ページ番号1007817 更新日 令和4年3月31日
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概要
最近、様々な分野で話題となっている「デジタル」。第四次産業革命と言われ、「ビッグデータ」や「モノのインターネット IoT」、「デジタルトランスフォーメーション」といった言葉と一緒に語られることも多く、ご関心の方も多いと思います。JOGMECは2019年5月よりデジタル推進グループを設置し、デジタルを事業の重要な柱と据えて資源業界へのデジタル技術適用を推進するとともに、石油企業、大学、IT企業等の関係者間の連携を強化することを目指しています。
本記事では、JOGMECのデジタルへの取り組みについてご紹介します。
1. 「デジタル」について
そもそも「デジタル」とは何でしょう。「デジタル化」という概念には、デジタイゼーション(Digitization)とデジタライゼーション(Digitalization)の2つが該当するようですが、更にデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation、DX)という言われ方もしています。簡単にこの3つの考え方をまとめると、下記のようになると考えます。
- デジタイゼーション:デジタルツールを使って作業を効率化すること(紙媒体→電子媒体等)
- デジタライゼーション:デジタル技術を利用して新たな利益や価値を見出し、ビジネスモデルを変換すること
- デジタルトランスフォーメーション:デジタル技術を用いて既存のビジネスを変革し、新たなビジネスモデルを構築すること
特にデジタルトランスフォーメーションは様々な分野で注目されており、AI(Artificial Intelligence;人工知能)やDL(Deep Learning;深層学習)の発達、高性能コンピューターの発展やクラウドによるデータやデジタル技術への速やかなアクセス、IoT技術により情報量が劇的に拡大したこと等の要因から、過去では夢だったことが現実化しつつあります。
一方、「日本企業の間でAIの理解が一向に進んでいない。中身はいわゆるIT(情報技術)化のような話が半分以上ではないか。今までもやっていたことをAIという言葉に換えて、マーケティングに利用しているだけ。」といった声も一部では聞こえてきており、本当にデジタル技術が普及しているのかは、対象となる分野や関わる人によって見方が変わるのが実情です。
2. 石油開発とデジタル
デジタル化の波は、石油開発業界にもやってきています。各社によるCDO(Chief Digital Officer)の指名や、IT企業との提携、データサイエンティストの積極的な採用など、その動きは多岐にわたります。特に、2014年の油価下落を受けて、操業の効率化、コスト削減などを目的としたデジタル技術適用への検討が急速に進みました。
デジタル化の波は、まず海外の大手石油会社(いわゆるメジャー)に到来し、成果を上げています。
例えば英国のBPは、デジタル技術を活用してメキシコ湾で新しい大規模油田を発見したとのこと。具体的には、高性能コンピューターを用いたデータ処理時間の大幅な削減や、人だけでは解釈が困難な多要素データの機械学習による解釈など、これまでの技術革新の流れと新しいデジタル技術を融合し、実際の事業に生かしています。またフランスのTotalは、業界最速コンピューター(TOP500で世界11位の計算速度)を導入し、油層シミュレーションの改善や、震探データ処理時間の短縮を行っている模様。その後メジャー以外の企業にもデジタル化の波は押し寄せ、2019年に入ってもメディア等で多くの取り組みが報道されています。

また、国営石油会社にもデジタル化の大きな波が押し寄せ、例えばアブダビ国営石油会社(ADNOC)は、データから得られる価値を最大化するために、上流から下流までのリアルタイムデータを一元管理するPanorama Centerを開設し、AIによるデータの分析や故障予知などを取り入れ、増産やコスト削減の資産価値向上に活用しています。
国内に目を向けると、本邦各社もデジタルに関する取り組みを始めており、INPEXは2019年石油技術協会春季講演会でデジタルに関する活動内容を報告しております。国内外震探データの一元管理やドローンを用いたプラットフォームの3D可視化、生産坑井に適切なセンサを配置してデータを取得し、生産レートの最適化と稼働日数の最大化を検討する、といった様々な取り組みが紹介されました。
国内外を問わず、企業は戦略を持ってデジタル化を事業に取り入れ、より多くの資源を低コストで開発するためのツールとして利用することを目指しています。
3. JOGMECでの取り組み
経済産業省は、2018年6月に国内石油開発企業の競争力強化に向けたデジタル技術開発を進めるための概念として「資源開発2.0」を発表しました。また経済産業省/JOGMECは2018年10月から2019年2月にかけて「資源開発2.0 デジタル有識者勉強会」を行い、その結果として「日本の石油開発企業が国際競争力を強化し、権益の新規獲得・維持を可能とするためには、AI等のデジタル技術を活用した資源開発技術の高度化に取り組む必要があること」、「高度化を実現するためには、技術・人材・データ・エコシステムの各種課題に対応する必要があること」が有識者による提言内容としてまとめられました。
この流れを受け、JOGMECでは、デジタルを重要な事業の柱として据えるべく、2019年5月に「デジタル推進グループ」を石油天然ガス開発推進本部内に立ち上げました。同グループは、AI等のデジタル技術を活用した資源開発技術の高度化を進めることで、日本の石油開発企業の課題解決と、競争力を強化しうる技術分野の確立を目指しています。

(経済産業省、第26回総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会 参考資料2より)
(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/026_s02_00.pdf)
ここで掲げているJOGMECの取り組みの大きな柱は、下記となります。
- JOGMECデジタル技術開発方針に基づく支援
- 専門人材による支援(資源開発とAI・ITの両方を理解する専門チーム)
- 企業向け人材育成・研修
- 外部連携・情報発信
- 経済産業省/JOGMEC保有データの活用
- JOGMEC業務のデジタル化(IT・計算環境整備含む)
技術開発支援については、JOGMEC独自またはデジタル技術に関する提案公募等を通じて、複数の技術テーマに関するデジタル技術開発を進めているところです。
また、人材育成については、データサイエンティストが世界的に不足している中、JOGMECでは資源開発に関する技術とデジタルに関する知見の両方を有する人材の育成に努めています。まずは機構内の事務系・技術系問わず、職員全体のデジタル知見を向上させるため、JDLA(日本ディープラーニング協会)が主催している検定(G検定)取得を通し、基礎的な知識を習得する取り組みを行っているところです。将来的には、「資源開発」「デジタル技術」双方の知見を基に、適切な手法を用いて石油開発企業のビジネス課題解決ができる人材の育成を目指しています。
4. デジタル化に必要なこと
デジタル化を進めるためには、いくつかポイントがあると考えます。主なものについて下記にまとめました。
4.1 マインドセット
デジタル化に際してよく言われる言葉に、Think Big、Start Small、Fail Fast、Scale Fastがあります。デジタルによる利益の享受は大きいと考えられますが、必ず成功するとは言い切れません。特にStart Small;始める際には失敗を恐れず、「成功したら儲けもの」ぐらいの気持ちを持つことが肝要です。とはいえ、人は人的資源・コストをかけるからには何らかの成果を望むもの。経営判断をするマネジメント層が、デジタルに対して「失敗による損失は少ないが、成功による利益は大きい」、という認識を持ち、「まずはやってみなはれ」というマインドセットを持つ必要があるでしょう。また、デジタルを事業に取り入れる際には、思い切って旧来のやり方を変えるマインドも重要となっています。デジタル導入による改善の度合いを把握し、デジタル化に合わせた仕事のプロセスの見直しを行い、そのプロセスにそって仕事を進める、といった「デジタルに合わせた仕事の見直し」が必要です。
4.2 データ共有
データはデジタル活用の要です。必要なデータをいかに早く集めるかが成功に直結します。ただ、会社規模の大小に関わらず、データはあちこちに散らばっているのが常で、データ分析を行うエンジニアは、まずは必要なデータを方々から集めることから始まり、業務のうち半分以上をデータ探索に費やしているとも言われています。日本のビッグデータ活用状況は、IMD(International Institute for Management Development:国際経営開発研究所)の国別評価で、評価対象63か国・地域の中で最下位との報告もあり、企業内で分散したデータの利活用は喫緊の課題と言えるでしょう。
近年ではクラウドを利用したデータの一元管理システムを利用する企業も増えています。多くのメジャー企業もGAFA等のIT企業と提携し、データ活用を進めています。その一方、特に日本の企業の中にはクラウドに自社の重要なデータを入れることについて抵抗感を抱く方もいるでしょう。そこはIT企業の持つセキュリティ対策を信用するかどうか次第ですが、データの共有が有効であることは疑いようがなく、既述のマインドセットの変革は、データの取り扱いにも言えることです。
4.3 開発期間
JOGMECでも技術開発を行っていますが、通常の技術開発には数年単位の期間がかかることがあたりまえで、いくら急いでも数か月以上は必至です。しかし、デジタル技術についてはとにかくスピードが重視されます。例えば豪州のWoodsideでは、過去にはシステム開発に6~7年を要していましたが、デジタル技術の発展により6~7か月になり、今ではシステム開発のサイクルが6~7日、場合によっては2日になっているそうです。デジタル技術の概念検証(Proof of Concept, POC)は短い期間で実施されるのが一般的で、様々な課題解決をトライアル的に検証することが求められますが、開発期間を短縮するためには、まずは明確なビジネス課題を意識すること。先行者が最大の利益を得ると言われているデジタル技術開発において、自らが解決したい課題が何であるか、そのためにはどのツールを適用するのか、と段階を踏むことが肝要です。
4.4 人材育成
既述のとおり、JOGMECでは人材育成に力を入れています。デジタル関連の技術開発を進めるためには、デジタル技術と、対象となる分野の専門技術の2つの技術間で通訳ができる人材が必要となります。単なるデータサイエンティストではなく、例えば資源開発に必要となる震探データ処理や地質評価、油層評価の技術を持ちながら、機械学習や深層学習に精通している技術者をどれほど抱えているかが企業の価値向上に繋がると考えられ、人材育成の重要性は増しています。より早くそのような人材を育てるには、データサイエンティストを大量に雇用するよりも、既に企業にいる技術者をデータサイエンティストに育てる方が早道かもしれません。
おわりに
デジタル技術とは、あくまでツールです。仕事の進め方を大々的に変える可能性を持っていますが、デジタルを導入することですべての悩みが解決するわけではありません。デジタルができること、できないこと、活用するには何をどのように変える必要があるのか、といったことを理解し、柔軟な発想でツールを使いこなすことが求められていると考えます。
以上
(この報告は2019年8月2日時点のものです)