ページ番号1007820 更新日 令和1年8月8日

新たなLNG需要:船舶燃料としてのLNG

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レポートID 1007820
作成日 2019-08-08 00:00:00 +0900
更新日 2019-08-08 14:55:52 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG
著者 白川 裕
著者直接入力
年度 2019
Vol
No
ページ数 16
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2019/08/08 白川 裕
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概要

  1. 2005年、船舶からの大気汚染物質の排出規制に関する規則(MARPOL 73/78条約附属書Ⅵ)が発効した。その後、段階的な規制強化が実施されてきたが、2015年、特定海域において厳しいSOx規制が適用された。2020年以降は、一般海域においてもSOx規制が大幅に強化される。
  2. 2020年から新たに強化されるSOx規制については、適合油の使用、スクラバーの設置、LNG燃料船化のいずれかで対応が可能である。
  3. 適合油はコストが高く、スクラバーは排水規制強化のリスクが高い。従って、長期的には、LNG燃料船化のメリットが大きいと考えられる。
  4. LNG燃料船化の進展は、主に環境規制強化のスピード、および、LNG-油価差異に左右される。
  5. 今後も規制で先行する欧州を中心にLNG燃料船化は進み、船舶燃料用LNG需要は大きな伸びが期待される。各種研究機関によると、その需要は、2025年で700~3,000万トン/年、2030年で1,000~4,000万トン/年と予測されている。
  6. これと比較して、規制の緩やかなアジアでのLNG燃料船化の進展はこれまで遅かったが、来年以降、多くのLNGバンカリング船が就航するなど、LNG燃料補給インフラの整備に伴いアジアでもLNG燃料船の普及が加速するとみられる。
  7. SOx以外の規制については、NOx規制は設備的な手法で、また、EDDI規制についても構造的手法で対応が可能である。
  8. 一方、2050年からのCO2規制については、LNG燃料船化でも対応できない。今後、グリーン燃料、蓄電池、液化水素等新たな対応方法を開発する必要がある。

(JPECレポート、国交省HP、IEAレポート、NYK HP、DNVレポート、OIESレポート他)


1. 船舶からの排出ガス規制

(1) MARPOL条約

海洋の汚染防止は国連下部組織である国際海事機関IMO(International Maritime Organization)によって管理されている。IMOは、171加盟国と3準加盟国で構成され、日本は1983年3月に加盟した。

船舶からの海洋汚染防止ルールは、マルポール条約(MARPOL 73/78)「船舶による海洋汚染の防止のための国際条約」に規定されている。これは、国際条約と議定書から構成され、国際海運分野での船舶の航行や事故による海洋汚染の防止を目的に、有害物質や大気汚染物質の排出規制等が定められている。

このうち、MARPOL 73/78条約附属書Ⅵ(2005年発効)は、マルポール条約締結国を旗国とする海洋船舶、または、条約締結国の管轄権が関与する海域での航海に従事する400総トン以上の全ての海洋船舶から排出される大気汚染物質、SOx、PM(Particulate Matter、粒子状物質)、NOx等を規制対象としている。

表1 MARPOL 73/78条約附属書ⅥのSOx、PM、NOx規制

(2) ECA(Emission Control Area)

海洋の大気汚染に関する規制は、上記条約に基づき、一般海域、および、ECA(Emission Control Area)に分けて適用されている。ECAでは、各国が一段と厳しい規制を設定できるようになっており、現在設定されているECAは、バルト海、北海(以上SOx規制強化地域)、米国・カナダ、プエルトリコ(以上NOx、SOx規制強化地域)の4海域となっている。

ECAは、当該海域を管轄する国が、ECAの地理的範囲を指定する条約案を提案し、IMOでの審議、承認および採択を経て設定される。IMOでは、条約付属書VI付録IIIの指針に沿ってECA設定の審議が行われる。ECAを提案する国には、大気汚染の状況、船舶の排出による環境影響、コスト比較および国際海運への影響等の評価結果を提出することが求められているが、当該指針には具体的、定量的な評価指針は示されておらず、その判断は事実上提案国に任されている。

中国では、2018年以降独自の中国版ECA3海域(環渤海海域、長江デルタ、珠光デルタ)が定められ、SOx上乗せ規制が適用されていたが、2018年12月、適用海域が拡大強化され、2019年1月以降は中国領海内での適合油(硫黄分0.5%以下)使用が義務付けられた。また、2022年1月以降は海南省海域での、さらに、2025年1月以降は中国領海内での超低硫黄燃料油(硫黄分0.1%以下)の使用が義務化されることが決まっている。

図1 世界のECA
図1 世界のECA
(出典:JPECレポート2015、JOGMEC改)

(3) SOx規制

SOxは燃料油中の硫黄分が燃焼する際に発生する。また、すす、未燃燃料の凝縮物、硫黄化合物等で構成されるPMも燃料油中の硫黄に由来する。このため、この規制では、使用する燃料油中の硫黄濃度を規制している。

これまでECAにおいては、段階的に規制が強化され、2015年以降は超低硫黄燃料油の使用が義務付けられている。今回の規制強化では、ECA以外の全ての一般海域において、2020年からSOx規制が強化される。通常の規制強化では新造船だけが対象となり、既存船はその適用が免除されることが多いが、今回は全船が対象となるため、海運各社等関係者は対応に追われている。

さらに、昨年、本規制の執行力を強化するために、船上での適合油以外の燃料油保持の禁止が条文に追加された。2020年以降、万一従来の高硫黄重油を保持し、寄港国の立ち入り検査で不正保持が確認された場合、当該船舶の運航は停止されることになる。

図2 燃料油硫黄分削減スケジュール

(4) その他の規制

1. NOx規制

SOx以外の規制の一つに、NOx規制がある。

NOxの排出規制値は、船舶建造年、エンジン回転数、および、対象海域で規定され、Tier I(2001年以降に建造された130キロワット以上のディーゼル機関を持つ船舶、全海域が対象)と比べ、Tier II(2011年以降に建造された130キロワット以上のディーゼル機関を持つ船舶、全海域が対象)では20%、Tier III(2016年以降に建造された130キロワット以上のディーゼル機関を持つ船舶(24メートル未満のレクリエーションボートと750キロワット未満の適用除外船を除く)、NOx ECA(アメリカ、カナダ200海里内(アラスカ西岸などを除く)および米国カリブ海海域(プエルトリコ、バージン諸島の大西洋・カリブ海海域)が対象)では80%削減しなければならない。これについては、適合エンジンの使用、選択的触媒還元脱硝装置(Selective Catalytic Reduction)の設置、排ガス再循環システム(Exhaust Gas Recirculation)の設置、LNG燃料の利用によって達成可能といわれている。

図3 NOx排出削減スケジュール

2. 省エネ設計規制(Energy Efficiency Design Index: EEDI)

2011年7月、国際船舶からのCO2排出低減に向け、以下の規制のMARPOL 73/78条約附属書Ⅵへの導入が合意され、2013年1月発効した。

a) ハードウエア的な改良に関する、総400トン以上の新造船に適用されるEEDI(Energy Efficiency Design Index、エネルギー効率設計指標、必須)

b) 運航上の工夫や改善に関する、既存船に適用されるEEOI(Energy Efficiency Operational Indicator、エネルギー効率運行指標、任意)

EEDIは、1999~2008年に建造された船舶の省エネ平均値を基準として、2013年以降に建造される船舶の削減割合を定めるもので、2015年以降に建造される船舶は10%、2020年以降は20%、2025年以降は30%の燃費改善が求められている。本規制に関しては、各種省エネの組み合わせによる達成が可能と見込まれている。

図4 省エネ設計規制 EEDI、表2 省エネ方法

3. CO2 IMO削減目標

2018年4月、IMO加盟国は、船舶のCO2排出量に関し、2050年までに半減(2008年比)、今世紀中にCO2排出量ゼロを目指すことで合意した。

当面は情報通信技術(ICT)の活用、設計や運航オペレーションの改善による燃料消費効率アップ、LNG燃料導入等で対応するが、長期的には、LNG燃料化によってでも目標は達成できない。従って、グリーン燃料、蓄電池、液化水素等への転換が想定されている。

目標設定では合意したものの、それを達成するための法的拘束力を持った具体的な方法やタイムスケジュールは示されていない。

表3 IMO GHG削減戦略


2. SOx対策技術

2020年から新たな対応が必要となるSOx対策としては、以下の方法が、現実的な選択肢として挙げられている。

(1) 適合油の使用

排ガス洗浄装置(スラクバー)は、設置スペースが確保できるVLCC等の超大型の新造船で適用が始まっている。ただし、既存船については、全ての船の改造は2020年までには間に合わない。また、LNG燃料船化は、船の新造/改造、燃料供給インフラの設置双方に時間がかかる。従って、2020年時点で、既存船においては、「適合油(硫黄分0.5%以下)」の使用が現実的な対応策と考えられる。

適合油の製造方法には、a)軽油と高硫黄重油のブレンドによる製造、b)残油成分を直接脱硫した超低硫黄燃料油の製造、c)残油処理装置の装備率向上による超低硫黄燃料油の追加製造、d)軽質原油を用いた超低硫黄燃料油の製造、がある。IMO報告書では、地域ごとに異なる組成比率のブレンド油が供給されるとの前提の下、需要が増えるアジア、中東地域では直接脱硫ベースのブレンド油が増産されるなど全体では需要に見合った供給が可能としている。また、その規格はISO8217に準拠するが、通常の規定見直し周期では今回の適用開始に間に合わないため、2019年中にPAS(Publicly Available Specification、公開仕様書(3年間有効))が作成されることになっている。

(2) 排ガス洗浄装置(スクラバー)の設置

従来のシステムに洗浄装置(スクラバー)を付加し排ガスを浄化する方法である。高硫黄重油を使用する場合でも超低硫黄燃料油レベルまで排ガスをクリーン化できる。スクラバーには、排ガス中の規制成分を水酸化カルシウム等に吸収させる乾式と、海水や苛性ソーダ溶液等に吸収させる湿式とがあるが、船舶用のほとんどは海水にSOxを吸収させそれを排水として直接船外に排出する湿式オープンループ方式である。ただし、欧米では既に排水を禁止している港も多く、スクラバー適用の障害となってきている。

図5 スクラバーシステム例、表3 スクラバー排水規制海域

(3) LNG燃料の利用

LNGは硫黄分を含まないため、燃焼時のSOx排出量を100%削減できる。また燃焼温度も低いことから、エンジンの型にもよるが、NOx排出量を40~80%、CO2排出量も25%削減可能で(高硫黄重油比)、規制の厳しいECA基準を満足できる。

図6 LNG燃料の環境性
図6 LNG燃料の環境性 (出典:IEA)

一方、LNG燃料の使用には、大型の断熱LNG燃料タンク、気化器、ガスエンジンの設置が必要で、建造コストが25%から場合によっては40%程度アップするとも言われる。また、LNGは極低温流体であるため、通常のオペレーションならびに緊急時の対応などについて船員の教育訓練も必須となる。高硫黄重油と比べ燃料タンク容積がおよそ2倍となるため貨物積載量が減少してしまうというデメリットもある。欧州以外では、まだLNG補給(バンカリング)用供給インフラが整備途上であり、このネットワーク構築をさらに推進する必要がある。

図7 LNG燃料供給システム例
図7 LNG燃料供給システム例 (出典:国交省HP)

(4) コンバージョンシナリオ

2020年のSOx規制強化対策として、設備費的には、LNG燃料船化>高硫黄重油+スクラバー>適合油 の順に費用がかかる。一方、燃料費としては、適合油>LNG燃料船化>高硫黄重油+スクラバー の順に費用がかかる。

設備的には、既存船のLNG燃料船化や高硫黄重油+スクラバー設置などの改造は、不稼働期間、改造費用、重心位置の上昇、さらに、LNG燃料船化の場合は燃料タンクの容量アップなど課題が多く、効率的ではない。また、スクラバー設置にはある程度のスペースが必要で、小型船への適用は難しい。また、欧州以外では、LNG燃料供給設備の普及も不十分である。

従って、短期的には、既存船は、2020年、まず適合油利用に移行する。その後、新造等に合わせて、中小型船では、LNG燃料船化が、また、一般海域を航行する大型船では、今以上に排水規制が広がらなければ、高硫黄重油+スクラバーが主要な代替案になると考えられる。長期的には、LNG燃料船化のメリットが大きい。規模の大きい運航者は、新造船についてはLNG Ready化(LNG燃料船への改造を想定した建造)を開始している。また、LNGバンカリング事業へも参加し始めている。いずれの対応策でも大幅なコスト増は避けられないため、運航者は荷主等関係者と継続的に協議を進めている。

図8 環境規制と適用シナリオ
図8 環境規制と適用シナリオ
(出典:各種資料よりJOGMEC作成)

(5) ECA規制サーチャージ

運航者は、顧客の意向も尊重しながら対応方法を検討し、排ガス規制強化によるコストアップを顧客にも負担してもらっている。

NYK、MOL等は、2015年からECA内での規制対応燃料油の消費が義務付けられたことに対応し、この規制対応燃料油は、現行使用している燃料油価格よりもはるかに高く運航による自助努力のみでは吸収できないレベルである、として、ECA Regulation Surcharge(顧客負担)を導入した。

表4 NYK ECA Regulation Surcharge


3. LNGバンカリング

(1) LNGバンカリング方法

LNGを燃料とする船舶へのLNG供給、すなわち、LNGバンカリングには以下の3つの方法がある。

a) LNG補給基地からの供給(Shore/Tank to Ship)
LNG補給基地を建設し、LNGタンクからアームやホースなどで接岸したLNG燃料船にLNGを供給する方法。大ロットのLNG供給が可能。この場合は、LNG補給基地の建設コストが大きい。また、LNG燃料船のLNG補給基地への回航が必要になる。

b) LNGバンカリング船からの供給(Ship to Ship)
LNGバンカリング船を建造し、海上や着桟状態でアームやホースを使いLNG燃料船にLNGを補給する方法。LNG補給基地ほど費用がかからない。また、様々なロケーションでのLNGバンカリングが可能となる。一方、LNGバンカリング船を増やし供給力を整備する必要がある。また、洋上Ship to Shipの場合は、特に気象海象の影響を受けやすい。

c) LNGローリー車からの供給(Truck to Ship)
岸壁のLNGローリー車から、着桟したLNG燃料船にLNGを補給する方法。大がかりな設備の新設が不要で多くの港湾で対応可能であるが、ローリー容量に制限があるため大型船舶などの大量のLNGの補給には適さない。現在日本で運航している2隻のLNG燃料タグボート、横浜港「魁」と大阪湾「いしん」はこの方法でLNGを補給している。

図9 LNGバンカリング方法
図9 LNGバンカリング方法
(出典:DNV)

(2) LNGバンカリング設備

現在、実際にLNGバンカリングが行われている港湾は世界で50港程度あり、欧州がその8割を占める。特にノルウェーでは、早くからLNG補給インフラが整備され、地域向けの小規模LNG液化基地や小規模LNG受入基地40か所程度が建設されている。また、LNGを補給するLNGバンカリング船等は欧州を中心に9隻が就航している。

ちなみに、日本には、大型LNG受入基地が36ヵ所、内航船基地が6ヵ所あり、Ship to Ship方式のLNGバンカリングに転用可能と思われるLNG内航船は6隻が運航中である。2020年度には、伊勢湾と東京湾において2隻のLNGバンカリング船が就航予定で、このほかアジアの主要港湾でもLNGバンカリング船就航が予定されている。Truck to Shipに利用できるLNGローリー車は、日本では500台超が利用されている。

図10 世界のLNGバンカリング設備
図10 世界のLNGバンカリング設備
(出典:各種資料よりJOGMEC作成)

(3) LNGと競合燃料との価格比較

LNGと競合燃料との価格差が、高額なLNG燃料船を導入する際のインセンティブとなる。

下図は、LNG燃料と超低硫黄燃料油、高硫黄重油との価格差推移をまとめたグラフである。欧州、北米については、船舶燃料用のLNG価格と超低硫黄燃料油の価格を比較した。これは、多くの欧米の港湾でスクラバー排水規制が広がってきており、高硫黄重油+スクラバーの利用は現実的ではないためである。また、アジアについては、LNG価格と高硫黄重油+スクラバー設置を比較した。これは、アジアではまだスクラバー排水規制海域が限定されており、適合油より安価な高硫黄重油+スクラバーがまだ適用できるためである。なお、JOGMECにて、原著のグラフを、LNG受入基地費、バンカリング船費、スクラバー費、ガス液化費で修正した。

グラフの値がマイナスになるほどLNG燃料の方が安価であることを示し、LNG燃料船化の経済性がアップする。通常の高硫黄重油を燃料とする船舶より25~40%高いLNG燃料船のCapexを回収するためには、LNGの方が$2~6/MMBtu安価である必要があるとも言われる。

欧州、北米では、特に高油価であった2014年まではLNGが優位であった。油価が下落した2015年を境にLNGと超低硫黄燃料油の価格差は縮小したが、欧州ではLNG燃料船の建造等に補助金が適用されており、LNG燃料船化を下支えする一因となっている。

LNG燃料と高硫黄重油+スクラバーの比較となったアジアの価格差は全ての期間でプラスとなり、LNG燃料船化の追加コスト回収は現状では難しいことがわかる。今後、ECA拡大やスクラバー排水規制等が進めば、欧米に近い価格差が生じ、LNG燃料船化が一気に進展することも予測される。

図11 LNG燃料と超低硫黄燃料油、高硫黄重油との価格差推移
図11 LNG燃料と超低硫黄燃料油、高硫黄重油との価格差推移
(出典:OIES2018、JOGMEC改)

(4) LNG燃料船の隻数

2018年5月時点で、全世界のLNG燃料船は122隻、建造中、発注済みの新造船は132隻、合計254隻である。

これは、世界の商船10万隻の内、0.3%を占め、130~300万t-LNG/年のLNGが燃料として使用されている。現在世界の船舶用燃料油需要は、LNG換算で2.6億t-LNG程度であるが、このうち1%程度がLNGによって賄われていることになる。

ちなみに、寿命を20年とすれば、新たに建造される商船は5,000隻/年に上る。毎年新造船の1割がLNG燃料船化されれば、毎年数百万tの追加のLNG需要が生じることになる。

図12 LNG燃料船隻数の推移
図12 LNG燃料船隻数の推移
(出典:DNV 2018)

(5) LNG燃料船の船種

LNG燃料船化しやすい船は、

  • 規制の厳しいECA内を航行しなければならない船、
  • 燃料供給インフラコスト、LNG燃料船化コストを回収しやすい燃料消費量の大きな船(LNGが価格優位である場合)、
  • 燃料供給スケジュールが予測しやすい定期航路を走る船、
  • 政策援助のある国の船、
  • 長期的な戦略を立てられる大規模な会社がオーナーである船、

である。

これまでは燃料補給設備の整備された、欧州と北米のECAを航行するフェリー、タグボート、石油開発用プラットフォーム支援船等がLNG燃料船化の中心だったが、最近では、一般海域でのSOx規制強化を見据えて、大型コンテナ船やクルーズ船の発注が増加し、世界各地で導入を進める動きが出てきた。ただし、ECAが設定されていないアジア・オセアニア、中東では新たなプロジェクトは多くはなく、欧州・北米との差が大きくなりつつある。

ちなみに、日本におけるECA設定については、2013年、国交省「船舶からの大気汚染物質放出規制海域(ECA)に関する技術検討委員会(ECA技術委員会)」において、「我が国周辺海域においてECAを設定した場合の大気汚染改善効果は小さいか、または明確でないため、現時点ではECAを設定する必要性があるとは判断されない。今後とも大気汚染物質に関する世界の取り組み状況について注視しつつ、科学的知見等の蓄積により国全体としての対応に見直しがあった場合などには、ECA設定の必要性について改めて検討すべし。」との見解が示されている。

一方、自動車メーカーは環境意識が高く、トヨタ(日本-北米間航路)、フォルクスワーゲン(欧州-北米間航路)の自動車運搬船でLNG燃料化が予定されている。

図13 LNG燃料船の船種
図13 LNG燃料船の船種
(出典:DNV 2018)

(6) 船舶燃料用LNG需要予測

船舶燃料用LNGの需要見通しは、高硫黄重油からの切り替えタイミングを考慮し、いくつかの機関で予測されている。

2025年断面において、従来は、左図のように1,000~7,000万トン/年と予測されていたが、最新の予測では右図のようにこれより低く700~3,000万トン/年と予測されている。それでも、この量は新規液化プロジェクト数件の立ち上がりに相当する需要量となっている。

IEA GAS 2019では、初めて直近からの船種内訳を明示した需要が提示された。これによると、2024年の時点で、コンテナ船、クルーズ船がそれぞれ4割を占め、総需要は500万トン/年強となると予測されている。

図14 船舶燃料用LNG需要予測 
図14 船舶燃料用LNG需要予測

4. 終わりに

海運は汚染源が移動するため、もともと環境規制の網をかけにくい業種であった。今般2020年の一般海域でのSOx規制強化を皮切りに、2050年のCO2排出半減にも踏み込んだことにより、船舶燃料としてのクリーンエネルギーLNGのプレゼンスが高まっている。

隣国中国も、既に独自にECAを設定しており、欧州では、さらなる船舶排ガス規制強化の動きがみられる。日々高まる環境意識に対して、日本はどのようなスタンスで臨むのか、どのような貢献ができるのかが、いま国際社会から注視されている。

以上

(この報告は2019年8月5日時点のものです)

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