇した他、前月からも0.164ドル(約6.1%)上昇したことにより、同月のガソリン需要が前年同月比で1.2%程度減少した反動が本年(2019年)4月に現れている側面もあるものと思われる。他方、6月の同国ガソリン需要(速報推定値)は日量970万バレル、前年同月比で1.1%程度の減少となった。6月は5月に比べ全米平均ガソリン小売価格が低下したものの、それでも6月3日の週が1ガロン当たり2.893ドル、6月10日も同2.821ドルと相当程度高水準となったことがガソリン需要の伸びを抑制している格好で作用しているものと考えられる。また、6月においても米国の一部製油所でメンテナンス作業が実施されていたことに加え、装置の不具合の発生(6月21日にはフィラデルフィア製油所で火災が発生し操業が停止した(後述))等により、製油所の稼働上昇と原油精製処理量の伸びが鈍かったものと見られる(7月5日の週までの4週間平均の原油精製処理量は日量1,733万バレルと前年同期の水準である同1,771万バレルを相当程度下回っている)(図6参照)。そしてそれとともにガソリン生産も抑制されたものと思われる(ガソリン最終製品生産量は図7参照)ことから、ガソリン需要が必ずしも旺盛であるとは言い切れなかったにもかかわらず6月上旬から7月上旬にかけ米国のガソリン在庫は減少傾向となったが、平年幅を超過する状態は継続している(図8参照)。

図5 米国ガソリン需要の伸び(2006~19年)

図6 米国の原油精製処理量(2009~19年)

図7 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~19年)

図8 米国ガソリン在庫推移(2003~19年)

2019年4月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量398万バレルと前年同月比で4.2%程度の減少となったが、速報値である日量381万バレル(同8.4%程度の減少)からは上方修正された(図9参照)。4月の米国の鉱工業生産が前年同月比で0.9%の増加、同月の同国の物流活動が前年同月比で1.3%の増加に、それぞれとどまった(因みに2018年各月の同国物流活動の前年同月比での伸びは2.9~8.9%であった)ことから、この面で留出油需要が抑制されたものと考えられる。また、6月の留出油需要(速報推定値)は日量402万バレルと前年同月比で1.7%程度の増加となった。6月も5月と同様米国中西部における大雨により穀物の作付け作業が遅延したことから、作付け作業のために使用される農機具向けの軽油需要が不振であったと見られることに加え、米国と中国の貿易紛争の影響で景況感が悪化しつつあったことが物流部門等における軽油需要を抑制する格好で作用した(因みに5月の同国物流活動は前年同月比で0.2%の減少であった)ものの、5月の当該需要が速報値ながら前年同月比で8.6%程度減少していることへの反動が発生したことが6月の需要の前年同月比での増加に寄与している可能性がある。それでも、国内需要は不安定であった一方で、堅調であるとは言い切れなかったものの米国の製油所での留出油の生産も上向いてきた(図10参照)ことから、6月上旬から7月上旬にかけ留出油在庫は上下に変動しつつも若干ながら増加となった他、7月上旬時点では平年並みの在庫量となっている(図11参照)。

図9 米国留出油需要の伸び(2006~19年)

図10 米国の留出油生産量(2009~19年)

図11 米国留出油在庫推移(2003~19年)

2019年4月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で0.9%程度増加の日量2,011万バレルとなった(図12参照)。ガソリン及びその他の石油製品の需要が前年同月比で増加したことが石油需要全体の伸びに影響している格好となっている(但し、その他の石油製品については半製品の類の需要拡大が顕著であるが、当該需要は月によって増減にばらつきがあるので注意する必要があろう)。また、その他の石油製品の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正された(速報値の日量421万バレルが確定値では同387万バレルとなった)ことにより、当該需要は速報値(日量2,023万バレル、前年同月比1.4%程度の増加)から下方修正されている。他方、6月の米国石油需要(速報推定値)は、日量2,092万バレルと前年同月比で1.0%程度の増加となった。留出油及びその他の石油製品の需要が伸びていることが石油需要全体の増加に寄与している。ただ、6月のその他石油製品の需要は日量419万バレルと前年同月比で同17万バレルの増加となっているが、過去の実績(2018年5月~2019年4月の1年間で日量351~426万バレル)に照らし合わせても高い部類に入ることから、今後当該需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されることにより同国の石油需要全体(確定値)が調整されることもありうる。また製油所での原油精製処理量は緩やかなペースではあれ増加したことに加え、5月3日から6月7日にかけ原油在庫が増加傾向となり、6月7日には同国の原油在庫が4.85億バレルと2017年7月14日(この時は4.91億バレル)以来の高水準に到達した結果、WTIがブレント等他の原油価格に比べて割安となったことから、同国からの原油輸出が活発化した(6月21日の週には日量377万バレルと1991年初頭以降の同国週間原油輸出統計史上最高水準に到達した)こともあり、原油在庫は6月7日以降7月上旬にかけ減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は続いている(図13参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過している一方で、留出油在庫が平年並みの量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図14及び15参照)。

図12 米国石油需要の伸び(2006~19年)

図13 米国原油在庫推移(2003~19年)

図14 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~19年)

図15 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~19年)

2019年6月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、欧州では、製油所でのメンテナンス作業実施が峠を越えつつあったものの装置での不具合の発生等から一部製油所の操業に支障が発生したことにより稼働が低下したことから、結果として原油精製処理量が比較的低位となったこともあり、原油在庫は増加した。しかしながら米国では在庫が減少した他、日本においてもイラン産原油輸入停止に伴う他の産油国への代替原油調達の動きが一段落してきたと見られることから、原油輸入量が前月に比べ減少した一方で、一部製油所でのメンテナンス作業実施等に伴う操業停止が終了し、稼働が再開するとともに原油精製処理が上向いたことから、在庫が減少したことで、欧州での原油在庫増加を相殺して余りあった結果、OECD諸国全体としては原油在庫は減少した(図16参照)。また、石油製品については、米国では、暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加や冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要が減少したことによるその他の石油製品在庫の増加等もあり、石油製品全体の在庫は増加した。また、日本においても暖房用の需要が低下した灯油の在庫が増加した結果石油製品在庫は増加した。このため、製油所の稼働が低迷したことにより石油製品生産活動が不活発になった欧州での石油製品在庫減少を相殺して余りある状態となったことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、量としては平年幅上方付近に位置している(図17参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を上回る一方で石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する水準となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を上回る状態になっている(図18参照)。なお、2019年6月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は59.8日と5月末の推定在庫日数(60.0日)から減少している。

図16 OECD諸国石油在庫(2005~19年)

図17 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~19年)

図18 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~19年)

6月12日に1,200万バレル台前半程度であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、6月19日には1,200万バレル半ば程度の量へと増加したものの、6月26日には1,200万バレル台前半程度、7月3日及び10日には1,100万バレル台前半程度へと減少した。中国政府が2019年第二回目のガソリン輸出枠を909万トン(推定7,681万バレル)と第一回目の枠である444万トン程度(再配分後)(推定3,752万バレル)を相当程度上回る規模で国営4石油会社に付与した(5月上旬以降報じられる)ことが、同国からのガソリン輸出を促進させる方向で作用しており、シンガポールに当該製品がそれなりに流入していると見られるものの、総じてアジア諸国においては春場の製油所メンテナンス作業実施時期に突入していることから、各国から国外市場への製品輸出が鈍化する反面、国外市場からの製品調達が行われていると見られることが、シンガポールへのガソリン等の流入を鈍化させる方向で作用しているものと考えられる。もっとも、6月中はシンガポールでの軽質留分在庫が増加していたか減少したとしても限定的な規模であったことから、例えばアジア市場でのガソリン価格が抑制されたことに加え、原油価格の上昇にガソリン価格のそれが追い付かなかったこともあり、6月中旬から下旬にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油のそれを上回っている)は縮小する傾向を示した。しかしながら、その後は米国ペンシルベニア州フィラデルフィアのPhiladelphia Energy Solution(PES)のフィラデルフィア製油所(原油精製処理量日量33.5万バレルで米国北東部最大規模であった)のアルキレーション装置(アルキレート製造能力日量3万バレル)で6月21日午前4時に火災が発生した(6月22日午後に鎮火)結果、当該製油所の操業に支障が発生、6月26日には製油所を永久に閉鎖する旨検討していると報じられたことにより、米国でのドライブシーズンに伴うガソリン需要期に、特に人口が密集していることでガソリン需要の中心となっている北東部を含む米国のガソリン需給の引き締まり感が強まったこともあり、米国ガソリン価格が上昇したことがアジア市場のガソリン価格に上方圧力を加えたことから、6月末以降ガソリンとドバイ原油の価格差は回復傾向を示している。

ナフサについては、冬場の暖房シーズンが終了したことに伴い暖房向けに利用されていた液化石油ガス(LPG)の需要が減少するとともに価格に割安感が強まったことが、石油化学産業において原料としてLPGと競合するナフサの価格に下方圧力を加え続けたものの、日本や韓国等のアジア諸国での石油化学会社のナフサ分解装置でのメンテナンス作業が終了に向かいつつあることから、ナフサ需要が回復するとの観測が市場に発生したことに加え、米国北東部での製油所火災に伴う操業停止に伴い、欧州から米国向けのガソリン輸出が活発化することによりガソリンに混入するためのナフサの需要が増加することで、欧州方面からアジアへのナフサの流入が低下するとの見方が市場で発生したことがナフサ価格に上方圧力を加えた結果、6月中旬から7月中旬にかけてのナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサの価格がドバイ原油のそれを下回っている)は縮小する傾向が認められる。

6月12日には1,000万バレル台半ば程度であったシンガポールの中間留分在庫は、6月19日には1,000万バレル台前半へと減少、6月26日には1,100万バレル台前半の量へと増加したものの、7月3日には1,000万バレル台半ば程度へと再び減少、そして7月10日には1,100万バレル強の水準へと回復している。アジア諸国で春場の製油所メンテナンス作業実施時期に突入したことで、シンガポールへの中間留分の流入が低迷する反面シンガポールからアジア諸国各国への中間留分輸出が行われたと見られるものの、欧州では軽油在庫が低水準のまま(2017年8月下旬のハリケーン「ハービー(Harvey)」の米国メキシコ湾岸来襲に伴う当該地域の製油所操業の支障とその後平年をしばしば相当程度下回った2017~18年の冬場の欧州での気温低下に伴う暖房用軽油需要増加の影響が残ったものと考えられる)2018~19年の冬場に突入したこともあり、アジアの軽油価格に対して欧州のそれへの割高感が強まったことから、アジア方面から欧州への軽油流入が促された一方で、2018~19年は欧州が総じて暖冬であったことから、欧州での軽油在庫がかえって増加することにより両地域の価格差を縮小させたことで、アジアから欧州方面への軽油流出が鈍化したことに加え、インドで雨季(モンスーン)に入りつつあることもあり、軽油需要が抑制されている(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前に燃料として使用されていた軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天に伴い道路や建設工事の進捗が鈍化することにより、物流や製造業での軽油の利用が減速することによる)ことから、同国から軽油が輸出されつつあることが、シンガポールでの中間留分在庫が比較的限られた範囲内で推移する一因となっているものと考えられる。他方、6月中旬から下旬にかけては原油価格の上昇に軽油価格のそれが追い付かなかったことから、当該製品価格とドバイ原油価格との差(この場合軽油の価格は原油価格のそれを上回っている)は縮小傾向を示したものの、6月下旬以降は原油価格の下落に軽油のそれが追い付かなかったことや、アジア諸国の製油所の稼働低下と中間留分輸出低迷の観測が市場で発生したことから、価格差は拡大する格好となっている。

6月12日には2,300万バレル台後半の量であったシンガポールの重油在庫は、6月19日も2,300万バレル台後半の水準であったが、6月26日には2,200万バレル台後半、7月3日に1,900万バレル台半ば程度、7月10日には1,900万バレル前半程度の量へと減少した。中東で夏場の空調用の発電向け重油需要が盛り上がっていることもあり、欧州方面からアジアへの重油の流入が低下していることが、当該製品在庫減少の一因と見られる。そして、一時は原油価格の上昇に重油のそれが追い付かなかったことで、6月中旬から下旬にかけての重油とドバイ原油との価格差(この場合従来重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大する場面も見られたが、その後はシンガポールでの重油在庫が減少したことに加え、6月13日にオマーン湾でタンカー2隻が攻撃を受けたこと等により、この先中東からの重油の供給に支障が生じるのではないかとの懸念が市場で発生したこともあり、重油とドバイ原油との価格差は縮小したうえ、7月上旬には重油価格がドバイのそれを上回る場面も見られている。

3. 2019年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場等の状況

2019年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場では、欧州中央銀行(ECB)や米国連邦準備制度理事会(FRB)による金融緩和実施の可能性示唆に加え、米国と中国の貿易紛争に関する協議の進展に対する期待の拡大、中東情勢の不安定化による石油供給への影響に関する懸念、米国での原油等の在庫減少、米国北東部での製油所火災と操業停止に伴うガソリン先物相場の上昇、米国メキシコ湾沖合での暴風雨帯の発生に伴う当該地域周辺の原油や石油製品生産への懸念増大等により、原油価格はWTIで6月中旬の1バレル当たり50ドル前半から6月下旬には同50ドル台後半、7月中旬には60ドル強へと変動範囲を切り上げた(図19参照)。

図19 原油価格の推移(2003~19年)

6月14日に中国国家統計局から発表された5月の同国鉱工業生産が前年同月比で5.0%の増加と2002年2月(この時は同2.7%の増加)以来の低水準の増加となった他市場の事前予想(同5.4~5.5%の増加)を下回ったことに加え、6月17日に米国ニューヨーク連邦準備銀行から発表された6月のニューヨーク地区製造業景況感指数(ゼロが当該部門好況と不況の分岐点)がマイナス8.6と5月のプラス17.8から低下、2016年10月(この時はマイナス9.2)以来の低水準となった他市場の事前予想(11.0)を下回ったこと、6月17日に米国住宅建設業者協会(NAHB)から発表された6月の米国住宅市場指数(50が当該部門の好不況の分岐点)が64と5月の66から低下したうえ市場の事前予想(67)を下回ったことから、6月17日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.58ドル下落し、終値は51.93ドルとなった。ただ、6月18日には、物価上昇率の目標未達が継続すれば、欧州中央銀行(ECB)は、金利引き下げや資産購入等の金融緩和を実施する意向である旨、この日ECBのドラギ総裁が発言したことで、欧州経済の先行きに対する市場の懸念が後退したことに加え、米国のトランプ大統領が中国の習近平国家主席と電話会談し、6月28~29日に開催される予定である主要20ヶ国・地域(G20)首脳会議に併せ両国の首脳会談を実施、そしてそれに向け貿易問題に関する事前協議を実施する旨6月18日にトランプ大統領が明らかにしたことで、両国の貿易紛争に伴う経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する不安感が市場で緩和したことから、この日(6月18日)の原油価格の終値は1バレル当たり53.90ドルと前日終値比で1.97ドル上昇した。6月19日には、前日の原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.14ドル下落し、終値は53.76ドルとなった。しかしながら、6月19日に米国エネルギー省(EIA)から発表された同国石油統計(6月14日の週分)で原油、ガソリン及び留出油在庫が前週比でそれぞれ、311万バレル、169万バレル、及び55万バレルの減少と市場の事前予想(原油同110~200万バレル程度の減少、ガソリン94~100万バレル程度の増加、留出油同71~100万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明した流れが6月20日の市場に引き継がれたことに加え、6月18~19日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で米国金融当局者が景気拡大を維持するために適切に行動する意向が明らかになったことで、この先の金利引き下げに対する期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに米ドルが下落したこと、6月19日夜にイエメンのフーシ派武装勢力がサウジアラビア南西部にある淡水化施設を攻撃した(被害はないとされる)旨6月20日にサウジアラビアが主導する有志連合軍が発表したことに加え、イランが米国の無人偵察機を撃墜した(イランは同国領空内を飛行していたと主張した一方で、米国は公海上を飛行していたと主張した)旨6月20日に報じられたことで、両国の対立激化と中東地域からの原油供給への影響に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり56.65ドルと前日終値比で2.89ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2019年7月渡し原油先物契約は取引を終了したが、8月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり57.07ドル(前日終値比3.10ドルの上昇)であった)。また、6月21日には、イランが米国の無人偵察機を撃墜したことを受けトランプ大統領がイランに対し軍事攻撃を実施する旨承認した(攻撃実施10分前に撤回)旨6月20日遅くにニューヨーク・タイムスが報じたことで、両国の対立の激化と中東地域からの石油供給への影響に対する懸念が市場で増大したことに加え、6月21日午前4時に米国PESのフィラデルフィア製油所のアルキレーション装置で火災が発生したことにより、米国ガソリン先物価格が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.78ドル上昇し、終値は57.43ドルとなった。この結果原油価格は6月20~21日の2日間で併せて1バレル当たり3.67ドル上昇した。

6月24日には、この日米国のトランプ大統領がイランの最高指導者ハメネイ師及び革命防衛隊の司令官等8名に対し米国金融システムや米国内の資産の利用を禁止する旨の制裁を発動する旨発表したことで、米国とイランとの対立の激化に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.47ドル上昇し、終値は57.90ドルとなった。ただ、6月29日に実施される予定である米国と中国の首脳会談において、いかなる結果でも満足する旨米国政府幹部が明らかにしたと6月24日夜(米国東部時間)に報じられたことで、米国と中国の貿易紛争協議の進捗に関する楽観的な見方が6月25日の市場で後退したことが原油相場に下方圧力を加えたことものの、6月26日にEIAから発表される予定である米国石油統計(6月21日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことが原油価格に上方圧力を加えたことから、6月25日の原油価格の終値は1バレル当たり57.83ドルと前日終値比で0.07ドルの下落にとどまった。6月26日には、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で1,279万バレルの減少と2016年9月2日(この時は同1,451万バレルの減少)以来の大幅な減少となった他、市場の事前予想(同250~287万程度の減少)を上回ったうえ、留出油在庫が前週比で244万バレルの減少と市場の事前予想(同110万バレル程度の減少~52万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少していた旨判明したことに加え、6月26日にEIAから発表された米国石油統計でガソリン在庫が前週比で100万バレルの減少と市場の事前予想(同110万バレル程度の減少~29万バレル程度の増加)に反し、もしくは一部の事前予想を上回って減少していた旨判明したうえ、PESのフィラデルフィア製油所での火災発生に伴い7月には製油所全体が操業を停止する旨フィラデルフィアのケニー(Jim Kenney)市長が6月26日に認めたことで、米国東海岸地域のガソリン需給引き締まり感が市場で強まったことにより、同国ガソリン先物価格が上昇したことから、この日(6月26日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.55ドル上昇し、終値は59.38ドルとなった。6月27日には、6月29日に実施される予定であり、米国と中国の貿易問題につき協議される可能性のある両国首脳会談を控え、市場が様子見となったことで、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.43ドルと前日終値比で0.05ドルの上昇にとどまった。6月28日には、この日シカゴ購買部協会から発表された6月のシカゴ地域製造業景況感指数(50が好不況の分岐点)が49.7と5月の54.2から低下した他、市場の事前予想(53.1~53.5)を下回ったことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.96ドル下落し、終値は58.47ドルとなった。

しかしながら、6月29日に実施された米国と中国との首脳会談で貿易紛争に関する協議を再開する旨両国首脳が合意したことに加え、同日米国のトランプ大統領が米国製品供給を制限していたファーウェイ・テクノロジー(華為技術)に対し、安全保障上の問題のない部分では当該供給を認める方針である旨表明したことで、両国の貿易紛争に関する協議が前進することに対する期待が市場で増大したことに加え、7月1日に開催されたOPEC総会でOPEC産油国が概ね2018年10月の原油生産量を基準とした日量80万バレルの減産措置を9ヶ月間延長し2020年3月末まで実施する旨合意したとこの日報じられたことで、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.09ドルと前週末終値比で0.62ドル上昇した。もっとも、7月2日には、6月30日に中国国家統計局から発表された6月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門の好不況の分岐点)が49.4と市場の事前予想(49.5)を下回ったうえ、7月1日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された6月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門の好不況の分岐点)が49.4と5月の50.2から低下、2019年1月(この時は48.3)以来の低水準となった他、市場の事前予想(50.1)を下回ったことで、同国経済成長に対する懸念が市場で増大したことに加え、これまでの原油価格の上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したこともあり、この日(7月2日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.84ドル下落し、終値は56.25ドルとなった。7月3日には、この日米国給与計算サービス会社オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)から発表された6月の同国民間部門雇用者数が前月比で10.2万人の増加と市場の事前予想(同14.0万人の増加)を下回ったことに加え、同日米国供給管理協会(ISM)から発表された同国非製造業景況感指数(50が当該部門の好不況の分岐点)が55.1と市場の事前予想(55.9~56.0)を下回ったことで、米国金融当局による金利引き下げ期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したことに加え、7月3日に米国石油サービス会社Baker Hughesから発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で788基と前回発表時(6月28日)から5基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で738基と同4基減少)となっている旨判明したことで、この先米国のシェールオイル等原油生産が伸び悩むのではないかとの観測が市場で発生したことから、この日(7月3日)の原油価格の終値は1バレル当たり57.34ドルと前日終値比で1.09ドル上昇した。なお、7月4日は米国独立記念日(インディペンデンス・デー)に伴う休日により米国原油先物市場では終値は計上されなかったが、7月5日には、英領ジブラルタル自治政府と英国海兵隊がシリアのバニヤス(Banias)製油所(原油精製処理能力日量13万バレル)にイラン産原油を輸送していると見られる大型タンカーを拿捕した旨7月4日にジブラルタル自治政府が発表したことに対し、7月5日に当該タンカーを即時解放しなければ、イランは英国のタンカーを拿捕しなければならない旨イラン革命防衛隊幹部が7月5日に表明したことで、イランを巡る情勢不安定化に対する市場の懸念が増大したことに加え、2019年6月のOPEC産油国の原油生産量が前月比で減少している旨ロイター通信及びブルームバーグ通信が7月5日に明らかにしたことで、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.17ドル上昇し、終値は57.51ドルとなった。

また、7月7日にはイラン政府が核合意で規定されているウランの3.67%の濃縮濃度上限を超過した濃縮への作業を開始した旨発表した一方で、米国、英国、フランス及びドイツが当該行為を批判、非難もしくは当該行為に対し懸念を表明したことで、イランと欧米諸国の対立の高まりに伴う中東情勢不安定化と当該地域からの石油供給への影響に対する不安感が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.66ドルと前週末終値比で0.15ドル上昇した。7月9日も、7月10日にEIAから発表される予定である米国石油統計(7月5日の週分)で原油在庫が減少するとの観測が市場で発生したことに加え、英領ジブラルタル沖合でジブラルタル自治政府と英国海兵隊が石油タンカーを拿捕したことに対し、7月9日にイラン軍のバゲリ参謀総長がしかるべき時期にしかるべき方法で対処する旨表明したことで、イランを巡る情勢の不安定化に対する懸念が市場で増大したこと、7月1~8日のロシアの原油生産量が日量1,079万バレルと6月の同1,115万バレルから減少、2016年8月(この時は同1,071万バレル)以来の低水準に到達した旨7月9日に報じられたことで、石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.17ドル上昇し終値は57.83ドルとなった。また、7月10日も、この日米国のパウエルFRB議長が米国議会下院金融サービス委員会で、通商分野での不透明性や世界経済の弱さが米国経済展望に影響を与えていると見受けられる旨発言したことで、7月30~31日に開催される予定であるFOMCでは金利引き下げが決定するとの見方が市場で増大したことにより、米国株式相場が上昇するとともに米ドルが下落したことに加え、7月10日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比950万バレルの減少と市場の事前予想(同290~310万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したこと、イランに対し間もなく制裁を相当程度増強する旨7月10日に米国のトランプ大統領が表明したことで中東情勢不安定化と当該地域からの石油供給に対する懸念が市場で増大したこと、7月10日に米国メキシコ湾内で暴風雨帯が発生(後に熱帯性低気圧及びハリケーン「バリー(Barry)」へと発達)したことに伴い、湾内の油田関連施設が従業員を退避させるとともに操業を停止させた結果、7月10日12時30分(米国東部時間)現在当該地域の原油生産量(日量約190万バレル)の約32%に当たる日量60万バレル程度が停止した旨判明したことにより、米国での石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.43ドルと前日終値比で2.60ドル上昇した。この結果原油価格は7月8~10日の3日間で併せて1バレル当たり2.92ドルの上昇となった。7月11日には、この日OPEC事務局から発表された「月刊オイル・マーケット・レポート」で2020年の対OPEC産油国原油需要が2019年よりも日量134万バレル減少すると見込んでいる旨判明したことで、この先の石油需給の緩和感を市場が意識したことに加え、中国は米国農産品を購入すると発言していたにもかかわらず購入していないことに落胆した旨7月11日に米国のトランプ大統領が表明したことで、この先の米国と中国の貿易協議の進展具合に対する懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.20ドルと前日終値比で0.23ドル下落した。7月12日には、熱帯性低気圧「バリー」により同日時点で米国メキシコ湾沖合の日量110万バレル(同地域の原油生産量の58.74%)の原油生産が停止したことで、米国での石油需給引き締まり観測が市場で発生したうえ、7月12日にBaker Hughesから発表された米国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で784基と前回発表時(7月3日)から4基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は735基と同3基減少)したことで、この先の米国原油生産減少に対する懸念が市場で増大したことが原油相場に上方圧力を加えた反面、7月12日にIEAから発表された「オイル・マーケット・レポート」でOPEC産油国等による9ヶ月間の減産措置の延長にもかかわらず、2020年第一四半期までに1.36億バレルの石油在庫が積み上がる旨IEAが指摘したことで、この先の世界石油需給の緩和感を市場が意識したことが原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.01ドル上昇にとどまり、終値は60.21ドルとなった。

4. 原油市場における注目点等

6月15日にイエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)は、サウジアラビア南西部のアブハ及び同国南部のジーザーン(Jizan)の空港を無人機により攻撃した他、6月23日にもアブハ空港とジーザーン空港を無人機で攻撃、7月2日未明に再びアブハの空港を無人機で攻撃したとサウジアラビアが主導する有志連合軍が発表した。また、紅海南部でもフーシ派武装勢力が爆薬積載の無人船舶で商業船舶を攻撃しようとしたが、それは防止した旨7月8日に有志連合軍は発表している。

6月13日朝に発生したオマーン湾でのタンカー攻撃事件に関し、同日米国中央軍はイラン革命防衛隊が攻撃されたタンカーから不発弾を除去している動画映像を公開した。これに対しイランのザリフ外相は当該事件への関与を否定した。また、英国のハント外相も本件はイランの関与によるものであるとの見解を6月14日に明らかにした。ただ、6月16日に米国のポンペオ国務長官は、イランとの間での戦争を行う意向はない旨示唆した。また、当該事件後中東を航行するタンカーの船舶保険料が10%以上上昇していると6月14日に報じられる。6月20日には米国の無人偵察機がイランによって撃墜された(午前0時14分にUAEを離陸したが、午前4時5分に撃墜されたとされる)。6月20日にイラン側(革命防衛隊)はイラン領空内を飛行していたことから撃墜したと主張した一方で、同日米国側(中央空軍)は公海上を飛行していたと主張している。同日米国のトランプ大統領はイラン攻撃(レーダーやミサイル発射装置等の軍事施設等限られたものを標的にしたものとされる)を承認したものの同日夜に撤回した旨ニューヨーク・タイムスが同日報じる。他方、6月21日未明までにイラン政府はオマーン経由で米国のトランプ大統領から発信されたメッセージを受領した旨複数のイラン関係筋が6月21日に明らかにしている(6月24日にオマーン外務省はこれを否定、また6月23日にトランプ大統領もメッセージを送付していない旨明らかにしている)。この中でトランプ大統領はイランとは戦争ではなく対話を希望、イランが短期間で回答することを要望する旨表明しているとされる(イラン関係筋はこれに対し回答権者はハメネイ師であるとの見解を明らかにしたと報じられる)。また、米国はイラン情報機関や軍事関連コンピュータシステム等に対しサイバー攻撃を実施した旨6月22日に伝えられるが、6月24日にイランのアザルジャフロミ通信情報技術相が当該攻撃は成功していない旨明らかにしている。6月24日には、米国のトランプ大統領はイランの最高指導者ハメネイ師及び革命防衛隊幹部8名に対し制裁を科す旨発表した。これは、ハメネイ師の米国金融システムや米国内資産の利用を禁止する他、ハメネイ師と取引をした企業にも制裁を科す内容であった。これに対し、6月25日にイランのロウハニ大統領はハメネイ師は海外に資産を保有していないことから、米国が6月24日に同師に対し発動した制裁は失敗に終わるであろう旨発言している。また、6月26日にはイランのハメネイ師が米国による対話の提案を事実上拒否する旨表明している。6月26日には、トランプ大統領は、イランとの軍事面での衝突は望まないものの、そうなった場合でも米国の立場は強く、そのような事態は短期間で収束する旨示唆した他、イランとの新たな核合意を急がない旨表明した。6月28日に、イランと英国、フランス、ドイツ、中国及びロシアの5ヶ国は核合意に関する次官級協議を実施した。その場で、欧州側は「貿易取引支援機関(INSTEX)」の設立準備が完了し、稼働を開始した(既に最初の取引が実施された旨6月28日に報じられるが、7月4日にはフランスのルメール経済財務相が、数日中に取引が完了する旨明らかにしているなど情報が錯綜している他、イラン側での取引は完了していない旨6月28日に報じられる)。しかしながら、会合に出席していたイラン外務省のアラグチ次官は欧州の提案は石油や金融の面でイランを米国から防御する方策として若干前進していると見られるものの、(5月8日にロウハニ大統領が発表した核開発活動の拡大方針を取り下げるべく)イランを満足させるには不十分である旨6月28日に表明、6月30日にはイラン政府は低濃縮ウラン貯蔵量増加の方針を継続する旨明らかにしている。そして7月1日にはイランのザリフ外相が低濃縮ウラン貯蔵量が上限(六フッ化ウラン換算で300㎏、ウランの量としては202.8kg)を超過した旨発表するとともに、IAEAも同日上限超過を確認した。米国ホワイトハウスは7月1日に、引き続きイランに対しウラン濃縮を完全に停止するよう要請するとともに、イランに対し最大限圧力を加える旨表明した。また、7月2日には英国、フランス及びドイツの外相と欧州外交安全保障上級代表が連名で、イランに対し7月1日の低濃縮ウラン貯蔵量の上限突破に対し強い懸念と遺憾の意を表すとともに、イランが核合意を逸脱しない状態に戻るよう求める他、核合意の存続はイラン次第である旨の共同声明を発表した。しかしながら、7月3日にロウハニ大統領が、7月7日以降イランはウランの濃縮濃度(規定上の上限は3.67%)を超過させることに加え、自国の希望する数量のウランを生産する方針である旨明らかにした。ただ、同時にロウハニ師は石油及び金融分野で米国からイランを防御する方策につき進展が見られれば短時間で核合意遵守に戻る旨明らかにしている。他方、7月4日にイランからシリアに向かうとされた石油タンカーが英領ジブラルタル沖で拿捕された件につき、7月5日にイラン革命防衛隊幹部は、タンカーを即時解放しなければ、英国のタンカーを拿捕するのが任務である旨明らかにしている。7月7日にはイランがウラン濃縮濃度を引き上げる旨正式に発表(7月8日にはIAEAが3.67%の濃縮濃度を超過した旨確認)、核合意に参加する欧州諸国が米国からイランを防衛する体制を構築しなければ、60日毎に核合意で定められた措置を超えて核関連事業を進めていく旨表明した。他方、7月6日にフランスのマクロン大統領とイランのロウハニ大統領は電話会談を実施し7月15日を期限として核合意参加者による協議再開に向け模索していく旨合意した。また、同日トランプ大統領は「イランは気を付けたほうがいい」旨発言した他、同日ポンペオ国務長官も「イランの核プログラムの拡大は同国のさらなる孤立と制裁を招くであろう」旨明らかにした。7月7日には、英国外務省がイランのウラン濃縮割合の引き上げ措置は核合意から逸脱している旨非難、ドイツ外務省も7月7日に、核合意で定められている基準までウラン濃縮を戻すよう表明。フランスも7月7日に核合意から逸脱した活動を全て停止するように要求する旨明らかにしている(7月8日にはEUや国連もイランの核合意逸脱を停止するよう示唆している)。他方、7月8日にはイランの原子力庁は濃縮ウラン濃度が4.5%程度に到達した旨明らかにした。7月9日には米国のダンフォード統合参謀本部議長が、ホルムズ海峡とバブエルマンデブ海峡付近の船舶の自由な航行を確保するため、米国が他の諸国と同盟を組むことを検討している旨明らかにした。7月10日にはIAEAがイランの濃縮ウラン濃度が4.5%に、低濃縮ウラン貯蔵量が213.5kg(上限208.5kg)に、それぞれ到達している旨報告した。そして、7月10日には、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡近辺を航行していた英国のタンカー「ブリティッシュ・ヘリテージ」に接近したものの護衛していた英国海軍(フリゲート艦「HMSモントローズ」)が警告を発したことで、退散した旨報じられる(7月11日には英国政府が正式にイランの小型船舶3隻が英国のタンカーの運航を妨害しようとした旨明らかするとともに、7月9日にはホルムズ海峡付近を航行する英国船籍船舶の警戒水準を最高水準にまで引き上げている)。他方、7月11日朝にはイラン革命防衛隊は英国のタンカーを拿捕しようとしたことを否定した。7月11日には英領ジブラルタル自治政府が英海兵隊とともに拿捕したイラン石油タンカーの乗組員を拘束し続ける意向を発表している(なお、7月13日には、英国のハント外相がイランのザリフ外相と電話で会談、その中でハント外相は当該タンカーの目的地がシリアでないことが十分保証されるのであれば、当該タンカーの解放に向け行動する旨明らかにしている)。

このように、地政学的リスク要因面で当面市場の注目を集めるのはイランになろう。イランは低濃縮ウランの貯蔵量増加やウラン濃縮濃度の引き上げ等核合意に規定された上限を超過して核開発活動を拡大しつつあるが、米国や欧州諸国(英国、フランス及びドイツ)はイランのこの行為に反発、もしくは当該行為を非難するなどしており、イランと欧米諸国との間での対立は高まる方向に向かいつつある。そして今後イランと欧州諸国等との間で核合意問題がさらに複雑化したり、米国がイランに対し追加制裁を加えたりするといったことや、ペルシャ湾を含む中東地域で挑発行為等が複数発生したりするようであれば、当該地域からの石油供給に対する不安感が市場で高まる結果、原油価格に上方圧力が加わる場面が見られる可能性がある。

他方、ベネズエラに関しては、米国のトランプ大統領は引き続きマドゥロ大統領に代わりグアイド国会議長を大統領に就任させるよう圧力を加え続ける方針である旨、6月25日に米国のベネズエラ担当特別代表であるエイブラムス氏が明らかにしている。また、7月7日には、マドゥロ大統領派勢力とグアイド国会議長派勢力との間での和平交渉をバルバドスで再開する旨ノルウェー外務省が明らかにした。7月11日にはノルウェー外務省は引き続き両勢力が協議を継続する旨表明している。そして、同国においては一時に比べ国内でのデモ隊と治安当局との間での混乱は小康状態となっているとともに、同国原油生産量も減少傾向となってはいるものの、そのペースは緩やかなものとなっていることから、原油市場における関係者の懸念が急速かつ大幅に拡大しつつあるというわけではないが、同国の原油生産量が短期間に大幅に増加に転じる可能性が高いとは考えにくく、むしろベネズエラ経済が改善するとともに原油生産が上向くまでにはなお時間を要すると見られるため、当面は同国情勢は原油相場に強力に上方圧力を加えるというわけではないものの、原油相場を下支えする格好で原油相場に作用するものと考えられる。

リビアについては、同国東部トブルクを拠点とする東部政府(暫定議会)を支援する軍(リビア国民軍(LNA:Libyan National Army)、指導者はハフタル将軍)が軍事拠点を設置していたトリポリ南郊の町であるガリヤン(Gharyan)を6月26日にトリポリ拠点の政府(国連が支援する統合政府)が奪還した。他方、ハフタル将軍が指導する軍は統合政府を支援しているトルコを敵視し、トルコの商業航空機のリビアへの飛来や、トルコ船舶のリビアへの接岸を防止する方針である旨6月28日に表明した他、トルコの無人機をLNAの空軍部隊が撃墜した旨6月30日に発表するなど、事実上戦闘は継続している。現時点では同国の原油生産量は戦闘により大きな影響を受けていないように見受けられるが、今後戦闘が油田地帯に及ぶか、もしくは政府による統治機能が低下することにより地域部族が油田関連施設もしくは原油出荷関連施設を占拠等するとともに操業を妨害することを通じ、同国の原油生産に影響が及ぶといった展開も排除しきれないことから、同国情勢の今後の成り行きにつき注意する必要があろう。

6月29日には米国と中国の首脳会談が実施され、貿易紛争に関する協議を再開する旨合意するとともに、トランプ大統領は3,250億ドル相当の中国製品に対する追加関税の賦課を見送った。また、同じく6月29日には、米国製品に関し問題のない部分については、ファーウェイへの供給を認める方針である旨表明した。このため、米国と中国との間での関税賦課合戦等の貿易紛争のさらなる激化はとりあえず回避された格好となっている。ただ、この先貿易協議が再開されたとしても、即座に既存の関税が撤廃され円滑な貿易活動が回復できるわけではなく、協議の過程では米国と中国との間で貿易や知的財産権の保護等を巡り対立が再び高まるとともに交渉が紆余曲折を経るといった展開も想定され、その間は賦課されている関税が両国等の経済活動に影響を及ぼし続ける結果、世界経済がさらに減速、世界経済見通しも下方修正されるとともに石油需要及び原油価格が下振れするといったリスクを内包している。他方、7月30日~31には米国連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される予定である。7月10及び11日に実施されたパウエルFRB議長の米国議会下院金融サービス委員会及び上院銀行委員会での証言では、貿易問題を巡る不透明性と幅広い世界経済の弱さが米国経済展望に影響していると見受けられる旨説明したことから、7月12日に発表された米国雇用統計では非農業部門雇用者数が市場の事前予想を上回って増加したにもかかわらず、7月12日時点では、金利を現行の2.25~2.50%から1.75~2.00%へと引き下げる旨決定する確率が22.5%、2.00~2.25%へと引き下げる旨決定する確率が77.5%と、7月9日の、それぞれ3.3%、96.7%に比べ0.5%の金利引き下げ確率が上昇するなど、より踏み込んだ金利引き下げへの期待が市場で増大していることで、米ドルが下落しやすいと見られることから、この面では原油相場に今暫くは上方圧力を加える可能性がある。そして、この先発表される予定である米国の経済指標類や米国主要企業の2019年4~6月期等の決算、もしくは業績見通し等で、米国経済が減速しつつあることを示唆しているものであったとしても、米国金融当局による金利引き下げ幅拡大等の景気刺激策が実際されるとの期待が市場で増大する結果、米ドルが下落するとともに、かえって原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性がある。そして、実際にFOMCにおいてどの程度の金利引き下げが決定されるか、さらに、会合前後に米国金融当局幹部が米国及び世界経済、そして米国の金融政策等につきどのような認識を改めて示唆するかが、原油相場に影響を及ぼすものと見られる。また、欧州及び中国等の経済指標類に内容によっても、これら地域等の経済成長と石油需要の展望に関する市場の観測を喚起する結果、原油相場が変動する場面が見られる可能性もある。

米国では、9月2日の労働祭(レイバー・デー)に伴う連休(8月31日~9月2日)まで、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が最終消費段階では継続する。しかしながら、製油所の段階では7月後半以降は秋場の石油不需要期が徐々に視野に入ってくることもあり、メンテナンス作業実施等に向け稼働を引き下げるとともに原油精製処理量を減少させ始める。それに従い原油の購入も不活発になってくると考えられる他、市場でも季節的な需給の緩和感が醸成され始める。このためこの面では、原油相場に下方圧力を加えてくるものと見られる。そしてこのような中で、米国の石油坑井掘削装置稼働数、米国やOPEC産油国等の原油生産状況が、市場から注目されることになるであろう。

また、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり(当該地域では2018年は日量174万バレルの原油を生産した)、湾岸地域の石油受け入れ及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障が発生したり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業が停止すること等により米国での原油輸入に影響を与えたりする(2018年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量59万バレル程度の原油を輸入した)。5月23日発表の国立海洋大気局(NOAA)国立ハリケーンセンター及び7月9日時点のコロラド州立大学の予想によると、2019年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは概ね平年並みの暴風雨の発生が予想されている(表4参照)。それでも、このような予想に反し暴風雨の活動が活発化する可能性もあることから、この先のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等には留意する必要があろう。実際7月10日には米国メキシコ湾沖合で暴風雨帯が発生、その後熱帯性低気圧(さらにハリケーン)「バリー」へと発達、北西に進んだうえ、7月13日には米国のルイジアナ州に上陸した。このため、沖合の油田の相当部分(7月14日現在米国メキシコ湾沖合の全原油生産量の約73%に当たる日量138万バレル)、石油関連港湾及び沿岸部の製油所で操業を停止している。このため、一時的にせよ米国メキシコ湾沖合からの原油供給が低下することに加え、沖合での原油タンカーの航行に支障が生ずる結果米国の原油輸入が減少することで、米国の原油在庫が減少するといった展開となることも否定できない他、「バリー」により油田が被害を受ければ国内原油生産が減少した状態が長引く一方で、製油所に被害が及べば石油製品の供給が低下するとともに需給引き締まり感が市場で発生することにより石油製品価格に上方圧力が加わる結果、原油相場がそれに引きずられて上昇する場面が見られることもありうる。

表4 2019年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想

全体としては、今後米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めることや、米国と中国間での貿易戦争に伴う経済減速による石油需要の伸びの鈍化観測が、原油相場を抑制する一方で、例えば中東情勢が複雑化するといったことを含め原油供給への支障に対する懸念が原油相場を下支えする可能性がある。そしてこのような要因に挟まれることから、原油相場は当面持続的な上昇傾向及び下落傾向を創出しにくい状態となるものの、原油価格上昇要因もしくは下落要因の発生状況によっては、一時的にせよ原油価格がそれなりに幅で変動する可能性があるものと考えられる

以上

(この報告は2019年7月16日時点のものです)

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